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特許7328239カーボネートにより連結された表面改質用高分子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】カーボネートにより連結された表面改質用高分子
(51)【国際特許分類】
   C08G 64/18 20060101AFI20230808BHJP
【FI】
C08G64/18
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020547093
(86)(22)【出願日】2019-03-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-06-17
(86)【国際出願番号】 CA2019050281
(87)【国際公開番号】W WO2019169500
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2022-03-04
(31)【優先権主張番号】62/640,839
(32)【優先日】2018-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519427022
【氏名又は名称】エボニック カナダ インク.
【氏名又は名称原語表記】Evonik Canada Inc.
【住所又は居所原語表記】3380 South Service Road, Burlington, ON L7N 3J5, Canada
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ジェイ. ポール サンテール
(72)【発明者】
【氏名】サニョイ ミュリック
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-277524(JP,A)
【文献】国際公開第2012/073970(WO,A1)
【文献】特開平08-225639(JP,A)
【文献】特表2020-521618(JP,A)
【文献】特開2014-138881(JP,A)
【文献】特表2021-523796(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 64/18
C09D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
-OC(O)O-B-OC(O)O-[A-OC(O)O-B-OC(O)O-] -F (I)
[式中、
(i)Aは、ソフトセグメントを含み、カーボネート結合を介してBに共有結合しており、
(ii)Bは、ポリアルキレンオキシド、または式:
【化1】
により表される部位を含み、カーボネート結合を介してAに共有結合しており、
(iii)Fは、ポリフルオロ有機基を含む表面活性基であり、Fは、カーボネート結合を介してBに共有結合しており、
(iv)nは、1~10の整数である]
の化合物。
【請求項2】
Bが、
i)ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンオキシド、またはポリテトラメチレンオキシドを含むか、あるいは
ii)トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、またはビスフェノールAから形成される、請求項1記載の化合物。
【請求項3】
Aが、水添ポリブタジエン(HLBH)、水添ポリイソプレン(HHTPI)、ポリ((2,2-ジメチル)-1,3-プロピレンカーボネート)、ポリブタジエン、ポリ(ジエチレングリコール)アジペート(PEGA)、ポリ(ヘキサメチレンカーボネート)(PHCN)、ポリ(エチレン-co-ブチレン)、(ジエチレングリコール-オルトフタル酸無水物)ポリエステル、(1,6-ヘキサンジオール-オルトフタル酸無水物)ポリエステル、(ネオペンチルグリコール-オルトフタル酸無水物)ポリエステル(PDP)、ポリシロキサン、ビスフェノールAエトキシレート、ポリ(エチレンオキシド)-b-ポリ(プロピレンオキシド)-b-ポリ(エチレンオキシド)(PLN)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、またはポリテトラメチレンオキシド(PTMO)を含む、請求項1または2記載の化合物。
【請求項4】
式(I)の化合物がさらに、
式(II):
-OC(O)O-(CHCHO)-OC(O)O-[A-OC(O)O-(CHCHO) -OC(O)O-] -F (II)
[式中、
(i)Aは、ソフトセグメントを含み、
(ii)Fは、ポリフルオロ有機基を含む表面活性基であり、
(iii)mは、2~4の整数であり、
(iv)nは、1~10の整数である]
により表される、請求項1記載の化合物。
【請求項5】
Aが、
i)水添ポリブタジエン(HLBH)、水添ポリイソプレン(HHTPI)、ポリ((2,2-ジメチル)-1,3-プロピレンカーボネート)、ポリブタジエン、ポリ(ジエチレングリコール)アジペート(PEGA)、ポリ(ヘキサメチレンカーボネート)(PHCN)、ポリ(エチレン-co-ブチレン)、(ジエチレングリコール-オルトフタル酸無水物)ポリエステル(PDP)、(1,6-ヘキサンジオール-オルトフタル酸無水物)ポリエステル、(ネオペンチルグリコール-オルトフタル酸無水物)ポリエステル、ポリシロキサン、ビスフェノールAエトキシレート、ポリ(エチレンオキシド)-b-ポリ(プロピレンオキシド)-b-ポリ(エチレンオキシド)(PLN)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、またはポリテトラメチレンオキシド(PTMO)を含むか、あるいは
ii)トリブロックコポリマーであるPPO-b-PEO-b-(ポリシロキサン)-b-PEO-b-PPO(PLNSi)を含むか、あるいは
iii)水添ポリイソプレン(HHTPI)または水添ポリブタジエン(HLBH)を含むか、あるいは
iv)ポリプロピレンオキシド(PPO)またはポリテトラメチレンオキシド(PTMO)を含むか、あるいは
v)ポリエチレンオキシド-ポリジメチルシロキサン-ポリエチレンオキシド(C10 MWPEO=2,500Da)、ポリエチレンオキシド-ポリジメチルシロキサン-ポリエチレンオキシド(C15 MWPEO=1,000Da)、またはポリエチレンオキシド-ポリジメチルシロキサン-ポリエチレンオキシド(C22 MWPEO=2,500Da)を含むか、あるいは
vi)プロピレンオキシド-ポリジメチルシロキサン-プロピレンオキシドブロックコポリマー(C22 MWPPO=2,500Da)を含むか、あるいは
vii)ポリエチレンオキシド(PEO)を含むか、あるいは
viii)ジエチレングリコール-オルトフタル酸無水物を含むか、あるいは
ix)ポリ(エチレンオキシド)-b-ポリ(プロピレンオキシド)-b-ポリ(エチレンオキシド)(PLN)を含む、請求項4記載の化合物。
【請求項6】
Aが、エステル結合を含まない、請求項1から4までのいずれか一項記載の化合物。
【請求項7】
Aが、水添ポリブタジエン(HLBH)、水添ポリイソプレン(HHTPI)、ポリ((2,2-ジメチル)-1,3-プロピレンカーボネート)、ポリブタジエン、ポリ(エチレン-co-ブチレン)、ポリシロキサン、ビスフェノールAエトキシレート、ポリ(エチレンオキシド)-b-ポリ(プロピレンオキシド)-b-ポリ(エチレンオキシド)(PLN)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、またはポリテトラメチレンオキシド(PTMO)を含む、請求項4記載の化合物。
【請求項8】
式(III):
【化2】
[式中、
(i)Fは、ポリフルオロ有機基であり、
(ii)XおよびXは、それぞれ独立してH、CH、またはCHCHであり、
(iii)Bは、ポリアルキレンオキシドを含み、
(v)nは、5~100の整数である]
の化合物。
【請求項9】
Bが、
i)ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンオキシド、またはポリテトラメチレンオキシドを含むか、あるいは
ii)トリエチレングリコールまたはテトラエチレングリコールから形成されるか、あるいは
iii)ポリエチレンオキシドであり、Xがエチルであり、かつXがHである(YMerOH-1226-PCT-PC)か、あるいは
iv)ポリエチレンオキシドであり、Xがエチルであり、かつXがメチルである(YMer-1226-PCT-PC)、請求項8記載の化合物。
【請求項10】
式(IV):
【化3】
[式中、
(i)各Fは、ポリフルオロ有機基であり、
(ii)XおよびXは、それぞれ独立してH、CH、またはCHCHであり、
(iii)Bは、ポリアルキレンオキシドを含み、
(iv)n1およびn2は、それぞれ独立して5~50の整数である]
の化合物。
【請求項11】
Bが、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンオキシド、またはポリテトラメチレンオキシドを含む、請求項10記載の化合物。
【請求項12】
Bが、トリエチレングリコールまたはテトラエチレングリコールから形成される、請求項11記載の化合物。
【請求項13】
Bが、ポリエチレンオキシドであり、XがHであり、かつXがHである(XMer-1226-PCT-PC)、請求項10記載の化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、特許協力条約に基づく出願であり、2018年3月9日に出願された米国仮特許出願第62/640,839号の優先権に基づいて米国特許法第119条の利益を主張する。上記仮特許出願は、その全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
発明の分野
本発明は、表面改質用高分子(SMM)、およびこれとベースポリマーとの混合物に関する。該混合物は、表面特性の向上(たとえばバイオファウリング(生物付着)、生体分子の固定化、または特定の生体分子の変性を、低減もしくは防止する表面特性)が望まれる用途において、たとえば工業用および医療用の用途において使用することができる。
【0003】
発明の背景
濡れた表面は、タンパク質、核酸、および有機体などの生物由来物質と相互作用しやすい場合がある。これらの相互作用は、生物由来物質(たとえばタンパク質や核酸)の吸着作用を低下させる可能性がある。また、これらの相互作用は、生体分子、有機体(たとえば細菌)、溶解した無機または有機化合物、コロイド、および懸濁物質などの水性成分による表面汚染を生じる可能性もある。バイオファウリングは、可溶性の微生物産生物質などの蓄積された細胞外物質、および多糖やタンパク質などの細胞外高分子物質に起因し得る(たとえばAsatekin et al., Journal of Membrane Science, 285:81-89, 2006を参照)。たとえば、工業用水の濾過または医療用途(たとえば透析)のために使用される膜は、たとえばタンパク質の吸着、懸濁粒子の付着、または膜に析出した塩によるファウリングの問題を抱えている場合がある。生物医学用途におけるファウリングのさらに別の例は、一般的に、たとえば細胞および病原体が医療デバイス(たとえばカテーテルまたは他の埋め込み型医療デバイス)の表面に付着することに起因する場合があり、そのようなファウリングは、潜在的に有害な結果をもたらす可能性がある。ファウリングは、船舶の船体にもみられる場合があり、船舶の船体は海洋生物またはその分泌物で覆われる可能性がある。
【0004】
したがって、バイオファウリング、生体分子の固定化、または特定の生体分子の変性を、低減もしくは防止する表面特性を有する組成物および混合物は、工業および医学における多様な用途において有用であり得る。
【0005】
発明の概要
本発明は、カーボネートにより連結された表面改質用高分子を特徴とする。
【0006】
一態様では、本発明は、式(I):
-OC(O)O-B-OC(O)O-[A-OC(O)O-B]-OC(O)O-F (I)
[式中、
(i)Aは、ソフトセグメントを含み、カーボネート結合を介してBに共有結合しており、
(ii)Bは、ポリアルキレンオキシド、または式:
【化1】
により表される部位を含み、カーボネート結合を介してAに共有結合しており、
(iii)Fは、ポリフルオロ有機基を含む表面活性基であり、Fは、カーボネート結合を介してBに共有結合しており、
(iv)nは、1~10の整数である]
の化合物を特徴とする。
【0007】
式(I)のいくつかの実施形態では、化合物は、式(II):
-OC(O)O-(CHCHO)-OC(O)O-[A-OC(O)O-(CHCHO)-OC(O)O-F (II)
[式中、
(i)Aは、ソフトセグメントを含み、
(ii)Fは、ポリフルオロ有機基を含む表面活性基であり、
(iii)mは、2~4の整数であり、
(iv)nは、1~10の整数である]
の構造を有する。
【0008】
式(I)において、Bは、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンオキシド、またはポリテトラメチレンオキシドを含み得る。式(I)において、Bは、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、またはビスフェノールAから形成されていてよい。
【0009】
式(I)または(II)において、Aは、水添ポリブタジエン(HLBH)、水添ポリイソプレン(HHTPI)、ポリ((2,2-ジメチル)-1,3-プロピレンカーボネート)、ポリブタジエン、ポリ(ジエチレングリコール)アジペート(PEGA)、ポリ(ヘキサメチレンカーボネート)(PHCN)、ポリ(エチレン-co-ブチレン)、(ジエチレングリコール-オルトフタル酸無水物)ポリエステル、(1,6-ヘキサンジオール-オルトフタル酸無水物)ポリエステル、(ネオペンチルグリコール-オルトフタル酸無水物)ポリエステル(PDP)、ポリシロキサン、ビスフェノールAエトキシレート、ポリ(エチレンオキシド)-b-ポリ(プロピレンオキシド)-b-ポリ(エチレンオキシド)(PLN)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、またはポリテトラメチレンオキシド(PTMO)を含み得る。
【0010】
式(I)または(II)のいくつかの実施形態においては、Aは、エステル結合を含まない。たとえば、Aは、水添ポリブタジエン(HLBH)、水添ポリイソプレン(HHTPI)、ポリ((2,2-ジメチル)-1,3-プロピレンカーボネート)、ポリブタジエン、ポリ(エチレン-co-ブチレン)、ポリシロキサン、ビスフェノールAエトキシレート、ポリ(エチレンオキシド)-b-ポリ(プロピレンオキシド)-b-ポリ(エチレンオキシド)(PLN)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、またはポリテトラメチレンオキシド(PTMO)を含む。
【0011】
式(II)において、Aは、トリブロックコポリマーであるPPO-b-PEO-b-(ポリシロキサン)-b-PEO-b-PPO(PLNSi)を含み得る。式(II)において、Aは、水添ポリイソプレン(HHTPI)または水添ポリブタジエン(HLBH)を含み得る。式(II)において、Aは、ポリプロピレンオキシド(PPO)またはポリテトラメチレンオキシド(PTMO)を含み得る。式(II)において、Aは、ポリエチレンオキシド-ポリジメチルシロキサン-ポリエチレンオキシド(C10 MWPEO=2,500Da)、ポリエチレンオキシド-ポリジメチルシロキサン-ポリエチレンオキシド(C15 MWPEO=1,000Da)、またはポリエチレンオキシド-ポリジメチルシロキサン-ポリエチレンオキシド(C22 MWPEO=2,500Da)を含み得る。式(II)において、Aは、プロピレンオキシド-ポリジメチルシロキサン-プロピレンオキシドブロックコポリマー(C22 MWPPO=2,500Da)を含み得る。式(II)において、Aは、ポリエチレンオキシド(PEO)を含み得る。式(II)において、Aはジエチレングリコール-オルトフタル酸無水物を含み得る。式(II)において、Aは、ポリ(エチレンオキシド)-b-ポリ(プロピレンオキシド)-b-ポリ(エチレンオキシド)(PLN)を含み得る。
【0012】
別の態様では、本発明は、式(III):
【化2】
[式中、
(i)Fは、ポリフルオロ有機基であり、
(ii)XおよびXは、それぞれ独立してH、CH、またはCHCHであり、
(iii)Bは、ポリアルキレンオキシドを含み、
(v)nは、5~100の整数である]
の化合物を特徴とする。
【0013】
関連する態様では、本発明は、式(IV):
【化3】
[式中、
(i)各Fは、ポリフルオロ有機基であり、
(ii)XおよびXは、それぞれ独立して、H、CH、またはCHCHであり、
(iii)Bは、ポリアルキレンオキシドを含み、
(iv)n1およびn2は、それぞれ独立して5~50の整数である]
の化合物を特徴とする。
【0014】
式(III)または(IV)において、Bは、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンオキシド、またはポリテトラメチレンオキシドを含み得る。式(III)または(IV)において、Bは、トリエチレングリコールまたはテトラエチレングリコールから形成されていてよい。式(III)において、Bはポリエチレンオキシドであってもよく、Xはエチルであり、かつXはHである(YMerOH-1226-PCT-PC)。式(III)において、Bはポリエチレンオキシドであってもよく、Xはエチルであり、かつXはメチルである(YMer-1226-PCT-PC)。式(IV)において、Bはポリエチレンオキシドであってもよく、XはHであり、かつXはHである(XMer-1226-PCT-PC)。
【0015】
式(I)、(II)、(III)、または(IV)において、Fは、一般式CH(3-m)(CFCHCH-およびCH(3-m)(CF(CHCHO)χ-[式中、
mは、0、1、2、または3であり、
χは、1~10の整数であり、
rは、2~20の整数であり、
sは、1~20の整数である]
であってもよい。
【0016】
いくつかの実施形態では、mは、0または1である。
【0017】
式(I)、(II)、(III)、または(IV)において、化合物は、10,000Da未満の理論上の分子量を有し得る。
【0018】
定義
本明細書で使用される「アルキル」という用語は、1~10個の炭素原子(C1~10)を有する分岐または非分岐の飽和炭化水素基を指す。アルキルは、任意選択的に、単環系、二環系、または三環系を含んでいてもよく、各環は望ましくは3~6員である。アルキル基は、無置換であってもよいし、アルコキシ、アリールオキシ、アルキルチオ、アリールチオ、ハロゲン、二置換アミノ、およびエステルからなる群から独立して選択される1個、2個、または3個の置換基で置換されていてもよい。
【0019】
本明細書で使用される「アルキレン」という用語は、二価のアルキル基を指す。
【0020】
本明細書で使用される「ベースポリマー」という用語は、20kDa以上(たとえば50kDa以上、75kDa以上、100kDa、150kDa以上、または200kDa以上)の理論上の分子量を有するポリマーを指す。ベースポリマーの非限定的な例としては、ポリウレタン、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリアルキレン(たとえばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリ(アクリロニトリル-ブタジエンスチレン)、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルアセテート、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル)、ポリシリコーン、多糖(たとえばセルロース、酢酸セルロース、二酢酸セルロース、または三酢酸セルロース)、およびこれらのコポリマー(たとえばポリエチレンテレフタレート)が挙げられる。
【0021】
本明細書で使用される「カーボネート結合」という用語は、炭酸のエステルを指す。
【0022】
本明細書で使用される「分子量」という用語は、同一組成の分子のアボガドロ数の理論上の重量を指す。表面改質用高分子の製造は化合物の分布の発生を伴うことがあるため、「分子量」という用語は反応性成分の化学量論によって決定される理想構造を指す。したがって、本明細書で使用される「分子量」という用語は理論上の分子量を指す。
【0023】
本明細書で使用される「オリゴマーセグメント」という用語は、約200個未満のモノマー単位である繰り返し単位の長さを指す。オリゴマーセグメントは、10,000Da以下の理論上の分子量を有し得るものの、好ましくは<7,000Da、いくつかの例では<5,000Daである。本発明の表面改質用高分子は、オリゴマーセグメントであるジオール、トリオール、またはテトラオールから形成されることで、式(I)、(II)、(III)、または(IV)の化合物を与えることができる。オリゴマーセグメントの非限定的な例としては、ポリアルキレンオキシド(たとえばポリエチレンオキシド)、水添ポリブタジエン、水添ポリイソプレン、ポリ((2,2-ジメチル)-1,3-プロピレンカーボネート)、ポリブタジエン、ポリ(ジエチレングリコール)アジペート、ポリ(ヘキサメチレンカーボネート)、ポリ(エチレン-co-ブチレン)、(ジエチレングリコール-オルトフタル酸無水物)ポリエステル、(1,6-ヘキサンジオール-オルトフタル酸無水物)ポリエステル、(ネオペンチルグリコール-オルトフタル酸無水物)ポリエステル、ポリシロキサン、およびビスフェノールAエトキシレートが挙げられる。
【0024】
「ポリアルキレン」という用語は、ベースポリマーに関して本明細書で使用される場合、2~4個の炭素原子を有する直鎖または分岐のアルキレン繰り返し単位および/または任意選択的な3~10個の炭素原子の環状オレフィン(たとえばノルボルネン)からなるベースポリマーを指す。各アルキレン繰り返し単位は、クロロ、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、ヒドロキシ、アセトキシ、シアノ、およびフェニルからなる群から選択される1つの置換基で任意選択的に置換されていてよい。ポリアルキレンベースポリマーは、コポリマー(たとえばメチルメタクリレートアクリロニトリルブタジエンスチレン(MABS)、メチルメタクリレートブタジエンスチレン(MMBS)、メタクリレートブタジエンスチレン(MBS)、スチレンブタジエン(SB)、スチレンアクリロニトリル(SAN)、スチレンメチルメタクリレート(SMMA)、環状オレフィンコポリマー(COC)、または環状オレフィンポリマー(COP)コポリマー)であってもよい。ポリアルキレンベースポリマーの非限定的な例としては、ポリスチレン、COP、COC、MABS、SAN、SMMA、MBS、SB、およびポリアクリレート(たとえばPMMA)が挙げられる。
【0025】
本明細書で使用される「ポリエーテルスルホン」という用語は、式:
【化4】
のポリマーを意味する。このポリマーは、Amoco Corpから商品名Radel(商標)として市販されている。
【0026】
本明細書で使用される「ポリフルオロ有機基」という用語は、2~59個の水素原子がフッ素原子で置換された炭化水素基を指す。ポリフルオロ有機基は、1~30個の炭素原子を含む。ポリフルオロ有機基は、直鎖アルキル、分岐アルキル、またはアリール基、またはそれらの任意の組み合わせを含み得る。ポリフルオロ有機基は、ポリフルオロ有機基(たとえばポリフルオロアルキル)を分子の残りの部分に結合させる炭素原子がオキソで置換されている「ポリフルオロアシル」であってもよい。ポリフルオロ有機基内の最も近い2つの酸素原子が少なくとも2つの炭素原子で隔てられていることを条件として、ポリフルオロ有機基内のアルキル鎖(たとえばポリフルオロアルキル)は、最大9個の酸素原子が挟まれていてよい。ポリフルオロ有機基が、本明細書で定義されるように、任意選択的にオキソで置換されていてよい、および/または任意選択的に酸素原子が挟まれていてよい直鎖または分岐のアルキルからなる場合、そのような基は、ポリフルオロアルキル基と呼ぶことができる。いくつかのポリフルオロ有機基(たとえばポリフルオロアルキル)は、100Da~1,500Daの理論上の分子量を有し得る。ポリフルオロアルキルは、CF(CF(CHCH-)-(式中のpは0または1であり、rは2~20である)、またはCF(CF(CHCHO)χ-(式中のχは0~10であり、sは1~20である)であってもよい。あるいは、ポリフルオロアルキルはCH(3-m)(CFCHCH-またはCH(3-m)(CF(CHCHO)χ-(式中のmは0、1、2、または3であり;χは0~10であり;rは2~20の整数であり;sは1~20の整数である)であってもよい。特定の実施形態では、χは0である。別の実施形態では、ポリフルオロアルキルはパーフルオロヘプタノイルである。特定の実施形態では、ポリフルオロアルキルは、1H,1H,2H,2H-パーフルオロ-1-デカノール;1H,1H,2H,2H-パーフルオロ-1-オクタノール;1H,1H,5H-パーフルオロ-1-ペンタノール;または1H,1H,パーフルオロ-1-ブタノール、およびこれらの混合物から形成される。さらに別の実施形態では、ポリフルオロアルキルは、(CF)(CFCHCHO-、(CF)(CFCHCHO-、(CF)(CFCHCHO-、CHF(CFCHO-、(CF)(CFCHO-、または(CF)(CF-である。さらに別の実施形態では、ポリフルオロアルキル基は(CF)(CF-を含む。
【0027】
「ポリ(オキシ-1,4-フェニレンスルホニル-1,4-フェニレンオキシ-1,4-フェニレンイソプロピリデン-1,4-フェニレン)」は、式:
【化5】
のポリマーを意味する。
【0028】
このポリマーは、Solvay Advanced Polymersから商品名Udel(商標)P-3500として市販されている。
【0029】
本明細書において使用される「ポリスルホン」という用語は、繰り返し副単位として-アリール-SO-アリール-部位を含むポリマーの分類を指す。ポリスルホンとしては、限定するものではないが、ポリエーテルスルホンおよびポリ(オキシ-1,4-フェニレンスルホニル-1,4-フェニレンオキシ-1,4-フェニレンイソプロピリデン-1,4-フェニレン)が挙げられる。
【0030】
「表面活性基」とは、表面改質用高分子に共有結合された親油性基を意味する。表面活性基は、表面改質用高分子の中心ポリマー部分の1個、2個、3個、または4個の末端をキャップするように配置することができる。表面活性基としては、ポリフルオロ有機基(たとえばポリフルオロアルキルおよび含フッ素ポリエーテル)、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0031】
本明細書で使用される「表面改質用高分子」という用語は、本明細書に記載の高分子(たとえば式(I)~(IV)のうちのいずれか1つによる化合物、たとえば化合物(1)~(9)のうちのいずれか1つの化合物)を指す。
【0032】
本明細書で使用される「熱分解温度」という用語は、熱重量分析中に表面改質用高分子の少なくとも5%(w/w)の重量減少が開始される最低温度を指す。
【0033】
本発明のその他の特徴および利点は、図面、詳細な説明、および特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】化合物(1)の構造を示す図である。
図2】化合物(2)の構造を示す図である。
図3】化合物(3)の構造を示す図である。
図4】化合物(4)の構造を示す図である。
図5】化合物(5)の構造を示す図である。
図6】化合物(6)の構造を示す図である。
図7】化合物(7)の構造を示す図である。
図8】化合物(8)の構造を示す図である。
図9】化合物(9)の構造を示す図である。
【0035】
詳細な説明
概して、本発明は、少なくとも1つのカーボネート結合を有する連結基を介してオリゴマーセグメントを表面活性基に連結することに基づいた構造を有する表面改質用高分子(SMM)を提供する。本発明の表面改質用高分子は、本明細書に記載の式(I)~(IV)のいずれか1つの構造を有し得る(たとえば、本発明の表面改質用高分子は、化合物(1)~(9)のうちのいずれか1つであってもよい)。
【0036】
本発明はカーボネート連結基を提供し、この連結基は、高度に疎水性のフルオロアルキル末端基の表面への移動にもかかわらずベースポリマーに親水性表面エネルギーを導入することができるが、再配列してカーボネート連結基中に存在する親水性のエチレンオキシド基を露出させる。
【0037】
典型的には、ウレタンは、自己H結合により互いに凝集する傾向があるH供与体である。結果として、そのようなウレタンは、大きい接触角を有し、主に疎水性であり、またバイオファウリング防止特性を表面に付与するためにSMMを使用する重要な基準である水との相互作用に関する課題を有する場合がある。対照的に、本発明は、カーボネート結合と組み合わされたポリエチレンオキシド単位を含む親水性化合物を記述する(たとえば図1)。カーボネートにより連結されたSMMの親水性は、従来のポリウレタンと比較して、水を引き付けてバイオファウリング防止特性を付与するために重要な場合がある。
【0038】
本発明の化合物は、カーボネート結合がエステル結合に置き換えられている対応する化合物と比較して、加水分解に対して安定であることができる。
【0039】
特に、本発明は、ベースポリマーと表面改質用高分子との混合物およびそれから製造される物品を提供する。いくつかの実施形態では、カーボネートを含む2種以上のSMMがベースポリマーとの混合物において使用される。本発明の物品は、表面改質用高分子がない物品と比較して有利な表面特性を示すことができる。たとえば、表面特性を変えることで、そのような表面に、バイオファウリング、生体分子の固定化、または生体分子変性の媒介に対する耐性を付与することができる。バイオファウリングは、可溶性の微生物産生物質などの蓄積された細胞外物質、およびたとえば多糖やタンパク質などの細胞外高分子物質に起因する場合がある(たとえばAsatekin et al., Journal of Membrane Science, 285:81-89, 2006を参照)。特に、本発明の表面は、ファウリング(たとえばバイオファウリング)に対して耐性を有することができる。本発明の表面は、生物由来物質(たとえばポリペプチド(たとえばモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメント)、ポリヌクレオチド(たとえばsiRNAまたはアンチセンス化合物)、またはワクチン)の分解(たとえば吸着または変性による)を低減することもでき、この分解は、生物由来物質と表面改質用高分子がない表面との間の相互作用に起因する場合がある。理論に拘束されるものではないが、表面改質用高分子を取り入れることで、表面の(水による)濡れを変えることができ、それにより生物由来物質(たとえばタンパク質、核酸、または細菌)と表面との間の接触を減らすことができる。本発明の表面は、変性または固定化をほとんど生じることなく生物製剤との長期間の接触を維持できる可能性があり、たとえば、生物製剤は、アバタセプト、インターフェロンβ-1a、またはインスリンであってもよい。特に、これらおよび他の生物製剤は、本発明の表面特性から有益性を得ることができ、表面特性は、表面と生物製剤との間の望ましくない相互作用(たとえば生物製剤の固定化および/または変性)を低減または防止する。あるいは、表面改質用高分子を組み込むことで、(水による)表面の濡れを増加させることができる。そのような材料は、親水性表面が必要とされる用途に有用な場合がある。
【0040】
本発明の物品において望まれる表面特性は、製造中に物品の表面に移動し、それにより物品の表面で表面活性基を露出させる本発明の表面改質用高分子によって付与されると考えられる。表面活性基は、表面改質用高分子を混合物の表面に運ぶ役割をある程度果たしていると推定され、表面活性基は表面に露出する。表面改質用高分子の表面への移動は動的なプロセスであり、表面環境に依存する。移動のプロセスは、混合物表面を低い表面エネルギーにする傾向によって引き起こされる。固定と表面移動との間のバランスがとれている場合、表面改質用高分子はポリマーの表面で安定なままであり、それと同時に表面特性を変化させる。ベースポリマー内での固定化は、オリゴマーセグメントによって提供することができる。
【0041】
複数のオリゴマー分子が凝集すると、それらの有効分子半径を増加させることができ、それによりベースポリマーを通るオリゴマー分子の透過性を低下させることができる。表面特性変更の有効性は、本発明の表面改質用高分子によって改善することができる。同じ分子内の水素結合供与体と受容体との組み合わせを排除することにより、凝集の減少が見込まれるため、本発明の表面改質用高分子が物品の表面に移動する能力を向上させることができる。さらに、加水分解に対するカーボネート結合の安定性は高いため、カーボネート結合を含むSMMは、エステル結合を有するSMMと比較して向上した安定性を示し得る。本発明の表面改質用高分子は、ベースポリマー中でのそれらの固定を損なうことなく、物品の表面に移動する強化された能力を示すことができる。したがって、本発明の特定の表面改質用高分子は、水素結合供与体(たとえば、O-H、N-H、またはS-H部位)を含まない。特に、表面改質用高分子は、ウレタン部位を含まなくてもよい。
【0042】
具体的なSMMと具体的なベースポリマーとの組み合わせの選択は、いくつかの因子によって決定することができる。最初に、ベースポリマーに添加されるSMMの種類と量は、混合物が単一の安定相を形成するか否かによってある程度決定され、このSMMはベースポリマーに可溶性である(たとえば2つ以上の別個の相を形成するような混合物の分離は、不安定な溶液であることを示す)。次に、混合物の相溶性は、様々な公知の分析方法によって試験することができる。フィルムまたは繊維としての混合物の表面は、元素分析(EA)を備えたX線光電子分光法(XPS)などの任意の有用な分光法によって分析することができる。XPSからのデータは、SMMの移動による表面改質の程度を示すことができ、EAからのデータは、バルク材料の改質の程度を示すことができる。その後、安定な混合物を試験することで、様々な条件下での表面のファウリング防止特性を決定することができる。
【0043】
特定の実施形態では、表面改質により、純粋なベースポリマーと比較して透明性を維持することができる。多くの場合、ベースポリマーの中に混合物を組み込むと、光学特性が低下する(たとえば透明度が低下する)可能性があり、そのため材料の透明性が求められる用途でのそのような材料の有用性が制限される。対照的に、表面改質用高分子とベースポリマーとを含む本発明の物品は、純粋なベースポリマーの透明性と同じかそれよりもわずかに低い透明性を有することができる。
【0044】
本発明の物品は、高温加工を必要とするプロセス(たとえば押出または成形)を使用して、少なくとも一部はベースポリマーから作製することができる。たとえば、COCおよびCOPは、多くの場合200℃を超える加工温度(たとえば250℃以上、または300℃以上)を必要とする。本発明のいくつかの化合物、たとえばPDP-1226-PCT(Tg=314℃)は、高温加工に適している。本明細書に記載の表面改質用高分子は、熱的に安定なものとすることができる(たとえば200℃以上(たとえば250℃以上または300℃以上)の熱分解温度を有し得る)。したがって、本発明の物品は、200℃を超える温度(たとえば250℃以上または300℃以上)で、ベースポリマーと表面改質用高分子との混合物から形成することができる。本発明の物品は、ベースポリマーと表面改質用高分子との混合物から(たとえば溶融加工などの高温加工により)製造することができる。表面改質用高分子は、本発明の物品を製造するためのベースポリマーの溶融加工の前に添加することができる。溶融加工により混合物を形成するために、表面改質用高分子は、たとえばペレット化または粉末化されたポリマーと混合し、その後、たとえば成形や溶融押出などの公知の方法により溶融加工することができる。表面改質用高分子は、溶融状態でポリマーと直接混合されてもよく、あるいはブラベンダーミキサー中で表面改質用高分子/ポリマー混合物の濃縮物の形態で最初にポリマーと予備混合されてもよい。必要に応じて、表面改質用高分子の有機溶液を粉末状またはペレット状のベースポリマーと混合し、続いて溶媒を蒸発させてから溶融加工してもよい。あるいは、表面改質用高分子は、溶融ポリマー流の中に注入されることで、望まれる形状に押し出される直前に混合物を形成してもよい。
【0045】
溶融加工の後、ベースポリマーにおける本明細書に記載の有利な特性の発現を高めるために、アニール工程が行われてもよい。アニール工程に加えて、またはその代わりに、溶融加工された組み合わせは、一方または両方がパターン加工されていてよい2つの加熱されたロールの間でエンボス加工することもできる。アニール工程は、典型的には、ポリマーの溶融温度未満で(たとえば約50℃から約220℃で)行われる。
【0046】
表面改質用高分子は、具体的な用途に望まれる表面特性を得るのに十分な量でベースポリマーに添加される。典型的には、使用される表面改質用高分子の量は、混合物の0.05~15%(w/w)の範囲である。量は実験に基づいて決定することができ、またベースポリマーの他の物理的特性を損なうことなく望まれる表面特性を得るために、必要に応じてまたは望まれる通りに調整することができる。
【0047】
表面改質用高分子
本発明の表面改質用高分子は、式(I)、(II)、(III)、および(IV)のうちのいずれか1つの化合物であってもよい。
【0048】
本発明の表面改質用高分子は、式(I):
-OC(O)O-B-OC(O)O-[A-OC(O)O-B]-OC(O)O-F (I)
[式中、
Aは、ソフトセグメントを含み、カーボネート結合を介してBに共有結合しており、
Bは、ポリアルキレンオキシド、または式:
【化6】
により表される部位を含み、カーボネート結合を介してAに共有結合しており、
は、ポリフルオロ有機基を含む表面活性基であり、Fは、カーボネート結合を介してBに共有結合しており、
nは、1~10の整数である]
の化合物であってもよい。
【0049】
特に、式(I)の化合物は、式(II):
-OC(O)O-(CHCHO)-OC(O)O-[A-OC(O)O-(CHCHO)-OC(O)O-F (II)
[式中、
Aは、ソフトセグメントを含み、
は、ポリフルオロ有機基を含む表面活性基であり、
mは、2~4の整数であり、
nは、1~10の整数である]
の化合物であってもよい。
【0050】
本発明の表面改質用高分子は、式(III)
【化7】
[式中、
は、ポリフルオロ有機基であり、
およびXは、それぞれ独立してH、CH、またはCHCHであり、
Bは、ポリアルキレンオキシドを含み、
nは、5~100の整数である]
の化合物であってもよい。
【0051】
本発明の表面改質用高分子は、式(IV):
【化8】
[式中、
各Fは、ポリフルオロ有機基であり、
およびXは、それぞれ独立してH、CH、またはCHCHであり、
Bは、ポリアルキレンオキシドを含み、
n1とn2は、それぞれ独立して5~50の整数である]
の化合物であってもよい。
【0052】
オリゴマーセグメント
本発明の表面改質用高分子は、オリゴマーセグメントであるジオール、トリオール、またはテトラオールから製造することができる。反応は水分の影響を受けやすいため、典型的には不活性なN雰囲気下で無水条件で行われる。得られる表面改質用高分子は、必要に応じて分離および精製されてもよい。式(III)または(IV)の表面改質用高分子は、たとえば市販のモノ-ジヒドロキシ置換-アルキルまたはアルキルオキシアルキル-末端PEG(たとえばPerstorpのYmer(商標)N120、二官能性ポリエチレングリコールモノメチルエーテルである)から製造することができる。例示的なオリゴマーセグメントであるジオール、トリオール、およびテトラオールを以下に示す。
【0053】
スキーム1は、式(III)の表面改質用高分子を製造するために使用できるオリゴマーセグメントであるトリオールの構造の非限定的な例を示している:
【化9】
【0054】
スキーム2は、式(I)または(II)の化合物の製造に使用できるいくつかのオリゴマーセグメントであるジオールを示している:
【化10】
【0055】
スキーム3は、式(II)の化合物の製造に使用できるいくつかのオリゴマーセグメントであるジオールを示している:
【化11】
【0056】
式(I)または(II)の化合物を製造するために、当該技術分野で公知のジオールを使用することができる。たとえば、オリゴマーセグメントのジオールは、ポリ尿素、ポリウレタン、ポリアミド、ポリアルキレンオキシド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリラクトン、ポリシリコーン、ポリエーテルスルホン、ポリアルキレン、ポリビニル、ポリペプチド多糖、またはこれらのエーテルもしくはアミンにより連結されたセグメント(たとえば、この場合のセグメントは、列挙されているオリゴマーの繰り返し単位を指すことができる)からなる群から選択することができる。
【0057】
合成
本発明の化合物は、カーボネートに基づく様々な表面改質用高分子を形成するために、ジカルボン酸誘導体、ジオール、および含フッ素アルコールなどの適切に選択された試薬から出発して、実施例に記載のものと類似の方法を使用して製造することができる。
【0058】
物品
本発明は、さらに、本発明の混合物から形成された物品を特徴とする。本発明の混合物を使用して形成できる物品としては、限定するものではないが、手術帽、手術用シート、手術用覆布、手術衣、マスク、手袋、手術用被布、フィルター(たとえば人工呼吸器、浄水器、エアフィルター、またはフェイスマスクの部品)、ケーブル、フィルム、パネル、管、繊維、シート、および埋め込み型医療デバイス(たとえば心臓補助装置、カテーテル、ステント、歯科用インプラント、人工括約筋、または薬物送達デバイス)が挙げられる。
【0059】
本発明の表面改質剤および混合物は、200℃を超える高温加工を必要とすることが多く、加工温度が250~300℃の範囲に到達し得る押し出し成形品(たとえば熱可塑性フィルム、熱可塑性繊維、繊維質不織材料、熱可塑性発泡材料など)の形態の、たとえば手術用の被布、ガウン、フェイスマスク、ラップ、包帯、および医療技術者のための他の防護服(たとえば作業者のオーバーオール、白衣)などのフィルムおよび不織布用途において使用することができる。特定の実施形態では、不織布用途で使用される表面改質剤は、ビスフェノールAから形成される。本発明の表面改質剤および混合物は、埋め込み型医療デバイス(たとえば閉塞性を低減させ、血液適合性を高めるための中心静脈線カテーテル)においても使用することができる。本発明の表面改質剤および混合物は、流体またはガスの分離のための、ポリエチレン、ポリプロピレン、またはポリシロキサンを主体とするポリマーから製造された中空繊維膜濾過においても使用することができる。
【0060】
本発明の表面改質剤および混合物は、不織布製造において加工中に必要とされる高温安定性、またはカテーテル製造において使用されるポリマーとの相溶性を有することができる。本発明の混合物は、加工中に必要な高温安定性を有することができる。特定の実施形態では、高温加工に適した表面改質剤は、ビスフェノールAから形成される。したがって、混合物は、バイオファウリングに対する耐性、生体分子の表面への固定に対する耐性、および生体分子変性の媒介に対する耐性などの望ましい生体適合性を付与しながらも、高温分解に対して必要とされる耐性を付与することができる。この技術には、ベースポリマーへのSMMの組み込みが含まれ、その後、これは表面にブルームし、結果としてポリマーの表面が改質されるものの、バルク特性は損なわれないままである。すると、ベースポリマーは、高度に疎水性のフッ素化表面を有することになる。本発明の混合物から形成され得る物品としては、経皮に関するものであっても皮膚に関するものであってもよい埋め込み型医療デバイスが挙げられる。
【0061】
埋め込み型デバイス
本発明の混合物から形成され得るデバイスには、埋め込み型デバイスが含まれる。埋め込み型デバイスとしては、これらに限定するものではないが、ペースメーカーなどの人工器官、ペーシングリードなどの電気リード、除細動器、人工心臓、補助人工心臓、乳房インプラントなどの解剖学的再建プロテーゼ、人工心臓弁、心臓弁ステント、心膜パッチ、外科用パッチ、冠動脈ステント、血管移植片、血管および構造ステント、血管または心血管シャント、生体導管、プレッジ、縫合糸、人工弁輪、ステント、ステープル、弁付きグラフト、創傷治癒用皮膚移植片、整形外科用脊椎インプラント、整形外科用ピン、子宮内器具、尿管ステント、顎顔面(maxial facial)再建プレート、歯科用インプラント、眼内レンズ、クリップ、胸骨ワイヤー、骨、皮膚、靭帯、腱、およびそれらの組み合わせが挙げられる。経皮デバイスとしては、これらに限定するものではないが、様々な種類のカテーテル、カニューレ、ドレナージ管(胸腔チューブ等)、手術器具(鉗子、開創器、針、および手袋等)、およびカテーテルカフが挙げられる。皮膚デバイスとしては、これらに限定するものではないが、火傷被覆材、創傷被覆材、および歯科用ハードウェア(ブリッジサポートおよびブレーシングの構成要素等)が挙げられる。
【0062】
本明細書に記載のSMMで改質された医療デバイスの例示的な用途としては、バイオセンサー、カテーテル、心臓弁、整形外科用インプラント、尿管ステント、鼓室チューブ、および薬物送達デバイスとしての使用が挙げられる。特定の実施形態では、ソフトセグメントとしてのポリシロキサンを含む表面改質剤を含む混合物は、カテーテルの製造において使用される。
【0063】
実施例
略語
YMer(ジオール)=ヒドロキシ末端ポリエチレングリコールモノメチルエーテル
YMerOH(トリオール)=トリメチロールプロパンエトキシレート
YMer(商標)=ポリエチレングリコールモノメチルエーテルジオール
XMer(テトラオール)=ペンタエリスリトールエトキシレート
C10(ジオール)=ヒドロキシル末端ポリジメチルシロキサン(エチレンオキシド-PDMS-エチレンオキシド)ブロックコポリマー(C10 MWPEO=2,500Da)
C25(ジオール)=ヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサン(エチレンオキシド-PDMS-エチレンオキシド)ブロックコポリマー(C25 MWPEO=3,500Da)
PLN8K(ジオール)=プルロニック型(ポリエチレンオキシド-ブロック-ポリプロピレンオキシド-ブロック-ポリエチレンオキシド)、PEO:PPO=80:20
PLN(ジオール)=プルロニック型(ポリエチレンオキシド-ブロック-ポリプロピレンオキシド-ブロック-ポリエチレンオキシド)、PEO:PPO=50:50
6PLNSi(ジオール)=ヒドロキシル末端プルロニック型ポリジメチルシロキサン(PPO-PEO-Si-PEO-PPO)ブロックコポリマー、PEO:PPO=75:25
16PLNSi(ジオール)=ヒドロキシル末端プルロニック型ポリジメチルシロキサン(PPO-PEO-Si-PEO-PPO)ブロックコポリマー、PEO:PPO=50:50
PDP=直鎖ジエチレングリコール-オルト無水フタル酸ジオール
PEGA=ポリ(ジ(エチレングリコールアジペート))ジオール
MABS=メチルメタクリレートアクリロニトリルブタジエンスチレン
MMBS=メチルメタクリレートブタジエンスチレン
MBS=メタクリレートブタジエンスチレン
SB=スチレンブタジエン
SAN=スチレンアクリロニトリル
SMMA=スチレンメチルメタクリレート
【0064】
表面改質用高分子の製造
カーボネートに基づく表面改質用高分子の基本的な合成の説明
本発明の化合物は、たとえば、TEGビスクロルホルメートをCapstone 62-ALフルオロアルコールと反応させて部分的にフッ素化されたTEGビスクロルホルメート-Capstone 62-AL中間体を得た後、これをソフトセグメントであるジオール、トリオール、またはテトラオールと反応させて目的生成物を得ることにより合成することができる。さらに、本発明の化合物は、たとえば、ソフトセグメントであるジオールをビスフェノールAクロルホルメートと反応させてジオール-ビスフェノールA中間体を得た後、これをCapstone 62-ALフルオロアルコールと反応させて目的生成物を得ることにより合成することができる。以下にさらに詳しく示す。
【0065】
化合物1の合成
合成に使用した全てのガラス製品は、110℃のオーブンの中で一晩乾燥させた。
【0066】
20g(0.020mol)のYMerOHトリオール(MW=1000Da)を200mLの2口フラスコに入れ、これを一晩脱気した後、Nでパージした。撹拌子が入っておりオーブン乾燥されている500mLの2口フラスコに、21.70g(0.079mol)のトリエチレングリコール(TEG)ビスクロロホルメートを入れた。フラスコを15分間脱気し、次いで乾燥Nでパージした。パージした後、62mLの無水トルエンをカニューレによりフラスコの中に移した。TEGビスクロロホルメートを撹拌して溶媒に溶解させた。これを今度は氷浴下で15分間冷却する。50mLの滴下漏斗に28.73g(0.079mol)のCapstone 62-ALフルオロアルコール(1H,1H,2H,2H-パーフルオロ-1-オクタノール)を入れ、その後、15分間脱気し、乾燥Nでパージした。この滴下漏斗に、21mLの無水トルエン、続いて7gの無水ピリジンを入れ、漏斗を振とうして全ての試薬を溶解させた。滴下漏斗を反応フラスコに取り付け、TEGビスクロロホルメートの冷却溶液へのCapstone 62-ALの滴下を開始した。添加中、撹拌を最小限に保った。添加を室温(25℃)でN雰囲気下で完了した後、反応をさらに10分間進行させて部分的にフッ素化されたTEGビスクロロホルメート-Capstone 62-AL中間体を形成した。部分的なフッ素化の進行中に、YMerOHトリオールが入っているフラスコに、カニューレから無水トルエン(125mL)を添加し、続いて6gの無水ピリジンを添加し、混合物を撹拌してYMerOHトリオールを溶解させた。部分的にフッ素化されたTEGビスクロロホルメート-Capstone 62-AL中間体が入っている500mLの2口フラスコに、250mLの滴下漏斗を取り付け、YMerOH-トリオール溶液をカニューレから漏斗に移した。全てのYMerOH-トリオールが添加されるまで、ゆっくりとした連続流でYMerOH-トリオール溶液を500mLの容器に添加した。混合物をN下、50℃で48時間撹拌した。反応によって多量の白色のピリジン塩が生成し、この反応中に析出した。全ての添加と移動は、空気との接触を避けるために乾燥N雰囲気下で行った。
【0067】
精製は、Whatman 4濾紙を使用するピリジン塩の真空濾過と、その後、ロータリーエバポレーターによるトルエンの留去を含んでいた。生成物を1NのHClで処理し、ジクロロメタン-水混合物で抽出して過剰のピリジンを除去し、その後、1NのNaOH溶液で中和した。下側の有機層を回収し、蒸留水で2回洗浄した後、ロータリーエバポレーターで留去した。粗生成物(粘稠なオイル)を250mLの丸底フラスコの中で100mLの蒸留水と共に37℃で48時間、穏やかに振とうしながらインキュベートし、未反応のYMerOH-トリオールを除去した。上側の白濁している水層をデカンテーションし、下側のオイルを20%酢酸エチル/ヘキサン混合物で3回精製した。この手順は、オイルを酢酸エチルに溶解し、続いて冷ヘキサン中に析出させることを含んでいた。この手順により、TEG-ビスクロロホルメートとフルオロアルコールとの反応の二フッ化および一フッ化誘導体である低分子量の副生成物が除去された。
【0068】
精製した生成物を75℃、4mbarで乾燥することで、粘稠な透明オイルを得た(収率42%)。精製した生成物を、GPC(ポリスチレン標準を基準とした分子量)、およびフッ素についての元素分析によってキャラクタリゼーションした。平均分子量(ポリスチレン換算)は4018g/molであった。多分散度=1.24。元素分析は%F=15%を示す。熱分解温度(TGA、N下)、1回目の開始点:223℃(5重量%減少時点)。化合物1(YMerOH-1226-PCT-PC)の化学構造は図1に示されている。
【0069】
化合物2の合成
合成に使用した全てのガラス製品は、110℃のオーブンの中で一晩乾燥させた。
【0070】
撹拌子が入っておりオーブン乾燥されている200mLの2口フラスコに、50g(0.048mol)のYMerジオール(MW=1000Da)を入れ、60℃で穏やかに撹拌しながら一晩脱気した。次いで、YMerジオールを乾燥Nでパージし、カニューレを使用して53mLの無水クロロホルム(CHCl)をフラスコに添加し、続いて15gの無水ピリジンを添加した。反応混合物を撹拌して試薬を溶解させることで均一な溶液を得た。撹拌子が入っておりオーブン乾燥されている1Lの2口フラスコに、60.9g(0.221mol)のトリエチレングリコール(TEG)ビスクロロホルメートを入れた。フラスコを15分間脱気し、次いで乾燥Nでパージした。パージした後、157mLの無水CHClをカニューレによりフラスコの中に移した。TEGビスクロロホルメートを撹拌して溶媒に溶解させた。500mLの2口フラスコに73.59g(0.202mol)のCapstone 62-ALフルオロアルコール(1H,1H,2H,2H-パーフルオロ-1-オクタノール)を入れ、その後、15分間脱気し、乾燥Nでパージした。これに314mLの無水CHCl、続いて28gのピリジンを添加した。フラスコを撹拌して全ての試薬を溶解させた。Capstone 62-ALフルオロアルコール溶液を、予め脱気してNでパージした500mLの滴下漏斗にカニューレを使用して移した。氷浴で冷却したTEGビスクロロホルメート溶液が入っている1Lの反応容器に滴下漏斗を取り付けた。フルオロアルコールの添加を、N下で1時間かけて滴下により行った。反応中、撹拌を最小限に保って部分的にフッ素化されたTEGビスクロロホルメート-Capstone 62-ALフルオロアルコール中間体を形成した。次に、全てのYMerジオール溶液が添加されるまで氷浴で反応容器を冷却しながら、20ゲージのカニューレを使用して、YMerジオール溶液を1Lの反応容器にゆっくりとした連続流で移した。氷浴を外し、反応を室温でさらに10分間進行させた。その後、温度を50℃に上げ、反応を一晩行った。全ての添加と移動は、空気との接触を避けるために乾燥N雰囲気下で行った。
【0071】
粗生成物は、最初にロータリーエバポレーターでCHCl溶媒を除去し、最小限のTHFに粗生成物を溶解し、氷浴で20分間冷却してピリジン塩を沈殿させることにより精製した。溶液を真空濾過し、ロータリーエバポレーターを使用してTHFを蒸発させた。生成物を1NのHClで処理し、ジクロロメタン-水混合物で抽出して過剰のピリジンを除去し、その後、1NのNaOH溶液で中和した。下側の有機層を回収し、蒸留水で2回洗浄した後、ロータリーエバポレーターで留去した。最後に、生成物を最小限のイソプロピルアルコール(IPA)に溶解し、ヘキサン中に析出させ、ヘキサンで2回洗浄し、真空下で乾燥した。生成物を真空オーブン中、60℃で一晩乾燥することで、生成物が粘稠な液体として得られた(収率59%)。精製した生成物を、GPC(ポリスチレン標準を基準とした分子量)、およびフッ素についての元素分析によって特性決定した。平均分子量(ポリスチレン換算)は3422g/molであった。多分散度=1.15。元素分析:F=19%。熱分解温度(TGA、N下)、1回目の開始点:203℃(5重量%減少時点)。化合物2(YMer-1226-PCT-PC)の化学構造は図2に示されている。
【0072】
化合物3の合成
合成に使用した全てのガラス製品は、110℃のオーブンの中で一晩乾燥させた。
【0073】
撹拌子が入っている200mLの2口フラスコに、12g(0.016mol)のXMerテトラオール(MW=771Da)を入れ、60℃で穏やかに撹拌しながら一晩脱気し、その後、Nでパージした。撹拌子が入っているオーブン乾燥した500mLの2口フラスコに、9g(0.033mol)のトリエチレングリコール(TEG)ビスクロロホルメートを入れた。フラスコを15分間脱気し、次いで乾燥Nでパージした。パージした後、シリンジにより65mLの無水CHClをフラスコに移した。TEGビスクロロホルメートを撹拌して溶媒に溶解させた。50mLの滴下漏斗に15g(0.033mol)のCapstone 62-ALフルオロアルコール(1H,1H,2H,2H-パーフルオロ-1-オクタノール)を入れ、15分間脱気し、乾燥Nでパージした。この滴下漏斗に20mLの無水CHCl、続いて3gの無水ピリジンを添加し、フラスコを振とうして全ての試薬を溶解させた。氷で冷却した500mLの反応フラスコに滴下漏斗を取り付け、TEGビスクロロホルメートにCapstone 62-ALフルオロアルコールを滴下した。添加の完了に1時間要した。N雰囲気下、室温(25℃)でさらに10分間反応を進行させることで、部分的にフッ素化されたTEGビスクロロホルメート-Capstone 62-AL中間体を形成した。部分的なフッ素化の進行中に、XMerテトラオールが入っているフラスコに無水CHCl(122mL)をカニューレから添加し、続いて2.5gの無水ピリジンを添加し、混合物を撹拌して試薬を溶解させた。次に、全てのXMerジオール溶液が添加されるまで氷浴で反応容器を冷却しながら、20ゲージのカニューレを使用して、X-Merテトラオール溶液を500mLの反応容器にゆっくりとした連続流で移した。氷浴を外し、反応を室温でさらに10分間進行させた。その後、温度を50℃に上げ、反応を一晩行った。全ての添加と移動は、空気との接触を避けるために乾燥N雰囲気下で行った。
【0074】
精製には、反応混合物からのロータリーエバポレーターによるCHClの留去、THFの添加、および真空濾過によるピリジン塩の分離が含まれていた。生成物を1NのHClで処理し、ジクロロメタン-水混合物で抽出して過剰のピリジンを除去し、その後、1NのNaOH溶液で中和した。下側の有機層を回収し、蒸留水でさらに2回洗浄した後、ロータリーエバポレーターで留去した。最後に、生成物を最小限のイソプロピルアルコール(IPA)に溶解し、ヘキサン中に析出させ、ヘキサンで2回洗浄し、真空下で乾燥した。生成物を真空オーブン中、60℃で一晩乾燥することで、生成物が粘稠な液体として得られた(収率59%)。
【0075】
精製した生成物を、GPC(ポリスチレン標準を基準とした分子量)、およびフッ素についての元素分析によって特性決定した。平均分子量(ポリスチレン換算)は2322g/molであった。多分散度=1.12。元素分析はF=25.8%を示す。熱分解温度(TGA、N下)、1回目の開始点:221℃(10重量%減少時点)。化合物3(XMer-1226-PCT-PC)の化学構造は図3に示されている。
【0076】
化合物4の合成
合成に使用した全てのガラス製品は、110℃のオーブンの中で一晩乾燥させた。
【0077】
撹拌子が入っているオーブン乾燥した100mLの2口フラスコに、15g(0.008mol)のPDPジオール(MW=2000Da)を入れ、60℃で穏やかに撹拌しながら一晩脱気した。次いで、PDPジオールを乾燥Nでパージし、カニューレを使用して90mLの無水CHClをフラスコの中に移し、続いて2gの無水ピリジンを移した。反応混合物を撹拌して溶解させることで均一な溶液を得た。50mLのオーブン乾燥した滴下漏斗に5.63g(0.016mol)のビスフェノールAクロロホルメートを入れ、漏斗を15分間脱気してから乾燥Nでパージした。パージした後、カニューレにより45mLの無水CHClを漏斗の中に移した。漏斗を振とうしてクロロホルメートを溶解させた。PDPジオールが入っているフラスコに滴下漏斗を取り付け、室温で1時間かけてビスフェノールAクロロホルメートの滴下を行った。反応を3時間進行させ、PDP-ビスフェノールAプレポリマー中間体を形成した。プレポリマー中間反応を行いながら、7g(0.019mol)のCapstone-62-ALフルオロアルコールを50mLの2口フラスコに入れた。フラスコを15分間脱気し、次いで乾燥N下でパージした。Nでパージした後、15mLの無水CHClをフラスコに入れ、続いて2gのピリジンを入れた。フラスコを振とうしてフルオロアルコールを溶解させ、その後、これをプレポリマー中間体が入っている200mLのフラスコに、カニューレを使用してゆっくりとした連続流で添加した。温度を60℃に上げ、最後のエンドキャッピング反応を一晩進行させた。脱イオン水が入っている分液漏斗にCHCl反応混合物を注ぎ入れることにより生成物を精製し、水層を5NのHClで酸性化することで残留ピリジンを中和した。
【0078】
1NのNaOH溶液で中和された有機層の中に生成物を抽出し、脱イオン水で2回洗浄した。有機層を無水NaSOで乾燥した。溶媒をロータリーエバポレーターで除去し、固形分残渣をTHFに溶解し、3:1の水/メタノール混合物中に析出させた。生成物を真空オーブン(30mbar)中で2日間乾燥させることにより固体が得られた。精製した生成物を、GPC(ポリスチレン標準を基準とした分子量)によって特性決定した。平均分子量(ポリスチレン換算)は20704g/molであった。多分散度=1.52。元素分析は4.20重量%のFを示した。熱分解温度(TGA、N下)、1回目の開始点:314℃(5重量%減少時点)。化合物4(PDP-1226-PCT-PC)の化学構造は図4に示されている。
【0079】
表面での生物製剤の固定化および/または変性の測定
生物製剤の固定化を低減または防止する本発明の物品の表面の能力は、表面改質用高分子を含まない同じベースポリマーから製造された物品の表面の能力と比較することができる。非限定的な例では、ベースポリマーと表面改質用高分子との混合物から作製された容器(「容器」)に、所定の濃度の生物製剤(たとえばインターフェロンβ、モノクローナル抗体、融合タンパク質(たとえばアバタセプト)、siRNA、またはDNA(たとえばプラスミド))の溶液(たとえば水溶液)を入れることができる。その後、容器は、たとえば不活性雰囲気下(たとえばArまたはN下)で密閉することができる。密閉容器内の生物製剤溶液を、周囲光(たとえば蛍光灯)下または暗所で、室温または低温(たとえば4℃または0℃)で一定期間(たとえば1日、3日、1週間、2週間、3週間、1か月、2か月、3か月、0.5年、0.75年、1年など)保管した後、容器内に保管された溶液を、(たとえば当該技術分野で公知のUV-Vis分光法または粒子分析器を使用して)総タンパク質または核酸濃度について評価することができる。その後、容器内の経時的な生物製剤の濃度変化を、表面改質用高分子が入っていない容器(「対照容器」)内の経時的な生物製剤の濃度変化と比較することができる。容器中の生物製剤濃度の減少の程度は、溶液が同じ温度および光条件で保管されたことを条件として、同じ期間で対照容器の生物製剤濃度の減少の程度よりも少なくとも5%(たとえば少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、または少なくとも50%)低くすることができる。
【0080】
他の実施形態
本発明により記載される材料および使用方法の様々な修正形態および変形形態は、本発明の範囲および趣旨から逸脱することなく当業者に明らかであろう。本発明を特定の実施形態に関連させて説明してきたが、特許請求の範囲に記載の本発明はそのような特定の実施形態に過度に限定すべきではないことが理解されるべきである。実際、本発明を実施するために記載されている形態につき、当業者に自明な様々な修正は本発明の範囲内にあることが意図されている。
【0081】
他の実施形態は、特許請求の範囲内にある。
図1
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図9