(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】被覆粒子とその製造方法、および化粧料
(51)【国際特許分類】
C08J 7/04 20200101AFI20230808BHJP
A61K 8/02 20060101ALI20230808BHJP
A61K 8/9794 20170101ALI20230808BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20230808BHJP
C08J 7/06 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
C08J7/04 Z CEP
A61K8/02
A61K8/9794
A61K8/73
C08J7/06 Z
(21)【出願番号】P 2021025176
(22)【出願日】2021-02-19
【審査請求日】2023-07-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】榎本 直幸
(72)【発明者】
【氏名】濱崎 裕一
(72)【発明者】
【氏名】嶋崎 郁子
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2006/0286251(US,A1)
【文献】特表2006-500397(JP,A)
【文献】特開2014-105165(JP,A)
【文献】特表2011-516576(JP,A)
【文献】特開2017-52706(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉粒子を米ぬか蝋で表面処理した被覆粒子であって、
平均粒子径d
1が0.5~20μm、最大粒子径d
2が30μm未満、かつ、前記平均粒子径d
1の4.0倍以内であり、
前記米ぬか蝋が0.5~10.0重量%含まれていることを特徴とする被覆粒子。
【請求項2】
澱粉粒子に含まれるアミロペクチンが90重量%以上であることを特徴とする請求項1に記載の被覆粒子。
【請求項3】
グロブリンの含有量が0.02重量%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の被覆粒子。
【請求項4】
真球度が0.85以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の被覆粒子。
【請求項5】
澱粉粒子を1~20重量%含む分散液を用意する第一工程と、
前記分散液に米ぬか蝋を加えて加熱し、冷却することにより、前記澱粉粒子の表面に米ぬか蝋を析出させる第二工程と、
前記第二工程で得られた分散液を固液分離して被覆粒子を固形物として得る第三工程と、
を備えることを特徴とする被覆粒子の製造方法。
【請求項6】
前記第二工程において、分散液に含まれる澱粉粒子の質量に対して、0.5~11.0%の質量の米ぬか蝋を加えることを特徴とする請求項5に記載の被覆粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか一項に記載の被覆粒子が配合された化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物性ワックスで表面処理された澱粉粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、石油由来の合成高分子(プラスチック)は、さまざまな産業で利用されている。合成高分子は、長期安定性を求めて開発されることが多く、自然環境中で分解されない。そのため、様々な環境問題が起こっている。例えば、水環境に流出したプラスチック製品が長い期間蓄積され、海洋や湖沼の生態系が大きな影響を受けている。また、近年、長さが5mm以下からnmレベルまでのマイクロプラスチックが大きな問題となっている。マイクロプラスチックに該当するものとして、化粧用品等に含まれる微粒子、加工前のプラスチック樹脂の小さな塊、大きな製品が海中で浮遊するうちに微細化した物、等が挙げられている。
【0003】
近年では、化粧料の感触特性を向上させるために、数百μm級のプラスチック粒子(例えば、ポリエチレン粒子)を化粧料に配合している。プラスチック粒子は、真比重が軽いため下水処理場で除去し難く、河川、海洋、池沼等に流れ出易い。更に、プラスチック粒子は、殺虫剤等の化学物質を吸着し易いため、生物濃縮により人体に影響を与えるおそれがある。このことは国連環境計画等でも指摘されており、各国、各種業界団体が規制を検討している。
【0004】
また、自然派化粧品やオーガニック化粧品に関心が高まっており、化粧品の自然・オーガニック指数表示に関するガイドライン(ISO16128)が制定されている。このガイドラインによれば、製品中の原料を、例えば、自然原料、自然由来原料、非自然原料に分類し、各原料の含有量に基づいて指数が算出される。今後、このガイドラインに沿って商品に指数が表示されるようになるため、自然由来原料、更に、自然原料が要求されることが予想される。
【0005】
このような背景から、自然環境中で微生物等により水と二酸化炭素に分解され、自然界の炭素サイクルに組み込まれる生分解性プラスチックが注目されている。特に、植物由来の自然原料であるセルロース粒子は、環境に流出しても水に浮くことがなく、また、良好な生分解性を持つため、環境問題を引き起こす懸念が少ない。例えば、セルロースが溶解した銅アンモニア溶液を酸で中和して9~400nmの真球状の再生セルロース粒子を得ることが知られている(例えば、特許文献1を参照)。また、セルロース溶液を噴霧して気相中で液滴を形成し、この液滴を凝固液に接触させて、球状の再生セルロース粒子を得ることが知られている(例えば、特許文献2を参照)。これらは、意図的な化学修飾を行うプロセスにより得られたII型の結晶形セルロースを用いてセルロース粒子を作製している。このような再生セルロース粒子は、前述のガイドラインの定義によれば、自然由来原料に分類される。また、有機溶媒に分散させたセルロースをスプレードライ法により造粒、乾燥し、結晶形がI型の多孔質セルロース粒子を作製することが知られている(例えば、特許文献3を参照)。また、結晶セルロースを金属石鹸または水添レシチンで表面処理することにより、撥水性、撥油性に優れ、肌に対するソフトな感触に優れた化粧用粉体となることが知られている(例えば、特許文献4を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2008-84854号公報
【文献】特開2013-133355号公報
【文献】特開平2-84401号公報
【文献】特開2003-146829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
欧州化学品庁(European Chemicals Agency)は、2018年10月16日発行の「Note on substance identification and the potential scope of a restriction on uses of‘microplastics’ Version 1.1」において、マイクロプラスチックスは、合成ポリマーであることが前提であり、生分解性を持つ天然由来のセルロースや澱粉等は、マイクロプラスチックスとみなすべきではないとの見解を示した。
【0008】
しかし、特許文献のセルロースは、グルコース分子を構成単位としたトランス型の多糖類で、水には溶解しない。そのため、セルロースは、自然界での分解性は高くないと考えられている。生分解性の定義も未だに明確ではなく、セルロースが規制対象物質となる懸念も残っている。
【0009】
そこで、本発明の目的は、優れた感触特性と撥水性を持つ粒子を、水溶性の材料を用いて実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、澱粉粒子の表面を植物性ワックスで処理して被覆粒子を構成した。なお、澱粉とセルロースは、ともにグルコースを構成単位とする多糖類であるが、両者は異性体である。すなわち、澱粉はシス型、セルロースはトランス型である。この違いが水溶性の有無、生分解性に関係する。水溶性である澱粉粒子が配合された化粧料は、環境問題を引き起こす懸念が少なく、さらに、従来のプラスチックビーズと同様な感触特性を得ることができる。
【0011】
本発明による被覆粒子は、米ぬか蝋で表面処理された澱粉粒子である。被覆粒子の平均粒子径d1は0.5~20μmであり、最大粒子径d2は30μm未満、かつ、平均粒子径d1の4.0倍以内である。植物性ワックスは被覆粒子に0.5~10.0重量%含まれている。
【0012】
本発明による被覆粒子の製造方法は、澱粉粒子を1~20重量%含む分散液を用意する工程と、分散液に植物性ワックスを加えて加熱し、冷却することにより、澱粉粒子の表面に植物性ワックス成分を析出させる工程と、固液分離により分散液から被覆粒子を固形物として取り出す工程と、を備えている。このとき、分散液に含まれる澱粉粒子の質量に対して、0.5~11.0%の質量の植物性ワックスを添加することが好ましい。
【0013】
植物性ワックスとして、米ぬか蝋を用いることが好ましい。さらに、アミロペクチンの含有量が90重量%以上の澱粉粒子を用いることが好ましい。また、蛋白質であるグロブリンの含有量は0.02重量%以下が好ましい。
【0014】
上述した被覆粒子を配合して化粧料を作製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、澱粉粒子の表面に植物性ワックスが設けられた被覆粒子に関する。被覆粒子は、澱粉粒子を植物性ワックスで表面処理した粒子であり、植物性ワックスを0.5~10.0重量%含んでいる。すなわち、植物性ワックスの重量は、被覆粒子の重量の0.5~10.0%に相当する。0.5%未満では、所望の撥水性を付与することができない。10.0%を超えると被覆粒子同士が接着して大きな凝集体となるおそれがある。1.0~5.0%がより好ましい。澱粉粒子の表面が完全に植物性ワックスで覆われる必要はなく、澱粉粒子の表面の一部が露出しても構わない。被覆粒子の重量に対して前述の割合の植物性ワックスが検出されれば、撥水性の効果がある。なお、植物性ワックスの重量は、赤外線吸収スペクトル測定にて定量することができる。
【0016】
また、被覆粒子の平均粒子径d1は0.5~20μmであり、最大粒子径d2は30μm未満かつ、平均粒子径d1の4.0倍以内である。平均粒子径d1は化粧料の感触特性に影響を与える。0.5μm未満では、転がり感、転がり感の持続性、均一な延び広がり性等の感触特性が著しく低下する。20μmより大きいと、ざらつきが感じられ、ソフト感としっとり感が低下する。平均粒子径d1は1~15μmが好ましく、5~10μmが最適である。また、最大粒子径d2が30μm以上では、ざらつきが感じられ、ソフト感としっとり感が低下する。最大粒子径が平均粒子径の4.0倍を超えると、均一な延び広がり性が低下する。ここで、平均粒子径d1は、粒子の粒度分布から得られたメジアン値であり、粒度分布で検出された最も大きい粒子径が最大粒子径d2である。
【0017】
代表的な植物性ワックスとして、米ぬか蝋、カルナバロウワックス、キャンデリラワックス、木蝋などが挙げられる。融点が比較的高いカルナバロウワックス、米ぬか蝋が好ましい。さらに、食用にも供される米ぬか蝋が最も好ましい。米ぬか蝋は、主に高級アルコールエステル成分と脂肪酸成分で構成され、臭気を有する遊離アルコール成分を含んでいない。
【0018】
さらに、アミロペクチンを90重量%以上含有する澱粉粒子を用いることが好ましい。一般に、澱粉はアミロースとアミロペクチンによって構成されている。アミロースは、グルコース分子が直鎖状に繋がった構造を持つ。アミロペクチンは、アミロースが枝分かれして繋がった構造を持ち、分子量が大きい。アミロースの含有量が多いほど澱粉粒子の膨潤性が高くなり、化粧料に配合した際にベタツキの原因となる。そのため、アミロースの含有量は10重量%未満が好ましい。アミロペクチンの含有量は大きいほど好ましい。95重量%以上がより好ましく、98重量%以上が最も好ましい。アミロペクチンの含有量は、ゲル濾過法、ヨード比色分析法、2波長測定法等で測定できる。
【0019】
なお、澱粉粒子には、原料に由来する蛋白質が含まれている。蛋白質のうち、グロブリンは、強いアレルゲン活性を持ち、米アレルギーの原因物質とされている。そのため、グロブリンの含有量は0.10重量%以下が好ましい。0.05重量%以下、さらに0.02重量%以下が適している。澱粉粒子の原料(一般には澱粉穀粒)を酵素処理することにより、グロブリンを減少させることができる。他にも、食塩水溶液、希酸水溶液、またはアルカリ水溶液中への浸漬処理、高圧処理(例えば100~400Mpa)などが挙げられる。これらの処理を組み合わせてもよい。
【0020】
また、被覆粒子は、真球度が0.85以上、すなわち球状であることが好ましい。真球度が高いほど、化粧料の転がり性が向上する。真球度は0.90以上が特に好ましい。真球度は走査型電子顕微鏡の写真から画像解析法により求めらる。
【0021】
また、被覆粒子の粒子変動係数(CV)は、50%以下が好ましい。粒子変動係数が50%を超えると、均一な転がり性が得られないおそれがある。粒子変動係数は、40%以下、特に30%以下が好ましい。なお、粒子変動係数は、小さいほど好適であるものの、狭小分布の粒子を得ることは工業的に困難である。概ね3%以上であれば、特に問題なく製造できる。
【0022】
なお、被覆粒子の表面に存在している植物性ワックスは、粒子形状にはほとんど影響を与えない。そのため、澱粉粒子も上述した被覆粒子の特徴を持つことが望ましい。
【0023】
<澱粉粒子の製造方法>
次に、被覆粒子の製造方法について説明する。ここでは、澱粉粒子を米ぬか蝋で表面処理した被覆粒子について詳述する。
【0024】
まず、澱粉粒子を溶媒に分散させ、澱粉粒子の固形分濃度が1~20重量%の分散液を調整する(第一工程)。この分散液に、米ぬか蝋を添加し加熱する。これにより、米ぬか蝋が溶媒中に溶解する。次に、分散液を冷却することにより、溶解した米ぬか蝋を澱粉粒子の表面に析出させる(第二工程)。次に、分散液を固液分離して、被覆粒子を固形物として取り出す(第三工程)。ここで用意する澱粉粒子は、公知の方法で調製したものを用いることができる。また、米ぬか蝋の融点より高い沸点を持つ溶媒を用いる。
【0025】
以下、各工程を詳細に説明する。
【0026】
[第一工程]
まず、澱粉粒子の分散液を用意する。澱粉粒子の固形分濃度を1~20重量%の範囲に調整する。分散液の固形分濃度が20重量%を超えると澱粉粒子が凝集しやすくなる。そのため、後工程で米ぬか蝋の被覆状態が均一にならないおそれがある。その場合、所望の撥水性が得られない。1重量%未満では被覆粒子の収量が少なく経済性が悪い。なお、分散液の溶媒には、加熱によって米ぬか蝋が溶解するものを用いる。溶媒として有機溶媒が好ましい。特に、アルコール系溶媒が好ましく、IPA(イソプロピルアルコール)が適している。
【0027】
[第二工程]
この分散液に米ぬか蝋を添加し、加熱して米ぬか蝋を溶媒に溶解させる。米ぬか蝋の融点である78℃以上で加熱する。90℃未満が好ましいが、使用する溶媒に応じて適宜決めればよい。温度が低いと、米ぬか蝋が溶解しない、又は溶解が不充分になり、被覆状態が均一にならないおそれがある。90℃以上では、加温に時間がかかり経済性が悪い。
【0028】
添加する米ぬか蝋の質量は、澱粉粒子の質量の0.5~11.0%が好ましい。0.5%未満では、所望の撥水性を付与することができない。被覆粒子に植物性ワックスを10重量%程度含ませるためには、11%程度添加することが好ましい。ただし、11.0%を超えると粒子同士が接着して大きな凝集体となるおそれがある。1.0~5.0%がより好ましい。
【0029】
次に、この分散液を冷却することによって米ぬか蝋を澱粉粒子の表面に析出させる。米ぬか蝋が析出する温度に冷却すればよく、その温度は40℃未満が好ましい。40℃以上の場合は、溶解した米ぬか蝋が十分に析出しないおそれがある。溶解したままの米ぬか蝋が多くなり、後工程の固液分離により溶解した米ぬか蝋が系外に排出される。そのため、澱粉粒子への被覆が不十分となり、十分な撥水性が得られない。また、20℃未満まで冷却する場合、冷却に要する時間が長くなるため経済性が悪い。
【0030】
[第三工程]
次に、従来公知の濾過、遠心分離等の方法を用いて、被覆粒子の分散液から固形分を分離する。これにより、被覆粒子のケーキ状物質が得られる。
【0031】
この工程後に、ケーキ状物質に残留する溶媒を蒸発させるために、常圧または減圧下で加熱する乾燥工程を設けてもよい。さらに、乾燥させた固形物を解砕する。これにより、平均粒子径0.5~20μmの被覆粒子の乾燥粉体が得られる。
【0032】
<化粧料>
上述の被覆粒子と各種化粧料成分を配合して化粧料を調製することができる。このような化粧料によれば、単一成分の無機粒子(シリカ粒子)と同様の転がり感、転がり感の持続性、および均一な延び広がり性、プラスチックビーズと同様のソフト感としっとり感を同時に得ることができる。すなわち、化粧料の感触改良材に求められる代表的な感触特性を満たすことができる。
【0033】
具体的な化粧料を表1に分類別に例示する。このような化粧料は、従来公知の一般的な方法で製造できる。化粧料は、粉末状、ケーキ状、ペンシル状、スティック状、クリーム状、ジェル状、ムース状、液状、クリーム状等の各種形態で使用される。
【0034】
各種化粧料成分として代表的な分類や成分を表2に例示する。さらに、医薬部外品原料規格2006(発行:株式会社薬事日報社、平成18年6月16日)や、International Cosmetic Ingredient Dictionary and Handbook(発行:The Cosmetic, Toiletry, and Fragrance Association、Eleventh Edition2006)等に収載されている化粧料成分を配合してもよい。
【0035】
【0036】
【実施例】
【0037】
以下、本発明の実施例を具体的に説明する。
【0038】
[実施例1]
はじめに、澱粉の分散液を準備する。澱粉穀粒として上越スターチ社のモチールB(登録商標)250gを用いて、純水4750gに加えた。得られた懸濁液を加熱攪拌(120℃、16時間)した。これにより、澱粉の分散液(固形分濃度5重量%)が得られた。この分散液200gを、非水系溶媒であるヘプタン(関東化学社製)3346gと界面活性剤(花王社製AO-10V)25gの混合溶液に加えた。この混合溶液を、乳化分散機(プライミクス社製T.K.ロボミックス)を用いて10000rpmで10分間撹拌した。これにより乳化され、乳化液滴を含む乳化液が得られた。この乳化液を、-25℃の冷凍庫中に72時間静置し、乳化液滴中の水を凍結させた。その後、常温まで昇温し、解凍した。これを、ブフナー漏斗(関谷理化硝子器械社製3.2L)を用いて定量濾紙(アドバンテック東洋社製No.2)で濾過した。その後、ヘプタン2500gを用いた洗浄を3回繰り返し、界面活性剤を除去した。このようにして得られたケーキ状物質を、60℃で12時間乾燥した。この乾燥粉体を250mesh篩(JIS試験用規格篩)でふるいにかけ、澱粉粒子を得た。
【0039】
次に、澱粉粒子9gをIPA(関東化学社製2-プロパノ―ル)81gに懸濁した。この懸濁液を、バス型超音波装置(エスエスディー社製)にて10分間処理して、澱粉粒子のIPA分散液(固形分濃度10重量%)を調製した。
【0040】
この分散液90gに米ぬか蝋(セラリカNODA社製NC-1720)0.14gを添加して、攪拌下で78℃まで昇温した。さらに、この混合液を10分間攪拌し、150分かけて30℃まで冷却した。この溶液を、ブフナー漏斗(関谷理化硝子器械社製3.2L)を用いて定量濾紙(アドバンテック東洋社製No.2)で濾過した。これにより得られたケーキ状物質を、80℃で16時間乾燥した。この乾燥粉体を250mesh篩(JIS試験用規格篩)でふるいにかけ、被覆粒子の粉体を得た。
【0041】
被覆粒子の調製条件を表3にまとめた。また、被覆粒子の粉体の物性を以下の方法で測定した。他の実施例や比較例についても同様に測定した。その結果を表4に示す。
【0042】
(1)平均粒子径、最大粒子径、粒子変動係数
レーザー回折法を用いて、被覆粒子の粒度分布を測定した。この粒度分布からメジアン値を求め、平均粒子径d1とした。また、粒度分布で検出される最も大きい粒子径を最大粒子径d2とした。さらに、粒度分布(母集団)から標準偏差σと母平均μを求め、粒子変動係数(CV=σ/μ)を得た。表4では百分率で表している。また、最大粒子径d2を平均粒子径d1で除して最大粒子径と平均粒子径の比(d2/d1)を求めた。ここでは、粒度分布を堀場製作所製のLA-950v2を用いて測定した。
【0043】
(2)米ぬか蝋の含有量
米ぬか蝋の主成分である高級アルコールエステルに含まれるカルボニル基に帰属する吸収ピークは1700cm-1付近にある。そこで、赤外吸光分光計を用いて測定したIRスペクトルの1700cm-1付近の値に基づいて、米ぬか蝋の含有量を特定した。
【0044】
予め、メノウ乳鉢を用いて米ぬか蝋の粉末と澱粉粒子の粉末を均一に混合する。このとき、米ぬか蝋の比率が0.5重量%、5重量%、10重量%、20重量%になるように試料を調製する。それぞれの試料粉末20mgを20φのディスクに成型する。これを真空ラインに接続されたIRセルに設置して、70oCで1時間、真空排気処理を行って吸着水分を除去した。真空排気処理後、25oCに降温して、試料ディスクのIRスペクトルを赤外吸光分光計(日本分光社製 FT/IR-4600)で測定する。それぞれの試料で得られた1700cm-1付近の吸収ピーク強度を用いて米ぬか蝋の含有量とピーク強度の検量線を得る。
【0045】
一方、被覆粒子の粉体20mgを20φのディスクに成型した。このディスクを用いて上述と同様にIRスペクトルを測定し、1700cm-1付近の吸収ピーク強度を得た。この値と予め作成した検量線を比較することによって、被覆粒子に含まれる米ぬか蝋の含有量を特定した。
【0046】
(3)アミロペクチンの含有量
アミロース/アミロペクチン分析キット(日本バイオコン社製)を用いて、同キットが規定する手順に従い、総澱粉量、アミロース量を測定した。アミロペクチンの含有量(重量%)は、「{1-(アミロース量/総澱粉量)}×100」によりを求めた。
【0047】
(4)グロブリン量
SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法を用いて、グロブリン残留量を測定した。まず、ドデシル硫酸ナトリウム(富士フィルム和光純薬社製)2g、尿素(富士フィルム和光純薬社製)24g、グリセリン10g、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(東京化成工業社製)0.76gを蒸留水で溶解した。この溶液を、1N塩酸水溶液を用いてpH6.8に調整した。さらに、2-メルカプトエタノール(富士フィルム和光純薬社製)2.5gを加えて100mLとし、これをタンパク質抽出液とした。実施例で得られた被覆粒子の粉体1gを、タンパク質抽出液0.7mLに加えて攪拌し、24時間静置した。その後、遠心分離にて上澄み液を分離した。この上澄み液0.01mLを、PGMEゲル(フナコシ社製)にチャージし、電気泳動を行った。その後、このゲルをCBB染色試薬(バイオダイナミクス研究所社製)し浸漬して染色した。染色されたゲルを画像解析(富士フィルム社製ルミノイメージアナライザーLAS-100plus、富士フィルム社製ImageGaugeによる自動定量)し、グロブリン残留量を算出した。
【0048】
(5)真球度
透過型電子顕微鏡(日立製作所製、H-8000)により、2000倍から25万倍の倍率で撮影し、写真投影図を得る。この写真投影図から、任意の50個の粒子を選び、それぞれの最大径DLと、これに直交する短径DSを測定し、比(DS/DL)を求めた。それらの平均値を真球度とした。
【0049】
(6)撥水性
被覆粒子の粉体0.5gを水30mlに投入し、1時間静置後、目視で観察した。試料である粉体が水面に存在し、水中に沈んでいなければ“○”、水中に沈んだ場合は“×”と判定した。
【0050】
[実施例2]
澱粉粒子のIPA分散液(固形分濃度10重量%)90gに添加する米ぬか蝋の量を0.72gに変更した以外は、実施例1と同様にして被覆粒子の粉体を得た。
【0051】
[実施例3]
実施例1と同様に、澱粉の分散液(固形分濃度5重量%)を調製した。この分散液40gを純水160gで希釈し、固形分濃度を1重量%とした。この希釈分散液200gを、ヘプタン(関東化学社製)3346gと界面活性剤(花王社製AO-10V)25gの混合溶液に加えた。次いで、実施例1と同じ乳化条件で乳化液を調製した。この乳化液を60℃で16時間加熱し、乳化液滴を脱水した。脱水後、この乳化液を2℃で16時間冷却保管した。さらに、ブフナー漏斗(関谷理化硝子器械社製3.2L)を用いて定量濾紙(アドバンテック東洋社製No.2)で濾過した。これ以降は実施例1と同様にして被覆粒子の粉体を得た。
【0052】
[実施例4]
実施例1と同様に澱粉の分散液(固形分濃度5重量%)を調製し、この分散液200gを、ヘプタン3346gと界面活性剤(AO-10V)25gの混合液中に加えた。これ以降は実施例3と同様に被覆粒子を調製した。ただし、乳化工程における乳化分散機の回転速度を800rpmに、脱水工程における乳化液の加熱時間を24時間に変更した。
【0053】
[実施例5]
本実施例では、上越スターチ社のモチールB125gと上越スターチ社のファインスノウ(粳米由来アミロペクチン80%)125gを混合して澱粉穀粒とした。これ以外は実施例1と同様にして被覆粒子の粉体を得た。
【0054】
[実施例6]
本実施例では、アルカリ浸漬処理と酵素処理により澱粉穀粒のグロブリン量を低減させた。この澱粉穀粒を用いて澱粉粒子を調製した。まず、モチールB1kgを純水4kgに加え、得られた懸濁液に、5重量%の水酸化ナトリウム水溶液を加えて、pHを9.0に調整した(アルカリ浸漬処理)。さらに、酵素(ヤクルト薬品工業社製アロアーゼ AP-10)10gを加え、室温で24時間攪拌した(酵素処理)。次いで、この溶液を、ブフナー漏斗(関谷理化硝子器械社製3.2L)を用いて定量濾紙(アドバンテック東洋社製No.2)で濾過した。さらに、純水で洗浄して残留酵素と分解されたタンパク質を除去した。これにより得られたケーキ状物質を、60℃で12時間乾燥した。この乾燥粉体を250mesh篩(JIS試験用規格篩)でふるいにかけた。これにより、グロブリンが低減された澱粉の粉体が得られた。この粉体250gを純水4750gに懸濁した。この懸濁液を、加熱攪拌(120℃、16時間)して、澱粉の分散液(固形分濃度5重量%)を調製した。これ以降は実施例1と同様にして被覆粒子の粉体を得た。本実施例で得られた被覆粒子のグロブリン残留量は0.02重量%であった。
【0055】
[実施例7]
澱粉粒子のIPA分散液(固形分濃度10重量%)90gに添加する米ぬか蝋の量を0.05gに変更した以外は実施例1と同様にして被覆粒子の粉体を得た。
【0056】
[比較例1]
澱粉粒子のIPA分散液(固形分濃度10重量%)に米ぬか蝋を添加しなかった。これ以外は、実施例1と同様に被覆粒子の粉体を調製した。
【0057】
[比較例2]
澱粉粒子のIPA分散液90gに添加する米ぬか蝋の量を1.35gに変更した以外は実施例1と同様にして被覆粒子の粉体を得た。
【0058】
[比較例3]
本比較例では、固形分濃度20重量%の澱粉の分散液を調製した。すなわち、モチールB1000gを純水4000gに懸濁して、固形分濃度20重量%の分散液を調製した。この分散液200gを、ヘプタン3346gと界面活性剤(AO-10V)25gの混合液中に加えた。これ以降は実施例4と同様に澱粉粒子を調製した。
【0059】
【0060】
【0061】
[被覆粒子の粉体の感触特性]
次に、各実施例と比較例で得られた粉体の感触特性を評価した。各粉体について、20名の専門パネラーによる官能テストを行い、さらさら感、しっとり感、転がり感、均一な延び広がり性、肌への付着性、転がり感の持続性、およびソフト感の7つの評価項目に関して聞き取り調査を行った。評価点基準(a)に基づく各人の評価点を合計し、評価基準(b)に基づき感触特性を評価した。結果を表5に示す。その結果、各実施例の粉体は、化粧料の感触改良材として極めて優れているが、比較例の粉体は、感触改良材として適していないことが分かった。
評価点基準(a)
5点:非常に優れている。
4点:優れている。
3点:普通。
2点:劣る。
1点:非常に劣る。
評価基準(b)
◎:合計点が80点以上
○:合計点が60点以上80点未満
△:合計点が40点以上60点未満
▲:合計点が20点以上40点未満
×:合計点が20点未満
【0062】
【0063】
[パウダーファンデーションの使用感]
被覆粒子の粉体を用いて表6に示す配合比率(重量%)となるようにパウダーファンデーションを作製した。すなわち、各例の粉体を成分(1)として、成分(2)~(9)とともにミキサーに入れて撹拌し、均一に混合した。次に、化粧料成分(10)~(12)をこのミキサーに入れて撹拌し、さらに均一に混合した。得られたケーキ状物質を解砕処理した後、その中から約12gを取り出し、46mm×54mm×4mmの角金皿に入れてプレス成型した。この様にして得られたパウダーファンデーションについて、20名の専門パネラーによる官能テストを行った。肌への塗布中の均一な延び、しっとり感、滑らかさ、および、肌に塗布後の化粧膜の均一性、しっとり感、やわらかさの6つの評価項目に関して聞き取り調査を行った。前述の評価点基準(a)に基づく各人の評価点を合計し、前述の評価基準(b)に基づきファンデーションの使用感を評価した。結果を表7に示す。実施例による化粧料は、塗布中でも塗布後でも、使用感が優れている。しかし、比較例の化粧料は、使用感がよくない。
【0064】
【0065】