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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】鋸歯形メタルガスケット
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/08 20060101AFI20230808BHJP
   F16J 15/10 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
F16J15/08 G
F16J15/10 R
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021508822
(86)(22)【出願日】2020-02-21
(86)【国際出願番号】 JP2020007139
(87)【国際公開番号】W WO2020195434
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-08-22
(31)【優先権主張番号】P 2019057996
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229564
【氏名又は名称】株式会社バルカー
(74)【代理人】
【識別番号】100141472
【弁理士】
【氏名又は名称】赤松 善弘
(72)【発明者】
【氏名】高橋 聡美
【審査官】宮下 浩次
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/043396(WO,A1)
【文献】特開2010-159852(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/08
F16J 15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同心円状の鋸歯形の凹凸部および平板状の鍔部を有する鋸歯形メタルガスケットであって、前記鋸歯形の凹凸部が両面に形成され、前記鋸歯形の凹凸部を構成している凸部のピッチが1.2~1.8mmであり、当該凸部の頂上部に幅が50~180μmの平坦部が形成され、前記鋸歯形の凹凸部を構成している凸部の前記鍔部からの高さが0.3~0.8mmであり、前記鋸歯形の凹凸部を構成している凹部の深さが0.3~0.8mmであり、当該凹部の最底部に半径0.2~0.6mmの円弧が形成され、前記鋸歯形の凹凸部を構成している凹部の断面における溝面積が0.25~0.80mm 2 である鋸歯形メタルガスケット。
【請求項2】
請求項1に記載の鋸歯形メタルガスケットを有し、鋸歯形メタルガスケットの両面に形成されている鋸歯形の凹凸部に厚さが0.6~1.5mmである弾性シートが貼付されてなるカンプロファイルガスケット。
【請求項3】
弾性シートが有機バインダーおよび無機粉体を含有し、当該有機バインダーがゴムバインダーである請求項2に記載のカンプロファイルガスケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋸歯形メタルガスケットに関する。さらに詳しくは、本発明は、鋸歯形メタルガスケットおよび当該鋸歯形メタルガスケットを有するカンプロファイルガスケットに関する。本発明の鋸歯形メタルガスケットおよび当該鋸歯形メタルガスケットを有するカンプロファイルガスケットは、例えば、高温および高圧を有する水蒸気などの流体が使用される管フランジ、塔、槽、熱交換器、オートクレーブ、バルブのボンネット、メタルシール機構などに好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
鋸歯形ガスケットは、シール効率を高めるためにガスケットの両面に同心円状の鋸歯形の凹凸部を形成させてフランジなどとの有効接触面積を小さくしたものである。鋸歯形ガスケットは、一般に、例えば、バルブのボンネット、管フランジ、圧力容器のカバーガスケットなどに使用されている。
【0003】
コストの低減効果が高い鋸歯形ガスケットとして、第1のフランジ部材と第2のフランジ部材との間に介装され、ガスケット本体に形成された鋸歯形凹凸部が前記第1のフランジ部材側のシール面および前記第2のフランジ部材側のシール面にそれぞれ食い込むことによってシール性が発揮される鋸歯形ガスケットにおいて、前記ガスケット本体が、前記鋸歯形凹凸部が形成された金属製のシール部本体と当該シール部本体の外周側に形成されている金属製の位置決め部分とから構成され、当該位置決め部分が周方向に分割されている複数の分割体で構成されている鋸歯形ガスケットが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、膨張黒鉛などのシート層を備えたガスケットにおいて、ガスケットの圧縮時に破砕して生じる膨張黒鉛などのシート層の微粒子が流体通路内に入り込むことを防止することができるシート層付き鋸歯形ガスケットとして、同心円状の鋸歯形凹凸部が両面に形成されているガスケット本体と、前記鋸歯形凹凸部を覆うように積層されるシート層とを備え、前記ガスケット本体および前記シート層が一体化された状態で流体通路の継ぎ手部に装着され、この継ぎ手部を構成する第1の部材と第2の部材との間で締め付けられたときに前記シート層を介して前記鋸歯形凹凸部が前記第1の部材および前記第2の部材に食い込むことによってシール力が発揮されるシート層付き鋸歯形ガスケットであって、前記鋸歯形凹凸部を構成するとともに前記流体通路に最も近い第1の凸部から2番目に近い第2の凸部までの距離をaとし、前記第2の凸部から第3の凸部、第3の凸部から第4の凸部、第4の凸部から第5の凸部、第n-1の凸部から第nの凸部までの距離をbとしたとき、a≧2bであり、前記シート層の径内方側端部が前記第1の凸部と前記第2の凸部との間に配置されているシート層付き鋸歯形ガスケットが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
前記鋸歯形ガスケットは、優れたコスト低減効果を奏するものであり、前記シート層付き鋸歯形ガスケットは、ガスケットの圧縮時に破砕することによって生じるシート層の微粒子が流体通路内に入り込むことを防止することができるという優れた効果を奏するものである。
【0006】
近年においては、配管のフランジ間にカンプロファイルガスケットを装着し、当該配管内に高圧の流体を導入した場合であってもフランジ間からの流体の漏洩を防止するために、フランジ間の面圧が80MPa以上であることが要望されており、当該面圧であっても耐久性に優れているとともに、シール性にも優れているカンプロファイルガスケットの開発が望まれている。
【0007】
しかし、従来のシート層付き鋸歯形ガスケットに代表されるカンプロファイルガスケットでは、シート層の厚さが0.6~1.5mmであるとき、例えば、配管のフランジ間に当該カンプロファイルガスケットを装着し、フランジの締付時にカンプロファイルガスケットのフランジと接する面における面圧が80MPa以上となるように締め付けた際に、鋸歯形ガスケットの凸部に存在するシート層が厚いことから鋸歯形ガスケットの凸部とフランジとの間でのシール性を十分に確保することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第4842023号公報
【文献】特許第4877673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、弾性シートの厚さが0.6~1.5mmであるカンプロファイルガスケットを配管のフランジ間に装着し、フランジの締付時にカンプロファイルガスケットのフランジと接する面における面圧が80MPa以上となるように締め付けたときであっても、鋸歯形ガスケットの凸部とフランジとの間でのシール性を十分に確保することができ、当該面圧における耐久性に優れているカンプロファイルガスケットおよび当該カンプロファイルガスケットに好適に使用することができる鋸歯形メタルガスケットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
(1) 同心円状の鋸歯形の凹凸部および平板状の鍔部を有する鋸歯形メタルガスケットであって、前記鋸歯形の凹凸部が両面に形成され、前記鋸歯形の凹凸部を構成している凸部のピッチが1.2~1.8mmであり、当該凸部の頂上部に幅が50~180μmの平坦部が形成され、前記鋸歯形の凹凸部を構成している凸部の前記鍔部からの高さが0.3~0.8mmであり、前記鋸歯形の凹凸部を構成している凹部の深さが0.3~0.8mmであり、当該凹部の最底部に半径0.2~0.6mmの円弧が形成され、前記鋸歯形の凹凸部を構成している凹部の断面における溝面積が0.25~0.80mm 2 である鋸歯形メタルガスケット、
(2前記(1)に記載の鋸歯形メタルガスケットを有し、鋸歯形メタルガスケットの両面に形成されている鋸歯形の凹凸部に厚さが0.6~1.5mmである弾性シートが貼付されてなるカンプロファイルガスケット、および
(3) 弾性シートが有機バインダーおよび無機粉体を含有し、当該有機バインダーがゴムバインダーである前記(2)に記載のカンプロファイルガスケット
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、弾性シートの厚さが0.6~1.5mmであるカンプロファイルガスケットを配管のフランジ間に装着し、フランジの締付時にカンプロファイルガスケットのフランジと接する面における面圧が80MPa以上となるように締め付けたときであっても、鋸歯形ガスケットの凸部とフランジとの間でのシール性を十分に確保することができ、当該面圧における耐久性に優れているカンプロファイルガスケットおよび当該カンプロファイルガスケットに好適に使用することができる鋸歯形メタルガスケットが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の鋸歯形メタルガスケットの一実施態様を示す概略平面図である。
図2図1に示される鋸歯形メタルガスケットのA-A部における概略断面図である。
図3図2の鋸歯形メタルガスケットの断面図に示される鋸歯形の凹凸部の部分拡大図である。
図4】本発明のカンプロファイルガスケットの一実施態様を示す概略平面図である。
図5図4に示されるカンプロファイルガスケットのB-B部における概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の鋸歯形メタルガスケットは、同心円状の鋸歯形の凹凸部が当該鋸歯形メタルガスケットの両面に形成されているメタルガスケットである。
【0014】
本発明の鋸歯形メタルガスケットは、前記鋸歯形の凹凸部を構成している凸部のピッチが1.2~1.8mmであり、当該凸部の頂上部に幅が50~180μmの平坦部が形成され、前記鋸歯形の凹凸部を構成している凹部の深さが0.3~0.8mmであり、当該凹部の最底部に半径0.2~0.6mmの円弧が形成されていることを特徴とする。
【0015】
本発明の鋸歯形メタルガスケットは、前記構成を有することから、フランジなどに締め付けるときの面圧が80MPaであっても耐久性に優れているとともに、シール性にも優れている。
【0016】
以下に、本発明の鋸歯形メタルガスケットを図面に基づいて詳細に説明するが、本発明は、当該図面に記載の実施態様のみに限定されるものではない。
【0017】
図1は、本発明の鋸歯形メタルガスケットの一実施態様を示す概略平面図である。図2は、図1に示される鋸歯形メタルガスケットのA-A部における概略断面図である。図3は、図2の鋸歯形メタルガスケットの断面図に示される鋸歯形の凹凸部の部分拡大図である。
【0018】
図1に示されるように、本発明の鋸歯形メタルガスケット1は、同心円状の鋸歯形の凹凸部1aおよび当該凹凸部1aと一体となって形成されている平板状の鍔部2を有し、その平面形状は、円盤状である。
【0019】
鋸歯形メタルガスケット1の材質は、当該鋸歯形メタルガスケット1の用途によって異なるため一概には決定することができないことから、当該用途に応じて適宜決定することが好ましい。鋸歯形メタルガスケット1の材質は、鋸歯形メタルガスケット1によるシール性を確保する観点から、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、インコネル、炭素鋼、鉛、金、銀、銅、ニッケル、タンタル、クロムモリブデン鋼、モネル、チタンおよびマグネシウム合金からなる群より選ばれた金属であることが好ましく、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼およびインコネルからなる群より選ばれた金属であることがより好ましく、アルミニウムまたはステンレス鋼であることがさらに好ましい。
【0020】
アルミニウム合金としては、例えば、アルミニウム-鉄合金、アルミニウム-銅合金、アルミニウム-マンガン合金、アルミニウム-マグネシウム合金、アルミニウム-亜鉛合金、アルミニウム-ニッケル合金などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0021】
ステンレス鋼としては、例えば、SUS304、SUS316、SUS430、SUS630、SUS631、SUS633、SUS420J2などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0022】
また、マグネシウム合金に使用されるマグネシウム以外の金属としては、例えば、リチウム、カルシウム、アルミニウム、亜鉛、チタン、マンガン、ジルコニウム、イットリウム、タンタル、ネオジウム、ニオブなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0023】
図1に示される鋸歯形メタルガスケット1の概略平面図において、当該鋸歯形メタルガスケット1の外径および中心部の開口部の内径は、鋸歯形メタルガスケット1の用途などによって異なるので一概には決定することができないことから鋸歯形メタルガスケット1の用途に応じて適宜決定することが好ましい。図2に示される鋸歯形メタルガスケットの概略断面図において、当該鋸歯形メタルガスケット1の厚さt(鍔部の厚さ)は、鋸歯形メタルガスケット1の用途などによって異なるので一概には決定することができないことから鋸歯形メタルガスケット1の用途に応じて適宜決定することが好ましいが、通常、1.5~15mm程度である。
【0024】
図1に示される鋸歯形メタルガスケット1の平面形状は、円形状である。円形状は、真円のみならず、縦長の楕円形状、横長の楕円形状およびトラック楕円形状を含む概念のものである。鋸歯形メタルガスケット1の平面形状は、鋸歯形メタルガスケット1の用途に応じて適宜決定することができる。
【0025】
鋸歯形メタルガスケット1の両面には、図2に示されるように、それぞれ同心円状の鋸歯形の凹凸部1a,1bが形成されている。鋸歯形の凹凸部1a,1bは、それぞれ鋸歯形メタルガスケット1の直径方向に同心円状に複数設けられている。
【0026】
図3に示されるように、図2に示される鋸歯形メタルガスケット1の上面には鋸歯形の凹凸部1aが形成されている。鋸歯形の凹凸部1aを構成している凸部3の頂上部Tには、鋸歯形メタルガスケット1の直径方向において平坦部Lが形成されている。したがって、凸部3は、図3に示されるように、台形状の断面形状を有する。平坦部Lは、鋸歯形メタルガスケット1の直径に対して平行方向に形成されている平面であるが、本発明の目的が阻害されない範囲内で鋸歯形メタルガスケット1の直径に対して平行方向に形成されているのではなく、傾斜(テーパ)を有していてもよい。図2に示される鋸歯形メタルガスケット1の下面に形成されている鋸歯形の凹凸部1bの形状は、その上面に形成されている鋸歯形の凹凸部1aの形状と同様であることが好ましい。
【0027】
図3において、凸部3の頂上部Tに形成されている平坦部Lの幅W(鋸歯形メタルガスケット1の直径方向における幅)は、例えば、鋸歯形メタルガスケット1の鋸歯形の凹凸部1a,1b上に弾性シート(図示せず)が貼付されているカンプロファイルガスケットを2つのフランジ間に挟んで締め付けるときの締付け圧力にもよるが、凸部3の頂上部Tに形成されている平坦部Lで当該弾性シートが破断することを防止するとともに鋸歯形メタルガスケット1によるシール性を向上させる観点から、50~180μm、好ましくは60~150μm、より好ましくは80~120μmである。図2に示される鋸歯形メタルガスケット1の下面に形成されている鋸歯形の凹凸部1bの頂上部に形成されている平坦部Lの幅(図示せず)は、前記幅Wと同様であることが好ましい。
【0028】
図3において、鋸歯形メタルガスケット1の鋸歯形の凹凸部1aを構成している凸部3のピッチPは、凸部3の頂上部Tに形成されている平坦部Lの中心と当該凸部3に隣接している他の凸部3の頂上部Tに形成されている平坦部Lの中心との間隔である。凸部3と当該凸部3に隣接している他の凸部3とのピッチPは、複数個の凹凸部1aにおいて通常、それぞれ一定であるが、本発明の目的を阻害しない範囲内で一定でない箇所が存在していてもよい。ピッチPは、鋸歯形メタルガスケット1によるシール性を向上させる観点から、1.2~1.8mmである。図2に示される鋸歯形メタルガスケット1の下面に形成されている鋸歯形の凹凸部1bを構成している凸部3のピッチ(図示せず)は、前記ピッチPと同様であることが好ましい。
【0029】
図3において、鋸歯形メタルガスケット1の鋸歯形の凹凸部1aを構成している凸部3の深さDは、鋸歯形メタルガスケット1の鋸歯形の凹凸部1aを構成している凹部4の最も深い位置(最底部)Bから凸部3の頂上部Tまでの高さである。深さDは、鋸歯形メタルガスケット1によるシール性を向上させる観点から、0.3~0.8mm、好ましくは0.4~0.75mmである。図2に示される鋸歯形メタルガスケット1の下面に形成されている凸部の深さ(図示せず)は、前記深さDと同様であることが好ましい。
【0030】
図3において、鋸歯形メタルガスケット1の鋸歯形の凹凸部1aを構成している凹部4の最底部Bには、鋸歯形メタルガスケット1の直径方向において円弧が形成されている。したがって、凹部4は、最底部Bに円弧を有する逆台形に近似した断面形状を有する。円弧の半径は、鋸歯形メタルガスケット1によるシール性を向上させる観点から、0.2~0.6mm、好ましくは0.3~0.5mmである。図2に示される鋸歯形メタルガスケット1の鋸歯形の凹凸部1bを構成している凹部の最底部(図示せず)の形状は、前記凹部4の最底部Bの形状と同様であることが好ましい。
【0031】
図3において、鋸歯形の凹凸部1aを構成している凹部4の断面における溝面積は、鋸歯形メタルガスケット1によるシール性を向上させる観点から、0.25~0.80mm2であることが好ましく、0.28~0.72mm2であることがより好ましい。前記溝面積は、図3において、凸部3の頂上部Tに形成されている平坦部Lと当該凸部3に隣接している他の凸部3の頂上部Tに形成されている平坦部Lを結ぶ直線と凹部4とによって囲まれている空間部分の断面積である。鋸歯形の凹凸部1a,1bを構成している凹部4の断面における溝面積は、前記空間部分の溝形状を有する試験片を作製し、当該試験片の質量および密度に基づいて当該試験片の体積を求め、当該試験片の体積を当該試験片の厚さで除することによって求められたときの値である。図2に示される鋸歯形メタルガスケット1の鋸歯形の凹凸部1bを構成している凹部(図示せず)の断面における溝面積は、前記凹部4の断面における溝面積と同様であることが好ましい。
【0032】
図3において、鋸歯形の凹凸部1aを構成している凹部4に隣接している傾斜面がなす角度θは、特に限定されないが、鋸歯形メタルガスケット1によるシール性を向上させる観点から、好ましくは60~120°、より好ましくは80~100°、さらに好ましくは85~95°である。図2に示される鋸歯形メタルガスケット1の鋸歯形の凹凸部1bを構成している凹部に隣接している傾斜面がなす角度(図示せず)は、前記角度θと同様であることが好ましい。
【0033】
図3において、鋸歯形の凹凸部1aに形成されている凸部3は、鋸歯形メタルガスケット1によるシール性を高めるために平板状の鍔部2から高さHだけ突出している。凸部3の平板状の鍔部2からの高さHは、鋸歯形メタルガスケット1によるシール性を向上させる観点から、好ましくは0.3~0.8mm、より好ましくは0.4~0.75mmである。図2に示される鋸歯形メタルガスケット1の鋸歯形の凸部の平板状の鍔部2からの高さ(図示せず)は、前記高さHと同様であることが好ましい。
【0034】
図3において、鋸歯形の凹凸部1aに形成されている凸部3の数は、鋸歯形メタルガスケット1の用途によって異なることから一概には決定することができないが、鋸歯形メタルガスケット1によるシール性を向上させる観点から、少なくとも3個であることが好ましく、少なくとも5個であることがより好ましい。また、凸部3の数の上限値は、鋸歯形メタルガスケット1の用途によって異なるので一概には決定することができないが、通常、10個程度である。図2に示される鋸歯形メタルガスケット1の鋸歯形の凹凸部1bに形成されている凸部の数は、前記凸部3の数と同様であることが好ましい。
【0035】
図2に示される鋸歯形メタルガスケット1の鋸歯形の凹凸部1a,1bは、例えば、旋盤などを用いてメタルガスケットに切削加工を施すことによって形成させることができる。
【0036】
以上のようにして得られる鋸歯形メタルガスケット1は、カンプロファイルガスケットに用いたとき、フランジなどとのシール性を向上させることができるので、当該カンプロファイルガスケットに好適に使用することができる。
【0037】
以下に、本発明のカンプロファイルガスケットを図面に基づいて詳細に説明するが、本発明は、当該図面に記載の実施態様のみに限定されるものではない。
【0038】
図4は、本発明のカンプロファイルガスケットの一実施態様を示す概略平面図である。図5は、図4に示されるカンプロファイルガスケットのB-B部における概略断面図である。
【0039】
本発明のカンプロファイルガスケット5は、図4に示されるように、鋸歯形メタルガスケット1を有し、鋸歯形メタルガスケット1の両面に形成されている鋸歯形の凹凸部(図示せず)に弾性シート6が貼付されていることを特徴とする。
【0040】
カンプロファイルガスケット5は、前記構成を有することから、例えば、カンプロファイルガスケット5を2つのフランジ間に挟んで締め付けたとき、図2および図3に示される鋸歯形メタルガスケット1の両面に形成されている鋸歯形の凹凸部1a,1bを構成している凹部4に弾性シート6の一部が入り、凸部3の頂上部Tに形成されている平坦部Lに存在している弾性シート6における面圧が高くなることから、シール性が高められる。
【0041】
弾性シート6は、弾性シート6のシール性および機械的強度を向上させる観点から、有機バインダーおよび無機粉体を含有する弾性シート6であることが好ましい。
【0042】
有機バインダーは、弾性シート6のシール性および機械的強度を向上させる観点から、ゴムバインダーであることが好ましい。ゴムバインダーとしては、例えば、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリルゴム、スチレン-ブタジエンゴム、ブチルゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、エチレン-プロピレンゴムなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのゴムバインダーは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0043】
弾性シート6における有機バインダーの含有率は、弾性シート6によるシール性を向上させる観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上、さらに一層好ましくは20質量%以上であり、弾性シート6の耐熱性を向上させる観点から、好ましくは97質量%以下、より好ましくは95質量%以下、さらに好ましくは90質量%以下である。したがって、弾性シート6における有機バインダーの含有率は、好ましくは5~97質量%、より好ましくは10~95質量%、さらに好ましくは15~90質量%、さらに一層好ましくは20~90質量%である。
【0044】
無機粉体は、弾性シート6の可撓性および高温時における弾性シート6の形状保持性を高める性質を有する。無機粉体は、弾性シート6が高温に加熱された場合であっても消失しがたく残存するので、本発明のカンプロファイルガスケット5のシール性を高めることができる。
【0045】
無機粉体としては、例えば、タルク、硫酸バリウム粉、クレー、マイカ粉、酸化チタン粉、酸化アルミニウム粉、酸化亜鉛粉、酸化マグネシウム粉、ケイ酸粉、シリカ粉、炭酸カルシウム粉、炭酸ナトリウム粉、水酸化カルシウム粉、水酸化アルミニウム粉、炭酸マグネシウム粉、グラファイト粉、金属粉、ガラス粉などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの無機粉体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0046】
無機粉体の平均粒径は、弾性シート6の形状維持性を高める観点から、2μm以上であることが好ましく、シール性を向上させる観点から、25μm以下であることが好ましい。なお、無機粉体の粒径は、レーザー回折式粒子径分布測定装置を用いて測定したときの値であり、無機粉体の平均粒径は、当該レーザー回折式粒子径分布測定装置で測定された粒度分布において、無機粉体の粒子の累積個数が50%であるときの粒径の値(メジアン径)である。
【0047】
弾性シート6における無機粉体の含有率は、弾性シート6の耐熱性を向上させる観点から、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上であり、弾性シート6によるシール性を向上させる観点から、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、さらに好ましくは85質量%以下、さらに一層好ましくは80質量%以下である。したがって、弾性シート6における無機粉体の含有率は、好ましくは3~95質量%、より好ましくは5~90質量%、さらに好ましくは10~85質量%、さらに一層好ましくは10~50質量%である。
【0048】
弾性シート6には、弾性シート6の機械的強度および柔軟性を高める観点から、繊維が含まれていてもよい。繊維としては、無機繊維および有機繊維が挙げられる。
【0049】
無機繊維としては、例えば、アルミナ繊維、ガラス繊維、ジルコニア繊維、ロックウール、バサルト繊維、生体溶解性繊維、シリカ繊維、セラミック繊維などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの無機繊維は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0050】
有機繊維としては、例えば、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、ポリウレタン繊維、ポリエチレン繊維、アクリル繊維、ポリビニルアルコール繊維などの合成繊維;綿、麻、セルロースファイバーなどの植物性繊維;ウールなどの動物繊維;炭素繊維;レーヨンなどの再生繊維などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの有機繊維は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0051】
繊維の平均繊維径は、弾性シート6の機械的強度を向上させる観点から、3~20μmであることが好ましい。繊維の繊維長は、弾性シート6における分散性を高めるとともに弾性シート6の機械的強度を向上させる観点から、0.01mm以上であることが好ましく、0.1~20mmであることがより好ましい。なお、繊維の平均繊維径は、走査型電子顕微鏡を用いて撮影された画像に含まれている繊維の繊維径を測定し、その繊維の繊維径の平均値を求めたときの値である。
【0052】
弾性シート6における繊維の含有率は、弾性シート6の機械的強度を向上させる観点から、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上であり、弾性シート6によるシール性を向上させる観点から、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。したがって、弾性シート6における繊維の含有率は、好ましくは30質量%以下、より好ましくは3~30質量%、さらに好ましくは5~20質量%、さらに一層好ましくは5~10質量%である。
【0053】
弾性シート6の製造方法には特に限定がない。弾性シート6は、例えば、有機バインダー、無機粉体、必要により繊維、有機溶媒などの成分を均一な組成となるように混合し、得られた混合物を所定形状となるように成形することによって製造することができる。
【0054】
弾性シート6の密度は、シール性および機械的強度を向上させる観点から、0.8~1.2g/cm3であることが好ましく、0.9~1.1g/cm3であることがより好ましい。
【0055】
弾性シート6の厚さは、カンプロファイルガスケット5を2つのフランジ間に挟んで締め付けたときの締付け圧力にもよるが、凸部3の頂上部Tに形成されている平坦部Lで弾性シート6が破断することを防止するとともにシール性を向上させる観点から、好ましくは0.6~1.5mm、より好ましくは0.8~1.2mmである。
【0056】
弾性シート6は、通常、鋸歯形メタルガスケット1の両面に形成されている鋸歯形の凹凸部1a,1bが覆われるように鋸歯形メタルガスケット1の両面に貼付される。弾性シート6の貼付は、例えば、接着剤、両面粘着テープなどを用いて行なうことができる。接着剤としては、例えば、ゴム系接着剤などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0057】
以上のようにして構成される本発明のカンプロファイルガスケット5を2つのフランジ間に挟み、カンプロファイルガスケット5の締付時の面圧が80MPa以上の高圧力となるように調整した場合であっても、当該カンプロファイルガスケット5に用いられている鋸歯形メタルガスケット1の両面に形成されている凸部3の頂上部Tに形成されている平坦部Lに弾性シート6を薄層状態で存在させることができる。例えば、厚さが0.6~1.5mm程度の弾性シート6を用いた場合、カンプロファイルガスケット5を2つのフランジ間に挟み、カンプロファイルガスケット5の締付時の面圧が80MPa以上となるようにカンプロファイルガスケット5を締付けたとき、凸部3の頂上部Tに形成されている平坦部Lに存在している弾性シート6の厚さは、0.05~0.1mm程度の薄層となり、当該弾性シート6の薄層を透過する流体の量が非常に少なくなることから、シール性を高めることができる。
【0058】
また、一般にカンプロファイルガスケットに使用される耐熱性弾性シートには、耐熱性を付与するために、例えば、タルクなどの無機充填材を多量に含有させて使用されている。当該耐熱性弾性シートにおける無機充填材の含有率が高い場合には、当該無機充填材を含有していない弾性シートと対比して、当該耐熱性弾性シートを透過する流体の量が多くなるため、ガスケットの締付時の面圧を高くする必要がある。
【0059】
これに対して、本発明のカンプロファイルガスケット5を2つのフランジ間に挟み、カンプロファイルガスケット5の締付時の面圧を80MPa以上の高圧に調整した場合、当該カンプロファイルガスケット5に用いられている鋸歯形メタルガスケット1の両面に形成されている凸部3の頂上部Tに形成されている平坦部Lに弾性シート6が薄層状態で残存することから、鋸歯形メタルガスケットが弾性シート6によって露出しがたいため、鋸歯形メタルガスケット1の露出によるフランジの傷つきを防止することができる。
【0060】
したがって、本発明のカンプロファイルガスケット5を配管のフランジ間に装着し、フランジの締付時にカンプロファイルガスケット5のフランジと接する面における面圧が80MPa以上となるように締め付けたときであっても、鋸歯形ガスケット1の凸部3とフランジとの間でのシール性を十分に確保することができるので、本発明のカンプロファイルガスケット5は、当該面圧における耐久性に優れている。このことから、本発明のカンプロファイルガスケット5は、高温および高圧を有する流体を使用する用途に適していることから、例えば、高温および高圧を有する水蒸気などの流体が使用される管フランジ、塔、槽、熱交換器、オートクレーブ、バルブのボンネット、メタルシール機構などに用いられる高温・高圧用カンプロファイルガスケットとして好適に用いることができる。
【0061】
以上のことから、本発明の鋸歯形メタルガスケット1が用いられているカンプロファイルガスケット5は、例えば、火力発電所、原子力発電所、スチームタービン船の蒸気機関、石油精製ライン、石油化学工業のプロセスライン、半導体製造ラインなどにおいて高温および高圧を有する流体が使用される配管同士を接続する際に好適に使用することができる。
【実施例
【0062】
次に、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0063】
実施例1~14および比較例1~6
ステンレス鋼(SUS316)製のメタルガスケット(外径:110mm、中心部の開口部の内径:75mm)に旋盤で切削加工を施すことにより、図1~3に示される形状を有する鋸歯形メタルガスケット1(同心円状の鋸歯形の凹凸部の外径:90mm、内径:75mm、鍔部の厚さ:2mm、凹部の隣接している傾斜面がなす角度:90°)を作製した。鋸歯形メタルガスケット1に形成されている凹凸部の詳細を表1に示す。
【0064】
前記で得られた鋸歯形メタルガスケット1の両面に形成されている同心円状の鋸歯形の凹凸部の表面に環状の弾性シート6〔外径:90mm、中心部の開口部の内径:75mm、厚さ:0.9mm、材質:有機バインダー(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)、無機粉体(タルク)および繊維(アルミナ繊維およびセルロース繊維)、密度:1g/cm3〕を接着剤(スチレン-ブタジエンゴム系接着剤)で貼付することにより、カンプロファイルガスケット5を作製した。なお、実施例13では弾性シート6の厚さを0.8mmに変更し、実施例14では弾性シート6の厚さを1.2mmに変更した。
【0065】
次に、前記で得られたカンプロファイルガスケット5を用いて高面圧締付け時のシール性、耐久性の指標として鋸歯形の凹凸部に形成されている凸部における弾性シート6の付着状況および弾性シート6の厚さを以下の方法に基づいて調べて評価した。その結果を表1に示す。
【0066】
〔高面圧締付け時のシール性〕
配管のフランジ間にカンプロファイルガスケット5を挟み、締付面圧を100MPaに調整してフランジを締め付けた。
【0067】
次に、配管内に25℃の窒素ガスを導入し、配管の内圧が4MPaとなるように調整し、水没試験法にて窒素ガスの漏れ量を測定し、以下の評価基準に基づいて高面圧締付け時のシール性を評価した。その結果を表1の「シール性」の欄に記載する。なお、窒素ガスの漏れ量を測定するときの測定限界は、1.7×10-5Pa・m3/sである。
【0068】
(評価基準)
S:窒素ガスの漏れ量が1.7×10-5Pa・m3/s以下である(合格)。
◎:窒素ガスの漏れ量が1.7×10-5Pa・m3/sを超え、1.7×10-4Pa・m3/s以下である(合格)。
○:窒素ガスの漏れ量が1.7×10-4Pa・m3/sを超え、1.7×10-3Pa・m3/s以下である(合格)。
△:窒素ガスの漏れ量が1.7×10-3Pa・m3/sを超え、1.7×10-2Pa・m3/s以下である(不合格)。
×:窒素ガスの漏れ量が1.7×10-2Pa・m3/sを超える(不合格)。
【0069】
〔凸部における弾性シートの付着状況〕
前記で高面圧締付け時のシール性を評価した後、カンプロファイルガスケット5をフランジから取り外した。
【0070】
前記カンプロファイルガスケットに付着されている弾性シートを目視にて観察し、以下の評価基準に基づいて凸部における弾性シートの付着状況を評価した。その結果を表1の「弾性シートの付着状況」の欄に記載する。
【0071】
(評価基準)
○:弾性シートに異状が認められない。
×:弾性シートに破れが認められる。
【0072】
〔凸部における弾性シートの厚さ〕
前記凸部における弾性シートの付着状況で得られた凸部に付着されている弾性シートの厚さをマイクロメーターによって測定し、以下の評価基準に基づいて凸部における弾性シートの厚さを評価した。その結果を表1の「弾性シートの厚さ」の欄に記載する。
【0073】
(評価基準)
◎:凸部に付着されている弾性シートの厚さが150μm以下である(合格)。
○:凸部に付着されている弾性シートの厚さが150μmを超え、200μm以下である(合格)。
×:凸部に付着されている弾性シートの厚さが200μmを超える(不合格)。
【0074】
【表1】
【0075】
表1に示された結果から、各比較例で得られた鋸歯形メタルガスケット1およびカンプロファイルガスケットは、いずれも耐久性およびシール性の少なくともいずれかの物性に劣っているのに対し、各実施例で得られた鋸歯形メタルガスケット1およびカンプロファイルガスケット5は、いずれもシール性に優れているのみならず、面圧が100MPaであっても弾性シートに異状が認められないことから耐久性にも優れていることがわかる。
【符号の説明】
【0076】
1 鋸歯形メタルガスケット
1a 凹凸部
1b 凹凸部
2 鍔部
3 凸部
4 凹部
5 カンプロファイルガスケット
6 弾性シート
B 凹部の最底部
D 凹部の深さ
L 凸部の頂上部の平坦部
T 凸部の頂上部
図1
図2
図3
図4
図5