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特許7328388サンドブラスト加工用治具及びサンドブラスト加工対象物の固定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】サンドブラスト加工用治具及びサンドブラスト加工対象物の固定方法
(51)【国際特許分類】
   B24C 9/00 20060101AFI20230808BHJP
   B24C 1/04 20060101ALI20230808BHJP
   B23Q 3/152 20060101ALI20230808BHJP
   H01L 23/50 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
B24C9/00 J
B24C1/04 F
B23Q3/152 A
H01L23/50 J
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022036703
(22)【出願日】2022-03-09
【審査請求日】2022-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】593215380
【氏名又は名称】株式会社伸光製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001405
【氏名又は名称】弁理士法人篠原国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100065824
【弁理士】
【氏名又は名称】篠原 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100104983
【弁理士】
【氏名又は名称】藤中 雅之
(74)【代理人】
【識別番号】100166394
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 和弘
(72)【発明者】
【氏名】新井 剛彦
【審査官】マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-094762(JP,A)
【文献】特開平08-132346(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24C 9/00
B24C 1/04
B23Q 3/152
H01L 23/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンドブラスト加工対象物となる薄板材料よりも大きな外形を有し、かつ、該薄板材料よりも小さな第1矩形領域に、該第1矩形領域を形成する辺が最も外側に位置する開口辺となるように形成された第1開口部を有する鉄製の上治具と、前記上治具と略同じ大きさの外形を有する鉄製の下治具とを備え、前記上治具と前記下治具とで前記薄板材料を挟むことにより、該薄板材料を固定するサンドブラスト加工用治具であって、
前記下治具は、前記第1矩形領域と同じ大きさ及び形状の第2矩形領域に、該第2矩形領域を形成する辺が最も外側に位置する開口辺となるように形成された、第2開口部を有し、前記下治具における前記上治具側の面には、所定幅を有する閉じたロの字状に固定された磁石を備え
前記所定幅を有する閉じたロの字状に固定された磁石の内側の辺の位置が、前記第1及び第2矩形領域を形成する辺と一致し、
前記所定幅を有する閉じたロの字状に固定された磁石が、100gf/cm 以上の吸着力を有する4枚の細長板状の異方性磁石からなることを特徴とするサンドブラスト加工用治具。
【請求項2】
前記上治具は、前記第1矩形領域の外側四隅に、位置決め孔を有し、
前記下治具は、前記第2矩形領域の外側四隅に、前記上治具の前記位置決め孔に挿入可能な位置決めピンを有し、
前記所定幅を有する閉じたロの字状に固定された磁石は、前記位置決めピンを貫通させることが可能な貫通孔を有していることを特徴とする請求項1に記載のサンドブラスト加工用治具。
【請求項3】
前記上治具は、前記下治具の外側の辺縁よりも外側に突出した取手部を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載のサンドブラスト加工用治具。
【請求項4】
前記下治具は、前記所定幅を有する閉じたロの字状に固定された磁石の上に、サンドブラスト加工用研削材が通過可能な無数の空隙部を有する薄板材料支持部材を備えていることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載のサンドブラスト加工用治具。
【請求項5】
サンドブラスト加工対象物となる矩形の薄板材料よりも大きな外形を有し、かつ、該薄板材料よりも小さな第1矩形領域に、該第1矩形領域を形成する辺が最も外側に位置する開口辺となるように形成された第1開口部を有する鉄製の上治具と、前記上治具と略同じ大きさの外形を有し、かつ、前記第1矩形領域と同じ大きさ及び形状の第2矩形領域に、該第2矩形領域を形成する辺が最も外側に位置する開口辺となるように形成された、第2開口部を有する鉄製の下治具とを備え、前記下治具における前記上治具側には、所定幅を有する閉じたロの字状に固定された磁石と前記第2矩形領域の外側四隅に位置決めピンとを備え、前記上治具には、前記第1矩形領域の外側四隅に位置決め孔を有し、前記所定幅を有する閉じたロの字状に固定された磁石の内側の辺の位置が、前記第1及び第2矩形領域を形成する辺と一致し、前記所定幅を有する閉じたロの字状に固定された磁石が、100gf/cm 以上の吸着力を有する4枚の細長板状の異方性磁石からなり、前記上治具と前記下治具が夫々互いの治具の外側の辺よりも外側に突出した取手部を備えたサンドブラスト加工用治具を準備し、
前記薄板材料における前記位置決めピンに対応した位置に形成された貫通孔に前記位置決めピンを挿し込んで貫通させ、該位置決めピンを前記位置決め孔に挿入して前記薄板材料を位置決めし、前記下治具と前記上治具により前記薄板材料を挟み、前記磁石に前記上治具を吸着させることにより、該薄板材料を固定することを特徴とするサンドブラスト加工対象物の固定方法。
【請求項6】
前記薄板材料は、プリント基板用の材料であることを特徴とする請求項に記載のサンドブラスト加工対象物の固定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンドブラスト加工対象物となる矩形の薄板材料を固定するサンドブラスト加工用治具及びサンドブラスト加工対象物の固定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
矩形の薄板材料にサンドブラスト加工を行う場合、治具に固定した薄板材料をサンドブラスト装置の搬送部に設置し、所定の加工条件により連続的に研削材を吹き付け、薄板材料の所定部位を研削して所望の形状を形成する。
従来、サンドブラスト加工対象物の治具への固定手段としては、例えば、特許文献1に示すようにテープを用いたものがある。
特許文献1には、ワークセット治具にリードフレームをテープ止めにより固定し、リードフレームに付着した加工油を洗浄し、サンドブラスト加工によりバリを除去し、リード間に挟まったガラスビーズ等を除去する等の作業工程が開示されている。
【0003】
しかし、サンドブラスト加工対象物の治具への固定手段として、テープを用いる方法は、例えば薄板材料としてプリント基板の4辺をテープにより治具へ固定する場合、テープを貼り付ける前に、以前の加工により治具に付着している研削材を取り除き、治具に貼り付けたテープの剥がれが生じないように注意する必要がある。また、テープのプリント基板及び治具への貼り付けに際しては、テープに気泡が残らないようにして貼り付け、テープを剥がす際にはプリント基板の端部を破損しないように注意する必要があるなど、作業時間がかかり過ぎる。
【0004】
また、サンドブラスト加工対象物の治具への他の固定手段としては、例えば、特許文献2に示すように磁石を用いたものがある。
特許文献2では、ある程度の厚みのある板状のワーク(加工対象物)を支持するベッドと、ベッド上に設けられた着脱自在な磁性体からなる平板状のアタッチメントと、アタッチメント上に設置されワークを側面から押さえるバー状の永久磁石等からなる治具で、ワークを磁力により固定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平09-094762号公報
【文献】特開平08-132346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、サンドブラスト加工対象物がある程度の厚みのある板状材料であれば、特許文献2に開示の技術を用いて、加工対象物を側面から押さえて固定することができるが、加工対象物が薄板材料の場合、側面の面積が極めて小さいため、側面から押さえて固定することが難しい。
また、特許文献2に開示の技術は、ある程度の厚みのある加工対象物へのサンドブラスト加工には適しているが、薄板材料へのサンドブラスト加工には適さない。しかも、特許文献2に開示のものは磁石の露出面積が大きく、サンドブラスト加工時に研削材により磁石が削られ易い。
【0007】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、サンドブラスト加工工程において薄板材料を治具に固定するためのテープの貼付け作業と剥がし作業を不要にして、薄板材料を治具へ固定する前作業と後作業を作業時間を短縮して容易化でき、かつ、治具に固定するために使用する磁石の削れ度合を大幅に抑制して耐久性を向上させながら、薄板材料を損傷なく良好にサンドブラスト加工可能なサンドブラスト加工用治具及びサンドブラスト加工対象物の固定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明によるサンドブラスト加工用治具は、サンドブラスト加工対象物となる薄板材料よりも大きな外形を有し、かつ、該薄板材料よりも小さな第1矩形領域に、該第1矩形領域を形成する辺が最も外側に位置する開口辺となるように形成された第1開口部を有する鉄製の上治具と、前記上治具と略同じ大きさの外形を有する鉄製の下治具とを備え、前記上治具と前記下治具とで前記薄板材料を挟むことにより、該薄板材料を固定するサンドブラスト加工用治具であって、前記下治具は、前記第1矩形領域と同じ大きさ及び形状の第2矩形領域に、該第2矩形領域を形成する辺が最も外側に位置する開口辺となるように形成された、第2開口部を有し、前記下治具における前記上治具側の面には、所定幅を有する閉じたロの字状に固定された磁石を備え、前記所定幅を有する閉じたロの字状に固定された磁石の内側の辺の位置が、前記第1及び第2矩形領域を形成する辺と一致し、前記所定幅を有する閉じたロの字状に固定された磁石が、100gf/cm 以上の吸着力を有する4枚の細長板状の異方性磁石からなることを特徴としている。
【0011】
また、本発明のサンドブラスト加工用治具においては、前記上治具は、前記第1矩形領域の外側四隅に、位置決め孔を有し、前記下治具は、前記第2矩形領域の外側四隅に、前記上治具の前記位置決め孔に挿入可能な位置決めピンを有し、前記所定幅を有する閉じたロの字状に固定された磁石は、前記位置決めピンを貫通させることが可能な貫通孔を有しているのが好ましい。
【0012】
また、本発明のサンドブラスト加工用治具においては、前記上治具と前記下治具は、夫々互いの治具の外側の辺縁よりも外側に突出した取手部を備えているのが好ましい。
【0013】
また、本発明のサンドブラスト加工用治具においては、前記下治具は、前記所定幅を有する閉じたロの字状に固定された磁石の上に、サンドブラスト加工用研削材が通過可能な無数の空隙部を有する、薄板材料支持部材を備えているのが好ましい。
【0014】
また、本発明によるサンドブラスト加工対象物の固定方法は、サンドブラスト加工対象物となる矩形の薄板材料よりも大きな外形を有し、かつ、該薄板材料よりも小さな第1矩形領域に、該第1矩形領域を形成する辺が最も外側に位置する開口辺となるように形成された第1開口部を有する鉄製の上治具と、前記上治具と略同じ大きさの外形を有し、かつ、前記第1矩形領域と同じ大きさ及び形状の第2矩形領域に、該第2矩形領域を形成する辺が最も外側に位置する開口辺となるように形成された、第2開口部を有する鉄製の下治具とを備え、前記下治具における前記上治具側には、所定幅を有する閉じたロの字状に固定された磁石と前記第2矩形領域の外側四隅に位置決めピンとを備え、前記上治具には、前記第1矩形領域の外側四隅に位置決め孔を有し、前記所定幅を有する閉じたロの字状に固定された磁石の内側の辺の位置が、前記第1及び第2矩形領域を形成する辺と一致し、前記所定幅を有する閉じたロの字状に固定された磁石が、100gf/cm 以上の吸着力を有する4枚の細長板状の異方性磁石からなり、前記上治具と前記下治具が夫々互いの治具の外側の辺よりも外側に突出した取手部を備えたサンドブラスト加工用治具を準備し、前記薄板材料における前記位置決めピンに対応した位置に形成された貫通孔に前記位置決めピンを挿し込んで貫通させ、該位置決めピンを前記位置決め孔に挿入して前記薄板材料を位置決めし、前記下治具と前記上治具により前記薄板材料を挟み、前記磁石に前記上治具を吸着させることにより、該薄板材料を固定することを特徴としている。
【0015】
また、本発明のサンドブラスト加工対象物の固定方法においては、前記薄板材料は、プリント基板用の材料であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、サンドブラスト加工工程において薄板材料を治具に固定するためのテープの貼付け作業と剥がし作業を不要にして、薄板材料を治具へ固定する前作業と後作業を作業時間を短縮して容易化でき、かつ、治具に固定するために使用する磁石の削れ度合を大幅に抑制して耐久性を向上させながら、薄板材料を損傷なく良好にサンドブラスト加工可能なサンドブラスト加工用治具及びサンドブラスト加工対象物の固定方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1実施形態に係るサンドブラスト加工用治具に薄板材料をセットするときの態様を概略的に示す概略断面図である。
図2図1のサンドブラスト加工用治具に備わる上治具の概略上面図である。
図3図1のサンドブラスト加工用治具に備わる下治具の概略上面図である。
図4図1のサンドブラスト加工用治具に備わる所定幅を有する閉じたロの字状に固定された磁石の構成を示す説明図で、(a)は全体を示す上面図、(b)はロの字状を形成する一方の平板状磁石の上面図、(c)は(b)の側面図、(d)はロの字状を形成する他方の平板状磁石の上面図、(e)は(d)の側面図である。
図5】第1実施形態に係るサンドブラスト加工用治具を用いた、サンドブラスト加工における薄板材料の固定及び取り外しの作業手順の流れを示す説明図である。
図6】第1実施形態に係るサンドブラスト加工用治具に備わる上治具及び下治具の取手部の変形例を示す説明図で、(a)は上治具の取手部を示す上面図、(b)は下治具の取手部を示す上面図、(c)は上治具と下治具とを重ね合わるときの態様を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
実施形態の説明に先立ち、本発明を導出するに至った経緯及び本発明の作用効果について説明する。
従来、矩形の薄板材料にサンドブラスト加工を行う場合、薄板材料の4辺を下治具に跨るようにテープを貼り付けて、薄板材料を下治具に固定していた。
しかし、上述のとおり、サンドブラスト加工対象物の治具への固定手段として、テープを用いる方法は、テープを貼り付ける前に、以前の加工により下治具に付着している研削材を取り除き、下治具に貼り付けたテープの剥がれが生じないように注意する必要や、テープの貼り付けに際しては、テープに気泡が残らないようにしてテープを治具に貼り付け、テープを剥がす際にはプリント基板の端部を破損しないように注意する必要があるなど、薄板材料を治具に固定するための前作業と後作業の負担が増大し、時間がかかり過ぎるという問題があった。
【0019】
しかるに、特許文献2には、サンドブラスト加工対象物の治具への他の固定手段として、磁石を用いてワーク(加工対象物)を側面から押さえる技術が開示されている。
また、従来、テープを用いて薄板材料を固定していた治具は、上治具、下治具ともに鉄製であった。
そこで、本件発明者は、サンドブラスト加工対象物となる薄板材料を治具に固定するための手段として磁石を用いることの適否について、特許文献2に記載の技術を参照し、考察・検討した。
【0020】
しかるに、特許文献2に開示された技術は、加工対象物がある程度の厚みを有しているとともに、加工対象物を搭載するアタッチメントが平板状となっており、また、アタッチメントと加工対象物との間にプレートを介在させている。また、磁石で厚みを有する加工対象物を側面から押さえて固定しており、治具で加工対象物を挟んで固定する構成にはなっていない。さらには、加工対象物を側面から押さえる磁石は、外側の面が露出している。
このような構成は、ある程度の厚みのある材料に対するサンドブラスト加工には適しているが、薄板材料に対するサンドブラスト加工には適さない。
即ち、加工対象物を搭載するアタッチメントが平板状となっている構成では、加工対象物として薄板材料を用いて研削加工をした場合、ノズルより薄板材料に噴射され、薄板材料の被加工部位を研削した研削材の逃げ場がなく、研削材がアタッチメントの底面またはアタッチメントと薄板材料との間に介在するプレートに衝突するため、アタッチメントまたはプレートの底面が削られ易い。また、アタッチメントまたはプレートの底面に衝突し、反射した研削材が薄板材料の裏側に衝突して、薄板材料を損傷させてしまい易い。
また、特許文献2に開示された技術のように磁石の露出面積が大きいと、サンドブラスト加工により磁石が削られ易い。
しかも、サンドブラスト加工対象物となる薄板材料は、側面部分の面積が極めて小さい。このため、特許文献2に開示の技術のように磁石で薄板材料を側面から押さえることによって固定することが難しい。
【0021】
そこで、本件発明者は、サンドブラスト加工対象物となる薄板材料を治具に固定するための手段として磁石を用いることに関し、特許文献2に開示の技術とは別の方策について考察・検討し、試行錯誤を重ねた。
まず、本件発明者は、4つの等方性磁石を、下治具の上における、開口の周囲に配置して、固定し、その上に薄板材料を載せ、上治具に対する下治具に固定した磁石の吸着力によって薄板材料を固定することを着想した。
そして、開口を形成する四辺の方向に4つの細長板状の等方性磁石を、隣り合う磁石同士の隙間がある配置、磁石同士の隙間がない、閉じたロの字状の配置で、夫々下治具に固定した治具を夫々準備し、準備した夫々の治具を用いて、上治具に対する下治具に固定した磁石の吸着力によって薄板材料を固定し、サンドブラスト加工を行った。
その結果、隣り合う磁石同士の隙間がある配置で、磁石を下治具に固定した治具を用いて薄板材料を固定し、サンドブラスト加工を行った場合、加工時にノズルより研削材を噴射する高圧エアーの圧力によって薄板材料が引っ張られすぎて治具から外れてしまい加工することができないことが判明した。また、隣り合う磁石同士の隙間が、サンドブラスト加工する際の研削材及び高圧エアーの通り道となり、磁石における隙間近傍部分が大きく削られてしまうことが判明した。
また、磁石同士の隙間がない、閉じたロの字状の配置で、磁石を下治具に固定した治具を用いて薄板材料を固定し、サンドブラスト加工を行った場合も、薄板材料が引っ張られて撓んでしまうことが判明した。
【0022】
そこで、本件発明者は、等方性磁石に代えて異方性磁石を用いることを着想した。そして、開口を形成する四辺の方向に4つの細長板状の異方性磁石を、隣り合う磁石同士の間隔がないロの字状に配置で磁石を下治具に固定した治具を準備し、準備した治具を用いて、薄板材料を固定し、サンドブラスト加工を行った。
その結果、100gf/cm以上の吸着力を有する異方性磁石を、隣り合う磁石同士の間隔がないロの字状に配置で固定した下治具を用いて薄板材料を固定し、サンドブラスト加工を行った場合、薄板材料が引っ張られて撓んでしまうことなく、所望の形状に加工することができることが判明した。
【0023】
また、上述の試行錯誤を繰り返す過程において、上治具に対する下治具に固定した磁石の吸着力によって薄板材料を固定する構成の治具における薄板材料の位置決めについても改善の余地があることが判明した。
【0024】
また、上治具に対する下治具に固定した磁石の吸着力によって薄板材料を固定する構成においては、磁石の吸着力の影響により上治具と下治具との着脱操作や、サンドブラスト加工の際の高圧エアーの圧力による薄板材料の引っ張られを改善する余地もあることが判明した。
【0025】
さらに、本件発明者は、治具における薄板材料への固定をより強めるために、上治具における開口を、下治具にロの字状に配置・固定された磁石よりも狭めた治具を着想し、そのような治具を準備して、薄板材料を固定し、サンドブラスト加工を行った。
しかし、上治具の開口に近い部位の薄板材料への研削加工力が弱くなり、当該部位での薄板材料に対する加工精度が悪くなることが判明した。
【0026】
また、本件発明者は、治具の軽量化、作業性を考慮し、下治具を上治具よりも軽いアルミ製にすることを着想し、試行錯誤を重ねたが、下治具をアルミ製にした場合、サンドブラスト加工において、薄板材料が引っ張られて外れや変形を生じてしまい、所望の形状や貫通孔(ビアホール)を形成できないことが判明した。
【0027】
このような試行錯誤を重ねたことにより、本件発明者は、サンドブラスト加工工程において薄板材料を治具に固定するためのテープの貼付け作業と剥がし作業を不要にして、薄板材料を治具へ固定する前作業と後作業を作業時間を短縮して容易化でき、かつ、治具に固定するために使用する磁石の削れ度合を大幅に抑制して耐久性を向上させながら、薄板材料を損傷なく良好にサンドブラスト加工可能なサンドブラスト加工用治具及びサンドブラスト加工対象物の固定方法を導出するに至った。
【0028】
本発明のサンドブラスト加工用治具は、サンドブラスト加工対象物となる矩形の薄板材料よりも大きな外形を有し、かつ、薄板材料よりも小さな第1矩形領域に、該第1矩形領域を形成する辺が最も外側に位置する開口辺となるように形成された第1開口部を有する鉄製の上治具と、上治具と略同じ大きさの外形を有する鉄製の下治具とを備え、上治具と下治具とで薄板材料を挟むことにより、薄板材料を固定するサンドブラスト加工用治具であって、下治具は、第1矩形領域と同じ大きさ及び形状の第2矩形領域に、該第2矩形領域を形成する辺が最も外側に位置する開口辺となるように形成された、第2開口部を有し、下治具における上治具側の面には、所定幅を有する閉じたロの字状に固定された磁石を備えている。
本発明のサンドブラスト加工用治具のように、下治具における上治具側の面に、所定幅を有する閉じたロの字状に固定された磁石を備えて構成すれば、上治具と磁石とで薄板材料を挟む面積が大きいため、上治具に対する磁石の吸着力によって薄板材料を安定して固定することが可能となる。また、ロの字状に固定された磁石が閉じていることにより、サンドブラスト加工の際にノズルより噴射される研削材及び高圧エアーを下治具の開口方向に導き易くなり、薄板材料の外れや、磁石の削れを抑えることが可能となる。また、下治具に第2開口部を有していることにより、ノズルより薄板材料に噴射され、薄板材料の被加工部位を研削した研削材の逃げ場があり、研削材が下治具に衝突しないため、下治具の底面が削られるようなことがなく、反射した研削材が薄板材料の裏側に衝突して、薄板材料を損傷させてしまうようなことがない。
【0029】
また、本発明のサンドブラスト加工用治具は、所定幅を有する閉じたロの字状に固定された磁石の内側の辺の位置が、第1及び第2矩形領域を形成する辺と一致する。
このように構成すれば、上治具や下治具の開口に近い部位の薄板材料への研削加工力が弱まることがなく、当該部位での薄板材料に対する加工精度を良好なものにすることが可能となる。
【0030】
また、本発明のサンドブラスト加工用治具は、所定幅を有する閉じたロの字状に固定された磁石が、100gf/cm以上の吸着力を有する4枚の細長板状の異方性磁石からなる。
このように構成すれば、上治具と磁石とで薄板材料を強力に固定することができ、サンドブラスト加工により、薄板材料が引っ張られて撓んでしまうことなく、所望の形状や貫通孔(ビアホール)を形成することが可能となる。
【0031】
また、本発明のサンドブラスト加工用治具においては、好ましくは、上治具は、第1矩形領域の外側四隅に、位置決め孔を有し、下治具は、第2矩形領域の外側四隅に、上治具の位置決め孔に挿入可能な位置決めピンを有し、所定幅を有する閉じたロの字状に固定された磁石は、位置決めピンを貫通させることが可能な貫通孔を有している。
このように構成すれば、下治具に固定された磁石に吸着される上治具の位置を適正な位置に設定し易くなる。このため、薄板材料における位置決めピンに対応した位置に貫通孔を形成することで、下治具に対する薄板材料の取り付け作業を容易化することが可能となるとともに、薄板材料及び上治具を正確な加工位置に位置決めすることが可能となる。
【0032】
また、本発明のサンドブラスト加工用治具においては、好ましくは、上治具と下治具は、夫々互いの治具の外側の辺縁よりも外側に突出した取手部を備えている。
このように構成すれば、下治具の取手部を掴んで下治具を押さえながら、上治具の取手部を掴んで上治具を持ち上げることで、下治具に固定された磁石に強力に吸着された状態の上治具の取り外しが容易になる。また、上治具を下治具へ取り付ける際にも磁石によって、上下の治具の間に手を挟まれる危険をなくすことが可能となる。
【0033】
また、本発明のサンドブラスト加工用治具においては、好ましくは、下治具は、所定幅を有する閉じたロの字状に固定された磁石の上に、サンドブラスト加工用研削材が通過可能な無数の空隙部を有する、薄板材料支持部材を備えている。
このように構成すれば、サンドブラスト加工の際にノズルより噴射される研削材及び高圧エアーの圧力による薄板材料における非加工部位の変形や割れを防止することが可能となる。
【0034】
また、本発明のサンドブラスト加工対象物の固定方法は、サンドブラスト加工対象物となる矩形の薄板材料よりも大きな外形を有し、かつ、薄板材料よりも小さな第1矩形領域に、該第1矩形領域を形成する辺が最も外側に位置する開口辺となるように形成された第1開口部を有する鉄製の上治具と、上治具と略同じ大きさの外形を有し、かつ、第1矩形領域と同じ大きさ及び形状の第2矩形領域に、該第2矩形領域を形成する辺が最も外側に位置する開口辺となるように形成された、第2開口部を有する鉄製の下治具とを備え、下治具における上治具側には、所定幅を有する閉じたロの字状に固定された磁石と第2矩形領域の外側四隅に位置決めピンとを備え、上治具には、第1矩形領域の外側四隅に位置決め孔を有し、所定幅を有する閉じたロの字状に固定された磁石の内側の辺の位置が、第1及び第2矩形領域を形成する辺と一致し、所定幅を有する閉じたロの字状に固定された磁石が、100gf/cm 以上の吸着力を有する4枚の細長板状の異方性磁石からなり、上治具と下治具が夫々互いの治具の外側の辺よりも外側に突出した取手部を備えたサンドブラスト加工用治具を準備し、薄板材料における位置決めピンに対応した位置に形成された貫通孔に位置決めピンを挿し込んで貫通させ、位置決めピンを位置決め孔に挿入して薄板材料を位置決めし、下治具と上治具とで薄板材料を挟み磁石に上治具を吸着させることにより、薄板材料を固定する。
このようにすれば、サンドブラスト加工前には、下治具に対する薄板材料の取り付け作業を容易化することが可能となるとともに、薄板材料を正確な加工位置に位置決めすることが可能となる。また、サンドブラスト加工時には、上治具に対する磁石の吸着力によって薄板材料を安定して固定することが可能となるとともに、サンドブラスト加工の際にノズルより噴射される研削材及び高圧エアーを下治具の開口方向に導き易くなり、薄板材料の外れや、磁石の削れを抑えることが可能となる。また、サンドブラスト加工後には、下治具に固定された磁石に強力に吸着された状態の上治具の取り外しが容易になる。また、上治具を下治具へ取り付ける際にも磁石によって、上下の治具の間に手を挟まれる危険をなくすことが可能となる。
【0035】
従って、本発明によれば、サンドブラスト加工工程において薄板材料を治具に固定するためのテープの貼付け作業と剥がし作業を不要にして、薄板材料を治具へ固定する前作業と後作業を作業時間を短縮して容易化でき、かつ、治具に固定するために使用する磁石の削れ度合を大幅に抑制して耐久性を向上させながら、薄板材料を損傷なく良好にサンドブラスト加工可能なサンドブラスト加工用治具及びサンドブラスト加工対象物の固定方法が得られる。
【0036】
以下、図面を用いて本発明のサンドブラスト加工用治具及びサンドブラスト加工対象物の固定方法の実施形態を説明する。
第1実施形態
図1は本発明の第1実施形態に係るサンドブラスト加工用治具に薄板材料をセットするときの態様を概略的に示す概略断面図である。図2図1のサンドブラスト加工用治具に備わる上治具の概略上面図である。図3図1のサンドブラスト加工用治具に備わる下治具の概略上面図である。図4図1のサンドブラスト加工用治具に備わる所定幅を有する閉じたロの字状に固定された磁石の構成を示す説明図で、(a)は全体を示す上面図、(b)はロの字状を形成する一方の平板状磁石の上面図、(c)は(b)の側面図、(d)はロの字状を形成する他方の平板状磁石の上面図、(e)は(d)の側面図である。
【0037】
本実施形態のサンドブラスト加工用治具は、鉄製の上治具1と、鉄製の下治具2を有している。
上治具1は、サンドブラスト加工対象物となる矩形の薄板材料10よりも大きな外形を有し、かつ、薄板材料10よりも小さな第1矩形領域(4本の仮想直線L1~L4で囲まれた領域)A1に、第1矩形領域A1を形成する辺が最も外側に位置する開口辺となるように形成された第1開口部1aを有している。なお、図2の例では、第1開口部1aは長さ方向に沿って区画された3つの開口1a~1aを有し、開口1a~1aの境界部でサンドブラスト加工される際の薄板材料10の浮きを上側から抑えるように構成されている。
また、上治具1は、第1矩形領域A1の外側四隅(の所定位置)に、後述する位置決めピン4を貫通させることが可能な位置決め孔(ここでは、貫通孔)1b、1bを有している。位置決め孔1bは楕円形状の開口径、位置決め孔1bは円形の開口径をそれぞれ有している。
また、上治具1は、下治具2の外側の辺縁よりも外側に突出した取手部1cを備えている。
【0038】
下治具2は、上治具1と略同じ大きさの外形を有している。
また、下治具2は、第1矩形領域A1と同じ大きさ及び形状の第2矩形領域A2に、第2矩形領域A2を形成する辺が最も外側に位置する開口辺となるように形成された、第2開口部2aを有している。図3の例では、第2開口部2aはXY方向にマトリクス状に区画された開口2a11~2axyを有し、開口2a11~2axyの境界部でサンドブラスト加工される際の薄板材料10を下側で支えるように構成されている。
下治具2における上治具側の面には、所定幅を有する閉じたロの字状に固定された磁石3を備えている。所定幅を有する閉じたロの字状に固定された磁石3は、100gf/cm以上の吸着力を有する合計4枚の細長板状の異方性磁石3a、3bを組み合わせて構成されている。異方性磁石3a、3bにおける細長板状の幅方向は、下治具2における長手方向の外縁から第2開口部2aの辺までの長さと等しい長さを有している。また、ロの字状に固定された磁石3は、内側の辺の位置が、第1及び第2矩形領域A1、A2を形成する辺と一致するように配置されている。なお、図示の例では、異方性磁石3a、3bの板面形状が凸形状に形成されているが、4枚を組み合わせて所定幅を有する閉じたロの字状に固定することができれば、異方性磁石3a、3bの板面形状はどのような形状でもよく、例えば、矩形形状でもよい。
また、下治具2は、第2矩形領域A2の外側四隅(の所定位置)に、上治具1の位置決め孔1b、1bに挿入可能な位置決めピン4を有している。ピン4は、下治具2に形成した位置決めピン挿し込み穴2bに瞬間接着剤を介在して挿し込まれて固定されている。また、ロの字状に固定された磁石3を形成する磁石3aは、位置決めピン4を貫通させることが可能な貫通孔3aを有している。
また、下治具2は、上治具1の外側の辺縁よりも外側に突出した取手部2cを備えている。
さらに、下治具2は、ロの字状に固定された磁石3の上に、磁石3のロの字内をサンドブラスト加工用研削材が通過可能な無数の空隙部を有する、薄板材料支持部材5を備えている。薄板材料支持部材5は、金網で構成されている。
【0039】
このように構成された本実施形態のサンドブラスト加工用治具を用いた、サンドブラスト加工における薄板材料の固定及び取り外しの作業手順の流れについて、図5を用いて説明する。
なお、薄板材料10には、予め、位置決めピン4に対応した位置に貫通孔(不図示)が形成されているものとする。
サンドブラスト加工前は、最初に、下治具2に薄板材料支部材5を載置する(図5(a)、図5(b)参照)。次いで、薄板材料10における貫通孔(不図示)に位置決めピン4を挿し込んで貫通させ(図5(c)参照)、次いで、位置決めピン4を位置決め孔1b、1bに挿入して薄板材料10を位置決めする(図5(d)参照)。
次に、下治具2と上治具1により薄板材料10を挟み、磁石3に上治具1を吸着させることにより、薄板材料10を固定する(図5(e)参照)。このとき、薄板材料10は、上治具1と、磁石3及び支持部材5とに接した状態となっている。
この状態にした後、上治具1の上方からノズル20を介してサンドブラスト噴射物(研削材及び高圧エアー)21を噴射し、薄板材料10を所望の形状に研削加工する(図5(f)参照)。
サンドブラスト加工後は、最初に、取手部2cを掴んで下治具2を押さえながら、取手部1cを掴んで上治具1を持ち上げる(図5(g)参照)。これにより、位置決め孔1b、1bが位置決めピン4から外れ、上治具1は下治具2から取り外される。
次に、薄板材料10を持ち上げる(図5(h)参照)。これにより、貫通孔(不図示)が位置決めピン4から外れ、薄板材料10は下治具2から取り外される(図5(i)参照)。
【0040】
本実施形態のサンドブラスト加工用治具によれば、下治具2における上治具1側の面に、所定幅を有する閉じたロの字状に固定された磁石3を備えた構成としたので、上治具1と磁石3とで薄板材料10を挟む面積が大きいため、上治具1に対する磁石3の吸着力によって薄板材料10を安定して固定することが可能となる。また、ロの字状に固定された磁石3が閉じており、磁石3a、3b同士に隙間がない構成としたので、サンドブラスト加工の際にノズルより噴射される研削材及び高圧エアーを下治具2の開口方向に導き易くなり、薄板材料10の外れや、磁石3の削れを抑えることができる。また、下治具2に第2開口部2aを有した構成としたので、ノズルより薄板材料10に噴射され、薄板材料10の被加工部位を研削した研削材の逃げ場があり、研削材が下治具2に衝突しないため、下治具2の底面が削られるようなことがなく、反射した研削材が薄板材料10の裏側に衝突して、薄板材料10を損傷させてしまうようなことがない。
【0041】
また、本実施形態のサンドブラスト加工用治具によれば、所定幅を有する閉じたロの字状に固定された磁石3の内側の辺の位置が、第1及び第2矩形領域A1、A2を形成する辺と一致する構成としたので、上治具1や下治具2の開口に近い部位の薄板材料10への研削加工力が弱まることがなく、当該部位での薄板材料10に対する加工精度を良好なものにすることができる。
【0042】
また、本実施形態のサンドブラスト加工用治具によれば、所定幅を有する閉じたロの字状に固定された磁石3が、100gf/cm以上の吸着力を有する4枚の細長板状の異方性磁石3a、3bからなる構成としたので、上治具1と磁石3とで薄板材料10を強力に固定することができ、サンドブラスト加工により、薄板材料10が引っ張られて撓んでしまうことなく、所望の形状や貫通孔(ビアホール)形成することができる。
【0043】
また、本実施形態のサンドブラスト加工用治具によれば、上治具1が、第1矩形領域A1の外側四隅に、位置決め孔1b、1bを有し、下治具2が、第2矩形領域A2の外側四隅に、上治具1の位置決め孔1b、1bに挿入可能な位置決めピン4を有し、所定幅を有する閉じたロの字状に固定された磁石3(を形成する細長板状の磁石3a)が、位置決めピン4を貫通させることが可能な貫通孔3aを有した構成としたので、下治具2に固定された磁石3に吸着される上治具3の位置を適正な位置に設定し易くなる。このため、薄板材料10における位置決めピン4に対応した位置に貫通孔(不図示)を形成することで、下治具2に対する薄板材料10の取り付け作業を容易化することが可能となるとともに、薄板材料10及び上治具1を正確な加工位置に位置決めすることが可能となる。
【0044】
また、本実施形態のサンドブラスト加工用治具によれば、上治具1と下治具2が、夫々互いの治具の外側の辺縁よりも外側に突出した取手部1c、2cを備えた構成としたので、取手部2cを掴んで下治具2を押さえながら、取手部1cを掴んで上治具1を持ち上げることで、下治具2に固定された磁石3に強力に吸着された状態の上治具1の取り外しが容易になる。また、上治具1を下治具2へ取り付ける際にも磁石によって、上下の治具1、2の間に手を挟まれる危険をなくすことが可能となる。
【0045】
また、本実施形態のサンドブラスト加工用治具によれば、下治具2が、所定幅を有する閉じたロの字状に固定された磁石3の上に、磁石3のロの字内をサンドブラスト加工用研削材が通過可能な無数の空隙部を有する、薄板材料支持部材5を備えた構成としたので、サンドブラスト加工の際にノズルより噴射される研削材及び高圧エアーの圧力による薄板材料10における非加工部位の変形や割れを防止することが可能となる。
【0046】
また、本実施形態のサンドブラスト加工対象物の固定方法によれば、サンドブラスト加工対象物となる矩形の薄板材料10よりも大きな外形を有し、かつ、薄板材料10よりも小さな第1矩形領域A1に、第1矩形領域A1を形成する辺が最も外側に位置する開口辺となるように形成された第1開口部1aを有する鉄製の上治具1と、上治具1と略同じ大きさの外形を有し、かつ、第1矩形領域A1と同じ大きさ及び形状の第2矩形領域A2に、第2矩形領域A2を形成する辺が最も外側に位置する開口辺となるように形成された、第2開口部2aを有する鉄製の下治具2と、を備え、下治具2における上治具1側には、所定幅を有する閉じたロの字状に固定された磁石3と第2矩形領域A2の外側四隅に位置決めピン4とを備え、上治具1には、第1矩形領域A1の外側四隅に位置決め孔1b、1bを有し、所定幅を有する閉じたロの字状に固定された磁石3の内側の辺の位置が、第1及び第2矩形領域A1、A2を形成する辺と一致し、所定幅を有する閉じたロの字状に固定された磁石3が、100gf/cm 以上の吸着力を有する4枚の細長板状の異方性磁石3a、3bからなり、上治具1と下治具2が夫々互いの治具の外側の辺よりも外側に突出した取手部1c、2cを備えたサンドブラスト加工用治具を準備し、薄板材料10における位置決めピン4に対応した位置に形成された貫通孔(不図示)に位置決めピン4を挿し込んで貫通させ、位置決めピン4を位置決め孔1b、1bに挿入して薄板材料10を位置決めし、下治具2と上治具1により薄板材料10を挟み、磁石3に上治具を吸着させることにより、薄板材料10を固定するようにしたので、サンドブラスト加工前には、下治具2に対する薄板材料10の取り付け作業を容易化することができるとともに、薄板材料10を正確な加工位置に位置決めすることができる。また、サンドブラスト加工時には、上治具1に対する磁石3の吸着力によって薄板材料10を安定して固定することができるとともに、サンドブラスト加工の際にノズルより噴射される研削材及び高圧エアーを下治具の開口方向に導き易くなり、薄板材料10の外れや、磁石3の削れを抑えることができる。また、サンドブラスト加工後には、下治具2に固定された磁石3に強力に吸着された状態の上治具1の取り外しが容易になる。また、上治具1を下治具2へ取り付ける際にも磁石によって、上下の治具1、2の間に手を挟まれる危険をなくすことができる。
【0047】
従って、本実施形態によれば、サンドブラスト加工工程において薄板材料を治具に固定するためのテープの貼付け作業と剥がし作業を不要にして、薄板材料を治具へ固定する前作業と後作業を作業時間を短縮して容易化でき、かつ、治具に固定するために使用する磁石の削れ度合を大幅に抑制して耐久性を向上させながら、薄板材料を損傷なく良好にサンドブラスト加工可能なサンドブラスト加工用治具及びサンドブラスト加工対象物の固定方法が得られる。
【実施例
【0048】
実施例1
第1実施形態の構成を備えた実施例1のサンドブラスト加工用治具を試作し、サンドブラスト加工における薄板材料の固定に用いて、評価を行った。
【0049】
薄板材料10
サンドブラスト加工に用いる薄板材料10として、プリント基板用の材料であるガラスクロスとエポキシ樹脂からなる厚さ40μmの絶縁層と厚さ12μmの表面銅層の銅張積層板を用いて、銅層を所定のパターンで配線形成を行い、その後表面に30μmのレジスト層を形成して所定のパターンで露光・現像しサンドブラスト用マスクを形成した、515×340mmの薄板材料10を準備した。また、下治具2に形成する位置決めピン挿し込み穴2bに対応する位置にΦ3mmの貫通孔(不図示)を形成した。
【0050】
上治具1
素材として鉄を用いて、取手部1cを含めた外形が565×370mm、厚さが3.2mm、取手部1cの外形が20×180mm、第1矩形領域A1に485×320mmの第1開口部1aを有し、第1開口部1aが3mmの境界部を介して3分割され、また、下治具2に形成する位置決めピン挿し込み穴2bに対応する位置に開口が3×5mmの楕円、位置決め孔1bの開口がΦ3mmの円形の位置決め孔1bが形成された上治具1を作製した。
【0051】
下治具2
素材として鉄を用いて、取手部2cを含めた外形が565×370mm、厚さが4.5mm、取手部2cの外形が20×180mm、第2矩形領域A2に485×320mmの第2開口部1aを有し、第2開口部2aが5mmの境界部を介してマトリックス状に126分割され、位置決めピン挿し込み穴2bの開口がΦ2.5mmの円形に形成された下治具2を作製した。位置決めピン挿し込み穴2bは、取手部2cとは反対側の2つが、短手方向の外側辺縁から22.5mm、長手方向の外側辺縁から35mmの位置、取手部2c側における取手部2cに近い方の1つが、短手方向の外側辺縁から42.5mm、長手方向の外側辺縁から40mmの位置、取手部2c側における取手部2cから遠い方の1つが、短手方向の外側辺縁から42.5mm、長手方向の外側辺縁から40mmの位置、に夫々穴の中心が位置するように設けた。上下治具の取手部1c、2cは、上治具1を取り扱いやすくするため、図2及び図3に示すように、上治具1と下治具2とで異なる部位に設けた。
【0052】
所定幅を有する閉じたロの字状に固定された磁石3
外形が25×370mm、厚さが2mmの細長板状の異方性磁石3aを2枚、外形が25×495mm、厚さが2mmの細長板状の異方性磁石3bを2枚用いて、内側の辺の位置が、下治具2の第2矩形領域A2を形成する辺と一致するように配置して、所定幅を有する閉じたロの字状に固定された磁石3を設置した。また、磁石3a、3bは作業時に動かないよう両面テープで下冶具2に貼り付けた。また、異方性磁石3aには、位置決めピン4を貫通させることが可能なΦ3mmの貫通孔3aを形成した。
【0053】
位置決めピン4
Φ2.5×10mmの円柱状のSK材仕上げピンを位置決めピン4として用い、下治具2の位置決めピン挿し込み穴2bに瞬間接着剤を介在させて挿し込み固定した。このようにしたのは、位置決めピン4が摩耗し易いことから、位置決めピン4の交換を簡単に行えるようにするためである。位置決めピン4は、異方性磁石3aに形成した貫通孔3aを通り、上冶具1の位置決め孔(貫通孔)1b、1bに挿入する径及び長さを有するように設けた。
【0054】
薄板材料支持部材5
0.1mm以下の厚さの薄板材料10はサンドブラスト加工により凹み(反り)や破れが生じるため、下治具2側に金網で作製した、外形が495×320mm、厚さが1mmの薄板材料支持部材5を2枚準備し、長手方向が下治具2に5mmずつ重なるように2枚を設置した。
【0055】
サンドブラスト加工前における薄板材料の治具への取り付けから加工後の取り外しまで
下治具2に、薄板材料支持部材5を載置し、所定幅を有する閉じたロの字状に固定された磁石3を配置し、磁石3の上に、位置決めピン4に合わせて薄板材料10を載置し、さらに、位置決めピン4に合わせて上治具1を取り付けた。磁石3により上治具1が吸着され、薄板材料10が上治具1と薄板材料支持部材5及び磁石3とに挟まれて固定された。
この状態にした後、上治具1の上方からノズル20を介してサンドブラスト噴射物(研削材及び高圧エアー)21を噴射し、薄板材料10に貫通孔(ビアホール)を形成した(図5(f)参照)。
サンドブラスト加工後に薄板材料10を取り外す際には、下治具2の取手部2cを押さえ、上治具1の取手部1cを持ち上げることで、薄板材料10を容易に取り外すことができた。
【0056】
評価
サンドブラスト加工前は、位置決めピン4に位置決め孔1b、1b、薄板材料10の貫通孔(不図示)を挿入することで、正確な位置決めと取り付けが容易となった。
また、サンドブラスト加工による薄板材料10の引っ張られによるズレも無くなった。
また、下治具2の取手部2cを押さえながら、上治具1の取手部1cを持ち上げることで、取り外しが容易となった。また取り付ける際にも上下治具1、2間に手を挟まれるといった危険がなくなった。
このように、実施例のサンドブラスト加工用治具を使用することにより、下治具2の位置決めピン4の位置に合わせて薄板材料10を設置し、その上に上治具1を乗せることで、短時間で容易な前作業でサンドブラスト加工工程への投入が可能となる。また、サンドブラスト加工後には、上治具1の取手1cを掴んで上治具1を取り外すことで薄板材料10を取り出すことができ、短時間で容易な後作業で損傷のない薄板材料10が製造可能となることが認められた。
【0057】
比較例1
軽量化を鑑み、材料として鉄よりも軽いアルミを用いて下治具2を製造し、その他は実施例と同様の条件で薄板材料10に対するサンドブラスト加工を行った。
しかし、アルミ製の下治具2を用いた場合、サンドブラスト加工時に薄板材料10が引っ張られて外れてしまい、加工ができなかったり、変形が生じたりしてしまった。
【0058】
比較例2
所定幅を有する閉じたロの字状に固定された磁石3として、等方性磁石を用い、その他は実施例と同様の条件で薄板材料10に対するサンドブラスト加工を行った。
しかし、磁石の吸着力が弱く、サンドブラスト加工の際に、薄板材料10が引っ張られて治具から外れてしまった。
【0059】
比較例3
所定幅を有するロの字状に固定された磁石3を、閉じた配置ではなく、隙間のある配置とし、その他は実施例と同様の条件で薄板材料10に対するサンドブラスト加工を行った。
しかし、磁石の間隔を空けた場合、サンドブラスト加工により薄板材料10が引っ張られて治具から外れた。また、研削材が隣り合う磁石同士の隙間を通ることにより、磁石の削れ(摩耗)が認められた。
【0060】
比較例4
薄板材料10に対する治具の固定部分の面積を増やすことを考え、上治具1の第1開口部1aを、最も外側に位置する開口辺が第1開口領域A1よりも10mm内側に位置するように形成し、その他は実施例と同様の条件で薄板材料10に対するサンドブラスト加工を行った。
しかし、上治具1の開口部1aの開口辺近傍の薄板材料10の加工が弱くなり、加工精度の低下が認められた。
【0061】
以上、本発明のサンドブラスト加工用治具及びサンドブラスト加工対象物の固定方法の実施形態及び実施例を説明したが、本発明は、上記実施形態及び実施例に限定されるのではなく、請求項に記載の範囲内でどのような形態にも構成することが可能である。
例えば、図6に示すように、取手部1c、2cを上治具1及び下治具2の両側の短手方向に設けてもよい。このようにすれば、上治具1を下治具2から上方に取り外し易くなる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のサンドブラスト加工用治具及びサンドブラスト加工対象物の固定方法は、各種電子機器の小型・薄型化の要求に対応する電子部品を搭載する集合回路基板として、サンドブラスト加工により製品形状や貫通孔(ビアホール)を形成することが必要とされる分野に有用である。
【符号の説明】
【0063】
1 上治具
1a 第1開口部
1b、1b 位置決め孔(貫通孔)
1c 取手部
2 下治具
2a 第2開口部
2b 位置決めピン挿し込み穴
2c 取手部
3 所定幅を有する閉じたロの字状に固定された磁石
3a、3b 細長板状の異方性磁石
3a 貫通孔
4 位置決めピン
5 薄板材料支持部材
10 薄板材料
20 ノズル
21 サンドブラスト噴射物(研削材及び高圧エアー)
A1 第1矩形領域
A2 第2矩形領域
【要約】
【課題】
薄板材料を治具に固定するためのテープの貼付け作業と剥がし作業を不要にし、短時間で容易な前作業と後作業が可能、かつ、治具の固定に使用する磁石の削れ度合を抑制可能なサンドブラスト加工用治具の提供。
【解決手段】薄板材料10よりも大きな外形を有し、かつ、薄板材料よりも小さな第1矩形領域A1に、第1矩形領域を形成する辺が最も外側に位置する開口辺となる第1開口部1aを有する鉄製の上治具1と、上治具と略同じ大きさの外形を有する鉄製の下治具2とを備え、上治具と下治具とで薄板材料を挟むことにより、薄板材料を固定する治具であって、下治具は、第1矩形領域と同じ大きさ及び形状の第2矩形領域A2に、第2矩形領域を形成する辺が最も外側に位置する開口辺となる第2開口部2aを有し、下治具における上治具側の面には、所定幅を有する閉じたロの字状に固定された磁石3を備えている。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6