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特許7328423ワイヤ放電加工装置およびワイヤ放電加工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】ワイヤ放電加工装置およびワイヤ放電加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23H 7/36 20060101AFI20230808BHJP
【FI】
B23H7/36 Z
B23H7/36 C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022142980
(22)【出願日】2022-09-08
【審査請求日】2023-04-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000132725
【氏名又は名称】株式会社ソディック
(72)【発明者】
【氏名】井上 浩利
(72)【発明者】
【氏名】土肥 祐三
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-319943(JP,A)
【文献】登録実用新案第3060500(JP,U)
【文献】特開2015-196225(JP,A)
【文献】特開平08-001443(JP,A)
【文献】特開平04-261746(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 7/00-7/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を内部に収容する加工槽と、
前記加工槽から排出される汚れた加工液を貯留する汚液槽と、
清浄な前記加工液を貯留する清液槽と、
前記加工槽内に設けられ、前記加工液を前記被加工物の加工部分に供給する噴流ノズルと、
前記清液槽内の清浄な前記加工液を前記噴流ノズルへ供給する噴流ポンプと、
前記清液槽から前記加工槽へ清浄な前記加工液を供給する送液ポンプと、
前記送液ポンプから供給された前記加工液の温度を調整し前記清液槽へと供給する冷却装置と、
前記送液ポンプから供給された前記加工液の比抵抗を調整し前記清液槽へと供給する純水器と、
汚れた前記加工液を清浄な前記加工液に濾過するフィルタと、
前記汚液槽内の汚れた前記加工液を前記フィルタに供給すると共に濾過された清浄な前記加工液を前記清液槽へ供給する循環ポンプと、
ワイヤ放電加工の加工条件に応じて前記噴流ポンプをインバータ制御しながら前記噴流ポンプの流量を取得して前記噴流ポンプの流量に基づいて前記送液ポンプの適正流量算出し前記送液ポンプの流量を前記適正流量にインバータ制御すると共に前記送液ポンプの流量を取得して前記噴流ポンプの流量と前記送液ポンプの流量の和と同等よりも僅かに大きい流量になるように前記循環ポンプをインバータ制御する制御装置と、を備えるワイヤ放電加工装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記噴流ポンプの流量と、前記送液ポンプの流量と、前記循環ポンプの流量とを、各ポンプのインバータ電流値とインバータ周波数設定値から推定し取得する、請求項1に記載ワイヤ放電加工装置。
【請求項3】
前記噴流ポンプの流量を計測する噴流ポンプ流量計と、
前記送液ポンプの流量を計測する送液ポンプ流量計と、
前記循環ポンプの流量を計測する循環ポンプ流量計と、をさらに備え、
前記制御装置は、前記噴流ポンプの流量と、前記送液ポンプの流量と、前記循環ポンプの流量とを、各ポンプの前記流量計から取得する、請求項1に記載のワイヤ放電加工装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記循環ポンプのインバータ周波数設定値を、前記噴流ポンプの流量と前記送液ポンプの流量の和よりも10%程度多い流量になるように制御する、請求項1に記載のワイヤ放電加工装置。
【請求項5】
前記フィルタの圧力値を計測する圧力センサを備え、
前記制御装置は、前記圧力センサの圧力値から前記循環ポンプの流量を推定し、推定した前記循環ポンプの流量に基づいて前記循環ポンプのインバータ周波数設定値を、前記噴流ポンプの流量と前記送液ポンプの流量の和と同等以上の範囲で、減少させるように補正する、請求項1に記載のワイヤ放電加工装置。
【請求項6】
前記循環ポンプのインバータ周波数設定値に対して、取得した前記循環ポンプの流量が正常範囲に収まらない少ない流量である場合には、前記制御装置は前記フィルタの交換を求める警告を発する、請求項5に記載のワイヤ放電加工装置。
【請求項7】
前記循環ポンプのインバータ周波数設定値と前記循環ポンプのインバータ電流値から前記循環ポンプの流量を推定し、推定した前記循環ポンプの流量に基づいて前記循環ポンプの前記インバータ周波数設定値を、前記噴流ポンプの流量と前記送液ポンプの流量の和と同等以上の範囲で、減少させるように補正する、請求項1に記載のワイヤ放電加工装置。
【請求項8】
被加工物を内部に収容する加工槽と、
前記加工槽から排出される汚れた加工液を貯留する汚液槽と、
清浄な前記加工液を貯留する清液槽と、
前記加工槽内に設けられ、前記加工液を前記被加工物の加工部分に供給する噴流ノズルと、
前記清液槽内の清浄な前記加工液を前記噴流ノズルへ供給する噴流ポンプと、
前記清液槽から前記加工槽へ清浄な前記加工液を供給する送液ポンプと、
前記送液ポンプから供給された前記加工液の温度を調整し前記清液槽へと供給する冷却装置と、
前記送液ポンプから供給された前記加工液の比抵抗を調整し前記清液槽へと供給する純水器と、
汚れた前記加工液を清浄な前記加工液に濾過するフィルタと、
前記汚液槽内の汚れた前記加工液を前記フィルタに供給すると共に濾過された清浄な前記加工液を前記清液槽へ供給する循環ポンプと、を備え、
ワイヤ放電加工の加工条件に応じて前記噴流ポンプをインバータ制御する工程と、前記噴流ポンプの流量を取得する工程と、
次に、前記噴流ポンプの流量を基に前記送液ポンプの適正流量算出し前記送液ポンプの流量を前記適正流量にインバータ制御する工程と、前記送液ポンプの流量を取得する工程と、
次に、前記噴流ポンプの流量と前記送液ポンプの流量の和と同等よりも僅かに大きい流量になるように前記循環ポンプをインバータ制御する工程を有する、ワイヤ放電加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、噴流ポンプと送液ポンプと循環ポンプとを備えたワイヤ放電加工装置に関する。特に、噴流ポンプの流量と送液ポンプの流量と循環ポンプの流量とを順次インバータ制御を行うことにより、放電加工に悪影響を与えることのない範囲で省エネルギ化が可能なワイヤ放電加工装置およびワイヤ放電加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤ放電加工装置は、加工槽内に被加工物を収容し、ワイヤ電極とワイヤ電極に対向配置された被加工物とで形成される加工間隙に加工電圧を印加して放電を発生させる。同時にワイヤ電極と被加工物とを相対移動させることで放電エネルギにより被加工物を所望の形状に加工する。
【0003】
汎用のワイヤ放電加工装置は、加工中、被加工物を挟んで上下に設けられている一対の噴流ノズルから加工液をワイヤ電極と同軸に加工間隙に向かって噴出するように構成されている。加工媒体として加工間隙に供給される加工液は、短期間に連続して発生する放電による繰返しの絶縁破壊にともなってイオン化し絶縁度が低下するとともに、発熱にともなって温度が上昇する。また、加工にともなって発生する加工屑が加工間隙における加工液の中に滞留する。噴流ノズルによる加工間隙における加工液の供給は、絶縁度が低下し局所的に高温になった汚れた加工液を清浄な加工液によって加工間隙から押し出して、効率よく効果的に加工間隙の絶縁度を回復させ、加工間隙を冷却し、加工間隙から加工屑を排除する。特に、被加工物を加工液に浸漬して加工を行なうときには、加工前に加工槽に隣接して設置されている加工液供給槽(サービスタンク)の清液槽から加工槽に清浄な加工液を送液して加工槽内を清浄な加工液で満たす。そして、加工中は、加工槽内の加工液の温度を所定の温度に維持して機体の熱変位を抑制するために、あるいは加工液の絶縁度と清浄度を保持して加工に適する火花放電を発生させて良好な加工を続けるために、適時清浄な加工液を加工槽に供給するようにされている。
【0004】
加工槽内の加工液は、送液ポンプを駆動して清液槽から清浄な加工液が供給されるのにともなって加工槽から排出され加工液供給槽の汚液槽に回収される。同様に、噴流ポンプを駆動して一対の噴流ノズルに清液槽から清浄な加工液を供給しているので、加工槽内の余剰の加工液が加工槽から排出されて汚液槽に回収される。
【0005】
汚液槽に貯留された汚れた加工液は循環ポンプによってフィルタに送られ、フィルタで加工屑を除去されることで清浄な加工液として清液槽に送られる。
【0006】
清液槽内の加工液は、噴流ポンプによって加工槽の噴流ノズルに送られると共に、送液ポンプによって純水器、冷却装置、加工槽等の各部に送られる。冷却装置はワイヤ放電加工によって上昇した加工液の温度を調整し、清液槽に戻す。また純水器はワイヤ放電加工によって低下した加工液の比抵抗値を調整し、清液槽に戻す。
【0007】
以上のように、ワイヤ放電加工に適する温度と比抵抗値の清浄な加工液を加工槽に供給し続けることができるように、加工液をワイヤ放電加工装置内で繰り返し濾過し再利用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平4-176517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)に対する企業の意識の高まりが見られる。特に持続的な企業活動の一環として省エネルギに対して積極的な取り組みが行われている。その中で工作機械装置にも省エネルギが要求されている。
【0010】
すでに記述されているとおり、ワイヤ放電加工装置においては、加工液をワイヤ放電加工装置内で繰り返し濾過し再利用するために主に3つのポンプを使用している。具体的には、循環ポンプと、送液ポンプと、噴流ポンプである。循環ポンプは、主に放電加工で発生する加工屑(チップおよびスラッジ)を含む汚れた加工液をフィルタに通水・濾過するためのポンプである。送液ポンプは、主に濾過した清浄な加工液を純水器や冷却装置、洗浄を目的として加工槽等の各部に送りこむためのポンプである。噴流ポンプは、主に加工部で発生する加工屑を除去するために清浄な加工液の噴流を一対の噴流ノズルを通して加工間隙に送り込むポンプである。このとき、噴流ポンプの駆動において、加工条件に合わせて加工に最適な噴流圧・流量にするためにインバータ制御をしていたが、循環・送液ポンプ駆動においては、放電加工への悪影響を懸念して安全に安定して加工液を送液できるように商用周波数に固定したままで運用している。そのため、循環・送液ポンプが要求されているよりも相当大きいエネルギで余計に稼働していると見做すことができる。しかも、循環・送液ポンプが必要以上に稼働することによって、かえって加工液供給槽内を循環している加工液の温度が上昇し、温度が上昇した加工液を冷却するために冷却装置が不必要に作動する。したがって、従来のワイヤ放電加工装置は、省エネルギの観点から改善の余地がある。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、より省エネルギでありながら放電加工に悪影響を与えることのないワイヤ放電加工機およびワイヤ放電加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、被加工物を内部に収容する加工槽と、加工槽から排出される汚れた加工液を貯留する汚液槽と、清浄な加工液を貯留する清液槽と、加工槽内に設けられ、加工液を被加工物の加工部分に供給する噴流ノズルと、清液槽内の清浄な加工液を噴流ノズルへ供給する噴流ポンプと、清液槽から加工槽へ清浄な加工液を供給する送液ポンプと、送液ポンプから供給された加工液の温度を調整し清液槽へと供給する冷却装置と、送液ポンプから供給された加工液の比抵抗を調整し清液槽へと供給する純水器と、汚れた加工液を清浄な加工液に濾過するフィルタと、汚液槽内の汚れた加工液をフィルタに供給すると共に濾過された清浄な加工液を清液槽へ供給する循環ポンプと、ワイヤ放電加工の加工条件に応じて噴流ポンプをインバータ制御しながら噴流ポンプの流量を取得して噴流ポンプの流量に基づいて送液ポンプの適正流量算出し送液ポンプの流量を適正流量にインバータ制御すると共に送液ポンプの流量を取得して噴流ポンプの流量と送液ポンプの流量の和と同等よりも僅かに大きい流量になるように循環ポンプをインバータ制御する制御装置と、を備えるワイヤ放電加工装置が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るワイヤ放電加工装置においては、加工槽に清浄な加工液が供給され続けるように、加工液はワイヤ放電加工装置内の3つの槽(加工槽、汚液槽、清液槽)の間を、3つのポンプ(噴流ポンプ、循環ポンプ、送液ポンプ)によって繰り返し再利用するシステムを有している。
従来と同様に噴流ポンプでは、加工条件に合わせて加工に最適な噴流圧・流量の清浄な加工液を清液槽から加工槽の噴流ノズルに供給するためにインバータ制御を行う。
ここで、本発明者らによって、送液ポンプが清液槽から純水器または冷却装置、あるいは加工槽を含む加工液が流通する種々の装置に供給するべき加工液の適切な流量は、噴流ポンプの流量に対応する所定の関係があることが明らかにされた。
そこで、噴流ポンプのインバータ制御に続いて、まず、噴流ポンプの流量を取得し、次いで噴流ポンプの流量を基に送液ポンプの流量をインバータ制御する。これにより放電加工に悪影響を与えることのない範囲で送液ポンプの流量をより要求される流量まで少なく供給することが可能となった。
そして、循環ポンプは噴流ポンプに加えて送液ポンプが供給する加工液を上回る必要十分な流量をフィルタに供給することで清液槽の清浄な加工液を不足させることなく、一定以上の量を保つことが可能となる。このことから、引き続いて、送液ポンプの流量を取得して、既に取得していた噴流ポンプの流量との和を算出し、噴流ポンプの流量と送液ポンプの流量の和を基に循環ポンプの流量をインバータ制御する。制御装置によって上記の一連の制御が行われることでワイヤ放電加工装置の加工液を繰り返し濾過し再利用するシステムは放電加工に悪影響を与えることのない範囲で各ポンプの流量を少なくする省エネルギ化が可能となった。
【0014】
また、新品フィルタ使用時には、循環ポンプの流量が必要以上に多くなり無駄な電力を消費してしまう。そこで、フィルタに圧力センサを設置して圧力センサの計測値から循環ポンプの流量を推定する。この流量に基づいて循環ポンプのインバータ周波数設定値を、噴流ポンプの流量と送液ポンプの流量の和と同等以上の範囲で、減少させるように補正する。この制御を行うことで循環ポンプの流量を、より適切に制御することができ、更なる省エネルギ化を実現することが可能になる。
圧力センサを取り付ける代わりに循環ポンプのインバータ周波数設定値と循環ポンプのインバータ電流値から、循環ポンプの流量を推定することで、同様の制御を行うことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態のワイヤ放電加工装置の概略図である。
図2】本実施形態の制御装置を示すブロック図である。
図3】本実施形態の制御のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の種々の実施形態を例示する。以下に示す実施形態は互いに組み合わせ可能である。
【0017】
ワイヤ放電加工に使用される加工液として、大きく分けて、添加物を含む水を主成分とする水系放電加工液と、添加物を含む油を主成分とする油系放電加工液とがあるが、本発明においては、基本的に何れの種類の加工液を使用するときでも実施することができる。本実施形態に係るワイヤ放電加工装置1は、加工媒体として加工液Fに水系放電加工液を使用し、工具電極として、例えば、長尺線形の黄銅製ワイヤ電極Eを使用する。
【0018】
図1は本実施形態のワイヤ放電加工装置1の概略図であり、加工槽2と、汚液槽3と、清液槽4と、噴流ポンプ5と、噴流ノズル51と、送液ポンプ6と、冷却装置61と、純水器62と、循環ポンプ7と、フィルタ71と、圧力センサ72と、を備える。加工液供給槽は、少なくとも汚液槽3と清液槽4とを含んでなり、加工槽2が設けられているワイヤ放電加工装置の本機に隣接して設置されている。
【0019】
加工槽2は、放電加工の対象となる被加工物Wを収容する。加工槽2内にはワイヤ電極Eを位置決め案内する図示しないワイヤガイドが被加工物Wを挟んで上下に設けられている。一対のワイヤガイドは、上下それぞれ噴流ノズル51と共にガイドアセンブリの中に組み込まれている。噴流ノズル51は被加工物Wとワイヤ電極Eとの間に形成される加工間隙に向かって加工液Fを噴出する。ワイヤ電極Eまたは被加工物Wは相対移動可能に構成され、放電加工中に被加工物Wは所定の加工間隙をもってワイヤ電極Eと対向配置される。不図示の加工用電源装置からワイヤ電極Eおよび被加工物Wを通して加工間隙に所定の加工電圧が供給され、加工間隙に発生した放電にともなう放電エネルギによって被加工物Wの一部が除去されて加工が進行する。
【0020】
汚液槽3は、加工槽2から排出される放電加工により汚れた加工液Fを貯留する。本実施形態においては汚液槽3が加工槽2よりも下方に配置されており、加工槽2と汚液槽3との間にドレインバルブを含むドレイン管路が設けられている。加工槽2に加工液Fを貯留する際にはドレインバルブを閉じて急速に貯留を行い、放電加工時にはドレインバルブを開くことで加工槽2内の汚れた加工液Fを自由落下させて汚液槽3に排出可能である。加工槽2内の加工液Fをポンプによって汲み上げて排出するよりも省エネルギであり、同時に加工槽2から加工液Fを全排出するために要する時間を短くすることが可能である。ただし、必要に応じてドレイン管路に代えて加工槽2内の加工液Fを汲み上げるポンプを含む排出管路を設置することも可能である。あるいは、ドレイン管路と排出管路とを並設し、適宜管路を切り換えて加工液Fを汚液槽3に回収するようにすることも可能である。
【0021】
循環ポンプ7は汚液槽3の汚れた加工液Fをフィルタ71に供給する。フィルタ71は、汚れた加工液Fを濾過して加工液Fの中の不純物を除去することで清浄な加工液Fに浄化する。濾過された清浄な加工液Fは清液槽4に送られる。本実施形態においてはフィルタ71に圧力センサ72が取り付けられフィルタ71に掛かる加工液Fの圧力を測定可能な構成である。
【0022】
清液槽4は清浄な加工液Fを貯留する。汚液槽3の汚れた加工液Fをフィルタ71によって濾過することで不純物を除去し清浄な加工液Fとして再利用する。清液槽4の清浄な加工液Fを加工槽2に送液することで清浄な加工液中で放電加工が行われる。
【0023】
噴流ポンプ5は清液槽4から清浄な加工液Fを噴流ノズル51に供給する。噴流ノズル51の流量は、加工条件に対応して制御装置8が噴流ポンプ5のインバータ周波数設定値を変更することによって変化させている。加工条件は、例えば放電時間、放電休止時間、サーボ基準電圧、送り速度、電圧値等の他に、噴流ノズル51と被加工物Wとの密着の具合(いわゆる浮き加工や段差加工)も含まれる。加工条件は、加工工程毎に異なるので、加工工程毎に噴流ポンプ5の流量が変わるように制御される。加工条件は、いわゆる適応制御によって加工中に変更されることがある。例えば、加工中に被加工物の板厚が変わるときは、板厚の変化に対応して加工条件が変更される。加工中に加工条件が変更されるときは、加工条件の変更に応じて噴流ポンプ5の流量が変わるように制御される。
【0024】
送液ポンプ6は清液槽4から清浄な加工液Fを加工槽2に供給する。冷却装置61に送液ポンプ6が加工液Fを送ることで放電加工や各ポンプの稼働によって上昇した液温を下げて清液槽4に戻す。純水器(イオン交換樹脂)62にもまた送液ポンプ6が加工液Fを送ることで放電加工によって低下した加工液Fの比抵抗値を調整して清液槽4に戻す。このように送液ポンプ6は加工槽2に清浄な加工液Fを供給するだけではなく、加工液Fの液温と比抵抗値を放電加工に適するように調整する役割も果たしている。
【0025】
図2に示すように制御装置8は、噴流ポンプ制御部85、送液ポンプ制御部86および循環ポンプ制御部87を有している。各ポンプ制御部は噴流ポンプ5、送液ポンプ6および循環ポンプ7に対してそれぞれインバータ制御を行う。図2に示される実施形態の制御装置8における噴流ポンプ噴流制御部85、送液ポンプ制御部86、循環ポンプ制御部87は、それぞれVVVF(Variable Voltage Variable Frequency:可変電圧可変周波数)インバータを含んでなり、要求される噴流ポンプ5の流量に適応して変更設定される周波数に対応して電圧が適宜変更される。噴流ポンプ制御部85はNC装置9から加工条件を取得し、加工条件を基に噴流ポンプ5をインバータ制御し、噴流ポンプ5の流量を取得する。送液ポンプ制御部86は噴流ポンプ制御部85から取得した噴流ポンプ5の流量を基に送液ポンプ6をインバータ制御し、送液ポンプ6の流量を取得する。循環ポンプ制御部87は、噴流ポンプ制御部85からの噴流ポンプ5の流量、および送液ポンプ制御部86からの送液ポンプ6の流量を基に循環ポンプ7をインバータ制御する。
【0026】
本実施形態の制御装置8については図3を基にさらに詳細な説明を行う。
噴流ポンプ制御部85がNC装置9からのワイヤ放電加工の加工条件を取得して、これを基に噴流ポンプ5のインバータ周波数設定値を変更する。本実施形態では、さらに噴流ポンプ制御部85が噴流ポンプ5のインバータ電流値を取得することによって、噴流ポンプ5のインバータ周波数設定値とインバータ電流値を把握することが可能である。そしてインバータの周波数設定値とインバータ電流値から仕事率を計算により推定可能であることから、噴流ポンプ制御部85は噴流ポンプ5の仕事率すなわち流量を取得することができる。
【0027】
次に、送液ポンプ制御部86は放電加工に悪影響を与えない範囲で送液ポンプ6の流量を少なくする。送液ポンプ6の適正流量が噴流ポンプ5の流量と略対応関係にあることを発明者は本発明の試みの中で発見した。そのため送液ポンプ制御部86は、噴流ポンプ制御部85から取得した噴流ポンプ5の流量を基に送液ポンプ6の適正流量を算出して、送液ポンプ6のインバータ周波数設定値を変更する。さらに送液ポンプ6のインバータ電流値を取得することによって、送液ポンプ6の仕事率すなわち流量を取得することができる。本実施形態では送液ポンプ制御部86が噴流ポンプ5の流量に比例して送液ポンプ6のインバータ周波数設定値を変更する。
【0028】
また本実施形態においては、室温が高く、加工液Fの液温を低くする必要がある場合には、ワイヤ放電加工機1の電源が入り一定時間(例えば30分間)は送液ポンプ制御部86が送液ポンプ6を最大流量で稼働させて清浄な加工液Fを冷却装置61に供給し、加工液Fの液温を下げることを優先して制御を行う。あるいは室温が低く、加工液Fの液温を高くする必要がある場合には、ワイヤ放電加工機1の電源が入り一定時間(例えば30分間)は冷却装置61で加工液Fの冷却を行わずに、送液ポンプ制御部86が送液ポンプ6を最大流量で稼働させる。このように送液ポンプ6の稼働により加工液Fの液温を上昇させることを優先して制御を行う。それ以降は上記のように送液ポンプ6が適正流量となるように制御を行う。加えて放電加工を行わない間は待機運転モードとして送液ポンプ6のインバータ周波数設定値を30Hz程度に設定して消費電力を抑えながら加工液Fの比抵抗と液温を一定に保つようにする。
【0029】
次に、循環ポンプ制御部87は、放電加工に悪影響を与えない範囲で循環ポンプ7の流量を少なくする。循環ポンプ7の流量は放電加工装置1全体で使用され、汚れた加工液Fとなる量と同等以上であれば清液槽4の液量を一定以上に保つことが可能となり、清浄な加工液Fが不足することは無い。すなわち循環ポンプ7の適正流量は、噴流ポンプ5の流量と送液ポンプ6の流量の和よりも僅かに多ければ良い。
そのため循環ポンプ制御部87は、噴流ポンプ制御部85から噴流ポンプ5の流量を取得すると共に、送液ポンプ制御部86から送液ポンプ6の流量を取得し、2つのポンプの流量の和を求める。循環ポンプ制御部87は流量の和を基にして、流量の和より僅かに多くなるように循環ポンプ7のインバータ周波数設定値を変更する。一例としては2つのポンプの流量の和より10%程度多い流量となるように循環ポンプ7のインバータ周波数設定値を変更する。あるいは循環ポンプ7に安定して稼働可能な下限周波数がある場合には、循環ポンプ7の下限周波数における流量と、前述の2つのポンプの流量の和より10%程度多い流量と、どちらか一方の多い方の流量となるように循環ポンプ7のインバータ周波数設定値を変更する。
【0030】
フィルタ71が新品である、あるいは交換して間もない場合では循環ポンプ7のインバータ周波数設定値が同じであっても流量が過剰となることがある。本実施形態ではフィルタ71の圧力を検出する圧力センサ72を備えている。そして事前にフィルタ71における圧力と流量の関係式を構築することで、循環ポンプ制御部87が圧力センサ72の計測値を取得して、循環ポンプ7の流量を算出・取得することが可能な構成となっている。結果、循環ポンプ制御部87は取得した循環ポンプ7の流量を基にして、圧力センサ72が検出したフィルタ71における圧力が低く周波数が同じで比較的流量が多くなるときは、循環ポンプ7の流量をより適正な流量とするために循環ポンプ7のインバータ周波数設定値を、噴流ポンプ5と送液ポンプ6の流量の和以上の範囲内で減少させる補正を行うことが可能になる。
本実施形態では、循環ポンプ7の流量を取得するために圧力センサ72を使用したが、より簡易な方法として循環ポンプ7のインバータの周波数設定値とインバータ電流値から流量を取得することも可能である。
【0031】
さらに、フィルタ71は長時間使用を続けると目詰まりを起こし、効率が悪化する。そこで事前にインバータ周波数設定値に対する循環ポンプ7の流量の正常範囲を設定しておく。そして、取得した循環ポンプ7の流量が正常範囲に収まらない少ない流量である場合には、循環ポンプ制御部87はフィルタ71の交換を求める警告を発する。このようにして、効率が悪化したまま循環ポンプ7を稼働させることを防止することが可能になる。
【0032】
本実施形態では、別途センサを設置することなく容易に流量を取得するために、噴流ポンプ5および送液ポンプ6のインバータ電流値とインバータ周波数設定値から各ポンプの流量を推定し取得した。しかし、より正確な流量を得るために各ポンプに流量計を設置し、これらの流量計から直接各ポンプの流量を取得することでさらに高精度な流量制御も可能である。
【0033】
本発明は実施形態の構成に限定されず、本発明の技術思想を逸脱しない範囲で種々の変形または応用が可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 ワイヤ放電加工装置
2 加工槽
3 汚液槽
4 清液槽
5 噴流ポンプ
6 送液ポンプ
7 循環ポンプ
8 制御装置
9 NC装置
51 噴流ノズル
61 冷却装置
62 純水器
71 フィルタ
72 圧力センサ
85 噴流ポンプ制御部
86 送液ポンプ制御部
87 循環ポンプ制御部
E ワイヤ電極
F 加工液
W 被加工物
【要約】
【課題】各ポンプに順次インバータ制御を行うことにより、放電加工に悪影響を与えることのない範囲で省エネルギ化が可能なワイヤ放電加工装置。
【解決手段】ワイヤ放電加工の加工条件に応じて噴流ポンプ5をインバータ制御しながら噴流ポンプ5の流量を取得し、噴流ポンプ5の流量に基づいて送液ポンプ6をインバータ制御すると共に送液ポンプの流量6を取得し、噴流ポンプ5の流量と送液ポンプ6の流量の和に基づいて循環ポンプ7をインバータ制御する制御装置を備える、ワイヤ放電加工装置が提供される。
【選択図】図1
図1
図2
図3