(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】バルブステム及びタイヤバルブ
(51)【国際特許分類】
B60C 29/02 20060101AFI20230808BHJP
B60C 23/04 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
B60C29/02
B60C23/04 110C
(21)【出願番号】P 2022503019
(86)(22)【出願日】2020-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2020008401
(87)【国際公開番号】W WO2021171577
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000204033
【氏名又は名称】太平洋工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112472
【氏名又は名称】松浦 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100202223
【氏名又は名称】軸見 可奈子
(72)【発明者】
【氏名】山本 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】大野 勝司
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 陸成
【審査官】浅野 麻木
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0261753(US,A1)
【文献】特開2002-166708(JP,A)
【文献】特表2007-510135(JP,A)
【文献】特開2005-299801(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 29/02
B60C 23/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パイプ状をなして内部にバルブコアが収容されかつ基端部に電気回路ユニットが固定されるステム本体と、その外側を被覆するエラストマ製の被覆部材とを備えてなり、タイヤホイールのバルブ装着孔に装着されるバルブステムであって、
前記被覆部材の基端部の外周面に形成されて、前記バルブ装着孔の開口縁と係合する係合溝と、
前記被覆部材より比重が高くかつ前記ステム本体とは異なる材料で構成され、前記被覆部材のうち前記係合溝より先端側に埋設されるウェイト調整部材と、を備えるバルブステム。
【請求項2】
前記ウェイト調整部材は、
金属製である請求項1に記載のバルブステム。
【請求項3】
前記ウェイト調整部材は、前記ステム本体の外側に嵌合される筒状をなしている請求項1又は2に記載のバルブステム。
【請求項4】
前記ウェイト調整部材のうち一端部のみに、前記ステム本体に嵌合固定される嵌合固定部が設けられ、その嵌合固定部を除く前記ウェイト調整部材の全体と前記ステム本体の外面との間に、前記被覆部材を構成するエラストマが進入し得る筒状領域が形成されている請求項3に記載のバルブステム。
【請求項5】
前記ウェイト調整部材又は前記ステム本体には、前記筒状領域のうち前記嵌合固定部側の端部を前記ウェイト調整部材の外側に連通させる連通路が形成されている請求項4に記載のバルブステム。
【請求項6】
前記ウェイト調整部材には、一端から一端寄り位置まで延びる複数の切欠部が形成され、前記ウェイト調整部材のうち前記切欠部同士の間に残る複数の突片部の先端部又は中間部で前記嵌合固定部が構成されると共に、前記複数の切欠部のうち隣り合う前記突片部の基端部同士の間に挟まれた部分が前記連通路になっている請求項5に記載のバルブステム。
【請求項7】
前記電気回路ユニットは、タイヤ内の圧力を検出する圧力センサと、前記圧力センサの検出結果を無線送信する無線回路とを有する請求項1から6の何れか1の請求項に記載のバルブステム。
【請求項8】
請求項1から7の何れか1の請求項に記載のバルブステムの前記ステム本体に前記バルブコアを収容して備えるタイヤバルブ。
【請求項9】
前記ステム本体の基端部に前記電気回路ユニットを固定して備える請求項8に記載のタイヤバルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、タイヤホイールのバルブ装着孔に装着されて内部にバルブコアが収容されるバルブステムと、バルブステムの内部にバルブコアが収容されたタイヤバルブに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、バルブステムとして、パイプ状をなして基端部に電気回路ユニットが固定されるステム本体と、その外側を被覆するエラストマ性の被覆部材とを備えてなり、被覆部材の基端部がタイヤホイールのバルブ装着孔の開口縁に係合するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-175605号公報(段落[0019]、[0031]、[0032]、
図3等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したバルブステムに対して、タイヤホイールへのタイヤバルブの固定の安定化を図ることが可能なものが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためになされた請求項1の発明は、パイプ状をなして内部にバルブコアが収容されかつ基端部に電気回路ユニットが固定されるステム本体と、その外側を被覆するエラストマ製の被覆部材とを備えてなり、タイヤホイールのバルブ装着孔に装着されるバルブステムであって、前記被覆部材の基端部の外周面に形成されて、前記バルブ装着孔の開口縁と係合する係合溝と、前記被覆部材より比重が高くかつ前記ステム本体とは異なる材料で構成され、前記被覆部材のうち前記係合溝より先端側に埋設されるウェイト調整部材と、を備えるバルブステムである。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本開示の第1実施形態に係るタイヤバルブが取り付けられたタイヤホイールの断面図
【
図3】(A)バルブステムの嵌合固定部周辺の拡大側断面図、(B)バルブステムの連通路周辺の拡大側断面図
【
図5】(A)ウェイト調整部材の平面図、(B)ウェイト調整部材の側面図
【
図8】(A)バルブステムの連通路周辺の拡大側断面図、(B)バルブステムの嵌合固定部周辺の側断面図
【
図9】切欠部を有さないウェイト調整部材を備えるバルブステムの製造工程を示す拡大側断面図
【発明を実施するための形態】
【0007】
[第1実施形態]
図1には、第1実施形態のバルブステム10を備えるタイヤバルブ100が示されている。本実施形態のタイヤバルブ100では、バルブステム10がタイヤホイール81(詳細には、リム)に設けられたバルブ装着孔81Hに装着される。タイヤバルブ100は、バルブステム10の基端部に電気回路ユニット90が固定されてなり、バルブステム10の基端寄り部分が、バルブ装着孔81Hに嵌合される。タイヤバルブ100がタイヤホイール81に装着されると、電気回路ユニット90がタイヤ82内に配置されると共に、バルブステム10のうちエアー注入口20K(
図2参照)を有する先端部が、タイヤ82外に配置される。
【0008】
なお、バルブ装着孔81Hは、タイヤホイール81のリムに形成されたホイールドロップ81Uの側面を貫通していて、タイヤバルブ100は、横方向に延びるように配置される。より詳細には、ホイールドロップ81Uの側面は、タイヤホイール81の中心軸に対して傾斜していて、タイヤバルブ100は、バルブステム10が先端部を下側に向けるように傾斜した配置となる。
【0009】
電気回路ユニット90の内部には、タイヤ82の状態を検出するセンサ91と、そのセンサ91の検出結果を無線送信する無線回路92と、が備えられている。本実施形態では、例えば、センサ91は、タイヤ82の内圧を検出する圧力センサとなっている。
【0010】
図2に示されるように、バルブステム10は、パイプ状をなしたステム本体20の外側を被覆部材40で被覆してなる。具体的には、ステム本体20は、被覆部材40に中間部分を覆われており、ステム本体20の先端部と基端部は、被覆部材40から露出している。ステム本体20の先端部には、タイヤ82内にエアーを注入するための上述のエアー注入口20Kが設けられ、ステム本体20の先端部の外周面には、おねじ部29Nが形成される。おねじ部29Nには、外側からキャップ29(
図1参照)が螺合される。ステム本体20の基端部には、上述の電気回路ユニット90が固定される。本実施形態では、ステム本体20は、真鍮製である。なお、例えば、ステム本体20は、真鍮以外の金属製であってもよいし、樹脂製であってもよい。
【0011】
ステム本体20の内部には、バルブコア11が収容される。バルブコア11の外周面は、ステム本体20の内周面とシールされ、バルブコア11の開閉により、ステム本体20の内側に設けられてタイヤ82の内外を連通するエアー流通路が開閉される。
【0012】
ステム本体20の先端寄り部分の外周面には、環状突部21が張り出している。環状突部21は、ステム本体20のうち被覆部材40によって覆われた部分とおねじ部29Nとの境目に配置されている。ステム本体20の基端側部分は、環状突部21よりも外径が小径となった小径部23となっていて、その小径部23と環状突部21との間に、それらの中間の外径となった中径部22が形成されている。
【0013】
被覆部材40は、エラストマ製である。被覆部材40の基端部の外周面には、環状の係合溝41が形成されている。係合溝41は、ステム本体20のうち小径部23の基端寄り部分を囲むように配置されている。係合溝41は、タイヤバルブ100がタイヤホイール81のバルブ装着孔81Hに装着されるときに、バルブ装着孔81Hの開口縁と係合する。
【0014】
ここで、バルブステム10では、被覆部材40のうち係合溝41よりも先端側に、ウェイト調整部材50が埋設されている。ウェイト調整部材50は、被覆部材よりも比重が高く、かつステム本体20とは異なる材料で構成されている。本実施形態では、ウェイト調整部材50は、鉄製である。
【0015】
なお、ウェイト調整部材50は、被覆部材40よりも比重が高くかつステム本体20とは異なる材料であればよく、例えば、ウェイト調整部材50は、鉄以外の金属製であってもよいし、樹脂製であってもよい。
【0016】
本実施形態では、ウェイト調整部材50は、筒状をなしていて、ステム本体20の外側に嵌合されている。具体的には、ウェイト調整部材50の軸方向の先端部に、ステム本体20の中径部22に嵌合固定される嵌合固定部51が設けられている。そして、ウェイト調整部材50のうち嵌合固定部51を除くウェイト調整部材50の全体と、ステム本体20の外周面との間に、筒状領域Rが形成されている。筒状領域Rには、被覆部材40を構成するエラストマが進入できるようになっていて、本実施形態では、筒状領域Rはエラストマで満たされている(
図2及び
図3(A)参照)。
【0017】
図4及び
図5に示されるように、本実施形態では、ウェイト調整部材50の先端部に、切欠部31が形成されている。切欠部31は、ウェイト調整部材50の先端から先端寄り位置まで延びていて、ウェイト調整部材50の周方向に複数、例えば等間隔に設けられている(
図5(A)参照)。そして、ウェイト調整部材50の先端部のうち切欠部31同士の間に残る複数の突片部32(詳細には、突片部32の先端部又は中間部)により、嵌合固定部51が構成されている。また、切欠部31のうち隣り合う突片部32の基端部同士の間に挟まれた部分が、筒状領域Rの先端部をウェイト調整部材50の外側に連通させる連通路39となっている。本実施形態では、後述するように、この連通路39が設けられることで、被覆部材40の成形時に、筒状領域R内にエラストマを進入させ易くなっていて(
図3(B)参照)、筒状領域Rをエラストマで満たし易くなっている(
図3(A)参照)。なお、本実施形態では、切欠部31と突片部32は、四角形状をなしているが、これに限定されるものではなく、半円状や、三角形状、五角形状等であってもよい。
【0018】
本実施形態では、バルブステム10は、例えば、以下のようにして製造される。まず、ステム本体20に外側からウェイト調整部材50が嵌合され、それらが被覆部材40を成形するための成形型70のキャビティ79内にインサートされる(
図6参照)。本実施形態では、
図6に示されるように、被覆部材40は、例えばエラストマのトランスファー成形により成形される。詳細には、成形型70は、複数の分割型71~74からなり、そのうち最も下側の下型71の上面のめねじ孔におねじ部29Nを螺合させるように、ステム本体20が先端側を下側にしてセットされる。そして、被覆部材40の原料であるエラストマ原料Mが、加熱軟化した状態で、キャビティ79内に上から押し込まれる。すると、
図7に示されるように、キャビティ79内にエラストマ原料Mが充填される。そして、エラストマ原料Mが硬化(加硫)することで、ステム本体20に固着してウェイト調整部材50を埋設させる被覆部材40が形成される。
【0019】
ここで、
図9には、切欠部31を有さないウェイト調整部材50を用いて成形された被覆部材40の一例が示されている。同図に示されるように、切欠部31が設けられない場合には、連通路39が形成されないため、筒状領域Rの先端部からガスが抜け難くなり、筒状領域Rの先端部に隙間Sが形成され易くなる。これに対し、本実施形態では、ウェイト調整部材50に連通路39を形成する切欠部31が設けられるので、この連通路39を通して、エラストマ原料Mが筒状領域R内に入り易くなると共に、筒状領域Rの先端部からガスが抜け易くなり、筒状領域Rの全体をエラストマで満たし易くすることができる。
【0020】
なお、
図7に示されるように成形型70内で被覆部材40が形成されてから、ステム本体20とウェイト調整部材50と被覆部材40とを、成形型70から取り外して、被覆部材40からエラストマの駄肉部分78を取り除くと、
図2に示すバルブステム10が得られる。
【0021】
ここで、上述したように、タイヤバルブ100を
図1のようにして
タイヤホイール81に取り付ける場合、例えば、タイヤ
82外に配置される先端側部分にタイヤバルブ100の重心を配置する等して、タイヤバルブ100の重量バランスを調整すれば、タイヤ82の回転時の遠心力等によるタイヤバルブ100の姿勢変化を抑制することができる。本実施形態のタイヤバルブ100及びバルブステム10では、被覆部材40の基端部の外周面に、タイヤホイール81のバルブ装着孔81Hの開口縁に係合する係合溝41が形成される。そして、被覆部材40のうち係合溝41よりも先端側には、ウェイト調整部材50が埋設される。これにより、タイヤホイール81に取り付けられたタイヤバルブ100の重量バランスを容易に調整することが可能となり、タイヤバルブ100の固定の安定化を図ることが可能となる。
【0022】
また、本実施形態では、ウェイト調整部材50が、被覆部材40よりも比重が高い材料で構成されるので、被覆部材40のサイズを大きくしてタイヤバルブ100の重量バランスを調整する場合に比べて、被覆部材40を成形する成形型70を新たに用意しなくてもよくなるので、バルブステム10の重量バランスの調整が容易となる。さらに、ウェイト調整部材50は、ステム本体20とは異なる材料で構成されるので、ステム本体20の材料よりも安価な材料のものを用いることにより、コスト削減を図ることが可能となる。また、ウェイト調整部材50が、被覆部材に埋設されるので、ウェイト調整部材50の固定の安定化が図られる。さらに、ウェイト調整部材50が鉄製である場合には、ウェイト調整部材50が被覆部材40に埋設されることで、露出しなくなり、錆の防止を図ることが可能となる。
【0023】
本実施形態では、ウェイト調整部材50が、ステム本体20を囲む筒状をなしているので、ウェイト調整部材50によりバルブステム10を補強することが可能となる。また、ウェイト調整部材50がステム本体20の外側に嵌合されることで、ウェイト調整部材50の固定の安定化が図られ、車両の走行中にバルブステム10に遠心力等がかかった場合でも、タイヤバルブ100の重量バランスを崩れ難くすることが可能となる。
【0024】
また、本実施形態では、ウェイト調整部材50のうち一端部のみに、ステム本体に嵌合固定される嵌合固定部51が設けられ、嵌合固定部51を除くウェイト調整部材50の全体と、ステム本体20の外面との間に、被覆部材40を構成するエラストマが進入し得る筒状領域Rが形成される。このように、ウェイト調整部材50の一端部のみがステム本体20と嵌合することで、ステム本体20へのウェイト調整部材50の嵌合を容易にすることが可能となり、この嵌合の際に過大な力がかかってステム本体20が変形することを抑制可能となる。
【0025】
また、本実施形態では、ウェイト調整部材50に、筒状領域Rのうち嵌合固定部51側の端部(先端部)をウェイト調整部材50の外側に連通させる連通路39が設けられる。これにより、エラストマ製の被覆部材40を成形する場合に、筒状領域Rの先端部にガスが溜まり易くなることを抑制できる。
【0026】
[他の実施形態]
(1)上記実施形態では、連通路39が、ウェイト調整部材50に、切欠部31によって形成されるが、ウェイト調整部材50の先端部に径方向に貫通する貫通孔を形成し、この貫通孔により連通路39を形成してもよい。また、ステム本体20のうち中径部22に、ステム本体20の軸方向に延びる溝が形成され、この溝により連通路39が形成されてもよい。
【0027】
(2)上記実施形態では、ウェイト調整部材50のうちステム本体20との嵌合部位が、一端部であったが、軸方向の他の部分にも設けられていてもよい。また、この嵌合部位が、ウェイト調整部材50のうち先端部ではなく、他の部分(例えば、基端部等)に設けられてもよい。この嵌合部位が、ウェイト調整部材50の基端部に設けられる場合、その基端部に、切欠き部31と連通路39を設ければよい。
【0028】
(3)上記実施形態では、ウェイト調整部材50がステム本体20に外側から嵌合していたが、嵌合していなくてもよい。この場合、例えば、筒状領域Rがウェイト調整部材50とステム本体20との間の軸方向全体に延びていてもよい。
【0029】
(4)上記実施形態では、ウェイト調整部材50が筒状であったが、筒状でなくてもよく、例えば、直方体状、球状、棒状(例えば、ステム本体20の軸方向に延びたもの等)、リング状(例えば、O字状、C字状等)、網状等であってもよい。
【符号の説明】
【0030】
10 タイヤバルブステム
20 ステム本体20
39 連通路
40 被覆部材
50 ウェイト調整部材
R 筒状領域