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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】ロボット制御装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/12 20060101AFI20230808BHJP
   B25J 19/06 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
B23K9/12 331R
B25J19/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022505974
(86)(22)【出願日】2021-03-03
(86)【国際出願番号】 JP2021008203
(87)【国際公開番号】W WO2021182243
(87)【国際公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2020040840
(32)【優先日】2020-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】吉田 茂夫
(72)【発明者】
【氏名】岩山 貴敏
(72)【発明者】
【氏名】内藤 康広
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-200755(JP,A)
【文献】特開2017-100169(JP,A)
【文献】特開2004-351510(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00 - 9/32、
10/00 - 10/02
B25J 1/00 - 21/02
F16P 1/00 - 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被溶接物に対して接触を伴う溶接を行うロボットを制御するロボット制御装置であって、
前記ロボットが閾値以上の外力を受けたことを検知した場合、前記ロボットの動作を停止させる動作停止部と、
溶接の開始を溶接用電源装置に指示する指示部と、
前記指示部が溶接の開始を溶接用電源装置に指示した時点から、所定の待機時間が経過するまでの間、前記動作停止部において外力を検知する感度を低下させる検知感度調整部と、
を備えるロボット制御装置。
【請求項2】
前記検知感度調整部は、
前記指示部が溶接の開始を前記溶接用電源装置に指示した時点から、前記溶接用電源装置からの通知に基づいてアーク放電の発生を認識する時点までを、前記所定の待機時間とする、請求項1に記載のロボット制御装置。
【請求項3】
前記検知感度調整部は、
前記指示部がガス供給装置にガスの供給を指示した時点、
前記指示部が溶接ワイヤ供給装置に溶接ワイヤの供給を指示した時点、
前記指示部が前記溶接用電源装置に電流、電圧又はワイヤ供給速度の指令値を通知した時点、
前記指示部が前記溶接用電源装置に溶接起動信号を通知した時点、
のいずれか1つを、前記指示部が溶接の開始を前記溶接用電源装置に指示した時点とする、請求項2に記載のロボット制御装置。
【請求項4】
前記検知感度調整部は、
前記指示部がガス供給装置にガスの供給を指示した時点、
前記指示部が溶接ワイヤ供給装置に溶接ワイヤの供給を指示した時点、
前記指示部が前記溶接用電源装置に電流、電圧又はワイヤ供給速度の指令値を通知した時点、
前記指示部が前記溶接用電源装置に溶接起動信号を通知した時点、
のいずれか1つに、補正時間を加算又は減算した時点を、前記指示部が溶接の開始を前記溶接用電源装置に指示した時点とする、請求項3に記載のロボット制御装置。
【請求項5】
前記検知感度調整部は、
前記溶接用電源装置からアーク放電の発生を知らせる通知を受け取った時点、
前記溶接用電源装置から前記ロボットに供給される電流及び電圧の出力値に基づいてアーク放電が発生したと判断した時点、
のいずれか1つを、アーク放電の発生を認識する時点とする、請求項2に記載のロボット制御装置。
【請求項6】
前記検知感度調整部は、
前記溶接用電源装置からアーク放電の発生を知らせる通知を受け取った時点、
前記溶接用電源装置から前記ロボットに供給される電流及び電圧の出力値に基づいてアーク放電が発生したと判断した時点、
のいずれか1つに、補正時間を加算した時点を、アーク放電の発生を認識する時点とする、請求項5に記載のロボット制御装置。
【請求項7】
前記検知感度調整部は、
前記溶接用電源装置から溶接の開始処理中であることが通知されている間を、前記所定の待機時間とする、請求項1に記載のロボット制御装置。
【請求項8】
被溶接物に対して接触を伴う溶接を行うロボットの動作を制御するロボット制御装置であって、
前記ロボットが閾値以上の外力を受けたことを検知した場合、前記ロボットの動作を停止させる動作停止部と、
前記ロボットによる溶接の開始位置から、前記ロボットが溶接の進行方向に向けて予め設定された距離を移動するまでの間、前記動作停止部において外力を検知する感度を低下させる検知感度調整部と、
を備えるロボット制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットの動作を制御するロボット制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、製造業の分野において、安全柵無しで人と協働して各種の作業を行うことができる、いわゆる協働ロボット(以下、「ロボット」ともいう)が普及しつつある。この種のロボットの多くは、安全のため、一定以上の外力を検出した場合に動作を停止させる接触停止機能を備えている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-117141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アーク溶接用のロボットでは、アーク溶接の作業に必要な動作を実行した際に外力を受けることがある。アーク溶接の開始時に生じる外力の中には、ロボットにおいて安全上の問題にはなりにくい外力も含まれる。例えば、アーク放電がスムーズに行われずにワイヤを供給し続けている間、後述するリトライ動作の間に、溶接ワイヤの接触によってワークから受ける反力が考えられる。しかし、安全上の問題はなくても、ロボットは、一定以上の外力を受けるため、接触停止機能が働いて作業が停止することがある。
以下、安全上の問題はないと考えられる接触により、一定以上の外力が検出されることを「接触誤検出」という。
【0005】
本発明の目的は、接触誤検出による作業の停止を抑制できるロボット制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、被溶接物に対して接触を伴う溶接を行うロボットを制御するロボット制御装置であって、前記ロボットが閾値以上の外力を受けたことを検知した場合、前記ロボットの動作を停止させる動作停止部と、溶接の開始を溶接用電源装置に指示する指示部と、前記指示部が溶接の開始を溶接用電源装置に指示した時点から、所定の待機時間が経過するまでの間、前記動作停止部において外力を検知する感度を低下させる検知感度調整部と、を備えるロボット制御装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、接触誤検出による作業の停止を抑制できるロボット制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態のロボット制御装置50を備えたロボットシステム1の全体構成図である。
図2】ロボット制御装置50において実行される接触誤検出抑制プログラムの処理手順を示すフローチャートである。
図3】スクラッチスタート機能によるリトライ動作を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係るロボット制御装置の実施形態について説明する。
本明細書に添付した図面は、いずれも模式図であり、理解しやすさ等を考慮して、各部の形状、縮尺、縦横の寸法比等を、実物から変更又は誇張している。
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態のロボット制御装置50を備えたロボットシステム1の全体構成図である。図1は、ロボットシステム1の全体構成を模式的に示しており、各部の配置、形状、接続形態等は、実システムとは異なる。
図1に示すように、ロボットシステム1は、ロボット10、溶接用電源装置20、溶接ワイヤ供給装置30、ガス供給装置40及びロボット制御装置50を備えている。
【0010】
ロボット10は、ワークWに対してアーク溶接を行うアーク溶接用のロボット(協働ロボット)である。ロボット10の動作は、ロボット制御装置50(後述)により制御される。
【0011】
本実施形態では、ロボット10において、複数のアームと関節部からなる構造体を「アーム部11」と総称する。アーム部11の先端には、ワーク(被溶接物)Wとの間でアーク放電を発生させる溶接トーチ12が設けられている。溶接トーチ12には、溶接ワイヤ供給装置30(後述)から溶接ワイヤ31が供給されると共に、ガス供給装置40(後述)からガスが供給される。
【0012】
また、溶接トーチ12には、溶接用電源装置20(後述)からアーク溶接のための電流及び電圧が供給される。溶接用電源装置20(後述)は、溶接トーチ12へ供給する電流及び電圧の出力値に基づいてアーク放電が発生したか否かを判断し、アーク放電が発生した場合、アーク放電が発生したことを知らせる通知をロボット制御装置50へ送信する。
【0013】
ロボット10は、力検出部13を備えている。力検出部13は、ロボット10に作用する外力(力又はトルク)を検出する装置である。図1に示すように、力検出部13は、アーム部11を支持する基台14に設けられている。基台14に作用する外力は、ロボット10に作用する外力に相当する。力検出部13は、ロボット10に作用した外力の大きさは、ロボット制御装置50に検出値として送信される。
【0014】
溶接用電源装置20は、ロボット制御装置50から通知される溶接起動信号に基づいて、アーク溶接のための電流及び電圧を溶接トーチ12(ロボット10)に供給する装置である。溶接用電源装置20から溶接トーチ12に供給される電流及び電圧の出力値は、ロボット制御装置50から通知される指令値に基づいて設定される。また、溶接用電源装置20は、溶接トーチ12とワークWとの間にアーク放電が発生したことを内部回路により検出して、アーク溶接の開始処理中であることをロボット制御装置50に通知する機能を備えている。
【0015】
溶接ワイヤ供給装置30は、ロボット制御装置50からの指示に基づいて、溶接トーチ12に溶接ワイヤ31を供給する装置である。溶接トーチ12に溶接ワイヤ31を供給する指示は、ロボット制御装置50(指示部52)から溶接用電源装置20を介して溶接ワイヤ供給装置30に送信される。溶接ワイヤ供給装置30には、ワイヤドラム等のワイヤ供給源(不図示)から溶接ワイヤ31が供給される。溶接ワイヤ供給装置30から溶接トーチ12に供給される溶接ワイヤ31の供給量は、ロボット制御装置50から通知される指令値に基づいて設定される。
【0016】
ガス供給装置40は、ロボット制御装置50からの指示に基づいて、溶接トーチ12にガス(シールドガス)を供給する装置である。溶接トーチ12にガスを供給する指示は、ロボット制御装置50(指示部52)から溶接用電源装置20を介してガス供給装置40に送信される。
【0017】
ロボット制御装置50は、プロセッサ、ROM、RAM等を含むプロセッサユニットにより構成される。プロセッサ(CPU)は、ROMに格納されたシステムプログラム、アプリケーションプログラム(例えば、後述する接触誤検出抑制プログラム)等を読み出して実行することにより、各ハードウェアと協働して、後述する各部の機能を実現する。RAMには、プロセッサの演算に使用されるデータとして、例えば、位置情報、指令値、検出値、閾値等が記憶される。
図1に示すように、ロボット制御装置50は、制御部51、指示部52、動作停止部53、検知感度調整部54を備えている。
【0018】
制御部51は、ロボット10のアーム部11の動作及びアーク溶接の動作を統合的に制御する。ロボット10において、アーム部11の各部に装着されたサーボモータ(不図示)は、制御部51からの指令に基づいて制御される。この制御により、アーム部11の先端に設けられた溶接トーチ12は、ワークWの溶接開始位置に移動したり、ワークWの表面に沿って所定の方向に、所定の速度で移動したりできる。
【0019】
指示部52は、アーク溶接の開始処理として、以下の(A)~(D)に示す指示又は通知を各装置に対して実施する。(A)~(D)の指示又は通知は、アーク溶接の開始処理の際に、この順で実施される。なお、(A)~(D)は、アーク溶接の開始処理の際に実施される主要な指示又は通知の一例であり、これらに限定されない。
【0020】
(A)アーク溶接の開始時に、溶接用電源装置20を介してガス供給装置40にガスの供給を指示する。
(B)溶接ワイヤ供給装置30に溶接ワイヤ31の供給量に関する指令値を通知する。
(C)アーク溶接の開始時に、溶接用電源装置20に電流、電圧又はワイヤ供給速度の指令値を通知する。
(D)アーク溶接の開始時に、溶接用電源装置20に溶接起動信号を通知する。
なお、指示部52による上記指示、通知の一部又は全部を、制御部51で実施してもよい。
【0021】
動作停止部53は、ロボット10が閾値以上の外力を受けたことを検知した場合、接触停止機能によりロボット10の動作を停止させる。具体的には、動作停止部53は、力検出部13から送信された検出値(ロボット10が受けた外力の大きさ)と、予め設定された閾値とを比較し、検出値が閾値を超えた場合、ロボット10が閾値以上の外力を受けたと判定して、ロボット10の動作を停止させる。なお、ロボット10が閾値以上の外力を受けたと「判定」することは、動作停止部53において、ロボット10が閾値以上の外力を受けたことを「検知」したことを意味する。動作停止部53において、上記閾値は、検知感度調整部54(後述)から送信される感度低下指示により変更される。動作停止部53は、検知感度調整部54から感度低下指示が送信されると、閾値を通常値から予め設定された値に変更する制御を実行する。また、動作停止部53は、検知感度調整部54から感度低下解除指示が送信されると、閾値を通常値に戻す制御を実行する。
【0022】
検知感度調整部54は、指示部52がアーク溶接の開始を溶接用電源装置20に指示した時点から、所定の待機時間が経過するまでの間、動作停止部53において外力を検知する感度を低下させる制御を実行する。具体的には、検知感度調整部54は、指示部52がアーク溶接の開始を溶接用電源装置20に指示した時点で、動作停止部53に感度低下指示を送信する。また、検知感度調整部54は、所定の待機時間が経過した時点で、動作停止部53に感度低下解除指示を送信する。
【0023】
これにより、指示部52がアーク溶接の開始を溶接用電源装置20に指示した時点から、所定の待機時間が経過するまでの間、動作停止部53において外力を検知する感度を低下させることができる。なお、「外力を検知する感度を低下させる」とは、動作停止部53において、検出値と比較する閾値を通常よりも大きくすることを意味する。閾値を通常よりも大きくすることにより、例えば、ロボット10がアーク溶接の開始処理中に各種の動作を実行した際、動作停止部53において外力を受けたと判定されにくくなる。
【0024】
検知感度調整部54において、「所定の待機時間」とは、指示部52がアーク溶接の開始を溶接用電源装置20に指示した時点から、溶接用電源装置20からの通知に基づいてアーク放電の発生を認識する時点までをいう。
検知感度調整部54において、「指示部52がアーク溶接の開始を溶接用電源装置20に指示した時点」とは、指示部52がアーク溶接の開始処理として、先に説明した(A)~(D)の指示又は通知のうちのいずれか1つである。本実施形態では、上記(D)に示す「アーク溶接の開始時に、溶接用電源装置20に溶接起動信号を通知する」の時点を、指示部52がアーク溶接の開始を溶接用電源装置20に指示した時点として説明する。
【0025】
また、検知感度調整部54において、「溶接用電源装置20からの通知に基づいてアーク放電の発生を認識する時点」とは、検知感度調整部54が溶接用電源装置20からアーク放電の発生を知らせる通知を受け取った時点、又は、検知感度調整部54が溶接用電源装置20から溶接トーチ12に供給される電流、電圧又はワイヤ供給速度の出力値に基づいてアーク放電が発生したと判断した時点のいずれかである。
【0026】
次に、本実施形態のロボット制御装置50において、接触誤検出によるロボット10の停止を抑制する処理の具体例について説明する。図2は、ロボット制御装置50において実行される接触誤検出抑制プログラムの処理手順を示すフローチャートである。
図2に示すステップS101において、検知感度調整部54(ロボット制御装置50)は、指示部52が溶接の開始を溶接用電源装置20に指示したか否かを判定する。本実施形態において、検知感度調整部54は、指示部52がアーク溶接の開始時に溶接用電源装置20に溶接起動信号を通知した場合に、指示部52が溶接の開始を溶接用電源装置20に指示したと判定する。
【0027】
ステップS101において、検知感度調整部54により、指示部52が溶接の開始を溶接用電源装置20に指示したと判定された場合、処理はステップS102へ移行する。一方、ステップS101において、検知感度調整部54により、指示部52が溶接の開始を溶接用電源装置20に指示していないと判定された場合、処理はステップS101へ戻る。
【0028】
ステップS102(ステップS101:YES)において、検知感度調整部54は、動作停止部53に感度低下指示を送信する。感度低下指示を受信した動作停止部53は、閾値のレベルを予め設定された値に変更する。これにより、例えば、ロボット10がアーク溶接の開始処理中に各種の動作を実行した際、動作停止部53において外力を受けたと判定されにくくなる。これにより、アーク溶接の開始時において、接触停止機能が働きにくくなる。
【0029】
ステップS103において、検知感度調整部54は、アーク放電の発生を認識したか否かを判定する。本実施形態において、検知感度調整部54は、溶接用電源装置20からアーク放電の発生を知らせる通知を受け取った場合に、アーク放電の発生を認識したと判定する。
【0030】
ステップS103において、検知感度調整部54により、アーク放電の発生を認識したと判定された場合、処理はステップS104へ移行する。一方、ステップS103において、検知感度調整部54により、アーク放電の発生を認識していないと判定された場合、処理はステップS103へ戻る。
【0031】
ステップS104(ステップS103:YES)において、検知感度調整部54は、動作停止部53に感度低下解除指示を送信する。感度低下解除指示を受信した動作停止部53は、閾値を通常値に戻す。これにより、ロボット10が一定以上の外力を受けた場合、動作停止部53の接触停止機能が正常に働いて、ロボット10の動作が停止する。ステップS104の処理が実行されると、本フローチャートの処理は、終了する。
【0032】
上述した第1実施形態のロボット制御装置50によれば、溶接の開始時にアーク放電の発生を促すためのリトライ動作が実施された場合でも、指示部52が溶接の開始を溶接用電源装置20に指示してから、溶接用電源装置20からアーク放電の発生を知らせる通知を受け取るまでの間、動作停止部53の接触停止機能が働きにくくなる。そのため、第1実施形態のロボット制御装置50によれば、溶接の開始時にアーク放電が発生しなかった場合に、リトライ動作が実施されても、接触誤検出による作業の停止を抑制できる。
【0033】
第1実施形態のロボット制御装置50は、指示部52がアーク溶接の開始時に溶接用電源装置20に溶接起動信号を通知した時点において、ロボット10がアーク溶接の開始を溶接用電源装置20に指示したと判定するため、ロボット10による溶接の開始をより正確に判定できる。また、第1実施形態のロボット制御装置50は、指示部52が溶接用電源装置20からアーク放電の発生を知らせる通知を受け取った時点において、指示部52がアーク放電の発生を認識したと判定するため、溶接トーチ12とワークWとの間におけるアーク放電の発生をより正確に判定できる。したがって、第1実施形態のロボット制御装置50によれば、ロボット10の接触停止機能が働きにくくなる区間をより正確に設定できる。また、ロボット10の接触停止機能が働きにくくなる区間を、アーク溶接の開始処理中に限定することにより、ロボット10の接触停止機能が働きにくくなる区間を必要最小限にできる。
【0034】
(第2実施形態)
第2実施形態のロボット制御装置50Aは、検知感度調整部54Aの機能が第1実施形態と相違する。第2実施形態のロボット制御装置50Aにおいて、その他の構成は、第1実施形態と同じである。そのため、第2実施形態の説明には、第1実施形態の図1を援用する。また、第2実施形態の説明において、第1実施形態と同等の部材等には、第1実施形態と同一の符号を用いて、重複する説明を省略する。
【0035】
第2実施形態の検知感度調整部54A(ロボット制御装置50A)は、ロボット10によるアーク溶接の開始位置(後述する溶接開始位置P1)から、ロボット10が溶接の進行方向に向けて予め設定された距離を移動するまでの間、動作停止部53において外力を検知する感度を低下させる。検知感度調整部54Aは、ロボット10(溶接トーチ12)がアーク溶接を開始する位置、溶接の進行方向、溶接する距離等に関するデータを制御部51と共有しているため、ロボット10によるアーク溶接の開始位置、アーク溶接の進行方向、溶接する距離を認識できる。
【0036】
第2実施形態において、検知感度調整部54Aは、ロボット10がアーク溶接を開始する位置に達した時点で、動作停止部53に感度低下指示を送信する。また、検知感度調整部54Aは、ロボット10が予め設定された距離を移動して所定の位置に達した時点、又は、ロボット10がアーク放電の発生を認識した時点で、動作停止部53に感度低下解除指示を送信する。
【0037】
ここで、アーク放電が発生しない場合に実施されるリトライ動作の一例について説明する。図3は、スクラッチスタート機能によるリトライ動作を示す概念図である。スクラッチスタート機能は、アーク溶接の開始時にアーク放電が発生しなかった場合、溶接ワイヤ31の先端でワークWの表面を擦るように移動させることにより、アーク放電の発生を促す機能である。
【0038】
スクラッチスタート機能では、図3に示すように、溶接開始位置P1において、溶接ワイヤ31の先端をワークWの表面に押し付けた状態で、溶接トーチ12を矢印方向に所定の距離Lだけ離れた位置P1aまで移動させる動作が、アーク放電の発生するまで繰り返される。位置P1aは、溶接開始位置P1から溶接終了位置P2よりも短い距離Lに設定される。溶接トーチ12がワークWの表面を擦るように移動している間にアーク放電が発生した場合、ロボット10は、溶接トーチ12を溶接開始位置P1まで一旦戻し、その位置から本来の溶接区間であるP1からP2までのアーク溶接を実行する。
【0039】
スクラッチスタート機能により溶接トーチ12がワークWの表面を擦るように移動した場合でも、溶接トーチ12から溶接ワイヤ31が送り出された際に、ロボット10に一定以上の外力が検出されることがある。そのため、スクラッチスタート機能を実施した場合も、ロボットが一定以上の外力を受けることにより、接触停止機能が働いて作業が停止することがある。
【0040】
第2実施形態の検知感度調整部54Aは、ロボット10による溶接開始位置P1から、ロボット10が溶接の進行方向に向けて予め設定された距離を移動するまでの間、動作停止部53において外力を検知する感度を低下させる。ここで、「予め設定された距離」は、図3に示すP1-P1a間よりも長く(又は同じ)、且つ、P1-P2間よりも短い距離に設定される。スクラッチスタート機能が実施された場合、溶接トーチ12(ロボット10)は溶接速度で移動するが、アーク溶接の移動速度は、それほど速くない(例えば、2m/分程度)。通常、スクラッチスタート機能で設定される移動距離は、長くても20mm程度であるため、接触停止機能を働きにくくしても安全上の問題にはなりにくいと考えられる。
【0041】
第2実施形態のロボット制御装置50Aによれば、リトライ動作としてスクラッチスタート機能が実施された場合でも、溶接開始位置P1からロボット10が溶接の進行方向に向けて予め設定された距離を移動するまでの間、動作停止部53の接触停止機能が働きにくくなる。そのため、第2実施形態のロボット制御装置50Aによれば、溶接の開始時にアーク放電が発生しなかった場合に、リトライ動作が実施されても、接触誤検出による作業の停止を抑制できる。
【0042】
また、第1実施形態のロボット制御装置50では、例えば、検知感度調整部54がアーク放電の発生した時点を誤認識した場合、接触停止機能が働きにくい状態が想定よりも長く続く可能性がある。これに対して、第2実施形態のロボット制御装置50Aでは、ロボット10が予め設定された距離を移動した後には、接触停止機能が正常に動作するため、安全性をより向上させることができる。
【0043】
以上、本開示の第1及び第2実施形態(以下、単に「実施形態」ともいう)について説明したが、本開示は、前述した実施形態に限定されるものではなく、後述する変形形態のように種々の変形や変更が可能であって、それらも本開示の技術的範囲内に含まれる。また、実施形態に記載した効果は、本開示から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、実施形態に記載したものに限定されない。なお、上述の実施形態及び後述する変形形態は、適宜に組み合わせて用いることもできるが、詳細な説明は省略する。
【0044】
(変形形態)
実施形態では、動作停止部53の接触停止機能を働きにくくするため、外力を検知する感度を低下させる(閾値を大きくする)例について説明したが、接触停止機能を働かせないようにしてもよい。例えば、動作停止部53において、ロボット10に設けられた力検出部13による外力(力又はトルク)の検知を無効としてもよい。
【0045】
実施形態では、指示部52がアーク溶接の開始を溶接用電源装置20に指示した時点として、先に説明した(A)~(D)の指示又は通知のうちのいずれか1つとする例について説明した。この他、(A)~(D)の指示又は通知のうちのいずれか1つに、補正時間を加算又は減算した時点を、指示部52がアーク溶接の開始を溶接用電源装置20に指示した時点としてもよい。すなわち、指示部52がアーク溶接の開始を溶接用電源装置20に指示した時点は、時間的に前後してもよい。補正時間は、例えば、±0.5秒である。
【0046】
実施形態では、指示部52が溶接用電源装置20からの通知に基づいてアーク放電の発生を認識する時点として、指示部52が溶接用電源装置20からアーク放電の発生を知らせる通知を受け取った時点、又は、検知感度調整部54が溶接用電源装置20から溶接トーチ12に供給される電流及び電圧の出力値に基づいてアーク放電が発生したと判断した時点のいずれかとする例について説明した。この他、上記いずれかの時点に、補正時間を加算した時点を、ロボット10が溶接用電源装置20からの通知に基づいてアーク放電の発生を認識する時点としてもよい。補正時間は、例えば、+1秒である。
【0047】
第1実施形態の検知感度調整部54の機能に、第2実施形態の検知感度調整部54Aの機能を組み合わせてもよい。これにより、検知感度調整部54がアーク放電の発生した時点を誤認識した場合でも、溶接開始位置P1からロボット10が溶接の進行方向に向けて予め設定された距離を移動した時点で動作停止部53の接触停止機能が働くため、安全性をより向上させることができる。
【符号の説明】
【0048】
1:ロボットシステム、10:ロボット、11:アーム部、12:溶接トーチ、13:力検出部、20:溶接用電源装置、30:溶接ワイヤ供給装置、31:溶接ワイヤ、40:ガス供給装置、50(50A):ロボット制御装置、51:制御部、52:指示部、53:動作停止部、54(54A):検知感度調整部
図1
図2
図3