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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】回路基板の製造方法及び回路基板
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/20 20060101AFI20230808BHJP
   C04B 41/83 20060101ALI20230808BHJP
   H05K 1/02 20060101ALI20230808BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
H05K3/20 Z
C04B41/83 G
H05K1/02 J
H05K1/03 610D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022570165
(86)(22)【出願日】2022-02-18
(86)【国際出願番号】 JP2022006515
(87)【国際公開番号】W WO2022209402
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2022-11-16
(31)【優先権主張番号】P 2021058650
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100154391
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康義
(72)【発明者】
【氏名】井之上 紗緒梨
(72)【発明者】
【氏名】山縣 利貴
(72)【発明者】
【氏名】金子 絵梨
(72)【発明者】
【氏名】吉松 亮
(72)【発明者】
【氏名】古賀 竜士
【審査官】原田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-136349(JP,A)
【文献】国際公開第2020/203692(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/111045(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/20
C04B 41/83
H05K 1/02
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質セラミックスと、前記多孔質セラミックスの空隙を充填する熱硬化性組成物の半硬化物とを含む半硬化物複合体シートに、金属箔を切断加工して得られた金属箔切断加工品を積層して回路基板を製造する回路基板の製造方法であって、
前記金属箔切断加工品と嵌合する開口部を有する板状部材を前記半硬化物複合体シートの上に配置する工程と、
前記板状部材の開口部に嵌合させて、前記板状部材を配置した前記半硬化物複合体シートの上に前記金属箔切断加工品を配置する工程と、
前記板状部材及び前記金属箔切断加工品を配置した前記半硬化物複合体シートを加熱しながら加圧して第1の積層体を作製する工程と、
前記第1の積層体から前記板状部材を除去して第2の積層体を作製する工程とを含み、
前記金属箔切断加工品の厚さ及び前記板状部材の厚さの間の差の絶対値が0.25mm以下であり、
前記板状部材が、前記金属箔切断加工品と嵌合する開口部を有する第1の板状部材と、前記金属箔切断加工品と嵌合する開口部を有し、前記第1の板状部材及び前記半硬化物複合体シートの接着を防ぐ剥離シートである第2の板状部材とからなるか、又は、剥離剤を使用して前記板状部材の表面を剥離処理することにより、前記板状部材は、前記半硬化物複合体シートに対して剥離性を有するか、又は、前記板状部材は、前記板状部材の表面に、前記半硬化物複合体シートに対して剥離性を有する材料の層を備える回路基板の製造方法。
【請求項2】
前記板状部材の材料もしくは前記第1の板状部材の材料が前記金属箔切断加工品の材料と同じである請求項1に記載の回路基板の製造方法。
【請求項3】
メタルベース板の上に前記半硬化物複合体シートを配置する工程をさらに含み、
前記板状部材を配置する工程は、前記メタルベース板の上に配置した前記半硬化物複合体シートの上に前記板状部材を配置し、
前記金属箔切断加工品を配置する工程は、前記メタルベース板の上に配置した前記半硬化物複合体シートの上に前記金属箔切断加工品を配置する請求項1又は2に記載の回路基板の製造方法。
【請求項4】
前記第1の積層体、または前記第2の積層体を加熱して硬化させる工程をさらに含む請求項1又は2に記載の回路基板の製造方法。
【請求項5】
多孔質セラミックスと、前記多孔質セラミックスの空隙を充填する熱硬化性組成物の半硬化物とを含む半硬化物複合体シートに、金属箔を切断加工して得られた金属箔切断加工品を積層して回路基板を製造する回路基板の製造方法であって、
前記半硬化物複合体シートの上に前記金属箔切断加工品を配置する工程と、
前記金属箔切断加工品を配置した前記半硬化物複合体シートを加熱しながら、1.0~8.0MPaの圧力で加圧して積層体を作製する工程とを含み、
前記積層体を作製する工程は、前記金属箔切断加工品と嵌合する開口部を有する板状部材を前記半硬化物複合体シートの上に配置しない回路基板の製造方法。
【請求項6】
記積層体を加熱して硬化させる工程をさらに含む請求項に記載の回路基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は回路基板の製造方法及びその製造方法により得られる回路基板に関し、特に、パワーモジュールに使用される回路基板の製造方法及びその製造方法により得られる回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車、電気自動車、鉄道などの電動化輸送機器、モーターを利用するエアコンなどの家電製品、産業機器において電力変換デバイスが欠かせない。電力変換デバイスの中で、変換効率が高いデバイスとして、パワー半導体素子が挙げられる。パワー半導体素子は、電力変換回路において電気制御スイッチとして、オン及びオフの状態維持及びオン及びオフ間の状態遷移を行う。パワー半導体素子は、オフ状態では、電源や負荷からの電流を阻止し、オン状態では電源や負荷からの電流を流通する。このようなパワー半導体素子を搭載する基板には、優れた放熱性及び絶縁性を確保するため、例えば、メタルベース基板が用いられる。メタルベース基板は、例えば、無機フィラー含有エポキシ樹脂を用いてメタルベース板の片面に金属箔を貼り合わせた積層板である(例えば、特許文献1参照)。メタルベース基板は、優れた放熱性を有し、セラミック基板に比べて製造コストが低い。
【0003】
近年、複数のパワー半導体素子を備えたパワーモジュールの高密度化が年々加速し、パワー半導体素子を搭載するメタルベース基板に対して、放熱性のさらなる改善が望まれている。しかしながら、特許文献1に記載のメタルベース基板における無機フィラー含有エポキシ樹脂では、無機フィラーの各粒子間に熱伝導率の低いエポキシ樹脂層が存在するこのため、メタルベース基板において高い熱伝導率を得ることに限界があった。
【0004】
特許文献1に記載のメタルベース基板の熱伝導性を改善する方法として、例えば、非酸化物セラミックス一次粒子が3次元的に連続する一体構造をなしている焼結体に、熱硬化性樹脂組成物を含浸しているセラミックス樹脂複合体を用いた熱伝導性絶縁接着シート(例えば、特許文献2参照)を使用して、メタルベース板の片面に金属箔を貼り合わせることが考えられる。この熱伝導性絶縁接着シートは、非酸化物セラミックスが連続したネットワークを構成するので、熱伝導率をさらに高くすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-49062号公報
【文献】国際公開2017/155110号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
パワーモジュールには大電流が流れるため、メタルベース基板の表面に形成される配線のジュール熱発生を抑制するために、メタルベース板に貼り付ける金属箔を厚くすることが好ましい。メタルベース板に貼り付けた厚い金属箔をエッチングにより加工して、金属パターンを形成すると、金属パターンの形成に時間がかかり、メタルベース基板の製造コストが高くなる。このため、メタルベース基板の製造コストの観点から、金属箔を切断加工して得られた金属箔切断加工品をメタルベース板に貼り付けることにより、メタルベース基板の表面に金属パターンを形成することが好ましい。
【0007】
特許文献2に記載の熱伝導性絶縁接着シートは、非酸化物セラミックスの多孔体をベースとするので、可撓性が乏しい。このため、メタルベース板に積層した特許文献2に記載の熱伝導性絶縁接着シートに、金属箔切断加工品を貼り付けて、加圧すると、熱伝導性絶縁接着シートにおいて、金属箔切断加工品周辺の領域にクラックが発生するという課題があった。
【0008】
そこで、本発明は、多孔質セラミックスと、その多孔質セラミックスの空隙を充填する熱硬化性組成物の半硬化物とを含む半硬化物複合体シートに、金属箔を切断加工して得られた金属箔切断加工品を貼り付け、加圧しても、半硬化物複合体シートにクラックが発生することを抑制できる回路基板の製造方法、及びその製造方法により得られる回路基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究を進めたところ、金属箔切断加工品を半硬化物複合体シートに、貼り付け、加圧するとき、半硬化物複合体シートにおける金属箔切断加工品が配置されている領域と金属箔切断加工品が配置されていない領域との間の境界で厚さ方向の大きなズレが発生しないようにすることによって、半硬化物複合体シートのクラック発生を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。本発明は、以下を要旨とする。
[1]多孔質セラミックスと、前記多孔質セラミックスの空隙を充填する熱硬化性組成物の半硬化物とを含む半硬化物複合体シートに、金属箔を切断加工して得られた金属箔切断加工品を積層して回路基板を製造する回路基板の製造方法であって、前記金属箔切断加工品と嵌合する開口部を有する板状部材を前記半硬化物複合体シートの上に配置する工程と、前記板状部材の開口部に嵌合させて、前記板状部材を配置した前記半硬化物複合体シートの上に前記金属箔切断加工品を配置する工程と、前記板状部材及び前記金属箔切断加工品を配置した前記半硬化物複合体シートを加熱しながら加圧して第1の積層体を作製する工程と、前記第1の積層体から前記板状部材を除去して第2の積層体を作製する工程とを含み、前記金属箔切断加工品の厚さ及び前記板状部材の厚さの間の差の絶対値が0.25mm以下(または、半硬化物複合体シートの厚みに対し60%以下)である回路基板の製造方法。
[2]前記板状部材が、前記金属箔切断加工品と嵌合する開口部を有する第1の板状部材と、前記金属箔切断加工品と嵌合する開口部を有し、前記第1の板状部材及び前記半硬化物複合シートの接着を防ぐ剥離シートである第2の板状部材とからなる上記[1]に記載の回路基板の製造方法。
[3]前記板状部材の材料もしくは前記第1の板状部材の材料が前記金属箔切断加工品の材料と同じである上記[1]または[2]に記載の回路基板の製造方法。
[4]メタルベース板の上に前記半硬化物複合体シートを配置する工程をさらに含み、前記板状部材を配置する工程は、前記メタルベース板の上に配置した前記半硬化物複合体シートの上に板状部材を配置し、前記金属箔切断加工品を配置する工程は、前記メタルベース板の上に配置した前記半硬化物複合体シートの上に前記金属箔切断加工品を配置する上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の回路基板の製造方法。
[5]多孔質セラミックスと、前記多孔質セラミックスの空隙を充填する熱硬化性組成物の半硬化物とを含む半硬化物複合体シートに、金属箔を切断加工して得られた金属箔切断加工品を積層して回路基板を製造する回路基板の製造方法であって、前記半硬化物複合体シートの上に前記金属箔切断加工品を配置する工程と、前記金属箔切断加工品を配置した前記半硬化物複合体シートを加熱しながら、1.0~8.0MPaの圧力で加圧して積層体を作製する工程とを含む回路基板の製造方法。
[6]前記第1の積層体、前記第2の積層体または前記積層体を加熱して硬化させる工程をさらに含む上記[1]~[5]のいずれか1つに記載の回路基板の製造方法。
[7]多孔質セラミックスと、前記多孔質セラミックスの空隙を充填する熱硬化性組成物の硬化物とを含む硬化物複合体層と、前記硬化物複合体層の表面に設けられた金属パターンとを含み、前記金属パターンの側面の凹み量を前記金属パターンの厚さで割り算した値及び前記金属パターンの側面の広がり量を前記金属パターンの厚さで割り算した値が0.055以下であり、絶縁破壊電圧が3.5kV以上である回路基板。
[8]前記硬化物複合体層の前記金属パターン側の面とは反対側の面に設けられたメタルベース板をさらに含む上記[7]に記載の回路基板。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、多孔質セラミックスと、その多孔質セラミックスの空隙を充填する熱硬化性組成物の半硬化物とを含む半硬化物複合体シートに、金属箔を切断加工して得られた金属箔切断加工品を貼り付け、加圧しても、半硬化物複合体シートにクラックが発生することを抑制できる回路基板の製造方法、及びその製造方法により得られる回路基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の一実施形態の回路基板の製造方法で使用する部材を説明するための概略図である。
図2図2(a)~(d)は、本発明の一実施形態の回路基板の製造方法を説明するための概略図である。
図3図3(a)は、金属パターンの側面の凹み量を説明するための概略図であり、図3(b)は、金属パターンの側面の広がり量を説明するための概略図である。
図4図4は、本発明の一実施形態の回路基板の製造方法の変形例で使用する部材を説明するための概略図である。
図5図5(a)~(e)は、本発明の一実施形態の回路基板の製造方法の変形例を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[回路基板の製造方法]
図1及び図2を参照して、本発明の一実施形態の回路基板の製造方法を説明する。図1は、本発明の一実施形態の回路基板の製造方法で使用する部材を説明するための図である。図2は、本発明の一実施形態の回路基板の製造方法を説明するための図である。
【0013】
本発明の一実施形態の回路基板の製造方法は、多孔質セラミックスと、前記多孔質セラミックスの空隙を充填する熱硬化性組成物の半硬化物とを含む半硬化物複合体シート10に、金属箔を切断加工して得られた金属箔切断加工品20を積層して回路基板を製造する。そして、本発明の一実施形態の回路基板の製造方法は、金属箔切断加工品20と嵌合する開口部31を有する板状部材30を半硬化物複合体シートの上に配置する工程(A)と、板状部材30の開口部31に嵌合させて、板状部材30を配置した半硬化物複合体シート10の上に金属箔切断加工品20を配置する工程(B)と、板状部30材及び金属箔切断加工品20を配置した半硬化物複合体シート10を加熱しながら加圧して第1の積層体41を作製する工程(C)と、第1の積層体41から板状部材30を除去して第2の積層体42を作製する工程(D)とを含む。そして、金属箔切断加工品20の厚さ及び板状部材30の厚さの間の差の絶対値が0.25mm以下である。これにより、硬化物複合体シート10に、金属箔を切断加工して得られた金属箔切断加工品20を貼り付け、加圧しても、半硬化物複合体シート10にクラックが発生することを抑制できる。なお、半硬化物複合体シート10にクラックが発生すると、回路基板の絶縁性が悪くなる場合がある。
【0014】
(工程(A))
工程(A)では、図2(a)及び(b)に示すように、金属箔切断加工品20と嵌合する開口部31を有する板状部材30(第1の板状部材30a及び第2の板状部材30b)を半硬化物複合体シート10の上に配置する。
【0015】
<半硬化物複合シート>
半硬化物複合シート10は、多孔質セラミックスと、多孔質セラミックスの空隙を充填する熱硬化性組成物の半硬化物とを含む。例えば、含浸法により、多孔質セラミックスの空隙を熱硬化性組成物で充填することができる。
【0016】
多孔質セラミックスは、複数の微細な孔(以下、「細孔」ともいう)が形成された構造を有する。多孔質セラミックスにおける細孔は、少なくとも一部が互いに連結して連続孔を形成していてもよい。
【0017】
多孔質セラミックスは、好ましくは無機化合物の焼結体で形成されている。無機化合物の焼結体は、絶縁物の焼結体であってもよい。絶縁物の焼結体における絶縁物は、好ましくは、炭化物、窒化物、ダイヤモンド、黒鉛等の非酸化物を含有し、より好ましくは窒化物を含有する。炭化物は、炭化ケイ素等であってよい。窒化物は、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、及び窒化ケイ素からなる群から選択される少なくとも一種の窒化物を含有してよく、好ましくは窒化ホウ素を含有する。すなわち、多孔質セラミックスは、好ましくは窒化ホウ素を含有する絶縁物の焼結体で形成されていてよく、より好ましくは、窒化ホウ素焼結体で形成されている。多孔質セラミックスが窒化ホウ素焼結体で形成されている場合、窒化ホウ素焼結体は、窒化ホウ素の一次粒子同士が焼結されてなるものであってよい。窒化ホウ素は、アモルファス状の窒化ホウ素及び六方晶状の窒化ホウ素のいずれも用いることができる。また、ホウ酸、酸化ホウ素、ホウ砂などの含ホウ素化合物及び尿素、メラミンなどの含窒素化合物の混合物を焼成したり、六方晶炭窒化ホウ素(h-BCN)を焼成したりすることによっても窒化ホウ素焼結体を得ることができる。
【0018】
多孔質セラミックスを形成する無機化合物の熱伝導率は、例えば、30W/(m・K)以上、50W/(m・K)以上、又は60W/(m・K)以上であってよい。多孔質セラミックスが熱伝導性に優れる無機化合物で形成されていると、得られる半硬化物複合体シートの熱抵抗を低下させることができる。無機化合物の熱伝導率は、無機化合物を長さ10mm×幅10mm×厚さ2mmに形成した試料について、レーザーフラッシュ法により測定される。
【0019】
多孔質セラミックス中の細孔のメディアン孔径は、例えば0.5μm以上であってよく、細孔内に熱硬化性組成物を好適に充填できる観点から、好ましくは0.6μm以上、より好ましくは0.8μm以上、さらに好ましくは1μm以上である。細孔の平均孔径は、半硬化物複合体シートの絶縁性が向上する観点から、好ましくは、4.0μm以下、3.0μm以下、2.5μm以下、2.0μm以下、又は1.5μm以下である。
【0020】
多孔質セラミックス中の細孔のメディアン孔径は、水銀ポロシメーターを用いて測定される細孔径分布(横軸:細孔径、縦軸:累積細孔容積)において、累積細孔容積が全細孔容積の50%に達する細孔径として定義される。水銀ポロシメーターとしては、島津製作所社製の水銀ポロシメーターを用いることができ、0.03気圧から4000気圧まで圧力を増やしながら加圧して測定する。
【0021】
多孔質セラミックスに占める細孔の割合(気孔率)は、多孔質体の全体積を基準として、熱硬化性組成物の充填による半硬化物複合体の強度向上が好適に図られる観点から、好ましくは10体積%以上、20体積%以上、又は30体積%以上であり、半硬化物複合体の絶縁性及び熱伝導率を向上させる観点から、好ましくは70体積%以下、より好ましくは60体積%以下、さらに好ましくは50体積%以下である。当該割合(気孔率)は、多孔質セラミックスの見掛け体積及び質量から求められるかさ密度D1(g/cm)と多孔質セラミックスを構成する材料の理論密度D2(例えば窒化ホウ素の場合は2.28g/cm)とから、下記式:
気孔率(体積%)=[1-(D1/D2)]×100
に従って算出される。
【0022】
半硬化物複合体シート中の多孔質セラミックスの割合は、半硬化物複合体シートの絶縁性及び熱伝導率を向上させる観点から、好ましくは30体積%以上、より好ましくは40体積%以上、さらに好ましくは50体積%以上である。半硬化物複合体シート中の多孔質セラミックスの割合は、例えば、90体積%以下、80体積%以下、70体積%以下、又は60体積%以下であってよい。
【0023】
熱硬化性組成物は、熱硬化性を有する化合物を含む組成物である。熱硬化性組成物は、例えば、熱硬化性を有する化合物として、エポキシ化合物及びシアネート化合物を含有する。
【0024】
エポキシ化合物は、半硬化物として所望の粘度を有する化合物、又は多孔質セラミックスに含浸させる際に含浸に適する粘度を有する化合物であれば適用できる。エポキシ化合物としては、1,6-ビス(2,3-エポキシプロパン-1-イルオキシ)ナフタレン、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等が挙げられる。このうち、1,6-ビス(2,3-エポキシプロパン-1-イルオキシ)ナフタレンは、例えば、HP-4032D、(DIC株式会社製、商品名)として商業的に入手可能である。その他、エポキシ化合物の市販品として、EP-4000L、EP4088L、EP3950(以上、株式会社ADEKA製、商品名)、EXA-850CRP(DIC株式会社、商品名)、jER807、jER152、YX8000、YX8800(以上、三菱ケミカル株式会社製、商品名)が用いられる。エポキシ化合物としては、ビニル基を有する化合物も使用できる。ビニル基を有するエポキシ化合物としては、例えばTEPIC-FL、TEPIC-VL(以上、日産化学株式会社製、商品名)、MA-DGIC、DA-MGIC(以上、四国化成工業株式会社製、商品名)等が商業的に入手可能である。
【0025】
エポキシ化合物の含有量は、熱硬化性組成物全量基準で、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上であり、好ましくは85質量%以下、より好ましくは75質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下である。
【0026】
シアネート化合物としては、ジメチルメチレンビス(1,4-フェニレン)ビスシアナート、ビス(4-シアネートフェニル)メタン等が挙げられる。ジメチルメチレンビス(1,4-フェニレン)ビスシアナートは、例えば、TA-CN(商品名、三菱ガス化学株式会社製)として商業的に入手可能である。
【0027】
シアネート化合物の含有量は、熱硬化性組成物全量基準で、好ましくは5質量%以上、より好ましくは8質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上であり、好ましくは51質量%以下、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。
【0028】
熱硬化性組成物を所望の粘度の半硬化状態(詳細は後述)で保持する観点から、熱硬化性組成物に含まれるシアネート化合物のシアナト基に対する、エポキシ化合物のエポキシ基の当量比(エポキシ基当量/シアナト基当量)が、1.0以上である。当該当量比は、好ましくは1.5以上、より好ましくは2.0以上、さらに好ましくは2.5以上であり、また、熱硬化性組成を含浸させやすくする観点、及び半硬化物複合体の耐熱性を優れたものとする観点から、好ましくは、6.0以下、5.5以下、5.0以下、4.5以下、4.0以下、3.5以下、又は3.0以下である。
【0029】
熱硬化性組成物は、エポキシ化合物及びシアネート化合物を除く、熱硬化性を有する他の化合物をさらに含有してもよい。
【0030】
熱硬化性組成物は、所望の粘度の半硬化状態をより一層保持しやすくする観点から、エポキシ化合物及びシアネート化合物とは別に硬化剤をさらに含有してもよい。一実施形態において、熱硬化性組成物は、エポキシ化合物の硬化剤を含有する。エポキシ化合物の硬化剤は、エポキシ化合物と架橋構造を形成する化合物である。
【0031】
エポキシ化合物の硬化剤は、好ましくは、ベンゾオキサジン化合物、エステル化合物、及びフェノール化合物からなる群より選択される少なくとも一種を含有する。
【0032】
ベンゾオキサジン化合物としては、ビスフェノールF型ベンゾオキサジン化合物等が挙げられる。ビスフェノールF型ベンゾオキサジン化合物は、例えば、F-a型ベンゾオキサジン(商品名、四国化成工業株式会社製)として商業的に入手可能である。
【0033】
エステル化合物としては、フタル酸ジフェニル、フタル酸ベンジル2-エチルヘキシル等が挙げられる。エステル化合物は、活性エステル化合物であってもよい。活性エステル化合物とは、構造中にエステル結合を1つ以上有し、かつ、エステル結合の両側に芳香族環が結合している化合物をいう。
【0034】
フェノール化合物としては、フェノール、クレゾール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、トリフェノールメタン型樹脂、フェノールアラルキル樹脂(フェニレン骨格、ビフェニレン骨格等を有するもの)、ナフトールアラルキル樹脂、アリルフェノール樹脂等が挙げられる。これらは、単独で用いられてよく、二種以上を混合して用いられてもよい。フェノール化合物は、例えば、TD2131、VH4150(商品名、DIC株式会社製)、MEHC-7851M、MEHC-7500、MEH8005、MEH8000H(商品名、明和化成株式会社製)として商業的に入手可能である。
【0035】
熱硬化性組成物がエポキシ化合物の硬化剤を含有する場合、硬化剤の含有量は、熱硬化性組成物全量基準で、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは7質量%以上であり、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下である。
【0036】
熱硬化性組成物は、上述した化合物以外に、硬化促進剤をさらに含有してもよい。硬化促進剤は、硬化反応の触媒として機能する成分(触媒型硬化剤)が含まれる。熱硬化性組成物が硬化促進剤を含有することにより、後述する、エポキシ化合物とシアネート化合物との反応、エポキシ化合物の自己重合反応、及び/又はエポキシ化合物とエポキシ化合物の硬化剤との反応を進めやすくすることができ、半硬化物を所望の粘度の半硬化状態で維持しやすくすることもできる。このような成分としては、有機金属塩、リン化合物、イミダゾール誘導体、アミン化合物、又はカチオン重合開始剤等が挙げられる。硬化剤は、これらを1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いられてよい。
【0037】
有機金属塩としては、ビス(2,4-ペンタンジオナト)亜鉛(II)、オクチル酸亜鉛、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸銅、アセチルアセトン鉄、オクチル酸ニッケル、オクチル酸マンガン等の有機金属塩類などが挙げられる。
【0038】
リン化合物としては、テトラフェニルホスホニウムテトラ-p-トリルボレート、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィン、トリ-p-トリルホスフィン、トリス(4-クロロフェニル)ホスフィン、トリス(2,6-ジメトキシフェニル)ホスフィン、トリフェニルホスフィントリフェニルボラン、テトラフェニルホスホニウムジシアナミド、テトラフェニルホスホニウムテトラ(4-メチルフェニル)ボレート等が挙げられる。
【0039】
イミダゾール誘導体としては、1-(1-シアノメチル)-2-エチル-4-メチル-1H-イミダゾール、2-エチルー4-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2,4,5-トリフェニルイミダゾール等が挙げられる。
【0040】
アミン化合物としては、ジシアンジアミド、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリ-n-オクチルアミン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン、ベンジルジメチルアミン、4-メチル-N,N-ジメチルベンジルアミン、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、4-ジメチルアミノピリジン等が挙げられる。
【0041】
カチオン重合開始剤としては、ベンジルスルホニウム塩、ベンジルアンモニウム塩、ベンジルピリジニウム塩、ベンジルホスホニウム塩、ヒドラジニウム塩、カルボン酸エステル化合物、スルホン酸エステル化合物、アミンイミド、五塩化アンチモン-塩化アセチル錯体、ジアリールヨードニウム塩-ジベンジルオキシ銅等があげられる。
【0042】
上述した硬化促進剤の含有量は、エポキシ化合物、シアネート化合物、及び場合によりエポキシ化合物の硬化剤の合計100質量部に対して、0.001質量部以上、0.01質量部以上、又は0.05質量部以上であってよく、1質量部以下、0.8質量部以下、0.5質量部以下、0.3質量部以下、又は0.1質量部以下であってよい。この含有量の範囲とすることにより、半硬化物を所望の粘度で維持しやすくすることができる。
【0043】
半硬化物複合体は、上述した熱硬化性組成物の半硬化物を備えている。熱硬化性組成物の半硬化物(単に「半硬化物」ともいう。)は、熱硬化性組成物の硬化反応が一部進行した状態の硬化物をいう。一実施形態において、半硬化物は、エポキシ化合物とシアネート化合物との反応物(硬化物)と、未硬化のエポキシ化合物とを含有する。半硬化物には、未硬化のシアネート化合物が一部含まれていてもよく、エポキシ化合物の硬化物(例えば、エポキシ化合物が自己重合反応によって硬化した硬化物)が一部含まれていてもよい。
【0044】
半硬化物複合体に半硬化物が含まれていることは、以下の方法で測定される半硬化物複合体の接着強度を測定することにより確認することができる。まず、後述する方法により半硬化物複合体をシート状に成形し、このシートを2枚の銅板間に配置し、200℃及び10MPaの条件下で5分間加熱及び加圧して、さらに200℃及び大気圧の条件下で2時間加熱して積層体を得る。次に、JIS K 6854-1:1999「接着剤-はく離接着強さ試験方法」に従って、90°はく離試験を行い、凝集破壊部分の面積を測定する。その結果、凝集破壊部分の面積が30面積%以上であれば、半硬化物複合体に半硬化物が含まれているということができる。
【0045】
次に、半硬化物複合体シートの製造方法を説明する。例えば、半硬化物複合体シートの製造方法は、エポキシ化合物及びシアネート化合物を含有する熱硬化性組成物を多孔質体に含浸させる工程(含浸工程)と、熱硬化性組成物を含浸させた多孔質体を、シアネート化合物が反応する温度T1で加熱する工程(半硬化工程)と、熱硬化性組成物を含浸させた多孔質体をスライスする工程(シート化工程)とを備える。ただし、多孔質体をスライスする工程を経ることなく、予めシート化された多孔質体に熱硬化性組成物を含浸させてもよい。
【0046】
含浸工程では、一実施形態において、まず、上述の多孔質体を用意する。多孔質体は原料の焼結等によって作製してもよいし、市販品を用いてもよい。多孔質体が無機化合物の焼結体である場合には、無機化合物を含む粉末を焼結させることにより、多孔質体を得ることができる。すなわち、一実施形態において、含浸工程は、無機化合物を含有する粉末(以下、無機化合物粉末ともいう)を焼結させて、多孔質体である無機化合物の焼結体を得る工程を有する。
【0047】
無機化合物の焼結体は、無機化合物の粉末を含むスラリーを噴霧乾燥機等で球状化処理し、さらに成形した後に焼結し、多孔質体である焼結体を調製してもよい。成形には、金型プレス成形法を用いてもよく、冷間等方加圧(cold isostatic pressing:CIP)法を用いてもよい。
【0048】
焼結の際には、焼結助剤を用いてもよい。焼結助剤は、例えば、酸化イットリア、酸化アルミナ及び酸化マグネシウム等の希土類元素の酸化物、炭酸リチウム及び炭酸ナトリウム等のアルカリ金属の炭酸塩、並びにホウ酸等であってよい。焼結助剤を配合する場合は、焼結助剤の添加量は、例えば、無機化合物及び焼結助剤の合計100質量部に対して、0.01質量部以上、又は0.1質量部以上であってよい。焼結助剤の添加量は、無機化合物及び焼結助剤の合計100質量部に対して、20質量部以下、15質量部以下、又は10質量部以下であってよい。焼結助剤の添加量を上記範囲内とすることで、焼結体の平均細孔径を上述の範囲に調整することが容易となる。
【0049】
無機化合物の焼結温度は、例えば、1600℃以上又は1700℃以上であってよい。窒化物の焼結温度は、例えば、2200℃以下、又は2000℃以下であってよい。無機化合物の焼結時間は、例えば、1時間以上であってよく、30時間以下であってよい。焼結時の雰囲気は、例えば、窒素、ヘリウム、及びアルゴン等の不活性ガス雰囲気下であってよい。
【0050】
焼結には、例えば、バッチ式炉及び連続式炉等を用いることができる。バッチ式炉としては、例えば、マッフル炉、管状炉、及び雰囲気炉等を挙げることができる。連続式炉としては、例えば、ロータリーキルン、スクリューコンベア炉、トンネル炉、ベルト炉、プッシャー炉、及び琴形連続炉等を挙げることができる。
【0051】
含浸工程では、続いて、含浸装置内に熱硬化性組成物を含む溶液を用意し、当該溶液に多孔質体を浸漬させることや大気雰囲気下で多孔質体に熱硬化性組成物を含む溶液を塗工することで、多孔質体の細孔に熱硬化性組成物を含浸させる。
【0052】
含浸工程は、大気雰囲気下や減圧条件下及び加圧条件下のいずれで行ってもよく、減圧条件下での含浸と、加圧条件下での含浸とを組み合わせて行ってもよい。減圧条件下で含浸工程を実施する場合における含浸装置内の圧力は、例えば、1000Pa以下、500Pa以下、100Pa以下、50Pa以下、又は20Pa以下であってよい。加圧条件下で含浸工程を実施する場合における含浸装置内の圧力は、例えば、1MPa以上、3MPa以上、10MPa以上、又は30MPa以上であってよい。
【0053】
多孔質体へ熱硬化性組成物を含浸させる際には、熱硬化性組成物を加熱してもよい。熱硬化性組成物を加熱することによって、溶液の粘度が調整され、多孔質体への含浸が促進される。含浸のために熱硬化性組成物を加熱する温度は、後述する温度T1を超える温度であってよい。この場合、含浸のために熱硬化性組成物を加熱する温度は、後述する硬化工程における温度T2よりも低温であってよい。熱硬化性組成物を加熱する温度の上限は、温度T1+20℃の温度以下であってもよい。
【0054】
含浸工程では、熱硬化性組成物を含む溶液に多孔質体を浸漬または塗工した状態で所定の時間だけ保持する。当該所定の時間(浸漬時間)は、特に制限されず、例えば、5分以上、30分以上、1時間以上、5時間以上、10時間以上、100時間以上、又は150時間以上であってよい。
【0055】
半硬化工程では、熱硬化性組成物が含浸された多孔質体を、シアネート化合物が反応する温度T1で加熱する。これにより、熱硬化性組成物中に含まれるシアネート化合物が反応して、半硬化物が得られる。このとき、シアネート化合物同士が反応してよく、シアネート化合物とエポキシ化合物の一部とが反応してもよい。一方、熱硬化性組成物においては、上述したように、シアネート化合物のシアナト基に対する、エポキシ化合物のエポキシ基の当量比が1.0以上である。すなわち、半硬化物においては、エポキシ化合物がエポキシ当量としてシアネート化合物よりも過剰に含まれており、これらのエポキシ化合物が未硬化の状態で残存している。その結果、熱硬化性組成物の半硬化物が得られる。
【0056】
温度T1は、多孔質体に半硬化物を十分に含浸させる観点から、好ましくは70℃以上、より好ましくは80℃以上、さらに好ましくは90℃以上である。温度T1は、時間に対する粘度変化を小さくする観点から、好ましくは180℃以下、より好ましくは150℃以下、さらに好ましくは120℃以下である。なお、温度T1は、熱硬化性組成物を含浸させた多孔質体を加熱する際の雰囲気温度を指す。
【0057】
半硬化工程における加熱時間は、1時間以上、3時間以上、又は5時間以上であってよく、12時間以下、10時間以下、又は8時間以下であってよい。
【0058】
上述の半硬化物複合体では、一部の化合物(主にエポキシ化合物)が未硬化で含まれているため、熱硬化性組成物が完全硬化した硬化物よりも被着体への接着性に優れる。また、この半硬化物複合体では、未硬化の化合物が硬化する温度(詳細は後述する)で加熱しない限り、未硬化の状態が長期間保持されるため、被着体への接着性に優れる所望の粘度を容易に保持することができる。これにより、ハンドリング性に優れた半硬化物複合体を得ることができる。
【0059】
シート化工程では、例えば、ワイヤーソーを使用して、熱硬化性組成物を含浸させた多孔質体をスライスする。これにより、所望の厚さを有する半硬化物複合体シートを得ることができる。なお、熱硬化性組成物を含浸させる前の多孔質体をスライスして、シート状の多孔質体を作製し、シート状の多孔質体に熱硬化性組成物を含浸することにより、硬化物複合体シートを得てもよい。また、多孔質体を作製する段階でシート状に成型、焼結し、シート状の多孔質体に熱硬化性組成物を含浸することにより、硬化物複合体シートを得てもよい。
【0060】
<板状部材>
板状部材30は、図1に示すように、金属箔切断加工品20と嵌合する開口部31を有する。板状部材30は、図1に示すように、金属箔切断加工品20と嵌合する開口部31を有する第1の板状部材30aと、金属箔切断加工品20と嵌合する開口部31を有し、第1の板状部材30a及び半硬化物複合シート10の接着を防ぐ剥離シートである第2の板状部材30bとからなることが好ましい。なお、この場合、板状部材30の厚さは、第1の板状部材30aの厚さ及び第2の板状部材30bの厚さの合計の厚さである。この場合、工程(A)では、図2(a)に示すように、第2の板状部材30bを半硬化物複合体シート10の上に配置し、その後、図2(b)に示すように、第1の板状部材30aを第2の板状部材30bの上に配置する。
【0061】
第1の板状部材30aを構成する材料には、例えば、銅、アルミニウム、鉄、ニッケル、マグネシウム、などの金属及びそれらの合金、ポリアミド、ポリイミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリテトラフルオロエチレンなどのプラスチック、窒化アルミ、窒化ケイ素などのセラミックスなどが挙げられる。後述するように、板状部材30aの開口部に金属箔切断加工品20を嵌合させた後、第1の板状部材30a及び金属箔切断加工品20を加熱することから、第1の板状部材30aの熱膨張係数は、金属箔切断加工品20の熱膨張係数に近い値であるか、または同じ値であることが好ましい。このような観点から、これらの材料の中で、第1の板状部材30aを構成する材料は、金属箔切断加工品20を構成する材料と同じものであることが好ましい。
【0062】
第2の板状部材30bは、半硬化物複合シート10に対して剥離性を有する板状もしくはシート状の部材であれば、特に限定されない。半硬化物複合シート10に対する剥離性の観点及び耐熱性の観点から、第2の板状部材30bは、好ましくはフッ素樹脂シート及びシリコーン樹脂であり、より好ましくはフッ素樹脂である。また、第2の板状部材30bは、シリコーン系剥離剤、アルキルペンダント系剥離剤、縮合ワックス剥離剤などの剥離剤を使用して剥離処理が実施された、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのプラスチックシートであってもよい。
【0063】
また、板状部材30は、第1の板状部材30aのみからなるものであってもよい。この場合、第1の板状部材30aは、半硬化物複合シート10に対して剥離性を有する材料により構成されることが好ましい。例えば、第1の板状部材30aは、フッ素樹脂またはシリコーン樹脂からなる板状部材であってもよい。また、剥離剤を使用して、第1の板状部材30aの表面を剥離処理して、第1の板状部材30aが、半硬化物複合シート10に対して剥離性を有するようにしてもよい。さらに、フッ素樹脂またはシリコーン樹脂などの、半硬化物複合シート10に対して剥離性を有する材料の層を第1の板状部材30aの表面に形成してもよい。
【0064】
第1の板状部材30a及び第2の板状部材30bの開口部31は、通常の切断加工法により形成することができる。切断加工法には、例えば、切削加工法、砥粒加工法、ウォータージェット加工法、溶断加工法、レーザー加工法、電子ビーム加工法、放電加工法などの除去切断加工法、せん断加工法、ナイフ刃切断加工法などの破壊切断加工法などが挙げられる。これらの切断加工法の中で、切断効率の観点から破壊切断加工法が好ましく、切断輪郭及び切断面性状の制御の観点から、せん断加工法がより好ましい。この場合、抜き落とされるものがスクラップとなり、穴側が製品となるので、この場合のせん断加工法は、穴あけ(穴抜き)加工法である。なお、せん断加工法には、金型が必要であるので、試作段階では、第1の板状部材30a及び第2の板状部材30bの開口部31は、除去切断加工法により形成してもよい。
【0065】
(工程(B))
工程(B)では、図2(c)に示すように、板状部材30の開口部31に嵌合させて、板状部材30を配置した半硬化物複合体シート10の上に金属箔切断加工品20を配置する。これにより、目的とする位置に金属箔切断加工品20を正確に配置することができる。
【0066】
<金属箔切断加工品>
金属箔切断加工品20は、金属箔を切断加工して得られた加工品であり、図1及び図2(d)に示すように、回路基板1の表面に形成する金属パターン3の一部または全部の輪郭と同じ輪郭を有する。金属箔切断加工品20を構成する材料には、例えば、銅、アルミニウム、ニッケル、鉄、スズ、金、銀、モリブデン、チタニウム、ステンレスなどが挙げられる。これらの金属は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの金属の中で、電気伝導率の観点及びコストの観点から、銅及びアルミニウムが好ましく、銅がより好ましい。
【0067】
上述したように、金属箔切断加工品20は、金属箔を切断加工して得られたものである。金属箔切断加工品20を得るための金属箔の切断加工法は、金属箔を切断することができれば、特に限定されない。金属箔切断加工品20を得るための金属箔の切断加工法には、例えば、切削加工法、砥粒加工法、ウォータージェット加工法、溶断加工法、レーザー加工法、電子ビーム加工法、放電加工法などの除去切断加工法、せん断加工法、ナイフ刃切断加工法などの破壊切断加工法などが挙げられる。これらの切断加工法の中で、切断効率の観点から破壊切断加工法が好ましく、切断輪郭及び切断面性状の制御の観点から、せん断加工法がより好ましい。
【0068】
回路基板1の表面に形成される金属パターン3のジュール熱発生を抑制する観点から、金属箔切断加工品20の厚さは、好ましくは0.3mm以上であり、より好ましくは0.5mm以上であり、さらに好ましくは1.0mm以上である。また、パワーモジュールの小型化の観点から、金属箔切断加工品20の厚さは、好ましくは5.0mm以下であり、より好ましくは4.0mm以下であり、さらに好ましくは3.0mm以下である。
【0069】
(工程(C))
工程(C)では、板状部材30(30a、30b)及び金属箔切断加工品20を配置した半硬化物複合体シート10を加熱しながら加圧して第1の積層体41(図2(c)参照)を作製する。このとき、板状部材30(30a、30b)によって、半硬化物複合体シート10の金属箔切断加工品20が配置されていない領域においても、半硬化物複合体シート10の金属箔切断加工品20が配置されている領域と同様に加圧されることになる。これにより、半硬化物複合体シート10における金属箔切断加工品20が配置されている領域と金属箔切断加工品20が配置されていない領域との間の境界で生じる厚さ方向のズレの発生を抑制できる。その結果、半硬化物複合体シート10のクラック発生を抑制できる。
【0070】
金属箔切断加工品20の厚さ及び板状部材30の厚さ(第1の板状部材30aの厚さ及び第2の板状部材30bの厚さの合計の厚さ)の間の差の絶対値は、0.25mm以下である。金属箔切断加工品20の厚さ及び板状部材30の厚さの間の差の絶対値が0.25mmよりも大きいと、工程(C)において、半硬化物複合体シート10における金属箔切断加工品20が配置されている領域と金属箔切断加工品20が配置されていない領域との間の境界で厚さ方向の大きなズレが発生する。その結果、半硬化物複合体シート10にクラックが発生する。半硬化物複合体シート10のクラック発生を抑制するという観点から、金属箔切断加工品20の厚さ及び板状部材30の厚さ(第1の板状部材30aの厚さ及び第2の板状部材30bの厚さの合計の厚さ)の間の差の絶対値は、好ましくは0.25mm以下であり、より好ましくは0.10mm以下であり、さらに好ましくは0mmである。また、半硬化物複合体シート10のクラック発生を抑制するという観点から、金属箔切断加工品20の厚さ及び板状部材30の厚さの間の差の絶対値は、半硬化物複合体シート10の厚みに対し、好ましくは60%以下としてもよく、より好ましくは30%以下としてもよく、さらに好ましくは10%以下としてもよい。
【0071】
工程(C)における加圧条件は、加熱温度が好ましくは160~250℃であり、より好ましくは180~200℃であり、圧力は、好ましくは3.0~25.0MPaであり、より好ましくは5.0~25.0MPaであり、加圧時間は、好ましくは3分~3時間であり、より好ましくは5分~1時間である。特に圧力を10~20MPaにすることで接着性が極めて高く、絶縁性も高い回路基板を製造できる。
【0072】
(工程(D))
工程(D)では、図2(d)に示すように、第1の積層体41から板状部材30(30a.30b)を除去して第2の積層体42を作製する。これにより、多孔質セラミックスと、多孔質セラミックスの空隙を充填する熱硬化性組成物の硬化物とを含む硬化物複合体層2と、硬化物複合体層2の表面に設けられた金属パターン3とを含み、金属パターン3の側面の凹み量を金属パターン3の厚さで割り算した値及び金属パターン3の側面の広がり量を金属パターン3の厚さで割り算した値が0.055以下である回路基板1を得ることができる。
【0073】
なお、金属パターン3の側面の凹み量は、図3(a)に示すように、金属パターン3の硬化物複合体層側の面の反対側の面32の端を基準とした、金属パターン3の側面における金属パターン3の内側に最も凹んでいる部分の深さ(d1)である。一方、金属パターン3の側面の広がり量は、図3(b)に示すように、金属パターン3の硬化物複合体層側の面の反対側の面32の端を基準とした、金属パターン3の側面における金属パターン3の外側に最も広がった部分の広がり量(d2)である。
【0074】
なお、金属パターン3をエッチングにより形成した場合、エッチングは金属パターン3の厚さ方向のみならず、目的としない横方向にも進行する。このため、通常、金属パターン3の側面の凹み量(d1)を金属パターン3の厚さで割り算した値及び金属パターン3の側面の広がり量(d2)を金属パターン3の厚さで割り算した値の少なくとも一方の値が0.055よりも大きくなる。一方、本発明の一実施形態の回路基板の製造方法にて製造された回路基板1は、金属パターン3を切断加工法により、特にせん断加工法により形成するので、金属パターンの側面である切断面の性状を正確に制御できる。その結果、金属パターン3の側面の凹み量を金属パターン3の厚さで割り算した値及び金属パターン3の側面の広がり量を金属パターン3の厚さで割り算した値を0.055以下、好ましくは0.04以下、より好ましくは0.02以下、さらに好ましくは0.01以下にすることができる。なお、上記値の範囲の下限値は、例えば0.00である。
【0075】
エッチングにより形成した金属パターンの側面は、金属箔を除去することにより形成した側面であるので、除去加工面となる。このため、回路基板1の金属パターン3の側面が、破壊切断加工法により形成された側面である場合、破壊面となるので、エッチングにより形成した金属パターンの側面と、側面の組織の点でも異なる。特に、回路基板1の金属パターン3の側面が金属箔をせん断加工して得られた側面である場合、せん断面及び破断面を含む。せん断面は、工具の食い込みによって大きなせん断歪みを受けた面であり、工具の側面によりバニシ加工された光沢のある平滑な部分である。一方、破断面は、亀裂が生じて破断した部分であるので、結晶粒面が現れ、微小な凹凸がある部分である。エッチングにより形成した金属パターンの側面には、このようなせん断面及び破断面は現れない。
【0076】
回路基板1の表面に形成される金属パターン3のジュール熱発生を抑制する観点から、金属パターン3の厚さは、好ましくは0.3mm以上であり、より好ましくは0.5mm以上であり、さらに好ましくは1.0mm以上である。また、パワーモジュールの小型化の観点から、金属パターン3の厚さは、好ましくは5.0mm以下であり、より好ましくは4.0mm以下であり、さらに好ましくは3.0mm以下である。
【0077】
(回路基板の製造方法の変形例)
本発明の一実施形態の回路基板の製造方法は、以下のように変形することができる。
<変形例1>
図4に示すように、本発明の一実施形態の回路基板の製造方法の変形例では、メタルベース板50をさらに使用してもよい。そして、回路基板1A(図5(e)参照)は、硬化物複合体層2の金属パターン側の面とは反対側の面に設けられたメタルベース板4をさらに含むことになる。これにより、回路基板1Aの強度及び放熱性が改善される。本発明の一実施形態の回路基板の製造方法の変形例は、メタルベース板50の上に半硬化物複合体シート10を配置する工程(図5(a)参照)をさらに含む。その結果、工程(A)は、メタルベース板50の上に配置した半硬化物複合体シート10の上に板状部材30(30a,30b)を配置し(図5(b)及び(c)参照)、工程(B)は、メタルベース板50の上に配置した半硬化物複合体シート10の上に金属箔切断加工品20を配置し(図5(d)参照)、工程(C)では、メタルベース板50の上に配置され、板状部材30(30a,30b)及び金属箔切断加工品20を配置した半硬化物複合体シート10を加熱しながら加圧して第1の積層体41Aを作製し(図5(d)参照)、工程(D)では、第1の積層体41Aから板状部材30(30a,30b)を除去して第2の積層体42Aを作製することになる(図5(e)参照)。
【0078】
メタルベース板50を構成する材料には、例えば、銅、アルミニウム、ニッケル、鉄、スズ、金、銀、モリブデン、チタニウム、ステンレスなどが挙げられる。これらの金属は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの金属の中で、熱伝導率の観点及びコストの観点から、銅及びアルミニウムが好ましい。またメタルベース板は、板状の形状に限定されず、フィンまたはピン状に加工されていても良い。
【0079】
回路基板1Aの強度改善の観点から、メタルベース板50の厚さは、好ましくは0.3mm以上であり、より好ましくは1.0mm以上であり、さらに好ましくは3.0mm以上である。また、パワーモジュールの小型化の観点から、メタルベース板50の厚さは、好ましくは50.0mm以下であり、より好ましくは30.0mm以下であり、さらに好ましくは15.0mm以下である。
【0080】
<変形例2>
本発明の一実施形態の回路基板の製造方法の変形例は第1の積層体41または第2の積層体42を加熱して硬化させる工程をさらに含んでもよい。これにより、半硬化物複合体シート10中の半硬化物を、より確実に硬化させることができる。この工程における加熱温度は、好ましくは130~250℃であり、より好ましくは150~200℃であり、加熱時間は、好ましくは5分~24時間であり、より好ましくは60分~5時間である。上記加熱温度まで、一定の昇温速度で連続的に加熱温度を昇温してもよいし、段階的に加熱温度を昇温してもよい。例えば、250℃の加熱温度まで段階的に加熱温度を昇温する場合、所定の昇温速度で150℃の加熱温度まで昇温した後、150℃の加熱温度で6時間保持し、所定の昇温速度で150℃の加熱温度から180℃の加熱温度まで昇温した後、180℃の加熱温度で4時間保持し、所定の昇温速度で180℃の加熱温度から200℃の加熱温度まで昇温した後、200℃の加熱温度で4時間保持し、所定の昇温速度で200℃の加熱温度から250℃の加熱温度まで昇温した後、250℃の加熱温度で4時間保持してもよい。また、0.1~25MPaの圧力で加圧しながら、第1の積層体41または第2の積層体42を加熱してもよい。
【0081】
<変形例3>
金属箔切断加工品を半硬化物複合体シートに、貼り付け、加圧するとき、半硬化物複合体シートにおける金属箔切断加工品が配置されている領域と金属箔切断加工品が配置されていない領域との間の境界で厚さ方向の大きなズレが発生しないようにする方法として、板状部材を用いず、工程(C)における加圧条件を1.0~8.0MPaに設定する方法でもよい。このような観点から、工程(C)における加圧条件は、好ましくは2.0~7.0MPaであり、より好ましくは3.0~6.0MPaである。
【0082】
本発明の一実施形態の回路基板の製造方法及びその変形例は、本発明の回路基板の製造方法の一例にすぎない。したがって、本発明の回路基板の製造方法は、本発明の一実施形態の回路基板の製造方法及びその変形例に限定されない。
【0083】
[回路基板]
以下、図2(d)及び図3を参照して、本発明の一実施形態の回路基板1を説明する。本発明の一実施形態の回路基板1は、多孔質セラミックスと、多孔質セラミックスの空隙を充填する熱硬化性組成物の硬化物とを含む硬化物複合体層2と、硬化物複合体層2の表面に設けられた金属パターン3とを含む。そして、金属パターン3の側面の凹み量(d1)を金属パターン3の厚さで割り算した値及び金属パターン3の側面の広がり量(d2)を金属パターン3の厚さで割り算した値が0.055以下である。これにより、金属パターンの占有面積が小さくなり回路基板の小型化が可能である。また、金属パターン3のより精密な制御が可能となる。このような観点から、金属パターン3の側面の凹み量(d1)を金属パターン3の厚さで割り算した値及び金属パターン3の側面の広がり量(d2)を金属パターン3の厚さで割り算した値は、好ましくは0.04以下、より好ましくは0.02以下、さらに好ましくは0.01以下である。上記値の範囲の下限値は、例えば0.00である。
なお、回路基板1の硬化物複合体層2及び金属パターン3は、上述の本発明の一実施形態の回路基板の製造方法の項目で説明したものと同様であるので、回路基板1の硬化物複合体層2及び金属パターン3の説明は省略する。
【0084】
(絶縁性)
本発明の一実施形態の回路基板は、クラックが生じないか、又は非常に少ないため、優れた絶縁性を有する。具体的には実施例に記載の方法で測定した絶縁破壊電圧が3.5kV以上である。絶縁破壊電圧が3.5kV未満であると、パワーモジュールに使用するには、回路基板の耐電圧性が不十分となる場合がある。このような観点から、本発明の一実施形態の回路基板の絶縁破壊電圧は、好ましくは4.5kV以上である。なお、本発明の一実施形態の回路基板の絶縁破壊電圧の範囲の上限値は特に限定されないが、例えば、10kVである。
【0085】
(接着性)
本発明の一実施形態の回路基板は良好な接着性を有する。具体的には実施例に記載の方法で測定した黒色部面積比率は、好ましくは90面積%以上である。特に板状部材を用いた本発明の一実施形態の回路基板の製造方法であれば、本発明の一実施形態の回路基板は、96面積%以上の高い接着性を実現できる。
【0086】
(回路基板の変形例)
本発明の一実施形態の回路基板1は、以下のように変形することができる。
図5(e)に示すように、本発明の一実施形態の回路基板1Aは、硬化物複合体層2の金属パターン3側の面とは反対側の面に設けられたメタルベース板4をさらに含んでもよい。これにより、回路基板1Aの強度及び放熱性が改善される。なお、回路基板1Aのメタルベース板4は、上述の本発明の一実施形態の回路基板の製造方法の変形例の項目で説明したものと同様であるので、メタルベース板4の説明は省略する。
【0087】
本発明の一実施形態の回路基板及びその変形例は、本発明の回路基板の一例にすぎない。したがって、本発明の回路基板は、本発明の一実施形態の回路基板及びその変形例に限定されない。
【実施例
【0088】
以下、本発明について、実施例により、詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0089】
[空隙が熱硬化性組成物の半硬化物により充填された多孔質窒化ホウ素シートの作製]
(窒化ホウ素多孔体の作製)
容器に、アモルファス窒化ホウ素粉末(デンカ株式会社製、酸素含有量:1.5%、窒化ホウ素純度97.6%、平均粒径:6.0μm)が40.0質量%、六方晶窒化ホウ素粉末(デンカ株式会社製、酸素含有量:0.3%、窒化ホウ素純度:99.0%、平均粒径:30.0μm)が60.0質量%となるようにそれぞれ測り取り、焼結助剤(ホウ酸、炭酸カルシウム)を加えた後に有機バインダー、水を加え混合後、乾燥造粒し窒化物の混合粉末を調整した。
【0090】
上記混合粉末を金型に充填し、5MPaの圧力でプレス成形し、成形体を得た。次に、冷間等方加圧(CIP)装置(株式会社神戸製鋼所製、商品名:ADW800)を用いて、上記成形体を20~100MPaの圧力をかけて圧縮した。圧縮された成形体を、バッチ式高周波炉(富士電波工業株式会社製、商品名:FTH-300-1H)を用いて2000℃で10時間保持して焼結させることによって、窒化ホウ素多孔体を作製した。なお、焼成は、炉内に窒素を標準状態で流量を10L/分となるように流しながら、炉内を窒素雰囲気下に調整して行った。得られた窒化ホウ素多孔体の細孔の平均孔径は3.5μmであった。また、得られた窒化ホウ素多孔体の気孔率は45.0体積%であった。
【0091】
(熱硬化性組成物の作製)
熱硬化性組成物の作製には、下記の原料を使用した。
エポキシ化合物:商品名「HP-4032D」、DIC株式会社製
シアネート化合物:商品名「TA-CN」、三菱ガス化学株式会社製
ベンゾオキサジン化合物:商品名「F-a型ベンゾオキサジン」、四国化成工業株式会社製
金属系硬化促進剤:ビス(2,4-ペンタンジオナト)亜鉛(II)、東京化成工業株式会社製
【0092】
66質量部のエポキシ化合物、23質量部のシアネート化合物、及び、11質量部のベンゾオキサジン化合物又はエステル化合物を容器に投入した。さらに、エポキシ化合物、シアネート化合物及びベンゾオキサジン化合物の合計100質量部に対して0.01質量部の金属系硬化促進剤を容器に投入した。そして、容器に投入したこれらの原料を、80℃程度に加熱した状態で混合し、熱硬化性組成物を作製した。
【0093】
(多孔体の空隙への熱硬化性組成物の充填)
窒化ホウ素多孔体に、熱硬化性組成物を以下の方法で含浸させた。まず、真空加温含浸装置(商品名「G-555AT-R」、株式会社協真エンジニアリング製)に、窒化ホウ素多孔体と、容器に入れた上記熱硬化性組成物とを入れた。次に、100℃の脱気温度及び15Paの脱気圧力の条件下で、装置内を10分間脱気した。脱気後、同条件に維持したまま、窒化ホウ素多孔体を上記熱硬化性組成物に40分間浸漬し、熱硬化性組成物を窒化ホウ素多孔体に含浸させた。
【0094】
その後、窒化ホウ素多孔体及び熱硬化性組成物を入れた容器を取出し、加圧加温含浸装置(商品名「HP-4030AA-H45」、株式会社協真エンジニアリング製)に入れ、130℃の含浸温度及び3.5MPaの含浸圧力の条件下で、120分間保持することで、熱硬化性組成物を窒化ホウ素多孔体にさらに含浸させた。その後、熱硬化性組成物を含浸させた窒化ホウ素多孔体を装置から取出し、120℃の加熱温度及び大気圧の条件下で、熱硬化性組成物を含浸させた窒化ホウ素多孔体を所定時間加熱したところ、熱硬化性組成物は半硬化し、空隙が熱硬化性組成物の半硬化物により充填された窒化ホウ素多孔体を作製した。
【0095】
ワイヤーソーを用いて、得られた窒化ホウ素多孔体をスライスして、50mm×50mm×厚み0.3mmの空隙が熱硬化性組成物の半硬化物により充填された多孔質窒化ホウ素シートを作製した。
【0096】
多孔質窒化ホウ素シート以外に、回路基板を作製するために以下の部材を用意した。
金属箔切断加工品1:銅箔(白銅株式会社製、商品名「無酸素銅切板 JIS H3100 C1020P」、厚さ:3mm)を打ち抜き加工したもの(大きさ:15mm×15mm×3mm)(図1の金属箔切断加工品20参照)。
金属箔切断加工品2:銅箔(白銅株式会社製、商品名「無酸素銅切板 JIS H3100 C1020P」、厚さ:1mm)を打ち抜き加工したもの(大きさ:15mm×15mm×1mm)(図1の金属箔切断加工品20参照)。
板状部材1:銅箔(白銅株式会社製、商品名「無酸素銅切板 JIS H3100 C1020P」、厚さ:3mm)を50mm×50mmの大きさに切り出したものに穴開け加工により、15mm×15mmの穴を4つ開けたもの(図1の板状部材30a参照)。
板状部材2:銅箔(白銅株式会社製、商品名「無酸素銅切板 JIS H3100 C1020P」、厚さ:1mm)を50mm×50mmの大きさに切り出したものに穴開け加工により、15mm×15mmの穴を4つ開けたもの(図1の板状部材30a参照)。
板状部材3:テフロン(登録商標)シート(中興化成工業株式会社製、商品名「PTFEシート」、厚さ:0.05mm)を50mm×50mmの大きさに切り出したものに穴開け加工により、15mm×15mmの穴を4つ開けたもの(図1の板状部材30b参照)。
板状部材4:テフロン(登録商標)シート(中興化成工業株式会社製、商品名「PTFEシート」、厚さ:0.05mm)を50mm×50mmの大きさに切り出したものに穴開け加工により、15mm×15mmの穴を4つ開けたもの(図1の板状部材30b参照)。
アルミニウムベース板:アルミニウム板(日本軽金属株式会社製、商品名「高強度・高成形性板材(N532)5052材」、厚さ:5mm)を50mm×50mmの大きさに切り出したもの。
銅箔1:銅箔(白銅株式会社製、商品名「無酸素銅切板 JIS H3100 C1020P」、厚さ:3mm)を15mm×15mmの大きさに切り出したもの。
銅箔2:銅箔(白銅株式会社製、商品名「無酸素銅切板 JIS H3100 C1020P」、厚さ:1mm)を15mm×15mmの大きさに切り出したもの。
【0097】
[回路基板1の作製]
アルミニウムベース板の上に多孔質窒化ホウ素シートを配置し、多孔質窒化ホウ素シートの上に板状部材3を配置し、板状部材3の上に板状部材1を配置し、板状部材1及び板状部材3の開口部に嵌合させて、多孔質窒化ホウ素シートの上に4つの金属箔切断加工品1を配置して積層体を作製した。得られた積層体を180℃の加熱温度で加熱しながら、15MPaの圧力及び1時間の加圧時間で加圧した。その後、積層体を、1MPaの圧力で加圧しながら、150℃の加熱温度で6時間、180℃の加熱温度で4時間、200℃の加熱温度で4時間、及び250℃の加熱温度で4時間、加熱して回路基板1を得た(図5(e)の回路基板1A参照)。
【0098】
[回路基板2の作製]
アルミニウムベース板の上に多孔質窒化ホウ素シートを配置し、多孔質窒化ホウ素シートの上に板状部材4を配置し、板状部材4の上に板状部材2を配置し、板状部材2及び板状部材4の開口部に嵌合させて、多孔質窒化ホウ素シートの上に金属箔切断加工品1を配置して積層体を作製した。得られた積層体を180℃の加熱温度で加熱しながら、15MPaの圧力及び1時間の加圧時間で加圧した。その後、積層体を、1MPaの圧力で加圧しながら、150℃の加熱温度で6時間、180℃の加熱温度で4時間、200℃の加熱温度で4時間、及び250℃の加熱温度で4時間、加熱して回路基板2を得た(図5(e)の回路基板1A参照)。
【0099】
[回路基板3の作製]
板状部材1及び板状部材3を配置せず、接合のための加圧力を15MPaから5MPaに変更した以外は回路基板1の作製方法と同様の方法で回路基板3を作製した。
【0100】
[回路基板4の作製]
板状部材2及び板状部材4を配置せず、接合のための加圧力を15MPaから5MPaに変更した以外は回路基板2の作製方法と同様の方法で回路基板4を作製した。
【0101】
[回路基板5の作製]
板状部材1及び板状部材3を配置しない以外は回路基板1の作製方法と同様の方法で回路基板5を作製した。
【0102】
[回路基板6の作製]
板状部材2及び板状部材4を配置しない以外は回路基板2の作製方法と同様の方法で回路基板6を作製した。
【0103】
[回路基板7の作製]
アルミニウムベース板の上に多孔質窒化ホウ素シートを配置し、多孔質窒化ホウ素シートの上に銅箔1を配置して積層体を作製した。得られた積層体を180℃の加熱温度で加熱しながら、10MPaの圧力及び1時間の加圧時間で加圧した。その後、積層体を、1MPaの圧力で加圧しながら、150℃の加熱温度で6時間、180℃の加熱温度で4時間、200℃の加熱温度で4時間、及び250℃の加熱温度で4時間、加熱した。その後、ドライフィルムレジストを銅箔1の上に積層し、フォトマスクを使用して、ドライフィルムレジストにおいて金属パターンに対応する部分だけUV光を照射して、ドライフィルムレジストの金属パターンに対応する部分だけを硬化させた。そして、ドライフィルムレジストを現像した後、硫酸・過酸化水素エッチング液を使用して、積層体の銅箔におけるドライフィルムレジストが積層されていない部分を除去し、ドライフィルムレジストを剥離して、回路基板1と同様に、15mm×15mm×3mmの電極を表面に4つ備えた回路基板7を作製した。
【0104】
[回路基板8の作製]
銅箔1の代わりに銅箔2を使用した以外は、回路基板7の作製方法と同様の方法で、15mm×15mm×1mmの電極を表面に4つ備えた回路基板8を作製した。
【0105】
[評価方法]
作製した回路基板1~8について、以下の評価を行った。
(クラックの有無)
回路基板の多孔質窒化ホウ素シートの回路パターン周辺を目視で観察し、多孔質窒化ホウ素シートのクラックの有無を調べた。
【0106】
(絶縁性)
上述のようにして得られた回路基板について絶縁破壊電圧の評価を行った。具体的には、油中にて銅箔1または銅箔2に測定電極が接するよう設置し、JIS C2110-1:2016にしたがって、耐圧試験器(菊水電子工業株式会社製、装置名:TOS-8700)を用い、絶縁破壊電圧を測定した。測定結果から、以下の基準で絶縁性を評価した。結果を表1に示す。
A:絶縁破壊電圧が4.5kV以上
B:絶縁破壊電圧が3.5kV以上4.5kV未満
C:絶縁破壊電圧が3.5kV未満
【0107】
(接着性)
超音波探傷装置(商品名「FSP8VA FineSAT」、株式会社日立パワーソリューションズ製)にて回路基板の接着状態を確認した。超音波探傷像において剥離していない部分は接合部内の黒色部で示されることから、この黒色部面積にて接着性を評価した。
A:黒色部の面積比率が96面積%以上
B:黒色部の面積比率が90面積%以下96面積%未満
C:黒色部の面積比率が80面積%以上90面積%未満
【0108】
(金属パターンの側面の形状)
回路基板を厚み方向に切り出し、回路基板の断面を観察することができるサンプルを作製した。切り出したサンプルを樹脂に埋め込んだ後、自動研磨機を使用して、サンプルの回路基板の断面に相当する部分を湿式研磨した。研磨後のサンプルを乾燥させた後、研磨面をオスミウムでコーティングした。そして、走査型電子顕微鏡(SEM)(商品名「JCM-6000Plus」、日本電子株式会社製)を使用して、金属パターンの側面を観察し、金属パターンの厚さ、金属パターンの側面の凹み量(d1)及び金属パターンの側面の広がり量(d2)を測定した。そして、金属パターンの側面の凹み量を金属パターンの厚さで割り算した値及び金属パターンの側面の広がり量を金属パターンの厚さで割り算した値を算出した。そして、通常、金属パターンには垂直な側面が要求されるので、金属パターンの側面の形状特性を以下の基準で評価した。
A:金属パターンの側面の凹み量を金属パターンの厚さで割り算した値及び金属パターンの側面の広がり量を金属パターンの厚さで割り算した値の両方の値が0.04以下である。
C:金属パターンの側面の凹み量を金属パターンの厚さで割り算した値及び金属パターンの側面の広がり量を金属パターンの厚さで割り算した値の両方の値が0.055以下であり、かつ、金属パターンの側面の凹み量を金属パターンの厚さで割り算した値及び金属パターンの側面の広がり量を金属パターンの厚さで割り算した値の少なくとも一方の値が0.04超である。
C:金属パターンの側面の凹み量を金属パターンの厚さで割り算した値及び金属パターンの側面の広がり量を金属パターンの厚さで割り算した値の少なくとも一方の値が0.055超である。
【0109】
以上の評価の評価結果を表1に示す。
【0110】
【表1】
【0111】
実施例の回路基板1及び回路基板2の製造方法によれば、多孔質窒化ホウ素シートに、金属箔切断加工品を貼り付け、加圧しても、多孔質窒化ホウ素シートにクラックが発生しないことがわかった。また、板状部材を使用しない実施例の回路基板3及び回路基板4の製造方法によれば、多孔質窒化ホウ素シートに、金属箔切断加工品を貼り付け、1.0~8.0MPaの圧力で加圧すると、多孔質窒化ホウ素シートにクラックが発生しないことがわかった。一方、板状部材を使用しない比較例の回路基板5及び回路基板6の製造方法によれば、多孔質窒化ホウ素シートに、金属箔切断加工品を貼り付け、8.0MPaよりも大きな圧力で加圧すると、多孔質窒化ホウ素シートにクラックが発生することがわかった。また、比較例の回路基板7及び回路基板8から、エッチングにより金属パターンを形成すると、金属パターンの側面の凹み量を金属パターンの厚さで割り算した値及び金属パターンの側面の広がり量を金属パターンの厚さで割り算した値の一方の値が0.055mmよりも大きくなり、金属パターンの側面の形状特性が悪くなることがわかった。また、比較例の回路基板7及び回路基板8では、エッチングにより金属パターンを形成するので、回路基板の製造に時間がかかった。
【符号の説明】
【0112】
1,1A 回路基板
2 硬化物複合体層
3 金属パターン
4,50 メタルベース板
10 半硬化物複合体シート
20 金属箔切断加工品
30 板状部材
30a 第1の板状部材
30b 第2の板状部材
41,41A 第1の積層体
42,42A 第2の積層体
図1
図2
図3
図4
図5