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特許7328468養生用剥離フィルム、接着樹脂の養生方法、繊維シートの施工方法および構造物の補修方法
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  • 特許-養生用剥離フィルム、接着樹脂の養生方法、繊維シートの施工方法および構造物の補修方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】養生用剥離フィルム、接着樹脂の養生方法、繊維シートの施工方法および構造物の補修方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20230808BHJP
【FI】
E04G23/02 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023100144
(22)【出願日】2023-06-19
【審査請求日】2023-06-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000201490
【氏名又は名称】前田工繊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】出蔵 貴司
【審査官】油原 博
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-148230(JP,A)
【文献】特開平11-006305(JP,A)
【文献】特開2014-208968(JP,A)
【文献】特開2016-145369(JP,A)
【文献】特許第7153995(JP,B1)
【文献】特開2002-235444(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
B32B 1/00-43/00
E04C 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の補強または補修のために塗布した接着樹脂を被覆して養生する養生用剥離フィルムであって、
前記養生用剥離フィルムが接着樹脂の表面を大気から遮断して覆う樹脂製のフィルム本体と、
前記フィルム本体に一定のピッチで排気可能に開孔し、前記接着樹脂の表面に該接着樹脂と一体に複数の突部を一体に形成する複数の微孔とを有し、
前記フィルム本体が接着樹脂の養生後に接着樹脂の表面および複数の突部から剥離可能であることを特徴とする、
養生用剥離フィルム。
【請求項2】
前記微孔の口径が50~800μmの範囲であり、かつ前記微孔の形成ピッチが0.5~20mmの範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の養生用剥離フィルム。
【請求項3】
接着樹脂の表面を養生用剥離フィルムで被覆し、養生期間の経過後に養生用剥離フィルムを剥離する接着樹脂の養生方法であって、
前記接着樹脂の表面を請求項1に記載の養生用剥離フィルムで覆って養生する工程と、
前記接着樹脂の養生後に養生用剥離フィルムを剥離して接着樹脂の表面に該接着樹脂と一体に複数の突部を一体に形成する工程と、
前記複数の突部を形成した既設の接着樹脂の表面に別途の接着樹脂を積層して接着する工程とを具備することを特徴とする、
接着樹脂の養生方法。
【請求項4】
養生用剥離フィルムと繊維シートを併用して構造物に塗布した接着樹脂を含侵させて繊維シートを構造物に貼付する繊維シートの施工方法であって、
前記接着樹脂の表面を請求項1に記載の養生用剥離フィルムで覆って養生する工程と、
前記接着樹脂の養生後に養生用剥離フィルムを剥離して接着樹脂の表面に該接着樹脂と一体に複数の突部を一体に形成する工程と、
前記複数の突部を形成した既設の接着樹脂の表面に別途の接着樹脂を含侵接着させて繊維シートを構造物に貼付することを特徴とする、
繊維シートの施工方法。
【請求項5】
前記養生用剥離フィルムを用いた接着樹脂の養生工程と養生用剥離フィルムの剥離工程を繰り返して積層した複数の繊維シートを含侵接着することを特徴とする、請求項4に記載の繊維シートの施工方法。
【請求項6】
構造物の表面を接着樹脂で被覆する構造物の補修方法であって、
前記構造物の表面に接着樹脂を塗布した後に、
前記接着樹脂の表面を請求項1に記載の養生用剥離フィルムで覆って養生する工程と、
前記接着樹脂の養生後に養生用剥離フィルムを剥離して接着樹脂の表面に該接着樹脂と一体に複数の突部を一体に形成する工程と、
前記複数の突部を形成した接着樹脂の表面に別途の接着樹脂を塗布する工程とを繰り返し行って複数の接着樹脂を一体に積層して形成することを特徴とする、
構造物の補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は養生用剥離フィルム、接着樹脂の養生方法、繊維シートの施工方法および構造物の補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維シートを貼付した構造物の補修技術として、構造物の表面に予めプライマーを塗布した後、繊維シートを貼り付け、繊維シートに塗布したエポキシ樹脂系の接着樹脂をシート内に含浸させて硬化させることが知られている(特許文献1)。
施工にあたり、接着樹脂を用いて繊維シートを貼り付ける際、空気中の二酸化炭素と水分が接着樹脂中のアミンと反応することに、接着樹脂の表層に不純物の脆弱層(アミンブラッシング層)が形成されることが知られている。脆弱層を放置して繊維シートを貼り付けると層間密着性が阻害されて、繊維シートの層間に浮きや剥がれを生じる。
【0003】
このような不具合を解消するため、特許文献1には、繊維製の剥離シートを使用して脆弱層を除去することが開示されている
具体的には、構造物の表面に繊維シートを貼り付ける際、接着樹脂の硬化前に繊維製の剥離シートを接着面に押し付けながら接着することで、接着樹脂の表層に形成される脆弱層を繊維製の剥離シートの内部に含侵させ、接着樹脂の硬化を待って繊維製の剥離シートを剥離することで、脆弱層を除去しようとするものである。
【0004】
また特許文献2には、通気性のない剥離シートで接着樹脂の表面を覆うことで、アミンブラッシング現象の発生を抑制する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第7153995号公報
【文献】特開2002-235444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の繊維製の剥離シートはつぎの問題点を有している。
<1>塗布した接着樹脂の表面にタックがある状態のときに剥離シートを剥がそうとすると、剥離シートが剥がし難い。
特に気温の低い冬季に施工する場合は、塗布した接着樹脂の硬化に要する時間が長くなる。
そのため、接着樹脂の十分な硬化を待ってから剥離するため、剥離シートの剥離作業を終えるまでの時間が長くかかり、施工が遅れる要因となる。
<2>繊維製の剥離シートは接着樹脂の含浸性が優れるため、剥離シートを引き剥がす際に含浸した接着樹脂が剥離されることになって、構造部側に残る接着樹脂の塗布量が大幅に減る。
【0007】
特許文献2に記載の剥離シートはつぎの問題点を有している。
<1>剥離シートに通気性がないため、アミンブラッシング現象の発生を抑制できる反面、貼付面に空気溜まりが生じて施工面の品質が低下する。
そのため、アミンブラッシング現象の発生抑制と、空気溜まりの発生抑制の両立を図ることが難しい。
<2>剥離シートを剥がすと接着樹脂の表面が鏡面のような表面になるため、次層を接合する際における機械的接着性が劣ることになって、層間接着性が低くなる。
【0008】
本発明は既述した課題を解決できる、養生用剥離フィルム、接着樹脂の養生方法、繊維シートの施工方法および構造物の補修方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、構造物の補強または補修のために塗布した接着樹脂を被覆して養生する養生用剥離フィルムであって、前記養生用剥離フィルムが接着樹脂の表面を大気から遮断して覆う樹脂製のフィルム本体と、前記フィルム本体に一定のピッチで排気可能に開孔し、前記接着樹脂の表面に該接着樹脂と一体に複数の突部を一体に形成する複数の微孔とを有し、前記フィルム本体が接着樹脂の養生後に接着樹脂の表面および複数の突部から剥離可能である。
本発明の他の形態において、前記微孔12の口径dが50~800μmの範囲であり、かつ前記微孔の形成ピッチが0.5~20mmの範囲である。
本発明は、接着樹脂の表面を養生用剥離フィルムで被覆し、養生期間の経過後に養生用剥離フィルムを剥離する接着樹脂の養生方法であって、前記接着樹脂の表面を前記した養生用剥離フィルムで覆って養生する工程と、前記接着樹脂の養生後に養生用剥離フィルムを剥離して接着樹脂の表面に該接着樹脂と一体に複数の突部を一体に形成する工程と、前記複数の突部を形成した既設の接着樹脂の表面に別途の接着樹脂を積層して接着する工程とを具備する。
本発明は、養生用剥離フィルムと繊維シートを併用して構造物に塗布した接着樹脂を含侵させて繊維シートを構造物に貼付する繊維シートの施工方法であって、前記接着樹脂の表面を請求項1に記載の養生用剥離フィルムで覆って養生する工程と、前記接着樹脂の養生後に養生用剥離フィルムを剥離して接着樹脂の表面に該接着樹脂と一体に複数の突部を一体に形成する工程と、前記複数の突部を形成した既設の接着樹脂の表面に別途の接着樹脂を含侵接着させて繊維シートを構造物に貼付する。
本発明の他の形態において、前記養生用剥離フィルムを用いた接着樹脂の養生工程と養生用剥離フィルムの剥離工程を繰り返して積層した複数の繊維シートを含侵接着してもよい。
本発明は、構造物の表面を接着樹脂で被覆する構造物の補修方法であって、前記構造物の表面に接着樹脂を塗布した後に、前記接着樹脂の表面を請求項1に記載の養生用剥離フィルムで覆って養生する工程と、前記接着樹脂の養生後に養生用剥離フィルムを剥離して接着樹脂の表面に該接着樹脂と一体に複数の突部を一体に形成する工程と、前記複数の突部を形成した接着樹脂の表面に別途の接着樹脂を塗布する工程とを繰り返し行って複数の接着樹脂を一体に積層して形成する。
【発明の効果】
【0010】
本発明は少なくともつぎの一つの効果を奏する。
<1>養生用剥離フィルムは、アミンブラッシング現象の発生抑制と、空気溜まりの発生抑制の両立を図ることが可能であるので、従来と比べて接着樹脂の表面を高品質に養生することができる。
<2>養生用剥離フィルムを剥離した接着樹脂の表面に形成された複数の突部が、次層の接着樹脂を接合する際のジベル筋的作用を発揮するので、複数の接着樹脂を重ね塗りしたときの層間接着性が格段に高くなる。
<3>養生用剥離フィルムは接着樹脂の表面にタックがある状態であっても剥離フィルムのみを剥離することができる。
そのため、接着樹脂の硬化に長時間を要する低温環境下で施工する場合においても、完全硬化を待たずに剥離フィルムを簡単に剥離できるので、従来と比べて接着樹脂の施工期間を短縮することができる。
<4>養生用剥離フィルムは、繊維シートに接着樹脂を含侵接着させて構造物を補強する構造物の補強方法だけでなく、構造物の表面に接着樹脂を繰り返し塗布して補修する構造物の補修方法にも使用することができて汎用性に富む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一部を省略した本発明に係る養生用剥離フィルムの拡大斜視図
図2】養生用剥離フィルムを使用して繊維シートを接着する工程の説明図
図3】繊維シートを貼付した繊維シートと構造物の断面図
図4】養生用剥離フィルムの養生作用を説明するための養生用剥離フィルムと構造物の断面図
図5】養生用剥離フィルムの剥離時における接着樹脂の表層の断面図
図6】構造物の表面に接着樹脂のみを塗布する構造物の補修方法に適用した他の実施例のモデル図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に図面を参照しながら本発明について説明する。
本例では養生用剥離フィルム10(以下「剥離フィルム10」という)と液状またはパテ状の接着樹脂30を併用して繊維シート20を構造物40に貼り付けて補強する形態について説明する。
【0013】
<1>剥離フィルム
従来の剥離シートは、接着樹脂の表面に脆弱部が形成されることを前提として使用する繊維シートであり、未硬化の接着樹脂の表面に形成される脆弱部を繊維シートの内部に含侵させていた。
【0014】
本発明で使用する剥離フィルム10は、接着樹脂30の表面に脆弱部を形成させないためのフィルムであり、有孔構造を呈している。
【0015】
すなわち、剥離フィルム10は、遮蔽機能を有するフィルム本体11と、フィルム本体11に所定の間隔で開設した複数の微孔12とを有する。
【0016】
<1.1>フィルム本体
フィルム本体11は接着樹脂30を含浸させずに接着樹脂30の表面を被覆するための透水性および通気性を持たない。
フィルム本体11の素材に非通気性のフィルムを用いるのは、接着樹脂30の表面を大気から遮断してアミンブラッシング現象の発生を抑制するためである。
【0017】
フィルム本体11の材質としては、例えばOPPフィルム(二軸延伸ポリプロピレンフィルム)、PETフィルム、PPフィルム等を使用できる。
実用的には、OPPフィルムが好適である。リプロピレン材を伸ばして加工したOPPフィルムは強度があり破れにくいだけでなく透明度が高い。
【0018】
フィルム本体11のシート厚tは、25~100μmであり、実用上は50~60μmが好ましい。
フィルム本体11のシート厚tが25μmより薄いと、フィルム自体のコシが無く、貼り付け時にシワになり易い。
フィルム本体11のシート厚tが100μmより厚いと、コシがありすぎて、不陸に追従しづらくなる。
【0019】
<1.2>微孔
微孔12はエア抜き機能の他に、接着樹脂30に隆起した突部31を形成するために機能する。
微孔12の平面形状は特に制限がないが、加工性等を考慮すると平面形状が円形を呈する。
【0020】
<1.2.1>微孔の口径
微孔12の口径dは50~800μmの範囲が好ましく、特に50~150μmの範囲がさらに好ましい。
【0021】
微孔12の口径dは50μmより小さいと、微孔12そのものの製造が困難である。
微孔12の口径dが800μmより大きいと、接着剤がフィルム本体11の表側に出すぎてしまう。
【0022】
<1.2.2>微孔の形成ピッチ
微孔12の形成ピッチpは、0.5~20mmが好ましく、特に0.5~5mmの範囲がさらに好ましい。
【0023】
微孔12の形成ピッチが20mmより大きいと、脱気性が悪くなってエアが残り易くなる。
微孔12の形成ピッチが0.5mmより小さいと、穴面積率が大きくなることやフィルム自体がさけやすくなる。
【0024】
<1.2.3>微孔の穴面積率
微孔12の穴面積率は、口径dが800μm未満かつ、0.10~4.0%が好ましく、特に0.2~2.0%の範囲がさらに好ましい。
微孔12の穴面積率が4.0%より大きいと、大気との接触面積が大きくなるため、アミンブラッシングの抑制効果が劣り、また、表面への接着樹脂のはみ出しが多くなり、施工性に劣るといった問題がある。
微孔12の穴面積率が0.10%より小さいと、エア抜き等の施工性が劣るといった問題がある。
【0025】
<2>繊維シート
繊維シート20は、接着樹脂30を介して構造物40の補強やコンクリート片の剥落防止等の目的で接着される補強または補修を目的としたシート状物であり、織物、編物、ラミネート構造からなる。
繊維シート20は、1方向性シートまたは2方向性シートの何れでもよい。
繊維シート20の素材としては、例えば炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、
バサルト繊維、ビニロン繊維、ポリエステル繊維やオレフィン系有機繊維等を使用できる。
【0026】
<3>接着樹脂
プライマー30a、パテ30b、含浸接着樹脂30c,30d・・・は樹脂系の接着剤であり、例えば、アミン類を硬化剤とする常温硬化型で無溶剤の液状エポキシ樹脂が用いられる。
硬化剤としてのアミン類は、接着剤を常温硬化させることができるものであれば特に限定されるわけではなく、例えば脂肪族ポリアミン、脂環族ポリアミン、変性ポリアミン、ポリメルカプタン、及びポリアミド等から任意に選択できる。
【0027】
<4>構造物
構造物40としては、コンクリート構造物、鋼製構造物等を含む。
コンクリート構造物としては、例えば橋梁、橋脚、及びトンネルの覆工壁等を含む。
【0028】
[繊維シートの施工方法]
図2,3を参照して剥離フィルム10を用いた繊維シート20の施工方法について説明する。
【0029】
1.構造物の下処理
以下の工程を経て構造物40の下処理を行う。
【0030】
<1>プライマーの塗布工
構造物40の表面の突起物や各種の付着物を除去する下地処理(ケレン)を行った後、構造物40の表面に接着樹脂の一種であるプライマー30aを塗布する。
プライマー30aとしては、常温硬化型の液状エポキシ樹脂を使用できる。
【0031】
固まらない状態のプライマー30aの表面を剥離フィルム10で被覆して大気と遮断した状態で乾燥養生し、その後に剥離フィルム10を剥離する。
【0032】
剥離フィルム10の養生時における各種の作用については後述する。
【0033】
<2>パテ処理
プライマー30aの表面に接着樹脂の一種であるパテ30bをヘラ等で塗布して不陸を修正する。
パテ30bの材料としては常温硬化型の液状エポキシ樹脂系を使用できる。
【0034】
パテ30bの場合も同様に、その表面を剥離フィルム10で被覆して乾燥養生した後に、剥離フィルム10を剥離する。
なお、パテ処理は必須の工程ではなく、省略する場合もある。
【0035】
2.繊維シートの貼付け工程
以下の工程を経て単数又は複数の繊維シート20の貼付けを行う。
【0036】
<1>接着樹脂の下塗り
パテ30bの表面に含浸接着樹脂30cを下塗りする。
【0037】
<2>繊維シートの接着と接着樹脂の上塗り
下塗りした含浸接着樹脂30cの表面に繊維シート20を含侵させ、その後、繊維シート20に上塗り用の含浸接着樹脂30dを塗布する。
【0038】
上塗りした接着樹脂30dの場合も同様に、その表面を剥離フィルム10で被覆して乾燥養生した後に、剥離フィルム10を剥離する。
【0039】
<3>複数の繊維シートの貼付け
複数の繊維シート20を積層させて貼り付ける場合は、上記した工程を繰り返して行う。
図3では2枚の繊維シート20を積層して貼り付けた形態を示している。
【0040】
3.剥離フィルムによる養生作用
以降の説明にあたり、既述したプライマー30a、パテ30b、含浸接着樹脂30c,、0dを総称して接着樹脂30という。
図4を参照して、接着樹脂30に被覆した剥離フィルム10の養生作用について説明する。
図4では構造の理解をし易くするため、接着樹脂30と剥離フィルム10との間に隙間を持たせて図示しているが、実際は接着樹脂30と剥離フィルム10との間は密着していて隙間は生じない。
【0041】
<1>剥離フィルムと接着樹脂との接触面積について
接着樹脂30の表面全面を、剥離フィルム10を構成するフィルム本体11が被覆する。
フィルム本体11に開設した微孔12群の穴面積率が非常に小さいものとしてあるため、微孔12群による接着樹脂30の表面とフィルム本体11との層間密着性への影響は非常に小さいものとなる。
したがって、フィルム本体11に微孔12が形成してあっても、剥離フィルム10と接着樹脂30との密着性が損なわれることはない。
【0042】
<2>アミンブラッシング現象の発生抑制作用
接着樹脂30の表面全面を、遮蔽機能を有するフィルム本体11が被覆することで、接着樹脂30と大気との接触を遮断する。
そのため、接着樹脂30のアミンと水分および二酸化炭素との接触がなくなるから、ブラッシング現象の発生を効果的に抑制できる。
【0043】
接着樹脂30に開設した微孔12群はその穴面積率を非常に小さいものとしてあるため、微孔12を通じて接着樹脂30の表面にアミンブラッシング層が形成されることはない。
【0044】
<3>剥離フィルムによる気泡の排出作用
接着樹脂30の表面とフィルム本体11との間に気泡(エア)が介在する場合がある。
仮に気泡が発生しても、微孔12を通じて確実に外部へ排気(脱泡)することができる。
どの部位に気泡が発生しても微孔12を通じて排出できるように微孔12のピッチを選択してあるため、空気溜まりの発生を確実に防止できる。
【0045】
<4>微孔による突部の形成
接着樹脂30の一部が剥離フィルム10に開設した複数の微孔12内に流入することで、接着樹脂30の表面に隆起した突部31が成形される。
【0046】
<5>シール作用(樹脂の白化防止作用)
例えば、接着樹脂30が雨水や結露等の水分に触れると樹脂表面が白化する。
白化した樹脂は組織的に脆弱であるため、サンドペーパー等で白化した箇所を除去する必要がある。
【0047】
本発明では、剥離フィルム10が接着樹脂30の表面をシールするので、雨水や結露等の水分との接触を防止できる。
剥離フィルム10に開設した微孔12は、その径が非常に小さいため、微孔12を通じた内部へ向けた浸水を防止できる。
そのため、接着樹脂30の白化を防止できて、現場における白化の除去作業も不要となる。
【0048】
<6>微孔を通じた接着樹脂の漏出について
微孔12の口径が大きすぎると、微孔12を通じて接着樹脂30が外部へ漏出する虞がある。
本発明では、微孔12の口径が微孔12を通じて樹脂が容易に透過しない寸法に設定してあることにくわえて、接着樹脂30がある程度の粘性を有している。
そのため、剥離フィルム10を押し付けても、微孔12を通じて接着樹脂30が外部へ連続して漏れ出る心配がない。
【0049】
4.剥離フィルムの剥離
図5を参照して剥離フィルム10の剥離について説明する。
【0050】
<1>剥離フィルムの剥離
接着樹脂30がある程度硬化したら、剥離フィルム10を強制的に剥離する。
フィルム本体11の剥離跡には、脆弱化していない接着樹脂30の平滑面が現われ、微孔12の剥離跡には隆起した突部31が現れる。
【0051】
<2>剥離フィルムの剥離時期について
従来は接着樹脂の表面にタックがある状態のときに剥離シートを剥離すると、良質の接着樹脂も引き剥がされてしまうので、剥離シートを剥離するには接着樹脂が硬く固まるまで待たなければならなかった。
特に、冬場等の低温環境下では、接着樹脂が硬化するまでに時間が長くかかるため、施工により多くの時間を要していた。
【0052】
これに対し、本発明の剥離フィルム10では接着樹脂30が含浸しないため、接着樹脂30の表面にタックがある状態でも剥離フィルム10を簡単に剥離することができる。
すなわち、剥離フィルム10の内部に接着樹脂30が含浸しないため、剥離フィルム10の剥離時に塗布した接着樹脂30が引き千切られることを防止できる。
本発明では、低温環境下で施工する場合において、接着樹脂30の完全硬化を待たずに剥離フィルム10を簡単に剥離できるので、従来と比べて施工期間を短縮することができる。
【0053】
<3>層間接着性について
剥離フィルム10の剥離後において、接着樹脂30の表面に多数の突部31が突出して形成される。
接着樹脂30の表面に成形された多数の突部31は、次層の接着樹脂30を接合する際のジベル筋的機能を発揮するので、突部31を形成しない場合と比べて層間接着性が向上する(図3)。
【0054】
5.繊維シートの積層
複数の繊維シート20を積層して貼り付けるには、繊維シート20を貼り付ける都度、既述した剥離フィルム10の貼付け工程と剥離工程を繰り返して行う(図3)。
繊維シート20の積層数は適宜選択が可能である。
【0055】
なお、最上層の接着樹脂30の表面全面は平滑面として仕上げる。
【0056】
[他の実施例]
先の実施例では剥離フィルム10と接着樹脂30を併用して繊維シート20を構造物40に貼り付ける形態について説明したが、繊維シート20を用いずに構造物40の表面に接着樹脂30(30e,30f)を塗布して補修する形態に適用することも可能である。
【0057】
<1>構造物の補修方法
図6を参照して本実施例について詳しく説明する。
本例では、構造物40の表面に接着樹脂30eを塗布した後に、接着樹脂30eの表面を養生用剥離フィルム10で覆って養生する工程と、接着樹脂30eの養生後に養生用剥離フィルム10を剥離して接着樹脂30eの表面に該接着樹脂30eと一体に複数の突部31を一体に形成する工程と、接着樹脂30eの表面に別途の接着樹脂30fを塗布する工程とを行って複数の接着樹脂30e,30fを一体に積層して形成する。
本例では二層の接着樹脂30e,30fを積層した形態を示すが、接着樹脂の積層数は適宜選択が可能である。
【0058】
<2>剥離フィルムによる養生作用
本例においても、剥離フィルム10による接着樹脂の養生作用は先の実施例と同様である。
【0059】
<3>本実施例の効果
本実施例にあっては、構造物40の表面を脆弱層が存在しない良質の接着樹脂で被覆して補修することができる。
特に、老朽化したコンクリート製トンネル等の構造物40の表面を接着樹脂30で被覆する剥落防止工法に適用することができる。
【符号の説明】
【0060】
10・・・・・養生用剥離フィルム(剥離フィルム)
11・・・・・フィルム本体
12・・・・・微孔
20・・・・・繊維シート
30・・・・・接着樹脂
30a・・・・プライマー(接着樹脂)
30b・・・・パテ(接着樹脂)
30c・・・・含浸接着樹脂
30d・・・・含浸接着樹脂
30e・・・・接着樹脂
30f・・・・接着樹脂
31・・・・・突部
40・・・・・構造物
【要約】
【課題】アミンブラッシング現象の発生抑制と空気溜まりの発生抑制の両立を図ることが可能であると共に、重ね塗りした複数の接着樹脂の層間接着性を高くすること。
【解決手段】養生用剥離フィルム10が接着樹脂の表面を大気から遮断して覆う樹脂製のフィルム本体11と、フィルム本体11に一定のピッチで排気可能に開孔した複数の微孔12とを有し、各接着樹脂30a~30dに被覆して養生した後に養生用剥離フィルム10を剥離する。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6