(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-08
(45)【発行日】2023-08-17
(54)【発明の名称】光電子顕微鏡
(51)【国際特許分類】
G01N 23/227 20180101AFI20230809BHJP
H01J 37/141 20060101ALI20230809BHJP
H01J 37/153 20060101ALI20230809BHJP
【FI】
G01N23/227
H01J37/141 Z
H01J37/153 Z
(21)【出願番号】P 2018228545
(22)【出願日】2018-11-16
【審査請求日】2021-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】518433374
【氏名又は名称】株式会社北海光電子
(72)【発明者】
【氏名】武藤 正雄
(72)【発明者】
【氏名】津野 勝重
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/013232(WO,A1)
【文献】特開2005-127967(JP,A)
【文献】特開2009-094020(JP,A)
【文献】特開平05-347137(JP,A)
【文献】特開2012-173008(JP,A)
【文献】国際公開第2018/016961(WO,A1)
【文献】朝倉清高,新しいPEEM(光放出電子顕微鏡)を求めて,顕微鏡,2013年,Vol.48 No.3,pp.201-204
【文献】小嗣真人,光電子顕微鏡の基礎と応用,表面化学,2016年,Vol.37 No.1,pp.3-8
【文献】吉川英樹,放射光励起光電子顕微鏡における対物レンズの開発(I) ,応用物理学関係連合講演会講演予稿集,2001年,Vol.48th No.2,p.724
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-23/2276
H01J 37/00-37/36
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源からの光を試料に照射するために、
対物レンズのヨーク外周部に穿孔部を軸対称に偶数箇所設けるとともに、前記試料から放出される光電子を対物レンズと収差補正器を介して、拡大像を得る光電子顕微鏡であって、
前記対物レンズは、前記試料に対面するヨーク円錐部の先端が
外半径r1、内半径r2からなるリング形状をなし、
外半径r1は前記先端と試料台との距離gの3倍以上であって、光軸に垂直な面に対するヨーク円錐部との角度を20°以上とする対物レンズと、
前記収差補正器は、入射電子線を反射させる静電板、凹面鏡を形成させる静電板、球面収差を補正する静電板、色収差を補正する静電板を一組とするミラー型収差補正器二組を、対面するように同軸上に配置したことを特徴とする2段ミラー型収差補正器と、
から構成されることを特徴とする光電子顕微鏡。
【請求項2】
前記対物レンズは、電場磁場型重畳型対物レンズとすることを特徴とする請求項1記載の光電子顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルク材料の表面に光を当てて、放出された光電子を対物レンズと収差補正手段を用い、原子分解能での観察を可能とする光電子顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
電子顕微鏡には、PEEM(光電子顕微鏡)、LEEM(低エネルギー電子顕微鏡)、TEM(透過電子顕微鏡)、SEM(走査電子顕微鏡)などの種類があり、電子光学の立場から、PEEMはLEEMと共通し、TEM/SEMとは著しく異なるものと認識されている。
【0003】
PEEM/LEEMでは、使用するレンズの収差が大きいことがそれほど問題にされず、むしろ装置内部を超高真空状態に保ち、像観察よりも表面の様態分析が主体であることなどの理由から、空間分解能がTEM/SEMに比べてかなり低かった。
【0004】
一方、TEMでは電子銃1-像観察部(蛍光板)2間の加速電圧を200kV以上に上げて電子線の波長を短くし、原子像が観察できる高分解能型が市場に出回っている(
図2(a)参照)。また、レンズの収差補正を施すことで40kVなどの低加速電圧でも原子分解能を実現している。しかしながら、TEMの場合は試料3を薄膜化するという制約があり、試料の本来の姿であるバルク状で原子が観察されることが望まれていた。
【0005】
バルク試料の観察にはSEMが用いられるが、
図1(b)に示すように、入射電子が試料内部で拡散し、入射位置の周囲からも二次電子26が発生することから像のボケにつながり、TEMに比べ一桁以上分解能が下回ることになり、原子像まで観察することは困難とされていた。
また、原子間力顕微鏡という、試料に探針を近接させ、発生する原子間力を一定に保つように探針を走査させて原子間力を一定に保つための電圧を試料位置に対して表示する装置は、原子の配列を観察できるが、あらゆる試料の原子像が観察できるわけではなく、低倍や中倍での観察が困難であることや、組成分析ができないなど像観察以外の機能に乏しいことから、用途は限定的である。
【0006】
これに対し、PEEMは他の電子顕微鏡とは異なり、入射線源に光を用いてバルク試料を観察する電子顕微鏡であり、また入射ビームが光であるため、唯一試料内での電子の拡散がTEM試料厚さと同程度にとどまることから、
図1(a)に示すように、試料を照らすだけで試料の内部には拡散しない。
【0007】
バルク材料の表面を観察するPEEMとして、対物レンズに静電型レンズを用いた汎用型PEEMが市販・開示されている。しかし、このPEEMは試料の結晶構造を観察することを特長とし、保証分解能は300nmに留まり、高分解能を目的にするものではなかった。(非特許文献1、特許文献1)
また、SPECS社はミラーを採用した収差補正法を採用しているが、連続電子線のためビームセレクターによる行きと返りの切り分けを必要として、そのため新たな収差を発生させ補正機能の妨げになっていた。(非特許文献2)
それに対し小池らは2段ミラーを採用した新しい収差補正法を提案(非特許文献3)しているが、TEMを対象とするもので、PEEMにそのまま適用するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第5690610号公報(段落番号0008、
図6)
【非特許文献】
【0009】
【文献】カタログ「光放出電子顕微鏡 MyPEEM」,株式会社菅製作所,p.2
【文献】カタログ「FE-低エネルギー電子顕微鏡/光電子顕微鏡」,株式会社東京インスツルメンツ,p.1
【文献】小池紘民、2段MirrorによるCc/Cs同時補正法の提案、日本顕微鏡学会第67回学術講演会、16Aam_I1-5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような点に鑑みてなされたもので、その目的は、従来は300nmと開発が遅れていたPEEMの分解能をTEMと同じレベルに向上させるための発明技術であり、バルク材料の表面を原子分解能での観察が可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るPEEMは、光源からの光を試料に照射することにより、試料から放出される光電子を対物レンズと収差補正器を介して、拡大像を得るPEEMであって、
(1)前記対物レンズ6は、
図3に示すように、試料9に対面するヨーク円錐部15の先端13が
外半径r1、
内半径r2
のリング形状をなし、
外半径r1は先端13と試料9との距離gの3倍以上であって、光軸12に垂直な面13に対するヨーク円錐部15との角度14を20°以上とし、
ヨーク外周部18に穿孔部17を設けたこと、ただし、形状の不均衡による像の非点収差発生を防ぐために、穿孔部17を軸対称に偶数箇所設けたことを特徴とする電場磁場重畳型の対物レンズと、
(2)前記収差補正器32は、
図5に示すように、入射電子線を反射させる静電板20、凹面鏡を形成させる静電板21、球面収差を補正する静電板22、色収差を補正する静電板23を一組とするミラー収差補正器二組を、相対するように同軸上に配置したことを特徴とする二段ミラー収差補正器、とから構成されるPEEMである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の対物レンズの収差シミュレーション結果を
図3(b)に、従来の対物レンズ(特許文献1、
図4)の収差シミュレーション結果を
図4(b)に、比較して示す。本発明の対物レンズが、従来の対物レンズに比べ、分解能が2桁(62/4倍)改善することが判明した。ただし、
シミュレーションについては、下記プロセスにより実施している。
▲1▼レンズの各部位に印加した電圧により、レンズ周辺の空間に発生する等電位線 を有限要素法により図に表す。
▲2▼同様にレンズに印加した磁気により、周辺に発生する等磁力線を図に表す。
▲3▼資料により発生する光電子線を位置、角度を変えて電場、磁場空間をどのよう に飛行するかを図に表す。
▲4▼その結果を基にレンズ作用の性能を収差の程度で計算する。
図3(b)の場合 は4μmという値になった。
【0013】
従来のPEEM(特許文献1)では静電レンズを対物レンズとして採用することが多かったが、これを
図6のように磁界を試料に及ぼすことのできるレンズ形状の磁界レンズに変更し、光電子を引き出す電場との重畳作用で光電子の収量を増大させる方式を採用することで、分解能は3倍向上する。
【0014】
また、小池らが提案した二段ミラーを用いた球面収差と色収差の同時補正法を採用し、
図5に示すように、ミラーの断続によりパルス状にすることで、ミラーでの行き返りを混在させることなく、直線的な光路を維持したまま収差補正を完遂させる。 これは非特許文献2に示す新たな収差の発生を無用にすることにつながる。これにより分解能は2~3倍改善される
【0015】
以上の改善を施すことにより現行のPEEM分解能300nmより、サブnm以下を実現する可能性を示し、これによりサブnmのサイズである原子が観察できることになる。さらに対物レンズに放電対策を施したうえで、
図2(b)試料9と像観察部(検出器)10の間の加速電圧を通常の10kVから100kV以上に上げれば、光電子線の波長が短くなり、計算により約4倍分解能が改善され、原子の観察がさらに容易になる。
全体の光電子顕微鏡の構成を
図7に示す。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の科学的根拠となる(a)光と(b)電子線の試料内拡散図である。
【
図2】(a)透過電子顕微鏡と(b)光電子顕微鏡の比較の電子線(光線)図である。
【
図3】本発明の対物レンズの(a)断面図と(b)収差シミュレーション結果である。
【
図4】従来型PEEM用対物レンズの(a)断面図と(b)収差シミュレーション結果である。
【
図5】ミラー型収差補正機構の(a)構成図と(b)電子線図である。
【
図6】電場磁場重畳型対物レンズの光電子収斂の図である。
【符号の説明】
【0017】
1.電子線源
2.像観察部(蛍光板)
3.試料(薄膜)
4.第一集束レンズ
5.第二集束レンズ
6.対物レンズ
7.投影レンズ
8.光源
9.試料(バルク材料)
10.像観察部(検出器)
11.ヨーク
12.光軸
13.ヨーク先端
14.円錐角
15.ヨーク円錐部
16.シミュレーション図(底面平板状)
17.穿孔部
18.ヨーク外周部
19.シミュレーション図(円錐型)
20.静電板(ミラー部)
21.静電板(凹面鏡形成部)
22.静電板(球面収差補正用)
23.静電板(色収差補正用)
24.電子線
25.電圧可変部
26.二次電子
27.光電子
28.磁場
29.電場
30.試料台
31.スリット
32.収差補正器
33.結像系
g 試料―対物レンズ底面部 距離(ギャップ)
r1 対物レンズ底面円環部外径
r2 対物レンズ底面円環部内径