(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-08
(45)【発行日】2023-08-17
(54)【発明の名称】タイヤ情報取得装置
(51)【国際特許分類】
B60C 23/20 20060101AFI20230809BHJP
G01L 17/00 20060101ALI20230809BHJP
B60C 23/04 20060101ALN20230809BHJP
【FI】
B60C23/20
G01L17/00 301Z
B60C23/04 110C
B60C23/04 120B
(21)【出願番号】P 2018130068
(22)【出願日】2018-07-09
【審査請求日】2021-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】金成 大輔
【審査官】神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-218518(JP,A)
【文献】特開2012-001173(JP,A)
【文献】特開2012-188019(JP,A)
【文献】特開2013-052739(JP,A)
【文献】特表2017-520451(JP,A)
【文献】特開2002-211222(JP,A)
【文献】特表2002-524326(JP,A)
【文献】特開2011-042288(JP,A)
【文献】特開2012-081701(JP,A)
【文献】特開2006-175914(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0044552(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 23/02
B60C 19/00
G01L 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホイールのバルブに対して固定されるタイヤ情報取得装置であって、
中空構造を有する筐体と、該筐体の内部に収容されるセンサユニット基板と、前記筐体を貫通するように形成され、タイヤ内腔の空気を通気させる通気孔とを備え、前記センサユニット基板にタイヤ情報を取得するセンサと該センサに電力を供給する電源部とが配設さ
れ、少なくとも前記電源部の周囲に断熱材が配置されていることを特徴とするタイヤ情報取得装置。
【請求項2】
前記センサが前記断熱材の外部に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ情報取得装置。
【請求項3】
前記電源部が回転運動又は往復運動による電極の位置変化により発電するエレクトレットから構成されることを特徴とする請求項1又は2に記載のタイヤ情報取得装置。
【請求項4】
前記断熱材の20℃における熱伝導率が0.05[W/m・K]以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のタイヤ情報取得装置。
【請求項5】
前記断熱材が有機繊維と無機の多孔質材料との複合体であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のタイヤ情報取得装置。
【請求項6】
前記断熱材がポリエステル繊維にシリカエアロゲルを分散させた構造を有することを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のタイヤ情報取得装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ情報取得装置に関し、更に詳しくは、センサユニット基板に配設された電源部の周囲に断熱材を配置することにより、電源部の劣化を抑制し、電源部の寿命を延ばすことを可能にしたタイヤ情報取得装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内圧や温度等のタイヤ内部情報を取得するセンサを含むタイヤ情報取得装置をタイヤ内腔に設置することが行われている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
一般に、センサユニット基板に配設された電源部(電池)は、低温又は高温になるほど劣化し易くなり、電池の寿命が短くなるという問題がある。特に、トラック用のタイヤは、走行時における内部温度が乗用車用のタイヤよりも20℃程度高くなるので、トラック用のタイヤに装着されたタイヤ情報取得装置は高温に晒されることが多い。そのため、トラック用のタイヤに装着されたタイヤ情報取得装置は電池の寿命が短くなり易いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6272225号公報
【文献】特表2016-505438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、センサユニット基板に配設された電源部の周囲に断熱材を配置することにより、電源部の劣化を抑制し、電源部の寿命を延ばすことを可能にしたタイヤ情報取得装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためのタイヤ情報取得装置は、ホイールのバルブに対して固定されるタイヤ情報取得装置であって、中空構造を有する筐体と、該筐体の内部に収容されるセンサユニット基板と、前記筐体を貫通するように形成され、タイヤ内腔の空気を通気させる通気孔とを備え、前記センサユニット基板にタイヤ情報を取得するセンサと該センサに電力を供給する電源部とが配設され、少なくとも前記電源部の周囲に断熱材が配置されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、タイヤ情報を取得するセンサとそのセンサに電力を供給する電源部とが配設されたセンサユニット基板を有し、少なくとも電源部の周囲に断熱材が配置されているので、電源部において走行時のタイヤの発熱やタイヤ外部の気温の低下に起因する温度変化を抑制することができる。これにより、熱の影響を受け易い電源部の寿命を延ばすことが可能になる。
【0008】
本発明では、センサは断熱材の外部に配置されていることが好ましい。センサユニット基板がタイヤの内部温度を測定するセンサを含む場合、そのセンサが断熱材の外部に配置されていることでタイヤ内の温度変化を正確に検知することができる。
【0009】
本発明では、電源部は回転運動又は往復運動による電極の位置変化により発電するエレクトレットから構成されることが好ましい。電源部にエレクトレットからなる発電方式を採用することで、センサに対して効率的に電力を供給することができる。
【0010】
本発明では、断熱材の20℃における熱伝導率は0.05[W/m・K]以下であることが好ましい。これにより、断熱材で覆われた部位の温度変化を効果的に抑制することができる。なお、断熱材の熱伝導率はJIS-A1412の保護熱板法(GHP法)に準拠して測定されるものである。断熱材が複数の材料を組み合わせて構成される複合体の場合、その複合体における熱伝導率である。
【0011】
本発明では、断熱材は有機繊維と無機の多孔質材料との複合体であることが好ましい。これにより、断熱材としての断熱効率が良くなるため、より少ない断熱材で温度変化を抑制することができる。
【0012】
本発明では、断熱材はポリエステル繊維にシリカエアロゲルを分散させた構造を有することが好ましい。断熱材がこのような構造を有することで、断熱材の熱伝導率を低くしながら断熱材の厚さを薄くすることができるため、断熱材の寸法を大きくせずに温度変化に対して優れた抑制効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態からなるタイヤ情報取得装置の内部構造の一例を示す平面図である。
【
図3】本発明の実施形態からなるタイヤ情報取得装置を装着した空気入りタイヤを示す断面図である。
【
図4】本発明の実施形態からなるタイヤ情報取得装置の内部構造の変形例を示す断面図である。
【
図5】本発明の実施形態からなるタイヤ情報取得装置の内部構造の他の変形例を示す断面図である。
【
図6】電池寿命の評価における温度変化のサイクルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
図1及び
図2は本発明の実施形態からなるタイヤ情報取得装置を示すものである。
図3は本発明の実施形態からなるタイヤ情報取得装置を装着した空気入りタイヤを示すものである。なお、
図1~
図3において、矢印Twはタイヤ幅方向、矢印Tcはタイヤ周方向を示している。
【0015】
図1~
図3に示すように、空気入りタイヤ1とホイール2との間にはタイヤ内腔が形成され、そのタイヤ内腔にタイヤ情報取得装置10が配置されている。ホイール2には、タイヤ外部から内部へ圧力を注入する筒状のバルブ3が設けられている。このバルブ3に対してタイヤ情報取得装置10が一体的に固定されている。
【0016】
タイヤ情報取得装置10は、筐体11とセンサユニット基板12とを備える。筐体11は中空構造を有しており、筐体11の内部にセンサユニット基板12を収容する。このセンサユニット基板12には、タイヤ情報を取得するためのセンサ13と、センサ13に電力を供給するための電源部14とが配設されている。電源部14とセンサユニット基板12とは電源部14の正極側及び負極側に配された配線部12Aにより接続されており、電源部14は配線部12Aを介してセンサ13の動作に必要な電力を供給することができる。また、タイヤ情報取得装置10は、他にもアンテナ15、制御回路16等を備えており、センサ13により取得されたタイヤ情報をタイヤ外部に送信できるようになっている。
【0017】
筐体11の材料としては電波を透過する合成樹脂が用いられる。一方、センサ13により取得されるタイヤ情報としては、空気入りタイヤ1の内部温度や内圧を例示することができる。センサ13として、内部温度や内圧の測定には温度センサや圧力センサが使用される。それ以外に、加速度センサや磁気センサを使用しても良い。
【0018】
筐体11及びセンサ13には、それぞれタイヤ内腔の空気を通気させる通気孔11A,13Aが設けられている。これら通気孔11A,13Aは、空気入りタイヤ1の内部温度や内圧を測定するセンサ13の測定精度を向上させるためのものである。筐体11の通気孔11Aとセンサ13の通気孔13Aは、タイヤ幅方向及び/又はタイヤ周方向の同位置に配置されることが好ましい。
【0019】
筐体11に対してセンサユニット基板12を固定するにあたって、例えば、筐体11が2つの部品に分離可能であり、これら一対の部品がセンサユニット基板12を挟持することによりセンサユニット基板12を固定する構造や、有底筒状の筐体11とその開口部に嵌合する蓋部とを有し、筐体11の内部にセンサユニット基板12を収容して蓋部を閉じることによりセンサユニット基板12を固定する構造を用いることができる。
【0020】
上記タイヤ情報取得装置において、少なくとも電源部14の周囲は断熱材20により覆われている。特に、断熱材20が配線部12Aを除いて電源部14の周囲を完全に覆っている状態、即ち、断熱材20が配線部12Aを除いて電源部14の表面に接した状態であることが好ましい。これにより、断熱材20の付加による重量の増加を最小限に抑えながら、断熱材20による断熱効果を十分に得ることができる。断熱材20の材料として、例えば、不織布やウレタンフォームを挙げることができる。断熱材20は、過度な重量の増加を抑えるため、厚さが3mm以下であることが好ましく、2mm以下であることがより好ましい。
【0021】
上述したタイヤ情報取得装置では、タイヤ情報を取得するセンサ13とセンサ13に電力を供給する電源部14とが配設されたセンサユニット基板12を有し、少なくとも電源部14の周囲に断熱材20が配置されているので、電源部14において走行時のタイヤの発熱やタイヤ外部の気温の低下に起因する温度変化を抑制することができる。これにより、熱の影響を受け易い電源部14の寿命を延ばすことが可能になる。
【0022】
上記タイヤ情報取得装置において、センサ13は断熱材20の外部に配置されている。言い換えれば、センサ13の周囲は断熱材20により覆われていない。これに対して、センサ13の周囲が断熱材20に覆われていると、センサ13が断熱材20による断熱効果の影響を受けてタイヤ内の温度変化を正確に検知することができないことがある。そのため、センサユニット基板12がタイヤの内部温度を測定する温度センサを含む場合、センサ13がタイヤ内の温度変化を正確に検知することができようにセンサ13を断熱材20の外部に配置することが望ましい。
【0023】
上記タイヤ情報取得装置において、断熱材20の20℃における熱伝導率は、0.10[W/m・K]以下であることが必要であるが、0.05[W/m・K]以下であることが好ましく、0.03[W/m・K]以下であることがより好ましい。このように断熱材20の熱伝導率を適度に設定することで、断熱材20で覆われた部位の温度変化を効果的に抑制することができる。例えば、硬質ウレタンフォームの熱伝導率は0.02~0.04[W/m・K]である。これに対して、天然ゴムの熱伝導率は0.13[W/m・K]であり、シリコーンゴムの熱伝導率は0.20[W/m・K]である。これら天然ゴムやシリコーンゴムは本発明における断熱材20を構成するものではない。
【0024】
また、断熱材20は、有機繊維と無機の多孔質材料との複合体であることが好ましく、ポリエステル繊維とシリカエアロゲルとの複合体であることがより好ましい。断熱材20が有機繊維と無機の多孔質材料との複合体で構成された場合、断熱材としての断熱効率が良くなるため、より少ない断熱材20で温度変化を抑制することができる。特に、ポリエステル繊維とシリカエアロゲルとの複合体である場合、断熱材20はポリエステル繊維にシリカエアロゲルを分散させた構造を有する。より具体的には、ポリエステル繊維が網目構造を有しており、複数の網目部分に対してシリカエアロゲルが分散して配置された構造であるので、シリカエアロゲルの細孔径が空気の平均自由行程よりも小さくなり、空気の熱伝達を遮断することができる。断熱材20がポリエステル繊維にシリカエアロゲルを分散させた構造を有する場合、断熱材20の20℃における熱伝導率は0.018[W/m・K]~0.024[W/m・K]である。このように断熱材20の熱伝導率を低くしながら、断熱材20の厚さを薄くすることができるため、断熱材20の寸法を大きくせずに温度変化に対して優れた抑制効果を得ることができる。
【0025】
図4は本発明の実施形態からなるタイヤ情報取得装置の内部構造の変形例を示すものである。
図4に示すように、センサユニット基板12はポッティング材30により筐体11に対して固定されている。筐体11とセンサ13との間にはパッキン17が配置され、このパッキン17の中心部には通気孔11Aと通気孔13Aとを連通する通気孔17Aが設けられている。これら通気孔11A,13A,17Aが連通することにより、タイヤ内腔とセンサ13との間の通気性が確保されている。このように筐体11とセンサ13との間にパッキン17を挟持させた状態で筐体11の内部にポッティング材30を充填することで、筐体11に対してセンサユニット基板12を固定することができる。ポッティング材30としては硬化型の樹脂材料を用いれば良く、例えば、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリオレフィン樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂が挙げられる。
【0026】
図5は本発明の実施形態からなるタイヤ情報取得装置の内部構造の他の変形例を示すものである。
図2の実施形態では、断熱材20が電源部14の周囲のみに配置された構造を示したが、
図5の実施形態では、断熱材20がセンサ13を除く電子部品全体を覆うように配置されている。
図5において、センサ13のみが断熱材20の外部に配置されているので、センサ13は断熱材20による断熱効果の影響を受けることがない。
図5に示す構造を有するタイヤ情報取得装置10の場合、電子部品における温度変化の幅を小さくすることができるため、広範囲の温度変化に対応可能で高額な電子部品を用いなくて済み、比較的安価な電子部品を用いることができる。そのため、タイヤ情報取得装置10の性能を十分に確保しながら、コストを削減することができる。
【0027】
上述した説明では、電源部14としてコイン型の電池を用いた例を示したが、これに限定されるものではなく、電源部14として回転運動又は往復運動による電極の位置変化により発電するエレクトレットを用いても良い。特に、空気入りタイヤ1の転動に対して即応性が高いことから、回転運動による電極の位置変化を利用して発電するエレクトレットを用いることが好ましい。電源部14にエレクトレットからなる発電方式を採用することで、空気入りタイヤ1の転動を利用して電源部14が発電することができるため、センサ13に対して効率的に電力を供給することができる。なお、電源部14として、エレクトレットとコイン型の電池を併用しても良い。
【0028】
また、タイヤ情報取得装置10がホイール2のバルブ3に対して固定された構造を示したが、これに限定されるものではなく、タイヤ情報取得装置10をタイヤ内面に対して固定しても良い。この場合、両面テープや接着剤を用いてタイヤ情報取得装置10をタイヤ内面に貼り付けることができる。
【0029】
本発明のタイヤ情報取得装置10は、各種の空気入りタイヤ1に適用可能であるが、特にトラック、バス用の空気入りタイヤ1に装着されることが好ましい。トラック、バス用の空気入りタイヤ1に装着された場合、電源部14における温度変化の抑制効果が顕著であり、電源部14の寿命を効果的に改善することができる。
【実施例】
【0030】
タイヤ情報を取得するセンサとそのセンサに電力を供給する電源部とが配設されたセンサユニット基板を有し、断熱材の有無、断熱材の材料、断熱材の熱伝導率及び断熱材の厚さを表1のように設定した従来例及び実施例1~3のタイヤ情報取得装置を製作した。
【0031】
従来例及び実施例1~3では、電源部としてコイン型の電池を用いると共に、タイヤ情報取得装置の内部にシリコーンポッティング材(熱伝導率:0.20[W/m・K])を充填した。また、従来例では断熱材を使用せず、実施例1~3では電源部の周囲のみに断熱材を配置した。実施例3では、断熱材の材料であるポリエステル繊維としてポリエチレンテレフタレート(PET)を用いた。
【0032】
これらタイヤ情報取得装置について、下記試験方法により電池寿命を評価し、その結果を表1に併せて示した。
【0033】
電池寿命:
センサを起動させた状態でタイヤ情報取得装置の外部温度を周期的に変化させ、センサが停止するまでの日数を測定した。具体的には、
図6に示すように、初期温度-20℃の状態で2時間放置した後、2時間かけて100℃まで温度を上昇させ、更に、100℃の状態で2時間放置した後、2時間かけて-20℃まで温度を低下させる。これを1サイクルとしてセンサが停止するまで繰り返し行う。評価結果は、従来例を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど電池寿命が優れていることを意味する。
【0034】
【0035】
この表1から判るように、実施例1~3のタイヤ情報取得装置は、従来例に比して、電池寿命が改善されていた。
【符号の説明】
【0036】
1 空気入りタイヤ
2 ホイール
3 バルブ
10 タイヤ情報取得装置
11 筐体
12 センサユニット基板
13 センサ
14 電源部
20 断熱材