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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-08
(45)【発行日】2023-08-17
(54)【発明の名称】試験片および応力腐食割れ試験方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/32 20060101AFI20230809BHJP
   G01N 17/00 20060101ALI20230809BHJP
   G01N 3/34 20060101ALI20230809BHJP
【FI】
G01N3/32 K
G01N17/00
G01N3/32 F
G01N3/34 A
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019021610
(22)【出願日】2019-02-08
(65)【公開番号】P2019174444
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-10-08
(31)【優先権主張番号】P 2018065460
(32)【優先日】2018-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】萱森 陽一
(72)【発明者】
【氏名】石橋 裕子
(72)【発明者】
【氏名】島貫 広志
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/129215(WO,A1)
【文献】特開2008-216232(JP,A)
【文献】特開昭62-233739(JP,A)
【文献】再公表特許第2017/056452(JP,A1)
【文献】特開平08-247907(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104677706(CN,A)
【文献】実開昭63-137849(JP,U)
【文献】特開昭53-125888(JP,A)
【文献】仏国特許出願公開第02823849(FR,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/32
G01N 17/00
G01N 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験対象の金属材料の降伏応力以下の応力に対応する第1荷重と前記第1荷重未満の第2荷重との間で変動する変動荷重を、試験片が破断しない範囲において低ひずみ速度で所定方向に繰り返し付与した後、試験片の評価部の表面および断面を観察し、応力腐食割れの発生箇所を確認することによって耐応力腐食割れ性を評価する際に用いられ、
前記所定方向における両端部につかみ部を有しかつ前記所定方向において前記両端部の前記つかみ部の間に前記評価部を有し、
前記評価部は、前記所定方向に垂直な断面の面積が最大となる最大断面部と、前記所定方向に垂直な断面の面積が最小となりかつ前記最大断面部から前記所定方向に離れて設けられる最小断面部とを有し、
前記所定方向において、前記最小断面部は前記評価部の中心よりも一方側または他方側に設けられ、
前記評価部の前記所定方向に垂直な断面の面積は、前記最大断面部から前記最小断面部に向かって連続的に変化し、
前記評価部は、前記所定方向に垂直な断面の面積が前記最大断面部側から前記最小断面部側に向かって漸次減少する部分を含む、試験片。
【請求項2】
前記所定方向において、前記最大断面部は前記評価部の中心よりも一方側に設けられ、前記最小断面部は前記評価部の中心よりも他方側に設けられる、請求項1に記載の試験片。
【請求項3】
前記評価部の前記所定方向に垂直な断面の面積が一方側の端部と他方側の端部とで異なる、請求項1または2に記載の試験片。
【請求項4】
前記所定方向において、前記最大断面部は前記評価部の一方側の端部に設けられ、前記最小断面部は前記評価部の他方側の端部に設けられる、請求項1から3のいずれかに記載の試験片。
【請求項5】
前記評価部の前記所定方向に垂直な断面が、円形状、楕円形状または矩形状である、請求項1から4のいずれかに記載の試験片。
【請求項6】
前記所定方向から見た場合に、前記最小断面部の前記所定方向に垂直な断面の図心が、前記つかみ部の前記所定方向に垂直な断面の図心からずれている、請求項1から5のいずれかに記載の試験片。
【請求項7】
前記変動荷重を、1×10-8~1×10-5(s-1)に設定される低ひずみ速度で所定方向に繰り返し付与することによって耐応力腐食割れ性を評価する際に用いられる、請求項1から6のいずれかに記載の試験片。
【請求項8】
アミンユニットに使用される鋼材の耐応力腐食割れ性を評価する際に用いられる、請求項7に記載の試験片。
【請求項9】
腐食環境下において、
所定方向における両端部につかみ部を有しかつ前記所定方向において前記両端部の前記つかみ部の間に評価部を有し、
前記評価部は、前記所定方向に垂直な断面の面積が最大となる最大断面部と、前記所定方向に垂直な断面の面積が最小となりかつ前記最大断面部から前記所定方向に離れて設けられる最小断面部とを有し、
前記所定方向において、前記最小断面部は前記評価部の中心よりも一方側または他方側に設けられ、
前記評価部の前記所定方向に垂直な断面の面積は、前記最大断面部から前記最小断面部に向かって連続的に変化し、
前記評価部は、前記所定方向に垂直な断面の面積が前記最大断面部側から前記最小断面部側に向かって漸次減少する部分を含む試験片に対して、
前記所定方向において試験対象の金属材料の降伏応力以下の応力を前記最小断面部に生じさせるための荷重を第1荷重とし、前記第1荷重と前記第1荷重未満の第2荷重との間で変動する変動荷重を、試験片が破断しない範囲において低ひずみ速度で所定回数繰り返し付与した後、試験片の評価部の表面および断面を観察し、応力腐食割れの発生箇所を確認する、応力腐食割れ試験方法。
【請求項10】
前記試験片は、前記所定方向において、前記最大断面部は前記評価部の中心よりも一方側に設けられ、前記最小断面部は前記評価部の中心よりも他方側に設けられる、請求項9に記載の応力腐食割れ試験方法。
【請求項11】
前記試験片は、前記評価部の前記所定方向に垂直な断面の面積が一方側の端部と他方側の端部とで異なる、請求項9または10に記載の応力腐食割れ試験方法。
【請求項12】
前記試験片は、前記所定方向において、前記最大断面部は前記評価部の一方側の端部に設けられ、前記最小断面部は前記評価部の他方側の端部に設けられる、請求項9から11のいずれかに記載の応力腐食割れ試験方法。
【請求項13】
前記試験片は、前記評価部の前記所定方向に垂直な断面が、円形状、楕円形状または矩形状である、請求項9から12のいずれかに記載の応力腐食割れ試験方法。
【請求項14】
前記試験片は、前記所定方向から見た場合に、前記最小断面部の前記所定方向に垂直な断面の図心が、前記つかみ部の前記所定方向に垂直な断面の図心からずれている、請求項9から13のいずれかに記載の応力腐食割れ試験方法。
【請求項15】
前記変動荷重を、1×10-8~1×10-5(s-1)に設定される低ひずみ速度で所定回数繰り返し付与する、請求項9から14のいずれかに記載の応力腐食割れ試験方法。
【請求項16】
アミンユニットに使用される鋼材の耐応力腐食割れ性を評価する際に用いられる、請求項15に記載の応力腐食割れ試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、応力腐食割れ試験用の試験片およびその試験片を用いた応力腐食割れ試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油および天然ガスを精製するプラントでは、酸性ガス(二酸化炭素および硫化水素等)を処理するために、アミンユニットが設けられる。アミンユニットは、例えば、アミンコンタクター、アミンアブソーバーおよびアミンリジェネレーター等の複数の装置によって構成される。
【0003】
アミンコンタクター等の各装置は、圧力容器および配管等を備えている。近年、圧力容器の大型化、および浮体式液化天然ガス設備(FLNG)でのアミンユニットの利用等のために、圧力容器の素材としてより高強度の鋼材を用いることが望まれている。
【0004】
ところで、アミンユニットに使用される鋼材は、アミン環境(腐食環境)に曝される。従来、アミン環境に曝されることによって、アミンユニットに使用される鋼材において応力腐食割れ(以下、SCCとも記載する。)が発生することが知られている。このため、アミンユニットを安定的に運用するためには、アミンユニットに使用される鋼材の強度を単に向上させるだけでなく、SCCの発生を回避できるように、アミンユニットを適切に設計および施工する必要がある。
【0005】
SCCの発生を回避できるようにアミンユニットを設計および施工するためには、使用鋼材の耐応力腐食割れ性を適切に把握する必要がある。そこで、従来、鋼材の耐応力腐食割れ性を評価するために、低ひずみ速度引張(SSRT)試験が利用されている。SSRT試験を利用する場合には、腐食環境下の試験片を、通常の引張試験よりも遅いひずみ速度で引っ張って破断させて、鋼材の耐応力腐食割れ性が評価される。
【0006】
また、例えば、特許文献1には、アルコール環境での応力腐食割れ試験方法が開示されている。特許文献1の試験方法では、試験対象の鋼材の降伏強度以上で引張強さ未満の応力を最大応力とし、降伏強度の90%以下の応力を最小応力とする変動応力を試験片に対して加えることによって試験片を破断させる。そして、試験開始から試験片が破断に至るまでの時間を基に、試験対象の鋼材のSCC感受性が評価される。また、試験期間中に試験片が破断に至らない場合には、未破断試験片の断面観察をすることによって、SCC感受性が評価される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2015/129215号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
鋼材の耐応力腐食割れ性を評価するために従来利用されているSSRT試験は、上記のように、試験片を破断させることを前提としている。しかしながら、試験片が破断するような高い応力は、実際のアミンユニットの設計応力に比べて大き過ぎる。また、試験片が破断される際に試験片に大きな塑性ひずみが付与されるが、このような大きな塑性ひずみも、鋼材の実際の使用環境で生じる塑性ひずみに比べて大きすぎる。すなわち、SSRT試験は、鋼材の実使用条件に比べて試験条件が厳しすぎるので、鋼材の耐応力腐食割れ性を適切に評価することは難しい。
【0009】
また、SSRT試験では、1本の試験片の評価部に対して1つの応力条件しか設定できない。このため、応力条件ごとに試験片を破断させる必要があり、試験効率が悪い。
【0010】
一方、特許文献1には、上述したように、試験期間中に試験片が破断に至らない場合には、未破断試験片の断面観察をすることによって、SCC感受性を評価できることが開示されている。すなわち、特許文献1の方法では、試験片を破断させなくても、SCC感受性を評価することができる。このため、特許文献1の方法を利用することによって、試験片に付与される応力および塑性ひずみが、実際の使用環境で鋼材に付与される応力および塑性ひずみに比べて大きくなり過ぎることを避けることができると考えられる。しかしながら、特許文献1の方法でも、1本の試験片の評価部に対して1つの応力条件しか設定できないので、試験効率が悪い。
【0011】
そこで、本発明は、評価部に対して複数の異なる応力条件の設定が可能でかつ耐応力腐食割れ性を精度良く評価することができる試験片および応力腐食割れ試験方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、下記の試験片および応力腐食割れ試験方法を要旨とする。
【0013】
(1)試験対象の金属材料の降伏応力以下の応力に対応する第1荷重と前記1荷重未満の第2荷重との間で変動する変動荷重を、低ひずみ速度で所定方向に繰り返し付与することによって耐応力腐食割れ性を評価する際に用いられ、
前記所定方向における両端部につかみ部を有しかつ前記所定方向において前記両端部の前記つかみ部の間に評価部を有し、
前記評価部は、前記所定方向に垂直な断面の面積が最大となる最大断面部と、前記所定方向に垂直な断面の面積が最小となりかつ前記最大断面部から前記所定方向に離れて設けられる最小断面部とを有し、
前記評価部の前記所定方向に垂直な断面の面積は、前記最大断面部から前記最小断面部に向かって連続的または段階的に変化する、試験片。
【0014】
(2)前記所定方向において、前記最小断面部は前記評価部の中心よりも一方側または他方側に設けられる、上記(1)に記載の試験片。
【0015】
(3)前記所定方向において、前記最大断面部は前記評価部の中心よりも一方側に設けられ、前記最小断面部は前記評価部の中心よりも他方側に設けられる、上記(1)または(2)に記載の試験片。
【0016】
(4)前記評価部の前記所定方向に垂直な断面の面積が一方側の端部と他方側の端部とで異なる、上記(1)から(3)のいずれかに記載の試験片。
【0017】
(5)前記所定方向において、前記最大断面部は前記評価部の一方側の端部に設けられ、前記最小断面部は前記評価部の他方側の端部に設けられる、上記(1)から(4)のいずれかに記載の試験片。
【0018】
(6)前記評価部の前記所定方向に垂直な断面が、円形状、楕円形状または矩形状である、上記(1)から(5)のいずれかに記載の試験片。
【0019】
(7)前記所定方向から見た場合に、前記最小断面部の前記所定方向に垂直な断面の図心が、前記つかみ部の前記所定方向に垂直な断面の図心からずれていることを特徴とする、上記(1)から(6)のいずれかに記載の試験片。
【0020】
(8)前記変動荷重を、1×10-8~1×10-5(s-1)に設定される低ひずみ速度で所定方向に繰り返し付与することによって耐応力腐食割れ性を評価する際に用いられる、上記(1)から(7)のいずれかに記載の試験片。
【0021】
(9)アミンユニットに使用される鋼材の耐応力腐食割れ性を評価する際に用いられる、上記(8)に記載の試験片。
【0022】
(10)腐食環境下において、上記(1)から(7)のいずれかの試験片に対して、
前記所定方向において前記降伏応力以下の応力を前記最小断面部に生じさせるための荷重を第1荷重とし、前記第1荷重と前記第1荷重未満の第2荷重との間で変動する変動荷重を、低ひずみ速度で所定回数繰り返し付与する、応力腐食割れ試験方法。
【0023】
(11)前記変動荷重を、1×10-8~1×10-5(s-1)に設定される低ひずみ速度で所定回数繰り返し付与する、上記(10)に記載の応力腐食割れ試験方法。
【0024】
(12)アミンユニットに使用される鋼材の耐応力腐食割れ性を評価する際に用いられる、上記(11)に記載の応力腐食割れ試験方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、1本の試験片の評価部において、部位によって異なる応力条件を設定できるとともに、耐応力腐食割れ性を精度良く評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る試験片を示す図である。
図2図2は、本発明の他の実施形態に係る試験片を示す図である。
図3図3は、本発明のその他の実施形態に係る試験片を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態に係る試験片および応力腐食割れ試験方法について図面を用いて説明する。
【0028】
(試験片)
図1は、本発明の一実施形態に係る試験片を示す図である。図1を参照して、本実施形態に係る試験片10は、鋼等の金属材料からなり、長手方向に垂直な方向の断面の面積が変化している丸棒試験片である。試験片10は、腐食環境下(例えば、アミン環境下)における金属材料の耐応力腐食割れ性を評価するための試験片である。
【0029】
試験片10は、評価部12、一対のつかみ部14a,14b、および一対の肩部16a,16bを有している。評価部12は、試験片10の長手方向において、一対のつかみ部14a,14bの間に設けられている。一対のつかみ部14a,14bは、図示しない引張試験機のつかみ具によって把持される部分である。なお、以下の説明において長手方向とは、試験片10の長手方向を意味する。
【0030】
本実施形態では、長手方向において、評価部12は、試験片10の概略中央部に設けられ、一対のつかみ部14a,14bは、試験片10の両端部に設けられている。肩部16aは、評価部12とつかみ部14aとを接続し、肩部16bは、評価部12とつかみ部14bとを接続するように設けられている。上述したように、試験片10は丸棒試験片である。したがって、評価部12は、長手方向に垂直な断面において円形状を有している。なお、以下の説明において断面とは、長手方向に垂直な断面を意味し、断面積とは、長手方向に垂直な断面の面積を意味する。
【0031】
評価部12は、最大断面部20、最小断面部22およびテーパ部24を有する。なお、図1においては、最大断面部20、最小断面部22およびテーパ部24の形状を把握しやすくするために、肩部16aと最大断面部20との境界、最大断面部20とテーパ部24との境界、テーパ部24と最小断面部22との境界、および最小断面部22と肩部16bとの境界をそれぞれ一点鎖線で示している。
【0032】
最大断面部20は、評価部12のうちで、断面積が最大となる部分であり、最小断面部22は、評価部12のうちで断面積が最小となる部分である。本実施形態では、長手方向において、最大断面部20は評価部12の中心よりも一方側に設けられ、最小断面部22は評価部12の中心よりも他方側に設けられている。より具体的には、長手方向において、最大断面部20は、評価部12の一方側の端部に設けられ、最小断面部22は、評価部12の他方側の端部に設けられている。
【0033】
最小断面部22は、長手方向において、評価部12の中心よりも一方側または他方側に設けてもよい。この場合、長手方向において、最大断面部20は評価部12の中心に対して、最小断面部22と同一の側に設けてもよく、反対の側に設けてもよい。また、最小断面部22を評価部12の長手方向における中心に設ける場合、評価部12の断面積が一方側の端部と他方側の端部とで異なっていてもよい。
【0034】
本実施形態では、最大断面部20の直径は、長手方向において均一である。同様に、最小断面部22の直径は、長手方向において均一である。すなわち、最大断面部20および最小断面部22はそれぞれ円柱形状を有している。最大断面部20および最小断面部22を円柱形状とすることによって、試験片10に付与する荷重を容易に設定することができる。
【0035】
テーパ部24は、最大断面部20と最小断面部22とを接続するように設けられている。テーパ部24の断面積は、最大断面部20側から最小断面部22側に向かって連続的に変化している。本実施形態では、テーパ部24の断面積は、最大断面部20側から最小断面部22側に向かって漸次減少している。
【0036】
(応力腐食割れ試験方法)
次に、上述の試験片10を用いた応力腐食割れ試験方法について説明する。本実施形態に係る応力腐食割れ試験方法では、腐食環境下(例えば、アミン環境下)において、図示しない引張試験機によって、試験片10に対して長手方向に繰り返し荷重が付与される。以下、試験片10に付与される荷重の一例について説明する。
【0037】
なお、以下の説明では、試験対象の金属材料の降伏応力を第1応力とする。また、構造物の材料として実際に使用されている状態において金属材料に生じていると想定される残留応力(例えば、溶接残留応力)を第2応力とする。また、試験片10の長手方向において第1応力を最小断面部22に生じさせるための荷重を第1荷重とし、長手方向において第2応力を最大断面部20に生じさせるための荷重を第2荷重とする。なお、第2荷重は、第1荷重よりも小さい。なお、本実施形態において金属材料の降伏応力とは、試験温度における金属材料の降伏応力を意味する。また、試験対象の金属材料が降伏現象を示さない場合には、0.2%耐力を降伏応力とする。
【0038】
本実施形態では、腐食環境下の試験片10に対して、第1荷重と第2荷重との間で変動する変動荷重を、低ひずみ速度で所定回数繰り返し付与する。すなわち、本実施形態では、試験片10に対して、サイクリックSSRT試験が行われる。このような変動荷重の付与により、アミンユニット内の溶接残留応力が生じている部位に、圧力上昇などによって降伏応力に相当する応力が金属材料に付与された状態と、当該応力が除荷された状態との繰り返しを再現することができる。なお、試験片10に荷重を付与する際のひずみ速度は、例えば、1×10-8~1×10-5(s-1)に設定される。ひずみ速度は、試験効率を考慮して、1×10-7以上としてもよい。また、ひずみ速度は、応力腐食割れ性感受性への影響を考慮して、1×10-6以下としてもよい。
【0039】
本実施形態では、試験片10が破断しない範囲において上記の変動荷重を所定回数付与した後、試験片10の評価部12の表面および断面を観察する。具体的には、最大断面部20、最小断面部22およびテーパ部24のうちのどの部分においてSCCが発生しているのかを確認する。そして、例えば、SCCの発生箇所における評価部12の断面積に基づいてSCCの発生箇所に作用する最大応力を求め、求めた最大応力を、SCC発生の下限界応力とする。このようにして、SCCの発生条件を求めることができる。
【0040】
従来の応力腐食割れ試験は、試験片が破断するまでひずみを増加させるSSRT試験か、または、初期に設定した変位を一定に保持する定変位試験である。この方法では、例えば砂時計型の試験片を用いても、アミンユニットに実際に作用する応力条件、すなわち稼働時(内圧によるフープ応力+溶接残留応力)と停止・開放検査時(溶接残留応力のみ)の変動応力に対する下限界を評価することができない。
【0041】
なお、本実施形態に係る応力腐食割れ試験方法では、公知の種々の引張試験機を用いることができるので、引張試験機の詳細な説明は省略する。また、腐食環境は、試験対象の金属材料が使用される実際の環境に応じて再現すればよい。本実施形態では、例えば、COを飽和させた、モノエタノールアミンを20質量%含む水溶液(70℃)を、腐食環境を再現するために利用することができる。また、詳細な説明は省略するが、本実施形態に係る応力腐食割れ試験方法は、例えば、定電位制御および自然腐食の2種類の条件で行うことができる。定電位制御では、例えば、腐食環境下の試験片10を、活性溶解域および不動態域の遷移電位領域にアノード分極させ、電位を維持したまま、試験片10に対して繰り返し荷重を付与すればよい。
【0042】
(本実施形態の効果)
以上のように、本実施形態では、試験片10に対して、第1荷重と、第1荷重未満の第2荷重との間で変動する変動荷重が、試験片10が破断しない範囲において繰り返し付与される。この場合、試験片10に過大な応力および塑性ひずみが生じることを防止しつつ試験片10にSCCを発生させることができる。これにより、金属材料の耐応力腐食割れ性を精度良く評価することができる。
【0043】
また、本実施形態では、試験片10の評価部12は、断面積が最も大きい最大断面部20、断面積が最も小さい最小断面部22、および最大断面部20側から最小断面部22側に向かって断面積が漸次減少するテーパ部24を含む。これにより、評価部12の長手方向における位置によって、異なる大きさの変動応力を付与することができる。すなわち、1本の試験片10の評価部12において、部位によって異なる応力条件を設定して応力腐食割れ試験を行うことができる。
【0044】
以上の結果、本実施形態によれば、1本の試験片の評価部に対して複数の異なる応力条件を設定できるとともに、耐応力腐食割れ性を精度良く評価することができる。
【0045】
また、本実施形態においては、長手方向において、評価部12の一方側の端部に最大断面部20が設けられ、評価部12の他方側の端部に最小断面部22が設けられている。このように、最大断面部20および最小断面部22を評価部12の両端部に設けることによって、評価部12の断面積を最大断面部20から最小断面部22に向かって緩やかに変化させることができる。これによって、耐応力腐食割れ性の評価精度をより向上させることができる。
【0046】
なお、上記においては、降伏応力(第1応力)を最小断面部22に生じさせるための荷重を第1荷重としているが、第1荷重は降伏応力以下の応力を最小断面部22に生じさせる荷重であればよい。したがって、第1荷重によって、最小断面部22に、降伏応力未満の応力を生じさせてもよい。また、上記においては、実使用環境において金属材料に生じていると想定される残留応力を最大断面部20に生じさせるための荷重を第2荷重としているが、第2荷重は、第1荷重未満であればよい。したがって、第2荷重によって、最大断面部20に、上記残留応力以上の応力、または上記残留応力未満の応力を生じさせてもよい。このように、本実施形態では、第1荷重および第2荷重を適宜設定することによって、様々な水準の応力条件に対応する応力腐食割れ試験が可能になり、変動応力下の耐応力腐食割れ性を精度良く評価することができる。
【0047】
(他の実施形態)
図2は、本発明の他の実施形態に係る試験片を示す図である。図2を参照して、本実施形態に係る試験片10aは、上述の試験片10と同様に、金属材料からなり、長手方向に垂直な方向の断面の面積が変化している丸棒試験片である。以下においては、本実施形態に係る試験片10aのうち、上述の試験片10と異なる点について説明する。
【0048】
図2を参照して、試験片10aが試験片10と異なるのは、評価部12(図1参照)の代わりに評価部18を有している点である。評価部18は、評価部12と同様に、長手方向に垂直な断面において円形状を有している。評価部18が評価部12と異なるのは、テーパ部24の代わりに、複数の均一部30,32,34および複数のテーパ部40,42,44,46を有している点である。なお、図2においては、肩部16a,16b、均一部30,32,34およびテーパ部40,42,44,46の形状を把握しやすくするために、各部の境界を一点鎖線で示している。
【0049】
均一部30,32,34の直径はそれぞれ、長手方向において均一である。すなわち、均一部30,32,34はそれぞれ、円柱形状を有している。本実施形態では、均一部30の断面積は最大断面部20の断面積よりも小さく、均一部32の断面積は均一部30の断面積よりも小さく、均一部34の断面積は均一部32の断面積よりも小さくかつ最小断面部22の断面積よりも大きい。
【0050】
テーパ部40は、最大断面部20と均一部30とを接続するように設けられている。テーパ部40の断面積は、最大断面部20側から均一部30側に向かって漸次減少している。テーパ部42は、均一部30と均一部32とを接続するように設けられている。テーパ部42の断面積は、均一部30側から均一部32側に向かって漸次減少している。テーパ部44は、均一部32と均一部34とを接続するように設けられている。テーパ部44の断面積は、均一部32側から均一部34側に向かって漸次減少している。テーパ部46は、均一部34と最小断面部22とを接続するように設けられている。テーパ部46の断面積は、均一部34側から最小断面部22側に向かって漸次減少している。
【0051】
以上のように、本実施形態に係る試験片10aでは、評価部18の断面積は、最大断面部20から最小断面部22に向かって段階的に変化している。このような構成を有する試験片10aを用いて上述の応力腐食割れ試験を行うことによって、試験片10を用いる場合と同様の効果を得ることができる。試験片10aの均一部にSCCが発生した場合は、SCC発生の下限界応力を容易に求めることができる。なお、均一部およびテーパ部の数は上述の例に限定されず、図2に示した数よりも多くてもよく、少なくてもよい。
【0052】
(試験片の変形例)
図1に示した試験片10では、最大断面部20および最小断面部22が円柱形状を有しているが、最大断面部および最小断面部が円柱形状を有していなくてもよい。評価部12の長手方向の距離を大きくしたい場合は、両端に円柱形状の部位を設けず、一方側を最小断面部、他方側を最大断面部とすることができる。例えば、図1の試験片10において、最大断面部20および最小断面部22が設けられずに、肩部16a(最大断面部20との境界)と肩部16b(最小断面部22との境界)とを接続するようにテーパ部が設けられてもよい。この場合、テーパ部24の肩部16a側の端部が最大断面部となり、テーパ部24の肩部16b側の端部が最小断面部となる。
【0053】
また、図2に示した試験片10aにおいて、最大断面部20および最小断面部22が設けられずに、肩部16aとテーパ部40とが接続され、肩部16bとテーパ部46とが接続されてもよい。この場合、テーパ部40の肩部16a側の端部が最大断面部となり、テーパ部46の肩部16b側の端部が最小断面部となる。
【0054】
また、上述の試験片10,10aにおいては、長手方向において、最大断面部20が評価部の一端部に設けられ、最小断面部22が評価部の他端部に設けられているが、最大断面部20および最小断面部22の位置は上述の例に限定されない。例えば、最小断面部22が、長手方向において、評価部の中心と肩部16bとの間に設けられてもよい。この場合、最小断面部22と肩部16bとの間における評価部の断面積は、最小断面部22から肩部16bに向かって連続的に増加してもよく、段階的に増加してもよい。
【0055】
また、長手方向において、評価部の中心に最小断面部22が設けられ、評価部の両端に最大断面部20が設けられてもよい。この場合も、評価部の断面積は、最小断面部22から一対の最大断面部20に向かって連続的に増加してもよく、段階的に増加してもよい。
【0056】
上述の実施形態では、評価部が円形状の断面を有している場合について説明したが、評価部が楕円形状または矩形状の断面を有していてもよい。この場合も、上述の試験片10,10aと同様に評価部の断面積を連続的または段階的に変化させることによって、試験片10,10aと同様の効果が得られる。
【0057】
上述の実施形態に係る試験片は、長手方向(引張方向)の軸に対称となる形状を有している。より具体的には、上述の実施形態に係る試験片では、長手方向に垂直な断面において、評価部が、長手方向の軸に対して回転対称となる形状を有している。しかしながら、評価部の形状は上述の例に限定されない。図3は、本発明のその他の実施形態に係る試験片を示す図であり、(a)は試験片の正面図であり、(b)は(a)の試験片を長手方向(紙面右側)から見た図である。
【0058】
図3に示すように、長手方向に垂直な断面において、評価部19の図心を、つかみ部14a,14bの中心軸47(つかみ部の図心)からずらすことで、長手方向における位置と垂直方向(長手方向に対して垂直な方向)における位置とに応じて、評価部19に異なる大きさの変動応力を付与することができる。例えば、図3に示す試験片10bは、破線で示すように正方形断面であった中央部の1つの側面50が研削されており、評価部19の断面積が長手方向に連続的に変化していることに加えて、長手方向から見て、評価部19の最小断面部22の図心51が、つかみ部14aの図心52aおよびつかみ部14bの図心52bと一致しておらず、異なる位置にある。この場合、試験時に評価部19に発生する引張応力は長手方向と垂直方向とに分布し、評価部19において、曲面形状を有する凹側53に高い引張応力が、その反対側54に圧縮応力または低い引張応力が作用することで、応力腐食割れの発生応力条件をその発生位置に応じて比較することができる。
【0059】
また、評価部が、例えば、台形状を有する場合のように、長手方向から見て、評価部の長手方向に垂直な断面における図心がつかみ部の図心と一致しない場合も、評価部の断面積を連続的または段階的に変化させることができる。このような試験片を用いると、評価部における長手方向の位置および任意の断面における垂直方向の位置によって、異なる大きさの変動応力を付与することができる。すなわち、1本の試験片の評価部において、部位によって異なる応力条件を設定して応力腐食割れ試験を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、1本の試験片の評価部に対して複数の異なる応力条件を設定できるとともに、耐応力腐食割れ性を精度良く評価することができる。したがって、本発明は、種々の金属材料の耐応力腐食割れ性の評価において好適に利用できる。特に、本発明は、変動応力が負荷されるアミンユニットに使用される鋼材の応力腐食割れ試験用の試験片およびその試験片を用いた応力腐食割れ試験方法に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0061】
10,10a,10b 試験片
12,18,19 評価部
14a,14b つかみ部
16a,16b 肩部
20 最大断面部
22 最小断面部
24,40,42,44,46 テーパ部
30,32,34 均一部
50 研削面
51 評価部の図心
52a,52b つかみ部の図心
53 凹側の曲面
54 凹側の反対側平面

図1
図2
図3