(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-08
(45)【発行日】2023-08-17
(54)【発明の名称】非粘着性積層体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/30 20060101AFI20230809BHJP
B05D 1/36 20060101ALI20230809BHJP
B05D 5/08 20060101ALI20230809BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20230809BHJP
【FI】
B32B27/30 D
B05D1/36 Z
B05D5/08 Z
B05D7/24 301A
B05D7/24 302L
B05D7/24 302T
(21)【出願番号】P 2019107349
(22)【出願日】2019-06-07
【審査請求日】2021-12-29
(31)【優先権主張番号】P 2019038958
(32)【優先日】2019-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000107619
【氏名又は名称】スターライト工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】山本 恵利
(72)【発明者】
【氏名】河邉 保雅
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-201653(JP,A)
【文献】特開昭64-017896(JP,A)
【文献】特開平07-041699(JP,A)
【文献】特開2016-169339(JP,A)
【文献】特開2004-027115(JP,A)
【文献】特開2018-016697(JP,A)
【文献】特開2014-034115(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
B05D1/00-7/26
C09D1/00-10/00
101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に下地層及び表面層が順に形成された、非粘着性表面を有する非粘着性積層体であって、
下地層は、硬化性樹脂組成物(但し硬化性フッ素樹脂組成物を除く。)の硬化物を含有し、
表面層は、粉体状の硬化性フッ素樹脂組成物の硬化物を含有し、且つ、硬化性フッ素樹脂組成物の粉体に由来する凹凸が形成された表面構造を有し、
硬化性フッ素樹脂組成物の硬化物は、前記粉体に由来する粒子により構成され、当該粒子の表面の少なくとも一部が下地層の硬化性樹脂の硬化物と接して固着されて
おり、
下地層の硬化性樹脂組成物に含まれる官能基と、表面層の硬化性フッ素樹脂組成物に含まれる官能基とが化学結合され、下地層の硬化物と表面層の硬化物とが固着されている、非粘着性積層体。
【請求項2】
前記硬化性フッ素樹脂組成物が、硬化性フッ素樹脂及び硬化剤を含み、
硬化性フッ素樹脂組成物の硬化物が、その硬化剤により架橋された硬化性フッ素樹脂の架橋物である、請求項1記載の非粘着性積層体。
【請求項3】
表面層が、熱可塑性フッ素樹脂組成物の粉体を更に含み、熱可塑性フッ素樹脂組成物の粉体の表面の少なくとも一部が下地層の硬化性樹脂組成物の硬化物と接して固着され、硬化性フッ素樹脂組成物及び熱可塑性フッ素樹脂組成物の粉体に由来する凹凸が形成された表面構造を有する、請求項1又は2に記載の非粘着性積層体。
【請求項4】
下地層の硬化性樹脂組成物の硬化物が、イソシアネート基を有する化合物と活性水素を有する化合物との反応生成物である、請求項1~3の何れか1項に記載の非粘着性積層体。
【請求項5】
硬化性フッ素樹脂組成物の粉体の平均粒子径が、50~500μmである、請求項1~
4の何れか1項に記載の非粘着性積層体。
【請求項6】
表面層の厚みが、50~1000μmである、請求項1~
5の何れか1項に記載の非粘着性積層体。
【請求項7】
下地層の硬化性樹脂組成物が、常温硬化性である、請求項1~
6の何れか1項に記載の非粘着性積層体。
【請求項8】
下地層の厚みが、0.05~10mmである、請求項1~7の何れか1項に記載の非粘着性積層体。
【請求項9】
基材の表面に下地層及び表面層が順に形成された、非粘着性表面を有する非粘着性積層体の製造方法であって、
基材表面に、硬化性樹脂組成物(但し硬化性フッ素樹脂組成物を除く。)を塗布して下地層塗膜を形成する工程、
前記硬化性樹脂組成物が完全硬化する前に、下地層塗膜の表面に、粉体状の硬化性フッ素樹脂組成物を塗布して表面層塗膜を形成する工程、
下地層塗膜の硬化性樹脂組成物を硬化させる下地層塗膜硬化工程、
表面層塗膜の硬化性フッ素樹脂組成物を硬化させる表面層塗膜硬化工程、
を含み、
下地層の硬化性樹脂組成物に含まれる官能基と、表面層の硬化性フッ素樹脂組成物に含まれる官能基とが化学結合され、下地層の硬化物と表面層の硬化物とが固着され、硬化性フッ素樹脂組成物の粉体に由来する凹凸が形成された表面構造を有する表面層を形成する、非粘着性積層体の製造方法。
【請求項10】
前記硬化性フッ素樹脂組成物が、硬化性フッ素樹脂及び硬化剤を含み、硬化剤により硬化性フッ素樹脂を架橋することにより、前記硬化性フッ素樹脂組成物を硬化させる、請求項
9記載の非粘着性積層体の製造方法。
【請求項11】
下地層塗膜の硬化性樹脂組成物が、イソシアネート基及び活性水素を有する化合物を含有する、請求項
9又は
10に記載の非粘着性積層体の製造方法。
【請求項12】
下地層塗膜の硬化性樹脂組成物の硬化が、常温環境下で反応性を有する2液を混合することにより行われる、請求項
9~
11の何れか1項に記載の非粘着性積層体の製造方法。
【請求項13】
下地層塗膜の硬化性樹脂組成物の硬化が、イソシアネート基を有する化合物を含む液とアミンを含む液とを混合することにより行われ、イソシアネート基とアミンに含まれる活性水素が95mol%以上反応するまで静置した後、表面層塗膜硬化工程を行う、請求項
9~
12の何れか1項に記載の非粘着性積層体の製造方法。
【請求項14】
下地層塗膜の表面に、粉体状の硬化性フッ素樹脂組成物及び熱可塑性フッ素樹脂組成物を塗布して表面層塗膜を形成する工程を含む、請求項
9~
13の何れか1項に記載の非粘着性積層体の製造方法。
【請求項15】
表面層塗膜の硬化性フッ素樹脂組成物を、熱可塑性フッ素樹脂組成物の融点よりも低い温度に加熱して硬化させる表面層塗膜硬化工程を含む、請求項
14記載の非粘着性積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非粘着性積層体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、各種基材の表面に耐候性、耐衝撃性、耐水性、撥水性、耐薬品性等の特性を付与するために、基材表面にフッ素樹脂を含む表面層を形成することが広く行われている。このような表面層の形成には、例えば、フッ素樹脂をコーティングする方法(特許文献1)、粉体塗料を用いて基材表面に下地層とフッ素を含む表面層を形成する方法(例えば、特許文献2、3参照)、基材表面にフッ素樹脂及び特定の化合物を含む組成物を塗布することで基材表面にフッ素樹脂を含む表面層を形成する方法(特許文献4、5)等が知られている。
【0003】
特許文献1には、米飯ホッパーと、該米飯ホッパーから供給される米飯を所定厚さの略板状に成形しつつ搬出する米飯搬出装置と、搬出された米飯を所定長さに切り分ける米飯カッターと、複数枚の矩形状板が筒型に屈折可能に連接される米飯包板、及び、その駆動機構とからなり所定長さに切り分けられた米飯を巻包して略柱状に成形する米飯巻包装置と、を含んで構成される自動巻寿司製造装置において、前記米飯ホッパー、米飯搬出装置、米飯カッター、米飯巻包装置の少なくとも米飯が接触する面には、フッ化炭素樹脂のコーティングが夫々施されていることが記載されている。これにより、米飯がへばりつくことが低減するため、装置の作動がより安定し、また、装置の使用後の手入れが簡単になるとされている。
【0004】
特許文献2には、アルミ建材の表面に、非相溶性にして熱溶融温度高低異温度のポリエステル塗料とフッ素塗料のドライブレンド粉体塗料の粉体塗装によって形成された粉体塗膜を施すことが記載されている。このような粉体塗料を用いることで、膜厚方向表面側にフッ素塗料成分を高密度に分布させ、膜厚方向下地側にポリエステル塗料成分を高密度に分布させ、測定角度60°の光沢度を25~40%としたマット調表面が形成されることが記載されている。そして、塗膜の表面側にフッ素塗料に基づき耐候性が付与され、塗膜の下地側にポリエステル塗料に基づき耐衝撃性が付与され、マット調表面により良好な外観が付与されるとされている。
【0005】
特許文献3には、特定のフッ素樹脂(A1)、特定のポリエステル重合体(B)、イソシアネート系硬化剤および特定の紫外線吸収剤(D)を含有する粉体塗料組成物を170~210℃で焼付けて、その溶融物からなる塗膜を形成し、粉体塗料組成物中の反応成分を反応させ、次いで、溶融状態の塗膜を室温まで冷却して固化させ、フッ素樹脂層及びポリエステル層の2層構造の硬化膜を形成することが記載されている。そしてこのような硬化膜は、耐水性、耐薬品性、および耐候性に優れているとされている。
【0006】
特許文献4には、特定の粒度分布のフッ素化ダイヤモンドを含有する分散液を基材表面に塗布、乾燥して、基材表面の表面パラメータを特定範囲に制御することで、優れた撥水性を有する撥水コート膜が形成されることが記載されている。
【0007】
特許文献5には、発光塗料に多孔質表面形状を生成するための直径が数10μm以下のフッ素樹脂の粒子を混合し、それを基盤に定着させるためのバインダーとしてメチル基を有する分子全体間の凝集力の小さいメチル系シリコーンを用いたものを基盤に塗布したものである超撥水性面発光センサーが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平10-243775号公報
【文献】特開2012-40503号公報
【文献】特許第6431765号公報
【文献】特開2016-44092号公報
【文献】特開2014-6166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の発明では、フッ素樹脂により米飯と接触する部分をコーティングすることで、米飯の付着を防止している。しかし、特許文献1にはコーティングの構成が明示されておらず、また、一般にフッ素樹脂は接着性が低く、一般的なフッ素樹脂のコーティングは、剥離し易く、耐摩耗性や耐久性に欠ける恐れがある。また、米飯は粘着性を有するため、フッ素樹脂のコーティングであっても、米飯の付着をさらに防止するには、改良の余地がある。また、本発明者の検討によると、米飯以外の水等の液体、水分を含む粉体やスラリー等の場合も、米飯と同様に付着しやすい場合があることが判明し、それの付着を防止するには、改良の余地がある。
【0010】
特許文献2のような粉体塗料を用いることで、所定の特性の塗膜が形成され得る。しかし、特定成分のドライブレンド粉体塗料を溶融させ、マット調の表面が形成されるため、表面粗さが大きすぎ、各種の液体、粉体等の付着を抑制するには更なる改良の余地がある。また、熱溶融するポリエステル塗料とフッ素塗料とは相溶性がないため、表面のフッ素塗料成分の層がポリエステル塗料成分の層から剥離し易く、耐摩耗性や耐久性に欠ける恐れがある。
【0011】
特許文献3に記載の粉体塗料組成物を用いることで、フッ素樹脂層とポリエステル層とが化学結合により固着され得る。しかし、フッ素樹脂及びポリエステル重合体等の粉体塗料組成物を1回のコート塗装で形成された塗膜で、粉体塗料組成物の溶融、硬化過程でフッ素樹脂層とポリエステル層が層分離して2層構造を形成しているため、耐久性が高いことが推定されるものの、フッ素樹脂層は層分離しで形成されたものに過ぎず、各種の液体、粉体等の付着を抑制するか否かは不明である。
【0012】
特許文献4記載の分散液を用いることで、撥水性コート膜は形成される。しかし、特殊な材料であるフッ素化ダイヤモンドを用いる必要がある。また、フッ素化ダイヤモンドが基材から剥離し易く、耐摩耗性や耐久性に欠ける恐れがある。
【0013】
特許文献5には水・氷・雪の付着を防止する超撥水性面の発光センサーが記載されているが、やはりフッ素樹脂の粒子が剥離し易く、耐摩耗性や耐久性に欠ける恐れがある。
【0014】
以上のように、例えば特許文献1~3に記載の発明では、水等の液体、水分を含む粉体やスラリー等の付着を防止するには改良の余地がある。また特許文献1、2、4、5に記載の発明では、耐摩耗性や耐久性に欠ける恐れがある。
【0015】
そこで、本発明の目的は、水等の液体、水分を含む粉体やスラリーが等で付着しやすい傾向を有するものであっても、その付着を抑制可能な非粘着性を有し、且つ、フッ素樹脂を含む表面層の剥離が抑制され、耐摩耗性に優れた非粘着性積層体を提供することである。また、このような非粘着性積層体を簡便に形成可能な非粘着性積層体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、前述の課題解決のために、鋭意検討を行った。その結果、下地層に特定の硬化性樹脂組成物の硬化物を含有させ、表面層に粉体状の硬化性フッ素樹脂組成物の硬化物を含有させ、硬化性フッ素樹脂組成物の粉体に由来する凹凸を表面に形成させることで、前述の課題が解決されることを見出した。
【0017】
本発明の第一は、基材の表面に下地層及び表面層が順に形成された、非粘着性表面を有する非粘着性積層体であって、下地層は、硬化性樹脂組成物(但し硬化性フッ素樹脂組成物を除く。)の硬化物を含有し、表面層は、粉体状の硬化性フッ素樹脂組成物の硬化物を含有し、且つ、硬化性フッ素樹脂組成物の粉体に由来する凹凸が形成された表面構造を有し、硬化性フッ素樹脂組成物の硬化物は、前記粉体に由来する粒子により構成され、当該粒子の表面の少なくとも一部が下地層の硬化性樹脂の硬化物と接して固着されている、非粘着性積層体に関する。
【0018】
本発明の実施形態では、前記硬化性フッ素樹脂組成物が、硬化性フッ素樹脂及び硬化剤を含み、硬化性フッ素樹脂組成物の硬化物が、その硬化剤により架橋された硬化性フッ素樹脂の架橋物であってもよい。
【0019】
本発明の実施形態では、表面層が、熱可塑性フッ素樹脂組成物の粉体を更に含み、熱可塑性フッ素樹脂組成物の粉体の表面の少なくとも一部が下地層の硬化性樹脂組成物の硬化物と接して固着され、硬化性フッ素樹脂組成物及び熱可塑性フッ素樹脂組成物の粉体に由来する凹凸が形成された表面構造を有してもよい。
【0020】
本発明の実施形態では、下地層の硬化性樹脂組成物の硬化物が、イソシアネート基を有する化合物と活性水素を有する化合物との反応生成物であってもよい。
【0021】
本発明の実施形態では、下地層の硬化性樹脂組成物に含まれる官能基と、表面層の硬化性フッ素樹脂組成物に含まれる官能基とが化学結合され、下地層の硬化物と表面層の硬化物とが固着されていてもよい。
【0022】
本発明の実施形態では、硬化性フッ素樹脂組成物の粉体の平均粒子径が、50~500μmであってもよい。
【0023】
本発明の実施形態では、表面層の厚みが、50~1000μmであってもよい。
【0024】
本発明の実施形態では、下地層の硬化性樹脂組成物が、常温硬化性であってもよい。
【0025】
本発明の実施形態では、下地層の厚みが、0.05~10mmであってもよい。
【0026】
本発明の第二は、基材の表面に下地層及び表面層が順に形成された、非粘着性表面を有する非粘着性積層体の製造方法であって、基材表面に、硬化性樹脂組成物(但し硬化性フッ素樹脂組成物を除く。)を塗布して下地層塗膜を形成する工程、前記硬化性樹脂組成物が完全硬化する前に、下地層塗膜の表面に、粉体状の硬化性フッ素樹脂組成物を塗布して表面層塗膜を形成する工程、下地層塗膜の硬化性樹脂組成物を硬化させる下地層塗膜硬化工程、表面層塗膜の硬化性フッ素樹脂組成物を硬化させる表面層塗膜硬化工程、を含み、硬化性フッ素樹脂組成物の粉体に由来する凹凸が形成された表面構造を有する表面層を形成する、非粘着性積層体の製造方法に関する。
【0027】
本発明の実施形態では、前記硬化性フッ素樹脂組成物が、硬化性フッ素樹脂及び硬化剤を含み、硬化剤により硬化性フッ素樹脂を架橋することにより、前記硬化性フッ素樹脂組成物を硬化させてもよい。
【0028】
本発明の実施形態では、下地層塗膜の硬化性樹脂組成物が、イソシアネート基及び活性水素を有する化合物を含有してもよい。
【0029】
本発明の実施形態では、下地層塗膜の硬化性樹脂組成物の硬化が、常温環境下で反応性を有する2液を混合することにより行われてもよい。
【0030】
本発明の実施形態では、下地層塗膜の硬化性樹脂組成物の硬化が、イソシアネート基を有する化合物を含む液とアミンを含む液とを混合することにより行われ、イソシアネート基とアミンに含まれる活性水素が95mol%以上反応するまで静置した後、表面層塗膜硬化工程を行ってもよい。
【0031】
本発明の実施形態では、下地層塗膜の表面に、粉体状の硬化性フッ素樹脂組成物及び熱可塑性フッ素樹脂組成物を塗布して表面層塗膜を形成する工程を含んでもよい。
【0032】
本発明の実施形態では、表面層塗膜の硬化性フッ素樹脂組成物を、熱可塑性フッ素樹脂組成物の融点よりも低い温度に加熱して硬化させる表面層塗膜硬化工程を含んでもよい。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、水等の液体、水分を含む粉体やスラリーが等で付着しやすい傾向を有するものであっても、その付着を抑制可能な非粘着性を有し、且つ、フッ素樹脂を含む表面層の剥離が抑制され、耐摩耗性に優れた非粘着性積層体を提供することができる。また、このような非粘着性積層体を簡便に形成可能な非粘着性積層体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の実施形態に係る非粘着性積層体(以下、単に「積層体」と称する場合がある。)は、基材の表面に下地層及び表面層が順に形成されており、非粘着性表面を有する。即ち、実施形態に係る非粘着性積層体は、基材、下地層及び表面層を有し、基材の表面に下地層が形成され、下地層の基材とは反対側の表面に表面層が形成された構造を有する。また、表面層の外表面が、非粘着性表面を構成する。下地層は、硬化性樹脂組成物(但し硬化性フッ素樹脂組成物を除く。)の硬化物を含有する。表面層は、粉体状の硬化性フッ素樹脂組成物の硬化物を含有し、且つ、硬化性フッ素樹脂組成物の粉体に由来する凹凸が形成された表面構造を有する。硬化性フッ素樹脂組成物の硬化物は、前記粉体に由来する粒子により構成される。この粒子の表面の少なくとも一部が下地層の硬化性樹脂の硬化物と接して固着されている。下地層と表面層の境界部分には、各層を構成する樹脂組成物の硬化物が混在する境界領域が形成され得る。
【0035】
このように、表面層が、硬化性フッ素樹脂組成物の粉体に由来する凹凸が形成された表面構造を有することで、フッ素樹脂に由来する非粘着性の特性を有し、かつ、微細な凹凸構造が形成されることで、当該凹凸に基づく撥水性の特性をも有し、これらの相乗効果により、水等の液体、水分を含む粉体やスラリーが等で付着しやすい傾向を有するものであっても、その付着を抑制することが可能な優れた非粘着性の効果が発揮される。また、硬化性フッ素樹脂組成物の粉体に由来する粒子の表面の少なくとも一部が、下地層の硬化性樹脂組成物と接して固着されることで、下地層と表面層とが良好に連結され、表面層の剥離が抑制される。このため耐久性に優れた非粘着性積層体が得られる。また、下地層及び表面層において硬化性の樹脂組成物が用いられるため、下地層の樹脂組成物の硬化物と表面層の樹脂組成物の硬化物との接合が促進され得る。
【0036】
基材を構成する材質としては、積層体の適用される各種の用途に応じて、適宜選択することができる。このような材質としては、鉄、鋼、アルミニウム、銅、金、銀等の金属、セラミック、ガラス、合成樹脂、天然樹脂、木材、紙、ダイヤモンド等が挙げられる。鋼としては、2.0%以下の含有量の炭素を含み、他の元素を含んでもよい鉄の合金であればよく、例えば、ステンレス等が挙げられる。合成樹脂には、炭素繊維強化樹脂、ガラス繊維強化樹脂等の繊維強化樹脂が含まれる。このうち、耐腐食性や重量、汎用性の観点からステンレス、アルミ、鉄が好ましい。
【0037】
基材の形状は特に限定はない。基材としては、例えば、(i)原材料等を搬送する搬送機械に設けられているホッパーの表面を構成する部材、(ii)ブルドーザー、ショベルカー等の建設機械に設けられ、粘土等の掘削物や原材料を入れて運搬する容器であるバケットの表面を構成する部材、(iii)ダンプトラック等に設けられる車両荷台の表面を構成する部材、(iv)除雪車、一般車両(自動車、鉄道等を含む)、船舶、家屋、橋等における着雪箇所を構成する部材、(v)樋の表面を構成する部材、(vi)(i)~(v)の各部材の表面に適用可能なシート状の部材等が挙げられる。
【0038】
下地層は、後述する硬化性フッ素樹脂組成物以外の硬化性樹脂組成物(以下、単に「硬化性樹脂組成物」と称する場合がある。)の硬化物を含有する。必要に応じて、基材表面とその硬化物との接合強度を向上させるための前処理層を含んでもよい。下地層は、好ましくは、硬化性樹脂組成物の硬化物である。硬化物の樹脂成分は、一般に、熱硬化性樹脂と称されるものにより構成される。熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、アミノ樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド、イソシアネート基を有する化合物と活性水素を有する化合物との反応生成物であるポリマー等が挙げられる。このうち、耐衝撃性の観点からは、イソシアネート基を有する化合物と活性水素を有する化合物との反応生成物であるポリマーが好ましい。尚、アミノ樹脂とは、尿素、メラミン、グアナミン、アニリン等のようにアミノ基(-NH2)を有する化合物とホルムアルデヒドとの付加縮合反応により得られる熱硬化性樹脂を意味する。
【0039】
イソシアネート基を有する化合物としては、例えば、芳香族イソシアネート、脂環式イソシアネート、脂肪族イソシアネート、芳香族イソシアネートの水添物等が挙げられる。より具体的には、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(MDI)、1,5-ナフタレンジイソシアネート(NDI)等のジイソシアネート、多価アルコールとジイソシアネートとの付加体(アダクト)、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。また、イソシアネート基を有する化合物は、イソシアネート基を一次的に保護基で保護して不活性にしたブロック化イソシアネートであってもよい。保護基は熱等によって除去され、イソシアネート基を再生させて使用することができる。保護基となり得る保護剤は、例えば、フェノール、カプロラクタム、オキシム、アルコール等が挙げられる。
【0040】
活性水素を有する化合物としては、例えば、ポリオール、水、アミン、尿素誘導体、ウレタン誘導体等が挙げられる。このうち、耐衝撃性の観点からは、ポリオール、アミンが好ましい。イソシアネート類とポリオールとの反応生成物がポリウレタン、イソシアネート類とアミンとの反応生成物がポリウレアであるから、熱硬化性樹脂としては、ポリウレタン、ポリウレアが好ましい。
【0041】
ポリオールとしては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ヒマシ油等が挙げられる。アミンとしては、ポリアミン等が挙げられる。ポリアミンは、アミノ基を2つ以上有する化合物であればよい。アミンは、ポリオールより、イソシアネートとの反応が速い。また、アミノ基とイソシアネート基との反応で生成される尿素結合は、水酸基とイソシアネート基との反応で生成されるウレタン結合より硬い。そのため、活性水素を有する化合物としては、アミンが好ましく、ポリアミンがより好ましい。即ち、熱硬化性樹脂としては、ポリウレアがより好ましい。
【0042】
イソシアネート基を有する化合物と活性水素を有する化合物との混合比は、一般的にはイソシアネート基と活性水素とが等モルになるように混合することができるが、厳密に等モルである必要なく、いずれかが多くてもよい。
【0043】
熱硬化性樹脂の分子量は、その種類、用途に応じて適宜決定することができる。
【0044】
硬化性樹脂組成物は、前述の熱硬化性樹脂を合成するために必要な、モノマー、オリゴマー、プレポリマー、ポリマー、硬化剤等の硬化性成分、溶媒、添加剤等の各種成分を適宜選択して含む組成物であればよい。溶媒に関しては、無溶媒、有機溶媒、水等の何れでも良いが、環境面、安全性、施工性の観点からは、無溶媒であるのが好ましい。つまり、硬化性成分は、無溶媒で基材への塗布が可能なものが好ましい。このような硬化性成分の反応生成物である熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリウレタン、ポリウレア、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0045】
硬化性樹脂組成物の硬化物は、硬化性樹脂組成物に含まれる硬化性成分の反応特性に応じて、加熱硬化、所定の成分の混合による常温硬化、吸湿による常温硬化等により形成され得る。このうち、熱劣化防止、工程の間便さの観点から、常温硬化により形成されるのが好ましい。即ち、硬化性樹脂組成物は常温硬化性のものが好ましい。このような硬化性樹脂組成物の反応生成物である熱硬化性樹脂としては、ポリウレタン、ポリウレア、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0046】
下地層の厚みは、用途等に応じて適宜設定可能である。耐久性の観点では、0.05~10mmとするのが好ましい。
【0047】
表面層は、粉体状の硬化性フッ素樹脂組成物の硬化物を含有する。硬化性フッ素樹脂組成物は、分子中に反応性官能基を有するフッ素樹脂を含有する。反応性官能基の特性に応じて、硬化剤が含まれていてもよい。分子中に反応性官能基を有するフッ素樹脂としては、例えば、(a)特許第6431765号公報に記載の水酸基含有フッ素重合体、(b)特許第4424246号公報、特許第5365939号公報、特許第5263269号公報に記載の反応性官能基を有するフッ素重合体等が挙げられる。
【0048】
前記(a)の水素基含有フッ素重合体は、フルオロオレフィンに由来する単位と、フルオロオレフィンと共重合可能な、水酸基を有する単量体に由来する単位と、必要に応じてこれら以外の単量体に由来する単位を有するものが挙げられる。
【0049】
フルオロオレフィンとしては、例えば、テトラフルオロエチレン(TFE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ヘキサフルオロプロピレン、ビニリデンフルオリド、ビニルフルオリド等が挙げられる。
【0050】
水酸基を有する単量体としては、たとえば、アリルアルコール;2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、シクロヘキサンジオールモノビニルエーテル等のヒドロキシアルキルビニルエーテル;2-ヒドロキシエチルアリルエーテル等のヒドロキシアルキルアリルエーテル;ヒドロキシプロピオン酸ビニル等のヒドロキシアルカン酸ビニル;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル等が挙げられる。これらは、1種でもよいし、2種以上含まれていてもよい。
【0051】
フルオロオレフィン及び水酸基を有する単量体以外の単量体としては、ビニルエーテル、アリルエーテル、カルボン酸ビニルエステル、カルボン酸アリルエステル、オレフィン等のビニル系単量体が挙げられる。これらは、1種でもよいし、2種以上含まれていてもよい。
【0052】
このような水素基含有フッ素重合体は、市販のものを使用することができる。例えば、株式会社AGC製のルミフロン(登録商標)等が挙げられる。ルミフロン(登録商標)は、フルオロエチレンとビニルエーテルの交互共重合体(FEVE交互共重合体)であり、水酸基を含有する共重合体として知られている。
【0053】
水酸基含有含フッ素重合体の数平均分子量は、3000~50000が好ましい。水酸基含有含フッ素重合体の水酸基価は、5~100mgKOH/gが好ましい。水酸基価の測定はJIS K 1557-1(2007年度版)に準じて行うことができる。
【0054】
前記(b)の反応性官能基を有するフッ素重合体は、テトラフルオロエチレン及び/又はクロロトリフルオロエチレンに基づく繰り返し単位、ジカルボン酸無水物基を有しかつ環内に重合性不飽和基を有する環状炭化水素モノマーに基づく繰り返し単位、及び、その他のモノマーに基づく繰り返し単位を含有するもの、その高分子末端基として、エステル基、カーボネート基、水酸基、カルボキシル基、カルボニルフルオリド基、酸無水物残基等の反応性官能基を有するもの等が挙げられる。例えば、TFE/CF2=CFOCF2CF2CF3/NAH共重合体、TFE/HFP/NAH共重合体、TFE/CF2=CFOCF2CF2CF3/HFP/NAH共重合体、TFE/VdF/NAH共重合体、TFE/CH2=CH(CF2)4F/NAH/エチレン共重合体、TFE/CH2=CH(CF2)2F/NAH/エチレン共重合体、CTFE/CH2=CH(CF2)4F/NAH/エチレン共重合体、CTFE/CH2=CH(CF2)2F/NAH/エチレン共重合体、CTFE/CH2=CH(CF2)2F/NAH/エチレン共重合体、及び、これらの共重合体の高分子末端基として前述の反応性官能基を有するもの等が挙げられる。ここで、NAHは5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物、HFPはヘキサフルオロプロピレン、VdFはフッ化ビニリデンである。
【0055】
このような分子中に反応性官能基を有するフッ素樹脂は、フッ素重合体に導入されている反応性官能基と反応性を有する硬化剤により架橋され、架橋物が形成されることで、反応性フッ素樹脂組成物の硬化物が得られる。硬化剤としては、例えば、イソシアネート基を有する化合物、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、スルホアミド樹脂、尿素樹脂、アニリン樹脂等のアミン系硬化剤、β-ヒドロキシアルキルアミド系硬化剤、トリグリシジルイソシアヌレート系硬化剤等が挙げられる。イソシアネート基を含有する化合物としては、前述のものを採用することができる。フッ素重合体が反応性官能基として水素基含有する場合は、イソシアネート基を含有する化合物、アミン系硬化剤を用いることができる。硬化剤の軟化温度(硬化開始温度)は、140~200℃が好ましい。硬化剤の添加量は、フッ素樹脂中の反応性官能基(A)に対する硬化剤中の反応性官能基(B)とのモル比(A/B)は、付与する表面特性に応じて適宜設定可能である。
【0056】
硬化性フッ素樹脂組成物は粉体状を呈する。その硬化物も、硬化性フッ素樹脂組成物の粉体に由来する粒子により構成される。例えば、反応性官能基を有するフッ素樹脂が粉体状であり、その粒子の状態を維持しつつ、硬化反応により硬化物が得られる。もっとも、硬化反応前後で粒子の形状が同一である必要はない。このように硬化物が粒子で構成されることで、表面層の表面構造は、その粉体に由来する凹凸が形成される。このような凹凸の形成は、加熱条件等により制御可能である。より良好な非粘着性を表面に付与する観点からは、硬化性フッ素樹脂組成物の粉体の平均粒子径は、50~500μmであるのが好ましい。平均粒子径は、例えば、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(株式会社堀場製作所製、Part ica LA-960-V2等)等より測定することができる。
【0057】
この硬化物を構成する粒子は、その表面の少なくとも一部が、下地層の硬化性樹脂の硬化物と接し、下地層に固着されている。そのため、粒子の脱落が抑制されることで表面層の剥離が抑制される。特に、下地層の硬化性樹脂組成物に含まれる官能基と、表面層の硬化性フッ素樹脂組成物に含まれる官能基とが化学結合される場合は、より表面層の剥離がより抑制される。この化学結合には、各樹脂組成物を構成する樹脂成分に含まれる官能基同士が直接または硬化剤を介して結合するものが含まれる。
【0058】
表面層には、さらに、熱可塑性フッ素樹脂組成物の粉体が含まれていてもよい。この粉体も、硬化性フッ素樹脂組成物の粉体と同様に、その粉体の表面の少なくとも一部が下地層の硬化性樹脂組成物の硬化物と接して固着される。また、硬化性フッ素樹脂組成物の粉体と下地層の硬化性樹脂組成物の硬化物とに接して固着され得る。このように熱可塑性樹脂組成物の粉体も含有することで、硬化性フッ素樹脂組成物と熱可塑性フッ素樹脂組成物の粉体に由来する凹凸が表面層の表面に形成される。これにより、非粘着性がより向上する。硬化性フッ素樹脂組成物(A)と熱可塑性フッ素樹脂組成物(B)の混合比(A/B、重量比)は、95:5~50:50が好ましい。
【0059】
熱可塑性フッ素樹脂組成物を構成する熱可塑性フッ素樹脂としては、例えば、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PFEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(EPA)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(PETFE)、ポリビニリデンフルオリド(PVDF)、ポリビニルフルオリド(PVF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等が挙げられる。これらは、1種でもよいし、2種以上含まれていてもよい。
【0060】
熱可塑性フッ素樹脂組成物には、必要に応じて各種の添加剤が添加されていてもよい。
【0061】
熱可塑性フッ素樹脂組成物の粉体の平均粒子径は、より良好な非粘着性を表面に付与する観点からは、0.1~50μmであるのが好ましい。
【0062】
表面層の厚みは、用途等に応じて適宜設定可能である。耐久性の観点からは、50~1000μmが好ましく、500~1000μmがより好ましい。ここで、表面層の厚みは、表面層と前述の境界領域との総和を意味する。即ち、硬化性フッ素樹脂組成物の硬化物が存在する部分が表面層である。
【0063】
以上のような表面層は、表面粗さ(Ra)が、3~20μmであるのが好ましい。また、表面の水接触角は、高い撥水性を発揮する観点から120°以上であるのが好ましい。
【0064】
本発明の実施形態に係る非粘着性積層体の製造方法は、基材の表面に下地層及び表面層が順に形成された、非粘着性表面を有する非粘着性積層体の製造方法であり、以下の各工程(1)~(4)を含む。そして、これらの工程を含んで形成される非粘着性積層体には、硬化性フッ素樹脂組成物の粉体に由来する凹凸が形成された表面構造を有する表面層が形成される。また、硬化性フッ素樹脂組成物の硬化物は、前記粉体に由来する粒子により構成され、当該粒子の表面の少なくとも一部が下地層の硬化性樹脂の硬化物と接して固着されている。
【0065】
工程(1)では、基材表面に、硬化性樹脂組成物(但し硬化性フッ素樹脂組成物を除く。)を塗布して下地層塗膜を形成する。基材は前述のものを用いることができる。基材への塗布前に、必要に応じて、基材表面を、脱脂等の洗浄処理を行ってもよい。また、必要に応じて、基材と下地層との固着性を向上させるために、基材の表面に対してブラスト処理、エッチング処理等の表面処理を行ってもよい。硬化性樹脂組成物は、前述のものを用いることができる。耐衝撃性、施工性の観点から、硬化性樹脂組成物が、イソシアネート基及び活性水素を有する化合物を含有するのが好ましい。また、施工性の観点から、常温環境下で反応性を有する2液を混合するものが好ましい。このような観点からも、イソシアネート基及び活性水素を有する化合物を含有するのが好ましい。硬化性樹脂組成物の塗布方法は、その形態に応じて適宜選択することができる。例えば、スキージや刷毛による塗布、浸漬、スプレー塗布等が挙げられる。塗布量は、硬化性樹脂組成物の特性や非粘着性積層体の用途等に応じて適宜決定することができる。
【0066】
工程(2)では、前記硬化性樹脂組成物が完全硬化する前に、下地層塗膜の表面に、粉体状の硬化性フッ素樹脂組成物を塗布して表面層塗膜を形成する。塗布の時期は、硬化性樹脂組成物が完全硬化する前であればよい。例えば、反応開始直後、ある程度反応が進んだ状態、等である。粉体状の硬化性フッ素樹脂組成物は前述のものを用いることができる。施工性、耐候性の観点から、硬化性フッ素樹脂組成物及び硬化剤を含むものが好ましく、硬化剤はブロック化されたものが好ましい。硬化剤を含むことで、下地層の硬化性樹脂組成物中の官能基、特に、樹脂成分中の反応性官能基と、硬化性フッ素樹脂組成物中の官能基、特に、硬化性封素樹脂中の反応性官能基とが、化学結合され易くなる傾向にある。そのため、下地層の硬化物と表面層の硬化物とがより強固に固着される傾向にある。塗布方法は、例えば、静電粉体塗布装置を用いることができる。塗布量は、下地層塗膜の表面全体が被覆される程度であればよい。
【0067】
変形例では、粉体状の硬化性フッ素樹脂組成物及び粉体状の熱可塑性フッ素樹脂組成物を塗布してもよい。塗布の仕方は、両者の混合物を塗布してもよいし、別々に準備した各組成物を同時に又は順に塗布してもよい。非粘着性、施工性の観点からは、両者の混合物を塗布するのが好ましい。
【0068】
粉体状の硬化性フッ素樹脂組成物の塗布量は、最終的な表面層の厚みが50~1000μmとなるように適宜決定することができる。
【0069】
工程(3)の下地層塗膜硬化工程では、下地層塗膜の硬化性樹脂組成物を硬化させる。例えば、硬化性フッ素樹脂組成物の硬化の前に、下地層塗膜の硬化性樹脂組成物を硬化させる。これにより、硬化性フッ素樹脂の粒子を下地層と接する部分により確実に固着させることができる。また、例えば、硬化性フッ素樹脂組成物の硬化条件において、下地層の硬化性樹脂組成物に含まれる成分が分解等する場合に有効である。硬化性樹脂組成物がポリウレアの原料により構成される場合、この原料は耐熱性が低い場合がある。この耐熱温度より高い温度で、硬化性フッ素樹脂組成物の硬化を行う必要がある場合は、下地層のポリウレアが適切に形成されない傾向にある。一方、ポリウレアは、熱硬化性樹脂であるため、予めポリウレアを生成させることで、硬化性フッ素樹脂組成物の硬化条件下での分解を防止し、下地層を良好に形成することができる。下地層塗膜の硬化性樹脂組成物の硬化は、硬化性樹脂組成物に含まれる樹脂成分の原料に応じて、硬化方法を選択して行われる。例えば、耐衝撃性、施工性の観点から、硬化性樹脂組成物の硬化は、イソシアネート基を含む液と活性水素を有する化合物を含む液とを混合することにより、硬化反応が開始されることで、行われるのが好ましい。また、施工性の観点から、常温環境下で反応性を有する2液を混合することで、硬化反応が開始されるのが好ましい。このような観点からも、イソシアネート基及び活性水素を有する化合物を含有するのが好ましい。このような活性水素を含有する化合物としては、反応性、耐衝撃性の観点から、アミンが好ましく、ポリアミンがより好ましい。
【0070】
工程(4)の表面層塗膜硬化工程では、表面層塗膜の硬化性フッ素樹脂組成物を硬化させる。例えば、下地層の硬化性樹脂組成物を硬化させた後に、硬化性フッ素樹脂組成物を硬化させる。下地層の硬化性樹脂組成物を予め硬化せる理由は工程(3)において説明したとおりである。硬化性フッ素樹脂組成物の硬化を開始する条件は、下地層塗膜の硬化性樹脂組成物の硬化が、イソシアネート基を有する化合物を含む液とアミンを含む液とを混合することにより行われる場合、イソシアネート基とアミンの分解を防止して、下地層を良好に形成する観点から、イソシアネート基とアミンに含まれる活性水素が95mol%以上反応するまで静置した後に行われるのが好ましい。尚、イソシアネート基とアミンに含まれる活性水素が95mol%以上反応する、とは、イソシアネート基と活性水素が等モル混合した場合は、両者が、両者の一方が少ない場合は、少ない方が、95mol以上反応することを意味する。
【0071】
前述の変形例のように、熱可塑性フッ素樹脂組成物と硬化性フッ素樹脂組成物の粉体を用いる場合は、熱可塑性フッ素樹脂組成物の融点よりも低い温度に加熱して硬化させるのが好ましい。これにより、硬化性フッ素樹脂組成物と熱可塑性フッ素樹脂組成物の粉体に由来する凹凸を表面層に形成し、より良好な撥水性を発揮させ、ひいてはより良好な非粘着性を発揮させることができる。
【0072】
以下では、下地層の形成に用いられる硬化性樹脂組成物として、イソシアネート基を有する化合物とアミンを含有し、表面層の形成に用いられる硬化性フッ素樹脂組成物として、水酸基含有含フッ素重合体と保護基でブロック化されたイソシアネート基を有する化合物(「ブロック化イソシアネート」とも称する。)を含有する場合を例に非粘着性積層体の製造方法の実施形態を説明する。
【0073】
前述のように、必要に応じて基材表面に対して洗浄処理及び前処理を行う。また、イソシアネート基を有する化合物を含有する液と、アミンを含有する液とを、常温環境下で混合して混合液を得、必要に応じて脱泡処理を行って、硬化性樹脂組成物を調製する。必要に応じて添加剤を添加することができる。イソシアネート基を有する化合物は前述のジイソシアネート、アミンはポリアミンが好ましい。イソシアネート基を含有する化合物とアミンとの混合比は、特に限定はなく、一般的には、イソシアネート基(A)とアミンに含まれる活性水素(B)とのモル比(A/B)は1程度あるが、これに限定されるものではない。得られた硬化性樹脂組成物を基材の表面に塗布し、下地層塗膜を形成する。塗布量は、最終的な下地層の厚みが0.05~10mmとなるように適宜決定することができる。塗布は、例えばスキージ等で行うことができる。
【0074】
粉末状の水酸基含有含フッ素重合体とブロック化イソシアネートの粉体状の混合物である硬化性フッ素樹脂組成物を調製する。粉末状の水酸基含有含フッ素重合体とブロック化イソシアネートの混合比は、水酸基含有含フッ素重合体とブロック化イソシアネートの種類等に応じて適宜決定することができる。得られた粉体状の硬化性フッ素樹脂組成物を、下地層の硬化性樹脂組成物が完全硬化する前に、例えば静電粉体塗布装置を用いて塗布し、表面層塗膜を形成する。下地層のイソシアネート基を含有する化合物とアミンとの反応は、2液を混合することで開始するが、常温環境下では完全硬化するまでに0.5~24時間を要する。そのため、下地層の硬化性樹脂組成物を塗布後、例えば10分までに粉体状の硬化性フッ素樹脂組成物を塗布するとよい。粉体状の硬化性フッ素樹脂組成物の塗布量は、下地層塗膜の表面全体が被覆される量であればよい。
【0075】
表面層塗膜を形成した後、常温~70℃環境下で、15分~24時間静置する。これにより、イソシアネート基を含有する化合物とアミンとが反応し、完全硬化させる。両者の反応の結果、ポリウレアが生成する。この時、下地層塗膜の硬化性樹脂組成物中のイソシアネート基は、表面層塗膜の硬化性フッ素樹脂組成物中の水酸基と反応し、ウレタン結合が形成される。その結果、下地層のポリウレアと表面層塗膜の水素基含有含フッ素重合体とが、下地層塗膜と表面層塗膜中の粒子とが接する接触界面において、イソシアネート基を含有する化合物を介して化学結合により結合される。この化学結合により、下地層と表面層との接合がより向上する。
【0076】
下地層塗膜を硬化させた後、下地層、表面層塗膜が形成された基材を、ブロック化イソシアネートの軟化温度(硬化開始温度)以上の温度に加熱する。軟化温度はブロック化イソシアネートの種類に応じて適宜決定できるが、下地層の熱劣化及び熱分解の防止の観点から、200℃以下が好ましい。また、粉体状の熱可塑性フッ素樹脂組成物も用いる場合は、熱可塑性フッ素樹脂組成物の融点よりも低い軟化温度を有するものを用いる。これにより、ブロック化されたイソシアネート基が再生し、水素基含有含フッ素重合体の水酸基とイソシアネート基とが反応して、ウレタン結合が形成され、水酸基含有含フッ素重合体が架橋され、硬化物が得られる。その結果、硬化性フッ素樹脂組成物の粉体に由来する凹凸が形成された表面構造を有する表面層が形成される。また、粉体状の熱可塑性フッ素樹脂組成物も用いる場合は、硬化性フッ素樹脂組成物及び熱可塑性フッ素樹脂組成物の粉体に由来する凹凸が形成された表面構造を有する表面層が形成される。この時、下地層と表面層塗膜中の粒子とが接する接触界面において、アミンとイソシアネート基とが反応しウレア結合が形成される場合がある。また、熱可塑性フッ素樹脂組成物の粒子は、表面層中の硬化性フッ素樹脂組成物に由来する粒子及び下地層により物理的に固着されると推測される。熱可塑性フッ素樹脂組成物は、非粘着性向上の観点からPTFEが特に好ましい。
【0077】
以上のような実施形態に係る非粘着性積層体及びその製造方法は、前述の(i)~(v)に示した各種部材で構成される基材の表面に直接適用することができる。即ち、基材としてこれらの部材を採用し、下地層と表面層を設けることができる。また、前述の(vi)に示したように、前述の(i)~(v)に示した各種部材の表面に、別途基材の表面に下地層と表面層を設けた非粘着性積層体を設置することで、各種部材の表面に、水等の液体、水分を含む粉体やスラリーが等で付着しやすい傾向を有するものであっても、その付着を抑制可能な非粘着性を付与することができる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例に基づき、本発明の実施形態を説明する。
【0079】
(実施例1)
基材として、ステンレス鋼(SUS304)製のSUS板(サイズ:100mm×100mm×0.5mm)を用い、その一方の表面を、鑢研磨によって粗した後、水により洗浄した。また、硬化性樹脂組成物(NUKOTE社製、NUKOTE JF-HM、2液混合硬化型、常温硬化型、変性脂肪族系ポリウレア)を調製した。この調製は、ジイソシアネート基を含む液とポリアミンを含む液とを混合し、脱泡することで行われた。尚、イソシアネート基と活性水素とが等モルとなるように混合した。得られた混合液を、SUS板の表面に、その厚みが1.0mm程度になるようにバーコーターにて塗布し下地層塗膜を形成した。硬化性樹脂組成物で構成される下地層塗膜に、その塗布直後(硬化性樹脂組成物が完全硬化する前)に、粉末状の硬化性フッ素樹脂組成物(硬化性フッ素樹脂として、AGC株式会社製、ルミフロン(登録商標)LF710F(FEVE交互共重合体、平均粒子径:50μm、水酸基価:46mgKOH/g樹脂)を含有し、硬化剤としてεカプロラクタムによりブロック化したイソシアネート(硬化開始温度:180℃)含有する。)を、厚みが50μm程度になるように静電用粉体塗布装置により塗布し、表面層塗膜を形成した。
【0080】
表面層塗膜形成後、室温で静置し、硬化性樹脂組成物中のジイソシアネート中のイソシネート基とポリアミン中の活性水素とが95mol%以上反応することで、ポリウレアを生成させ、硬化性樹脂組成物を硬化させた。その後、各塗膜が形成された基材を180℃で15分間加熱し、FEVE交互共重合体を硬化剤にて架橋することで、硬化性フッ素樹脂組成物を硬化させ、基材の表面に硬化性樹脂組成物の硬化物である下地層、下地層の表面に硬化性フッ素樹脂組成物の硬化物である表面層が形成された積層体が得られた。積層体の厚みは約1.5mmであった。金属基材は厚みが0.5mmであるため、表面層と下地層の合計厚みが約1mmであった。
【0081】
(実施例2)
硬化性フッ素樹脂組成物として、粉末状のPTFE(スリーエム社製、TF9207Z、平均粒子径:4μm)を、硬化性フッ素樹脂98重量部に対して2重量部添加した以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。尚、実施例1の硬化性フッ素樹脂の添加量を100重量部とする。実施例1と同様に表面層と下地層の合計厚みが約1mmであった。
【0082】
(実施例3)
硬化性フッ素樹脂組成物として、粉末状のPTFE(スリーエム社製、TF9207Z、平均粒子径:4μm)を、硬化性フッ素樹脂95重量部に対して5重量部添加した以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。尚、実施例1の硬化性フッ素樹脂の添加量を100重量部とする。実施例1と同様に表面層と下地層の合計厚みが約1mmであった。
【0083】
(実施例4)
硬化性フッ素樹脂組成物として、粉末状のPTFE(スリーエム社製、TF9207Z、平均粒子径:4μm、融点:約327℃)を、硬化性フッ素樹脂90重量部に対して10重量部添加した以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。尚、実施例1の硬化性フッ素樹脂の添加量を100重量部とする。実施例1と同様に表面層と下地層の合計厚みが約1mmであった。
【0084】
(比較例1)
下地層を設けなかった以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。積層体の厚みは約0.55mmであった。
【0085】
(比較例2)
表面層を設けなかった以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。積層体の厚みは約1.5mmであった。
【0086】
(評価1)
<接触角の測定>
実施例1~4、比較例1、2で得られた積層体を試験片として用い、JIS R 3257に基づき、1/2θ法により行った。試験片の表面に注射器により所定量の精製水(TRUSCO精製水W-20、トラスコ中山株式会社)を静置して1分以内に、接触角測定装置(株式会社エキシマ製、SImage mini7)により測定した。
【0087】
<摩耗量の測定>
実施例1~4、比較例1、2で得られた積層体を試験片として用い、JIS K 5600-5-8に準拠し、研磨紙法により耐摩耗性試験を行った。試験前後の重量変化より摩耗量を算出した。耐摩耗性試験は、摩耗試験機(株式会社安田精機製作所、No.101-H テーバー式アブレーションテスター)を用い、下記の条件にて行った。また、試験片の重量は、電子天秤(ザルトリウス・メカトロニクス・ジャパン株式会社製、MSU125P-100-DI)により測定した。
【0088】
回転速度:60rpm
荷重:4.9N
摩耗輪:CS-17
回転数:500
【0089】
実施例1~4、比較例1、2の下地層及び表面層の構成及び、「評価1」の結果を表1に示す。
【0090】
【0091】
表1より、実施例1~4は水に対する高い接触角、すなわち高い撥水性を有することが確認された。これにより、本発明の非粘着性積層体は、水等の液体、水分を含む粉体やスラリーが等の付着物に対して高い非粘着特性を有することが分かる。すなわち、硬化性樹脂組成物の硬化物を含有する下地層、粉末状の硬化性フッ素樹脂組成物の硬化物の表面層を基材表面に順次設けることで、接触角が大きく非接着性に優れ、摩耗量を低減することが可能で耐摩耗性、耐久性に優れた非粘着性積層体を簡便な方法で得られることが分かる。
【0092】
(実施例5)
基材として、ステンレス鋼(SUS304)製のSUS板(サイズ:100mm×100mm×0.5mm)を用い、その一方の表面を、鑢研磨によって粗した後、水により洗浄した。また、硬化性樹脂組成物(日本ペイント防食コーティングス株式会社製、ミゼロンS-100/A-1000、2液混合硬化型、無溶剤、ポリウレタン)を調製した。この調製は、ジイソシアネート基を含む液とポリオールを含む液とを混合し、脱泡することで行われた。尚、イソシアネート基と活性水素とが等モルとなるように混合した。得られた混合液を、SUS板の表面に、その厚みが1.0mm程度になるようにバーコーターにて塗布し下地層塗膜を形成した。硬化性樹脂組成物で構成される下地層塗膜に、その塗布直後(硬化性樹脂組成物が完全硬化する前)に、粉末状の硬化性フッ素樹脂組成物(硬化性フッ素樹脂として、AGC株式会社製、ルミフロン(登録商標)LF710F(FEVE交互共重合体、平均粒子径:50μm、水酸基価:46mgKOH/g樹脂)を含有し、硬化剤としてεカプロラクタムによりブロック化したイソシアネート(硬化開始温度:180℃)含有する。)を、厚みが50μm程度になるように静電用紛体塗布装置により塗布し、表面層塗膜を形成した。
【0093】
表面層塗膜形成後、室温で静置し、硬化性樹脂組成物中のジイソシアネート中のイソシネート基とポリオール中の活性水素とが95mol%以上反応することで、ポリウレタンを生成させ、硬化性樹脂組成物を硬化させた。その後、各塗膜が形成された基材を180℃で15分間加熱し、FEVE交互共重合体を硬化剤にて架橋することで、硬化性フッ素樹脂組成物を硬化させ、基材の表面に硬化性樹脂組成物の硬化物である下地層、下地層の表面に硬化性フッ素樹脂組成物の硬化物である表面層が形成された積層体が得られた。積層体の厚みは約1.5mmであった。金属基材は厚みが0.5mmであるため、表面層と下地層の合計厚みが約1mmであった。
【0094】
(実施例6)
硬化性フッ素樹脂組成物として、粉末状のPTFE(スリーエム社製、TF9207Z、平均粒子径:4μm)を、硬化性フッ素樹脂90重量部に対して10重量部添加した以外は、実施例5と同様にして積層体を得た。尚、実施例5の硬化性フッ素樹脂の添加量を100重量部とする。実施例5と同様に表面層と下地層の合計厚みが約1mmであった。
【0095】
(実施例7)
実施例1と同様にして、基材の表面に硬化性樹脂組成物の硬化物である下地層、下地層の表面に硬化性フッ素樹脂組成物の硬化物である表面層が形成された積層体を得た。実施例1と同様に表面層と下地層の合計厚みが約1mmであった。
【0096】
(実施例8)
実施例4と同様にして、基材の表面に硬化性樹脂組成物の硬化物である下地層、下地層の表面に硬化性フッ素樹脂組成物の硬化物である表面層が形成された積層体を得た。実施例4と同様に表面層と下地層の合計厚みが約1mmであった。
【0097】
(比較例3)
下地層を設けなかった以外は、実施例5と同様にして積層体を得た。積層体の厚みは約0.55mmであった。
【0098】
(比較例4)
下地層を設けなかった以外は、実施例6と同様にして積層体を得た。積層体の厚みは約0.55mmであった。
【0099】
(評価2)
<マイクロスラリージェットエロージョン(MSE)試験>
株式会社パルメソ製、MSE試験装置(N-MSE-A)を用いて測定した。装置の測定条件は、表2のとおりである。
【0100】
【0101】
上記粒子と水を含む所定量のスラリーを実施例5~8、比較例3の積層体の表面に8回衝突させた時のエロージョン深さ(μm)とその際の粒子の総投射量からMSE抵抗値(エロージョン率、投射量/深さ、g/μm)を算出した。MSE抵抗値は、エロージョン摩耗の指標となる値で、球状アルミナ粒子を用いた場合は、その値が大きいほど耐衝撃疲労耐性を示すとされている。
【0102】
<テープ剥離試験>
300mm×100mm×2mmの大きさの実施例5~8、比較例3、4の積層体を用意し、その表面に接着部の長さが100mmとなるように幅24mmの粘着テープ(ニチバン株式会社製、セロテープ(登録商標) No.405)を貼付し、引張試験機(株式会社島津製作所製、オートグラフ AG-20kNX、1kNロードセル)を用いて、180°引き剥がし法により剥離強度を測定した。引張速度は5mm/秒とした。
【0103】
<接触角の測定>
実施例5~8、比較例3、4で得られた積層体を用い、評価1の場合と同様にして、接触角を測定した。
【0104】
実施例5~8、比較例3、4の下地層及び表面層の構成並びに「評価2」の結果を表3に示す。
【0105】
【0106】
表3に示すように、比較例3、4と比較して、実施例5~8は水に対する高い接触角、すなわち高い撥水性を有し、且つ、エロージョン摩耗に対して良好な特性を有することが確認された。したがって、硬化性樹脂組成物の硬化物を含有する下地層、粉末状の硬化性フッ素樹脂組成物の硬化物の表面層を基材表面に順次設けることで、接触角が大きく非接着性に優れ、摩耗量を低減することが可能で耐摩耗性、耐久性に優れた非粘着性積層体を簡便な方法で得られることが分かる。
【0107】
また、比較例4は比較例3と比較してMSE抵抗値が極端に低下していることから、比較例4はPTFEのように接着性の低い添加剤を加えたことで耐摩耗性、耐久性が低下したことが分かる。一方、比較例4と、実施例6及び実施例8と、を比較すると、実施例6及び実施例8のMSE抵抗値は、比較例4に対して十分大きいことから、実施例6及び実施例8は下地層を形成したことで、PTFEを添加した場合であっても、耐摩耗性、耐久性特性を発揮していることが分かる。