(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-08
(45)【発行日】2023-08-17
(54)【発明の名称】スポット溶接による溶接継手の破断予測方法、スポット溶接による溶接継手の破断予測プログラム、及び、スポット溶接による溶接継手の破断予測装置
(51)【国際特許分類】
G06F 30/23 20200101AFI20230809BHJP
B23K 11/11 20060101ALI20230809BHJP
B23K 31/00 20060101ALI20230809BHJP
G01N 3/00 20060101ALI20230809BHJP
G01L 1/00 20060101ALI20230809BHJP
【FI】
G06F30/23
B23K11/11
B23K31/00 Z
G01N3/00 Q
G01L1/00 M
(21)【出願番号】P 2019121571
(22)【出願日】2019-06-28
【審査請求日】2022-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】上田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】福本 学
【審査官】松浦 功
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2004/099761(WO,A1)
【文献】特開2014-002074(JP,A)
【文献】特開2013-186102(JP,A)
【文献】特開2017-062206(JP,A)
【文献】特開2018-128299(JP,A)
【文献】石坂達郎 外6名,J積分を用いた十字引張試験片の破壊モードの予測解析,計算工学講演会論文集 [CD-ROM],計算工学会,2016年05月,Vol. 21
【文献】上田秀樹 外2名,溶接シミュレーションを用いた異種異厚板組の破断予測技術の開発,自動車技術会論文集 [online],公益社団法人自動車技術会,2015年05月,Vol. 46, No. 3,pp. 687-692,[検索日 2023.02.10], インターネット,URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsaeronbun/46/3/46_20154423/_article/-char/ja
【文献】井上雅夫 外4名,詳細スポット溶接モデルを高強度部材に適用した車両衝突解析,計算工学講演会論文集 [CD-ROM],計算工学会,2018年06月,Vol. 23
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00 -30/28
B23K 11/00 -11/36
G01N 3/00 - 3/38
G01L 1/00
Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
数値解析を用いてスポット溶接による溶接継手の破断を
母材と熱影響部と溶接ナゲットとに設定した応力三軸度の影響を考慮した破断ひずみを破断基準として用いて予測する方法であって、
溶接部の形状及び前記溶接部における厚さ方向の応力分布を得る演算をし、
得られた前記演算による前記形状及び前記応力分布を含んだ前記溶接継手の形状のデータによるモデルを作成し、
前記モデルを用いて応力解析を
行い、継手強度及び破断形態を解析結果として出力する、溶接継手の破断予測方法。
【請求項2】
破断の判定は、破断基準を前記モデルに含ませることにより行われ、前記破断基準
である前記応力三軸度の影響を考慮した破断ひずみは、微小引張試験とこれを模擬したFEM解析結果とに基づいて予め得ておく、請求項1に記載の溶接継手の破断予測方法。
【請求項3】
演算装置に、スポット溶接による溶接継手の破断を
母材と熱影響部と溶接ナゲットとに設定した応力三軸度の影響を考慮した破断ひずみを破断基準として用いて予測
させるプログラムであって、
前記演算装置に、
溶接部の形状及び前記溶接部における厚さ方向の応力分布を得る演算をするステップ、
得られた前記演算による前記形状及び前記応力分布を含んだ前記溶接継手の形状のデータによるモデルを形成するステップ、及び、
前記モデルを用いて応力解析を
行い、継手強度及び破断形態を解析結果として出力するステップ、を
実行させる溶接継手の破断予測プログラム。
【請求項4】
スポット溶接による溶接継手の破断を
母材と熱影響部と溶接ナゲットとに設定した応力三軸度の影響を考慮した破断ひずみを破断基準として用いて予測する装置であって、
プログラムが記憶された記憶手段と、
前記プログラムに基づいて演算を行う演算手段と、
前記演算手段により演算された結果を表示する表示手段と、を備え、
前記演算手段では、
溶接部の形状及び前記溶接部における厚さ方向の応力分布を得る演算、
得られた前記演算による前記形状及び前記応力分布を含んだ前記溶接継手の形状のデータによるモデルを作成する演算、及び、
前記モデルを用いて応力解析を
行い、継手強度及び破断形態を解析結果として出力する演算を行う、溶接継手の破断予測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポット溶接による溶接継手の破断予測に関し、詳しくは、有限要素法(以下、「FEM」と記載することがある。)解析で行うスポット溶接による溶接継手の破断予測に関する。
【背景技術】
【0002】
抵抗スポット溶接(以下、「スポット溶接」と記載することがある。)は、例えば自動車組立工程に代表される鋼板の接合方法として広く用いられている。
スポット溶接で接合して組み立てた部材では、例えば衝突エネルギ吸収部材では、溶接ナゲット径や溶接位置(打点位置)が適切でない場合、当該組み立てた部材の衝突変形中に溶接部が破断し、本来吸収すべきエネルギを吸収しきれなくなることがあり、性能評価が重要である。
【0003】
従来、部材の衝突エネルギ吸収性能の評価にはFEM解析が多用されているが、より精度の高い評価が求められている。解析精度の向上のためには溶接部の破断の態様を予測することが重要であり、これに基づいて破断の発生を防ぐための溶接条件を得ることが求められている。
【0004】
非特許文献1には、自動車用鋼板を対象にしたスポット溶接部の破断予測方法に関する技術が開示されている。これによれば、溶接部への負荷モードが異なる任意の板組に対して精度良く継手強度と破断形態を予測することが可能と考えられる。
しかしながら、この技術では実験による溶接部の断面から溶接ナゲット(溶接部)及び熱影響部(以下、「HAZ」と記載することがある。)の形状をモデル化し、破断基準も実験で求めたデータを設定するため、多くの手介入作業を必要とする。また、溶接による残留応力を考慮していないため、評価する解析モデルの初期状態は実態と異なる。
【0005】
特許文献1には、事前に導出した複数の破断基準から材料の化学成分をパラメータにした近似式により、評価対象材の破断基準を推定する方法が開示されている。
しかしながらここでは溶接部の形状の推定方法については述べられていない。また、溶接による残留応力を考慮していない。
【0006】
特許文献2には、溶接温度からの熱歪み又は固有応力法により求めた残留応力を考慮して、応力拡大係数Kによる亀裂伝播予測方法が述べられている。
しかしながらここでは、溶接条件からの溶接温度推定の解析はされておらず、溶接後の形状の影響が考慮されていない。また、亀裂進展の予測に応力三軸度の影響を考慮した限界塑性ひずみが適用されておらず、任意の負荷モードには対応していない。
【0007】
特許文献3には、有限要素法を用いてスポット溶接部の破断判定をする方法が述べられている。
しかしながらこの方法では、溶接部形状の推定方法については述べられていない。
【0008】
特許文献4には、有限要素法を用いて抵抗スポット溶接をシミュレーションして溶接後の硬さを予測する方法が述べられている。
しなしながらこの方法では、溶接継手に引張負荷を付与した場合の継手強度と破断形態は予測できない。
【0009】
非特許文献2には、破壊応力推定方法について述べられており、残留応力の影響も考慮できるとされている。
しかしながらこの方法は、数値予測モデルによる簡易的手法であり熱弾塑性FEM解析を用いた方法ではない。
【0010】
非特許文献3には、溶接変形と残留応力のFEM解析技術について述べられている。
しかしながらこの方法は、アーク溶接に関するものであり、また、溶接後の破断予測については述べられていない。
【0011】
非特許文献4には、溶接FEM解析を疲労き裂進展予測に応力した技術について述べられている。
しかしながらこの方法では、亀裂進展の予測に応力三軸度の影響を考慮した限界塑性ひずみが適用されておらず、任意の負荷モードには対応していない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【文献】上田ら、「応力三軸度を考慮したスポット溶接部破断予測技術の研究(第1報)」、自動車技術会論文集、Vol.44、No.2、p727(2013)
【文献】三村ら、「残留応力が破壊応力に及ぼす影響の簡易推定法」、圧力技術論文集、Vol.41、No.2、p48
【文献】麻ら、「陽解法FEMによる溶接変形の熱弾塑性解析技法」、軽金属溶接論文集、Vol.46、No.4、p142(2008)
【文献】「溶接部疲労き裂進展の解析ツール」、国際連携溶接計算科学研究拠点主催、第12回講演会(2019)
【文献】上田ら、「自動車鋼板を対象としたスポット溶接シミュレーション」、日本製鉄技報、No.409、p108(2017)
【文献】河原木ら、「変態塑性および移動硬化則を含む焼入れ残留応力解析における陰的積分の効果」、日本製鉄技報、No.410、p57(2018)
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2015-17817号公報
【文献】特開2008-292206号公報
【文献】特開2010-127933号公報
【文献】特開2017-013078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、スポット溶接における破断予測の精度を高めることができるスポット溶接による溶接継手の破断予測方法を提供する。また、そのためのスポット溶接による溶接継手の破断予測プログラム、及び、スポット溶接による溶接継手の破断予測装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明者らは、スポット溶接プロセスの数値解析シミュレーション結果を反映したスポット溶接継手の破断予測シミュレーションの解析モデルを構築すれば、電極による圧痕、溶接ナゲットとHAZの形状、溶接による残留応力を考慮して実態に対応した適正な解析モデルを構築できることを着想し、これを具体化して本発明を完成させた。以下本発明について説明する。
【0016】
本発明の1つの態様は、数値解析を用いてスポット溶接による溶接継手の破断を予測する方法であって、溶接部の形状及び溶接部における厚さ方向の応力分布を得る演算をし、得られた演算による形状及び応力分布を含んだ溶接継手の形状のデータによるモデルを作成し、モデルを用いて応力解析をする、溶接継手の破断予測方法である。
【0017】
破断の判定は、破断基準をモデルに含ませることにより行われ、破断基準は、微小引張試験とこれを模擬したFEM解析結果とに基づいて予め得ておくことができる。
【0018】
本発明の他の態様は、スポット溶接による溶接継手の破断を予測するプログラムであって、溶接部の形状及び溶接部における厚さ方向の応力分布を得る演算をするステップ、得られた演算による形状及び応力分布を含んだ溶接継手の形状のデータによるモデルを形成するステップ、及び、モデルを用いて応力解析をするステップ、を含む溶接継手の破断予測プログラムである。
【0019】
本発明の他の態様は、スポット溶接による溶接継手の破断を予測する装置であって、プログラムが記憶された記憶手段と、プログラムに基づいて演算を行う演算手段と、演算手段により演算された結果を表示する表示手段と、を備え、演算手段では、溶接部の形状及び溶接部における厚さ方向の応力分布を得る演算、得られた演算による形状及び応力分布を含んだ溶接継手の形状のデータによるモデルを作成する演算、及び、モデルを用いて応力解析をする演算を行う、溶接継手の破断予測装置である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、スポット溶接による溶接継手の破断予測の精度を良好なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】スポット溶接の場面、及び、このときに形成される溶融ナゲットについて説明する模式図である。
【
図2】溶接継手の破断予測方法S10の流れを説明する図である。
【
図3】溶接プロセス演算S11の具体例を説明する図である。
【
図4】溶接プロセス演算S11の溶接部の形状について説明する図である。
【
図5】溶接プロセス演算S11の組織分布について説明する図である。
【
図6】溶接プロセス演算S11の厚さ方向応力分布について説明する図である。
【
図7】破断解析用モデル作成S12について説明する図である。
【
図9】破断予測演算S13の具体例における境界条件を説明する図である。
【
図11】実際の引張り試験と本形態による予測との差を比較する図である。
【
図12】溶接継手の破断予測装置30の構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、スポット溶接の場面、及び、スポット溶接中における溶接部分を概略的に示した断面図である。ここでは2つの鋼板2及び鋼板3が重ねられ、その一方面側と他方面側から2つの電極1により挟んでスポット溶接する場面を示している。ここで
図1にAで示し部分が溶融部(溶融ナゲット)である。この溶融部が固まって溶接部(接合部)となり両鋼板を接合している。
このようなスポット溶接自体は公知の通りであり、溶接される複数の材料が重ねられ、これを2つの電極の間に挟んで押圧しつつ通電する。そして以下に示す形態は、このようなスポット溶接による接合部を有する部材について、数値解析によるシミュレーションを用いて破断を予測することに関する。
【0023】
図2には、1つの形態にかかるスポット溶接による溶接継手の破断予測方法S10(以下、「破断予測方法S10」と記載することがある。)の流れを示した。
図2からわかるように、破断予測方法S10は、溶接プロセス演算S11と、破断解析用モデル作成S12と、破断予測演算S13と、を備えている。
【0024】
溶接プロセス演算S11では、評価対象の板の組み合わせ及び電極の形状から適切な大きさの微小な要素に分割されたFEM解析メッシュデータを作成し、材料特性データ、溶接条件、境界条件等を設定して溶接シミュレーションを行う。
このような溶接シミュレーションは汎用の数値解析ソフトウエアや自作の数値解析プログラムを用いることができ、特に限定されることはないが、本形態では次のようなシミュレーションを行う。
【0025】
本形態では、例えば非特許文献5にあるように、スポット溶接の通電加熱プロセスに対応した電場-温度場の連成解析と温度場-応力場の連成解析を行ない、溶接部形状を得ることができる。これによりスポット溶接終了後の溶接部及びHAZの形状を求めることができる。また、これに合わせて、例えば非特許文献6に記載のような、冷却プロセスに対応し、相変態を考慮した温度場-応力場の連成解析を行い、溶接部の板厚方向応力分布を得ることができる。
従って、シミュレーションによる溶接部形状の結果と、溶接部の応力分布の結果とを合わせることで、スポット溶接終了後の溶接部における残留応力に相当する応力分布を得ることができる。そしてこの結果としての溶接部形状、組織分布、及び応力分布が保存される。この保存は、得られた結果が計算機(例えば後述する計算装置30)のメモリ、ハードディスクや、外部記憶媒体であるCD-ROM等のメディアにデータが書き込まれることにより行われる。
【0026】
溶接プロセス演算S11について、より具体的に例を挙げて説明すると次の通りである。
図3に評価対象の板組と電極をモデル化したFEM解析メッシュ10を示した。ここには、上側の電極11、下側の電極12、上側の鋼板13、下側の鋼板14の各解析メッシュが表れている。
この例では、評価対象は590MPa級鋼板(板厚1.6mm)で長さを50mmとし、これを2次元軸対称形でモデル化をして四角形要素でメッシュ分割した。
そして、本材質に対応した機械特性データ、熱物性データ、その他材料特性データを設定した。ここで機械特性データとはヤング率、ポアソン比、変形抵抗曲線であり、熱物性データとは比熱、熱伝導率、線膨張係数であり、その他材料特性データとは電気抵抗率、密度、変態膨張係数、変態塑性係数、相変態潜熱である。
溶接条件として、電極の加圧力、電極に流す電流、通電時間、保持時間、周波数を設定した。
【0027】
以上のような条件により、電場-温度場の連成解析と温度場-応力場の連成解析、及び、冷却プロセスに対応し、相変態も考慮した温度場-応力場の連成解析を行った。
図4には溶融部近傍における液相率分布を示した(上側の電極11及び下側の電極12は除外されている。)。ここでは液相率0.8以上である部分を溶接金属部15とし、この部分が溶接部(接合部)となり、2つの鋼板が接合されると考えることができる。
図5にはマルテンサイト体積分率分布をそれぞれ表した(上側の電極11及び下側の電極12は除外されている。)。ここではマルテンサイト体積分率0.9以上の部位16を白色で表示している。
図6には板厚方向応力分布を表した(上側の電極11及び下側の電極12は除外されている。)。単位はMPaである。この板厚方向応力分布が溶接後における溶接部の残留応力に相当する。
そしてこれらの解析結果データはハードディスク(記憶手段)に保存される。
【0028】
図2に戻って破断解析用モデル作成S12について説明する。破断解析用モデル作成S12では、溶接プロセス演算S11で保存した溶接部形状から溶接継手形状モデルを作成する。この溶接継手形状モデルは、板幅、長さ、コーナRサイズから成る継手種類データベース、又は、逐次入力した継手種類情報から作成する。
上記した溶接プロセス演算S11を3次元モデルで実施した場合には、溶接プロセス演算S11で保存した溶接部形状及び板厚方向応力分布をそのまま溶接継手形状モデルに適用することができる。
一方、上記した溶接プロセス解析S11を2次元軸対称モデルで実施した場合は、溶接部形状及び板厚方向応力分布を周方向に複写し溶接継手形状モデルに適用する。
【0029】
予め母材の破断基準εB、HAZの破断基準εH、溶接ナゲットの破断基準εNを微小引張試験とそれを模擬したFEM解析等から求めておき、それぞれ対応する部位に適用して破断判定に適用する。
以上のようにして、破断解析用モデル作成S12で破断解析用モデルを得る。
【0030】
破断解析用モデル作成S12について、さらに具体例を挙げて説明すると次の通りである。
図7に説明のための図を示した。
この例では、継手全体の形状は、板厚1.6mm、板幅40mm、長さ50mmの形状の鋼板が2枚(鋼板20a、鋼板20b)がR2でL字状に曲げられ、重ね代30mmで重ねられている。これを板幅方向1/2対称形でモデル化をして全体形状20とした。
次に、溶接プロセス解析S11で保存した解析メッシュデータ、液相率分布、マルテンサイト体積分率分布、及び、板厚方向応力分布を読み込む。この例では解析メッシュデータは2次元軸対称形となっているため、周方向180°まで複写して六面体及び/又は四面体の要素に変換し、板厚方向応力分布も周方向180°まで複写して溶接近傍形状21とする。これを六面体要素でメッシュ分割した継手の全体形状20に組み込み溶接継手形状22とした。
【0031】
破断基準(ここでは応力三軸度の影響を考慮した破断ひずみ)は、部位に応じたデータを要素毎に設定した。
図8には、予め微小引張試験とそれを模擬したFEM解析から求めた母材とHAZと溶接ナゲットの破断基準を示した。変形抵抗曲線など他の材料特性データに関しても同様に算出することができる。
以上のようにして、溶接継手形状モデルが作成される。
【0032】
図2に戻って、破断予測演算S13について説明する。破断予測演算S13では、破断解析用モデル作成S12で得られた溶接継手形状モデルを用いて、境界条件、負荷条件を設定して応力解析を行い、継手強度と破断形態を出力する。
このような応力解析は汎用の数値解析ソフトウエアや自作の数値解析プログラムを用いることができる。
【0033】
このようにして応力解析をすることにより、具体的には例えば次のような結果を得ることができる。
図9には解析条件を示した。この例では、板幅方向中央面24に対称条件、端部25を完全拘束、反対側の端部26に2000mm/secの引張負荷を付与した。
図10に破断シミュレーションによる破断形態を示した。
図10は(a)乃至(c)に向けて引張の量が増加していく様子を示したものである。(a)乃至(c)の各図において左側が全体図、右側が溶接部を拡大した図である。これら図からわかるように、引張負荷に応じて溶接部の近傍で破断が発生していることがわかる。
【0034】
図11には、実際の材料で同じ条件で行った引張試験結果に対する、本例におけるFEM解析結果の継手強度の誤差を示す。誤差は10%以内でありFEM解析結果は引張試験結果と良好に対応することがわかる。
【0035】
以上のように、スポット溶接部の破断予測方法S10によれば、実験の断面写真を参照することなく、スポット溶接プロセス解析結果から、直接、溶接継手形状モデルを作成するため、手介入作業を低減し工期を短縮する。また、溶接ナゲットとHAZの形状、圧痕形状を実態に近い状態でモデル化をすることができ破断予測の高精度化につながる。また、溶接プロセス演算で計算した厚さ方向応力分布を残留応力として設定するため、引張残留応力による破断リスク増大、または圧縮残留応力による破断リスク低減を考慮して、実態に近い解析モデルとなり破断予測の高精度化につながる。
【0036】
図12は、上記したスポット溶接部の破断予測方法S10に沿って具体的に演算を行う1つの形態にかかるスポット溶接部の破断予測計算装置30の構成を概念的に表した図である。スポット溶接部の破断予測計算装置30は、入力手段31、演算装置32、及び表示手段38を有している。そして演算装置32は、演算手段33、RAM34、記憶手段35、受信手段36、及び出力手段37を備えている。また、入力手段31にはキーボード31a、マウス31b、及び記憶媒体の1つとして機能する外部記憶装置31cが含まれている。
【0037】
演算手段33は、いわゆるCPU(中央演算子)により構成されており、上記した各構成部材に接続され、これらを制御することができる手段である。また、記憶媒体として機能する記憶手段35等に記憶された各種プログラム35aを実行し、これに基づいて上記したスポット溶接部の破断予測方法S10の各処理のためのデータ生成やデータベース35bからのデータの選択をする手段として演算をおこなうのも演算手段33である。
【0038】
RAM34は、演算手段33の作業領域や一時的なデータの記憶手段として機能する構成部材である。RAM34は、SRAM、DRAM、フラッシュメモリ等で構成することができ、公知のRAMと同様である。
【0039】
記憶手段35は、各種演算の根拠となるプログラムやデータが保存される記憶媒体として機能する部材である。また記憶手段35には、プログラムの実行により得られた中間、最終の各種結果を保存することができてもよい。より具体的には記憶手段35には、プログラム35a、データベース35b、中間結果35cが記憶(保存)されている。またその他情報も併せて保存されていてもよい。
【0040】
ここで、保存されているプログラム35aには、上記したスポット溶接部の破断予測方法S10の各処理を演算する根拠となるシミュレーションプログラムが含まれる。すなわち、シミュレーションプログラムは、
図2のフローに対応するように、溶接プロセス演算ステップ、破断解析用モデル作成ステップ、及び破断予測演算ステップを含んでいる。このプログラムの具体的な演算内容は上記したスポット溶接部の破断予測方法S10で説明した通りである。
【0041】
データベース35bは、鋼材に関する物性値等の各特性が収納されたデータベースである。このデータベースからプログラムの求めに応じて必要なデータがプログラムに提供される。データベースの例としては、上記スポット溶接部の破断予測方法S10で説明したような、機械特性データ、熱物性データ、その他材料特性データである。機械特性データとは例えばヤング率、ポアソン比、変形抵抗曲線であり、熱物性データとは例えば比熱、熱伝導率、線膨張係数であり、その他材料特性データとは例えば電気抵抗率、密度、変態膨張係数、変態塑性係数、相変態潜熱である。
【0042】
中間結果35cは、上記スポット溶接部の破断予測方法S10で説明したように、溶接プロセス演算S11で得られた溶接部形状、組織分布、及び応力分布や、破断予測演算S13で得られた解析結果である。その他、全体形状の情報やメッシュ情報等、スポット溶接部の破断予測方法S10の各ステップで得られた情報も中間結果としてここに保存できる。
【0043】
受信手段36は、外部からの情報を演算装置32に適切に取り入れるための機能を有する構成部材であり、入力手段31が接続される。いわゆる入力ポート、入力コネクタ等もこれに含まれる。
【0044】
出力手段37は、得られた結果のうち外部に出力すべき情報を適切に外部に出力する機能を有する構成部材であり、モニター等の表示手段38や各種装置がここに接続される。いわゆる出力ポート、出力コネクタ等もこれに含まれる。
【0045】
入力装置31には、例えばキーボード31a、マウス31b、外部記憶装置31c等が含まれる。キーボード31a、マウス31bは公知のものを用いることができ、説明は省略する。
外部記憶装置31cは、公知の外部接続可能な記憶手段であり、記憶媒体としても機能する。ここには特に限定されることなく、必要とされる各種プログラム、データを記憶させておくことができる。例えば上記した記憶手段35と同様のプログラム、データがここに記憶されていても良い。
外部記憶装置31cとしては、公知の装置を用いることができる。これには例えばCD-ROM及びCD-ROMドライブ、DVD及びDVDドライブ、ハードディスク、各種メモリ等を挙げることができる。
【0046】
また、その他、ネットワークや通信により受信手段36を介して演算装置に情報が提供されてもよい。同様にネットワークや通信により出力手段37を介して外部の機器に情報を送信することができてもよい。
【0047】
このような溶接部の破断予測計算装置30によれば、上記説明したスポット溶接部の破断予測方法S10を効率的に精度よく行なうことが可能となる。このような溶接部の破断予測計算装置30としては例えばコンピュータを用いることができる。
【符号の説明】
【0048】
1 電極
2 鋼材
3 鋼材
10 解析メッシュ
11、12 電極部分のメッシュ
13、14 鋼板部分のメッシュ
15 解析上の溶接金属部
16 解析上のマルテンサイト体積分率0.9以上の部位
20 モデル上の全体形状
21 モデル上の溶接近傍形状
22 モデル上の溶接継手形状
24 幅方向中央面(対称条件付与面)
25 端部(拘束条件付与面)
26 端部(負荷条件付与面)
30 溶接部の破断予測計算装置
31 入力手段
32 演算装置
33 演算手段
35 記憶手段
38 表示手段
A 溶融ナゲット
S10 スポット溶接部の破断予測方法
S11 溶接プロセス演算
S12 破断解析用モデル作成
S13 破断予測演算