(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-08
(45)【発行日】2023-08-17
(54)【発明の名称】モータコア
(51)【国際特許分類】
H02K 1/02 20060101AFI20230809BHJP
【FI】
H02K1/02 Z
(21)【出願番号】P 2019144285
(22)【出願日】2019-08-06
【審査請求日】2022-04-07
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】藤村 浩志
(72)【発明者】
【氏名】平 将人
【審査官】宮崎 賢司
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-234971(JP,A)
【文献】特開2004-040057(JP,A)
【文献】特開2018-145492(JP,A)
【文献】特開2012-050200(JP,A)
【文献】特開2003-061270(JP,A)
【文献】特開平11-332183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/02
C21D 9/00
C22C 38/00
C22C 38/60
C21D 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の無方向性電磁鋼板が積層されて管状をなし、管状のバックヨーク、前記バックヨークの内面に配列された複数のティース、及び、前記バックヨークに設けられて前記複数の無方向性電磁鋼板を接合するかしめ部、を備えるモータコアであって、
前記ティースは、その先端における結晶粒の粒径が10μmより大き
く、
かつ、前記ティースの先端から0.5mm離隔した位置における硬さをHv1、前記ティースの先端から0.05mmから0.07mmの範囲における硬さをHv2としたとき、前記Hv2を前記Hv1で除した値が1.01以上で1.15より小さく、
前記かしめ部は、該かしめ部の端部における結晶粒の粒径が20μmより小さい、モータコア。
【請求項2】
複数の無方向性電磁鋼板が積層されて管状をなし、管状のバックヨーク、前記バックヨークの内面に配列された複数のティース、及び、前記バックヨークに設けられて前記複数の無方向性電磁鋼板を接合するかしめ部、を備えるモータコアであって、
前記ティースは、その先端における結晶粒の粒径が10μmより大きい、又は、前記ティースの先端から0.5mm離隔した位置における硬さをHv1、前記ティースの先端から0.05mmから0.07mmの範囲における硬さをHv2としたとき、前記Hv2を前記Hv1で除した値が1.15より小さく、
前記かしめ部は、該かしめ部の端部から0.05mmから0.07mmの範囲における硬さをHv3としたとき、前記Hv3を前記Hv1で除した値が1.05以上である、モータコア。
【請求項3】
複数の無方向性電磁鋼板が積層されて管状をなし、管状のバックヨーク、前記バックヨークの内面に配列された複数のティース、及び、前記バックヨークに設けられて前記複数の無方向性電磁鋼板を接合するかしめ部、を備えるモータコアであって、
前記ティースは、その先端における結晶粒の粒径が10μmより大きい、又は、前記ティースの先端から0.5mm離隔した位置における硬さをHv1、前記ティースの先端から0.05mmから0.07mmの範囲における硬さをHv2としたとき、前記Hv2を前記Hv1で除した値が1.15より小さく、
前記かしめ部は、該かしめ部の端部における結晶粒の粒径をD3、前記ティースの先端から0.5mm離隔した位置における結晶粒の粒径をD1としたとき、前記D3を前記D1で除した値が1.10より大きい、モータコア。
【請求項4】
複数の無方向性電磁鋼板が積層されて管状をなし、管状のバックヨーク、前記バックヨークの内面に配列された複数のティース、及び、前記バックヨークに設けられて前記複数の無方向性電磁鋼板を接合するかしめ部、を備えるモータコアであって、
前記ティースは、その先端における結晶粒の粒径D2が10μmより大きい、又は、前記ティースの先端から0.5mm離隔した位置における硬さをHv1、前記ティースの先端から0.05mmから0.07mmの範囲における硬さをHv2としたとき、前記Hv2を前記Hv1で除した値が1.15より小さく、
前記かしめ部の端部における結晶粒の粒径をD3としたとき、前記D2を前記D3で除した値が1.20以上である、モータコア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータコアに関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッド自動車等に用いられるモータの鉄心(モータコア)は、無方向性電磁鋼板が積層されてなる。モータコアの鉄損の悪化は鋼板の打ち抜きによる歪が原因の1つであり、積層後に追加焼鈍することで歪を解放し、鉄損を低減することが行われている(例えば特許文献1乃至特許文献5)。
【0003】
また、積層された無方向性電磁鋼板がずれないよう、主としてバックヨークに微小な凸部(下面が凸部とすると、上面は凹部)が形成され、これが下面に隣接して積層する無方向性電磁鋼板の凹部(上部が凹部)に押し込まれていることで相互に固定されており、これを「かしめ」と呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3993689号公報
【文献】特開昭58-104125号公報
【文献】特許第6270305号公報
【文献】国際公開公報2013/111726
【文献】特開2017-110243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、かしめにより固定されたモータコアにおいては、上記追加焼鈍により歪が解放され、これによる鉄損の低下は認められるものの、合わせて層間短絡による損失が生じるようになってしまうことがあり、これが鉄損の低減を阻害する原因となっていた。
【0006】
そこで本発明は、かしめにより複数の無方向性電磁鋼板が固定されたモータコアにおいて、追加焼鈍をしつつも層間短絡による損失を抑え、全体として鉄損を低減することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、かしめにより固定されたモータコアに追加焼鈍をすることにより、かしめ部(複数の無方向性電磁鋼板をかしめにより接合する部分)で層間短絡が生じることをつきとめ、さらにこの層間短絡はかしめ部の中でも積層面でなく端部で発生している知見を得た。そして、層間短絡を抑制するために、組織(結晶粒の粒径)や硬さを特定の条件に制御することで問題を解決することができることを知見し、これを具体化することで本発明を完成させた。以下、本発明について説明する。
【0008】
本発明の1つの態様は、複数の無方向性電磁鋼板が積層されて管状をなし、管状のバックヨーク、バックヨークの内面に配列された複数のティース、及び、バックヨークに設けられて複数の無方向性電磁鋼板を接合するかしめ部、を備えるモータコアであって、ティースは、その先端における結晶粒の粒径が10μmより大きい、又は、ティースの先端から0.5mm離隔した位置における硬さをHv1、ティースの先端から0.05mmから0.07mmの範囲における硬さをHv2としたとき、Hv2をHv1で除した値が1.15より小さく、かしめ部は、該かしめ部の端部における結晶粒の粒径が20μmより小さい、モータコアである。
【0009】
本発明の他の態様は、複数の無方向性電磁鋼板が積層されて管状をなし、管状のバックヨーク、バックヨークの内面に配列された複数のティース、及び、バックヨークに設けられて複数の無方向性電磁鋼板を接合するかしめ部、を備えるモータコアであって、ティースは、その先端における結晶粒の粒径が10μmより大きい、又は、ティースの先端から0.5mm離隔した位置における硬さをHv1、ティースの先端から0.05mmから0.07mmの範囲における硬さをHv2としたとき、Hv2をHv1で除した値が1.15より小さく、かしめ部は、該かしめ部の端部から0.05mmから0.07mmの範囲における硬さをHv3としたとき、Hv3をHv1で除した値が1.05以上のモータコアである。
【0010】
本発明の他の態様は、複数の無方向性電磁鋼板が積層されて管状をなし、管状のバックヨーク、バックヨークの内面に配列された複数のティース、及び、バックヨークに設けられて複数の無方向性電磁鋼板を接合するかしめ部、を備えるモータコアであって、ティースは、その先端における結晶粒の粒径が10μmより大きい、又は、ティースの先端から0.5mm離隔した位置における硬さをHv1、ティースの先端から0.05mmから0.07mmの範囲における硬さをHv2としたとき、Hv2をHv1で除した値が1.15より小さく、かしめ部は、該かしめ部の端部における結晶粒の粒径をD3、ティースの先端から0.5mm離隔した位置における結晶粒の粒径をD1としたとき、D3をD1で除した値が1.10より大きい、モータコアである。
【0011】
本発明の他の態様は、複数の無方向性電磁鋼板が積層されて管状をなし、管状のバックヨーク、バックヨークの内面に配列された複数のティース、及び、バックヨークに設けられて複数の無方向性電磁鋼板を接合するかしめ部、を備えるモータコアであって、ティースは、その先端における結晶粒の粒径D2が10μmより大きい、又は、ティースの先端から0.5mm離隔した位置における硬さをHv1、ティースの先端から0.05mmから0.07mmの範囲における硬さをHv2としたとき、Hv2をHv1で除した値が1.15より小さく、かしめ部の端部における結晶粒の粒径をD3としたとき、D2をD3で除した値が1.20以上のモータコアである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のモータコアによれば、追加焼鈍をしつつも層間短絡損失を抑え、全体として鉄損を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図7】ティース12の態様を説明する他の図である。
【
図9】かしめ部14の態様を説明する他の図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、1つの形態例にかかるモータコア10の外観斜視図である。モータコア10は複数の無方向性電磁鋼板10aが積層してなる。無方向性電磁鋼板10aを構成する成分組成は公知の通りでよいが、例えば次の通りであることが好ましい。
【0015】
Siは0.5質量%以上、4質量%以下とすることが好ましい。Siは、鋼の固有抵抗を高めて鉄損特性を改善することができる。ただし、4質量%を超えると、鋼が硬質化して圧延等の加工がし難くなる傾向にある。
【0016】
Mnは0.05質量%以上3質量%以下であることが好ましい。Mnは、Siと同様、鋼の固有抵抗を高めて鉄損特性を改善することができる。また、鋼の熱間加工性を改善することができる。ただし0.05質量%未満ではこの効果が表れ難く、3質量%を超えると逆に加工性を阻害する虞がある。
【0017】
また、Feに代えて、電磁鋼板において含有されることが知られている元素を、公知の範囲で任意的に含有させても本発明の効果が消失するものではない。これらの元素としては、例えば、C、Al、N、P、S、Se、Sn、Sb、Ca、Cr、Ni、Cu、B、Ti、Nb、Mo、Mg、La、Ce、Y等が挙げられる。以下、本発明の効果への影響が比較的強く現れる元素について説明する。
【0018】
Cは0.005質量%以下とすることが好ましい。Cは、0.005質量%を超えて含有すると、磁気時効を起こして鉄損を増加させる傾向にある。
【0019】
Alは3質量%以下であることが好ましい。Alは、Siと同様に、鉄損特性の改善を図ることができる。ただし、3質量%を超えると、圧延性を阻害するおそれがある。
【0020】
Nは0.005質量%以下であることが好ましい。Nは、鋼中に不可避的に混入してくる不純物として位置づけられて磁気特性を低下させる元素であるためできる限り低減することが望ましい。
【0021】
Pは0.2質量%以下であることが好ましい。Pが0.2質量%を超えると鋼が硬質化して圧延が難しくなる傾向にある。
【0022】
Sは0.005質量%以下であることが好ましい。Sは不可避的不純物として位置づけであり、磁気特性を低下させる有害元素であるので、できる限り低減することが好ましい。
【0023】
Seは0.0010質量%以下であることが好ましい。Seは歪取焼鈍後の磁気特性を低下させる虞があるので、できる限り低減することが好ましい。
【0024】
Snは0.003質量%以上0.5質量%以下で含ませることができる。Snは磁束密度向上や磁気特性劣化の抑制の効果を有する。
【0025】
Sbは0.003質量%以上0.5質量%以下で含ませることができる。Sbも磁束密度向上や磁気特性劣化の抑制の効果を有する。
【0026】
Caは0.0010質量%以上0.005質量%以下で含ませることができる。Caは歪取焼鈍時の粒成長を促進し、鉄損特性を改善する効果を有する。
【0027】
上記説明した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。
【0028】
上記のように、モータコアは複数の無方向性電磁鋼板が積層されており、その形状は公知のモータコアと同様に考えることができる。その一例として
図1にモータコア10の斜視図を表したが、
図2、
図3に当該モータコア10を説明する他の図をさらに示した。
図2はモータコア10を
図1の矢印IIの方向からみた平面図である。
図3は、
図2の一部であり、
図2のIIIで囲んだ部分を抽出して表した図である。
【0029】
これら図からもわかるように、モータコア10は、円環状の複数の無方向性電磁鋼板10aが重なることで構成されており、全体として円管状をなしている。従って、モータコア10には円管の中心軸Oを観念することができる(
図2参照)。
【0030】
そして、モータコア10は、円管状である内壁面に中心軸Oに平行に延び、内周方向に所定の間隔で設けられた溝であるスロット11、隣り合うスロット11の間に形成され中心軸Oに平行に延び、内周方向に配列された隔壁であるティース12、及び、ティース12の外周側を連結し、管状であるバックヨーク13を有している。従って、ティースはバックヨークの内面に、スロット11の幅の間隔を有して配列された複数の隔壁である。
これらスロット11、ティース12、及びバックヨーク13の具体的な形態は本例に限らず公知の形態の考え方を適用することができる。
【0031】
さらに、モータコア10は、バックヨーク13にかしめ部14を備えている。かしめ部14は複数の無方向性電磁鋼板10aを互いに接合する部位である。かしめ部14では、無方向性電磁鋼板10aに板厚方向に凹凸を設け、これらを互いに嵌め合わせ係合(かしめ)することにより接合されている。かしめの態様は公知の通りであるが、
図1~
図3に示される平面形状においては、例えば角形状、丸形状がある。
かしめ部全体が中心軸Oの方向に均一な凹凸を形成して係合される場合は、
図3にIV-IVで示した線に沿った断面図である
図4(a)、
図3にV-Vで示した線に沿った断面図である
図4(b)に示したように、いずれも同様の態様となる。この場合は、かしめ部14における中心軸Oの方向の段差の突出量は無方向性電磁鋼板10aの板厚よりも小さく設計され、板厚方向に隣接する無方向性電磁鋼板に係合される状態となる。
一方、断面において凹凸の深さがV字状に変化するような態様もある。この場合は、例えば
図3でV-Vで示した線に沿った断面図である
図5(b)に示すような態様となる。そして、V字の最も深い位置において、
図3のIV-IVで示した線に沿った断面図である
図5(a)に示すような態様となる。この場合は、かしめ部14における中心軸Oの方向の段差の突出量は無方向性電磁鋼板10aの板厚よりも大きくなる領域が存在し、板厚方向に隣接する無方向性電磁鋼板10aを超えて複数の無方向性電磁鋼板に係合される状態となるため、より強い係合が可能となる。
【0032】
本形態のモータコア10は、さらに次の特徴を有している。そのため、初めに以下の(1)~(6)を定義する。
【0033】
(1)ティース粒径D1
ティース粒径D1は、ティース12の先端(中心軸O側の端部)から0.5mm離隔した位置における結晶粒の粒径である。具体的には次のように粒径を求める。
図6に説明のための図を示した。
図6はティース12の先端における断面について結晶粒が顕在化するようにエッチング処理を行い、拡大して表した図である。
図6に示したようにティース12の先端から0.5mm離隔した位置における粒径をティース粒径D1とする。ティース粒径D1(μm)は、当該位置におけるティース厚さをH1(μm)、当該位置において存在する結晶粒の数をA1とし、次の式により算出する。
D1=H1/A1
D1は偏りの少ない箇所(複数の鋼板、1枚の鋼板においては十分に離れた位置)について少なくとも10箇所の測定を行い、その平均値を用いるものとする。
【0034】
(2)ティース端部粒径D2
ティース端部粒径D2は、ティース12の先端(中心軸O側の端部)における結晶粒の粒径である。具体的には次のように粒径を求める。
図7に説明のための図を示した。
図7も
図6と同様、ティース12の中心軸O側の先端における断面について結晶粒が顕在化するようにエッチング処理を行い、拡大して表した図である。
ティース粒径D2(μm)は、ティース先端におけるティース厚さをH2(μm)、ティースの先端Sに沿って存在する結晶粒の数をA2とし、次の式により算出する。ただし、ティースの厚さH2を算出する際には
図7にCで示したように、いわゆる「だれ」に相当する板厚部分は除外して考える。ここで、「だれ」とは、全板厚のうち、打抜き加工で板厚方向に曲げ変形した部分であり、だれ部の表面は多少延伸しているが基本的にせん断で破断する前の鋼板表面のままの様相を示す。一般的にせん断加工における破断では、だれ部に、せん断変形部および破断部が隣接する。せん断変形部は鋼板が、金型と強く接触しながら板厚方向に擦られて直線的にせん断変形された部分であり、破断部は金型の移動により最終的に鋼板が引きちぎられた様相を示す。
D2=H2/A2
D2は偏りの少ない箇所(複数の鋼板、1枚の鋼板においては十分に離れた位置)について少なくとも10箇所の測定を行い、その平均値を用いるものとする。
【0035】
(3)ティース硬さHv1
ティース硬さHv1は、ティース12の先端(中心軸O側の端部)から0.5mm離隔した位置における硬さである。硬さは荷重25gのビッカース硬さとし、
図6に四角(菱形)の印で示したように厚さを均等に分ける4点の測定結果を得る。さらに偏りの少ない箇所(複数の鋼板、1枚の鋼板においては十分に離れた位置)について少なくとも10箇所の測定を行い、合計40点の測定値を平均してティース硬さHv1とする。
【0036】
(4)ティース端部硬さHv2
ティース端部硬さHv2は、ティース12の先端(中心軸O側の端部)から0.05mmから0.07mmの範囲内に圧痕の中心位置が入るようにして測定された硬さである。硬さは荷重25gのビッカース硬さとし、
図7に四角(菱形)の印で示したように厚さを均等に分ける4点の測定結果を得る。さらに偏りの少ない箇所(複数の鋼板、1枚の鋼板においては十分に離れた位置)について少なくとも10箇所の測定を行い、合計40点の測定値を平均してティース硬さHv2とする。この場合も
図7にCで示したように、いわゆる「だれ」の部分は除外して考える。
【0037】
(5)かしめ部端部粒径D3
かしめ部端部粒径D3は、かしめ部14の端部における結晶粒の粒径である。具体的には次のように粒径を求める。
図8に示したように、かしめ部14の端部となる位置Pにおける結晶粒の粒径をかしめ部端部粒径D3とする。かしめ部端部粒径D3(μm)は、当該位置におけるかしめ部14の厚さをH3(μm)、当該位置において存在する結晶粒の数をA3とし、次の式により算出する。
D3=H3/A3
D3は偏りの少ない箇所(複数の鋼板、1枚の鋼板においては十分に離れた位置)について少なくとも10箇所の測定を行い、本発明ではその平均値を用いるものとする。
【0038】
ここで、
図8は
図4に示したように、かしめ部14における突出量が隣接する無方向性電磁鋼板10aの厚さを超えず、材料に不連続な部分を生じない形態である。これに対して、
図5で説明した、かしめ部がV字型の断面の態様を示す形態では、
図5(a)に相当する断面において、
図9に示すようにかしめ部14における突出量が隣接する無方向性電磁鋼板10aの厚さを超えて生じる材料の不連続部の端部を位置Pとし、前述のD2と同様に、先端に沿って存在する結晶粒の数をA3とし、「だれ」部を除外した板厚をH3としてD3を算出する。
【0039】
(6)かしめ部端部硬さHv3
かしめ部端部硬さHv3は、かしめ部14の端部Pから0.05mmから0.07mmの範囲に圧痕の中心位置が入るようにして測定されたかしめ部14の硬さである。硬さは荷重25gのビッカース硬さとし、この部位における厚さを均等に分ける4点の測定結果を得る。さらに偏りの少ない箇所(複数の鋼板、1枚の鋼板においては十分に離れた位置)について少なくとも10箇所の測定を行い、合計40点の測定値を平均してかしめ部端部硬さHv3とする。
【0040】
以上の項目に対して、モータコア10は次のような特徴を具備している。
(A)ティースについて
鉄損の低減に対しては、ティースにおける歪が影響を及ぼすため、追加焼鈍による歪緩和において、再結晶により粒径が所定の大きさになっていることが好ましい。具体的にはティース端部粒径D2が10μmより大きいことが好ましい。
また、追加焼鈍による歪の低減は、ティースにおける硬さの均一性により評価することも可能である。かかる観点から、ティース端部硬さHv2をティース硬さHv1で除した値で表される比が1.15より小さいことが好ましい。
従って、ティースについては、
D2>10μm、又は、
Hv2/Hv1<1.15
の少なくとも一方を満たしていることが好ましい。
【0041】
(B)かしめ部について
上記のように追加焼鈍により歪の緩和を行うと、特にかしめ部の端部近傍で層間短絡が生じるとの知見を得た。これに対してかしめ部において次のいずれかの構成により当該層間短絡を抑制することができる。
1つには、かしめ部端部粒径D3が20μmより小さいことが好ましい。
2つには、かしめ部端部硬さHv3をティース硬さHv1で除した値で表される比が1.05以上であることが好ましい。
3つには、かしめ部端部粒径D3をティース粒径D1で除した値で表される比が1.10より大きいことが好ましい。
従って、かしめ部については、
D3<20μm、
Hv3/Hv1≧1.05、および、
D3/D1>1.10
の少なくとも1つを満たしていることが好ましい。
【0042】
上記(A)、(B)の他、ティースの局所加熱による追加焼鈍という観点から、その結果としてティース端部粒径D2をかしめ部端部粒径D3で除した値で表される比が1.20以上であることが好ましい。従って、
D2/D3≧1.20
であることが好ましい。これによっても上記効果を奏するものとなる。
【0043】
以上のようなモータコア10の製造方法は、以下で説明する熱処理条件以外については特に限定されることはなく、公知の方法を用いることができる。従って、公知の方法により無方向性電磁鋼板を製造し、これを加工することでモータコアとすることができる。具体的には、材料とする無方向性電磁鋼板に対して、打抜加工等をして上記した所定の形状とした後、これを積層し、かしめ(かしめ部の形成)により積層した複数の無方向性電磁鋼板を接合し、接合体とする。
次いで、打抜加工やかしめにより生じた歪を緩和するために追加焼鈍を施す。この追加焼鈍により、モータコアの構成を上記(A)、(B)等で説明したものとする。そのための具体的方法は特に限定されることはないが、例えば、以下のような条件を挙げることができる。ここで説明する条件により、モータコアの部位に応じて意図的な温度偏差を生じるような熱処理を行い、課題を解消することが可能な上記の特徴を満たすモータコア10をより確実に製造することができる。具体的には以下の条件(C)、(D)、(E)および(F)の範囲内で熱処理を行う。
【0044】
条件(C)は、追加焼鈍の前提となる条件であり、少なくとも鋼板の一部が500℃以上に到達する熱処理である。これにより少なくとも鋼板の一部の加工歪が解放される。これを前提条件としているのは、このような熱処理が行われないのであれば、そもそも加工歪解放による鉄損低下に注目することもなく、かしめ部での層間短絡も発生しないため、本発明の課題が生じない。
一般的にはこのような熱処理はコア全体が均一になるように、コア内に意図的な不均一を生じさせないように行われている。従ってこのような熱処理をすることで、歪解放と層間短絡が同時に起きるため、本発明の課題が生じることになる。
【0045】
条件(D)は、ティースを十分に焼鈍することに関連するもので、ティースの到達温度を500℃以上かつ500℃以上の温度域での滞留時間を10分以上とする熱処理である。好ましくは到達温度を600℃以上、さらに好ましくは700℃以上とすることである。ただしティースの到達温度が高くなると、鋼板内の熱伝導のため、後述するかしめ部の到達温度を必要な温度以下に制御することが困難となるとともに、絶縁被膜の溶着や熱処理雰囲気によってはモータコアの酸化など、モータコアの特性を阻害することがあるため、ティースの到達温度は800℃以下とすることが好ましい。また、500℃以上の温度域での滞留時間は、好ましくは20分以上、さらに好ましくは30分以上とする。ただし、該滞留時間が長くなると、鋼板内の熱伝導のため、後述するかしめ部の到達温度を必要な温度以下に制御することが困難となるとともに、絶縁被膜の溶着や熱処理雰囲気によってはモータコアの酸化など、モータコアの特性を阻害することがあるため、該滞留時間は60分以下とすることが好ましい。
【0046】
条件(E)は、かしめ部への熱影響を十分に抑制することに関連するものであり、かしめ部の到達温度を500℃以下または450℃以上の温度域での滞留時間を10分以下とする熱処理である。
500℃以下とする場合には、好ましくは到達温度を400℃以下、さらに好ましくは300℃以下である。
450℃以上とする場合には、滞留時間は、好ましくは5分以下、さらに好ましくは2分以下である。
一見すると、かしめ部が十分に熱処理されない状況では、かしめ部周辺の加工歪が解放されず鉄損が上昇してしまうように思える。しかし、実際の使用状況においては、かしめ部の近傍を通過する磁束は弱いため、この領域における加工歪の残留がもたらすモータコア全体の鉄損上昇への影響は、かしめ部での層間短絡を回避することによる鉄損上昇抑制と比較すると十分に小さく無視できる程度であるため、本発明の効果を得る上での問題とはならない。
【0047】
条件(F)は、上記条件(D)および条件(E)を同時に満たすための好ましい熱処理である。具体的には、ティースの昇温速度を2℃/s以上とする。これにより、温度を上昇すべきティースから、温度上昇を抑制すべきかしめ部への熱伝導が十分に起きる前にティースを必要な温度域に到達させる。好ましくは、10℃/s以上、さらに好ましくは100℃/s以上であり、昇温速度が高いに越したことはない。
【0048】
条件(D)および条件(E)で規定されるようなモータコア内の温度の不均一を形成するためには、局部的な加熱、加熱抑制、または冷却等の公知の手段を適宜用いれば良い。具体例として例えば次のような方法が挙げられる。
・ティースおよびその周辺のみを誘導加熱やレーザ照射などで局部的に加熱する。
・モータコアの大きさよりも小さなヒーターをティースに接近させることにより局部的に加熱する。
・モータコア全体を加熱炉に設置して加熱する場合に、かしめ部およびその近傍に断熱材による熱の遮蔽を行うことで当該部位の昇温を抑制する。
・かしめ部に冷却した金属部材を接触させることで当該部位の昇温を抑制する。
【0049】
上述した条件(C)~条件(E)、および条件(F)の熱処理のための、このような加熱、加熱抑制、または冷却の詳細な条件は、モータコアのサイズ、加熱または冷却装置の構成や能力によって適宜設定することができる。このような設定は、目標とすべき条件(C)~条件(E)および条件(F)の範囲や目途が示されていれば、日常的に様々なサイズの鋼材において、様々な温度条件、時間制約、装置制約の中で熱処理を実施している当業者であれば、必要なモータコアについて必要な条件を設定することは困難なことではない。
【0050】
以上のようなモータコアにより、追加焼鈍をしつつも層間短絡による損失を抑え、全体として鉄損を低減することが可能となる。
【実施例】
【0051】
追加焼鈍の条件を変更して作製したモータコアについて特徴を調べ、鉄損を評価した。条件及び結果を表1に示した。
【0052】
モータコアは、外径(直径)が140mm、内径(直径)が90mm、48スロット、80枚の無方向性電磁鋼板を積層したものとした。ここで用いた無方向性電磁鋼板は、Siを3.0質量%、Mnを0.5質量%含む材料であり、板厚が0.3mm、鉄損W10/400(1.0T、400Hzの励磁下での鉄損)が14W/kg、磁束密度B50が1.68Tなる特徴を有するものである。
かしめ部はバックヨーク部に設け、等しい中心角で6か所、幅(径方向)2mm、長さ(周方向)4mm、V字型(
図5、
図9の例)として押し込み深さ0.8mmで構成した。
【0053】
熱処理は、ティースに近接させたコイルによりティースのみを優先的に加熱し、ティースの先端から0.06mmの位置における温度を測定し、この位置での到達温度および加熱速度に基づいて熱処理条件を設定することにより行った。
【0054】
準備したモータコアについて、ティース及びかしめ部の粒径及び硬さの比等を測定した。測定方法は上記した通りである。
さらに各モータコアについて、鉄損を測定した。鉄損は、外径88mm、積厚24mmの4極対磁石ロータをモータコアに挿入し、外部からロータを回転数f=50rpsで回転させた時に発生するトルクTを計測することにより得た。具体的には、モータコアが存在しない状態でロータを回転させた時のトルクT0を計測し、モータコア内部で発生する鉄損を次式より求めた。
W=2πf(T-T0)
鉄損の比較は、No.7を基準(100%)としてその割合を百分率で表した。
【0055】
【0056】
表1からわかるように、No.1~No.4については鉄損の低減が見られた。なお、上記かしめ部に関する規定である、
D3<20μm、
Hv3/Hv1≧1.05、
D3/D1>1.10、及び、
D2/D3≧1.2
のうち、2つ以上を満たしているNo.1~No.3は、より顕著に鉄損の低下を認めることができた。
【符号の説明】
【0057】
10 モータコア
11 スロット
12 ティース
13 バックヨーク
14 かしめ部