(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-08
(45)【発行日】2023-08-17
(54)【発明の名称】処理順序スケジュール作成装置、処理順序スケジュール作成方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 19/418 20060101AFI20230809BHJP
B21B 37/00 20060101ALI20230809BHJP
【FI】
G05B19/418 Z
B21B37/00 210
(21)【出願番号】P 2019146486
(22)【出願日】2019-08-08
【審査請求日】2022-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】黒川 哲明
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-201608(JP,A)
【文献】特開2013-084222(JP,A)
【文献】特開2012-030282(JP,A)
【文献】特開2010-000527(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/418
B21B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の対象材を順番に処理する際に課せられる制約を示す制約式を設定する制約式設定手段と、
前記複数の対象材の少なくとも一部の処理順に応じて値が定まる目的関数を設定する目的関数設定手段と、
前記制約式を満足する範囲で、前記目的関数の値が最小または最大になるときの決定変数の値を計算することで、前記複数の対象材の処理順を導出するための計算を実行する導出手段と、を有し、
前記導出手段は、前記複数の対象材の処理順を導出することができない場合、
処理順の
導出対
象に、前記制約が課せられない仮想材を含めた上で、前記目的関数の値が最小または最大になるときの決定変数の値を計算することで、前記複数の対象材の少なくとも一部と前記仮想材の処理順を導出するための計算を実行する、
ことを特徴とする処理順序スケジュール作成装置。
【請求項2】
前記導出手段は、
処理順の
導出対
象に前記仮想材を含めた場合、前記複数の対象材の一部と前記仮想材の処理順を導出し、
前記複数の対象材の一部の数は、前記複数の対象材の数から前記仮想材の数を減算した数と同数であることを特徴とする請求項1に記載の処理順序スケジュール作成装置。
【請求項3】
前記導出手段により、前記複数の対象材の処理順、または、前記複数の対象材の少なくとも一部と前記仮想材の処理順を導出できたか否かを判定する判定手段と、
前記仮想材の数を設定する設定手段と、を更に有し、
前記設定手段は、前記判定手段により、前記複数の対象材の処理順、または、複数の対象材の少なくとも一部と前記仮想材の処理順を導出できなかったと判定されると、前記仮想材の数を増やし、
前記導出手段は、前記制約式を満足する範囲で、前記目的関数の値が最小または最大になるときの決定変数の値を計算することで、前記複数の対象材の少なくとも一部と、前記設定手段により設定された数の前記仮想材の処理順を導出するための計算を実行することを特徴とする請求項1または2に記載の処理順序スケジュール作成装置。
【請求項4】
前記設定手段による前記仮想材の数の変更と、前記導出手段による前記複数の対象材の少なくとも一部と当該変更された数の前記仮想材との処理順を導出するための計算の実行は、前記判定手段により、前記複数の対象材の少なくとも一部と前記仮想材との処理順を導出できたと判定されるまで繰り返し実行されることを特徴とする請求項3に記載の処理順序スケジュール作成装置。
【請求項5】
前記設定手段は、前記仮想材の数の初期値を0とし、前記判定手段により、前記複数の対象材の処理順、または、前記複数の対象材の少なくとも一部と前記仮想材との処理順を導出できなかったと判定されると、前記仮想材の数を1つ増やすことを特徴とする請求項3または4に記載の処理順序スケジュール作成装置。
【請求項6】
前記制約式設定手段は、前記制約式の1つとして組込制約式を設定し、
前記組込制約式は、所定の属性の前記対象材を割り当てることができる処理順の範囲、または、所定の属性の前記対象材を割り当てることができない処理順の範囲を示す制約式であることを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載の処理順序スケジュール作成装置。
【請求項7】
前記組込制約式は、寸法が所定の値未満の前記対象材を所定の数以上処理した後に、当該所定の値以上の寸法の前記対象材を処理することができないことを、寸法が前記所定の値以上の前記対象材を割り当てることができる処理順の範囲、または、寸法が前記所定の値以上の前記対象材を割り当てることができない処理順の範囲として表した制約式であることを特徴とする請求項6に記載の処理順序スケジュール作成装置。
【請求項8】
前記制約式設定手段は、前記制約式の1つとして品質移行規制制約式を設定し、
前記品質移行規制制約式は、前記複数の対象材のうちの或る対象材が或る処理順に割り当てられたとした場合に、前記対象材の品質に関する規制によって所定の範囲の処理順に割り当てることができない対象材の集合の何れかが、当該或る処理順に割り当てられることと、当該或る対象材が、当該所定の処理順の集合の何れかに割り当てられることとが両立しないことを、1つの数式で表した制約式であることを特徴とする請求項1~7の何れか1項に記載の処理順序スケジュール作成装置。
【請求項9】
前記複数の対象材は、複数の経路のうちの何れかの経路を通り、当該経路から出てきた順に前記対象材に対する前記処理が実行され、
前記複数の経路の全体で見た場合の前記経路から前記対象材が出る順番は、予め設定されており、
前記処理順は、前記複数の経路の全体で見た場合の前記経路から出る順番と同じであり、
前記品質移行規制制約式は、前記複数の対象材のうちの或る対象材が或る処理順に割り当てられたとした場合に、前記対象材の品質に関する規制によって、当該或る対象材が通過する前記経路において当該或る対象材の並び順に対し所定の範囲内の並び順にすることができない前記対象材の集合の何れかが、当該或る処理順に割り当てられることと、当該或る対象材が、当該所定の範囲内の並び順に対応する前記処理順の集合の何れかに割り当てられることとが両立しないことを、1つの数式で表した制約式であることを特徴とする請求項8に記載の処理順序スケジュール作成装置。
【請求項10】
前記制約式設定手段は、前記制約式の1つとして寸法移行規制制約式を設定し、
前記寸法移行規制制約式は、前記複数の対象材のうちの或る対象材が、或る処理順に割り当てられることと、当該或る対象材が、当該或る処理順に割り当てられた場合に、前記対象材の寸法に関する規制によって、当該或る対象材に対し、処理順を当該或る処理順よりも1つ前の処理順に割り当てることができない前記対象材の集合の何れかが、当該或る処理順の1つ前の処理順に割り当てられることとが両立しないことと、
前記複数の対象材のうちの或る対象材が、或る処理順に割り当てられることと、当該或る対象材が、当該或る処理順に割り当てられた場合に、前記対象材の寸法に関する規制によって、当該或る対象材に対し、処理順を当該或る処理順よりも1つ後の処理順に割り当てることができない前記対象材の集合の何れかが、当該或る処理順の1つ後の処理順に割り当てられることとが両立しないこととを、
それぞれ1つの数式で表した制約式であることを特徴とする請求項1~9の何れか1項に記載の処理順序スケジュール作成装置。
【請求項11】
前記導出手段により、前記複数の対象材の処理順、または、前記複数の対象材の少なくとも一部と前記仮想材の処理順が導出されると、当該処理順に関する情報を表示装置に表示させる表示制御手段を更に有することを特徴とする請求項1~10の何れか1項に記載の処理順序スケジュール作成装置。
【請求項12】
前記表示制御手段は、前記導出手段により、前記複数の対象材の少なくとも一部と前記仮想材の処理順が導出されると、当該仮想材の処理順に割り当てることができる対象材の属性に関する情報を表示装置に表示させることを特徴とする請求項11に記載の処理順序スケジュール作成装置。
【請求項13】
前記決定変数は、前記処理順に対する前記対象材の割り当ての有無を示す2値変数であることを特徴とする請求項1~12の何れか1項に記載の処理順序スケジュール作成装置。
【請求項14】
前記処理順序スケジュールは、ヤードに積まれたスラブを、複数の加熱炉の何れかに装入し、前記加熱炉から抽出されたスラブを1つの圧延ラインで圧延してコイルを製造するための熱延スケジュールであり、
前記対象材は、鋼材であり、
前記処理順は、前記スラブの圧延順であることを特徴とする請求項1~13の何れか1項に記載の処理順序スケジュール作成装置。
【請求項15】
複数の対象材を順番に処理する際に課せられる制約を示す制約式を設定する制約式設定工程と、
前記複数の対象材の少なくとも一部の処理順に応じて値が定まる目的関数を設定する目的関数設定工程と、
前記制約式を満足する範囲で、前記目的関数の値が最小または最大になるときの決定変数の値を計算することで、前記複数の対象材の処理順を導出するための計算を実行する導出工程と、を有し、
前記導出工程は、前記複数の対象材の処理順を導出することができない場合、
処理順の
導出対
象に、前記制約が課せられない仮想材を含めた上で、前記目的関数の値が最小または最大になるときの決定変数の値を計算することで、前記複数の対象材の少なくとも一部と前記仮想材の処理順を導出するための計算を実行する、
ことを特徴とする処理順序スケジュール作成方法。
【請求項16】
請求項1~14の何れか1項に記載の処理順序スケジュール作成装置の各手段としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理順序スケジュール作成装置、処理順序スケジュール作成方法、およびプログラムに関し、特に、複数の対象材の処理順を決定するために用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼業をはじめとして、様々な産業で、複数の対象材を順番に処理することが行われている。例えば、鉄鋼業における熱間圧延工場では、複数の加熱炉で加熱された複数のスラブをヤードに仮置きし、ヤードに仮置きされた複数のスラブを熱間圧延機で圧延してコイルを製造する。このような複数の対象材の処理順を自動的に決定する技術として特許文献1に記載の技術がある。
【0003】
特許文献1では、処理順の決定対象の対象材を処理順に割り当てられないことを許容するための制約式と、対象材が割り当てられない処理順が、対象材が割り当てられた処理順の後ろに配置されることを保証するための制約式と、が用いられる。これらの制約は、処理順の決定対象の対象材の属性によって、課されている。また、特許文献1では、スケジュールに組み込まれた対象材についての、スケジュールに組み込むべき優先度の加算値と、スケジュールに組み込まれなかった対象材の数とを目的関数に含める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、制約式の数が多いときには、全ての制約式を満足するように対象材の処理順を決定することができない(即ち、実行可能解が得られない)虞がある。例えば、熱延スケジュールのように、圧延制約と加熱制約の両立が必要となる場合には、制約式の数が数百万以上となることもあり、全ての制約式を満足するように対象材の処理順を決定することができない場合がある。
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、複数の対象材の処理順を決定するに際し、全ての制約式を満足する実行可能解が得られなくなることを回避することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の処理順序スケジュール作成装置は、複数の対象材を順番に処理する際に課せられる制約を示す制約式を設定する制約式設定手段と、前記複数の対象材の少なくとも一部の処理順に応じて値が定まる目的関数を設定する目的関数設定手段と、前記制約式を満足する範囲で、前記目的関数の値が最小または最大になるときの決定変数の値を計算することで、前記複数の対象材の処理順を導出するための計算を実行する導出手段と、を有し、前記導出手段は、前記複数の対象材の処理順を導出することができない場合、処理順の導出対象に、前記制約が課せられない仮想材を含めた上で、前記目的関数の値が最小または最大になるときの決定変数の値を計算することで、前記複数の対象材の少なくとも一部と前記仮想材の処理順を導出するための計算を実行する、ことを特徴とする。
【0007】
本発明の処理順序スケジュール作成方法は、複数の対象材を順番に処理する際に課せられる制約を示す制約式を設定する制約式設定工程と、前記複数の対象材の少なくとも一部の処理順に応じて値が定まる目的関数を設定する目的関数設定工程と、前記制約式を満足する範囲で、前記目的関数の値が最小または最大になるときの決定変数の値を計算することで、前記複数の対象材の処理順を導出するための計算を実行する導出工程と、を有し、前記導出工程は、前記複数の対象材の処理順を導出することができない場合、処理順の導出対象に、前記制約が課せられない仮想材を含めた上で、前記目的関数の値が最小または最大になるときの決定変数の値を計算することで、前記複数の対象材の少なくとも一部と前記仮想材の処理順を導出するための計算を実行する、ことを特徴とする。
【0008】
本発明のプログラムは、前記処理順序スケジュール作成装置の各手段としてコンピュータを機能させるためのものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、複数の対象材の処理順を決定するに際し、全ての制約式を満足する実行可能解が得られなくなることを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】仮想材を用いる場合の効果の一例を説明する図である。
【
図2】熱間圧延工場における処理の流れの一例を概念的に示す図である。
【
図3】熱延スケジュール作成装置の機能的な構成の一例を示す図である。
【
図4】コフィン制約の内容の一例を表形式で示す図である。
【
図6】幅・厚移行規制制約式の一例を説明する図である。
【
図7】炉内温度移行規制制約式の一例を説明する図である。
【
図8】熱延スケジュール作成方法の一例を説明するフローチャートである。
【
図9-1】熱延スケジュール(第1の計算例)を示す図である。
【
図9-2】
図9-1に続く熱延スケジュール(第1の計算例)を示す図である。
【
図10】熱延スケジュール(第1の計算例)に取り込まれなかった対象鋼材を示す図である。
【
図11-1】熱延スケジュール(第2の計算例)を示す図である。
【
図11-2】
図11-1に続く熱延スケジュール(第1の計算例)を示す図である。
【
図12】熱延スケジュール(第2の計算例)に取り込まれなかった対象鋼材を示す図である。
【
図13】本実施形態の手法と特許文献1に記載の手法の計算時間を比較して表形式で示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
前述したように、本発明者らは、特許文献1に記載のように、制約式の数が多いときには、全ての制約式を満足する実行可能解が得られない場合があることを見出した。これは、処理順の決定対象の対象材の属性によって、対象材の処理順に制約が課せられるため、処理順の決定対象の対象材だけでは、どのように組み合わせても、当該制約に違反する場合が生じるためであると考えられる。そこで、本発明者らは、実行可能解が得られるようにするためには、制約式による制約が課せられない仮想材を、処理順の決定対象に含めればよいことを見出した。
【0012】
図1を参照しながら、このような仮想材を用いる場合の効果の一例を説明する。
図1において、「先」は、先に処理される対象材の識別番号を示し(この対象材を先行対象材と称する)、「後」は、後に処理される対象材の識別番号を示す(この対象材を後行対象材と称する)。×は、当該×が示されている欄に対応する先行対象材および後行対象材については、当該先行対象材の次に当該後行対象材を処理することができないことを示す。これとは逆に、○は、当該○が示されている欄に対応する先行対象材および後行対象材については、当該先行対象材の次に当該後行対象材を処理することができることを示す。i
A、i
B、i
Cは、処理順の決定対象の対象材の識別番号を示し、mは、仮想材の(仮想的な)識別番号を示す。
【0013】
図1において、処理順の決定対象の対象材については、識別番号i
Bの対象材に対する処理の次に、識別番号i
Cの対象材に対する処理を実行することはできるが、これ以外の順では処理することができない。一方、仮想材については、処理順の決定対象の対象材の何れを先行対象材としても、当該先行対象材に対する処理の後に処理することができ、同様に、処理順の決定対象の対象材の何れを後行対象材としても、当該後行対象材に対する処理の前に処理することができる。
【0014】
図1に示すような場合、処理順の決定対象の対象材だけでは、識別番号i
A、i
B、i
Cの対象材に対する処理順を定めることができないため、実行可能解が得られない。具体的に、識別番号i
A、i
Bの順に処理することができないため、識別番号i
A、i
B、i
Cの順に処理することはできない。識別番号i
A、i
Cの順、識別番号i
C、i
Bの順、に処理することができないため、識別番号i
A、i
C、i
Bの順に処理することはできない。識別番号i
B、i
Aの順、識別番号i
A、i
Cの順、に処理することができないため、識別番号i
B、i
A、i
Cの順に処理することはできない。識別番号i
C、i
Aの順に処理することができないため、識別番号i
B、i
C、i
Aの順に処理することはできない。識別番号i
C、i
Aの順、識別番号i
A、i
Bの順、に処理することができないため、識別番号i
C、i
A、i
Bの順に処理することはできない。識別番号i
C、i
Bの順、識別番号i
B、i
Aの順、に処理することができないため、識別番号i
C、i
B、i
Aの順に処理することはできない。
【0015】
これに対し、
図1に示す例では、識別番号i
B、i
Cの順に処理することができるので、処理順の決定対象に、識別番号mの仮想材を1つ追加することで、識別番号i
A、m、i
B、i
Cの順と、識別番号i
B、i
C、m、i
Aの順に処理することができ、実行可能解が得られる。また、このように、仮想材が、どの対象材とどの対象材との間に配置されるかも決められるため、どのような属性の対象材をスケジュールに含めれば、実行可能解が得られるのかを把握することができる。
【0016】
以上のように仮想材を用いることにより、実行可能解が得られないことを防止することができる。ただし、仮想材の数を必要以上に多くすると、処理順の決定対象とすべき対象材と異なる対象材が多くスケジュールに含まれてしまう。従って、仮想材の数を可及的に少なくするのが好ましい。そこで、本発明者らは、仮想材の数の初期値を0とし、実行可能解が得られない場合に、仮想材の数を1つ増やすことを、実行可能解が得られるまで繰り返すことが好ましいことを見出した。
【0017】
また、実行可能解を高速に求めることができるようにするのが好ましい。本発明者らは、処理順の決定対象の対象材の、スケジュールにおける組み込み位置(処理順)の範囲を制約式として定式化することができることを見出した。これにより、解空間である探索範囲を適切に限定し、実行可能解を高速に求解することができるので好ましい。更に、本発明者らは、寸法移行規制制約式(幅・厚移行規制制約式)と品質移行規制制約式(炉内温度移行規制制約式)を、特許文献1に記載の制約式よりも強い制約の制約式として定式化することができることを見出した。尚、同じ上下限値で制約される2つの制約式を比べた場合、より多くの項が当該上下限値で制限されるほど、強い制約、即ち、強い定式化(strong formulation)になる(例えば、上限値をUとし、A+B≦U、A+B+C≦Uの2つの制約式がある場合、後者の方が前者よりも強い制約になる)。このような強い制約式を用いることにより、特許文献1に記載の技術よりも、解空間をより狭くすることができ、実行可能解を高速に求解することができるので好ましい。
以下に説明する実施形態は、以上の着想に基づいて得られたものである。
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態を説明する。本実施形態では、複数の対象材の処理順を示す処理順序スケジュールの一例として、熱延スケジュールを作成する場合を例に挙げて説明する。
図2は、熱間圧延工場における処理の流れの一例を概念的に示す図である。
図2において、連続鋳造機で得られたスラブ(鋼片)は、ヤード10に山積みされる。ヤード10には、スラブが山積みされることにより複数の山11a~11dが形成される。これら複数の山11a~11dの何れかから所望のスラブを取り出し、当該スラブを複数の加熱炉12a~12cの何れかに装入する。本実施形態では、加熱炉12の数が「3」である場合を例に挙げて説明するが、加熱炉12の数は複数であれば「3」に限定されるものではない。
【0019】
加熱炉12a~12cは、連続式加熱炉であり、装入された鋼片を所望の温度に加熱するものである。加熱炉12a~12cは、公知の技術で実現できるので、ここでは、その詳細な説明を省略する。
圧延ライン13は、加熱炉12a~12cで得られたスラブを所望の厚みに圧延してコイルを形成するものであり、例えば、粗圧延機および仕上圧延機等を備えている。圧延ライン13も、公知の技術で実現できるので、ここでは、その詳細な説明を省略する。
【0020】
図2において、加熱炉12a~12cの上に示している上向きの矢印の上に付している数字は、加熱炉12a~12cで得られたスラブの加熱炉12からの抽出順を表している。このように本実施形態では「抽出順」と称した場合には、複数の加熱炉12a~12c全体で見た場合の抽出順を意味する。また、圧延ライン13の下に示している上向きの矢印の下に付している数字は、スラブの圧延順を表している。抽出順と圧延順は1対1で対応しており、例えば、抽出順が「1」のスラブの圧延順は「1」となる。即ち、抽出順と圧延順とは同じである。
【0021】
図3は、熱延スケジュール作成装置100の機能的な構成の一例を示す図である。熱延スケジュール作成装置100は、最適化計算を行って、熱延スケジュールの作成対象となるスラブの圧延順(=抽出順)を決定し、熱延スケジュールを作成するための計算を行うものである。熱延スケジュール作成装置100は、例えば、CPU、ROM、RAM、HDD、および各種のインターフェースを備えた情報処理装置を用いることにより実現することができる。
【0022】
図3において、熱延スケジュール作成装置100は、その機能として、情報取得部110と、制約式設定部120と、目的関数設定部130と、最適解計算部140と、最適解有無判定部150と、仮想材数設定部160と、候補材導出部170と、表示制御部180と、を有する。以下に、これら各部の機能を詳細に説明する。
【0023】
<情報取得部110>
情報取得部110は、熱延スケジュール作成装置100と通信回線(例えばLAN)を介して相互に接続されたスケジュール管理系計算機200から送信される各種情報を受信して記憶する。尚、情報取得部110は、必ずしもこのようにして情報を取得する必要はない。例えば、情報取得部110は、リムーバブル記憶メディアに記憶された情報を読み出すことにより、情報を取得してもよい。以下に、情報取得部110が取得する情報の一例を説明する。
【0024】
情報取得部110は、作成対象の熱延スケジュールに組み込むべき鋼材の属性情報(鋼材情報)と、作成対象の熱延スケジュールに組み込むべき鋼材とは異なる鋼材の属性情報(鋼材情報)とを取得する。以下の説明では、作成対象の熱延スケジュールに組み込むべき鋼材(圧延を予定している鋼材)を、必要に応じて、対象鋼材と称する。また、作成対象の熱延スケジュールに組み込むべき鋼材とは異なる鋼材を、必要に応じて、非対象鋼材と称する。非対象鋼材は、ヤード10に山積みされるスラブから製造される鋼材のうち、対象鋼材以外の鋼材である。ここで、対象鋼材の集合をN={1,2,・・・,n}とする。集合Nの要素である1,2,・・・,nは、対象鋼材の鋼材番号であるものとする。また、何れの圧延順eにも割り当てることができる仮想的な鋼材の集合をM={n+1,n+2,・・・,n+m}とする。集合Mの要素であるn+1,n+2,・・・,n+mは、仮想的な鋼材の鋼材番号であるものとする。以下の説明では、仮想的な鋼材を必要に応じて仮想材と称する。仮想材は、任意の圧延順で圧延することができ、任意の加熱炉12a~12cに任意の装入順で装入することができるもの(つまり、複数の対象材を順番に処理する際の制約が課せられないもの)である。詳細は後述するが、本実施形態では、仮想材の数mは、その初期値が0であり、実行可能解が得られないと判定されるたびに1ずつ増加するものとする。
【0025】
鋼材情報は、鋼材番号と、コイル幅と、コイル厚と、抽出温度上限と、抽出温度下限と、抽出目標温度とが、相互に関連付けられた情報である。
ここで、抽出温度上限とは、加熱炉12a~12cからの抽出時のスラブの温度の上限値であり、抽出温度下限とは、加熱炉12a~12cからの抽出時のスラブの温度の下限値である。以下の説明では、抽出温度上限から抽出温度下限に至る温度範囲を、必要に応じて「抽出温度許容範囲」と称する。
以上のように、本実施形態では、例えば、鋼材情報が鋼材の属性情報の一例であるが、鋼材情報に含まれる各情報は、例えば、1つのテーブルとして一括して管理された情報であっても、1つまたは複数の単位で個別に管理された情報であってもよい。
【0026】
また、情報取得部110は、寸法移行規制情報と品質移行規制情報を取得する。寸法移行規制情報には、コイル幅移行規制情報と、コイル厚移行規制情報とが含まれ、品質移行規制情報には、抽出温度移行規制情報が含まれる。
コイル幅移行規制情報は、圧延順で隣接する2つのスラブから形成されたコイルのコイル幅の差に関する規制を示す情報である。例えば、圧延順で隣接する2つのスラブのうち、相対的に先に圧延されるスラブから形成されるコイルのコイル幅(先行コイル幅)よりも、相対的に後に圧延されるスラブから形成されるコイルのコイル幅(後行コイル幅)が100[mm]を超えて大きくならないことを示す情報がコイル幅移行規制情報として設定される。
【0027】
コイル厚移行規制情報は、圧延順で隣接する2つのスラブから形成されるコイルのコイル厚の差に関する規制を示す情報である。例えば、圧延順で隣接する2つのスラブのうち、相対的に先に圧延されるスラブから形成されるコイルのコイル厚(先行コイル厚)を、相対的に後に圧延されるスラブから形成されるコイルのコイル厚(後行コイル厚)で除した値(=(先行コイル厚)÷(後行コイル厚))が0.5以上2以下となることを示す情報がコイル厚移行規制情報として設定される。即ち、コイル厚移行規制情報は、圧延順で隣接する2つのスラブから形成されるコイルのうち、相対的にコイル厚が厚い方のコイルのコイル厚が、相対的にコイル厚が薄い方のコイルのコイル厚の2倍を超えないことを示す情報である。
以上のコイル幅移行規制情報とコイル厚移行規制情報は、圧延ライン13で圧延を安定して行い高品質のコイルを得るための規制を示す情報である。
【0028】
抽出温度移行規制情報は、同一の加熱炉12a~12cで近隣する複数のスラブの抽出温度に関する規制を示す情報である。例えば、或るスラブの抽出温度許容範囲(抽出温度下限から抽出温度上限までの範囲)と、当該スラブと同一の加熱炉12a~12cにおいて隣接する前後3つのスラブの抽出温度許容範囲と、の重複範囲がそれぞれ20℃以上である必要があることを示す情報が抽出温度移行規制情報として設定される。
以上の抽出温度移行規制情報は、加熱炉12a~12cにおける燃焼制御の空間的分解能および応答性から要求される規制を示す情報である。
【0029】
また、情報取得部110は、作成対象の熱延スケジュールにおける複数の加熱炉12a~12cの抽出炉順を示す抽出炉順情報を取得する。このように本実施形態では、スラブを抽出する加熱炉12a~12cの順番(抽出炉順)が予め決められているものとする。例えば、抽出炉順情報が「1,3,3,2,3,3,1,・・・」となっている場合、1号炉である加熱炉12a、3号炉である加熱炉12c、3号炉である加熱炉12c、2号炉である加熱炉12b、3号炉である加熱炉12c、3号炉である加熱炉12c、1号炉である加熱炉12aの順で、周期的にスラブを加熱炉12a~12cの何れかからスラブが抽出されることになる。
【0030】
<制約式設定部120>
本実施形態では、決定変数x[i][e]を用いる。決定変数x[i][e]は、鋼材番号iの鋼材を圧延順eに割り当てる場合に1、割り当てない場合に0となる0-1変数(2値変数)である。鋼材番号iには、対象鋼材の鋼材番号と仮想材の鋼材番号とが含まれる。以下、本実施形態で使用する制約式について説明する。本実施形態では、圧延順eの数が、対象鋼材の数(=n)と同数であるものとする。
【0031】
<<圧延順割当制約>>
通常は、圧延順の数と対象鋼材の数とが同じになるが、本実施形態では、仮想材を用いるため、実際の対象鋼材と仮想材とを合わせた鋼材集合を、対象鋼材数分の圧延順へ割り当てることになる。即ち、圧延順への割り当て対象が冗長となる割り当て問題とする。従って、本実施形態では、各鋼材(対象鋼材および仮想材)に圧延順を割り当てる際の制約を数式で表す圧延順割当制約式として、以下の(1)式および(1')式の制約式を用いる。
【0032】
【0033】
(1)式は、仮想材の数が0でない場合(m>0)、各鋼材番号i(i=1,・・・n,n+1,・・・n+m)の鋼材が、1つの圧延順eに割り当てられるか、または、1つの圧延順eにも割り当てられないかの何れかとなる制約を表す。(1')式は、仮想材の数が0である場合(m=0)、各鋼材番号i(i=1,・・・n)の鋼材が、何れか1つの圧延材eに必ず割り当てられることを示す制約を表す。仮想材の数が0でない場合(m>0)、割り当てる鋼材集合N∪Mの数が(n+m)となり、割り当てられる圧延順eの数nよりも多くなるので、どの圧延順eにも割り当てられない対象鋼材が存在する。このことから、(1)式に示すように、圧延順割当制約式は、不等式となる。一方、仮想材の数が0である場合(m=0)、割り当てる鋼材集合Nの数と、割り当てられる圧延順eの数とが共にnで一致するので、(1')式に示すように、圧延順割当制約式は、等式となる。
【0034】
<<鋼材割当制約>>
本実施形態では、各圧延順eに鋼材(対象鋼材および仮想材)を割り当てる際の制約を数式で表す鋼材割当制約式として、以下の(2)式の制約式を用いる。
【0035】
【0036】
(2)式は、各圧延順e(e=1,・・・,n)には、何れか1つの鋼材(対象鋼材または仮想材)が必ず割り当てられることを示す制約を表す。
【0037】
<<ロール摩耗制約(コフィン制約)>>
幅狭材の次に幅広材を圧延すると、圧延ロールの表面の領域のうち、幅狭材のエッジ(端部)が当たる領域が、他の領域より余計に摩耗する。この状態で幅広材を圧延すると、当該摩耗した部分が幅広材にプリントされるために、不良品になる虞がある。これを避けるために、熱間圧延工程では、幅広材から形状制御が容易な幅狭材に徐々に移行するように圧延順に制約を課すようにすることが行われる。このような制約をコフィン(coffin)制約といい、このような圧延順となるようにスケジューリングすることをコフィンスケジュールという。尚、本実施形態では、コフィンスケジュールのウォームアップ部分がある場合、当該ウォームアップ部分の圧延順は既に定まっており、コフィンスケジュールのウォームアップ部分以降の圧延順を導出するものとする。
【0038】
コフィン制約は、「コイル幅w[mm]未満の対象鋼材をu枚以上圧延したら、コイル幅w以上の幅の対象鋼材を圧延することはできない。」という形で表現できる。
図4は、コフィン制約の内容の一例を表形式で示す図である。
図4に示す例では、6つの幅区分のそれぞれについて、コイル幅wと規制数pとによりコフィン制約を表す。
図4では、各幅区分において、コイル幅wの欄に示される値未満のコイル幅の対象鋼材を、規制数pの欄に示される数を超えて圧延したら、それ以降は、当該コイル幅wの欄に示される値以上のコイル幅の対象鋼材を圧延することができないことを示す。例えば、コイル幅w[mm]が1000の欄ならば、「コイル幅が、1000[mm]未満の対象鋼材を、5本を超えて圧延したら、それ以降は、コイル幅1000[mm]以上の対象鋼材を圧延することができないことになる。
【0039】
本発明者らは、圧延対象の鋼材が定まっている場合には、コフィン制約を、熱延スケジュールにおいて対象鋼材を割り当てることができる圧延順の範囲(所謂組み込み位置制約)として定式化することができることを見出した。例えば、対象鋼材の中に、コイル幅が1200[mm]以上の対象鋼材が8枚あるとする。この場合、
図4に示す例では、コイル幅が1200[mm]以上の対象鋼材は、13(=8+5)番以内の圧延順eに圧延されなければならない、と読み替えられる。なぜなら、コイル幅が1200[mm]以上の対象鋼材の1つが、14番目の圧延順eに割り当てられたとしたら、それ以前に圧延する13枚の中に、少なくとも6枚以上の1200[mm]未満の対象鋼材が含まれているはずである。即ち、コイル幅が1200[mm]以上の対象鋼材が8枚なので、圧延順が13番目以内に割り当てられる、コイル幅が1200[mm]未満の対象鋼材の数は、最小で6枚(=13-(8-1))になる。従って、コイル幅が、1200[mm]未満の対象鋼材を、5本を超えて(6本)圧延することになる。よって、14番目以降の圧延順eにコイル幅が1200[mm]以上の対象鋼材を割り当てることができず、コフィン制約に違反する。
【0040】
つまり、コフィン制約は、「幅区分kにおいて、コイル幅wk[mm]以上の対象鋼材の数をqkとし、コイル幅wk[mm]以上の対象鋼材を圧延するまでに圧延可能なコイル幅wk未満の対象鋼材の数をpkとし、コイル幅wk[mm]以上の対象鋼材の鋼材番号をiwとすれば、鋼材番号iwの対象鋼材は、圧延順ew(=qk+pk)以内に圧延されなければならない。」と表現できる。
従って、コフィン制約を表す制約式は、以下の(3)式のように、組み込み位置制約を表す組み込み位置制約式として表現することができる。
【0041】
【0042】
(3)式では、コイル幅w
k未満の対象鋼材を、コイル幅w
k以上の対象鋼材を圧延するまでに圧延可能なコイル幅w
k未満の対象鋼材の数p
k(=規定数p)を超えて圧延した後に、当該コイル幅w
k以上のコイル幅wの対象鋼材を圧延することができないこと(即ち、コフィン制約)を、コイル幅wがw
k以上の対象鋼材を割り当てることができる圧延順eの範囲として表している。このことを、
図5を参照しながら、説明する。
【0043】
図5は、コフィン制約の一例を説明する図である。
図5(a)は、
図5(b)に示す対象鋼材の内容を表形式で示す図である。
図5(b)は、鋼材を圧延順に並べて示す図である。
図5(a)において、幅区分は、
図4に示した幅区分と同じである。表示態様は、各幅区分に属する対象鋼材の
図5(b)における表示態様を示す。
区分内数は、各幅区分に属する対象鋼材の数を示す。
幅区分6は、コイル幅wが1200[mm]以上の対象鋼材である。従って、
図5(a)において、幅区分6に対する区分内数が5であることは、コイル幅wが1200[mm]以上の対象鋼材が5であることを示す。また、幅区分5は、コイル幅wが1100[mm]以上1200[mm]未満の対象鋼材である。従って、幅区分5に対する区分内数が8であることは、コイル幅wが1100[mm]以上1200[mm]未満の対象鋼材の数が8であることを示す。
【0044】
同様に、
図5(a)では、コイル幅wが1000[mm]以上1100[mm]未満の対象鋼材の数、コイル幅wが900[mm]以上1000[mm]未満の対象鋼材の数、コイル幅wが800[mm]以上900[mm]未満の対象鋼材の数、コイル幅wが700[mm]以上800[mm]未満の対象鋼材の数が、それぞれ、4、5、5、9であることを示す。
【0045】
区分以上累積数は、各幅区分で定められるコイル幅wの下限値よりもコイル幅が大きい対象鋼材の数を示す。
幅区分6で定められるコイル幅よりも大きいコイル幅wを定める幅区分は存在しない。従って、幅区分6における区分以上累積数は、幅区分6における区分内数と同じになり、5となる。また、幅区分5で定められるコイル幅よりも大きいコイル幅wを定める幅区分は、幅区分6である。従って、幅区分5における区分以上累積数は、幅区分5における区分内数と、幅区分6における区分内数との和になり、13(8+5)となる。同様に、幅区分4、3、2、1における区分以上累積数は、それぞれ、17(=4+8+5)、22(=5+4+8+5)、27(=5+5+4+8+5)、36(=9+5+5+4+8+5)となる。
【0046】
ここで、
図4に示したのと同様に、全ての幅区分1~6における規制数pを5(幅区分k=1~6の全てについてp
k=5)とする。
この場合、
図5(b)に示すように、幅区分6(コイル幅wが1200[mm]以上の対象鋼材)の圧延順eは、10番目以内でなければならない。(3)式の説明において、「幅区分6において、コイル幅w
6[mm]以上の対象鋼材の数q
6は5、コイル幅w
6[mm]以上の対象鋼材を圧延するまでに圧延可能なコイル幅w
6未満の対象鋼材の数p
6は5であるので、コイル幅w
6[mm]以上の対象鋼材の鋼材番号をi
wとすれば、鋼材番号i
wの対象鋼材は、圧延順e
w(=q
6+p
6=5+5=10)以内に圧延されねばならない」からである。
【0047】
また、
図5(b)に示すように、幅区分5で定められているコイル幅wの下限値以上のコイル幅wの対象鋼材(コイル幅wが1100[mm]以上の対象鋼材)の圧延順eは、18番目以内でなければならない。(3)式の説明において、「幅区分5において、コイル幅w
5[mm]以上の対象鋼材の数q
5は13(=8+5)、コイル幅w
5[mm]以上の対象鋼材を圧延するまでに圧延可能なコイル幅w
5未満の対象鋼材の数をp
5は5であるので、コイル幅w
5[mm]以上の対象鋼材の鋼材番号をi
wとすれば、鋼材番号i
wの対象鋼材は、圧延順e
w(=q
5+p
5=13+5=18)以内に圧延されねばならない」からである。
【0048】
以下、同様に、
図5(b)に示すように、幅区分4、3、2、1で定められているコイル幅wの下限値以上のコイル幅wの対象鋼材(コイル幅wが1000[mm]以上、900[mm]以上、800[mm]以上、700[mm]以上の対象鋼材)の圧延順eは、それぞれ、22、27、32、41番目以内でなければならない。
【0049】
以上のことから、
図5(b)に示す圧延順では、幅区分6(コイル幅wが1200[mm]以上)の対象鋼材501と、幅区分5(コイル幅wが1100[mm]以上1200[mm]未満)の対象鋼材502とがコフィン制約((3)式)に違反することになる。(3)式の制約式を用いることにより、対象鋼材501、502のような、コフィン制約を違反するような圧延順eに割り当てられる対象鋼材が生じることを防止することができる。
【0050】
そして、
図5(b)に示すように、幅区分毎に、各幅区分に属する対象鋼材を割り当てることができる圧延順の範囲を限定することができる(幅区分1~6で示す範囲を参照)。即ち、前述したように(3)式は、コイル幅wがw
k以上の対象鋼材を割り当てることができる圧延順eの範囲を規定するものである。従って、実行可能な解空間である探索範囲を限定し、実行可能解を高速に求解することができる。
【0051】
<<幅・厚移行制約>>
2つの対象鋼材のペアのうち、コイル幅移行規制情報およびコイル厚移行規制情報の少なくとも何れか一方に違反する対象鋼材のペア(i,j)の集合をFとする。(i,j)は、先に圧延される対象鋼材の鋼材番号がi、その直後に圧延される対象鋼材の鋼材番号がjであることを示す。従って、同じ鋼材番号の2つの対象鋼材のペア(i,j)であっても、圧延順の前後が入れ替わると、異なるペア(値)として扱われる。例えば、鋼材番号1、2の対象鋼材について、鋼材番号1の対象鋼材の次に鋼材番号2の対象鋼材を圧延すると、コイル幅移行規制情報に違反する場合、集合Fには(1,2)が含まれる。また、例えば、鋼材番号2の対象鋼材の次に鋼材番号1の対象鋼材を圧延すると、コイル厚移行規制情報に違反する場合、集合Fには(2,1)が含まれる。尚、集合Fには、2つの対象鋼材のペア(i,j)として同じ値が重複して含まれることはない。例えば、鋼材番号1、2の対象鋼材について、鋼材番号1の対象鋼材の次に鋼材番号2の対象鋼材を圧延すると、コイル幅移行規制情報にもコイル厚移行規制情報にも違反する場合であっても、集合Fには(1,2)が1つだけ含まれる(ただし、前述したように、(1,2)と(2,1)は異なる要素として集合Fに含められる)。
【0052】
この集合Fを用いて、対象鋼材iの直後に圧延することができない対象鋼材の集合suc(i)と、対象鋼材jの直前に圧延することができない対象鋼材の集合pre(j)を、それぞれ、以下の(4)式、(5)式のように定義する。これらの集合suc(i)、pre(j)を用いることにより、寸法移行規制制約式の一例として、コイル幅移行規制情報およびコイル厚移行規制情報の少なくとも何れか一方に違反することを禁止することを示す幅・厚移行規制制約式を、以下の(6)式および(7)式のように表すことができる。
【0053】
【0054】
図6は、幅・厚移行規制制約式の一例を説明する図である。
図6(a)は、(6)式を概念的に説明する図であり、
図6(b)は、(7)式を概念的に説明する図である。
(6)式は、鋼材番号iの対象鋼材が、圧延順eに割り当てられること((6)式の左辺第1項が1になること)と、鋼材番号iの対象鋼材が、圧延順eに割り当てられた場合に、コイル幅移行規制情報およびコイル厚移行規制情報の少なくとも1つの規制によって、当該対象鋼材の処理順eよりも1つ後の圧延順e+1に割り当てることができない対象鋼材の集合suc(i)の何れかが、当該圧延順e+1に割り当てられること((6)式の左辺第2項が1になること)とが両立しないことを1つの不等式で示す。
図6(a)では、圧延順eに鋼材番号iが割り当てられることと、圧延順e+1に集合suc(i)に含まれる鋼材番号jの対象鋼材が割り当てられることとが両立しないことを、矢印線の上に付す×により表す。
【0055】
(7)式は、鋼材番号jの対象鋼材が、圧延順e+1に割り当てられること((7)式の左辺第2項の値が1になること)と、鋼材番号jの対象鋼材が、圧延順e+1に割り当てられた場合に、コイル幅移行規制情報およびコイル厚移行規制情報の少なくとも1つの規制によって、当該対象鋼材の圧延順e+1よりも1つ前の圧延順eに割り当てることができない対象鋼材の集合pre(j)の何れかが、当該圧延順eに割り当てられること((7)式の左辺第1項の値が1になること)とが両立しないことを1つの不等式で示す。
図6(b)では、鋼材番号jの対象鋼材が、圧延順e+1に割り当てられることと、圧延順eに集合pre(j)に含まれる鋼材番号iの対象鋼材が割り当てられることとが両立しないことを、矢印線の上に付す×により表す。
【0056】
特許文献1に記載の技術では、以下の(8)式のようにして、幅・厚移行規制制約式を表している(特許文献1において、(12)式、(13)式を(3)式に与えたものが、以下の(8)式に対応する)。
【0057】
【0058】
(8)式は、
図6(a)および
図6(b)において、矢印線の上に付した×のそれぞれを別個に1つの制約式として表現する。即ち、特許文献1に記載の技術では、suc(i)×pre(j)個の制約式が必要である。これに対し、(6)式、(7)式は、それぞれ、
図6(a)、
図6(b)の一点鎖線で示す範囲をまとめて1つの制約式で表現する。従って、特許文献1に記載の技術では、制約式の数が、鋼材数nの3乗のオーダーとなるが、本方法ではnの2乗のオーダーに削減することができる。これと共に、(8)式の左辺の項数は2であるのに対し、(6)式、(7)式の左辺の項数はそれぞれsuc(i)+1、pre(j)+1になる。そのため、(6)式および(7)式は、(8)式に比べ強い制約となる。このように、制約式の数を削減することと、強い制約を課すこととにより、実行可能解を高速に求解することができる。
【0059】
<<炉内温度移行制約>>
鋼材番号iの対象鋼材(スラブ)に対し、抽出温度移行規制情報に違反する対象鋼材の集合sep(i)を、以下の(9)式のように定義する。前述したように抽出温度移行規制情報は、或る対象鋼材(スラブ)の抽出温度許容範囲と、当該対象鋼材(スラブ)と同一の加熱炉12a~12cにおいて近傍に配置される対象鋼材(以下では、例えば、隣接する前後3つの対象鋼材とする)の抽出温度許容範囲と、の重複範囲が所定温度(例えば、20℃)以上である必要があることを示す情報である。
【0060】
【0061】
尚、同一の加熱炉12a~12c内の2つの対象鋼材について、抽出温度移行規制情報に違反するか否かは、何れの対象鋼材を先にするかによって変わることはない。
前述したように本実施形態では、抽出炉順情報により、対象鋼材(スラブ)を抽出する加熱炉12a~12cの順番(抽出炉順)が予め決められている。また、複数の加熱炉12a~12c全体で見た場合の抽出順と圧延順とは同じとなる。このような前提の下では、抽出温度移行規制情報の説明における「或る対象鋼材(スラブ)」と「前後3つの対象鋼材(スラブ)」を、圧延順により特定することができる。
【0062】
例えば、1号炉である加熱炉12aにおいては、当該加熱炉12aから抽出される順が早い対象鋼材(スラブ)から順に、複数の加熱炉12a~12c全体で見た場合の抽出順(即ち、圧延順)が(1,7,10,14,17,21,24,28,31・・・)であるとする。同様に、2号炉である加熱炉12b、3号炉である加熱炉12cにおいては、それぞれ、(4,8,12,15,19,22,26,29,33・・・)、(2,3,5,6,9,11,13,16,18,20,23,25,27,30,32・・・)であるとする。
【0063】
圧延順eの対象鋼材(スラブ)に対する「前後3つの対象鋼材(スラブ)」の集合をneb(e)とすると、例えば、圧延順が17、19、20の対象鋼材(スラブ)に対する前後3つの対象鋼材(スラブ)の集合neb(17)、neb(19)、neb(20)は、それぞれ、neb(17)={7,10,14,21,24,28}、neb(19)={8,12,15,22,26,29]、neb(20)={13,16,18,23,25,27}のように定義される。
【0064】
以上の集合sep(i)、neb(e)を用いることにより、品質移行規制制約式の一例として、抽出温度移行規制情報に違反することを禁止する炉内温度移行規制制約式を、以下の(10)式のように表すことができる。
【0065】
【0066】
図7は、炉内温度移行規制制約式の一例を説明する図である。
(10)式は、鋼材番号iの対象鋼材(スラブ)が圧延順eに割り当てられたとした場合に、抽出温度移行規制情報によって、当該対象鋼材(スラブ)が装入される加熱炉12a、12bまたは12cと同一の加熱炉において当該対象鋼材(スラブ)と隣接する前後3つの範囲内に配置することができない鋼材番号i
sの対象鋼材(スラブ)の集合sep(i)の何れかが、当該圧延順eに割り当てられること((10)式の左辺第2項が1になること)と、鋼材番号iの対象鋼材(スラブ)が、当該圧延順eの例えば前後3つの範囲内に対応する圧延順e
nの集合neb(e)の何れかに割り当てられること((10)式の左辺第1項が1になること)とが両立しないことを、1つの不等式で示す。
【0067】
図7では、同一の加熱炉において、鋼材番号iの対象鋼材(スラブ)に対し、抽出温度移行規制情報に違反する鋼材番号i
s1~i
snの対象鋼材の集合sep(i)が圧延順eに割り当てられることと、鋼材番号iの対象鋼材(スラブ)が、当該加熱炉において、鋼材番号iの対象鋼材(スラブ)の前後3つの範囲内に対応する圧延順e
n1~e
n6の集合neb(e)に割り当てられることとが両立しないことを、矢印線の上に付す×により表す。
【0068】
特許文献1に記載の技術では、以下の(11)式のようにして、炉内温度移行規制制約式を表している(特許文献1において、(14)式を(6)式に与えたものが、以下の(11)式に対応する)。
【0069】
【0070】
(11)式は、
図7において、矢印線の上に付した×のそれぞれを別個に1つの制約式として表現する。即ち、特許文献1に記載の技術では、neb(e)×sep(i)個の制約式が必要である。これに対し、(10)式では、
図7の一点鎖線で示す範囲をまとめて1つの制約式で表現する。従って、特許文献1に記載の技術に比べ、制約式の数を、1/(neb(e)×sep(i))倍に削減することができる。これと共に、(11)式の左辺の項数は2であるのに対し、(10)式の左辺の項数はneb(e)+sep(i)になる。そのため、(10)式は、(11)式に比べ強い制約となる。このように、制約式の数を削減することと、強い制約を課すこととにより、実行可能解を高速に求解することができる。
【0071】
制約式設定部120は、例えば、鋼材情報に基づいて、集合F、suc(i)、pre(j)、sep(i)、neb(e)を導出する。また、制約式設定部120は、例えば、鋼材情報と規制数の情報とに基づいて、各鋼材番号iwの対象鋼材に対する圧延順ew(=qk+pk)を導出する。そして、制約式設定部120は、例えば、(1)式、(1')式、(2)式、(3)式、(6)式、(7)式、および(10)式において、既知の変数を設定することにより、各制約式を設定する。ここで、制約式設定部120は、(1)式および(2)式に対し、鋼材番号iとして、仮想材の鋼材番号mを設定する。本実施形態では、仮想材の数の初期値は0である。この場合、(1)式ではなく(1')式が用いられる。後述するように、最適解有無判定部150により、実行可能解が得られないと判定されると、仮想材の数が1つ増やされる。仮想材の数が1以上になると、(1')式ではなく(1)式が用いられる。このように、本実施形態では、(1)式および(1')式の一方が使用される場合には他方は使用されず、他方が使用される場合には一方は使用されない。
【0072】
<目的関数設定部130>
目的関数は、決定変数x[i][e]に基づく圧延順eの望ましさの程度を示す評価指標の値を導出するものであり、その値は、決定変数x[i][e]に基づく圧延順に応じて定まる。圧延順の望ましさの程度は、どのような観点から評価してもよい。
【0073】
本実施形態では、圧延順で連続する複数の対象鋼材の寸法の関係の望ましさの程度を表す目的関数(評価関数)を用いる。具体的には、以下の(12)式の目的関数Jを用いる。
【0074】
【0075】
sort(i)は、対象鋼材(鋼材番号i)を、コイル幅が大きなものから降順に並び替えた場合の、並び替え後の対象鋼材(鋼材番号i)の並び順である。尚、前述したように、本実施形態では、コフィンスケジュールのウォームアップ部分がある場合、当該ウォームアップ部分の圧延順は既に定まっており、コフィンスケジュールのウォームアップ部分以降の圧延順を導出するものとする。尚、(12)式は、特許文献1に示される幅移行目的関数に対応する。
【0076】
目的関数設定部130は、例えば、鋼材情報に含まれる全ての対象鋼材(鋼材番号i)を、コイル幅が大きなものから降順に並び替え、並び替えた後の対象鋼材(鋼材番号i)の並び順sort(i)を導出する。そして、目的関数設定部130は、(12)式において、既知の変数を設定することにより、目的関数を設定する。
【0077】
尚、目的関数は、(12)式に限定されない。例えば、(12)式に代えてまたは加えて、特許文献1に記載の厚み移行目的関数を、圧延順で連続する複数の対象鋼材の寸法の関係の望ましさの程度を表す目的関数(評価関数)として用いてもよい。尚、厚み移行目的関数は、例えば、圧延順が相互に隣接する2つの対象鋼材(コイル)のコイル厚のうち、相対的に厚い方のコイル厚を、相対的に薄い方のコイル厚で除した値の総和ができるだけ小さくなることを目的とする目的関数(評価関数)である。
【0078】
また、これらの目的関数に代えてまたは加えて、圧延順で連続する複数の対象鋼材の品質の関係の望ましさの程度を表す目的関数(評価関数)として用いてもよい。このような目的関数として、例えば、特許文献1に記載の炉内温度移行目的関数を用いることができる。炉内温度移行目的関数は、同一の加熱炉12a、12b、12c内で近接する対象鋼材(スラブ)の抽出目標温度の差の絶対値の総和ができるだけ小さくなることを目的とする目的関数(評価関数)である。
複数の目的関数を用いる場合、それらの目的関数の重み付き和(重み付き線形和)を、(12)式の目的関数Jの代わりに用いる。この場合、目的関数設定部130は、各目的関数の値に対して乗算される重み係数を設定する。
【0079】
<最適解計算部140>
最適解計算部140は、制約式設定部120で設定された、圧延順割当制約式((1)式または(1')式)、鋼材割当制約式((2)式)、組み込み位置制約式((3)式)、幅・厚移行規制制約式((6)式、(7)式)、および炉内温度移行規制制約式((10)式)を制約条件とし、目的関数設定部130で設定された(12)式の目的関数Jを最小化する決定変数x[i][e]を決定する問題を解く。
本問題は、数理計画法の分野での代表的な問題である「1-0計画問題」として定式化されており、例えば、市販のsolver(例えばcplex)を用いて、決定変数x[i][e]の最適解決定変数x_opt[i][e]を算出することができる。よって、ここでは、その詳細な説明を省略する。
【0080】
<最適解有無判定部150>
最適解有無判定部150は、最適解計算部140により全ての制約を満たす実行可能解が導出されたか否かを判定する。最適解有無判定部150は、最適解計算部140の計算の結果、全ての制約を満たす実行可能な解がない場合に、最適解計算部140により実行可能解が導出されなかったと判定する。また、最適解有無判定部150は、所定の時間内に、最適解計算部140により全ての制約を満たす実行可能解が導出されなかった場合に、最適解計算部140により全ての制約を満たす実行可能解が導出されなかったと判定してもよい。
【0081】
<仮想材数設定部160>
仮想材数設定部160は、最適解有無判定部150により、全ての制約を満たす実行可能解が導出されなかったと判定されると、仮想材の数mの現在値に1を加算する。これにより、仮想材の数mの値が更新される。前述したように本実施形態では、仮想材の数mの値の初期値は0である。制約式設定部120は、仮想材数設定部160により、仮想材の数mの値が更新されると、(1)式および(2)式における集合M(={n+1,n+2,・・・,n+m})に対し、要素を1つ追加する(これにより、n+mの値が1増える)。そして、最適解計算部140は、このようにして変更された圧延順割当制約式((1)式)および鋼材割当制約式((2)式)と、組み込み位置制約式((3)式)、幅・厚移行規制制約式((6)式、(7)式)、および炉内温度移行規制制約式((10)式)とを制約条件とし、目的関数設定部130で設定された(12)式の目的関数Jを最小化する決定変数x[i][e]を決定する問題を解く。以上の仮想材数設定部160による仮想材の数mの値の更新と、最適解計算部140による計算は、最適解有無判定部150により、実行可能解が導出されたと判定されるまで繰り返し実行される。
【0082】
<候補材導出部170>
候補材導出部170は、最適解有無判定部150により、全ての制約を満たす実行可能解が導出されたと判定された場合であって、実行可能解の中に仮想材が含まれている場合に起動する。候補材導出部170は、実行可能解に含まれている仮想材と入れ替えることができる鋼材の候補を、非対象鋼材の中から抽出する。
【0083】
例えば、候補材導出部170は、非対象鋼材の属性情報(鋼材情報)と、実行可能解における仮想材の圧延順eの前後の対象鋼材の属性情報(鋼材情報)とに基づいて、非対象鋼材の中から、コイル幅移行規制情報およびコイル厚移行規制情報を満足する非対象鋼材を抽出する。そして、候補材導出部170は、このようにして抽出した非対象鋼材の属性情報(鋼材情報)と、当該仮想材と同一の加熱炉において隣接する前後3つの対象鋼材の(鋼材情報)とに基づいて、当該抽出した非対象鋼材の中から、抽出温度移行規制情報を満足する非対象鋼材を、当該仮想材と入れ替えることができる鋼材の候補として抽出する。
【0084】
候補材導出部170は、実行可能解に含まれている仮想材のそれぞれについて、当該仮想材と入れ替えることができる鋼材の候補を抽出する。尚、圧延順eが相互に隣接する複数の仮想材がある場合や、同一の加熱炉において相互に隣接する複数の仮想材がある場合、候補材導出部170は、当該複数の仮想材と入れ替えられる非対象鋼材のそれぞれが、コイル幅移行規制情報、コイル厚移行規制情報、および抽出温度移行規制情報を満足するように、当該仮想材と入れ替えることができる鋼材の候補を非対象鋼材の中から抽出する。
【0085】
<表示制御部180>
表示制御部180は、最適解計算部140で得られた実行可能解の情報を表示装置に表示させる。実行可能解の中に仮想材が含まれていない場合、表示制御部180は、例えば、値が1である決定変数x[i][e]の鋼材番号iと圧延順eを抽出し、抽出した鋼材番号iを圧延順eに並び替え、圧延順eと当該圧延順eの鋼材番号iとを、圧延順eが小さいものから順に表示する表示データを作成する。表示制御部180は、更に、各鋼材番号iの対象鋼材の(鋼材番号i以外の)属性情報を、鋼材番号iと共に表示する表示データを作成してもよい。
【0086】
実行可能解の中に仮想材が含まれている場合にも、表示制御部180は、例えば、圧延順eと当該圧延順eの鋼材番号iとを、圧延順eが小さいものから順に表示する表示データを作成する。
また、実行可能解の中に仮想材が含まれると、(1)式および(2)式より、何れの圧延順eにも割り当てられない対象鋼材が、仮想材の数mと同じ数だけ存在することになる。そこで、表示制御部180は、更に、何れの圧延順eにも割り当てられない対象鋼材の属性情報を表示する表示データを作成してもよい。
【0087】
表示制御部180は、更に、各鋼材番号iの対象鋼材の(鋼材番号i以外の)属性情報を、鋼材番号iと共に表示する表示データを作成してもよい。尚、仮想材に対応する鋼材番号iについては、鋼材番号i以外に属性情報はないので、鋼材番号iと共に表示する(鋼材番号i以外の)属性情報は表示されない。更に、表示制御部180は、仮想材と入れ替えることができる鋼材の候補(非対象鋼材)の属性情報と、当該候補の入れ替え対象の仮想材を示す情報とを表示する表示データを作成してもよい。このようにすれば、オペレータは、熱延スケジュールに含めるべき鋼材を、非対象鋼材の中から容易に選択することができる。また、表示制御部180は、仮想材と入れ替えることができる鋼材の候補(非対象鋼材)の属性情報に代えてまたは加えて仮想材と入れ替えることができる鋼材の属性の範囲を示す情報を表示する表示データを作成してもよい。
【0088】
<動作フローチャート>
次に、
図8のフローチャートを参照しながら、熱延スケジュール作成装置100を用いて実行される熱延スケジュール作成方法の一例を説明する。
尚、
図8のフローチャートの説明では、圧延順eと、当該圧延順eの対象鋼材・仮想材の属性情報(鋼材番号iを含む属性情報)とを示す情報を、熱延スケジュールと称する。また、仮想材と入れ替えることができる鋼材の候補(非対象鋼材)の属性情報と、当該候補の入れ替え対象の仮想材を示す情報を、必要に応じて、候補材情報と称する。
【0089】
ステップS801において、仮想材数設定部160は、仮想材の数mを初期値(=0)に設定する。
次に、ステップS802において、目的関数設定部130は、目的関数J((12)式)を設定する。
次に、ステップS803において、制約式設定部120は、組み込み位置制約式((3)式)を設定する。
【0090】
次に、ステップS804において、制約式設定部120は、幅・厚移行規制制約式((4)式~(7)式)を設定する。
次に、ステップS805において、制約式設定部120は、炉内温度移行規制制約式((9)式~(10)式)を設定する。
【0091】
次に、ステップS806において、制約式設定部120は、圧延順割当制約式((1)式または(1')式)と鋼材割当制約式((2)式)とを設定する。仮想材の数mが初期値(=0)である場合、制約式設定部120は、圧延順割当制約式として(1')式を設定する。仮想材の数mが初期値でない場合、制約式設定部120は、圧延順割当制約式として(1)式を設定する。
次に、ステップS807において、最適解計算部140は、ステップS803~S806で設定された制約式を満足する範囲で、ステップS802で設定された目的関数Jの値を最小にする決定変数x[i][e]を決定する問題を解く。
【0092】
ステップS808において、最適解有無判定部150は、ステップS807で全ての制約を満たす実行可能解が導出されたか否かを判定する。この判定の結果、全ての制約を満たす実行可能解が導出されなかった場合(ステップS808でNOと判定された場合)、処理は、ステップS809に進む。ステップS809において、仮想材数設定部160は、仮想材の数mの値に1を加算して、仮想材の数mの値を更新する。そして、処理は、ステップS806に戻り、制約式設定部120は、ステップS809で更新された仮想材の数mに従って、圧延順割当制約式((1)式)と鋼材割当制約式((2)式)とを設定する。そして、ステップS807において、最適解計算部140は、ステップS803~S805で設定された制約式と、ステップS806で設定し直された制約式とを満足する範囲で、ステップS802で設定された目的関数Jの値を最小にする決定変数x[i][e]を決定する問題を解く。
【0093】
以上のステップS806~S809の処理は、ステップS808において、実行可能解が導出されたと判定されるまで繰り返し実行される。そして、ステップS808において、全ての制約を満たす実行可能解が導出されたと判定されると(ステップS808でYESと判定されると)、処理は、ステップS810に進む。
ステップS810において、表示制御部180は、実行可能解の中に仮想材が含まれているか否かを判定する。この判定の結果、実行可能解の中に仮想材が含まれている場合(ステップS810でYESと判定された場合)、処理は、ステップS811に進む。
【0094】
ステップS811において、候補材導出部170は、実行可能解に含まれている仮想材と入れ替えることができる鋼材の候補を、非対象鋼材の中から抽出する。
次に、ステップS812において、表示制御部180は、実行可能解に基づいて熱延スケジュールを作成すると共に、仮想材と入れ替えることができる鋼材の候補の属性情報に基づいて候補材情報を作成する。そして、表示制御部180は、熱延スケジュール、候補材情報、および何れの圧延順eにも割り当てられない対象鋼材の属性情報の表示データを作成して表示装置に出力する。表示装置は、当該表示データに基づく情報を表示する。熱延スケジュール、候補材情報、および何れの圧延順eにも割り当てられない対象鋼材の属性情報は、一画面に表示されるようにすることができる。また、熱延スケジュールにおいて仮想材を示す領域がユーザにより指定されると、当該仮想材に対応する候補材情報が熱延スケジュールとは別の表示領域に表示されるようにしてもよい。
【0095】
ステップS810において、実行可能解の中に仮想材が含まれていないと判定された場合(ステップS810でNOと判定された場合)、処理は、ステップS813に進む。ステップS813に進むと、表示制御部180は、実行可能解に基づいて熱延スケジュールを作成する。そして、表示制御部180は、熱延スケジュールの表示データを作成して表示装置に出力する。表示装置は、当該表示データに基づく情報を表示する。尚、ステップS813に進む場合には、候補材情報は存在しないので、熱延スケジュールのみが表示装置で表示される。
【0096】
<計算例>
本実施形態の手法と特許文献1に記載の手法とのそれぞれにより、同一の対象鋼材群に対する熱延スケジュールを作成することを試みた。
<<第1の例>>
まず、二種類の対象鋼材群(第1の対象鋼材群および第2の対象鋼材群)について熱延スケジュールを作成することを試みた結果を示す。特許文献1に記載の手法では、何れの対象鋼材群に対しても実行可能解が得られなかった。一方、本実施形態の手法では、何れの対象鋼材群に対しても実行可能解が得られた。
【0097】
図9-1および
図9-2は、本実施形態の手法により得られた、第1の対象鋼材群に対する熱延スケジュール(以下、必要に応じて第1の計算例と称する)を示す図である。
図10は、
図9-1および
図9-2に示す熱延スケジュールに取り込まれなかった対象鋼材を示す図である。
図11-1および
図11-2は、本実施形態の手法により得られた、第2の対象鋼材群に対する熱延スケジュール(以下、必要に応じて第2の計算例と称する)を示す図である。
図12は、
図11-1および
図11-2に示す熱延スケジュールに取り込まれなかった対象鋼材を示す図である。
【0098】
図9-1、
図9-2、
図11-1、および
図11-2において、炉号は、加熱炉12a~12cを特定する情報であり、炉号が、1、2、3であることは、それぞれ、1号炉である加熱炉12a、2号炉である加熱炉12b、3号炉である加熱炉12cを通過することを示す。
図9-1~
図12において、幅は、コイル幅を示し、厚は、コイル厚を示し、抽出温度は、抽出目標温度を示す。また、
図9-1、
図9-2、
図11-1、および
図11-2において、固定・未定は、圧延順が予め定められているか否かを示すものである。未定部は、圧延順が予め定められていないことを示し、固定部は、圧延順が予め定められていることを示す(即ち、熱延スケジュールの作成に際しては、未定部の圧延順を導出し、固定部の圧延順は導出しない)。また、鋼材番号999999は、仮想材を表す。
【0099】
図9-1~
図10および
図11-1~
図12に示すように、本実施形態の手法では、必要最小数の仮想材が適切な圧延順に割り当てられた解が得られる。すると、仮想材が割り当てられた圧延順に割り当てるべき鋼材の幅、厚、抽出目標温度などの属性が、仮想材の前後に割り当てられた対象鋼材の属性より、明らかとなる。従って、明らかとなった当該圧延順に割り当てるべき鋼材の属性の範囲を表示することにより、その圧延順に割り当てるべき鋼材をヤード等から探す際の有効な情報として与えることができる。
【0100】
図9-1および
図9-2に示す第1の計算例において、熱延スケジュールに取り込まれなかった対象鋼材(鋼材番号32)は、幅・厚移行制約の観点では、仮想材が挿入されている圧延順43に割り当てることは可能だが、1号炉の炉内温度移行制約の観点で、圧延順43に割り当てることが難しかったと推察される。尚、前述したように、炉内温度移行制約は、圧延順ではなく同一の加熱炉12a~~12cにおいて隣接する前後3つの対象鋼材(スラブ)の抽出温度許容範囲と、の重複範囲を定めるものである。
【0101】
一方、
図11-1および
図11-2に示す第2の計算例では、圧延順16と96に仮想材が挿入されている。
図12に示すように、熱延スケジュールに取り込まれなかった対象鋼材(鋼材番号75、414)はいずれも広幅材であることから、圧延順16の仮想材は、固定部と接続可能な対象鋼材がないことによるものと考えられる。 また、圧延順96の仮想材は、幅移行制約を満足する対象鋼材が見当たらなかったことによると考えられる。
以上のように、熱延スケジュールに取り込まれなかった対象鋼材の属性情報と、仮想材と圧延順で前後する対象鋼材の属性情報と、仮想材と同一の加熱炉内で近接する対象材の属性情報とにより、対象鋼材が熱延スケジュールに取り込まれなかった理由を推測することができる。
【0102】
以上のように本実施形態では、幅・厚移行制約、炉内温度移行制約が指定された対象鋼材だけでは、当該対象鋼材を圧延順に並べた場合にうまくつながらない場合、 そのような場所に仮想材を挿入することができる。従って、熱延スケジュールを作成する上でどのような鋼材が足りないかを自動的に示すことが可能になる。
【0103】
<<第2の例>>
次に、32種類の対象鋼材群のそれぞれにおける計算時間を調査した結果を示す。
図13は、本実施形態の手法と特許文献1に記載の手法の計算時間を比較して表形式で示す図である。
図13において、DataIDは、対象鋼材群の識別情報である。鋼材数は、対象鋼材の数である。幅・厚移行禁止数は、コイル幅移行規制情報およびコイル厚移行規制情報の少なくとも何れか一方に違反する対象鋼材のペア(i,j)の集合Fの数である。温度移行禁止数は、抽出温度移行規制情報に違反する対象鋼材のペア(i,j)の集合の数である。
【0104】
前述したように、コイル幅移行規制情報およびコイル厚移行規制情報の少なくとも何れか一方に違反する対象鋼材のペア(i,j)は、圧延順の前後が入れ替わると、異なるペア(値)として扱われる(例えば、(1,2)と(2,1)は、別のペアとして2つのペアとしてカウントされる)。一方、抽出温度移行規制情報に違反する対象鋼材のペア(i,j)は、圧延順の前後が入れ替わっても、異なるペアとして扱われず、同じペアとして扱われる(例えば、(1,2)と(2,1)は、同じペアであり、1つのペアとしてカウントされる)。
【0105】
仮想材数は、仮想材の数である。計算時間は、本実施形態の手法による計算時間を示す。計算時間(比較例)は、特許文献1に記載の手法による計算時間を示す。ここでは、計算時間が1時間になっても実行可能解が得られない場合、計算を打ち切った。「1時間超」は、このことを示す。「求解できず」は、実行可能解がなかったこと(実行可能解がないという結果になったこと)を示す。
【0106】
図13に示すように、対象鋼材が100本程度ある場合には、特許文献1に記載の手法では、1時間計算しても、実行可能解を得ることもできなかった。
これに対し、本実施形態の手法では、対象鋼材の数が100本程度であっても、平均25.8秒で最適解(熱延スケジュール)を算出できることが分かる。
【0107】
<まとめ>
以上のように、熱延スケジュールを作成するに際し、例えば、圧延制約(幅・厚移行制約)と加熱制約(炉内温度移行制約)との両立が必要となる場合、全ての対象鋼材を熱延スケジュールに組み込もうとすると、全ての制約を満たすことができず求解不能となり、解が得られないケースが少なからずある。
また、熱延スケジュールを作成する場合には、対象鋼材の数が100以上となるため、対象鋼材を圧延順に割り当てる割り当て問題としても0-1変数の数が一万を超え、制約式の数も数百万を超える。従って、厳密な最適解を得ることが難しく、従来技術では、ヒューリスティックな手法で準最適解を求めるか、厳密解法を適用する場合にも、一度に全ての圧延順を決定することができないので、問題を分割して求解せざるを得ず、真の最適解でなく、分割最適解を組み合わせた準最適解しか得ることができない。
【0108】
この課題に対し、本実施形態によれば、指定された対象鋼材に対し、制約を満たす解がない場合にも、制約を満たすために必要となる鋼材の性状が分かるように、制約を満たすために必要な圧延順に仮想材を挿入したスケジュールを作成することができ、なおかつ、それを極めて短時間に計算することができる。
【0109】
即ち、本実施形態では、熱延スケジュール作成装置100は、幅・厚移行制約および炉内温度移行制約を満足する範囲で、目的関数Jの値を最小にする決定変数x[i][e]を導出する計算を行った結果、実行可能解が得られない場合、熱延スケジュールを作成するに際して課せられる制約がない仮想材を、対象鋼材に含めて、計算をし直す。従って、熱延スケジュールを作成するに際し、全ての制約式を満足する実行可能解が得られないことを回避することができる。また、仮想材の数mの初期値を0とし、実行可能解が得られない度に、仮想材の数mを1つずつ増やすので、仮想材の数mが必要以上に多くなることを抑制することができる。これにより、対象鋼材のみからなる熱延スケジュールに可及的に近い熱延スケジュールを作成することができる。また、オペレータは、仮想材の圧延順に割り当てることができる鋼材の属性を把握することができる。このとき、仮想材の圧延順に割り当てることができる鋼材の属性に関する情報を表示することにより、オペレータは、ヤードにある非対象鋼材の中から、熱延スケジュールに組み込むべき非対象鋼材を容易に選択することができる。
【0110】
また、本実施形態では、コイル幅wがwk以上の対象鋼材を割り当てることができる圧延順eの範囲を規定するロール摩耗制約を制約式に含めるので、実行可能な空間である探索範囲を限定し、実行可能解を高速に求解することができる。
また、本実施形態では、(6)式および(7)式に示すように、幅・厚移行制約を特許文献1に記載のものよりも強い制約とする。また、本実施形態では、(10)式に示すように、炉内温度移行制約を特許文献1に記載のものよりも強い制約とする。以上のような強い制約を課すことで、実行可能解を高速に求解することができる。また、制約式の数を減らすことも、実行可能解を高速に求解することに寄与する。
【0111】
<変形例>
<<第1の変形例>>
本実施形態では、仮想材を用いる場合、何れの圧延順eにも割り当てられない対象鋼材が存在することを許容する場合を例に挙げて説明した((1)式を参照)。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、全ての対象材と仮想材とが熱延スケジュールに含まれるように決定変数x[i][e]を導出してもよい。このようにする場合、例えば、(1)式のおける積算の範囲を、e=1~nから、e=1~n+mに変更し、(1)式における不等号(≦)を等号にすればよい。また、このようにする場合、(1')式は不要になる。
【0112】
<<第2の変形例>>
本実施形態では、組み込み位置制約として、コイル幅wがwk以上の対象鋼材を割り当てることができる圧延順eの範囲として規定する場合を例に挙げて説明した((3)式を参照)。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。組み込み位置制約として、コイル幅wがwk以上の対象鋼材を割り当てることができない圧延順eの範囲を規定してもよい。このようにする場合、例えば、(3)式における積算の範囲をe≦ewからe>ewに変更し、(3)式の右辺における1を0にすればよい。
【0113】
<<第3の変形例>>
本実施形態のように、仮想材の数mの初期値を0とし、実行可能解が得られない度に、仮想材の数mを1つずつ増やすようにすれば、仮想材の数mが必要以上に多くなることを抑制することができるので好ましい。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、仮想材の数mを評価する項を目的関数に含めるようにしてもよい。例えば、(12)式の目的関数の右辺に「+k・m」を追加することができる。尚、kは、重み係数であり、各評価指標(Σ|sort(i)-e|・x[i][e]、m)のバランスをとるためのものである。重み係数kにより、各評価指標の相対的な重みを決定することができる。例えば、Σ|sort(i)-e|・x[i][e]に対しmが重要な評価指標であるほど、重み係数kの値を大きくする。また、各評価指標(Σ|sort(i)-e|・x[i][e]、m)のそれぞれに対して重み係数を乗算したものの和を目的関数としてもよい。
【0114】
<<第4の変形例>>
本実施形態では、目的関数Jの値を最小化する問題を、数理計画法を用いて解く場合を例に挙げて説明した。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、目的関数Jの値を最大化する問題としてもよい。このようにする場合、例えば、(12)式の右辺に-1を乗算したものを目的関数とすることができる。また、数理計画法を用いずに、遺伝的アルゴリズム等のメタヒューリスティックな手法を用いてもよい。
【0115】
<<第5の変形例>>
本実施形態では、熱延スケジュールを作成する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、複数の対象材を順番に処理する際の処理順に関する制約等、複数の対象材を順番に処理する際に課せられる制約の下で、複数の対象材の処理順を表す処理順序スケジュールを作成するのであれば、目的関数や制約式の具体的な内容を対象材に応じて変更することにより、どのようなスケジュールを作成する際にも、前述した手法を適用することができる。
【0116】
例えば、厚板の圧延スケジュール、連続鋳造のキャスト編成、冷延の連続焼鈍(CAPL)通板スケジュール等にも、前述した手法を適用することができる。
厚板の圧延に際して使用する加熱炉の数は「1」である。よって、圧延順は、この加熱炉からの抽出順と同じになる。また、コイル幅移行規制情報、コイル厚移行規制情報に対応する鋼板幅移行規制情報、鋼板厚移行規制情報や、抽出温度移行規制情報、コフィン制約等の具体的な内容が熱延スケジュールを作成する場合と異なるが、その他については、熱延スケジュールを作成する場合と同様になる。尚、このようにする場合、対象材は、厚板材になる。
【0117】
キャスト編成および連続焼鈍(CAPL)通板スケジュールを作成する場合には、品質移行規制情報に、材質移行規制情報が含まれるようにする。このようにする場合には、例えば、鋼材情報に、材質を分類する材質分類情報を含める。そして、この材質分類情報に基づいて、相互に隣り合う処理順の対象材において、先に処理される対象材と後に処理される対象材の材質との相違を規制する制約式を設定する。この制約式は、例えば、(6)式~(8)で表される幅・厚移行規制制約式と同じような形にすることができる。幅・厚移行規制制約式、炉内温度移行規制制約式、および目的関数については、対象材や設備等の違いに応じて、前述したものを多少変形させることにより実現できる。尚、このようにする場合、対象材は、例えば、チャージや冷延板になる。また、キャスト編成を作成する場合には、炉内温度移行規制制約式は不要となる。また、キャスト編成および連続焼鈍(CAPL)通板スケジュールを作成する際には、組み込み位置制約は不要となる。
【0118】
<<その他の変形例>>
尚、以上説明した本発明の実施形態は、コンピュータがプログラムを実行することによって実現することができる。また、前記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体および前記プログラム等のコンピュータプログラムプロダクトも本発明の実施形態として適用することができる。記録媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることができる。
また、以上説明した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。即ち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【0119】
<請求項との関係>
以下に、請求項の記載と実施形態の記載との関係の一例を説明する。尚、請求項の記載が実施形態の記載に限定されないことは、変形例の項等で説明した通りである。
<<請求項1、13、14>>
対象材は、例えば、対象鋼材に対応する。
複数の対象材を順番に処理する際に課せられる制約を示す制約式は、例えば、(1)式、(1')式、(2)式、(3)式、(6)式、(7)式、(10)式を用いることにより実現される。
制約式設定手段は、例えば、制約式設定部120を用いることにより実現される。
目的関数は、例えば、(12)式を用いることにより実現される。
目的関数設定手段は、例えば、目的関数設定部130を用いることにより実現される。
決定変数(前記処理順に対する前記対象材の割り当ての有無を示す2値変数)は、例えば、決定変数x[i][e]を用いることにより実現される。
導出手段は、例えば、最適解計算部140を用いることにより実現される。
<<請求項2>>
前記複数の対象材の少なくとも一部に前記仮想材を含めた場合、前記複数の対象材の一部と前記仮想材の処理順を導出し、前記複数の対象材の一部の数は、前記複数の対象材の数から前記仮想材の数を減算した数と同数であることは、例えば、(1)式および(2)式により実現される。このようにしなくてもよいことは、第1の変形例に記載した通りである。
<<請求項3、5>>
判定手段は、例えば、最適解有無判定部150を用いることにより実現される。
設定手段は、例えば、仮想材数設定部160を用いることにより実現される。
前記判定手段により、前記複数の対象材の処理順、または、複数の対象材の少なくとも一部と前記仮想材の処理順を導出できなかったと判定されると、前記仮想材の数を増やすことは、例えば、ステップS808でNOと判定された場合に、ステップS809において仮想材の数を1つ増やすことにより実現される。
<<請求項4>>
前記設定手段による前記仮想材の数の変更と、前記導出手段による前記複数の対象材の少なくとも一部と当該変更された数の仮想材との処理順を導出するための計算の実行は、前記判定手段により、前記複数の対象材の少なくとも一部と前記仮想材との処理順を導出できたと判定されるまで繰り返し実行されることは、例えば、ステップS808でYESと判定されるまでステップS806~S809の処理が繰り返し実行されることにより実現される。
尚、請求項3~5のようにしなくてもよいことは、第3の変形例に記載した通りである。
<<請求項6、7>>
組込制約式は、例えば、(3)式を用いることにより実現される(第2の変形例も参照)。
寸法が所定の値未満の前記対象材を所定の数以上処理した後に、当該所定の値以上の寸法の前記対象材を処理することができないことは、例えば、コフィン制約(「コイル幅w[mm]未満の対象鋼材をu枚以上圧延したら、コイル幅w以上の幅の対象鋼材を圧延することはできない」)に対応する。
寸法が前記所定の値以上の前記対象材を割り当てることができる処理順の範囲は、例えば、(3)式では、コフィン制約を、コイル幅wがwk以上の対象鋼材を割り当てることができる圧延順eの範囲として表すことに対応する。
寸法が前記所定の値以上の前記対象材を割り当てることができない処理順の範囲は、例えば、第2の変形例で説明したように、コフィン制約を、コイル幅wがwk以上の対象鋼材を割り当てることができない圧延順eの範囲として表すことに対応する。
<請求項8、9>
品質移行規制制約式は、例えば、(10)式を用いることにより実現される。
複数の経路は、例えば、加熱炉12a~12cの何れかを通る経路に対応する。
<請求項10>
寸法移行期制約式は、例えば、(6)式および(7)式を用いることにより実現される。
<請求項11、12>
表示制御手段は、例えば、表示制御部180を用いることにより実現される。当該仮想材の処理順に割り当てることができる対象材の属性に関する情報は、例えば、候補材情報を用いることにより実現される。
【符号の説明】
【0120】
10:ヤード、11a~11d:山、12a~12c:加熱炉、13:圧延ライン、100:熱延スケジュール作成装置、110:情報取得部、120:制約式設定部、130:目的関数設定部、140:最適解計算部、150:最適解有無判定部、160:仮想材数設定部、170:候補材導出部、180:表示制御部