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  • 特許-鋼の溶製方法 図1
  • 特許-鋼の溶製方法 図2
  • 特許-鋼の溶製方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-08
(45)【発行日】2023-08-17
(54)【発明の名称】鋼の溶製方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 7/064 20060101AFI20230809BHJP
   C21C 7/00 20060101ALI20230809BHJP
   C21C 7/072 20060101ALI20230809BHJP
【FI】
C21C7/064 Z
C21C7/00 N
C21C7/072
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019199443
(22)【出願日】2019-10-31
(65)【公開番号】P2021070855
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】眞壁 亮司
(72)【発明者】
【氏名】宮田 政樹
(72)【発明者】
【氏名】石橋 正嗣
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-062815(JP,A)
【文献】特開2013-127087(JP,A)
【文献】特開平08-170115(JP,A)
【文献】特開2005-264293(JP,A)
【文献】特開2005-232536(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 7/00- 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶鋼を製造する溶鋼製造工程と、
前記溶鋼製造工程において製造された溶鋼に対して取鍋において脱硫処理を行う取鍋精錬工程と、
前記取鍋精錬工程後に取鍋内に生じているスラグを排出する排滓工程と、
前記排滓工程後に前記溶鋼に対して取鍋において脱窒処理を行う脱ガス精錬工程とを備え
前記溶鋼製造工程から前記脱ガス精錬工程までの間に前記排滓工程が1回のみ行われる、鋼の溶製方法。
【請求項2】
前記排滓工程後に、前記溶鋼に対して着酸処理を行う着酸工程をさらに備える、請求項1に記載の鋼の溶製方法。
【請求項3】
前記脱ガス精錬工程において溶鋼中の炭素濃度が質量%で0.01%以下となる、請求項1または2に記載の鋼の溶製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼の溶製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼中の硫黄および窒素は、鋼材の特性に悪影響を及ぼすことが知られている。このため、従来、硫黄濃度および窒素濃度の低い鋼を製造するための種々の製造方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、極低硫低窒素鋼の溶製方法が開示されている。特許文献1には、溶製方法の一例として、脱炭工程の後、取鍋精錬工程(脱硫処理)を行う前に、RH式脱ガス装置を用いて脱ガス工程を実施する方法が開示されている。この方法では、脱ガス工程において、溶鋼から窒素等のガス成分が除去されるとともに、アルミニウム濃度が0.020mass%以上0.080mass%以下となるように溶鋼にアルミニウムが添加される。
【0004】
また、特許文献1には、溶製方法の他の一例として、脱炭工程の後、取鍋精錬工程と脱ガス工程とを順に行う方法が開示されている。この方法では、脱炭工程において溶鋼を取鍋に移す際に、取鍋内にアルミニウムを投入することによって、溶鋼のアルミニウム濃度が上記の範囲内に調整される。
【0005】
特許文献1には、アルミニウム濃度が上記の範囲内に調整された溶鋼を用いて取鍋精錬工程を実施することによって、極低硫低窒素鋼を溶製できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-119932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らによる種々の研究の結果、特許文献1に開示された方法では、鋼の硫黄濃度または窒素濃度を十分に低減できないおそれがあることが分かった。
【0008】
具体的には、脱ガス工程後に取鍋精錬工程(脱硫処理)を行う場合には、脱ガス工程を開始する際の溶鋼の硫黄濃度が高くなる。この場合、脱ガス工程を行う際に、溶鋼中の硫黄が脱窒を阻害し、窒素濃度を十分に低減できないおそれがある。
【0009】
また、脱ガス工程後に取鍋精錬工程を行う場合には、アーク放電で溶鋼を加熱する際に生じる窒素ピックアップおよび電極からの炭素ピックアップを考慮すると、取鍋精錬工程において十分な処理時間を確保できない場合がある。この場合、鋼の硫黄濃度を十分に低減できないおそれがある。
【0010】
一方、取鍋精錬工程後に脱ガス工程を行う場合には、脱ガス工程において、スラグから溶鋼への復硫が発生し、硫黄濃度を十分に低減できないおそれがある。
【0011】
そこで、本発明は、鋼の硫黄濃度および窒素濃度を適切に低減できる鋼の溶製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、下記の鋼の溶製方法を要旨とする。
【0013】
(1)溶鋼を製造する溶鋼製造工程と、
前記溶鋼製造工程において製造された溶鋼に対して取鍋において脱硫処理を行う取鍋精錬工程と、
前記取鍋精錬工程後に取鍋内に生じているスラグを排出する排滓工程と、
前記排滓工程後に前記溶鋼に対して取鍋において脱窒処理を行う脱ガス精錬工程とを備える、鋼の溶製方法。
【0014】
(2)前記排滓工程後に、前記溶鋼に対して着酸処理を行う着酸工程をさらに備える、上記(1)に記載の鋼の溶製方法。
【0015】
(3)前記脱ガス精錬工程において溶鋼中の炭素濃度が質量%で0.01%以下となる、上記(1)または(2)に記載の鋼の溶製方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、鋼の硫黄濃度および窒素濃度を適切に低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る鋼の溶製方法の各工程を示すフロー図である。
図2図2は、実施例および比較例の各工程における溶鋼中の硫黄濃度を示すグラフである。
図3図3は、実施例および比較例の各工程における溶鋼中の窒素濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態に係る鋼の溶製方法について説明する。図1は、本実施形態に係る鋼の溶製方法の各工程を示すフロー図である。図1に示すように、本実施形態に係る溶製方法は、溶鋼製造工程、取鍋精錬工程、排滓工程、および脱ガス精錬工程を備える。
【0019】
溶鋼製造工程では、主原料(鉄鉱石、還元鉄、溶銑、型銑、およびスクラップ等)から溶鋼が製造される。溶鋼製造工程における溶鋼の製造方法は特に限定されず、公知の種々の製造方法を利用することができる。例えば、高炉において銑鉄を取り出した後、転炉において銑鉄に対して脱炭処理等を行うことによって溶鋼を製造してもよく、電気炉を用いて溶鋼を製造してもよい。また、例えば、冷鉄源溶解法を用いて溶鋼を製造してもよい。
【0020】
溶鋼製造工程において製造された溶鋼は、取鍋に出鋼され、取鍋精錬工程において脱硫処理が行われる。本実施形態では、取鍋内の溶鋼をアーク放電によって加熱および攪拌することによって脱硫を行う取鍋加熱炉(LF)を用いて取鍋精錬工程が行われる。なお、取鍋精錬工程における脱硫方法としては、公知の取鍋精錬工程における脱硫方法を利用できるので、詳細な説明は省略する。また、脱硫工程は、取鍋加熱炉を用いたものに限らず、取鍋出鋼後に脱硫を実施できるものであれば採用できる。例えばインジェクションによる脱硫工程、底吹撹拌による脱硫工程等、取鍋加熱炉を用いた脱硫方法に限定されず、公知の脱硫方法を利用してもよい。
【0021】
取鍋精錬工程において脱硫を行った後、排滓工程において、取鍋内に生じているスラグが排出される。なお、取鍋からのスラグの排出方法としては公知の方法を利用できるので、詳細な説明は省略する。
【0022】
排滓工程においてスラグを排出した後、脱ガス精錬工程において、取鍋内の溶鋼に対して脱窒処理が行われる。本実施形態では、真空脱ガス炉(例えば、RH式脱ガス炉)を用いて、溶鋼の脱窒処理が行われる。なお、脱ガス精錬工程においては、脱炭処理および各種成分の調整等を行ってもよく、脱窒処理と脱炭処理を同一の設備で行ってもよいし、別の設備で行ってもよい。本実施形態では、脱ガス精錬工程において、例えば、溶鋼中の炭素濃度が質量%で0.01%以下となるように脱炭処理が行われる。脱ガス精錬工程における処理方法としては、公知の脱ガス精錬工程における処理方法を利用できるので、詳細な説明は省略する。
【0023】
詳細な説明は省略するが、上記のようにして製造された溶鋼から、連続鋳造工程によって、ビレット、スラブまたはブルームが製造される。
【0024】
以上のように、本実施形態に係る溶製方法では、取鍋精錬工程によって脱硫処理を行った後、脱ガス精錬工程において脱窒処理を行う前に、排滓工程において取鍋からスラグが排出される。この場合、脱ガス精錬工程において脱窒処理をする際に、スラグからの復硫によって溶鋼の硫黄濃度が高くなることを防止できる。これにより、溶鋼の硫黄濃度を低く抑制することができる。また、溶鋼の硫黄濃度が低くなることによって、脱窒速度が高くなるので、窒素濃度を低く抑制することができる。
【0025】
また、本実施形態では、取鍋精錬工程において窒素ピックアップが生じても、取鍋精錬工程後の脱ガス精錬工程において、溶鋼の窒素濃度を十分に低下させることができる。このため、取鍋精錬工程において脱硫処理時間を十分に確保することができるので、溶鋼の硫黄濃度を十分に低下させることができる。なお、上述したように、本実施形態では、脱ガス精錬工程において、脱窒処理に加えて脱炭処理が行われてもよい。このため、取鍋精錬工程において、電極からの炭素ピックアップが生じたとしても、脱ガス精錬工程において溶鋼の炭素濃度を低下させることができる。
【0026】
以上のことから、本実施形態に係る溶製方法によれば、鋼の硫黄濃度、窒素濃度および炭素濃度を適切に低減することができる。
【0027】
なお、本発明に係る鋼の溶製方法は、取鍋精錬工程と脱ガス精錬工程との間に排滓工程を実施することを特徴としており、この特徴が維持される限り、他の工程をさらに備えてもよい。例えば、排滓工程後に、溶鋼の着酸を行う着酸工程をさらに実施してもよい。具体的には、着酸工程では、取鍋内の溶鋼に対して、酸素を上吹きおよび/または底吹きすることによって溶鋼の着酸が行われる。このように着酸工程を実施することによって、その後の脱炭処理において脱炭速度を増加させることができる。また、例えば、脱ガス精錬工程後にさらに別の取鍋精錬工程を実施してもよく、取鍋精錬工程の前にさらに別の脱ガス精錬工程を実施してもよい。
【0028】
以下、実施例によって本発明の効果を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0029】
実施例では、溶鋼製造工程、取鍋精錬工程、排滓工程、および脱ガス精錬工程を順に実施して鋼を溶製し、各工程における硫黄濃度および窒素濃度を調査した。また、比較例として、溶鋼製造工程、取鍋精錬工程、および脱ガス精錬工程を順に実施して鋼を溶製し、各工程における硫黄濃度および窒素濃度を調査した。なお、比較例における溶鋼製造工程、取鍋精錬工程および脱ガス精錬工程は、実施例における溶鋼製造工程、取鍋精錬工程および脱ガス精錬工程と同様の条件で実施した。
【0030】
図2に、各工程における溶鋼中の硫黄濃度(質量%)を示し、図3に、各工程における溶鋼中の窒素濃度(質量%)を示す。図2および図3に示すように、実施例に係る製造方法では、排滓工程を実施することによって、排滓工程が実施されない比較例に係る製造方法に比べて、溶鋼中の硫黄濃度および窒素濃度を十分に低減できた。
【0031】
具体的には、実施例に係る製造方法では、排滓工程においてスラグを排出することによって、脱ガス精錬工程において脱窒処理をする際に、スラグから溶鋼への復硫を十分に抑制できたと考えられる。これにより、溶鋼の硫黄濃度を低くすることができたと考えられる。また、溶鋼の硫黄濃度が低くなることによって、脱窒速度が高くなり、窒素濃度を低くすることができたと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明によれば、鋼の硫黄濃度および窒素濃度を適切に低減できる。したがって、硫黄濃度および窒素濃度が比較的高くなり易い電気炉によって製造された溶鋼を利用する場合であっても、本発明を実施することによって、硫黄濃度および窒素濃度が十分に低減された鋼が得られる。
図1
図2
図3