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  • 特許-焼結鉱の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-08
(45)【発行日】2023-08-17
(54)【発明の名称】焼結鉱の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 1/20 20060101AFI20230809BHJP
【FI】
C22B1/20 B
C22B1/20 J
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019206889
(22)【出願日】2019-11-15
(65)【公開番号】P2021080504
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】片山 一昭
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-157980(JP,A)
【文献】特開2000-017343(JP,A)
【文献】特開2018-172761(JP,A)
【文献】特開2018-178148(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00 - 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結機内に、凝結材を含む焼結鉱の原料を装入する際に、層高方向において二段となるように装入して、下段原料充填層および上段原料充填層を形成する工程と、
前記下段原料充填層および前記上段原料充填層を、下段用点火炉および上段用点火炉により、それぞれ点火するとともに、前記下段原料充填層の下方から酸素含有ガスを吸引する工程とを含み、
前記下段原料充填層において、前記下段用点火炉からの投入熱量は、前記下段原料充填層中の前記凝結材による投入熱量に対して、1.875%以上である
ことを特徴とする焼結鉱の製造方法。
【請求項2】
前記下段原料充填層において、前記下段用点火炉からの投入熱量は、前記下段原料充填層中の前記凝結材による投入熱量に対して、3.7%以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の焼結鉱の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結鉱の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、高炉製銑の主原料は、焼結鉱である。焼結鉱は、通常、次のように製造される。まず、焼結鉱製造用の原料として、鉄鉱石(粉)等の鉄原料、スケール・製鉄ダスト等の含鉄雑原料、橄欖岩等のMgO含有副原料、石灰石等のCaO含有副原料、返鉱、燃焼熱によって焼結鉱を焼結(凝結)させる燃料となる炭材(凝結材)などを、所定の割合で混合する。混合した配合原料を造粒して配合原料造粒物とする。次に、配合原料造粒物を、ホッパより、下方吸引式のドワイトロイド(DL)式焼結機のパレット上に搭載して、原料充填層を形成する。形成した原料充填層の上部(表面)から、点火炉(点火器)により原料充填層中の炭材に点火する。そして、パレットを連続的に移動させながらパレットの下方から空気を吸引する。吸引により原料充填層内に酸素を供給し、原料充填層中の炭材の燃焼を上部から下部に向けて進行させて、炭材の燃焼熱により原料充填層を順次焼結させる。焼結により得られた焼結部(シンターケーキ)は、所定の粒度に粉砕、篩分け等により整粒され、高炉の原料である焼結鉱となる。
【0003】
このようなDL式焼結機による焼結鉱の製造方法において、原料充填層の形成と点火を二段以上の多段で行う多段装入多段点火焼結法が提案されている。多段装入多段点火焼結法は、造粒した配合原料を焼結機の層高方向に順次に装入して多段の原料充填層を形成するとともに各原料充填層の表面に点火し、下方から空気を吸引することにより、各層の焼結反応を同時並行に進行させて焼結する方法である。
【0004】
図1は、多段装入多段点火焼結法の一例である二段装入二段点火焼結法に使用するDL式焼結機の概要図である。図1を参照して、造粒した配合原料を二段に装入して、上段原料充填層(以下、上段層という)と下段原料充填層(以下、下段層という)とを形成し、上段層と下段層のそれぞれに点火して焼結を実施する二段装入二段点火焼結法について説明する。
【0005】
図1に示す例では、上段層を形成する上段用配合原料と、下段層を形成する下段用配合原料とが別系統(2系統)で準備されて、別系統で焼結機100のパレット(図示は省略)上に装入される。具体的には、下段用の原料は、下段原料槽群1Dの各原料槽(1D~1D)内に貯留され、必要な種類と量の原料が所定の割合で切り出されて配合される。配合された下段用の原料(下段用配合原料)は、下段用ドラムミキサー1Aに投入されて混合され、水分が加えられて造粒される。また、上段用の原料は、上段原料槽群2Dの各原料槽(2D~2D)内に貯留され、必要な種類と量の原料が所定の割合で切り出されて配合される。配合された上段用の原料(上段用配合原料)は、上段用ドラムミキサー2Aに投入されて混合され、水分が加えられて造粒される。
【0006】
造粒された下段用配合原料(下段用配合原料造粒物)は、下段用サージホッパ1Bから、床敷鉱を敷きつめたパレット上に装入されて、下段層10(下段原料充填層)を形成する。下段層10は、パレットをパレット進行方向5へ移動させることにより、下段用点火炉1C下まで移動し、そこで、下段用点火炉1Cにより下段層10表面の炭材に点火される。点火後、パレット下の風箱(図示は省略)を介して、下方から空気を吸引する下方吸引6により、下段層10の焼結が開始される。下段層10の焼結は、引き続く下方吸引6により下方に進行し、下段層燃焼帯10Aを形成する。
【0007】
焼結が開始された下段層10が上段用サージホッパ2B下まで移動したとき、上段用ドラムミキサー2Aにより造粒された上段用配合原料(上段用配合原料造粒物)が、上段用サージホッパ2Bから、点火後の下段層10上に装入されて、上段層20(上段原料充填層)を形成する。上段層20は、パレットをパレット進行方向5へ移動させることにより、上段用点火炉2C下まで移動し、そこで、上段用点火炉2Cにより上段層20表面の炭材に点火される。点火後、下方吸引6により、上段層20の焼結が開始される。上段層20の焼結は、引き続く下方吸引6により下方に進行し、上段層燃焼帯20Aを形成する。
【0008】
下段層10の下段層燃焼帯10A、および、上段層20の上段層燃焼帯20Aは、その後の更なる下方吸引6により、同時並行で焼結が進行し下降する。下段層燃焼帯10A、上段層燃焼帯20Aがそれぞれの層の最下部まで到達すると、炭材の燃焼による焼結が終了し、焼結部3となる。最終的に、焼結が完了した焼結部3は、パレット終端より排鉱される。
【0009】
二段装入二段点火焼結法においては、原料充填層を二段にして、二段で同時に焼結を進行させるため、生産量をほぼ倍増させることができる。また、上段層20の焼結に使用された排ガスを、下方吸引により下段層10の焼結に再使用するため、排ガス量を低減させることができる。
【0010】
多段装入多段点火焼結法については、特許文献1~3などに開示がある。特許文献1には、多段装入多段点火焼結法は各層の原料の供給比率を変えることができるため、上段層20と下段層10の原料の粒度調整などにより、歩留の向上などが得られることが記載されている。
【0011】
特許文献2や特許文献3には、二段装入二段点火焼結法の問題点として、下段層10の焼結鉱の焼結強度が低下する点が指摘されている。具体的には、二段装入二段点火焼結法においては、上述のように、上段層20の焼結に使用されて酸素分圧が低下したガス(排ガス)が、下方吸引6により下段層10に供給され、下段層10の焼結に使われる。そのため、下段層10では低酸素分圧下となるため、下段層10中の炭材の燃焼が不完全となり、焼結に必要な熱量が不足する。熱量不足により、下段層10の焼結反応の進行が妨げられ、下段層10の焼結鉱の強度が低下する。
【0012】
この問題の解決方法として、特許文献2には、下段層10の焼結鉱の焼結強度を向上させるべく、焼結しようとする製鉄原料中の固定炭素濃度を全層平均で3.3%以下とし、かつ上段層20の固定炭素濃度を低く、下段層10の固定炭素濃度を高くすることが記載されている。特許文献3には、下段系の配合原料のうち、炭材以外の主配合原料を造粒機で造粒する下段系造粒工程と、下段系造粒工程の後半から主配合原料の造粒物を焼結機の下段系サージホッパ内に装入する前までの間に主配合原料に炭材を投入する炭材投入工程と、主配合原料の造粒物および炭材を焼結機内に装入して、焼結鉱を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開昭47-26304号公報
【文献】特開昭62-60829号公報
【文献】特開2018-178148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献2では、固定炭素濃度の全層平均濃度に上限を設け、さらに上段層20のコークス配合比を低くするため、上段層20への供給熱量が低下し、上段層20での焼結鉱の冷間強度低下を招くことになってしまう。特許文献3には、下段系の配合原料において炭材の後添加を行うことにより、炭材がガスと接触しやすくなり、炭材の燃焼が促進されて、下段層10の焼結鉱の生産性を改善するものであるが、炭材を後添加するための設備が必要となる。
【0015】
本発明は、上記の問題に鑑みて新規に創案された焼結鉱の製造方法である。本発明の目的は、二段装入二段点火焼結法(以下、単に二段点火焼結法という。)における下段原料充填層の焼結鉱の強度の低下を抑制することが可能な焼結鉱の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、その要旨とするところは、以下のとおりである。
【0017】
(1)焼結機内に、凝結材を含む焼結鉱の原料を装入する際に、層高方向において二段となるように装入して、下段原料充填層および上段原料充填層を形成する工程と、
前記下段原料充填層および前記上段原料充填層を、下段用点火炉および上段用点火炉により、それぞれ点火するとともに、前記下段原料充填層の下方から酸素含有ガスを吸引する工程とを含み、
前記下段原料充填層において、前記下段用点火炉からの投入熱量は、前記下段原料充填層中の前記凝結材による投入熱量に対して、1.8%以上である
ことを特徴とする焼結鉱の製造方法。
(2)前記下段原料充填層において、前記下段用点火炉からの投入熱量は、前記下段原料充填層中の前記凝結材による投入熱量に対して、3.7%以下である
ことを特徴とする(1)に記載の焼結鉱の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、二段点火焼結法において、下段原料充填層への点火炉による投入熱量を増加させることにより、下段原料充填層の焼結鉱の強度を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】二段点火焼結法に使用するDL式焼結機の概要図である。
図2】本発明の一実施形態である二段点火焼結法に使用するDL式焼結機の概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
下段層10の焼結に使用される投入熱量(焼結反応に投入される熱量)は、原料として下段層10に含まれる凝結材により供給される投入熱量と、下段用点火炉1Cにおいて点火される際の点火ガスにより供給される投入熱量がある。本発明者らは、下段層10の焼結鉱の強度が低下する二段点火焼結法の改善手段を種々検討した結果、下段原料充填層(下段層10)への投入熱量(供給熱量)を増加させることにより、下段層10の焼結鉱の強度が改善されることを見出した。下段原料充填層(下段層10)への投入熱量の増加は、下段用点火炉1Cによる点火時間を延長すること、または、点火強度を増加させることにより実現できる。一般的な焼結法(一段装入一段点火)の焼結鉱製造プロセスにおける適切な投入熱量以上の熱量を、本発明の二段点火焼結法の下段用点火炉1Cから下段層10に供給すればよい。
【0021】
本発明者らは、下段用点火炉1Cによる点火時間などの条件が異なる焼結鍋試験を行い、下段用点火炉1Cからの投入熱量について、適切な範囲を求めた。本発明は、かかる知見に基づいて創案された。
二段点火焼結法において、下段用点火炉1Cからの投入熱量を、下段層10に配合される凝結材による投入熱量に対して1.8%以上とすることにより、下段層10の焼結鉱の強度を改善することができる。なお、下段用点火炉1Cからの投入熱量を、下段層10に配合される凝結材による投入熱量に対して3.7%以下とすることが望ましい。
【0022】
ここで、原料充填層に含まれる凝結材(炭材)による投入熱量および点火炉からの投入熱量は、それぞれ、以下の式(1)および式(2)で算出される。
凝結材による投入熱量=炭材の発熱量(MJ/kg炭材)×炭材濃度(kg炭材/t-配合原料)×配合原料密度(t-配合原料/m) ・・・(1)
点火炉からの投入熱量=点火強度(MJ/m)÷層厚(m) ・・・(2)
【0023】
上記式(2)の点火強度は、配合原料を連続的に装入しながら焼成する連続式焼結機(例えば、ドワイトロイド式焼結機など)の場合、以下の式(3)により算出する。また、予め全配合原料を装入して焼成する回分式焼結機(例えば、焼結鍋など)の場合、以下の式(4)により算出する。
点火強度(MJ/m)=点火ガス発熱量(MJ/m)×点火ガス流量(m/min)
÷パレット幅(m)÷パレット速度(m/min) ・・・(3)
点火強度(MJ/m)=点火ガス発熱量(MJ/m)×点火ガス流量(m/min)
×点火時間(min)÷鍋表面積(m) ・・・(4)
【0024】
図2は、本発明の一実施形態である二段点火焼結法に使用するDL式焼結機の概要図である。本実施形態の特徴は、下段用点火炉1Xの点火時間を下段用点火炉1Cの点火時間よりも延長することにより、下段用点火炉1Xによる下段層10への投入熱量を増加させていることである。
【0025】
図2に示す本実施形態において、図1に示す従来例と異なるのは、下段用点火炉1Xと下段用点火炉1Cとのパレット進行方向5の幅である。本実施形態の下段用点火炉1Xでは、下段用点火炉1Cに比べてパレット進行方向5の幅が大きい。下段用点火炉1Cの幅を拡げ、例えば、従来例の下段用点火炉1Cをパレット進行方向5に改造し拡張する、または点火炉通過中のパレットの進行速度を小さくするなどして、パレット進行方向5に移動する下段層10の表面を点火する時間を延長することにより、下段層10への投入熱量を増加させている。下段用点火炉1Xによる下段層10への投入熱量は、下段層10に含まれる凝結材による投入熱量に対して、1.8%以上3.7%以下となるように点火時間が調整される。なお、この点火時間は、後述する実施例に示すように、通常の連続式焼結機での焼結法(一段装入一段点火)を実施する際の点火炉による点火時間および投入熱量の1.5倍以上3.0倍未満の範囲である。
【0026】
なお、図2に示した実施形態は、本発明の一例であり、下段層10への投入熱量を増加させる手段は、上述のような点火時間の延長に限らず、例えば、点火強度を強めることでも実現することができる。点火炉で使用される原料充填層を点火する点火ガスとしては、一般的にコークス炉ガス(COG)が使用されるが、コークス炉ガスよりも点火ガス発熱量(MJ/m)が大きいものを使用することにより、点火強度を強めて下段層10への投入熱量を増加させてもよい。また、点火ガス流量(m/min)を増加させて、点火強度を強めることも好ましい。
【0027】
また、本実施形態においては、上段用配合原料と下段用配合原料とを別系統で準備して、パレット上に装入する二段点火焼結法により焼結鉱を製造しているが、上段用配合原料と下段用配合原料とを一系統で準備してもよい。上段用配合原料と下段用配合原料の原料配合や組成を、同一としてもよいからである。
【実施例
【0028】
本発明の効果を実証する実施例について説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0029】
発明者らは、DL焼結機による焼結を模擬できる焼結鍋試験(直径300mm)により、本発明の効果を確認した。焼結鍋試験装置は、DL焼結機のようにパレットによる原料充填層の移動こそないが、下方吸引できる所定の大きさの容器に炭材を含む配合原料を装入して、上面から着火し、下方吸引させて焼結を進行させる試験装置である。
後述する表2に示すように、比較例1~発明例1、2の5つの実験を行った。
【0030】
(試験ケース)
以下に、試験水準を示す(表2の上段参照)。
比較例1は通常の焼結法(一段装入一段点火)を模し、その点火時間は1分間である。比較例2は、二段点火であって、上段および下段の点火時間を各1分間とした。二段点火での従来法を模した。比較例3、発明例1、および発明例では二段点火であって、比較例2に対し、上段層または下段層の点火時間を長くして、点火による投入熱量を増加させた。
比較例1(一段装入一段点火)
点火による投入熱量(点火時間):1分間
比較例2(二段装入二段点火)
点火による投入熱量(点火時間):上段1分間、下段1分間
比較例3(二段装入二段点火)
点火による投入熱量(点火時間):上段1.5分間、下段1分間
発明例1(二段装入二段点火)
点火による投入熱量(点火時間):上段1分間、下段1.5分間
発明例(二段装入二段点火)
点火による投入熱量(点火時間):上段1分間、下段分間
【0031】
(原料配合)
表1は、使用した原料とその配合割合を示す。鉄鉱石A~D、橄欖岩、石灰石、および生石灰を、表1に示す割合で配合した。また、炭材を、新原料を100質量%として外数で4.5質量%配合した。なお、表1の鉄鉱石A~Dは異なる産地のものを使用した。また、凝結材である炭材(粉コークス)は、いずれも粒度が-5mm(5mm未満)のもの(5mmの篩目の篩下のもの)を使用した。
原料の配合は、上段層と下段層とで同一である。また、全ケースの原料配合割合も一定とした。
【0032】
【表1】
【0033】
(造粒方法)
配合原料は、上段層用と下段層用とを一括して造粒した。造粒は、試験用ドラムミキサー(直径600mm、回転数25rpm)で4分間混合後、配合原料を100質量%として6.5質量%の量の水分を添加し、さらに4分間処理した。
【0034】
(装入・点火方法)
鍋は、高さ500mmの円柱形の下段用鍋(φ300mm)と、高さ300mmの円柱形の上段用鍋(φ300mm)の2本を準備した。一段点火のケースでは、2本の鍋を積んで、そこへ造粒した配合原料(配合原料造粒物)を装入して層高800mmとし、1分間(min)点火した。二段点火のケースでは、下段用鍋に下段用配合原料造粒物を装入して下段層の層高500mmとし、上段用鍋に上段用配合原料造粒物を装入し上段層の層高300mmとした。そして、まず、層高500mmの下段用鍋をセットして、下段層の表面に所定時間の点火を行った。所定時間の点火の終了後、下段用鍋の上に、層高300mmの上段用鍋をセットして、下段層の150mm位置の温度上昇確認後に、上段層の表面に所定時間の点火を行った。吸引圧は、点火開始から1500mmAq(14.7kPa)一定とした。
【0035】
(焼結時間)
焼結時間は以下のように測定した。熱電対を下段用鍋の上面から60mm、150mm、300mm、450mmの位置にそれぞれセットした。一段点火の場合は450mm位置の熱電対の測定値のピーク時刻までの所要時間を焼結時間とした。一方、二段点火の場合は、上段層の焼結完了と下段層の焼結完了の遅い方を、原料充填層全体(上段層および下段層)としての焼結完了とみなすため、60mm位置の熱電対の2回目のピーク時刻(上段層の焼結完了)までの所要時間と、450mm位置の熱電対の1回目のピーク時刻(下段層の焼結完了)までの所要時間の2つのうち長い方を、原料充填層全体の焼結時間とした。焼結完了となった時刻から3分後に吸引を停止し、焼結終了とした。
【0036】
(焼結鉱強度)
焼結鉱強度は、JIS M8712(2009)に基づいて、冷間強度(回転強度指数TI)を測定した。ただし、供試試料の質量は15kgとした。上段焼結鉱強度は上段用鍋内の焼結鉱の回転強度指数TIを、下段焼結鉱強度は下段用鍋内の焼結鉱の回転強度指数TIを示す。
【0037】
(生産率)
生産率は、上述のように測定した焼結時間に基づいて、以下の式(5)により求めた。
生産率=成品量(t)/焼結面積(0.07m)/焼結時間(日) ・・・(5)
なお、成品量は、焼結後、得られた焼結ケーキを、2mの高さから4回落下処理を行い、粒径+5mm(5mm超)を焼結成品として重量を求めた。
【0038】
(試験結果)
表2の下段に、試験結果を示す。
【0039】
【表2】
【0040】
二段点火とした比較例2では、通常焼結法(一段装入一段点火)の比較例1に比べて生産性は向上したが、下段層の焼結鉱の強度が低下した。
また、比較例2に対して、上段層の点火時間を1.5倍に延長して上段層への点火による投入熱量を増加させた比較例3の場合、上段層の焼結鉱の強度には変化はなく、下段層の焼結鉱の強度が低下した。一方、比較例2に対して、下段層の点火時間を1.5倍に延長して下段層への点火による投入熱量を増加させた発明例1の場合、生産性向上効果を享受しつつ、下段層の焼結鉱の強度を改善させることができた。ただし、比較例2に対して、さらに下段層の点火時間を3倍に延長した発明例2の場合、下段層の焼結鉱の強度は発明例1と同等に改善したが、生産性の低下が確認された。
【0041】
(試験結果についての考察)
比較例3における下段層の焼結鉱の強度の低下は、上段層の点火時間の延長の影響を受けていると考えられる。上段層を点火している間および上段層での燃焼が開始されると、その燃焼に酸素が消費されて、下段層へ供給される排ガス中の酸素濃度が極端に低下する。そのため、下段層では炭材の燃焼反応による昇温が十分に起こらず、到達温度が低下し、下段層の焼結鉱の強度が低下したと考えられる。発明例1および発明例2における下段層の焼結鉱の強度の改善は、点火による投入熱量の増加により、下段層の炭材が十分燃焼して焼結に必要な熱量が供給されたためであると考えられる。なお、発明例2における生産性の低下は、下段層への点火による投入熱量が過多となり、下段で過溶融を引き起こし、通気性が悪化したためであると考えられる。以下に示す表3は、これらの考察を裏付けるものである。
【0042】
(測定温度)
表3は、各ケースの下段層(下段用鍋)の各位置(60mm、150mm、300mm、450mm)で計測された最高温度の値を示す表である。本試験では、上述したように、下段層の150mm位置における温度上昇確認後に、上段層の点火を行っているため、下段層において、150mm位置より下方の位置(300mm位置や450mm位置)の焼結では、上段層の燃焼後の排ガスが炭材の燃焼に使用されている。焼結反応を進めるためには、1200℃以上の温度が必要である。
【0043】
【表3】
【0044】
(測定温度について)
表3に示すように、二段点火での通常の焼結プロセスを模した比較例2および上段層の点火時間を延長した比較例3では、150mm位置より下方の位置(300mm位置や450mm位置)において、最高温度が1200℃未満に低下し、焼結に必要な温度に達していない。これに対し、下段層の点火時間を延長した発明例1および発明例2においては、概ね全位置において略1200℃または1200℃以上の最高温度が維持された。下段層の点火時間を延長して、下段層への供給熱量(投入熱量)を増加させたため、到達温度が高くなり、1200℃を維持した。これにより、強度が改善したと考えられる。
【0045】
(焼結鍋試験での試験結果から実機への変換)
表4は、通常の連続式焼結機(ドワイトロイド(DL)式焼結機)を用いた焼結操業において一般的な投入熱量を示す。表4に示すように、焼結(融液生成)の熱源は、点火炉からの燃料(例えば、コークス炉ガス)と、原料(原料充填層)に含まれる凝結材である炭材(例えば、粉コークス)である。通常の連続式焼結機においては、凝結材による投入熱量に対する、点火炉による投入熱量の割合は、1.25%である。なお、コークス炉ガスの単位発熱量は、低位発熱量を示す。
【0046】
【表4】
【0047】
上記試験において実施したように、比較例1における点火炉からの投入熱量と、比較例2における下段層への点火炉からの投入熱量は同じであり、発明例1では、比較例2に対して下段層の点火時間を1.5倍に延長し、発明例2では、比較例2に対して下段層の点火時間を3倍に延長した。これらを、実機の条件に転換すると、凝結材による投入熱量に対する点火炉による投入熱量の割合を、それぞれ、1.875%、3.75%にしたことに相当する。発明例1では生産性が向上し、発明例2では生産性が低下した。以上より、下段用点火炉1Cからの投入熱量は、下段原料充填層中の凝結材による投入熱量に対して、1.8%以上とし、好ましくは、3.7%以下とした。
【符号の説明】
【0048】
100…焼結機、1A…下段用ドラムミキサー、1B…下段用ホッパ、1C…下段用点火器、1D…下段用原料槽群(下段原料槽1D~1D)、2A…上段用ドラムミキサー、2B…上段用ホッパ、2C…上段用点火器、2D…上段用原料槽群(上段原料槽2D~2D)、10…下段層、10A…下段層燃焼帯、20…上段層、20A…上段層燃焼帯、3…焼結部、5…パレット進行方向、6…下方吸引
図1
図2