(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-08
(45)【発行日】2023-08-17
(54)【発明の名称】強度試験方法
(51)【国際特許分類】
G01N 3/30 20060101AFI20230809BHJP
G01M 17/007 20060101ALI20230809BHJP
【FI】
G01N3/30 N
G01M17/007 Z
(21)【出願番号】P 2020017223
(22)【出願日】2020-02-04
【審査請求日】2022-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 淳一郎
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 奨
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-281964(JP,A)
【文献】特開2013-148550(JP,A)
【文献】特開2006-029977(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0330881(US,A1)
【文献】国際公開第2014/097378(WO,A1)
【文献】特開2012-132902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/30
G01M 17/007
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強度試験方法であって、
部分構造を模擬した部分構造モデルを準備する部分構造モデル準備工程と、
前記部分構造モデルにおける脆弱箇所を特定する脆弱箇所特定工程と、
前記部分構造モデルにおける前記脆弱箇所を除く他の箇所から評価箇所を指定する評価箇所指定工程と、
前記評価箇所を模擬する評価モデルを準備する評価モデル準備工程と、
前記評価モデルに、超過負荷を与える評価試験工程と、を含む
ことを特徴とする強度試験方法。
【請求項2】
前記脆弱箇所特定工程において、前記部分構造に対して特定負荷を与えて前記部分構造における前記脆弱箇所を特定し、
前記評価試験工程において、前記特定負荷によって前記評価箇所に作用する分配負荷より大きな前記超過負荷を与える
ことを特徴とする請求項1に記載の強度試験方法。
【請求項3】
前記部分構造モデル準備工程は、前記部分構造を有限要素モデルに変換することを含む
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の強度試験方法。
【請求項4】
前記脆弱箇所特定工程は、前記部分構造モデルに対して、ひずみ又は応力の分布を解析出力として出力する解析を行い、
前記解析出力に基づく指標が所定の閾値より大きい領域を前記脆弱箇所として特定する
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の強度試験方法。
【請求項5】
前記評価箇所は、第1部材と、第2部材と、前記第1部材と前記第2部材とを接続する評価接続部と、を有する構造である
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の強度試験方法。
【請求項6】
前記評価接続部は、溶接部である
ことを特徴とする請求項5に記載の強度試験方法。
【請求項7】
前記評価接続部は、スポット溶接部である
ことを特徴とする請求項6に記載の強度試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強度試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、衝突物が構造体に衝突するような状況を評価するため、構造体の部分構造を模擬した試験体に衝撃を与える衝撃試験方法があった。
【0003】
しかしながら、従来の衝突試験方法では、部分構造における評価を希望する指定の評価箇所とは異なる箇所で早期に塑性変形が生じ、評価箇所に特定の大きな負荷を与えることができず、評価箇所の強度限界を適切に評価できない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記背景技術の問題点に鑑み、部分構造における評価箇所の強度限界を適切に評価できる強度試験方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨は以下の通りである。
【0007】
(1)本発明の一態様に係る強度試験方法は、部分構造を模擬した部分構造モデルを準備する部分構造モデル準備工程と、前記部分構造モデルにおける脆弱箇所を特定する脆弱箇所特定工程と、前記部分構造モデルにおける前記脆弱箇所を除く他の箇所から評価箇所を指定する評価箇所指定工程と、前記評価箇所を模擬する評価モデルを準備する評価モデル準備工程と、前記評価モデルに、超過負荷を与える評価試験工程と、を含む。
(2)上記(1)において、前記脆弱箇所特定工程において、前記部分構造に対して特定負荷を与えて前記部分構造における前記脆弱箇所を特定し、前記評価試験工程において、前記特定負荷によって前記評価箇所に作用する分配負荷より大きな前記超過負荷を与えてよい。
(3)上記(1)又は(2)において、前記部分構造モデル準備工程は、前記部分構造を有限要素モデルに変換することを含んでよい。
(4)上記(1)から(3)のいずれかにおいて、前記脆弱箇所特定工程は、前記部分構造モデルに対して、ひずみ又は応力の分布を解析出力として出力する解析を行い、前記解析出力に基づく指標が所定の閾値より大きい領域を前記脆弱箇所として特定してよい。
(5)上記(1)から(4)のいずれかにおいて、前記評価箇所は、第1部材と、第2部材と、前記第1部材と前記第2部材とを接続する評価接続部と、を有する構造であってよい。
(6)上記(5)において、前記評価接続部は、溶接部であってよい。
(7)上記(6)において、前記評価接続部は、スポット溶接部であってよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、部分構造における評価箇所の強度限界を適切に評価できる強度試験方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】車両全体の構造を表すフルカーモデルの斜視図である。
【
図2】第1実施形態に係る部分構造モデルの正面図である。
【
図3】第1実施形態に係る評価モデルの正面図である。
【
図4】第1実施形態に係る強度試験装置の説明図である。
【
図5】第2実施形態に係る部分構造モデルの正面図である。
【
図6】第2実施形態に係る評価モデルの正面図である。
【
図7】第2実施形態に係る強度試験装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
自動車分野では、地球環境への負荷軽減の観点から、車両の軽量化が求められている。このため、車両の骨格は、高強度化された材料及び薄肉化された板厚に基づいて設計されている。新たに設計された車両に対しては、安全性評価の一環として、衝突の際の影響を評価することが求められている。評価方法の一つである、車両を丸ごと用いた試験(フルカー試験)の実施は、高いコストを要するので、比較的低コストで実施可能な、車両の部分構造を用いて部分構造を評価する試験(部分構造試験)の需要がある。部分構造試験における試験体には、フルカー試験における試験体となる車両の部分構造を正確に模擬することが求められる。
しかしながら、従来の衝突試験方法では、部分構造における評価を希望する評価箇所とは異なる箇所で早期に塑性変形が生じ、指定の評価箇所に特定の大きな負荷を与えることができず、評価箇所の強度限界を適切に評価できない場合があった。
【0011】
例えば、車両の部分構造であり、センターピラーと、センターピラーの上端部に接合されるルーフレールの部分と、センターピラーの下端部に接合されるサイドシルの部分とから構成されるセンターピラーアッセンブリを試験体とする衝撃試験において、試験体に衝撃荷重を作用させる衝撃試験を実施した結果、センターピラーとサイドシルとの接続部で最も早期に塑性変形が生じた場合、センターピラーとルーフレールとの接続部には、その時点で作用している荷重より大きな荷重が作用しにくくなる。このため、限界まで荷重を作用させることができないので、センターピラーとルーフレールとの接続部の限界強度を評価できなかった。
【0012】
そこで、本発明は、強度試験方法であって、部分構造を模擬した部分構造モデルを準備する部分構造モデル準備工程と、部分構造モデルにおける脆弱箇所を特定する脆弱箇所特定工程と、部分構造モデルにおける脆弱箇所を除く他の箇所から評価箇所を指定する評価箇所指定工程と、評価箇所を模擬する評価モデルを準備する評価モデル準備工程と、評価モデルに、超過負荷を与える評価試験工程と、を含む。これにより、脆弱箇所とは異なる評価箇所に大きな負荷を積極的に与えて、評価箇所の限界強度を評価できる。よって、部分構造における評価箇所の強度限界を適切に評価できる。
以下、本発明の実施形態に係る強度試験方法を説明する。
【0013】
(第1実施形態)
図1は、車両全体の構造を表すフルカーモデル1の斜視図である。
図2は、第1実施形態に係る部分構造モデル3の正面図である。
図3は、第1実施形態に係る評価モデル4の正面図である。なお、
図1において、二点鎖線は、特定負荷Lが作用して変形したセンターピラー21を表している。
以下、部分構造Pが、センターピラー21と、センターピラー21の上端部に接続されるルーフレール23の部分と、センターピラー21の下端部に接続されるサイドシル22の部分とから構成されるセンターピラーアッセンブリ2であり、脆弱箇所Wがセンターピラーアッセンブリ2におけるセンターピラー21とサイドシル22との接続部であり、評価箇所Eがセンターピラー21とルーフレール23との評価接続部Jである場合を想定し、本実施形態に係る強度試験方法を時系列に沿って説明する。
【0014】
(第1強度試験方法)
(A1)まず、
図1に示すような、部分構造Pを含む車両全体の構造を表すフルカーモデル1に対して、荷重(衝撃荷重、引張荷重、圧縮荷重)、モーメント又はそれらの組み合わせのような特定負荷Lが作用した際に発生する応力、ひずみ等の解析を行う。そして、解析結果に基づき、
図2に示すような、センターピラーアッセンブリ2(部分構造P)を模擬した部分構造モデル3を準備する(部分構造モデル準備工程)。
部分構造モデル3は、治具Bによって拘束条件を模擬することで境界条件(拘束条件及び荷重条件)が設定された、実際の車両に用いられるセンターピラーアッセンブリ2を切り出したような実体のある部分構造模型であってよい。治具Bは、拘束条件によって、適宜の剛性に設定できる。部分構造モデル3は、境界条件が設定された、例えば、有限要素法に用いられる有限要素モデルのような、実体のないコンピュータシミュレーション用の解析モデルであってもよい。すなわち、センターピラーアッセンブリ2(部分構造P)を有限要素モデルに変換して部分構造モデル3を作成してもよい。これにより、実体のある部分構造模型を作成することなく、部分構造モデル準備工程を実現できる。
なお、フルカーモデル1に換えて、実際の車両を用いてもよい。なお、部分構造Pは、センターピラーアッセンブリ2に限らず、車両全体の構造におけるAピラー、ルーフレール及びそれらの接続部を含む構造であってもよい。なお、部分構造Pは、車両全体に対する部分構造に限らず、他の全体構造(例えば、飛翔体、船舶等)における部分構造であってもよい。
【0015】
(A2)次に、センターピラーアッセンブリ2(部分構造P)における脆弱箇所Wを特定する(脆弱箇所特定工程)。脆弱箇所Wの特定は、部分構造モデル3に対して特定負荷Lを与えて、部分構造モデル3における脆弱箇所Wを特定する。脆弱箇所Wは、例えば、
図2に示すように、部分構造モデル3におけるセンターピラー31とサイドシル32との接続部である。脆弱箇所Wの特定は、実体を対象にした強度試験の結果に基づいて人間が行ってよく、コンピュータ支援設計解析(CAE解析)の結果に基づいてコンピュータが行ってもよい。人間が行う場合、例えば、部分構造モデル3に対して、所定の位置で所定の方向に特定負荷Lが与えられた際に、塑性変形が最も大きい領域を脆弱箇所Wとして特定する。コンピュータが行う場合、詳細には、センターピラーアッセンブリ2(部分構造P)を模擬する部分構造モデル3に対して、所定の位置で所定の方向に特定負荷Lを与えて、ひずみ又は応力の分布を解析出力として出力する解析を行い、その解析出力に基づく指標(例えば、単位体積におけるひずみの集中度合いを表すひずみ分布密度)が所定の閾値より大きい領域を脆弱箇所Wとして特定する。解析出力は、適宜、ひずみ又は応力の大きさに応じたグラデーションで表示されたものであってよい。これにより、脆弱箇所Wを客観的に特定できる。
【0016】
(A3)次に、センターピラーアッセンブリ2(部分構造P、
図1参照)を模擬する部分構造モデル3における、脆弱箇所Wを除く他の箇所から、評価箇所Eを指定する(評価箇所指定工程)。評価箇所Eは、脆弱箇所Wを除く他の箇所において、脆弱箇所Wの次に脆弱な箇所であってよく、任意の箇所であってもよい。評価箇所Eの指定は、人間が行ってよく、コンピュータが行ってもよい。評価箇所Eは、例えば、センターピラー部41(第1部材)と、ルーフレール部43(第2部材)と、センターピラー部41(第1部材)とルーフレール部43(第2部材)とを接続する評価接続部Jと、を有する構造である。これにより、部分構造モデル3における評価箇所Eの強度限界を適切に評価できる。
【0017】
コンピュータによる評価箇所Eの指定は、次のように行ってもよい。
(A31)まず、部分構造モデル3となる第1部分構造モデルから、上述の脆弱箇所特定工程により、所定の領域を有する脆弱箇所Wとなる第1脆弱箇所を特定する。
(A32)次に、その第1部分構造モデルから第1脆弱箇所を除いた残りの第1残余構造をモデル化した第2部分構造モデルを作成する。
(A33)次に、その第2部分構造モデルに対して再び上述の脆弱箇所特定工程により、所定の領域を有する第2脆弱箇所を特定する。
(A34)次に、その第2部分構造モデルから第2脆弱箇所を除いた残りの第2残余構造をモデル化して第3部分構造モデルを作成する。
(A35)次に、その第3部分構造モデルに対して再び上述の脆弱箇所特定工程により、所定の領域を有する第3脆弱箇所を特定する。
(A36)次に、その第3部分構造モデルから第3脆弱箇所を除いた残りの第3残余構造をモデル化して第4部分構造モデルを作成する。
(A37)そして、このようなシーケンスを、第(n-1)番目の第(n-1)残余構造をモデル化した第n部分構造モデルが、所定の領域より小さくなるまで繰り返す。
このようにして、第1脆弱箇所を除く第2脆弱箇所、第3脆弱箇所、・・・、及び第n脆弱箇所のいずれか又は全てを、評価箇所Eとして指定できる。
【0018】
(A4)次に、評価箇所Eを模擬する評価モデル4を準備する(評価モデル準備工程)。
評価モデル4は、
図3に示すように、部分構造Pを模擬した部分構造モデル3(
図2参照)から、評価箇所Eに対応する部分を更に切り出した部分である。評価モデル4は、センターピラー部41と、ルーフレール部43と、センターピラー部41とルーフレール部43との評価接続部Jと、部分構造Pから切り出した位置の部材断面に対応する端部に形成された治具BB1,BB2と、を備えている。
評価モデル4は、治具BB1,BB2によって拘束条件を模擬することで境界条件(拘束条件及び荷重条件)が設定された、センターピラーアッセンブリ2(部分構造P、
図1参照)における評価箇所Eを切り出したような実体のある部分構造模型であってよい。なお、治具BB1,BB2は、拘束条件によって、適宜の剛性に設定できる。評価モデル4は、境界条件が設定された、例えば、有限要素法に用いられる有限要素モデルのような、実体のないコンピュータシミュレーション用の解析モデルであってもよい。
これにより、評価箇所Eにおける評価接続部Jの接合強度を評価できる。よって、評価箇所Eにおける評価接続部Jの強度限界を適切に評価できる。評価接続部Jは、溶接部であってよい。評価接続部Jが溶接部であると、評価箇所Eにおける溶接部の接合強度を評価できる。接続部は、スポット溶接部であってよい。評価接続部Jがスポット溶接部であると、評価箇所Eにおけるスポット溶接部の接合強度を評価できる。
【0019】
(A5)次に、
図4に示すように、評価モデル4に、超過負荷Hを与える(評価試験工程)。ここで、超過負荷Hは、脆弱箇所特定工程において、センターピラーアッセンブリ2(部分構造P)に対して与えた特定負荷Lによって評価箇所Eに作用する分配負荷Dより大きな負荷である。言い換えると、分配負荷Dは、脆弱箇所特定工程において、センターピラーアッセンブリ2に対して特定負荷Lが作用して脆弱箇所Wが破損した際に、評価箇所Eに作用している負荷である。そして、評価試験工程では、評価モデル4に対して、この分配負荷Dより大きな負荷である超過負荷Hを与える。これにより、評価箇所Eに対して、実際の車両への衝突では作用しないような大きな負荷を与えることができる。よって、部分構造Pにおける評価箇所Eの強度限界を適切に評価できる。
【0020】
(第1強度試験装置)
強度試験方法を実施するための第1強度試験装置5について説明する。
図4は、第1実施形態に係る第1強度試験装置5の斜視図を示す。なお、
図4において、矢印で示されたX、Y及びZは、3次元直交座標系における3本の座標軸を示す。
図4に示すように、第1強度試験装置5は、評価試験工程において、実体のある部分構造模型である評価モデル4に対して、超過負荷Hを与えることが可能な装置である。
第1強度試験装置5は、評価モデル4の一端部を、治具BB1を介して所定の拘束条件で支持する第1固定具51と、評価モデル4の他端部を、治具BB2を介して所定の拘束条件で支持する第2固定具52と、評価モデル4の他端部を、X軸に沿って白抜き矢印で示す方向に引っ張るシリンダ53と、シリンダ53の端部に設けられ、軸部材55を回転自在に軸支するチャック54と、評価モデル4の治具BB2を固定する軸部材55と、を備えている。軸部材55は、X軸に対して垂直なY軸を中心として、矢印Rで示すように回転自在となっている。
治具BB1は、第1固定具51に直接固定されたルーフレール部43の部分であり、回転及び移動が拘束されている。
治具BB2は、センターピラー部41の部分の端部に設けられており、軸部材55に固定されている。
また、評価モデル4の一端部に、Y軸周りのモーメントを作用させるため、評価モデル4の一端部と、評価モデル4の他端部とは、Z軸方向において、ΔZだけ離れている。
【0021】
そして、シリンダ53により、評価モデル4の他端部を、X軸に沿って白抜き矢印で示す方向に超過負荷Hで引っ張ると、評価モデル4の一端部と評価モデル4の他端部とがΔZだけ離れているので、評価モデル4に対して、Y軸周りの回転モーメントを与えながら、X軸方向の引張荷重を与えることができる。
このようにして、第1強度試験装置5を用いて、本実施形態に係る強度試験方法を実施できる。
【0022】
このように、部分構造Pに対して特定負荷Lを与えても、脆弱箇所Wが変形してしまい、評価接続部Jには、比較的小さな分配負荷Dしか与えられなかったが、本実施形態に係る強度試験方法及び第1強度試験装置5によれば、評価モデル4に作用するX軸方向の引張荷重を、脆弱箇所特定工程において部分構造Pに対して与えた特定負荷Lによって評価箇所Eに作用する分配負荷Dより大きな超過負荷Hとすると、評価接続部Jに、分配負荷Dより大きな負荷、例えば、評価接続部Jを破断させるほどの大きな負荷を与えることができる。よって、部分構造Pにおける評価箇所E又は評価接続部Jの強度限界を適切に評価できる。
【0023】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る強度試験方法及び第2実施形態に係る強度試験方法を実施するための第2強度試験装置8について説明する。なお、以下、第1実施形態に係る強度試験方法又は第1実施形態に係る強度試験方法を実施するための第1強度試験装置5と共通する部分は、説明を省略する場合がある。
図5は、第2実施形態に係る部分構造モデル6の正面図である。
図6は、第2実施形態に係る評価モデル7の正面図である。
【0024】
(第2強度試験方法)
(B1)まず、
図1に示すような、部分構造Pを含む車両全体の構造を表すフルカーモデル1に対して、荷重(衝撃荷重、引張荷重、圧縮荷重等)、モーメント又はそれらの組み合わせのような特定負荷Lが作用した際に発生する応力、ひずみ等の解析を行う。そして、解析結果に基づき、
図5に示すような、センターピラーアッセンブリ2(部分構造P、
図1参照)を模擬した部分構造モデル6を準備する(部分構造モデル準備工程)。
部分構造モデル6は、治具Bによって拘束条件を模擬することで境界条件(拘束条件及び荷重条件)が設定された、実際の車両に用いられるセンターピラーアッセンブリ2を切り出したような実体のある部分構造模型であってよい。治具Bは、拘束条件によって、適宜の剛性に設定できる。ここでは、治具Bは、サイドシル62又はルーフレール63の長手方向周りに所定のねじれ剛性を有している。これにより、治具Bは、その長手方向周りに回転自由である状態と回転拘束である状態との中間である、回転に対して所定の抵抗をしながらねじれ塑性変形するような状態の、全体構造から切り出した部分構造Pの境界における拘束条件を模擬できる。このような治具Bとすることにより、部分構造モデル6に特定負荷Lを作用させた際の変形モードを促進し、顕著にできる。部分構造モデル6は、境界条件が設定された、例えば、有限要素法に用いられる有限要素モデルのような、実体のないコンピュータシミュレーション用の解析モデルであってもよい。すなわち、センターピラーアッセンブリ2(部分構造P)を有限要素モデルに変換して部分構造モデル6を作成してもよい。これにより、実体のある部分構造模型を作成することなく、部分構造モデル準備工程を実現できる。
【0025】
(B2)次に、センターピラーアッセンブリ2(部分構造P)における脆弱箇所Wを特定する(脆弱箇所特定工程)。脆弱箇所Wの特定は、部分構造モデル6に対して特定負荷Lを与えて、部分構造モデル6における脆弱箇所Wを特定する。脆弱箇所Wは、例えば、
図5に示すように、部分構造モデル6におけるセンターピラー61とサイドシル62との接続部である。
【0026】
(B3)次に、センターピラーアッセンブリ2(部分構造P)を模擬する部分構造モデル6における、脆弱箇所Wを除く他の箇所から、評価箇所Eを指定する(評価箇所指定工程)。評価箇所Eは、例えば、センターピラー61(第1部材)と、ルーフレール63(第2部材)と、センターピラー61(第1部材)とルーフレール63(第2部材)とを接続する評価接続部Jと、を有する構造である。これにより、部分構造モデル6における評価箇所Eの強度限界を適切に評価できる。
【0027】
(B4)次に、評価箇所Eを模擬する評価モデル7を準備する(評価モデル準備工程)。
評価モデル7は、
図6に示すように、部分構造Pを模擬した部分構造モデル6(
図5参照)から、評価箇所Eに対応する部分を更に切り出した部分である。評価モデル7は、センターピラー部71と、ルーフレール部73と、センターピラー部71とルーフレール部73との評価接続部Jと、部分構造P(
図1参照)から切り出した位置の部材断面に対応する端部に形成された治具BB1,BB2と、を備えている。
評価モデル7は、治具BB1,BB2によって拘束条件を模擬することで境界条件(拘束条件及び荷重条件)が設定された、センターピラーアッセンブリ2(部分構造P)における評価箇所Eを切り出したような実体のある部分構造模型であってよい。
【0028】
(B5)次に、
図7に示すように、評価モデル7に、超過負荷Hを与える(評価試験工程)。そして、評価試験工程では、評価モデル7に対して、分配負荷Dより大きな負荷である超過負荷Hを与える。これにより、評価箇所Eに対して、実際の車両への衝突では作用しないような大きな負荷を与えることができる。よって、部分構造Pにおける評価箇所Eの強度限界を適切に評価できる。
【0029】
(第2強度試験装置)
次に、強度試験方法を実施するための第2強度試験装置8について説明する。
図7は、第2実施形態に係る第2強度試験装置8の斜視図を示す。なお、
図7において、矢印で示されたX、Y及びZは、3次元直交座標系における3本の座標軸を示す。
図7に示すように、第2強度試験装置8は、評価試験工程において、実体のある部分構造模型である評価モデル7に対して、超過負荷Hを与えることが可能な装置である。
第2強度試験装置8は、評価モデル7の一端部を、治具BB1を介して所定の拘束条件で支持する第1固定具81と、評価モデル7の他端部を、治具BB2を介して所定の拘束条件で支持する第2固定具82と、評価モデル7の他端部を、X軸に沿って白抜き矢印で示す方向に引っ張るシリンダ83と、シリンダ83の端部に設けられ、軸部材85を支持するチャック84と、評価モデル7の治具BB2を支持する軸部材85と、を備えている。軸部材85は、治具BB2に設けられた通孔hを貫通している。
治具BB1は、第1固定具81に直接固定されたルーフレール部73の部分であり、回転及び移動が拘束されている。
治具BB2は、センターピラー部71の端部に設けられており、軸部材85に軸支されている。
また、評価モデル7の一端部に、Z軸周りのモーメントを作用させるため、評価モデル7の一端部の中心と、評価モデル7の他端部において軸部材85に支持されている箇所とは、Y軸方向において、ΔYだけ離れている。
【0030】
そして、シリンダ83により、評価モデル7の他端部を、X軸に沿って白抜き矢印で示す方向に超過負荷Hで引っ張ると、評価モデル7の一端部の中心と評価モデル7の他端部において軸部材85に支持されている箇所とがY軸方向にΔYだけ離れているので、評価モデル7に対して、Z軸周りの回転モーメントを与えながら、X軸方向の引張荷重を与えることができる。
このようにして、第2強度試験装置8を用いて、本実施形態に係る強度試験方法を実施できる。
【0031】
上述のように、部分構造Pに対して特定負荷Lを与えた場合、脆弱箇所Wが変形してしまい、評価接続部Jには、比較的小さな分配負荷Dしか与えられなかったが、本実施形態に係る強度試験方法及び第2強度試験装置8によれば、評価モデル7に作用するX軸方向の引張荷重を、脆弱箇所特定工程において部分構造Pに対して与えた特定負荷Lによって評価箇所Eに作用する分配負荷Dより大きな超過負荷Hとすると、評価接続部Jに、分配負荷Dより大きな負荷、例えば、評価接続部Jを破断させるほどの大きな負荷を与えることができる。よって、部分構造Pにおける評価箇所E又は評価接続部Jの強度限界を適切に評価できる。
【0032】
なお、強度試験装置によって評価モデルを支持する手段は、上述の手段に限らない。強度試験装置によって評価モデルを支持する手段は、評価モデルが模擬する拘束条件(拘束、自由又は塑性ヒンジ)と荷重の種類(荷重、モーメント)との組み合わせに応じて、X軸、Y軸及びZ軸から構成される3次元空間の直交座標系における6自由度毎に設定できる。
【0033】
本実施形態に係る強度試験方法は、部分構造Pを模擬した部分構造モデル3,6を準備する部分構造モデル準備工程と、部分構造モデル3,6における脆弱箇所Wを特定する脆弱箇所特定工程と、部分構造モデル3,6における脆弱箇所Wを除く他の箇所から評価箇所Eを指定する評価箇所指定工程と、評価箇所Eを模擬する評価モデル4,7を準備する評価モデル準備工程と、評価モデル4,7に、超過負荷Hを与える評価試験工程と、を含むので、脆弱箇所Wが破損した際に評価箇所Eに作用する分配負荷Dよりも大きな超過負荷Hを評価箇所Eに対して与えることができ、部分構造Pにおける評価箇所Eの強度限界を適切に評価できる。
【符号の説明】
【0034】
1 フルカーモデル
2 センターピラーアッセンブリ
3,6 部分構造モデル
4,7 評価モデル
5 第1強度試験装置
8 第2強度試験装置
11 アクチュエータ
21,31,61 センターピラー
22,32,62 サイドシル
23,63 ルーフレール
41,71 センターピラー部
43,73 ルーフレール部
51,81 第1固定具
52,82 第2固定具
53,83 シリンダ
54,84 チャック
55,85 軸部材
B,BB1,BB2 治具
D 分配負荷
E 評価箇所
h 通孔
H 超過負荷
J 評価接続部
L 特定負荷
P 部分構造
R 矢印
W 脆弱箇所