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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-08
(45)【発行日】2023-08-17
(54)【発明の名称】測温システム及び測温方法
(51)【国際特許分類】
   G01J 5/00 20220101AFI20230809BHJP
   G01J 5/60 20060101ALI20230809BHJP
   B21C 51/00 20060101ALI20230809BHJP
   B21B 38/00 20060101ALI20230809BHJP
【FI】
G01J5/00 101A
G01J5/60 Z
B21C51/00 E
B21B38/00 C
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020021330
(22)【出願日】2020-02-12
(65)【公開番号】P2021128013
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】土屋 雅季
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 雅人
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-23635(JP,A)
【文献】特開2012-93177(JP,A)
【文献】特開平5-273043(JP,A)
【文献】国際公開第2018/199187(WO,A1)
【文献】特開平5-59451(JP,A)
【文献】特開2013-255943(JP,A)
【文献】特許第4349177(JP,B2)
【文献】特開2005-29883(JP,A)
【文献】特開2010-179321(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 38/00
B21C 51/00
G01J 5/00 - G01J 5/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間圧延ラインにおいて鋼材の表面温度を測定する測温システムであって、
前記鋼材が発する熱放射光を2種類の波長でそれぞれ測定した結果に基づいて、前記鋼材の表面温度を算出する温度測定装置を備え、
前記熱間圧延ライン上のデスケーリング装置又は圧延機の通過後で、前記鋼材の表面に生成する酸化鉄の最表層の組成がウスタイトである状態で、かつ、前記鋼材の復熱が所定の割合に達した状態で、前記温度測定装置により前記鋼材の表面温度を測定することを特徴とする測温システム。
【請求項2】
鋼材の表面に生成する酸化鉄の最表層の組成を検出する検出装置を備え、
前記デスケーリング装置又は前記圧延機の通過後で、前記鋼材の表面に生成する酸化鉄の最表層の組成がウスタイトである状態と、前記検出装置により検出されているときに、前記温度測定装置により前記鋼材の表面温度を測定することを特徴とする、請求項1に記載の測温システム。
【請求項3】
前記鋼材の表面温度を温度履歴計算により計算し、前記デスケーリング装置又は前記圧延機の通過後で、前記鋼材の復熱が所定の割合に達したと判別される位置で、前記温度測定装置により前記鋼材の表面温度を測定することを特徴とする、請求項1又は2に記載の測温システム。
【請求項4】
前記デスケーリング装置又は前記圧延機の通過後から、前記鋼材の表面に生成する酸化鉄の最表層の組成がウスタイトである状態で、前記鋼材の表面温度を測定するまでの時間、
又は、前記デスケーリング装置又は前記圧延機の通過後から、前記鋼材の表面に生成する酸化鉄の最表層の組成がウスタイトである状態で、前記鋼材の表面温度を測定する位置範囲が、
鋼材の表面酸化速度が酸素分子の供給過程に律速されているか、鉄原子の拡散過程に律速されているかの計算に基づいて、前記鋼材の表面性状が単層スケールであると判別される時間又は位置範囲に予め設定されていることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の測温システム。
【請求項5】
前記デスケーリング装置又は前記圧延機の通過後で、前記鋼材の表面に生成する酸化鉄の最表層の組成がウスタイトである状態で、かつ、前記鋼材の復熱が所定の割合に達した状態で、前記温度測定装置により前記鋼材の表面温度を測定するように、前記熱間圧延ライン上における前記温度測定装置の位置を変更することを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の測温システム。
【請求項6】
前記デスケーリング装置又は前記圧延機の通過後で、前記鋼材の表面に生成する酸化鉄の最表層の組成がウスタイトである状態で、かつ、前記鋼材の復熱が所定の割合に達した状態で、前記温度測定装置により前記鋼材の表面温度を測定するように、前記熱間圧延ラインの圧延速度を変更することを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の測温システム。
【請求項7】
前記熱間圧延ライン上の複数のデスケーリング装置及び圧延機のうち、最上流のデスケーリング装置又は圧延機の出側で、前記温度測定装置により前記鋼材の表面温度を測定することを特徴とする、請求項1乃至のいずれか1項に記載の測温システム。
【請求項8】
前記2種類の波長は、水の分光吸収係数が互いに同一となる2種類の波長であることを特徴とする、請求項1乃至のいずれか1項に記載の測温システム。
【請求項9】
熱間圧延ラインにおいて鋼材の表面温度を測定する測温方法であって、
前記鋼材が発する熱放射光を2種類の波長でそれぞれ測定した結果に基づいて、前記鋼材の表面温度を算出する温度測定装置を用いて、
前記熱間圧延ライン上のデスケーリング装置又は圧延機の通過後で、前記鋼材の表面に生成する酸化鉄の最表層の組成がウスタイトである状態で、かつ、前記鋼材の復熱が所定の割合に達した状態で、前記鋼材の表面温度を測定することを特徴とする測温方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間圧延ラインにおいて鋼材の表面温度を測定する測温システム及び測温方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱間圧延ラインにおいて、一般的に、単色放射温度計を用いた放射測温法により鋼材の表面温度を測定して、ライン制御や品質管理を行っている。
しかしながら、熱間圧延ライン上の多くの箇所では、鋼材上に冷却やデスケーリング(スケールの除去)に使用された水が流動、滞留していたり、蒸発した水が湯気となって立ち込めていたりする。このような環境で鋼材の表面温度を測定しようとする場合、単色放射温度計を用いた放射測温法では、鋼材から放射温度計までの光路上で水や蒸気により観測光が減衰し、その減衰量を定量的に知ることができないため、測定誤差が生じるという課題がある。
【0003】
このような課題に鑑みて、特許文献1には、測定対象物(鋼材)が発する近赤外帯域の熱放射光を、吸収体(水)の分光吸収係数が互いに等しい2種類の波長でそれぞれ測定し、得られた分光放射輝度から測定対象物の温度を算出する測温法(2色法と称される)が開示されている。2色法では、光路上で水や蒸気により観測光が減衰した場合にも、その減衰程度が選定した2波長で一致するので、正確な測温が可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-23635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
2色法では、2つの波長で観測した分光放射輝度の比が、温度にのみ関連したものになるように、2つの波長を選択して測温を行うことを測定原理とする。そして、2つの波長での分光放射率は、同じ測定対象物であれば、互いに等しいことが前提である。実際には、同じ測定対象物の表面における分光放射率が、2つの波長で異なる場合には、測定誤差が生じるという課題がある。
ここで、熱間圧延ラインでは、図8に示すように、デスケーリング後、まず鋼材の表面に単層スケール(ウスタイト)が生成され、そこから複層スケール(表層からヘマタイト、マグネタイト、ウスタイトの順)に変化することが知られている。このように鋼材の表面性状(表面のスケール状態)が時間経過に伴って変化する場合、2色法で測温を行うタイミングによっては、表面性状に起因する測定誤差が生じるおそれがある。
なお、測定対象物の表面における分光放射率が2波長で異なる場合に、その違いを予め把握しておき補正する対応も可能であるが、表面性状が時間経過に伴って変化する場合には、その補正も困難である。
【0006】
本発明は上記のような点に鑑みてなされたものであり、熱間圧延ラインにおいて鋼材の表面温度を測定するときの測定誤差を低減させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の測温システムは、熱間圧延ラインにおいて鋼材の表面温度を測定する測温システムであって、前記鋼材が発する熱放射光を2種類の波長でそれぞれ測定した結果に基づいて、前記鋼材の表面温度を算出する温度測定装置を備え、前記熱間圧延ライン上のデスケーリング装置又は圧延機の通過後で、前記鋼材の表面に生成する酸化鉄の最表層の組成がウスタイトである状態で、かつ、前記鋼材の復熱が所定の割合に達した状態で、前記温度測定装置により前記鋼材の表面温度を測定することを特徴とする。
また、本発明の測温方法は、熱間圧延ラインにおいて鋼材の表面温度を測定する測温方法であって、前記鋼材が発する熱放射光を2種類の波長でそれぞれ測定した結果に基づいて、前記鋼材の表面温度を算出する温度測定装置を用いて、前記熱間圧延ライン上のデスケーリング装置又は圧延機の通過後で、前記鋼材の表面に生成する酸化鉄の最表層の組成がウスタイトである状態で、かつ、前記鋼材の復熱が所定の割合に達した状態で、前記鋼材の表面温度を測定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、熱間圧延ラインにおいて鋼材の表面温度を測定するときの測定誤差を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】熱間圧延ラインの測温システムの構成例を示す図である。
図2】加熱炉抽出~粗圧延出側における鋼材の表面温度履歴の例を示す図である。
図3】鋼材の復熱を説明するための図である。
図4】鋼材の表面温度及び表面酸化速度の時間推移の例を示す特性図である。
図5】鋼材の表面温度及びスケール厚の時間推移の例を示す特性図である。
図6】鋼材の長手方向位置毎に、鋼材の表面温度及び2色式放射温度計の輝度出力を縦軸としてプロットした特性図である。
図7】2色式放射温度計を用いて、鋼材の表面性状が単層スケールであると判別される位置範囲で測温した結果と、複層スケールであると判別される位置範囲で測温した結果とを説明するための図である。
図8】鋼材の表面のスケール状態を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
図1に、熱間圧延ラインにおいて鋼材1の表面温度を測定する測温システムの構成例を示す。熱間圧延ラインでは、加熱炉2から抽出された鋼材(スラブ)1が、VSB(Vertical Scale Breaker)による幅圧下を経て、複数の粗圧延機R1~R4で圧延される(図中の矢印で示す搬送方向を参照)。各粗圧延機R1~R4の直前や直後には、デスケーリング装置d1~d4が設置されている。デスケーリング装置d1~d4は、鋼材1の表面に加圧水を吹き付けてデスケーリングを行う。図2に、加熱炉抽出~粗圧延出側における鋼材1の表面温度履歴の例を示す。粗圧延機R1~R4を通過する過程で、デスケーリング及び圧延による抜熱で鋼材1の表面温度が下がり、その後に復熱で表面温度が上がることを繰り返すことがわかる。なお、本例では、粗圧延機R2で3パス圧延が行われる。
【0011】
本実施形態では、最上流の粗圧延機R1の直前にデスケーリング装置d1が設置されており、粗圧延機R1の出側で、温度測定装置3により鋼材1の表面温度を測定する。温度測定装置3は、2色式放射温度計である。以下に詳述するが、鋼材1がデスケーリング装置d1及び粗圧延機R1の通過後で、鋼材1の表面に生成する酸化鉄の最表層の組成がウスタイトである状態、かつ、鋼材1の復熱が所定の割合に達した状態で、鋼材1の表面温度を測定するための最適測温範囲が決定されており、その最適測温範囲に温度測定装置3が設置されている。
【0012】
2色法では、既述したように、2つの波長での分光放射率は、同じ測定対象物であれば、互いに等しいことが前提である。しかし、実際には、同じ測定対象物の表面における分光放射率が、2つの波長で異なる場合には、測定誤差が生じるという課題があるため、2つの波長での分光放射率が、安定的に一致する条件において測温を行う必要がある。
ここでは、2波長として、例えば1200nm及び1300nmを選定した場合を説明する。1200nm及び1300nmの波長は、鋼材1と温度測定装置3との間の光路上に存在し、測定対象物(鋼材)が発する近赤外帯域の熱放射光の吸収体である、水の分光吸収係数が互いに同一となる2種類の波長である。
発明者は、波長1200nm及び1300nmにおける鋼材表面の分光放射率が酸化状態によってどのように変化して測温に影響するかを検討した。表1に、酸化状態が異なる酸化鉄毎に、各酸化鉄が単体であるとしたときの、光学定数(複素屈折率)を使ったシミュレーションをして求めた分光放射率から測温誤差を計算した結果を示す。表1に示すように、酸化鉄の一種であり、単層スケールの成分であるウスタイト(FeO)の分光放射率は2波長で0.4%の差がある。そして、ウスタイトを基準にした放射率比(波長1200nmにおける分光放射率÷波長1300nmにおける分光放射率)で表すと、マグネタイト(Fe34)の放射率比は-1.8%、ヘマタイト(Fe23)の放射率比は+0.6%変化する。これら放射率比の変化は、1000℃の測定対象の場合でそれぞれ-31℃程度、+10℃程度の誤差に対応する。すなわち、鋼材1の表面性状が単層スケール(ウスタイト)から複層スケール(表層からヘマタイト、マグネタイト、ウスタイトの順)に変化すると、測定誤差が生じ、特にマグネタイトが最表層となるタイミングで最大の測定誤差が生じる。表1では、シミュレーションにより得られた分光放射率から測温誤差を計算した結果を示したが、このような事象は、実験室で実際に測定した場合にも確認することができた。
【0013】
【表1】
【0014】
このように2波長として1200nm/1300nmを選定する場合、鋼材1の表面性状が単層スケールであれば、2波長の分光放射率の差は無視できる程度である。これに対して、鋼材1の表面性状が複層スケールに変化し、特にマグネタイトが最表層となるタイミングでは、2波長の分光放射率が1%以上異なり、大きな測定誤差が生じる。
これらのことを考えると、熱間圧延ライン上で、鋼材1の表面性状が単層スケールの状態で、2色法で測温を行うのがよいといえる。
デスケーリング直後であれば、確実に単層スケールと推定されるので、表面性状に起因する測定誤差を低減させることができる。一方で、実用に耐え得る鋼材の表面温度を測定するには、デスケーリング及び圧延により抜熱してから、復熱がある程度完了している状態で測温を行う必要がある。
【0015】
そこで、以下に述べるようにして、最適測温範囲を決定する。最適測温範囲は、上述したように、デスケーリング装置d1及び粗圧延機R1の通過後で、鋼材1の表面に生成する酸化鉄の最表層の組成がウスタイトである状態、すなわち鋼材1の表面性状が単層スケールの状態、かつ、鋼材1の復熱が所定の割合に達した状態で、鋼材1の表面温度を測定するための、熱間圧延ラインの搬送方向の位置範囲である。
【0016】
まず、鋼材1の表面性状が単層スケールから複層スケールに変化することをどのように判別するかについて説明する。
この判別には、鋼材の表面酸化速度が酸素分子の供給過程に律速されているか、鉄原子の拡散過程に律速されているかの計算を利用する。雰囲気からの酸素分子の供給過程が律速する場合の酸化速度と、鉄原子の拡散過程が律速する場合の酸化速度とについて、競争反応を考慮した式(1)~(3)のモデルが知られている。
酸素分子の供給が律速する場合の酸化増量及び酸化速度の式(単層スケール生成時)
w=kl×t=kl0×CO2×t
∴dw/dt=kl0×CO2 ・・・(1)
鉄原子の拡散が律速する場合の酸化増量及び酸化速度の式(複層スケール生成時)
w=√(kp×t)
p=kp0×exp(-E/RT)
∴dw/dt=kp/(2w) ・・・(2)
実際の酸化速度の式
dw/dt=min(kl0×CO2,kp/(2w)) ・・・(3)
【0017】
w:酸化層の酸化増量[g/cm2・s]
t:時間[s]
l:直線則速度定数[g/cm2・s2
l0:直線則速度定数klの酸素濃度に対する比例係数[g/cm2・s2・%]
O2:酸素濃度[%]
p:放物線則速度定数[g2/cm4・s]
p0:放物線則速度定数kpの温度依存性に対する比例係数[g2/cm4・s]
E:活性化エネルギ[kJ/mol]
R:気体定数[J/(K・mol)]
T:温度[K]
【0018】
式(1)で計算される酸化速度が式(2)で計算される酸化速度以下であれば、鋼材1の表面性状が単層スケールの状態であるのに対して、式(1)で計算される酸化速度が式(2)で計算される酸化速度を超えると、鋼材1の表面性状が複層スケールの状態であるといえる。
このように式(1)~(3)のモデルを用いてシミュレーションを行い、デスケーリング装置d1及び粗圧延機R1を通過して、デスケーリング及び圧延された後の鋼材1の表面性状が、複層スケールに変化するまでの時間を算出する。この時間に基づいて、鋼材1の圧延速度や搬送速度を考慮して、熱間圧延ライン上で鋼材1の表面性状が単層スケールであると判別される位置範囲を設定する。
【0019】
次に、鋼材1の復熱が所定の割合に達することをどのように判別するかについて説明する。
鋼材1の表面温度の温度履歴計算を行い、デスケーリング及び圧延により抜熱してから、復熱が所定の割合に達するまでの時間を算出する。図3を参照して、復熱が所定の割合に達するまでの時間について説明する。復熱の割合は、式(4)で算出する。最低温度は、デスケーリング及び圧延による抜熱直後の鋼材1の表面温度である。最低温度とその後の最高温度(完全復熱温度)との差分を100%とし、例えばその60%に達するまでの時間を算出する。
(復熱の割合)=(温度-最低温度)/(完全復熱温度-最低温度)・・・(4)
このようにデスケーリング装置d1及び粗圧延機R1を通過して、デスケーリング及び圧延された後の鋼材1の復熱が、所定の割合に達するまでの時間を算出する。この時間に基づいて、鋼材1の圧延速度や搬送速度を考慮して、熱間圧延ライン上で鋼材1の復熱が所定の割合に達すると判別される位置を設定する。
【0020】
以上のようにして設定した、鋼材1の表面性状が単層スケールであると判別される位置範囲と、鋼材1の復熱が所定の割合に達すると判別される位置とを用いて、最適測温範囲を決定する。この最適測温範囲に温度測定装置3を設置することにより、デスケーリング装置d1及び粗圧延機R1の通過後で、鋼材1の表面に生成する酸化鉄の最表層の組成がウスタイトである状態、かつ、鋼材1の復熱が所定の割合に達した状態で、鋼材1の表面温度を測定できる。したがって、表面性状に起因する測定誤差を低減させるとともに、デスケーリングによる一時的な表面温度低下の影響を低減させて、実用に耐え得る鋼材の表面温度の測定が可能になる。
【0021】
以下、最適測温範囲の一具体例を挙げる。
図4に、粗圧延機R1の圧延のタイミングを0秒とし、その後の鋼材1の表面温度履歴と、式(1)~(3)のモデルにより算出される鋼材1の表面酸化速度のシミュレーション結果を示す。特性線401(図4で太線)が鋼材1の表面温度を示し、特性線402(図4で細線)が式(1)で計算される単層スケール生成時の直線状の酸化速度を示し、特性線403(図4で鎖線)が式(2)で計算される複層スケール生成時の放物線状の酸化速度を示し、特性線404(図4で点線)が式(3)で計算される実際の酸化速度を示す。また、図5に、このときのスケール厚みのシミュレーション結果を示す。特性線501(図5で細線)がスケール厚を示す。
図4の特性線402、403の関係に示すように、本例では、22.5秒で酸化速度が酸素分子供給律速から鉄原子拡散律速へと移り変わっており、このタイミングで単層スケールから複層スケールに変化すると判別される。したがって、22.5秒経過前に測温を行うことで、鋼材1の表面に生成する酸化鉄の最表層の組成がウスタイトである状態で測温を行うことができ、表面性状に起因する測定誤差を低減させることが可能となる。
【0022】
また、本例では、2.4秒で鋼材1の復熱が所定の割合である60%に達すると判別される。したがって、2.4秒経過後に測温を行うことで、鋼材1の復熱が所定の割合に達した状態で測温を行うことができ、実用に耐え得る鋼材の表面温度の測定が可能となる。
【0023】
以上から、図4及び図5に示すように、粗圧延機R1での圧延後の2.4秒以上22.5秒以内の時間範囲trで測温を行う。この時間範囲trは、鋼材1の表面に生成する酸化鉄の最表層の組成がウスタイトである状態、かつ、鋼材1の復熱が所定の割合に達している状態である時間範囲である。
本例において、粗圧延機R1の出側速度は1.0~1.8m/sである。この速度範囲と上述の時間範囲trから、粗圧延機R1から4.4m以上22.5m以内を最適測温範囲として決定する。この最適測温範囲に温度測定装置3を設置することにより、デスケーリング装置d1及び粗圧延機R1の通過後で、鋼材1の表面に生成する酸化鉄の最表層の組成がウスタイトである状態、かつ、鋼材1の復熱が所定の割合に達した状態で、鋼材1の表面温度を測定できる。したがって、表面性状に起因する測定誤差を低減させるとともに、実用に耐え得る鋼材の表面温度の測定が可能になる。
【0024】
なお、デスケーリング及び圧延後に複層スケールに変化するまでの時間は、鋼材1の表面温度によって変わることが確認されている。具体的には、鋼材1の表面温度が低温であるほど、より早いタイミングで複層スケールに変化する傾向にある。すなわち、単層スケールである時間が短くなる傾向にある。したがって、加熱炉2からの抽出時の鋼材1の表面温度(抽出温度と呼ぶ)の変動幅を想定しておき、そのうちの最も低い抽出温度である状況を想定して、熱間圧延ライン上で鋼材1の表面性状が単層スケールであると判別される位置範囲を設定するのが好ましい。一方、デスケーリング及び圧延により抜熱してから、復熱が所定の割合に達するまでの時間は、想定される抽出温度の変動幅ではほとんど変わらないことが確認されている。
【0025】
<実施例1>
(1)試験内容
図1で説明した熱間圧延ラインにおいて、粗圧延機R1と粗圧延機R2との間のライン脇に、2色式放射温度計と、比較のため通常の単色放射温度計とを設置し、粗圧延機R1の出側から15mの位置で鋼材の表面温度を測定した。これを500本の鋼材について実施した。なお、鋼材の表面状態及び測定時の状況をビデオカメラで撮像、記録し、温度データ解析時に参照した。粗圧延機R1の出側速度は1.0~1.8m/sの範囲内で分布していた。なお、測定環境は蒸気や湯気が立ちこめており、一部の鋼材では表面を水が流動又は滞留していた。
抽出温度に基づいて鋼材の表面温度履歴を計算し、測定値と比較することで評価を行った。
【0026】
(2)試験結果
図6に、測定結果の一例を示す。図6は、測定した鋼材の長手方向位置を、先端側(Front)は0とし、後端側(Tail)は1として無次元化して横軸とし、この鋼材の長手方向位置毎に、鋼材の表面温度及び2色式放射温度計の輝度出力を縦軸としてプロットした特性図である。
特性線601が抽出温度に基づいて計算される鋼材の表面温度を示す。そして、特性線602が2色式放射温度計による測定値を示し、特性線603が単色放射温度計による測定値を示す。抽出温度に基づいて鋼材の表面温度を計算すると、特性線601に示すように、全長平均1020℃であった。この計算値と比較することで、特性線602に示すように、2色式放射温度計の測定値は、鋼材の全長にわたり妥当な温度プロフィールを示していることが確認できた。一方、特性線603に示すように、単色放射温度計の測定値は、鋼材の全長にわたり計算値に対して低くなっている。特に、図6の点線で囲む、鋼材の先端側(Front側)では、ビデオカメラの撮像結果を確認すると多くの蒸気が発生しており、このような測定状況では、単色放射温度計の測定値が大幅に落ち込んでいることが確認できた。
また、特性線604は、1300nmの波長で測定した分光放射輝度の出力(輝度出力と呼ぶ)であり、特性線605は、1200nmの波長で測定したときの輝度出力である。特性線604、605に示すように、2色式放射温度計の各波長での輝度出力変動は、単色放射温度計と同様のプロフィールを示している。この結果は、図6の点線で囲む鋼材の先端側では、光路上で水や蒸気により観測光が減衰した影響で測定誤差が生じたものと推定されるが、2色式放射温度計の場合は、単色放射温度計を用いる場合と異なり、これらの影響を受けずに測定誤差を小さくすることができていると考えられる。
【0027】
<実施例2>
図7を参照して、2色式放射温度計を用いて、鋼材の表面性状が単層スケールであると判別される位置範囲で測温した結果と、複層スケールであると判別される位置範囲で測温した結果とを比較する。
図7(a)は、粗圧延機R1の圧延のタイミングを0秒とし、その後の鋼材の表面温度履歴(計算値)を示す。測定位置Aが単層スケールであると判別される位置範囲での測定位置であり、測定位置Bが複層スケールであると判別される位置範囲での測定位置である。
図7(b)は、測定した鋼材の長手方向位置を、先端側(Front)は0とし、後端側(Tail)は1として無次元化して横軸とし、この鋼材の長手方向位置毎に、2色式放射温度計により測定した鋼材の表面温度をプロットした特性図である。実線が測定位置Aで測定した鋼材の表面温度を示し、点線が測定位置Bで測定した鋼材の表面温度を示す。測定位置Aでは、2色式放射温度計により測定した表面温度に落ち込みはないが、測定位置Bでは、2色式放射温度計により測定した表面温度に落ち込みがみられる。この現象は、鋼材の表面性状が単層スケールから複層スケールに変化することに起因するものであり、急激な温度の低下は、マグネタイトが最表層となるタイミングで測定誤差が生じたものである。
このように2色式放射温度計で鋼材の表面温度を測定する場合、鋼材の表面性状が複層スケールに変化するタイミングを避け、単層スケールの状態で測定することにより、表面性状に起因する測定誤差を低減させられることが確認できた。
【0028】
<変形例>
上述した実施形態では、鋼材1の表面性状が単層スケールから複層スケールに変化することを判別するのに、鋼材1の表面酸化速度のモデルを利用する例を述べたが、これに限られるものではない。例えば熱間圧延ラインの実操業時に、鋼材1の表面に生成する酸化鉄の最表層の組成を検出する検出装置を用いて、鋼材1の表面性状が単層スケールから複層スケールに変化することを判別して、その実績に基づいて時間範囲tr図4及び図5を参照)を求めるようにしてもよい。また、鋼材1の表面温度を温度履歴計算により計算することにより、スケール生成の挙動を捉えて、鋼材1の表面性状が単層スケールから複層スケールに変化することを判別するようにしてもよい。
【0029】
また、上述した実施形態では、最適測温範囲を決定し、その最適測温範囲に温度測定装置3を設置する例を述べたが、これに限られるものではない。例えば熱間圧延ラインの粗圧延機の圧延速度を変更可能に構成してもよい。又は、熱間圧延ライン上で温度測定装置3の位置を変更可能に構成してもよい。
デスケーリング及び圧延後に複層スケールに変化するまでの時間や、デスケーリング及び圧延により抜熱してから、復熱が所定の割合に達するまでの時間を算出し、時間範囲trを求めることは上述したとおりであるが、その時間範囲trで温度測定装置3により測温を行うように、熱間圧延ラインの粗圧延機の圧延速度を変更してもよい。これにより、固定された温度測定装置3であっても、最適測温範囲の中で温度測定装置3は鋼材1の測温ができて、デスケーリング装置d1及び粗圧延機R1の通過後で、鋼材1の表面に生成する酸化鉄の最表層の組成がウスタイトである状態、かつ、鋼材1の復熱が所定の割合に達した状態で、鋼材1の表面温度を測定できる。
又は、時間範囲trで温度測定装置3により測温を行うように、熱間圧延ライン上の温度測定装置3の位置を変更してもよい。これにより、粗圧延機の鋼材1の圧延速度が変化しても、最適測温範囲の中で温度測定装置3は鋼材1の測温ができて、デスケーリング装置d1及び粗圧延機R1の通過後で、鋼材1の表面に生成する酸化鉄の最表層の組成がウスタイトである状態、かつ、鋼材1の復熱が所定の割合に達した状態で、鋼材1の表面温度を測定できる。
【0030】
また、鋼材1の表面に生成する酸化鉄の最表層の組成を検出する検出装置を用いて、熱間圧延ラインの操業中にリアルタイムに組成を検出し、鋼材1の表面に生成する酸化鉄の最表層の組成がウスタイトであることが検出されているときに温度測定装置3により測温を行うように、熱間圧延ラインの粗圧延機の圧延速度を変更したり、熱間圧延ライン上の温度測定装置3の位置を変更したりするようにしてもよい。
【0031】
以上、本発明を実施形態と共に説明したが、上記実施形態は本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
上述した実施形態では、最上流のデスケーリング装置d1及び粗圧延機R1の出側で、鋼材1の表面温度を測定するようにしたが、これに限られるものではない。最上流のデスケーリング装置d1又は粗圧延機R1の出側で、鋼材1の表面温度を測定してもよい。また、最上流以外のデスケーリング装置の出側や、最上流以外の粗圧延機の出側で鋼材の表面温度を測定する場合にも、本発明を適用することができる。また、図1に示した構成は一例であり、デスケーリング装置、及び粗圧延機、仕上圧延機といった圧延機の種類、圧延機の台数や位置関係等も限られるものではない。
【符号の説明】
【0032】
1:鋼材
2:加熱炉
3:温度測定装置
R1~R4:粗圧延機
d1~d4:デスケーリング装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8