(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-08
(45)【発行日】2023-08-17
(54)【発明の名称】シートヒータおよび乗物用シート
(51)【国際特許分類】
B60H 1/22 20060101AFI20230809BHJP
A47C 7/74 20060101ALI20230809BHJP
B60N 2/56 20060101ALI20230809BHJP
B60H 1/00 20060101ALI20230809BHJP
【FI】
B60H1/22 611Z
A47C7/74 B
B60N2/56
B60H1/00 102V
(21)【出願番号】P 2020211991
(22)【出願日】2020-12-22
(62)【分割の表示】P 2016070192の分割
【原出願日】2016-03-31
【審査請求日】2021-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000220066
【氏名又は名称】テイ・エス テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116034
【氏名又は名称】小川 啓輔
(74)【代理人】
【識別番号】100144624
【氏名又は名称】稲垣 達也
(72)【発明者】
【氏名】星 祐一郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 生佳
(72)【発明者】
【氏名】野村 昌弘
【審査官】大野 明良
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-269480(JP,A)
【文献】特開2013-001360(JP,A)
【文献】特開2009-178247(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/56
A47C 7/74
B60H 1/00
B60H 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートの異なる部位に配置される複数のヒータユニットと、複数の前記ヒータユニットの出力を制御する制御装置と、を備えたシートヒータであって、
複数の前記ヒータユニットは、
腰部に相当する第1のヒータユニットと、
前記第1のヒータユニットよりも上方に配置される第2のヒータユニットとを含み、
前記第1のヒータユニットに対応する部位に配置される温度センサをさらに備え、
前記制御装置は、
シートの加熱の指示を受けたときに、前記ヒータユニットの最大出力に対する割合である出力割合をすべての前記ヒータユニットで同じにして、前記第1のヒータユニットに対応する部位の温度を所定温度まで上昇させる第1制御と、
前記第1のヒータユニットに対応する部位の温度が前記所定温度に達した後に制御する第2制御と、を実行し、
前記制御装置は、前記第2制御において、
前記温度センサから取得した検知温度に基づいて、前記第1のヒータユニットの出力割合を決定し、
前記第1のヒータユニットの出力割合に
、1より小さな係数である第2の係数C2を乗じた値を前記第2のヒータユニットの出力割合として決定することを特徴とするシートヒータ。
【請求項2】
シートの異なる部位に配置される複数のヒータユニットと、複数の前記ヒータユニットの出力を制御する制御装置と、を備えたシートヒータであって、
複数の前記ヒータユニットは、第1のヒータユニットと、第2のヒータユニットとを含み、
前記第1のヒータユニットに対応する部位に配置される温度センサをさらに備え、
前記制御装置は、
シートの加熱の指示を受けたときに、前記ヒータユニットの最大出力に対する割合である出力割合をすべての前記ヒータユニットで同じにして、前記第1のヒータユニットに対応する部位の温度を所定温度まで上昇させる第1制御と、
前記第1のヒータユニットに対応する部位の温度が前記所定温度に達した後に制御する第2制御と、を実行し、
前記制御装置は、前記第2制御において、
前記温度センサから取得した検知温度に基づいて、前記第1のヒータユニットの出力割合を決定し、
前記第1のヒータユニットの出力割合に第1の係数C1を乗じた値を前記第2のヒータユニットの出力割合として決定し、
前記第1のヒータユニットは、シートバックの着座者の腰部に対応する部位に配置される腰部ヒータユニットであり、
前記第2のヒータユニットは、シートクッションの座面に対応する部位に配置されるクッションヒータユニットであり、
前記第1の係数C1は、1より小さな係数であることを特徴とす
るシートヒータ。
【請求項3】
着座者の腰部に対応する部位よりも上方の部位に配置される肩部ヒータユニットをさらに備え、
前記制御装置は、前記第2制御において、前記第1のヒータユニットの出力割合に第2の係数C2を乗じた値を前記肩部ヒータユニットの出力割合として前記肩部ヒータユニットを制御し、
前記第2の係数C2は、前記第1の係数C1よりも小さな係数であることを特徴とする請求項2に記載のシートヒータ。
【請求項4】
前記制御装置は、前記第1制御において、すべての前記ヒータユニットの出力割合を100%にすることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のシートヒータ。
【請求項5】
前記制御装置は、前記シートが配置される環境の環境温度に基づいて、前記第1のヒータユニットの出力割合を制御することを特徴とする請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載のシートヒータ。
【請求項6】
前記制御装置は、前記環境温度の変化に応じて、前記ヒータユニットの出力割合を制御するための目標温度を設定することを特徴とする請求項5に記載のシートヒータ。
【請求項7】
前記制御装置は、前記環境温度として、前記シートが配置される環境の温度を調節する空調装置の設定温度を取得することを特徴とする請求項5または請求項6に記載のシートヒータ。
【請求項8】
前記制御装置は、前記第2制御において、前記第1制御よりも前記ヒータユニットの出力割合を小さくすることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のシートヒータ。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のシートヒータと、
シートクッションと、
シートバックと、
ヘッドレストと、を備えたことを特徴とする乗物用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートに設けられるシートヒータおよび当該シートヒータを備える乗物用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
シートヒータとして、例えば、特許文献1には、シートに着座した着座者の各接触部位別に相対して配設された複数の発熱体と、発熱体の発熱動作を制御する制御部とを備えるものが開示されている。特許文献1のシートヒータは、着座者の接触部位の中に、暖感覚が早く熱供給に対し暖房効果が高い部位と、暖感覚は遅く鈍感ではあるが暖めると快適性を向上することが可能となる部位の二つが存在することを前提に、この二つの部位を順に発熱させるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来技術は、暖感覚が異なる二つの部位を順に発熱させるので、シート全体を急速に暖めることができない可能性があった。また、従来技術は、暖感覚が異なる二つの部位(グループ)を順に発熱させるので、各グループにおける個々の部位によっては、快適と感じる温度になる前に他方のグループを発熱させるモードに切り替わってしまったり、あるいは、他方のグループを発熱させるモードに切り替わるタイミングよりも早いタイミングで快適と感じる温度を超えて温度が高すぎる状態が続いてしまったりして、各グループにおける部位別には快適な温度に調整できない可能性があった。
【0005】
そこで、本発明は、シート全体を急速に暖めることができるとともに、部位別に快適な温度に調節することができるシートヒータおよび乗物用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記した目的を達成するための本発明は、シートの異なる部位に配置される複数のヒータユニットと、複数の前記ヒータユニットの出力を制御する制御装置と、を備えたシートヒータであって、前記制御装置は、シートの加熱の指示を受けたときに、前記ヒータユニットの最大出力に対する割合である出力割合をすべての前記ヒータユニットで同じにして、少なくとも1つの前記ヒータユニットが配置される部位の温度を所定温度まで上昇させる第1制御と、少なくとも1つの前記ヒータユニットが配置される部位の温度が前記所定温度に達した後に前記ヒータユニットの出力割合を前記ヒータユニットごとに制御する第2制御とを実行することを特徴とする。
【0007】
このような構成によれば、第1制御において、ヒータユニットの出力割合をすべてのヒータユニットで同じにして、ヒータユニットが配置される部位の温度を所定温度まで上昇させるので、シート全体を急速に暖めることができる。そして、シート全体を急速に暖めた後は、第2制御において、ヒータユニットの出力割合をヒータユニットごとに制御するので、ヒータユニットが配置される部位別に快適な温度に調節することができる。
【0008】
前記したシートヒータにおいて、複数の前記ヒータユニットは、第1ヒータユニットと第2ヒータユニットとを含み、前記第1ヒータユニットに対応する部位に配置される温度センサをさらに備え、前記制御装置は、前記温度センサから取得した検知温度に基づいて、前記第1ヒータユニットの出力割合を制御する構成とすることができる。
【0009】
これによれば、第1ヒータユニットの出力割合を精度良く制御することができる。
【0010】
前記したシートヒータにおいて、前記制御装置は、前記検知温度に基づいて、前記第2ヒータユニットの出力割合を制御する構成とすることができる。
【0011】
これによれば、第2ヒータユニットに対応する部位に温度センサを配置する必要がなくなるので、シートヒータのコストを抑えることができる。
【0012】
前記したシートヒータにおいて、前記第1ヒータユニットは、前記シートに着座する着座者の腰部に対応する部位に配置され、前記第2ヒータユニットは、シートクッションの座面に対応する部位、および、前記腰部に対応する部位よりも上方の部位の少なくとも一方に配置される構成とすることができる。
【0013】
これによれば、腰部と、例えば、大腿部などのシートクッションの座面に接触する部位や肩部などの腰部よりも上方の部位とは、研究の結果、温度感覚が異なることが分かってきたため、腰部に対応する部位に温度センサを配置して当該部位を精度良く制御することで、速暖および部位別制御を行った場合の快適性を向上させることができる。
【0014】
前記したシートヒータにおいて、前記制御装置は、前記第1制御において、すべての前記ヒータユニットの出力割合を100%にする構成とすることができる。
【0015】
これによれば、第1制御においてシート全体をより急速に暖めることができる。
【0016】
前記したシートヒータにおいて、前記制御装置は、前記シートが配置される環境の環境温度に基づいて、前記ヒータユニットの出力割合を制御する構成とすることができる。
【0017】
これによれば、シートを環境温度に対応して暖めることができるので、速暖および部位別制御を行った場合の快適性を向上させることができる。また、シートを必要以上に暖めることが抑制されるので、省エネルギー性を向上させることができる。
【0018】
前記したシートヒータにおいて、前記制御装置は、前記環境温度の変化に応じて、前記ヒータユニットの出力割合を制御するための目標温度を設定する構成とすることができる。
【0019】
これによれば、環境温度の変化に対応させてヒータユニットの出力を上げたり、下げたりすることができるので、快適性をより向上させることができるとともに、省エネルギー性をより向上させることができる。
【0020】
前記したシートヒータにおいて、前記制御装置は、前記環境温度として、前記シートが配置される環境の温度を調節する空調装置の設定温度を取得する構成とすることができる。
【0021】
これによれば、シートヒータの制御を空調装置の制御に連動させることができるので、快適性をより向上させることができるとともに、省エネルギー性をより向上させることができる。また、シートヒータが環境温度を取得するセンサを備える必要がなくなるので、シートヒータのコストを抑えることができる。
【0022】
前記したシートヒータにおいて、前記制御装置は、前記第2制御において、前記第1制御よりも前記ヒータユニットの出力割合を小さくする構成とすることができる。
【0023】
これによれば、第1制御においては、シート全体を急速に暖めることができるとともに、第2制御においては、省エネルギー性を向上させることができる。
【0024】
また、前記した目的を達成する本発明は、前記したシートヒータを備える乗物用シートとして構成することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、シート全体を急速に暖めることができるとともに、部位別に快適な温度に調節することができる。
【0026】
また、本発明によれば、第1ヒータユニットに対応する部位に配置される温度センサの検知温度に基づいて第1ヒータユニットの出力割合を制御することで、第1ヒータユニットの出力割合を精度良く制御することができる。
【0027】
また、本発明によれば、第1ヒータユニットに対応する部位に配置される温度センサの検知温度に基づいて第2ヒータユニットの出力割合を制御することで、シートヒータのコストを抑えることができる。
【0028】
また、本発明によれば、第1ヒータユニットを腰部に対応する部位に配置し、第2ヒータユニットをシートクッションの座面に対応する部位や腰部に対応する部位よりも上方の部位に配置することで、速暖および部位別制御を行った場合の快適性を向上させることができる。
【0029】
また、本発明によれば、第1制御においてすべてのヒータユニットの出力割合を100%にすることで、第1制御においてシート全体をより急速に暖めることができる。
【0030】
また、本発明によれば、環境温度に基づいてヒータユニットの出力割合を制御することで、速暖および部位別制御を行った場合の快適性を向上させることができる。また、省エネルギー性を向上させることができる。
【0031】
また、本発明によれば、環境温度の変化に応じてヒータユニットの出力割合を制御するための目標温度を設定することで、快適性をより向上させることができるとともに、省エネルギー性をより向上させることができる。
【0032】
また、本発明によれば、環境温度としてシートが配置される環境の温度を調節する空調装置の設定温度を取得することで、快適性をより向上させることができるとともに、省エネルギー性をより向上させることができる。また、シートヒータのコストを抑えることができる。
【0033】
また、本発明によれば、第2制御において第1制御よりもヒータユニットの出力割合を小さくすることで、第1制御においては、シート全体を急速に暖めることができるとともに、第2制御においては、省エネルギー性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】発明の一実施形態に係る乗物用シートの斜視図である。
【
図2】車内温度と目標温度の関係を示すマップの一例である。
【
図3】制御装置の処理を示すフローチャートである。
【
図4】ヒータユニットが配置される部位の温度変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、添付の図面を参照しながら本発明の一実施形態について説明する。一実施形態に係る乗物用シートは、例えば、
図1に示すように、自動車に搭載される車両用シートSとして構成されている。車両用シートSは、ウレタンフォームなどのクッション材からなるパッド材が、合成皮革や布地などの表皮材で覆われたシートクッションS1、シートバックS2およびヘッドレストS3を備えている。
【0036】
シートクッションS1は、左右中央に配置され、車両用シートSに着座する着座者の臀部および大腿部を下から接触して支える座面部S11と、座面部S11の左右両側に配置され、着座者の臀部および大腿部の側部を支持するために着座者側に張り出した張り出し部S12を有する。また、シートバックS2は、左右中央に配置され、着座者の背中を後から接触して支える座面部S21と、座面部S21の左右両側に配置されて、着座者の上体の側部を支持するために着座者側に張り出した張り出し部S22を有する。
【0037】
車両用シートSは、シートヒータ1を備えている。シートヒータ1は、車両用シートSの異なる部位に配置される複数のヒータユニットとしてのクッションヒータユニット10およびバックヒータユニット20と、温度センサ50と、操作スイッチ60と、制御装置100とを主に備えている。
【0038】
クッションヒータユニット10およびバックヒータユニット20は、面状のヒータである。クッションヒータユニット10は、シートクッションS1のパッド材と表皮材の間に配置されている。詳しくは、クッションヒータユニット10は、シートクッションS1の座面に対応する部位、つまり、座面部S11に配置されている。
【0039】
また、バックヒータユニット20は、シートバックS2のパッド材と表皮材の間に配置されている。詳しくは、バックヒータユニット20は、腰部ヒータユニット21と肩部ヒータユニット22とを有して構成されている。そして、腰部ヒータユニット21は、着座者の腰部に対応する部位、具体的には、シートバックS2の座面部S21の下部に配置されている。また、肩部ヒータユニット22は、着座者の腰部に対応する部位よりも上方の、例えば、肩部(肩甲骨付近)などに対応する部位に配置されている。具体的に、肩部ヒータユニット22は、座面部S21の上部に配置されている。
【0040】
クッションヒータユニット10、腰部ヒータユニット21および肩部ヒータユニット22は、それぞれ、制御装置100に接続されている。なお、本実施形態においては、腰部ヒータユニット21が「第1ヒータユニット」に相当し、クッションヒータユニット10および肩部ヒータユニット22が「第2ヒータユニット」に相当する。
【0041】
温度センサ50は、表皮材の内側で、腰部ヒータユニット21に対応する部位である座面部S21の下部に配置されている。温度センサ50は、制御装置100に接続されており、検知した温度の情報を制御装置100に出力するように構成されている。なお、温度センサ50が検知した温度と、座面部S21の着座者が接触する部分の温度との間には略一定の相関がある。そのため、制御装置100は、温度センサ50が検知した温度そのものを検知温度Tsとして用いて制御を行ってもよいし、上述の相関に基づいて着座者が接触する部分の温度を推定し、この推定した温度を検知温度Tsとして制御を行ってもよい。
【0042】
制御装置100は、複数のヒータユニット10,21,22の出力を制御する装置であり、車両用シートS内の適宜な位置に配置されている。なお、制御装置100は、車両用シートSの外に配置されていてもよい。制御装置100は、車両に搭載されたバッテリにより駆動される電源装置2から電力が供給され、この電力によりヒータユニット10,21,22の出力を制御する。
【0043】
制御装置100は、車両に設けられた空調制御装置3と接続されている。空調制御装置3は、車両用シートSが配置される環境の温度(環境温度)、具体的には、車室内の温度を調整する空調装置4を制御する装置である。制御装置100は、環境温度(以下、「車内温度Tr」という。)として、空調制御装置3から空調装置4の設定温度を取得する。また、制御装置100には、車両の操作パネルなどに設けられた操作スイッチ60が接続されている。
【0044】
制御装置100は、操作スイッチ60が入れられて車両用シートSの加熱の指示を受けたときに、座面部S11,S21の温度を速やかに上昇させる第1制御と、座面部S11,S21の温度が十分に上昇した後にヒータユニット10,21,22の出力をヒータユニット10,21,22ごとに制御する第2制御とを実行するように構成されている。
【0045】
なお、暖かい時期や、操作スイッチ60が入れられる前に一度ヒータを使用していた場合などにおいては、操作スイッチ60で加熱の指示を受けたときに、すでに座面部S11,S21の温度が十分に高い場合がある。その場合には、制御装置100は、第1制御は実行せず、始めから第2制御を実行してもよい。
【0046】
制御装置100は、第1制御において、ヒータユニット10,21,22の出力割合をすべてのヒータユニット10,21,22で同じにして、温度センサ50が配置された、腰部ヒータユニット21が配置される部位(座面部S21の下部)の温度を所定温度Tsthまで上昇させる。詳しくは、制御装置100は、第1制御において、すべてのヒータユニット10,21,22の出力割合を100%にする。ここで、ヒータユニット10,21,22の出力割合とは、ヒータユニット10,21,22の最大出力に対する割合である。
【0047】
制御装置100は、座面部S21の下部の温度が所定温度Tsthに達した後、具体的には、温度センサ50から取得した検知温度Tsが所定温度Tsth以上となった後に、座面部S21の下部だけではなく、座面部S21の上部や座面部S11の温度も十分に上昇したとして、第2制御を実行する。本実施形態において、温度センサ50は、座面部S21の下部に1つ設けられているだけなので、座面部S21の上部の温度や座面部S11の温度を検知することはできない。そこで、予め実験やシミュレーションなどを行い、その結果から、例えば、各部に供給する熱量などを調整することで、車両用シートSは、座面部S21の下部の温度が所定温度Tsthに達したときに、座面部S21の上部の温度と座面部S11の温度も所定温度Tsthと同等の温度となるように構成されている。
【0048】
制御装置100は、検知温度Tsが所定温度Tsth以上となって第2制御に進んだ後は第1制御には戻らない。そのため、制御装置100は、検知温度Tsが所定温度Tsth以上となった場合には、そのことを示すフラグFを第1制御を示す「0」から第2制御を示す「1」にする。なお、フラグFは初期値が0であり、操作スイッチ60が切られたときなどの制御装置100に電力が供給されなくなったときに0にリセットされる。
【0049】
制御装置100は、第2制御において、ヒータユニット10,21,22の出力割合をヒータユニット10,21,22ごとに制御する。詳しくは、制御装置100は、温度センサ50から取得した検知温度Tsと、空調制御装置3から取得した車内温度Trとに基づいて、クッションヒータユニット10、腰部ヒータユニット21および肩部ヒータユニット22の出力割合を制御する。
【0050】
より詳しくは、制御装置100は、まず、車内温度Trと、
図2に示すマップとに基づいて、目標温度Ttを設定する。
図2のマップは、車内温度Trと、目標温度Ttとを関連付けるためのマップであり、実験やシミュレーションなどにより予め設定されている。
図2のマップにおいて、目標温度Ttは、一例として、車内温度TrがTr1よりも小さい場合は、一定値Tt1であり、車内温度TrがTr1以上の場合は、車内温度Trが大きくなるほど、小さくなるように設定されている。このようなマップを用いて目標温度Ttを設定することにより、制御装置100は、車内温度Trの変化に応じて、ヒータユニット10,21,22の出力割合を制御するための目標温度Ttを設定している。
【0051】
そして、制御装置100は、設定した目標温度Ttと、検知温度Tsとに基づいて、必要制御量mvを計算する。必要制御量mvは、一例として、いわゆるPI制御の必要制御量として、
mv=Kp×e+ie/Ki
により計算することができる。ここで、eは、目標温度Ttと検知温度Tsの差分であり、Kpは、比例制御定数であり、ieは、過去の所定期間内のeの積分(積算)であり、Kiは、積分制御定数である。各定数Kp,Kiは、実験やシミュレーションなどにより予め設定されている。
【0052】
なお、検知温度Tsおよび目標温度Ttは、ここでの計算上、「℃」などの単位である必要はなく、温度センサ50から出力される電圧を数値化したものでよい。そして、各定数Kp,Kiは、これらの温度の値のスケールによって適宜調整するとよい。また、mvは、上記の計算によると、目標温度Ttと検知温度Tsの差分eが大きいときには、100を超えることがある。ヒータユニット10,21,22には、0~100%の出力割合で電力を供給するので、mvが100以下の数値となるように、100を超える場合には、100とされる。
【0053】
そして、制御装置100は、腰部ヒータユニット21を算出した必要制御量mv(出力割合)によって制御する。また、制御装置100は、クッションヒータユニット10を必要制御量mvに係数C1を掛けた出力割合によって制御する。また、制御装置100は、肩部ヒータユニット22を必要制御量mvに係数C2を掛けた出力割合によって制御する。ここで、係数C1,C2は、1よりも小さい係数であり、実験やシミュレーションなどにより予め設定されている。
【0054】
前述したとおり、本実施形態において、温度センサ50は、座面部S21の下部に1つ設けられているだけなので、座面部S21の上部の温度に基づいて肩部ヒータユニット22の出力割合を直接制御したり、座面部S11の温度に基づいてクッションヒータユニット10の出力割合を直接制御したりすることはできない。そこで、本実施形態では、座面部S21の下部の温度(検知温度Ts)に基づいて算出した必要制御量mvと、必要制御量mvに係数C1,C2を掛けた出力割合とを用いることで、ヒータユニット10,21,22の出力割合をヒータユニット10,21,22ごとに制御している。
【0055】
また、腰部と、大腿部や肩部などとは、研究の結果、温度感覚が異なることが分かってきた。具体的には、腰部で快適と感じる温度は、大腿部や肩部で快適と感じる温度よりも高いことが分かった。そこで、本実施形態では、快適と感じる温度が高い腰部に対応する座面部S21の下部の温度を基準として必要制御量mvを計算し、快適と感じる温度が腰部よりも低い、大腿部などに対応する座面部S11や、肩部などに対応する座面部S21の上部については、必要制御量mvに、1よりも小さい各部位に対応して設定した係数C1,C2を掛けることで出力割合を計算している。
【0056】
また、本実施形態では、係数C1を係数C2よりも大きい値に設定している(C1>C2)。これにより、第2制御において、クッションヒータユニット10の出力割合(C1×mv)は、肩部ヒータユニット22の出力割合(C2×mv)よりも大きくなる。これは、座面部S11については、着座者の臀部および大腿部が常に接触しているので、着座者が暖かさを感じやすいためである。一方、座面部S21の上部については、着座者の体型や姿勢などによって、着座者の肩部などが座面部S21の上部から離れることもあるので、省エネルギーの観点などから、必要以上に加熱しないようにするためである。
【0057】
なお、研究の結果、大腿部で快適と感じる温度と、肩部で快適と感じる温度とは、それほど大きな差がないことも分かってきたため、係数C1,C2は、略同等の値、例えば、同じ値であってもよい。
【0058】
以上のような車両用シートSにおける制御装置100の処理について、
図3を参照しながら説明する。制御装置100は、
図3に示すスタートからエンドまでの処理を制御サイクルごとに繰り返し行っている。
図3に示すように、制御装置100は、まず、シート加熱の指示があるか否かを判定する(S101)。シート加熱の指示がない場合(S101,No)、制御装置100は、制御モードを示すフラグFを0にリセットして(S103)、今回の処理を終了する。
【0059】
シート加熱の指示がある場合(S101,Yes)、制御装置100は、フラグFが0であるか否かを判定する(S102)。そして、フラグFが0である場合(S102,Yes)、第1制御であるので、制御装置100は、クッションヒータユニット10、腰部ヒータユニット21および肩部ヒータユニット22のすべてを100%で出力する(S110)。そして、制御装置100は、検知温度Tsが所定温度Tsth以上であるか否かを判定する(S111)。
【0060】
検知温度Tsが所定温度Tsth以上でない場合(S111,No)、制御装置100は、今回の処理を終了する。一方、検知温度Tsが所定温度Tsth以上である場合(S111,Yes)、制御装置100は、フラグFを1にして(S112)、ステップS121に進む。また、制御装置100は、ステップS102において、フラグFが0でない場合(フラグFが1である場合)(S102,No)、第2制御であるので、この場合もステップS121に進む。
【0061】
その後、制御装置100は、車内温度Trを取得し(S121)、車内温度Trと
図2のマップから目標温度Ttを設定する(S122)。また、制御装置100は、検知温度Tsを取得する(S123)。そして、制御装置100は、目標温度Ttと検知温度Tsとに基づいて、必要制御量mvを計算する(S124)。そして、制御装置100は、腰部ヒータユニット21を必要制御量mvで出力するとともに、クッションヒータユニット10をC1×mvで出力し、肩部ヒータユニット22をC2×mvで出力して(S125)、今回の処理を終了する。
【0062】
以上のような処理によると、着座者が操作スイッチ60を入れて車両用シートSの加熱を開始すると、
図4に示すように、座面部S11,S21の温度が変化する。具体的には、時刻t1までの第1制御においては、すべてのヒータユニット10,21,22を100%で出力する。これにより、座面部S11,S21の温度を可及的に速やかに高めることができ、車両用シートSの全体を急速に暖めることができる。
【0063】
そして、時刻t1になって、温度センサ50から取得した検知温度Tsが所定温度Tsthに達すると、第2制御を実行する。第2制御においては、腰部ヒータユニット21を第1出力割合(mv)で出力するとともに、クッションヒータユニット10を第1出力割合よりも小さい第2出力割合(C1×mv)で出力し、肩部ヒータユニット22を第2出力割合よりも小さい第3出力割合(C2×mv)で出力する。
【0064】
そうすると、快適と感じる温度が高い着座者の腰部に対応する座面部S21の下部の温度が高い温度に維持されるとともに、快適と感じる温度が腰部よりも低い、着座者の大腿部や肩部などに対応する座面部S11や座面部S21の上部の温度が、座面部S21の下部の温度よりも低い温度となる。これにより、ヒータユニット10,21,22が配置される部位別に快適な温度に調節することができる。
【0065】
また、本実施形態では、着座者の肩部などに対応する座面部S21の上部の温度が、着座者の大腿部などに対応する座面部S11の温度よりも低い温度となるので、座面部S21の上部の温度を座面部S11の温度と同等の温度に維持する場合よりも、省エネルギー性を向上させることができる。
【0066】
なお、発明の理解を容易にするため、参照する
図4においては、目標温度Ttが一定値の場合、つまり、空調装置4の設定温度である車内温度Trが一定値である場合を示している。
【0067】
以上説明した本実施形態によれば、第1制御において、出力割合をすべてのヒータユニット10,21,22で同じにして、ヒータユニット10,21,22が配置される部位の温度を所定温度Tsthまで上昇させるので、車両用シートSの全体を急速に暖めることができる。そして、車両用シートSの全体を急速に暖めた後は、第2制御において、出力割合をヒータユニット10,21,22ごとに制御するので、ヒータユニット10,21,22が配置される部位別に快適な温度に調節することができる。
【0068】
また、制御装置100は、温度センサ50から取得した検知温度Tsに基づいて、腰部ヒータユニット21の出力割合を制御するので、腰部ヒータユニット21の出力割合を精度良く制御することができる。
【0069】
また、制御装置100は、検知温度Tsに基づいて、クッションヒータユニット10および肩部ヒータユニット22の出力割合(C1×mv,C2×mv)を制御するので、座面部S11や座面部S21の上部に温度センサを配置する必要がなくなる。これにより、シートヒータ1のコストを抑えることができる。
【0070】
また、腰部ヒータユニット21が腰部に対応する部位に配置され、クッションヒータユニット10が大腿部などに対応する部位に配置され、肩部ヒータユニット22が肩部などに対応する部位に配置されるので、快適と感じる温度が高い腰部に対応する部位に温度センサ50を配置して当該部位を精度良く制御することで、速暖および部位別制御を行った場合の快適性を向上させることができる。
【0071】
また、制御装置100は、第1制御において、すべてのヒータユニット10,21,22の出力割合を100%にするので、第1制御において車両用シートSの全体をより急速に暖めることができる。
【0072】
また、制御装置100は、車内温度Trに基づいて、ヒータユニット10,21,22の出力割合を制御するので、車両用シートSを車内温度Trに対応して暖めることができる。これにより、速暖および部位別制御を行った場合の快適性を向上させることができる。また、車両用シートSを必要以上に暖めることが抑制されるので、省エネルギー性を向上させることができる。
【0073】
また、制御装置100は、車内温度Trの変化に応じて、目標温度Ttを設定するので、車内温度Trの変化に対応させてヒータユニット10,21,22の出力を上げたり、下げたりすることができる。これにより、快適性をより向上させることができるとともに、省エネルギー性をより向上させることができる。
【0074】
また、制御装置100は、車内温度Trとして、空調装置4の設定温度を取得するので、シートヒータ1の制御を空調装置4の制御に連動させることができる。これにより、快適性をより向上させることができるとともに、省エネルギー性をより向上させることができる。また、シートヒータ1が車内温度Trを取得するセンサを備える必要がなくなるので、シートヒータ1のコストを抑えることができる。
【0075】
以上、本発明に係る乗物用シートの一実施形態としての車両用シートSについて説明したが、本発明の乗物用シートは、一実施形態の車両用シートSに限定されるものではなく、その構造は適宜変更することができる。
【0076】
例えば、前記実施形態においては、温度センサ50が第1ヒータユニットとしての腰部ヒータユニット21に対応する部位だけに配置されていたが、温度センサは、第1ヒータユニットに対応する部位と、第2ヒータユニットに対応する部位の両方に配置されていてもよい。
【0077】
一例としては、
図5に示すように、車両用シートSは、温度センサ51~53を備え、温度センサ51がクッションヒータユニット10に対応する座面部S11に配置され、温度センサ52が腰部ヒータユニット21に対応する座面部S21の下部に配置され、温度センサ53が肩部ヒータユニット22に対応する座面部S21の上部に配置されていてもよい。
【0078】
この場合、第1制御においては、すべてのヒータユニット10,21,22を同じ出力割合(例えば100%)で出力し、第2制御においては、温度センサ51~53の検知温度に基づいて、対応するヒータユニット10,21,22の出力割合を個別に算出して個別に制御する構成とすることができる。これによれば、各ヒータユニット10,21,22の出力割合を精度良く制御することができる。なお、この場合において、目標温度Ttを設定するためのマップ(
図2参照)は、部位別制御のため、ヒータユニット10,21,22ごとに設定されることになる。また、第1制御から第2制御への切り替えは、すべての温度センサ51~53の検知温度が所定温度に達したときであってもよいし、温度センサ51~53のうち2つの検知温度が所定温度に達したときであってもよいし、温度センサ51~53のうち1つの検知温度が所定温度に達したときであってもよい。
【0079】
また、前記実施形態においては、第1制御において、すべてのヒータユニット10,21,22の出力割合を100%にしたが、100%よりも小さい出力割合にしてもよい。
【0080】
また、前記実施形態においては、第2制御での出力割合(必要制御量mv)が、第1制御での出力割合(100%)と同じになる場合があり得たが、制御装置100は、第2制御において、第1制御よりもヒータユニット10,21,22の出力割合を小さくするように構成されていてもよい。例えば、所定温度Tsthを若干高めに設定することで実現することができる。これによれば、第1制御においては、車両用シートSの全体を急速に暖めることができるとともに、第2制御においては、省エネルギー性を向上させることができる。
【0081】
また、前記実施形態においては、車内温度Tr(環境温度)として、空調装置4の設定温度を取得したが、シートが配置される環境の温度を検知する環境温度センサなどから取得してもよい。
【0082】
また、前記実施形態においては、第2ヒータユニットが座面部S11と座面部S21の上部の両方に配置されていたが、第2ヒータユニットは、座面部S11だけに配置されていてもよいし、座面部S21の上部だけに配置されていてもよい。また、ヒータユニットは、座面部S11,S21だけではなく、張り出し部S12,S22に配置されていてもよい。
【0083】
また、前記実施形態においては、車両用シートSとして、乗用車の運転席や助手席などに採用されるような独立タイプのシートを例示したが、乗用車の最も後ろの座席などに採用されるようなベンチタイプのシートであってもよい。また、前記実施形態においては、シートとして、自動車に搭載される車両用シートSを例示したが、シートは、自動車以外の乗物、例えば、鉄道車両や船舶、航空機などに搭載される乗物用シートであってもよい。さらに、シートヒータを備えるシートは、乗物用のシートに限定されず、例えば、家庭などで使用されるシートであってもよい。
【0084】
前記実施形態において、シートは、車両に搭載されたバッテリにより駆動される電源装置2から電力が供給される構成であったが、これに限定されない。例えば、シート自体にバッテリが搭載されている構成であってもよいし、シートが家庭などで使用されるシートである場合には商用電源から電力が供給される構成であってもよい。
【符号の説明】
【0085】
1 シートヒータ
4 空調装置
10 クッションヒータユニット
21 腰部ヒータユニット
22 肩部ヒータユニット
50 温度センサ
100 制御装置
S 車両用シート
S1 シートクッション
S2 シートバック
S11 座面部