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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-08
(45)【発行日】2023-08-17
(54)【発明の名称】切断方法及び切断加工品
(51)【国際特許分類】
   B21D 28/24 20060101AFI20230809BHJP
   B21D 28/14 20060101ALI20230809BHJP
   B21D 28/26 20060101ALI20230809BHJP
   B21D 28/34 20060101ALI20230809BHJP
   B23D 15/06 20060101ALI20230809BHJP
   B21D 28/02 20060101ALI20230809BHJP
   B23D 35/00 20060101ALI20230809BHJP
【FI】
B21D28/24 Z
B21D28/14 Z
B21D28/26
B21D28/34 C
B21D28/34 D
B23D15/06 Z
B21D28/02 Z
B23D35/00 A
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021505541
(86)(22)【出願日】2020-01-09
(86)【国際出願番号】 JP2020000526
(87)【国際公開番号】W WO2020183882
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-09-07
(31)【優先権主張番号】P 2019044631
(32)【優先日】2019-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019044629
(32)【優先日】2019-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019044628
(32)【優先日】2019-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】安富 隆
(72)【発明者】
【氏名】小林 亜暢
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-034183(JP,A)
【文献】特開2004-358560(JP,A)
【文献】特開2014-065045(JP,A)
【文献】特開2000-108077(JP,A)
【文献】国際公開第2017/057466(WO,A1)
【文献】特開昭60-232812(JP,A)
【文献】米国特許第04370910(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 28/24
B21D 28/14
B21D 28/26
B21D 28/34
B23D 15/06
B21D 28/02
B23D 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイとパンチとを備える切断工具を用いて被加工材を切断する切断方法であって、
前記被加工材を前記ダイと前記パンチとの間に配置することと、
前記ダイの楔形状の第1の刃部と前記パンチの楔形状の第2の刃部とを対向させた状態で、前記パンチを前記ダイ側に相対的に押し込み、前記被加工材を切断することと、
を含み、
前記第1の刃部の先端角度θ及び前記第2の刃部の先端角度θは、10°以上120°以下であり、
前記第1の刃部の先端半径R及び前記第2の刃部の先端半径Rは、板厚の0.5%以上35.0%以下であり、
前記被加工材の切断は、複数の切断工程で行われる、切断方法。
【請求項2】
前記被加工材は、母材の表面を被覆材により被覆してなる複層材である、請求項1に記載の切断方法。
【請求項3】
前記第1の刃部の先端角度θ及び前記第2の刃部の先端角度θは、30°以上90°以下である、請求項1または2に記載の切断方法。
【請求項4】
前記第1の刃部の先端半径R及び前記第2の刃部の先端半径Rは、板厚の1.5%以上10.0%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の切断方法。
【請求項5】
前記複数の切断工程は、第1の切断工程と、前記第1の切断工程の後に行われる第2の切断工程とを含み、
前記第2の切断工程では、
前記第2の切断工程での前記第1の刃部の先端角度θを、前記第1の切断工程での前記第1の刃部の先端角度θよりも小さくすること、
または、
前記第2の切断工程での前記第2の刃部の先端角度θを、前記第1の切断工程での前記第2の刃部の先端角度θよりも小さくすること、
のうち、少なくともいずれか一方を行い、前記被加工材を切断する、請求項1~4のいずれか1項に記載の切断方法。
【請求項6】
前記複数の切断工程は、第1の切断工程と、前記第1の切断工程の後に行われる第2の切断工程とを含み、
前記第2の切断工程では、
前記第2の切断工程での前記第1の刃部の先端半径Rを、前記第1の切断工程での前記第1の刃部の先端半径Rよりも小さくすること、
または、
前記第2の切断工程での前記第2の刃部の先端半径Rを、前記第1の切断工程での前記第2の刃部の先端半径Rよりも小さくすること、
のうち、少なくともいずれか一方を行い、前記被加工材を切断する、請求項1~5のいずれか1項に記載の切断方法。
【請求項7】
前記複数の切断工程のうち、1回目の切断工程における前記パンチのストロークSは、前記第1の刃部の先端半径をR、前記第2の刃部の先端半径をR、前記被加工材の板厚をtと定義したとき、下記式(A)を満たす、請求項1~6のいずれか1項に記載の切断方法。
(R+R)≦S≦{t-(R+R)} ・・・(A)
【請求項8】
前記被加工材の削り幅は、前記被加工材の一方の端部と当該被加工材の切断位置との距離であり、
前記被加工材の削り幅Dは、前記第1の刃部の先端半径をR、前記第2の刃部の先端半径をR、前記被加工材の板厚をtと定義したとき、下記式(B)を満たす、請求項1~7のいずれか1項に記載の切断方法。
R≦D≦3t ・・・(B)
R=Min(R,R
【請求項9】
ダイとパンチとを備える切断工具を用いて被加工材を切断する切断方法であって、
前記被加工材を前記ダイと前記パンチとの間に配置することと、
前記ダイの楔形状の第1の刃部と前記パンチの楔形状の第2の刃部とを対向させた状態で、前記パンチを前記ダイ側に相対的に押し込み、前記被加工材を切断することと、
を含み、
前記第1の刃部の先端角度θ及び前記第2の刃部の先端角度θは、10°以上120°以下であり、
前記第1の刃部の先端半径R及び前記第2の刃部の先端半径Rは、板厚の0.5%以上35.0%以下であり、
前記ダイの楔形状の第1の刃部と前記パンチの楔形状の第2の刃部とは、それぞれ、刃先における法線に対して非対称な形状を有し、
前記第1の刃部の先端角度θは、当該刃部の刃先における法線により2つの角度θ1a、θ1bに分割され、
前記第2の刃部の先端角度θは、当該刃部の刃先における法線により2つの角度θ2a、θ2bに分割され、
角度θ1aと角度θ1bとの角度差である(θ1a-θ1b)または(θ1b-θ1a)、及び、角度θ2aと角度θ2bとの角度差である(θ2a-θ2b)または(θ2b-θ2a)は、5°以上45°以下である、切断方法。
【請求項10】
前記第1の刃部の先端半径Rを、当該刃部の刃先における法線により2つに分割された前記第1の刃部の各先端半径R1a、R1bの平均値とし、
前記第2の刃部の先端半径Rを、当該刃部の刃先における法線により2つに分割された前記第2の刃部の各先端半径R2a、R2bの平均値としたとき、
前記先端半径R、Rは、それぞれ、板厚の0.5%以上35.0%以下である、請求項9に記載の切断方法。
【請求項11】
前記第1の刃部の先端半径Rを分割した2つの先端半径の比R1a/R1bまたはR1b/R1a、及び、前記第2の刃部の先端半径Rを分割した2つの先端半径の比R2a/R2bまたはR2b/R2aは、1.1以上100以下である、請求項10に記載の切断方法。
【請求項12】
ダイとパンチとを備える切断工具を用いて被加工材を切断する切断方法であって、
前記被加工材を前記ダイと前記パンチとの間に配置することと、
前記ダイの楔形状の第1の刃部と前記パンチの楔形状の第2の刃部とを対向させた状態で、前記パンチを前記ダイ側に相対的に押し込み、前記被加工材を切断することと、
を含み、
前記第1の刃部の先端角度θ及び前記第2の刃部の先端角度θは、10°以上120°以下であり、
前記第1の刃部の先端半径R及び前記第2の刃部の先端半径Rは、板厚の0.5%以上35.0%以下であり、
前記被加工材から、最終形状領域と当該最終形状領域の縁部に沿って設けられた余剰領域とを有する中間材を形成することと、
前記最終形状領域の縁部に対応して刃部が閉形状に形成されたダイとパンチとを備える切断工具を用いて、前記ダイの楔形状の第1の刃部と前記パンチの楔形状の第2の刃部とを対向させた状態で、前記パンチを前記ダイ側に相対的に押し込み、前記中間材を切断することと、
を含む、切断方法。
【請求項13】
被加工材を切断加工して形成された切断加工品であって、
前記切断加工品の切断端面は、
板厚方向に第1の表面から中央に向かって傾斜する第1の傾斜面と、
板厚方向に第2の表面から中央に向かって傾斜する第2の傾斜面と、
前記第1の傾斜面と前記第2の傾斜面との間に形成される破断面と、
からなり、
前記切断端面を正面から見たときの傾斜面の厚さは、下記関係式(C)を満たし、
前記切断端面を正面から見たときの前記破断面の厚さTは、下記関係式(D)を満たし、
前記被加工材は、母材の表面を被覆材により被覆してなる複層材であり、
前記第1の傾斜面及び前記第2の傾斜面は、少なくとも一部が前記母材の前記表面を覆う前記被覆材により被覆されており、
前記母材の板厚tは、1.6mm以上10mm以下であり、
前記切断加工品の切断端面は、板厚方向中央に対して上下非対称の形状である、切断加工品。
(T+T)<T ・・・(C)
=Acosθ、T=Acosθ
0<T≦0.5T ・・・(D)
ここで、Tは前記切断端面を正面から見たときの前記第1の傾斜面の厚さ、Tは前記切断端面を正面から見たときの前記第2の傾斜面の厚さ、Aは前記切断端面を側面から見たときの前記第1の傾斜面の長さ、Aは前記切断端面を側面から見たときの前記第2の傾斜面の長さ、θは前記第1の傾斜面の傾斜角度、θは前記第2の傾斜面の傾斜角度、Tは前記被加工材の板厚である。
【請求項14】
前記第1の傾斜面は、少なくとも一部が前記母材の前記第1の表面を覆う被覆材により被覆され、
前記第2の傾斜面は、少なくとも一部が前記母材の前記第2の表面を覆う被覆材により被覆されている、請求項13に記載の切断加工品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工材の切断方法、及び、当該切断方法により切断して形成された切断加工品に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材の表面にめっき処理を施しためっき金属板、あるいは、金属材の表面を塗装した塗装金属板等のように、用途に応じて様々な表面処理材が製造されている。例えば、建材や自動車、家電製品には、耐食性に優れるめっき鋼板が利用されている。
【0003】
被加工材に表面処理を施して製造された表面処理材を用いた部品は、例えば、表面処理が施された被加工材を切断した後、加工し、製造される。被加工材5の切断は、例えば図35に示すようなせん断加工工具10を用いて切断することができる。せん断加工工具10は、ダイ11、パンチ12及びブランクホルダ13からなる。例えば、被加工材5の一端をダイ11及びブランクホルダ13で拘束した状態で、ダイ11からクリアランスdを有して置かれたパンチ12をダイ11側に相対的に移動させ、被加工材5にせん断力を与える。これにより、被加工材5が切断される。
【0004】
図35に示したようなせん断加工工具10を用いて切断された表面処理が施された被加工材5は、図36に示すような切断端面を有する。被加工材5の切断端面は、ダレ、せん断面及び破断面からなる。ダレは、母材である金属材5aの表面に被膜層5bが被覆された被加工材5に対し、被加工材5の上面側から下面側に向かって図35に示すパンチ12を押し込んだ際、被加工材5の上面に作用した引張力により生じた変形である。せん断面は、被加工材5にめり込んだパンチ12の移動によって形成される平滑面であり、破断面は、被加工材5に生じたクラックが起点となって被加工材5が破断した面である。図36に示すように、被加工材5の切断端面において、被膜層5bはダレ部には残存するが、せん断面にはほとんど残存せず、破断面では金属材5aが露出している。
【0005】
ここで、被加工材5の切断端面において金属材5aがほぼ露出しているせん断面及び破断面の耐食性は低く、赤錆の発生が懸念される。例えば、金属材の表面にめっき金属層を施しためっき金属板の切断端面の防錆対策としては、めっき金属層による犠牲防食あるいは化成が一般的である。例えば特許文献1には、切断端面のダレの大きさが、板厚方向においては板厚の0.10倍以上の範囲に、平面方向においては板厚の0.45倍以上の範囲に入るように切断加工を行うことが開示されている。このような切断加工により金属材に掛かる引張力とせん断力を高め、素地金属材の表面に被覆されためっき金属層を切断端面に回り込ませ、切断端面のうちせん断面の少なくとも一部をめっき金属層で被覆させる。この切断端面に回り込んだめっき金属層の犠牲防食作用により、切断端面における赤錆の発生を抑制している。
【0006】
また、特許文献2には、表面処理鋼板を上下にずらした回転刃で切断した後、成形ロールを用いて端面処理する方法が開示されている。
【0007】
さらに、特許文献3には、先端断面がV形状の上刃を有する上刃型と、上刃型に対向する同形状構造の下刃を有する下刃型でなる金型に積層基材を移送して載置し、上刃型あるいは上刃型と下刃型の移動動作による上刃と下刃により切断加工する積層基材の切断方法が開示されている。
【0008】
また、特許文献4には、線材に溶接性の良い材料の外皮を被着して線状の接点材を構成し、この接点材を上面が傾斜したくさび状断面の切れ刃を有するカッタで前記外皮を通して剪断することにより前記外皮を塑性変形させて線材の剪断面に溶接性の良い材料の被膜を形成し、この剪断面を介して線材を接点台金に接合する電気接点の製造方法が開示されている。切れ刃上面の斜面の途中には凹みが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2017-87294号公報
【文献】特開2018-075600号公報
【文献】特開2006-315123号公報
【文献】特開平1-255117号公報
【文献】国際公開第2016/027288号
【文献】特開2012-101258号公報
【文献】特開2008-155219号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】加田修、他2名、“棒線材の高機能成形解析”、新日鉄技報、新日鐵住金株式会社、2007年3月、第386号、p.59-63
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、上記特許文献1では、素地金属材の表面のめっき金属層は、切断端面のうちせん断面の少なくとも一部のみを被覆するのみであり、破断面では素地金属材は露出したままである。このため、めっき金属板の切断端面の耐食性が十分ではない。また、一般に、防錆を目的として切断端面に過度の犠牲防食性を付与しようとすると、めっき金属板の表面のめっきが減少し、めっき金属板の表面の表面耐食性(すなわち、平面耐食性)が低下してしまう。
【0012】
また、上記特許文献2では、表面処理鋼板の切断加工と、切断加工された表面処理鋼板の端面部の成形との、二度の加工によってめっきの被覆率を高めている。しかし、複数の加工工程を実施する必要があるため、設備コストが大きくなる。また、特許文献2に記載された工法では、上下にずらした回転刃で表面処理鋼板を切断した後、その端面部の形状を整えることから、各工程で異なる方向に応力が付与されるため、めっき層に割れや剥離が生じやすい。さらに、特許文献2に記載された工法では、母材である鋼板の端面を覆うためにより多くのめっき層を表面側から流し込む必要がある。そうすると、表層のめっきが割れたり局部的に薄くなったりする等の不具合が生じたり、酸化被膜あるいはコンタミが付着した鋼板表面上にめっきが流れ込むことよるめっきの密着不良が生じたりする可能性がある。
【0013】
さらに、上記特許文献3では、刃先の先端は図2(a)に示すような平坦部分を有している。このため、かかる工具を用いて積層基材を切断すると、刃が積層基材に食い込む際にめっきが分断され、切断端面にめっきは被覆されない。また、切断の最後に材料を押しつぶす状態となるため、積層基材を1工程で切断する、または、1工程目で積層基材に十分な損傷を与えて次工程で切断端面を所望の形状とする切断を行うことは困難である。
【0014】
また、上記特許文献4では、線材のめっきを切断時にその端面に被覆させることを目的としている。特許文献4の図1または図2に示されているように、かかるカッタの刃の一面は傾斜面であるが、他方の面はほぼ垂直な面であり、非対称性が著しく高い形状となっている。線材に刃が食い込む際、刃と線材とは点で接触するため、刃の進行方向に対して垂直方向にはほとんど力が生じない。このため、線材であれば特許文献4に示されている刃先の形状であっても切断可能である。これに対し、板材の被加工材を切断する場合、刃と被加工材とは線で接触する。このため、特許文献4に示されている刃先の形状では刃の進行方向に対して垂直方向に大きな力が生じ、刃への負荷が大きくなる。樹脂のように刃に対して被加工材が非常に柔らかい場合にはかかる刃に生じる負荷は問題とはならないが、金属材料のように一定以上の強度を有する材料の切断においては、刃の耐久性を著しく劣化させる。
【0015】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、被加工材の切断において、被加工材の有する性能が切断後に低下することを抑制することが可能な、新規かつ改良された切断方法及び切断工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、ダイとパンチとを備える切断工具を用いて被加工材を切断する切断方法であって、被加工材をダイとパンチとの間に配置することと、ダイの楔形状の第1の刃部とパンチの楔形状の第2の刃部とを対向させた状態で、パンチをダイ側に相対的に押し込み、被加工材を切断することと、を含み、第1の刃部の先端角度θ及び第2の刃部の先端角度θは、10°以上120°以下であり、第1の刃部の先端半径R及び第2の刃部の先端半径Rは、板厚の0.5%以上35.0%以下である、切断方法が提供される。
【0017】
被加工材は、母材の表面を被覆材により被覆してなる複層材であってもよい。
【0018】
第1の刃部の先端角度θ及び第2の刃部の先端角度θは、30°以上90°以下としてもよい。
【0019】
第1の刃部の先端半径R及び第2の刃部の先端半径Rは、板厚の1.5%以上10.0%以下であってもよい。
【0020】
被加工材の切断は、複数の切断工程で行ってもよい。
【0021】
複数の切断工程は、第1の切断工程と、第1の切断工程の後に行われる第2の切断工程とを含み、第2の切断工程では、第2の切断工程での第1の刃部の先端角度θを、第1の切断工程での第1の刃部の先端角度θよりも小さくすること、または、第2の切断工程での第2の刃部の先端角度θを、第1の切断工程での第2の刃部の先端角度θよりも小さくすることのうち、少なくともいずれか一方を行い、被加工材を切断するようにしてもよい。
【0022】
また、複数の切断工程は、第1の切断工程と、第1の切断工程の後に行われる第2の切断工程とを含み、第2の切断工程では、第2の切断工程での第1の刃部の先端半径Rを、第1の切断工程での第1の刃部の先端半径Rよりも小さくすること、または、第2の切断工程での第2の刃部の先端半径Rを、第1の切断工程での第2の刃部の先端半径Rよりも小さくすることのうち、少なくともいずれか一方を行い、被加工材を切断するようにしてもよい。
【0023】
また、複数の切断工程のうち、1回目の切断工程におけるパンチのストロークSは、第1の刃部の先端半径をR、第2の刃部の先端半径をR、被加工材の板厚をtと定義したとき、下記式(A)を満たすようにしてもよい。
(R+R)≦S≦{t-(R+R)} ・・・(A)
【0024】
被加工材の削り幅は、被加工材の一方の端部と当該被加工材の切断位置との距離であり、被加工材の削り幅Dは、第1の刃部の先端半径をR、第2の刃部の先端半径をR、被加工材の板厚をtと定義したとき、下記式(B)を満たすように設定してもよい。
R≦D≦3t ・・・(B)
R=Min(R,R
【0025】
ダイの楔形状の第1の刃部とパンチの楔形状の第2の刃部とは、それぞれ、刃先における法線に対して非対称な形状を有してもよい。
【0026】
ここで、第1の刃部の先端角度θは、当該刃部の刃先における法線により2つの角度θ1a、θ1bに分割され、第2の刃部の先端角度θは、当該刃部の刃先における法線により2つの角度θ2a、θ2bに分割され、角度θ1aと角度θ1bとの角度差である(θ1a-θ1b)または(θ1b-θ1a)、及び、角度θ2aと角度θ2bとの角度差である(θ2a-θ2b)または(θ2b-θ2a)は、5°以上45°以下としてもよい。
【0027】
また、第1の刃部の先端半径Rを、当該刃部の刃先における法線により2つに分割された第1の刃部の各先端半径R1a、R1bの平均値とし、第2の刃部の先端半径Rを、当該刃部の刃先における法線により2つに分割された第2の刃部の各先端半径R2a、R2bの平均値としたとき、先端半径R、Rは、それぞれ、板厚の0.5%以上35.0%以下であってもよい。
【0028】
第1の刃部の先端半径Rを分割した2つの先端半径の比R1a/R1bまたはR1b/R1a、及び、第2の刃部の先端半径Rを分割した2つの先端半径の比R2a/R2bまたはR2b/R2aは、1.1以上100以下であってもよい。
【0029】
また、切断方法は、被加工材から、最終形状領域と当該最終形状領域の縁部に沿って設けられた余剰領域とを有する中間材を形成することと、最終形状領域の縁部に対応して刃部が閉形状に形成されたダイとパンチとを備える切断工具を用いて、ダイの楔形状の第1の刃部とパンチの楔形状の第2の刃部とを対向させた状態で、パンチをダイ側に相対的に押し込み、中間材を切断することと、を含んでもよい。
【0030】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、被加工材を切断加工して形成された切断加工品であって、切断加工品の切断端面は、板厚方向に第1の表面から中央に向かって傾斜する第1の傾斜面と、板厚方向に第2の表面から中央に向かって傾斜する第2の傾斜面と、第1の傾斜面と第2の傾斜面との間に形成される破断面と、からなり、切断端面を正面から見たときの傾斜面の厚さは、下記関係式(C)を満たす、切断加工品が提供される。
(T+T)<T ・・・(C)
=Acosθ、T=Acosθ
ここで、Tは切断端面を正面から見たときの第1の傾斜面の厚さ、Tは切断端面を正面から見たときの第2の傾斜面の厚さ、Aは切断端面を側面から見たときの第1の傾斜面の長さ、Aは切断端面を側面から見たときの第2の傾斜面の長さ、θは第1の傾斜面の傾斜角度、θは第2の傾斜面の傾斜角度、Tは被加工材の板厚である。
【0031】
切断端面を正面から見たときの破断面の厚さTは、下記関係式(D)を満たしてもよい。
0<T≦0.5T ・・・(D)
【0032】
被加工材は、母材の表面を被覆材により被覆してなる複層材であり、第1の傾斜面及び第2の傾斜面は、少なくとも一部が母材の表面を覆う被覆材により被覆されてもよい。
【0033】
第1の傾斜面は、少なくとも一部が母材の第1の表面を覆う被覆材により被覆され、第2の傾斜面は、少なくとも一部が母材の第2の表面を覆う被覆材により被覆されてもよい。
【0034】
母材の板厚tは、0.2mm以上10mm以下であってもよい。
【発明の効果】
【0035】
以上説明したように本発明によれば、被加工材の切断において、被加工材の有する性能が切断後に低下することを抑制できる。例えば、表面処理が施された被加工材の切断において、母材の平面における被覆材の機能を維持しながら、その機能を切断端面にも発現させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明の第1の実施形態に係る切断工具を示す説明図であって、被加工材の切断前の状態を示す。
図2図1に示す切断工具による被加工材の切断後の状態を示す説明図である。
図3】同実施形態に係る切断工具の他の構成を示す説明図である。
図4】同実施形態に係る切断工具により切断された被加工材の切断端面を模式的に示す説明図である。
図5】同実施形態に係る切断工具により被加工材を切断したときの、被加工材の切断端面の画像である。
図6】同実施形態に係る切断工具を示す説明図であって、第1の刃部の先端の位置と第2の刃部の先端の位置とのずれ量を示す。
図7】被加工材の削り幅を説明するための模式図である。
図8】削り幅と破断面比率との関係の一例を示すグラフである。
図9図8にて設定した各削り幅で切断された被加工材の、各片の切断端面の正面写真である。
図10】パンチの刃部について、法線により二分した左右の角度を相違させて非対称形状とした例を示す模式図である。
図11】パンチの刃部について、法線により二分した左右の先端半径を相違させて非対称形状とした例を示す模式図である。
図12】同実施形態に係る切断工具を示す説明図であって、第1の刃部の先端の位置と第2の刃部の先端の位置とのずれ量を示す。
図13】本発明の第2の実施形態に係る被加工材における切断位置を示す平面図である。
図14】同実施形態に係る切断方法における中間材の形成工程を示す説明図である。
図15】同実施形態に係る切断方法における切断工程を示す説明図である。
図16】同実施形態に係る切断工程にて用いる切断工具を示す説明図であって、被加工材の切断前の状態を示す。
図17図16に示す切断工具による被加工材の切断後の状態を示す説明図である。
図18】同実施形態に係る切断工具を示す説明図であって、第1の刃部の先端の位置と第2の刃部の先端の位置とのずれ量を示す。
図19】同実施形態に係る他の切断方法において、被加工材における切断位置を示す平面図である。
図20】同実施形態に係る他の切断方法における中間材の形成工程を示す説明図である。
図21】同実施形態に係る他の切断方法における切断工程を示す説明図である。
図22】本発明の一実施形態に係る切断加工品の切断端面を模式的に示す説明図である。
図23】同実施形態に係る切断加工品の形状を説明するための説明図である。
図24】同実施形態に係る切断加工品の形状の他の例を示す説明図である。
図25】実施例(A)として、切断工具により切断されためっき金属材の切断端面の正面写真及び側面断面写真である。
図26】実施例として、めっき金属材の切断端面の、めっきによる金属材の被覆状態を表す板厚割合を示すグラフである。
図27図25に示す写真において、図26の板厚割合を算出したときの、めっき金属材の板厚と、めっき層の厚さとを示す説明図である。
図28】実施例(E)として、切断工具により切断されためっき金属材の切断端面の正面写真及び側面断面写真である。
図29】実施例(F)として、切断工具により切断されためっき金属材の切断端面の正面写真及び側面断面写真である。
図30】実施例(G)として、切断工具の刃先の形状を変化させたときの被加工材の切断端面を模式的に示す説明図である。
図31】実施例(H)として、刃先の先端の平坦部分の有無に関する刃先形状を表す模式図である。
図32】実施例(I)における解析結果及びめっき金属材の切断可否を示す図である。
図33】疲労試験に用いた試験片の形状を示す平面図である。
図34】疲労試験結果を示すグラフである。
図35】従来のせん断加工工具の一例を示す説明図である。
図36図35のせん断加工工具により切断された被加工材の切断端面を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0038】
[1.第1の実施形態]
[1-1.切断工具の概略構成]
(1.概略構成)
まず、図1図3に基づいて、本発明の第1の実施形態に係る切断工具100の概略構成について説明する。なお、図1は、本実施形態に係る切断工具100の一例を示す説明図であって、被加工材5の切断前の状態を示す。図2は、図1に示す切断工具100による被加工材5の切断後の状態を示す説明図である。図3は、本実施形態に係る切断工具100の他の構成を示す説明図である。図1図3では、被加工材5の板長方向をX方向、板幅方向をY方向、板厚方向をZ方向としたとき、被加工材5を板幅方向に沿って切断する場合を示している。
【0039】
本実施形態に係る切断工具100は、表面処理が施された被加工材を切断する工具である。以下の説明では、被加工材の一例として、母材である金属材(図4の金属材5a)の表面に被覆層(図4の被膜層5b)を有する表面処理材を取り上げる。このような被加工材としては、例えば、金属板の表面にめっきが施されためっき金属板、母材である金属材に対して表面を塗装した塗装金属板、金属板にフィルムをラミネートしたフィルムラミネート金属板等がある。
【0040】
本実施形態に係る切断工具100は、図1に示すように、板幅方向(Y方向)から見て、基部111に楔形状の第1の刃部113を有するダイ110と、基部121に楔形状の第2の刃部123を有するパンチ120と、からなる。楔形状の第1の刃部113及び第2の刃部123は板幅方向(Y方向)に延びており、第1の刃部113及び第2の刃部123の延びる方向に沿って被加工材5は切断される。
【0041】
ダイ110の第1の刃部113及びパンチ120の第2の刃部123により切断される被加工材5は、ダイ110とパンチ120との間に配置される。例えば、被加工材5は、ダイ110の上に載置される。このとき、ダイ110とパンチ120とは、第1の刃部113と第2の刃部123とを対向させて設置されている。そして、被加工材5がダイ110の上に載置された状態で、ダイ110に対してパンチ120を相対的に押し込ませることで、図2に示すように被加工材5が切断される。この際、被加工材5を保持するブランクホルダは必ずしも使用する必要はない。しかし、例えば図3に示すように、ブランクホルダ130を使用すれば、刃部113、123の両側において被加工材5をパッド131、132、133、134により保持することができる。この場合、被加工材5の傾きが抑制され、切断を安定して行うことができる。
【0042】
なお、ブランクホルダ130は、ダイ110またはパンチ120のうち少なくともいずれか一方に設けられていればよい。すなわち、図3の例では、ブランクホルダ130をダイ110にのみ設けるときにはパッド133、134のみが設けられていればよく、ブランクホルダ130をパンチ120にのみ設けるときにはパッド131、132のみが設けられていればよい。
【0043】
本実施形態に係る切断工具100は、パンチ120をダイ110に押し込んだ際、第1の刃部113及び第2の刃部123と被加工材5との間に生じる引張力により、被加工材5の表面の被膜層を切断端面へ入り込ませ、切断端面が被膜層で覆われるようにする。すなわち、パンチ120をダイ110に押し込んだときの被加工材5に対する第1の刃部113及び第2の刃部123の動きに被加工材5の表面の被膜層を追従させ、被膜層を切断端面へ入り込ませる。これにより、被加工材5の切断端面を被膜層で被覆させる。
【0044】
(2.被膜層による切断端面の被覆)
切断工具100により切断された被加工材5の切断端面の一例を図4に示す。図4では、被加工材5の切断端面の側面(すなわち、板幅方向に見た面)の断面を模式的に示している。図4に示すように、被加工材5の切断端面は、ダレs1、s2と、傾斜面s3、s4と、破断面s5とからなる。ダレs1及び傾斜面s3は、ダイ110の第1の刃部113により形成され、ダレs2及び傾斜面s4は、パンチ120の第2の刃部123により形成される。破断面s5は、第1の刃部113及び第2の刃部123によって被加工材5に生じたクラックが起点となって被加工材5が破断して形成される。
【0045】
図4に示すように、金属材5aの上面側の被膜層5bは、金属材5aの表面からダレs1及び傾斜面s3にまで連続して金属材5aを覆う。同様に、金属材5aの下面側の被膜層5bは、金属材5aの表面からダレs2及び傾斜面s4にまで連続して金属材5aを覆う。このように、本実施形態に係る切断工具100により切断された被加工材5は、連続する同一の被膜層5bで金属材5aの表面から切断端面までが被覆されるようになる。図5に、本実施形態に係る切断工具100により被加工材5を切断したときの、被加工材5の切断端面の画像を示す。図5に示すように、被加工材の傾斜面には、金属材の表面に被膜層が被覆されていることがわかる。
【0046】
例えば、被加工材5の切断後に、切断端面に対してめっきや塗装等の表面処理を施すことで切断端面を被覆することは可能である。しかし、被加工材5の被膜層5bと同一組成の材料で切断端面を被覆することは難しく、切断端面の耐食性は金属材5aの表面に比べて低い。これに対して、本実施形態に係る切断工具100により切断された被加工材5は、切断と同時に連続する同一の被膜層5bで金属材5aの表面から切断端面までを被覆されるため、切断端面は酸化しにくい。したがって、本実施形態に係る切断工具100を用いて被加工材5を切断することで、切断端面の耐食性の高い被加工材5を提供することができる。
【0047】
なお、本実施形態に係る切断工具100により切断された被加工材5の切断端面の形状は、第1の刃部113及び第2の刃部123の形状に起因する。第1の刃部113及び第2の刃部123は楔形状であるため、被加工材5の切断端面には、図36に示したような垂直なせん断面ではなく、図4に示すような楔形状の斜面に沿った傾斜面s3、s4を有する形状となる。このため、例えば図1の切断工具100により切断された被加工材5の切断端面は、板厚方向中心に向かうにつれて突出した形状となる。
【0048】
第1の刃部113及び第2の刃部123の形状を楔形状とすることで、被加工材5の切断時、楔形状の斜面に沿って金属材5aの表面の被膜層5bが第1の刃部113及び第2の刃部123の動きに追従しやすくなる。その結果、図4に示すように、金属材5aの表面の被膜層5bを切断端面のダレs1、s2だけでなく、傾斜面s3、s4まで追従させることができる。また、刃部113及び刃部123によって被加工材5の表裏両面にダレs1、s2が形成されることで、バリの無い切断面が形成される。
【0049】
また、金属材5aの表面の被膜層5bは、第1の刃部113及び第2の刃部123の斜面に追従して切断端面へ移動する。このとき、切断端面の傾斜面s3、s4の表面を覆う被膜層5bの量は、図4に示すように、破断面s5に向かうにつれて徐々に減少する。このように傾斜面s3、s4に被膜層5bを被覆させることで、金属材5aの切断端面のうち被膜層5bにより被覆される面が増加しても、金属材5aの表面を被覆している被膜層5bが切断端面へ移動される量はほとんど増加しないため、被加工材5の平面耐食性を維持することができる。
【0050】
なお、破断面s5はクラックが生じて被加工材5が破断して形成された面であるため、破断面s5にまで被膜層5bを入り込ませることは難しい。しかし、第1の刃部113の先端113aと第2の刃部123の先端123aとがほぼ接触する状態となるまでは、被加工材5はその斜面に沿って切断されるため、破断面s5は、切断端面のうち破断面s5が占める割合はわずかである。したがって、破断面s5が被膜層5bで覆われていないとしても、耐食性を著しく低下させることはない。
【0051】
さらに、本実施形態に係る切断工具100のように、ダイ110の第1の刃部113とパンチ120の第2の刃部123とを楔形状とすることで、例えば引張強度が200MPa以上の強度を有する材料、あるいは、厚みのある材料も切断可能となる。また、引張強度が270MPa以上の強度を有する材料、さらには、引張強度が590MPa以上の強度を有する材料も切断可能となる。
【0052】
[1-2.刃部の形状]
(a.刃部の形状が対称である場合)
本実施形態に係る切断工具100において、ダイ110の第1の刃部113とパンチ120の第2の刃部123とは、図1に示すように同一の楔形状を有する。しかし、第1の刃部113及び第2の刃部123は、少なくとも楔形状であればよく、それぞれ以下の形状を満たしていることが好ましい。
【0053】
(先端角度)
第1の刃部113の先端角度θ及び第2の刃部123の先端角度θは、10°以上120°以下とすることが好ましい。先端角度θ、θが10°以上であると、傾斜が大きくなるため、被膜層5bの追従性が向上し、切断端面の耐食性がより向上する。また、刃部113及び刃部123にかかる応力が小さくなり、刃先の損傷が抑制され、工具の耐久性が向上する。また、先端角度θ、θが120°以下であると、被加工材5を切断するために必要な荷重が大きくなり過ぎず、かつ、刃先を押し込んだ場合に被加工材5に亀裂が生じやすくなるので、被加工材5の切断が容易になる。このため、第1の刃部113の先端角度θ及び第2の刃部123の先端角度θは、10°以上120°以下とし、より好ましくは30°以上90°以下とする。
【0054】
(先端半径)
第1の刃部113の先端半径R及び第2の刃部123の先端半径Rは、板厚tの0.5%以上35.0%以下とすることが好ましい。先端半径R、Rが板厚tの0.5%以上であると、刃部113及び刃部123の刃先にかかる応力が大きくなり過ぎず、刃先の損傷が抑制され、耐久性が向上する。また、先端半径R、Rが板厚tの35.0%以下であると、切断端面の形状が良好となる。また、刃先を押し込んだ場合に被加工材5に亀裂が生じやすくなるので、被加工材5の切断がより容易になる。このため、第1の刃部113の先端半径R及び第2の刃部123の先端半径Rは、板厚tの0.5%以上35.0%以下とし、より好ましくは板厚tの3.0%以上10.0%以下とする。
【0055】
ここで、第1の刃部113と第2の刃部123とは異なる形状であってもよい。例えば、先端半径R、Rまたは先端角度θ、θのうち少なくともいずれか一方が異なれば、第1の刃部113と第2の刃部123とは異なる形状となる。第1の刃部113と第2の刃部123とを異なる形状とすることで、破断面比率を変化させることができる。なお、破断面比率は、被加工材5の板厚に対する破断面s5の割合である。
【0056】
このとき、第1の刃部113の先端半径Rと第2の刃部123の先端半径Rとの比(先端半径比R/RまたはR/R)は、100未満であることが好ましく、より好ましくは10未満とする。最も好ましいのは、先端半径R、Rが等しい場合である。なお、第1の刃部113の先端半径Rと第2の刃部123の先端半径Rとの大小関係は特に限定されない。また、第1の刃部113の先端角度θと第2の刃部123の先端角度θとの比(先端角度比θ/θまたはθ/θ)は、4未満であることが好ましく、より好ましくは2未満とする。最も好ましいのは、先端角度θ、θが等しい場合である。なお、第1の刃部113の先端角度θと第2の刃部123の先端角度θとの大小関係は特に限定されない。
【0057】
先端半径比R/RまたはR/R、及び、先端角度比θ/θまたはθ/θが上記範囲内となるように設定することで、破断面比率を低くすることができる。第1の刃部113と第2の刃部123とで、先端半径または先端角度のうち少なくともいずれか一方が大きく異なっていると、一方の刃部による切断が先行して進行するため被加工材5の変形が集中する。その結果、被加工材5の破断が早まり破断面比率が大きくなるため、切断端面に被膜層5bが被覆される割合が低下する。そこで、先端半径比R/RまたはR/R、及び、先端角度比θ/θまたはθ/θを上記範囲内となるように設定することで、破断面比率を低くすることができる。
【0058】
(先端位置のずれ量)
第1の刃部113の先端113aの位置と第2の刃部123の先端123aの位置とは、ダイ110とパンチ120とが対向する方向(すなわち、被加工材5の板厚方向)に直交する水平方向において、図1及び図2に示すように一致させてもよい。第1の刃部113の先端113aの位置と第2の刃部123の先端123aの位置とを一致させることで、刃部113及び刃部123にかかるX方向の力を低減させることができ、耐久性が向上する。また、適切なタイミングで刃先から亀裂を発生させ、切断を完了させることができる。
【0059】
あるいは、図6に示すように、第1の刃部113の先端113aの位置と第2の刃部123の先端123aの位置とは、水平方向にずれ量xだけずれていてもよい。先端位置のずれ量xとは、第1の刃部113と第2の刃部123とが対向する方向に直交する水平方向(すなわち、X方向)における、第1の刃部113の先端113aと第2の刃部123の先端123aとの距離を意味する。先端位置のずれ量は板厚tの50%以下であるのが好ましい。先端位置のずれ量が板厚tの50%以下であれば、被加工材5を確実に所望の端面性状が得られるように切断することができる。
【0060】
(削り幅)
被加工材5の削り幅Dは、切断工具100による切断時に切断位置から板長方向(X方向)に被加工材5を残しておくべき長さをいう。被加工材5の削り幅Dは、例えば図7に示すように、切断位置から被加工材5の一方の端部までの長さで表される。図6に示すように、第1の刃部113の先端113aの位置と第2の刃部123の先端123aの位置とがずれている場合には、被加工材5の削り幅Dは、例えば被加工材5の端部から当該端部に近い側の刃部の先端位置までの長さとすればよい。なお、図7では、被加工材5の削り幅Dを取る側と反対側において、ダイ110と被加工材5との間にパッド140が配置されている。パッド140は、図3に示したブランクホルダ130のパッド131、132、133、134と同様に機能する。
【0061】
被加工材5の削り幅Dは、刃部の先端半径R以上であり、被加工材5の板厚tの5倍以下(R≦D≦5t)、特に被加工材5の板厚tの3倍以下であることが好ましい(R≦D≦3t)。より好ましくは、被加工材5の削り幅Dは、刃部の先端半径Rの3倍以上であり、被加工材5の板厚t以下とする(3R≦D≦t)。なお、刃部の先端半径Rは、第1の刃部113の先端半径Rまたは第2の刃部123の先端半径Rである。先端半径R、Rが同一の場合は、R=R=Rである。先端半径R、Rが異なる場合は、先端半径Rは、第1の刃部113の先端半径Rと第2の刃部123の先端半径Rとのうち小さい方とする(R=Min(R,R))。
【0062】
削り幅Dを板厚tの5倍以下、より好ましくは3倍以下とすることで、切断による破断面s5の発生が抑制され、破断面比率を低下させることができる。図8に、削り幅Dと破断面比率との関係の一例を示す。図8は、板厚tが3.2mmの被加工材5を、削り幅Dを1.6mm(=0.5t)、3.2mm(=t)、5.0mm(≒1.6t)、6.4mm(=2.0t)、10.0mm(≒3.1t)、12.8mm(=4.0t)、16.0mm(=5.0t)にそれぞれ設定し、図1に示す切断工具100により切断したときの破断面比率を示している。ここでは、被加工材5として、板厚3.2mmの引張強度460MPaの亜鉛めっき鋼板を用いた。切断工具100の先端半径Rは0.05mm、先端角度θは60°とした。同一の削り幅Dにおける2つのプロットは、切断工具100により切断された被加工材5の2つの片について測定された破断面比率を示している。
【0063】
また、図9には、切断端面の例として、1.6mm、3.2mm、6.4mm、12.8mmの削り幅Dで切断された被加工材5の各片の切断端面を示している。
【0064】
図8及び図9より、削り幅Dが小さいほど、破断面比率が低下することがわかる。また、削り幅Dが板厚t以下であるとき、破断面比率がさらに低下することがわかる。一方、削り幅Dを刃部の先端半径R以上、特に先端半径Rの3倍以上とすることで、切断時の工具の弾性変形による刃先の位置ずれを抑制することができ、切断により良好な端面形状を得ることできる。
【0065】
このように、ダイ110の第1の刃部113、パンチ120の第2の刃部123の形状、各刃部113、123の先端位置のずれ量、または、被加工材5の削り幅Dを変化させることで、切断工具100により切断された被加工材5の切断端面の形状が変化し、切断端面の被膜層5bによる被覆状態が変化する。したがって、ダイ110の第1の刃部113及びパンチ120の第2の刃部123の形状、各刃部113、123の先端位置のずれ量及び被加工材5の削り幅Dは、切断後の被加工材5に要求される切断端面の形状あるいは耐食性に応じて適宜設定すればよい。
【0066】
(刃部の高さ)
第1の刃部113の高さh及び第2の刃部123の高さhは、少なくともこれらの和(h+h)が被加工材5の板厚tよりも大きくすればよい。
【0067】
以上、本実施形態に係る切断工具100の形状と、これを用いて切断された被加工材5の切断端面の被膜層による被覆状態とについて説明した。本実施形態に係る切断工具100は、それぞれ楔形状の刃部113、123を有するダイ110及びパンチ120からなる。楔型状の刃部113、123により被加工材5を切断することで、金属材5aの表面の被膜層5bを刃部113、123の動きに追従させて切断端面へ入り込ませることができる。切断端面の傾斜面s、s4には、破断面s5に向かって切断端面を被覆する被膜層の量が減少するように、金属材5aの表面から連続して被膜層5bが被覆される。したがって、被加工材5の平面耐食性を維持しながら切断端面の耐食性を向上させることができる。
【0068】
なお、上記切断工具100による被加工材5の切断は、1回の切断により行ってもよく、複数の切断工程により行ってもよい。複数の切断工程による切断とは、ダイ110をパンチ120に相対的に押し込む切断工程を複数回実施して、被加工材5を2つの片に切断することをいう。複数の切断工程により被加工材5を切断することで、様々な切断端面を実現することができる。
【0069】
例えば、複数の切断工程により被加工材5を切断する際、各切断工程での第1の刃部113の先端角度θ及び第2の刃部123の先端角度θを段階的に小さくするようにしてもよい。より具体的に説明すると、複数の切断工程が、第1の切断工程と、第1の切断工程の後に行われる第2の切断工程とを含むとする。このとき、第2の切断工程では、第1の刃部113の先端角度θを、第1の切断工程での先端角度θよりも小さくすること、または、第2の刃部123の先端角度θを、第1の切断工程での先端角度θよりも小さくすることのうち、少なくともいずれか一方を行い、被加工材5を切断する。これにより、切断端面に被膜層5bが被覆する部分を増加させることができ、かつ、良好な端面形状を得ることができる。
【0070】
この際、各切断工程におけるパンチ120のストロークSは、段階的に小さくするのがよい。最初の切断工程のストロークを大きくすることで、第1の刃部113及び第2の刃部123の動きに対する被膜層5bの追従性が高まる。
【0071】
例えば、複数の切断工程のうち、1回目の切断工程におけるパンチ120のストロークSは、下記式(1)の関係式を満たすようにすることが好ましい。より好ましくは、1回目の切断工程におけるパンチ120のストロークSは、下記式(2)を満たすようにする。なお、「1回目の切断工程におけるパンチ120のストロークS」とは、刃が被加工材5と接する位置を起点とするストローク量をいう。このように1回目の切断工程におけるパンチ120のストロークSを設定することで、切断端面に被膜層5bが被覆する部分を増加させるとともに、良好な端面形状を得ることができる。
【0072】
(R+R)≦S≦{t-(R+R)} ・・・(1)
(R+R)×2≦S≦{t-(R+R)×2} ・・・(2)
【0073】
また、複数の切断工程により被加工材5を切断する際、各切断工程での第1の刃部113の先端半径R及び第2の刃部123の先端半径Rを段階的に小さくするようにしてもよい。すなわち、第2の切断工程では、第1の刃部113の先端半径Rを、第1の切断工程での先端半径Rよりも小さくすること、または、第2の刃部123の先端半径Rを、第1の切断工程での先端半径Rよりも小さくすることのうち、少なくともいずれか一方を行い、被加工材5を切断する。この場合も、先端角度を小さくする場合と同様、切断端面に被膜層5bが被覆する部分を増加させることができ、かつ、良好な端面形状を得るという効果を奏する。
【0074】
なお、被加工材5の切断時のダレの形成を抑制した上で、切断端面に被膜層5bを被覆させつつ、切断工具100に対する負荷を低減したい場合には、各切断工程での第1の刃部113の先端角度θ及び第2の刃部123の先端角度θを段階的に大きくするようにしてもよい。
【0075】
このように、各切断工程で刃部の先端半径または先端角度を段階的に変化させることで、良好な端面形状を制御することができる。さらに、端面のめっきの被覆量を段階的に調整することも可能となる。例えば、先端半径または先端角度を段階的に小さくすることで、端面の端部のバリを低減しつつ、端面のより広い領域にめっきを行き渡らせることができる。また、先端半径または先端角度を段階的に大きくすることで、端面の切断起点部分にめっきを多く残しつつ、端面に薄くめっきを被覆させることができる。このように、切断起点部分のめっきを多く残すことで、端面から被加工材5の表面へ赤錆が流れ出ることを抑制することができる。
【0076】
(b.刃部の形状が非対称である場合)
本実施形態に係る切断工具100において、ダイ110の第1の刃部113とパンチ120の第2の刃部123とは、図1に示すように先端113a、123aにおける法線に対して非対称の楔形状を有する。しかし、第1の刃部113及び第2の刃部123は、少なくとも法線に対して非対称な楔形状であればよく、それぞれ以下の形状を満たしていることが好ましい。
【0077】
(先端角度)
第1の刃部113の先端角度θ及び第2の刃部123の先端角度θは、10°以上120°以下とすることが好ましい。先端角度θ、θが10°以上であると、傾斜が大きくなるため、被膜層5bの追従性が向上し、切断端面の耐食性がより向上する。また、刃部113及び刃部123にかかる応力が小さくなり、刃先の損傷が抑制され、工具の耐久性が向上する。また、先端角度θ、θが120°以下であると、被加工材5を切断するために必要な荷重が大きくなり過ぎず、かつ、刃先を押し込んだ場合に被加工材5に亀裂が生じやすくなるので、被加工材5の切断が容易になる。このため、第1の刃部113の先端角度θ及び第2の刃部123の先端角度θは、10°以上120°以下とし、より好ましくは30°以上90°以下とする。
【0078】
また、本実施形態に係る切断工具100では、第1の刃部113及び第2の刃部123の形状を法線に対して非対称とする。例えば、第1の刃部113の先端角度θについて、法線により二分した左右の角度θ1a、θ1b(θ=θ1a+θ1b)を相違させることで、第1の刃部113の形状を法線に対して非対称とすることができる。同様に、第2の刃部123の先端角度θについて、法線により二分した左右の角度θ2a、θ2b(θ=θ2a+θ2b)を相違させることで、第2の刃部123の形状を法線に対して非対称とすることができる。図10に、ダイ110の刃部113及びパンチ120の刃部123について、法線Nにより二分した左右の角度θ1a、θ1b及び角度θ2a、θ2bを相違させて非対称形状とした例を示す。
【0079】
角度θ1a、θ1bまたは角度θ2a、θ2bを相違させることで、被加工材5を切断する際の亀裂の進展方向を制御することができる。例えば、2つに切断される被加工材5のうち切断端面にばりを生じさせたくない制御側の角度(ダイ110であればθ1aまたはθ1b、パンチ120であればθ2aまたはθ2b)を他側より大きくすることで、制御側にて大きな亀裂が進展しやすくなる。その結果、ばりの発生を抑制することができる。
【0080】
このとき、角度θ1aと角度θ1bとの角度差である(θ1a-θ1b)または(θ1b-θ1a)、及び、角度θ2aと角度θ2bとの角度差である(θ2a-θ2b)または(θ2b-θ2a)は、5°以上45°以下とすることが望ましい。左右の角度差が5°以上であれば、被加工材5の亀裂の進展方向を安定して制御することができる。また、左右の角度差が45°以下とすることで、刃部に加わる被加工材5の切断進行方向の荷重のうち垂直成分の荷重が大きくなり過ぎることがなく、刃部の耐久性を確保することができる。したがって、左右の角度差(θ1a-θ1b)または(θ1b-θ1a)、及び、(θ2a-θ2b)または(θ2b-θ2a)は、5°以上45°以下とし、より好ましくは10°以上30°以下とする。
【0081】
(先端半径)
本実施形態に係る切断工具100では、第1の刃部113及び第2の刃部123の形状を法線に対して非対称とする。上述のように、第1の刃部113の先端角度θ及び第2の刃部123の先端角度θについて、法線により二分した左右の角度θ1a、θ1bまたは角度θ2a、θ2bを相違させてもよいが、法線により二分した左右の先端半径R1a、R1bまたは先端半径R2a、R2bを相違させることによっても、第1の刃部113及び第2の刃部123の形状を法線に対して非対称とすることができる。図11に、ダイ110の刃部113及びパンチ120の刃部123について、法線Nにより二分した左右の先端半径R1a、R1b及び先端半径R2a、R2bを相違させて非対称形状とした例を示す。
【0082】
先端半径R1a、R1bまたは先端半径R2a、R2bを相違させることで、被加工材5を切断する際の亀裂の進展方向を制御することができる。例えば、2つに切断される被加工材5のうち切断端面にばりを生じさせたくない制御側の先端半径(ダイ110であればR1aまたはR1b、パンチ120であればR2aまたはR2b)を他側より小さくすることで、制御側にて大きな亀裂が進展しやすくなる。その結果、ばりの発生を抑制することができる。
【0083】
ここで、ダイ110の先端半径Rを、当該刃部の刃先における法線により2つに分割された各先端半径R1a、R1bの平均値(R={(R1a+R1b)/2})とする。同様に、パンチ120の先端半径Rを、当該刃部の刃先における法線により2つに分割された各先端半径R2a、R2bの平均値(R={(R2a+R2b)/2})とする。このとき、先端半径R、Rは、それぞれ、板厚tの0.5%以上35.0%以下とすることが好ましい。先端半径R、Rが板厚tの0.5%以上であると、刃部113及び刃部123の刃先にかかる応力が大きくなり過ぎず、刃先の損傷が抑制され、耐久性が向上する。また、先端半径R、Rが板厚tの35.0%以下であると、切断端面の形状が良好となる。また、刃先を押し込んだ場合に被加工材5に亀裂が生じやすくなるので、被加工材5の切断がより容易になる。このため、第1の刃部113の先端半径R及び第2の刃部123の先端半径Rは、板厚tの0.5%以上35.0%以下とし、より好ましくは板厚tの3.0%以上10.0%以下とする。
【0084】
このとき、第1の刃部113の左右の先端半径の比R1a/R1bまたはR1b/R1a、及び、第2の刃部123の左右の先端半径の比R2a/R2bまたはR2b/R2aは、1.1以上100以下とすることが望ましい。左右の先端半径Ra、Rbの比が1.1以上であれば、被加工材5の亀裂の進展方向を安定して制御することができる。また、左右の先端半径Ra、Rbの比が100以下とすることで、刃部に加わる被加工材5の切断進行方向の荷重のうち垂直成分の荷重が大きくなり過ぎることがなく、刃部の耐久性を確保することができる。したがって、左右の先端半径の比(R1a/R1bまたはR1b/R1a、及び、R2a/R2bまたはR2b/R2a)は、1.1以上100以下とし、より好ましくは5以上20以下とする。
【0085】
ここで、第1の刃部113と第2の刃部123とは、図1等に示したように、被加工材5に対して対称な形状であってもよいが、異なる形状であってもよい。例えば、第1の刃部113と第2の刃部123とにおいて、左右の先端角度θ1a、θ1bまたはθ2a、θ2b及び左右の先端半径R1a、R1bまたはR2a、R2bのうち少なくともいずれか1つが異なれば、第1の刃部113と第2の刃部123とは異なる形状となる。第1の刃部113と第2の刃部123とを異なる形状とすることで、破断面比率を変化させることができる。なお、破断面比率は、被加工材5の板厚に対する破断面s5の割合である。
【0086】
(先端位置のずれ量)
第1の刃部113の先端113aの位置と第2の刃部123の先端123aの位置とは、ダイ110とパンチ120とが対向する方向(すなわち、被加工材5の板厚方向)に直交する水平方向において、図1及び図2に示すように一致させてもよい。第1の刃部113の先端113aの位置と第2の刃部123の先端123aの位置とを一致させることで、刃部113及び刃部123にかかるX方向の力を低減させることができ、耐久性が向上する。また、適切なタイミングで刃先から亀裂を発生させ、切断を完了させることができる。
【0087】
あるいは、図12に示すように、第1の刃部113の先端113aの位置と第2の刃部123の先端123aの位置とは、水平方向にずれ量xだけずれていてもよい。先端位置のずれ量xとは、第1の刃部113と第2の刃部123とが対向する方向に直交する水平方向(すなわち、X方向)における、第1の刃部113の先端113aと第2の刃部123の先端123aとの距離を意味する。先端位置のずれ量は板厚tの50%以下であるのが好ましい。先端位置のずれ量が板厚tの50%以下であれば、被加工材5を確実に所望の端面性状が得られるように切断することができる。
【0088】
(削り幅)
被加工材5の削り幅Dは、切断工具100による切断時に切断位置から板長方向(X方向)に被加工材5を残しておくべき長さをいう。被加工材5の削り幅Dは、例えば図7に示すように、切断位置から被加工材5の一方の端部までの長さで表される。図12に示すように、第1の刃部113の先端113aの位置と第2の刃部123の先端123aの位置とがずれている場合には、被加工材5の削り幅Dは、例えば被加工材5の端部から当該端部に近い側の刃部の先端位置までの長さとすればよい。なお、図7では、被加工材5の削り幅Dを取る側と反対側において、ダイ110と被加工材5との間にパッド140が配置されている。パッド140は、図3に示したブランクホルダ130のパッド131、132、133、134と同様に機能する。
【0089】
被加工材5の削り幅Dは、刃部の先端半径R以上であり、被加工材5の板厚tの5倍以下(R≦D≦5t)、特に被加工材5の板厚tの3倍以下であることが好ましい(R≦D≦3t)。より好ましくは、被加工材5の削り幅Dは、刃部の先端半径Rの3倍以上であり、被加工材5の板厚t以下とする(3R≦D≦t)。なお、刃部の先端半径Rは、第1の刃部113の左右の先端半径R1a、R1b及び第2の刃部123の左右の先端半径R2a、R2bのうち最小のものとする(R=Min(R1a,R1b,R2a,R2b))。
【0090】
削り幅Dを板厚tの5倍以下、より好ましくは3倍以下とすることで、切断による破断面s5の発生が抑制され、破断面比率を低下させることができる。一方、削り幅Dを刃部の先端半径R以上、特に先端半径Rの3倍以上とすることで、切断時の工具の弾性変形による刃先の位置ずれを抑制することができ、切断により良好な端面形状を得ることできる。かかる理由は、図8及び図9に基づき上述した通りである。
【0091】
このように、ダイ110の第1の刃部113、パンチ120の第2の刃部123の形状、各刃部113、123の先端位置のずれ量、または、被加工材5の削り幅Dを変化させることで、切断工具100により切断された被加工材5の切断端面の形状が変化し、切断端面の被膜層5bによる被覆状態が変化する。したがって、ダイ110の第1の刃部113及びパンチ120の第2の刃部123の形状、各刃部113、123の先端位置のずれ量及び被加工材5の削り幅Dは、切断後の被加工材5に要求される切断端面の形状あるいは耐食性に応じて適宜設定すればよい。
【0092】
例えば、ダイ110の第1の刃部113及びパンチ120の第2の刃部123を同一の左右非対称な形状とし、第1の刃部113の先端113aの位置と第2の刃部123の先端123aの位置とを一致させて、被加工材5に対して対称に配置すれば、切断端面の耐食性を高めることができる。切断端面が板厚中央位置に対して対称であり、被加工材5下面側の被膜層5bの傾斜面sへの入り込みと、被加工材5上面側の被膜層5bの傾斜面s4への入り込みとが略均等となることによる。
【0093】
また、例えば切断端面を溶接する場合には、作業の容易さから切断端面が平坦であるのが望ましい。この場合には、ダイ110の第1の刃部113とパンチ120の第2の刃部123とを異なる楔形状とし、切断端面の平坦性を高めるようにしてもよい。
【0094】
(刃部の高さ)
第1の刃部113の高さh及び第2の刃部123の高さhは、刃部の形状が対称である場合と同様、少なくともこれらの和(h+h)が被加工材5の板厚tよりも大きくすればよい。
【0095】
このように、切断工具100は、それぞれ左右に非対称な楔形状の刃部113、123を有するダイ110及びパンチ120からなるようにしてもよい。楔型状の刃部113、123により被加工材5を切断することで、金属材5aの表面の被膜層5bを刃部113、123の動きに追従させて切断端面へ入り込ませることができる。切断端面の傾斜面s、s4には、破断面s5に向かって切断端面を被覆する被膜層の量が減少するように、金属材5aの表面から連続して被膜層5bが被覆される。したがって、被加工材5の平面耐食性を維持しながら切断端面の耐食性を向上させることができる。また、本実施形態に係る切断工具100は、ダイ110及びパンチ120の刃部113、123が、先端113a、123aにおける法線に対して非対称な形状を有することにより、被加工材5を切断する際の亀裂の進展方向を制御することができる。
【0096】
なお、上記切断工具100による被加工材5の切断は、1回の切断により行ってもよく、複数の切断工程により行ってもよい。複数の切断工程による切断とは、ダイ110をパンチ120に相対的に押し込む切断工程を複数回実施して、被加工材5を2つの片に切断することをいう。複数の切断工程により被加工材5を切断することで、様々な切断端面を実現することができる。
【0097】
[2.第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態に係る被加工材の切断方法について説明する。本実施形態に係る被加工材の切断方法は、例えば穴抜き加工や打ち抜き加工等のように、被加工材5を平面視して縁部が曲線により規定される閉形状の領域(以下、「閉領域」ともいう。)を被加工材5から切断する切断加工に関する。このような切断加工においても、特許文献1のように被加工材を直線状に切断する場合と同様の検討がなされている。
【0098】
例えば特許文献5には、Zn系めっき鋼板の打抜き加工を行う前に、当該Zn系めっき鋼板の表面における打抜き予定箇所に速乾性油を塗布し、その後、速乾性油が打抜き端面へ廻り込むように当該箇所の打抜き加工を行う、打抜き加工方法が開示されている。特許文献5に記載の方法によれば、打抜き加工前にZn系めっき鋼板表面の打抜き予定箇所に速乾性油が塗布されているため、打抜き加工時にその速乾性油が打抜き端面に廻り込み、端面の耐食性低下が抑制される。
【0099】
また、特許文献6には、塗装鋼板のせん断加工を行う際に、パンチの径方向に沿う長径とパンチの軸方向に沿う短径とを有する楕円状の円弧面からなるコーナー部をパンチ刃先に設けたものをパンチとして用い、塗膜剥離部のパンチの外径側に向かう拡大量よりも長径を大きくすることで塗膜剥離部を切屑側に含ませる、塗装鋼板のせん断加工方法が開示されている。特許文献6に記載の方法によれば、せん断加工後の塗装鋼板に塗膜剥離部が残ることを回避でき、塗膜剥離部に起因するエナメルヘアの発生を抑制できる。
【0100】
しかし、上記特許文献1に記載の方法では、素地金属材の表面のめっき金属層は、切断端面のうちせん断面の少なくとも一部のみを被覆するのみであり、破断面では素地金属材は露出したままである。このため、めっき金属板の切断端面の耐食性が十分ではない。また、一般に、防錆を目的として切断端面に過度の犠牲防食性を付与しようとすると、めっき金属板の表面のめっきが減少し、めっき金属板の表面の表面耐食性(すなわち、平面耐食性)が低下してしまう。
【0101】
また、上記特許文献5に記載の方法では、Zn系めっき鋼板の表面における打抜き予定箇所に速乾性油を塗布する必要がある。また、Zn系めっき鋼板の板厚が厚くなると、打抜き端面の全域に速乾性油が廻り込みにくくなるため、打抜き加工の後に、打抜き端面へも速乾性油を塗布しなければならない。
【0102】
上記特許文献6に記載の方法は、せん断加工後の塗膜鋼板においてダレから塗膜が剥離しないようにするものであり、せん断面を塗膜により被覆する技術ではない。このため、塗膜鋼板のせん断面には塗膜が付着しておらず、せん断面においては塗膜が付着することによる機能は発現されない。
【0103】
そこで、本実施形態に係る被加工材の切断方法では、閉領域を被加工材5から切断する切断加工においても、表面処理が施された被加工材の切断において、母材の平面における被覆材の機能を維持しながら、その機能を切断端面にも発現させることを可能にする。以下、本実施形態に係る被加工材の切断方法について詳細に説明する。
【0104】
[2-1.被加工材から閉領域を除去した部分を製品とする場合(穴抜き加工)]
(1.切断方法)
まず、図13図17に基づいて、本発明の第の実施形態に係る被加工材の切断方法を説明する。図13は、本実施形態に係る被加工材5における切断位置を示す平面図である。図14は、本実施形態に係る切断方法における中間材の形成工程を示す説明図である。図15は、本実施形態に係る切断方法における切断工程を示す説明図である。図16は、本実施形態に係る切断工程にて用いる切断工具100の一例を示す説明図であって、被加工材5の切断前の状態を示す。図17は、図16に示す切断工具100による被加工材5の切断後の状態を示す説明図である。図16及び図17は、図15に示した切断工具100及び被加工材5を模式的に示している。
【0105】
なお、本実施形態に係る切断方法では、表面処理が施された被加工材5を切断する。以下の説明では、被加工材5の一例として、母材である金属材(図4の金属材5a)の表面に被覆層(図4の被膜層5b)を有する表面処理材を取り上げる。このような被加工材としては、例えば、金属板の表面にめっきが施されためっき金属板、母材である金属材に対して表面を塗装した塗装金属板、金属板にフィルムをラミネートしたフィルムラミネート金属板等がある。
【0106】
本実施形態に係る切断方法は、被加工材5の閉領域を被加工材5から切断する方法である。このような切断方法の一例として、本実施形態では、穴抜き加工のように、被加工材5から閉領域が除かれて貫通孔が形成された部分を製品とする際の切断方法を説明する。閉領域は、曲線(直線を含んでもよい)により表される形状であればよく、例えば円形、楕円形等の形状であってもよい。
【0107】
本実施形態に係る切断方法は、被加工材5から中間材を形成する工程と、中間材を切断して製品として利用する部分を取得する工程とを含む。例えば、図13に示す被加工材5から円形の閉領域を切断する場合、まず、被加工材5から中間材を形成する工程において、被加工材5が切断位置P1で切断され、切断位置P1の内部が除去された中間材が形成される。切断位置P1は、最終的に切断したい切断位置P2よりも内部に設定される。次いで、中間材を切断する工程において、最終的に切断したい切断位置P2で中間材が切断される。中間材は、ダイ及びパンチに楔形状の刃部を有する切断工具を用いて切断される。
【0108】
このように、本実施形態に係る切断方法では、中間材を楔形状の刃部により切断し、最終的な製品形状とすることで、図4に示したように、切断後の被加工材5の切断端面を被膜層5bによって被覆させることができる。したがって、被加工材5の平面耐食性を維持しながら切断端面の耐食性を向上させることができる。また、被加工材5を最終的に切断したい切断位置P2で切断する前に、余剰領域を残して閉領域を切断する。これにより、切断位置P2で閉領域を切断する際に、材料が移動する空間を確保することができるため、被加工材5を確実に切断することができる。
【0109】
(中間材形成工程)
被加工材5から中間材を形成する工程の一例を図14に示す。図14では、ダイ51とパンチ52とを有する切断工具50を用いて、被加工材5を切断位置P1で切断する。ダイ51は、切断位置P1にて切断される閉領域に対応する形状の貫通孔を有する筒状部材である。パンチ52は、ダイ51の貫通孔に挿通される部材であり、ダイ51の貫通孔の内部空間に対応した形状を有する。被加工材5がダイ51上に載置された状態でパンチ52を押し込むことにより、被加工材5から切断位置P1の閉領域が切断される。その結果、図14下側に示すように、貫通孔が形成された被加工材5が得られる。この被加工材5を中間材とする。
【0110】
中間材の貫通孔は、最終的に切断したい切断位置P2の内部に形成されている。次工程にて切断位置P2で中間材を切断することにより得られる被加工材5の領域を最終形状領域とすると、切断位置P1は、最終形状領域の縁部(すなわち切断位置P2)に沿って、最終形状領域とは反対側に設定される。すなわち、中間材は、最終形状領域に加えて、切断位置P2と切断位置P1との間の部分を余剰領域として有している。余剰領域は、次工程にて切断される。このように中間材を形成することで、次工程にて切断位置P2で中間材を切断した際に、材料が貫通孔側へ移動することが可能となる。
【0111】
なお、被加工材5から中間材を形成する方法は、図14に示した切断工具50を用いる方法に限定されず、レーザ切断あるいはその他の切断方法を用いて実施してもよい。
【0112】
(切断工程)
中間材を切断する工程の一例を図15に示す。中間材を切断するための切断工具100は、図15に示すように、基部111に楔形状の第1の刃部113を有するダイ110と、基部121に楔形状の第2の刃部123を有するパンチ120とを有する。楔形状の第1の刃部113及び第2の刃部123は切断位置P2に対応して閉形状に形成されている。例えば図15に示すように切断位置P2が円形である場合には、楔形状の第1の刃部113及び第2の刃部123は円形に形成されている。
【0113】
ダイ110の第1の刃部113及びパンチ120の第2の刃部123により切断される被加工材5は、図16に示すように、ダイ110とパンチ120との間に配置される。例えば、被加工材5は、ダイ110の上に載置される。このとき、ダイ110とパンチ120とは、第1の刃部113と第2の刃部123とを対向させて設置されている。そして、被加工材5がダイ110の上に載置された状態で、ダイ110に対してパンチ120を相対的に押し込ませることで、図17に示すように被加工材5が切断位置P2で切断される。切断工具100により切断された被加工材5は、図15下側に示すように、余剰領域が除去され、最終形状領域のみが残ったものとなる。
【0114】
本実施形態に係る切断工具100は、パンチ120をダイ110に押し込んだ際、第1の刃部113及び第2の刃部123と被加工材5との間に生じる引張力により、被加工材5の表面の被膜層を切断端面へ入り込ませ、切断端面が被膜層で覆われるようにする。すなわち、パンチ120をダイ110に押し込んだときの被加工材5に対する第1の刃部113及び第2の刃部123の動きに被加工材5の表面の被膜層を追従させ、被膜層を切断端面へ入り込ませる。これにより、被加工材5の切断端面を被膜層で被覆させることができる。
【0115】
(2.被膜層による切断端面の被覆)
切断工具100により切断された被加工材5の切断端面は、第1の実施形態と同様、図4に示すようになる。図4に示したように、被加工材5の切断端面は、ダレs1、s2と、傾斜面s3、s4と、破断面s5とからなる。ダレs1及び傾斜面s3は、ダイ110の第1の刃部113により形成され、ダレs2及び傾斜面s4は、パンチ120の第2の刃部123により形成される。破断面s5は、第1の刃部113及び第2の刃部123によって被加工材5に生じたクラックが起点となって被加工材5が破断して形成される。
【0116】
図4に示したように、金属材5aの上面側の被膜層5bは、金属材5aの表面からダレs1及び傾斜面s3にまで連続して金属材5aを覆う。同様に、金属材5aの下面側の被膜層5bは、金属材5aの表面からダレs2及び傾斜面s4にまで連続して金属材5aを覆う。このように、本実施形態に係る切断工具100により切断された被加工材5は、連続する同一の被膜層5bで金属材5aの表面から切断端面までが被覆されるようになる。例えば、被加工材5の切断後に、切断端面に対してめっきや塗装等の表面処理を施すことで切断端面を被覆することは可能である。しかし、被加工材5の被膜層5bと同一組成の材料で切断端面を被覆することは難しく、切断端面の耐食性は金属材5aの表面に比べて低い。
【0117】
これに対して、本実施形態に係る切断工具100により切断された被加工材5は、切断と同時に連続する同一の被膜層5bで金属材5aの表面から切断端面までを被覆されるため、切断端面は酸化しにくい。したがって、本実施形態に係る切断工具100を用いて被加工材5を切断することで、切断端面の耐食性の高い被加工材5を提供することができる。
【0118】
なお、本実施形態に係る切断工具100により切断された被加工材5の切断端面の形状は、第1の刃部113及び第2の刃部123の形状に起因する。第1の刃部113及び第2の刃部123は楔形状であるため、被加工材5の切断端面には、図36に示したような垂直なせん断面ではなく、図4に示したような楔形状の斜面に沿った傾斜面s3、s4を有する形状となる。このため、例えば図15の切断工具100により切断された被加工材5の切断端面は、径方向中心に向かうにつれて突出した形状となる。
【0119】
第1の刃部113及び第2の刃部123の形状を楔形状とすることで、被加工材5の切断時、楔形状の斜面に沿って金属材5aの表面の被膜層5bが第1の刃部113及び第2の刃部123の動きに追従しやすくなる。その結果、図4に示したように、金属材5aの表面の被膜層5bを切断端面のダレs1、s2だけでなく、傾斜面s3、s4まで追従させることができる。また、刃部113及び刃部123によって被加工材5の表裏両面にダレs1、s2が形成されることで、バリの無い切断面が形成される。
【0120】
また、金属材5aの表面の被膜層5bは、第1の刃部113及び第2の刃部123の斜面に追従して切断端面へ移動する。このとき、切断端面の傾斜面s3、s4の表面を覆う被膜層5bの量は、図4に示したように、破断面s5に向かうにつれて徐々に減少する。このように傾斜面s3、s4に被膜層5bを被覆させることで、金属材5aの切断端面のうち被膜層5bにより被覆される面が増加しても、金属材5aの表面を被覆している被膜層5bが切断端面へ移動される量はほとんど増加しないため、被加工材5の平面耐食性を維持することができる。
【0121】
なお、破断面s5はクラックが生じて被加工材5が破断して形成された面であるため、破断面s5にまで被膜層5bを入り込ませることは難しい。しかし、第1の刃部113の先端113aと第2の刃部123の先端123aとがほぼ接触する状態となるまでは、被加工材5はその斜面に沿って切断されるため、破断面s5は、切断端面のうち破断面s5が占める割合はわずかである。したがって、破断面s5が被膜層5bで覆われていないとしても、耐食性を著しく低下させることはない。
【0122】
さらに、本実施形態に係る切断工具100のように、ダイ110の第1の刃部113とパンチ120の第2の刃部123とを楔形状とすることで、例えば引張強度が200MPa以上の強度を有する材料、あるいは、厚みのある材料も切断可能となる。また、引張強度が270MPa以上の強度を有する材料、さらには、引張強度が590MPa以上の強度を有する材料も切断可能となる。
【0123】
(3.切断工具の刃部の形状)
本実施形態に係る切断方法において用いられる中間材を切断するための切断工具100は、ダイ110の第1の刃部113とパンチ120の第2の刃部123とが、図16に示すように同一の楔形状を有する。しかし、第1の刃部113及び第2の刃部123は、少なくとも楔形状であればよく、それぞれ以下の形状を満たしていることが好ましい。
【0124】
(先端角度)
第1の刃部113の先端角度θ及び第2の刃部123の先端角度θは、10°以上120°以下とすることが好ましい。先端角度θ、θが10°以上であると、傾斜が大きくなるため、被膜層5bの追従性が向上し、切断端面の耐食性がより向上する。また、刃部113及び刃部123にかかる応力が小さくなり、刃先の損傷が抑制され、工具の耐久性が向上する。また、先端角度θ、θが120°以下であると、被加工材5を切断するために必要な荷重が大きくなり過ぎず、かつ、刃先を押し込んだ場合に被加工材5に亀裂が生じやすくなるので、被加工材5の切断が容易になる。このため、第1の刃部113の先端角度θ及び第2の刃部123の先端角度θは、10°以上120°以下とし、より好ましくは30°以上90°以下とする。
【0125】
(先端半径)
第1の刃部113の先端半径R及び第2の刃部123の先端半径Rは、板厚tの0.5%以上35.0%以下とすることが好ましい。先端半径R、Rが板厚tの0.5%以上であると、刃部113及び刃部123の刃先にかかる応力が大きくなり過ぎず、刃先の損傷が抑制され、耐久性が向上する。また、先端半径R、Rが板厚tの35.0%以下であると、切断端面の形状が良好となる。また、刃先を押し込んだ場合に被加工材5に亀裂が生じやすくなるので、被加工材5の切断がより容易になる。このため、第1の刃部113の先端半径R及び第2の刃部123の先端半径Rは、板厚tの0.5%以上35.0%以下とし、より好ましくは板厚tの3.0%以上10.0%以下とする。
【0126】
ここで、第1の刃部113と第2の刃部123とは異なる形状であってもよい。例えば、先端半径R、Rまたは先端角度θ、θのうち少なくともいずれか一方が異なれば、第1の刃部113と第2の刃部123とは異なる形状となる。第1の刃部113と第2の刃部123とを異なる形状とすることで、破断面比率を変化させることができる。なお、破断面比率は、被加工材5の板厚に対する破断面s5の割合である。
【0127】
このとき、第1の刃部113の先端半径Rと第2の刃部123の先端半径Rとの比(先端半径比R/RまたはR/R)は、100未満であることが好ましく、より好ましくは10未満とする。最も好ましいのは、先端半径R、Rが等しい場合である。なお、第1の刃部113の先端半径Rと第2の刃部123の先端半径Rとの大小関係は特に限定されない。また、第1の刃部113の先端角度θと第2の刃部123の先端角度θとの比(先端角度比θ/θまたはθ/θ)は、4未満であることが好ましく、より好ましくは2未満とする。最も好ましいのは、先端角度θ、θが等しい場合である。なお、第1の刃部113の先端角度θと第2の刃部123の先端角度θとの大小関係は特に限定されない。
【0128】
先端半径比R/RまたはR/R、及び、先端角度比θ/θまたはθ/θが上記範囲内となるように設定することで、破断面比率を低くすることができる。第1の刃部113と第2の刃部123とで、先端半径または先端角度のうち少なくともいずれか一方が大きく異なっていると、一方の刃部による切断が先行して進行するため被加工材5の変形が集中する。その結果、被加工材5の破断が早まり破断面比率が大きくなるため、切断端面に被膜層5bが被覆される割合が低下する。そこで、先端半径比R/RまたはR/R、及び、先端角度比θ/θまたはθ/θを上記範囲内となるように設定することで、破断面比率を低くすることができる。
【0129】
(先端位置のずれ量)
第1の刃部113の先端113aの位置と第2の刃部123の先端123aの位置とは、ダイ110とパンチ120とが対向する方向(すなわち、被加工材5の板厚方向)に直交する水平方向において、図16及び図17に示すように一致させてもよい。第1の刃部113の先端113aの位置と第2の刃部123の先端123aの位置とを一致させることで、刃部113及び刃部123にかかるX方向の力を低減させることができ、耐久性が向上する。また、適切なタイミングで刃先から亀裂を発生させ、切断を完了させることができる。
【0130】
あるいは、図18に示すように、第1の刃部113の先端113aの位置と第2の刃部123の先端123aの位置とは、径方向にずれ量xだけずれていてもよい。先端位置のずれ量xとは、第1の刃部113と第2の刃部123とが対向する方向に直交する水平方向(すなわち、X方向)における、第1の刃部113の先端113aと第2の刃部123の先端123aとの距離を意味する。先端位置のずれ量は板厚tの50%以下であるのが好ましい。先端位置のずれ量が板厚tの50%以下であれば、被加工材5を確実に所望の端面性状が得られるように切断することができる。
【0131】
(削り幅)
被加工材5の削り幅Dは、切断工具100による切断時に切断位置P2から最終形状領域と反対方向に被加工材5を残しておくべき長さをいう。すなわち、被加工材5の削り幅Dは、中間材の余剰領域の長さ(切断位置P1と切断位置P2との距離)であり、図16に示すように、切断位置から被加工材5の一方の端部までの長さで表される。図18に示すように第1の刃部113の先端113aの位置と第2の刃部123の先端123aの位置とがずれている場合には、被加工材5の削り幅Dは、例えば被加工材5の端部から当該端部に近い側の刃部の先端位置までの長さとすればよい。
【0132】
被加工材5の削り幅Dは、刃部の先端半径R以上であり、被加工材5の板厚tの5倍以下(R≦D≦5t)、特に被加工材5の板厚tの3倍以下であることが好ましい(R≦D≦3t)。より好ましくは、被加工材5の削り幅Dは、刃部の先端半径Rの3倍以上であり、被加工材5の板厚t以下とする(3R≦D≦t)。なお、刃部の先端半径Rは、第1の刃部113の先端半径Rまたは第2の刃部123の先端半径Rである。先端半径R、Rが同一の場合は、R=R=Rである。先端半径R、Rが異なる場合は、先端半径Rは、第1の刃部113の先端半径Rと第2の刃部123の先端半径Rとのうち小さい方とする(R=Min(R,R))。
【0133】
削り幅Dを板厚tの5倍以下、より好ましくは3倍以下とすることで、切断による破断面s5の発生が抑制され、破断面比率を低下させることができる。一方、削り幅Dを刃部の先端半径R以上、特に先端半径Rの3倍以上とすることで、切断時の工具の弾性変形による刃先の位置ずれを抑制することができ、切断により良好な端面形状を得ることできる。かかる理由は、図8及び図9に基づき上述した通りである。
【0134】
このように、ダイ110の第1の刃部113、パンチ120の第2の刃部123の形状、各刃部113、123の先端位置のずれ量、または、被加工材5の削り幅Dを変化させることで、切断工具100により切断された被加工材5の切断端面の形状が変化し、切断端面の被膜層5bによる被覆状態が変化する。したがって、ダイ110の第1の刃部113及びパンチ120の第2の刃部123の形状、各刃部113、123の先端位置のずれ量及び被加工材5の削り幅Dは、切断後の被加工材5に要求される切断端面の形状あるいは耐食性に応じて適宜設定すればよい。
【0135】
例えば、ダイ110の第1の刃部113及びパンチ120の第2の刃部123を同一形状とし、第1の刃部113の先端113aの位置と第2の刃部123の先端123aの位置とを一致させて、被加工材5に対して対称に配置すれば、切断端面の耐食性を高めることができる。切断端面が板厚中央位置に対して対称であり、被加工材5下面側の被膜層5bの傾斜面sへの入り込みと、被加工材5上面側の被膜層5bの傾斜面s4への入り込みとが略均等となることによる。
【0136】
また、例えば切断端面を平坦とする場合には、ダイ110の第1の刃部113とパンチ120の第2の刃部123とを異なる楔形状とし、切断端面の平坦性を高めるようにしてもよい。
【0137】
(刃部の高さ)
第1の刃部113の高さh及び第2の刃部123の高さhは、第1の実施形態と同様、少なくともこれらの和(h+h)が被加工材5の板厚tよりも大きくすればよい。
【0138】
以上、本実施形態に係る切断方法について説明した。本実施形態によれば、まず、被加工材5から中間材を形成する工程において、最終的に切断したい切断位置P2よりも内部に設定された切断位置P1の内部が除去され、中間材が形成される。これにより、切断位置P2で閉領域を切断する際に、材料が移動する空間を確保することができるため、被加工材5を確実に切断することができる。次いで、中間材を切断する工程において、最終的に切断したい切断位置P2で中間材が切断される。中間材を切断する工程では、図15に示したように、楔形状の刃部113、123を有するダイ110及びパンチ120を有する切断工具100が用いられる。楔型状の刃部113、123により被加工材5を切断することで、金属材5aの表面の被膜層5bを刃部113、123の動きに追従させて切断端面へ入り込ませることができる。切断端面の傾斜面s、s4には、破断面s5に向かって切断端面を被覆する被膜層の量が減少するように、金属材5aの表面から連続して被膜層5bが被覆される。したがって、被加工材5の平面耐食性を維持しながら切断端面の耐食性を向上させることができる。
【0139】
(4.補足)
(複数の切断工程による中間材の切断)
上記中間材を切断する工程で用いられる切断工具100による被加工材5の切断は、1回の切断により行ってもよく、複数の切断工程により行ってもよい。複数の切断工程による切断とは、ダイ110をパンチ120に相対的に押し込む切断工程を複数回実施して、被加工材5を2つの片に切断することをいう。複数の切断工程により被加工材5を切断することで、様々な切断端面を実現することができる。
【0140】
例えば、複数の切断工程により被加工材5を切断する際、各切断工程での第1の刃部113の先端角度θ及び第2の刃部123の先端角度θを徐々に小さくするようにしてもよい。より具体的に説明すると、複数の切断工程が、第1の切断工程と、第1の切断工程の後に行われる第2の切断工程とを含むとする。このとき、第2の切断工程では、第1の刃部113の先端角度θを、第1の切断工程での先端角度θよりも小さくすること、または、第2の刃部123の先端角度θを、第1の切断工程での先端角度θよりも小さくすることのうち、少なくともいずれか一方を行い、被加工材5を切断する。これにより、切断端面に被膜層5bが被覆する部分を増加させることができ、かつ、良好な端面形状を得ることができる。
【0141】
この際、各切断工程におけるパンチ120のストロークSは、徐々に小さくするのがよい。最初の切断工程のストロークを大きくすることで、第1の刃部113及び第2の刃部123の動きに対する被膜層5bの追従性が高まる。
【0142】
例えば、複数の切断工程のうち、1回目の切断工程におけるパンチ120のストロークSは、上記式(1)の関係式を満たすようにすることが好ましい。より好ましくは、1回目の切断工程におけるパンチ120のストロークSは、上記式(2)を満たすようにする。なお、「1回目の切断工程におけるパンチ120のストロークS」とは、上述したように、刃が被加工材5と接する位置を起点とするストローク量をいう。このように1回目の切断工程におけるパンチ120のストロークSを設定することで、切断端面に被膜層5bが被覆する部分を増加させるとともに、良好な端面形状を得ることができる。
【0143】
また、複数の切断工程により被加工材5を切断する際、各切断工程での第1の刃部113の先端半径R及び第2の刃部123の先端半径Rを徐々に小さくするようにしてもよい。すなわち、第2の切断工程では、第1の刃部113の先端半径Rを、第1の切断工程での先端半径Rよりも小さくすること、または、第2の刃部123の先端半径Rを、第1の切断工程での先端半径Rよりも小さくすることのうち、少なくともいずれか一方を行い、被加工材5を切断する。この場合も、先端角度を小さくする場合と同様、切断端面に被膜層5bが被覆する部分を増加させることができ、かつ、良好な端面形状を得るという効果を奏する。
【0144】
なお、被加工材5の切断時のダレの形成を抑制した上で、切断端面に被膜層5bを被覆させつつ、切断工具100に対する負荷を低減したい場合には、各切断工程での第1の刃部113の先端角度θ及び第2の刃部123の先端角度θを徐々に大きくするようにしてもよい。
【0145】
[2-2.被加工材から除去された閉領域を製品とする場合(打ち抜き加工)]
次に、図19図21に基づいて、本発明の第2の実施形態に係る被加工材の切断方法を説明する。図19は、本実施形態に係る他の切断方法において、被加工材5における切断位置を示す平面図である。図20は、本実施形態に係る他の切断方法における中間材の形成工程を示す説明図である。図21は、本実施形態に係る他の切断方法における切断工程を示す説明図である。
【0146】
本実施形態に係る切断方法は、上述の穴抜き加工の場合と同様に被加工材5の閉領域を被加工材5から切断する方法であるが、打ち抜き加工のように、被加工材5から抜き出された閉領域の部分を製品とする際の切断方法を説明する。閉領域は、上述の穴抜き加工の場合と同様、曲線により表される形状であればよく、例えば円形、楕円形等の形状であってもよい。
【0147】
本実施形態に係る切断方法は、上述の穴抜き加工の場合と同様、被加工材5から中間材を形成する工程と、中間材を切断して製品として利用する部分を取得する工程とを含む。例えば、図19に示す被加工材5から円形の閉領域を切断する場合、まず、被加工材5から中間材を形成する工程において、被加工材5が切断位置P1で切断され、切断位置P1の外部が除去された中間材が形成される。切断位置P1は、最終的に切断したい切断位置P2よりも部に設定される。次いで、中間材を切断する工程において、最終的に切断したい切断位置P2で中間材が切断される。中間材は、ダイ及びパンチに楔形状の刃部を有する切断工具を用いて切断される。
【0148】
このように、本実施形態に係る切断方法では、中間材を楔形状の刃部により切断し、最終的な製品形状とすることで、図4に示したように、切断後の被加工材5の切断端面を被膜層5bによって被覆させることができる。したがって、被加工材5の平面耐食性を維持しながら切断端面の耐食性を向上させることができる。また、被加工材5を最終的に切断したい切断位置P2で切断する前に、余剰領域を残して閉領域を切断する。これにより、切断位置P2で閉領域を切断する際に、材料が移動する空間を確保することができるため、被加工材5を確実に切断することができる。
【0149】
(中間材形成工程)
被加工材5から中間材を形成する工程の一例を図20に示す。図20では、ダイ51とパンチ52とを有する切断工具50を用いて、被加工材5を切断位置P1で切断する。図20に示す切断工具50は、図14の切断工具50と同様に構成されている。ダイ51は、切断位置P1にて切断される閉領域に対応する形状の貫通孔を有する筒状部材である。パンチ52は、ダイ51の貫通孔に挿通される部材であり、ダイ51の貫通孔の内部空間に対応した形状を有する。被加工材5がダイ51上に載置された状態でパンチ52を押し込むことにより、被加工材5から切断位置P1の閉領域が切断される。その結果、図20下側に示すように、被加工材5が得られる。この被加工材5を中間材とする。
【0150】
中間材の貫通孔は、最終的に切断したい切断位置P2の外部に形成されている。本実施形態においても、切断位置P1は、最終形状領域の縁部(すなわち切断位置P2)に沿って、最終形状領域とは反対側に設定される。すなわち、中間材は、最終形状領域に加えて、切断位置P2と切断位置P1との間の部分を余剰領域として有している。余剰領域は、次工程にて切断される。このように中間材を形成することで、次工程にて切断位置P2で中間材を切断した際に、材料が外部へ移動することが可能となる。
【0151】
なお、被加工材5から中間材を形成する方法は、図20に示した切断工具50を用いる方法に限定されず、レーザ切断あるいはその他の切断方法を用いて実施してもよい。
【0152】
(切断工程)
中間材を切断する工程の一例を図21に示す。図21に示す切断工具100は、図15の切断工具100と同様に構成されている。すなわち、中間材を切断するための切断工具100は、図21に示すように、基部111に楔形状の第1の刃部113を有するダイ110と、基部121に楔形状の第2の刃部123を有するパンチ120とを有する。楔形状の第1の刃部113及び第2の刃部123は切断位置P2に対応して閉形状に形成されている。例えば図21に示すように切断位置P2が円形である場合には、楔形状の第1の刃部113及び第2の刃部123は円形に形成されている。
【0153】
ダイ110の第1の刃部113及びパンチ120の第2の刃部123により切断される被加工材5は、ダイ110とパンチ120との間に配置される。例えば、被加工材5は、ダイ110の上に載置される。このとき、ダイ110とパンチ120とは、第1の刃部113と第2の刃部123とを対向させて設置されている。そして、被加工材5がダイ110の上に載置された状態で、ダイ110に対してパンチ120を相対的に押し込ませることで、被加工材5が切断位置P2で切断される。切断工具100により切断された被加工材5は、図21下側に示すように、余剰領域が除去され、最終形状領域のみが残ったものとなる。
【0154】
切断工具100は、第1の実施形態にて説明したように、パンチ120をダイ110に押し込んだ際、第1の刃部113及び第2の刃部123と被加工材5との間に生じる引張力により、被加工材5の表面の被膜層を切断端面へ入り込ませ、切断端面が被膜層で覆われるようにする。すなわち、パンチ120をダイ110に押し込んだときの被加工材5に対する第1の刃部113及び第2の刃部123の動きに被加工材5の表面の被膜層を追従させ、被膜層を切断端面へ入り込ませる。これにより、被加工材5の切断端面を被膜層で被覆させることができる。
【0155】
なお、ダイ110の第1の刃部113及びパンチ120の第2の刃部123の形状は、第1の実施形態と同様に構成すればよい。また、切断工具100による中間材の切断も、1回の切断にて行ってもよく、複数回の切断により行ってもよい。
【0156】
以上、本発明の第2の実施形態に係る被加工材の切断方法について説明した。なお、上記実施形態では、被加工材から中間材を形成する工程と、中間材を切断して製品として利用する部分を取得する工程とを実施する切断方法について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、中間材を切断する工程において中間材が破断しなかった場合には、中間材から余剰領域を切り落とす工程をさらに含んでもよい。かかる工程は、製品とする部分とそれ以外の部分とを完全に分離するために実施され、その方法は特に限定されない。例えば、図14及び図20に示した切断工具50により中間材から余剰領域を切り落としてもよい。このとき用いる切断工具は、中間材から余剰領域を完全に切断するため、被加工材から中間材を形成する工程で使用される切断工具とはダイ及びパンチの径の異なる、類似の形態をしたものを用いるのがよい。
【0157】
[3.切断加工品]
[3-1.概略構成]
以下、図22に基づいて、上記実施形態に係る切断方法により被加工材を切断して製造された切断加工品3の構成について説明する。図22は、本実施形態に係る切断加工品3の切断端面3aを模式的に示す説明図であって、切断端面3aを側面から見た状態を示している。以下の説明では、複層材の一例として、母材である鋼板5aの表面に被覆材であるめっき5bが被覆されためっき鋼板5を取り上げる。めっき鋼板5は、例えばJIS G-3301、3302、3314、3321、3323などに規定されるめっき鋼板である。また、めっき鋼板5の板長方向をX方向、板幅方向をY方向、板厚方向をZ方向とする。図22では、めっき鋼板5を板厚方向(Z方向)に切断して形成された切断加工品3を示しており、切断端面3aを板幅方向(Y方向)からみた状態を示している。
【0158】
図22に示すように、切断加工品3の切断端面3aは、第1の傾斜面s1と、第2の傾斜面s2と、破断面s5とからなる。
【0159】
第1の傾斜面s1は、ダレs11及び傾斜部s13からなる。第2の傾斜面s2は、ダレs21及び傾斜部s23からなる。ダレs11、21は、めっき鋼板5を切断加工した際、めっき鋼板5の表面に作用した引張力により生じた変形である。傾斜部s13、s23は、ダレs11、s21と連続する面であり、めっき鋼板5の板厚方向に対して所定の傾斜角度を有する面である。第1の傾斜面s1及び第2の傾斜面s2は、少なくとも一部が、鋼板5aの表面を被覆するめっき5bにより覆われている。
【0160】
破断面s5は、第1の傾斜面s1と第2の傾斜面s2との間に形成される面である。破断面s5は、切断加工時にめっき鋼板5に生じたクラックが起点となってめっき鋼板5が破断して形成される。このため、断面s5はめっき5bによって被覆されにくく、鋼板5aが露出した状態となっている。
【0161】
このような切断端面3aは、図22に示すように、側面からみて、破断面s5が第1の傾斜面s1及び第2の傾斜面s2よりも突出した形状となる。また、第1の傾斜面s1及び第2の傾斜面s2の母材である鋼板5aの形状は、切断端面3aを側面から見たとき、略直線状である。以下、図22図24に基づいて、本実施形態に係る切断加工品3の構成について詳細に説明する。図23は、本実施形態に係る切断加工品3の形状を説明するための説明図である。図24は、本実施形態に係る切断加工品3の形状の他の例を示す説明図である。
【0162】
[3-2.特徴]
(傾斜面の長さ及び両傾斜面の長さの比)
切断加工品3は、第1の傾斜面s1と、第2の傾斜面s2と、破断面s5とからなる切断端面3aを有する。ここで、切断加工品3は、切断端面3aの第1の傾斜面s1及び第2の傾斜面s2について、切断端面3aを正面(X方向)から見たときの各傾斜面s1、s2の厚さが下記関係式(3)を満たす。関係式(3)では、本実施形態に係る切断加工品3の切断端面3aは、切断端面3aを正面から見たときの第1の傾斜面s1の厚さT(すなわち、板厚方向における第1の傾斜面s1の長さ(Acosθ))と、切断端面3aを正面から見たときの第2の傾斜面s2の厚さT(すなわち、板厚方向における第2の傾斜面s2の長さ(Acosθ))との和が、めっき鋼板5の板厚Tより小さいことを表している。
【0163】
(T+T)<T ・・・(3)
=Acosθ、T=Acosθ
:切断端面3aを側面から見たときの第1の傾斜面s1の長さ
:切断端面3aを側面から見たときの第2の傾斜面s2の長さ
θ:第1の傾斜面s1の傾斜角度
θ:第2の傾斜面s2の傾斜角度
T:めっき鋼板5の板厚
【0164】
また、切断加工品3は、切断端面3aの第1の傾斜面s1の厚さTと第2の傾斜面s2の厚さTとの比(T/T)が下記関係式(4)を満たす。関係式(4)では、本実施形態に係る切断加工品3の切断端面3aについて、第1の傾斜面s1の厚さ(T=Acosθ)と第2の傾斜面s2の厚さ(T=Acosθ)の比が0.6以上1.4以下であることを示している。これは、第1の傾斜面s1と第2の傾斜面s2との形状差が小さいこと、すなわち切断端面3aの対称性が高いことを表している。第1の傾斜面s1の厚さTと第2の傾斜面s2の厚さTとの比(T/T)は、望ましくは0.75以上1.25以下、さらに望ましくは0.85以上1.15以下である。
【0165】
0.6≦(T/T)≦1.4 ・・・(4)
【0166】
この関係式を持たすことによって、切断端面3aの対称性の高い複層材が得られる。例えば、切断端面3aのうち少なくとも一部は、複層材の切断加工時に、刃に追従して移動する母材の表面を覆う被覆材により覆われる。このとき、母材の両面を被覆する被覆材の厚みが略同一である場合には、切断端面3aの対称性が高いほど、切断端面3aを第1の傾斜面s1及び第2の傾斜面s2それぞれを覆う被覆材の厚みが同一となる。その結果、切断端面3aの耐食性を安定させることができる。
【0167】
ここで、第1の傾斜面s1の長さAは、図23に示すように、ダレs11のめっき鋼板5の表面側の端部(以下、「傾斜開始位置P」とする。)から傾斜部s13の破断面s5側の端部(以下、「傾斜終了位置P」とする。)までの直線長さをいう。第2の傾斜面s2の長さAは、ダレs21のめっき鋼板5の表面側の端部(以下、「傾斜開始位置P」とする。)から傾斜部s23の破断面s5側の端部(以下、「傾斜終了位置P」とする。)までの直線長さをいう。
【0168】
また、切断加工品3の切断端面3aは、切断工具100の形状によっては、例えば図24に示すように破断面s5が引きちぎられたような形状となる。この場合にも、第1の傾斜面s1及び第2の傾斜面s2は、それぞれダレ及び傾斜部からなる。一方の傾斜面(図24では第1の傾斜面s1)は破断面s5と略同一の傾斜を有し、他方の傾斜面(図24では第2の傾斜面s2)は破断面s5に向かって傾斜した後、反り返るような形状となっている。この場合、第1の傾斜面s1の厚さT及び第2の傾斜面s2の厚さTは、以下のように定義すればよい。
【0169】
第1の傾斜面s1の傾斜開始位置P及び第2の傾斜面s2の傾斜開始位置Pは、図23と同様、ダレのめっき鋼板5の表面側の端部である。第1の傾斜面s1の長さAは、傾斜面s1の傾斜開始位置Pから、傾斜面s1の破断面s5側の端部である傾斜終了位置Pまでの直線長さである。第2の傾斜面s2の長さAは、傾斜面s2の傾斜開始位置Pから、傾斜面s2の破断面s5側の端部である傾斜終了位置Pまでの直線長さである。このとき、傾斜面s1、s2が鋼板5a側に窪み湾曲している場合には、直線近似してその長さを求めてもよい。また、図24のように反り返った傾斜面s2については、めっき5bが存在する部分の破断面s5側の端部Pと傾斜開始位置Pとの間の傾斜を直線近似し、この近似直線と、反り返りの頂点でもある傾斜終了位置Pを通る水平方向への延長線との交点Pを傾斜終了位置Pとみなし、第2の傾斜面s2の長さAの一端としてもよい。破断面s5の厚さTは、傾斜終了位置Pと傾斜終了位置Pとの間の距離となる。
【0170】
第1の傾斜面s1の傾斜角度θは、図23及び図24に示すように、板厚方向(Z方向)に延びる基準直線に対する傾斜部s13の傾きである。傾斜開始位置Pと傾斜終了位置Pとを結ぶ直線と基準直線とのなす角を傾斜角度θとみなしてもよい。同様に、第2の傾斜面s2の傾斜角度θは、基準直線に対する傾斜部s23の傾きである。傾斜開始位置Pと傾斜終了位置Pとを結ぶ直線と基準直線とのなす角を傾斜角度θとみなしてもよい。
【0171】
めっき鋼板5の板厚Tは、図23及び図24に示すように、鋼板5aの板厚tと、鋼板5aの表面に形成されためっき5bのめっき層厚t、tとの和で表される。なお、図22図24において、めっき層厚tとめっき層厚tとは、略同一としているが、本技術はかかる例に限定されず、めっき層厚tとめっき層厚tとは異なる厚さであってもよい。
【0172】
さらに、切断加工品3は、切断端面3aを正面から見たときの破断面s5の厚さTが下記関係式(5)を満たす。関係式(5)は、本実施形態に係る切断加工品3の切断端面3aは、切断最終段階での延性破壊面である破断面s5の長さが、板厚の50%以下であることを表している。なお、破断面s5の厚さTが0とは、切断端面3aが傾斜面s1、s2のみからなることを意味する。実際の切断加工品においてはほぼ0に近い状態であっても破断面s5は存在することから、切断加工品3の破断面s5の厚さTは0より大きいものとする。破断面s5の厚さTは、望ましくは0.4、さらに望ましくは0.3以下とする。
【0173】
0<T≦0.5T ・・・(5)
【0174】
この関係式を持たすことによって、傾斜面s1、s2(すなわち、ダレ部s11、s21及び傾斜部s13、s23)が増加するため、結果的にめっきの被覆率が向上する。すなわち、母材に対して犠牲防食をする場合は、切断端面耐食性の向上効果が発現される。またこの形状は、切断工具の刃先形状あるいは位置を調整することによって得られる。
【0175】
(傾斜面のめっき被覆)
第1の傾斜面s1及び第2の傾斜面s2は、少なくとも一部がめっきにより覆われている。より詳細には、図22に示すように、第1の傾斜面s1は、鋼板5aの下面(第1の表面)を覆うめっき5bにより被覆されている。第2の傾斜面s2は、鋼板5aの上面(第2の表面)を覆うめっき5bにより被覆されている。このように、第1の傾斜面s1及び第2の傾斜面s2は、めっき鋼板5のめっき層から連続するめっき5bによりそれぞれ覆われている。このように、鋼板5aの表面から傾斜面にわたって同一のめっき5bで覆うことで、切断端面3aにおける鋼板5aの酸化を抑制することができる。
【0176】
例えば、めっき鋼板5の切断後に、切断端面3aをめっき処理したり塗装したりすることで、切断端面3aで鋼板5aが露出しないようにすることは可能である。しかし、めっき鋼板5のめっき5bと同一組成の材料で切断端面3aを被覆することは難しく、切断端面3aの耐食性は鋼板5aの表面に比べて低い。これに対して、本実施形態に係る切断加工品3の切断端面3aは、連続する同一のめっき5bで鋼板5aの表面から傾斜面s1、s2まで被覆されている。かかるめっき5bは、切断加工時に、切断工具の刃部の動きに追従して鋼板5aの表面から傾斜面s1、s2へ向かって、鋼板5aに押しつけられながら移動する。このため、後から切断端面3aに対する表面処理を行う場合よりも切断端面3aにおける鋼板5aとめっき5bとの密着力が高くなり、切断端面3aの耐食性を高めることができる。
【0177】
また、第1の傾斜面s1及び第2の傾斜面s2を覆うめっき5bの量は、板厚方向(Z方向)に鋼板5aの表面から中央に向かうにつれて減少している。すなわち、図22及び図23に示すように、鋼板5aの表面を被覆するめっき5bのめっき層厚に比べて、第1の傾斜面s1及び第2の傾斜面s2では、表面から板幅方向の中央に向かってめっき層厚は徐々に小さくなっている。第1の傾斜面s1及び第2の傾斜面s2を覆うめっき5bは、めっき鋼板5を構成するめっき層のめっき5bが移動したものである。このため、第1の傾斜面s1及び第の傾斜面s2のめっき5bのめっき層厚が厚くなると、切断端面3aの耐食性は向上するが、鋼板5aの表面のめっき5bのめっき層厚が薄くなるため、平面耐食性が低下する可能性がある。したがって、第1の傾斜面s1及び第2の傾斜面s2では、鋼板5aの表面から中央に向かうにつれて傾斜面を覆うめっき5bの量が減少するように、めっき5bが被覆されていることで、切断加工品3の平面耐食性を維持するとともに、切断端面3aの耐食性を高めることができる。
【0178】
ここで、第1の傾斜面s1及び第2の傾斜面s2の母材である鋼板5aの形状は、図22図24に示すように、切断端面3aを側面から見たとき、略直線状となるようにしてもよい。仮に、鋼板5aの切断端面3aの形状が側面から見て円弧形状であると、図22図24に示すように第1の傾斜面s1及び第2の傾斜面s2の鋼板5aが略直線状である場合に比べ、鋼板5aの端面の表面積が大きくなる。そうすると、切断端面3aを覆うためにより多くのめっき層のめっき5bを表面側から切断端面3aに流し込む必要がある。そこで、図22図24に示すように、第1の傾斜面s1及び第2の傾斜面s2の母材である鋼板5aの形状を、切断端面3aを側面から見たとき、略直線状となるようにすることで、表層にめっきの割れが生じたり局部的に薄くなったりする等の不具合が生じることを抑制できる。
【0179】
さらに、第1の傾斜面s1及び第2の傾斜面s2は、必ずしも傾斜面全体がめっき5bにより覆われている必要はなく、少なくとも一部がめっき5bにより覆われていればよい。傾斜面s1、s2の一部が覆われていれば、めっき5bにより覆われていない部分についても犠牲防食効果により腐食の進行が抑制される。犠牲防食効果を傾斜面s1、s2及び破断面s5に及ぼすためには、傾斜面s1、s2のめっき被覆率Xは20%以上であるのが好ましい。
【0180】
ここで、めっき被覆率Xは、切断端面3aを側面(すなわち、板幅方向(Y方向))から見たときの傾斜面s1、s2の長さA、Aに対して、めっき5bが存在する部分の長さB、Bの割合であり、下記式(6)で表される。なお、下記式(6)において、Aは、第1の傾斜面s1の長さAと第2の傾斜面s2の長さAとの和(すなわち、A+A)である。Bは、第1の傾斜面s1においてめっき5bが存在する部分の長さBと第2の傾斜面s2においてめっき5bが存在する部分の長さBとの和(すなわち、B+B)である。
【0181】
X=100×(B/A) ・・・(6)
A(=A+A):傾斜面の長さ
B(=B+B):めっきが存在する部分の長さ
【0182】
めっき5bが存在する部分の長さB、Bは、傾斜開始位置P、Pから、傾斜面s1、s2におけるめっき5bのめっき層厚が、切断加工前のめっき鋼板5のめっき層厚t、tの5%程度となった位置までの長さとする。これは、耐食性のためにめっき処理をした材料の長期利用を考えた場合、めっき鋼板5の表面と同程度の耐食性が切断端面3aでも必要となることによる。めっき鋼板5から切断端面に溶け出しためっき成分の回り込みを考慮すると、5%程度のめっきが切断端面3aに残留していれば初期の耐食性として発現すると考えられる。また、めっき5bが残存する位置を特定するための係数は、鋼板5aの板厚tに応じて設定すればよい。鋼板5aの板厚tが小さければ、係数は小さくてもよい。なお、鋼板5aの板厚tは、切断加工品3を製造可能な板厚であればよく、例えば0.2mm以上10mm以下としてもよい。
【0183】
また、切断加工品3が図24に示したような切断端面3aを有する場合、反り返った傾斜面s2については、反り返りの頂点でもある傾斜終了位置Pよりもダレ側において一旦めっき5bがほぼ存在しなくなるが、工具の先端に残存するめっきが傾斜終了位置P付近に付着することもある。傾斜終了位置P付近のめっきの付着は不確定要素であるため、傾斜終了位置P付近のめっき層厚が切断加工前のめっき鋼板5のめっき層厚t、tの5%程度以上であったとしても、めっき5bが存在する部分の長さBとしては考慮しないこととしてもよい。
【0184】
このように、本実施形態によれば、めっき鋼板5の切断端面の形状を上述のようにすることで、めっき鋼板5において複層材であるめっき5bによる平面耐食性を維持しながら、切断端面耐食性を向上させることができる。
【0185】
(切断端面の観察方法)
切断加工品3の形状は、切断端面3aを観察することにより特定可能である。
【0186】
切断端面3aを正面から見たときの第1の傾斜面s1の厚さT及び第2の傾斜面s2の厚さTは、切断加工品3を樹脂等に埋め込み研磨して作成された試料を側面から観察することにより測定される。すなわち、試料は、図22に示すようにY方向(板幅方向)から観察される。観察は、例えば実体顕微鏡または走査型電子顕微鏡(SEM;Scanning Electron Microscope)を用いて行われる。具体的には、例えば、試料を幅方向に測定回数で等分し、各断面を測定すればよい。測定は、少なくとも3箇所行うのがよい。そして、各断面における第1の傾斜面s1の厚さの平均値を第1の傾斜面s1の厚さTとし、各断面における第2の傾斜面s2の厚さの平均値を第2の傾斜面s2の厚さTとすればよい。
【0187】
切断端面における被覆材の被覆率を観察する場合には、被覆材の種類によっては実際の被覆率よりも少ない被覆材しか観察されないことがある。このため、例えば試料作成時に、被覆材周辺部を当て板により補強した状態で樹脂等に埋め込み研磨するのが望ましい。また、被覆材の種類または硬度に応じた研磨方法を用いるのが望ましい。
【0188】
切断加工品3を樹脂等に埋め込み作成した試料を観察する方法以外の、切断加工品3の切断端面3aを観察する別の方法としては、例えば、切断端面3aを正面から実体顕微鏡またはSEM-EDS(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)によって観察する方法がある。色あるいは光沢によって被覆材を確認可能な場合は実体顕微鏡を用いて切断端面3aの被覆材を確認すればよい。一方、色あるいは光沢からは被覆材の確認が困難な場合は、SEMの反射電子像(BSE像)あるいはEDSを用いて被覆材の存在を確認すればよい。
【0189】
これらの方法から、実際に切断端面3aのどのあたりまで被覆材が存在しているかを推測することができるので、研磨が目的通りに実施されているかを確認することができる。なお、試料の研磨が難しい場合は、切断加工品3を正面から(すなわちX方向から)観察し、切断端面3aにおいて被覆材が存在している部分の長さを測定することにより、第1の傾斜面s1の厚さT及び第2の傾斜面s2の厚さTを特定してもよい。このとき、切断端面3aの板幅方向の複数箇所において被覆材が存在している部分の長さを測定し、これらの平均長さを傾斜面の厚さとしてもよい。
【0190】
なお、本実施形態に係る切断加工品3は、複層材の板幅の60%以上の範囲において、第1の傾斜面s1の厚さTと第2の傾斜面s2の厚さTとの和及び比の値のばらつきが30%以下であれば、切断端面3aの複層材の平面耐食性を維持しながら切断端面耐食性を向上させることが可能である。このとき、複層材の板幅の60%以上の範囲において、切断端面3aを側面から見たときの被覆材の被覆率のばらつきは、30%以下であればよい。被覆率のばらつきについては、上記被覆率の測定時と同様、被覆材が被覆されている部分を、実体顕微鏡またはSEM-EDSを用いて板幅方向に複数箇所測定し、これらの平均値を算出することにより、そのばらつきを算出すればよい。
【0191】
以上、本実施形態に係る切断方法により被加工材を切断して製造された切断加工品3の構成について説明した。なお、上記実施形態の切断加工品は、板厚方向中央に対して上下対称の形状であったが、本発明はかかる例に限定されず、上下非対称の形状であってもよい。例えば、第1の傾斜面s1の長さAが第2の傾斜面s2の長さAよりも短くてもよい。また、傾斜角度θ、θも必ずしも同一でなくともよい。
【実施例
【0192】
(A.切断端面のめっき被覆状態)
表面処理が施された被加工材としてめっき金属材を取り上げ、切断工具により切断したときのめっき金属材の切断端面におけるめっきの被覆状態を観察した。図25に、切断工具により切断されためっき金属材の切断端面の正面写真及び側面断面写真を示す。図25では、比較例として、図35に示した従来のせん断加工工具10を用いてめっき金属材を切断したときの、めっき金属材の切断端面の正面写真及び側面断面写真を示す。また、図25では、実施例A1、A2として、図1に示した本発明の切断工具100を用いてめっき金属材を切断したときの、めっき金属材の切断端面の正面写真及び側面断面写真を示す。実施例A1では、ダイの刃先の先端半径R及びパンチの刃先の先端半径Rは0.05mmであり、実施例A2では、ダイの刃先の先端半径R及びパンチの刃先の先端半径Rは0.5mmであった。
【0193】
また、図25に示した比較例及び実施例A1、A2のめっき金属材について、図26に、切断端面のめっき金属材の板厚に対するめっきの被覆部分の割合(以下、「板厚割合」とする。)を示す。板厚割合は、めっき金属材の切断端面を平面視したときの板厚方向の長さにより表す。図26では、図25の切断端面の正面視野において、切断端面の全面積に対し、画像に白く表れているめっきが50%以上被覆している部分の面積(以下、「50%めっき被覆部分」ともいう。)の板厚割合と、めっきが1%以上被覆している部分の面積(すなわち、めっきが少しでも金属材に被覆している箇所の面積割合。以下、「1%めっき被覆部分」ともいう。)の板厚割合とを示している。
【0194】
具体的には、図27に示すように、比較例では、めっき金属材の板厚をt、50%めっき被覆部分の板厚をt、1%めっき被覆部分の板厚をtとした。実施例A1、A2では、めっき金属材の板厚をt、50%めっき被覆部分の板厚をt、t′、1%めっき被覆部分の板厚をt、t′とした。つまり、比較例では、50%めっき被覆部分の板厚割合はt/tにより算出し、1%めっき被覆部分の板厚割合はt/tにより算出した。また、実施例A1、A2では、50%めっき被覆部分の板厚割合は(t+t′)/tにより算出し、1%めっき被覆部分の板厚割合は(t+t′)/tにより算出した。
【0195】
図25に示すように、比較例では、切断端面は、ダレ、せん断面及び破断面で形成されており、破断面の割合が大きかった。めっきは、ダレには多く存在していたが、せん断面及び破断面にはほとんど存在しなかった。図26より、比較例の50%めっき被覆部分の板厚割合は約15%、1%めっき被覆部分の板厚割合は約28%であった。せん断面は、工具の刃先が金属材及びめっきに入り込むことで形成され、破断面は延性破壊亀裂の進展によって形成される。このため、従来のせん断加工工具を用いた場合には、めっきはせん断面及び破断面に追従できず、めっきがほとんど存在しなかったと考えられる。
【0196】
一方、実施例A1及び実施例A2では、刃先の先端半径R、Rは相違するが、切断端面は、ダレ、傾斜面及び破断面で形成されており、傾斜面の割合が大きかった。傾斜面にはめっきが残存しており、金属材表面から板厚中央に向かうにつれて傾斜面を覆うめっきの量は減少していた。また、実施例A1に比べて刃先の先端半径R、Rが大きい実施例A2では、傾斜面における金属材表面から板厚中央付近までのめっきの量の減少率が小さく、より多くのめっきが追従していた。図26より、実施例A1の50%めっき被覆部分の板厚割合は約55%、1%めっき被覆部分の板厚割合は約78%であった。実施例A2の50%めっき被覆部分の板厚割合は約71%、1%めっき被覆部分の板厚割合は約76%であった。かかる結果より、本発明の切断工具100を用いてめっき金属材を切断することにより、切断端面を広範囲にめっきによって被覆することが可能となる。
【0197】
(B.刃先の先端角度)
図1に示した切断工具の第1の刃部の先端角度θ及び第2の刃部の先端角度θを変化させて被加工材を切断したときの、刃先の損傷状態及び被加工材の切断端面の形状を調べた。被加工材として、板厚3.2mm、引張強度が460MPaの亜鉛系めっき鋼板を用いた。被加工材の切断加工は、刃先の先端角度θ、θを変化させて、それぞれ2回ずつ実施した。なお、刃先の先端半径R、Rはともに0.05mmとした。表1にその結果を示す。なお、切断端面形状の評価における「突出部」とは、切断時に切断端面に生じる切断端面から突出する部分を意味する。
【0198】
【表1】
(めっき被覆状態の評価基準)
A:1%以上めっき被覆部分の板厚割合が70%以上
B:1%以上めっき被覆部分の板厚割合が60%以上
C:1%以上めっき被覆部分の板厚割合が50%以上
D:1%以上めっき被覆部分の板厚割合が40%以上
E:1%以上めっき被覆部分の板厚割合が40%未満
(刃先損傷の評価基準)
A:損傷無し
B:表面に小さな傷あり
C:わずかに塑性変形あり
D:わずかな塑性変形が100μm以上の長さで存在
E:塑性変形あり
(切断端面形状の評価基準)
A:極めて良好
B:良好
C:軽微な突出部あり
D:軽微な突出部が複数個所で存在
E:突出部あり
【0199】
表1に示すように、刃先の先端角度がいずれの場合であっても、被加工材の切断端面において、1%以上めっき被覆部分の板厚割合が50%以上であった。刃先の先端角度が5°の場合には、刃先は塑性変形したが、被加工材の切断端面は良好であり、切断も容易であった。刃先の先端角度を10°とすると、刃先の先端角度が5°の場合よりも刃先の塑性変形は許容される程度に小さくなった。さらに刃先の先端角度を大きくすると、30°~40°の間では刃先の表面に小さな傷はあるものの塑性変形せず、特に60°~90°の間では塑性変形せず、刃先の損傷はなくなり、切断端面も良好であった。なお、刃先の先端角度を大きくすれば刃先の損傷は抑制される一方で、刃先の先端角度が120°以上となると被加工材の切断端面に突出部が生じるようになり、切断するために必要な荷重は大きくなったが、被加工材の切断端面にはめっきが十分に被覆された。切断端面形状の評価がEの場合には、被加工材に破断が生じず切断が完了しない場合もあった。
【0200】
以上の結果より、刃先の先端角度によらず被加工材の切断端面において十分にめっき被覆がなされることが示された。さらに、工具の損傷の抑制、被加工材の切断端面の形状及び切断の容易性の観点からは、刃部の先端角度θ及びθを10°以上120°以下とすることが好ましく、より好ましくは刃部の先端角度θ及びθを30°以上90°以下とすればよいことが示された。
【0201】
(C.刃先の先端半径)
図1に示した切断工具の第1の刃部の先端半径R及び第2の刃部の先端半径Rを変化させて被加工材を切断したときの、刃先の損傷状態及び被加工材の切断端面の形状を調べた。被加工材として、板厚3.2mm、引張強度が460MPaの亜鉛系めっき鋼板を用いた。被加工材の切断加工は、刃先の先端角度θ、θはともに60°とし、刃先の先端半径R、Rを変化させて、それぞれ2回ずつ実施した。表2にその結果を示す。
【0202】
【表2】
(めっき被覆状態の評価基準)
A:1%以上めっき被覆部分の板厚割合が70%以上
B:1%以上めっき被覆部分の板厚割合が60%以上
C:1%以上めっき被覆部分の板厚割合が50%以上
D:1%以上めっき被覆部分の板厚割合が40%以上
E:1%以上めっき被覆部分の板厚割合が40%未満
(刃先損傷の評価基準)
A:損傷無し
B:表面に小さな傷あり
C:わずかに塑性変形あり
D:わずかな塑性変形が100μm以上の長さで存在
E:塑性変形あり
(切断端面形状の評価基準)
A:極めて良好
B:良好
C:軽微な突出部あり
D:軽微な突出部が複数個所で存在
E:突出部あり
【0203】
表2に示すように、刃先の先端半径がいずれの場合であっても、被加工材の切断端面において、1%以上めっき被覆部分の板厚割合が40%以上であった。板厚に対する先端半径の比が3.1%以上の場合、1%以上めっき被覆部分の板厚割合が70%以上であった。刃先の先端半径R、Rが0.01mm、すなわち板厚に対する先端半径の比が0.3%の場合には、刃先は塑性変形したが、被加工材の切断端面は良好であり、切断も容易であった。刃先の先端半径R、Rを0.02mm、すなわち板厚に対する先端半径の比を0.6%とした場合、刃先の塑性変形は許容される程度に小さくなり、切断端面も良好であった。さらに刃先の先端半径R、Rを大きくすると、0.05mm~0.3mmの間、すなわち板厚に対する先端半径の比が1.6%~9.4%の場合には、刃先は塑性変形せず、刃先の損傷はほとんど認められなくなった。また、切断端面も良好であった。
【0204】
なお、刃先の先端半径R、Rを大きくすれば刃先の損傷は抑制された。その一方で、刃先の先端半径R、Rが1.6mm、すなわち板厚に対する先端半径の比が50.0%の場合、被加工材の切断端面に突出部が生じるようになったが、被加工材の切断端面にはめっきが十分に被覆されていた。また、板厚に対する先端半径の比が34.4%以下の場合に、突出部が存在することによる端面形状の劣化は抑制された。
【0205】
以上の結果より、刃先の先端半径の大きさ(板厚に対する先端半径の比)によらず被加工材の切断端面において十分にめっき被覆がなされることが示された。さらに、工具の損傷の抑制、被加工材の切断端面の形状及び切断の容易性の観点からは、板厚に対する刃部の先端半径R、Rの比が0.5%以上35.0%以下とすることが好ましく、より好ましくは板厚に対する刃部の先端半径R、Rの比を1.5%以上10.0%以下とすればよいことが示された。
【0206】
(D.被加工材の引張強度と切断状態との関係)
引張強度が270MPa、460MPa、585MPa、1020MPaの亜鉛系めっき鋼板を被加工材として、図1に示した本発明の切断工具を用いて切断加工したときの切断状態について調べた。被加工材の板厚はいずれも3.2mmであった。なお、引張強度が460MPaの亜鉛系めっき鋼板は、上述の実施例Cで使用した鋼板とは別の材料である。被加工材の切断加工は、刃先の先端角度θ、θはともに60°とし、刃先の先端半径R、Rを変化させて、それぞれ2回ずつ実施した。表3にその結果を示す。
【0207】
【表3】
(切断端面形状の評価基準)
A:極めて良好
B:良好
C:軽微な突出部あり
D:軽微な突出部が複数個所で存在
E:突出部あり
【0208】
試験の結果、いずれの引張強度の被加工材の切断端面においても、1%以上めっき被覆部分の板厚割合は50%以上であった。また、表3より、引張強度が270MPa以上の亜鉛系めっき鋼板について、刃先の先端半径R、Rが0.5mm以下の場合には、切断可能であり、かつ、良好な切断端面を得ることができた。また、引張強度が270MPa以上の亜鉛系めっき鋼板については、刃先の先端半径R、Rが0.5mmよりも大きくなっても切断加工することが可能であった。
【0209】
(E.上下の刃部の形状)
図1に示した切断工具において、先端半径Rと先端半径Rとが異なる第1の刃部と第2の刃部とを使用して被加工材を切断したときの、被加工材の切断端面の形状を調べた。上記Aの検証と同様、表面処理が施された被加工材としてめっき金属材を取り上げ、切断工具により切断したときのめっき金属材の切断端面におけるめっきの被覆状態を観察した。図28に、切断工具により切断されためっき金属材の切断端面の正面写真及び側面断面写真を示す。
【0210】
実施例E1では、ダイの刃先の先端半径Rは0.5mmであり、パンチの刃先の先端半径Rは0.05mmであり、先端半径比R/Rは10であった。実施例E2では、ダイの刃先の先端半径Rは0.05mmであり、パンチの刃先の先端半径Rは0.5mmであり、先端半径比R/Rは0.1であった。また、図28には、先端半径R、Rをともに0.05mmとした場合に得られためっき金属材の切断端面を参考例1として示し、先端半径R、Rをともに0.5mmとした場合に得られためっき金属材の切断端面を参考例2として示す。
【0211】
図28に示すように、実施例E1、E2のめっき金属材の切断端面は、参考例1、2のめっき金属材の切断端面に比べて、側面視した形状は左右で異なるが、ダレ、傾斜面及び破断面で形成されていた。また、実施例E1、E2の破断面比率は、参考例1、2と比較すると大きくなっていたが、1%以上めっき被覆部分の板厚割合は50%以上を保持していた。このように、上下の刃部の先端半径R、Rが異なる場合であっても、本発明の切断工具100を用いてめっき金属材を切断することにより、切断端面を広範囲にめっきによって被覆することが可能となる。
【0212】
なお、ここでは上下の刃部の先端半径R、Rが異なる場合について検証したが、上下の刃部の先端角度θ、θが異なる場合も、本発明の切断工具100を用いてめっき金属材を切断することにより、切断端面を広範囲にめっきによって被覆することができる。
【0213】
(F.複数の切断工程による切断)
図1に示した切断工具において、2回の切断工程により被加工材を切断したときの、被加工材の切断端面の形状を調べた。上記Aの検証と同様、表面処理が施された被加工材としてめっき金属材を取り上げ、切断工具により切断したときのめっき金属材の切断端面におけるめっきの被覆状態を観察した。図29に、切断工具により切断されためっき金属材の切断端面の正面写真及び側面断面写真を示す。
【0214】
実施例F1は、1回目の切断工程では、刃先の先端半径R、Rが0.05mmのダイ及びパンチを用いてめっき金属材を途中まで切断し、2回目の切断工程では、刃先の先端半径R、Rが0.5mmのダイ及びパンチを用いてめっき金属材を完全に切断した。実施例F2は、1回目の切断工程では、刃先の先端半径R、Rが0.5mmのダイ及びパンチを用いてめっき金属材を途中まで切断し、2回目の切断工程では、刃先の先端半径R、Rが0.05mmのダイ及びパンチを用いてめっき金属材を完全に切断した。また、図29には、図28と同一の参考例1、2を示している。
【0215】
図29に示すように、実施例F1、F2のめっき金属材の切断端面は、いずれも、切断端面は、ダレ、傾斜面及び破断面で形成されており、傾斜面の割合が大きかった。傾斜面にはめっきが残存しており、金属材表面から板厚中央に向かうにつれて傾斜面を覆うめっきの量は減少していた。また、実施例F1、F2のめっき金属材の切断端面は、参考例1、2のめっき金属材の切断端面と比較すると、2回目の切断工程にて使用した切断工具の刃先の先端半径R、Rの影響を受けることがわかる。例えば、実施例F1の切断端面には参考例2のような突出部が形成されたが、切断起点部分において、めっきが切断端面の他の部分よりも多く残存していることが見られた。また、実施例F2の切断端面は参考例1に近く、バリが少なく良好な端面形状であり、めっきの追従性も良好であった。
【0216】
このように、複数の切断工程によって、本発明の切断工具100を用いてめっき金属材を切断することにより、切断端面を広範囲にめっきによって被覆することが可能となる。特に、2回目の切断工程での刃部の先端半径R、Rを、1回目の切断工程での刃部の先端半径R、Rよりも小さくすることで、切断端面にめっきが被覆する部分を増加させることができ、かつ、良好な端面形状を得ることができることがわかる。また、2回目の切断工程での刃部の先端角度θ、θを、1回目の切断工程での刃部の先端角度θ、θよりも小さくすることによっても、切断端面にめっきが被覆する部分を増加させることができ、かつ、良好な端面形状を得ることができる。
【0217】
また、複数回の切断において、切断の途中で刃先の先端角度または先端半径を小さくしたときの破断面比率について調べた。被加工材は、上記同様、板厚3.2mm、引張強度460MPaの亜鉛系めっき鋼板を用いた。その結果を表4に示す。なお、先端半径R、Rは同一とし(R=R=R)、先端角度θ、θも同一とした(θ=θ=θ)。
【0218】
【表4】
【0219】
表4のNo.1~4では、先端角度θを固定し、先端半径Rを変化させた。その結果、No.4のように1回目の切断時の先端半径Rよりも2回目の切断時の先端半径Rを小さくすることで、破断面比率が小さくなり、めっき被覆範囲が増加することがわかった。また、表4のNo.5~8では、先端半径Rを固定し、先端角度θを変化させた。その結果、No.8のように1回目の切断時の先端角度θよりも2回目の切断時の先端角度θを小さくすることで、破断面比率が小さくなり、めっき被覆範囲が増加することがわかった。
【0220】
(G.非対称な刃先を有する切断工具による切断)
表面処理が施された被加工材としてめっき金属材を取り上げ、切断工具により切断したときのめっき金属材の切断端面の形状を観察した。
【0221】
実施例G1では、図10に示した左右の角度が異なった刃部をそれぞれ有するダイ及びパンチを用いて、めっき金属材を切断した。ダイ及びパンチの形状は同一であり、めっき金属材に対して対称に配置されていた。刃先の先端角度θ、θは75°であり、先端角度は法線にて45°(=θ1a=θ2a)と30°(=θ1b=θ2b)とに二分される形状とした。
【0222】
実施例G2では、図11に示した左右の先端半径が異なった刃部をそれぞれ有するダイ及びパンチを用いて、めっき金属材を切断した。ダイ及びパンチの形状は同一であり、めっき金属材に対して対称に配置されていた。ダイ及びパンチの刃先の先端半径は、それぞれ、法線に対して一方は0.5mm(=R1a=R2a)、他方は0.05mm(=R1b=R2b)であった。
【0223】
なお、参考例として、めっき金属材を、刃部が法線に対して左右対称の形状を有する切断工具によって切断した。ダイ及びパンチの形状は同一であり、めっき金属材に対して対称に配置されていた。刃先の先端角度θ、θは60°であり、先端角度を法線にて二分すると左右の角度はそれぞれ30°(=θ1a=θ2a=θ1b=θ2b)であった。
【0224】
図30に、実施例G1、G2及び参考例の切断方法によりめっき金属材を切断したときの、めっき金属材の切断端面の形状を示す。図30では、切断されためっき金属材のうち、刃部を法線にて二分したときに角度または先端半径が大きい側にて切断された側の切断端面について側面視したときの形状を模式的に示している。なお、参考図については切断されためっき金属材のいずれの切断端面も同様の形状を有していたため、一方の片の切断端面の形状を示している。なお、参考例並びに実施例G1及びG2において、いずれも切断端面の傾斜部において、めっき層が端面上に形成されていたことが確認された。
【0225】
図10に示すように、刃部が法線に対して左右対称の形状を有する参考例では、切断端面にばりが生じていた。一方、実施例G1、G2では、刃部が法線に対して左右非対称の形状であることから、角度または先端半径が大きい側に変形が集中して亀裂が安定して進展する。その結果、図30に示すように、参考例のようなばりは生じなかった。このように、ダイ及びパンチの刃部を非対称な形状とすることで、被加工材を切断する際の亀裂の進展方向を制御することができることがわかった。
【0226】
また、実施例G1、G2について、閉領域を切断した後の切断端面を確認したところ、切断端面は、図4に示したように、ダレ、傾斜面及び破断面で形成されており、傾斜面の割合が大きかった。傾斜面にはめっきが残存しており、金属材表面から板厚中央に向かうにつれて傾斜面を覆うめっきの量は減少していた。このように、図10あるいは図11に示した切断工具を用いてめっき金属材を切断することで、切断端面を広範囲にめっきによって被覆することも確認された。
【0227】
また、図10に示した切断工具を使用する場合において、先端角度θ1a、θ1bを相違させたときの、被加工材を切断する際に生じる亀裂の進展方向について調べた。被加工材として、板厚3.2mm、引張強度が460MPaの亜鉛系めっき鋼板を用いた。被加工材の切断加工は、刃先の先端半径R、Rはともに0.05mmとし、刃先の先端角度θ2aは先端角度θ1aと同一とし、先端角度θ2bは先端角度θ1bと同一とした。そして、先端角度θ1a、θ1bを変化させて、それぞれ切断を20回ずつ実施し、生じた亀裂の進展方向を確認した。表5にその結果を示す。
【0228】
【表5】
【0229】
表5より、(θ1a-θ1b)を5°以上45°以下としたとき、角度の大きいθ1a側へ亀裂が進展していることがわかる。また、先端角度θ1bを先端角度θ1aよりも大きくすれば、角度の大きいθ1b側へ亀裂が進展する。このように、先端角度θ1a、θ1bを異なる角度とすることで、切断時の亀裂の進展方向を制御することができる。先端角度θ2a、θ2bについても同様であり、角度θ2aと角度θ2bとの角度差である(θ2a-θ2b)または(θ2b-θ2a)を5°以上45°以下とすることで、角度の大きい側へ亀裂を進展させることができる。
【0230】
さらに、図11に示した切断工具を使用する場合において、先端半径R1a、R1bを相違させたときの、被加工材を切断する際に生じる亀裂の進展方向について調べた。被加工材として、板厚3.2mm、引張強度が460MPaの亜鉛系めっき鋼板を用いた。被加工材の切断加工は、刃先の先端角度θ、θはともに60°とし、刃先の先端半径R2aは先端半径R1aと同一とし、先端半径R2bは先端半径R1bと同一とした。そして、先端半径R1a、R1bを変化させて、それぞれ切断を20回ずつ実施し、生じた亀裂の進展方向を確認した。表6にその結果を示す。
【0231】
【表6】
【0232】
表6より、先端半径の比R1a/R1bを1.1以上100以下としたとき、先端半径の小さいR1b側へ亀裂が進展していることがわかる。また、先端半径R1aを先端半径R1bよりも小さくすれば、先端半径の小さいR1a側へ亀裂が進展する。このように、先端半径R1a、R1bを異なる角度とすることで、切断時の亀裂の進展方向を制御することができる。先端半径R2a、R2bについても同様であり、先端半径の比R2a/R2bまたはR2b/R2aを1.1以上100以下でとすることで、先端半径の小さい側へ亀裂を進展させることができる。
【0233】
(H.刃先の先端形状)
刃先の先端半径の形状と、切断された被加工材の破断面比率との関係を調べた。被加工材として、板厚3.2mm、引張強度が460MPaの亜鉛系めっき鋼板を用いた。被加工材の切断加工に用いた切断工具は、刃先の先端角度θ、θはともに60°とし、刃先の先端半径R、Rは0.05mmとした。ただし、比較例H1、H2の刃先は、図31に示すように先端が平坦となっており、平坦部分と楔形状の傾斜部分との交点の半径を0.05mmとした。平坦部分の幅RWは、比較例H1が0.2mmであり、比較例H2が0.02mmであった。実施例については刃先の先端に平坦部分はなく、平坦部分の幅RWは0mmであった。表7に、各切断工具を用いて切断された被加工材の破断面比率を示す。
【0234】
【表7】
【0235】
表7より、刃先を平坦とした場合(比較例H1、H2)、刃先が曲率を有する場合(実施例)と比較して破断面が増加し、めっきの被覆量が減少した。これは、刃先が平坦である場合、被加工材が平坦部分で切断される際に材料の流動が抑制され、切断時により多くのひずみが生じる。その結果、被加工材の破断が早まるとともに、めっきが分断されたため、めっきの被覆量が減少したものと考えられる。
【0236】
(I.閉領域の切断)
被加工材から閉領域を切断する方法について、被加工材が切断できるか否かを検証した。本検証では、表面処理が施された被加工材としてめっき金属材を取り上げ、平板のめっき金属材から円形の閉領域を切断した。めっき金属材は引張強度460MPaの亜鉛系めっき鋼板であり、板厚は3.2mmであった。
【0237】
実施例では、上記第2の実施形態の切断方法のうち、まず、図14に示した切断工具を用いて、めっき金属材から最終的に切断したい位置よりも内部の閉領域を切断して中間材を形成し、その後、図15に示した切断工具を用いて、最終的な切断位置にて中間材を切断した。一方、比較例では、中間材の形成は行わずに、図15に示した切断工具を用いて、平板のめっき金属材を最終的な切断位置で切断した。図15に示した切断工具のダイ及びパンチは、刃先での直径が10mmであり、刃部の先端角度は60°であった。
【0238】
図32に、実施例及び比較例の切断方法によりめっき金属材を切断したときの、めっき金属材に加わる損傷の大きさを示した解析結果と、めっき金属材の切断可否とを示す。また、参考例として、めっき金属材を直線状に切断したときのめっき金属材に加わる損傷の大きさを示した解析結果と、めっき金属材の切断可否とを示す。損傷は、一般化されたCockcroft-Lathamの式によって算出した損傷値を用いて表した(非特許文献1参照)。図32の解析結果は、めっき金属材に加わる損傷の大きさを濃淡で示しており、白い部分ほど損傷が大きく、破断しやすいことを示している。
【0239】
参考例に示すように、めっき金属材を直線状に切断した場合には、切断工具の刃先近傍でめっき金属材には大きな損傷が加わることがわかる。参考例では、ダイとパンチとが相対的に押し込まれるに伴い、めっき金属材が工具から離れる方向に移動することができるため、めっき金属材に大きな損傷を加えることができる。このため、めっき金属材を確実に切断することができた。
【0240】
次に、比較例では、切断工具の刃先近傍でめっき金属材にはほとんど損傷が加わらないことがわかる。比較例では、最終的な切断位置での閉領域の切断前に貫通孔が形成されないため、ダイとパンチとが相対的に押し込まれた際に、めっき金属材が工具から離れる方向に移動することができない。このため、めっき金属材にクラックを発生させるほどの損傷を加えることができず、めっき金属材は切断されなかった。
【0241】
一方、実施例では、切断工具の刃先近傍でめっき金属材には大きな損傷が加わることがわかる。実施例では、最終的な切断位置での閉領域の切断前に貫通孔が形成されているため、ダイとパンチとが相対的に押し込まれた際に、めっき金属材が工具から離れる方向に移動することができる。このため、めっき金属材に大きな損傷を加えることができ、めっき金属材を確実に切断することができた。
【0242】
また、実施例について、閉領域を切断した後の切断端面を確認したところ、切断端面は、図4に示したように、ダレ、傾斜面及び破断面で形成されており、傾斜面の割合が大きかった。傾斜面にはめっきが残存しており、金属材表面から板厚中央に向かうにつれて傾斜面を覆うめっきの量は減少していた。このように、図15に示した切断工具を用いてめっき金属材を切断することで、切断端面を広範囲にめっきによって被覆することも確認された。
【0243】
また、図32に示した比較例及び実施例にて形成された試験片について、疲労特性を調べた。試験片70は、図33に示すように、90mm×30mmの板状のめっき金属材に対して、中央に直径10mmの貫通孔71が形成され、4つのコーナー部に直径7mmの貫通孔73が形成されている。かかる試験片70に対して、応力比を-1、周波数を25Hzとして、疲労試験を室温大気中にて実施した。ここでは、10回の疲労寿命を達成する負荷応力を疲労限と定義した。図34及び下記表8に疲労試験結果を示す。
【0244】
【表8】
【0245】
図34及び表8より、試験片の引張強度によらず、実施例の試験片の疲労寿命は比較例の試験片よりも疲労寿命が長いことがわかる。また、図32に示した比較例及び実施例にて形成された試験片について、表面研削によりめっきを除去し、同様の試験を行った。その結果、表8と同等の結果が得られた。このことから、実施例の切断方法により切断することで、鋼板の被膜の有無にかかわらず、疲労寿命の改善効果が得られることが分かる。
【0246】
(J.めっき鋼板の検証)
下記表9に示すめっき鋼板である被覆材A~H及び鋼板Iについて、上記関係式(3)~(5)に基づく加工品の形状と50日暴露試験の実施結果との関係を調べた。その結果を表10に示す。なお、上記式(3)の評価に関しては、式(3)を満たす場合を「X」、式(3)を満たさない場合を「Y」とした。また、耐食性の評価は、海浜の日向環境に試料の切断端面(評価面)が上方を向くように設置し、50日間曝露した後の評価面の状態に基づき行った。評価面の状態は、評価面の全面積に対する赤錆が発生した面積の割合(赤錆発生面積率)に基づき、以下のように分類した。
A(優):赤錆発生面積率30%未満
B(良):赤錆発生面積率30%以上60%未満
C(可):赤錆発生面積率60%以上75%未満
D(不可):赤錆発生面積率75%以上90%未満
E(不可):赤錆発生面積率90%以上
【0247】
【表9】
【0248】
【表10】
【0249】
表10より、実施例J1~J34は、上記式(3)の関係を満たす結果、50日暴露試験後の評価面の赤錆発生面積率はいずれも75%未満となった。なお、実施例J11、J12については、他の実施例の切断加工品に比べて板厚が薄い。このため、切断加工時にめっき鋼板が強固に抑えられていないと、刃部が当たるタイミングがずれてゆがみが生じやすい。しかし、50日暴露試験後の評価面の赤錆発生面積率は75%未満にとどまっている。また、実施例J1~J34の切断加工品は、上記関係式(4)、(5)を満たしていることから、安定した切断端面の耐食性を発現できていたと推察される。
【0250】
一方、比較例J1~J11、J14~J19は、上記式(3)~(5)の関係を満たさないため、50日暴露試験後の評価面の赤錆発生面積率はいずれも75%以上となった。また、比較例J12、J13については、特許文献7の手法に基づきせん断した場合のせん断加工品の評価を行った。この場合も、上記式(5)の関係性を満たさないため、50日暴露試験後の評価面の赤錆発生面積率はいずれも75%以上となった。比較例J20~J22は、めっき層のない冷延鋼板のせん断加工品である。このため、比較例J20、J21については切断端面の形状は実施例と同様であるが、J20~J22のいずれも耐食性がないことから、50日暴露試験後の評価面の赤錆発生面積率はいずれも75%以上となった。
【0251】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0252】
例えば上記実施形態では、被加工材はめっき鋼板であったが、本発明はかかる例に限定されない。被加工材は、母材の表面を被覆材により被覆して形成されているものであればよい。例えば、鋼板等の金属材を母材とし、Zn、Alもしくはそれらの合金からなる材料、酸化物被膜、塗装材、樹脂材等を被覆材としてもよい。付帯的には、被加工材は、母材である金属材に対して表面を塗装した塗装鋼板であってもよく、鋼板にフィルムをラミネートしたフィルムラミネート鋼板であってもよい。あるいは、切断したものを、母材と被覆材とからなるクラッド材から製造することも可能である。クラッド材としては、例えば、Cu板を母材、Ni板を被覆材としたNiクラッド銅材等がある。
【0253】
なお、被加工材は1層のみに限定されるものではなく、複数層被覆されていてもよい。例えば、上述のめっき鋼板の表面に、化成処理、塗装、ラミネート等の処理がされていてもよい。
【0254】
また、本発明の切断方法によれば、プラスチック等の樹脂材を母材として、Cu、Cr、Ag、Au、Pt等の金属材を被覆材とした被加工材の切断したものも、同様に形成することができる。
【0255】
金属が被覆されたプラスチック等の樹脂材を切断すると、端面の電気伝導性が失われる。また、樹脂の露出する比率が高い場合は帯電しやすくなるため、火花の発生等が懸念される。そこで、上述の切断方法により、このような樹脂材の切断することにより、切断端面の電気伝導性を向上させ、帯電を防止することが可能となる。
【0256】
また、クラッド材の場合は、被加工材との組み合わせ、用途によって切断されたときに求められる目的は異なる。しかし、上述の切断方法によって被加工材を切断することで、切断端面の母材の耐食性、耐薬品性等を改善し得る。また、切断端面の一部あるいは全体の電気伝導性、熱伝導性、磁性等を、従来の切断法に比較して改善し得る。
【0257】
塗膜、ラミネートの場合は、上述の切断方法によって被加工材を切断することで、母材の耐食性はもちろん、塗膜-フィルム下の膨れの抑制、母材が露出しないことによる外観の改善、切断端面の一部あるいは全体の絶縁性の改善を実現し得る。
【0258】
このように、上述の切断方法によって被加工材を切断することで、平面において被覆材が有する機能を、切断端面にも持たせることが可能となる。なお、被覆材が有する機能は上述の例に限定されるものではなく、被覆材の用途に応じてその機能を発現し得る。換言すれば、本実施形態に係る切断方法により、被加工材の切断において、被加工材の有する性能が切断後に低下することを抑制することができる。これは、表面処理が施された被加工材の切断のみならず、裸材の切断においても同様である。例えば、本実施形態に係る切断方法を用いることで、被覆材の有無によらず、切断された被加工材の疲労寿命の低下を抑制することができる。
【0259】
なお、以下の構成も本発明の技術的範囲に含まれる。
(A1) ダイとパンチとを備える切断工具を用いて、表面処理が施された被加工材を切断する切断方法であって、
前記被加工材を前記ダイと前記パンチとの間に配置することと、
前記ダイの楔形状の第1の刃部と前記パンチの楔形状の第2の刃部とを対向させた状態で、前記パンチを前記ダイ側に相対的に押し込み、前記被加工材を切断することと、
を含む、切断方法。
(A2) 前記ダイまたは前記パンチの少なくともいずれかに一方に、前記ダイと前記パンチとの間に配置されるブランクホルダが設けられ、
前記ブランクホルダによって前記被加工材を保持した状態で、前記パンチを前記ダイ側に相対的に押し込む、上記(A1)に記載の切断方法。
(A3) 前記第1の刃部の先端角度θ及び前記第2の刃部の先端角度θは、10°以上120°以下である、上記(A1)または(A2)に記載の切断方法。
(A4) 前記第1の刃部の先端角度θ及び前記第2の刃部の先端角度θは、30°以上90°以下である、上記(A3)に記載の切断方法。
(A5) 前記第1の刃部の先端角度θと前記第2の刃部の先端角度θとの比であるθ/θまたはθ/θは、4未満である、上記(A3)または(A4)に記載の切断方法。
(A6) 前記第1の刃部の先端角度θと前記第2の刃部の先端角度θとの比であるθ/θまたはθ/θは、2未満である、上記(A5)に記載の切断方法。
(A7) 前記第1の刃部の先端半径R及び前記第2の刃部の先端半径Rは、板厚の0.5%以上35.0%以下である、上記(A1)~(A6)のいずれか1項に記載の切断方法。
(A8) 前記第1の刃部の先端半径R及び前記第2の刃部の先端半径Rは、板厚の3.0%以上10.0%以下である、上記(A7)に記載の切断方法。
(A9) 前記第1の刃部の先端半径R及び前記第2の刃部の先端半径Rとの比であるR/RまたはR/Rは、100未満である、上記(A7)または(A8)に記載の切断方法。
(A10) 前記第1の刃部の先端半径R及び前記第2の刃部の先端半径Rとの比であるR/RまたはR/Rは、10未満である、上記(A9)に記載の切断方法。
(A11) 前記ダイと前記パンチとは、前記第1の刃部の先端位置と前記第2の刃部の先端位置とを一致させて対向される、上記(A1)~(A10)のいずれか1項に記載の切断方法。
(A12) 前記ダイの前記第1の刃部と前記パンチの前記第2の刃部とを対向させたとき、前記第1の刃部の先端位置と前記第2の刃部の先端位置とのずれ量を板厚の50%以下とする、上記(A1)~(A10)のいずれか1項に記載の切断方法。
(A13) 前記ダイの前記第1の刃部及び前記パンチの前記第2の刃部は、同一形状であり、前記被加工材に対して対称に配置される、上記(A1)~(A12)のいずれか1項に記載の切断方法。
(A14) 前記被加工材の切断は、複数の切断工程で行われる、上記(A1)~(A13)のいずれか1項に記載の切断方法。
(A15) 前記複数の切断工程は、第1の切断工程と、前記第1の切断工程の後に行われる第2の切断工程とを含み、
前記第2の切断工程では、
前記第2の切断工程での前記第1の刃部の先端角度θを、前記第1の切断工程での前記第1の刃部の先端角度θよりも小さくすること、
または、
前記第2の切断工程での前記第2の刃部の先端角度θを、前記第1の切断工程での前記第2の刃部の先端角度θよりも小さくすること、
のうち、少なくともいずれか一方を行い、前記被加工材を切断する、上記(A14)に記載の切断方法。
(A16) 前記複数の切断工程は、第1の切断工程と、前記第1の切断工程の後に行われる第2の切断工程とを含み、
前記第2の切断工程では、
前記第2の切断工程での前記第1の刃部の先端半径Rを、前記第1の切断工程での前記第1の刃部の先端半径Rよりも小さくすること、
または、
前記第2の切断工程での前記第2の刃部の先端半径Rを、前記第1の切断工程での前記第2の刃部の先端半径Rよりも小さくすること、
のうち、少なくともいずれか一方を行い、前記被加工材を切断する、上記(A14)または(A15)に記載の切断方法。
(A17) 前記複数の切断工程のうち、1回目の切断工程における前記パンチのストロークSは、前記第1の刃部の先端半径をR、前記第2の刃部の先端半径をR、前記被加工材の板厚をtと定義したとき、下記式(a1)を満たす、上記(A14)~(A16)のいずれか1項に記載の切断方法。
(R+R)≦S≦{t-(R+R)} ・・・(a1)
(A18) 前記1回目の切断工程における前記パンチのストロークSは、下記式(a2)を満たす、上記(A17)に記載の切断方法。
(R+R)×2≦S≦{t-(R+R)×2} ・・・(a2)
(A19) 前記被加工材の削り幅は、前記被加工材の一方の端部と当該被加工材の切断位置との距離であり、
前記被加工材の削り幅Dは、前記第1の刃部の先端半径をR、前記第2の刃部の先端半径をR、前記被加工材の板厚をtと定義したとき、下記式(a3)を満たす、上記(A1)~(A18)のいずれか1項に記載の切断方法。
R≦D≦5t ・・・(a3)
R=Min(R,R
(A20) 前記被加工材の削り幅Dは、下記式(a4)を満たす、上記(A19)に記載の切断方法。
3R≦D≦t ・・・(a4)
(A21) 前記被加工材は、引張強度270MPa以上の材料である、上記(A1)~(A20)のいずれか1項に記載の切断方法。
(A22) 前記被加工材は、引張強度590MPa以上の材料である、上記(A21)に記載の切断方法。
(A23) 前記被加工材は、めっき金属板である、上記(A1)~(A22)のいずれか1項に記載の切断方法。
(A24) 被加工材を載置可能であり、楔形状の第1の刃部を有するダイと、
前記第1の刃部に対向して設けられる楔形状の第2の刃部を有し、前記ダイに対向し、前記ダイ側に相対的に移動可能に設けられるパンチと、
を備える、切断工具。
(A25) 前記ダイと前記パンチとの間に前記被加工材を配置させた状態で、前記パンチが前記ダイ側に相対的に押し込まれることにより前記被加工材を切断する、上記(A24)に記載の切断工具。
(B1) ダイとパンチとを備える切断工具を用いて、表面処理が施された被加工材を切断する切断方法であって、
前記ダイの楔形状の第1の刃部と前記パンチの楔形状の第2の刃部とは、それぞれ、刃先における法線に対して非対称な形状を有し、
前記被加工材を前記ダイと前記パンチとの間に配置することと、
前記ダイの楔形状の第1の刃部と前記パンチの楔形状の第2の刃部とを対向させた状態で、前記パンチを前記ダイ側に相対的に押し込み、前記被加工材を切断することと、
を含む、切断方法。
(B2) 前記ダイまたは前記パンチの少なくともいずれかに一方に、前記ダイと前記パンチとの間に配置されるブランクホルダが設けられ、
前記ブランクホルダによって前記被加工材を保持した状態で、前記パンチを前記ダイ側に相対的に押し込む、上記(B1)に記載の切断方法。
(B3) 前記第1の刃部の先端角度θ及び前記第2の刃部の先端角度θは、10°以上120°以下である、上記(B1)または(B2)に記載の切断方法。
(B4) 前記第1の刃部の先端角度θ及び前記第2の刃部の先端角度θは、30°以上90°以下である、上記(B3)に記載の切断方法。
(B5) 前記第1の刃部の先端角度θは、当該刃部の刃先における法線により2つの角度θ1a、θ1bに分割され、
前記第2の刃部の先端角度θは、当該刃部の刃先における法線により2つの角度θ2a、θ2bに分割され、
角度θ1aと角度θ1bとの角度差である(θ1a-θ1b)または(θ1b-θ1a)、及び、角度θ2aと角度θ2bとの角度差である(θ2a-θ2b)または(θ2b-θ2a)は、5°以上45°以下である、上記(B3)または(B4)に記載の切断方法。
(B6) 角度θ1aと角度θ1bとの角度差である(θ1a-θ1b)または(θ1b-θ1a)、及び、角度θ2aと角度θ2bとの角度差である(θ2a-θ2b)または(θ2b-θ2a)は、10°以上30°以下である、上記(B5)に記載の切断方法。
(B7) 前記第1の刃部の先端半径Rを、当該刃部の刃先における法線により2つに分割された前記第1の刃部の各先端半径R1a、R1bの平均値とし、
前記第2の刃部の先端半径Rを、当該刃部の刃先における法線により2つに分割された前記第2の刃部の各先端半径R2a、R2bの平均値としたとき、
前記先端半径R、Rは、それぞれ、板厚の0.5%以上35.0%以下である、上記(B1)~(B6)のいずれか1項に記載の切断方法。
(B8) 前記先端半径R、Rは、それぞれ、板厚の3.0%以上10.0%以下である、上記(B7)に記載の切断方法。
(B9) 前記第1の刃部の先端半径Rを分割した2つの先端半径の比R1a/R1bまたはR1b/R1a、及び、前記第2の刃部の先端半径Rを分割した2つの先端半径の比R2a/R2bまたはR2b/R2aは、1.1以上100以下である、上記(B7)または(B8)に記載の切断方法。
(B10) 前記第1の刃部の先端半径Rを分割した2つの先端半径の比R1a/R1bまたはR1b/R1a、及び、前記第2の刃部の先端半径Rを分割した2つの先端半径の比R2a/R2bまたはR2b/R2aは、5以上20以下である、上記(B9)に記載の切断方法。
(B11) 前記ダイと前記パンチとは、前記第1の刃部の先端位置と前記第2の刃部の先端位置とを一致させて対向して配置される、上記(B1)~(B10)のいずれか1項に記載の切断方法。
(B12) 前記ダイの前記第1の刃部と前記パンチの前記第2の刃部とを対向させたとき、前記第1の刃部の先端位置と前記第2の刃部の先端位置とのずれ量を板厚の50%以下とする、上記(B1)~(B10)のいずれか1項に記載の切断方法。
(B13) 前記ダイの前記第1の刃部及び前記パンチの前記第2の刃部は、同一形状であり、前記被加工材に対して対称に配置される、上記(B1)~(B12)のいずれか1項に記載の切断方法。
(B14) 前記被加工材の切断は、複数の切断工程で行われる、上記(B1)~(B13)のいずれか1項に記載の切断方法。
(B15) 前記被加工材の削り幅は、前記被加工材の一方の端部と当該被加工材の切断位置との距離であり、
前記被加工材の削り幅Dは、
前記第1の刃部の先端半径Rを、当該刃部の刃先における法線により2つに分割された前記第1の刃部の各先端半径R1a、R1bの平均値とし、
前記第2の刃部の先端半径Rを、当該刃部の刃先における法線により2つに分割された前記第2の刃部の各先端半径R2a、R2bの平均値とし、
前記被加工材の板厚をtと定義したとき、下記式(b1)を満たす、上記(B1)~(B14)のいずれか1項に記載の切断方法。
R≦D≦5t ・・・(b1)
R=Min(R1a,R1b,R2a,R2b
(B16) 前記被加工材の削り幅Dは、下記式(b2)を満たす、上記(B15)に記載の切断方法。
3R≦D≦t ・・・(b2)
(B17) 前記被加工材は、引張強度270MPa以上の材料である、上記(B1)~(B16)のいずれか1項に記載の切断方法。
(B18) 前記被加工材は、引張強度590MPa以上の材料である、上記(B17)に記載の切断方法。
(B19) 前記被加工材は、めっき金属板である、上記(B1)~(B18)のいずれか1項に記載の切断方法。
(B20) 被加工材を載置可能であり、楔形状の第1の刃部を有するダイと、
前記第1の刃部に対向して設けられる楔形状の第2の刃部を有し、前記ダイに対向し、前記ダイ側に相対的に移動可能に設けられるパンチと、
を備え、
前記第1の刃部と前記第2の刃部とは、それぞれ、刃先における法線に対して非対称な形状を有する、切断工具。
(B21) 前記ダイと前記パンチとの間に前記被加工材を配置させた状態で、前記パンチが前記ダイ側に相対的に押し込まれることにより前記被加工材を切断する、上記(B20)に記載の切断工具。
(C1) 表面処理が施された被加工材を切断する切断方法であって、
前記被加工材から、最終形状領域と当該最終形状領域の縁部に沿って設けられた余剰領域とを有する中間材を形成することと、
前記最終形状領域の縁部に対応して刃部が閉形状に形成されたダイとパンチとを備える切断工具を用いて、前記ダイの楔形状の第1の刃部と前記パンチの楔形状の第2の刃部とを対向させた状態で、前記パンチを前記ダイ側に相対的に押し込み、前記中間材を切断することと、
を含む、切断方法。
(C2) 前記ダイと前記パンチとは、前記第1の刃部の先端位置と前記第2の刃部の先端位置とを一致させて対向される、上記(C1)に記載の切断方法。
(C3) 前記ダイの前記第1の刃部と前記パンチの前記第2の刃部とを対向させたとき、前記第1の刃部の先端位置と前記第2の刃部の先端位置とのずれ量を板厚の50%以下とする、上記(C1)に記載の切断方法。
(C4) 前記中間材の切断は、複数の切断工程で行われる、上記(C1)~(C3)のいずれか1項に記載の切断方法。
(C5) 前記複数の切断工程は、第1の切断工程と、前記第1の切断工程の後に行われる第2の切断工程とを含み、
前記第2の切断工程では、
前記第2の切断工程での前記第1の刃部の先端角度θを、前記第1の切断工程での前記第1の刃部の先端角度θよりも小さくすること、
または、
前記第2の切断工程での前記第2の刃部の先端角度θを、前記第1の切断工程での前記第2の刃部の先端角度θよりも小さくすること、
のうち、少なくともいずれか一方を行い、前記中間材を切断する、上記(C4)に記載の切断方法。
(C6) 前記複数の切断工程は、第1の切断工程と、前記第1の切断工程の後に行われる第2の切断工程とを含み、
前記第2の切断工程では、
前記第2の切断工程での前記第1の刃部の先端半径Rを、前記第1の切断工程での前記第1の刃部の先端半径Rよりも小さくすること、
または、
前記第2の切断工程での前記第2の刃部の先端半径Rを、前記第1の切断工程での前記第2の刃部の先端半径Rよりも小さくすること、
のうち、少なくともいずれか一方を行い、前記中間材を切断する、上記(C4)または(C5)に記載の切断方法。
(C7) 前記複数の切断工程のうち、1回目の切断工程における前記パンチのストロークSは、前記第1の刃部の先端半径をR、前記第2の刃部の先端半径をR、前記被加工材の板厚をtと定義したとき、下記式(c1)を満たす、上記(C4)~(C6)のいずれか1項に記載の切断方法。
(R+R)≦S≦{t-(R+R)} ・・・(c1)
(C8) 前記1回目の切断工程における前記パンチのストロークSは、下記式(c2)を満たす、上記(C7)に記載の切断方法。
(R+R)×2≦S≦{t-(R+R)×2} ・・・(c2)
(C9) 前記中間材の切断において、
前記中間材の削り幅は、前記中間材の一方の端部と前記最終形状領域の縁部である当該中間材の切断位置との距離であり、
前記中間材の削り幅Dは、前記第1の刃部の先端半径をR、前記第2の刃部の先端半径をR、前記被加工材の板厚をtと定義したとき、下記式(c3)を満たす、上記(C1)~(C8)のいずれか1項に記載の切断方法。
R≦D≦5t ・・・(c3)
R=Min(R,R
(C10) 前記中間材の削り幅Dは、下記式(c4)を満たす、上記(C9)に記載の切断方法。
3R≦D≦t ・・・(c4)
(C11) 前記中間材の形成は、打ち抜き加工、穴抜き加工、またはレーザ切断により行われる、上記(C1)~(C10)のいずれか1項に記載の切断方法。
(C12) 前記中間材の切断時に当該中間材が破断しなかった場合に、前記中間材から前記余剰領域を切り落とすことをさらに含む、上記(C1)~(C11)のいずれか1項に記載の切断方法。
(C13) 前記中間材を形成する工程において、前記被加工材から閉領域を除いて2つに分離された部分のうち、前記閉領域が除かれ貫通孔が形成された部分を前記中間材とする、上記(C1)~(C12)のいずれか1項に記載の切断方法。
(C14) 前記中間材を形成する工程において、前記被加工材から閉領域を除いて2つに分離された部分のうち、前記被加工材から抜き出された前記閉領域の部分を前記中間材とする、上記(C1)~(C12)のいずれか1項に記載の切断方法。
(C15) 前記被加工材は、引張強度270MPa以上の材料である、上記(C1)~(C14)のいずれか1項に記載の切断方法。
(C16) 前記被加工材は、引張強度590MPa以上の材料である、上記(C15)に記載の切断方法。
(C17) 前記被加工材は、めっき金属板である、上記(C1)~(C16)のいずれか1項に記載の切断方法。
【符号の説明】
【0260】
3 切断加工品
3a 切断端面
5 被加工材(めっき鋼板)
5a 金属材(鋼板)
5b 被膜層(めっき)
50、100 切断工具
51、110 ダイ
111、121 基部
113 第1の刃部
52、120 パンチ
123 第2の刃部
130 ブランクホルダ
131、132、133、134、140 パッド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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