(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-08
(45)【発行日】2023-08-17
(54)【発明の名称】無方向性電磁鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20230809BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20230809BHJP
C21D 8/12 20060101ALI20230809BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20230809BHJP
【FI】
C22C38/00 303U
C22C38/60
C21D8/12 A
H01F1/147 175
(21)【出願番号】P 2022515448
(86)(22)【出願日】2021-04-16
(86)【国際出願番号】 JP2021015699
(87)【国際公開番号】W WO2021210671
(87)【国際公開日】2021-10-21
【審査請求日】2022-10-14
(31)【優先権主張番号】P 2020073210
(32)【優先日】2020-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】屋鋪 裕義
(72)【発明者】
【氏名】名取 義顕
(72)【発明者】
【氏名】冨田 美穂
(72)【発明者】
【氏名】竹田 和年
(72)【発明者】
【氏名】松本 卓也
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/179871(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/017426(WO,A1)
【文献】特開2016-47943(JP,A)
【文献】特開2002-146491(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 8/12
H01F 1/147
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材の化学組成が、質量%で、
C:0.0010~0.0040%、
Si:4.0~5.0%、
Mn:0.20%以下、
Al:0.010%以上0.050%未満、
P:0.030%以下、
S:0.0030%以下、
N:0.0005~0.0030%、
O:0.0100~0.0400%、
Ca:0.0010%未満、
Ti:0.0050%未満、
Nb:0.0050%未満、
Zr:0.0050%未満、
V:0.0050%未満、
Cu:0.20%未満、
Ni:0.50%未満、
Sn:0~0.05%、
Sb:0~0.05%、並びに
残部:Feおよび不純物であり、
前記母材の表面から深さ方向に10μmの位置までを除く領域におけるO含有量が0.0050%未満である、
無方向性電磁鋼板。
【請求項2】
前記母材の平均結晶粒径が、10~80μmである、
請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項3】
引張強さが650MPa以上である、
請求項1または請求項2に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項4】
前記母材の表面に絶縁被膜を有する、
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板を製造する方法であって、
質量%で、
C:0.0020~0.0060%、
Si:4.0~5.0%、
Mn:0.20%以下、
Al:0.010%以上0.050%未満、
P:0.030%以下、
S:0.0030%以下、
N:0.0005~0.0030%、
O:0.0050%未満、
Ca:0.0010%未満、
Ti:0.0050%未満、
Nb:0.0050%未満、
Zr:0.0050%未満、
V:0.0050%未満、
Cu:0.20%未満、
Ni:0.50%未満、
Sn:0~0.05%、
Sb:0~0.05%、並びに
残部:Feおよび不純物である化学組成を有する鋼塊に対して、
熱間圧延工程と、冷間圧延工程と、仕上焼鈍工程とを順に施す、
無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記熱間圧延工程と前記冷間圧延工程との間に、950℃以下の温度で加熱する熱延板焼鈍工程をさらに備える、
請求項5に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、無方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境問題が注目されており、省エネルギーへの取り組みに対する要求は、一段と高まってきている。なかでも電気機器の高効率化が強く要望されている。このため、モータまたは発電機等の鉄心材料として広く使用されている無方向性電磁鋼板においても、磁気特性の向上に対する要請がさらに強まっている。電気自動車およびハイブリッド自動車用の駆動モータならびにエアコンのコンプレッサ用モータにおいては、その傾向が顕著である。
【0003】
上記のような各種モータのモータコアは、固定子であるステータおよび回転子であるロータから構成される。モータコアを構成するステータおよびロータに求められる特性は、互いに相違するものであり、ステータには、優れた磁気特性(低鉄損および高磁束密度)、特に低鉄損が求められるのに対し、ロータには、優れた機械特性(高強度)が求められる。
【0004】
ステータとロータとで求められる特性が異なることから、ステータ用の無方向性電磁鋼板とロータ用の無方向性電磁鋼板とを作り分けることで、所望の特性を実現することができる。しかしながら、2種類の無方向性電磁鋼板を準備することは、歩留まりの低下を招いてしまう。そこで、ロータに求められる高強度を実現しつつ、低鉄損を実現するために、強度に優れ、かつ、磁気特性にも優れた無方向性電磁鋼板が、従来から検討されてきた。
【0005】
例えば、特許文献1~4では、優れた磁気特性と高い強度とを実現するための試みがなされている。
【0006】
特許文献1:特開2004-300535号公報
特許文献2:特開2007-186791号公報
特許文献3:特開2012-140676号公報
特許文献4:特開2010-90474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、近年、電気自動車またはハイブリッド自動車のモータに求められる省エネルギー特性を実現するには、特許文献1~4で開示されているような技術では、ステータ素材としての低鉄損化が不十分であった。
【0008】
本開示は、このような問題を解決するためになされたものであり、高い強度および優れた磁気特性を有する無方向性電磁鋼板を低コストで安定的に得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、下記の無方向性電磁鋼板およびその製造方法を要旨とする。
【0010】
(1)母材の化学組成が、質量%で、
C:0.0010~0.0040%、
Si:4.0~5.0%、
Mn:0.20%以下、
Al:0.010%以上0.050%未満、
P:0.030%以下、
S:0.0030%以下、
N:0.0005~0.0030%、
O:0.0100~0.0400%、
Ca:0.0010%未満、
Ti:0.0050%未満、
Nb:0.0050%未満、
Zr:0.0050%未満、
V:0.0050%未満、
Cu:0.20%未満、
Ni:0.50%未満、
Sn:0~0.05%、
Sb:0~0.05%、並びに
残部:Feおよび不純物であり、
前記母材の表面から深さ方向に10μmの位置までを除く領域におけるO含有量が0.0050%未満である、
無方向性電磁鋼板。
【0011】
(2)前記母材の平均結晶粒径が、10~80μmである、
上記(1)に記載の無方向性電磁鋼板。
【0012】
(3)引張強さが650MPa以上である、
上記(1)または(2)に記載の無方向性電磁鋼板。
【0013】
(4)前記母材の表面に絶縁被膜を有する、
上記(1)から(3)までのいずれか1つに記載の無方向性電磁鋼板。
【0014】
(5)上記(1)から(4)までのいずれか1つに記載の無方向性電磁鋼板を製造する方法であって、
質量%で、
C:0.0020~0.0060%、
Si:4.0~5.0%、
Mn:0.20%以下、
Al:0.010%以上0.050%未満、
P:0.030%以下、
S:0.0030%以下、
N:0.0005~0.0030%、
O:0.0050%未満、
Ca:0.0010%未満、
Ti:0.0050%未満、
Nb:0.0050%未満、
Zr:0.0050%未満、
V:0.0050%未満、
Cu:0.20%未満、
Ni:0.50%未満、
Sn:0~0.05%、
Sb:0~0.05%、並びに
残部:Feおよび不純物である化学組成を有する鋼塊に対して、
熱間圧延工程と、冷間圧延工程と、仕上焼鈍工程とを順に施す、
無方向性電磁鋼板の製造方法。
【0015】
(6)前記熱間圧延工程と前記冷間圧延工程との間に、950℃以下の温度で加熱する熱延板焼鈍工程をさらに備える、
上記(5)に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、高い強度および優れた磁気特性を有する無方向性電磁鋼板を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示の発明者らが上記の課題を解決するために、鋭意検討を行った結果、以下の知見を得るに至った。
【0018】
鋼の高強度化を達成したい場合には、Cu、Ni、Ti、V等の合金元素を多量に含有させる方法がしばしば行われる。しかしながら、Cu、Ni、Ti、V等の合金元素を多量に含有させる場合、コストを増加させるだけでなく、磁気特性の低下を招く。
【0019】
Cu、Ni、Ti、V等の特殊な合金元素を極力含有させずに高強度化を達成するためには、Siを活用することが効果的である。また、無方向性電磁鋼板の磁気特性を向上させるためには、高周波鉄損を改善する必要があるが、鉄損は主にヒステリシス損と渦電流損とからなっている。Siは、鋼の電気抵抗を上昇させて渦電流損を低減させる効果も有する。
【0020】
一方、Si含有量の増加は、靱性を劣化させ、冷間圧延時の脆化割れを招くため、製造が困難になるという問題がある。その対策として、冷間圧延時の脆化割れを抑制するため、Cを結晶粒界に偏析させることで粒界を強化することが考えられる。しかし、Cは使用環境において炭化物として析出することで、磁壁移動を妨げ、ヒステリシス損を増加させる要因となる。
【0021】
したがって、冷間圧延時にはCはある程度含有させるものの、その後脱炭して、最終製品中のC含有量を低減することが望まれる。これにより、冷間加工性の向上と鉄損の低減とを両立させることが可能となる。
【0022】
加えて、Alを微量添加することで、母材の組織を細粒化することが可能になる。一般的には、組織の微細化は鉄損の増加を招くため磁気特性を劣化させるおそれがある。しかしながら、適切な量のAlを含有させることで結晶粒径を調整し、鉄損の増加を最小限に抑えつつ、強度を向上させることが可能となる。
【0023】
なお、高強度化への寄与および電気抵抗の上昇効果が相対的に低いMnに関しては、その含有量を低減する。
【0024】
本開示は上記の知見に基づいてなされたものである。以下、本開示の各要件について詳しく説明する。
なお、本開示において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
「~」の前後に記載される数値に「超」または「未満」が付されている場合の数値範囲は、これら数値を下限値または上限値として含まない範囲を意味する。
「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値は他の段階的な記載の数値範囲の上限値に、又は一つの数値範囲で記載された下限値は他の段階的な記載の数値範囲の下限値に置き換えてもよい。
また、本開示に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0025】
1.全体構成
本開示に係る無方向性電磁鋼板は、高い強度を有し、かつ優れた磁気特性を有するため、ステータおよびロータの双方に好適である。また、本開示に係る無方向性電磁鋼板は、以下に説明する母材の表面に絶縁被膜を備えていることが好ましい。
【0026】
2.母材の化学組成
各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
【0027】
C:0.0010~0.0040%
C(炭素)は、鉄損劣化を引き起こす元素である。C含有量が0.0040%を超えると、無方向性電磁鋼板において鉄損劣化が生じ、良好な磁気特性を得ることができない。一方、Cは鋼板の高強度化に有効な元素である。したがって、C含有量は0.0010~0.0040%とする。C含有量は0.0012%以上であるのが好ましく、0.0015%以上であるのがより好ましい。C含有量は0.0035%以下であるのが好ましく、0.0030%以下であるのがより好ましい。
【0028】
Si:4.0~5.0%
Si(ケイ素)は、鋼の電気抵抗を上昇させて渦電流損を低減させ、高周波鉄損を改善する元素である。また、Siは、固溶強化能が大きいため、鋼板の高強度化にも有効な元素である。一方、Si含有量が過剰であると、加工性が著しく劣化し、冷間圧延を実施することが困難となる。したがって、Si含有量は4.0~5.0%とする。Si含有量は4.1%以上であるのが好ましく、4.2%以上であるのがより好ましい。また、Si含有量は4.9%以下であるのが好ましく、4.8%以下であるのがより好ましい。
【0029】
Mn:0.20%以下
Mn(マンガン)は、鋼の電気抵抗を上昇させて渦電流損を低減し、高周波鉄損を改善する効果を有するものの、SiおよびAlに比べるとその効果は少ない。一方、Mn含有量の増加に伴い、磁束密度の低下を招く。そのため、Mn含有量は0.20%以下とする。Mn含有量は0.19%以下であるのが好ましく、0.18%以下であるのがより好ましい。ただし、鋼中に不可避的に含有するSによる熱間圧延時の脆化を抑える効果を有する。したがって、0.05%以上含有することが好ましく、0.07%以上含有することがより好ましい。
【0030】
Al:0.010%以上0.050%未満
Al(アルミニウム)は、Nと結合してAlNを形成し、安定した結晶粒の微細化に有効な元素である。適度のAlの含有は、組織を細粒化して鋼の強度を高める効果を有する。一方、0.050%以上含有すると結晶粒の微細化効果が減少する。したがって、Al含有量は0.010%以上0.050%未満とする。Al含有量は0.012%以上であるのが好ましく、0.015%以上であるのがより好ましい。また、Al含有量は0.045%以下であるのが好ましく、0.040%以下であるのがより好ましく、0.035%以下であるのがさらに好ましい。
【0031】
P:0.030%以下
P(リン)は、不純物として鋼中に含まれ、その含有量が過剰であると、鋼板の靱性が著しく低下する。したがって、P含有量は0.030%以下とする。P含有量は0.025%以下であるのが好ましく、0.020%以下であるのがより好ましい。なお、P含有量の極度の低減は製造コストの増加を招くおそれがあるため、P含有量は0.005%以上でもよく、0.008%以上でもよく、0.010%以上でもよい。
【0032】
S:0.0030%以下
S(硫黄)は、MnSの微細析出物を形成することで鉄損を増加させ、鋼板の磁気特性を劣化させる元素である。したがって、S含有量は0.0030%以下とする。S含有量は0.0025%以下であるのが好ましく、0.0020%以下であるのがより好ましい。なお、S含有量の極度の低減は製造コストの増加を招くおそれがあるため、S含有量は0.0001%以上でもよく、0.0003%以上でもよく、0.0005%以上でもよい。
【0033】
N:0.0005~0.0030%
N(窒素)は、Alと結合してAlNを形成し、安定した結晶粒の微細化に有効な元素である。一方、大量に含有すると過剰なAlNが形成されて鉄損劣化を招く。したがって、N含有量は0.0005~0.0030%とする。N含有量は0.007%以上であるのが好ましく、0.0010%以上であるのがより好ましい。また、N含有量は0.0027%以下であるのが好ましく、0.0025%以下であるのがより好ましい。
【0034】
O:0.0100~0.0400%
O(酸素)は、不可避的に混入する元素であり、酸化物を形成して鉄損を増加させ、鋼板の磁気特性を劣化させる元素である。そのため、O含有量は低い方が好ましい。しかしながら、Oは脱炭の際に表層に酸化層を形成するため、その含有量を低減することは困難である。但し、母材表層の過度の酸化は、磁束密度の劣化も招く。そのため、母材の全厚におけるOの平均含有量は0.0100~0.0400%とする。O含有量は0.0350%以下であるのが好ましく、0.0300%以下であるのがより好ましい。
【0035】
また、上述のように、母材の表層における酸化層の形成は避けられないものの、表層を除く領域におけるO含有量は極力低減することが望まれる。具体的には、母材の表面から深さ方向に10μmの位置までを除く領域におけるO含有量を0.0050%未満にする必要がある。母材表面から10μm以上の母材中心部の酸素は、製鋼工程の凝固時に形成された酸化物が含有する酸素と考えられる。すなわち、仕上焼鈍工程において露点を制御して表層部を酸化させた場合、内部酸化は数μm程度であり、母材表面から10μm以上の深さでは製綱時のO含有量に相当する。この酸素量が0.0050%以上になると母材の酸化物が多量に形成されることになり、ヒステリシス損が増加する。したがって、母材の表面から深さ方向に10μmの位置までを除く領域におけるO含有量は、0.0050%未満とする。母材の表面から深さ方向に10μmの位置までを除く領域におけるO含有量は、0.0045%以下が好ましく、0.0040%以下がより好ましい。
母材の表面から深さ方向に10μmの位置までを除く領域におけるO含有量は、母材の表裏面から10μmの位置までをフッ化水素酸と過酸化水素水の混合水溶液を用いた化学研磨により除去した後、不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法により測定することができる。
【0036】
Ca:0.0010%未満
Ca(カルシウム)は、脱硫剤として製鋼段階で添加される。そして母材に残留したCaは、Sと結合しCa系硫化物を形成する。この硫化物は、粗大に析出するために結晶粒成長への悪影響が少なく、結晶粒を粗大化する効果がある。しかし、本開示では、高強度化のために結晶粒径を適度に微細化することが必要であり、多量のCa添加は不要でありコストも上昇する。したがって、Ca含有量は0.0010%未満とする。Ca含有量は0.0008%以下であるのが好ましく、0.0005%以下であるのがより好ましい。なお、Ca含有量の極度の低減は製造コストの増加を招くおそれがあるため、Ca含有量は0.0001%以上でもよい。
【0037】
Ti:0.0050%未満
Ti(チタン)は、不可避的に混入する元素であり、炭素または窒素と結合して析出物(炭化物または窒化物)を形成しうる。炭化物または窒化物が形成された場合には、これらの析出物そのものが磁気特性を劣化させる。したがって、Ti含有量は0.0050%未満とする。Ti含有量は0.0040%以下であるのが好ましく、0.0030%以下であるのがより好ましく、0.0020%以下であるのがさらに好ましい。なお、Ti含有量の極度の低減は製造コストの増加を招くおそれがあるため、Ti含有量は0.0005%以上でもよい。
【0038】
Nb:0.0050%未満
Nb(ニオブ)は、炭素または窒素と結合して析出物(炭化物)を形成することで高強度化に寄与する元素であるが、これらの析出物そのものが磁気特性を劣化させる。したがって、Nb含有量は0.0050%未満とする。Nb含有量は0.0040%以下であるのが好ましく、0.0030%以下であるのがより好ましく、0.0020%以下であるのがさらに好ましい。Nb含有量は低ければ低いほど好ましく、測定限界以下であるのが好ましい。
【0039】
Zr:0.0050%未満
Zr(ジルコニウム)は、炭素または窒素と結合して析出物(炭化物、窒化物)を形成することで高強度化に寄与する元素であるが、これらの析出物そのものが磁気特性を劣化させる。したがって、Zr含有量は0.0050%未満とする。Zr含有量は0.0040%以下であるのが好ましく、0.0030%以下であるのがより好ましく、0.0020%以下であるのがさらに好ましい。Zr含有量は低ければ低いほど好ましく、測定限界以下であるのが好ましい。
【0040】
V:0.0050%未満
V(バナジウム)は、炭素または窒素と結合して析出物(炭化物、窒化物)を形成することで高強度化に寄与する元素であるが、これらの析出物そのものが磁気特性を劣化させる。したがって、V含有量は0.0050%未満とする。V含有量は0.0040%以下であるのが好ましく、0.0030%以下であるのがより好ましく、0.0020%以下であるのがさらに好ましい。V含有量は低ければ低いほど好ましく、測定限界以下であるのが好ましい。
【0041】
Cu:0.20%未満
Cu(銅)は、不可避的に混入する元素である。意図的なCuの添加は、鋼板の製造コストを増加させる。したがって、本開示においては積極的に添加する必要はなく、不純物レベルでよい。Cu含有量は、製造工程において不可避的に混入しうる最大値である0.20%未満とする。Cu含有量は0.15%以下であるのが好ましく、0.10%以下であるのがより好ましい。なお、Cu含有量の下限値は、特に限定されるものではないが、Cu含有量の極度の低減は製造コストの増加を招くおそれがある。そのため、Cu含有量は0.001%以上であってもよく、0.003%以上であってもよく、0.005%以上であってもよい。
【0042】
Ni:0.50%未満
Ni(ニッケル)は、不可避的に混入する元素である。しかし、Niは、鋼板の強度を向上させる元素でもあるため、意図的に添加してもよい。ただし、Niは高価であるため、意図的に添加する場合は、その含有量を0.50%未満とする。Ni含有量は0.40%以下であるのが好ましく、0.30%以下であるのがより好ましい。なお、Niの含有量の下限値は、特に限定されるものではないが、Ni含有量の極度の低減は製造コストの増加を招くおそれがある。そのため、Ni含有量は0.001%以上であってもよく、0.003%以上であってもよく、0.005%以上であってもよい。
【0043】
Sn:0~0.05%
Sb:0~0.05%
Sn(スズ)およびSb(アンチモン)は、表面に偏析し焼鈍中の酸化および窒化を抑制することで、低い鉄損を確保するのに有用な元素である。また、結晶粒界に偏析して集合組織を改善し、磁束密度を高める効果もある。そのため、必要に応じてSnおよびSbの少なくとも一方を含有させてもよい。しかしながら、これらの元素の含有量が過剰であると、鋼の靱性が低下して冷間圧延が困難となる可能性がある。したがって、SnおよびSbの含有量は、それぞれ0.05%以下とする。SnおよびSbの含有量は、それぞれ0.03%以下であるのが好ましい。なお、上記の効果を得たい場合には、SnおよびSbの少なくとも一方の含有量を、0.005%以上とするのが好ましく、0.01%以上とするのがより好ましい。
【0044】
本開示の無方向性電磁鋼板の母材の化学組成において、残部はFeおよび不純物である。ここで「不純物」とは、鋼を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本開示の効果に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0045】
なお、不純物元素として、CrおよびMoの含有量に関しては、特に規定されるものではない。本開示に係る無方向性電磁鋼板では、これらの元素を0.5%以下で含有しても、本開示の効果に特に影響はない。また、Mgを0.002%以下の範囲で含有しても、本開示の効果に特に影響はなく、希土類元素(REM)を0.004%以下の範囲で含有しても、本開示の効果に特に影響はない。REMは、Sc、Yおよびランタノイドの合計17元素の総称であり、REMの含有量は、REMのうちの1種以上の元素の合計含有量を指す。
【0046】
また、上記の元素の他に、Pb、Bi、As、B、Se、などの元素が含まれうるが、それぞれの含有量が0.0050%以下の範囲であれば、本開示の効果を損なうものではない。
【0047】
3.結晶粒径
本開示において、母材の平均結晶粒径については、特に制限はない。ただし、高強度化の観点からは、鋼中の結晶は細粒であることが望ましい。また、ヒステリシス損を低減するためには結晶粒は粗大化させることが好ましく、渦電流損を低減するためには結晶粒は微細化させることが好ましい。
【0048】
母材の平均結晶粒径を10μm以上とすることで、ヒステリシス損の悪化を最小限に抑え、磁気特性を改善することが可能になる。一方、平均結晶粒径を80μm以下とすることで、鋼の強度の向上効果が得られる。したがって、母材の平均結晶粒径は、10~80μmとすることが好ましい。平均結晶粒径は12μm以上であるのが好ましく、14μm以上であるのがより好ましい。また、平均結晶粒径は70μm以下であるのが好ましく、60μm以下であるのがより好ましい。
【0049】
なお、本開示において、母材の平均結晶粒径は、JIS G 0551(2013)「鋼-結晶粒度の顕微鏡試験方法」に従って求める。圧延方向の任意の3箇所において、切断法によって母材の板厚全体における結晶粒径を測定し、平均値をその母材の平均結晶粒径とする。
【0050】
4.磁気特性
本開示に係る無方向性電磁鋼板において、磁気特性に優れるとは、鉄損W10/400が低く、磁束密度B50が高いことを意味する。ここで、上記の磁気特性は、JIS C 2550-1(2011)に規定されたエプスタイン法で測定する。なお、試験片が小さい場合など、エプスタイン法による測定が困難である場合は、JIS C 2556(2015)に規定された単板磁気特性測定法(Single Sheet Tester:SST)に則してエプスタイン法の測定値と同等になるように補正して測定してもよい。本開示では、鉄損W10/400が低いとは、板厚0.26mm以上では35.0W/kg以下、板厚0.21~0.25mmでは25.0W/kg以下、板厚0.20mm以下では20.0W/kg以下とする。磁束密度B50が高いとは、板厚にかかわらず、1.60T以上とする。
【0051】
5.機械的特性
本開示に係る無方向性電磁鋼板において、高い強度を有するとは、引張強さが好ましくは650MPa以上であることを意味する。引張強さは660MPa以上であるのがより好ましく、700MPa以上がさらに好ましい。ここで、引張強さは、JIS Z 2241(2011)に準拠した引張試験を行うことで、測定する。
【0052】
6.絶縁被膜
上述のように、本開示に係る無方向性電磁鋼板においては、母材の表面に絶縁被膜が形成されていることが好ましい。無方向性電磁鋼板は、コアブランクを打ち抜いたのち積層され使用されるため、母材の表面に絶縁被膜を設けることで、板間の渦電流を低減することができ、コアとして渦電流損を低減することが可能となる。
【0053】
絶縁被膜の種類については特に限定されず、無方向性電磁鋼板の絶縁被膜として用いられる公知の絶縁被膜を用いることが可能である。このような絶縁被膜として、例えば、無機物を主体とし、さらに有機物を含んだ複合絶縁被膜を挙げることができる。ここで、複合絶縁被膜とは、例えば、クロム酸金属塩、リン酸金属塩、または、コロイダルシリカ、Zr化合物、Ti化合物等の無機物の少なくともいずれかを主体とし、微細な有機樹脂の粒子が分散している絶縁被膜である。特に、近年ニーズの高まっている製造時の環境負荷低減の観点からは、リン酸金属塩、ZrもしくはTiのカップリング剤、または、これらの炭酸塩もしくはアンモニウム塩を出発物質として用いた絶縁被膜が好ましく用いられる。
【0054】
ここで、絶縁被膜の付着量は、特に限定するものではないが、例えば、片面あたり200~1500mg/m2程度とすることが好ましく、片面あたり300~1200mg/m2とすることがより好ましい。上記範囲の付着量となるように絶縁被膜を形成することで、優れた均一性を保持することが可能となる。なお、絶縁被膜の付着量を、事後的に測定する場合には、公知の各種測定法を利用することが可能であり、例えば、水酸化ナトリウム水溶液浸漬前後の質量差を測定する方法、または検量線法を用いた蛍光X線法等を適宜利用すればよい。
【0055】
7.製造方法
本開示に係る無方向性電磁鋼板の製造方法について説明する。本開示に係る無方向性電磁鋼板は、質量%で、C:0.0020~0.0060%、Si:4.0~5.0%、Mn:0.20%以下、Al:0.010%以上0.050%未満、P:0.030%以下、S:0.0030%以下、N:0.0005~0.0030%、O:0.0050%未満、Ca:0.0010%未満、Ti:0.0050%未満、Nb:0.0050%未満、Zr:0.0050%未満、V:0.0050%未満、Cu:0.20%未満、Ni:0.50%未満、Sn:0~0.05%、Sb:0~0.05%、残部:Feおよび不純物である化学組成を有する鋼塊に対して、熱間圧延工程と冷間圧延工程と仕上焼鈍工程とを順に施すことによって製造することが可能である。熱間圧延工程と冷間圧延工程との間に、熱延板焼鈍工程をさらに備えてもよい。また、絶縁被膜を母材の表面に形成する場合には、上記仕上焼鈍の後に絶縁被膜の形成が行われる。以下、各工程について、詳細に説明する。
【0056】
<鋼塊の化学組成>
鋼塊の化学組成については、CおよびOを除いて鋼板の化学組成と同一であるため、説明を省略する。以下、CおよびOの限定理由について説明する。
【0057】
C:0.0020~0.0060%
Cは、粒界に偏析することで冷間圧延時の脆化割れを抑制する効果を有する。この効果を得るためには、鋼塊中のC含有量が0.0020%以上であることが好ましい。しかしながら、上述のように、最終製品中に過剰なCが含まれていると良好な磁気特性が得られない。本開示では、仕上焼鈍工程において脱炭を行い、最終製品中のC含有量を低減させることとしているが、鋼塊中のC含有量が0.0060%を超えると、最終製品中のC含有量を0.0040%以下に制御するのが難しくなる。そのため、鋼塊中のC含有量は0.0020~0.0060%とすることが好ましく、0.0025~0.0050%とすることがより好ましく、0.0030~0.0045%とすることがさらに好ましい。
【0058】
O:0.0050%未満
Oは、不可避的に混入する元素であり、酸化物を形成して鉄損を増加させ、鋼板の磁気特性を劣化させる元素である。上述のように、最終製品において、母材の表面から深さ方向に10μmの位置までを除く領域におけるO含有量を0.0050%未満にするためには、鋼塊中のO含有量を0.0050%未満とすることが好ましい。
【0059】
<熱間圧延工程>
上記の化学組成を有する鋼塊(スラブ)を加熱し、加熱された鋼塊に対して熱間圧延を行い、熱延板を得る。ここで、熱間圧延に供する際の鋼塊の加熱温度については、特に規定するものではないが、例えば、1050~1250℃とすることが好ましい。また、熱間圧延後の熱延板の板厚についても、特に規定するものではないが、母材の最終板厚を考慮して、例えば、1.5~3.0mm程度とすることが好ましい。
【0060】
<熱延板焼鈍工程>
その後、鋼板の磁束密度を上昇させることを目的として、必要に応じて熱延板焼鈍を実施する。熱延板焼鈍における熱処理条件については、特に規定するものではないが、例えば、950℃以下の温度で加熱することが好ましい。また、加熱時間については1~300sとすることが好ましい。なお、熱延板焼鈍工程を実施した場合と比較して磁気特性は劣ることとなるが、コスト削減のために、上記の熱延板焼鈍工程を省略してもよい。
【0061】
<酸洗工程>
上記熱延板焼鈍の後には、酸洗が実施され、母材の表面に生成したスケール層が除去される。ここで、酸洗に用いられる酸の濃度、酸洗に用いる促進剤の濃度、酸洗液の温度等の酸洗条件は、特に限定されるものではなく、公知の酸洗条件とすることができる。
【0062】
<冷間圧延工程>
上記酸洗の後には、冷間圧延が実施される。冷間圧延では、母材の最終板厚が0.10~0.35mmとなるような圧下率で、スケール層の除去された酸洗板が圧延される。
【0063】
<仕上焼鈍工程>
上記冷間圧延の後には、仕上焼鈍が実施される。本開示に係る無方向性電磁鋼板の製造方法では、仕上焼鈍には、連続焼鈍炉を使用する。仕上焼鈍工程は、脱炭を行い、母材中のC含有量と結晶粒径を制御するために、重要な工程である。
【0064】
ここで、仕上焼鈍条件については、特に規定するものではないが、例えば、均熱温度を750~1050℃とし、均熱時間を1~300sとし、雰囲気をH2の割合が10~100体積%であるH2およびN2の混合雰囲気(すなわち、H2+N2=100体積%)とし、雰囲気の露点を0~50℃とすることが好ましい。
【0065】
均熱温度が750℃未満の場合には、結晶粒径が細かくなり、鉄損が劣化して好ましくなく、均熱温度が1050℃を超える場合には、強度不足となり、鉄損も劣化するため、好ましくない。均熱温度は、より好ましくは770~1000℃であり、さらに好ましくは780~980℃である。雰囲気中のH2の割合は、より好ましくは15~90体積%である。雰囲気の露点を0℃以上とすることで、十分に脱炭を行い、母材中のC含有量を低減することができる。また、雰囲気の露点を50℃以下とすることで、母材表面の過剰な酸化を抑制することができる。雰囲気の露点は、より好ましくは10~40℃であり、さらに好ましくは15~35℃である。
【0066】
<絶縁被膜形成工程>
上記仕上焼鈍の後には、必要に応じて、絶縁被膜の形成工程が実施される。ここで、絶縁被膜の形成工程については、特に限定されるものではなく、上記のような公知の絶縁被膜処理液を用いて、公知の方法により処理液の塗布および乾燥を行えばよい。
【0067】
なお、絶縁被膜が形成される母材の表面は、処理液を塗布する前に、アルカリなどによる脱脂処理、または塩酸、硫酸、リン酸などによる酸洗処理など、任意の前処理を施してもよいし、これら前処理を施さずに仕上焼鈍後のままの表面であってもよい。
【0068】
以下、実施例によって本開示をより具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0069】
表1に示す化学組成を有するスラブを1150℃に加熱した後、仕上温度850℃、仕上板厚2.0mmにて熱間圧延を施し、650℃で巻取って熱延鋼板とした。得られた熱延鋼板に対して、連続焼鈍炉による900℃×50sの熱延板焼鈍を施し、酸洗により表面のスケールを除去した。こうして得られた鋼板を、冷間圧延により板厚0.25mmの冷延鋼板とした。
【0070】
さらに、H2:20%、N2:80%の混合雰囲気にて、以下の表2に示すような化学組成となるように、仕上焼鈍条件(露点、均熱温度および均熱時間)を変えて焼鈍した。具体的には、C含有量を低くなるように制御する場合には露点を高くした。C含有量を変化させないように制御する場合は、露点を低くした。一方、平均結晶粒径が大きくなるように制御する場合には、仕上焼鈍温度をより高く、および/または、均熱時間をより長くした。また、平均結晶粒径が小さくなるように制御する場合は、その逆とした。その後、絶縁被膜を塗布して、無方向性電磁鋼板を製造し試験材とした。
【0071】
また、上記の絶縁被膜は、リン酸アルミニウムおよび粒径0.2μmのアクリル-スチレン共重合体樹脂エマルジョンからなる絶縁被膜を所定付着量となるよう塗布し、大気中、350℃で焼付けることで形成した。
【0072】
【0073】
得られた各試験材について、JIS G 0551(2013)「鋼-結晶粒度の顕微鏡試験方法」に従って、前述した切断法により母材の平均結晶粒径を計測した。
母材の表面から深さ方向に10μmの位置までを除く領域におけるO含有量は、前述した方法によって測定した。
また、各試験材の圧延方向および幅方向からエプスタイン試験片を採取し、JIS C 2550-1(2011)に則したエプスタイン試験により、磁気特性(鉄損W10/400および磁束密度B50)を評価した。さらに、各試験材から、JIS Z 2241(2011)に従い、長手方向が鋼板の圧延方向と一致するようにJIS5号引張試験片を採取した。そして、上記試験片を用いてJIS Z 2241(2011)に従い引張試験を行い、引張強さを測定した。上記の結果を表2に示す。
なお、表1及び表2において、化学成分の下線は本開示の範囲外であること、化学成分以外の下線は好ましい範囲外であることを意味する。
【0074】
【0075】
本開示の規定を満足する試験No.2~7、13、14、16、19~22では、鉄損が25.0W/kg以下、磁束密度が1.60T以上であり、かつ引張強さが650MPa以上となった。その中でも特に、平均結晶粒径が10~80μmである試験No.2、4、5、7、13、14、16、19および20では、強度および磁気特性のバランスに優れる結果となった。
【0076】
それらに対して、比較例である試験No.1、8~12、15、17、18、23および24では、磁気特性および強度の少なくともいずれかが劣るか、靱性が著しく劣化し製造が困難となった。
【0077】
具体的には、試験No.1では、Si含有量が規定範囲より低いため、引張強さが劣る結果となった。また、試験No.8では、Si含有量が規定範囲を超え、試験No.9では、C含有量が規定範囲より低いため、靱性が劣化して冷間圧延時に破断し、平均結晶粒径、引張強さおよび磁気特性の測定を実施できなかった。試験No.10では、鋼塊のC含有量が規定範囲より高く、鋼板の母材のC含有量が規定範囲より高いため、鉄損が劣る結果となった。
【0078】
試験No.11では、Mn含有量が規定範囲を超えたため、磁束密度が劣る結果となった。そして、試験No.12ではAl含有量が規定範囲より低いため、試験番号15ではAl含有量が規定範囲より高いため、安定した平均結晶粒径の制御ができず平均結晶粒径が規定範囲より大きいため、引張強さが劣る結果となった。化学組成が規定を満足する試験No.17では、露点が規定範囲より高いために鋼板の母材のO含有量が規定範囲より高く、磁束密度が劣る結果となった。試験No.18では、露点が規定範囲より低いために鋼板の母材のC含有量が規定範囲より高く、鉄損が劣る結果となった。
試験No,23では、N含有量が規定範囲を超えたため、鉄損が劣る結果となった。試験No.24では、鋼板(母材)の表層10μmを除く領域のO含有量が規定範囲を超えたため、鉄損が劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
以上のように、本開示によれば、高い強度および優れた磁気特性を有する無方向性電磁鋼板を低コストで得ることができる。
【0080】
2020年4月16日に出願された日本特許出願2020-073210の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。