(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-08
(45)【発行日】2023-08-17
(54)【発明の名称】接合構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/24 20060101AFI20230809BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20230809BHJP
E04B 5/32 20060101ALI20230809BHJP
【FI】
E04B1/24 Q
E04B1/58 506F
E04B5/32 C
(21)【出願番号】P 2023536570
(86)(22)【出願日】2023-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2023012218
【審査請求日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2022051264
(32)【優先日】2022-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】有田 政樹
(72)【発明者】
【氏名】廣嶋 哲
(72)【発明者】
【氏名】西田 裕一
(72)【発明者】
【氏名】清水 信孝
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠介
(72)【発明者】
【氏名】青柳 智
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-025804(JP,A)
【文献】特開2019-190137(JP,A)
【文献】特開2009-052302(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/24
E04B 1/58
E04B 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
H形断面を有する大梁と、H形断面を有し前記大梁に交差する方向に延びる小梁の材軸方向の端部とを連結する接合構造であって、
少なくとも前記大梁のウェブおよび上フランジに接合され、前記小梁のウェブにボルト接合されるガセットプレートと、
前記ガセットプレートの板状の本体部に交差し、かつ前記大梁のウェブにも交差するように配置され、少なくとも前記ガセットプレートに接合される補強リブと
を備える接合構造。
【請求項2】
前記大梁および前記小梁の上方に構築されるコンクリート床スラブをさらに備え、
前記小梁の上フランジは前記コンクリート床スラブに接合される、請求項1に記載の接合構造。
【請求項3】
前記ガセットプレートを前記小梁のウェブにボルト接合するボルトのうち、前記小梁のウェブの高さ中心線よりも下側に配置されるボルトの数は、前記高さ中心線よりも上側に配置されるボルトの数よりも多い、請求項2に記載の接合構造。
【請求項4】
前記ガセットプレートには、前記高さ中心線よりも下側で前記小梁の中央側に向かって張り出した張り出し部が形成され、
前記張り出し部は追加のボルトで前記小梁のウェブにボルト接合される、請求項3に記載の接合構造。
【請求項5】
前記小梁のウェブの高さ中心線よりも下側で前記ガセットプレートの側端面に接して配置される少なくとも1枚の補強プレートをさらに備え、
前記補強プレートは、前記小梁のウェブにボルト接合される、請求項2または3に記載の接合構造。
【請求項6】
前記補強プレートは、前記小梁のウェブに高力ボルト摩擦接合される、請求項5に記載の接合構造。
【請求項7】
前記ガセットプレートは、前記小梁のウェブに高力ボルト摩擦接合される、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、大梁(支持部材)に小梁(梁)の端部を接合した小梁端接合構造における大梁と小梁との間の接合部は、一般的に剛接合またはピン接合として設計される(剛接合およびピン接合については、例えば欧州設計基準(Eurocode3-Part 1-8)に定義されている)。例えば、いずれもH形鋼で構成される大梁と小梁との間の剛接合の接合部では、小梁のフランジが大梁に溶接またはボルト接合されるとともに、小梁のウェブが大梁に溶接されたガセットプレート(フィンプレートともいう)にボルト接合される。一方、ピン接合の接合部では、小梁のウェブが大梁に溶接したガセットプレートにボルト接合されるが、小梁のフランジは大梁に接合されない。この場合、コンクリート床スラブの重量や積載荷重、仕上げ材の重量など、床スラブを介して小梁に作用する鉛直荷重によって、小梁のウェブのボルト接合部にはすべりが生じ、接合部は曲げモーメントを伝達しないピン接合部の挙動を示す。
【0003】
このような大梁と小梁との間の接合部に関する技術として、例えば、特許文献1には、大梁と小梁とをガセットプレートおよび高力ボルトによってピン接合するとともに、大梁に溶接されたスプライスプレートを小梁の下面に高力ボルト接合し、大梁および小梁の上面に連続する床スラブを配置する技術が記載されている。これによって、梁の耐荷重を維持しながら施工性を向上することができる。また、特許文献2には、逆L字形の側面形状を有する垂直ガセット(スティフナー)を大梁の上下フランジ間とウェブに溶接し、垂直ガセットを挟んで小梁下フランジ位置にC字形の水平スティフナーを垂直ガセットおよび大梁ウェブに溶接し、水平スティフナー端部と小梁端部下フランジとを溶接し、さらに大梁上フランジと小梁端部上フランジとを溶接する技術が記載されている。これによって、連続小梁接合の施工を効率化し、小梁サイズを低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-53102号公報
【文献】特開2015-68005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献1および特許文献2に記載された技術は、大梁と小梁との間を半剛接合(セミリジッド接合)または剛接合(リジッド接合)の接合部とすることによって、ピン接合の接合部とする場合に比べて小梁の変形を低減することで小梁の断面を小さくして軽量化することを可能にする。しかしながら、これらの技術では、大梁に予め溶接されたガセットプレートまたはスティフナーに小梁の下フランジを接合するため、大梁と小梁との設置高さを合わせる必要があり、高さ方向の建方誤差が許容されにくいという点で使いやすいものではなかった。また、大梁に小梁のフランジを直接溶接してもよいが、この場合は現場での溶接工程が追加的に発生し、また大梁と小梁との間隔を所定の範囲に収める必要があるため、水平方向の建方誤差が許容されにくい。その一方で、ピン接合の接合部では、ガセットプレートと小梁ウェブとの偏心による付加曲げのためにガセットプレートの面外変形が生じて早期に剛性および耐力が低下するため、接合部の固定度を設計上考慮することができなかった。
【0006】
そこで、本発明は、施工工程を簡略化しつつ、ガセットプレートの面外変形を抑制して接合部を効果的に補強することが可能な接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]H形断面を有する大梁と、H形断面を有し上記大梁に交差する方向に延びる小梁の材軸方向の端部とを連結する接合構造であって、少なくとも上記大梁のウェブおよび上フランジに接合され、上記小梁のウェブにボルト接合されるガセットプレートと、上記ガセットプレートの板状の本体部に交差し、かつ上記大梁のウェブにも交差するように配置され、少なくとも上記ガセットプレートに接合される補強リブとを備える接合構造。
[2]上記大梁および上記小梁の上方に構築されるコンクリート床スラブをさらに備え、上記小梁の上フランジは上記コンクリート床スラブに接合される、[1]に記載の接合構造。
[3]上記ガセットプレートを上記小梁のウェブにボルト接合するボルトのうち、上記小梁のウェブの高さ中心線よりも下側に配置されるボルトの数は、上記高さ中心線よりも上側に配置されるボルトの数よりも多い、[2]に記載の接合構造。
[4]上記ガセットプレートには、上記高さ中心線よりも下側で上記小梁の中央側に向かって張り出した張り出し部が形成され、上記張り出し部は追加のボルトで上記小梁のウェブにボルト接合される、[3]に記載の接合構造。
[5]上記高さ中心線よりも下側で上記ガセットプレートの側端面に接して配置される少なくとも1枚の補強プレートをさらに備え、上記補強プレートは、上記小梁のウェブにボルト接合される、[2]または[3]に記載の接合構造。
[6]上記補強プレートは、上記小梁のウェブに高力ボルト摩擦接合される、[5]に記載の接合構造。
[7]上記ガセットプレートは、上記小梁のウェブに高力ボルト摩擦接合される、[1]から[6]のいずれか1項に記載の接合構造。
【0008】
上記の構成によれば、小梁の下フランジを大梁やガセットプレートに直接的に接合しなくてよいため、高さ方向および水平方向の建方誤差が許容でき、追加の溶接工程も発生しないため、施工工程が簡略化される。その一方で、小梁のウェブにボルト接合されるガセットプレートに補強リブが接合されるため、ガセットプレートの面外変形を抑制して接合部を効果的に補強することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る接合構造を示す斜視図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態の変形例を示す図である。
【
図4】本発明の第2の実施形態に係る接合構造を示す図である。
【
図5】本発明の第3の実施形態に係る接合構造を示す図である。
【
図6】本発明の第3の実施形態に係る接合構造を示す図である。
【
図12A】実施例および比較例の解析結果を示すグラフである。
【
図12B】実施例および比較例の解析結果を示すグラフである。
【
図13A】実施例および比較例の解析結果を示すグラフである。
【
図13B】実施例および比較例の解析結果を示すグラフである。
【
図14A】実施例および比較例の解析結果を示すグラフである。
【
図14B】実施例および比較例の解析結果を示すグラフである。
【
図15A】実施例および比較例の解析結果を示すグラフである。
【
図15B】実施例および比較例の解析結果を示すグラフである。
【
図16A】実施例における相当塑性ひずみのコンターを示す図である。
【
図16B】実施例における相当塑性ひずみのコンターを示す図である。
【
図16C】実施例における相当塑性ひずみのコンターを示す図である。
【
図17A】比較例における相当塑性ひずみのコンターを示す図である。
【
図17B】比較例における相当塑性ひずみのコンターを示す図である。
【
図17C】比較例における相当塑性ひずみのコンターを示す図である。
【
図18】実施例および比較例の解析結果を示すグラフである。
【
図19】実施例および比較例の解析結果を示すグラフである。
【
図20】実施例および比較例の解析結果を示すグラフである。
【
図21】実施例および比較例の解析結果を示すグラフである。
【
図22】実施例および比較例の解析結果を示すグラフである。
【
図23】実施例および比較例の解析結果を示すグラフである。
【
図24】実施例および比較例における積載荷重とたわみ低減効果との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省略する。
【0011】
図1は本発明の第1の実施形態に係る接合構造を示す斜視図であり、
図2は
図1のII-II線矢視図である。図示されるように、本実施形態に係る接合構造は、大梁1に接合されたガセットプレート2と、大梁1に交差する方向に延びる小梁3との間に形成される。具体的には、大梁1および小梁3はそれぞれH形鋼で構成され、大梁1はウェブ11、上フランジ12および下フランジ13を有し、小梁3はウェブ31、上フランジ32および下フランジ33を有する。ガセットプレート2は大梁1のウェブ11および上フランジ12に溶接され、ガセットプレート2と小梁3のウェブ31との間がボルト41を用いてボルト接合される。なお、大梁1および小梁3は、H形断面を有するものであればH形鋼には限られず、例えばH形断面を有する溶接部材で構成されてもよい。
【0012】
さらに、
図2に示すように、大梁1および小梁3の上方にはコンクリート床スラブ5が構築される。図示された例においてコンクリート床スラブ5はデッキ合成スラブであり、コンクリート51と、鉄筋52と、デッキプレート53とを含む。大梁1および小梁3の上フランジ12,32にはデッキプレート53を貫通してスタッド6が立設されており、スタッド6はコンクリート51に定着させられる。つまり、図示された例において小梁3はコンクリート床スラブ5に接合されており、これによって小梁3の上フランジに作用する引張力がコンクリート床スラブ5に伝達される。なお、小梁3の下フランジ33は、大梁1およびガセットプレート2に直接的には接合されていない。
【0013】
本実施形態において、ガセットプレート2に補強リブ21が接合される。補強リブ21は板状の部分であり、小梁3のウェブ31に沿って配置されたガセットプレート2の板状の本体部に交差し、かつ大梁1のウェブ11にも交差するように配置される。このような補強リブ21は、例えばガセットプレート2とは別の板状部材がガセットプレート2に隅肉溶接されることによって形成されてもよいし、ガセットプレート2が予めL字形断面に成形されていてもよい。また、補強リブ21は、大梁1のウェブ11にも隅肉溶接などによって接合されてもよい。補強リブ21が配置されることによって、例えば小梁3のウェブ31とガセットプレート2の板厚中心が偏心していることで生じる付加曲げによるガセットプレート2の面外変形が抑制される。ガセットプレート2は小梁3のウェブ31の片面にのみ接合される(一面摩擦の)ため、補強リブ21もウェブ31に対して片側にのみ形成される。これによって、本実施形態では、小梁3の曲げによって発生する圧縮力が、ウェブ31からガセットプレート2を介して大梁1に確実に伝達される。このような圧縮力の伝達のために、ガセットプレート2は小梁3のウェブ31の高さ中心線Cよりも下側まで配置され、補強リブ21はウェブ31の高さ中心よりも下側の領域に配置される。なお、補強リブ21は例えば小梁3の下フランジ33との間で端面同士を突き合わせるために配置されるリブとは異なり、小梁3の下フランジ33とは異なる高さ、より具体的には小梁3の下フランジ33よりも上に位置する。また、補強リブ21は上記のようにガセットプレート2の面外変形を抑制するために形成されるため、小梁3の材軸方向で見た場合に補強リブ21はガセットプレート2のほぼ全長にわたって形成されており、小梁3の下フランジ33と重複している。
【0014】
なお、
図1および
図2に示された例では補強リブ21がガセットプレート2の下端に配置されているが、
図3に示す変形例のようにガセットプレート2Aが大梁1のウェブ11および上フランジ12に加えて下フランジ13にも溶接され、補強リブ21Aはガセットプレート2Aの中間部に取り付けられてもよい。補強リブ21Aの大梁1のウェブ11に接する部分には、ガセットプレート2とウェブ11との間の溶接部との干渉を避けるために切り欠き211Aが形成されてもよい。この場合も、補強リブ21Aはウェブ31の高さ中心よりも下側の領域に配置される。なお、
図3に示された例は後述する他の実施形態でも適用可能である。
【0015】
上記のような本発明の第1の実施形態によれば、補強リブ21が配置されることによってガセットプレート2の面外変形が抑制されるため、小梁3の下フランジ33が小梁3の材軸直交方向に水平移動する変形、および小梁3が材軸回りに回転変形するねじれ挙動が抑制される。これによって、小梁3の下フランジ33から圧縮力が安定的にガセットプレート2を介して大梁1に伝達されるため、接合構造が非線形挙動を示すようになるまでの耐力を大幅に向上させることができ、設計上、接合部の固定度を考慮した、たわみ低減効果を得ることができる。ボルト41を高力ボルトとし、ガセットプレート2と小梁3のウェブ31との間に高力ボルト摩擦接合を形成することで、接合構造の挙動をさらに安定させることができる。また、コンクリート床スラブ5は必須ではないが、小梁3がスタッド6を介してコンクリート床スラブ5に接合されることによって上フランジ32の水平移動が拘束され、小梁3が材軸回りに回転変形するねじれ挙動がより効果的に抑制される。また、本発明の第1の実施形態は、ガセットプレート2とウェブ31の接合が一面摩擦であっても十分な剛性と耐力が得られるため、二面摩擦の接合部と比較して接合部のスプライスプレート及びボルトの数を少なくでき、施工性や経済性もよい。
【0016】
図4は、本発明の第2の実施形態に係る接合構造を示す図である。本実施形態では、大梁1のウェブ11および上フランジ12に溶接され、小梁3のウェブ31にボルト接合されるガセットプレート2Bが、ウェブ31の高さ中心線Cよりも下側で小梁3の中央側に向かって張り出した張り出し部22Bを有する。張り出し部22Bは、追加のボルト42で小梁3のウェブ31にボルト接合される。補強リブ21Bは、張り出し部22Bを含むガセットプレート2Bの下辺の全長に接合されるが、補強リブ21Bの長さが張り出し部22Bを含むガセットプレート2Bの突出長さより短くてもよい。なお、上記以外について本実施形態の構成は上記の第1の実施形態と同様であるため、重複した詳細な説明は省略する。
【0017】
上記の構成によって、ウェブ31の高さ中心線Cよりも下側に配置されるボルトの数は、高さ中心線Cよりも上側に配置されるボルトの数よりも多くなる。張り出し部22Bはウェブ31の高さ中心線Cよりも上側まで形成されてもよいが、この場合も追加のボルト42を含めたボルトの数は高さ中心線Cよりも下側の方が多くなる。また、張り出し部22Bを形成せずに、高さ中心線Cの両側でボルトの間隔を変更することによって、ボルトの数を高さ中心線Cよりも下側でより多くしてもよい。
【0018】
本実施形態では、小梁3のウェブ31の高さ中心線Cよりも下側により多くのボルトを配置することによって、接合構造の上側にコンクリート床スラブ5を配置した場合に、主としてコンクリート床スラブ5の鉄筋52が負担する引張力に対して偶力になる圧縮力をガセットプレート2Bと小梁3のウェブ31との間の接合部の下側でより多く負担させることができ、合理的な設計が可能になる。追加のボルト42についてもボルト41と同様に高力ボルトとしてもよく、その場合は高力ボルト摩擦接合によって接合構造の挙動をさらに安定させることができる。
【0019】
図5および
図6は、本発明の第3の実施形態に係る接合構造を示す図である。本実施形態では、ウェブ31の高さ中心線Cよりも下側でガセットプレート2の側端面に接して補強プレート7が配置される。補強プレート7は、ボルト71で小梁3のウェブ31にボルト接合される。
図5の例のように1枚の補強プレート7が配置されてもよいし、
図6の例のように複数の補強プレート7A,7Bが、それぞれの側端面が接するように配置されていてもよい。ここで、ガセットプレート2および補強プレート7,7A,7Bの側端面は、小梁3の材軸方向に面した端面である。補強プレート7,7A,7Bには、ガセットプレート2とは異なり補強リブは形成されない。なお、上記以外について本実施形態の構成は上記の第1の実施形態と同様であるため、重複した詳細な説明は省略する。
【0020】
上記の構成によって、本実施形態でも第2の実施形態と同様に、ウェブ31の高さ中心線Cよりも下側に配置されるボルトの数が高さ中心線Cよりも上側に配置されるボルトの数よりも多くなり、コンクリート床スラブ5の鉄筋52が負担する引張力に対して偶力になる圧縮力を接合部の下側でより多く負担させることができる。ボルト71についてもボルト41と同様に高力ボルトとしてもよく、その場合は高力ボルト摩擦接合によって接合構造の挙動をさらに安定させることができる。
【0021】
さらに、ボルト71で補強プレート7,7A,7Bをウェブ31に高力ボルト摩擦接合する場合は、補強プレート7,7A,7Bをコンクリート床スラブ5の構築後に取り付けることによって、補強プレート7,7A,7Bをコンクリート床スラブ5の自重によって生じる曲げモーメントに関与させず、補強プレート7,7A,7Bとウェブ31との間の摩擦接合を維持するためのボルト71の数を少なくすることができる。この場合、ウェブ31の高さ中心線Cよりも下側に配置されるボルトの数は、必ずしも高さ中心線Cよりも上側に配置されるボルトの数よりも多くなくてもよい。
【実施例】
【0022】
以下では、上述したような本発明の実施形態の効果を検証するためのFEM解析の結果について説明する。表1に、実施例および比較例の条件を示す。大梁は梁せい800mm、フランジ幅300mm、ウェブ板厚12mm、フランジ板厚25mm、小梁は梁せい700mm、フランジ幅200mm、ウェブ板厚9mm、フランジ板厚16mmである。ガセットプレートおよび補強リブはいずれも板厚12mmであり、補強リブの小梁ウェブからの張り出し長さは小梁フランジとほぼ同じで95.5mmとし、補強リブはガセットプレートの下辺の全長と大梁ウェブとに接合されるものとした。ガセットプレートと小梁ウェブとの間はF10T M20の高力ボルトを用いた高力ボルト摩擦接合とし、ガセットプレートと小梁ウェブとの間の摩擦係数は、実験で得られた値を基に0.6とした。表1の「ボルト本数」で、6×1は6本のボルトが1列で配列されることを意味し、6×1+2×1(または2×2)はガセットプレートの張り出し部や補強プレートが配置される場合に通常のボルト列に加えて小梁ウェブの下側に2本のボルトが1列(または2列)配置されることを意味する。その他の部分の寸法については、
図7から
図11に示す。
図7は実施例1および実施例2の寸法を示し、
図8は実施例3の寸法を示し、
図9は実施例4の寸法を示し、
図10は実施例5の寸法を示し、
図11は比較例1~3の寸法を示す(比較例1,2は、比較例3から補強プレートを除いたもの)。
【0023】
【0024】
図12から
図15は、実施例1,2および比較例1,2の解析結果を示すグラフである。また、
図16および
図17は、実施例2および比較例2における相当塑性ひずみのコンターを示す図である。
図12Aは小梁上フランジの水平移動が拘束されない例(実施例1および比較例1)を示し、
図12Bは接合構造にコンクリート床スラブが追加された前提で小梁上フランジの水平移動を拘束した例(実施例2および比較例2)を示す。
図13A,
図13B、
図14A,
図14B、および
図15A,
図15Bについても同様である。
図12は小梁のモーメントM
jと回転角φ
jとの関係(M
j-φ
j関係)を示し、
図13はガセットプレートの相当塑性ひずみと回転角φ
jとの関係を示し、
図14は小梁ウェブの相当塑性ひずみと回転角φ
jとの関係を示し、
図15は小梁下フランジの小梁材軸直交方向への水平移動量と回転角φ
jとの関係を示す。
図16は比較例2における斜視方向(
図16A)、小梁断面方向(
図16B)、および小梁側面方向(
図16C)で見た場合の相当塑性ひずみのコンターを示し、
図17(
図17Aから
図17C)は実施例2における同様の相当塑性ひずみのコンターを示す。
【0025】
図12から
図15のグラフに示されるように、M
j-φ
j関係における弾塑性の遷移域(M
j,y;実施例1および比較例1ではφ
j≦0.004rad付近、実施例2および比較例2ではφ
j≦0.002rad付近)までの範囲で、実施例1,2では、比較例1,2に比べてガセットプレートや小梁ウェブの相当塑性ひずみの増加が抑制され、部材が概ね弾性範囲に留まる、すなわち可逆的な変形状態になることが確認された(
図13および
図14)。さらに、接合構造にコンクリート床スラブが追加された前提で小梁上フランジの水平移動を拘束した場合、比較例1,2では小梁下フランジの水平変位が大きくなって小梁下フランジから大梁への圧縮力伝達が不安定になる結果荷重が低下したのに対して、実施例1,2では小梁下フランジの水平変位が抑制され、接合構造において小梁の回転角が増大しても荷重を保持する性能が喪失されにくいことが確認された(
図12および
図15)。補強リブが小梁ウェブの変形を抑制して下フランジの水平変位を抑制する効果は、
図16および
図17に示される相当塑性ひずみのコンターからも明らかである。上記の結果から、ガセットプレートに補強リブが取り付けられた接合構造は、従来のピン接合構造と比較して、弾性限界耐力や耐変形性能の向上という点で有利であることが確認された。
【0026】
表2に、実施例および比較例における接合部の剛性、耐力および変形性能を示す。Mj-φj関係において、初期剛性Sj,iniは最大耐力の1/3耐力時の割線剛性、降伏耐力Mj,yは接線剛性が初期剛性の1/3の時の耐力、Mj,plは接線が初期剛性と降伏耐力との交点に交わる時のMjで定義した。φcdは最大耐力点Mj,max(耐力劣化が生じないケースは解析終了時)での小梁回転角、Maxεplはガセットプレートおよびウェブの最大相当塑性ひずみである。
【0027】
【0028】
図18から
図23は、実施例2~5および比較例2,3の解析結果を示すグラフである。
図18は小梁のモーメントM
jと回転角φ
jとの関係(M
j-φ
j関係)を比較例2と同条件での実験結果とともに示し、
図19はガセットプレート(Fin-plate)の相当塑性ひずみε
plと回転角φ
jとの関係を示し、
図20は小梁ウェブの相当塑性ひずみε
plと回転角φ
jとの関係を示し、
図21は小梁下フランジの水平移動量と回転角φ
jとの関係を示す。また、
図22は各例における初期剛性S
j,iniと降伏耐力M
j,y(S
j=S
j,ini/3の時)との関係を示し、
図23は各例における相当塑性ひずみ0.5%での耐力M
jと最大耐力時変形性能φ
cdとの関係を示す。
【0029】
図18から
図23のグラフに示されるように、実施例2~5では、比較例2,3に比べてガセットプレートや小梁ウェブの相当塑性ひずみの増加が抑制され、部材が概ね弾性範囲に留まる、すなわち可逆的な変形状態になる限界の耐力が向上することが確認された(
図18、
図22および
図23)。なお、マクロな接合部の弾性限界の耐力は、相当塑性ひずみ(永久ひずみ)が0.5%に達する点として定義した。比較例2,3の場合、ガセットプレートや小梁ウェブの面外変形が生じやすいため、接合部の回転の増加に伴って小梁の下フランジやウェブが小梁長手方向と直交する方向に移動し(
図16)、小梁下フランジから大梁への圧縮力の伝達効率が低下する。実施例2~5ではガセットプレートに取り付けられた補強リブがガセットプレートの面外変位を抑制するため(
図17)、比較例2,3に比べて小梁の下フランジやウェブが小梁長手方向と直交する方向に移動する変形が生じにくく、ガセットプレートや小梁ウェブの塑性ひずみの増加が抑制されることによって(
図19、
図20および
図21)、弾性限界耐力が向上している(
図22)。
図19や
図20では、小梁の回転角φ
jが0.002rad~0.004radの範囲で、実施例のガセットプレートや小梁ウェブの相当塑性ひずみが比較例に比べて顕著に抑制されており、これは小梁の回転における弾性域が拡大されていることを表している。
【0030】
図24は、各例における積載荷重とたわみ低減効果との関係を示すグラフである。
図24の横軸は、実施例2~5および比較例2,3におけるたわみ低減量(δ
pin-δ)を従来のピン接合構造(比較例1;δ
pin)のたわみ量で除した値であり、値が大きいほどたわみの低減効果が大きいことを表す。一方、
図24の縦軸は、接合部の相当塑性ひずみが0.5%の時の接合部モーメントを弾性限界耐力とした場合に、積載荷重によって接合部に生じるモーメントが弾性限界耐力と等しくなる時の、単位床面積当たりの積載荷重である。なお、これらの計算において、梁のスパンは15m、梁が支える床の幅は3m、コンクリート床スラブは180mm厚の普通コンクリートを用いたRCスラブとした。
図24のグラフから、実施例2~5および比較例2,3ではいずれも従来のピン接合構造に比べてたわみが半分程度に低減されるが、耐荷重は、実施例2~5において比較例2,3の2倍以上になっていることがわかる。
【0031】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内において、各種の変形例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0032】
1…大梁、11…ウェブ、12…上フランジ、13…下フランジ、2,2A,2B…ガセットプレート、21,21A,21B…補強リブ、211A…切り欠き、22B…張り出し部、3…小梁、31…ウェブ、32…上フランジ、33…下フランジ、41,42…ボルト、5…コンクリート床スラブ、51…コンクリート、52…鉄筋、53…デッキプレート、6…スタッド、7,7A,7B…補強プレート、71…ボルト。
【要約】
施工工程を簡略化しつつ、ガセットプレートの面外変形を抑制して接合部を効果的に補強する。H形断面を有する大梁と、H形断面を有し上記大梁に交差する方向に延びる小梁の材軸方向の端部とを連結する接合構造であって、少なくとも上記大梁のウェブおよび上フランジに接合され、上記小梁のウェブにボルト接合されるガセットプレートと、上記ガセットプレートの板状の本体部に交差し、かつ上記大梁のウェブにも交差するように配置され、少なくとも上記ガセットプレートに接合される補強リブとを備える接合構造が提供される。