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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-08
(45)【発行日】2023-08-17
(54)【発明の名称】ガス測定器及びガス測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/12 20060101AFI20230809BHJP
【FI】
G01N27/12 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020038056
(22)【出願日】2020-03-05
(65)【公開番号】P2021139765
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-03-15
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和1年度 国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム 産業競争力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000191009
【氏名又は名称】新東工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100161425
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 誉久
(72)【発明者】
【氏名】野田 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】澤田 和明
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-033467(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2001/0045119(US,A1)
【文献】特開2014-173947(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0269025(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-27/49
G01N 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれの大きさを変更可能な複数の開口を有するフィルタと、
前記複数の開口の大きさを変更させる調整機構と、
前記フィルタの開口を通過したガス分子を検出し、検出された前記ガス分子に応じた第1測定値を出力する第1ガスセンサと、
前記フィルタの開口を通過した前記ガス分子を検出し、検出された前記ガス分子に応じた第2測定値を出力し、前記第1ガスセンサで検出したガス分子とは異なるガス種のガス分子を検出可能な第2ガスセンサと、
を備え、
前記フィルタは、第1部材と、前記第1部材と重ね合わせて配置される第2部材と、を有し、
前記第1部材は、第1部材孔を含み、
前記第2部材は、第2部材孔を含み、
前記複数の開口は、前記第1部材の前記第1部材孔及び前記第2部材の前記第2部材孔が重なることで構成され、
前記第1部材と前記第2部材とは相対的に移動可能であり、
前記調整機構は、前記第1部材及び前記第2部材の少なくとも一方を移動させて、前記複数の開口の大きさを変更する、
ガス測定器。
【請求項2】
それぞれの大きさを変更可能な複数の開口を有するフィルタと、
前記複数の開口の大きさを変更させる調整機構と、
前記フィルタの開口を通過したガス分子を検出し、検出された前記ガス分子に応じた第1測定値を出力する第1ガスセンサと、
前記フィルタの開口を通過した前記ガス分子を検出し、検出された前記ガス分子に応じた第2測定値を出力し、前記第1ガスセンサで検出したガス分子とは異なるガス種のガス分子を検出可能な第2ガスセンサと、
を備え、
前記フィルタは、温度に依存して膨張又は収縮する多孔質材料で形成され、
前記調整機構は、前記フィルタの温度を変更して、前記複数の開口の大きさを変更する、
ガス測定器。
【請求項3】
同期信号を出力する信号発生部と、
前記複数の開口の大きさを決定する制御信号と前記同期信号とに基づいて、前記調整機構を制御する制御部と、
前記第1測定値及び前記第2測定値を、前記同期信号に基づいて取得する取得部と、
前記第1測定値及び前記第2測定値と前記制御信号とを関連付けて出力する出力部と、
を備える、請求項1又は2に記載のガス測定器。
【請求項4】
ガス種と、前記第1測定値、前記第2測定値及び前記制御信号との予め取得された関係と、前記出力部により出力された前記第1測定値、前記第2測定値及び前記制御信号とに基づいて、前記ガス種を判定する判定部を備える、請求項に記載のガス測定器。
【請求項5】
複数の開口の大きさを決定する制御信号と同期信号とに基づいてフィルタが有する複数の開口の大きさを変更する工程と、
前記開口を通過したガス分子を、第1ガスセンサと前記第1ガスセンサとは異なる前記ガス分子を検出可能な第2ガスセンサとが検出する工程と、
前記同期信号に同期して前記第1ガスセンサが出力した第1測定値と前記第2ガスセンサが出力した第2測定値とを取得する工程と、
ガス種と、前記第1測定値、前記第2測定値及び前記制御信号との予め取得された関係と、取得された前記第1測定値、前記第2測定値及び前記制御信号とに基づいて、ガス種を判定する工程と、
を備え、
前記フィルタは、第1部材と、前記第1部材と重ね合わせて配置される第2部材と、を有し、
前記第1部材は、第1部材孔を含み、
前記第2部材は、第2部材孔を含み、
前記複数の開口は、前記第1部材の前記第1部材孔及び前記第2部材の前記第2部材孔が重なることで構成され、
前記第1部材と前記第2部材とは相対的に移動可能であり、
前記第1部材及び前記第2部材の少なくとも一方を移動させて、前記複数の開口の大きさを変更する、
ガス測定方法。
【請求項6】
複数の開口の大きさを決定する制御信号と同期信号とに基づいてフィルタが有する複数の開口の大きさを変更する工程と、
前記開口を通過したガス分子を、第1ガスセンサと前記第1ガスセンサとは異なる前記ガス分子を検出可能な第2ガスセンサとが検出する工程と、
前記同期信号に同期して前記第1ガスセンサが出力した第1測定値と前記第2ガスセンサが出力した第2測定値とを取得する工程と、
ガス種と、前記第1測定値、前記第2測定値及び前記制御信号との予め取得された関係と、取得された前記第1測定値、前記第2測定値及び前記制御信号とに基づいて、ガス種を判定する工程と、
を備え、
前記フィルタは、温度に依存して膨張又は収縮する多孔質材料で形成され、
前記フィルタの温度を変更して、前記複数の開口の大きさを変更する、
ガス測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガス測定器及びガス測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ガスセンサを開示する。ガスセンサは、圧電材料で形成されたガス導入用のスリットを備える。スリットの径は、スリットへの電圧印加に応じて変化する。ガスセンサは、スリットの径を変化させ、測定対象とするガスのガス分子のみを選択的に検知する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-33467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、測定対象とするガスは、大きさが同程度であって組成が異なるガス分子を含むことがある。このような場合、特許文献1に記載のガスセンサは、組成が異なるガス分子をフィルタでふるい分けすることができない。このため、特許文献1に記載のガスセンサは、測定対象とするガスの成分や分量を正確に測定できない場合がある。本開示は、ガスの測定精度を向上できるガス測定器及びガス測定方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一側面に係るガス測定器は、フィルタと、調整機構と、第1ガスセンサと、第2ガスセンサと、を備える。フィルタは、それぞれの大きさを変更可能な複数の開口を有する。調整機構は、複数の開口の大きさを変更させる。第1ガスセンサは、フィルタの開口を通過したガス分子を検出し、検出されたガス分子に応じた第1測定値を出力する。第2ガスセンサは、フィルタの開口を通過したガス分子を検出し、検出されたガス分子に応じた第2測定値を出力し、第1ガスセンサで検出したガス分子とは異なるガス種のガス分子を検出可能である。
【0006】
このガス測定器が測定するガスは、ガス分子の大きさに基づいて開口にふるい分けされる。開口を通過したガス分子は、第1ガスセンサと第1ガスセンサとは異なるガス分子を検出可能な第2ガスセンサに検出される。第1ガスセンサによって、検出されたガス分子に応じた第1測定値が出力される。第2ガスセンサによって、検出されたガス分子に応じて、第1測定値とは異なる第2測定値が出力される。このように、ガス測定器は、フィルタの下流にガス検出性能が異なる複数のセンサを備えることで、フィルタの下流にガス検出性能が単一種類のガスセンサを備えるガス測定器と比べて、ガスの測定精度を向上できる。
【0007】
一実施形態においては、フィルタは、第1部材と、第1部材と重ね合わせて配置される第2部材とを有する。複数の開口は、第1部材及び第2部材で構成される。第1部材と第2部材とは相対的に移動可能である。調整機構は、第1部材及び第2部材の少なくとも一方を移動させて、複数の開口の大きさを変更してもよい。この場合、ガス測定器は、第1部材及び第2部材の少なくとも一方を移動させるだけで、複数の開口の大きさを変更できる。特に、第1部材と第2部材との双方を移動させた場合は、いずれか片方のみ移動する場合と比べて、開口の大きさの調整の仕方に幅を持たせることができる。
【0008】
一実施形態においては、フィルタは、板状の弾性部材で形成され、調整機構は、フィルタを弾性変形させて、複数の開口の大きさを変更してもよい。この場合、ガス測定器は、複数の開口の大きさを、調整機構の推力の大きさで変更できる。
【0009】
一実施形態においては、フィルタは、温度に依存して膨張又は収縮する多孔質材料で形成され、調整機構は、フィルタの温度を変更して、複数の開口の大きさを変更してもよい。この場合、ガス測定器は、複数の開口の大きさを温度で変更できる。
【0010】
一実施形態においては、ガス測定器は、同期信号を出力する信号発生部と、複数の開口の大きさを決定する制御信号と同期信号とに基づいて調整機構を制御する制御部と、第1測定値及び第2測定値を、同期信号に基づいて取得する取得部と、第1測定値及び第2測定値と制御信号とを関連付けて出力する出力部と、を備えてもよい。この場合、ガス測定器は、同期信号を用いて第1測定値及び第2測定値と制御信号とを関連付けて出力できる。
【0011】
一実施形態においては、ガス測定器は、ガス種と、第1測定値、第2測定値及び制御信号との予め取得された関係と、出力部により出力された第1測定値、第2測定値及び制御信号とに基づいて、ガス種を判定する判定部とを備えてもよい。この場合、ガス測定器は、異なる大きさのガス分子を含む混合ガスのガス種を判定できる。
【0012】
本開示の他の側面に係るガス測定方法は、複数の開口の大きさを決定する制御信号と同期信号とに基づいてフィルタが有する複数の開口の大きさを変更する工程と、開口を通過したガス分子を、第1ガスセンサと第1ガスセンサとは異なるガス分子を検出可能な第2ガスセンサとが検出する工程と、同期信号に同期して第1ガスセンサが出力した第1測定値と第2ガスセンサが出力した第2測定値とを取得する工程と、ガス種と、第1測定値、第2測定値及び制御信号との予め取得された関係と、取得された第1測定値、第2測定値及び制御信号とに基づいて、ガス種を判定する工程と、を備える。このガス測定方法によれば、ガスの測定精度を向上できる。
【発明の効果】
【0013】
本開示に係るガス測定器及びガス測定方法によれば、ガスの測定精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態に係るガス測定器の一例を示す断面図である。
図2図2の(A)はストライプフィルタをフィルタの一例として示す平面図である。図2の(B)は多孔質材料フィルタをフィルタの一例として示す平面図である。
図3図3の(A)はメッシュフィルタをフィルタの一例として示す平面図である。図3の(B)はスリットフィルタをフィルタの一例として示す平面図である。
図4図4の(A)は実施形態に係るガス測定器の一例を示すブロック図である。図4の(B)は、制御信号及び同期信号の一例である。
図5】実施形態に係るガス測定方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本開示の実施形態について説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明は繰り返さない。図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。「上」「下」「左」「右」の語は、図示する状態に基づくものであり、便宜的なものである。
【0016】
[ガス測定器の構成]
図1は、実施形態に係るガス測定器1の一例を示す断面図である。図1に示されるガス測定器1は、ガスの成分を測定する機器である。ガス測定器1は、電気回路部品として提供され得る。一例として、ガス測定器1は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)デバイスである。ガス測定器1は、フィルタ10、調整機構20、基材40、第1ガスセンサ31、及び第2ガスセンサ32を備える。
【0017】
基材40は、その内部に空間を画成する。基材40は、ガスを透過しない材料で形成される。基材40は、その上部が開放され、空間に連通する開口を有する。フィルタ10は、基材40の上部の開口を塞ぐように配置される。フィルタ10は、略板状の部材である。フィルタ10及び基材40は、ガスを透過する隙間が無いように接合される。これにより、フィルタ10及び基材40は、ガス室41を画成する。ガス室41には、第1ガスセンサ31及び第2ガスセンサ32が配置される。第1ガスセンサ31及び第2ガスセンサ32は、フィルタ10を透過してガス室41に供給されたガス分子を検出する。
【0018】
フィルタ10は、それぞれの大きさを変更可能な複数の開口11を有する。複数の開口11は、所定のガス分子を通過する大きさに変更可能である。所定のガス分子は、検出が想定されるガス分子である。所定のガス分子は、一例として、硫化水素又は揮発性ガスのガス分子である。開口11の大きさは、所定のガス分子の大きさよりも大きく設定される。開口11より小さいガス分子は開口11を通過し、開口11より大きいガス分子は開口11によって遮断される。
【0019】
調整機構20は、フィルタ10の複数の開口の大きさを変更させる。調整機構20は、フィルタ10を動作させる駆動装置であってもよいし、温調装置であってもよい。調整機構20は、フィルタ10の動作原理に基づいて選択される。調整機構20の詳細は後述される。
【0020】
[フィルタの構成の詳細]
図2の(A)は、ストライプフィルタ10Aをフィルタ10の一例として示す平面図である。図2の(A)に示されるように、ストライプフィルタ10Aは複数の開口11を有する板状の部材であり、厚さは数マイクロメートル程度である。ストライプフィルタ10Aは一例としてシリコンで形成される。ストライプフィルタ10Aは弾性部材である。一例として、ストライプフィルタ10Aは、蛇腹状に形成される。蛇腹状のストライプフィルタ10Aは、複数の帯部材を、帯部材の軸線に直交する方向に並べ、隣り合う帯部材の端部をそれぞれ接続することにより形成される。ストライプフィルタ10Aは、複数の開口11の並設方向に弾性変形する。ストライプフィルタ10Aには、複数の開口11の並設方向に力が加わるようにMEMSアクチュエータ21(調整機構20の一例)が接続される。MEMSアクチュエータ21は、静電力で駆動する。
【0021】
図2の(A)では、ストライプフィルタ10Aの左端は、固定端(不図示)に接続される。MEMSアクチュエータ21は、ストライプフィルタ10Aの右端に接続される。MEMSアクチュエータ21が駆動しないとき、ストライプフィルタ10Aは、収縮した状態になる。MEMSアクチュエータ21が右方向に駆動するとき、ストライプフィルタ10Aは、伸張方向へ弾性変形する。なお、MEMSアクチュエータ21は、ストライプフィルタ10Aの両端に設けられてもよい。MEMSアクチュエータ21が駆動しないとき、ストライプフィルタ10Aは、伸張した状態であってもよい。
【0022】
ストライプフィルタ10Aの開口11の大きさは、MEMSアクチュエータ21に変更される。開口11の大きさは、ストライプフィルタ10Aが収縮すると小さくなる。開口11の大きさは、ストライプフィルタ10Aが伸張すると大きくなる。
【0023】
開口11の大きさは、ストライプフィルタ10Aの変形量によって決定される。ストライプフィルタ10Aの変形量は、MEMSアクチュエータ21の推力によって決定される。MEMSアクチュエータ21の推力は、MEMSアクチュエータ21へ印加される電流または電圧の大きさに応じて決定される。よって、開口11の大きさは、MEMSアクチュエータ21への印加電流または電圧の大きさによって所定の寸法に変更できる。
【0024】
[フィルタの構成の他の例]
図2の(B)は、多孔質材料フィルタ10Bをフィルタ10の一例として示す断面図である。多孔質材料フィルタ10Bは、温度に依存して膨張又は収縮する多孔質材料で形成される。多孔質材料は、焼結された樹脂などで形成され、複数の開口11を有する。多孔質材料フィルタ10Bには、多孔質材料フィルタ10Bの温度を変更して、複数の開口11の大きさを変更するヒーター22(調整機構の一例)が設けられる。
【0025】
多孔質材料フィルタ10Bは、ヒーター22の発熱によって膨張する。多孔質材料フィルタ10Bの開口11の大きさは、多孔質材料フィルタ10Bの膨張量に応じて広がる。多孔質材料の膨張量は、材料の物性に依存して予め定められる。ヒーター22の発熱量は、ヒーター22に印加される電流の大きさに応じて決定される。よって、開口11の大きさは、ヒーター22への印加電流によって所定の寸法に変更できる。
【0026】
図3の(A)はメッシュフィルタ10Cをフィルタ10の一例として示す図である。図中のX方向及びY方向が面内方向であり、Z方向が垂直方向である。X方向、Y方向及びZ方向は、3次元空間の直交座標系における互いに直交する軸方向である。メッシュフィルタ10Cは、XY平面と平行に移動可能に構成された、第1部材12と第1部材12のZ軸方向に重ね合わせて配置された第2部材13とを有する。第1部材12は、第1部材孔部12Hを含み、第2部材13は第2部材孔部13Hを含む。メッシュフィルタ10Cは、第1部材孔部12Hと第2部材孔部13Hとの重なりで開口11を構成する。メッシュフィルタ10Cは、第1部材12と第2部材13とがXY平面と平行に相対的に移動することで、開口11の大きさを変更する。メッシュフィルタ10Cの端部には、第1部材12と第2部材13とを相対的に移動させるMEMSアクチュエータ21(不図示)が接続される。
【0027】
第1部材12及び第2部材13は、例えば、エッチングなどによって加工されたシリコンの薄い板部材である。第1部材孔部12H及び第2部材孔部13Hは、Z方向に所定の間隔で空けられた板部材を貫通する円状の孔である。第1部材孔部12Hは、第2部材孔部13Hと重なり合って、第1部材12及び第2部材13を連通する開口11を構成する。複数の開口11の大きさは、第1部材12と第2部材13とが相対的に移動することで、一度に変更される。
【0028】
開口11の大きさが最大になる場合、第1部材孔部12Hと第2部材孔部13HとのXY平面上の座標が重なる。この場合、開口11を通過するガス分子の大きさは、第1部材孔部12H又は第2部材孔部13Hを通過するガス分子の大きさと同一である。この状態から、第1部材12と第2部材13とが相対的に移動すると、開口11の大きさは、小さくなる。開口11の大きさより大きなガス分子は、遮断される。この状態から、第1部材12と第2部材13とが更に相対的に移動すると、第1部材孔部12Hと第2部材孔部13Hとは重ならないため、開口11は、塞がれる。このように、開口11の大きさは、第1部材12と第2部材13との相対的な移動によって変更される。ここで、「第1部材12と第2部材13との相対的な移動」とは、第1部材12または第2部材13のいずれかを移動させる場合と、第1部材12及び第2部材13の双方を移動させる場合と、の双方を含む概念である。
【0029】
第1部材孔部12H及び第2部材孔部13Hは、スリット状でもよい。図3の(B)はスリットフィルタ10Dをフィルタ10の一例として示す図である。スリットフィルタ10Dは、第1部材12と第2部材13とがY軸方向に移動することで、開口11の大きさを変更する。
【0030】
[ガスセンサの詳細]
第2ガスセンサ32は、第1ガスセンサ31で検出したガス分子とは異なる種類のガス分子を主眼に検出可能に構成される。第1ガスセンサ31及び第2ガスセンサ32のガスの検出方式は、一例として、半導体方式が用いられる。ガスセンサが検出できるガス分子は、ガス分子の種類に応じた感度によって定められる。半導体方式のセンサは、使用される半導体の特性及び半導体の温度によって、感度が異なる。よって、第2ガスセンサ32は、第1ガスセンサ31と異なる特性の半導体、又は異なる温度の半導体が用いられる。なお、第1ガスセンサ31及び第2ガスセンサ32のガスの検出方式は、電気化学方式、水晶振動子方式、又は表面弾性波方式であってもよい。第1ガスセンサ31と第2ガスセンサ32とは、ガス分子の種類に応じた感度が異なれば、異なる検出方式が用いられてもよい。
【0031】
第1ガスセンサ31及び第2ガスセンサ32は、開口11を通過する所定のガス分子の測定値を出力する。第1ガスセンサ31及び第2ガスセンサ32が出力する測定値は、例えば、半導体方式のセンサである場合、抵抗値の変化に伴う電圧の変化である。センサの感度の大きさは、ガスに対する電圧の変化の大きさで定められる。第1ガスセンサ31は、第2ガスセンサ32と感度が異なる。よって、第1ガスセンサ31が出力する第1測定値は、第2ガスセンサ32が出力する第2測定値と比べて、ガス分子の種類に応じた電圧の変化の大きさが異なる。ガス測定器1は、予め定められるガスセンサの感度と第1測定値及び第2測定値とに基づいて、検出したガスに含まれるガスの成分を測定できる。
【0032】
[ガス測定器の制御回路]
図4の(A)は、実施形態に係るガス測定器1Aの一例を示すブロック図である。ガス測定器1Aは、測定部2(ガス測定器の一例)と回路部3とを備える。回路部3は、信号発生部50、制御部60、取得部70、出力部80及び判定部90を備える。回路部3は、例えば、電気回路で構成され得る。回路部3は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などの演算装置、ROM(ReadOnly Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)などの記憶装置、及び通信装置などを有する汎用コンピュータで構成されてもよい。
【0033】
信号発生部50は、制御部60及び取得部70へ制御信号及び同期信号を出力する。制御信号は、複数の開口の大きさを決定する信号である。同期信号は、制御部60と取得部70とを同期させる信号である。制御部60は、制御信号及び同期信号に基づいて開口11の大きさを制御する信号を調整機構20へ出力する。図4の(B)は、制御信号及び同期信号の一例である。図4の(B)では、制御信号は、SIG1、SIG2、SIG3の三種類の開口の状態(形状)を示す信号となる。同期信号は、水晶発振器などの発振器に基づいた矩形波である。制御部60は、制御信号に示される開口の状態となるように、同期信号に基づいて調整機構20を動作させる。取得部70は、同期信号に基づいて第1測定値及び第2測定値を取得する。
【0034】
制御部60は、同期信号の矩形波を所定の回数受信した際に、信号を調整機構20へ出力する。制御部60は、開口11の大きさに対応する波形の制御信号を出力する。一例として、図4の(B)の3段階に変化する制御信号は、開口11の大きさを3段階で制御する。開口11の大きさは、無段階で制御されてもよい。この場合、制御信号は、三角波又は正弦波を示す。
【0035】
取得部70は、同期信号の矩形波を所定の回数受信した際に、第1測定値及び第2測定値を取得する。よって、取得部70は、制御信号による開口11の大きさの変化に対応した、第1測定値及び第2測定値を取得できる。取得部70が第1測定値及び第2測定値を取得する際の矩形波を受信する所定の回数は、制御部60が制御信号を出力する際の矩形波を受信する回数以上でもよい。取得部70が第1測定値及び第2測定値を取得する時期を、制御部60が制御信号を出力する時期よりも遅くすることで、取得部70は、開口11の大きさが変化した後に開口11を通過したガス分子が多数となったときの、第1測定値及び第2測定値を取得できる。
【0036】
出力部80は、制御信号と、取得部70から取得された第1測定値及び第2測定値とを関連付けて出力する。
【0037】
判定部90は、ガス種と、第1測定値、第2測定値及び制御信号との予め取得された関係と、出力部により出力された第1測定値、第2測定値及び制御信号とに基づいてガス種を判定する。ガス種と、第1測定値、第2測定値及び制御信号との組合せについては、事前に予め取得され、例えばガス特性テーブルとして記憶される。判定部90は、出力部80によって出力された組合せに基づいてガス特性テーブルを参照し、ガス種を決定する。
【0038】
[ガス測定器の動作]
図5は、実施形態に係るガス測定方法の一例を示すフローチャートである。図5に示されるフローチャートの工程は、ガス測定器1Aの動作を示す。なお、一例として、検出対象のガスは、メタン(CH)と、一酸化炭素(CO)及びトルエン(C)を含む混合ガスとする。第1ガスセンサ31及び第2ガスセンサ32は、一酸化炭素(CO)に対する感度が大きいセンサ(第1ガスセンサ31の一例)と炭化水素に対する感度が大きいセンサ(第2ガスセンサ32の一例)とを有する。
【0039】
図5に示されるように、最初に、フィルタ10の有する複数の開口11の大きさは、同期信号に基づいて動作する調整機構20によって、所定のガスを通過する大きさに変更される(ステップS10)。混合ガスに含まれるガスにおいて、トルエン(C)のガス分子の径は最も大きい。開口11の大きさがトルエン(C)を遮断する大きさに変更される場合(ステップS10)、第1ガスセンサ31及び第2ガスセンサ32は、メタン(CH)及び一酸化炭素(CO)を含む所定の混合ガスを検出する(ステップS20)。
【0040】
次に、取得部70は、第1ガスセンサ31が出力した第1測定値と第2ガスセンサ32が出力した第2測定値とを、同期信号に基づいて取得する(ステップS30)。この場合、第1ガスセンサ31の測定値は、所定の混合ガスに一酸化炭素(CO)が含まれることを示す。また、第2ガスセンサ32の測定値は、所定の混合ガスに炭化水素が含まれることを示す。
【0041】
判定部90は、ガス特性テーブルと、取得部70により取得された第1測定値、第2測定値及び制御信号とに基づいて、ガス種を判定する(ステップS40)。制御信号が示す開口11の大きさと第2測定値との予め取得された関係から、取得部70が取得した第2測定値は、メタン(CH)を示すと判断される。
【0042】
次に、開口11の大きさがトルエン(C)を通過する大きさに変更される場合(ステップS10)、第1ガスセンサ31及び第2ガスセンサ32は、メタン(CH)と、一酸化炭素(CO)及びトルエン(C)を含む所定の混合ガスを検出する(ステップS20)。この場合、取得部70が取得した第2ガスセンサ32の測定値は、炭化水素にはメタン(CH)と他の炭化水素とが含まれることを示す(ステップS30)。判定部90は、ガス特性テーブルと制御信号とに基づいて、他の炭化水素はトルエン(C)であると判定する(ステップS40)。
【0043】
[実施形態のまとめ]
ガス測定器1において、測定されるガスは、ガス分子の大きさに基づいて開口11にふるい分けされる。開口11を通過したガス分子は、第1ガスセンサ31と第1ガスセンサ31とは異なるガス分子を検出可能な第2ガスセンサ32に検出される。第1ガスセンサ31によって、検出されたガス分子に応じた第1測定値が出力される。第2ガスセンサ32によって、検出されたガス分子に応じて、第1測定値とは異なる第2測定値が出力される。このように、ガス測定器1は、フィルタ10の下流にガス検出性能が異なる複数のセンサを備えることで、フィルタ10の下流にガス検出性能が単一種類のガスセンサを備えるガス測定器と比べて、ガスの測定精度を向上できる。
【0044】
ガス測定器1は、複数の開口11の大きさを、MEMSアクチュエータ21の推力の大きさで変更できる。
【0045】
ガス測定器1は、複数の開口11の大きさをヒーター22の出力で変更できる。ガス測定器1は、温度調整だけで開口11の大きさを変更できる。
【0046】
ガス測定器1は、複数の開口11の大きさを一度に変更できる。このガス測定器は、1つの部材でフィルタ10を構成する場合と比べて、高精度にガス分子をふるい分けできる。また、複数の開口11の大きさの変更は、第1部材12と第2部材13とを相対的に移動することで行うことができる。第1部材12または第2部材13のいずれか一方を移動させてもよく、第1部材12及び第2部材13の双方を移動させてもよい。第1部材12及び第2部材13の双方を移動させる場合、第1部材12または第2部材13のいずれか一方のみが移動する場合と比べて、このガス測定器は、開口11の大きさを広範囲に変更できる。
【0047】
ガス測定器1及びガス測定方法は、制御信号と第1測定値及び第2測定値とを同期させて開口11の大きさと関連付けることができる。ガス測定器1及びガス測定方法は、同期信号を用いて第1測定値及び第2測定値と制御信号とを関連付けて出力することができる。ガス測定器1及びガス測定方法は、異なる大きさのガス分子を含む混合ガスに含まれるガス種を判定できる。
【0048】
[変形例]
以上、種々の例示的実施形態について説明してきたが、上記の例示的実施形態に限定されることなく、様々な省略、置換、及び変更がなされてもよい。
【0049】
フィルタ10、第1ガスセンサ31及び第2ガスセンサ32は、別々に形成された後に組み合わされて作製されてもよい。フィルタ10、第1ガスセンサ31及び第2ガスセンサ32は、一体として作製されてもよい。
【0050】
信号発生部50は、制御部60と一体であってもよい。取得部70は、出力部80と一体であってもよい。出力部80は、判定部90と一体であってもよい。
【0051】
ガス測定器1は、基材40及びガス室41を含まないように構成されてもよい。この場合、ガス測定器1は、第1ガスセンサ31及び第2ガスセンサ32にフィルタ10が密着するように構成される。ガス測定器1は、M種類のガスセンサ(Mは2以上の整数)を備えてもよい。Mが3以上の場合、M種類のガスセンサは同じ種類のセンサを含んでいてもよい。また、開口11の大きさは、N段階で(Nは2以上の整数)で制御されてもよい。この場合、ガス測定器1は、最大でM×N種類の組み合わせでガスを測定できる。
【0052】
図3の(A)及び(B)において、第1部材12及び第2部材13のいずれかは固定されてもよい。第1部材孔部12Hの大きさは、同一でなくてもよい。第1部材孔部12Hの大きさは、第2部材孔部13Hと同一でなくてもよい。第1部材孔部12Hの間隔は、等間隔でなくてもよい。第1部材12と第2部材13とは、Z軸を回転中心とする回転方向に相対的に移動されてもよい。第2部材13は、ストライプフィルタ10Aであってもよい。ガス測定器1Aは、判定部90を含まないように構成されてもよい。この場合、ガス測定器1Aは、出力部80が第1測定値及び第2測定値と制御信号とを外部へ出力する。ガス測定器1Aは、第1測定値及び第2測定値と制御信号との関係を、シミュレーションによって予め取得してもよい。この場合、開口11の大きさ及び各種のガス分子の大きさは、計算で求められる。第1測定値及び第2測定値と制御信号との関係は、既知のガスで校正されてもよい。この場合、ガス種及びガス分子の大きさが特定された既知のガスに基づいて、制御信号と開口11の大きさとの関係、第1ガスセンサ31の出力特性及び第2ガスセンサ32の出力特性は、校正される。
【符号の説明】
【0053】
1,1A…ガス測定器、2…測定部、3…回路部、10…フィルタ、10A…ストライプフィルタ、10B…多孔質材料フィルタ、10C…メッシュフィルタ、10D…スリットフィルタ、11…開口、12…第1部材、12H…第1部材孔部、13…第2部材、13H…第2部材孔部、20…調整機構、21…MEMSアクチュエータ、22…ヒーター、31…第1ガスセンサ、32…第2ガスセンサ、40…基材、41…ガス室、50…信号発生部、60…制御部、70…取得部、80…出力部、90…判定部。
図1
図2
図3
図4
図5