(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-08
(45)【発行日】2023-08-17
(54)【発明の名称】樹脂組成物およびそれからなるフィラメント状成形体
(51)【国際特許分類】
B29C 64/314 20170101AFI20230809BHJP
C08L 67/04 20060101ALI20230809BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20230809BHJP
B29C 64/118 20170101ALI20230809BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20230809BHJP
【FI】
B29C64/314
C08L67/04
C08L23/26
B29C64/118
B33Y70/00
(21)【出願番号】P 2019107189
(22)【出願日】2019-06-07
【審査請求日】2022-05-20
(31)【優先権主張番号】P 2018122071
(32)【優先日】2018-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【氏名又は名称】江間 晴彦
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】臼井 あづさ
(72)【発明者】
【氏名】松岡 文夫
(72)【発明者】
【氏名】熊澤 頌平
(72)【発明者】
【氏名】上川 泰生
(72)【発明者】
【氏名】中谷 雄俊
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-002773(JP,A)
【文献】国際公開第2015/037574(WO,A1)
【文献】特開2005-344059(JP,A)
【文献】特開2012-136609(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00- 64/40
B33Y 10/00- 99/00
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱溶解積層法3Dプリンターの造形材料用
成形体であって、ポリ乳酸樹脂(A)とアイオノマー樹脂(B)とを含有し、(A)と(B)の質量比率[(A)/(B)]が95/5~60/40であって、(A)のメルトフローレート(MFR)値が(B)のMFR値よりも大き
く、前記アイオノマー樹脂(B)が亜鉛イオン中和型エチレンメタクリル酸共重合樹脂である造形材料用樹脂組成物
で構成され、直径が0.2~5.0mmである、フィラメント状成形体。
【請求項2】
前記樹脂組成物は、曲げ弾性率が1.4~3.0GPaであり、摩耗試験時の摩耗質量が、ポリ乳酸樹脂(A)の摩耗質量に対して1.5~2.5倍であることを特徴とする請求項1に記載の
フィラメント状成形体。
【請求項3】
前記樹脂組成物は、さらに、充填剤(C)を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の
フィラメント状成形体。
【請求項4】
前記樹脂組成物は、さらに、汚れ防止剤を含有することを特徴とする請求項3に記載の
フィラメント状成形体。
【請求項5】
前記フィラメント状成形体は延伸したモノフィラメントである、請求項1~4のいずれかに記載のフィラメント状成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱溶解積層法3Dプリンターの造形材料用の樹脂組成物と、それからなるフィラメント状成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
3次元CADや3次元コンピューターグラフィックスのデータを元に、立体造形物(3次元のオブジェクト)を作製する3Dプリンターは、近年、産業向けを中心に急速に普及している。3Dプリンターの造形方法には、光造形、インクジェット、粉末石膏造形、粉末焼結造形、熱溶解積層造形等の方法がある。
【0003】
近年、個人向け等の低価格の3Dプリンターの多くは、熱溶解積層法を採用している。この熱溶解積層法3Dプリンターにおいては、造形材料として、フィラメント状成形体が用いられ、造形材料を構成する樹脂として、ポリ乳酸樹脂やABS樹脂が用いられることが多い。ポリ乳酸樹脂は、融点が約170℃であり、プラスチックの中でも比較的融点が低く、低温で溶融するため、個人向けの3Dプリンターの造形材料に適している。また、ポリ乳酸樹脂は、ABS樹脂と比較して、造形性が良好であり、得られる造形物は反りが小さいことから、造形材料としてポリ乳酸樹脂を用いることが要望されている。しかしながら、ポリ乳酸樹脂は、それ自体が硬く、ポリ乳酸樹脂からなる造形物は、ABS樹脂と対比して硬くてもろいため、造形後の仕上げとしてスジ彫りや表面研磨等ができないことがあった。
【0004】
表面研磨しやすい熱溶解積層方式三次元造形素材としては、例えば、特許文献1に、ポリ乳酸樹脂にスチレン系樹脂やポリエステル等を配合した素材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公報第2015/037574号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる従来技術に鑑み、3Dプリンターにより立体造形物を得る際の造形材料として好適に用いることができる樹脂組成物であって、柔軟性および研磨性に優れた立体造形物を良好に作製することができる樹脂組成物およびそれからなるフィラメント状成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために検討した結果、ポリ乳酸樹脂にアイオノマー樹脂を適量配合することにより上記目的が達成されることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明の要旨は下記の通りである。
(1)熱溶解積層法3Dプリンターの造形材料用樹脂組成物であって、ポリ乳酸樹脂(A)とアイオノマー樹脂(B)とを含有し、(A)と(B)の質量比率[(A)/(B)]が95/5~60/40であって、(A)のメルトフローレート(MFR)値が(B)のMFR値よりも大きいことを特徴とする樹脂組成物。
(2)曲げ弾性率が1.4~3.0GPaであり、摩耗試験時の摩耗質量が、ポリ乳酸樹脂(A)の摩耗質量に対して1.5~2.5倍であることを特徴とする(1)に記載の樹脂組成物。
(3)さらに、充填剤(C)を含有することを特徴とする(1)または(2)に記載の樹脂組成物。
(4)さらに、汚れ防止剤を含有することを特徴とする(3)に記載の樹脂組成物。
(5)熱溶解積層法3Dプリンターの造形材料用成形体であって、(1)~(4)のいずれかに記載の樹脂組成物で構成され、直径が0.2~5.0mmであることを特徴とするフィラメント状成形体。
【発明の効果】
【0008】
本発明の樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂にアイオノマー樹脂を適量配合したものであるため、均一な直径のフィラメント状成形体を得ることが可能である。そして、本発明の樹脂組成物からなるフィラメント状成形体は、3Dプリンターの造形材料として好適であり、柔軟性および研磨性に優れた立体造形物を作製することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】造形性を評価するために作製した「ルーク」の説明図である。
【
図2】寸法安定性を評価するために作製した「アンカー」の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂(A)とアイオノマー樹脂(B)から構成される。
【0011】
ポリ乳酸樹脂(A)としては、例えば、ポリ(L-乳酸)樹脂、ポリ(D-乳酸)樹脂、これらの混合物、および2種以上の共重合成分を含む共重合体樹脂を挙げられ、中でも、製糸性の観点から、ポリ(L-乳酸)樹脂を主体とするポリ乳酸樹脂が好ましい。ポリ(L-乳酸)樹脂を主体とするポリ乳酸樹脂は、D-乳酸の含有量が10モル%以下であることが好ましく、6モル%以下であることがより好ましい。
【0012】
ポリ乳酸樹脂(A)は、製糸性の観点から、温度190℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)が、0.3~15g/10分であることが好ましく、5~12g/10分であることがより好ましく、8~12g/10分であることがさらに好ましい。
【0013】
ポリ乳酸樹脂の市販品としては、例えば、NatureWorks社製『4032D』(D-乳酸含有量1.4モル%、MFR:3g/10分)、『3001D』(D-乳酸含有量:1.4モル%、MFR:10g/10分)、『4060D』(D-乳酸含有量:10モル%、MFR:3.5g/10分)が挙げられる。前記市販品は、混合して用いてもよい。
【0014】
本発明の樹脂組成物は、アイオノマー樹脂(B)を含有することが必要である。ポリ乳酸樹脂(A)にアイオノマー樹脂(B)を配合することにより、柔軟性が向上し、研磨性と製糸性が向上する。アイオノマー樹脂(B)とは、α-オレフィンとα,β-不飽和カルボン酸との共重合体の分子間を、金属イオンで分子間結合した樹脂である。α-オレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンが挙げられ、α,β-不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸が挙げられ、金属イオンとしては、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、亜鉛イオン、アルミニウムイオンが挙げられる。アイオノマー樹脂(B)の中でも、ポリ乳酸樹脂(A)との相溶性が良好で、製糸性が高いことから、金属イオンがナトリウムイオンであるアイオノマー樹脂が好ましい。
【0015】
アイオノマー樹脂(B)は、製糸性の観点から、温度190℃、荷重2.16kgにおけるMFRが、8g/10分以下であることが好ましく、4g/10分以下であることがより好ましく、2g/10分以下であることがさらに好ましい。
【0016】
本発明において、ポリ乳酸樹脂(A)のMFR値は、アイオノマー樹脂(B)のMFR値よりも大きいことが必要である。(A)のMFR値が(B)のMFR値よりも小さい場合、製糸性が低下し、均一な直径のフィラメントを採取することができず、3Dプリンターでのフィラメント供給量(吐出量)が変動し、正確な寸法で造形物が得られなくなることがあるので好ましくない。
【0017】
なお、本発明の樹脂組成物において、ポリ乳酸樹脂(A)のMFR値がアイオノマー樹脂(B)のMFR値よりも大きいか否かは、以下のような手順で検証することができる。
造形材料用樹脂組成物のペレットを70℃×24時間で真空乾燥した樹脂を温度190℃、荷重2.16Kgfで測定した値をMFR1とする。一方、造形材料用樹脂組成物のペレットを浴比1:100で8%水酸化ナトリウム温水溶液中(80℃×12時間処理)でポリ乳酸成分を溶出、残不溶成分を水洗、乾燥した樹脂成分を、上記と同じ測定条件で測定した値をMFR2とする。これらの測定値がMFR1>MFR2を満たした場合、すなわちポリ乳酸樹脂(A)>アイオノマー樹脂(B)であると判断できる。
【0018】
アイオノマー樹脂(B)の市販品としては、例えば、三井・デュポンポリケミカル社製『ハイミラン1706』(亜鉛イオン中和エチレンメタクリル酸共重合樹脂、MFR:0.9g/10分)、『ハイミラン1855』(MFR:亜鉛イオン中和エチレンメタクリル酸共重合樹脂、1.0g/10分)が挙げられる。
【0019】
ポリ乳酸樹脂(A)とアイオノマー樹脂(B)との質量比率[(A)/(B)]は、95/5~60/40であることが必要であり、90/10~70/30であることが好ましく、85/15~75/25であることがより好ましい。(A)と(B)の合計に対する(B)の含有量が5質量%未満であると、得られる造形物の柔軟性や研磨性が低くなるので好ましくなく、一方、前記(B)の含有量が40質量%を超えると、フィラメント状成形体の直径が不均一となるので好ましくない。
【0020】
本発明の樹脂組成物には、得られる造形物の寸法安定性を向上させるため、さらに充填剤(C)を含有させてもよい。充填剤(C)としては、例えば、ガラスビーズ、ガラス繊維粉、ワラストナイト、マイカ、合成マイカ、セリサイト、タルク、クレー、ゼオライト、ベントナイト、カオリナイト、ドロナイト、シリカ、チタン酸カリウム、微粉ケイ酸、シラスバルーン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化チタン、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸ジルコニウム、石膏、グラファイト、モンモリロナイト、カーボンブラック、硫化カルシウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素、セルロースファイバーが挙げられ、中でも、タルクがより好ましい。
【0021】
充填剤(C)の平均粒子径は、製糸性よくフィラメント状成形体を得るため、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。(C)の平均粒子径が100μmを超える場合、フィラメント状成形体の製造時において、紡糸機のフィルターに詰り、濾過圧が上昇する場合がある。また、得られるフィラメント状成形体表面のざらつきが強くなって、品位が低下する場合がある。(C)の平均粒子径は、レーザー回折/散乱粒度分布計等の粒度分布測定装置を用いて粒子径分布を測定した場合の、質量累積50%のときの粒径値で定義される値である。測定は、通常、水またはアルコールに測定許容濃度となるように(C)を加えて縣濁液を調整し、超音波分散機で分散させてからおこなう。
【0022】
充填剤(C)の含有量は、ポリアリレート系樹脂(A)とアイオノマー樹脂(B)との合計量100質量部に対して、30質量部以下とすることが好ましく、20質量部以下とすることがより好ましい。(C)の含有量が30質量部を超えると、製糸性が低下し、フィラメント状成形体の直径が不均一となり、表面のざらつきが大きくなる場合がある。
【0023】
本発明の樹脂組成物は、上記のような充填剤(C)を含有することにより、フィラメント状成形体の作製時、および、3Dプリンターでの造形時に、ノズルに汚れが付着しやすくなることがある。そのため、本発明の樹脂組成物に(C)を含有させる場合、汚れ防止剤を含有させることが好ましい。汚れ防止剤としては、例えば、金属セッケン、フッ素系滑剤、脂肪酸アミド等を主成分とする滑剤が挙げられる。金属セッケンは、アルカリ金属以外の金属の脂肪酸塩のことをいい、主な金属として、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、銅、鉛、アルミニウム、鉄、コバルト、クロム、マンガン等が挙げられる。また、フッ素系滑剤としては、パーフルオロアルカン、パーフルオロカルボン酸エステル、パーフルオロ有機化合物やフッ化ポリマー等が挙げられ、脂肪族アミドとしては、オレイン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド等が挙げられる。中でも、汚れの付着防止効果が高いことから、フッ化ビニリデン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体が好ましい。市販品としては、例えば、ダイキン工業社製のPPAシリーズが挙げられる。
【0024】
本発明の樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、染料、顔料等の着色剤、帯電防止剤、末端封鎖剤、紫外線防止剤、光安定剤、防曇剤、防霧剤、可塑剤、難燃剤、着色防止剤、酸化防止剤、離型剤、防湿剤、酸素バリア剤、結晶核剤、相溶化剤等の添加剤を含有させてもよい。これらの添加剤は、上記のうち1つを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。添加剤の粒径は、製糸性よくフィラメント状成形体を得ることができることから、100μm以下であることが好ましい。
【0025】
本発明の樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂(A)にアイオノマー樹脂(B)を適量配合したものであるため、柔軟性に優れる。柔軟性を示す指標である曲げ弾性率は、3.0GPa以下であることが好ましく、1.4~3.0GPaであることがより好ましい。
【0026】
本発明の樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂(A)にアイオノマー樹脂(B)を適量配合したものであるため、研磨性に優れる。研磨性を示す指標である摩耗試験時の摩耗質量は、アイオノマー樹脂(B)を配合していないポリ乳酸樹脂(A)単独の場合の摩耗質量の1.5倍以上であることが好ましく、1.7倍以上であることがより好ましく、2.0倍以上であることがさらに好ましい。また摩耗質量の上限は、造形物の型崩れを防止するために、ポリ乳酸(A)単独の場合の摩耗質量の2.5倍であることが好ましい。
【0027】
本発明の樹脂組成物は、上記のポリ乳酸樹脂(A)とアイオノマー樹脂(B)とを混合することによって作製することができる。両樹脂の混合には、単軸押出機、二軸押出機、ロール混練機、ブラベンダー等の一般的な混練機を使用することができ、中でも、混練状態の向上のため、二軸の押出機を使用することが好ましい。樹脂組成物は、例えば、シリンダー温度160~230℃、ダイス温度180~240℃の条件で、これらの樹脂を溶融混練して押出して、ストランドを冷却後、ペレットサイズにカットする方法で作製することが好ましい。なお、二軸の紡糸装置を使用すれば、溶融混練したポリ乳酸樹脂(A)とアイオノマー樹脂(B)とから、樹脂組成物のペレットを作製することなく、そのままフィラメント状成形体を作製することも可能である。
【0028】
本発明のフィラメント状成形体は、本発明の樹脂組成物で構成されてなるものである。樹脂組成物をフィラメントの形状とすることで、熱溶解積層法3Dプリンターの造形材料として好適に用いることができる。フィラメント状成形体は、モノフィラメントでも、マルチフィラメントでもよいが、モノフィラメントが好ましい。またこれらは未延伸のものであっても延伸したものであってもよい。
【0029】
フィラメント状成形体は、直径が0.2~5.0mmであることが好ましく、1.5~3.2mmであることがより好ましく、1.6~3.1mmであることがさらに好ましい。フィラメント状成形体の直径とは、フィラメント状成形体の長手方向に対して垂直に切断した断面における、最大長径と最小短径の平均である。フィラメント状成形体は、直径が0.2mm未満であると、細くなりすぎて、汎用の熱溶解積層法3Dプリンターに適さないことがある。なお、汎用の熱溶解積層法3Dプリンターに適したフィラメント状成形体の直径の上限は、5.0mm程度である。
【0030】
モノフィラメントからなるフィラメント状成形体を作製する方法としては、例えば、本発明の樹脂組成物を、180~220℃で溶融し、定量供給装置でノズル孔から押出し、これを20~80℃の液浴中で冷却固化後、紡糸速度1~50m/分で引き取り、ボビン等に巻き取る方法が挙げられる。なお、モノフィラメントの形状にする際、1.0倍を超え5.0倍以下の倍率で延伸を施してもよい。延伸倍率は1.0倍を超え3.5倍以下であることがより好ましい。延伸することにより、得られるフィラメントの耐屈曲性を向上させることができる。モノフィラメントの延伸は、紡糸後のモノフィラメントを一度巻き取ってからおこなってもよく、また、モノフィラメントは、紡糸後に巻き取らず、紡糸に続いて、連続的に延伸してもよい。延伸に際して、適度な加熱延伸、熱処理を施すと、より安定したフィラメントが形成され、形成されたフィラメントは、フィラメント強度が増加し、フィラメント表面の平滑性が向上する。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0032】
樹脂組成物、フィラメント状成形体および造形物の評価は、以下の方法によりおこなった。
A.評価方法
(1)ポリ乳酸樹脂(A)のD体含有量
ポリ乳酸樹脂(A)約0.3gを1N-水酸化カリウム/メタノール溶液6mlに加え、65℃にて充分撹拌し、ポリ乳酸樹脂を分解させた後、硫酸450μlを加えて、65℃にて撹拌し、乳酸メチルエステルとした。得られた乳酸メチルエステル5ml、純水3ml、および、塩化メチレン13mlを混合して振り混ぜた。静置分離後、下部の有機層を約1.5ml採取し、HPLC用ディスクフィルター(孔径0.45μm)でろ過し、ガスクロマトグラフィーで測定した。
ガスクロマトグラフィー(Hewlett Packard社製、HP-6890)は、ヘリウム(He)をキャリアガスとして、流速1.8ml/分で、オーブンプログラムは90℃で3分間保持し、50℃/分で220℃まで昇温し、1分間保持する条件でおこなった。カラムは、J&W社製DB-17(30m×0.25mm×0.25μm)を用い、検出器はFID(温度300℃)、内部標準法で測定した。乳酸メチルエステルの全ピーク面積に占めるD-乳酸メチルエステルのピーク面積の割合(%)を算出し、これをD体含有量(モル%)とした。
【0033】
(2)ポリ乳酸樹脂(A)、アイオノマー樹脂(B)のメルトフローレート(MFR)
東洋精機製作所社製メルトインデクサーF-B01を用いて、JIS K 7210に準拠して測定した。試験温度190℃、試験荷重2.16kgの条件で測定した。
【0034】
(3)研磨性
得られた樹脂組成物のペレット(65℃×48時間の条件で乾燥して、水分率を0.01%としたもの)を用いて、射出成形機(日精樹脂社製、NEX-110型)を用い、シリンダー温度190~220℃、金型温度30~40℃の条件で、直径10mm、厚さ2mmの円板を作製した。
テーバー摩耗試験機(東洋精機製、Rotary Abrasion Testen)を用いて、JIS K7204に準拠して、円板の摩耗試験を実施した。用いた摩耗輪はH-22であり、回転数は1000回転、回転速度は70rpm、荷重1.0kgf、測定環境温度20℃、湿度65%RHとした。
摩耗試験前後の円板の質量を測定してその前後の質量差を摩耗質量とした。各樹脂組成物からなる円板における摩耗質量を、ポリ乳酸樹脂のみから構成される比較例1の円板の摩耗質量で除して、研磨性を評価した。
本発明においては、摩耗質量が、ポリ乳酸のみから構成される比較例1の円板の摩耗質量で除した値が1.5以上を合格とした。
【0035】
(4)柔軟性
得られた樹脂組成物のペレット(65℃×48時間の条件で乾燥して、水分率を0.01%としたもの)を用いて、射出成形機(日精樹脂社製、NEX-110型)を用い、シリンダー温度190~220℃、金型温度30~40℃の条件で、ISO準拠の一般物性測定用試験片(ダンベル片)を作製し、曲げスパン64mm、試験速度2mm/秒で曲げ弾性率を測定した。
本発明においては、3.0GPa以下を合格とした。
【0036】
(5)製糸性
紡糸速度10m/分にて24時間、繊経1.75mmのモノフィラメントを採取した際の糸切れ回数により、以下の2段階で評価した。
〇:糸切れが発生しなかった。
×:糸切れが発生したか、またはフィラメントの引取りができなかった。
【0037】
(6)モノフィラメントの直径
得られたモノフィラメントを、20cm毎に、モノフィラメントの長手方向に対して垂直に切断し、測定サンプルを30個得た。各サンプルにおいて、断面における最大長径と最小短径を、マイクロメーターを用いて測定し、その平均を各サンプルの直径とした。全30サンプルの直径を平均して、モノフィラメントの直径を算出した。
【0038】
(7)モノフィラメントの直径の均一性
上記(6)において算出した、全サンプルの直径の最大値(M1)と最小値(M2)を用いて、モノフィラメントの直径の均一性を算出した。
直径の均一性=(M1-M2)/2
【0039】
(8)モノフィラメントの耐屈曲性
JIS P 8115に記載のMIT耐折度試験に準じて、マイズ試験機社製、MIT耐折度試験機を用い、荷重5N、クランプ先端R0.38mm、つかみ間隔2.0mm、試験速度175rpm、折り曲げ角度135度で実施し、モノフィラメントの耐折回数を計測した。測定には、標準状態(室温22±2℃、湿度50±2%)で48時間以上放置した試料を用いた。MIT耐折度試験は、それぞれのモノフィラメントについて3回測定し、平均値を求めた。耐折回数により、以下の4段階で評価した。
◎:100回以上
○:30回以上100回未満
△:5回以上30回未満
×:5回未満
本発明においては、耐折回数が5回以上を合格とした。耐折回数は、30回以上であることがより好ましく、100回以上であることがさらに好ましい。
【0040】
(9)3Dプリンターのノズル汚れ
得られたモノフィラメントと3Dプリンター(FLASHFORGE社製、CREATOR PRO)を用いて、ノズル温度190~240℃、テーブル温度50℃の条件でISOダンベル片の造形を10回繰り返しおこない、その間のノズルの汚れを観察した。ノズルに付着していた汚れが、造形したISOダンベル片にも付着していた場合は「×」とし、造形したISOダンベル片には付着していなかった場合、以下の2段階で評価した。
○:ノズルに汚れが付着していなかった。
△:ノズルに汚れが付着していた。
本発明においては、「△」以上を合格とした。
【0041】
(10)3Dプリンター造形性
得られたモノフィラメントを用いて、3Dプリンター(FLASHFORGE社製、CREATOR PRO)を用いて、ノズル温度190~240℃、テーブル温度50℃の条件で、
図1の「ルーク」を造形した。樹脂が均一に吐出されなかったたり、反りが大きすぎて造形台から剥がれて、造形することができなかった場合、「×」と評価した。造形することができた場合、
図1の1(オーバーハング部分)の外観を、以下の2段階で評価した。
◎:オーバーハング部分の造形がダレることがなかった。
○:オーバーハング部分の造形がダレた。
本発明においては、「○」以上を合格とした。
【0042】
(11)造形物の寸法安定性
得られたモノフィラメントを用いて、3Dプリンター(FLASHFORGE社製、CREATOR PRO)を用いて、ノズル温度190~240℃、テーブル温度50℃の条件で、
図2の「アンカー」を造形した。反りが大きすぎて造形物が造形台から剥がれ造形することができなかった場合、「×」と評価した。造形することができた場合、造形したアンカーを平滑な水準台(大理石等)上に置き、
図2の5の位置におもりを置き固定したのち、
図2の2~4の3箇所の先端部分について台からの高さを隙間ゲージまたはノギスで測定し、平均値を求め、以下の3段階で評価した。
○:平均値が0mmを超え1mm未満であった。
△:平均値が1mm以上であった。
本発明においては、「△」以上を合格とした。
【0043】
B.原料
実施例、比較例に用いた原料は、以下の通りである。
〔ポリ乳酸樹脂(A)〕
・3001D(NatureWorks社製、D-乳酸含有量:1.4モル%、MFR:11g/10分)
【0044】
〔アイオノマー樹脂(B)〕
・ハイミラン1706(三井デュポンポリケミカル社製アイオノマー、亜鉛イオン中和型エチレンメタクリル酸共重合樹脂、MFR:0.9g/10分)
・ハイミラン1855(三井デュポンポリケミカル社製、アイオノマー樹脂、亜鉛イオン中和エチレンメタクリル酸共重合樹脂、MFR:1.0g/10分)
・ハイミラン1702(三井デュポンポリケミカル社製、アイオノマー樹脂、亜鉛イオン中和エチレンメタクリル酸共重合樹脂、MFR:16g/10分)
【0045】
〔アイオノマー樹脂と同骨格の金属イオン置換されていないポリマー〕
・ニュクレルAN4213C(三井デュポンポリケミカル社製、エチレンメタクリル酸共重合樹脂、MFR:10g/10分)
〔低密度ポリエチレン〕
・ノバテックLD LJ401(日本ポリエチレン社製低密度ポリエチレン、MFR:1.5g/10分)
【0046】
〔充填剤〕
・タルク(竹原化学工業社製 ハイミクロンタルクHE5、平均粒子径:1.6μm)
【0047】
〔汚れ防止剤のマスターバッチペレット〕
二軸押出機(池貝社製、PCM-30)を用い、ポリ乳酸樹脂(3001D)99質量部と、汚れ防止剤(フッ化ビニリデン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ダイキン工業社製『PPA DA-310ST』)1質量部とをブレンドして押出機に供給した。温度200℃、スクリュー回転数120rpm、吐出量7kg/hの条件で混練、押出した。引き続き、押出機先端から吐出されたストランドを、冷却バスで冷却後、ペレタイザーにて引き取り、カッティングして汚れ防止剤のマスターバッチペレット(M)を得た。
【0048】
実施例1
二軸押出機(池貝社製、PCM-30、スクリュー径29mm、L/D30、ダイス径3mm、孔数3)を用い、ポリ乳酸樹脂(A)として3001Dを95質量部と、アイオノマー樹脂(B)としてハイミラン1706を5質量部とをブレンドして、押出機に供給した。温度200℃、スクリュー回転数120rpm、吐出量7kg/hの条件で混練、押出した。引き続き、押出機先端から吐出されたストランドを、冷却バスで冷却後、ペレタイザーにて引き取り、カッティングして樹脂組成物のペレットを得た。得られた樹脂組成物のペレットを65℃×48時間の条件で乾燥して、水分率を0.01%とした。
この乾燥させた樹脂組成物ペレットを、モノフィラメント製造装置(単軸押出機(日本製鋼所社製、スクリュー径60mm、溶融押出しゾーン1200mm))を用い、紡糸温度220℃の条件で、得られるモノフィラメントの直径が1.75mmになるように吐出量を調整して、孔径5mmで1孔有する丸断面の紡糸口金から押出した。引き続き、押し出されたモノフィラメントを紡糸口金より20cm下の冷却温水50℃に浸漬し、引き取り速度30m/分で調整しながら引き取り、モノフィラメントを得た。冷却時間は約1分であった(未延伸)。
【0049】
実施例2、3、5、6、8、9、11~13、比較例2、6、7
表1に記載された樹脂組成に変更する以外は、実施例1と同様の操作をおこなって、樹脂組成物のペレットを得た後、未延伸のモノフィラメントを得た。
【0050】
実施例4
実施例3で得られた樹脂組成物のペレット(65℃×48時間の条件で乾燥して、水分率を0.01%としたもの)を、モノフィラメント製造装置(単軸押出機(日本製鋼所社製、スクリュー径60mm、溶融押出しゾーン1200mm))を用い、紡糸温度200℃の条件で、得られる延伸後のモノフィラメントの直径が1.75mmになるように吐出量を調整して、孔径5mmで1孔有する丸断面の紡糸口金から押出した。引き続き、押し出されたモノフィラメントを紡糸口金より20cm下の冷却温水50℃に浸漬し、引き取り速度30m/分で調整しながら引き取り、延伸したモノフィラメントを得た(延伸倍率=3.0)。冷却時間は約1分であった。
【0051】
実施例7、10
表1に記載された樹脂組成に変更してブレンドした以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物のペレットを得た。そして、得られた樹脂組成物のペレットを用いて、実施例4と同様の操作をおこなって、樹脂組成物のペレットを得た後、延伸したモノフィラメントを得た。
【0052】
比較例1
3001Dとハイミラン1706とをブレンドして供給することに代えて、3001Dを単独を供給することに変更する以外は、実施例1と同様の操作をおこなって、樹脂組成物のペレットを得た後、未延伸のモノフィラメントを得た。
【0053】
比較例3
表1に記載された樹脂組成に変更する以外は実施例1と同様の操作をおこなって、樹脂組成物のペレットを得た後、未延伸のモノフィラメントを得ようとしたが、ポリ乳酸樹脂に含有させるアイオノマー樹脂の含有量が過多であったため、製糸性に劣り、モノフィラメントを得ることができなかった。
【0054】
比較例4
表1に記載された樹脂組成に変更する以外は実施例1と同様の操作をおこなって、樹脂組成物のペレットを得た後、未延伸のモノフィラメントを得ようとしたが、ポリ乳酸樹脂に、ポリ乳酸樹脂のMFR値よりも高いMFR値を有するアイオノマー樹脂を含有させたため、製糸性に劣り、モノフィラメントを得ることができなかった。
【0055】
比較例5
表1に記載された樹脂組成に変更する以外は実施例1と同様の操作をおこなって、樹脂組成物のペレットを得た後、未延伸のモノフィラメントを得ようとしたが、ポリ乳酸樹脂に、アイオノマー樹脂ではなく、アイオノマー樹脂と同骨格の金属イオン置換されていないポリマーを含有させたため、ポリ乳酸樹脂とポリオレフィン樹脂との相溶性が悪く、製糸性に劣り、モノフィラメントを得ることができなかった。
【0056】
実施例、比較例で得られた樹脂組成物の特性、得られたモノフィラメントの特性、3Dプリンターのノズルの汚れ、造形性、得られた造形物の特性を表1に示す。
【0057】
【0058】
実施例1~13は、ポリ乳酸樹脂にアイオノマー樹脂を適量配合した樹脂組成物であったため、製糸性、研磨性、柔軟性いずれにも優れていた。このため、これらの樹脂組成物は、熱溶解積層法3Dプリンターの造形材料として、好適に用いることができるものであった。
実施例6、9の造形物は、ポリ乳酸樹脂に、アイオノマー樹脂に加えてタルクを含有させた樹脂組成物を用いたため、実施例3の造形物と対比して、寸法安定性に優れていた。
実施例7、10の造形物は、ポリ乳酸樹脂に、アイオノマー樹脂に加えてタルクを含有させた樹脂組成物を用いたため、実施例4の造形物と対比して、寸法安定性に優れていた。
実施例13の造形物は、ポリ乳酸樹脂に、アイオノマー樹脂に加えてタルクを含有させた樹脂組成物を用いたため、実施例11の造形物と対比して、寸法安定性に優れていた。
実施例4、7、10のモノフィラメントは、3倍延伸したものであったため、実施例3、6、9のモノフィラメントと対比して、耐屈曲性が向上し、表面のざらつきが改善されていた。
実施例9、10のモノフィラメントは、汚れ防止剤を含有した樹脂組成物を用いたため、実施例6、7のモノフィラメントと対比して、3Dプリンターによる造形時において、ノズルの汚れの付着が少なかった。
【0059】
比較例1の樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂にアイオノマー樹脂を含有させなかったため、研磨性および柔軟性に劣っていた。
比較例2の樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂に含有させるアイオノマー樹脂の含有量が過少であったため、研磨性および柔軟性に劣っていた。
比較例6の樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂に、アイオノマー樹脂を含有させずに低密度ポリエチレンを含有させたため、研磨性に劣っていた。
比較例7の樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂に、アイオノマー樹脂を含有させずにタルクのみを含有させたため、柔軟性に劣っていた。