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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-08
(45)【発行日】2023-08-17
(54)【発明の名称】貝類養殖篭
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/55 20170101AFI20230809BHJP
【FI】
A01K61/55
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019207620
(22)【出願日】2019-11-18
(65)【公開番号】P2021078386
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】592155522
【氏名又は名称】株式会社東北総合研究社
(74)【代理人】
【識別番号】100067356
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 容一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100160004
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 憲雅
(74)【代理人】
【識別番号】100120558
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 勝彦
(74)【代理人】
【識別番号】100148909
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧澤 匡則
(72)【発明者】
【氏名】工藤 聖也
(72)【発明者】
【氏名】笹原 文武
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-022773(JP,A)
【文献】特開平11-220971(JP,A)
【文献】実開昭56-111670(JP,U)
【文献】特開2007-215449(JP,A)
【文献】特開2006-006180(JP,A)
【文献】特開2012-029643(JP,A)
【文献】特開2000-032868(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/55
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ほたて貝等の稚貝の養殖に用いる養殖篭であって、
この養殖篭は、多角形の底網と、この底網の縁から立ち上がる複数の三角形の側網とを有する多角錐篭であり、
隣り合う前記側網が交わる稜線の全数に、開口部が設けられ
前記開口部は、100%植物由来のバイオポリマーからなり、海水中で6か月経過すると90%以上が生分解される留め具で、仮留めされていることを特徴とする貝類養殖篭。
【請求項2】
ほたて貝等の稚貝の養殖に用いる養殖篭であって、
この養殖篭は、四角形の底網と、この底網の縁から立ち上がる4枚の三角形の側網とを有する四角錐篭であり、
隣り合う前記側網が交わる稜線のうち対角の2本に、開口部が設けられ、
前記開口部は、100%植物由来のバイオポリマーからなり、海水中で6か月経過すると90%以上が生分解される留め具で、仮留めされていることを特徴とする貝類養殖篭。
【請求項3】
ほたて貝等の稚貝の養殖に用いる養殖篭であって、
この養殖篭は、多角形の底網と、この底網の縁から立ち上がる複数の三角形の側網とを有する多角錐篭であり、
隣り合う前記側網が交わる稜線の全数に、開口部が設けられ、
前記開口部は、海中で30日程度で破断するように一部を薄肉にしたステーブラの針で、仮留めされていることを特徴とする貝類養殖篭。
【請求項4】
ほたて貝等の稚貝の養殖に用いる養殖篭であって、
この養殖篭は、四角形の底網と、この底網の縁から立ち上がる4枚の三角形の側網とを有する四角錐篭であり、
隣り合う前記側網が交わる稜線のうち対角の2本に、開口部が設けられ、
前記開口部は、海中で30日程度で破断するように一部を薄肉にしたステーブラの針で、仮留めされていることを特徴とする貝類養殖篭。
【請求項5】
ほたて貝等の稚貝の養殖に用いる養殖篭であって、
この養殖篭は、多角形の底網と、この底網の縁から立ち上がる複数の三角形の側網とを有する多角錐篭であり、
隣り合う前記側網が交わる稜線の全数に、開口部が設けられ、
前記開口部は、海中で30日程度で破断するようにV字切り込みを入れた針金で、仮留めされていることを特徴とする貝類養殖篭。
【請求項6】
ほたて貝等の稚貝の養殖に用いる養殖篭であって、
この養殖篭は、四角形の底網と、この底網の縁から立ち上がる4枚の三角形の側網とを有する四角錐篭であり、
隣り合う前記側網が交わる稜線のうち対角の2本に、開口部が設けられ、
前記開口部は、海中で30日程度で破断するようにV字切り込みを入れた針金で、仮留めされていることを特徴とする貝類養殖篭。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ほたて貝等の稚貝の養殖に用いる養殖篭に関する。
【背景技術】
【0002】
貝類の養殖篭は、各種の形状のものが知られている(例えば、特許文献1(図2)参照)。
【0003】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図8は従来の養殖篭の基本構成を説明する図である。
養殖篭100は、リングフレーム101と、複数のリングフレーム101を所定間隔で吊るす吊りロープ102と、リングフレーム101に水平に張られた底網103と、この底網103の縁から吊りロープ102に沿って立ち上げられた側網104と、この側網104に設けられた出入口としての開口部105と、この開口部105を閉じる縫合糸106とからなる円筒篭である。
【0004】
縫合糸106は、てぐす糸などのプラスチックフィラメントであり、開口部105は、縫合糸106により、ジグザグ状に縫合されることにより、閉じ合わせられる(特許文献1、段落0028)。
【0005】
ほたて貝等の養殖は、2mm程度の大きさの稚貝が80mm程度の大きさになるまで、網目を変えた複数種類の養殖篭100で行われる。
ある大きさの網目の養殖篭100で、稚貝は、数ヶ月養殖される。数ヶ月後に、養殖篭100を、陸又は船上に上げ、縫合糸106を引き抜き、開口部105を開く。開口部105から稚貝を取り出す。
【0006】
そして、稚貝を、大きな網目の養殖篭100の開口部105から投入し、この開口部105を縫合糸106で閉じる。稚貝は、大きな網目の養殖篭100で数ヶ月間養殖される。数ヶ月後に、養殖篭100を、陸に上げ、縫合糸106を引き抜き、開口部105を開く。開口部105を下にして、稚貝を落下させる。
このようなことが、3回程度行われる。
【0007】
しかし、養殖篭100には、次に述べる問題点がある。
養殖篭100は、数ヶ月間海中に吊り下げられる。この間に、海洋生物や汚れ(以下、汚れ等という。)が、側網104に付着する。開口部105及び縫合糸106は、汚れ等で覆われて、見えなくなる。
【0008】
そこで、稚貝を取り出す前に、養殖篭100から汚れ等を除去し(落とし)つつ、開口部105を探す。
確率に依存するが、側網104のほぼ全周(円筒であれば360°)の汚れ等を除去するため、除去時間が長くなり、作業能率が低下する。
【0009】
近年、稚貝の取り出しを機械に委ねる試みがなされているが、開口部105を機械の指定場所に向ける必要があり、開口部105を探すことは人の仕事であることに変わりはない。機械を導入したとしても、省人効果が小さくなる。このことが機械化の妨げになっている。
【0010】
作業能率の向上及び機械化が求められる中、開口部を簡単に見つけることができる養殖篭が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2015-216870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、開口部を簡単に見つけることができる養殖篭を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に係る発明は、ほたて貝等の稚貝の養殖に用いる養殖篭であって、
この養殖篭は、多角形の底網と、この底網の縁から立ち上がる複数の三角形の側網とを有する多角錐篭であり、
隣り合う前記側網が交わる稜線の全数に、開口部が設けられ
前記開口部は、100%植物由来のバイオポリマーからなり、海水中で6か月経過すると90%以上が生分解される留め具で、仮留めされていることを特徴とする。
【0014】
請求項2に係る発明は、ほたて貝等の稚貝の養殖に用いる養殖篭であって、
この養殖篭は、四角形の底網と、この底網の縁から立ち上がる4枚の三角形の側網とを有する四角錐篭であり、
隣り合う前記側網が交わる稜線のうち対角の2本に、開口部が設けられ、
前記開口部は、100%植物由来のバイオポリマーからなり、海水中で6か月経過すると90%以上が生分解される留め具で、仮留めされていることを特徴とする。
【0015】
請求項3に係る発明は、ほたて貝等の稚貝の養殖に用いる養殖篭であって、
この養殖篭は、多角形の底網と、この底網の縁から立ち上がる複数の三角形の側網とを有する多角錐篭であり、
隣り合う前記側網が交わる稜線の全数に、開口部が設けられ、
前記開口部は、海中で30日程度で破断するように一部を薄肉にしたステーブラの針で、仮留めされていることを特徴とする。
【0016】
請求項4に係る発明は、ほたて貝等の稚貝の養殖に用いる養殖篭であって、
この養殖篭は、四角形の底網と、この底網の縁から立ち上がる4枚の三角形の側網とを有する四角錐篭であり、
隣り合う前記側網が交わる稜線のうち対角の2本に、開口部が設けられ、
前記開口部は、海中で30日程度で破断するように一部を薄肉にしたステーブラの針で、仮留めされていることを特徴とする。
【0017】
請求項5に係る発明は、ほたて貝等の稚貝の養殖に用いる養殖篭であって、
この養殖篭は、多角形の底網と、この底網の縁から立ち上がる複数の三角形の側網とを有する多角錐篭であり、
隣り合う前記側網が交わる稜線の全数に、開口部が設けられ、
前記開口部は、海中で30日程度で破断するようにV字切り込みを入れた針金で、仮留めされていることを特徴とする。
【0018】
請求項6に係る発明は、ほたて貝等の稚貝の養殖に用いる養殖篭であって、
この養殖篭は、四角形の底網と、この底網の縁から立ち上がる4枚の三角形の側網とを有する四角錐篭であり、
隣り合う前記側網が交わる稜線のうち対角の2本に、開口部が設けられ、
前記開口部は、海中で30日程度で破断するようにV字切り込みを入れた針金で、仮留めされていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に係る発明では、養殖篭は多角錐篭であり、開口部は稜線の全数に設けられている。
仮に、4つの稜線の一つにだけ開口部が設けられていると、4つの稜線の全数から汚れ等を落として、開口部を露出させる必要があり、作業時間が延びる。
対して、本発明では、4つの稜線のうち、一つの稜線だけ汚れ等を落として、開口部を露出させればよく、作業時間が1/4になる。
よって、本発明により、開口部を時間をかけずに簡単に見つけることができる養殖篭が提供される。
加えて、開口部は、100%植物由来のバイオポリマーからなり、海水中で6か月経過すると90%以上が生分解される留め具で、仮留めされている。
養殖篭を海中に投下するときには、開口部は留め具で閉じられている。稚貝は逃げない。
養殖中に、留め具が無くなり、養殖篭を海中から引き上げる頃には、開口部は開いている。
開いているため、開口部が見つけやすくなると共に縫合糸を除去する作業が不要となり、作用能率が向上する。
【0021】
請求項2に係る発明では、養殖篭は四角錐篭であり、開口部は稜線のうち対角の2本に設けられている。
仮に、4つの稜線の一つにだけ開口部が設けられていると、4つの稜線の全数から汚れ等を落として、開口部を露出させる必要があり、作業時間が延びる。
対して、本発明では、隣り合う2本の稜線の汚れ等を落とす。2本の稜線の一方から開口部が現れる。
よって、本発明により、開口部を時間をかけずに簡単に見つけることができる養殖篭が提供される。
加えて、開口部は、100%植物由来のバイオポリマーからなり、海水中で6か月経過すると90%以上が生分解される留め具で、仮留めされている。
養殖篭を海中に投下するときには、開口部は留め具で閉じられている。稚貝は逃げない。
養殖中に、留め具が無くなり、養殖篭を海中から引き上げる頃には、開口部は開いている。
開いているため、開口部が見つけやすくなると共に縫合糸を除去する作業が不要となり、作用能率が向上する。
【0022】
請求項3に係る発明では、養殖篭は多角錐篭であり、開口部は稜線の全数に設けられている。
仮に、4つの稜線の一つにだけ開口部が設けられていると、4つの稜線の全数から汚れ等を落として、開口部を露出させる必要があり、作業時間が延びる。
対して、本発明では、4つの稜線のうち、一つの稜線だけ汚れ等を落として、開口部を露出させればよく、作業時間が1/4になる。
よって、本発明により、開口部を時間をかけずに簡単に見つけることができる養殖篭が提供される。
加えて、開口部は、海中で30日程度で破断するように一部を薄肉にしたステーブラの針で、仮留めされている。
養殖篭を海中に投下するときには、開口部は留め具で閉じられている。稚貝は逃げない。
養殖中に、留め具が無くなり、養殖篭を海中から引き上げる頃には、開口部は開いている。
開いているため、開口部が見つけやすくなると共に縫合糸を除去する作業が不要となり、作用能率が向上する。
【0023】
請求項4に係る発明では、養殖篭は四角錐篭であり、開口部は稜線のうち対角の2本に設けられている。
仮に、4つの稜線の一つにだけ開口部が設けられていると、4つの稜線の全数から汚れ等を落として、開口部を露出させる必要があり、作業時間が延びる。
対して、本発明では、隣り合う2本の稜線の汚れ等を落とす。2本の稜線の一方から開口部が現れる。
よって、本発明により、開口部を時間をかけずに簡単に見つけることができる養殖篭が提供される。
加えて、開口部は、海中で30日程度で破断するように一部を薄肉にしたステーブラの針で、仮留めされている。
養殖篭を海中に投下するときには、開口部は留め具で閉じられている。稚貝は逃げない。
養殖中に、留め具が無くなり、養殖篭を海中から引き上げる頃には、開口部は開いている。
開いているため、開口部が見つけやすくなると共に縫合糸を除去する作業が不要となり、作用能率が向上する。

【0024】
請求項5に係る発明では、養殖篭は多角錐篭であり、開口部は稜線の全数に設けられている。
仮に、4つの稜線の一つにだけ開口部が設けられていると、4つの稜線の全数から汚れ等を落として、開口部を露出させる必要があり、作業時間が延びる。
対して、本発明では、4つの稜線のうち、一つの稜線だけ汚れ等を落として、開口部を露出させればよく、作業時間が1/4になる。
よって、本発明により、開口部を時間をかけずに簡単に見つけることができる養殖篭が提供される。
加えて、開口部は、海中で30日程度で破断するようにV字切り込みを入れた針金で、仮留めされている。
養殖篭を海中に投下するときには、開口部は留め具で閉じられている。稚貝は逃げない。
養殖中に、留め具が無くなり、養殖篭を海中から引き上げる頃には、開口部は開いている。
開いているため、開口部が見つけやすくなると共に縫合糸を除去する作業が不要となり、作用能率が向上する。
【0025】
請求項6に係る発明では、養殖篭は四角錐篭であり、開口部は稜線のうち対角の2本に設けられている。
仮に、4つの稜線の一つにだけ開口部が設けられていると、4つの稜線の全数から汚れ等を落として、開口部を露出させる必要があり、作業時間が延びる。
対して、本発明では、隣り合う2本の稜線の汚れ等を落とす。2本の稜線の一方から開口部が現れる。
よって、本発明により、開口部を時間をかけずに簡単に見つけることができる養殖篭が提供される。
加えて、開口部は、海中で30日程度で破断するようにV字切り込みを入れた針金で、仮留めされている。
養殖篭を海中に投下するときには、開口部は留め具で閉じられている。稚貝は逃げない。
養殖中に、留め具が無くなり、養殖篭を海中から引き上げる頃には、開口部は開いている。
開いているため、開口部が見つけやすくなると共に縫合糸を除去する作業が不要となり、作用能率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明に係る貝類養殖篭の断面図である。
図2】本発明に係る養殖篭の斜視図である。
図3】(a)は開いている開口部の拡大図、(b)は閉じている開口部の拡大図、(c)は留め具で留めた開口部の拡大図、(d)は(c)のd部拡大図である。
図4】養殖のフロー図である。
図5】(a)は養殖篭の平面図、(b)は稚貝の取り出しを説明する図、(c)は、養殖篭の変更例を説明する平面図である。
図6】養殖篭のさらなる変更例を説明する斜視図である。
図7】養殖篭のさらなる変更例を説明する斜視図である。
図8】従来の養殖篭の基本構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
【実施例
【0028】
図1に示すように、貝類養殖篭(以下、養殖篭と略記する。)10は、樹脂で被覆された軟鋼線11を折り曲げて枠状にした枠体12と、この枠体12を下から覆う底網13と、この底網13の縁から立ち上がる側網14と、枠体12の中心に絡めた後に上下に延ばされる吊りロープ15と、この吊りロープ15に側網14の上端を縛る結束材16とからなる多角錐篭である。
吊りロープ15は、養殖篭10から上下に延びていて、複数の養殖篭10を繋ぐことができるようになっている。
【0029】
図2に示すように、養殖篭10は、例えば、四角錐篭である。この場合は、底網は四角形となる。側網14は、三角形を呈する。隣り合う側網14が交わる部位は、稜線17となる。四角錐篭であれば、稜線17は4本になる。三角錐篭であれば、稜線17は3本、六角錐篭であれば、稜線17は6本となる。
【0030】
四角錐篭の4本の稜線17において、好ましくは、全数に開口部18を設ける。又は、対角の2本に開口部18を設ける。又は、3本に開口部18を設ける。
【0031】
図1に示す稜線17において、底網13から直ぐの部分は「立ち」と呼ばれる起立部21であり、この起立部21の上端から斜め部22となっている。
起立部21を、稜線17の下部17aと呼び、斜め部22を稜線17の上部17bと呼ぶ。開口部18は、下部17aには設けない。開口部18は、上部17bの全部又は一部に設ける。
【0032】
起立部21(下部17a)は、稚貝が横移動するときに、主として当たる部位である。起立部21(下部17a)に、開口部18を設けないことで、稚貝は養殖篭10から脱出しにくくなる。
【0033】
図3に基づいて、開口部18を詳しく説明する。
吊りロープ(図1、符号15)を緩めると、図3(a)に示すように、開口部18が開き、稚貝の出し入れが行える。
吊りロープ(図1、符号15)を引き上げる(タイトにする)と側網14が引っ張られ、図3(b)に示すように、開口部18は閉じる。
【0034】
海中投下に備えて、図3(c)に示すように、開口部18を、留め具23としてのステープラの針24で留める。ステープラの針24は、開口部18当たり1~3個でよい。
図3(d)に示すように、ステープラの針24は、錆びやすい炭素鋼のコ字針の両足25を側網14の縁同士に貫通させた後に、両足25を折り曲げてなる。炭素鋼は、海中で塩素イオンと酸素イオンにより、激しく腐食され、減肉し脆弱になる。減肉が著しい場合は、針24自体が溶解し消失する。
【0035】
留め具23は、海中で、数時間~数ヶ月で溶解又は脆弱化するものであれば、種類は問わない。留め具23は、例えば、株式会社カネカ製生分解ポリマーPHBH(登録商標)の糸又は紐である。PHBH(登録商標)は、100%植物由来のバイオポリマーであって、30℃の海水中で6か月経過すると90%以上が生分解される。
【0036】
次に、本発明に係る養殖篭10の好ましい使用法を、図4に基づいて説明する。
図4に示すST01(ステップ番号01、以下同様)で、養殖篭に稚貝を投入する。次に、開口部を留め具で留める(ST02)。次に、養殖篭を海中に投下する(ST03)。
【0037】
投下のときに、底網に載っている稚貝が海水で押し上げられ、養殖篭内を浮遊する。このときには、開口部は留め具で止められているため、稚貝が開口部から逃げることはない。この投下作業は、数分で完了する。
【0038】
留め具は、材質によるが、海中に数時間~数ヶ月で、溶解(又は半溶解)する。
留め具が溶解して消失すると、図3(b)の形態になる。図3(b)では、側網14が上下に引っ張られているため、開口部18は閉じた状態となる。
【0039】
図1にて、養殖中は、稚貝は、主に底網13に載っており、ときどき移動して側網14の下部17aに当たる。下部17aには開口部18がないため、稚貝が逃げることはない。
まれに、稚貝が上昇するが、このときでも殆どは上部17bに当たって底網13へ落下する。ごくまれに、上昇した稚貝が、開口部18に当たるが、図3(b)のように閉じているため、稚貝が開口部18から逃げるリスクは少ない。
【0040】
よって、開口部18から留め具23が無くなった状態で、養殖が続けられる。
図4のST04に示すように、数ヶ月後に養殖篭が引き上げられる。陸上又は船上で、稚貝の取り出し作業が行われる(ST05)。
【0041】
稚貝の取り出し作業について、図5に基づいて詳しく説明する。
養殖篭10には、汚れ等が密に付着しているが、図5(a)に示すように、4本の稜線17(場所を区別するために、17A~17Dの符号を併記した。)は、何とか見える。
【0042】
1本の稜線17Aを、手で叩く若しくは揺する又は棒などで打って、汚れ等を落とす。図3(d)に示す留め具23が半溶解状態又は脆弱状態であっても、叩くことにより、留め具23は破壊される。叩くことにより、開口部18Aが現れる。
そこで、図5(a)にて、養殖篭10を45°程度、図面反時計方向に回す。
図5(b)に示すように、開口部18Aが最も下になるように養殖篭10を傾ける。開口部18Aから稚貝が落下する。
【0043】
なお、図5(c)に示すように、稜線17Bと稜線17Dの開口部18B、18Dは、設けなくてもよい。開口部18A、18Cの数を減らすことで、養殖篭10を安価にすることができる。
ただし、図5(c)の養殖篭10は、隣り合う2本の稜線(例えば、17Aと17B)を、手で叩くなどして、汚れ等を落とす。2本の稜線(例えば、17Aと17B)の一方から開口部(例えば、18A)が現れる。
【0044】
よって、本発明においては、稜線17の全数に開口部18を設けることが好ましいが、2本以上の稜線に設けることであってもよい。
【0045】
図4のST06にて、空になった養殖篭を次の使用に備えてクリーニングする。
また、ST05で取り出した稚貝を、網目が大きな養殖篭に移す場合には、ST01へ戻って、フローを続ければよい。
【0046】
次に、本発明の変更例を説明する。
図6に示すように、全数の稜線17に各々開口部18が設けられており、開口部18は、非溶解性の糸又は紐26で閉じられている。非溶解性の糸又は紐26は、陸上又は船上で、引き抜く。
【0047】
仮に、4つの稜線17の一つにだけ開口部18が設けられ、この開口部18が糸又は紐26で閉じられていると、4つの稜線17の全数から汚れ等を落として、開口部18を露出させる必要があり、作業時間が延びる。
【0048】
対して、図6の実施例では、4つの稜線17のうち、一つの稜線17だけ汚れ等を落として、開口部18を露出させればよい。作業時間が1/4になる。
【0049】
また、図7に示すように、4つの稜線のうち、一つの稜線17Aにだけ開口部18Aを設け、この開口部18Aを炭素鋼又はバイオプラスチックからなる留め具23で仮留めする。
汚れ等が付着した養殖篭10において、4つの稜線17の全数を、手で叩く若しくは揺する又は棒で打つと、開口部18Aが表れる。叩くなどの手間は、増えるが、養殖篭10は安価となる。
【0050】
尚、図7では、養殖篭10は、打撃の手間は増えるが、円筒篭であってもよい。
また、溶解若しくは半溶解又は脆弱になる物質は、炭素鋼やバイオプラスチックの他、特殊な紙、紙とバイオプラスチックの混紡糸など、一定時間後に生分解される物質であれば、種類は問わない。一定時間は、養殖篭10を海中に投下するする時間(数時間)より長く、1回の養殖期間(数ヶ月)より短かい時間をいう。
【0051】
また、実施例で述べたステープラの針24の場合、針材の一部を薄肉にして、海中30日程度で破断するようにしてもよい。ステープラの針24を、針金に代えてもよく、この場合も針金に、ペンチでV字切り込みを入れて脆弱化させてもよい。
【0053】
また、養殖篭10は、図1において、側網14の全てが斜め部22であってもよい。この場合は、斜め部22の一部が下部17a、残部が上部17bとなり、この上部17bに開口部18が設けられる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、ほたて貝等の稚貝の養殖に用いる養殖篭に好適である。
【符号の説明】
【0055】
10…貝類養殖篭(養殖篭)、13…底網、14…側網、17、17A~17D…稜線、17a…稜線の下部、17b…稜線の上部、18、18A~18D…開口部、23…留め具。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8