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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-08
(45)【発行日】2023-08-17
(54)【発明の名称】茸菌床の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 18/22 20180101AFI20230809BHJP
   A01G 24/23 20180101ALI20230809BHJP
【FI】
A01G18/22
A01G24/23
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019230144
(22)【出願日】2019-12-20
(65)【公開番号】P2021097606
(43)【公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】503354000
【氏名又は名称】株式会社佐藤菌苑
(74)【代理人】
【識別番号】100122552
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 浩二郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 隆
【審査官】中村 圭伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-254643(JP,A)
【文献】特開2003-117376(JP,A)
【文献】特開2005-102521(JP,A)
【文献】特開昭56-140825(JP,A)
【文献】特開2002-281828(JP,A)
【文献】韓国公開実用新案第20-2011-0009661(KR,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 18/00 - 18/80
A01G 24/00 - 24/60
B01F 27/00 - 27/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オガを主成分とした菌床材料を攪拌機の攪拌槽に投入し、所定割合の水を加えて前記菌床材料の含水率を上げながら攪拌を行う攪拌工程と、攪拌後の前記菌床材料を加熱して殺菌処理を行う熱殺菌工程を有する茸菌床の製造方法において、前記攪拌工程で前記菌床材料に加える水に9度以下の冷水を用いる、ことを特徴とする茸菌床の製造方法。
【請求項2】
前記冷水は6度以下の温度であって、投入した前記菌床材料の総量に対し50重量%以上の量を加えるものである、ことを特徴とする請求項1に記載した茸菌床の製造方法。
【請求項3】
前記攪拌工程において、前記冷水のほか、炭酸カルシウム又は/及びセルカ又は/及び消石灰の所定量を加えることにより前記菌床材料の酸性化を低減させる、ことを特徴とする請求項1又は2に記載した茸菌床の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、茸菌床の製造方法に関し、殊に、夏などの高温期において、菌床材料の攪拌から加熱殺菌処理の効果が出るまでの間に発酵が進んで酸性度の高い茸菌床になるのを防止するための茸菌床の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
茸の栽培に用いる菌床(茸培地)の製造においては、オガ、米ぬか、フスマ、コーンなどの菌床材料に水を加えることで含水率を上げながら攪拌機で攪拌した後、培養容器に充填したものを加熱殺菌することにより、茸菌床に雑菌が繁殖するのを防止しながら発酵による有機酸の発生を抑制しているのが一般的である。
【0003】
しかし、夏などの高温期では、攪拌機の菌床材料に水を投入すると短時間で発酵が始まるため、攪拌後に加熱殺菌の効果が出るまでの間に発酵が進み、出来上がった茸菌床では雑菌は死滅していてもpHが過剰に低下した状態になりやすいことが知られており、このような酸性度の強い茸菌床では茸種菌の発菌活着を阻害しやすいことが問題とされている。
【0004】
この問題に対し、特開2010-158213号公報には、オガ粉状の菌床材料に80度以上の熱水を30分以上かけて混入することで含水率を上げながら熱殺菌を行い、その後補充水を加えて菌床として成形する技術が提案されている。これにより、ある程度の殺菌効果が期待できるとともに、包装後に木材チップによるピンホールが生じにくいものとして、菌床で雑菌が繁殖するのを低減可能としている。
【0005】
しかしながら、大量の菌床材料にゆっくりと熱水を混入しながら攪拌しても、その後加熱処理を行わない方式によっては、当初から存在する雑菌を総て殺菌することはできないため、雑菌の繁殖に適した高温期においては、熱水の温度が下がった状態で菌床材料を包装すると、その包装内で菌が繁殖して茸種菌の発菌活着を阻害してしまうケースも生じてしまう。
【0006】
一方、高温期に作業用建物全体や攪拌機を冷却して菌床材料の発酵を抑えることも行われているが、攪拌機中の菌床材料に対し外部から冷却を加えても、その発酵を充分に抑えることは実際には困難である。また、炭酸カルシウムや貝化石(セルカ)などのpH中和剤を加えて菌床材料を中性に保つ方法も知られているが、そのpH中和剤の量を間違えてしまうと菌床材料が強アルカリになって、茸菌種の死滅や発菌阻害を招きやすくなる難点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2010-158213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような問題を解決しようとするものであり、茸栽培用の茸菌床について、その製造工程で菌の発酵を抑制して茸の栽培に適したものとすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明は、オガを主成分とした菌床材料を攪拌機の攪拌槽に投入し、所定割合の水を加えて菌床材料の含水率を上げながら攪拌を行う攪拌工程と、攪拌後の菌床材料を加熱して殺菌処理を行う熱殺菌工程を有する茸菌床の製造方法において、その攪拌工程で菌床材料に加える水に9度以下の冷水を用いる、ことを特徴とする茸菌床の製造方法とした。
【0010】
このように、攪拌槽に投入した菌床材料の含水率を上げる目的で加える水に冷水を用いる方式を採用したことにより、夏などの高温期であっても、菌床材料に水を加えてから殺菌処理の効果が出るまでの間、冷水の冷却作用で菌の繁殖を抑えることができるため、菌床材料が過剰な酸性状態になるのを防止して、中性に近く茸栽培に適した茸菌床とすることができる。
【0011】
また、この場合、その冷水は6度以下の温度であって、投入した菌床材料の総量に対し50重量%以上の量を加えることを特徴としたものとすれば、菌床材料の冷却作用が充分に発揮されやすいものとなる。
【0012】
さらに、上述した茸菌床の製造方法において、その攪拌工程で、冷水のほか、炭酸カルシウム又は/及びセルカ又は/及び消石灰の所定量を加えることにより菌床材料の酸性化を低減させる、ことを特徴としたものとすれば、菌床材料が過剰に酸性になるのを一層防止しやすいものとなり、茸栽培に一層適した茸菌床を製造できるものとなる。
【0013】
さらにまた、上述した茸菌床の製造方法により製造された茸菌床であって、pH7.0~5.5に維持された菌床材料の所定量が、個別の容器に充填されて内部への雑菌の侵入を防止可能な状態にパッキングされてなる、ことを特徴とした茸菌床とすれば、製造後に雑菌が侵入することによる発酵を防止可能として、製造時のpHを維持しやすいものとなる。
【0014】
加えて、上述した茸菌床の製造方法における攪拌工程で冷水を攪拌槽に供給して菌床材料を冷却するための冷却装置であって、外部から導入した水を冷却して9度以下の冷水にする冷却手段と、その冷水を貯留する冷水タンクと、貯留した冷水を攪拌機に向けて圧送するポンプ手段と、その冷却手段及びポンプ手段の作動を制御する制御手段とを備えており、所定の導管で攪拌機に接続された状態で、予め設定した温度の冷水を供給する、ことを特徴としたものとすれば、この冷却装置を通常の攪拌機に接続するだけで、上述した製造方法を実施することができる。
【0015】
この場合、その冷水タンクは、少なくとも1回の攪拌工程で使用する冷水の全量を貯留できるとともに、所定レベル以上の保冷機能を備えており、事前に生成して貯留しておいた冷水を攪拌工程で供給する、ことを特徴としたものとすれば、電力料金が安価な時間帯に予め冷水を生成し、使用する時まで貯留しておくことが可能になるため、茸菌床の製造コストを低廉に抑えやすいものとなる。
【発明の効果】
【0016】
菌床材料に加える水に冷水を用いる方式とした本発明によると、その冷却作用で殺菌効果が出るまでの間に発酵が進むのを抑制しながら菌床材料が過剰な酸性状態になるのを防止して、茸の栽培に適した茸菌床を提供することを可能にするものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明における実施の形態である茸菌床の製造設備の構成図である。
図2】本発明における実施例の試験結果において、本発明と対照例の温度変化の状況を示すグラフである。
図3】本発明における実施例の試験結果において、本発明と対照例のpH変化の状況を示すグラフである。
図4】本発明による個別包装された茸菌床の状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための形態を説明する。
【0019】
図1は、本実施の形態である茸菌床の製造方法を実施するための製造設備を構成する攪拌機2と冷却装置3を示している。その攪拌機2は、上面が開放した箱状の攪拌槽20の内側空間になる攪拌室20aに架設した攪拌羽根22を、モータを内蔵した駆動部23で回転駆動させながら、攪拌槽20に投入した菌床材料50を攪拌して均一の状態にするものである。
【0020】
冷却装置3は、後述する茸菌床の製造方法における攪拌工程において、冷水を攪拌槽20a内に供給して菌床材料50を冷却するための装置であり、外部から導入した水を冷却して9度以下の冷水にする冷却手段31と、生成した冷水30aを貯留する冷水タンク30と、貯留した冷水30aを攪拌機2に向けて圧送するポンプ32と、冷却手段31及びポンプ32の作動を制御するためのマイコン及び操作部を有した制御手段35とを備えており、導管39で攪拌機2に接続された状態で、予め設定した温度に冷却した冷水30aを供給するようになっている。
【0021】
そして、本発明は、オガを主成分とした菌床材料50を攪拌機2の攪拌槽20に投入し、所定割合の水を加えて攪拌を行う攪拌工程と、攪拌後の菌床材料50又はその成形物を加熱手段に入れて加熱することで殺菌処理を行う熱殺菌工程を有した茸菌床の製造方法において、その攪拌工程で菌床材料に加える水に9度以下の冷水を用いる点が最大の特徴部分となっている。
【0022】
即ち、夏などの高温期においては、攪拌槽に菌床材料を投入してその含水率を上げるために水を加えて攪拌を行うと、次の熱殺菌工程で殺菌効果が出るまでに発酵が進んで菌床材料が過剰な酸性状態になり、出来上がった茸菌床も酸性となるため、茸の生育を阻害してしまうという問題があったが、上述のように、菌床材料50に水を加えてから殺菌処理の効果が出るまでの間、冷水の冷却作用で菌の繁殖を抑えるものとして、高温期であっても菌床材料50が過剰な酸性状態になるのを防止しながらpH7~5.5の中性に近い茸栽培に適した茸菌床を製造できるようにしたものである。
【0023】
この場合、冷水は6度以下の温度にすることが好ましく、投入した菌床材料50の総量に対し50重量%以上の量を加えることが好ましく、60重量%前後が一層好ましい。このようにすることで、菌床材料50の冷却作用が充分に発揮されやすいものとなる。尚、前述の方法における冷水の投入完了から個別の容器に充填して熱殺菌工程を開始するまでの時間は、高温期の気温25~35度の環境で冷水の総量が1000L~1500Lの場合、小分けされた菌床材料の温度上昇速度を考慮すると、4~5時間以内にすることが好ましい。
【0024】
また、上述した製造方法において、その菌床材料50を攪拌する工程において、上述した冷水のほか、炭酸カルシウム、セルカ(貝化石)、消石灰などのpH中和剤を、単独又は適宜組合せた所定量を加えて菌床材料50における酸性化を低減させるようにすれば、菌床材料が過剰な酸性状態になるのを一層防止しやすいものとなる。
【0025】
攪拌工程が完了したら、冷水で冷却された菌床材料50の温度が上がらないうちに、速やかに図示しない充填設備に送り出しながら所定の容器(包装)に充填して個別の茸菌床とし、充填が完了したものから順次図示しない加熱装置に搬送し、搬送が完了したら速やかに熱殺菌工程を実施する。そして、熱殺菌工程が終了して茸菌床の温度が所定温度以下まで下がったら、各々の茸菌床に茸菌を接種するとともに、各容器内に雑菌が侵入しない状態にパッキングして、茸菌床の製造工程が総て完了する。
【0026】
一方、上述した冷却装置3の冷水タンク30については、少なくとも1回の攪拌工程で使用する冷水の全量を貯留できるサイズを有していることが好ましく、その外側を断熱材で覆う等して所定レベル以上の保冷機能を有したものとすることが好ましい。これにより、予め生成して貯留しておいた冷水を、その後に攪拌工程で供給することが可能なものとなり、例えば、電力料金が安価な深夜の時間帯に予め冷水を生成しておき、日中に使用する時まで保冷して貯留しておくことが可能となるため、茸菌床の製造コストを低廉に抑えやすいものとなる。尚、導入する水として、市水よりも温度の低い井戸水を使用することにより、電気料金を一層低廉に抑えることができる。
【0027】
また、その冷却装置3は、小型トラックの荷台に載せて運搬可能なコンパクトな形状・サイズに纏まったものであることが好ましいが、トラックの荷台から降ろしてキャスター36,36で移動させながら攪拌機2の近くに配置し、ポンプ32から延設した導管39を攪拌室20aの上部に渡したパイプ25に接続して、圧送した冷水を複数の噴出口250からまんべんなく噴出させるものとすれば良い。
【実施例
【0028】
以下に、本発明による茸菌床の製造方法の実施例について、詳細に説明しながら本発明の作用・効果について説明する。本実施例においては、図1の攪拌機2及び冷却装置3とほぼ同じ構成のものを使用し、冷水を使用する本発明と市水を使用する対照例において各々茸菌床を製造して、その製造工程における各タイミングで菌床材料・茸菌床の温度とpHを測定した。
【0029】
[実施条件]
実施日は2019年8月1日(高温期)、供給時の冷水は、温度5度でpH7.0、市水は温度22度でpH7であり、各々1200Lの量を使用した。また、菌床材料の主成分であるオガは、屋外野積の状態で40度であったが、攪拌機に投入し短時間の攪拌により荒熱放散させることで30度とした。
【0030】
[菌床材料]
1回分の菌床材料として、オガ3600L(1620kg)、麩280kg、ホミニヒード20kgを用いた(茸菌床1120床分)。
【0031】
[作業手順]
攪拌機に上記菌床材料を投入し、短時間の攪拌を行って荒熱放散させて30度の状態にしてから、攪拌工程を開始し、攪拌開始後15分で水を加え、20分間で1200Lの投入を完了して攪拌工程も同時に終了した。その後、直ちに菌床材料を小分けにして容器に充填して個別の茸菌床にする充填工程に移行し、充填が完了したものから順次加熱装置に搬送しながら1120床分の充填作業を約3時間で完了した。その後、加熱殺菌工程(100度で常圧殺菌後、120度で高圧殺菌、減圧・取り出しまで合計435分)を各々実施した。
【0032】
図2は、攪拌開始時点から殺菌工程開始直前までの菌床材料の温度の推移を示しており、図3は、攪拌開始時点から殺菌工程終了時点までの菌床材料のpHの推移を示している。
【0033】
(結果)菌床材料の温度変化については、水投入完了(攪拌工程終了)時点で対照例が28度であったのに対し本発明が21度であり、容器充填終了時点で対照例が29度であったのに対し本発明が23度であり、殺菌工程直前の時点で対照例が30度であったのに対し本発明が26度であった。この結果から、本発明において冷水を攪拌工程で投入したことによる菌床材料の冷却作用が顕著であることが分かった。
【0034】
菌床材料のpHの変化については、水投入完了時点で両者ともpH7.0の中性のままあったが、容器充填終了時点で対象例がpH6.0であったのに対し、本発明がpH6.5であり、容器充填終了時点で対象例がpH5.5に下がったのに対し、本発明はpH6.5のままであり、熱殺菌工程終了時点で対象例がpH5.0まで下がったのに対し、本発明はpH6.0であった。この結果から、本発明において冷水を攪拌工程で投入したことによる菌床材料の酸性化抑制作用が顕著であることが分かった。
【0035】
尚、熱殺菌工程後に各容器(包装)を雑菌が侵入しない状態にてパッキングした場合の本発明による個別の茸菌床は、熱殺菌工程終了時点のpH6.0がそのまま維持されると考えらえるが、上述した本発明におけるpH6.0は、経験上、種菌の活着・生育を阻害しないレベルであり、pH5.5でも活着・生育可能である。これに対し、対象例におけるpH5.0の場合は、種菌の活着・生育を阻害して発生の遅れや量の減少を招きやすいことが知られている。
【0036】
図4は、本発明による茸菌床の一例を示している。この茸菌床5は、上述した茸菌床の製造方法により製造されたものであるが、pH7.0~5.5の菌床材料50の所定量が、個別の容器であるポリバッグ55に充填され、茸の種菌が接種された状態で、上端側の開口部を熱溶着したものであり、その溶着した部分がシール部551となっている。
【0037】
また、このポリバッグ55は、内外を気・液密状態にして空気の流通を完全に閉止するようにパッキングすることのほか、図のように空気の流通を可能としながら雑菌を通さない機能を有したフィルタ部552を設けて、ある程度の空気の流通を可能としながら内部への雑菌の侵入を防止する状態にてパッキングしても良い。これにより、製造後に茸菌床が変質するのを防止しながら雑菌の侵入による発酵を防止して、製造時のpHを維持することを可能にしている。
【0038】
以上、述べたように、茸栽培用の茸菌床について、本発明により、その製造工程で発酵が進まないようにして、茸の栽培に適したものを提供できるようになった。
【符号の説明】
【0039】
2 攪拌機、3 冷却装置、5 茸菌床、20 攪拌槽、30 冷水タンク、30a 冷水、31 冷却手段、32 ポンプ、35 制御手段、50 菌床材料、55 ポリバッグ
図1
図2
図3
図4