(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-08
(45)【発行日】2023-08-17
(54)【発明の名称】ダウエルピンの保持治具及びそれを備える歯科技工用作業模型並びに歯科技工用作業模型セット
(51)【国際特許分類】
A61C 13/34 20060101AFI20230809BHJP
【FI】
A61C13/34 C
A61C13/34 A
(21)【出願番号】P 2021548609
(86)(22)【出願日】2021-01-29
(86)【国際出願番号】 JP2021003396
(87)【国際公開番号】W WO2021205720
(87)【国際公開日】2021-10-14
【審査請求日】2021-08-18
(31)【優先権主張番号】P 2020071245
(32)【優先日】2020-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509113162
【氏名又は名称】株式会社クエスト
(74)【代理人】
【識別番号】110003225
【氏名又は名称】弁理士法人豊栖特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島 隆寛
(72)【発明者】
【氏名】二宮 嗣博
(72)【発明者】
【氏名】小林 道久
【審査官】胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-042296(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0233278(US,A1)
【文献】特開2017-074348(JP,A)
【文献】登録実用新案第3003705(JP,U)
【文献】特開2014-082641(JP,A)
【文献】韓国登録実用新案第20-0346055(KR,Y1)
【文献】韓国公開実用新案第20-2008-0001879(KR,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 13/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科模型を固定するための固定プレートと、
前記固定プレートの歯科模型を固定するための面と反対の面に一端部を連結し、所定の間隔で互いに離間している複数本のダウエルピンと
を備える歯科模型固定部と、
前記歯科模型固定部を載置する上面と、
前記上面と対向する下面と、
前記上面と前記下面とを接続する周壁部と、
を備え、
前記上面は、前記複数本のダウエルピンをそれぞれ挿入するための複数の第一開口を形成しており、
前記下面は、前記第一開口とそれぞれ連通された第二開口を複数形成してなる
土台と、
前記土台の下面側に装着される、弾性を有するダウエルピン保持治具と、
を備える歯科技工用作業模型であって、
前記ダウエルピン保持治具は、前記土台の複数の第一開口に、前記歯科模型固定部のダウエルピンをそれぞれ挿入した状態で、前記第二開口から突出される前記ダウエルピンの他端部を、脱着自在に保持する保持構造を形成し、
前記保持構造は、細長い直線状に形成され
、少なくとも一方の端縁を開放したスリットを含み、
前記スリットを形成する溝の内面に前記ダウエルピンを挿入した際、前記スリットの溝の内面が弾性変形して、前記ダウエルピンの他端部を前記スリットの溝の内面に挟持するよう構成してなる歯科技工用作業模型。
【請求項2】
請求項1に記載の歯科技工用作業模型であって、
前記土台の上面は、平面プレートを含み、
前記土台がさらに、前記平面プレートの中間部分に開口された前記第一開口からそれぞれ、前記周壁部と平行に延出して、前記下面側である先端側に前記第二開口を開口した複数の筒体を備え、
前記保持構造は、前記土台の複数の筒体に、前記歯科模型固定部のダウエルピンをそれぞれ挿入した状態で、前記第二開口から突出される前記ダウエルピンの他端部を、脱着自在に保持するよう形成してなる歯科技工用作業模型。
【請求項3】
請求項1に記載の歯科技工用作業模型であって、
前記土台が、石膏体を含んでおり、
前記石膏体は、前記上面及び下面に表出されると共に、前記第一開口及び第二開口を連通する貫通孔を複数形成してなる歯科技工用作業模型。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の歯科技工用作業模型であって、
前記複数本の互いに離間したダウエルピンが、前記固定プレートの延長方向に沿って2列に設けられてなる歯科技工用作業模型。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の歯科技工用作業模型であって、
前記土台の上面がU字状に形成されてなる歯科技工用作業模型。
【請求項6】
請求項5に記載の歯科技工用作業模型であって、
前記ダウエルピン保持治具は、
前歯に対応するダウエルピンを保持する前歯保持部と、
臼歯に対応するダウエルピンを保持する臼歯保持部と
を備える歯科技工用作業模型。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の歯科技工用作業模型であって、
前記ダウエルピン保持治具が前記ダウエルピンを保持する状態で、前記ダウエルピン保持治具は前記土台の前記周壁部の内側に収納されてなる歯科技工用作業模型。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の歯科技工用作業模型であって、
前記ダウエルピン保持治具を前記歯科模型固定部に装着した際に、前記ダウエルピンが前記スリットの溝の内面に挟持されると共に、該挟持位置に、前記ダウエルピンの他端部の幅より小さい保持穴を、前記スリットの細長い直線状に沿って複数形成してなる歯科技工用作業模型。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の歯科技工用作業模型であって、
前記ダウエルピン保持治具はプラスチック製である歯科技工用作業模型。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の歯科技工用作業模型がさらに、
前記ダウエルピン保持治具を前記歯科模型固定部に連結した状態で、前記ダウエルピン保持治具が前記土台から浮き上がらないように保持するためのカバープレートを備える歯科技工用作業模型。
【請求項11】
上側歯科技工用作業模型と、
下側歯科技工用作業模型と、
前記上側歯科技工用作業模型及び下側歯科技工用作業模型を保持する咬合器であって、前記上側歯科技工用作業模型と前記下側歯科技工用作業模型が対向し、かつ前記上側歯科技工用作業模型が前記下側歯科技工用作業模型の上方に位置する姿勢で、咬合状態とする咬合器と、
を備える歯科技工用作業模型セットであって、
少なくとも前記上側歯科技工用作業模型は、
歯科模型を固定するための上側固定プレートと、
前記上側固定プレートの歯科模型を固定するための面と反対の面に一端部を連結し、所定の間隔で互いに離間している複数本の上側ダウエルピンと
を備える上側歯科模型固定部と、
前記上側歯科模型固定部を載置する上面と、
前記上面と対向する下面と、
前記上面と前記下面とを接続する上側周壁部と、
を備え、
前記上面は、複数の上側第一開口を形成しており、
前記下面は、前記上側第一開口とそれぞれ連通された上側第二開口を複数形成してなる
上側土台と、
前記上側土台の下面側に装着される、弾性を有する上側ダウエルピン保持治具と、
を備える上側歯科技工用作業模型であって、
前記上側ダウエルピン保持治具は、前記上側土台の複数の上側第一開口に、前記上側歯科模型固定部の上側ダウエルピンをそれぞれ挿入した状態で、前記上側第二開口から突出される前記上側ダウエルピンの他端部を、脱着自在に保持する保持構造を形成し、
前記保持構造は、細長い直線状に形成され
、少なくとも一方の端縁を開放したスリットを含み、
前記スリットを形成する溝の内面に前記上側ダウエルピンを挿入した際、弾性変形して、前記上側ダウエルピンの他端部を前記スリットの溝の内面に挟持するよう構成してなる歯科技工用作業模型。
【請求項12】
ダウエルピンを含む歯科模型固定部を、上面と下面を含む土台の前記上面に載置した状態で、前記ダウエルピンが前記土台から抜け落ちないように保持するためのダウエルピン保持治具であって、
前記土台の下面側に嵌入される嵌入構造を有し、
弾性を有する材質を備え、
前記上面に複数の第一開口が形成され、前記下面に前記複数の第一開口とそれぞれ連通された第二開口が形成された前記土台において、前記第一開口側に、前記歯科模型固定部のダウエルピンをそれぞれ挿入した状態で、前記第二開口から突出される前記ダウエルピンの他端部を、脱着自在に保持する保持構造を形成しており、
前記保持構造は、細長い直線状に形成され
、少なくとも一方の端縁を開放したスリットを含み、
前記スリットを形成する溝の内面に前記ダウエルピンを挿入した際、弾性変形して、前記ダウエルピンの他端部を前記スリットの溝の内面に挟持するよう構成してなるダウエルピン保持治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ダウエルピンの保持治具及びそれを備える歯科技工用作業模型並びに歯科技工用作業模型セットに関する。
【背景技術】
【0002】
歯科治療における差し歯などの歯冠補綴物製作に用いられる歯科技工用作業模型は通常、上顎用と下顎用がある。この歯科技工用作業模型は、
図17に示すように支持基台の上面に穴を形成し、この穴に歯科模型を固定したプレートから突出するダウエルピンを挿入して、歯科模型を支持基台に装着している。使用者は、その上顎用と下顎用の歯科模型をそれぞれ歯科技工用作業模型に装着し、これらを咬合器の上側と下側にそれぞれ装着し、歯科模型同士の実際の噛み合わせ等を確認しながら作業を行う。
【0003】
一般に歯科技工用作業模型は、ダウエルピンを穴に抜き差ししやすいよう、遊びを設けている。この構成の下顎用の歯科技工用作業模型は、
図17において実線の矢印で示すように、ダウエピンを上から下に向かって穴に差し込むため問題とならない。
【0004】
しかしながら、上顎用の歯科技工用作業模型は同じく
図17において実線の矢印で示すように、ダウエルピンを下から上に向かう姿勢で差し込む状態となる。このため、上顎用の歯科模型は上顎用の歯科技工用作業模型から下側に突出する姿勢となって、破線の矢印で示すように重力の作用によって自重で抜け落ちる状態となる。これでは、噛み合わせの確認等を行う際に、上顎用の歯科模型が抜け落ちないように手で押さえる必要があって、作業性が損なわれるという問題があった。
【0005】
一方で、このようなダウエルピンと支持基台との間の保持力を高め、ダウエルピンが支持基台から外れることを抑える歯科技工用作業模型900が提案されている(特許文献1)。特許文献1に係る歯科技工用作業模型は、
図18に示すように、ダウエルピン90の先端に作用凸部91が設けられている。このダウエルピン90を挿通貫通孔92に挿通すると、作用凸部91が挿通貫通孔92から突出し、支持基台93の突出部94の内面に幾分食い込む。この食い込みにより所用の保持力が得られ、逆さ状態にした場合などにおける支持基台93からの固定用プレート95の落下などが防止される。
【0006】
しかしながら、特許文献1の歯科技工用作業模型900において、ダウエルピン90の作用凸部91の大きさが大きすぎると挿通貫通孔92の内面に過度に食い込み、ダウエルピン90を支持基台93から抜きにくくなる。一方で、作用凸部91の大きさが小さすぎると食い込み量が減少し、保持力が低下する。つまり、作用凸部91と挿通貫通孔92との相対的な大きさを正確に調整する必要があり手間がかかる。またダウエルピンは、本来石膏に埋没して使用するため、あまり精度が必要とされない。従って、寸法誤差が大きく、支持基台93の挿通貫通孔92に対して必ずしも同じ深さで刺さるとは限らない。仮に、作用凸部91と挿通貫通孔92の大きさを正確に調整できたとしても、使用者がダウエルピン90を挿通貫通孔92に何度も抜き差しして作業を重ねることにより、食い込みにより得られる保持力が弱まり、固定用プレート94が支持基台93から落下することも起こり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような背景に鑑みてなされたものであり、その目的の一は、ダウエルピン及びダウエルピンを介して土台に固定されている歯科模型の一部が、土台から落下することの回避を図ることができるダウエルピンの保持治具及びそれを備える歯科技工用作業模型並びに歯科技工用作業模型セットを提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0009】
本発明の第1の側面に係る歯科技工用作業模型は、歯科模型を固定するための固定プレートと、前記固定プレートの歯科模型を固定するための面と反対の面に一端部を連結し、所定の間隔で互いに離間している複数本のダウエルピンとを備える歯科模型固定部と、前記歯科模型固定部を載置する上面と、前記上面と対向する下面と、前記上面と前記下面とを接続する周壁部と、を備え、前記上面は、前記複数本のダウエルピンをそれぞれ挿入するための複数の第一開口を形成しており、前記下面は、前記第一開口とそれぞれ連通された第二開口を複数形成してなる土台と、前記土台の下面側に装着される、弾性を有するダウエルピン保持治具と、を備える歯科技工用作業模型であって、前記ダウエルピン保持治具は、前記土台の複数の第一開口に、前記歯科模型固定部のダウエルピンをそれぞれ挿入した状態で、前記第二開口から突出される前記ダウエルピンの他端部を、脱着自在に保持する保持構造を形成し、前記保持構造は、細長い直線状に形成され、少なくとも一方の端縁を開放したスリットを含み、前記スリットを形成する溝の内面に前記ダウエルピンを挿入した際、前記スリットの溝の内面が弾性変形して、前記ダウエルピンの他端部を前記スリットの溝の内面に挟持するよう構成することができる。上記構成により、弾性を有するダウエルピン保持治具が、土台の第二開口から突出したダウエルピンを保持するため、歯科模型固定部が土台から抜け落ちてしまうという問題の回避を図ることができる。
【0010】
また、第2の側面に係る歯科技工用作業模型によれば、上記構成に加えて、前記土台の上面は、平面プレートを含み、前記土台がさらに、前記平面プレートの中間部分に開口された前記第一開口からそれぞれ、前記周壁部と平行に延出して、前記下面側である先端側に前記第二開口を開口した複数の筒体を備え、前記保持構造は、前記土台の複数の筒体に、前記歯科模型固定部のダウエルピンをそれぞれ挿入した状態で、前記第二開口から突出される前記ダウエルピンの他端部を、脱着自在に保持するよう形成することができる。
【0011】
さらに、第3の側面に係る歯科技工用作業模型によれば、上記構成に加えて、前記土台が、石膏体を含んでおり、前記石膏体は、前記上面及び下面に表出されると共に、前記第一開口及び第二開口を連通する貫通孔を複数形成することができる。
【0012】
さらにまた、第4の側面に係る歯科技工用作業模型によれば、上記何れかの構成に加えて、前記複数本の互いに離間したダウエルピンを、前記固定プレートの延長方向に沿って2列に設けることができる。上記構成により、複数のダウエルピンを延長方向に沿って2列に配置することで、二次元的に配置されたダウエルピンでもって歯科模型固定部を安定的に装着できる。
【0013】
さらにまた、第5の側面に係る歯科技工用作業模型によれば、上記何れかの構成に加えて、前記土台の上面をU字状に形成することができる。上記構成により、全顎用の歯科模型に対応することができる。
【0014】
さらにまた、第6の側面に係る歯科技工用作業模型によれば、上記構成に加えて、前記ダウエルピン保持治具は、前歯に対応するダウエルピンを保持する前歯保持部と、臼歯に対応するダウエルピンを保持する臼歯保持部とを備えることができる。上記構成により、前歯保持部と臼歯保持部といった、歯科模型固定部の特定の部分を保持するようにダウエルピン保持治具を構成することができる。この結果、歯科模型固定部の落下を防止したい部分にダウエルピン保持治具をピンポイントに設けて、不要な部分のダウエルピン保持治具を省略して効率のよい配置やコスト削減が可能となる。
【0015】
さらにまた、第7の側面に係る歯科技工用作業模型によれば、上記何れかの構成に加えて、前記ダウエルピン保持治具が前記ダウエルピンを保持する状態で、前記ダウエルピン保持治具を前記土台の前記周壁部の内側に収納することができる。上記構成により、ダウエルピン保持治具でダウエルピンを保持した状態で、ダウエルピン保持治具を土台からはみ出すことなく周壁部の内側に収納して、土台の厚さ方向の厚みを増加させない、コンパクトなサイズとすることができる。
【0016】
さらにまた、第8の側面に係る歯科技工用作業模型によれば、上記何れかの構成に加えて、前記ダウエルピン保持治具を前記歯科模型固定部に装着した際に、前記ダウエルピンが前記スリットの溝の内面に挟持されると共に、該挟持位置に、前記ダウエルピンの他端部の幅より小さい保持穴を、前記スリットの細長い直線状に沿って複数形成することができる。上記構成により、ダウエルピンを保持穴に挿入することで、ダウエルピン保持治具でダウエルピンを挟持して保持する。これにより、ダウエルピンを介して土台に装着されている歯科模型固定部が落下することなく確実に保持されることを可能とする。
【0017】
さらにまた、第9の側面に係る歯科技工用作業模型によれば、上記何れかの構成に加えて、前記ダウエルピン保持治具はプラスチック製とすることができる。プラスチックは弾性を有しており、加工も容易であるため扱いやすい。また、価格も安価で入手しやすい。
【0018】
さらにまた、第10の側面に係る歯科技工用作業模型によれば、上記何れかの構成に加えて、前記ダウエルピン保持治具を前記歯科模型固定部に連結した状態で、前記ダウエルピン保持治具が前記土台から浮き上がらないように保持するためのカバープレートを備えることができる。上記構成により、ダウエルピン保持治具が作業中のダウエルピンの抜き差しにより、土台から浮き上がってしまう問題の回避を図ることができる。
【0019】
さらにまた、第11の側面に係る歯科技工用作業模型セットは、上側歯科技工用作業模型と、下側歯科技工用作業模型と、前記上側歯科技工用作業模型及び下側歯科技工用作業模型を保持する咬合器であって、前記上側歯科技工用作業模型と前記下側歯科技工用作業模型が対向し、かつ前記上側歯科技工用作業模型が前記下側歯科技工用作業模型の上方に位置する姿勢で、咬合状態とする咬合器と、を備える歯科技工用作業模型セットであって、少なくとも前記上側歯科技工用作業模型は、歯科模型を固定するための上側固定プレートと、前記上側固定プレートの歯科模型を固定するための面と反対の面に一端部を連結し、所定の間隔で互いに離間している複数本の上側ダウエルピンとを備える上側歯科模型固定部と、前記上側歯科模型固定部を載置する上面と、前記上面と対向する下面と、前記上面と前記下面とを接続する上側周壁部と、を備え、前記上面は、複数の上側第一開口を形成しており、前記下面は、前記上側第一開口とそれぞれ連通された上側第二開口を複数形成してなる上側土台と、前記上側土台の下面側に装着される、弾性を有する上側ダウエルピン保持治具と、を備える上側歯科技工用作業模型であって、前記上側ダウエルピン保持治具は、前記上側土台の複数の上側第一開口に、前記上側歯科模型固定部の上側ダウエルピンをそれぞれ挿入した状態で、前記上側第二開口から突出される前記上側ダウエルピンの他端部を、脱着自在に保持する保持構造を形成し、前記保持構造は、細長い直線状に形成され、少なくとも一方の端縁を開放したスリットを含み、前記スリットを形成する溝の内面に前記上側ダウエルピンを挿入した際、弾性変形して、前記上側ダウエルピンの他端部を前記スリットの溝の内面に挟持するよう構成することができる。上記構成により、咬合器により保持される上側歯科技工用作業模型において、弾性を有する上側ダウエルピン保持治具が、上側土台の上側第二開口から突出した上側ダウエルピンを保持するため、歯科模型が上側土台から抜け落ちてしまうという問題の回避を図ることができる。また、上側歯科技工用作業模型と、下側歯科技工用作業模型との噛み合わせを確認することが容易となって便利に使用できる利点が得られる。
【0020】
さらにまた、第12の側面に係るダウエルピン保持治具は、ダウエルピンを含む歯科模型固定部を、上面と下面を含む土台の前記上面に載置した状態で、前記ダウエルピンが前記土台から抜け落ちないように保持するためのダウエルピン保持治具であって、前記土台の下面側に装着される形状を有し、弾性を有する材質を備え、前記上面に複数の第一開口が形成され、前記下面に前記複数の第一開口とそれぞれ連通された第二開口が形成された前記土台において、前記第一開口側に、前記歯科模型固定部のダウエルピンをそれぞれ挿入した状態で、前記第二開口から突出される前記ダウエルピンの他端部を、脱着自在に保持する保持構造を形成しており、前記保持構造は、細長い直線状に形成され、少なくとも一方の端縁を開放したスリットを含み、前記スリットを形成する溝の内面に前記ダウエルピンを挿入した際、弾性変形して、前記ダウエルピンの他端部を前記スリットの溝の内面に挟持するよう構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態に係る歯科技工用作業模型を示す斜視図である。
【
図2】
図1の歯科技工用作業模型を示す分解斜視図である。
【
図3】
図1の歯科技工用作業模型のIII-III線断面図である。
【
図4】
図2の土台を下面側から見た状態を示す斜視図である。
【
図5】
図2の歯科模型固定部と土台の変形例を示す斜視図である。
【
図6】
図1の歯科技工用作業模型の上下を逆にした状態を示す部分拡大図付き分解斜視図である。
【
図7】
図6の土台に装着するカバープレート及びカバープレートを装着する咬合器を示す斜視図である。
【
図9】咬合器に歯科技工用作業模型をセットする状態を示す斜視図である。
【
図10】歯科技工用作業模型の変形例を示す図である。
【
図11】
図10の歯科技工用作業模型を下面側から見た状態を示す斜視図である。
【
図12】本発明の他の実施形態に係る歯科技工用作業模型を示す断面図である。
【
図13】
図12の土台の上下を逆にした状態を示す分解斜視図である。
【
図14】本願発明の歯科技工用作業模型セットを示す斜視図である。
【
図15】本願発明の歯科技工用作業模型セットを示す斜視図である。
【
図16】本発明の歯科技工用作業模型セットに係る上側歯科技工用作業模型を示す斜視図である。
【
図17】従来の歯科技工用作業模型を示す概略側面図である。
【
図18】従来の歯科技工用作業模型を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明のダウエルピンの保持治具及びそれを備える歯科技工用作業模型並びに歯科技工用作業模型セットの実施形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための例示であって、本発明は以下のものに特定されない。また、本明細書は特許請求の範囲に示される部材を、実施形態の部材に特定するものでは決してない。特に実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一若しくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。
【0023】
また、歯科技工用作業模型および歯科技工用作業模型セットを示す図おいて、説明のため歯科模型を記載しているが、本願の歯科技工用作業模型および歯科技工用作業模型セットに歯科模型が含まれていることを意味するものではない。
[実施形態1]
(歯科技工用作業模型)
【0024】
本発明の実施形態1に係る歯科技工用作業模型100を、
図1の斜視図及び
図2の分解斜視図に示す。この歯科技工用作業模型100は、上顎用にも下顎用にも利用できる。すなわち、共通の歯科技工用作業模型を、上顎用歯科技工用作業模型としても、下顎用歯科技工用作業模型としても利用できる。ここでは上顎用として使用する例について、以下説明する。ただし、説明のため上下を反転させて図示しているため、下顎用歯科技工用作業模型と同じ姿勢となっている。
【0025】
歯科技工用作業模型100は、
図1に示すように、歯科模型30を固定するための歯科模型固定部10と、歯科模型固定部10が載置される土台20とを備える。この歯科技工用作業模型100は、
図2に示すように、全顎用に対応できるように、土台20の平面形状を半楕円状としている。また、歯科模型固定部10は複数のダウエルピン12を備える。さらに、土台20は平面プレート23を備え、この平面プレート23に第一開口21を形成している。
【0026】
歯科技工用作業模型は、ダウエルピンを第一開口に挿入し、ダウエルピンの先端側を後述するダウエルピン保持治具で保持することにより、土台からダウエルピン及び歯科模型固定部が落下することの回避を図ったものである。
(歯科模型固定部10)
【0027】
図2に示す歯科模型固定部10は、歯科模型30を固定するための固定プレート11と、固定プレート11に連結された複数本のダウエルピン12を備える。歯科模型固定部10は全顎用に対応するため、U字状に形成している。歯科模型30は、固定プレート11の表面に接着して固定される。一方でダウエルピン12は、固定プレート11の表面と反対側の面である底面に一端部を連結している。
(固定プレート11)
【0028】
図3は、固定プレート11を土台20に載置した際の断面図である。この図に示すように、複数の歯牙模型31を備える歯科模型30は、
図3の鎖線で示すように、歯牙模型31の境界で切断されて分割模型32となる。切断された分割模型32を独立して土台20に連結できるように、歯科模型30を固定する固定プレート10は、複数のダウエルピン12を介して土台20に連結される。したがって、好ましくは、ダウエルピン12が各々の歯牙模型32の下方に配置されるように、歯科模型30を固定プレート11に接着して固定する。歯科模型30を固定する状態で、固定プレート11と歯科模型30とを切断して分割模型32とする。
固定プレート11は、全体を石膏で製作している。そして、特定の決められた位置に複数のダウエルピン12を互いに離間して固定している。ただ、固定プレートは、全体をプラスチックで製作することもできる。プラスチック製の固定プレートは、石膏粉などの無機粉末を充填することで製作できる。無機粉末を充填してなるプラスチックで製作される固定プレートは、寸法精度と強度を高めながら、分割模型を製作するときに、切断を容易にできる。
(ダウエルピン12)
【0029】
ダウエルピン12は、固定プレート11に直交する姿勢であって、一端部を固定プレート11の底面に固定している。各々のダウエルピン12は、所定の間隔で、互いに平行な姿勢で固定プレート11に固定されている。また、ダウエルピン12は、固定プレート11の延長方向に沿ったU字状に一列で設けられている。さらに、ダウエルピン12は、
図3に示すように、一端部を固定プレート11に埋設して、他端部である先端部が固定プレート11の底面から延出している。この固定プレート11に埋設されるダウエルピン12は、一端部に鍔13を設けてもよい。鍔13を固定プレート11に埋設することにより、アンカー効果でダウエルピン12を固定プレート11から抜けにくくすることができる。
このダウエルピン12は、金属製としている。金属製であればある程度の強度を確保できる。ただ、ダウエルピンは、プラスチック製とすることもできる。さらに、ダウエルピン12は、先端を細くする先細りテーパー状としている。これにより、土台20の第一開口21にスムーズに挿入することができる。
(土台20)
【0030】
土台20は、
図2に示すように、歯科模型固定部10を載置する上面に平面プレート23と、平面プレート23の周囲に設けられる周壁部24とを備える。土台20の上面も、歯科模型固定部10と同様に、全顎用に対応するため、U字状としている。従って、平面プレート23の周囲に設けられる周壁部24も、上面に応じたU字状としている。また、土台20の材料は特に限定されないが、樹脂等のプラスチックで成形している。ここで、土台に使用される樹脂として木樹脂を使用してもよい。木樹脂は製造する工程でCO2排出量をカットすることができ、環境の負担が少ない素材である。また、木樹脂を使用した土台は切断時の感触が石膏に近く、切り口がシャープであるため模型の復元性に優れている。
【0031】
さらに、土台20は、平面プレート23の中間部分に、ダウエルピン12を抜き差しできる第一開口21を開口している。この第一開口21は、ダウエルピン12と同様に、平面プレート23の形状に沿ったU字状に、所定の間隔で一列に形成されている。つまり、歯科模型固定部10を平面プレート23に載置する際の、ダウエルピン12に対応する位置に第一開口21を形成している。ここで、平面プレート23の「中間部分」とは、平面プレート23を構成する2つの長辺のちょうど中間のみを意味するものではない。「中間部分」は平面プレート23の2つの長辺の概ね中間部分や、いずれか一方の辺に偏った部分など、2つの長辺の間に位置するすべての部分を意味している。
(筒体25)
【0032】
土台20はさらに、第一開口21からそれぞれ、周壁部24と平行に延出している複数の筒体25を備える。筒体25は、土台20の下面側であって、筒体25の先端側に、第一開口とそれぞれ連通された第二開口22を開口している。つまり筒体25は、土台20側に第一開口21を、筒体25の先端側に第二開口22を開口した中空の筒体である。筒体25は、
図3及び
図4に示すように、土台20の内側に延出するように平面プレート23と一体的に成形して設けられている。筒体25の内側は、ダウエルピン12を隙間なく挿入できる形状としている。そして、ダウエルピン12は第一開口21を介して筒体25に挿入される。ダウエルピン12の形状に沿った筒体25にダウエルピン12を挿入すると、ダウエルピン12と筒体25の内面とが接触して、ダウエルピン12を介して歯科模型固定部10を土台20に連結することができる。
【0033】
また、筒体25は、土台20に一体的に成形される補強リブ26に連結されて、補強リブ26で補強される。
図4の土台20は、横補強リブ26aで筒体12を周壁部24の内面に連結して、縦補強リブ26bで隣接する筒体25を連結している。これにより、筒体25を安定的に土台20に連結することができ、筒体25が土台20内部で傾いたりすることを抑制できる。したがって、筒体25に挿入されるダウエルピン12を確実に定位置に連結することを可能とする。
【0034】
さらに
図3に示すように、ダウエルピン12の全長を筒体25の全長よりも長くして、挿入されるダウエルピン12の先端部を、第二開口部22から突出させる状態で、土台20に連結している。そしてこの第二開口部から突出したダウエルピン12の先端部を、後述するダウエルピン保持治具40で保持することにより、ダウエルピン12を確実に土台20に連結することを可能とする。
(段差凸部27)
【0035】
図2の土台20は、上面の中央部に、固定プレート11と同じ外形の段差凸部27を設けて、この段差凸部27の天面を平面プレート23としている。段差凸部27は、好ましくは固定プレート11の外形に等しい外形に成形される。ただ、段差凸部の外形は、固定プレートの外形よりも大きく、あるいは小さく、あるいはまた異なる形状とすることもできる。
【0036】
また土台20は、上面の外周縁部であって、段差凸部27の外側に、ダウエルピン12の位置を示すダウエルピンマーク28aを形成している。
図4に示すダウエルピンマーク28aは、上面の外周縁を切り欠いた凹部である。ただ、ダウエルピンマークは、凸部や凸条、あるいは溝とすることもできる。このように、ダウエルピンマーク28aを設けた土台20は、分割模型32を作るときに、ダウエルピン12の位置を参考にしながら、最適な位置で歯科模型30と固定プレート11を切断できる。
【0037】
さらに土台20は、周壁部24の外周面に、隣接する各ダウエルピン12の間を示す位置決めマーク28bを備える。この位置決めマーク28bは、特に限定されないが、上下方向に長い突起状としている。この位置決めマーク28bを目安として、歯科模型30を固定プレート11の正確な場所に載置することができる。
【0038】
さらにまた、半楕円状の土台20は、
図4に示すように、楕円形の頂点部分の曲面に、後で述べるカバープレート50を取り付けるカバープレート用開口29aを、概ね直線状である端面にカバープレート用開口29bを形成している。
[変形例]
【0039】
上述した実施形態1においては、複数のダウエルピン12とそれに対応する第一開口21は、歯科模型固定部10及び土台20の上面のU字状に沿って、一列に形成した例を説明した。ただ、本発明のダウエルピン及びそれに対応する第一開口は、上記態様に限定されない。ダウエルピンは任意の位置及び数で歯科模型固定部に固定できる。例えば、ダウエルピンの他の固定態様を示す変形例を
図5に示す。
図5に示す歯科技工用作業模型100aの歯科模型固定部10aは、ダウエルピン12aをU字状に2列に並べて配置している。それに伴って、土台20aの平面プレート23aに形成される第一開口21aもダウエルピン12aに対応する位置に、U字状に2列で開口される。
【0040】
このダウエルピン12aの大きさは、特に限定されないが、全て同じ大きさで形成してもよい。一方で、U字状の歯科模型固定部10aの曲線状の部分において、内側に位置するダウエルピン12aを外側に位置するダウエルピン12aより細く形成してもよい。このように、ダウエルピン12aが密集している部分において、内側のダウエルピン12aを外側のダウエルピン12aより細くすることにより、歯科模型固定部10aを切断しやすくできる。このように、複数のダウエルピン12aを延長方向に沿って2列に配置することで、二次元的に配置されたダウエルピン12aでもって歯科模型固定部10aを安定的に装着できる。
(ダウエルピン保持治具40)
【0041】
図6は、
図1の歯科技工用作業模型100の上下を逆にした状態、つまり、上顎用として使用する状態を示す分解斜視図である。この図に示す歯科技工用作業模型100において、ダウエルピン12の先端部は第二開口22から上向きに突出している。この状態で、ダウエルピン保持治具40は、土台20の下面側である第二開口22側に突出したダウエルピン12に装着され、ダウエルピン12を保持する。このダウエルピン保持治具40は、土台20の下面側に嵌入される嵌入構造を有している。嵌入構造とは、ダウエルピン保持治具40が土台20の下面側に嵌入され得る形状を意味する。具体的には、土台20の下面側にダウエルピン保持治具40を嵌入でき、嵌入されたダウエルピン保持治具40が土台20の周壁部24の内側に収納され得る形状を意味する。また、ダウエルピン保持治具40の厚みは、収納されたダウエルピン40が土台20からはみ出さないような厚さとしている。ダウエルピン保持治具40が土台20からはみ出すことなく周壁部24の内側に収納されることにより、土台20の厚さ方向の厚みを増加させない、コンパクトなサイズとすることができる。
【0042】
ダウエルピン保持治具40は、弾性を有するプラスチック製であって、例えば、樹脂等で作製される。樹脂等のプラスチックは弾性を有しており、加工も容易であるため扱いやすい。また、価格も安価で入手しやすい。さらに、ダウエルピン保持治具40は、第二開口22から突出されるダウエルピン12の先端部を、脱着自在に保持する保持構造を形成している。
(保持構造)
【0043】
本実施形態において、保持構造にはスリット43を採用している。保持構造をスリットとすることで、簡単に作製でき、ダウエルピン保持治具の構成を簡易とし、製造コストの削減も可能とする。スリット43は、
図6のようにダウエルピン保持治具40を土台20に装着した状態で、土台20の外側から内側に向かう方向に形成される。ただ、スリットを形成する方向は、土台20の外側から内側に向かう方向に限定されるものでなく、例えば、土台20の内側から外側に向かう方向に形成されてもよい。
【0044】
このスリット43は、ダウエルピン保持治具40を歯科模型固定部10のダウエルピン12に装着した際、弾性変形し、ダウエルピン12の先端部がスリット43の内面に挟持される。スリット43は、
図6の部分拡大図に示すように、この挟持位置に保持穴44を形成している。この保持穴44にダウエルピン12の先端部が挿入され、保持される。また、保持穴44の幅は、ダウエルピン12の先端部の幅より小さくしている。これにより、ダウエルピン12が保持穴44に挿入されると、保持穴44を形成する部分のダウエルピン保持治具40が弾性変形し、ダウエルピン12に密着して保持する。これにより、ダウエルピン12を介して土台20に装着されている歯科模型固定部10が落下することなく、確実に保持されることを可能とする。また、ダウエルピン保持治具を土台と一体化せず、別部材としているため、製造が容易である。さらに、使用者は必要な時だけダウエルピン保持治具を歯科模型固定部のダウエルピンに装着して使用すればいいため、使い勝手もよくなる。
【0045】
また、本実施形態のダウエルピン保持治具40において、保持穴44を、1つのスリット43につき2つ形成している。保持穴44を2つ形成しておくことにより、本実施形態1のように一列に固定されているダウエルピン12だけでなく、上述の変形例で述べたように二列に固定されたダウエルピンにも対応することができる。その結果、わざわざダウエルピンの列の数に応じて保持穴の数量を変更して作製する手間が省ける。ただ、保持穴の数は、1つのスリットにつき2つに限定されるものでなく、1つ以上のいずれの個数でもよい。
(前歯保持部41及び臼歯保持部42)
【0046】
ダウエルピン保持治具40はさらに、前歯に対応するダウエルピン12を保持する前歯保持部41と、臼歯に対応するダウエルピンを保持する臼歯保持部42とを備える。本実施形態において、ダウエルピン保持治具40は、1つの前歯保持部41と、2つの臼歯保持部42を備え、歯科技工用作業模型100の全てのダウエルピン12を保持するようにしている。ただ、前歯保持部41及び臼歯保持部42の数は上記態様に限らず任意の数とすることができる。さらに、前歯保持部41と臼歯保持部42の両方を必ずしも備える必要はなく、いずれか1つを備えるだけでもよい。つまり、歯科模型固定部10が落下するのを防止したい部分にのみピンポイントでダウエルピン保持治具40を使用することができる。その結果、使用者は必要な部分に必要なだけダウエルピン保持治具40を取り付けるといった選択をすることができ、不要な部分のダウエルピン保持治具40を省略できるため、コスト削減が可能となる。
【0047】
ここで、
図2に示すように、土台20の平面プレート23及び周壁部24はU字状である。歯科模型固定部10を土台20に載置した際、U字状の平面プレート23の2つの線状部に歯科模型30の臼歯が配置され、2つの線状部間の曲線部に前歯が配置される。そして、これらの歯科模型に対応するように、
図6に示す周壁部24の内側の2つの線状部に臼歯保持部42を装着し、2つの線状部間の曲線部に前歯保持部41を装着する。これにより、前歯模型に対応するダウエルピン12を前歯保持部41で、臼歯模型に対応するダウエルピン12を臼歯保持部42でそれぞれ保持できる。
【0048】
前歯保持部41は、周壁部24の曲線部内に収納できる形状であればよく、本実施形態では概ね扇形の形状としている。一方で、臼歯保持部42は周壁部24の線状部内に収納できる形状であればよく、本実施形態では概ね線状としている。ここで、本明細書内において「線状」とは、直線状のみを意味するものでなく、若干湾曲されているものも含んでいる。
【0049】
また、
図2及び
図4に示すように、ダウエルピン12及び筒体25は、前歯に対応する曲線部の間隔が、臼歯に対応する線状部の間隔より狭く設けられている。つまり、ダウエルピン12及び筒体25の間隔を、曲線部から線状部に向かって次第に大きくしている。従って、
図6のダウエルピン保持治具40のスリット44も、ダウエルピン12及び筒体25に対応して、前歯保持部41においては間隔を狭く、臼歯保持部42においては間隔を広くして形成している。通常、歯科模型は前歯の部分は歯が小さく密集し、臼歯になるにつれて歯の形状が大きくなり、歯の間隔も広くなる。したがって、ダウエルピン12及び筒体25の間隔も前歯部分を狭く、臼歯部分を広くしておけば、実際の歯科模型の歯に対応しやすく、作業も容易となる。ただ、ダウエルピン12や筒体25を設ける間隔は、上述の態様に限定されない。ダウエルピンや筒体は同間隔に離間して設けられてもよい。(カバープレート50)
【0050】
歯科技工用作業模型100はさらに、カバープレート50を備える。カバープレート50は、作業中のダウエルピン12の抜き差しにより、ダウエルピン保持治具40が土台20から浮き上がることを抑制し、ダウエルピン保持治具40を定位置に保持するためのものである。
図7に示すカバープレート50は、
図6の状態の歯科技工用作業模型100のダウエルピン保持治具40を覆うように土台20に装着される。
【0051】
使用者は、通常、ダウエルピン12を第一開口21を介して筒体25に抜き差しして作業する。そのため、このダウエルピンを抜き差しする上下方向の力が繰り返しダウエルピン保持治具40に作用し、ダウエルピン保持治具40が土台20から浮き上がってしまうことがある。そこで、ダウエルピン保持治具40を覆うようにカバープレート50を設けることにより、ダウエルピン保持治具40を所定の位置で保持することができる。これにより、使用者はダウエルピン保持治具40が土台20から浮き上がり、作業がしにくくなるというような不便な事態を回避することができる。
【0052】
カバープレート50は、
図7に示すように、板状であって、平面視で概ね台形状としている。また、上底と下底から構成される台形状の上底側の端部を端部51a、下底側の端部を端部51bとしている。ただ、本発明のカバープレートは上記態様に限定されない。土台の内側に装着されたダウエルピン保持治具を覆って保持できるものであれば、いかなる形状も採用し得る。このカバープレート50は、
図7及び
図8に示すように、上底側の端部51aと下底側の端部51bに、下方向に延出する接続片52a及び52bをそれぞれ備えている。また、接続片52a及び52bは、先端側にフック状の係合突起53a、53bをそれぞれ備えている。この係合突起53a及び53bを、上述の土台20のカバープレート用開口29a及びカバープレート用開口29bにそれぞれ挿入して、カバープレート50を土台20に装着する。これにより、カバープレート50でダウエルピン保持治具40を定位置に保持し、ダウエルピン保持治具40の土台20からの浮き上がりを抑制することができる。
(咬合器連結部54)
【0053】
また、カバープレート50はさらに、板状の表面に、
図7に示す咬合器300Aに装着するための咬合器連結部54を備えている。咬合器300Aについては後述するが、上下方向に延出する支柱部330Aと、平面視でU字状の上側装着部310Aと、下側装着部320Aとを備える。この上側装着部310Aを咬合器連結部54に挿入することにより、歯科技工用作業模型100を咬合器300Aに装着することができる。
【0054】
図7に示す咬合器連結部54は、咬合器連結部の一態様である。咬合器連結部54は、概ね直方体状の複数の連結凸部55を備えている。第一咬合器連結部54aは3つの第一連結凸部55aで構成される。第一連結凸部55aは、長辺側の面が、端部51bと概ね直交する方向に配置される。そして、3つの第一連結凸部55aは、カバープレート50の端部51bと概ね平行な方向に互いに離間して配置される。例えば、
図7に示すように、第一咬合器連結部54aは、端部51b側に4つ、互いに平行な2列を形成して設けられる。
【0055】
一方、第二咬合器連結部54bは2つの第二連結凸部55bで構成される。第二咬合器連結部54bは、第一咬合器連結部54aからオフセットした位置であって、カバープレート50の端部51a側に1つ配置される。第二咬合器連結54bの2つの第二連結凸部55bは、長辺側の面が端部51bと概ね平行になるように設けられ、互いに離間している。つまり、第二連結凸部55bは、第一連結凸部55aと概ね直交する方向に設けられる。
【0056】
このように対向する連結凸部55の間に空間を形成し、この空間に咬合器300Aの上側装着部310Aを挿入し、連結凸部55で保持することにより、歯科技工用作業模型100を咬合器300Aに取り付けることができる。従って、対向する連結凸部55の突出面側の厚さを若干厚くして、上側装着部310Aが連結凸部55から外れにくくしてもよい。また、
図9に示すように、U字状の上側装着部310Aの2つの線状部分を第一咬合器連結部54aに挿入し、U字状の曲線部分を第二咬合器連結部54bに挿入することにより、歯科技工用作業模型100を咬合器300Aに取り付けることができる。この際、上側装着部310Aの線状部分は、第一咬合器連結部54aの3つの第一連結凸部55aのうち、隣接する何れか2つの第一連結凸部55a間に挿入すればよい。第一咬合器連結部54aは第一連結凸部55aを3つ備えているため、上側装着部310Aの大きさに合わせて適切な第一連結凸部55aを選択することができる。
[歯科技工用作業模型の変形例]
【0057】
ここで、本実施形態に係る歯科技工用作業模型について、全顎用に対応するため、平面視で半楕円状とした例について説明した。ただ、本発明の歯科技工用作業模型の形状は上記態様に限定されない。一例として、
図10及び
図11に歯科技工用作業模型の変形例を示す。この歯科技工用作業模型100bも、歯科技工用作業模型100と同様に、上顎用にも下顎用にも利用できる。すなわち、共通の歯科技工用作業模型を、上顎用歯科技工用作業模型としても、下顎用歯科技工用作業模型としても利用できる。ここでは上顎用として使用する例について、以下説明する。ただし、説明のため上下を反転させて図示しているため、下顎用歯科技工用作業模型と同じ姿勢となっている。
【0058】
図10及び
図11の歯科技工用作業模型100bは、片顎用に対応するため、線状としている。従って、歯科模型固定部10b及び土台20bも同様に線状とし、ダウエルピン12bを2列、延長方向に沿って設けている。
図11に示すように、1つの筒体25bは2列のダウエルピン12bに対応するように、細長い楕円状の先端側に2つの第二開口22bを形成している。そして複数の筒体25bを、歯科技工用作業模型100bの延長方向に1列で設けている。また、隣接する筒体25bを横補強リブ26c及び縦補強リブ26dで補強している。
(ダウエルピン保持治具40b)
【0059】
ダウエルピン保持治具40bの形状は、特に限定されない。本変形例において、ダウエルピン保持治具40bは、
図10及び
図11に示すように、一列に配置された筒体25bの先端部を覆う程度の大きさの線状に形成している。また、ダウエルピン保持治具40bの、筒体25bの先端部に対応する部分に保持構造を設けている。
【0060】
具体的には、保持構造を設ける箇所は、筒体25bの先端側と同様に細長い楕円状とし、第二開口22bと対応する楕円状の両端部に、スリット43b及び保持穴44bを形成している。さらに、隣接する保持構造間を直線状の平面で保持し、この平面上の両端に一対の保持治具側連結片45bをそれぞれ立設している。保持治具側連結片45bは、例えば、直方体状の凸部とすることができる。この一対の保持治具側連結片45b間に形成される空間に縦補強リブ26dを挿入することにより、ダウエルピン保持治具40bを確実に土台20bに取り付けることができる。これにより、第二開口22bから突出するダウエルピン12bの先端部が、スリット43b及び保持穴44bに挿入され、これらの保持構造により確実に保持することができる。その結果、線状の土台20bにおいても、歯科模型固定部10bが土台20bから落下することを抑制し、作業効率も向上させることができる。また、線状の土台20bは片顎用として使用できるため、全顎の歯科模型まで作製しなくても、一部のみで足りる場合に対応できる。さらに、全顎の歯科模型を作製する手間も省け、コスト削減にもつながる。
【0061】
なお上述の変形例では、保持治具側連結片に一対の直方体状の凸部を採用する例について説明した。ただ、本発明の保持治具側連結片は上記態様に限定されず、他の様々な態様を採用し得る。例えば、保持治具側連結片として、直方体状の凸部に換えて、ピン状のものを複数離間して設けて、縦補強リブ26dをピン同士の間に挿入して両側から挟み込むようにして挟持してもよい。また、直方体状の凸部に換えて、縦補強リブ26dを挿入する溝を上面に形成した保持治具側連結片を用いてもよい。
[実施形態2]
【0062】
上述の実施形態1では、歯科技工用作業模型100の土台20がプラスチック製であって、ダウエルピン12を筒体25に挿入する例について説明した。ただ、本発明の土台は、プラスチック製のものに限定されない。例えば、実施形態2に係る歯科技工用作業模型100’の土台120は、
図12に示すように、石膏成形部123と、樹脂製の成形枠124とを備える。つまり、樹脂製の成形枠124に石膏泥を充填し、硬化させて石膏形成部123を形成することにより、土台120が作製される。
【0063】
また、土台120の石膏形成部123の上面に複数の第一開口121を、下面に第一開口121とそれぞれ連通された第二開口122を形成している。さらに、第一開口121と第二開口122とを連通する空間をダウエルピン挿入穴125としている。このダウエルピン挿入穴125に、ダウエルピン112を挿入し、歯科模型130を土台120に連結することができる。さらにまた、ダウエルピン112全長がダウエルピン挿入穴125の全長より長くなるようにダウエルピン112とダウエルピン挿入穴125の大きさを調整している。これにより、ダウエルピン112の先端部が、第二開口122から突出することを可能とする。この第二開口122から突出したダウエルピン112の先端部に、
図13に示すように、ダウエルピン保持治具140を装着し、保持することにより、歯科模型130が土台120から外れることを抑制することが可能となる。
(下顎用歯科技工用作業模型)
【0064】
以上の実施形態では、歯科技工用作業模型を上顎用として使用する例を説明した。上述のとおり本実施形態に係る歯科技工用作業模型は下顎用としても使用できる。すなわち、共通の歯科技工用作業模型を、上顎用としても下顎用としても利用できる。下顎用歯科技工用作業模型として用いる場合は、自重で歯科模型固定部が抜け落ちることが想定されないため、ダウエルピン保持治具をセットしない状態で使用してもよい。また、下顎用歯科技工用作業模型として使用する場合であっても、ダウエルピン保持治具をセットすることで、作業者の手が歯科模型に触れるなどした場合などに不意に歯科模型固定部が抜け落ちることのないよう、安定的にこれを保持することが可能となる。
(歯科技工用作業模型セット1000)
【0065】
さらに本発明は、上顎用歯科技工用作業模型と下顎用歯科技工用作業模型を組み合わせた歯科技工用作業模型セットとして使用することもできる。このような例を、
図14及び
図15に基づいて説明する。歯科技工用作業模型セット1000は、
図14、
図15に示すように、上側歯科技工用作業模型100Aと、下側歯科技工用作業模型200Aと、上側歯科技工用作業模型100A及び下側歯科技工用作業模型200Aを保持する咬合器300Aを備える。
(上側歯科技工用作業模型100A)
【0066】
上側歯科技工用作業模型100Aと下側歯科技工用作業模型200Aのうち、少なくとも上側歯科技工用作業模型100Aは、上述の歯科技工用作業模型100と同様の構成を有する。具体的には、
図16に示すように、上側歯科技工用作業模型100Aは、上側歯科模型固定部10Aと、上側土台20Aと、上側ダウエルピン保持治具40Aとを備える。上側歯科模型固定部10Aは、歯科模型30Aを固定するための上側固定プレート11Aと、所定の間隔で互いに離間している複数本の上側ダウエルピン12Aとを備える。また、上側土台20Aは、上側歯科模型固定部10Aを載置する上面と、上面と対向する下面と、上面と下面とを接続する上側周壁部24Aとを備える。
【0067】
また、土台20Aの上面は、複数の上側第一開口21Aを形成しており、下面は、上側第一開口21Aとそれぞれ連通された上側第二開口22Aを複数形成している。そして、上側土台20Aの下面側に、弾性を有する上側ダウエルピン保持治具40Aを装着している。
(咬合器300A)
【0068】
図15の咬合器300Aは、上下方向に延出する支柱部330Aと、上側歯科技工用作業模型100Aが取り付けられる上側装着部310Aと、下側歯科技工用作業模型200が取り付けられる下側装着部320Aとを備える。上側歯科技工用作業模型100Aと下側歯科技工用作業模型200Aは対向し、かつ上側歯科技工用作業模型100Aが下側歯科技工用作業模型200Aの上方に位置する姿勢で、咬合状態とするように、咬合器300Aに取り付けられる。上側歯科技工用作業模型100Aは、歯科技工用作業模型100と同様に、上述したカバープレート50の咬合器連結部54に、上側装着部310Aを挿入することにより、咬合器300Aに取り付けることができる。
【0069】
使用者は、通常、下側歯科技工用作業模型200Aについては、土台の上面に、歯科模型300Aを載置して作業する。この場合、ダウエルピンは上から下方向に向かって土台に挿入されている。一方、上側歯科技工用作業模型100Aは、
図15に示すように、咬合器300Aに、下側歯科技工用作業模型200Aの上下を逆にしたような状態で保持される。つまり、上側歯科技工用作業模型100Aが咬合器300Aに保持されている姿勢で、歯科模型30Aの歯は下方向に向かって突出している状態となる。この場合、歯科模型30Aの上方に上側土台20Aが位置し、上側ダウエルピン12Aは下から上方向に向かって上側土台20Aに挿入されている。この状態で使用者は上側ダウエルピン12Aを上方向に抜き差しし、作業をする。この際、上側ダウエルピン12Aを介して土台20Aに連結された歯科模型30Aは、重力の作用によって自重で抜け落ちる状態となる。このため、上側ダウエルピン12Aを確実に保持する必要がある。また、歯科技工用作業模型は高い精度が求められるため、模型が土台から落下などして形状が変わることは好ましくない。従って、本発明の上側ダウエルピン保持治具40Aにより上側ダウエルピン12Aを確実に保持することにより、このような問題の回避を図っている。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明に係るダウエルピンの保持治具は、様々な歯科技工用作業模型及び歯科技工用作業模型セットに利用できる。特に高度な精度が求められる歯科技工作業中に、使用者は、ダウエルピンが土台から外れて歯科模型の形状に影響を及ぼす等の心配をすることなく、作業に集中できる。
【符号の説明】
【0071】
1000…歯科技工用作業模型セット
100、100a、100b、100’…歯科技工用作業模型
10、10a、10b…歯科模型固定部
11…固定プレート
12、12a、12b…ダウエルピン
13…鍔
20、20a、20b…土台
21、21a…第一開口
22、22b…第二開口
23、23a…平面プレート
24…周壁部
25、25b…筒体
26…補強リブ
26a、26c…横補強リブ
26b、26d…縦補強リブ
27…段差凸部
28a…ダウエルピンマーク
28b…位置決めマーク
29a、29b…カバープレート用開口
30…歯科模型
31…歯牙模型
32…分割模型
40、40b…ダウエルピン保持治具
41…前歯保持部
42…臼歯保持部
43、43b…スリット
44、44b…保持穴
45b…保持治具側連結片
50…カバープレート
51a、51b…端部
52a、52b…接続片
53a、53b…係合突起
54…咬合器連結部
54a…第一咬合器連結部
54b…第二咬合器連結部
55…連結凸部
55a…第一連結凸部
55b…第二連結凸部
112…ダウエルピン
120…土台
121…第一開口
122…第二開口
123…石膏成形部
124…成形枠
125…ダウエルピン挿入穴
130…歯科模型
140…ダウエルピン保持治具
100A…上側歯科技工用作業模型
10A…上側歯科模型固定部
11A…上側固定プレート
12A…上側ダウエルピン
20A…上側土台
21A…上側第一開口
22A…上側第二開口
24A…上側周壁部
30A…上側歯科模型
40A…上側ダウエルピン保持治具
200A…下側歯科技工用作業模型
300A…咬合器
310A…上側装着部
320A…下側装着部
330A…支柱部
900…歯科技工用作業模型
90…ダウエルピン
91…作用凸部
92…挿通貫通孔
93…支持基台
94…突出部
95…固定用プレート