(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-08
(45)【発行日】2023-08-17
(54)【発明の名称】ボツリヌス菌A型毒素複合体、製剤、およびその使用方法
(51)【国際特許分類】
C07K 14/33 20060101AFI20230809BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20230809BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20230809BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20230809BHJP
A61P 21/02 20060101ALI20230809BHJP
A61P 25/02 20060101ALI20230809BHJP
A61K 8/64 20060101ALI20230809BHJP
【FI】
C07K14/33
C12N15/31 ZNA
A61K38/16
A61K9/08
A61P21/02
A61P25/02
A61K8/64
(21)【出願番号】P 2021571357
(86)(22)【出願日】2020-03-31
(86)【国際出願番号】 CN2020082450
(87)【国際公開番号】W WO2021195968
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】516080655
【氏名又は名称】オービーアイ ファーマ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】ツァオ, ズー-ウェン
(72)【発明者】
【氏名】ワン, ヨン-カイ
(72)【発明者】
【氏名】シェン, クァン-チォン
(72)【発明者】
【氏名】ウー, ユェ-チン
(72)【発明者】
【氏名】ユー, チォン-ドゥー トニー
(72)【発明者】
【氏名】ツェン, ユー-チュン
【審査官】大久保 元浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/035730(WO,A2)
【文献】Proceedings of the National Academy of Sciences,2013年,Vol. 110, No. 14,p.5630-5635
【文献】Pharmacological Reviews,2017年,Vol. 69, No. 2,p.200-235
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C07K
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
HA70成分、HA17成分、HA33成分、NTNH成分、およびBoNT/A1成分を含むボツリヌス菌A型毒素複合体であって、
(1)前記HA70成分は、
配列番号1のアミノ酸配列
を含み、
(2)前記HA17成分は、
配列番号2のアミノ酸配列
を含み、
(3)前記HA33成分は、
配列番号3のアミノ酸配列
を含み、
(4)前記NTNH成分は、
配列番号4のアミノ酸配列
を含み、
(5)前記BoNT/A1成分は、
配列番号5のアミノ酸配列
を含み、
分子量が740~790kDaである、
ボツリヌス菌A型毒素複合体。
【請求項2】
マウス/動物実験における前記複合体の治療有効量(ED
50)が0.1~0.5Uである、請求項1に記載のボツリヌス菌A型毒素複合体。
【請求項3】
マウス/動物実験における前記複合体の致死量(LD
50)が1~5Uである、請求項1に記載のボツリヌス菌A型毒素複合体。
【請求項4】
マウス/動物実験における前記複合体の安全域(MOS)が2~50である、請求項1に記載のボツリヌス菌A型毒素複合体。
【請求項5】
請求項1に記載のボツリヌス菌A型毒素複合体のHA70成分、HA17成分、HA33成分、NTNH成分、およびBoNT/A1成分をコードする核酸。
【請求項6】
請求項1に記載のボツリヌス菌A型毒素複合体と、薬学的または皮膚科学的に許容されるキャリアとを含む、医薬組成物。
【請求項7】
凍結乾燥状である、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
請求項1に記載のボツリヌス菌A型毒素複合体を含む液体製剤。
【請求項9】
ヒト血清アルブミン、メチオニン、アルギニン、塩化ナトリウム
、クエン酸バッファ、および/またはリン酸バッファを含む、請求項8に記載の液体製剤。
【請求項10】
美容製品または薬物の調製における、請求項1に記載のボツリヌス菌A型毒素複合体、請求項6又は7に記載の医薬組成物、または請求項8または9に記載の液体製剤の使用であって、前記美容製品は、小じわおよび/またはしわの出現を低減するか、目を大きくするか、口角を上げるか、上唇に出現するしわを平滑化するか、一般に筋緊張を緩和するために用いられ、前記薬物は、シナプス伝達またはアセチルコリンの放出によって引き起こされる疾患を治療または予防するために用いられる使用。
【請求項11】
小じわおよび/またはしわの出現が顔面である、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
前記疾患は、骨格筋の活動亢進を特徴とする神経筋疾患、神経障害性疼痛、片頭痛、過活動膀胱、鼻炎、副鼻腔炎、ニキビ、ジストニア、ジストニア性収縮、多汗症、コリン作動性神経系で制御される1つ以上の腺からの過剰分泌、片側顔面痙攣、成人発症性痙性斜頸、裂肛、眼瞼痙攣、脳性麻痺、痙性斜頚、斜視、顎関節症、ならびに様々な筋肉の痙攣および収縮からなる群より選択される、請求項10に記載の使用。
【請求項13】
小じわおよび/またはしわの出現を低減するか、目を大きくするか、口角を上げるか、上唇に出現するしわを平滑化するか、一般に筋緊張を緩和するために使用される、請求項1に記載のボツリヌス菌A型毒素複合体、請求項6または7に記載の医薬組成物、または請求項8または9に記載の液体製剤であって、前記
液体製剤は、シナプス伝達またはアセチルコリンの放出によって引き起こされる疾患を治療または予防するために用いられる、請求項1に記載のボツリヌス菌A型毒素複合体、請求項6または7に記載の医薬組成物、または請求項8または9に記載の液体製剤。
【請求項14】
小じわおよび/またはしわの出現が顔面である、請求項13に記載のボツリヌス菌A型毒素複合体、医薬組成物、または液体製剤。
【請求項15】
前記疾患は、骨格筋の活動亢進を特徴とする神経筋疾患、神経障害性疼痛、片頭痛、過活動膀胱、鼻炎、副鼻腔炎、ニキビ、ジストニア、ジストニア性収縮、多汗症、コリン作動性神経系で制御される1つ以上の腺からの過剰分泌、片側顔面痙攣、成人発症性痙性斜頸、裂肛、眼瞼痙攣、脳性麻痺、痙性斜頚、斜視、顎関節症、ならびにその他の様々な筋肉の痙攣および収縮からなる群より選択される、請求項13に記載のボツリヌス菌A型毒素複合体、医薬組成物、または液体製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、美容または医薬分野のタンパク質薬物に関する。本発明はまた、ボツリヌス菌毒素組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
加齢の明確な兆候の一つである「しわ」は、肌に対する環境的損傷が蓄積したことによる生化学的、組織学的、および生理学的変化によって生じ得る。加えて、他の二次的な要因も、顔のしわに特徴的なひだ、くぼみ、および深いしわを生じ得る(非特許文献1)。これらの二次的な要因としては、重力による一定した引っ張り、肌に対する頻回かつ一定の位置的圧迫(例えば睡眠中)、および顔面筋の収縮によって生じる顔面動作の繰り返しが挙げられる(非特許文献1)。
【0003】
様々な技術を利用して、いくつかの加齢兆候が潜在的に緩和されてきた。これらの技術は、α-ヒドロキシ酸およびレチノールを含む顔用保湿剤から、外科的手法や神経毒の注射にまで及んでいる。例えば、1986年に、JeanおよびAlastair Carruthers夫妻による眼形成外科医および皮膚科医のチームは、A型ボツリヌス毒素を用いて、眉間領域での動作に伴うしわを治療する方法を開発した(非特許文献2)。Carruthersらがしわの治療にA型ボツリヌス毒素を使用したことで、このような手法に関する重要な論文が1992年に発表された(非特許文献2)。同チームは、1994年までに、顔での動作に伴う他のしわに関する経験も報告している(非特許文献3)。ここから、A型ボツリヌス毒素を用いた美容的治療の時代が始まった。
【0004】
A型ボツリヌス毒素は、ヒトが知る限り最も致命的な天然生物製剤であると報告されている。ボツリヌス菌の芽胞は土壌中に存在し、不適切に滅菌、密閉された食品容器中で増殖できる。致命的であり得るボツリヌス中毒は、細菌を摂取することで生じ得る。ボツリヌス毒素は、神経筋接合部を介したアセチルコリンの放出を抑制してシナプス伝達を阻害することで筋肉麻痺を引き起こすものであるが、他の方法でも作用すると考えられている。その本質的な作用は、通常であれば筋肉の痙攣や収縮を生じさせるシグナルを阻害することで麻痺を引き起こすというものである。過去10年の間に、ボツリヌス毒素の筋肉麻痺活性は様々な治療効果に利用されてきた。ボツリヌス毒素を制御下で投与することで筋肉を麻痺させて、様々な医学的状態、例えば活動亢進骨格筋を特徴とする神経筋障害が治療されてきた。ボツリヌス毒素で治療される状態としては、片側顔面痙攣、成人発症性痙性斜頸、裂肛、眼瞼痙攣、脳性麻痺、痙性斜頚、片頭痛、斜視、顎関節症、ならびに各種の有痛性筋痙攣および痙攣等が挙げられる。更に最近だと、ボツリヌス毒素の筋肉麻痺効果は、しわおよび額のしわや、顔面筋の痙攣や収縮によるその他の結果の治療等、顔の治療および美容用途に適用されてきた。
【0005】
A型ボツリヌス毒素に加えて、グラム陽性菌であるボツリヌス菌が産生するボツリヌス毒素には血清学的に異なる7種の型が存在している。これら8種の血清学的に異なる型のボツリヌス毒素のうち、麻痺を引き起こし得る7種はボツリヌス毒素の血清型A、B、C、D、E、F、およびGと呼ばれている。これらはそれぞれ型特異的な抗体による中和で区別される。ボツリヌス毒素タンパク質の分子量はそれぞれ約150kDaである。その分子サイズおよび分子構造から、ボツリヌス毒素は角質層やその下にある複数層の肌組織を通過することはできない。各動物種において生じる麻痺の影響や重症度、期間は、ボツリヌス毒素の血清型によって異なる。例えばラットの場合、麻痺率の測定から、A型ボツリヌス毒素はB型ボツリヌス毒素より500倍強力であることが分かっている。更に、B型ボツリヌス毒素は、480U/kgであれば霊長類に対して非毒性であることが分かっている。
【0006】
ボツリヌス細菌が放出するボツリヌス毒素は、関連する非毒性タンパク質とともに約150kDaのボツリヌス毒素タンパク質分子を含む毒素複合体の成分である。これらの内在性非毒性タンパク質は、ヘマグルチニンタンパク質ファミリーと非ヘマグルチニンタンパク質ファミリーとを含むと考えられている。非毒性タンパク質は、毒素複合体内でボツリヌス毒素分子を安定化させ、毒素複合体が摂取された際に消化酸によって変性しないよう保護していることが報告されている。従って、毒素複合体の非毒性タンパク質は、ボツリヌス毒素の活性を保護することで、毒素複合体が消化管を介して投与された際の全身への浸透を増強する。更に、いくつかの非毒性タンパク質は血中でボツリヌス毒素分子を特異的に安定化すると考えられている。
【0007】
毒素複合体中に非毒性タンパク質が存在すると、典型的には毒素複合体の分子量がボツリヌス毒素分子そのものの分子量(上記の通り約150kDa)より大きくなる。例えば、ボツリヌス細菌は、分子量が約900kDa、500kDa、または300kDaのA型ボツリヌス毒素複合体を産生できる。B型およびC型ボツリヌス毒素は、分子量が約700kDaまたは約500kDaの複合体として産生される。D型ボツリヌス毒素は、分子量が約300kDaまたは500kDaの複合体として産生される。E型およびF型ボツリヌス毒素は、分子量が約300kDaの複合体としてのみ産生される。
【0008】
ボツリヌス毒素を更に安定化させる目的で、従来、製造に際して複合体をアルブミンと組み合わせることで毒素複合体を安定化させてきた。例えば、BOTOX(登録商標)(Allergan社、カリフォルニア州アーバイン)は、A型ボツリヌス毒素100単位を、補助タンパク質、ヒトアルブミン0.5ミリグラム、および塩化ナトリウム0.9ミリグラムとともに含有しているボツリヌス毒素含有製剤である。アルブミンは、製造、輸送、保管、および投与に伴う環境等の異種環境において毒素複合体を結合および安定化させるものである。
【0009】
しかしながら、利用可能なA型ボツリヌス毒素複合体の数は限られている。本分野では、新たなA型ボツリヌス毒素の組成物および製剤が依然として求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】Stegman et al.,The Skin of the Aging Face Cosmetic Dermatological Surgery,2nd ed.,St.Louis,Mo.:Mosby Year Book:5-15(1990)
【文献】Schantz and Scott,In Lewis G.E.(Ed),Biomedical Aspects of Botulinum,New York:Academic Press,143-150(1981)
【文献】Scott,Opthalmol,87:1044-1049(1980)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
当該技術におけるA型ボツリヌス毒素複合体への更なる需要を考慮して、本発明者らは、新規なボツリヌス菌A型毒素複合体を提供する。既存の製品(Botox(登録商標)等)と比較すると、本発明のボツリヌス菌A型毒素複合体は分子量が低いため生産コストが低く、安定性および安全性が高い。
【0012】
一態様において、本発明は、HA70成分、HA17成分、HA33成分、NTNH成分、およびBoNT/A1成分を含むボツリヌス菌A型毒素複合体であって、分子量が740~790kDaであるボツリヌス菌A型毒素複合体を提供する。
【0013】
一実施形態において、ボツリヌス菌A型毒素複合体は、HA70成分、HA17成分、HA33成分、NTNH成分、およびBoNT/A1成分で構成され、分子量は約760kDaである。
【0014】
一実施形態において、上記HA70成分は、
(1)配列番号1のアミノ酸配列、または
(2)HA70成分の機能を保持しつつ、配列番号1において1つ以上のアミノ酸を付加、欠失、置換、または挿入して得られたアミノ酸配列、
のいずれかを含む。
【0015】
一実施形態において、上記HA17成分は、
(1)配列番号2のアミノ酸配列、または
(2)HA17成分の機能を保持しつつ、配列番号2において1つ以上のアミノ酸を付加、欠失、置換、または挿入して得られたアミノ酸配列、
のいずれかを含む。
【0016】
一実施形態において、上記HA33成分は、
(1)配列番号3のアミノ酸配列、または
(2)HA33成分の機能を保持しつつ、配列番号3において1つ以上のアミノ酸を付加、欠失、置換、または挿入して得られたアミノ酸配列、
のいずれかを含む。
【0017】
一実施形態において、上記NTNH成分は、
(1)配列番号4のアミノ酸配列、または
(2)NTNH成分の機能を保持しつつ、配列番号4において1つ以上のアミノ酸を付加、欠失、置換、または挿入して得られたアミノ酸配列、
のいずれかを含む。
【0018】
一実施形態において、上記BoNT/A1成分は、
(1)配列番号5のアミノ酸配列、または
(2)BoNT/A1成分の機能を保持しつつ、配列番号5において1つ以上のアミノ酸を付加、欠失、置換、または挿入して得られたアミノ酸配列、
のいずれかを含む。
【0019】
別の態様において、本発明は、本発明のボツリヌス菌A型毒素複合体をコードする核酸を提供する。
【0020】
別の態様において、本発明は、本発明のボツリヌス菌A型毒素複合体と、薬学的または皮膚科学的に許容されるキャリアとを含む医薬組成物を提供する。
【0021】
更に別の態様において、本発明は、請求項1~6のいずれか1項に記載のボツリヌス菌A型毒素複合体を含む液体製剤であって、ヒト血清アルブミン、メチオニン、アルギニン、塩化ナトリウム、Tween80、クエン酸バッファ、および/またはリン酸バッファを含む液体製剤を提供する。
【0022】
更に別の態様において、本発明は、投与を必要とする対象に、本発明のボツリヌス菌A型毒素複合体、医薬組成物、または液体製剤を有効量投与する工程を有する美容方法を提供する。
【0023】
一実施形態において、上記美容方法は、特に顔の小じわおよび/またはしわの出現を低減する工程、目を大きくする工程、口角を上げる工程、上唇に現れるしわを平滑化する工程、または一般に筋緊張を緩和する工程を有する。
【0024】
更に別の態様において、本発明は、治療または予防を必要とする対象において、シナプス伝達またはアセチルコリンの放出によって引き起こされる疾患を治療または予防する方法であって、上記対象に、本発明のボツリヌス菌A型毒素複合体、医薬組成物、または液体製剤を有効量投与する工程を有する方法を提供する。
【0025】
一実施形態において、上記疾患は、骨格筋の活動亢進を特徴とする神経筋疾患、神経障害性疼痛、片頭痛、過活動膀胱、鼻炎、副鼻腔炎、ニキビ、ジストニア、ジストニア性収縮、多汗症、コリン作動性神経系で制御される1つ以上の腺からの過剰分泌、片側顔面痙攣、成人発症性痙性斜頸、裂肛、眼瞼痙攣、脳性麻痺、痙性斜頚、斜視、顎関節症、ならびに様々な筋肉の痙攣および収縮からなる群より選択される。
【0026】
更に別の態様において、本発明は、美容製品または薬物の調製における本発明のボツリヌス菌A型毒素複合体、医薬組成物、または液体製剤の使用であって、上記美容製品は、特に顔の小じわおよび/またはしわの出現を低減するか、目を大きくするか、口角を上げるか、上唇に出現するしわを平滑化するか、一般に筋緊張を緩和するために用いられ、上記薬物は、シナプス伝達またはアセチルコリンの放出によって引き起こされる疾患を治療または予防するために用いられる使用を提供する。
【0027】
一実施形態において、上記疾患は、骨格筋の活動亢進を特徴とする神経筋疾患、神経障害性疼痛、片頭痛、過活動膀胱、鼻炎、副鼻腔炎、ニキビ、ジストニア、ジストニア性収縮、多汗症、コリン作動性神経系で制御される1つ以上の腺からの過剰分泌、片側顔面痙攣、成人発症性痙性斜頸、裂肛、眼瞼痙攣、脳性麻痺、痙性斜頚、斜視、顎関節症、ならびにその他の様々な筋肉の痙攣および収縮からなる群より選択される。
【0028】
更に別の態様において、本発明は、特に顔の小じわおよび/またはしわの出現を低減するか、目を大きくするか、口角を上げるか、上唇に出現するしわを平滑化するか、一般に筋緊張を緩和するために使用される、ボツリヌス菌A型毒素複合体、医薬組成物、または液体製剤であって、上記薬物は、シナプス伝達またはアセチルコリンの放出によって引き起こされる疾患を治療または予防するために用いられる、ボツリヌス菌A型毒素複合体、医薬組成物、または液体製剤を提供する。
【0029】
一実施形態において、上記疾患は、骨格筋の活動亢進を特徴とする神経筋疾患、神経障害性疼痛、片頭痛、過活動膀胱、鼻炎、副鼻腔炎、ニキビ、ジストニア、ジストニア性収縮、多汗症、コリン作動性神経系で制御される1つ以上の腺からの過剰分泌、片側顔面痙攣、成人発症性痙性斜頸、裂肛、眼瞼痙攣、脳性麻痺、痙性斜頚、斜視、顎関節症、ならびにその他の様々な筋肉の痙攣および収縮からなる群より選択される。
【0030】
本発明のボツリヌス菌A型毒素複合体(本明細書中、「OBI-858」ともいう)は、市販品のBotox(登録商標)と比較して以下のような利点を有する。
(1)マウス動物実験における治療効果(有効量;ED50)はBotox(登録商標)と同程度であったが、マウス動物実験における致死量(LD50)はBotox(登録商標)より高く、マウス動物実験における安全域(MOS)もBotox(登録商標)より高かった。このことから、本発明のボツリヌス菌毒素製剤は、市販品のBotox(登録商標)より安全性が高いことが分かった。
(2)本発明のボツリヌス菌A型毒素複合体は総タンパク分子量が760kDaであり、分子量が900kDaのBotox(登録商標)とは異なっているため、新規なボツリヌス菌A型毒素複合体である。
(3)本発明のボツリヌス菌A型毒素複合体の製剤は、安全性が向上している。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】サイズ排除クロマトグラフィー/高速液体クロマトグラフィー(SEC-HPLC)を用いて測定した製品の純度を表す。
【
図2】多角度光散乱(MALS)を用いて測定した製品の分子量を表す。
【
図3】電子顕微鏡を用いて測定した製品の総タンパク分子量を表す。(a)はOBI-858であり、矢印は毒素粒子を示す。(b)は760kDaであるL-PTC/Aの参照研究であり、矢印は4つの異なる方位を示す。
【
図4】指外転スコア(Digit Abduction Score(DAS))アッセイのスコア写真を表す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明は、ボツリヌス菌A型毒素複合体およびその液体製剤に関する。本明細書に記載の通り、本発明の組成物は、様々な治療および/または美容目的でボツリヌス毒素を対象に供給するための注射用途として使用できる。既存のボツリヌス菌A型毒素複合体製品と比較して、本発明のボツリヌス菌A型毒素複合体はより良好な安全性を有し、有効性が同等であるか向上している。本発明のボツリヌス菌A型毒素複合体に関連して、本発明は、安定性に優れたボツリヌス菌A型毒素複合体用液体製剤を提供する。
【0033】
本明細書中、「ボツリヌス菌A型毒素複合体」と言う語は、約150kDaのボツリヌス菌A型毒素タンパク質分子および関連する内在性非毒性タンパク質、すなわち、ヘマグルチニン(HA)と非毒性非ヘマグルチニン(NTNH)とで形成された複合体を意味する。ヘマグルチニンタンパク質は、70kDa、33kDa、および17kDaの小成分、いわゆるHA70、HA33、およびHA17で構成されている。ボツリヌス菌毒素複合体は、単一の毒素としてボツリヌス菌に由来する必要はない。例えば、ボツリヌス菌毒素または変性ボツリヌス菌毒素を遺伝子組換えで調製し、これを非毒性タンパク質と組み合わせることもできる。また、組換えボツリヌス菌毒素を購入して非毒性タンパク質と組み合わせることもできる。
【0034】
また、本明細書中のボツリヌス菌A型毒素複合体は、本明細書で記載されるHA70、HA33、HA17、NTNH、もしくはBoNT/A1、またはこれらの変異体を含んでいてもよい。変異体は、本明細書に記載の配列(例えば、配列番号1~5のいずれか1つ)において1つ以上のアミノ酸を付加、欠失、置換、または挿入して得られたアミノ酸配列を有する。
【0035】
「1つ以上」と言う語は、タンパク質の活性を大きく損なうことはない領域の数を意味する。「1つ以上」という語で表される数字としては、例えば、1~100、好ましくは1~80、より好ましくは1~50、更に好ましくは1~40、特に好ましくは1~30、1~20、1~10、または1~5(例えば、1、2、3、4、または5)である。
【0036】
実施例のボツリヌス菌A型毒素複合体が有する各成分の配列を以下に示す。
【0037】
HA70(配列番号1)
MNSSIKKIYNDIQEKVINYSDTIDLADGNYVVRRGDGWILSRQNQILGGSVISNGSTGIVGDLRVNDNAIPYYYPTPSFNEEYIKNNIQTVFTNFTEANQIPIGFEFSKTAPSNKNLYMYLQYTYIRYEIIKVLQHEIIERAVLYVPSLGYVKSIEFNPGEKINKDFYFLTNDKCILNEQFLYKKILETTKNIPTNNIFNSKVSSTQRVLPYSNGLYVINKGDGYIRTNDKDLIGTLLIEAGSSGSIIQPRLRNTTRPLFTTSNDTKFSQQYTEERLKDAFNVQLFNTSTSLFKFVEEAPSDKNICIKAYNTYEKYELIDYQNGSIVNKAEYYLPSLGYCEVTNAPSPESEVVKMQVAEDGFIQNGPEEEIVVGVIDPSENIQEINTAISDNYTYNIPGIVNNNPFYILFTVNTTGIYKINAQNNLPSLKIYEAIGSGNRNFQSGNLCDDDIKAINYITGFDSPNAKSYLVVLLNKDKNYYIRVPQTSSNIENQIQFKREEGDLRNLMNSSVNIIDNLNSTGAHYYTRQSPDVHDYISYEFTIPGNFNNKDTSNIRLYTSYNQGIGTLFRVTETIDGYNLINIQQNLHLLNNTNSIRLLNGAIYILKVEVTELNNYNIRLHIDITN
【0038】
HA17(配列番号2)
MSVERTFLPNGNYNIKSIFSGSLYLNPVSKSLTFSNESSANNQKWNVEYMAENRCFKISNVAEPNKYLSYDNFGFISLDSLSNRCYWFPIKIAVNTYIMLSLNKVNELDYAWDIYDTNENILSQPLLLLPNFDIYNSNQMFKLEKI
【0039】
HA33(配列番号3)
MEHYSVIQNSLNDKIVTISCKADTNLFFYQVAGNVSLFQQTRNYLERWRLIYDSNKAAYKIKSMDIHNTNLVLTWNAPTHNISTQQDSNADNQYWLLLKDIGNNSFIIASYKNPNLVLYADTVARNLKLSTLNNSNYIKFIIEDYIISDLNNFTCKISPILDLNKVVQQVDVTNLNVNLYTWDYGRNQKWTIRYNEEKAAYQFFNTILSNGVLTWIFSNGNTVRVSSSNDQNNDAQYWLINPVSDTDETYTITNLRDTTKALDLYGGQTANGTAIQVFNYHGDDNQKWNIRNP
【0040】
NTNH(配列番号4)
MNINDNLSINSPVDNKNVVVVRARKTDTVFKAFKVAPNIWVAPERYYGESLSIDEEYKVDGGIYDSNFLSQDSEKDKFLQAIITLLKRINSTNAGEKLLSLISTAIPFPYGYIGGGYYAPNMITFGSAPKSNKKLNSLISSTIPFPYAGYRETNYLSSEDNKSFYASNIVIFGPGANIVENNTVFYKKEDAENGMGTMTEIWFQPFLTYKYDEFYIDPAIELIKCLIKSLYFLYGIKPSDDLVIPYRLRSELENIEYSQLNIVDLLVSGGIDPKFINTDPYWFTDNYFSNAKKVFEDHRNIYETEIEGNNAIGNDIKLRLKQKFRININDIWELNLNYFSKEFSIMMPDRFNNALKHFYRKQYYKIDYPENYSINGFVNGQINAQLSLSDRNQDIINKPEEIINLLNGNNVSLMRSNIYGDGLKSTVDDFYSNYKIPYNRAYEYHFNNSNDSSLDNVNIGVIDNIPEIIDVNPYKENCDKFSPVQKITSTREINTNIPWPINYLQAQNTNNEKFSLSSDFVEVVSSKDKSLVYSFLSNVMFYLDSIKDNSPIDTDKKYYLWLREIFRNYSFDITATQEINTNCGINKVVTWFGKALNILNTSDSFVEEFQNLGAISLINKKENLSMPIIESYEIPNDMLGLPLNDLNEKLFNIYSKNTAYFKKIYYNFLDQWWTQYYSQYFDLICMAKRSVLAQETLIKRIIQKKLSYLIGNSNISSDNLALMNLTTTNTLRDISNESQIAMNNVDSFLNNAAICVFESNIYPKFISFMEQCINNINIKTKEFIQKCTNINEDEKLQLINQNVFNSLDFEFLNIQNMKSLFSSETALLIKEETWPYELVLYAFKEPGNNVIGDASGKNTSIEYSKDIGLVYGINSDALYLNGSNQSISFSNDFFENGLTNSFSIYFWLRNLGKDTIKSKLIGSKEDNCGWEIYFQDTGLVFNMIDSNGNEKNIYLSDVSNNSWHYITISVDRLKEQLLIFIDDNLVANESIKEILNIYSSNIISLLSENNPSYIEGLTILNKPTTSQEVLSNYFEVLNNSYIRDSNEERLEYNKTYQLYNYVFSDKPICEVKQNNNIYLTINNTNNLNLQASKFKLLSINPNKQYVQKLDEVIISVLDNMEKYIDISEDNRLQLIDNKNNAKKMIISNDIFISNCLTLSYNGKYICLSMKDENHNWMICNNDMSKYLYLWSFK
【0041】
BoNT/A1(配列番号5)
MPFVNKQFNYKDPVNGVDIAYIKIPNAGQMQPVKAFKIHNKIWVIPERDTFTNPEEGDLNPPPEAKQVPVSYYDSTYLSTDNEKDNYLKGVTKLFERIYSTDLGRMLLTSIVRGIPFWGGSTIDTELKVIDTNCINVIQPDGSYRSEELNLVIIGPSADIIQFECKSFGHEVLNLTRNGYGSTQYIRFSPDFTFGFEESLEVDTNPLLGAGKFATDPAVTLAHELIHAGHRLYGIAINPNRVFKVNTNAYYEMSGLEVSFEELRTFGGHDAKFIDSLQENEFRLYYYNKFKDIASTLNKAKSIVGTTASLQYMKNVFKEKYLLSEDTSGKFSVDKLKFDKLYKMLTEIYTEDNFVKFFKVLNRKTYLNFDKAVFKINIVPKVNYTIYDGFNLRNTNLAANFNGQNTEINNMNFTKLKNFTGLFEFYKLLCVRGIITSKTKSLDKGYNKALNDLCIKVNNWDLFFSPSEDNFTNDLNKGEEITSDTNIEAAEENISLDLIQQYYLTFNFDNEPENISIENLSSDIIGQLELMPNIERFPNGKKYELDKYTMFHYLRAQEFEHGKSRIALTNSVNEALLNPSRVYTFFSSDYVKKVNKATEAAMFLGWVEQLVYDFTDETSEVSTTDKIADITIIIPYIGPALNIGNMLYKDDFVGALIFSGAVILLEFIPEIAIPVLGTFALVSYIANKVLTVQTIDNALSKRNEKWDEVYKYIVTNWLAKVNTQIDLIRKKMKEALENQAEATKAIINYQYNQYTEEEKNNINFNIDDLSSKLNESINKAMININKFLNQCSVSYLMNSMIPYGVKRLEDFDASLKDALLKYIYDNRGTLIGQVDRLKDKVNNTLSTDIPFQLSKYVDNQRLLSTFTEYIKNIINTSILNLRYESNHLIDLSRYASKINIGSKVNFDPIDKNQIQLFNLESSKIEVILKNAIVYNSMYENFSTSFWIRIPKYFNSISLNNEYTIINCMENNSGWKVSLNYGEIIWTLQDTQEIKQRVVFKYSQMINISDYINRWIFVTITNNRLNNSKIYINGRLIDQKPISNLGNIHASNNIMFKLDGCRDTHRYIWIKYFNLFDKELNEKEIKDLYDNQSNSGILKDFWGDYLQYDKPYYMLNLYDPNKYVDVNNVGIRGYMYLKGPRGSVMTTNIYLNSSLYRGTKFIIKKYASGNKDNIVRNNDRVYINVVVKNKEYRLATNASQAGVEKILSALEIPDVGNLSQVVVMKSKNDQGITNKCKMNLQDNNGNDIGFIGFHQFNNIAKLVASNWYNRQIERSSRTLGCSWEFIPVDDGWGERPL
【0042】
また、本発明は、注射を必要とする対象または患者に本発明の組成物を有効量注射することで、生物学的効果を得る方法に関する。生物学的効果としては、例えば、筋肉麻痺、過剰な分泌または発汗の抑制、神経障害性疼痛または片頭痛の治療、鼻炎または副鼻腔炎の制御、過活動膀胱の治療、筋痙攣の低減、ニキビの予防または低減、免疫応答の抑制または増強、しわの低減、またはその他の各種疾患の予防または治療が挙げられる。
【0043】
本発明の組成物は、対象または患者(すなわち、具体的な治療を必要とするヒトまたは他の哺乳類)の皮膚または上皮に注射できる形態である。「必要」という語は、薬物または健康に関する必要性(例えば、望ましくない顔筋痙攣を伴う状態を治療すること)や、美容および主観的な必要性(例えば、顔組織の外観を変化または改善させること)を包含する。その最も単純な形態において、上記組成物は、緩衝食塩水(例えば、リン酸緩衝食塩水)等の医薬的に許容される水性希釈液を含んでいてもよい。しかしながら、上記組成物は、投与対象の組織に適合する皮膚科学的または薬学的に許容されるキャリア等、注射用の医薬組成物または美容組成物に通常存在する他の成分を含んでいてもよい。本明細書中、「皮膚科学的または薬学的に許容される」という語は、本明細書に記載の組成物またはその成分が、過度の毒性、不適合性、不安定性、アレルギー反応等を引き起こすことなく、組織との接触または一般的な患者への使用に好適であることを意味する。適切であれば、本発明の組成物は、検討中の分野、特に美容および皮膚科学において従来使用されてきた任意の成分を含んでいてもよい。
【0044】
本発明に係るボツリヌス菌毒素複合体は、有効量を注射(通常はシリンジを用いる)によって皮下の筋肉へ送達することで、あるいは皮膚中の腺構造へ投与することで麻痺を引き起こし、緩和を誘発し、収縮を軽減し、痙縮を予防または軽減し、腺排出を低減し、または他の必要な効果を生じさせられる。このようにボツリヌス毒素を局所送達することで、用量を低減し、毒性を低減し、注射用材料または埋込み用材料に対してより精密に用量を最適化させることができ、所望の効果が得られる。
【0045】
本発明のボツリヌス菌毒素複合体は、有効量のボツリヌス毒素を送達するよう投与される。本明細書中、「有効量」という語は、所望の筋肉麻痺または他の生物学的もしくは美容効果を生じるのに十分な量であるが、安全量を示唆する量、すなわち重篤な副作用を回避できる程度に少ない量を意味する。所望の効果としては、ある種の筋肉を緩和することが挙げられ、例えば、特に顔の小じわおよび/またはしわの出現を低減すること、または目を大きくすること、口角を上げること、もしくは筋緊張を緩和すること等、他の方法で顔の外見を調整することが挙げられる。筋緊張は、顔でも他のどこでも緩和できる。本発明のボツリヌス菌毒素複合体は、例えば、しわ、望ましくない顔筋もしくは他の筋肉の痙攣、多汗症、ニキビ、または筋肉の痛みもしくは痙攣を緩和する必要がある他の身体的疾患を治療するため、注射によって患者へ投与できる。ボツリヌス菌毒素複合体は、注射によって筋肉や他の皮膚関連または標的組織構造へ投与できる。例えば、ボツリヌス菌毒素複合体は、投与を必要とする脚、肩、背中(腰を含む)、腋窩、掌、足、首、顔、鼠径部、手の甲もしくは足裏、肘、上腕、膝、大腿部、臀部、胴体、骨盤、またはその他の身体部分へ投与できる。
【0046】
また、本発明のボツリヌス菌毒素複合体の投与を採用することで、シナプス伝達またはアセチルコリンの放出を予防すれば利益を得られるような状態等を治療できる。本発明の複合体で治療できる状態としては、例えば、神経障害性疼痛、片頭痛もしくは他の頭痛、過活動膀胱、鼻炎、副鼻腔炎、ニキビ、ジストニア、ジストニア性収縮、多汗症、コリン作動性神経系で制御される1つ以上の腺からの過剰分泌、骨格筋の活動亢進を特徴とする神経筋疾患等が挙げられるが、これらに限定されない。ボツリヌス毒素で治療される状態としては、片側顔面痙縮、片側顔面痙攣、成人発症性痙性斜頸、裂肛、眼瞼痙攣、脳性麻痺、痙性斜頚、斜視、顎関節症、および様々な筋肉の痙攣および収縮等が挙げられる。また、本発明の複合体を用いることで、免疫応答を抑制または増強したり、既にボツリヌス菌毒素複合体の注射が提案または実施されてきた他の状態を治療したりできる。本発明のボツリヌス菌毒素複合体は、凍結乾燥粉末や錠剤等の固体状で調製でき、注射用に水で再調製してから使用する。
【0047】
本発明のボツリヌス菌毒素複合体、組成物、または製剤は、医師等の医療専門家によって、またはその指導のもとで投与される。1回の治療で投与しても、経時的に一連の治療として投与してもよい。好ましい実施形態において、本発明に係るボツリヌス菌毒素複合体、組成物、または製剤は、ボツリヌス菌毒素に関連する効果が必要とされる1つ以上の部位に注射する。ボツリヌス菌毒素複合体の性質から、ボツリヌス毒素は、不都合な結果や望ましくない結果を生じることなく所望の結果を生じるような量、速度、および頻度で投与するのが好ましい。
【0048】
本明細書中の製剤は、ヒト血清アルブミン、メチオニン、アルギニン、塩化ナトリウム、Tween80、クエン酸バッファ、および/またはリン酸バッファを含む。上記製剤は、ヒト血清アルブミン、塩化ナトリウム、および50mMクエン酸バッファに溶解したTween80を含むことが好ましい。製剤中、ヒト血清アルブミンの濃度は0.1~1mg/mL、例えば0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、または0.9mg/mLであってもよい。塩化ナトリウムの濃度は5~20mg/mL、例えば6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、または19mg/mLであってもよく、より好ましくは11.25mg/mLである。50mMクエン酸バッファに溶解したTween80の濃度は0.1~0.3mg/mL、例えば0.2mg/mLであってもよく、より好ましくは0.188mg/mLである。製剤は所定のpHを有し、例えば4~8、好ましくはpH5.6である。
【0049】
以下、実施例を参照して本発明の概念をより詳細に説明する。しかしながら、これらの実施例は説明を目的としたものにすぎず、本発明の範囲を限定することを意図したものではない。
【実施例】
【0050】
実施例1:OBI-858の製造方法
(1)OBI-858原薬(Drug Substance;DS)の製造方法
細胞バンクから凍結OBI-858細菌を再調製し、培地中で培養した。次いで、細菌を発酵槽に移した。培養後、細胞およびその断片を濾過で除去した。生成手順は、2段階沈殿、バッファ交換、およびカラムクロマトグラフィーを含む。カラムクロマトグラフィーの後、DS溶液を0.22μmフィルタで濾過し、アイソレータへそのまま移して凍結乾燥した。
【0051】
(2)OBI-858製剤(Drug Product;DP)の製造方法
OBI-858DS粉末を製剤バッファ中で再調製した。再調製液を0.22μmフィルタで無菌濾過し、アイソレータ内に配置した滅菌バッグ中へそのまま移した。次いで、溶液を凍結乾燥してOBI-858DPを得た。
【0052】
実施例2:OBI-858の同定
(1)ゲノム配列アライメント
OBI-858生産菌株を独立的に発育させたところ、全ゲノムシーケンスによるボツリヌス菌A型ATCC3502株との配列相同性は98.28%であり、ボツリヌス菌A型Hall株との配列相同性は89.69%であった(表1)。従って、細菌ゲノム分析においてOBI-858生産菌株は市販の製品と異なる。
【表1】
【0053】
(2)タンパク組成分析
実験の材料/方法
シーケンスカバレッジを最も高くするため、OBI-858タンパク質試料を各酵素で消化し、LC-MS/MS分析した。まず、OBI-858タンパク質を6M尿素で変性させ、10mM DTTを用いて37℃で1時間還元し、50mM IAMを用いて、暗所中、室温で30分間アルキル化した。以下の消化条件において、得られたタンパク質を50mM重炭酸アンモニウム中で消化した。
(a)トリプシン消化、37℃、18時間
(b)Glu-C消化、37℃、18時間
(c)トリプシン消化、37℃、18時間+Glu-C消化、37℃、18時間
(d)Lys-C消化、37℃、18時間
(e)キモトリプシン消化、37℃、18時間
(f)サーモリシン消化、37℃、18時間
【0054】
消化後、タンパク質試料を0.1%FAで希釈および酸性化し、MS分析した。
【0055】
Ultimate3000RSLCシステム(Dionex)と組み合わせたQ Exactive質量分析計(Thermo Scientific)で試料を分析した。以下に示す勾配下、C18カラム(Acclaim PepMap RSLC、75μm×150mm、2μm、100Å)を用いてLC分離した。
【表2】
【0056】
m/z=300~2000の範囲でフルMSスキャンを実施し、MSスキャンにおいて最も強度の高い10種のイオンをフラグメンテーションしてMS/MSスペクトルを得た。Proteome Discoverer1.4を用いて生データを加工し、Mascot database search用のピークリストとした。
【0057】
実験結果
OBI-858ボツリヌス菌A型毒素に対するLC-MS/MSアミノ酸配列分析の結果から、この毒素タンパク質は71kDa、17kDa、34kDa、138kDa、および149kDaでサイズが異なる5つのタンパク質サブユニットで構成されていることが分かった(表3)。これらのサブユニットが有するアミノ酸配列である配列番号1~5は、タンパク質シーケンシングにより得られた。
【表3】
【0058】
(3)サイズ排除クロマトグラフィー/高速液体クロマトグラフィー(SEC/HPLC)による製品純度の測定および多角度光散乱(MALS)による製品分子量の測定
【0059】
実験の材料/方法
SEC/MALS分析は、サイズ排除高速液体クロマトグラフィーと静的光散乱分析との組み合わせであり、Agilent1260HPLCシステムを用いて実施され、SRT SEC-300カラム(5μm、7.8×300mm)を有するWYATT_DAWN HELEOS静的光散乱検出器と直列接続されている。Agilent1260HPLCシステムはChemstationソフトウェア(Agilent Technologies)で制御される。光散乱検出器はASTRA Vソフトウェア(Wyatt Technology)で制御および分析される。移動相として150mM PB/0.1M NaClおよび200ppm NaN3を使用し、pH6.0、流速0.5mL/分でイソクラティック溶離した。光散乱試験中のOBI-858複合体の濃度を280nmでのUV吸光度でモニタリングした。比屈折率の増分値(dn/dc)0.185mL/gおよびUV消散係数1.49mL/(mg*cm)を用いて、光散乱データからOBI-858複合体の分子質量を算出した。
【0060】
実験結果
図1はサイズ排除クロマトグラフィー/高速液体クロマトグラフィー(SEC/HPLC)を用いた製品純度の測定を表し、純度は99.36%であった。
図2は多角度光散乱(MALS)を用いた製品分子量の測定を表し、分子量は760kDaのタンパク質に近いものであった。
【0061】
(4)電子顕微鏡測定
実験の材料/方法
ネガティブ染色試料を調製し、標準的な手順を実施した。簡潔に言うと、試料溶液の液滴4μLをグロー放電カーボン被覆銅グリッドに吸着させ、脱イオン水1滴ずつで洗浄し、2%酢酸ウラニルで染色し、風乾した。電界放出電子源を備え、加速電圧200kVで作動するJEM-2100F透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて試料の画像を記録した。画像はDE12カメラに記録した。
【0062】
実験結果
図3は、電子顕微鏡を用いた製品総タンパク分子量の測定を表す。
図3(a)はOBI-858であり、矢印は毒素粒子を示す。
図3(b)は760kDa L-PTC/Aの参照研究であり、矢印は4つの異なる方位を示す。従って、本製品は市販の900kDaボツリヌス菌A型毒素とは異なる。
【0063】
実施例3:OBI-858の有効性研究
本研究は、試験物品であるOBI-858をメスICRマウスに単回投与した際の急性筋肉内(IM)有効性を評価することを目的とする。試験物品の有効性は、指外転スコアアッセイ(DASアッセイ)によりIM半数有効量(ED50)を算出して決定した。安全域は、72時間IM LD50の48時間IM ED50に対する比として決定した。
【0064】
実験の材料/方法
試験物品、参照物品、ビヒクル、およびコントロール
試験物品
名称:OBI-858
供給業者:OBI Pharma,Inc.
バッチ番号:14004-25、14004-30、14004-35、14004-45
保存条件:-15℃~-25℃
その他の特徴:1,350,440単位含有滅菌粉末バイアル×1
【0065】
参照物品
名称:BOTOX(登録商標)
供給業者:Allergan Inc.
バッチ番号:C3461 C2
保存条件:-15℃~-25℃
その他の特徴:ボツリヌス菌A型毒素50単位(バイアルあたり)
【0066】
ビヒクルおよびコントロール
製剤調製用のビヒクルおよび投薬時のネガティブコントロールとして希釈バッファ(0.2%w/vゼラチン含有30mMリン酸緩衝食塩水、pH6.8)を用いた。
【0067】
用量製剤の調製および処方
いずれの製剤も、計画された投薬日に新しく調製し、同日中に使用した。
【0068】
試験物品の再調製および用量処方
各用量製剤の調製手順は、試験施設に配置されたクラスII安全キャビネット内で実施した。用量製剤は、投薬日に調製してから投薬手順へと進んだ。
【0069】
試験物品は、凍結乾燥材料としてシールステリバイアル中に包装済みのものである。凍結乾燥した試験物品を再調製するため、試験物品を含むバイアルに希釈バッファ1mLを注入した。バイアルを激しく振盪して、再調製ストック内に粒子状物質が肉眼で目視できなくなるまで試験物品を溶解させた。少なくとも3分続けて激しく振盪しても粒子状物質が目視できる場合、OBIに連絡して試験物品バイアルを交換する。再調製した試験物品のストック濃度は1,350,440LD
50単位(U)/mLであった。次いで、再調製した試験物品を用いて、下記表4の通り段階希釈した。
【表4】
【0070】
各段階希釈液を調製するため、必要とされる体積の希釈バッファ(上記の段階希釈スケジュールを参照)をキャップ付きの新しいガラスバイアルにマイクロピペットで移した。次いで、必要体積の希釈対象ストックを希釈バッファ含有バイアルにマイクロピペットで移した。ピペッティングを静かに数回繰り返した後、バイアルにキャップをきつく締めた状態で静かに数回ひっくり返すことで混合した。各移送工程が完了したら、使用したマイクロピペット先端は廃棄した。用量製剤の調製が完了して得られたストック5~ストック15を試験物品の用量製剤として使用した。
【0071】
参照物品の再調製および用量処方
参照物品は、凍結乾燥材料としてシールステリバイアル中に包装済みのものである。凍結乾燥した参照物品を再調製するため、試験物品を含むバイアルに希釈バッファ0.2mLを注入した。次いで、バイアルを激しく振盪して、再調製ストック内に粒子状物質が肉眼で目視できなくなるまで試験物品を溶解させた。再調製した試験物品のストック濃度は250LD
50単位(U)/mLであった。次いで、再調製した参照物品から、下記表5の通り段階希釈液を調製した。
【表5】
【0072】
各段階希釈液を調製するため、必要とされる体積の希釈バッファ(上記の段階希釈スケジュールを参照)を、キャップ付きの新しいガラスバイアルにマイクロピペットで移した。次いで、必要体積の希釈対象ストックを希釈バッファ含有バイアルにマイクロピペットで移した。ピペッティングを静かに数回繰り返した後、バイアルにキャップをきつく締めた状態で静かに数回ひっくり返すことで混合した。各移送工程が完了したら、使用したマイクロピペット先端は廃棄した。用量製剤の調製が完了して得られたストック1~ストック11を参照物品の用量製剤として使用した。
【0073】
研究動物
研究動物を以下に記載する。
系統および種:ICRマウス
供給源:BioLASCO Taiwan Co.,Ltd.(台北、台湾)
グループ割当てした動物数:バッチ当たりメス236匹;4バッチ
予備動物数:バッチ当たりメス14匹;4バッチ
投薬日の体重:18~22g(体重幅は平均体重の±10%である)
同定:耳切り、胴体または尾部に染料で標識、ケージカード
【0074】
選択理由:本研究における試験物品および参照物品の薬物クラスの有効性および毒性を評価するために確立された手順は、マウスを試験系統として設計されている。手順の開発には雌性動物を使用したが、これらは過去の研究において試験物品および参照物品の薬物クラスの薬理学的効果および毒性に影響されやすいことが分かっている。確立された手順および過去の研究結果に基づき、本研究の試験系統として雌性マウスを選択した。
【0075】
環境条件
研究動物の居住条件を以下に記載する。
動物は、国際実験動物管理公認協会(AAALAC)認可施設において、敷きわらを置いたポリカーボネート製ケージ内で個別に飼育した。温度:20.7~23.1℃。相対湿度:51.2~67.1%。光周期:12時間明/12時間暗サイクル。食餌:高圧蒸気滅菌Rodent Diet5010(PMI(登録商標) Nutrition International,Inc.、MO、米国)の自由摂食。水:自由摂取。食餌および水は定期的に分析した。食餌および水の分析結果は試験施設のアーカイブに保存されている。食餌および水の中に、本研究の結果に干渉しうるコンタミネーションは見られないものと思われる。
【0076】
実験設計
動物の順化および選択
動物を試験施設で2日間隔離し、3~4日間順化させてから投薬した。投薬の少なくとも1日前に、所定の研究設計において、動物を研究群(群1~12、それぞれ2つのサブセットAおよびBを有する)へランダムに割り当てた。各割当て動物に4桁のシリアルナンバーを付与した。1元配置分散分析(ANOVA)またはクラスカル-ウォリスの順位に基づく1元ANOVAで求めたところ、研究群または研究群サブセットの平均体重間で統計的に有意(p<0.05)な差は見られなかった。割り当てられなかった動物は予備動物とした。各バッチの0日目当日または前日までに健康問題(許容限度(24g)を超える体重等)および/または投薬過誤の恐れが生じた場合、割当て動物を予備動物と交代させる。順化期間完了後は予備動物のデータは収集していない。1日目以降は予備動物を研究から除外している。
【0077】
研究設計
用量群、公称用量濃度、用量体積、公称用量レベル、および用量群あたりの動物数を下記表6にまとめた。
【表6】
【0078】
試験物品の整合性検証
各バッチの投薬日(0日目)に、予備動物プールから動物3匹をランダムに選択した。別途、試験物品のバイアル1個を再調製し(ストック0)、ストック0の一部を1.6倍希釈した。その後、再調製および希釈した試験物品0.1mLを、選択した試験動物の尾静脈に静脈内注射した。IV投薬した試験動物が投薬後1時間以内に少なくとも2匹死んだことで試験物品の整合性が確認された場合、その後の主研究動物への投薬を進行させることとした。1時間以内に少なくとも2匹の動物が死ななかった場合、所定バイアルの試験物品ストック0は廃棄されることになる。この場合、第2の試験物品バイアルから新たなバイアルのストック0を調製し、第2バイアルのストックで検証試験を繰り返す。第2バイアルでも検証試験に失敗した場合、試験物品の効力が許容されないため、所定バッチの投薬は停止されることになる。全ての試験物品バイアルが試験を通過したため、初期試験後に上記のフォローアップ手順は実施しなかった。
【0079】
試験物品の投与:右腓腹筋への筋肉内注射
【0080】
用量レベルおよび投薬経路選択の根拠
OBIで公称用量レベルを選択して、筋肉内の半数有効量(IM ED50)および筋肉内の半数致死量(IM LD50)を決定した。これらは1桁分異なっていると考えられる。
【0081】
投与頻度:単回投与
【0082】
ネガティブコントロールの投与
ネガティブコントロールとして、希釈バッファ20μLを群1の用量動物の右腓腹筋に筋肉内注射した。コントロール注射の手順は試験物品注射と同じである。
【0083】
観察および実験
0日目の投薬から少なくとも6時間後までに1回、動物の死亡率を観察した。その後、研究期間を通じて、DASアッセイの実施(3日目まで)と同時に動物の死亡率を毎日観察した。死亡率は個別にスコア化し、群毎に集計してLD50を算出した。
【0084】
指外転スコア(DAS)アッセイ
バッチ毎に、各バッチの0日目に最初の動物へ投薬してから24~26時間後、48~50時間後、および72~74時間後の筋力低下について研究動物を観察した。筋力低下はDASアッセイでスコア化した。動物毎に、その筋力低下スコアを2人の異なる人員が独立して記録した。独立して観察した2つのスコアを平均して分析に用いた。DASアッセイは以下の通り実施した(米国特許出願公開第2010/0168023号明細書から抜粋)。Aoki,K.R,「A comparison of the safety margins of botulinum neurotoxin serotypes A,B,and F in mice」,Toxicon 2001;39(12):1815-1820で報告された指外転スコア(DAS)アッセイを用いて筋肉麻痺を測定した。DASアッセイでは、マウスを一時的に尾部懸垂させて特徴的な驚愕反応(マウスが後肢を伸展させ後指を外転させる)を起こした。マウスがこのような驚愕反応を呈示できる度合いを、5段階(0~4)でスコア化した。0は通常の驚愕反応を表し、4は指の外転および脚の伸展が最も低減したものを表す。指外転は以下の表7に基づいてスコア化した。
【表7】
【0085】
体重
体重は、少なくともグループ化の前と0日目の投薬前に1回測定した。
【0086】
統計的分析
プロビット分析を用いて、プロビットおよびロジットシグモイド毒素単位/DAS反応曲線をフィッティングし、IM ED50値およびIM LD50値を算出した。分析はMinitab(登録商標)を用いて実施した。各バッチの安全域は、投薬から48時間後のIM ED50(DAS)および投薬から72時間後のIM LD50に基づいて算出した。回帰分析の採択基準はR2>0.9とした。
【0087】
コンピュータシステム
オンラインデータ収集システムPristima(登録商標)(Version6.3.2;Xybion Medical Systems社)を用いて、試験施設における体重データを収集、分析した。
【0088】
結果と考察
OBI-858RDSバッチ整合性試験
OBI-858整合性試験の要約を以下の表8に示す。
【表8】
【0089】
体重
各バッチについて、各投薬群の体重範囲は各平均体重の±10%以内であった。
【0090】
DASアッセイおよびED
50算出
OBI-858
動物は、早ければ投薬後24時間で指外転の兆候を示した。指外転の重症度はOBI-858RDSの用量上昇と相関しており、それよりも高用量で最大重症度(死亡を含む)が定常に達した。48時間後IM ED
50について、バッチ1以外は全て回帰分析の採択基準(R
2>0.9)を満たしていた。バッチ2、3、および4の場合、投薬後48時間のED
50はそれぞれ0.33、0.32、および0.36U/動物であった。
【表9】
【0091】
(BOTOX(登録商標))
動物は、早ければ投薬後24時間で指外転の兆候を示した。指外転の重症度はBOTOX(登録商標)の用量上昇と相関していたが、BOTOX(登録商標)ではOBI-858RDSよりも低用量で最大重症度(死亡を含む)が定常に達した。48時間後IM ED
50について、バッチ1以外は全て回帰分析の採択基準(R
2>0.9)を満たしていた。バッチ2、3、および4の場合、投薬後48時間のED
50はそれぞれ0.22、0.24、および0.23U/動物であった。結論として、BOTOX(登録商標)の48時間後IM ED
50はOBI-858より低かった。
【表10】
【0092】
死亡率およびLD
50算出
OBI-858
いくつかのバッチについて、群11および群12では早ければ投薬後48時間で死亡が観察されたものの、死亡の過半数は投薬後72時間で発生していた。投薬後72時間で、全4バッチのLD
50はそれぞれ3.00、3.42、3.33、および3.35U/動物であった。しかしながら、投薬後72時間だと、回帰分析における用量相関の線形範囲内に十分な用量群を有していたのはバッチ2、3、および4のみであり、死亡率は0%~100%の間であった(分析あたり少なくとも3つの用量群が必要であった)。これら3つのバッチのうち、バッチ2および3のみが回帰分析の採択基準を満たしていた。
【表11】
【0093】
BOTOX(登録商標)
BOTOX(登録商標)投与動物の場合、OBI-858RDS投与動物(群6~群12で投薬後72時間)で見られたより早く(投薬後早くて24時間)、かつ低用量で死亡が発生した。投薬後72時間で、全4バッチのLD
50算出値はそれぞれ2.21、1.63、2.14、および1.57U/動物であった。しかしながら、4つのバッチにおける死亡率の結果はいずれも回帰分析の採択基準を満たしていなかった。バッチ2、3、および4の場合、投薬後72時間で用量相関の線形範囲内に用量群は存在していなかった。従って、これらのバッチにおけるLD
50算出値について回帰分析は実施できなかった。バッチ1の場合、R
2値は0.74で採択基準より低かった。
【表12】
【0094】
ED
50の結果に対する体重偏差の影響評価
OBI-858RDSおよびBOTOX(登録商標)の両方について、投薬時に必要な体重範囲内(18~22g)の動物と体重超過した動物(22g超)との間でED
50算出値の差に一定の傾向は見られなかった。下記表13に示すとおり、全ED
50値と比較した場合、体重超過した動物をED
50の算出から排除してもED
50値において一定の変化は見られなかった。
【表13】
【0095】
加えて、1匹の動物が投薬時に17.7gと低体重(閾値である18g未満)であることが分かった。低体重の動物(ID:0193;群9、サブセットB(Botox(登録商標));バッチ2)についても、全てのスコア化セッションで同群の他の動物と同様に指外転スコアを付与した。従って、本事象は研究結果に影響していない。
【0096】
安全域(MOS)の予測
安全域は、48時間後IM ED50に対する72時間後IM LD50の比として算出した。
【0097】
4つの試験バッチについて、OBI-858のMOS値はそれぞれ14.07、10.32、10.33、および9.29であった。4つの試験バッチについて、BOTOX(登録商標)のMOS値はそれぞれ6.20、7.58、8.98、および6.73であった。OBI-858RDSのMOSは、一貫してBOTOX(登録商標)より高かった(表16)。
【0098】
結論
本研究で試験したOBI-858のバイアルはいずれも整合性試験に合格した。数匹の研究動物は投薬時に体重が増加していた(22~24g)が、ED
50の算出結果に大きな影響はなかった。OBI-858の場合、許容されたバッチにおける72時間後IM LD
50値および48時間後IM ED
50値は、それぞれ3.42U/動物および0.33U/動物(バッチ2)、3.33U/動物および0.32U/動物(バッチ3)であった。対応するMOS値は、バッチ2およびバッチ3でそれぞれ10.32および10.33であった。BOTOX(登録商標)の場合、72時間後IM LD
50値および48時間後IM ED
50値は、それぞれ1.63U/動物および0.22U/動物(バッチ2)、2.14U/動物および0.24U/動物(バッチ3)であった。対応するMOS値は、バッチ2およびバッチ3でそれぞれ7.58および8.98であった。結論として、OBI-858はBOTOX(登録商標)と同等の力価を有しており、BOTOX(登録商標)よりも72時間後IM LD
50値および安全域が高い。
【表14】
【表15】
【表16】
【0099】
実施例4:OBI-858製剤の安定性試験
実験材料/方法
(1)LF08製剤
0.5mg/mLのヒト血清アルブミン(HSA)、11.25mg/mLの塩化ナトリウム、および0.188mg/mLのTween80(50mMリン酸バッファに溶解)(pH6.3)
【0100】
(2)LF09製剤
0.5mg/mLのヒト血清アルブミン(HSA)、11.25mg/mLの塩化ナトリウム、および0.188mg/mLのTween80(50mMクエン酸(クエン酸ナトリウム)バッファに溶解)(pH5.6)
【0101】
(3)LF10製剤
0.5mg/mLのメチオニン、11.25mg/mLの塩化ナトリウム、0.188mg/mLのTween80および150mMアルギニン(50mMクエン酸(クエン酸ナトリウム)バッファに溶解)(pH6.0)
【0102】
(4)LF11製剤
11.25mg/mLの塩化ナトリウムおよび0.188mg/mLのTween(50mMクエン酸(クエン酸ナトリウム)バッファに溶解)(pH6.3)
【0103】
(5)実験動物
メスICRマウス8匹(体重範囲:18~22g)。選択した試験動物の尾静脈にOBI-858を0.1mL静注して、致死量(LD50/mL)を試験した。
【0104】
実験結果
(1)異なる製剤間の安定性試験
凍結乾燥したOBI-858DS粉末を4種の製剤中で再調製した。45℃で14日間保管後、これらの試験物品を4℃に移して24時間置いた。次いで、選択した試験動物を室温で1時間温めた後、尾部に静注した。表17にこれら4製剤の致死量(LD
50/mL)を表す。表から、LF09製剤の安定性が最良であることが分かった。
【表17】
【0105】
(2)LF09製剤の4~60℃加速安定性試験
凍結乾燥したOBI-858DS粉末をLF09製剤中で再調製した。4つの温度(4℃、25℃、45℃、および60℃)で7日間保管後、これらの試験物品を4℃に移して24時間置いた。次いで、選択した試験動物を室温で1時間温めた後、尾部に静注した。表18にLF09製剤の致死量(LD
50/mL)を表す。表から、45℃以内で保管した後は安定性が保持されていることが分かった。
【表18】
【0106】
本明細書に記載した例示的な実施形態は説明を意図したものに過ぎず、限定を意図したものではないことを理解されたい。一般に、例示的な実施形態それぞれの特徴または態様の記載は、他の例示的な実施形態における類似の特徴または態様にも適用できるものと解されるべきである。1つ以上の例示的な実施形態が添付の図面を参照して記載されているが、当業者であれば、添付の特許請求の範囲で定義したような本発明概念の精神および範囲から逸脱することなく、形態および詳細の点で様々な変更を実施できることが理解されよう。
【配列表】