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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-08
(45)【発行日】2023-08-17
(54)【発明の名称】細胞の保存方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/00 20060101AFI20230809BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALI20230809BHJP
   C12N 5/0797 20100101ALI20230809BHJP
   C12N 1/04 20060101ALI20230809BHJP
   C12M 1/28 20060101ALI20230809BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20230809BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230809BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20230809BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230809BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20230809BHJP
【FI】
C12N5/00
C12N5/0775
C12N5/0797
C12N1/04
C12M1/28
A61K35/28
A61K9/08
A61L27/38
A61P25/00
A61P37/06
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2022512585
(86)(22)【出願日】2021-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2021013685
(87)【国際公開番号】W WO2021201029
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-11-10
(31)【優先権主張番号】P 2020063821
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520113941
【氏名又は名称】Cell Exosome Therapeutics株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】柳田 康友
(72)【発明者】
【氏名】李家 中豪
(72)【発明者】
【氏名】石田尾 武文
(72)【発明者】
【氏名】南 一成
【審査官】田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0140656(US,A1)
【文献】国際公開第2017/073656(WO,A1)
【文献】特表2012-510299(JP,A)
【文献】特表2009-511212(JP,A)
【文献】国際公開第2016/163444(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0212020(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0199900(US,A1)
【文献】特開2004-073084(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-1/38
C12N 5/00-5/28
C12M 1/00-3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞と凍結保護剤とを含む組成物を含むバッグであって、前記組成物は前記バッグ内の側面に対して細胞ペレットを形成している、バッグ。
【請求項2】
前記組成物は再生医療用組成物である、請求項1に記載のバッグ。
【請求項3】
前記再生医療は、前記バッグ内に溶液を添加して細胞懸濁液を生成する工程、及び前記細胞懸濁液を対象に投与する工程、を含む、請求項2に記載のバッグ。
【請求項4】
前記細胞ペレットは、前記バッグを横たえた状態で遠心することによって形成された細胞ペレットである、請求項1~3のいずれかに記載のバッグ。
【請求項5】
前記細胞ペレットは、前記バッグ内の側面に細胞が広く広がっている、請求項1~4いずれかに記載のバッグ。
【請求項6】
前記再生医療は、前記細胞ペレットを手でほぐして浮遊させ、懸濁する工程を含む、請求項2又は3に記載のバッグ。
【請求項7】
前記組成物は凍結物である、請求項1~6のいずれかに記載のバッグ。
【請求項8】
前記組成物は2.0×107個/mL以上の細胞を含む、請求項1~7のいずれかに記載のバッグ。
【請求項9】
前記組成物は0.5~10%(v/v)の前記凍結保護剤を含む、請求項1~8のいずれかに記載のバッグ。
【請求項10】
前記細胞は幹細胞である、請求項1~9のいずれかに記載のバッグ。
【請求項11】
前記細胞は間葉系幹細胞である、請求項1~10のいずれかに記載のバッグ。
【請求項12】
前記細胞ペレットは、バッグの側面方向に遠心力が向く遠心分離で形成された細胞ペレットである、請求項1~11のいずれかに記載のバッグ。
【請求項13】
前記細胞ペレットは、前記バッグ内の片方のみの側面に対して形成された細胞ペレットである、請求項1~12のいずれかに記載のバッグ。
【請求項14】
請求項1~13のいずれかに記載のバッグと、シリンジとを含み、前記バッグと前記シリンジとが一体化したデバイス。
【請求項15】
請求項1~13のいずれかに記載のバッグ内に溶液を添加して細胞懸濁液を生成する工程を含む、再生医療に使用するための前記細胞懸濁液の生産方法。
【請求項16】
前記溶液は、生理食塩水又は緩衝液である、請求項15に記載の生産方法。
【請求項17】
細胞と凍結保護剤とを含む組成物であって、前記組成物はバッグ内の側面に対して細胞ペレットを形成しており、前記組成物は再生医療用組成物であり、前記再生医療は前記バッグ内に溶液を添加して細胞懸濁液を生成する工程、及び前記細胞懸濁液を対象に投与する工程、を含む、組成物。
【請求項18】
前記組成物は2.0×107個/mL以上の細胞を含む、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記組成物は凍結物である、請求項17又は18に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞、細胞懸濁液、容器、デバイス、又は再生医療用医薬組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
幹細胞を主成分とした再生医療用製品として、日本ではテムセルHS注及びステミラック注が販売されている。これらの製品は凍結状態で保存され、医療現場へ届けられる。そして、患者に投与前に解凍して使用される。投与時の剤形は細胞懸濁液である。
【0003】
テムセルHS注は、バッグ(全量10.8mL)中に72×106個のヒト間葉系幹細胞と、1.08mLのジメチルスルホキシド(DMSO)等を含有している。ステミラック注は、バッグ(全量20mL又は40mL)中に0.5~2.0×108個の自己骨髄間葉系幹細胞と、2mL又は4mLのDMSO等を含有している。ここで、DMSOは凍結保護剤である。
【0004】
特許文献1には、ヒト間葉系幹細胞を含む医薬組成物及びその製法が記載されている。この特許は、テムセルHS注に関する特許権の延長登録出願がされている。特許文献2には、骨髄又は血液由来の細胞を含む再生用医薬の製法が記載されている。この特許は、ステミラック注に関する特許権の延長登録出願がされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5394932号明細書
【文献】特許第4936341号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の再生医療用製品及び特許文献に記載の再生医療用医薬組成物は、凍結、解凍を経て使用されるため、細胞懸濁液中に凍結保護剤を含有している。しかし、凍結保護剤の濃度が高いため、そのことに起因する有害な副作用が生じ得る問題を有していた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、凍結、解凍を経た後も凍結保護剤の濃度が低い細胞懸濁液の製造に成功した。即ち本発明の一態様によれば、(a)細胞と凍結保護液とを含有する細胞懸濁液から細胞を濃縮し、濃縮画分を生成する工程、及び(b)上記濃縮画分を凍結し、凍結物を生成する工程、を含む、細胞の保存方法が提供される。この方法で保存した細胞を含む組成物を解凍し、溶液で懸濁すると、凍結保護剤濃度が低い細胞懸濁液を得ることができる。
【0008】
また本発明の一態様によれば、(a)細胞と凍結保護液とを含有する細胞懸濁液から細胞を濃縮し、濃縮画分を生成する工程、(b)上記濃縮画分を凍結し、凍結物を生成する工程、及び(c)上記凍結物を解凍し、解凍物を生成する工程、を含む、細胞の凍結解凍方法が提供される。
【0009】
また本発明の一態様によれば、(a)細胞と凍結保護液とを含有する細胞懸濁液から細胞を濃縮し、濃縮画分を生成する工程、及び(b)上記濃縮画分を凍結し、凍結物を生成する工程、を含む、凍結細胞含有組成物の生産方法が提供される。
【0010】
また本発明の一態様によれば、(a)細胞と凍結保護液とを含有する細胞懸濁液から細胞を濃縮し、濃縮画分を生成する工程、(b)上記濃縮画分を凍結し、凍結物を生成する工程、(c)上記凍結物を解凍し、解凍物を生成する工程、及び(d)上記解凍物と溶液を混合し、細胞懸濁液を生成する工程、を含む、細胞懸濁液の生産方法が提供される。
【0011】
また本発明の一態様によれば、細胞と凍結保護液とを含有する細胞懸濁液を含む容器の凍結物を解凍する工程、上記容器にシリンジに装着された注射針を刺す工程、及び上記シリンジから上記容器へ、溶液を注入する工程、を含む、細胞懸濁液の生産方法が提供される。
【0012】
また本発明の一態様によれば、シングルセルの集団である2.0×107個/mL以上の細胞と、凍結保護剤とを含有する組成物の凍結物を含む、容器が提供される。
【0013】
また本発明の一態様によれば、細胞と凍結保護液とを含有する容器と、シリンジとを含み、上記容器と上記シリンジとが一体化したデバイスが提供される。
【0014】
また本発明の一態様によれば、ペレット状の細胞含有組成物を含む容器と、シリンジが一体化したデバイスが提供される。
【0015】
また本発明の一態様によれば、細胞及び凍結保護剤を含有する再生医療用組成物であって、前記凍結保護剤の含有量が1%(v/v)以下である、再生医療用医薬組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、実施例1に記載のペレット法の一例の概念図である。
図2図2は、実施例1において凍結保護液の残存量を調べた結果のグラフである。
図3図3は、実施例1において細胞を凍結解凍後の生細胞率を調べた結果のグラフである。
図4図4は、実施例1において解凍後の細胞数と培養3日後の細胞数を調べた結果のグラフである。
図5図5は、実施例2において細胞を凍結解凍後の、生細胞率及び細胞数を調べた結果のグラフである。
図6図6は、実施例3においてバッグを遠心機に設置した状態の写真である。
図7図7は、実施例3において凍結保護液の残存量を調べた結果のグラフである。
図8図8は、実施例3において細胞を凍結解凍後の生細胞率を調べた結果のグラフである。
図9図9は、実施例3において解凍後の細胞数と培養3日後の細胞数を調べた結果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、同様な内容については繰り返しの煩雑を避けるために、適宜説明を省略する。
【0018】
本発明の一実施形態は、(a)細胞と凍結保護液とを含有する細胞懸濁液から細胞を濃縮し、濃縮画分を生成する工程、及び(b)上記濃縮画分を凍結し、凍結物を生成する工程、を含む、細胞の保存方法を含む。この方法で保存した細胞を含む組成物を解凍し、溶液で懸濁すると、凍結保護剤濃度が低い細胞懸濁液を得ることができる。また、この方法で保存中の細胞は、目的の用途(例えば、再生医療における患者への細胞投与)に使用する前までは、容器に入れて(例えば、フリーザーで)保管することができる。例えば、再生医療に用いる場合、この方法で保存した細胞を、患者に投与前にフリーザーから取り出し、解凍し、溶液で懸濁し、患者に投与することができる。このとき、溶液量に応じて、懸濁液中の凍結保護剤を低濃度に設定できるため、安全性に優れた細胞懸濁液を投与することができる。また、細胞が事前に濃縮されているため、目的の濃度の細胞を懸濁液に残すことができる。
【0019】
本発明の一実施形態は、細胞と凍結保護液とを含む容器を遠心に供し、上清と沈殿部分に分離させる工程、上記上清を除去し、濃縮画分を生成する工程、及び上記濃縮画分を凍結する工程、を含む、細胞の保存方法を含む。この方法で保存した細胞を含む組成物を解凍し、溶液で懸濁すると、凍結保護剤濃度が低い細胞懸濁液を得ることができる。
【0020】
本発明の一実施形態は、(a)細胞と凍結保護液とを含有する細胞懸濁液から細胞を濃縮し、濃縮画分を生成する工程、(b)上記濃縮画分を凍結し、凍結物を生成する工程、及び(c)上記凍結物を解凍し、解凍物を生成する工程、を含む、細胞の凍結解凍方法を含む。この方法で凍結解凍した細胞を溶液で懸濁すると、凍結保護剤濃度が低い細胞懸濁液を得ることができる。
【0021】
本発明の一実施形態は、単一細胞を細胞凍結保護液中で懸濁した後、遠心操作により細胞を沈降させてペレット状にし、凍結保護液の上清を除去した状態で、残った細胞ペレットを凍結及び解凍する工程を含む、細胞の凍結解凍方法を含む。この方法で凍結解凍した細胞を溶液で懸濁すると、凍結保護剤濃度が低い細胞懸濁液を得ることができる。
【0022】
本発明の一実施形態は、(a)細胞と凍結保護液とを含有する細胞懸濁液から細胞を濃縮し、濃縮画分を生成する工程、及び(b)上記濃縮画分を凍結し、凍結物を生成する工程、を含む、凍結細胞含有組成物の生産方法を含む。この生産方法で得られた凍結細胞含有組成物を解凍し、溶液で懸濁すると、凍結保護剤濃度が低い細胞懸濁液を得ることができる。このとき、溶液量に応じて、懸濁液中の凍結保護剤を低濃度に設定できるため、安全性に優れた細胞懸濁液を得ることができる。また、細胞が事前に濃縮されているため、目的の濃度の細胞を懸濁液に残すことができる。
【0023】
本発明の一実施形態は、細胞と凍結保護液とを含む容器を遠心に供し、上清と沈殿部分に分離させる工程、上記上清を除去し、濃縮画分を生成する工程、及び上記濃縮画分を凍結する工程、を含む、凍結細胞含有組成物の生産方法を含む。この生産方法で得られた凍結細胞含有組成物を解凍し、溶液で懸濁すると、凍結保護剤濃度が低い細胞懸濁液を得ることができる。
【0024】
本発明の一実施形態は、(a)細胞と凍結保護液とを含有する細胞懸濁液から細胞を濃縮し、濃縮画分を生成する工程、(b)上記濃縮画分を凍結し、凍結物を生成する工程、(c)上記凍結物を解凍し、解凍物を生成する工程、及び(d)上記解凍物と溶液を混合し、細胞懸濁液を生成する工程を含む、細胞懸濁液の生産方法を含む。この生産方法によれば、凍結保護剤濃度が低い細胞懸濁液を得ることができる。
【0025】
本発明の一実施形態は、細胞と凍結保護液とを含む容器を遠心に供し、上清と沈殿部分に分離させる工程、上記上清を除去し、濃縮画分を生成する工程、上記濃縮画分を凍結する工程、及び上記解凍物と溶液を混合し、細胞懸濁液を生成する工程、を含む、細胞懸濁液の生産方法を含む。この生産方法によれば、凍結保護剤濃度が低い細胞懸濁液を得ることができる。
【0026】
本発明の一実施形態は、細胞が濃縮された濃縮画分を凍結し、凍結物を生成する工程、又は細胞が濃縮された濃縮画分の凍結物を解凍し、解凍物を生成する工程、を含む、細胞懸濁液の生産方法を含む。この生産方法によれば、凍結保護剤濃度が低い細胞懸濁液を得ることができる。
【0027】
本発明の一実施形態は、細胞と凍結保護液とを含有する細胞懸濁液を含む容器の凍結物を解凍する工程、上記容器にシリンジに装着された注射針を刺す工程、及び上記シリンジから上記容器へ、溶液を注入する工程、を含む、細胞懸濁液の生産方法を含む。この生産方法によれば、凍結保護剤濃度が低い細胞懸濁液を得ることができる。
【0028】
本発明の一実施形態は、(a)細胞と凍結保護液とを含有する細胞懸濁液から細胞を濃縮し、濃縮画分を生成する工程、及び(b)上記濃縮画分を凍結し、凍結物を生成する工程、を含む、凍結細胞含有組成物を含む容器の生産方法を含む。この生産方法で得られた容器内の凍結細胞含有組成物を解凍し、溶液で懸濁すると、凍結保護剤濃度が低い細胞懸濁液を得ることができる。
【0029】
本発明の一実施形態は、(a)細胞と凍結保護液とを含有する細胞懸濁液から細胞を濃縮し、濃縮画分を生成する工程を含む、凍結細胞含有組成物の生産方法を含む。この生産方法で得られた凍結細胞含有組成物を解凍し、溶液で懸濁すると、凍結保護剤濃度が低い細胞懸濁液を得ることができる。
【0030】
本発明の一実施形態は、細胞と上記凍結保護液とを含む容器を遠心に供し、上清と沈殿部分に分離させる工程、及び上記上清を除去し、濃縮画分を生成する工程、を含む、細胞ペレットの生産方法を含む。この生産方法で得られた細胞ペレットを凍結、解凍し、細胞ペレットを生産してもよい。
【0031】
本発明の一実施形態は、上記細胞ペレットを含有するゴム栓付きバイアルと、細胞懸濁液が入ったシリンジとを備え、シリンジに装着された注射針がゴム栓に突き刺さった形状を持つ、シリンジとバイアルが結合した状態のデバイスを含む。
【0032】
本発明の一実施形態は、(a)細胞と凍結保護液とを含有する細胞懸濁液から細胞を濃縮し、濃縮画分を生成する工程、又は(b)前記濃縮画分を凍結し、凍結物を生成する工程、を含む、方法、又は細胞含有組成物の生産方法を含む。
【0033】
本発明の一実施形態は、シングルセルの集団である2.0×107個/mL以上の細胞(例えば、幹細胞等)と、凍結保護剤とを含有する組成物の凍結物を含む、容器を含む。この容器に含まれる凍結物を解凍後、溶液と混合すると、溶液の量に応じて凍結保護剤を希釈しつつ、細胞懸濁液を調製することができる。この容器は、上記いずれかの本発明の一実施形態の生産方法により生産できる。ここで、組成物中の細胞濃度は、2.0×107、3×107、4×107、5×107、6×107、7×107、1×108、3×108、5×108、7×108、9×108、又は1×109/mL以上であってもよく、それら2つの値の範囲内であってもよい。上記組成物は、20%(v/v)以下の凍結保護剤を含んでいてもよい。この濃度は、例えば、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、又は20%(v/v)であってもよく、それら2つの値の範囲内であってもよい。この凍結保護剤は、例えば、DMSO、グリセロール、グリセリン、デキストラン、ポリエチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、又はプロパンジオールであってもよい。凍結保護剤がトレハロース、ソルビトール、又はポリビニルピロリドンの場合、その濃度は、20%(w/v)以下の凍結保護剤を含んでいてもよい。この濃度は、例えば、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、又は20%(w/v)であってもよく、それら2つの値の範囲内であってもよい。上記組成物は、0.001~1mLの凍結保護液を含んでいてもよい。この量は、例えば、0.001、0.005、0.01、0.05、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、又は1mLであってもよく、それら2つの値の範囲内であってもよい。
【0034】
本発明の一実施形態は、細胞と凍結保護液とを含む組成物の凍結物を含む容器であって、凍結物の容量は、容器の容積の30%以下である、容器を含む。この容器に含まれる凍結物を解凍後、溶液と混合すると、溶液の量に応じて凍結保護剤を希釈しつつ、細胞懸濁液を調製することができる。このとき、容器内の凍結物以外の部分に溶液を注入することができるため、細胞懸濁液の調製が簡便である。
【0035】
本発明の一実施形態は、上記いずれかの本発明の一実施形態の容器と、シリンジとを含み、容器とシリンジとが一体化したデバイスを含む。このデバイスは、細胞懸濁液を簡便に調製するために使用できる。また、このデバイスを用いて、凍結保護剤濃度が低い細胞懸濁液を生産することができる。本発明の一実施形態において、一体化は、接続した状態を含む。本発明の一実施形態において、接続は、直接又は間接的に接続する形態を含む。直接的に接続する場合、例えば、容器の表面とシリンジが直接接続していてもよい。間接的に接続する場合、例えば、容器とシリンジが、連結部(例えば、チューブ、コネクタ等)を介して接続してもよい。このとき、容器の表面と連結部が接続し、続けて連結部とシリンジが接続していてもよい。
【0036】
本発明の一実施形態は、2.0×107個/mL以上の細胞(例えば、幹細胞等)と、凍結保護剤とを含む、組成物を含む。ここで、細胞はシングルセルの集団であることが好ましい。このとき、凍結保護剤濃度は、細胞の凍結保護に有効な濃度であれば特に限定されない。この濃度は、例えば、0.5~20%(v/v)又は0.5~20%(w/v)であってもよい。この組成物を凍結し、凍結物を解凍後、溶液と混合すると、溶液量に応じて凍結保護剤を希釈しつつ、細胞懸濁液を調製することができる。この組成物に含まれる細胞と凍結保護剤の濃度は、上記の容器中の組成物の説明において列挙した値の範囲であってもよい。この組成物は、上記いずれかの本発明の一実施形態の生産方法により生産できる。本発明の一実施形態は、上記組成物を含む容器を含む。
【0037】
本発明の一実施形態は、上記組成物を含む容器と、シリンジとを含み、容器とシリンジとが一体化したデバイスを含む。このデバイスは、細胞懸濁液を簡便に調製するために使用できる。また、このデバイスを用いて、凍結保護剤濃度が低い細胞懸濁液を生産することができる。
【0038】
本発明の一実施形態は、ペレット状の細胞(例えば、幹細胞等)含有組成物を含む容器と、シリンジとを含み、上記容器と上記シリンジとが一体化したデバイスを含む。このデバイスは、細胞懸濁液を簡便に調製するために使用できる。本発明の一実施形態は、細胞(例えば、幹細胞等)含有組成物の凍結物を含む容器と、シリンジとを含み、上記容器と上記シリンジとが一体化したデバイスを含む。また、このデバイスを用いて、凍結保護剤濃度が低い細胞懸濁液を生産することができる。
【0039】
本発明の一実施形態は、上記いずれかの本発明の一実施形態の組成物、容器、又はデバイスの凍結物を含む。この凍結物を用いて、凍結保護剤濃度が低い細胞懸濁液を生産することができる。凍結細胞含有組成物を含む容器、又はその容器とシリンジとが一体化したデバイスの凍結物は、凍結状態を維持したままで流通することができる。容器とシリンジが一体化したデバイスの凍結物は、医療現場で容器とシリンジを接続させる工程を省略できるメリットがある。
【0040】
本発明の一実施形態は、細胞(例えば、ヒト幹細胞等)を含有する組成物(例えば、再生医療用医薬組成物)であって、低濃度の凍結保護剤を含有する組成物を含む。この組成物中の凍結保護剤濃度は、例えば、1%(v/v)以下又は1%(w/v)以下であってもよい。この組成物は、凍結保護剤の濃度が低いため、対象に投与時の安全性に優れている。この凍結保護剤の濃度は、例えば、患者へ投与時の濃度であってもよい。本発明の一実施形態において、1%(v/v)以下又は1%(w/v)以下は、例えば、1×10-6、1×10-5、1×10-4、1×10-3、1×10-2、1×10-1、0.2、0.3、0.4、0.5、又は1%(v/v)もしくは%(w/v)であってもよく、それら2つの値の範囲内であってもよい。本発明の一実施形態は、再生医療用組成物の生産のための細胞の使用であって、その再生医療用組成物は低濃度の凍結保護剤を含有する、使用を含む。本発明の一実施形態は、再生医療に使用するための細胞を含む組成物であって、その組成物は低濃度の凍結保護剤を含有する、組成物を含む。本発明の一実施形態において、再生医療は、細胞と凍結保護剤(例えば、1%(v/v)以下の濃度)とを含有する組成物を対象に投与してもよい。また再生医療は、細胞療法を含む。細胞療法は、細胞を対象に投与する工程を含む、治療方法を含む。
【0041】
本発明の一実施形態は、再生医療方法であって、細胞(例えば、ヒト幹細胞等)を含有する再生医療用組成物を患者に投与する工程を含み、再生医療用組成物中の凍結保護剤の含有量が低濃度である、再生医療方法を含む。このとき、凍結保護剤濃度は、例えば、1%(v/v)以下又は1%(w/v)以下であってもよい。この再生医療方法は、投与する凍結保護剤の濃度が低いため、安全性に優れている。投与は、例えば、血管内(例えば、静脈内又は動脈内)投与であってもよい。投与は、点滴投与であってもよい。
【0042】
本発明の一実施形態は、再生医療方法であって、細胞と凍結保護液とを含有する細胞懸濁液から細胞を濃縮し、濃縮画分を生成する工程、上記濃縮画分を凍結し、凍結物を生成する工程、上記凍結物を解凍し、解凍物を生成する工程、上記解凍物と溶液を混合し、細胞懸濁液を生成する工程、又は上記細胞懸濁液を対象に投与する工程、を含む、再生医療方法を含む。
【0043】
本発明の一実施形態は、再生医療方法であって、上記いずれかの本発明の一実施形態の組成物の凍結物を容器内で解凍する工程、上記容器に溶液を添加して細胞を懸濁する工程、又は上記細胞懸濁液を対象に投与する工程、を含む、再生医療方法を含む。
【0044】
上記の本発明の一実施形態の細胞の保存方法、細胞の凍結解凍方法、凍結細胞含有組成物の生産方法、細胞懸濁液の生産方法、容器の生産方法、又は細胞ペレットの生産方法は、細胞を培養する工程、得られた細胞コロニーを(例えば、トリプシン含有溶液で)単一細胞に分散する工程、得られた単一細胞の集団を遠心し、沈殿画分を生成する工程、又は沈殿画分を凍結保護液と混合する工程を含んでいてもよい。
【0045】
上記の本発明の一実施形態の細胞の保存方法、細胞の凍結解凍方法、凍結細胞含有組成物の生産方法、細胞懸濁液の生産方法、容器の生産方法、又は細胞ペレットの生産方法は、細胞と凍結保護液と混合し、細胞懸濁液を生成する工程を含んでいてもよい。この工程後に、細胞懸濁液を静置してもよい。静置時間は、1、2、3、4、5、10、20、30、又は60分以上であってもよく、これら2つの値の範囲内であってもよい。この静置時間は、凍結解凍後のより高い細胞生存率を得る観点からは、5分以上が好ましい。このときの温度は、例えば、3、4、5、6、10、20、30、又は37℃であってもよく、これら2つの値の範囲内であってもよい。
【0046】
上記の本発明の一実施形態の方法又は生産方法(細胞の保存方法、細胞の凍結解凍方法、凍結細胞含有組成物の生産方法、細胞懸濁液の生産方法、容器の生産方法、又は細胞ペレットの生産方法等)は、上記細胞と上記凍結保護液とを含む容器を遠心に供し、上清と沈殿部分に分離させる工程、及び上記上清を除去し、濃縮画分を生成する工程、を含んでいてもよい。この2工程によれば、簡便な操作により、細胞の濃縮画分を生成することができる。また、高濃度の細胞と、凍結保護に有効量の凍結保護剤とを濃縮画分に含有させることができる。
【0047】
上記の本発明の一実施形態の方法又は生産方法(細胞の保存方法、細胞の凍結解凍方法、凍結細胞含有組成物の生産方法、細胞懸濁液の生産方法、容器の生産方法、又は細胞ペレットの生産方法等)は、フィルターを用いて細胞と凍結保護液とを含有する細胞懸濁液から細胞を濃縮し、濃縮画分を生成する工程を含んでいてもよい。この工程によれば、高濃度の細胞と、凍結保護に有効量の凍結保護剤とを濃縮画分に含有させることができる。
【0048】
上記の本発明の一実施形態の方法又は生産方法(細胞の保存方法、細胞の凍結解凍方法、凍結細胞含有組成物の生産方法、細胞懸濁液の生産方法、容器の生産方法、又は細胞ペレットの生産方法等)は、上記濃縮画分を含む容器を氷点下環境に置く工程を含んでいてもよい。これらの方法又は生産方法は、上記濃縮画分を含む容器とシリンジを接続し(例えば、容器にシリンジに装着された注射針を刺し)、上記容器とシリンジが一体化したデバイスを形成する工程を含んでいてもよい。これらの方法又は生産方法は、上記デバイスを凍結する工程を含んでいてもよい。これらの方法又は生産方法は、上記デバイスを氷点下環境に置く工程を含んでいてもよい。これらの方法又は生産方法は、上記凍結物をフリーザー内に保管する工程を含んでいてもよい。これらの方法又は生産方法は、上記シリンジから上記容器へ溶液を注入する工程を含んでいてもよい。これらの方法又は生産方法は、シリンジによる注入及び吸入を繰り返す工程を含んでいてもよい。これらの方法又は生産方法は、容器内の上記細胞懸濁液を上記シリンジで吸入する工程を含んでいてもよい。これらの方法又は生産方法は、上記容器と上記シリンジを分離する工程を含んでいてもよい。これらの方法又は生産方法は、(a)と(b)工程の間に、細胞を培養もしくは洗浄する工程、容器に凍結保護剤を添加する工程、又は容器に培養液、緩衝液、もしくは生理食塩水を添加する工程を含まなくてもよい。
【0049】
以上の実施形態に記載した各用語に関して、以下により詳細に説明する。
【0050】
本発明の一実施形態において、シリンジは、医薬的に許容可能な担体、又はその凍結物を含んでいてもよい。シリンジは、例えば、生理食塩水、緩衝液(例えば、PBS等)、又はそれらの凍結物を含んでいてもよい。
【0051】
本発明の一実施形態において、濃縮画分は、細胞と凍結保護液とを含有していてもよい。濃縮画分は、バイアル又はバッグ内に収容されていてもよい。
【0052】
本発明の一実施形態において、濃縮は、5倍以上に濃縮してもよい。この倍数は、例えば、5、10、20、30、40、50、60、70、100、120、150、200、300、又は400倍以上であってもよく、それら2つの値の範囲内であってもよい。
【0053】
本発明の一実施形態において、細胞は、細胞集団として存在していてもよい。また細胞は、シングルセル(単一細胞)の集団であってもよい。シングルセルの集団は、細胞が互いにくっついておらず、バラバラの状態にある状態を含む。シングルセルの集団は、例えば、細胞集団を細胞分散化剤(例えば、トリプシン)で処理して生成してもよい。シングルセルの集団は、シングルセルにより主に構成されている細胞集団を含む。シングルセルの集団を含む組成物は、例えば、細胞分散液の形態を含む。シングルセルの集団は、例えば、顕微鏡で観察できる。また、セルソーターで解析することもできる。シングルセルの集団は、上記の本発明の一実施形態の方法又は生産方法において、解凍後の細胞生存率が高い。解凍後の細胞生存率は、例えば、75、80、85、90、95、96、97、98、99、又は100%であってもよく、それら2つの値の範囲内であってもよい。
【0054】
本発明の一実施形態において、細胞は、例えば、哺乳動物の細胞であってもよい。哺乳動物は、例えば、ヒト、サル、ネズミ目の動物(マウス、ハムスター等)等を含む。細胞は、幹細胞又は体細胞を含む。幹細胞は、例えば、自己複製能と、別の種類の細胞に分化する能力とを有する細胞を含む。幹細胞は、多能性幹細胞、複能性幹細胞、単能性幹細胞を含む。多能性幹細胞は、例えば、ES細胞、又はiPS細胞等を含む。複能性幹細胞は、例えば、間葉系幹細胞、脂肪幹細胞、造血系幹細胞、神経系幹細胞等を含む。単能性幹細胞は、例えば、筋幹細胞、色素幹細胞等を含む。体細胞は、例えば、心臓、皮膚、肝臓、肺、胃、腸、腎臓、子宮、脳、血液、又は間葉系組織由来の細胞を含む。また体細胞は、例えば、線維芽細胞又は血球(例えば、白血球(例えば、T細胞、樹状細胞、又はNK細胞)、赤血球、又は血小板)を含む。これらの細胞は、遺伝子改変細胞(例えば、CAR-T細胞等)であってもよい。これらの細胞は、上記の(a)及び(b)の工程を含む方法に適用でき、その結果、安全性に優れ、凍結保存効率が良好な細胞懸濁液を得ることができる。
【0055】
本発明の一実施形態において、凍結保護剤は、例えば、DMSO、グリセロール、デキストラン、ポリエチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ポリビニルピロリドン、プロパンジオール、トレハロース、又はソルビトールを含む。凍結保護剤は、公知の方法で製造可能である。凍結保護剤は、市販のものを利用でき、メーカー(例えば、ゼノアックリソース(株)、富士フイルム和光純薬(株)、東京化成工業(株)等)から購入してもよい。トレハロースは、例えば、α,α-トレハロース、α,β-トレハロース、β,β-トレハロース、グルコシルトレハロース、マルトシルトレハロース、マルトトリオシルトレハロースを含む。デキストランは、例えば、デキストラン40、又はデキストラン70等を含む。
【0056】
本発明の一実施形態において、再生医療は、疾患を有する患者に細胞を投与することで、疾患の治療を行う医療行為を含む。再生医療は、例えば、(例えば、造血幹細胞移植後の)急性移植片対宿主病を有する患者に対して、ヒト間葉系幹細胞を投与する処理を含む。再生医療は、例えば、脊髄損傷に伴う神経症候又は機能障害を有する患者に対して、(例えば、自己の)骨髄間葉系幹細胞を投与する処理を含む。患者への投与経路は、例えば、静注であってもよい。
【0057】
本発明の一実施形態において、組成物(例えば、細胞懸濁液、又は再生医療用医薬組成物)は、医薬的に許容可能な担体を含んでいてもよい。この組成物は、1.0×105個/mL以上の細胞(例えば、幹細胞)を含んでいてもよい。この濃度は、例えば、1.0×105、1.0×106、1.0×107、1.0×108、又は1.0×109個/mL以上であってもよく、それら2つの値の範囲内であってもよい。この組成物は、1×10-6~0.5%(v/v)又は1×10-6~0.5%(w/v)の凍結保護剤を含んでいてもよい。この濃度は、例えば、1×10-6、1×10-5、1×10-4、1×10-3、1×10-2、1×10-1、0.2、0.3、0.4、又は0.5%(v/v)もしくは%(w/v)であってもよく、それら2つの値の範囲内であってもよい。この組成物は、シリンジ内又はバッグ内に収容されていてもよい。この組成物中の細胞濃度及び凍結保護剤濃度は、例えば、組成物を患者へ投与時の濃度であってもよい。
【0058】
本発明の一実施形態において、凍結は、緩慢凍結、又は急速凍結であってもよい。緩慢凍結は、例えば、ゆっくりした冷却速度で長時間かけて冷却して細胞を凍結する方法を含む。緩慢凍結は、例えば、BICELL(日本フリーザー(株))を利用してもよく、又はプログラムフリーザーによる冷凍制御を利用してもよく、断熱材の発泡スチロール箱を利用してもよい。緩慢凍結は、例えば、0.1~1℃/分のスピードで凍結してもよい。0.1~1℃/分は、例えば、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、又は1℃/分であってもよく、それら2つの値の範囲内であってもよい。急速凍結は、例えば、液体窒素中で急速冷凍し、保存する方法を含む。凍結は、好ましくは緩慢凍結である。この場合、凍結解凍後の細胞の生細胞数を維持する点でより優れている。凍結を生じさせるために、上記の容器、懸濁液、又は組成物は氷点下に置かれてもよく、又は氷点下で保管されてもよい。氷点下は、例えば、-50、-60、-80、-100、-120、又は-140℃以下であってもよく、それら2つの値の範囲内であってもよい。凍結時間は、例えば、3、6、12、18、24、30、36、42、48、72、又は96時間以上であってもよくそれら2つの値の範囲内であってもよい。
【0059】
本発明の一実施形態において、容器内から遠心後の上清を除去する工程は、ピペットで容器内の上清を吸引する工程、又は容器と接続したシリンジで容器内の上清を吸引する工程を含んでもよい。容器内から遠心後の上清が除去されるとき、上清は一部が除去されてもよい。一部は、80、90、95、96、97、98、99、99.5%以上であってもよく、それら2つの値の範囲内であってもよく、100%未満であってもよい。
【0060】
本発明の一実施形態において、細胞と凍結保護液の混合液を含む容器に対して行う遠心処理の遠心力は、例えば、150、200、250、300、350、400、450、500、600、又は700gであってもよく、それら2つの値の範囲内であってもよい。遠心処理時間は、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、又は15min以内であってもよく、それら2つの値の範囲内であってもよい。バッグの遠心処理には、プレート遠心機を使用してもよい。
【0061】
本発明の一実施形態において、容器は、バイアル、バッグ、又はボトル等を含む。容器は、シリンジに装着された針を刺すことが可能な栓を有している容器を含む。栓は、例えば、ゴム栓を含む。ゴム栓は、注射針を刺すときに閉鎖系を保ちやすい。容器の材質は、例えば、ガラス、又はプラスチック等を含む。プラスチックは、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、又はエチレン酢酸ビニル共重合体等を含む。シリンジから容器へ溶液を注入する際、(例えば、ゴム栓の端から)空気を抜きながら注入してもよい。バイアルは、溶液(例えば、細胞懸濁液)を収容可能なボトル型の容器を含む。バイアルは、例えば、無菌バイアル(例えば、溶液収容部が無菌のバイアル)、凍結保存用バイアルを含む。バッグは、閉鎖系を保つために優れた形態である。バッグを使用する場合、容器内の液量や気体量に応じて形状を変えられるため、シリンジから容器への溶液の注入を簡便に実施できる。バッグを使用する場合、バッグ内の細胞含有組成物を凍結する前に、中の気体量を減らしておいてもよい。バッグは、無菌バッグ(例えば、溶液収容部が無菌のバッグ)、凍結保存用バッグ、点滴用バッグ、ソフトバッグ、チューブを接続したバッグを含む。バッグはシリンジと直接又は間接的に接続していてもよい。直接的に接続する場合、例えば、バッグの開口部とシリンジが直接接続していてもよい。間接的に接続する場合、例えば、バッグとシリンジが、連結部(例えば、チューブ、コネクタ等)を介して接続してもよい。このとき、容器の開口部と連結部が接続し、続けて連結部とシリンジが接続していてもよい。容器に充填可能な溶液の容量は、例えば、1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、50、100、500、1000、又は1500mL以上であってもよく、それら2つの値の範囲内であってもよい。
【0062】
本発明の一実施形態において、容器とシリンジとが一体化したデバイスは、シリンジに装着された針が容器表面を貫通していてもよい。容器表面の針貫通部は、ゴム製であってもよい。
【0063】
本発明の一実施形態において、注射針の太さは、例えば、18G以上であってもよい。この太さは、例えば、18、19、20、21、22、23、24、25、26、又は27Gであってもよく、それら2つの値の範囲内であってもよい。シリンジから容器への溶液を注入したときの細胞の懸濁の簡便さ、及び細胞への低ストレスの観点からは、21~23Gが好ましい。本発明の一実施形態において、シリンジに充填可能な溶液の容量は、例えば、1、5、10、15、20、50、100、200、300、400、又は500mL以上であってもよく、それら2つの値の範囲内であってもよい。シリンジはプランジャを備えていてもよい。
【0064】
本発明の一実施形態において、細胞の解凍時間は、例えば、1、2、3、4、又は5分以上であってもよく、これら2つの値の範囲内であってもよい。解凍は融解を含んでもよい。
【0065】
本明細書において引用しているあらゆる刊行物、公報類(特許、又は特許出願)は、その全体を参照により援用する。
【0066】
本明細書において「又は」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値の範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。本明細書において「A~B」は、A及びBを含む。
【0067】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。また、上記実施形態に記載の構成を組み合わせて採用することもできる。
【実施例
【0068】
以下、実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0069】
<実施例1>
臍帯由来間葉系幹細胞(臍帯MSC、CET社から提供)、骨髄由来間葉系幹細胞(骨髄MSC、ロンザ、PT-3001)、マウス胚性線維芽細胞(MEF、Chemicon International)、iPS細胞由来心筋細胞(iPS-CM、マイオリッジ、H-013506)の4種類の細胞について、従来の凍結解凍法(以下、従来法と称する)と、細胞濃縮物を用いた凍結解凍法(以下、ペレット法と称する)を実施した。また、解凍後の生細胞率、解凍後の細胞数と3日間培養後の細胞数を比較した。
【0070】
1.1 実験手順
1.1.1 従来法
トリプシン溶液又はTrypLETM Select溶液(サーモフィッシャー)によって単一細胞にした各種細胞(1×10e7cells)を含むコニカルチューブについて、400g×5minで遠心した。上清のトリプシン液をデカント及びチップにより除去し、ゼノアック社のStem Cell Banker(臍帯MSC、骨髄MSCに使用)凍結保護液(10%(v/v)DMSO)、又はCell Banker 1plus(MEF、iPS-CMに使用)凍結保護液(10%(v/v)DMSO)に4mlで置換した。得られた細胞懸濁液全量をゴム栓付きバイアル(マルエム社、5-111-02、容量5ml)に移した後、緩慢凍結用容器BICELL(日本フリーザー)で-80℃フリーザーにてオーバーナイト緩慢凍結した。次に、バイアルを37℃で数分間温めて解凍した。バイアルにPBSを16ml添加し希釈して回収した。細胞懸濁液を遠心管に移し、生細胞率と細胞数をセルカウンターで測定した。その後、細胞培養評価を続けるために、400g×5minで遠心後、上清のPBSを除去した後、各種細胞培養液を適量加えてピペッティングで懸濁し、培養皿に播種し3日間培養した。トリプシン溶液で単一細胞にして再度細胞数を計測した。
【0071】
1.1.2 ペレット法
ペレット法の一例の概念図を図1に示す。トリプシン溶液又はTrypLETM Select溶液によって単一細胞にした各種細胞(1×10e7cells)を含むコニカルチューブについて、400g×5minで遠心した。上清のトリプシン液をデカント及びチップにより除去し、ゼノアック社のStem Cell Banker(臍帯MSC、骨髄MSCに使用)凍結保護液(10%(v/v)DMSO)、又はCell Banker 1plus(MEF、iPS-CMに使用)凍結保護液(10%(v/v)DMSO)に4mlで置換した。得られた細胞懸濁液全量をゴム栓付きバイアル(マルエム社、5-111-02、容量5ml)に移し、5分間4℃冷蔵庫に静置した後、400g×5minで遠心し細胞ペレットを形成させた。その後1000ulのチップと20ulのチップを用いて上清の凍結保護液を可能な限り除去(トータル3.9~3.96mlを除去)した後、緩慢凍結用容器BICELLで-80℃フリーザーにてオーバーナイト緩慢凍結した。次に、バイアルを37℃で数分間温めて解凍した。16mlのPBSを満たした注射器と21Gの注射針を用いて、ゴム栓に針を突き刺すことでPBSを添加し、バイアルを軽くタッピングしペレットを浮遊させた後、ゆっくりと細胞懸濁液を注射針で吸い上げて細胞を回収した。細胞懸濁液を遠心管に移し、生細胞率と細胞数をセルカウンターで測定した。その後、細胞培養評価を続けるために、400g×5minで遠心後、上清のPBSを除去した後、各種細胞培養液を適量加えてピペッティングで懸濁し、培養皿に播種し3日間培養した。トリプシン溶液で単一細胞にして再度細胞数を計測した。
【0072】
1.2 実験結果
1.2.1 凍結保護液の残存量
従来法とペレット法において、細胞凍結時の凍結保護液の残存量を、バイアルから除去した凍結保護液の量から計算し、グラフ化した(図2)。ペレット法では従来法と比べて、1/40~1/100に凍結保護液の残存量が少なくなった。
【0073】
1.2.2 生細胞率及び細胞数
従来法とペレット法において、細胞解凍後の生細胞率をセルカウンターで計測した(図3)。その結果、両者において大きな違いは見られなかった。
【0074】
従来法とペレット法において、解凍後の細胞数と、培養3日後の細胞数をセルカウンターで計測した(図4)。その結果、両者において大きな違いは見られなかった。
【0075】
<実施例2>
2.1 実験手順
凍結保護液として、実施例1のゼノアック社のStem Cell Bankerの代わりに、5%DMSO含有ウシ胎児血清(FBS)(5%DMSO/FBS.溶液)(DMSO(シグマ社製)、FBS(ギブコ社製))、10%グリセロール含有ウシ胎児血清(FBS)(10%グリセロール/FBS溶液)(グリセロール(シグマ社製)、FBS(ギブコ社製))、又はStem Cell Banker DMSO free GMP grade(ゼノアック社)を用いて臍帯MSCの凍結解凍を行った。他の実験手順は実施例1に従って行った。
【0076】
2.2 実験結果
細胞凍結時の凍結保護液の残存量は、実施例1と同様に、ペレット法では従来法と比べて非常に少なくなった。各凍結保護液において、従来法とペレット法で解凍後の生細胞率と生細胞数をセルカウンターで計測したところ、大きな違いは見られなかった(図5)。
【0077】
<実施例3>
3.1 実験手順
3.1.1 従来法
フローズバッグ F-050(ニプロ社、容量25ml)を用いて臍帯MSCの凍結解凍を行った。TrypLETM Select溶液によって単一細胞にした臍帯MSC(10x10e7cells)を含むコニカルチューブについて、400gx5minで遠心後、上清のトリプシン液を除去し、Stem Cell Banker凍結保護液(10%(v/v)DMSO)に20mlで置換した。得られた細胞懸濁液全量をフローズバッグに充填し、断熱材の発泡スチロール箱に入れ、0.1~1℃/分のスピードで、-80℃フリーザーにてオーバーナイト緩慢凍結した。細胞の解凍は、バッグを37℃で数分間温めて解凍後、シリンジをコネクタに取り付け、チューブからゆっくりと細胞懸濁液を吸い上げて細胞を回収した。細胞懸濁液を遠心管に移し、生細胞率と細胞数をセルカウンターで測定した。その後、細胞培養評価を続けるために、400gx5minで遠心後、上清の凍結保護液を除去した後、各種細胞培養液を適量加えてピペッティングで懸濁し、培養皿に播種し3日間培養した。TrypLETM Select溶液で単一細胞にして再度細胞数を計測した。
【0078】
3.1.2 ペレット法
フローズバッグ F-050(ニプロ社、容量25ml)を用いて臍帯MSCの凍結解凍を行った。TrypLETM Select溶液によって単一細胞にした臍帯MSC(10x10e7cells)を含むコニカルチューブについて、400gx5minで遠心後、上清のトリプシン液を除去し、Stem Cell Banker凍結保護液(10%(v/v)DMSO)に20mlで置換した。得られた細胞懸濁液全量をフローズバッグに充填し、20分間4℃冷蔵庫に静置した後、TOMY遠心機LCX-200のマルチウェルプレートローターTS-41Cにバッグを横たえた状態で400gx10minで遠心し、バッグの広い面積の側面に細胞ペレットを形成させた(図6)。その後ペレットが浮遊しないようにゆっくりとフローズバッグを取り出し、コネクタにシリンジを装着してチューブから上清の凍結保護液を可能な限り除去(トータル約19mlを除去)した後、断熱材の発泡スチロール箱に入れ、0.1~1℃/分のスピードで、-80℃フリーザーにてオーバーナイト緩慢凍結した。細胞の解凍のために、バッグを37℃で数分間温めて解凍後、20mlのPBSを満たしたシリンジをバッグのチューブにセットして、バッグにPBSを注入添加し、バッグを手で軽くほぐしてペレットを浮遊させた。その後バッグ内の細胞懸濁液をコネクタに取り付けたシリンジでゆっくりとチューブから吸い上げて細胞を回収した。細胞懸濁液を遠心管に移し、生細胞率と細胞数をセルカウンターで測定した。その後、細胞培養評価を続けるために、400gx5minで遠心後、上清のPBSを除去した後、各種細胞培養液を適量加えてピペッティングで懸濁し、培養皿に播種し3日間培養した。TrypLETM Select溶液で単一細胞にして再度細胞数を計測した。
【0079】
3.2 実験結果
3.2.1 凍結保護液の残存量
従来法とペレット法で凍結時の凍結保護液の残存量を、バッグから除去した凍結保護液の量から計算し、グラフ化した。ペレット法では通常法と比べて、約1/20に残存量が少なくなった(図7)。
【0080】
3.2.2 生細胞率及び細胞数
従来法とペレット法で解凍後の生細胞率をセルカウンターで計測したところ、大きな違いは見られなかった(図8)。従来法とペレット法で解凍後の細胞数と培養3日後の細胞数をセルカウンターで計測したところ、大きな違いは見られなかった(図9)。
【0081】
以上の通り、ペレット法によれば、凍結保護液の残存量を劇的に減らしながらも、細胞凍結保存効率が良好であることが示された。また、この方法では、細胞の解凍から注射器充填の操作を閉鎖系で、又は一連の操作で行えるため、患者への細胞投与を簡便に実現できる。また、医療現場では細胞の解凍以降の手順を実施すればよいため、例えば、ラボ施設のない医療施設でも、この方法によって得られる細胞懸濁液を患者に投与できる。
【0082】
以上、実施例を説明した。この実施例はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9