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特許7328760家族性高コレステロール血症を処置するための遺伝子治療
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-08
(45)【発行日】2023-08-17
(54)【発明の名称】家族性高コレステロール血症を処置するための遺伝子治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 48/00 20060101AFI20230809BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20230809BHJP
   A61K 31/397 20060101ALI20230809BHJP
   A61K 31/455 20060101ALI20230809BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20230809BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20230809BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230809BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20230809BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20230809BHJP
   C12N 15/864 20060101ALN20230809BHJP
【FI】
A61K48/00 ZNA
A61K9/10
A61K31/397
A61K31/455
A61K35/76
A61K38/17
A61K45/00
A61P3/06
C12N15/12
C12N15/864 100Z
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018530566
(86)(22)【出願日】2016-12-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-02-14
(86)【国際出願番号】 US2016065984
(87)【国際公開番号】W WO2017100682
(87)【国際公開日】2017-06-15
【審査請求日】2019-12-06
【審判番号】
【審判請求日】2022-01-11
(31)【優先権主張番号】62/266,383
(32)【優先日】2015-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/269,440
(32)【優先日】2015-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502409813
【氏名又は名称】ザ・トラステイーズ・オブ・ザ・ユニバーシテイ・オブ・ペンシルベニア
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】弁理士法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウイルソン,ジェームス・エム
(72)【発明者】
【氏名】ラダー,ダニエル・ジェイ
【合議体】
【審判長】冨永 みどり
【審判官】森井 隆信
【審判官】齋藤 恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/164778(WO,A1)
【文献】PLoS One,2010年,Vol.5,No.10,e13424
【文献】Human Gene Ther.,2013年,Vol.24,pp.19-26
【文献】J.Gene Med.,2004年,Vol.6,pp.663-672
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K48/00
A61K35/76
A61K38/17
A61P3/06
CAplus/REGISTRY/WPIDS/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製剤緩衝液中の複製欠損組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)の懸濁液を含む、ヒト被験者の末梢静脈注入に適する医薬組成物であって:
(a)前記rAAVは、AAV8.TBG.hLDLRであり、AAV8キャプシド及びベクターゲノムを含み、前記ベクターゲノムは、AAV5’末端逆位配列(ITR)、発現カセット及びAAV3’ITRを含み、前記発現カセットは、チロキシン結合グロブリン(TBG)肝特異的プロモーター、2つのαミク/ビクエンハンサー配列を含むエンハンサー配列、キメライントロン及びウサギβグロビン(RBG)ポリアデニル化(ポリA)シグナルを含み、前記発現カセットは、ヒトLDL受容体(hLDLR)の発現を指示する発現制御配列に作動可能に連結しているヒトLDL受容体(hLDLR)をコードする核酸配列を含み、前記hLDLRをコードする配列は配列番号4の核酸配列を含み、前記ベクターゲノムは前記AAV8キャプシド中にパッケージングされており;並びに、
(b)前記製剤緩衝液がリン酸緩衝生理食塩水及びポロクサマーの水性溶液を含む、
組成物。
【請求項2】
前記製剤緩衝液は、180mM NaCl、10mMリン酸Na、0.001%ポロクサマー188、pH7.3である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
家族性高コレステロール血症(FH)と診断されたヒト被験者の処置における使用に適する、請求項1ないしのいずれか1つに記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記組成物は、最適化したqPCR(oqPCR)又はデジタルドロップレットPCR(ddPCR)により測定される(a)最低約5×1011ゲノムコピー/kg又は(b)2.5×1012ゲノムコピー(GC)/kgないし7.5×1012ゲノムコピー(GC)/kgヒト被験者体重の用量の複製欠損組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)の懸濁液の注入により末梢静脈を介してヒト被験者に投与可能である、請求項1ないしのいずれか1つに記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記rAAVはAAV8.TBG.hLDLRであり、前記肝特異的プロモーターはチロキシン結合グロブリン(TBG)プロモーターであり、前記エンハンサー配列は2つのαミク/ビクエンハンサー配列である、請求項又はに記載の医薬組成物。
【請求項6】
ヒト被験者におけるLDLコレステロール、総コレステロール及び/若しくは空腹時トリグリセリドのうちの1つ以上の低下、並びに/又はベースラインからrAAV投与後の選択された時間点までのLDLアポリポタンパク質B(apoB)の分別異化率(FCR)の改変における使用に適する、請求項1ないしのいずれか1つに記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記組成物は、oqPCR又はddPCRにより測定される(a)最低約5×1011ゲノムコピー/kg又は(b)2.5×1012ゲノムコピー(GC)/kgないし7.5×1012ゲノムコピー(GC)/kgヒト被験者体重の用量の複製欠損組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)の懸濁液の注入により末梢静脈を介してヒト被験者に投与可能である、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
oqPCR又はddPCRにより測定される(i)最低約5×1011ゲノムコピー/kg又は(ii)2.5×1012ゲノムコピー(GC)/kgないし7.5×1012ゲノムコピー(GC)/kgヒト被験者体重の用量の前記懸濁液の注入により末梢静脈を介してヒト被験者に投与するために適する、家族性高コレステロール血症(FH)の処置に使用するための請求項1に記載の医薬組成物であって:
前記rAAV懸濁液は、HoFHの二重ノックアウトLDLR-/-Apobec-/-マウスモデル(DKOマウス)に投与する5×1011GC/kgの用量がDKOマウスにおけるベースラインコレステロールレベルを25%ないし75%低下させる効力を有し、ベースラインコレステロールレベルがベクター投与の14日後に評価される、
組成物。
【請求項9】
前記rAAVは、配列番号6のヌクレオチド1~3947を含むベクターゲノムを有する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記製剤緩衝液は、180mM NaCl、10mMリン酸Na、0.001%ポロクサマー188、pH7.3である、請求項ないし及びのいずれか1つに記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記被験者はホモ接合性FH(HoFH)と診断されている、請求項ないし及びないし10のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記被験者はヘテロ接合性FH(HeFH)と診断されている、請求項ないし及びないし10のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【請求項13】
被験者のLDLコレステロール、総コレステロール及び/若しくは空腹時トリグリセリドのうちの1つ以上を低下する、並びに/又はベースラインからrAAV投与後の選択した時間点までのLDLアポリポタンパク質B(apoB)の分別異化率(FCR)を改変するのに使用するための請求項1に記載の医薬組成物であって、oqPCR又はddPCRにより測定される(i)最低約5×1011ゲノムコピー/kg又は(ii)2.5×1012ゲノムコピー(GC)/kgないし7.5×1012ゲノムコピー(GC)/kgヒト被験者体重の用量の前記懸濁液の注入により末梢静脈を介してヒト被験者に投与するために適する、医薬組成物。
【請求項14】
前記ヒト被験者は、PCSK9阻害剤、スタチン、ナイアシン、エゼチミブ又は胆汁酸捕捉剤のうちの1つ以上で同時処置される、請求項又は13に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.緒言
本発明は家族性高コレステロール血症(FH)及び具体的にはホモ接合性FH(HoFH)を処置するための遺伝子治療に関する。
【背景技術】
【0002】
電子形式で提出する資料の引用による組み込み
出願人は、これとともに電子形式で申請する配列表資料を引用することによりここに組み込む。本ファイルは「UPN-16-7717PCT_ST25.txt」と表示する。
【0003】
2.背景技術
家族性高コレステロール血症(FH)は、LDL受容体(LDLR)機能に影響を及ぼす遺伝子中の突然変異が引き起こす、生命を脅かす障害である(非特許文献1)。分子的に確認されるFHを罹患している患者の90%超がLDLRをコードする遺伝子(LDLR、MIM 606945)中に突然変異を有すると推定される。患者の残りは、3種の付加的な遺伝子:アポリポタンパク質(apo)BをコードするAPOB(MIM 107730)、プロタンパク質転換酵素サブチリシン・ケキシン9型(PCSK9)をコードするPCSK9(MIM 607786)及びLDLRアダプタータンパク質1をコードするLDLRAP1(MIM 695747)に突然変異を有する。後者は劣性の形質と関連する唯一の遺伝子突然変異である。ホモ接合性は、通常、同一遺伝子の2個の対立遺伝子中の突然変異の存在が与える;しかしながら、二重ヘテロ接合性(2個の異なる遺伝子中に各1個の2個のヘテロ接合性突然変異)を罹患している患者の症例を報告している。ヘテロ接合性FHについての500人中1人と200人中1人の間の罹患率(非特許文献2、非特許文献3)に基づけば、世界中で7,000と43,000の間の人々がホモ接合性FH(HoFH)を有すると推定する。
【0004】
変異体LDLR対立遺伝子の特徴付けは、欠失、挿入、ミスセンス突然変異及びナンセンス突然変異を含む多様な突然変異を明らかにした(非特許文献1)。1700を超えるLDLR突然変異を報告している。この遺伝子型不均一性は4個の一般的群に分類される前記受容体の生化学的機能のさまざまの結果につながる。クラス1突然変異は検出可能なタンパク質を伴わず、しばしば遺伝子欠失が引き起こす。クラス2突然変異は前記タンパク質の細胞内プロセシングの異常につながる。クラス3突然変異はリガンドLDL結合に特異的に影響を及ぼし、クラス4突然変異は被覆ピット中でクラスター形成しない受容体タンパク質をコードする。また、患者の培養線維芽細胞を使用して評価する残余のLDLR活性に基づき、突然変異は、受容体陰性(LDLRの残余の活性2%未満)又は受容体欠損(2~25%の残余の活性)とも分類する。受容体欠損である患者は平均してLDL-Cがより低レベルでより低悪性度の心血管系の経過を有する。
【0005】
LDL受容体機能低下の結果として、HoFHを罹患している患者における未処置総血漿コレステロールレベルは、典型的に500mg/dlより高く、20歳より前の心血管系疾患(CVD)及び30歳より前の死亡にしばしば至る早期の攻撃的な(premature and aggressive)粥状動脈硬化をもたらす(非特許文献4、非特許文献1)。従って、これら患者のための積極的処置の早期開始が不可欠である(非特許文献5)。利用可能な選択肢は限られる。スタチン類が薬理学的処置の第一選択と考える。最大用量においてさえ、LDL-C血漿レベルのわずか10~25%低下をほとんどの患者で観察する(非特許文献6;非特許文献7)。スタチン療法へのコレステロール吸収
阻害剤エゼチミブの追加はLDL-Cレベルのさらなる10~20%低下をもたらす場合がある(非特許文献8)。胆汁酸捕捉剤、ナイアシン、フィブラート系薬剤及びプロブコールを含む他のコレステロール降下薬の使用をスタチン以前の時代に成功裏に使用しており、HoFHにおけるさらなるLDL-C低下を達成するために考慮する場合がある;しかしながらそれらの使用を忍容性及び薬物の利用可能性が制限する。このアプローチはCVD及び総死亡率を低下することを示している(非特許文献9)。積極的な多剤療法アプローチの実施にもかかわらず、HoFH患者のLDL-Cレベルは上昇したままであり、彼らの平均余命はおよそ32年のままである(非特許文献9)。いくつかの非薬理学的選択肢もまた長年にわたり試験している。門脈下大静脈吻合術(非特許文献10;非特許文献11)及び回腸バイパス(非特許文献12)のような外科的介入は、部分的及び一時的LDL-C低下をもたらすのみであり、並びに実行不可能なアプローチと現在考えている。局所性肝移植はHoFH患者においてLDL-Cレベルを実質的に低下させることが示されている(非特許文献13;非特許文献14)が、しかし、移植後の手術合併症及び死亡の高い危険性、ドナーの希少性並びに免疫抑制療法を用いる生涯の処置の必要性(非特許文献15;非特許文献16)を含む欠点及び危険性がこのアプローチの使用を制限する。HoFHにおける現在の標準治療は、リポ蛋白アフェレーシス。すなわちLDL-Cを50%超一時的に低下させる場合があるLDL-Cを血漿から追い出す物理的方法を含む(非特許文献17;非特許文献18)。処置セッション後の血漿中のLDL-Cの急速な再蓄積(非特許文献19)が週1回又は2週に1回のアフェレーシスを必要とする。この処置は粥状動脈硬化の発症を遅らせる場合がある(非特許文献20;非特許文献18)とはいえ、それは労力を要し、高価であり及び容易に利用可能ではない。さらに、それは一般に良好に耐えられる処置であるとはいえ、それが頻繁な反復及び静脈内到達を必要とするという事実が多くのHoFH患者にとって大変な場合がある。
【0006】
最近、3種の新薬をHoFHのためのアドオン療法と特定してFDAが承認した。それらのうちの2種、すなわちロミタピド及びミポメルセンは、apoBを含むリポタンパク質の集成及び分泌を阻害するとはいえ、それらは異なる分子機序を介して前記集成及び分泌を阻害する(非特許文献21;、非特許文献22)。このアプローチは、ロミタピドで平均約50%(非特許文献23)及びミポメルセンで約25%(非特許文献24)に達するLDL-Cの有意な低下をもたらす。しかしながら、それらの使用は、忍容性及び長期のアドヒアランスに影響を及ぼす場合があり並びにその長期の結果がまだ完全には解明していない肝脂肪蓄積を含む、多彩な有害事象を伴う。
【0007】
第三は、新規分類の脂質降下薬の一部、すなわちヘテロ接合性FHを罹患している患者において見かけ上好都合な安全性プロファイルを伴いLDL-Cレベルの低下において有効であることを示している(非特許文献25、非特許文献26;非特許文献27)プロタンパク質転換酵素サブチリシン・ケキシン9型(PCSK9)に対するモノクローナル抗体である。4週ごとに12週間のPCSK9阻害剤エボロクマブ420mgを用いるHoFHの処置は、プラセボと比較してLDL-Cの約30%低下を提供することを示している(非特許文献26)。しかしながらPCSK9阻害剤の有効性は残余のLDLR活性に依存し、残余のLDLR活性を伴わない患者において効果がない(非特許文献26、非特許文献27)。PCSK9阻害剤の追加がFHの標準治療となる場合があり、また、HoFH患者の1サブセットにおいてより低い高コレステロール血症への追加のさらなる低下を提供する場合があるとはいえ、それらはこの状態の臨床的対応に劇的に影響しない場合がある。
【0008】
従って、HoFHのための新たな医学療法に対し、満たされていない医学的ニーズが存続する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Goldsteinら Familial hypercholesterolemia、The Metabolic and Molecular Bases of Inherited Disease、C.R.Scriverら編者。2001、McGraw-Hill Information Services Company:ニューヨーク中。p.2863-2913(2001)
【文献】Nordestgaardら Eur Heart J、2013.34(45):p.3478-90a(2013)
【文献】Sjoukeら Eur Heart J、(2014)
【文献】Cuchelら Eur Heart J、2014.35(32):p.2146-2157(2014)
【文献】Kolanskyら 2008
【文献】Maraisら Atherosclerosis、2008.197(1):p.400-6(2008)
【文献】Raalら Atherosclerosis、2000.150(2):p.421-8(2000)
【文献】Gagneら Circulation、2002.105(21):p.2469-2475(2002)
【文献】Raalら Circulation、2011.124(20):p.2202-7
【文献】Bilheimer Arteriosclerosis、1989.9(1 Suppl):p.I158-I163(1989)
【文献】Formanら Atherosclerosis、1982.41(2-3):p.349-361(1982)
【文献】Deckelbaumら N.Engl.J.Med.1977;296:465-470 1977.296(9):p.465-470(1977)
【文献】Ibrahimら J Cardiovasc Transl Res、2012.5(3):p.351-8(2012)
【文献】Kucukkartallarら 2 Pediatr Transplant、2011.15(3):p.281-4(2011)
【文献】Malatack Pediatr Transplant、2011.15(2):p.123-5(2011)
【文献】Starzlら Lancet、1984.1(8391):p.1382-1383(1984)
【文献】Thompson Atherosclerosis、2003.167(1):p.1-13(2003)
【文献】Vellaら Mayo Clin Proc、2001.76(10):p.1039-46(2001)
【文献】EderとRader Today’s Therapeutic Trends、1996.14:p.165-179(1996)
【文献】Thompsonら Lancet、1995.345:p.811-816
【文献】Cuchelら N Engl J Med、2007.356(2):p.148-156(2007)
【文献】Raalら Lancet、2010.375(9719):p.998-1006(2010)
【文献】Cuchelら 2013
【文献】Rallら 2010
【文献】Raalら Circulation、2012.126(20):p.2408-17(2012)
【文献】Raalら The Lancet、2015.385(9965):p.341-350(2015)
【文献】Steinら Circulation、2013.128(19):p.2113-20(2012)
【発明の概要】
【0010】
3.発明の要約
本発明は、HoFHと診断された患者(ヒト被験者)の肝細胞にヒト低比重リポタンパク質受容体(hLDLR)遺伝子を送達するための、複製欠損アデノ随伴ウイルス(AAV)の使用に関する。LDLR遺伝子を送達するために使用する組換えAAVベクター(rAAV)(「rAAV.hLDLR」)は肝に対する指向性を有するべきであり(例えばAAV8キャプシドを担持するrAAV)、hLDLRトランスジーンは肝特異的発現調節エレメントにより制御するべきである。かかるrAAV.hLDLRベクターは、肝中の治療的レベルのLDLR発現を達成するために、20ないし30分の期間にわたる静脈内(IV)注入により投与する場合がある。rAAV.hLDLRの治療上有効な用量は2.5×1012から7.5×1012ゲノムコピー(GC)/kg患者体重までの範囲にわたり、好ましい一態様において、rAAV懸濁液は、HoFHの二重ノックアウトLDLR-/-Apobec-/-マウスモデル(DKOマウス)に投与する5×1011GC/kgの用量がDKOマウスにおけるベースラインコレステロールレベルを25%ないし75%低下するような効力を有する。
【0011】
前記処置の目標は、この疾患を処置し及び現在の脂質降下処置に対する応答を改良するための実現可能なアプローチとしてのrAAVに基づく肝に向ける遺伝子治療を介して患者の欠損しているLDLRを機能的に置換することである。本発明は、部分的に、有効用量の安全な送達を可能にする治療組成物及び方法;並びにヒト被験者における有効な投与のための精製製造要件を満たすための改良した製造方法の開発に基づく。
【0012】
治療の有効性は、患者におけるヒトLDLRトランスジーン発現についての代理バイオマーカーとしての血漿LDL-Cレベルを使用して、処置後例えば投与後に評価する場合がある。例えば、遺伝子治療処置後の患者の血漿LDL-Cレベルの低下は機能的LDLRの成功裏の形質導入を示すとみられる。追加的に、又は、代替策として、監視することが可能である他のパラメータは、ベースラインと比較した総コレステロール(TC)、非高比重リポ蛋白コレステロール(non-HDL-C)、HDL-C、空腹時トリグリセリド(TG)、超低比重リポタンパク質コレステロール(VLDL-C)、リポタンパク質(a)(Lp(a))、アポリポタンパク質B(apoB)及びアポリポタンパク質A-I(apoA-I)ならびに、ベクター前及びベクター投与後のLDL動態研究(代謝機序評価)、又はそれらの組合せの変化を測定することを含むが、これらに限らない。
【0013】
処置の候補である患者は、好ましくは、LDLR遺伝子中に2個の突然変異を有するHoFHと診断された成人(18歳以上の男性又は女性);すなわち、HoFHと矛盾しない臨床像の状況で双方の対立遺伝子に分子的に定義されたLDLR突然変異を有する患者であり、該HoFHは、未処置LDL-Cレベル例えば300mg/dl超のLDL-Cレベル、処置LDL-Cレベル例えば300mg/dl未満のLDL-Cレベル及び/又は500mg/dlより高い総血漿コレステロールレベル、並びに早期の攻撃的な粥状動脈硬化を含む場合がある。処置の候補は、スタチン類、エゼチミブ、胆汁酸捕捉剤、PSCK9阻害剤のような脂質降下薬並びにLDL及び/又は血漿アフェレーシスを用いる処置を受けているHoFH患者を含む。
【0014】
処置前に、HoFH患者を、hLDLR遺伝子を送達するために使用するAAV血清型
に対する中和抗体(NAb)について評価すべきである。こうしたNAbは形質導入効率を妨害し及び治療的有効性を低下する場合がある。1:5以下のベースライン血清NAb力価を有するHoFH患者がrAAV.hLDLR遺伝子治療プロトコルを用いる処置の良好な候補である。1:5超の血清NAbの力価を伴うHoFH患者の処置は、rAAV.hLDLRベクター送達を用いる処置前及び/又は中の免疫抑制剤での一過性の同時処置のような併用療法を必要とする場合がある。又は追加的に、又は、代替策として、患者を肝酵素上昇について監視し、該肝酵素上昇は一過性の免疫抑制療法で処置する場合がある(例えばベースラインレベルの最低約2倍のアスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)又はアラニントランスアミラーゼ(ALT)を観察する場合)。こうした同時療法のための免疫抑制剤は、ステロイド、代謝拮抗薬、T細胞阻害剤及びアルキル化薬を含むが、これらに限らない。
【0015】
本発明は、ヒト被験者のAAV8.LDLR処置のプロトコル(第6節、実施例1)と、疾患の動物モデルにおける処置の有効性を示す前臨床動物データ(第7節、実施例2)と、治療的AAV.hLDLR組成物の製造及び製剤(第8.1ないし8.3節、実施例3)と、AAVベクターの特徴付け方法(第8.4節、実施例3)とを説明する実施例によって具体的に説明すされる。
【0016】
3.1 定義
本明細書で使用する「AAV8キャプシド」は、本明細書に引用により取り込まれ、配列番号5に再現されるGenBankアクセッション:YP_077180のコードするアミノ酸配列を有するAAV8キャプシドを指す。GenBankアクセッション:YP_077180;米国特許第7,282,199号明細書、同第7,790,449号明細書;同第8,319,480号明細書;同第8,962,330号明細書;第US 8,962,332号明細書中の参照アミノ酸配列に対する約99%の同一性、(すなわち参照配列から約1%未満の変動)を有する配列を含む場合がある、このコードする配列からの若干の変動が本発明に含まれる。別の態様において、AAV8キャプシドは、第WO2014/124282号明細書(本明細書に引用することにより取り込まれる)に説明するAAV8バリアントのVP1配列を有する場合がある。キャプシド、そのためのコーディング配列の生成方法、及びrAAVウイルスベクターの製造方法は説明されている。例えばGaoら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.100(10)、6081-6086(2003)、第US 2013/0045186A1号明細書及び第WO 2014/124282号明細書を参照されたい。
【0017】
本明細書で使用する「NAb力価」という用語は、その標的とするエピトープ(例えばAAV)の生理学的影響を中和する中和抗体(例えば抗AAV NAb)がどのくらい多く産生するかの程度を指す。抗AAV NAb力価は、例えばCalcedo,R.ら、Worldwide Epidemiology of Neutralizing Antibodies to Adeno-Associated Viruses.Journal of Infectious Diseases、2009.199(3):p.381-390(本明細書に引用することにより取り込まれる)に説明するとおり測定する場合がある。
【0018】
アミノ酸配列の文脈における「同一性パーセント(%)」、「配列同一性」、「配列同一性パーセント」又は「同一のパーセント」という用語は、対応のため整列される場合に同一である2本の配列中の残基を指す。同一性パーセントは、タンパク質の完全長、ポリペプチド、約32個のアミノ酸、約330個のアミノ酸若しくはそのペプチドフラグメントにわたるアミノ酸配列、又は対応する核酸配列コーディング配列について容易に決定される場合がある。適切なアミノ酸フラグメントは長さが最低約8個のアミノ酸である場合があり、約700個のアミノ酸までである場合がある。一般に、2本の異なる配列間の「
同一性」、「相同性」又は「類似性」を指す場合、「同一性」、「相同性」又は「類似性」は「整列された」配列に関して決定される。「整列された」配列又は「アライメント」は、参照配列と比較して欠落又は追加された塩基又はアミノ酸についての補正をしばしば含む、複数の核酸配列又はタンパク質(アミノ酸)配列を指す。アライメントは、公的に又は商業的に利用可能な多様な複数配列アライメントプログラム(Multiple Sequence Alignment Program)のいずれかを使用して実施する。配列アライメントプログラム、例えば「Clustal X」、「MAP」、「PIMA」、「MSA」、「BLOCKMAKER」、「MEME」及び「Match-Box」プログラムがアミノ酸配列に利用可能である。一般に、これらのプログラムのいずれもデフォルトの設定で使用されるとはいえ、当業者はこれらの設定を必要に応じて変える場合がある。あるいは、当業者は、参照するアルゴリズム及びプログラムにより提供されるもののような同一性又はアライメントのレベルを少なくとも提供する別のアルゴリズム又はコンピュータープログラムを利用する場合がある。例えば、J.D.Thomsonら、Nucl.Acids.Res.、“A comprehensive comparison of multiple sequence alignments”、27(13):2682-2690(1999)を参照されたい。
【0019】
本明細書で使用する「作動可能に連結する」という用語は、目的の遺伝子と隣接する発現制御配列及び目的の遺伝子を制御するためにトランスで又は遠位で作用する発現制御配列の双方を指す。
【0020】
「複製欠損ウイルス」又は「ウイルスベクター」は、目的の遺伝子を含む発現カセットをウイルスキャプシド又はエンベロープ中にパッケージングしている合成又は人工ウイルス粒子を指し、ここでウイルスキャプシド又はエンベロープ内にもまたパッケージングされているいかなるウイルスゲノム配列も複製欠損であり;すなわち、それらは子孫ビリオンを生成しない場合があるがしかし標的細胞を感染させる能力を保持する。一態様において、ウイルスベクターのゲノムは複製するために必要とする酵素をコードする遺伝子を含まない(前記ゲノムは「腹なし(gutless)」であるように操作される場合がある-人工ゲノムの増幅及びパッケージングに必要とするシグナルに挟まれている目的のトランスジーンのみを含む)が、これら遺伝子は製造中に供給される場合がある。従って、それは遺伝子治療における使用に安全と判断される。子孫ビリオンによる複製及び感染が、複製のため必要とするウイルス酵素の存在下を除き起こらない場合があるためである。
【0021】
「ある(a)」又は「ある(an)」という用語は1つ以上を指すことに注目するべきである。であるから、「ある(a)」(又は「ある(an)」)、「1つ又はそれ以上」及び「最低1つ」という用語を本明細書で互換性に使用する。
【0022】
「含む(comprise)」、「含む(comprises)」及び「含む(こと)(comprising)」という語は、排他的というよりはむしろ包括的に解釈するべきである。「からなる(consist)」、「からなる(consisting)」という語及びその変形は、包括的というよりはむしろ排他的に解釈するべきである。本明細書の多様な態様が「含む」という文言を使用して提示される一方、他の状況下で、関連する一態様は「からなる(consisting of)」又は「から本質的になる(consisting essentially of)」という文言を使用して解釈及び説明することもまた意図されている。
【0023】
本明細書で使用する「約」という用語は、別の方法で明記しない限り、所定の参照からの10%の変動を意味している。
【0024】
本明細書で別の方法で定義しない限り、本明細書で使用する技術および科学用語は、当
業者により、及び本出願で使用する用語の多くに対する一般的指針を当業者に提供する公表されたテキストへの参照により普遍的に理解すると同一の意味を有する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
4.図面の簡単な説明
図1】サル肝中のEGFP発現レベルに対する既存のAAV8 NAbの影響。多様な種類及び年齢のサルに3×1012GC/kgのAAV8.TBG.EGFPが末梢静脈を介して注入され、7日後に屠殺し、肝細胞形質導入についていくつかの方法で分析した。図1A-1Eは、AAV8に対する多様なレベルの既存の中和抗体(それぞれ<1:5、1:5、1:10及び1:20)を伴う動物からの肝の代表的切片を示す顕微鏡写真である。図1Fは肝細胞の形質導入パーセントに基づく形質導入効率の定量的形態計測分析を示す。図1Gは相対的EGFP強度に基づく形質導入効率の定量的形態計測分析を示す。図1HはELISAによる肝ライセート中のEGFPタンパク質の定量を示す。成体カニクイザル(n=カニクイザル8匹、黒丸)、成体アカゲザル(n=アカゲザル8匹、白丸)、若齢アカゲザル(n=アカゲザル5匹、白正方形)。
図2】DKOマウスにおけるmLDLRの長期発現。DKOマウスに1011GC/マウス(5×1012GC/kg)のAAV8.TBG.mLDLR(n=マウス10匹)又はAAV8.TBG.nLacZ(n=マウス10匹)を投与した。血清中のコレステロールレベルを定期的に監視した。2群間の統計学的に有意の差違は早ければ第7日に認められ(p<0.001)、実験の持続期間を通して存続していた。マウスをベクター投与後第180日に屠殺した。
図3-1】AAV8.TBG.mLDLR後のDKOマウスにおける粥状動脈硬化の退縮。図3Aは正面ズダンIV染色された3枚のパネルの一組である。マウス大動脈を固定し、中性脂質を染色するズダンIVで染色した。ベクター投与後第60日(高脂肪食給餌第120日)の1011GC/マウスのAAV8.nLacZ(5×1012GC/kg)で処置した動物からの代表的大動脈(中)、1011GC/マウスのAAV8.TBG.mLDLR(5×1012GC/kg)で処置した動物からの代表的大動脈(右)又はベースライン(高脂肪食給餌第60日)(左)の動物からの代表的大動脈を示す。
図3-2】AAV8.TBG.mLDLR後のDKOマウスにおける粥状動脈硬化の退縮。図3Bは、形態計測分析の結果が大動脈の長さ全体に沿ってオイルレッドOで染色した大動脈のパーセントを定量化したことを示す棒グラフである。
図3-3】AAV8.TBG.mLDLR後のDKOマウスにおける粥状動脈硬化の退縮。図3C-3Kは、これらのマウスからの大動脈基部がオイルレッドOで染色したことを示す。
図3-4】AAV8.TBG.mLDLR後のDKOマウスにおける粥状動脈硬化の退縮。図3Lは、ベースライン(n=マウス10匹)、AAV.TBG.nLacZ(n=マウス9匹)及びAAV8.TBG.mLDLR(n=マウス10匹)における総大動脈表面のズダンIV染色パーセントを測定したことを示す棒グラフである。定量はオイルレッドO病変上で実施した。粥状動脈硬化病変面積データを一元配置ANOVAにかけた。実験群はデュネット検定を使用することによりベースライン群と比較した。反復測定ANOVAを使用して、遺伝子導入後の時間にわたるマウスの多様な群間のコレステロールレベルを比較した。全部の比較についての統計学的有意性をP、0.05で判定した。グラフは平均SD値を表す。p<0.05、**p<0.01、‡p<0.001。
図4】試験又は対照薬剤注入したDKOマウスにおけるコレステロールレベル。DKOマウスに、7.5×1011GC/kg、7.5×1012GC/kg若しくは6.0×1013GC/kgのAAV8.TBG.mLDLR又は6.0×1013GC/kgのAAV8.TBG.hLDLR或いはベヒクル対照(100μlのPBS)を静脈内(IV)注入した。コレステロールレベルは平均±SEMとして表す。各群は、同一剖検時間点からのPBS対照に対して血清コレステロールが統計学的に有意な低下を示した。
図5】試験薬剤注入したDKOマウスにおけるコレステロールレベル。図5Aは第0日、第7日及び第30日に測定した変動する用量のベクターで処置したマウスにおけるコレステロールレベル(mg/mL)を示す。値は平均±SEMとして表す。P<0.05。
図6A】ベクター注入したアカゲザルにおける末梢T細胞応答。提示するデータはサル19498(図6A)、090-0287(図6B)及び090-0263(図6C)についてのT細胞応答及びASTレベルの時間経過を示す。各試験日について、百万PBMCあたりスポット形成単位(SFU)として測定する刺激なし、AAV8、及びhLDLRに対するT細胞応答を、各図中の左から右へプロットした。サル19498及び090-0287はhLDLRトランスジーンに対する陽性の末梢T細胞応答及び/又はを発生した一方、090-0263はしなかった。はバックグラウンドの有意に上であった陽性のキャプシド応答を示す。
図6B】ベクター注入したアカゲザルにおける末梢T細胞応答。提示するデータはサル19498(図6A)、090-0287(図6B)及び090-0263(図6C)についてのT細胞応答及びASTレベルの時間経過を示す。各試験日について、百万PBMCあたりスポット形成単位(SFU)として測定する刺激なし、AAV8、及びhLDLRに対するT細胞応答を、各図中の左から右へプロットした。サル19498及び090-0287はhLDLRトランスジーンに対する陽性の末梢T細胞応答及び/又はを発生した一方、090-0263はしなかった。はバックグラウンドの有意に上であった陽性のキャプシド応答を示す。
図6C】ベクター注入したアカゲザルにおける末梢T細胞応答。提示するデータはサル19498(図6A)、090-0287(図6B)及び090-0263(図6C)についてのT細胞応答及びASTレベルの時間経過を示す。各試験日について、百万PBMCあたりスポット形成単位(SFU)として測定する刺激なし、AAV8、及びhLDLRに対するT細胞応答を、各図中の左から右へプロットした。サル19498及び090-0287はhLDLRトランスジーンに対する陽性の末梢T細胞応答及び/又はを発生した一方、090-0263はしなかった。はバックグラウンドの有意に上であった陽性のキャプシド応答を示す。
図7】AAV8.TBG.hLDLRベクターの概念図。
図8】AAVシスプラスミド構築物。A)肝特異的TBGプロモーター、及びAAV2 ITRエレメントが隣接するキメライントロンを含む父シスクローニングプラスミドpENN.AAV.TBG.PIの直線的表示。B)ヒトLDLR cDNAがイントロンとポリAシグナルの間でpENN.AAV.TBG.PI中にクローン化し及びアンピシリン耐性遺伝子がカナマイシン耐性遺伝子により置換したヒトLDLRシスプラスミドpENN.AAV.TBG.PI.hLDLR.RBG.KanRの直線的表示。
図9】AAVトランスプラスミド。図9Aはアンピシリン耐性遺伝子を伴うAAV8トランスパッケージングプラスミドp5E18-VD2/8の直線的表示である。図9Bはカナマイシン耐性遺伝子を伴うAAV8トランスパッケージングプラスミドpAAV2/8の直線的表示である。
図10】アデノウイルスヘルパープラスミド。図10Aは、親プラスミドpBHG10から、中間体pAdΔF1及びpAdΔF5を通して、adヘルパープラスミドpAdΔF6の派生を具体的に説明する。図10Bは、pAdΔF6中のアンピシリン耐性遺伝子をカナマイシン耐性遺伝子により置換して作成されたpAdΔF6(Kan)の直線的表示である。
図11A】AAV8.TBG.hLDLRベクター製造工程を示す流れ図(1)。
図11B】AAV8.TBG.hLDLRベクター製造工程を示す流れ図(2)。
【発明を実施するための形態】
【0026】
5.発明の詳細な説明
複製欠損rAAVを、HoFHと診断された患者(ヒト被験者)の肝細胞にhLDLR遺伝子を送達するために使用する。前記rAAV.hLDLRベクターは肝に対する指向性を有すべきであり(例えばAAV8キャプシドを担持するrAAV)、hLDLRトランスジーンは肝特異的発現調節エレメントにより制御すべきである。
【0027】
かかるrAAV.hLDLRベクターは、肝における治療的レベルのLDLR発現を達成するため約20分ないし約30分の期間にわたる静脈内(IV)注入により投与する場合がある。他の態様において、より短い(例えば10分ないし20分)又はより長い(例えば30分ないし60分、その時間内の時間、例えば約45分以上)を選択する場合がある。rAAV.hLDLRの治療上有効な用量は最低約2.5×1012ゲノムコピー(GC)/kg患者体重から7.5×1012ゲノムコピー(GC)/kg患者体重までの範囲にわたる。好ましい一態様において、rAAV懸濁液は、HoFHの二重ノックアウトLDLR-/-Apobec-/-マウスモデル(DKOマウス)に投与する5×1011GC/kgという用量がDKOマウスにおけるベースラインコレステロールレベルを25%ないし75%低下させるような効力を有する。処置の有効性は、トランスジーン発現の代替エンドポイントとして低比重リポタンパク質コレステロール(LDL-C)レベルを使用して評価する場合がある。主要有効性評価は処置後1ないし3か月(例えば第12週)でのLDL-Cレベルを含み、効果の持続をその後最低約1年(約52週)追跡する。トランスジーン発現の長期の安全性及び持続性を処置後に測定する場合がある。
【0028】
処置の候補である患者は、好ましくは、LDLR遺伝子中に2個の突然変異を有するHoFHと診断した成人(18歳以上の男性又は女性);すなわち、未処置LDL-Cレベル例えば300mg/dl超のLDL-Cレベル、処置LDL-Cレベル例えば300mg/dl未満のLDL-Cレベル及び/又は500mg/dlより高い総血漿コレステロールレベル、並びに早期の攻撃的な粥状動脈硬化を含む場合があるHoFHと矛盾しない臨床像の状況で双方の対立遺伝子に分子的に定義するLDLR突然変異を有する患者である。処置の候補は、スタチン類、エゼチミブ、胆汁酸捕捉剤、PSCK9阻害剤のような脂質降下薬並びにLDL及び/又は血漿アフェレーシスを用いる処置を受けているHoFH患者を含む。
【0029】
処置前に、HoFH患者を、hLDLR遺伝子を送達するために使用するAAV血清型に対する中和抗体(NAb)について評価すべきである。こうしたNAbは形質導入効率を妨害し治療的有効性を低下させる場合がある。1:5以下のベースライン血清NAb力価を有するHoFH患者はrAAV.hLDLR遺伝子治療プロトコルを用いる処置の良好な候補である。1:5を超える血清NAbの力価をもつHoFH患者の処置は、rAAV.hLDLRを用いる処置前/中の免疫抑制剤での一過性の同時処置のような併用療法を必要とする場合があり、又は追加的に、又は、代替策として、患者を上昇した肝酵素に
ついて監視し、それらは一過性の免疫抑制療法で処置する場合がある(例えばベースラインレベルの最低約2倍のアスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)又はアラニントランスアミラーゼ(ALT)を観察する場合)。
【0030】
5.1 遺伝子治療ベクター
rAAV.hLDLRベクターは肝に対する指向性を有すべきであり(例えばAAV8キャプシドを担持するrAAV)、及びhLDLRトランスジーンは肝特異的発現調節エレメントにより制御すべきである。前記ベクターはヒト被験者中の注入に適切な緩衝液/担体中に配合する。前記緩衝液/担体は、rAAVが注入チューブに付着することを予防するがin vivoのrAAVの結合活性を妨害しない成分を含むべきである。
【0031】
5.1.1.rAAV.hLDLRベクター
肝向性をもつ多数のrAAVベクターのいずれも使用できる。rAAVのキャプシドの供給源として選択できるAAVの例は、例えば、rh10、AAVrh64R1、AAVrh64R2、rh8[例えば米国公開特許出願第2007-0036760-A1号明細書;米国公開特許出願第2009-0197338-A1号明細書;第EP 1310571号明細書を参照されたい]を含む。第WO 2003/042397号明細書(AAV7及び他のサルAAV)、米国特許第7790449号明細書及び米国特許第7282199号明細書(AAV8)、第WO 2005/033321号明細書並びに第US
7,906,111号明細書(AAV9)、第WO 2006/110689号明細書及び第WO 2003/042397号明細書(rh10)、AAV3B;第US 2010/0047174号明細書(AAV-DJ)もまた参照されたい。
【0032】
hLDLRトランスジーンは、本明細書に引用することにより取り込まれる添付の配列表中に提供する配列番号1、配列番号2及び/又は配列番号4により提供される配列の1本又はそれ以上を含むが、これらに限らない。配列番号1を参照して、これら配列は、約塩基対188ないし約塩基対250に位置するシグナル配列を含み、バリアント1の成熟タンパク質は約塩基対251ないし約塩基対2770にわたる。配列番号1はエクソンもまた同定し、その最低1個はhLDLRの既知の選択的スプライスバリアント中に存在しない。加えて、又は、場合によっては、他のhLDLRアイソフォームの1つ又はそれ以上をコードする配列を選択する場合がある。例えば、それらの配列が例えばhttp://www.uniprot.org/uniprot/P01130から入手可能であるアイソフォーム2、3、4、5及び6を参照されたい。例えば、共通のバリアントは配列番号1のエクソン4(bp(255)..(377)又はエクソン12(bp(1546)..(1773))を欠く)。場合によっては、前記トランスジーンは異種シグナル配列を伴う成熟タンパク質のコーディング配列を含む場合がある。配列番号2はヒトLDLRのcDNA及び翻訳したタンパク質(配列番号3)を提供する。配列番号4はヒトLDLRの改変されたcDNAを提供する。代替策として、又は、追加的に、ウェブに基づく又は商業的に入手可能なコンピュータープログラム、ならびにサービスに基づく会社(service based companies)を使用して、アミノ酸配列をRNA及び/又はcDNA双方を含む核酸コーディング配列に戻し翻訳(back translate)する場合がある。例えばEMBOSSによるbacktranseq、http://www.ebi.ac.uk/Tools/st/;Gene Infinity(http://www.geneinfinity.org/sms-/sms_backtranslation.html);ExPasy(http://www.expasy.org/tools/)を参照されたい。
【0033】
下記実施例に説明する特定の一態様において、遺伝子治療ベクターは、rAAV8.TBG.hLDLRと称する、肝特異的プロモーター(チロキシン結合グロブリン、TBG)の制御下にhLDLRトランスジーンを発現するAAV8ベクターである(図6を参照
されたい)。外的AAVベクター成分は、1:1:18の比の60コピーの3種のAAVウイルスタンパク質VP1、VP2及びVP3からなる血清型8、T=1の正二十面体キャプシドである。前記キャプシドは1本鎖DNA rAAVベクターゲノムを含む。
【0034】
rAAV8.TBG.hLDLRゲノムは、2個のAAV末端逆位配列(ITR)により隣接しているhLDLRトランスジーンを含む。hLDLRトランスジーンは、エンハンサー、プロモーター、イントロン、hLDLRコーディング配列及びポリアデニル化(ポリA)シグナルを含む。ITRはベクター製造中にゲノムの複製及びパッケージングを司る遺伝要素であり、rAAVを生成するのに必要な唯一のウイルスシスエレメントである。hLDLRコーディング配列の発現は肝細胞特異的TBGプロモーターから駆動される。コピー2個のα1ミクログロブリン/ビクニンエンハンサーエレメントが、プロモーター活性を刺激するためにTBGプロモーターの上流に配置される。キメライントロンが発現をさらに高めるために存在し、ウサギβグロビンポリアデニル化(ポリA)シグナルを、hLDLR mRNA転写物の終止を媒介するために含む。
【0035】
本明細書に説明する具体的に説明するプラスミド及びベクターは肝特異的プロモーターチロキシン結合グロブリン(TBG)を使用する。あるいは、他の肝特異的プロモーターを使用する場合がある[例えば、The Liver Specific Gene Promoter Database、コールドスプリングハーバー、http://rulai.schl.edu/LSPD、α1アンチトリプシン(A1AT);ヒトアルブミン Miyatakeら、J.Virol.、71:5124 32(1997)、humAlb;及びB型肝炎ウイルスコアプロモーター、Sandigら、Gene Ther.、3:1002 9(1996)を参照されたい]。TTRミニマルエンハンサー/プロモーター、αアンチトリプシンプロモーター、LSP(845nt)25(イントロンなしscAAVを必要とする)。あまり望ましくないとはいえ、ウイルスプロモーター、構成的プロモーター、調節可能なプロモーター[例えば第WO 2011/126808号明細書及び第WO 2013/04943号明細書を参照されたい]、又は生理学的合図に応答性のプロモーターのような他のプロモーターを、本明細書に説明するベクター中で利用する場合がある。
【0036】
プロモーターに加え、発現カセット及び/又はベクターは、他の適切な転写開始、終止、エンハンサー配列、スプライシング及びポリアデニル化(ポリA)シグナルのような効率的RNAプロセシングシグナル;細胞質mRNAを安定化する配列;翻訳効率を高める配列(すなわちコサックコンセンサス配列);タンパク質の安定性を高める配列;並びに所望の場合はコードする産物の分泌を高める配列を含む場合がある。適切なポリA配列の例は、例えばSV40、ウシ成長ホルモン(bGH)及びTKポリAを含む。適切なエンハンサーの例は、例えば、とりわけ、αフェトプロテインエンハンサー、TTRミニマルプロモーター/エンハンサー、LSP(TH結合グロブリンプロモーター/α1ミクログロブリン/ビクニンエンハンサー)を含む。
【0037】
これら制御配列はhLDLR遺伝子配列に「作動可能に連結して」いる。
【0038】
発現カセットはウイルスベクターの産生に使用するプラスミド上で操作される場合がある。発現カセットをAAVウイルス粒子中にパッケージングするのに必要とする最小配列はAAVの5’及び3’ITRであり、それらはキャプシドと同一AAV起源のものか、又は(AAVシュードタイプを産生するため)異なるAAV起源のものの場合がある。一態様において、AAV2からのITR配列又はその欠失バージョン(ΔITR)を便宜的上及び規制承認の時期を早めるために使用する。しかしながら他のAAV供給源からのITRを選択する場合がある。ITRの供給源がAAV2からであり、かつ、AAVキャプシドが別のAAV供給源からである場合、生じるベクターはシュードタイピングしている
と呼ぶ場合がある。典型的に、AAVベクターのための発現カセットは、AAV 5’ITR、hLDLRコーディング配列及びいずれかの制御配列、並びにAAV 3’ITRを含む。しかしながらこれら要素の他の構成が適切な場合がある。D配列及び末端解離部位(trs)が欠失しているΔITRと称する短縮バージョンの5’ITRが説明されている。他の態様において、完全長のAAV 5’及び3’ITRを使用する。
【0039】
「sc」という略語は自己相補性を指す。「自己相補性AAV」は、組換えAAV核酸配列により運搬されるコーディング領域が分子内2本鎖DNA鋳型を形成するよう設計された発現カセットを有するプラスミド又はベクターを指す。感染に際して、細胞が媒介する第2鎖の合成を待つよりむしろ、scAAVの2本の相補性の半分が会合して、即座に複製及び転写する準備ができている1本の2本鎖DNA(dsDNA)単位を形成する場合がある。例えば、D M McCartyら、“Self-complementary recombinant adeno-associated virus(scAAV) vectors promote efficient transduction independently of DNA synthesis”、Gene Therapy、(August 2001)、Vol 8、Number 16、1248-1254ページを参照されたい。自己相補性AAVは、例えば米国特許第6,596,535号明細書;同第7,125,717号明細書及び同第7,456,683号明細書(それらのそれぞれはそっくりそのまま引用により本明細書に取り込まれる)に説明される。
【0040】
5.1.2.rAAV.hLDLR製剤
rAAV.hLDLR製剤は、緩衝塩水、界面活性剤、及び約100mM塩化ナトリウム(NaCl)ないし約250mM塩化ナトリウムと同等のイオン強度に調節された生理学的に適合性の塩若しくは塩の混合物、又は同等のイオン濃度に調節される生理学的に適合性の塩を含む水性溶液中に懸濁している有効量のrAAV.hLDLRベクターを含む懸濁液である。一態様において、前記製剤は、例えば、最適化したqPCR(oqPCR)、又は例えばM.Lockら、Hu Gene Therapy Methods,Hum Gene Ther Methods.2014 Apr;25(2):115-25.doi:10.1089/hgtb.2013.131.Epub 2014 Feb 14(引用により本明細書に取り込まれる)に説明するデジタルドロップレットPCR(ddPCR)により測定される約1.5×1011GC/kgないし約6×1013GC/kg、又は約1×1012GC/kgないし約1.25×1013GC/kgを含む場合がある。例えば、本明細書に提供する懸濁液はNaCl及びKClの双方を含む場合がある。pHは6.5ないし8又は7ないし7.5の範囲の場合がある。適切な1種の界面活性剤又は界面活性剤の組合せは、ポロクサマー、すなわちポリオキシエチレン(ポリ(エチレンオキシド))の2本の親水性鎖により隣接しているポリオキシプロピレン(ポリ(プロピレンオキシド))の中央疎水性鎖から構成される非イオン性トリブロック共重合体、SOLUTOL HS 15(マクロゴール-15ヒドロキシステアレート)、LABRASOL(ポリオキシカプリル酸グリセリド(Polyoxy capryllic glyceride))、ポリオキシ10オレイルエーテル、TWEEN(ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル)、エタノール及びポリエチレングリコールのなかから選択する場合がある。一態様において、製剤はポロクサマーを含む。これらポロクサマーは、(ポロクサマーの)文字「P」、次いで3個の数字:最初の2個の数字×100はポリオキシプロピレンコアのおよその分子質量を示し、最後の数字×10はポリオキシエチレン含量パーセンテージを示す、で共通して命名される。一態様において、ポロクサマー188を選択する。界面活性剤は懸濁液の約0.0005%ないし約0.001%までの量で存在する場合がある。一態様において、rAAV.hLDLR製剤は、oqPCR、又は例えばM.Lockら、Hu Gene Therapy Methods,Hum Gene Ther Methods.2014 Apr;25(2):11
5-25.doi:10.1089/hgtb.2013.131.Epub 2014
Feb 14(引用により本明細書に取り込まれる)に説明するデジタルドロップレットPCR(ddPCR)により測定される最低1×1013ゲノムコピー(GC)/mL又はそれ以上を含む懸濁液である。一態様において、ベクターは、180mM塩化ナトリウム、10mMリン酸ナトリウム、0.001%ポロクサマー188、pH7.3を含む水性溶液中に懸濁する。前記製剤はヒト被験者での使用に適し、静脈内に投与される。一態様において、前記製剤は20分(±5分)にわたる注入により末梢静脈を介して送達する。しかしながらこの時間は必要又は所望のとおり調節される場合がある。
【0041】
空のキャプシドが患者に投与するAAV.hLDLRの投与量から除かれていることを確実にするため、空のキャプシドを、例えば第8.3.2.5節で本明細書に詳細に論考される塩化セシウム勾配超遠心分離法を使用して、ベクター精製工程中にベクター粒子から分離される。一態様において、パッケージングしたゲノムを含むベクター粒子は、米国特許出願第62/322,093号明細書、2016年4月13日出願、並びに2015年12月11日に出願し及び“Scalable Purification Method for AAV8(AAV8のスケーラブル精製方法)”と題した米国特許出願第62/266,341号明細書(本明細書に引用することにより取り込まれる)に説明する方法を使用して、空のキャプシドから精製する。簡潔には、ゲノムを含むrAAVベクター粒子がrAAV産生細胞培養の澄明にした濃縮上清から選択的に捕捉及び単離される2段階精製スキームが説明されている。前記方法は、高塩濃度で実施する親和性捕捉法、次いでrAAV中間体を実質的に含まないrAAVベクター粒子を提供するため高pHで実施する陰イオン交換樹脂法を利用する。
【0042】
一部の態様において、前記方法は薬理学的に活性のゲノム配列を含むDNAを含む組換えAAV8ウイルス粒子をゲノム欠損(空)AAVキャプシド中間体から分離する。前記方法は:(a)組換えAAV8ウイルス粒子及び中間体を生成したAAV産生体細胞培養からAAV以外の物質を除去するために精製された前記粒子及び空のAAV8キャプシド中間体と、20mMビストリスプロパン(BTP)及び約10.2のpHを含む緩衝液Aとを含む負荷懸濁液を形成すること、(b)(a)の懸濁液を強陰イオン交換樹脂に負荷すること、(c)負荷された前記陰イオン交換樹脂を、約10.2のpHの10mM NaCl及び20mM BTPを含む緩衝液1%Bで洗浄すること、(d)負荷され及び洗浄された陰イオン交換樹脂に塩濃度上昇勾配を適用すること、(e)rAAV粒子を溶離液から回収することを含み、前記樹脂は、懸濁液及び/又は溶液の流れの入口と、容器からの溶離液の流れを許容する出口とを有する容器中にあり、前記塩勾配は、両端を含む10mMから約190mM NaCl又は同等物までの範囲にわたり、前記rAAV粒子は中間体から精製される。
【0043】
一態様において、使用するpHは10から10.4まで(約10.2)であり、rAAV粒子はAAV8中間体から最低約50%ないし約90%精製するか、又は、10.2のpH及びAAV8中間体から約90%ないし約99%精製する。一態様において、これはゲノムコピーにより決定される。rAAV8粒子(パッケージングしたゲノム)のストック又は製剤は、ストック中のrAAV8粒子が、ストック中のrAAV8の最低約75%ないし約100%、最低約80%、最低約85%、最低約90%、最低約95%又は最低99%であり、「空のキャプシド」が、ストック又は製剤中のrAAV8の約1%未満、約5%未満、約10%未満、約15%未満である場合に、AAV空キャプシド(及び他の中間体)を「実質的に含ま」ない。
【0044】
一態様において、前記製剤は、1の比又はより少ない、好ましくは0.75の比未満、より好ましくは0.5の比、好ましくは0.3の比未満の「中身のつまった(full)」に対する「空」の比を有するrAAVストックを特徴とする。
【0045】
さらなる一態様において、rAAV粒子の平均収率は最低約70%である。これは、カラムに負荷した混合物中の力価(ゲノムコピー)及び最終溶離中の量の存在を測定することにより計算される場合がある。さらに、これらは、本明細書に説明するもの又は当前記技術分野で説明するもののようなq-PCR分析及び/又はSDS-PAGE技術に基づいて決定される場合がある。
【0046】
例えば、空及び中身のつまった粒子の含量を計算するため、選択したサンプルについてのVP3のバンド容量(例えばイオジキサノール勾配精製した製剤、ここでGCの数=粒子の数)を、負荷したGC粒子に対しプロットする。生じる一次方程式(y=mx+c)を使用して、試験薬剤のピークのバンド容量中の粒子の数を計算する。負荷した20μLあたりの粒子(pt)の数をその後50で乗算して粒子(pt)/mLを与える。GC/mLで除算するpt/mLがゲノムコピーに対する粒子の比(pt/GC)を与える。pt/mL-GC/mLが空のpt/mLを与える。pt/mLで除算しかつ100倍する空のpt/mLが空の粒子のパーセンテージを与える。
【0047】
一般に、空のキャプシド及びパッケージングしたゲノムを含むAAVベクター粒子のアッセイ方法は当該技術分野で既知である。例えば、Grimmら、Gene Therapy(1999)6:1322-1330;Sommerら、Molec.Ther.(2003)7:122-128を参照されたい。変性したキャプシドについて試験するため、前記方法は、処理したAAVストックを、前記3種のキャプシドタンパク質を分離することが可能ないずれかのゲル、例えば緩衝液中に3-8%トリス酢酸を含む勾配ゲルからなるSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけること、その後サンプル物質が分離するまでゲルを泳動すること、及びゲルをナイロン又はニトロセルロースメンブレン、好ましくはナイロン上にブロッティングすることを含む。抗AAVキャプシド抗体をその後、変性したキャプシドタンパク質に結合する1次抗体、好ましくは抗AAVキャプシドモノクローナル抗体、最も好ましくはB1抗AAV-2モノクローナル抗体(Wobusら、J.Virol.(2000)74:9281-9293)として使用する。2次抗体、すなわち1次抗体に結合し及び1次抗体との結合を検出するための手段を含むもの、より好ましくはそれに共有結合した検出分子を含む抗IgG抗体、最も好ましくはワサビペルオキシダーゼに共有結合したヒツジ抗マウスIgG抗体をその後使用する。結合の検出方法、好ましくは放射活性同位体の放射、電磁放射又は比色的変化を検出することが可能な検出法、最も好ましくは化学発光検出キットを使用して、1次及び2次抗体の間の結合を半定量的に測定する。例えば、SDS-PAGEについて、カラム画分からのサンプルを採取し、還元剤(例えばDTT)を含むSDS-PAGE負荷緩衝液中で加熱する場合があり、並びにキャプシドタンパク質をプレキャスト勾配ポリアクリルアミドゲル(例えばNovex)上で分離した。銀染色を、製造元の説明書に従ってSilverXpress(Invirogen、カリフォルニア州)を使用して実施する場合がある。一態様において、カラム画分中のAAVベクターゲノム(vg)の濃度を定量的リアルタイムPCR(Q-PCR)により測定する場合がある。サンプルを希釈し、DNアーゼI(又は別の適切なヌクレアーゼ)で消化して外因性DNAを除去する。ヌクレアーゼの不活性化後に、サンプルをさらに希釈し、プライマーと、プライマー間のDNA配列に特異的なTaqManTM蛍光発生プローブとを使用して増幅する。定義したレベルの蛍光に達するのに必要とするサイクルの数(閾値サイクル、Ct)を、Applied Biosystems Prism 7700配列検出装置上で各サンプルについて測定する。AAVベクターに含むものに同一の配列を含むプラスミドDNAを使用して、Q-PCR反応における標準曲線を生成する。サンプルから得るサイクル閾値(Ct)値を使用して、それをプラスミドの標準曲線のCt値に対し正規化することによりベクターゲノム力価を決定する。デジタルPCRに基づく終点アッセイもまた使用する場合がある。
【0048】
一局面において、広範囲のセリンプロテアーゼ例えばプロテイナーゼK(Qiagenから商業的に入手可能であるような)を利用する最適化されたq-PCR法が本明細書に提供される。より具体的には、最適化したqPCRゲノム力価アッセイは、DNアーゼI消化後にサンプルをプロテイナーゼK緩衝液で希釈してプロテイナーゼKで処理し次いで熱不活性化する点を除いて、標準アッセイと類似する。サンプルをサンプルの大きさに等しい量のプロテイナーゼK緩衝液で希釈することが適する。プロテイナーゼK緩衝液は2倍又はそれ以上に濃縮される場合がある。典型的にプロテイナーゼK処理は約0.2mg/mLであるが、しかし0.1mg/mLから約1mg/mLまで変動する場合がある。前記処理段階は一般に約55℃で約15分間実施されるが、しかしより低い温度(例えば約37℃ないし約50℃)でより長い時間の期間(例えば約20分ないし約30分)にわたり、又はより短い時間の期間(例えば約5ないし10分)より高温(例えば約60℃まで)で実施する場合がある。同様に、熱不活性化は一般に約95℃で約15分間であるが、しかし温度を低下させ(例えば約70ないし約90℃)及び時間を延長(例えば約20分ないし約30分)する場合がある。サンプルをその後希釈し(例えば1000倍)、及び標準アッセイに説明するTaqMan分析にかける。
【0049】
追加的に、又は、代替策として、ドロップレットデジタルPCR(ddPCR)を使用する場合がある。例えば、ddPCRによる1本鎖及び自己相補性AAVベクターゲノム力価の測定方法を説明されている。例えば、M.Lockら、Hu Gene Therapy Methods,Hum Gene Ther Methods.2014 Apr;25(2):115-25.doi:10.1089/hgtb.2013.131.Epub 2014 Feb 14を参照されたい。
【0050】
5.1.3 製造
rAAV.hLDLRベクターは、図11に示す流れ図に示すとおり製造する場合がある。簡潔には、細胞(例えばHEK 293細胞)を適切な細胞培養系中で増殖させ、ベクター産生のためトランスフェクトされる。rAAV.hLDLRベクターをその後回収し、濃縮し、精製してバルクベクターを製造する場合があり、それをその後下流工程で充填し、仕上げる。
【0051】
本明細書に説明する遺伝子治療ベクターの製造方法は、遺伝子治療ベクターの製造のため使用するプラスミドDNAの生成、前記ベクターの生成、及び該ベクターの精製のような当該技術分野で公知の方法を含む。いくつかの態様において、遺伝子治療ベクターはAAVベクターであり、生成するプラスミドは、AAVゲノム及び目的の遺伝子をコードするAAVシスプラスミドと、AAV rep及びcap遺伝子を含むAAVトランスプラスミドと、アデノウイルスヘルパープラスミドとである。ベクター生成方法は、細胞培養の開始、細胞の継代、細胞の播種、プラスミドDNAでの細胞のトランスフェクション、トランスフェクション後の無血清培地への培地交換、並びにベクターを含む細胞及び培地の回収のような方法段階を含む場合がある。回収したベクターを含む細胞及び培地を本明細書で粗細胞回収物(crude cell harvest)と称する。
【0052】
その後、前記粗細胞回収物をベクター回収物の濃縮、ベクター回収物の透析濾過、ベクター回収物の微小流動化、ベクター回収物のヌクレアーゼ消化、微小流動化した中間体の濾過、クロマトグラフィーによる精製、超遠心分離法による精製、接線流濾過による緩衝液交換、並びにバルクベクターを製造するための配合及び濾過のような方法段階に供することができる。
【0053】
一部の態様において、図11のものに類似の方法を他のAAV産生体細胞とともに使用する場合がある。トランスフェクションと、安定細胞株産生と、アデノウイルス-AAVハイブリッド、ヘルペスウイルス-AAVハイブリッド及びバキュロウイルス-AAVハ
イブリッドを含む感染性ハイブリッドウイルス産生系とを含む多数の方法が、rAAVベクターの製造のため当該技術分野で既知である。例えば、G Yeら、Hu Gene Ther Clin Dev、25:212-217(Dec 2014);RM Kotin、Hu Mol Genet、2011、Vol.20、Rev Issue 1、R2-R6;M.Mietzschら、Hum Gene Therapy、25:212-222(Mar 2014);T Viragら、Hu Gene Therapy、20:807-817(August 2009);N.Clementら、Hum
Gene Therapy、20:796-806(Aug 2009);DL Thomasら、Hum Gene Ther、20:861-870(Aug 2009)を参照されたい。rAAVウイルス粒子の製造のためのrAAV産生培養は全部;1)例えば、HeLa、A549若しくは293細胞のようなヒト由来細胞株、又はバキュロウイルス産生系の場合にSF-9のような昆虫由来細胞株を含む適切な宿主細胞;2)野生型若しくは変異体アデノウイルス(温度感受性アデノウイルスのような)、ヘルペスウイルス、バキュロウイルスにより提供する適切なヘルパーウイルス機能、又はトランス若しくはシスでヘルパー機能を提供する核酸構築物;3)機能的AAV rep遺伝子、機能的cap遺伝子及び遺伝子産物;4)AAV ITR配列により隣接しているトランスジーン(治療的トランスジーンのような);並びに5)rAAV産生を支援する適切な培地及び培地成分、を必要とする。
【0054】
多様な適切な細胞及び細胞株がAAVの製造における使用について説明されている。前記細胞それ自体は、原核生物(例えば細菌)細胞、並びに昆虫細胞、酵母細胞及び哺乳動物細胞を含む真核生物細胞を含むいずれかの生物学的生物体から選択する場合がある。とりわけ望ましい宿主細胞は、A549、WEHI、3T3、10T1/2、BHK、MDCK、COS 1、COS 7、BSC 1、BSC 40、BMT 10、VERO、WI38、HeLa、HEK 293細胞(機能的アデノウイルスE1を発現する)、Saos、C2C12、L細胞、HT1080、HepG2、並びにヒト、サル、マウス、ラット、ウサギ及びハムスターを含む哺乳動物由来の初代線維芽細胞、肝細胞及び筋芽細胞のような細胞を含むが、これらに限定されない、いずれの哺乳動物種のなかから選択する。一部の態様において、前記細胞は懸濁に適合した細胞である。前記細胞を提供する哺乳動物種の選択は本発明を限定するものではなく;哺乳動物細胞のタイプすなわち線維芽細胞、肝細胞、腫瘍細胞なども本発明を限定するものではない。
【0055】
特定の一態様において、遺伝子治療ベクターを製造するために使用する方法を以下の第8節の実施例3に説明する。
【0056】
5.2 患者集団
処置の候補である患者は、好ましくは、LDLR遺伝子中に2個の突然変異を有するHoFHと診断した成人(18歳以上の男性又は女性)、すなわち、未処置LDL-Cレベル例えば300mg/dl超のLDL-Cレベル、処置LDL-Cレベル例えば300mg/dl未満のLDL-Cレベル及び/又は500mg/dlより高い総血漿コレステロールレベル、並びに早期の攻撃的な粥状動脈硬化を含む場合があるHoFHと矛盾しない臨床像の状況で双方の対立遺伝子に分子的に定義するLDLR突然変異を有する患者である。いくつかの態様において、18歳未満の患者を処置する場合がある。いくつかの態様において、処置する患者は18歳以上の男性である。いくつかの態様において、処置する患者は18歳以上の女性である。処置の候補は、スタチン類、エゼチミブ、胆汁酸捕捉剤、PSCK9阻害剤のような脂質降下薬並びにLDL及び/又は血漿アフェレーシスを用いる処置を受けているHoFH患者を含む。
【0057】
処置前に、HoFH患者を、hLDLR遺伝子を送達するために使用するAAV血清型に対するNAbについて評価すべきである。こうしたNAbは形質導入効率を妨害し及び
治療的有効性を低下させる場合がある。1:5以下のベースライン血清NAb力価を有するHoFH患者はrAAV.hLDLR遺伝子治療プロトコルを用いる処置の良好な候補である。1:5を超える血清NAbの力価を伴うHoFH患者の処置は、免疫抑制剤での一過性の同時処置のような併用療法を必要とする場合がある。こうした同時療法の免疫抑制剤は、ステロイド、代謝拮抗薬、T細胞阻害剤及びアルキル化薬を含むが、これらに限らない。例えば、こうした一過性の処置は、約60mgで開始し及び10mg/日減少する(第7日投与なし)量の減少する用量で1日1回7日間投与するステロイド(例えばプレドニゾール(prednisole))を含む場合がある。他の用量及び医薬を選択する場合がある。
【0058】
被験者は、彼らを治療する医師の裁量で、遺伝子治療処置の前及びこれと同時に彼らの標準治療処置(1種又は複数)(例えばLDLアフェレーシス及び/又は血漿交換並びに他の脂質降下処置)を継続することを許容する場合がある。代替策として、医師は、遺伝子治療処置を投与する前に標準治療の療法を停止し、場合によっては遺伝子治療の投与後同時療法として標準治療処置を再開することを好む場合がある。遺伝子治療投与計画の望ましいエンドポイントは、ベースラインから遺伝子治療処置の投与後12週までの低比重リポタンパク質コレステロール(LDL-C)低下及びLDLアポリポタンパク質B(apoB)の分別異化率(FCR)の変化である。他の望ましいエンドポイントは、例えば:総コレステロール(TC)、非高比重リポ蛋白コレステロール(non-HDL-C)の1種又はそれ以上の低下、空腹時トリグリセリド(TG)の減少、並びにHDL-C(例えばレベルの増大が望ましい)、超低比重リポタンパク質コレステロール(VLDL-C)、リポタンパク質(a)(Lp(a))、アポリポタンパク質B(apoB)及び/又はアポリポタンパク質A-I(apoA-I)の変化を含む。
【0059】
一態様において、患者は、試験の持続時間にわたる単独及び/又は補助的処置の使用と組合せのAAV8.hLDLRでの処置後に、所望のLDL-C閾値(例えば200未満、130未満又は100m/dl未満のLDL-C)を達成する。
【0060】
にもかかわらず、以下の特徴の1つ以上を有する患者は、彼らの治療する医師の裁量で処置から除外する場合がある:
・ベースライン来院の12週以内の入院歴(1若しくは複数)を伴う機能分類III度又は機能分類IV度とNYHA分類により定義される心不全。
・ベースライン来院の12週以内の心筋梗塞(MI)、入院に至る不安定型狭心症、冠動脈バイパス術(CABG)、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)、コントロール不能の不整脈、頸動脈手術若しくはステント術、卒中、一過性虚血発作、頸動脈血行再建術、血管内手術又は外科的介入歴。
・180mmHg超の収縮期血圧、95mmHg超の拡張期血圧と定義するコントロール不能の高血圧。
・文書化された組織学的評価又は非侵襲的画像検査若しくは検査に基づく肝硬変又は慢性肝疾患歴。
・以下の肝疾患:非アルコール性脂肪性肝炎(生検で証明する);アルコール性肝疾患;自己免疫性肝炎;肝癌;原発性胆汁性肝硬変;原発性硬化性胆嚢炎;ウィルソン病;ヘモクロマトーシス;αアンチトリプシン欠乏症のいずれかの文書化された診断。
・スクリーニング時の異常なLFT(患者がジルベール症候群による非抱合型高ビリルビン血症を有しない限り、正常の上限(ULN)の2倍超のAST若しくはALT及び/又はULNの1.5倍超の総ビリルビン)。
・HepB SAg若しくはHep BコアAb、及び/又はウイルスDNAについて陽性により定義するB型肝炎、或いはHCV Ab及びウイルスRNAについて陽性により定義する慢性活動性C型肝炎。
・52週以内のアルコール乱用歴。
・潜在的に肝毒性であることが既知のある種の禁止されている医薬、とりわけ小滴性又は大滴性脂肪過多症を誘発する場合がある医薬の服用。これらは:アキュテイン(acutane)、アミオダロン、HAART薬、大量のアセトアミノフェン使用(3×q週超2g/日)、イソニアジド、メトトレキサート、テトラサイクリン、タモキシフェン、バルプロ酸を含むが、これらに限られない。
・全身性コルチコステロイドの現在の使用、又は活動性結核、全身性真菌性疾患若しくは他の慢性感染症。
・陽性のHIV検査結果を含む免疫不全疾患歴。
・推定GRFが30mL/分未満と定義される慢性腎不全。
・適切に処置した基底細胞皮膚癌、扁平上皮細胞皮膚癌又は子宮頸部上皮内癌(in situ cervical cancer)を除く、過去5年以内の癌の病歴。
・臓器移植の既往歴。
・ベースライン及び/又は処置の決定前3か月未満に発生したいずれかの大外科的処置。
【0061】
1:5超のベースライン血清AAV8 NAb力価。他の態様において、治療する医師は、これら身体的特徴(病歴)の1件又はそれ以上の存在が本明細書に提供する処置を妨げるべきでないことを確認する場合がある。
【0062】
5.3.投与及び投与経路
患者は例えば約20分ないし約30分にわたる注入により末梢静脈を介して投与するrAAV.hLDLRの単回投与を投与する。患者に投与するrAAV.hLDLRの用量は、最低2.5×1012GC/kg若しくは7.5×1012GC/kg、又は最低5×1011GC/kgないし約7.5×1012GC/kg(oqPCR又はddPCRにより測定)である。しかしながら他の用量を選択する場合がある。好ましい一態様において、使用するrAAV懸濁液は、HoFHの二重ノックアウトLDLR-/-Apobec-/-マウスモデル(DKOマウス)に投与する5×1011GC/kgの1回の用量がDKOマウスにおけるベースラインコレステロールレベルを25%ないし75%低下させるような効力を有する。
【0063】
いくつかの態様において、患者に投与するrAAV.hLDLRの用量は2.5×1012GC/kgないし7.5×1012GC/kgの範囲にある。好ましくは、使用するrAAV懸濁液は、HoFHの二重ノックアウトLDLR-/-Apobec-/-マウスモデル(DKOマウス)に投与する5×1011GC/kgの用量がDKOマウスにおけるベースラインコレステロールレベルを25%ないし75%低下させるような効力を有する。特定の態様において、患者に投与するrAAV.hLDLRの用量は、最低5×1011GC/kg 2.5×1012GC/kg、3.0×1012GC/kg、3.5×1012GC/kg、4.0×1012GC/kg、4.5×1012GC/kg、5.0×1012GC/kg、5.5×1012GC/kg、6.0×1012GC/kg、6.5×1012GC/kg、7.0×1012GC/kg又は7.5×1012GC/kgである。
【0064】
いくつかの態様において、rAAV.hLDLRはHoFHの処置ための1種又はそれ以上の治療と組合せで投与される。いくつかの態様において、rAAV.hLDLRは、スタチン、エゼチミブ、エゼディア(ezedia)、胆汁酸捕捉剤、LDLアフェレーシス、血漿アフェレーシス、血漿交換、ロミタピド、ミポメルセン及び/又はPCSK9阻害剤を含むが、これらに限らない、HoFHを処置するのに使用する標準的脂質降下療法と組合せで投与する。いくつかの態様において、rAAV.hLDLRはナイアシンと組合せで投与する。いくつかの態様において、rAAV.hLDLRはフィブラートと組合せで投与される。
【0065】
5.4.臨床的目標の評価
投与後の遺伝子治療ベクターの安全性は、有害事象の数、身体検査で認められる変化、及び/又はベクター投与後約52週までの複数の時間点で評価される臨床検査パラメータにより評価される場合がある。生理学的影響はより早期に例えば約1日ないし1週で観察する場合があるとはいえ、一態様において、定常状態レベルの発現レベルは約12週までに到達する。
【0066】
rAAV.hLDLR投与で達成されるLDL-C低下は、約12週又は他の所望の時間点でのベースラインと比較したLDL-Cの所定の変化パーセントとして評価される場合がある。
【0067】
他の脂質パラメータ、とりわけ総コレステロール(TC)、非高比重リポ蛋白コレステロール(non-HDL-C)、HDL-C、空腹時トリグリセリド(TG)、超低比重リポタンパク質コレステロール(VLDL-C)、リポタンパク質(a)(Lp(a))、アポリポタンパク質B(apoB)及びアポリポタンパク質A-I(apoA-I)の変化パーセントもまた、約12週で又は他の所望の時間点ベースライン値と比較して評価される場合がある。LDL-Cが低下する代謝機序は、rAAV.hLDLR投与の前及び投与12週後に再度LDLの動態研究を実施することにより評価される場合がある。評価すべき主要パラメータはLDL apoBの分別異化率(FCR)である。
【0068】
本明細書で使用されるrAAV.hLDLRベクターは、患者がこれらの臨床エンドポイントの最低1つを達成するのに十分なレベルのLDLRを発現する場合に、患者の欠陥のあるLDLRを活性のLDLRで「機能的に置換する」又は「機能的に補充する」。FH患者以外において正常な野生型の臨床エンドポイントレベルの最低約10%ないし100%未満を達成するhLDLRの発現レベルが機能的置換を提供する場合がある。
【0069】
一態様において、発現を投与後早ければ約8時間ないし約24時間で観察する場合がある。上に説明する所望の臨床効果の1つ以上を投与後数日ないし数週以内に観察する場合がある。
【0070】
長期(260週まで)安全性及び有効性をrAAV.hLDLR投与後に評価する場合がある。
【0071】
標準的臨床検査評価、及び以下の第6.4.1節ないし6.7節に説明する他の臨床アッセイを使用して、有害事象、脂質パラメータ、薬力学的評価、リポタンパク質動態、ApoB-100濃度の変化パーセント、及びrAAV.hLDLRベクターに対する免疫応答を評価する有効性評価項目を監視する場合がある。
【0072】
以下の実施例は例示のみであり、本発明を限定することを意図していない。
【0073】
実施例
【実施例1】
【0074】
6.実施例1:ヒト被験者を処置するためのプロトコル
本実施例は、低比重リポタンパク質受容体(LDLR)遺伝子中の突然変異による遺伝学的に確認されたホモ接合性家族性高コレステロール血症(HoFH)を罹患している患者の遺伝子治療処置に関する。本実施例において、遺伝子治療ベクターAAV8.TBG.hLDLRすなわちhLDLRを発現する複製欠損アデノ随伴ウイルスベクター8(AAV8)を、HoFHを罹患している患者に投与する。処置の有効性は、トランスジーン発現の代替エンドポイントとして低比重リポタンパク質コレステロール(LDL-C)レ
ベルを使用して評価する場合がある。主要有効性評価は処置後約12週でのLDL-Cレベルを含み、効果の持続をその後最低52週間追跡する。トランスジーン発現の長期安全性及び持続性を肝生検サンプル中で処置後に測定する場合がある。
【0075】
6.1.遺伝子治療ベクター
遺伝子治療ベクターは、肝特異的プロモーター(チロキシン結合グロブリン、TBG)の制御下にトランスジーンヒト低比重リポタンパク質受容体(hLDLR)を発現するAAV8ベクターであり、本実施例でAAV8.TBG.hLDLRと称する(図7を参照されたい)。AAV8.TBG.hLDLRベクターはAAVベクター有効成分及び製剤緩衝液からなる。AAVベクターの外部成分は、1:1:18の比の60コピーの3種のAAVウイルスタンパク質VP1、VP2及びVP3からなる血清型8、T=1の正二十面体キャプシドである。該キャプシドは1本鎖DNA組換えAAV(rAAV)ベクターゲノムを含む。該ゲノムは、2個のAAV末端逆位配列(ITR)に挟まれたhLDLRトランスジーンを含む。エンハンサー、プロモーター、イントロン、hLDLRコーディング配列及びポリアデニル化(ポリA)シグナルを、前記hLDLRトランスジーンは含む。前記ITRはベクター産生中のゲノムの複製及びパッケージングを司る遺伝要素であり、rAAVを生成するのに必要な唯一のウイルスシスエレメントである。hLDLRコーディング配列の発現は肝細胞特異的TBGプロモーターから駆動される。2コピーのα1ミクログロブリン/ビクニンエンハンサーエレメントが、プロモーター活性を刺激するためにTBGプロモーターの上流に配置される。キメライントロンが発現をさらに高めるために存在し、ウサギβグロビンポリアデニル化(ポリA)シグナルが、hLDLRのmRNA転写物の終止を媒介するために含まれる。本ベクターを製造するのに使用したpAAV.TBG.PI.hLDLRco.RGBの配列を配列番号6に提供する。
【0076】
治験薬の製剤は、180mM塩化ナトリウム、10mMリン酸ナトリウム、0.001%ポロクサマー188、pH7.3を含む水性溶液中の最低1×1013ゲノムコピー(GC)/mLであり、20分(±5分)にわたる注入により末梢静脈を介して投与する。
【0077】
6.2.患者集団
処置する患者は、LDLR遺伝子中に2個の突然変異を有するホモ接合性家族性高コレステロール血症(HoFH)を罹患している成人である。患者は18歳又はそれより高齢である男性又は女性である場合がある。患者は、未処置LDL-Cレベル例えば300mg/dl超のLDL-Cレベル、処置LDL-Cレベル例えば300mg/dl未満のLDL-Cレベル及び/又は500mg/dlより高い総血漿コレステロールレベル、並びに早期の攻撃的な粥状動脈硬化を含む場合があるHoFHと矛盾しない臨床像の状況で双方の対立遺伝子に分子的に定義されるLDLR突然変異を有する。処置する患者は、スタチン類、エゼチミブ、胆汁酸捕捉剤、PSCK9阻害剤のような脂質降下薬並びにLDL及び/又は血漿アフェレーシスを用いる処置を同時に受けている場合がある。
【0078】
処置する患者は、1:5以下のベースライン血清AAV8中和抗体(NAb)力価を有する場合がある。患者が1:5以下のベースライン血清AAV8中和抗体(NAb)力価を有しない場合、前記患者は形質導入期間中に免疫抑制剤で一時的に同時処置される場合がある。同時療法のための免疫抑制剤は、ステロイド、代謝拮抗薬、T細胞阻害剤及びアルキル化薬を含むが、これらに限らない。
【0079】
被験者は、彼らの治療する医師の裁量で、遺伝子治療処置の前及びこれと同時に彼らの標準治療処置(1種又は複数)(例えばLDLアフェレーシス及び/又は血漿交換並びに他の脂質降下処置)を継続することを許容される場合がある。代替策として、医師は、遺伝子治療処置を投与する前に標準治療の療法を停止し及び場合によっては遺伝子治療の投与後に同時療法として標準治療処置を再開することを好む場合がある。遺伝子治療投与計
画の望ましいエンドポイントは、ベースラインから遺伝子治療処置の投与後約12週までの低比重リポタンパク質コレステロール(LDL-C)低下及びLDLアポリポタンパク質B(apoB)の分別異化率(FCR)の変化である。
【0080】
6.3.投与及び投与経路
患者は注入により末梢静脈を介して投与するAAV8.TBG.hLDLRの単回投与を投与される。患者に投与するAAV8.TBG.hLDLRの用量は、約2.5×1012GC/kg又は7.5×1012GC/kgである。空のキャプシドを患者に投与するAAV8.TBG.hLDLRの用量から除去していることを確実にするため、空のキャプシドを、第8.3.2.5節で論考するベクター精製工程中の塩化セシウム勾配超遠心分離法又はイオン交換クロマトグラフィーによりベクター粒子から分離する。
【0081】
6.4.臨床的目的の測定
・AAV8.TBG.hLDLR投与で達成するLDL-C低下は、ベースラインと比較した約12週でのLDL-Cの定義した変化パーセントとして評価する場合がある。
・他の脂質パラメータ、具体的には総コレステロール(TC)、非高比重リポ蛋白コレステロール(non-HDL-C)、HDL-C、空腹時トリグリセリド(TG)、超低比重リポタンパク質コレステロール(VLDL-C)、リポタンパク質(a)(Lp(a))、アポリポタンパク質B(apoB)及びアポリポタンパク質A-I(apoA-I)の変化パーセントを、ベースライン値と比較して約12週に評価する場合がある。
・LDL-Cが低下する代謝機序を、ベクター投与前と投与約12週後とに再度LDL動態研究を実施することにより評価する場合がある。評価すべき主要パラメータはLDL apoBの分別異化率(FCR)である。
・ 長期(52週まで又は260週まで)安全性及び有効性をAAV8.TBG.hLDLR投与後に評価する場合がある。
【0082】
6.4.1.実施可能な標準的臨床検査評価:
以下の臨床プロファイルを処置前及び後に試験する場合がある:
・生化学的プロファイル:ナトリウム、カリウム、塩素、二酸化炭素、グルコース、血中尿素窒素、乳酸脱水素酵素(LDH)クレアチニン、クレアチニンホスホキナーゼ、カルシウム、総タンパク質量、アルブミン、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アルカリホスファターゼ、総ビリルビン、GGT。
・CBC:白血球(WBC)数、ヘモグロビン、ヘマトクリット、血小板数、赤血球分布幅、平均血球容積、平均血球ヘモグロビン及び平均血球ヘモグロビン濃度。
・凝固:PT、INR、PTT(スクリーニング及びベースライン時、並びに必要時。
・尿分析:尿色調、濁度、pH、グルコース、ビリルビン、ケトン、血液、タンパク質、WBC。
【0083】
6.4.2.関心のある有害事象
以下の臨床アッセイを使用して毒性を監視できる:
・肝傷害
・ビリルビン又は肝酵素(AST、ALT、AlkPhos)についてのCTCAE v4.0のグレード3又はより高い臨床検査結果。
・ビリルビン及びAlkPhosのCTCAE v4.0のグレード2(ビリルビン>1.5×ULN;アルカリホスファターゼ>2.5×ULN)。
・肝毒性(すなわち「Hyの法則」の基準を満足する)
・AST又はALTについてULN(正常の上限)の3倍以上、及び
・上昇したアルカリホスファターゼを伴わないULNの2倍を超える血清総ビリルビン、並びに
・総ビリルビンの増大とトランスアミナーゼレベルの増大との組み合わせを説明するための他の理由を見出せない。
【0084】
6.5.有効性エンドポイント
AAV8.TBG.hLDLRの投与後約12週の脂質パラメータの変化パーセントの評価を評価し、ベースラインと比較する場合がある。これは:
・直接測定するLDL-Cの変化パーセント(主要有効性評価項目)。
・総コレステロール、VLDL-C、HDL-C、計算したHDLコレステロール以外の変化パーセント、トリグリセリド、apoA-I、apoB及びLp(a)の変化
を含む。
【0085】
ベースラインLDL-C値は、検査室及び生物学的ばらつきについて制御し並びに確実な有効性評価を確保するため、AAV8.TBG.hLDLRの投与前の2度の別個の機会に絶食条件下で得たLDL-Cレベルの平均として計算する場合がある。
【0086】
6.5.1.薬力学/有効性評価
以下の有効性臨床検査を絶食条件下で評価する場合がある:
・直接測定されたLDL-C
・脂質パネル:総コレステロール、LDL-C、non-HDL-C、HDL-C、TG、Lp(a)
・アポリポタンパク質B:apoB及びapoA-I。
【0087】
加えて、任意のLDL apoB動態を処置前及び12週後に測定する場合がある。脂質降下の有効性はベクター投与後約12、24及び52週のベースラインからの変化パーセントとして評価する場合がある。ベースラインLDL-C値は、投与前の2度の別個の機会に絶食条件下で得たLDL-Cレベルを平均することにより計算する。ベクター投与後12週のLDL-Cのベースラインからの変化パーセントは遺伝子導入の有効性の主要尺度である。
【0088】
6.6.リポタンパク質の動態
リポタンパク質の動態研究を、LDL-Cが低下する代謝機序を評価するためにベクター投与前及び12週後に再度実施する場合がある。評価すべき主要パラメータはLDL-apoBの分別異化率(FCR)である。apoBの内因性標識は、重水素化
ロイシンの静脈内注入、次いで48時間の期間にわたる血液サンプリングにより達される。
【0089】
6.6.1.apoB-100の単離
VLDL、IDL及びLDLは、D3-ロイシン注入後引き抜く間隔を決められたサンプルの連続超遠心分離法により単離する。apoB-100は、トリス-グリシン緩衝系を使用する調製用ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS PAGE)によりこれらリポタンパク質から単離される。個々のapoB種内のapoB濃度を酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)により測定する。総apoB濃度は自動化免疫比濁アッセイを使用して測定する。
【0090】
6.6.2.同位体濃縮測定
apoB-100のバンドをポリアクリルミドゲルから切り出す。切り出したバンドを12N HCl中100℃で24時間加水分解する。アミノ酸を、ガスクロマトグラフ/質量分析計を使用する分析の前にN-イソブチルエステル及びN-ヘプタフルオロブチルアミド誘導体に変換する。同位体濃縮率(パーセンテージ)を、観察したイオン電流比から計算する。この形式のデータは放射性トレーサー実験における比放射能に対応する。各
被験者は、apoB-100代謝に関してこの処置中定常状態に留まることが想定される。
【0091】
6.7.AAV8に対する薬物動態及び免疫応答の評価
以下の試験を使用して、薬物動態、AAVベクターに対する免疫前状態及びAAVベクターに対する免疫応答を評価する場合がある:
・免疫応答モニタリング:AAV8 NAb力価;AAV8ベクターに対するT細胞応答;hLDLRに対するT細胞応答。
・ベクター濃度:PCRによりベクターゲノムとして測定する血漿中AAV8濃度。
・ヒト白血球抗原型分類(HLA型):HLA型は、クラスIについてHLA-A、HLA-B、HLA-C、並びにクラスIIについてHLA DRB1/DRB345、DQB1及びDPB1の高分解能評価により末梢血単核細胞(PBMC)からのデオキシリボ核酸(DNA)で評価する。この情報は、潜在的T細胞免疫応答のAAV8キャプシド又は特殊なHLA対立遺伝子を伴うLDLRトランスジーンとの相関を可能にし、T細胞応答の強度及びタイミングの個別のばらつきを説明するのに役立つ。
【0092】
6.8 黄色腫評価
身体検査はあらゆる黄色腫の同定、検査及び説明を含む。黄色腫の位置及びタイプすなわち皮膚、眼瞼(眼)、結節型、及び/又は腱の文書記録が測定される。可能な場合、目盛付き物差し又はカリパスを使用して、身体検査中に黄色腫の大きさ(最大及び最小の範囲)を文書で記録する。可能な場合は、最も広範囲及び容易に特定可能である黄色腫のデジタル写真を、巻き尺(ミリメートルを伴うメートル法の)の病変の隣に配置して撮影する。
【実施例2】
【0093】
7.実施例2:前臨床データ
非臨床研究を、HoFHの動物モデル及び既存の液性免疫に対するAAV8.TBG.hLDLRの効果を研究するために実施した。複数の単回投与薬理試験を、コレステロールの低下を測定する小型及び大型動物モデルで実施した。加えて、粥状動脈硬化の退縮を、LDLR及びApobec1双方を欠損しており、固形飼料食(chow diet)給餌であってもapoB-100を含むLDLの上昇により重度高コレステロール血症を発症し、広範囲の粥状動脈硬化を発症する二重ノックアウトLDLR-/-Apobec1-/-マウスモデル(DKO)にて測定した。これらデータを使用して、最小有効量を決定しヒト試験のための用量選択を十分に正当化した。ヒト試験のための適切な用量をさらに特徴付けし潜在的安全性徴候を特定するため、毒性試験をHoFHのヒト以外の霊長類(NHP)及びマウスモデルで実施した。
【0094】
7.1 既存の液性免疫:肝へのAAV媒介遺伝子導入に対する影響
本研究の目標は、アカゲザル及びカニクイザルにおけるAAV8被包化ベクターを使用する肝に向けた遺伝子導入についてAAVに対する既存の液性免疫が与える影響を評価することであった。21匹のアカゲザル及びカニクイザルを、AAV8に対する既存の免疫のレベルについて前スクリーニングした動物のより大きい集団から選択した。動物は広範な齢分布を代表し全部がオスであった。これら研究は、1:160までのAAV8中和抗体(NAb)力価を伴うより制限した数を含む一方で、低レベルないし検出不可能なレベルのNAbを伴う動物に焦点を当てた。動物に、肝特異的チロキシン結合グロブリン(TBG)プロモーターから高感度緑色蛍光タンパク質(EGFP)を発現する3×1012GC/kgのAAV8ベクターを末梢静脈注入で注入した。動物を7日後に剖検し、組織をEGFP発現及びAAV8ベクターゲノムの肝ターゲッティングについて評価した(図1)。NHP血清中のAAV8に対する既存のNAbを、in vitro形質導入阻害アッセイを使用し、受身移入実験(Wangら、2010 Molecular The
rapy 18(1):126-134)の状況で評価したが、前記実験では、in vivoの肝に向けた遺伝子導入に対する既存のAAV8 NAbの影響を評価するためにベクター投与の前とベクター投与時点でNHPからの血清がマウスに注入された。
【0095】
AAV8に対する検出不可能なレベルないし低レベルの既存のNAbを伴う動物は、蛍光顕微鏡検査(図1)及びELISAによるEGFP検出ならびに肝中のベクターDNA定量による証拠のとおり、肝における高レベルの形質導入を示した。HoFHにおける有効性に関する形質導入の最も有用な尺度は形質導入した肝細胞のパーセントであり、それは既存のNAbの非存在下で17%(4.4%ないし40%の範囲)であった。これは同一用量のベクターでマウスにおいて観察する効率に非常に近い。肝細胞の形質導入に大きく影響する既存のNAbのT閾値力価は1:5以下であった(すなわち1:10以上の力価は形質導入を実質的に低下させた)。肝形質導入の抗体が媒介する阻害は肝中のAAVゲノム減少と直接相関した。ヒト血清をAAV8に対する既存のNAbの証拠についてスクリーニングしたところ、結果は、成体の約15%が1:5以下の過剰の抗AAV8NAbを有することを示唆する。また、より高レベルのNAbが前記ベクターの体内分布の変化と関連し、その結果、NAbは脾形質導入を増大させずに脾中へのベクターゲノムの蓄積を増大させる一方で肝遺伝子導入を低下させることを示した。
【0096】
7.2 HoFHのマウスモデルにおける血清コレステロールに対するAAV8.TBG.mLDLRの影響
DKOマウス(6ないし12週齢オス)にAAV8.TBG.mLDLRを静脈内(IV)注入し、代謝矯正及び既存の粥状動脈硬化病変の好転について追跡した。動物はまた全体的臨床毒性及び血清トランスアミナーゼの異常についても評価した。LDLRのマウスバージョンをDKOマウス中へのベクター投与のため利用した。
【0097】
1011GC/マウス(5×1012GC/kg)を投与したマウスは高コレステロール血症の完全に近い正常化を示し、これは180日間安定であった(図2)。ALTレベルの上昇又は異常な肝生化学検査結果は、げっ歯類における最高用量でベクター注入後6か月までの間観察されなかった(Kassimら、2010、PLoS One 5(10):e13424)。
【0098】
7.3 高脂肪食給餌のHoFHのマウスモデルにおける粥状動脈硬化病変に対するAAV8.TBG.mLDLRの影響
LDLRのAAV8の媒介する送達が総コレステロールの有意の低下を誘発したことを考慮して、mLDLRのAAV8の媒介する発現を、それが粥状動脈硬化病変に対する影響を有したかどうかを確認するために概念実証研究で調べた(Kassimら、2010、PLoS One 5(10):e13424)。3個の群のオスDKOマウスに粥状動脈硬化の進行を促進させるため高脂肪食を給餌した。2か月後にマウスの1つの群は5×1012GC/kgの対照AAV8.TBG.nLacZベクターの単回静脈内(IV)注入を投与し、1つの群は5×1012GC/kgのAAV8.TBG.mLDLRベクターの単回静脈内(IV)注入を投与し、第三の非介入群は粥状動脈硬化病変の定量化のため剖検した。ベクターを投与したマウスは高脂肪食給餌でさらに60日間維持し、その時点でそれらを剖検した。
【0099】
AAV8.TBG.mLDLRベクターを投与した動物は、ベースラインでの1555±343mg/dlから処置後第7日の266±78mg/dl、第60日までに67±13mg/dlへと総コレステロールの急速な下落を実現した。対照的に、AAV8.TBG.nLacZ処置したマウスの血漿コレステロールレベルは、ベースラインでの1566±276mg/dlからベクター60日後に測定した場合の1527±67mg/dlまで事実上変化しないままであった。全部の動物が高脂肪食給餌で2か月後に血清トラ
ンスアミナーゼでのわずかな増大を発生し、これはAAV8.TBG.nLacZベクターでの処置後上昇したままであったが、しかしAAV8.TBG.mLDLRベクターでの処置後正常レベルの3分の1に減少した。
【0100】
既存の粥状動脈硬化病変の進行を2種の独立した方法により評価した。第1の方法において、大動脈を弓から腸骨分岐部(iliac bifurcation)まで開放し、オイルレッドOで染色し(図3A);形態計測分析が、大動脈の長さ全体に沿ってオイルレッドOで染色した大動脈のパーセントを定量した(図3B)。オイルレッドOは凍結切片上の中性トリグリセリド及び脂質の染色のため使用される溶解色素(脂溶性染料)ジアゾ染料である。この色素での大動脈の染色は脂肪沈着斑の可視化を可能にする。図3に見るとおり、2か月の高脂肪食はベクター投与時点でベースライン疾患を反映する大動脈の20%を覆う広範囲の粥状動脈硬化をもたらし;これはAAV8.TBG.nLacZベクターでの処置後さらに2か月の期間にわたり33%に増大し、粥状動脈硬化の65%のさらなる進行を表す。対照的に、AAV8.TBG.mLDLRベクターでの処置は、ベースラインで粥状動脈硬化により覆う大動脈の20%からベクター投与60日後の粥状動脈硬化により覆う大動脈のわずか2.6%まで、2か月にわたり87%の粥状動脈硬化の退縮に至った。
【0101】
第2の方法において、総病変面積を大動脈根で定量した(図3C-F)。この分析は同一の全体的傾向を示し、AAV8.TBG.nLacZ注入したマウスがベースラインマウスと比較して2か月にわたり44%進行を示した一方、AAV8.TBG.mLDLR注入したマウスはベースラインマウスと比較して病変の64%退縮を示した。まとめると、AAV8.TBG.mLDLRの注入を介するLDLRの発現は、大動脈内の2個の異なる部位で2種の独立した定量方法により評価する2か月にわたるコレステロールの顕著な低下及び粥状動脈硬化の実質的退縮を誘発した。
【0102】
7.4 HoFHのマウスモデルにおける最小有効量の評価
HoFH集団における表現型と遺伝子型との間の相関の広範な研究は、わずか25~30%のLDL及び総コレステロールの差違が臨床転帰の実質的差違に移行することを示している(Bertoliniら 2013、Atherosclerosis 227(2):342-348;Kolanskyら 2008、Am J Cardiol 102(11):1438-1443;Moorjaniら 1993、The Lancet 341(8856):1303-1306)。さらに、30%未満のLDL-C低下を伴う脂質降下処置は、HoFHを罹患している患者における心血管系イベントの遅延と生存の延長とにつながる(Raalら 2011、Circulation 124(20):2202-2207)。最近、FDAは、主要評価項目がベースラインからの20ないし25%のLDL-Cの低下であったHoFHの処置のための薬物ミポメルセンを承認した(Raalら 2010、Lancet 375(9719):998-1006)。
【0103】
この背景に対し、以下で論考する遺伝子治療マウス試験における最小有効量(MED)を、ベースラインより最低30%より低い血清中の総コレステロールの統計学的に有意かつ安定な低下につながるベクターの最低用量と定義した。前記MEDは多数の多様な試験で評価しており、各実験の簡潔な説明を以下に提供する。
【0104】
7.4.1.DKOマウスにおけるAAV8.TBG.mLDLRのPOC用量範囲決定試験
DKOマウスにおけるAAV8.TBG.mLDLR及びAAV8.TBG.hLDLRの概念実証用量範囲決定試験を実施して、さらなる試験のための適切な用量を特定した。これら試験において、DKOオスマウスに、1.5から500×1011GC/kgま
での範囲にわたる多様な用量のAAV8.TBG.mLDLRを静脈内(IV)注入し、血漿コレステロールの低下について追跡した(Kassimら、2010、PLoS One 5(10):e13424)。これら研究実験で使用したGC用量(1.5ないし500×1011)は定量的PCR(qPCR)力価に基づいた。30%までの血漿コレステロールの統計学的に有意の低下がAAV8.TBG.mLDLRの1.5×1011GC/kgの用量で第21日に観察され、より有意な低下はベクターのより大用量に比例して達成された(Kassimら、2010、PLoS One 5(10):e13424)。代謝矯正後に回収した肝組織の分析は、ベクターの用量に比例したマウスLDLRトランスジーン及びタンパク質のレベルを示した。従って、用量反応相関が観察された。
【0105】
7.4.2.DKO及びLAHBマウスにおけるAAV8.TBG.hLDLRの用量範囲決定試験
DKOマウスにおける同様の概念実証試験を、マウスLDLR遺伝子ではなくヒトLDL受容体(hLDLR)遺伝子を含むベクターを用いて実施した。hLDLRベクターでの結果は、ベクターの用量がトランスジーンの発現及び肝中のベクターゲノムの蓄積に比例した(Kassimら 2013、Hum Gene Ther 24(1):19-26)点で、mLDLRで観察した結果に非常に類似した。主要な差違はその有効性においてであった-ヒトLDLRベクターはこのモデルにおいてより弱かった。最低30%に近いコレステロールの低下は5×1012GC/kg及び5×1011GC/kgで達成されたが、(qPCR力価に基づく用量)統計学的有意性はより高用量でのみ達成された。
【0106】
観察した有効性の低下は、マウスApoBに対するヒトLDLRの親和性低下に起因した。この問題を迂回するため、試験を、ヒトApoB100を発現し及び従ってヒト試験に適切なヒトLDLRとのヒトapoB100の相互作用をより真正にモデル化するLAHBマウスモデルを使用して反復した。双方の系統(DKO対LAHB)のオスマウスは、AAV8.TBG.hLDLRの3種類のベクター用量(qPCR力価に基づき0.5×1011GC/kg、1.5×1011GC/kg及び5.0×1011GC/kg)の1種を尾静脈注入で投与した。各コホートからの動物を第0日(ベクター投与前)、第7日及び第21日に採血し、血清コレステロールレベルの評価を実施した。ヒトLDLRはDKOマウスにおけるmLDLRと比較してLAHBマウスにおいてはるかにより有効であった:血清コレステロールの30%低下が1.5×1011GC/kgの用量で達成し、これはDKO動物におけるマウスLDLR構築物の以前の研究(Kassimら 2013、Hum Gene Ther 24(1):19-26)で達成されたのと同一の有効性である。
【0107】
7.4.3.HoFHのマウスモデルにおけるAAV8.TBG.mLDLRおよびAAV8.TBG.hLDLRの非臨床薬理/毒性試験
6~22週齢オス及びメスDKOマウス(n=マウス280匹、140匹のオス及び140匹のメス)は、AAV8.TBG.mLDLRの3種のベクター用量(7.5×1011GC/kg、7.5×1012GC/kg、6.0×1013GC/kg)の1種、又は意図する遺伝子治療ベクターAAV8.TBG.hLDLRの1種の用量(6.0×1013GC/kg)の尾静脈注入を投与した。動物に、本明細書第8.4.1節で説明するoqPCR力価測定法を使用して体重キログラムあたりゲノムコピー(GC)に基づき投与した。さらに1つのコホートの動物にPBSをベヒクル対照として投与した。各コホートからの動物を第3日、第14日、第90日及び第180日に屠殺し、血液を血清コレステロールレベルの評価のため回収した(図4)。
【0108】
処置したマウスの全部の群において全部の剖検時点でのコレステロールの迅速かつ有意
の低下が観察された。この低下は早期の時間点で低用量のベクターではオスよりメスがより少ないようであったとはいえ、この差違は時間とともに減少し、ついには性間で検出可能な差違は存在しなかった。各群は同一の剖検の時間点でPBS対照に関して最低30%の血清コレステロールの統計学的に有意の低下を示した。従って、本試験に基づくMEDの決定は7.5×1011GC/kg以下である。
【0109】
7.4.4.ホモ接合性家族性高コレステロール血症のマウスモデルにおけるAAV8.TBG.hLDLRの有効性試験
12~16週齢オスDKOマウス(n=マウス40匹)に、AAV8.TBG.hLDLRの4種の用量(1.5×1011GC/kg、5.0×1011GC/kg、1.5×1012GC/kg、5.0×1012GC/kg)(oqPCR力価測定法に基づく用量)の1種を静脈内(IV)投与した。動物を第0日(ベクター投与前)、第7日及び第30日に採血し、血清コレステロールが評価された(図5)。コレステロールの迅速かつ有意の低下を5.0×1011GC/kg以上で処置したマウスの群で第7及び30日に観察した。この試験に基づくMEDの決定は1.5×1011GC/kgと5.0×1011GC/kgの間である。
【0110】
7.5.高脂肪食給餌のLDLR+/-アカゲザルにおけるAAV8.TBG.rhLDLRの影響
FHサルにおけるAAV8-LDLR遺伝子導入を評価するようデザインした試験を実施した。脂肪を給餌したか、又は固形飼料を給餌したかのいずれかの野生型アカゲザル中に1013GC/kgのAAV8.TBG.rhAFP(対照ベクター;qPCR力価測定法に基づく用量)を投与後、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)又はアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)値の上昇は見なかった。これは、AAV8キャプシドそれ自身が炎症性又は傷害性の肝の過程を誘発する原因でないことを示唆する。
【0111】
7.6.HoFHのマウスモデルにおけるAAV8.TBG.hLDLRのパイロット体内分布試験
HoFHのための遺伝子治療の安全性及び薬力学特性を評価するため、パイロット体内分布(BD)試験をDKOマウスで実施した。これら試験は、2種の経路:1)尾静脈中への静脈内(IV)注入又は2)門脈内注入の1種を介して5×1012GC/kg(qPCR力価測定法に基づく用量)のAAV8.TBG.hLDLRベクターを全身投与した5匹のメスDKOマウスにおいてベクター分布及び持続性を調べた。2個の異なる時間点(第3日及び第28日)に、組織の一団を回収し、回収した組織から総細胞DNAを抽出した。これらパイロット試験において、静脈内(IV)及び門脈内双方の経路が比較可能な生体内分布(BD)プロファイルをもたらし、末梢静脈を介して患者及び動物に遺伝子治療ベクターを注入することの理論的根拠を裏付ける。
【0112】
7.7.毒性
HoFHのための遺伝子治療の潜在的毒性を評価するため、薬理/毒性試験をDKOマウス(HoFHのマウスモデル)並びに野生型及びLDLR+/-アカゲザルで実施した。前記試験は、固形飼料を給餌した野生型及びLDLR+/-アカゲザルでのベクター関連毒性におけるLDLRトランスジーン発現の役割の検査、HoFHのマウスモデルにおけるAAV8.TBG.mLDLR及びAAV8.TBG.hLDLRの薬理/毒性試験、HoFHのマウスモデルにおけるAAV8.TGB.hLDLRの非臨床体内分布の検査を含む。これら試験を以下に詳細に説明する。
【0113】
7.8.固形飼料を給餌した野生型及びLDLR+/-アカゲザルでのベクター関連毒性におけるLDLRトランスジーン発現の役割を調べる非臨床研究
4匹の野生型及び4匹のLDLR+/-アカゲザルに、1.25×1013GC/kgのAAV8.TBG.hLDLR(oqPCR力価測定法に基づく用量)を静脈内(IV)投与し、ヒト以外の霊長類(NHP)をベクター投与1年後までの間監視した。4匹の動物(2匹の野生型及び2匹のLDLR+/-)をベクター投与後第28日に剖検して急性ベクター関連毒性及びベクター分布を評価し、4匹の動物(2匹の野生型及び2匹のLDLR+/-)をベクター投与後第364/365日に剖検して長期のベクター関連病態及びベクター分布を評価した。野生型及びLDLR+/-アカゲザルの各コホートは2匹のオス及び2匹のメスをであった。
【0114】
動物は長期又は短期の臨床的後遺症を伴わずベクターの注入を良好に耐えた。体内分布研究は、時間とともに減少したはるかにより少ないがなお検出可能な肝外分布を伴う肝の高レベルかつ安定なターゲッティングを示した。これらデータは、有効性の標的臓器すなわち肝が潜在的毒性の最もありそうな発生源でもまたあることを示唆した。ベクター投与28及び364/365日後に実施した剖検で回収した組織の詳細な精査は、LDLR+/-アカゲザルにおいて肝における若干の最低限ないし軽度所見及び粥状動脈硬化の若干の証拠を示した。肝の病態の性質、及び同様の病態を2匹の未処置野生型動物の1匹で観察したという事実は、それらが前記試験薬剤に無関係であったことを病理学者に示唆した。
【0115】
1匹の動物はベクター投与前にアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)が持続的に上昇し、それは58U/Lから169U/Lまでの範囲にわたるレベルでベクター投与後に継続した。残りの動物は、トランスアミナーゼの上昇を示さなかったか、又は、決して103U/Lを超えないアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)及びALTの一過性かつ低レベルの増加のみを示したかのいずれかであった。最も一致した異常はベクター注入後に見出され、それらが試験薬剤に関係したことを示唆する。ヒトLDLR又はAAV8キャプシドに対するT細胞の活性化をAST/ALT増加との相関について評価した。図6は関連した所見を示した3匹の選択された動物におけるAAVキャプシドのELISPOTデータ及び血清ASTレベルを提示する。1匹の動物のみが、103U/LへのASTの増加がキャプシドに対するT細胞の出現と対応した相関を示し(図6、動物090-0263);キャプシドT細胞応答は持続した一方、ASTは正常範囲に速やかに戻った。
【0116】
キャプシド及びトランスジーン特異的T細胞の存在についての組織由来T細胞の分析は、肝由来のT細胞が遅い時間点までに双方の遺伝子型(野生型及びLDLR+/-)からのキャプシドに応答性となった一方、ヒトLDLRに対するT細胞をこの遅い時間点でLDLR+/-動物で検出したことを示した。これはPBMCが標的組織中のT細胞コンパートメントを反映しないことを示唆する。第28及び364/365日に回収した肝組織をRT-PCRによりトランスジーンの発現について分析したが、臨床病理の異常又はT細胞の出現が影響したようであった。
【0117】
野生型もLDLR+/-動物もどちらも固形飼料食給餌で高コレステロール血症を発症しなかった。用量制限毒性(DLT)は1.25×1013GC/kgの用量(oqPCRに基づく)で観察されず、最大耐用量(MTD)がこの用量に等しいか又はより大きいとみられることを意味している。トランスアミナーゼの試験薬剤関連の上昇が観察され、これは低くかつ一過性であったがそれにもかかわらず存在した。従って、無毒性量(NOAEL)は本明細書の実施例1で評価した単一高用量未満である。
【0118】
7.9.HoFHのマウスモデルにおけるAAV8.TBG.mLDLR及びAAV8.TBG.hLDLRの非臨床薬理/毒性試験
本試験はDKOマウスで実施した。この系統を使用することが、1)毒性と同時の概念
実証有効性の評価、並びに2)LDLRの欠損と関連するいずれかの病態並びに関連する脂質異常症及び脂肪肝のようなその後遺症の状況でのベクター関連毒性の評価を可能にするとみられるためである。
【0119】
本試験は、実施例1に示すHoFHを罹患しているヒト被験者への投与のための最高用量より8倍高い最高用量のAAV8.TBG.hLDLRを試験するようデザインされた。マウスLDLRを発現するベクターの1つのバージョンを、毒性パラメータならびにコレステロールの低下に対する用量の影響の評価を提供するため、この高用量ならびに2種のより低用量で試験した。用量反応実験を、ヒトLDLRベクターを使用してヒトで観察するであろう毒性及び有効性をより反映するために、マウスLDLRを発現するベクターを用いて実施した。
【0120】
本試験において、6~22週齢のオス及びメスDKOマウスに、AAV8.TBG.mLDLRの用量(7.5×1011GC/kg、7.5×1012GC/kg及び6.0×1013GC/kg)の1種又は6.0×1013GC/kgのベクター(AAV8.TBG.hLDLR)(oqPCR力価測定法に基づく用量)を投与した。動物をベクター投与後第3日、第14日、第90日及び第180日に剖検し;これら時間は試験薬剤のベクター発現プロファイルならびに急性及び慢性毒性を捕捉するため選択された。トランスジーン発現の有効性を血清コレステロールレベルの測定により監視した。動物は包括的臨床病理、ベクターに対する免疫反応(サイトカイン、AAV8キャプシドに対するNAb、キャプシド及びトランスジーン双方に対するT細胞応答)について評価し、組織を剖検の時点で包括的組織病身体検査のため回収した。
【0121】
本試験からの重要な毒性所見は後に続くとおりである:
・臨床的後遺症は処置した群で観察されなかった
・臨床病理:
・トランスアミナーゼ:異常は、ULNの1~4倍からの範囲にわたった肝機能検査AST及びALTの上昇に限定され、マウスLDLRベクターの全用量の第90日で主に見出された。数匹のオス動物におけるULNの2倍未満のALTを除き、高用量のヒトLDLRベクターを投与した群でトランスアミナーゼの上昇は存在しなかった。マウスベクターに関連する異常は軽度であり、用量依存性でなく、従ってベクターに関連するとは考えられなかった。高用量ヒトベクターと関連する所見は本質的に存在しなかった。これら所見に基づく処置関連毒性の証拠は存在せず、これら基準に基づく無毒性量(NOAEL)が6.0×1013GC/kgであることを意味している。
・病理学:肉眼所見は存在しなかった。組織病理学は後に続く肝における最低限ないし軽度所見に限定した:
・PBSを投与した動物は評価した全基準に従って最低限及び/又は軽度の異常の証拠を有した。処置関連病態の評価において、われわれは、PBS注入した動物で見出すものより上であった軽度と分類するいずれの所見にも焦点を当てた。
・軽度胆管過形成及び類洞細胞過形成をマウス及びヒトLDLRベクターを投与した高用量メスマウスで観察した。これは高用量でのみ観察されるベクター関連の影響を表す場合がある。
・小葉中心性肥大は、軽度、オスにおいてのみであり、かつ高用量のベクターには認められず、それがベクター関連でないことを主張する。
・最低限の壊死が高用量ヒトLDLRベクターにおいて第180日に1/7オス及び3/7メスで見出された。
・高用量のベクターでの軽度胆管及び類洞細胞過形成の所見並びに高用量ヒトLDLRベクターにおける最低限の壊死の数例に基づき、これら基準に基づくNOAELが7.5×1012GC/kgと6.0×1013GC/kgの間であること。
・他の所見:動物は、高用量のヒトLDLRベクターの投与後に、AAV8に対するNA
bの増加と、キャプシド及びLDLRに対するIFN-γ ELISPOTに基づく非常に低いT細胞応答の証拠とを発症した。ベクター3及び14日後の血清の分析に基づく急性炎症応答の証拠はほとんど存在せず;数種のサイトカインが控えめかつ一過性の上昇を示したとはいえ、IL6の増加はなかった。
【0122】
1件の注目すべき所見は、マウスLDLRベクターで処置したDKOマウスでの毒性がヒトLDLRベクターで処置したDKOマウスよりもより悪くなかったことであり、これはヒトLDLRがT細胞に関してマウストランスジーンよりも免疫原性があった場合に真実であり得た。ELISPOT試験は、ヒトトランスジーンを発現する高用量ベクターを投与したマウスにおいてLDLR特異的T細胞の若干の活性化を示したとはいえ、それらは低くかつ限られた数の動物においてであり、宿主応答のこの機序安全性の懸念に寄与することはありそうにないとみることを示唆した毒性データを裏付ける。
【0123】
結論として、用量制限毒性は存在せず、最大耐用量が6.0×1013GC/kgという試験された最高用量より高かったことを意味する。最高用量での肝の病態における軽度かつ可逆性の所見に基づき、NOAELは、肝において軽度の可逆性の病態を観察した6.0×1013GC/kgから、ベクター関連所見の明確な表記が存在しなかった7.5×1012GC/kgまでの間のどこかである。
【0124】
7.10.HoFHのマウスモデルにおけるAAV8.TGB.hLDLRの非臨床体内分布
6~22週齢オス及びメスDKOマウスに7.5×1012GC/kg(oqPCR力価測定法により測定する用量)のAAV8.TBG.hLDLR、すなわち実施例1fにおけるヒト被験者を処置するための最高用量をIV投与した。動物をベクター投与後第3日、第14日、第90日及び第180日に体内分布評価のため剖検した。血液に加え20種類の器官を回収した。器官中のベクターゲノムの分布を、回収した全ゲノムDNAの定量的高感度PCR分析により評価した。各組織の1個のサンプルは、PCRアッセイ反応の妥当性を評価するため、既知量のベクター配列を含む対照DNAの添加を含んだ。
【0125】
肝中のベクターGC数は他の器官/組織中より肝中で実質的により高く、それはAAV8キャプシドの高い肝指向性と矛盾しない。例えば、肝中のベクターゲノムコピーは、第90日にいずれかの他の組織で見出したものより最低100倍より多かった。最初の3つの時間点でオス又はメスマウスの間に有意の差違は存在しなかった。GC数は第90日までに肝中で経時的に減少し、そこでGC数はその後安定した。減少という類似の傾向は全部の組織で観察されたが、しかしベクターコピー数の減少はより高い細胞回転率を伴う組織中でより迅速であった。低いがしかし検出可能なレベルのベクターゲノムコピーが双方の性の生殖腺及び脳中に存在した。
【0126】
DKOマウスにおけるAAV8.TBG.hLDLRの体内分布はAAV8を用いた報告した結果と矛盾しない。肝は静脈内(IV)注入後の遺伝子導入の標的主要標的であり、及び肝中のゲノムコピーは経時的に有意に減少しない。他の器官をベクター送達のため標的化するとはいえ、これら肝以外の組織中の遺伝子導入のレベルは実質的により低く、経時的に減少する。従って、ここに提示するデータは、評価するべき主要器官系が肝であることを示唆する。
【0127】
7.11.非臨床安全性試験からの結論
アカゲザル及びDKOマウスの試験は、高用量ベクターが、NHPにおいてトランスアミナーゼの一過性上昇と、マウスにおける軽度の胆管及び類洞細胞過形成の一過性の出現とにより明らかな、低レベル、一過性かつ無症候性の肝の病態と関連することを確認した。前記ベクターによることを感じる他の毒性は観察しなかった。
【0128】
サルにおいて1.25×1013GC/kg及びDKOマウスにおいて6×1013GC/kgと同じくらい高い用量で観察されるDLTは存在しなかった。NOAELの決定は、主にサルにおけるトランスアミナーゼの上昇と、DKOマウスにおける組織病理学とを反映する肝毒性に集中する。これは、サルにおいて1.25×1013GC/kg未満、DKOマウスにおいて6×1013GC/kg未満しかし7.5×1012GC/kgを超えるNOAELにつながる。前記用量はoqPCR力価測定法に基づいた。
【0129】
7.12.ヒト処置を裏付けるための非臨床データの全体的評価
臨床試験のための用量選択及びデザインの情報を与えた薬理及び毒性試験から得られた重要な知見は以下のとおりである:
・最小有効量(MED):MEDは、血清コレステロールの30%低下をもたらしたGC/kg用量と非臨床試験で定義された。2件のINDを可能にする非臨床試験が、MEDが1.5ないし5.0×1011GC/kgの間であることを確立した。マウスの薬理/毒性試験は、PBS対照に関して最低30%の血清コレステロールの統計学的に有意の低下を示し、7.5×1011GC/kg以下のMEDの推定を可能にする。観察した用量反応関係は、oqPCRにより測定する1.5ないし5.0×1011GC/kgの間であることのMEDの決定を可能にした。
・最大耐用量(MTD):MTDは、用量制限毒性(DLT)をもたらさなかったGC/kg用量と非臨床試験で定義された。DLTは、oqPCRにより測定されるDKOマウスにおいて6.0×1013GC/kgと、サルにおいて1.25×1013GC/kgという試験された最高用量での毒性試験で観察されなかった。われわれの結果は、実際のMTDがこれら用量より高いことを示唆した。
・無毒性量(NOAEL):これはDKOマウスにおいて7.5×1012GC/kgであることが決定された。これは、より高用量のヒトLDLR(hLDLR)トランスジーンで観察された、主に肝における最低限ないし軽度の組織病理学的所見(胆管及び類洞細胞過形成、最低限の壊死)に基づいた。1種類の用量のみサルで試験されたが、1.25×1013GC/kgでの毒性は軽度であり、AST及びALTの一過性かつ低レベルの増加を含み、真のNOAELは試験した用量より低い用量で達成するであろうことを示唆する。
【0130】
これらデータに基づき、われわれは2種類の用量:2.5×1012GC/kgの単回投与又は7.5×1012GC/kgの単回投与(oqPCR力価測定法に基づく用量)に到達した。臨床で試験することを提案する最高用量は、サル毒性試験で試験した最高用量より低く、DKOマウスで試験した最高用量より8倍より低いが、それらのいずれもMTDであるとみなされなかった。MEDより最低5倍高い用量を提案し、低用量コホートに参加する患者が若干の利益を潜在的に得ることができるであろうことを示唆する。前記より低い用量はまた、DKOマウスにおけるNOAEL用量よりおよそ3倍低く、サルで試験した用量より5倍低い。
【実施例3】
【0131】
8.実施例3:AAV8.TBG.hLDLRの製造
AAV8.TBG.hLDLRベクターはAAVベクター有効成分及び製剤緩衝液からなる。外的AAVベクター成分は、1:1:18の比の60コピーの3種のAAVウイルスタンパク質VP1、VP2及びVP3からなる血清型8、T=1の正二十面体キャプシドである。前記キャプシドは1本鎖DNA組換えAAV(rAAV)ベクターゲノムを含む(図7)。前記ゲノムは、2個のAAV末端逆位配列(ITR)に挟まれたヒト低比重リポタンパク質受容体(LDLR)トランスジーンを含む。エンハンサー、プロモーター、イントロン、ヒトLDLRコーディング配列及びポリアデニル化(ポリA)シグナルを、前記ヒトLDLRトランスジーンは含む。前記ITRはベクター産生中にゲノムの複製
及びパッケージングを司る遺伝要素であり、rAAVを生成するのに必要とする唯一のウイルスシスエレメントである。ヒトLDLRコーディング配列の発現は肝細胞特異的チロキシン結合グロブリン(TBG)プロモーターから駆動する。2コピーのα1ミクログロブリン/ビクニンエンハンサーエレメントが、プロモーター活性を刺激するためにTBGプロモーターの上流に配置される。キメライントロンが発現をさらに高めるために存在し、ウサギβグロビンポリAシグナルを、ヒトLDLR mRNA転写物の終止を媒介するために含む。前記ベクターは製剤緩衝液中のAAV8.TBG.hLDLRベクターの懸濁液として供給する。製剤緩衝液は180mM NaCl、10mMリン酸ナトリウム、0.001%ポロクサマー188、pH7.3である。
【0132】
ベクター製造及びベクターの特徴付けの詳細を以下の節に説明する。
【0133】
8.1.AAV8.TBG.hLDLRを製造するのに使用するプラスミド
AAV8.TBG.hLDLRの製造のため使用するプラスミドは以下のとおりである:
8.1.1 シスプラスミド(ベクターゲノム発現構築物):
ヒトLDLR発現カセットを含むpENN.AAV.TBG.hLDLR.RBG.KanR(図8)。本プラスミドはrAAVベクターゲノムをコードする。前記発現カセットのポリAシグナルはウサギβグロビン遺伝子由来である。2コピーのα1ミクログロブリン/ビクニンエンハンサーエレメントがTBGプロモーターの上流に配置される。
【0134】
AAV8.TBG.hLDLRの製造のため使用するシスプラスミドを作成するため、ヒトLDLR cDNAを、AAV2 ITRを含む構築物pENN.AAV.TBG.PI中にクローン化して、pENN.AAV.TBG.hLDLR.RBGを作出した。pENN.AAV.TBG.PI中のプラスミドバックボーンは、元はpKSSに基づく1プラスミドpZac2.1由来であった。pENN.AAV.TBG.hLDLR.RBG中のアンピシリン耐性遺伝子を切り出し、カナマイシン遺伝子で置換してpENN.AAV.TBG.hLDLR.RBG.KanRを作出した。ヒトLDLR cDNAの発現はキメライントロン(Promega Corporation、ウィスコンシン州マディソン)を伴うTBGプロモーターから駆動する。発現カセットのポリAシグナルはウサギβグロビン遺伝子由来である。2コピーのα1ミクログロブリン/ビクニンエンハンサーエレメントがTBGプロモーターの上流に配置される。
【0135】
配列要素の説明
1.末端逆位配列(ITR):AAV ITR(GenBank #NC001401)は、両端で同一であるがしかし逆の配向の配列である。AAV2 ITR配列は、AAV及びアデノウイルス(ad)ヘルパー機能をトランスで提供する場合にベクターDNA複製開始点及びベクターゲノムのパッケージングシグナルの双方として機能する。であるから、ITR配列はベクターゲノム複製及びパッケージングに必要なシスに作用する唯一の配列を表す。
2.ヒトα1ミクログロブリン/ビクニンエンハンサー(2コピー;0.1Kb);Genbank #X67082)この肝特異的エンハンサーエレメントは肝特異性を与え、TBGプロモーターからの発現を高めるようにはたらく。
3.ヒトチロキシン結合グロブリン(TBG)プロモーター(0.46Kb;Gen bank #L13470)この肝細胞特異的プロモーターがヒトLDLRコーディング配列の発現を駆動する
4.ヒトLDLR cDNA(2.58Kb;Genbank #NM000527、完全なCDS)。本ヒトLDLR cDNAは、95kDの予測分子量及びSDS-PAGEによる130kDの見かけの分子量を有するアミノ酸860個の低比重リポタンパク質受容体をコードする。
5.キメライントロン(0.13Kb;Genbank #U47121;Promega Corporation、ウィスコンシン州マディソン)本キメライントロンは、ヒトβグロビン遺伝子の第1イントロン由来の5’ドナー部位と、免疫グロブリン遺伝子重鎖可変領域のリーダーと本体の間に配置するイントロン由来の分枝及び3’アクセプター部位とからなる。発現カセット中のイントロンの存在は核から細胞質へのmRNAの輸送を促進することが示しており、従って翻訳のためのmRNAの定常レベルの蓄積を高める。これは高レベルの遺伝子発現を媒介することを意図している遺伝子ベクター中の共通の特徴である。
6.ウサギβグロビンポリアデニル化シグナル(0.13Kb;GenBank #V00882.1)ウサギβグロビンポリアデニル化シグナルは抗体mRNAの効率的ポリアデニル化のためのシス配列を提供する。本エレメントは、転写終止、新生転写物の3’端の特異的切断事象、次いで長いポリアデニル尾の付加のためのシグナルとして機能する。
【0136】
8.1.2 トランスプラミド(パッケージング構築物):AAV2 rep遺伝子及びAAV8 cap遺伝子を含むpAAV2/8(Kan)(図9)。
【0137】
AAV8トランスプラミドpAAV2/8(Kan)は、AAV2複製酵素(rep)遺伝子と、ビリオンタンパク質VP1、VP2及びVP3をコードするAAV8キャプシド(cap)遺伝子とを発現する。AAV8キャプシド遺伝子配列は、元はアカゲザルの心DNAから単離された(GenBankアクセッションAF513852)。キメラパッケージング構築物を作出するため、AAV rep及びcap遺伝子を含むプラスミドp5E18をXbaI及びXhoIで消化してAAV2 cap遺伝子を除去した。該AAV2 cap遺伝子をその後、AAV8 cap遺伝子の2.27KbのSpeI/XhoI PCRフラグメントで置換してプラスミドp5E18VD2/8(図9a)を作出した。通常rep発現を駆動するAAV p5プロモーターを、本構築物中でrep遺伝子の5’端からcap遺伝子の3’端に再配置する。この配置はベクター収量を増大させるためrepの発現を下向き調節するようにはたらく。p5E18中のプラスミドバックボーンはpBluescript KS由来である。最終段階として、アンピシリン耐性遺伝子をカナマイシン耐性遺伝子で置換してpAAV2/8(Kan)(図9B)を作出した。pAAV2/8(Kan)トランスプラミド全体は直接配列決定により確認されている。
【0138】
8.1.3 アデノウイルスヘルパープラスミド:pAdΔF6(Kan)
プラスミドpAdΔF6(Kan)はサイズが15.7Kbであり、AAV複製に重要なアデノウイルスゲノムの領域すなわちE2A、E4及びVA RNAを含む。pAdΔF6(Kan)はいかなる追加のアデノウイルス複製又は構造遺伝子もコードせず、複製のために必要であるアデノウイルスITRのようなシスエレメントを含まず、従って感染性アデノウイルスを産生することは期待されない。アデノウイルスE1の必須の遺伝子機能はrAAVベクターが産生するHEK293細胞により供給される。pAdΔF6(Kan)はAd5のE1、E3欠失分子クローン(pBHG10、pBR322に基づくプラスミド)由来であった。欠失をAd5 DNA中に導入して、不要なアデノウイルスコーディング領域を除去し、得られたadヘルパープラスミド中のアデノウイルスDNAの量を32Kbから12Kbまで減らした。最後に、アンピシリン耐性遺伝子をカナマイシン耐性遺伝子で置換してpAdΔF6(Kan)(図10)を作出した。DNAプラスミド配列決定をQiagen Sequencing Services、ドイツにより実施し、pAdDeltaF6(Kan)の参照配列と以下のアデノウイルスエレメント:p1707FH-Q:E4 ORF6 3.69-2.81Kb;E2A DNA結合タンパク質 11.8-10.2Kb;VA RNA領域 12.4-13.4Kbの間の100%相同性を示した。
【0139】
上に説明したシス、トランス及びadヘルパープラスミドのそれぞれはカナマイシン耐性カセットを含み、従ってβ-ラクタム抗生物質はそれらの製造において使用されない。
【0140】
8.1.4 プラスミド製造
ベクターの製造のため使用する全部のプラスミドがPuresyn Inc.(ペンシルバニア州モルバーン)により製造された。前記方法で使用する全部の増殖培地は動物質を含まない。醗酵フラスコ、容器、メンブレン、樹脂、カラム、チューブ、及びプラスミドと接触するいかなる成分も含む、前記方法で使用する全部の部品は、単一プラスミド専用であり、BSEフリー(BSE-free)と証明されている。共有する部品は存在せず、使い捨て用品を適切な場合は使用する。
【0141】
8.2.細胞バンク
AAV8.TBG.hLDLRベクターは、完全に特徴付けられたマスター細胞バンク由来のHEK293作業細胞バンクから製造された。双方の細胞バンクの製造及び試験の詳細が以下に示される。
【0142】
8.2.1 HEK293マスター細胞バンク
HEK293マスター細胞バンク(MCB)は初代ヒト胎児由来腎臓細胞(HEK)293の派生物である。HEK293細胞株は剪断されたヒトアデノウイルス5型(Ad5)DNAにより形質転換された永久株である(Grahamら、1977、Journal of General Virology 36(1):59-72)。HEK293MCBは微生物及びウイルス汚染について広範囲に試験されている。HEK293MCBは現在液体窒素中で保存されている。追加の試験を、ヒト、サル、ウシ及びブタ起源の特定の病原体の非存在を示すためHEK293MCBで実施した。HEK293MCBのヒト起源をイソ酵素分析により示した。
【0143】
腫瘍原性試験もまた、細胞懸濁液の皮下注入後のヌード(nu/nu)無胸腺マウスにおける腫瘍形成を評価することによりHEK293MCBで実施した。本試験において、線維肉腫が10匹の陽性対照マウスの10匹において注入部位で診断され、癌腫を10匹の試験薬剤マウスの10匹において注入部位で診断された。新生物は陰性対照マウスのいずれでも診断されなかった。HEK293MCB L/N 3006-105679はブタサーコウイルス(PCV)1及び2型の存在についてもまた試験された。前記MCBはPCV1及び2型について陰性であった。
【0144】
8.2.2 HEK293作業細胞バンク
HEK293作業細胞バンク(WCB)は、欧州薬局方モノグラフに従って適合性について証明されたニュージーランド起源のウシ胎児血清すなわちFBS(Hyclone PN SH30406.02)を使用して製造された。前記HEK293WCBは種物質として1バイアル(1mL)のMCBを使用して樹立された。特徴付け試験を実施し、試験結果を表4.1に列挙する。
【0145】
【表1】
【0146】
8.3.ベクター製造
ベクター製造方法の全般的説明を以下に示し、また図11中の流れ図にも反映される。8.3.1 ベクター生成工程(上流工程)
8.3.1.1 T-フラスコ(75cm)中へのHEK293WCB細胞培養の開始
1mL中に10個の細胞を含むWBCからのHEK293細胞の1バイアルを37℃
で融解し、10%ウシ胎児血清補充したDMEM高グルコース(DMEM HG/10%FBS)を含む75cm組織培養フラスコ中に播種する。細胞をその後37℃/5%CO2インキュベーター中に置き、細胞増殖を評価するための毎日の直接の視覚的及び顕微鏡検査を伴い約70%コンフルエンスまで増殖させる。これら細胞を継代1と呼称し、以下に説明するとおり約10週までの間ベクター生合成のための細胞種列(cell seed train)を生成するため継代する。継代数を各継代で記録し、細胞を継代20後に中止する。追加の細胞をベクター生合成のため必要とする場合は、新たなHEK293細胞種列をHEK293WCBの別のバイアルから開始する。
【0147】
8.3.1.2 約2個のT-フラスコ(225cm)中への細胞の継代
T75フラスコ中で増殖するHEK293細胞が約70%コンフルエントとなる場合に、細胞を組換えトリプシン(TrypLE)を使用してフラスコの表面からはがし、DMEM HG/10%FBSを含む2個のT225フラスコ中に播種する。細胞をインキュベーター中に置き約70%コンフルエンスまで増殖させる。細胞を、目視検査により及び顕微鏡を使用して細胞増殖、汚染の非存在及び一貫性について監視する。
【0148】
8.3.1.3 約10個のT-フラスコ(225cm)中への細胞の継代
2個のT225フラスコ中で増殖するHEK293細胞が約70%コンフルエントとなる場合に、細胞を組換えトリプシン(TrypLE)を使用してはがし、DMEM HG/10%FBSを含む10個の225cm2T-フラスコ中でフラスコあたり約3×10個の細胞の比重で播種する。細胞を37℃/5%COインキュベーター中に置き、約70%コンフルエンスまで増殖させる。細胞を、直接目視検査により及び顕微鏡を使用して細胞増殖、汚染の非存在及び一貫性について監視する。細胞を、細胞種列を維持し及び後のベクターバッチの製造を支援するための増殖のための細胞を提供するためにT225フラスコ中で連続継代することにより維持する。
【0149】
8.3.1.4 約10個のローラーボトル中への細胞の継代
10個のT225フラスコ中で増殖するHEK293細胞が約70%コンフルエントとなる場合に、細胞を組換えトリプシン(TrypLE)を使用してはがし、計数し、DMEM HG/10%FBSを含む850cmローラーボトル(RB)中に播種する。RBをその後RBインキュベーター中に置き、細胞を約70%コンフルエンスまで増殖させる。RBを、直接目視検査により及び顕微鏡を使用して細胞増殖、汚染の非存在及び一貫性について監視する。
【0150】
8.3.1.5 約100個のローラーボトル中への細胞の継代
前の工程段階で説明したとおり製造したRB中で増殖するHEK293細胞が約70%コンフルエントとなる場合に、それらを組換えトリプシン(TrypLE)を使用してはがし、計数し、DMEM/10%FBSを含む100個のRB中に播種する。RBをその後RBインキュベーター(37℃、5%CO)中に置き、約70%コンフルエンスまで増殖させる。細胞を、直接目視検査により及び顕微鏡を使用して細胞増殖、汚染の非存在及び一貫性について監視する。
【0151】
8.3.1.6 プラスミドDNAでの細胞のトランスフェクション
100個のRB中で増殖するHEK293細胞が約70%コンフルエントとなる場合に、細胞を3種のプラスミド:AAV血清型特異的パッケージング(トランス)プラスミド、adヘルパープラスミド、及びAAV末端逆位配列(ITR)により隣接しているヒトLDLR遺伝子の発現カセットを含むベクターシスプラスミのそれぞれでトランスフェクトする。トランスフェクションはリン酸カルシウム法を使用して実施する(プラスミドの詳細については第4.1.1節を参照されたい)。RBをRBインキュベーター(37℃、5%CO)中に一夜置く。
【0152】
8.3.1.7.無血清培地への培地交換
トランスフェクション後の100個のRBの一夜インキュベーション後に、トランスフェクション試薬を含むDMEM/10%FBS培地を吸引により各RBから除去し、DMEM-HG(FBSを含まない)で置換する。RBをRBインキュベーターに戻し、回収するまで37℃、5%COでインキュベートする。
【0153】
8.3.1.8.ベクター回収
RBをインキュベーターから取り出し、トランスフェクションの証拠(細胞形態のトランスフェクションが誘発する変化、細胞単層の剥離)及び汚染のいずれかの証拠について検査する。細胞を各RBの撹拌によりRB表面からはがし、その後BioProcess容器(BPC)に接続した無菌使い捨て漏斗中にデカンテーションすることにより回収する。BPC中の混合された回収物質に「Product Intermediate:Crude Cell Harvest(生成物中間体:粗細胞回収物)」と表示し、サンプルを(1)工程内バイオバーデン試験並びに(2)バイオバーデン、マイコプラズマ、外来性物質生成物放出試験のため採取する。粗細胞回収物(CH)と表示する前記生成物中間体バッチはさらに処理するまで2~8℃で保存する。
【0154】
8.3.2 ベクター精製工程(下流工程)
共通の「プラットフォーム」精製工程をAAV血清型の全部について使用する(すなわち段階の同一の連続及び順序を取り入れる)一方、各血清型は、クロマトグラフィー段階の独特の条件、すなわちクロマトグラフィー樹脂に適用する澄明にした細胞ライセートを調製するために使用する段階のいくつかの詳細(緩衝液組成及びpH)にもまた影響する要件を必要とする。
【0155】
8.3.2.1 AAV8ベクター回収物の濃縮及びTFFによる透析濾過
粗CHを含むBPCを、リン酸緩衝生理食塩水で平衡化した中空ファイバー(100k
MWカットオフ)TFF装置の消毒されたリザーバの入口に接続する。粗CHは蠕動ポンプを使用してTFF装置に適用し、1~2Lに濃縮する。ベクターを保持する(保持液)一方、小分子量部分及び緩衝剤はTFFフィルター孔を通過し及び廃棄する。回収物をその後AAV8透析濾過緩衝液を使用して透析濾過する。透析濾過後に、濃縮したベクターを5LのBPC中に回収する。前記物質に「Product Intermediate:Post Harvest TFF(生成物中間体:回収物TFF後)」と表示し、サンプルを工程内バイオバーデン試験のため採取する。濃縮した回収物を速やかにさらに処理するか、又はさらなる処理まで2~8Cで保存する。
【0156】
8.3.2.2 回収の微小流動化及びヌクレアーゼ消化
濃縮かつ透析濾過した回収物を、微小流動化を使用して無傷のHEK293細胞を壊して開ける(break open)剪断にかける。マイクロフルイダイザーは各使用後に1N NaOHで最低1hの間消毒し、次の運転まで20%エチルアルコール中に保存し、各使用前にWFIですすぐ。BPC中に含む粗ベクターをマイクロフルイダイザーの消毒した入口に取り付け、無菌の空BPCを出口に取り付ける。マイクロフルイダイザーにより生成する空気圧を使用して、ベクターを含む細胞を、マイクロフルイダイザー相互作用チャンバー(回旋状の300μm直径の経路)を通過させて細胞を溶解しベクターを放出させる。微小流動化工程を反復して細胞の完全な溶解及びベクターの高回収を確保する。マイクロフルイダイザーの生成物中間体の反復通過後に、流路を約500mLのAAV8ベンゾナーゼ緩衝液ですすぐ。微小流動化したベクターを含む5LのBPCをマイクロフルイダイザーの出口から取りはずす。前記物質は「Product Intermediate:Final Microfluidized(生成物中間体:最終微小流動化済み)」と表示し、サンプルを工程内バイオバーデン試験のため採取する。微小流動化し
た生成物中間体は速やかにさらに処理するか、又はさらなる処理まで2~8℃で保存する。核酸不純物を100U/mL Benzonase(登録商標)の添加によりAAV8粒子から除去する。BPCの内容物を混合し、室温で最低1時間インキュベートする。ヌクレアーゼ消化した生成物中間体をさらに処理する。
【0157】
8.3.2.3 微小流動化した中間体の濾過
微小流動化及び消化した生成物中間体を含むBPCを、3μmで開始し0.45μmまで行く勾配孔径を伴うカートリッジフィルターに接続する。前記フィルターをAAVベンゾナーゼ緩衝液で調整する。蠕動ポンプを使用して、微小流動化した生成物中間体はカートリッジフィルターを通過し、フィルター出口に接続したBPC中に回収する。無菌AAV8ベンゾナーゼ緩衝液はフィルターカートリッジを通してポンプで送りフィルターをすすぐ。濾過した生成物中間体をその後、AAV8ベンゾナーゼ緩衝液で調整した0.2μm最終孔径のカプセルフィルターに接続する。蠕動ポンプを使用して、濾過した中間体にカートリッジフィルターを通過させ、フィルター出口に接続したBPC中に回収する。ある容積の無菌AAV8ベンゾナーゼ緩衝液をフィルターカートリッジを通してポンプで送りフィルターをすすぐ。前記物質に「Product Intermediate:Post MF 0.2μm Filtered(生成物中間体:MF後0.2μm濾過済み)」と表示し、サンプルを工程内バイオバーデン試験のため採取する。前記物質をさらなる処理まで2~8℃で一夜保存する。追加の濾過段階を、澄明にした細胞ライセートのクロマトグラフィーカラムへの適用前にクロマトグラフィーの日に実施する場合がある。
【0158】
8.3.2.4 陰イオン交換クロマトグラフィーによる精製
0.2μm濾過した生成物中間体を、希釈緩衝液AAV8を添加することによりNaCl濃度について調節する。ベクターを含む細胞ライセートを、次に、イオン交換樹脂を使用するイオン交換クロマトグラフィーにより精製する。GE Healthcare AKTA Pilotクロマトグラフィー系に、およそ1Lの樹脂床容量を含むBPGカラムを取り付ける。前記カラムは連続流条件を使用して充填し、確立した非対称仕様を満たす。前記系を確立したプロトコルに従って消毒し、次の運転まで20%エチルアルコール中で保存する。使用直前に前記系を無菌AAV8洗浄緩衝液で平衡化する。無菌技術並びに無菌物質及び部品を使用して、澄明にした細胞ライセートを含むBPCを消毒したサンプル入口に接続し、以下に列挙するバイオプロセシング緩衝液を含むBPCをAKTA Pilotの消毒した入口に接続する。クロマトグラフィー処置中の全部の接続は無菌的に実施する。澄明にした細胞ライセートをカラムに適用し、AAV8洗浄緩衝液を使用してすすぐ。これら条件下でベクターはカラムに結合し、不純物を樹脂からすすぐ。AAV8粒子を、AAV8溶離緩衝液の適用によりカラムから溶離し無菌プラスチック製ボトル中に回収する。前記物質に「Product Intermediate(生成物中間体)と表示し、サンプルを工程内バイオバーデン試験のため採取する。前記物質を速やかにさらに処理する。
【0159】
8.3.2.5 CsCl勾配超遠心分離法による精製
上に説明した陰イオン交換カラムクロマトグラフィーにより精製したAAV8粒子は空のキャプシド及び他の生成物関連不純物を含む。空のキャプシドは塩化セシウム勾配超遠心分離法によりベクター粒子から分離する。無菌技術を使用して、塩化セシウムを、1.35g/mLの比重に対応する最終濃度まで穏やかに混合しつつベクター「Product Intermediate(生成物中間体)」に添加する。前記溶液を0.2μmフィルターで濾過し、超遠心管中に分配し、Ti50ローター中15℃でおよそ24h超遠心分離にかける。遠心分離後に管をローターから取り出し、Septiholで拭い、BSC中に運ぶ。各管をスタンドにクランプ止めし、バンドの可視化を補助するため集光照射にかける。2本の主要なバンドを典型的に観察し、上のバンドは空のキャプシドに対応し、下のバンドはベクター粒子に対応する。下のバンドを無菌シリンジに取り付けた無菌
針で各管から回収する。各管から回収したベクターを合わせ、サンプルを工程内バイオバーデン、エンドトキシン及びベクター力価のため採取する。プールされた物質を、「Product Intermediate:Post CsCl Gradient(生成物中間体:CsCl勾配後)」と表示した無菌50mLポリプロピレン製コニカルチューブ中に分配し、次の工程段階まで-80℃で速やかに保存する。
【0160】
8.3.2.6 接線流濾過による緩衝液交換
プールするための試験及び放出後に、CsClバンド形成工程段階により精製したベクターのバッチを合体し、TFFによる透析濾過にかけてバルクベクターを製造する。個別のバッチから得られるサンプルの力価測定に基づき、プールされたベクターの容量を、計算した容量の無菌透析濾過緩衝液を使用して調節する。利用可能な容量に依存して、プールされた濃度調節したベクターのアリコートを、単回使用TFF装置を用いるTFFにかける。装置は使用前に消毒し、その後透析濾過緩衝液で平衡化する。透析濾過工程が一旦完了すれば、ベクターをTFF装置から無菌ボトル中に回収する。前記物質は「Pre-0.2μm Filtration Bulk(0.2μm濾過前バルク)」と表示する。前記物質を速やかにさらに処理する。
【0161】
8.3.2.7 バルクベクターを製造するための配合及び0.2μm濾過
個別のTFF単位により調製されたバッチをプールし、500mL無菌ボトル中でおだやかに旋回することにより混合する。プールされた物質にその後0.22μmフィルターを通過させてバルクベクターを製造する。プールされた物質をバルクベクター及び予備のQC試験のためサンプリングし、その後無菌50mLポリプロピレン製管中に分注し、「Bulk Vector(バルクベクター)」と表示し、次の段階まで-80℃で保存する。
【0162】
8.4 ベクターの試験
血清型同一性、空の粒子の内容物及びトランスジーン産物の同一性を包む特徴づけアッセイを実施する。全部のアッセイの説明が以下に現れる。
【0163】
8.4.1 ゲノムコピー(GC)力価
最適化した定量的PCR(oqPCR)アッセイを使用して、同族プラスミド標準との比較によりゲノムコピー力価を決定する。oqPCRアッセイは、DNアーゼI及びプロテイナーゼKでの連続消化、次いで被包化したベクターのゲノムコピーを測定するためのqPCR分析を利用する。DNA検出は、この同一領域にハイブリダイズする蛍光タグを付けたプローブと、RBGポリA領域を標的とする配列特異的プライマーとの組み合わせを使用して遂行する。プラスミドDNA標準曲線との比較は、いかなるPCR後サンプル操作の必要も伴わない力価決定を可能にする。多数の標準、検証サンプル並びに対照(バックグラウンド及びDNA汚染について)は前記アッセイに導入されている。本アッセイは、感度、検出限界、適格性範囲、並びにアッセイ内及び間の精度を包むアッセイパラメータを確立及び定義することにより適格化されている。内部AAV8参照ロットを確立し、適格性試験を実施するために使用した。
【0164】
8.4.2 効力アッセイ
in vivo効力アッセイを、HoFHの二重ノックアウト(DKO)LDLR-/-Apobec-/-マウスモデルの血清中の総コレステロールレベルのヒトLDLRベクター媒介する低下を検出するよう設計した。前記in vivo効力アッセイの開発の基礎は第4.3.5.11節に説明している。AAV8.TBG.hLDLRベクターの効力を確認するため、6~20週齢DKOマウスに、マウスあたり5×1011GC/kgのPBSで希釈したベクターを静脈内(IV)(尾静脈を介して)注入する。動物は後眼窩出血により採血し、血清総コレステロールレベルを投与前及び後(第14及び30日
)にAntech GLPにより評価する。ベクター投与した動物における総コレステロールレベルは、この用量のベクター投与を用いる以前の経験に基づき第14日までにベースラインの25%~75%減少することが期待される。マウス投与あたり5×1011GC/kgを、安定性試験の経過にわたるベクター効力の変化の評価を可能にするであろう総コレステロール低下の予期される範囲に基づき、臨床アッセイのため選んだ。
【0165】
8.4.3 ベクターキャプシドの同一性:VP3のAAVキャプシド質量分析
前記ベクターのAAV2/8血清型の確認を、質量分析(MS)によるVP3キャプシドタンパク質のペプチドの分析に基づくアッセイにより達成する。前記方法は、SDS-PAGEゲルから切り出したVP3タンパク質バンドの多酵素消化(トリプシン、キモトリプシン及びエンドプロテイナーゼGlu-C)、次いでキャプシドタンパク質を配列決定するためのQ-Exactive Orbitrap質量分析計でのUPLC-MS/MSでの特徴づけを含む。質量スペクトルからのある種の汚染物タンパク質及び派生するペプチドの配列の同定を可能にするタンデム質量スペクトル(MS)法を開発した。
【0166】
8.4.4 空の粒子対中身のつまった(Full)粒子の比
分析的超遠心機中で測定される分析的超遠心分離(AUC)沈降速度を使用するベクター粒子プロファイルは、巨大分子構造の不均一性、コンホメーションの差違及び会合又は凝集の状態についての情報を得るための優れた方法である。サンプルをセル中に負荷し、Beckman Coulter Proteomelab XL-I分析的超遠心機中12000RPMで沈降させた。屈折率スキャンを2分ごとに3.3時間記録した。データは、c(s)モデル(Sedfitプログラム)、及び正規化したc(s)値に対しプロットした沈降係数計算値により解析される。単量体ベクターを表す主ピークを観察するはずである。主要単量体ピークより遅く移動するピークの出現は空の粒子/誤って集成した(misassembled)粒子を示す。空の粒子ピークの沈降係数を空のAAV8粒子調製物を使用して確立する。主要単量体ピーク及び先行するピークの直接定量は空対中身のつまった粒子比の決定を可能にする。
【0167】
8.4.5 感染力価
感染単位(IU)アッセイを使用して、RC32細胞(rep2を発現するHeLa細胞)でのベクターの生産的取り込み及び複製を測定する。簡潔には、96ウェルプレート中のRC32細胞を、rAAVの各希釈の12複製物を用いるベクターの連続希釈及びAd5の均一希釈により同時感染させる。感染72時間後に細胞を溶解し、qPCRを実施して入力に対するrAAVベクター増幅を検出する。エンドポイント希釈TCID50計算(Spearman-Karber)を実施してIU/mlとして表現する複製力価を決定する。「感染性」値は細胞と接触する粒子、受容体結合、内部移行、核への輸送及びゲノム複製に依存するため、それらはアッセイの幾何学(assay geometry)、並びに使用する細胞株中の適切な受容体及び結合後経路の存在が影響する。AAVベクター移入に決定的に重要な受容体及び結合後経路は、通常は不死化細胞株で維持されており、従って感染性アッセイの力価は存在する「感染性」粒子の数の絶対的尺度でない。しかしながら、「感染単位」に対する被包化したGCの比(GC/IU比として説明する)を、ロットからロットへの生成物の一貫性の尺度として使用する場合がある。in vitroのAAV8ベクターの感染性が低い可能性があるため、本in vitroバイオアッセイのばらつきは高い(30~60%CV)。
【0168】
8.4.6 トランスジーン発現アッセイ
トランスジーン発現を、1×1010GC(5×1011GC/kg)のAAV8.TBG.hLDLRベクターを投与されるLDLR-/-Apobec-/-マウスから回収した肝で評価する。ベクターを30日前に投与した動物を安楽死させ、肝を回収しRIPA緩衝液中でホモジナイズする。25~100μgの総肝ホモジェネートを4-12%
変性SDS-PAGEゲル上で電気泳動し、ヒトLDLRに対する抗体を使用してプロービングしてトランスジーン発現を確認する。ベクターを投与しないか無関係のベクターを投与された動物を前記アッセイのための対照として使用する。ベクターで処置された動物は翻訳後修飾により90~160kDaのどこかで移動するバンドを示すことをが期待される。相対発現レベルを、バンドの積分強度を定量化することにより決定する。
【配列表フリーテキスト】
【0169】
以下の情報を、数字見出し<223>の下でフリーテキストを含む配列について提供する。
【0170】
【表2-1】
【0171】
【表2-2】
【0172】
本明細書で引用する全部の刊行物は、米国仮出願第62/269,440号、2015年12月18日出願及び米国仮出願第62/266,383号、2015年12月11日出願がそうであるように、そっくりそのまま引用により本明細書に取り込まれる。同様に、本明細書で参照し及び付属する配列表中に現れる配列番号は引用により取り込まれる。本発明は特定の態様を参照して説明されたが、改変は本発明の技術思想から離れることなく行われる場合があることを認識することができる。こうした改変は本明細書に付属する
特許請求の範囲内にあることが意図されている。
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図3-4】
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
【配列表】
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