(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-08
(45)【発行日】2023-08-17
(54)【発明の名称】チタン酸マグネシウムを含有する焼鈍分離剤用酸化マグネシウム、その製造方法、焼鈍分離剤及び方向性電磁鋼板
(51)【国際特許分類】
C01G 23/00 20060101AFI20230809BHJP
C01F 5/02 20060101ALI20230809BHJP
C23C 22/00 20060101ALI20230809BHJP
H01F 1/147 20060101ALN20230809BHJP
【FI】
C01G23/00 C
C01F5/02
C23C22/00 A
H01F1/147 183
(21)【出願番号】P 2019062375
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2022-03-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000108764
【氏名又は名称】タテホ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】芝田 宙宜
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/051270(WO,A1)
【文献】特開平04-074871(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 23/00
C01F 5/02
C23C 22/00
H01F 1/147
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸マグネシウムを
5.0~20.0質量%含有
し、BET比表面積が12.0×10
3
~25.0×10
3
m
2
・kg
-1
であり、クエン酸活性度が50~200秒であり、ホウ素を0.04~0.15質量%含有し、塩素含有量が0.10質量%以下である焼鈍分離剤用酸化マグネシウム。
【請求項2】
請求項
1記載の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムを含む焼鈍分離剤。
【請求項3】
請求項
1記載の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムを用いて表面に被膜を形成させた方向性電磁鋼板。
【請求項4】
焼鈍分離剤用酸化マグネシウムの製造方法であって、
得られる酸化マグネシウム中のチタン酸マグネシウムの含有量が0.1~20.0質量%となるようにチタン化合物を混合した酸化マグネシウム前駆体を焼成する工程を含む製造方法。
【請求項5】
チタン化合物が酸化チタンである請求項
4記載の製造方法。
【請求項6】
チタン化合物が0.1~10.0μmの平均粒子径を有する請求項
4又は
5記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン酸マグネシウムを含有する焼鈍分離剤用酸化マグネシウム、その製造方法、焼鈍分離剤及び方向性電磁鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
変圧器や発電機に使用される方向性電磁鋼板は、一般に、ケイ素(Si)を約3%含有するケイ素鋼を、熱間圧延し、次いで最終板厚に冷間圧延し、次いで脱炭焼鈍、仕上げ焼鈍して、製造される。ここで、脱炭焼鈍(一次再結晶焼鈍)では、鋼板表面に二酸化ケイ素(SiO2)被膜を形成させる。そして、その表面に、焼鈍分離剤用酸化マグネシウム(MgO)を主体とし、酸化チタン等の添加剤を添加したスラリーを焼鈍分離剤として塗布して乾燥させ、コイル状に巻取った後、仕上げ焼鈍する。このことにより、鋼板表面のSiO2とMgOが反応してフォルステライト(Mg2SiO4)被膜が鋼板表面に形成される。このフォルステライト被膜は、鋼板表面に張力を付加し、鉄損を低減して磁気特性を向上させ、また鋼板に絶縁性を付与する役割を果たす。
【0003】
方向性電磁鋼板の特性を向上するために、焼鈍分離剤に添加する酸化チタンについての研究が行われている。
【0004】
特許文献1では、方向性電磁鋼板のグラス被膜を均一化させるために、添加剤としての酸化チタンの粒度を制御することが試みられている。
【0005】
更に、酸化マグネシウム粒子と酸との反応速度による活性度、すなわちクエン酸活性度(CAA:Citric Acid Activity)に着目した研究がなされている。CAAは、所定温度(例えば303K)の0.4規定のクエン酸水溶液中に、指示薬フェノールフタレインを混合し、最終反応当量の酸化マグネシウムを投入して攪拌し、クエン酸水溶液が中性になるまでの時間で表わされる。CAAは、方向性電磁鋼板用焼鈍分離剤として使用される酸化マグネシウムの評価指標になり得ることが経験的に知られている。
【0006】
酸化マグネシウムの反応当量におけるCAAの分布に関する発明として、特許文献2には、最終反応率20%、40%、60%及び70%の各々の場合において、CAAを狭い範囲に制御するように活性度を調整した焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムの発明が開示されている。また、特許文献3及び特許文献4には、CAA40%及びCAA80%の活性度、粒子径又は比表面積などをそれぞれ所定値に限定した焼鈍分離剤用酸化マグネシウムの発明が開示されている。また、更に、特許文献5には、CAA70%、CAA70%とCAA40%との比、粒子径、比表面積などを、それぞれ所定値に限定した方向性電磁鋼板用焼鈍分離剤の発明が開示されている。これらの発明では、いずれも、酸化マグネシウム粒子の水和性と反応性の制御を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭61-79781号公報
【文献】特開昭55-58331号公報
【文献】特開平6-33138号公報
【文献】特開平11-158558号公報
【文献】特開平11-269555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
方向性電磁鋼板の磁気特性及び絶縁特性、並びに市場価値は、フォルステライト被膜の性能、具体的には、被膜のムラ、及び凝集粒子による欠陥が形成されていないかの2点に大きく左右される。いいかえると、方向性電磁鋼板の特性及び価値は、フォルステライト被膜を形成するための焼鈍分離剤用酸化マグネシウムの性能に大きく依存している。
【0009】
しかしながら、従来の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムは、その使用にあたり添加剤として酸化チタンを添加する場合、酸化チタンの再凝集等による欠陥や被膜ムラが生じ、方向性電磁鋼板の被膜不良の発生を完全には防止できておらず、また一定の効果が得られないため信頼性を欠いていた。
【0010】
上述のように、特許文献1では、焼鈍分離剤用酸化マグネシウムに分散性の良い酸化チタンを添加することで、酸化チタンの再凝集を抑えている。しかし、この文献に記載の方法においても、酸化チタンの均一性は十分なものとはいえず、フォルステライト被膜の被膜ムラ、凝集粒子による欠陥を防ぐことはできていなかった。
【0011】
このように、従来、焼鈍分離剤用酸化マグネシウムに添加する添加剤としての酸化チタンの分散性を制御し、フォルステライト被膜の品質を改善する試みが多くなされている。しかしながら、フォルステライト被膜の品質に課せられた要求(被膜ムラ、及び凝集粒子による欠陥がない被膜)を充分に満足するために、焼鈍分離剤用酸化マグネシウムについてもさらなる品質の向上が求められている。
【0012】
そこで本発明は、磁気特性及び絶縁特性に優れた方向性電磁鋼板を得るための焼鈍分離剤用酸化マグネシウムを提供することを目的とする。具体的には、被膜のムラ、及び凝集粒子による欠陥が形成されていない均一性の高いフォルステライト被膜を形成することができる焼鈍分離剤用酸化マグネシウムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意研究の結果、チタン化合物を酸化マグネシウム前駆体に添加し、これを焼成することで、焼成時に酸化マグネシウムの一部をチタン酸マグネシウムにして、チタン化合物が均一分散した酸化マグネシウムを得、これを使用することで被膜のムラ、及び凝集粒子による欠陥が存在しない均一性の高いフォルステライト被膜を形成でき、磁気特性及び絶縁特性に優れた方向性電磁鋼板を得ることができることを見出して、本発明に至った。
【0014】
本発明は、チタン酸マグネシウムを0.1~20.0質量%含有する焼鈍分離剤用酸化マグネシウムである。本発明の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムによれば、鋼板の表面に、被膜のムラ、凝集粒子による欠陥が存在しない優れたフォルステライト被膜を形成することができる。
【0015】
また、本発明は、上述の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムを含む焼鈍分離剤である。本発明の焼鈍分離剤を用いることにより、磁気特性及び絶縁特性に優れた方向性電磁鋼板を製造することができる。
【0016】
また、本発明は、上述の焼鈍分離剤用酸化マグネシウム用いて表面に被膜を形成させた方向性電磁鋼板である。本発明の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムを用いて被膜を形成させて得られた方向性電磁鋼板は、磁気特性及び絶縁特性に優れた方向性電磁鋼板である。
【0017】
また、本発明は、得られる酸化マグネシウム中のチタン酸マグネシウムの含有量が0.1~20.0質量%となるようにチタン化合物を混合した酸化マグネシウム前駆体を焼成する工程を含む焼鈍分離剤用酸化マグネシウムの製造方法である。本発明の製造方法により、磁気特性及び絶縁特性に優れた方向性電磁鋼板を得ることができる焼鈍分離剤用酸化マグネシウムを製造することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、磁気特性及び絶縁特性に優れた方向性電磁鋼板を得るための焼鈍分離剤用酸化マグネシウムを提供することができる。具体的には、本発明によれば、鋼板の表面に、被膜のムラ、凝集粒子による欠陥が存在しない優れたフォルステライト被膜を形成することができる焼鈍分離剤用酸化マグネシウムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムは、チタン酸マグネシウムを0.1~20.0質量%含有する。すなわち、本発明の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムは、所定量のチタン化合物がチタン酸マグネシウムとして含有されていることに特徴がある。このことにより、チタン化合物は、酸化マグネシウム中に十分均一分散した状態で含有されると考えられ、被膜のムラ及び凝集粒子による欠陥を有さないフォルステライト被膜を形成することができる。ここで、チタン酸マグネシウムの含有量が少なすぎるとフォルステライト被膜が十分に形成されず被膜ムラが生じるため好ましくなく、多すぎるとフォルステライト成膜後にチタン化合物が残留するため好ましくない。本発明の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムの含有量は、0.1~20.0質量%であり、より好ましく1.0~15.0質量%であり、特に好ましく5.0~12.0質量%である。
【0020】
本発明の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムは、ホウ素を0.04~0.15質量%含有し、塩素含有量が0.10質量%以下であることが好ましい。ホウ素及び塩素の含有量が所定の範囲であることにより、磁気特性及び絶縁特性に優れた方向性電磁鋼板を得るための焼鈍分離剤用酸化マグネシウムを、より確実に得ることができる。
【0021】
本発明の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムは、BET比表面積が12.0×103~25.0×103m2・kg-1であることが好ましい。ここで、BET比表面積とは、ガス吸着法(BET法)により測定される比表面積である。
【0022】
BET法によるBET比表面積の測定では、凝集粒子中の微細な細孔まで測定できるため、凝集粒子を構成する一次粒子の表面積を含んだ比表面積(BET比表面積)を測定することができる。
【0023】
本発明の酸化マグネシウムにおいて、BET比表面積が12.0×103m2・kg-1未満の場合、酸化マグネシウムの一次粒子径が粗大になり、酸化マグネシウム粒子の反応性が悪くなるため、フォルステライト被膜のムラが生じる。また粒子が粗大なため酸で除去した際残留物が残り、凝集粒子による欠陥が生じる。
【0024】
本発明の酸化マグネシウムにおいて、BET比表面積が25.0×103m2・kg-1より大きくなると、酸化マグネシウムの一次粒子径が小さくなり、酸化マグネシウム粒子の反応性が速くなりすぎ、均一なフォルステライト被膜ができない。そのため、方向性電磁鋼板のフォルステライト被膜のムラが生じる。
【0025】
また、本発明の酸化マグネシウムのBET比表面積は、好ましくは12×103~23×103m2・kg-1、より好ましくは14×103~20×103m2・kg-1である。
【0026】
本発明の酸化マグネシウムは、クエン酸活性度(Citric Acid Activity、CAA)が50~200秒であることが好ましく、60~170秒であることがより好ましい。ここでクエン酸活性度(CAA)とは、温度:303K、0.4Nのクエン酸水溶液中に40%の最終反応当量の酸化マグネシウムを投与して攪拌したときの、最終反応までの時間、つまりクエン酸が消費され溶液が中性となるまでの時間を意味する。
【0027】
CAAでは、固相-液相反応により、実際の電磁鋼板の表面で起こる二酸化ケイ素(SiO2)と酸化マグネシウム(MgO)との固相-固相反応の反応性を、経験的にシミュレートしており、一次粒子を含む酸化マグネシウム粒子の反応性を測定することができる。
【0028】
酸化マグネシウムのCAAが200秒より大きければ、酸化マグネシウムの一次粒子径が粗大になり、酸化マグネシウム粒子の反応性が悪くなるため、フォルステライト被膜生成率が低下する。また粒子が粗大なため酸で除去した際残留物が残り、凝集粒子による欠陥が生じる。
【0029】
酸化マグネシウムのCAAが50秒未満であれば、酸化マグネシウムの一次粒子径が小さくなり、酸化マグネシウム粒子の反応性が速くなりすぎる。そのため、均一なフォルステライト被膜ができなくなり、フォルステライト被膜のムラが生じる。
【0030】
本発明の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムを用いるならば、優れた絶縁特性と磁気特性を有する方向性電磁鋼板を製造することができる。
【0031】
本発明の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムは、得られる酸化マグネシウム中のチタン酸マグネシウムの含有量が0.1~20.0質量%となるようにチタン化合物を混合した酸化マグネシウム前駆体を焼成する工程を含む製造方法(本発明の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムの製造方法)により製造できる。このようにして、焼成時に酸化マグネシウムの一部をチタン酸マグネシウムとし、チタン化合物が十分均一分散した酸化マグネシウムを得ることができる。
【0032】
本発明において、酸化マグネシウム前駆体としては、焼成して酸化マグネシウムを得られるものであれば特に制限されず、例えば、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、硝酸マグネシウム等が挙げられ、好ましくは水酸化マグネシウムである。具体的には、例えば、原料として合成塩化マグネシウムを用い、この水溶液に水酸化カルシウムをスラリーの状態で添加し反応させることで、酸化マグネシウム前駆体としての水酸化マグネシウムを形成することができる。また、このとき、水酸化カルシウムの代わりに、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸基を有するアルカリ性化合物を用いることもできる。更に、鉱物マグネサイトを焼成して得た酸化マグネシウムを、水和させることでも酸化マグネシウム前駆体としての水酸化マグネシウムを得ることができる。このほか、海水、潅水、苦汁等のような塩化マグネシウム含有水溶液、又はこれから得られる水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、若しくは硝酸マグネシウム等も、酸化マグネシウム前駆体として用いることができる。
【0033】
本発明において、チタン化合物としては、酸化マグネシウム前駆体と混合されて焼成することでチタン酸マグネシウムを形成することができるものであれば特に制限されず、例えば、酸化チタン、塩化チタン、水酸化チタン、窒化チタン、臭化チタン、フッ化チタン、チタン酸マグネシウム等が挙げられ、好ましくは酸化チタンである。また、本発明において、チタン化合物は、0.1~10.0μmの平均粒子径を有するチタン化合物であることが好ましい。このような平均粒子径を有するチタン化合物を用いることで、チタン化合物がより均一分散した酸化マグネシウムを得ることができる。このような観点から、チタン化合物の平均粒子径は、0.2~5.0μmがより好ましく、0.3~4.0μmが特に好ましい。
【0034】
本発明において、酸化マグネシウム前駆体と混合されるチタン化合物の量は、得られる酸化マグネシウム中のチタン酸マグネシウムの含有量が0.1~20.0質量%となる量であり、好ましくは、1.0~15.0質量%となる量であり、5.0~12.0質量%となる量である。
【0035】
前述の酸化マグネシウム前駆体とチタン化合物とを混合して焼成することで所望の酸化マグネシウムを得ることができる。具体的には、酸化マグネシウム前駆体が水酸化マグネシウムである場合、例えば、スラリー状としてチタン化合物と混合し、これをろ過、水洗、乾燥させた後、加熱炉で焼成する。また、酸化マグネシウム前駆体が海水、潅水、苦汁等のような塩化マグネシウム含有水溶液である場合、例えば、これらをチタン化合物とともに反応器に導入し、1773~2273Kで直接酸化マグネシウムとHClを生成させることでも行い得る(アマン法(Aman process))。焼成によって得られた酸化マグネシウムは、場合により所望の粒径まで粉砕され、例えば、後述のようにBET比表面積、CAA等もあわせて調整される。
【0036】
本発明において、焼成条件は、特に制限されず、酸化マグネシウム前駆体を焼成して焼鈍分離剤用酸化マグネシウムを得る場合の一般的な焼成条件が適用される。焼成温度は、例えば1073~1473Kが好ましく、1123~1373Kがより好ましい。また、焼成時間は、例えば0.1~10.0時間が好ましく、0.3~3.0時間がより好ましい。ここで、酸化マグネシウム前駆体に混合されたチタン化合物は、上記のような焼鈍分離剤用酸化マグネシウムを得る場合の焼成条件で、全てチタン酸マグネシウムになると考えられる。
【0037】
本発明において、焼鈍分離剤用酸化マグネシウムのBET比表面積及びCAAの調整は、例えば、次のような方法により行うことができる。すなわち、水酸化マグネシウムの製造工程中の反応温度及びアルカリ源の濃度を調整することにより、水酸化マグネシウムの一次粒子径及び二次粒子径を制御し、酸化マグネシウムのBET比表面積及びCAAを調整することができる。また、粒子径を制御した水酸化マグネシウムの焼成温度及び時間を制御することによっても、酸化マグネシウムのBET比表面積及びCAAを調整することができる。また、BET比表面積及びCAAの調整方法として、粉砕後のBET比表面積及びCAAを測定し、複数回焼成を行うことでも調整することができる。更に、焼成した酸化マグネシウムを、ジョークラッシャー、ジャイレトリークラッシャー、コーンクラッシャー、インパクトクラッシャー、ロールクラッシャー、カッターミル、スタンプミル、リングミル、ローラーミル、ジェットミル、スーパーミクロンミル、サイクロンミル、ハンマーミル、ピンミル、回転ミル、振動ミル、遊星ミル、ボールミル等の粉砕機を使用して粉砕することによっても、酸化マグネシウムのBET比表面積及びCAAを調整することができる。また、BET比表面積及びCAAの調整方法として、粉砕後のBET比表面積及びCAAを測定し、複数回粉砕を行うことでも調整することができる。
【0038】
本発明において、焼鈍分離剤用酸化マグネシウム中のホウ素、塩素等の微量含有物の量は、公知の方法により制御できる。酸化マグネシウム中の微量含有物の量を制御する方法としては、例えば、酸化マグネシウム中の微量含有物の量が所定の範囲となるように、粗生成物の製造工程中に、又は得られた粗生成物の微量含有物量を最終焼成前に、制御することにより行うことができる。粗生成物の製造工程中での制御は、例えば、原料に含まれる微量含有物の量を分析し、その結果を踏まえ、制御する対象の微量含有物が所定量となるように、湿式又は乾式で添加するか、湿式で除去することにより制御することができる。微量含有物の添加は、例えば、添加する元素を混合し、乾燥させることにより行うことができる。また、微量含有物の除去は、例えば、湿式で過剰な含有物を物理的に洗浄するか、化学的に分離することにより行うことができる。化学的な分離は、例えば、可溶性の水和物を形成させて、溶解させ、ろ過し、洗浄して分離するか、又は不溶性の化合物を形成させて、析出させ、析出物を吸着して分離することにより行うことができる。最終焼成前での粗生成物の微量含有物量の制御は、例えば、異なる組成を有する粗生成物を組み合わせて混合することで、微量含有物が所定の範囲となるように微量元素の量の過不足を調整し、これを最終焼成することにより制御できる。更に、微量含有元素の量を制御するため、いずれの場合も、粗生成物の酸化マグネシウムを製造し、得られた酸化マグネシウムを分析した後、微量含有元素の量に関する個々の結果に応じて、上記の手順を繰り返し・組み合わせることができる。
【0039】
本発明の方向性電磁鋼板は、本発明の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムを用いて表面に被膜を形成させた方向性電磁鋼板であり、例えば、下記のような方法で製造することができる。方向性電磁鋼板用の鋼板は、Siを2.5~4.5%を含有するケイ素鋼スラブを熱間圧延し、酸洗後、冷間圧延を行うか、中間焼鈍をはさむ2回冷間圧延を行って、所定の板厚に調整することによって製造することができる。次に、この鋼板を冷間圧延したコイルに対して、923~1173Kの湿潤水素雰囲気中で、脱炭を兼ねた再結晶焼鈍を行う。このとき鋼板表面にシリカ(SiO2)を主成分とする酸化被膜を形成させる。次に、本発明の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムを含む焼鈍分離剤を水に均一に分散させ、水スラリーを得る。この水スラリーを、表面に酸化被膜を形成した鋼板上に、ロールコーティング又はスプレーを用いて連続的に塗布し、約573Kで乾燥させる。こうして処理された鋼板を、例えば、1473Kで20.0時間の最終仕上げ焼鈍を行って、鋼板表面にフォルステライト被膜(Mg2SiO4被膜)を形成する。フォルステライト被膜は絶縁被膜であるとともに、鋼板表面に張力を付与して、方向性電磁鋼板の鉄損値を向上させることができる。
【実施例】
【0040】
下記の実施例により本発明を詳細に説明するが、これらの実施例は本発明をいかなる意味においても制限するものではない。
【0041】
(1)ホウ素(B)の含有量の測定方法
測定試料を完全に溶解させた後、ICP測定装置(SPS1700HVR セイコーインスツルメンツ株式会社製)を用いて、ホウ素(B)の含有量を測定した。
【0042】
(2)塩素(Cl)の含有量の測定方法
測定試料を、アルミリング35mmφを使用し全圧215kNにて加圧成形し、ケイ光X線分析装置(Simultix12型 株式会社リガク製)を用いて、試料中の塩素(Cl)の含有量を測定した。
【0043】
(3)CAAの測定方法
0.4Nのクエン酸溶液1×10-4m3と指示薬としてフェノールフタレイン液を適量2×10-4m3ビーカーに入れ、液温を303Kに調整し、マグネットスターラーを使用して700rpmで攪拌しながら、クエン酸溶液中に40%の最終反応当量の酸化マグネシウムを投入して、最終反応までの時間、つまりクエン酸が消費され溶液が中性となるまでの時間を測定した。
(4)BET比表面積の測定方法
比表面積測定装置(Macsorb、Mountech Co., Ltd.製)を使用して、窒素ガスを使用したガス吸着法(BET法)によりBET比表面積を測定した。
【0044】
(5)フォルステライト被膜の被膜ムラ及び凝集粒子による欠陥の評価方法
試験試料供試鋼として、方向性電磁鋼板用のケイ素鋼スラブを、公知の方法で熱間圧延、冷間圧延を行って、最終板厚0.35×10-3mとし、更に、窒素25%+水素75%の湿潤雰囲気中で脱炭焼鈍した鋼板を用いた。脱炭焼鈍前の鋼板の組成は、質量%で、C:0.01%、Si:3.29%、Mn:0.09%、Al:0.03%、S:0.07%、N:0.0053%、残部は不可避的な不純物とFeであった。この鋼板上に評価対象の酸化マグネシウムを塗布したのち焼鈍し、鋼板上にフォルステライト被膜を形成させ、この被膜の特性を評価した。具体的には、本発明の酸化マグネシウム又は比較例の酸化マグネシウムをスラリー状にして、乾燥後の重量で14g・m-2になるように鋼板に塗布し、乾燥後、1473Kで20.0時間の最終仕上げ焼鈍を行った。最終仕上げ焼鈍が終了したのち冷却し、鋼板を水洗し、塩酸水溶液で酸洗浄した後、再度水洗して、乾燥させた。被膜のムラ、及び凝集粒子による欠陥は、洗浄後の被膜の外観から判断した。すなわち、灰色のフォルステライト被膜の被膜ムラは、厚く形成されムラが生じていないものを◎、被膜がやや薄く形成されムラが少ないものを○、被膜が薄くムラがやや多いものを△、被膜が非常に薄くムラが非常に多いものを×とした。凝集粒子による欠陥は、凝集粒子が完全に除去され欠陥がないものを◎、凝集粒子が一部残留し、やや欠陥が残っているものを○、凝集粒子が残留し、欠陥が残っているものを△、明らかに凝集体が残留し多くの欠陥が残っているものを×とした。
【0045】
<実施例1>
塩化マグネシウム(試薬特級)を純水に溶解させ0.5×103mol・m-3の塩化マグネシウム水溶液を作製した。次に水酸化カルシウム(試薬特級)を純水に入れ、0.5×103mol・m-3の水酸化カルシウム分散液を作製した。これらの塩化マグネシウム水溶液及び水酸化カルシウム分散液をMgCl2/Ca(OH)2=1.1のモル比で1×10-3m3になるように混合し、混合液を得た。その後、最終的に得られる酸化マグネシウム中のB含有量が約550ppmになるように、純水で0.3×103mol・m-3に調整したホウ酸水溶液を混合液に投入し、4枚ばねの攪拌羽を使用して、300rpmで撹拌しながら363Kにて6.0時間反応させ、水酸化マグネシウムスラリーを得た。その後、平均粒子径が1.5μmの酸化チタンを純水に分散させ、最終的に得られる酸化マグネシウム中のチタンが酸化チタン換算で5.0質量%なるように添加した後、水酸化マグネシウムスラリーをろ過し、得られる水酸化マグネシウムの重量の100倍の重量の純水で洗浄し、378Kで12.0時間乾燥して水酸化マグネシウム粉末を得た。得られた水酸化マグネシウム粉末を、電気炉を用いて、1173Kで1.0時間焼成した。このようにして、添加した酸化チタンをチタン酸マグネシウムとして含有する酸化マグネシウム粉末を得た。このとき、得られた酸化マグネシウム粉末中のチタン酸マグネシウムの含有量は7.28質量%となる。
【0046】
<実施例2>
塩化マグネシウム(試薬特級)を純水に溶解させ0.5×103mol・m-3の塩化マグネシウム水溶液を作製した。次に水酸化カルシウム(試薬特級)を純水に入れ、0.5×103mol・m-3の水酸化カルシウム分散液を作製した。これらの塩化マグネシウム水溶液及び水酸化カルシウム分散液をMgCl2/Ca(OH)2=1.1のモル比で1×10-3m3になるように混合し、混合液を得た。その後、最終的に得られる酸化マグネシウム中のB含有量が約550ppmになるように、純水で0.3×103mol・m-3に調整したホウ酸水溶液を混合液に投入し、4枚ばねの攪拌羽を使用して、300rpmで撹拌しながら303Kにて6.0時間反応させ、水酸化マグネシウムスラリーを得た。その後、平均粒子径が1.5μmの酸化チタンを純水に分散させ、最終的に得られる酸化マグネシウム中のチタンが酸化チタン換算で6.0質量%になるように添加した後、水酸化マグネシウムスラリーをろ過し、得られる水酸化マグネシウムの重量の100倍の重量の純水で洗浄し、378Kで12.0時間乾燥して水酸化マグネシウム粉末を得た。得られた水酸化マグネシウム粉末を、電気炉を用いて、1223Kで0.5時間焼成した。このようにして、添加した酸化チタンをチタン酸マグネシウムとして含有する酸化マグネシウム粉末を得た。このとき、得られた酸化マグネシウム粉末中のチタン酸マグネシウム含有量は9.04質量%となる。
【0047】
<比較例1>
塩化マグネシウム(試薬特級)を純水に溶解させ0.5×103mol・m-3の塩化マグネシウム水溶液を作製した。次に水酸化カルシウム(試薬特級)を純水に入れ、0.5×103mol・m-3の水酸化カルシウム分散液を作製した。これらの塩化マグネシウム水溶液及び水酸化カルシウム分散液をMgCl2/Ca(OH)2=1.1のモル比で1×10-3m3になるように混合し、混合液を得た。その後、最終的に得られる酸化マグネシウム中のB含有量が約550ppmになるように、純水で0.3×103mol・m-3に調整したホウ酸水溶液を混合液に投入し、4枚ばねの攪拌羽を使用して、600rpmで撹拌しながら、363Kにて5.5時間反応させ水酸化マグネシウムスラリーを得た。その後、水酸化マグネシウムスラリーをろ過し、得られる水酸化マグネシウムの重量の100倍の重量の純水で洗浄し、378Kで12.0時間乾燥して水酸化マグネシウム粉末を得た。得られた水酸化マグネシウム粉末を、電気炉を用いて、1173Kで1.0時間焼成した。このようにして、酸化マグネシウムを得た。その後、平均粒子径が1.5μmの酸化チタンを、最終的に得られる酸化マグネシウム中のチタンが酸化チタン換算で5.0質量%になるように添加混合した。このようにして、添加された酸化チタンをそのまま含有する酸化マグネシウム粉末を得た。
【0048】
<結果>
前述の評価方法に従い、得られた酸化マグネシウム粉末を用いて、鋼板表面にフォルステライト被膜を形成させ、フォルステライトの被膜ムラ、及び凝集粒子による欠陥を評価した。表1に、それぞれの酸化マグネシウム粉末について、組成、CAA及びBET比表面積並びに評価結果を示す。
【0049】
【0050】
表1のとおり、所定量のチタン化合物をチタン酸マグネシウムとして含有する酸化マグネシウム(実施例1及び2)を用いて形成したフォルステライト被膜は、被膜のムラ及び凝集粒子による欠陥を有さないかあるいは少ない優れたフォルステライト被膜であった。したがって、本発明の酸化マグネシウムを用いることにより、磁気特性及び絶縁特性に優れた方向性電磁鋼板を製造することができることが明らかとなった。これに対し、チタン化合物をチタン酸マグネシウムでなく、酸化チタンのまま含有する酸化マグネシウム(比較例1)を用いて形成したフォルステライト被膜は、被膜のムラがやや多く、また凝集粒子による欠陥が多くあって、所望の方向性電磁鋼板は得られないことが明らかであった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、磁気特性及び絶縁特性に優れた方向性電磁鋼板を得るための焼鈍分離剤用酸化マグネシウムを提供することができる。