(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-08
(45)【発行日】2023-08-17
(54)【発明の名称】軸梁式台車の異常検知装置
(51)【国際特許分類】
B61K 13/00 20060101AFI20230809BHJP
B61F 5/30 20060101ALI20230809BHJP
B61K 9/02 20060101ALI20230809BHJP
【FI】
B61K13/00 A
B61F5/30 E
B61K9/02
(21)【出願番号】P 2019066236
(22)【出願日】2019-03-29
【審査請求日】2022-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】521475989
【氏名又は名称】川崎車両株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉松 雄太
(72)【発明者】
【氏名】三津江 雅幸
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 恵介
(72)【発明者】
【氏名】川崎 洋行
【審査官】結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-90171(JP,A)
【文献】特開2014-54881(JP,A)
【文献】特開2002-122468(JP,A)
【文献】特開2016-148552(JP,A)
【文献】特開2003-240626(JP,A)
【文献】特開2012-19570(JP,A)
【文献】斉藤憲司,飯島仁,土井賢一,“輪重アンバランス異常検知装置の開発”,第25回鉄道技術連合シンポジウム講演論文集,日本,日本機械学会,2018年12月,pp.1-4,DOI: 10.1299/jsmetld.2018.27.1211,ISSN 2424-3175
【文献】高橋研,岡村吉晃,下村隆行,池田博志,永友貴史,“輪重・横圧を利用した車軸軸受に作用する荷重の推定法”,鉄道総研報告,日本,鉄道総合技術研究所,2011年01月,第25巻第1号,pp.33-36
【文献】佐藤潔,久保木辰夫,“輪重・横圧デジタルデータを活用した鉄道車両の走行安全性計測処理手法”,鉄道総研報告,日本,鉄道総合技術研究所,2015年02月,第29巻第2号,pp.17-22
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61K 13/00, 9/00,
B61F 5/24, 5/30,13/00,
G01M 17/08,
B60L 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両長手方向一方側かつ車幅方向一方側の第1軸梁、車両長手方向一方側かつ車幅方向他方側の第2軸梁、車両長手方向他方側かつ車幅方向一方側の第3軸梁、及び、車両長手方向他方側かつ車幅方向他方側の第4軸梁、を有する、鉄道車両の軸梁式台車の異常を検知する装置であって、
前記第1軸梁の回転角である第1位の回転角、前記第2軸梁の回転角である第2位の回転角、前記第3軸梁の回転角である第3位の回転角、及び、前記第4軸梁の回転角である第4位の回転角を算出する回転角算出部と、
前記回転角算出部で算出された前記
第1位~第4位の回転角に基づいて、前記台車の異常を判定する異常判定部と、を備え
、
前記異常判定部は、
前記第1位の回転角と前記第4位の回転角との差と、前記第2位の回転角と前記第3位の回転角との差との間の差分に対応する値、又は、前記第1位の回転角と前記第4位の回転角との和と、前記第2位の回転角と前記第3位の回転角との和との間の差分に対応する値、をアンバランス度として算出し、
前記アンバランス度が所定の閾値を超えると、輪重バランスに異常があると判定する、軸梁式台車の異常検知装置。
【請求項2】
前記台車が走行する軌道の情報を記憶する軌道情報記憶部と、
前記台車の走行位置を取得する走行位置取得部と、を更に備え、
前記異常判定部は、所定の異常判定規則に基づいて前記台車の異常を判定し、
前記異常判定規則は、前記走行位置取得部によって取得された走行位置が前記軌道における直線を走行中であると判定されたときに用いる第1異常判定規則と、前記走行位置取得部によって取得された走行位置が前記軌道における曲線を走行中であると判定されたときに用いる第2異常判定規則と、を含み、
前記第1異常判定規則と前記第2異常判定規則とは、互いに異なる、請求項1に記載の軸梁式台車の異常検知装置。
【請求項3】
前記回転角算出部で算出された前記第1位~第4位の軸梁の回転角と、前記アンバランス度とを互いに関連付けて記憶する履歴記憶部を更に備える、請求項1又は2に記載の軸梁式台車の異常検知装置。
【請求項4】
鉄道車両の少なくとも1つの軸梁式台車の少なくとも1つの軸梁の回転角を算出する回転角算出部と、
前記回転角算出部で算出された前記回転角に基づいて、前記台車の異常を判定する異常判定部と、を備え、
前記少なくとも1つの軸梁式台車は、前台車及び後台車を含み、
前記異常判定部は、
前記前台車と前記後台車との間の中心間距離を前記鉄道車両の走行速度で割って得られる遅れ時間の分、前記前台車の前記軸梁の回転角の時系列データの時間軸を前記後台車の前記軸梁の回転角の時系列データの時間軸に対して相対的に遅れ側にオフセットし、
前記前台車の前記軸梁の回転角の時系列データと、前記後台車の前記軸梁の回転角の時系列データとの間の差が所定の閾値以上であるとき、前記前台車又は前記後台車の異常を判定する、軸梁式台車の異常検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、軸梁式台車の異常検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両のバネ系の点検は、定期的な目視検査により実施される。定期検査では点検間隔が空いてしまうし、目視検査では作業員の判断に委ねられることになる。そこで、特許文献1では、台車枠に複数の上下方向加速度センサを設置し、それらセンサの検出値に基づいてバネ系の異常を判定することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、加速度センサの場合、台車の軸箱支持系の剛性低下やゴムのへたり等のような事象による異常は加速度への影響が小さくて検知が難しい。また、低速走行時や停車時には加速度が小さい又はゼロとなるため、異常検知自体が困難となる。
【0005】
そこで本開示は、異常原因の種類や走行状態にかかわらず台車の異常を検知できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る軸梁式台車の異常検知装置は、鉄道車両の少なくとも1つの軸梁式台車の少なくとも1つの軸梁の回転角を算出する回転角算出部と、前記回転角算出部で算出された前記回転角に基づいて、前記台車の異常を判定する異常判定部と、を備える。
【0007】
前記構成によれば、軸梁の回転角は、台車の軸箱支持系の剛性低下やゴムのへたり等のような事象により変化し、また、低速走行時や停車時であっても高速走行時と同様に当該事象の影響を受ける。よって、異常原因の種類や走行状態にかかわらず台車の異常を検知できる。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、異常原因の種類や走行状態にかかわらず台車の異常を検知できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図4】
図3に示す台車監視装置のブロック図である。
【
図5】(A)は正常時の回転角の時系列データを示すグラフ、(B)は異常時の回転角の時系列データを示すグラフである。
【
図6】(A)は前台車側の回転角の時系列データを示すグラフと、後台車側の時系列データを示すグラフとの関係を説明する図面、(B)はそれらグラフのオフセット後の各回転角の差を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
【0011】
図1は、実施形態に係る鉄道車両の側面図である。
図1に示すように、鉄道車両1は、レール方向に延びた車体2と、空気バネ(図示せず)を介して車体2を支持する一対の台車3,4と、台車監視装置5とを備える。一対の台車3,4は車両長手方向に離れて配置されており、台車3の中心と台車4の中心との間の距離をLとする。
図1の右側に向けて鉄道車両1が走行する場合には、台車3が前台車、台車4が後台車となり、
図1の左側に向けて鉄道車両1が走行する場合には、台車4が前台車、台車3が後台車となる。
【0012】
図2は、
図1に示す鉄道車両1の台車3の平面図である。
図3は、
図2に示す台車3の側面図である。台車3及び台車4の構成は互いに同じであるので、ここでは台車3について代表して説明する。
図2及び3に示すように、台車3(台車4)は、いわゆる軸梁式台車である。台車3は、台車枠11を備える。台車枠11は、車両長手方向に直交する横方向(幅方向)に延びる横梁11aと、横梁11aの両端部からそれぞれ車両長手方向に延びる一対の側梁11bとを有する。台車3は、台車枠11の車両長手方向の両側に配置され、互いに平行に配置された第1輪軸12及び第2輪軸13を備える。台車3は、第1輪軸12の両端を支持する軸受をそれぞれ収容する第1軸箱14A及び第2軸箱14Bと、第2輪軸13の両端を支持する軸受をそれぞれ収容する第3軸箱14C及び第4軸箱14Dと、を備える。
【0013】
台車1は、一方の側梁11bの一端部と第1軸箱14Aとの間に介設された第1軸バネ15Aと、他方の側梁11bの一端部と第2軸箱14Bとの間に介設された第2軸バネ15Bと、一方の側梁11bの他端部と第3軸箱14Cとの間に介設された第3軸バネ15Cと、他方の側梁11bの他端部と第4軸箱14Dとの間に介設された第4軸バネ15Dとを備える。第1~第4軸バネ15A~Dは、第1~第4軸箱14A~Dと台車枠11との間にそれぞれ配置された一次サスペンションの役目を果たす。第1~第4軸バネ15A~Dは、例えばコイルバネである。
【0014】
台車1は、第1軸箱14Aから一方の側梁11bに向けて突出した第1軸梁16Aと、第3軸箱14Cから一方の側梁11bに向けて突出した第3軸梁16Cとを備える。なお、台車1は、第2軸バネ15B及び第4軸バネ15Dの側において、同様にして第2軸梁16B及び第4軸梁16Dを備える。第1軸梁16Aと第2軸梁16Bとは、互いに車両長手方向位置が同じで、第3軸梁16Cと第4軸梁16Dとは、互いに車両長手方向位置が同じである。第1軸梁16Aと第3軸梁16Cとは、互いに車幅方向位置が同じで、第2軸梁16Bと第4軸梁16Dとは、互いに車幅方向位置が同じである。即ち、第1軸梁16Aと第4軸梁16Dとは、台車中心を基準として互いに対角線上にあり、第2軸梁16Bと第3軸梁16Cとは、台車中心を基準として互いに対角線上にある。
【0015】
第1軸梁16Aの先端部には、一方の側梁11bに接続されて第1軸梁16Aを回転可能に支持する第1心棒17Aが設けられる。第3軸梁16Cの先端部には、一方の側梁11bに接続されて第3軸梁16Cを回転可能に支持する第3心棒17Cが設けられる。なお、図示しないが、台車1は、第2軸バネ15B及び第4軸バネ15Dの側において、同様にして第2心棒及び第4心棒を備える。
【0016】
第1~第4軸梁16A~DCは、第1~第4軸バネ15A~Dの伸縮変化に応じて側梁11bが上下動することで、第1~第4心棒17A,17C周りにそれぞれ回転する。ここで、1つの台車あたりに4つ存在する軸梁について、第1軸梁16Aの回転角θ1を第1位の回転角、第2軸梁16Bの回転角θ2を第2位の回転角、第3軸梁16Cの回転角θ3を第3位の回転角、第4軸梁16Dの回転角θ4を第4位の回転角と称することとする。なお、当該回転角の基準位置(ゼロ点)は、例えば、鉄道車両1を乗客なしの空車状態で停車させたときの回転角とし得る。
【0017】
台車枠11には、第1~第4センサ18A~D(
図4も参照)が設けられている。第1~第4センサ18A~Dは、第1~第4軸梁16A,16Cがそれぞれ第1~第4心棒17A,17C周りに回転する際の回転角θ1~θ4に相当する物理量をそれぞれ検出可能なセンサである。例えば、第1~第4センサ18A~Dは、第1~第4軸梁16A~Dの一部である被検出部16Aa,16Caの変位を検出するレーザーセンサ又は磁気センサとして、当該変位を回転角に換算する構成とし得る。或いは、第1~第4センサ18A~Dは、第1~第4軸梁16A~Dがそれぞれ第1~第4心棒17A,17C周りに回転する際の回転角自体を検出するロータリーエンコーダであってもよい。第1~第4センサ18A~Dは、車体2に搭載された台車監視装置10に通信可能に接続されている。
【0018】
図4は、
図3に示す台車監視装置10のブロック図である。
図4に示すように、台車監視装置10は、ハードウェア面において、プロセッサ、揮発性メモリ、不揮発性メモリ及びI/Oインターフェース等を有する。台車監視装置10は、機能面において、相関関係記憶部21、回転角算出部22、走行位置取得部23、軌道情報記憶部24、規則記憶部25、輪重算出部26、異常判定部27、履歴記憶部28及び出力部29を有する。相関関係記憶部21、軌道情報記憶部24、規則記憶部25及び履歴記憶部28は、不揮発性メモリ等により実現される。回転角算出部22、走行位置取得部23、輪重算出部26及び異常判定部27は、不揮発性メモリ等に保存されたプログラムに基づいてプロセッサが揮発性メモリを用いて演算処理することで実現される。出力部29は、I/Oインターフェース等により実現される。台車監視装置10は、輪重計測装置と異常検知装置とを兼ねている。
【0019】
相関関係記憶部21は、第1~第4軸梁16A~Dの回転角θ1~θ4と、第1~第4軸梁16A~Dの夫々に対応する車輪の輪重との間の相関関係を記憶している。軸梁の回転角と当該軸梁に対応する車輪の輪重とは、互いに比例関係にあるため、事前の実験又はシミュレーションによって当該相関関係を予め導出しておき、その導出された相関関係を相関関係記憶部21に事前に記憶させている。回転角算出部22は、第1~第4センサ18A~Dの検出信号を受信し、その検出信号から対応する軸梁の回転角θ1~θ4を算出する。
【0020】
平坦かつ直線の軌道における回転角θ1~θ4と輪重との間の相関関係は、非平坦及び/又は曲線の軌道における回転角θ1~θ4と輪重との間の相関関係と異なり得る。即ち、軌道の曲線区間におけるカントや軌道の起伏等の存在する箇所を走行する際には、平坦かつ直線の軌道を走行する際と比べて回転角θ1~θ4と輪重との間の相関関係が変化し得る。そこで、相関関係記憶部21は、後述の軌道情報記憶部24に記憶された軌道情報に関連付けて当該相関関係を記憶している。即ち、相関関係記憶部21に記憶された相関関係は、軌道上の位置(即ち、軌道のカントや起伏)に応じて変化している。これも、事前の実験又はシミュレーションによって予め導出される。
【0021】
走行位置取得部23は、GPSセンサ19の検出信号を受信することで、自車(鉄道車両1)の現在位置を走行位置として取得する。なお、走行位置取得部23は、車輪回転数センサで検出された車輪回転数の積算により走行距離を車両位置情報として算出し、その走行距離から後述の軌道情報記憶部24の軌道情報に基づいて軌道上における現在の走行位置を取得する構成としてもよい。軌道情報記憶部24は、いわゆるキロ程マップを軌道情報として事前に記憶しており、当該軌道情報は軌道上における曲線区間の場所及びそのカントや軌道の起伏等の情報を含んでいる。
【0022】
輪重算出部26は、相関関係記憶部21に記憶された軸梁の回転角と輪重との間の相関関係に基づいて、回転角取得部22で取得された回転角θ1~θ4の各々を輪重に変換する。このように、軸梁の回転角θ1~θ4から輪重を求めるため、輪軸12,13の加工を要さず、試験車ではなく営業車においても走行中に輪重を常時計測することができ、車両や軌道の経年変化を考慮して走行安全性を好適に評価できる。
【0023】
また、軌道が平坦な直線状でないときには、その軌道の起伏やカント等に応じて軸梁の回転角も変動することになるが、相関関係記憶部21に記憶された相関関係は軌道情報に関連付けられ、軌道上の位置に応じて変化している。そのため、輪重算出部26は、走行位置取得部23によって取得された走行位置に応じた相関関係に基づいて、回転角算出部22で算出された回転角θ1~θ4の各々から輪重を求めることで、軌道の起伏やカントが生じても輪重を正確に計測できる。即ち、軌道の変化に応じて軸梁の回転角と輪重との間の相関関係を変化させることで、軌道の変化を踏まえた正確な輪重計測が行われる。
【0024】
輪重算出部26で算出された各車輪の輪重は、異常判定部27に送信して異常判定をしてもよいし、出力部29から車載装置(例えば、運転台)又は車外装置(例えば、サーバ)に送信されてもよいし、当該輪重の発生地点(走行位置)の情報とともに履歴記憶部28にログとして記録してもよい。車両走行中に輪重算出部26で算出された輪重の異常が判定された場合には、出力部29が車両を減速又は制動させるための制御信号を送信してもよい。
【0025】
規則記憶部25は、後述の異常判定部27が異常判定を行うために参照する異常判定規則(アルゴリズム)を記憶している。例えば、異常判定規則は、回転角θ1~θ4の少なくとも1つが正常値から所定の許容範囲を超えて乖離すると、異常が発生したと判定する規則でもよい。また、異常判定規則は、回転角θ1~θ4のうち最大の回転角と、回転角θ1~θ4の最小の回転角との間の差が所定の閾値を超えると、異常が発生したと判定する規則でもよい。また、異常判定規則は、回転角θ1~θ4のバラツキ傾向が、所定の異常傾向に近似していると判断されると、異常が発生したと判定する規則でもよい。
【0026】
異常判定部27は、回転角取得部22で取得された回転角θ1~θ4を参照し、規則記憶部25に記憶された異常判定規則に基づいて台車の異常を判定する。軸梁の回転角θ1~θ4は、台車の軸箱支持系(例えば、第1~第4軸バネ15A~D)の剛性低下や、台車枠11と第1~第4軸箱14A~Dとの間に設けられたゴムのへたり等のような事象により変化し、低速走行時や停車時であっても高速走行時と同様に当該事象の影響を受ける。よって、軸梁の回転角θ1~θ4を参照することで、異常原因の種類や走行状態にかかわらず台車の異常を検知できる。
【0027】
また、軌道が平坦な直線状でないときには、台車に異常がなくても、軌道の起伏やカント等に応じて軸梁の回転角も変動することになる。そのため、規則記憶部25に記憶される異常判定規則は、走行位置取得部23によって取得された走行位置が軌道の直線区間にあると判定されたときに用いる第1異常判定規則と、走行位置取得部23によって取得された走行位置が軌道の曲線区間にあると判定されたときに用いられて第1異常判定規則とは異なる第2異常判定規則と、を含む。
【0028】
例えば、第1異常判定規則は、直線走行時の各回転角θ1~θ4の予め特定された正常値からの偏差を閾値と対比し、第2異常判定規則は、曲線走行時の各回転角θ1~θ4の予め特定された正常値からの偏差を閾値と対比し、回転角θ1~θ4の正常値を直線区間と曲線区間とで互いに異ならせた構成としてもよい。このようにすれば、曲線走行時には台車が正常であってもカントや遠心力の影響で軸梁の回転角θ1~θ4が大きく変化しても、曲線走行時と直線走行時とで同じ異常判定規則を用いる場合に比べ、異常判定の精度を向上させることができる。
【0029】
図5(A)は正常時の回転角の時系列データを示すグラフ、
図5(B)は異常時の回転角の時系列データを示すグラフである。
図5(A)に示すように、台車の正常時において、第1位の回転角θ1と第3位の回転角θ3とは互いに略同じ傾向を示し、第2位の回転角θ2と第4位の回転角θ4とは互いに略同じ傾向を示す。具体的には、台車の正常時において、左曲線では第1位及び第3位の回転角θ1,θ3が増加して第2位及び第4位の回転角θ2,θ4が減少し、右曲線では第1位及び第3位の回転角θ1,θ3が減少して第2位及び第4位の回転角θ2,θ4が増加する。即ち、異常判定規則に用いられる回転角θ1~θ4の正常値は、軌道の位置によって変化する。
【0030】
図5(B)に示すように、台車の異常時には、回転角θ1~θ4の少なくとも1つの値が、
図5(A)に示された正常値から乖離する。
図5(B)の例では、異常判定部27は、回転角θ1~θ4の少なくとも1つ(回転角θ1~θ4の全て)が正常値から所定の許容範囲を超えて乖離しており、異常発生と判定する。また、異常判定部27は、回転角θ1~θ4のうち最大の回転角θ1と、回転角θ1~θ4の最小の回転角θ4との間の差が所定の閾値を超えており、その観点からも異常発生と判定する。また、異常判定部27は、回転角θ1~θ4同士の差のパターンから、予め記憶された異常パターン情報に基づいて異常発生箇所を特定してもよい。
【0031】
図6(A)は前台車3側の回転角の時系列データを示すグラフと、後台車4側の時系列データを示すグラフとの関係を説明する図面であり、
図6(B)は、それらグラフのオフセット後の各回転角の差を示すグラフである。
図6(A)では、
図1に示す鉄道車両1の
図1の右側に進行すると仮定し、台車3を前台車として台車4を後台車とする。また、
図6(A)のグラフは、前台車と後台車とで台車中における同じ位置の軸梁回転角(例えば、第1位の回転角θ1)を参照しているものとする。
【0032】
図6(A)に示すように、軌道の状態変化(カントや起伏)による軸梁回転角の変化は、前台車3側の軸梁回転角に現れた後に遅れて後台車4側の軸梁回転角に現れるので、後台車4側の軸梁回転角に変化が生じる時刻t
2は、前台車3側の軸梁回転角に変化が生じる時刻t
1から遅れることとなる。その遅れ時間Δt(=t
2-t
1)は、前台車3の中心と後台車4の中心との間の距離L(
図1参照)を鉄道車両1の走行速度で割って得られる。
【0033】
そこで、異常判定部27は、後台車4側の軸梁回転角の時系列データの時間軸を遅れ時間Δtの分だけ早めるようにオフセットし、前台車3側の軸梁回転角の時系列データと後台車4側の軸梁回転角の時系列データとの間の差を求める。これにより、前台車3側の軸梁回転角と後台車4側の軸梁回転角とを比較するにあたり、軌道の状態(カントや起伏)に起因する変動が相殺により除去され、前台車3と後台車4との間の構造的なズレに起因した軸梁回転角の変化のみが抽出される。
【0034】
そして、
図6(B)に示すように、異常判定部27は、前台車3側の軸梁回転角の時系列データと後台車4側の軸梁回転角の時系列データとの間の差が所定の閾値Δθ
thを超えるとき、前台車3又は後台車4に異常があると判定する。これにより、軌道外乱による変動成分を相殺により除去した状態で前後の台車3,4の回転角を比較評価でき、異常判定の精度を簡易に向上させることができる。
【0035】
また、異常判定部27は、第1位~第4位の回転角θ1~θ4のアンバランス度DFが所定の閾値を超えると、輪重バランスに異常があると判定する。例えば、アンバランス度DF(%)は、以下の数式1で算出することができ
【0036】
【数1】
なお、数式中の「Ave.(θ1,θ2,θ3,θ4)」は、第1~第4位の各回転角θ1,θ2,θ3,θ4の平均値を意味する。また、アンバランス度DFを算出する式は数式1に限られず、例えば、以下の数式2で算出してもよい。
【0037】
【数2】
即ち、アンバランス度DFは、第1位の軸梁回転角θ1と第4位の軸梁回転角θ4との差(又は和)と、第2位の軸梁回転角θ2と第3位の軸梁回転角θ3との差(又は和)との間の差分に対応する値とすることができ、当該差分を各回転角θ1~θ4の平均値で除算した値をアンバランス度DFとすると好適である。
【0038】
例えば、異常判定部27は、数式1又は2で算出されたアンバランス度DF(%)が、例えば10~30%の範囲から選ばれる閾値を超えると、輪重バランスに異常があると判定してもよい。
【0039】
異常判定部27で判定された異常は、各軸梁の回転角とアンバランス度とを互いに関連付けた履歴として、履歴記憶部28にログとして記録されてもよいし、出力部29から車載装置(例えば、運転台)又は車外装置(例えば、サーバ)に送信されてもよい。即ち、履歴記憶部28は、台車監視装置に設けられてもよいし、車外のサーバに設けられてもよい。各軸梁の回転角とアンバランス度とを互いに関連付けて履歴として記憶しておくことで、前回保守時の履歴を参照して今回保守時の輪重調整に活かすことができる。
【0040】
以上に説明した構成によれば、台車の軸箱支持系の剛性低下やゴムのへたり等のような事象により変化し、低速走行時や停車時であっても高速走行時と同様に当該事象の影響を受ける回転角θ1~θ4に基づいて、台車の異常を判定するので、異常原因の種類や走行状態にかかわらず台車の異常を検知することができる。
【0041】
また、直線走行中であると判定されたときに用いる第1異常判定規則と、曲線走行中であると判定されたときに用いる第2異常判定規則とは、互いに異なるので、曲線走行時にカントや遠心力の影響で軸梁の回転角が大きく変化しても、曲線走行時と直線走行時とで同じ異常判定規則を用いる場合に比べ、異常判定の精度を向上させることができる。
【0042】
また、前台車3の軸梁回転角θ1~θ4の時系列データと、後台車4の軸梁回転角θ1~θ4の時系列データとの間の比較にあたり、オフセットにより軌道外乱による変動成分を相殺により除去した状態で回転角θ1~θ4を評価するので、異常判定の精度を簡単に向上させることができる。
【0043】
また、異常判定部27は、4つの軸梁16A~Dの回転角θ1~θ4のアンバランス度DFが所定の閾値を超えると、輪重バランスに異常があると判定するので、1つの台車内の4つの軸梁16A~Dの回転角θ1~θ4のアンバランスを検出することで、台車の異常を判定することができる。
【0044】
また、履歴記憶部28が、4つの軸梁16A~Dの回転角θ1~θ4と、アンバランス度DFとを互いに関連付けて記憶するので、前回保守時の履歴を参照して今回保守時の輪重調整に活かすことができる。
【0045】
また、軸梁回転角θ1~θ4と輪重との間の相関関係に基づいて、回転角θ1~θ4を輪重に変換するので、輪軸12,13の加工を要さず、営業車においても使用することができる。よって、車両や軌道の経年変化を考慮して鉄道車両の走行安全性を評価すべく、営業車において走行中に輪重を計測することができる。
【0046】
また、輪重算出部26は、走行位置に応じた前記相関関係に基づいて、回転角θ1~θ4を輪重に変換するので、軌道の起伏やカントが生じても輪重を正確に計測できる。例えば、軌道が平坦な直線状でないときには、その軌道の起伏やカント等に応じて軸梁の回転角も変動することになる。しかし、軌道の変化に応じて軸梁の回転角と輪重との間の相関関係を変化させることで、軌道の変化を踏まえた正確な輪重計測を行える。
【符号の説明】
【0047】
1 鉄道車両
3,4 軸梁式台車
10 台車監視装置(異常検出装置、輪重計測装置)
16A~D 軸梁
21 相関関係記憶部
22 回転角算出部
23 走行位置取得部
24 軌道情報記憶部
26 輪重算出部
27 異常判定部
28 履歴記憶部
θ1~θ4 回転角