IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日東電工株式会社の特許一覧

特許7328807ダイシングテープ、及び、ダイシングダイボンドフィルム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-08
(45)【発行日】2023-08-17
(54)【発明の名称】ダイシングテープ、及び、ダイシングダイボンドフィルム
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20230809BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20230809BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20230809BHJP
   C09J 7/40 20180101ALI20230809BHJP
【FI】
H01L21/78 M
C09J7/38
C09J201/00
C09J7/40
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019118614
(22)【出願日】2019-06-26
(65)【公開番号】P2021005623
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2022-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】宍戸 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】杉村 敏正
(72)【発明者】
【氏名】畠山 義治
(72)【発明者】
【氏名】吉田 直子
(72)【発明者】
【氏名】木村 雄大
【審査官】渡井 高広
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-185591(JP,A)
【文献】特開2017-183705(JP,A)
【文献】国際公開第2013/005470(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/151913(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/055803(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0010371(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
C09J 7/38
C09J 201/00
C09J 7/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動的粘弾性測定によって測定される貯蔵弾性率E’と損失弾性率E”との比(E”/E’)であるTanδについて、
-5℃におけるTanδの値(B)に対する、-15℃におけるTanδの値(A)の比(A/B)が0.75以上2.00以下であり、
前記-15℃におけるTanδの値(A)及び前記-5℃におけるTanδの値(B)が、いずれも0.05以上0.50以下である、ダイシングテープ。
【請求項2】
-15℃における25%引張時の強度が15[N/20mm]以上である、請求項1記載のダイシングテープ。
【請求項3】
基材層と、該基材層よりも粘着性が高い粘着剤層とを備え、
前記基材層の厚さが80μm以上150μm以下である、請求項1又は2に記載のダイシングテープ。
【請求項4】
前記粘着剤層の厚さが、5μm以上40μm以下である、請求項3に記載のダイシングテープ。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のダイシングテープと、該ダイシングテープに貼り合わされたダイボンド層とを備える、ダイシングダイボンドフィルム。
【請求項6】
前記ダイボンド層の厚さが50μm以上135μm以下である、請求項5に記載のダイシングダイボンドフィルム。
【請求項7】
0℃以下において前記ダイボンド層にウエハが接着された状態で延伸されるクールエキスパンド工程において使用され、
前記クールエキスパンド工程では、前記ウエハが前記ダイボンド層とともに割断される、請求項5又は6に記載のダイシングダイボンドフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体集積回路を製造するときに使用されるダイシングテープ、及び、該ダイシングテープを備えたダイシングダイボンドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体集積回路の製造において使用されるダイシングダイボンドフィルムが知られている。この種のダイシングダイボンドフィルムは、例えば、ダイシングテープと、該ダイシングテープに積層され且つウエハに接着されるダイボンド層と、を備える。ダイシングテープは、基材層と、ダイボンド層に接している粘着層とを有する。この種のダイシングダイボンドフィルムは、半導体集積回路の製造において、例えば下記のように使用される。
【0003】
半導体集積回路を製造する方法は、一般的に、高集積の電子回路によってウエハの片面側に回路面を形成する前工程と、回路面が形成されたウエハからチップを切り出して組立てを行う後工程とを備える。
後工程は、例えば、ウエハの回路面とは反対側の面をダイボンド層に貼り付けて、ダイシングテープにウエハを固定するマウント工程と、ダイボンド層を介してダイシングテープに貼り付けられたウエハを小さいチップ(ダイ)へ割断して小片化するダイシング工程と、小片化されたチップ同士の間隔を広げるエキスパンド工程と、ダイボンド層と粘着剤層との間で剥離してダイボンド層が貼り付いた状態のチップ(ダイ)を取り出すピックアップ工程と、ダイボンド層が貼り付いた状態のチップ(ダイ)を被着体に接着させるダイボンド工程と、を有する。半導体集積回路は、これらの工程を経て製造される。
【0004】
上記の製造方法において、エキスパンド工程では、ダイシングテープに重なったダイボンド層の上にウエハが配置された状態で、例えば0℃以下の低温条件下において、ダイシングテープを放射方向に引き延ばすことによって、ウエハをダイボンド層とともに割断して小片化する。ところが、引き延ばしに伴ってダイシングテープが裂ける場合がある。ダイシングテープが裂けると、割断が不良となり、続くピックアップ工程に支障が生じることとなる。このような問題を防ぐべく、ダイシングテープには、低温でのエキスパンド工程における裂けを抑制する性能が要望されている。
【0005】
エキスパンド工程における問題について対策された従来のダイシングテープとしては、例えば、周波数10Hzの条件で測定される25℃における貯蔵弾性率E’が3~5GPaであるものが知られている(特許文献1)。
特許文献1に記載のダイシングテープでは、常温でのエキスパンド工程及びその後において、ダイボンド層と粘着剤層との間で生じる浮きが抑制されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-195746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、低温でのエキスパンド工程において裂けることが抑制されたダイシングダイボンドフィルムやダイシングテープについては、未だ十分に検討されているとはいえない。
【0008】
そこで、本発明は、低温でのエキスパンド工程において裂けることが抑制されたダイシングテープ、及び、ダイシングダイボンドフィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、本発明に係るダイシングテープでは、動的粘弾性測定によって測定される貯蔵弾性率E’と損失弾性率E”との比(E”/E’)であるTanδについて、-5℃におけるTanδの値(B)に対する、-15℃におけるTanδの値(A)の比(A/B)が0.75以上であることを特徴とする。
上記構成のダイシングテープによれば、低温でのエキスパンド工程において裂けることが抑制されている。
【0010】
上記のダイシングテープでは、-15℃における25%引張時の強度が15[N/20mm]以上であることが好ましい。これにより、低温でのエキスパンド工程におけるウエハの割断性を良好にすることができる。
【0011】
上記のダイシングテープは、基材層と、該基材層よりも粘着性が高い粘着剤層とを備え、前記基材層の厚さが80μm以上150μm以下であることが好ましい。これにより、低温でのエキスパンド工程において裂けることをより抑制できる。
【0012】
上記のダイシングテープは、前記粘着剤層の厚さが、5μm以上40μm以下であることが好ましい。これにより、低温でのエキスパンド工程において裂けることをより抑制できる。
【0013】
本発明に係るダイシングダイボンドフィルムは、上記のダイシングテープと、該ダイシングテープに貼り合わされたダイボンド層とを備える。
【0014】
上記のダイシングダイボンドフィルムでは、ダイボンド層の厚さが50μm以上135μm以下であってもよい。このような比較的厚いダイボンド層を備えたダイシングダイボンドフィルムであっても、低温でのエキスパンド工程において、ダイシングテープが裂けることを抑制できる。
【0015】
上記のダイシングダイボンドフィルムは、好ましくは、0℃以下において前記ダイボンド層にウエハが接着された状態で延伸されるクールエキスパンド工程において使用され、前記クールエキスパンド工程では、前記ウエハが前記ダイボンド層とともに割断される。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るダイシングテープ及びダイシングダイボンドフィルムは、低温でのエキスパンド工程において裂けることをより抑制できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態のダイシングダイボンドフィルムを厚さ方向に切断した断面図。
図2A】半導体集積回路の製造方法におけるハーフカット加工の様子を模式的に表す断面図。
図2B】半導体集積回路の製造方法におけるハーフカット加工の様子を模式的に表す断面図。
図2C】半導体集積回路の製造方法におけるハーフカット加工の様子を模式的に表す断面図。
図2D】半導体集積回路の製造方法におけるハーフカット加工の様子を模式的に表す断面図。
図3A】半導体集積回路の製造方法におけるマウント工程の様子を模式的に表す断面図。
図3B】半導体集積回路の製造方法におけるマウント工程の様子を模式的に表す断面図。
図4A】半導体集積回路の製造方法における低温でのエキスパンド工程の様子を模式的に表す断面図。
図4B】半導体集積回路の製造方法における低温でのエキスパンド工程の様子を模式的に表す断面図。
図4C】半導体集積回路の製造方法における低温でのエキスパンド工程の様子を模式的に表す断面図。
図5A】半導体集積回路の製造方法における常温でのエキスパンド工程の様子を模式的に表す断面図。
図5B】半導体集積回路の製造方法における常温でのエキスパンド工程の様子を模式的に表す断面図。
図6】半導体集積回路の製造方法におけるピックアップ工程の様子を模式的に表す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るダイシングダイボンドフィルム、及び、ダイシングテープの一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0019】
本実施形態のダイシングダイボンドフィルム1は、ダイシングテープ20と、該ダイシングテープ20の粘着剤層22に積層され且つ半導体ウエハに接着されるダイボンド層10とを備える。
【0020】
本実施形態のダイシングテープ20は、通常、長尺シートであり、使用されるまで巻回された状態で保管される。本実施形態のダイシングダイボンドフィルム1は、割断処理されるシリコンウエハよりも、ひと回り大きい内径を有する円環状の枠に張られ、カットされて使用される。
【0021】
本実施形態のダイシングテープ20は、基材層21と、該基材層21に重なった粘着剤層22とを備える。
【0022】
本実施形態のダイシングテープ20では、動的粘弾性測定によって測定される貯蔵弾性率E’と損失弾性率E”との比(E”/E’)であるTanδについて、-5℃におけるTanδの値(B)に対する、-15℃におけるTanδの値(A)の比(A/B)が0.75以上である。
本実施形態のダイシングテープ20は、上記の構成を有することから、低温でのエキスパンド工程(後に詳述)において裂けることが抑制されている。低温とは、通常、0℃以下の温度である。
ダイシングテープ20についての動的粘弾性測定は、実施例に記載された方法に従って実施される。3回行った測定結果の平均値から、上記の各Tanδを求める。
なお、上記の比(A/B)は、2.00以下であってもよい。
【0023】
上記の比(A/B)は、例えば、-15℃におけるTanδの値(A)を大きくすることによって、大きくすることができる。
例えば、ガラス転移温度(Tg)がより-15℃に近い材料をダイシングテープ20に配合したり、その材料の配合量を増やしたりすることによって、-15℃におけるTanδの値(A)を大きくすることができる。
一方、上記の比(E”/E’)は、例えば、-5℃におけるTanδの値(B)を大きくすることによって、小さくすることができる。
例えば、ガラス転移温度(Tg)がより-5℃から遠い材料をダイシングテープ20に配合したり、その材料の配合量を増やしたりすることによって、-5℃におけるTanδの値(B)を大きくすることができる。
【0024】
-15℃におけるTanδの値(A)は、0.05以上であることが好ましく、0.07以上であることがより好ましく、0.10以上であることがさらに好ましい。Tanδの値(A)が0.05以上であることよって、-15℃で引っ張られたときのダイシングテープ20の緩和性がより大きくなるという利点がある。
-15℃におけるTanδの値(A)は、0.50以下であることが好ましく、0.40以下であることがより好ましく、0.30以下であることがさらに好ましい。Tanδの値(A)が0.50以下であることよって、-15℃で引っ張られたときの応力をダイボンド層10へより効率的に伝達できるという利点がある。
-5℃におけるTanδの値(B)は、0.05以上であることが好ましく、0.09以上であることがより好ましく、0.11以上であることがさらに好ましい。Tanδの値(B)が0.05以上であることよって、-5℃で引っ張られたときのダイシングテープ20の緩和性がより大きくなるという利点がある。
-5℃におけるTanδの値(B)は、0.50以下であることが好ましく、0.40以下であることがより好ましく、0.27以下であることがさらに好ましい。Tanδの値(B)が0.50以下であることよって、-5℃で引っ張られたときの応力をダイボンド層10へより効率的に伝達できるという利点がある。
【0025】
ダイシングテープ20では、-15℃における25%引張時の強度が15[N/20mm]以上であることが好ましい。これにより、低温でのエキスパンド工程におけるウエハの割断性を良好にすることができる。
-15℃における25%引張時の強度は、30[N/20mm]以下であってもよい。
上記の25%引張時の強度は、実施例に記載された方法に従って測定された値である。なお、3回行った測定結果の平均値から、上記強度の値を求める。
【0026】
上記の25%引張時の強度は、例えば、ダイシングテープ20を構成する樹脂としてより硬質な樹脂を選択したり、基材層21の厚さをより厚くしたりすることによって、高めることができる。一方、上記の25%引張時の強度は、例えば、ダイシングテープ20を構成する樹脂としてより軟質な樹脂を選択したり、基材層21の厚さをより薄くしたりすることによって、低下させることができる。
【0027】
基材層21は、単層構造であってもよく、積層構造を有してもよい。
基材層21の各層は、例えば、金属箔、紙や布などの繊維シート、ゴムシート、樹脂フィルムなどである。
基材層21を構成する繊維シートとしては、紙、織布、不織布などが挙げられる。
樹脂フィルムの材質としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン-プロピレン共重合体等のポリオレフィン;エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、アイオノマー樹脂、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル(ランダム、交互)共重合体等のエチレンの共重合体;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル;ポリアクリレート;ポリ塩化ビニル(PVC);ポリウレタン;ポリカーボネート;ポリフェニレンスルフィド(PPS);脂肪族ポリアミド、全芳香族ポリアミド(アラミド)等のポリアミド;ポリエーテルエーテルケトン(PEEK);ポリイミド;ポリエーテルイミド;ポリ塩化ビニリデン;ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体);セルロース又はセルロース誘導体;含シリコーン高分子;含フッ素高分子などが挙げられる。これらは、1種が単独で又は2種以上が組み合わされて使用され得る。
【0028】
基材層21が樹脂フィルムを有する場合、樹脂フィルムが延伸処理等を施され、伸び率などの変形性が制御されていてもよい。
基材層21の表面には、粘着剤層22との密着性を高めるために、表面処理が施されていてもよい。表面処理としては、例えば、クロム酸処理、オゾン暴露、火炎暴露、高圧電撃暴露、イオン化放射線処理等の化学的方法又は物理的方法による酸化処理等が採用され得る。また、アンカーコーティング剤、プライマー、接着剤等のコーティング剤によるコーティング処理が施されていてもよい。
【0029】
基材層21は、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)樹脂、α-オレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂、エチレン-メチルアクリレート共重合体(EMA)樹脂、及び、アイオノマー樹脂(IO)から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。α-オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、α-オレフィンのホモポリマー、2種類以上のα-オレフィンのコポリマーなどが挙げられる。
基材層21は、上記の樹脂の複数種の混合物(ブレンド)を含んでもよい。例えば、基材層21は、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)とアイオノマー樹脂(IO)との混合物を含んでもよく、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)とポリプロピレン系エラストマー樹脂との混合物を含んでもよい。この種の混合物において、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)の占める割合は、60質量%以上80質量%以下であってもよい。
エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)は、酢酸ビニルの構成単位を10質量%以上30質量%以下含んでもよい。
【0030】
基材層21の厚さは、80μm以上150μm以下であることが好ましい。斯かる値は、ランダムに選んだ少なくとも3箇所における測定値の平均値である。以下、粘着剤層22の厚さについても、同様である。
【0031】
基材層21の背面側(粘着剤層22が重なっていない側)には、剥離性を付与するために、例えば、シリコーン系樹脂やフッ素系樹脂等の離型剤(剥離剤)などによって離型処理が施されていてもよい。
基材層21は、背面側から紫外線等の活性エネルギー線を粘着剤層22へ与えることが可能となる点で、光透過性(紫外線透過性)の樹脂フィルム等であることが好ましい。
【0032】
本実施形態のダイシングテープ20は、使用される前の状態において、粘着剤層22の一方の面(粘着剤層22が基材層21と重なっていない面)を覆う剥離シートを備えてもよい。粘着剤層22よりも小さい面積のダイボンド層10が、粘着剤層22に収まるように配置されている場合、剥離シートは、粘着剤層22及びダイボンド層10の両方を覆うように配置される。剥離シートは、粘着剤層22を保護するために用いられ、粘着剤層22にダイボンド層10を貼り付ける前に剥がされる。
【0033】
剥離シートとしては、例えば、シリコーン系、長鎖アルキル系、フッ素系、硫化モリブデン等の剥離剤によって表面処理された、プラスチックフィルム又は紙等を用いることができる。
また、剥離シートとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、クロロフルオロエチレン・フッ化ビニリデン共重合体等のフッ素系ポリマー製のフィルム;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン製のフィルム;ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル製のフィルムなどを用いることができる。
また、剥離シートとしては、例えば、フッ素系剥離剤や長鎖アルキルアクリレート系剥離剤等の剥離剤によって表面コートされた、プラスチックフィルム又は紙類などを用いることができる。
なお、剥離シートは、粘着剤層22を支持するための支持材として利用できる。特に、剥離シートは、基材層21のうえに粘着剤層22を重ねるときに、好適に使用される。詳しくは、剥離シートと粘着剤層22とが積層された状態で粘着剤層22を基材層21に重ね、重ねた後に剥離シートを剥がす(転写する)ことによって、基材層21のうえに粘着剤層22を重ねることができる。
【0034】
本実施形態において、粘着剤層22は、例えば、アクリルポリマーと、イソシアネート化合物と、重合開始剤とを含む。
粘着剤層22は、好ましくは、5μm以上40μm以下の厚さを有する。粘着剤層22の形状および大きさは、通常、基材層21の形状および大きさと同じである。
【0035】
本実施形態のダイシングテープ20において、ダイシングテープ20の総厚さに対して、粘着剤層22の厚さが占める割合は、5%以上30%以下であってもよい。
【0036】
上記のアクリルポリマーは、分子中に、アルキル(メタ)アクリレートの構成単位と、水酸基含有(メタ)アクリレートの構成単位と、重合性基含有(メタ)アクリレートの構成単位と、を少なくとも有する。構成単位は、アクリルポリマーの主鎖を構成する単位である。上記のアクリルポリマーにおける各側鎖は、主鎖を構成する各構成単位に含まれる。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」との表記は、メタクリレート(メタクリル酸エステル)及びアクリレート(アクリル酸エステル)のうちの少なくとも一方を表す。同様に、「(メタ)アクリル酸」との表記は、メタクリル酸及びアクリル酸のうちの少なくとも一方を表す。
【0037】
粘着剤層22に含まれるアクリルポリマーにおいて、上記の構成単位は、H-NMR、13C-NMRなどのNMR分析、熱分解GC/MS分析、及び、赤外分光法などによって確認できる。なお、アクリルポリマーにおける上記の構成単位のモル割合は、通常、アクリルポリマーを重合するときの配合量(仕込量)から算出される。
【0038】
上記のアルキル(メタ)アクリレートの構成単位は、アルキル(メタ)アクリレートモノマーに由来する。換言すると、アルキル(メタ)アクリレートモノマーが重合反応したあとの分子構造が、アルキル(メタ)アクリレートの構成単位である。「アルキル」という表記は、(メタ)アクリル酸に対してエステル結合した炭化水素部分の炭素数を表す。
アルキル(メタ)アクリレートの構成単位におけるアルキル部分の炭化水素部分は、飽和炭化水素であってもよく、不飽和炭化水素であってもよい。
なお、アルキル部分は、酸素(O)や窒素(N)などを含有する極性基を含まないことが好ましい。これにより、アルキルポリマーの極性が極端に高まることを抑制できる。従って、粘着剤層22が、ダイボンド層10に対して過度の親和性を有することが抑えられる。よって、ダイボンド層10からダイシングテープ20を、より良好に剥離することができる。アルキル部分の炭素数は、6以上10以下であってもよい。
【0039】
アルキル(メタ)アクリレートの構成単位としては、例えば、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレートなどの各構成単位が挙げられる。
【0040】
アクリルポリマーは、水酸基含有(メタ)アクリレートの構成単位を有し、斯かる構成単位の水酸基が、イソシアネート基と容易に反応する。
水酸基含有(メタ)アクリレートの構成単位を有するアクリルポリマーと、イソシアネート化合物とを粘着剤層22に共存させておくことによって、粘着層を適度に硬化させることができる。そのため、アクリルポリマーが十分にゲル化できる。よって、粘着剤層22は、形状を維持しつつ粘着性能を発揮できる。
【0041】
水酸基含有(メタ)アクリレートの構成単位は、水酸基含有C2~C4アルキル(メタ)アクリレートの構成単位であることが好ましい。「C2~C4アルキル」という表記は、(メタ)アクリル酸に対してエステル結合した炭化水素部分の炭素数を表す。換言すると、水酸基含有C2~C4アルキル(メタ)アクリレートモノマーは、(メタ)アクリル酸と、炭素数2~4のアルコール(通常、2価アルコール)とがエステル結合したモノマーを示す。
C2~C4アルキルの炭化水素部分は、通常、飽和炭化水素である。例えば、C2~C4アルキルの炭化水素部分は、直鎖状飽和炭化水素、又は、分岐鎖状飽和炭化水素である。C2~C4アルキルの炭化水素部分は、酸素(O)や窒素(N)などを含有する極性基を含まないことが好ましい。
【0042】
水酸基含有C2~C4アルキル(メタ)アクリレートの構成単位としては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシn-ブチル(メタ)アクリレート、又は、ヒドロキシiso-ブチル(メタ)アクリレートといったヒドロキシブチル(メタ)アクリレートの各構成単位が挙げられる。なお、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートの構成単位において、水酸基(-OH基)は、炭化水素部分の末端の炭素(C)に結合していてもよく、炭化水素部分の末端以外の炭素(C)に結合していてもよい。
【0043】
上記のアクリルポリマーは、側鎖に重合性不飽和二重結合を有する重合性基含有(メタ)アクリレートの構成単位を含む。
上記のアクリルポリマーが、重合性基含有(メタ)アクリレートの構成単位を含むことによって、ピックアップ工程の前に、粘着剤層22を、活性エネルギー線(紫外線等)の照射によって硬化させることができる。詳しくは、紫外線等の活性エネルギー線の照射によって、光重合開始剤からラジカルを発生させ、このラジカルの作用によって、アクリルポリマー同士を架橋反応させることができる。これによって、照射前における粘着剤層22の粘着力を、照射によって低下させることができる。そして、ダイボンド層10を粘着剤層22から良好に剥離させることができる。
なお、活性エネルギー線としては、紫外線、放射線、電子線が採用される。
【0044】
重合性基含有(メタ)アクリレートの構成単位は、具体的には、上述した水酸基含有(メタ)アクリレートの構成単位における水酸基に、イソシアネート基含有(メタ)アクリレートモノマーのイソシアネート基がウレタン結合した分子構造を有してもよい。
【0045】
重合性基を有する重合性基含有(メタ)アクリレートの構成単位は、アクリルポリマーの重合後に、調製され得る。例えば、アルキル(メタ)アクリレートモノマーと、水酸基含有(メタ)アクリレートモノマーとの共重合の後に、水酸基含有(メタ)アクリレートの構成単位の一部における水酸基と、イソシアネート基含有重合性モノマーのイソシアネート基とを、ウレタン化反応させることによって、上記の重合性基含有(メタ)アクリレートの構成単位を得ることができる。
【0046】
上記のイソシアネート基含有(メタ)アクリレートモノマーは、分子中にイソシアネート基を1つ有し且つ(メタ)アクリロイル基を1つ有することが好ましい。斯かるモノマーとしては、例えば、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0047】
本実施形態におけるダイシングテープ20の粘着剤層22は、さらにイソシアネート化合物を含む。イソシアネート化合物の一部は、ウレタン化反応などによって反応した後の状態であってもよい。
イソシアネート化合物は、分子中に複数のイソシアネート基を有する。イソシアネート化合物が分子中に複数のイソシアネート基を有することによって、粘着剤層22におけるアクリルポリマー間の架橋反応を進行させることができる。詳しくは、イソシアネート化合物の一方のイソシアネート基をアクリルポリマーの水酸基と反応させ、他方のイソシアネート基を別のアクリルポリマーの水酸基と反応させることで、イソシアネート化合物を介した架橋反応を進行させることができる。
【0048】
イソシアネート化合物としては、例えば、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート、又は、芳香脂肪族ジイソシアネートなどのジイソシアネートが挙げられる。
【0049】
さらに、イソシアネート化合物としては、例えば、ジイソシアネートの二量体や三量体等の重合ポリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネートが挙げられる。
【0050】
加えて、イソシアネート化合物としては、例えば、上述したイソシアネート化合物の過剰量と、活性水素含有化合物とを反応させたポリイソシアネートが挙げられる。活性水素含有化合物としては、活性水素含有低分子量化合物、活性水素含有高分子量化合物などが挙げられる。
なお、イソシアネート化合物としては、アロファネート化ポリイソシアネート、ビウレット化ポリイソシアネート等も用いることができる。
上記のイソシアネート化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0051】
上記のイソシアネート化合物としては、芳香族ジイソシアネートと活性水素含有低分子量化合物との反応物が好ましい。芳香族ジイソシアネートの反応物は、イソシアネート基の反応速度が比較的遅いため、斯かる反応物を含む粘着剤層22は、過度に硬化してしまうことが抑制される。上記のイソシアネート化合物としては、分子中にイソシアネート基を3つ以上有するものが好ましい。
【0052】
粘着剤層22に含まれる重合開始剤は、加えられた熱や光のエネルギーによって重合反応を開始できる化合物である。粘着剤層22が重合開始剤を含むことによって、粘着剤層22に熱エネルギーや光エネルギーを与えたときに、アクリルポリマー間における架橋反応を進行させることができる。詳しくは、重合性基含有(メタ)アクリレートの構成単位を有するアクリルポリマー間において、重合性基同士の重合反応を開始させて、粘着剤層22を硬化させることができる。これにより、粘着剤層22の粘着力を低下させ、ピックアップ工程において、硬化した粘着剤層22からダイボンド層10を容易に剥離させることができる。
重合開始剤としては、例えば、光重合開始剤又は熱重合開始剤などが採用される。重合開始剤としては、一般的な市販製品を使用できる。
【0053】
粘着剤層22は、上述した成分以外のその他の成分をさらに含み得る。その他の成分としては、例えば、粘着付与剤、可塑剤、充填剤、老化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、界面活性剤、軽剥離化剤等が挙げられる。その他の成分の種類および使用量は、目的に応じて、適切に選択され得る。
【0054】
次に、本実施形態のダイシングダイボンドフィルム1について詳しく説明する。
【0055】
本実施形態のダイシングダイボンドフィルム1は、上述したダイシングテープ20と、該ダイシングテープ20の粘着剤層22に積層されたダイボンド層10とを備える。ダイボンド層10は、半導体集積回路の製造において、半導体ウエハに接着されることとなる。
【0056】
ダイボンド層10は、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂のうち少なくとも一方を含み得る。ダイボンド層10は、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。
【0057】
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂等が挙げられる。上記熱硬化性樹脂としては、1種のみ、又は、2種以上が採用される。ダイボンディング対象である半導体チップの腐食原因となり得るイオン性不純物等をより少なく含有するという点で、上記熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂の硬化剤としては、フェノール樹脂が好ましい。
【0058】
上記エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型、臭素化ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールAF型、ビフェニル型、ナフタレン型、フルオレン型、フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、トリスヒドロキシフェニルメタン型、テトラフェニロールエタン型、ヒダントイン型、トリスグリシジルイソシアヌレート型、又は、グリシジルアミン型の各エポキシ樹脂が挙げられる。
【0059】
フェノール樹脂は、エポキシ樹脂の硬化剤として作用し得る。フェノール樹脂としては、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、ポリパラオキシスチレン等のポリオキシスチレン等が挙げられる。
ノボラック型フェノール樹脂としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、クレゾールノボラック樹脂、tert-ブチルフェノールノボラック樹脂、ノニルフェノールノボラック樹脂等が挙げられる。
上記フェノール樹脂としては、1種のみ、又は、2種以上が採用される。
【0060】
ダイボンド層10において、フェノール樹脂の水酸基は、エポキシ樹脂のエポキシ基1当量当たり、好ましくは0.5当量以上2.0当量以下、より好ましくは0.7当量以上1.5当量以下である。これにより、エポキシ樹脂とフェノール樹脂との硬化反応を十分に進行させることができる。
【0061】
ダイボンド層10が熱硬化性樹脂を含む場合、ダイボンド層10における斯かる熱硬化性樹脂の含有割合は、ダイボンド層10の総質量に対して、5質量%以上60質量%以下が好ましく、10質量%以上50質量%以下がより好ましい。これにより、ダイボンド層10において熱硬化型接着剤としての機能を適切に発現させることができる。
【0062】
ダイボンド層10に含まれ得る熱可塑性樹脂としては、例えば、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリブタジエン樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、6-ナイロンや6,6-ナイロン(商品名)等のポリアミド樹脂、フェノキシ樹脂、アクリル樹脂、PETやPBT等の飽和ポリエステル樹脂、ポリアミドイミド樹脂、フッ素樹脂等が挙げられる。
上記熱可塑性樹脂としては、イオン性不純物が少なく且つ耐熱性が高いためにダイボンド層10の接着性をより確保できるという点で、アクリル樹脂が好ましい。
上記熱可塑性樹脂としては、1種のみ、又は、2種以上が採用される。
【0063】
上記アクリル樹脂は、分子中の構成単位のうち、アルキル(メタ)アクリレートの構成単位が質量割合で最も多いポリマーであることが好ましい。当該アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、C2~C4アルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。
上記アクリル樹脂は、アルキル(メタ)アクリレートモノマーと共重合可能な他のモノマー成分に由来する構成単位を含んでいてもよい。
上記他のモノマー成分としては、例えば、カルボキシ基含有モノマー、酸無水物モノマー、ヒドロキシ基含有モノマー、グリシジル基含有モノマー、スルホン酸基含有モノマー、リン酸基含有モノマー、アクリルアミド、アクリロニトリル等の官能基含有モノマー、又は、その他各種の多官能性モノマー等が挙げられる。
上記アクリル樹脂は、ダイボンド層10においてより高い凝集力を発揮できるという点で、好ましくは、アルキル(メタ)アクリレート(特に、アルキル部分の炭素数が4以下のアルキル(メタ)アクリレート)と、カルボキシ基含有モノマーと、窒素原子含有モノマーと、多官能性モノマー(特にポリグリシジル系多官能モノマー)との共重合体であり、より好ましくは、アクリル酸エチルと、アクリル酸ブチルと、アクリル酸と、アクリロニトリルと、ポリグリシジル(メタ)アクリレートとの共重合体である。
【0064】
上記アクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、ダイボンド層10の弾性や粘性を所望の範囲内に設定しやすいという点で、-50℃以上50℃以下であることが好ましく、10℃以上30℃以下であることがより好ましい。
【0065】
ダイボンド層10が熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とを含む場合、ダイボンド層10における上記熱可塑性樹脂の含有割合は、フィラーを除く有機成分(例えば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、硬化触媒等、シランカップリング剤、染料)の総質量に対して、好ましくは30質量%以上70質量%以下であり、より好ましくは40質量%以上60質量%以下であり、さらに好ましくは45質量%以上55質量%以下である。なお、熱硬化性樹脂の含有割合を変化させることによって、ダイボンド層10の弾性や粘性を調整することができる。
【0066】
ダイボンド層10の熱可塑性樹脂が熱硬化性官能基を有する場合、当該熱可塑性樹脂として、例えば、熱硬化性官能基含有アクリル樹脂を採用できる。この熱硬化性官能基含有アクリル樹脂は、好ましくは、分子中に、アルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を最も多い質量割合で含む。当該アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、上記例示の(メタ)アルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。
一方、熱硬化性官能基含有アクリル樹脂における熱硬化性官能基としては、例えば、グリシジル基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、イソシアネート基等が挙げられる。
ダイボンド層10は、熱硬化性官能基含有アクリル樹脂と硬化剤とを含むことが好ましい。硬化剤としては、粘着剤層22に含まれ得る硬化剤として例示されたものが挙げられる。熱硬化性官能基含有アクリル樹脂における熱硬化性官能基がグリシジル基である場合には、複数のフェノール構造を有する化合物を硬化剤として用いることが好ましい。例えば、上述の各種フェノール樹脂を硬化剤として用いることができる。
【0067】
ダイボンド層10は、好ましくはフィラーを含有する。ダイボンド層10におけるフィラーの量を変えることにより、ダイボンド層10の弾性及び粘性をより容易に調整することができる。さらに、ダイボンド層10の導電性、熱伝導性、弾性率等の物性を調整することができる。
フィラーとしては、無機フィラー及び有機フィラーが挙げられる。フィラーとしては、無機フィラーが好ましい。
無機フィラーとしては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、結晶質シリカや非晶質シリカといったシリカなどを含むフィラーが挙げられる。また、無機フィラーの材質としては、アルミニウム、金、銀、銅、ニッケル等の金属単体や、合金などが挙げられる。ホウ酸アルミニウムウィスカ、アモルファスカーボンブラック、グラファイト等のフィラーであってもよい。フィラーの形状は、球状、針状、フレーク状等の各種形状であってもよい。フィラーとしては、上記の1種のみ、又は、2種以上が採用される。
【0068】
上記フィラーの平均粒径は、好ましくは0.005μm以上10μm以下であり、より好ましくは0.005μm以上1μm以下である。上記平均粒径が0.005μm以上であることによって、半導体ウエハ等の被着体への濡れ性、接着性がより向上する。上記平均粒径が10μm以下であることによって、加えたフィラーによる特性をより十分に発揮させることができ、また、ダイボンド層10の耐熱性をより発揮させることができる。フィラーの平均粒径は、例えば、光度式の粒度分布計(例えば、製品名「LA-910」、堀場製作所社製)を用いて求めることができる。
【0069】
ダイボンド層10がフィラーを含む場合、上記フィラーの含有割合は、ダイボンド層10の総質量に対して、好ましくは30質量%以上70質量%以下であり、より好ましくは40質量%以上60質量%以下であり、さらに好ましくは42質量%以上55質量%以下である。
【0070】
ダイボンド層10は、必要に応じて他の成分を含んでもよい。上記他の成分としては、例えば、硬化触媒、難燃剤、シランカップリング剤、イオントラップ剤、染料等が挙げられる。
難燃剤としては、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、臭素化エポキシ樹脂等が挙げられる。
シランカップリング剤としては、例えば、β-(3、4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
イオントラップ剤としては、例えば、ハイドロタルサイト類、水酸化ビスマス、ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
上記他の添加剤としては、1種のみ、又は、2種以上が採用される。
【0071】
ダイボンド層10は、弾性及び粘性を調整しやすいという点で、好ましくは、熱可塑性樹脂(特に、アクリル樹脂)、熱硬化性樹脂、及びフィラーを含む。
ダイボンド層10において、フィラーを除く有機成分の総質量に対する、アクリル樹脂などの熱可塑性樹脂の含有割合は、30質量%以上70質量%以下であることが好ましく、40質量%以上60質量%以下であることがより好ましく、45質量%以上55質量%以下であることがさらに好ましい。
ダイボンド層10の総質量に対して、フィラーの含有割合は、30質量%以上70質量%以下であることが好ましく、40質量%以上60質量%以下であることがより好ましく、42質量%以上55質量%以下であることがさらに好ましい。
【0072】
ダイボンド層10の厚さは、特に限定されないが、例えば1μm以上200μm以下である。斯かる厚さは、50μm以上135μm以下であってもよい。このような比較的厚いダイボンド層を備えたダイシングダイボンドフィルムであっても、低温でのエキスパンド工程において、ダイシングテープが裂けることを抑制できる。なお、ダイボンド層10が積層体である場合、上記の厚さは、積層体の総厚さである。
【0073】
ダイボンド層10のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは0℃以上であり、より好ましくは10℃以上である。上記ガラス転移温度が0℃以上であることによって、クールエキスパンドによってダイボンド層10を容易に割断することができる。ダイボンド層10のガラス転移温度の上限は、例えば100℃である。
【0074】
ダイボンド層10は、例えば図1に示すように、単層構造を有してもよい。本明細書において、単層とは、同じ組成物で形成された層のみを有することである。同じ組成物で形成された層が複数積層された形態も単層である。
一方、ダイボンド層10は、例えば、2種以上の異なる組成物でそれぞれ形成された層が積層された多層構造を有してもよい。
【0075】
本実施形態のダイシングダイボンドフィルム1では、使用されるときに、活性エネルギー線(例えば紫外線)が照射されることによって、粘着剤層22が硬化される。詳しくは、一方の面に半導体ウエハが接着されたダイボンド層10と、該ダイボンド層10の他方の面に貼り合わされた粘着剤層22とが積層した状態で、紫外線等が少なくとも粘着剤層22に照射される。例えば、基材層21が配置されている方から紫外線等を照射して、基材層21を経た紫外線等が粘着剤層22に届く。紫外線等の照射によって、粘着剤層22が硬化する。
照射後に粘着剤層22が硬化することによって、粘着剤層22の粘着力を下げることができるため、照射後に粘着剤層22からダイボンド層10(半導体ウエハが接着した状態)を比較的容易に剥離させることができる。
【0076】
本実施形態のダイシングダイボンドフィルム1は、使用される前の状態において、ダイボンド層10の一方の面(ダイボンド層10が粘着剤層22と重なっていない面)を覆う剥離シートを備えてもよい。剥離シートは、ダイボンド層10を保護するために用いられ、ダイボンド層10に被着体(例えば半導体ウエハ)を貼り付ける直前に剥離される。
この剥離シートとしては、上述した剥離シートと同様のものを採用できる。この剥離シートは、ダイボンド層10を支持するための支持材として利用できる。剥離シートは、粘着剤層22のうえにダイボンド層10を重ねるときに、好適に使用される。詳しくは、剥離シートとダイボンド層10とが積層された状態でダイボンド層10を粘着剤層22に重ね、重ねた後に剥離シートを剥がす(転写する)ことによって、粘着剤層22のうえにダイボンド層10を重ねることができる。
【0077】
本実施形態のダイシングダイボンドフィルム1は、以上のように構成されていることから、低温でのエキスパンド工程(後に詳述)において裂けることが抑制されている。
【0078】
次に、本実施形態のダイシングテープ20、及び、ダイシングダイボンドフィルム1の製造方法について説明する。
【0079】
本実施形態のダイシングダイボンドフィルム1の製造方法は、
ダイシングテープ20を製造する工程(ダイシングテープの製造方法)と、製造されたダイシングテープ20にダイボンド層10を重ねてダイシングダイボンドフィルム1を製造する工程とを備える。
【0080】
ダイシングテープの製造方法(ダイシングテープを製造する工程)は、
アクリルポリマーを合成する合成工程と、
上述したアクリルポリマーと、イソシアネート化合物と、重合開始剤と、溶媒と、目的に応じて適宜追加するその他の成分と、を含む粘着剤組成物から溶媒を揮発させて粘着剤層22を作製する粘着剤層作製工程と、
粘着剤層22と基材層21とを貼り合わせることによって、基材層21と粘着剤層22とを積層させる積層工程と、を備える。
【0081】
合成工程では、例えば、C9~C11アルキル(メタ)アクリレートモノマーと、水酸基含有(メタ)アクリレートモノマーと、をラジカル重合させることによって、アクリルポリマー中間体を合成する。
ラジカル重合は、一般的な方法によって行うことができる。例えば、上記の各モノマーを溶媒に溶解させて加熱しながら撹拌し、重合開始剤を添加することによって、アクリルポリマー中間体を合成できる。アクリルポリマーの分子量を調整するために、連鎖移動剤の存在下において重合を行ってもよい。
次に、アクリルポリマー中間体に含まれる、水酸基含有(メタ)アクリレートの構成単位の一部の水酸基と、イソシアネート基含有重合性モノマーのイソシアネート基とを、ウレタン化反応によって結合させる。これにより、水酸基含有(メタ)アクリレートの構成単位の一部が、重合性基含有(メタ)アクリレートの構成単位となる。
ウレタン化反応は、一般的な方法によって行うことができる。例えば、溶媒及びウレタン化触媒の存在下において、加熱しながらアクリルポリマー中間体とイソシアネート基含有重合性モノマーとを撹拌する。これにより、アクリルポリマー中間体の水酸基の一部に、イソシアネート基含有重合性モノマーのイソシアネート基をウレタン結合させることができる。
【0082】
粘着剤層作製工程では、例えば、アクリルポリマーと、イソシアネート化合物と、重合開始剤とを溶媒に溶解させて、粘着剤組成物を調製する。溶媒の量を変化させることによって、組成物の粘度を調整することができる。次に、粘着剤組成物を剥離シートに塗布する。塗布方法としては、例えば、ロール塗工、スクリーン塗工、グラビア塗工等の一般的な塗布方法が採用される。塗布した組成物に、脱溶媒処理や固化処理等を施すことによって、塗布した粘着剤組成物を固化させて、粘着剤層22を作製する。
【0083】
積層工程では、剥離シートに重なった状態の粘着剤層22と基材層21とを重ねて積層させる。なお、剥離シートは、使用前まで粘着剤層22に重なった状態であってもよい。
なお、架橋剤とアクリルポリマーとの反応を促進するため、また、架橋剤と基材層21の表面部分との反応を促進するために、積層工程の後に、50℃環境下で、48時間のエージング処理工程を実施してもよい。
なお、基材層21は、市販されているフィルム等を用いてもよく、一般的な方法によって製膜して作製されてもよい。製膜する方法としては、例えば、カレンダー製膜法、有機溶媒中でのキャスティング法、密閉系でのインフレーション押出法、Tダイ押出法、ドライラミネート法等が挙げられる。共押出し成形法を採用してもよい。
【0084】
これら工程によって、ダイシングテープ20を製造することができる。
【0085】
ダイシングダイボンドフィルムの製造方法(ダイシングダイボンドフィルムを製造する工程)は、
ダイボンド層10を形成するための樹脂組成物を調製する樹脂組成物調製工程と、
樹脂組成物からダイボンド層10を作製するダイボンド層作製工程と、
上記のごとく製造したダイシングテープ20の粘着剤層22にダイボンド層10を貼り付ける貼付工程と、を備える。
【0086】
樹脂組成物調製工程では、例えば、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂の硬化触媒、アクリル樹脂、フェノール樹脂、溶媒などを混合して、各樹脂を溶媒に溶解させることによって、樹脂組成物を調製する。溶媒の量を変化させることによって、組成物の粘度を調整することができる。なお、これらの樹脂としては、市販されている製品を用いることができる。
【0087】
ダイボンド層作製工程では、例えば、上記のごとく調製した樹脂組成物を、剥離シートに塗布する。塗布方法としては、特に限定されず、例えば、ロール塗工、スクリーン塗工、グラビア塗工等の一般的な塗布方法が採用される。次に、必要に応じて、脱溶媒処理や硬化処理等によって、塗布した組成物を固化させて、ダイボンド層10を作製する。
【0088】
貼付工程では、ダイシングテープ20の粘着剤層22、及び、ダイボンド層10からそれぞれ剥離シートを剥離し、ダイボンド層10と粘着剤層12とが直接接触するように、両者を貼り合わせる。例えば、圧着することによって貼り合わせることができる。貼り合わせるときの温度は、特に限定されず、例えば、30℃以上50℃以下であり、好ましくは35℃以上45℃以下である。貼り合わせるときの線圧は、特に限定されないが、好ましくは0.1kgf/cm以上20kgf/cm以下であり、より好ましくは1kgf/cm以上10kgf/cm以下である。
【0089】
上記のごとく製造されたダイシングダイボンドフィルム1は、例えば、半導体集積回路を製造するための補助用具として使用される。以下、使用における具体例について説明する。
【0090】
半導体集積回路を製造する方法は、一般的に、回路面が形成された半導体ウエハからチップを切り出して組立てを行う工程を備える。
この工程は、例えば、半導体ウエハを割断処理によってチップ(ダイ)へ加工すべく半導体ウエハに溝を形成し、さらに半導体ウエハを研削して厚さを薄くするハーフカット工程と、ハーフカット加工された半導体ウエハの一面(例えば、回路面とは反対側の面)をダイボンド層10に貼り付けて、ダイシングテープ20に半導体ウエハを固定するマウント工程と、ハーフカット加工された半導体チップ同士の間隔を広げるエキスパンド工程と、ダイボンド層10と粘着剤層22との間を剥離してダイボンド層10が貼り付いた状態で半導体チップ(ダイ)を取り出すピックアップ工程と、ダイボンド層10が貼り付いた状態の半導体チップ(ダイ)を被着体に接着させるダイボンド工程と、を有する。これらの工程を実施するときに、本実施形態のダイシングテープ(ダイシングダイボンドフィルム)が製造補助用具として使用される。
【0091】
ハーフカット工程では、図2A図2Dに示すように、半導体集積回路を小片(ダイ)に割断するためのハーフカット加工を施す。詳しくは、半導体ウエハの回路面とは反対側の面に、ウエハ加工用テープTを貼り付ける。また、ウエハ加工用テープTにダイシングリングRを取り付ける。ウエハ加工用テープTを貼り付けた状態で、分割用の溝を形成する。溝を形成した面にバックグラインドテープGを貼り付ける一方で、始めに貼り付けたウエハ加工用テープTを剥離する。バックグラインドテープGを貼り付けた状態で、半導体ウエハが所定の厚さになるまで研削加工を施す。
【0092】
マウント工程では、図3A図3Bに示すように、ダイシングテープ20の粘着剤層22にダイシングリングRを取り付けた後、露出したダイボンド層10の面に、ハーフカット加工された半導体ウエハを貼り付ける(接着する)。その後、半導体ウエハからバックグラインドテープGを剥離する。
【0093】
エキスパンド工程では、図4A図4Cに示すように、ダイシングテープ20の粘着剤層22にダイシングリングRを取り付けた後、エキスパンド装置の保持具Hに固定する。エキスパンド装置が備える突き上げ部材Uを、ダイシングダイボンドフィルム1の下側から突き上げることによって、ダイシングダイボンドフィルム1を面方向に広げるように引き延ばす。これにより、特定の温度条件において、ハーフカット加工された半導体ウエハをダイボンド層10とともに割断する。上記温度条件は、0℃以下、例えば-20~0℃であり、好ましくは-15~0℃、より好ましくは-10~-5℃である。突き上げ部材Uを下降させることによって、エキスパンド状態を解除する(ここまでクールエキスパンド工程)。さらに、エキスパンド工程では、図5A図5Bに示すように、より高い温度条件下において、面積を広げるようにダイシングテープ20を引き延ばす。これにより、割断された隣り合う半導体チップをフィルム面の面方向に引き離して、さらに間隔を広げる(常温エキスパンド工程)。
【0094】
ピックアップ工程では、図6に示すように、ダイボンド層10が貼り付いた状態の半導体チップをダイシングテープ20の粘着層から剥離する。詳しくは、ピン部材Pを上昇させて、ピックアップ対象の半導体チップを、ダイシングテープ20を介して突き上げる。突き上げられた半導体チップを吸着治具Jによって保持する。
ダイボンド工程では、ダイボンド層10が貼り付いた状態の半導体チップを被着体に接着させる。
【0095】
上述したように、本実施形態のダイシングダイボンドフィルム1(ダイシングテープ20)は、上記の工程で使用され、クールエキスパンド工程では、0℃以下において、ダイボンド層10にウエハが接着された状態で、ダイシングテープ20が延伸され、ウエハがダイボンド層10とともに割断される。さらに、常温でのエキスパンド工程において、ダイシングテープ20が延伸される。
なお、クールエキスパンド工程における温度は、通常、0℃以下であり、例えば、-15℃~0℃の温度である。常温でのエキスパンド工程における温度は、例えば、10℃~25℃の温度である。
【0096】
本実施形態のダイシングテープ、ダイシングダイボンドフィルムは上記例示の通りであるが、本発明は、上記例示のダイシングテープ、ダイシングダイボンドフィルムに限定されるものではない。
即ち、一般的なダイシングテープ、ダイシングダイボンドフィルムにおいて用いられる種々の形態が、本発明の効果を損ねない範囲において、採用され得る。
【実施例
【0097】
次に実験例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0098】
以下のようにして、ダイシングテープを製造した。また、このダイシングテープを使用して、ダイシングダイボンドフィルムを製造した。
【0099】
<基材層>
以下に示す製品を用いて、単層の基材層を作製した。詳しくは、各実施例および比較例において、押し出しTダイ成形機を用いて基材層を製膜した。押出温度条件は、180~230℃の範囲であった。
(実施例1)
・原料名:Vistamaxx 3980FL(厚さ125μm)
ポリプロピレン系エラストマー樹脂
エクソンモービル・ジャパン社製 Vistamaxxシリーズ
(実施例2)
・原料名:レクスパールEMA EB330H
エチレンーメチルアクリレート共重合樹脂(EMA)
日本ポリエチレン社製 レクスパール(REXPEARL EMA)シリーズ
(実施例3)
エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)とアイオノマー樹脂(IO)とのブレンド(7:3質量比)
・原料名:EV550
エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(EVA 酢酸ビニル14質量%含有)
三井・ダウポリケミカル社製 エバフレックス(EVAFLEX)シリーズ
・原料名:ハイミラン1706
アイオノマー樹脂(IO)
三井・ダウポリケミカル社製 ハイミラン(シリーズ)
(実施例4)
エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)とポリプロピレン系エラストマー樹脂とのブレンド(7:3質量比)
・原料名:EV550
エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(EVA 酢酸ビニル14質量%含有)
三井・ダウポリケミカル社製 エバフレックス(EVAFLEX)シリーズ
・原料名:Vistamaxx 3980FL
ポリプロピレン系エラストマー樹脂
エクソンモービル・ジャパン社製 Vistamaxxシリーズ
(比較例1)
・原料名:ノバテックLC720
低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)
日本ポリエチレン社製 ノバテックLDシリーズ
(比較例2)
・原料名:WXK1233(厚さ100μm)
メタロセン系ポリプロピレンランダム共重合体
日本ポリプロ社製 ウィンテック(WINTEC)シリーズ
(実施例5)
・原料名:EV250(厚さ125μm)
エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(EVA 酢酸ビニル28質量%含有)
三井・ダウポリケミカル社製 エバフレックス(EVAFLEX)シリーズ
(実施例6)
・原料名:EV550(厚さ125μm)
エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(EVA 酢酸ビニル14質量%含有)
三井・ダウポリケミカル社製 エバフレックス(EVAFLEX)シリーズ
【0100】
<粘着剤層>
(アクリルポリマーの合成)
冷却管、窒素導入管、温度計、及び、撹拌装置を備えた反応容器に、モノマー濃度が約55質量%となるように下記の原料を入れ、窒素気流中で60℃にて10時間重合反応を行った。これにより、アクリルポリマー中間体を合成した。
・2-エチルヘキシルアクリレート(以下、「2EHA」ともいう):100質量部、
・2-ヒドロキシエチルアクリレート(以下、「HEA」ともいう):20質量部、
・重合開始剤:適量、
・重合溶媒:トルエン
合成したアクリルポリマー中間体100質量部と、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(以下、「MOI」ともいう)1.4質量部とを、ジブチル錫ジラウリレート(0.1質量部)の存在下において、空気気流中で50℃にて60時間、付加反応させて、アクリルポリマーを合成した。
(粘着剤層の作製)
次に、下記の組成で粘着剤溶液を調製し、適宜トルエンを加えることで粘度が500mPa・sになるように調整した。
・合成したアクリルポリマー:100質量部、
・ポリイソシアネート化合物
(製品名「コロネートL」、日本ポリウレタン社製)
:1.1質量部、
・光重合開始剤
(製品名「イルガキュア184」、チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製):
:3質量部
剥離シートとして、PET系フィルムを用意した。剥離シートの面に、アプリケーターを使用して上記のごとく調製した粘着剤溶液を塗布した。なお、剥離シート(PET系フィルム)の片面には、離型処理としてシリコーン処理が施され、この離型処理が施された面に粘着剤溶液を塗布した。塗布後、120℃で2分間、加熱によって乾燥処理を施し、厚さ10μmの粘着剤層を、剥離シート上に作製した。
【0101】
<ダイシングテープの作製>
ラミネーターを使用して、剥離シート上に作製した粘着剤層の露出面と、各基材層(厚さ125μm)とを室温において貼り合わせ、ダイシングテープを作製した。
【0102】
<ダイボンド層の作製>
下記(a)~(d)をメチルエチルケトンに溶解させ、固形分濃度40~50質量%の樹脂組成物を調製した。
(a)アクリル樹脂(製品名「テイサンレジン SG-280 EK23」ナガセケムテックス社製):15質量%
(b)エポキシ樹脂(製品名「EPPN 501H」日本化薬社製):29質量%
(c)ノボラック型フェノール樹脂(製品名「HF-1M」明和化成社製)16質量%
(d)無機フィラー(シリカ)(製品名「SE-2050MCV」アドマテックス社製):40質量%
樹脂組成物を、シリコーン離型処理した厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなる離型処理フィルム(剥離シート)上に塗布した。その後、130℃で2分間、乾燥処理を施した。これにより、厚さ(平均厚さ)60μmのダイボンド層を作製した。作製した厚さ60μmのダイボンド層同士を貼り合せることによって、厚さ120μmのダイボンド層を作製した。なお、貼り合わせるときのラミネート条件は、80℃、0.15MPa、10mm/s(秒)であった。
【0103】
<ダイシングダイボンドフィルムの製造>
作製したダイボンド層を直径330mmの円形にカットし、各ダイシングテープと貼り合わせた(温度:25℃、速度10mm/sec、圧力0.15MPa)。
その後、ダイシング層が貼り合わされた部分のみに、紫外線を照射(300mJ/cm)して、ダイシングダイボンドフィルムを製造した。
【0104】
以上のようにして、表1に示す構成の基材層を用いて、上記の方法に従って、実施例及び比較例のダイシングテープ及びダイシングダイボンドフィルムをそれぞれ製造した。
各ダイシングテープの物性(動的粘弾性測定によるTanδなど)を表1に示す。
【0105】
【表1】
【0106】
<動的粘弾性測定による各温度(-15℃、-5℃)でのTanδ>
以下のようにして、各ダイシングテープについて、各温度におけるTanδを算出した。
ダイボンドフィルムから、下記に示すサイズ(幅)の試験サンプルを切り出して試験サンプルを作製した。固体粘弾性測定装置(測定装置:RSA-G2、TA社製)を用いて、下記の試験条件において、引張モードにて動的貯蔵弾性率を測定した。
試験サンプルの幅:10mm、
チャック間距離:20mm、
昇温速度:10℃/分、
試験温度:-30~100℃、
周波数:1Hz
-15℃、及び、-5℃における貯蔵弾性率E’と損失弾性率E”とをそれぞれ測定し、Tanδ=E”/E’ の算出式によって、Tanδを算出した。3回の各測定値の平均値を採用した。Tanδが高いほど、粘性の性質が高いことを示す。なお、測定は、MD方向及びTD方向の両方について実施し、測定値が高い方を結果に採用した。
【0107】
<引張試験機による強度測定(25%引張時)>
引張試験機を用いて、基材層及び粘着剤層を備えたダイシングテープについて、下記の試験条件で、25%引張時の強度を測定した。3回の各測定値の平均値を採用した。なお、測定は、MD方向及びTD方向の両方について実施し、測定値が高い方を結果に採用した。
測定温度:-15℃、
試験サンプルの幅:10mm、
チャック間距離:50mm、
引張速度:300mm/分
【0108】
<エキスパンド時における、裂け抑制性能、及び、割断性の評価>
10mm×10mmのチップサイズで割断されるように、12インチウエハにブレードハーフカットを施した。この12インチウエハを40μmの厚さになるまでバックグラインド(研削)した。その後、ダイシングダイボンドフィルムと貼り合せた。なお、ウエハ貼り合せ温度は、70℃、貼り合わせ速度は、10mm/秒であった。
その後、ディスコ社製ダイセパレーター DDS2300を用いて、半導体ウエハ及びダイボンド層の割断、さらには、ダイシングテープの熱収縮を行った。
詳しくは、クールエキスパンダーユニットで、エキスパンド温度-15℃、エキスパンド速度300mm/秒、エキスパンド量16mmの条件で、半導体ウエハ及びダイボンド層を割断した。
続いて、ヒートエキスパンダーユニットで、エキスパンド量7mm、ヒート温度220℃、風量40L/分、ヒート距離20mm、ローテーションスピード5°/秒の条件で、ダイシングテープを熱収縮させることによって、ダイシングシートの裂け抑制性能を評価した。テープ裂けが発生しなかったものを〇と評価し、発生したものを×と評価した。
割断性については、割断率が80%未満である場合を×と評価し、80%以上である場合を〇と評価し、90%以上である場合を◎と評価した。
【0109】
上記の評価結果から把握されるように、実施例のダイシングダイボンドフィルムは、比較例のダイシングダイボンドフィルムに比べて、低温でのエキスパンド工程において裂けることが抑制されていた。
また、-15℃における25%引張時の強度が15[N/20mm]以上であるダイシングテープによれば、割断性を良好にすることができた。
【0110】
実施例のダイシングテープでは、-5℃におけるTanδの値(B)に対する、-15℃におけるTanδの値(A)の比(A/B)が0.75以上である。
Tanδの値は、その温度におけるダイシングテープの粘性の高さの指標となる。上記の比(A/B)が0.75以上であることは、-5℃における粘性と比較して、より低温の-15℃における粘性があまり低下していないことを表す。従って、-15℃においてダイシングテープが延伸されても、粘性があまり低下していない分、裂けることが抑制されると考えられる。
ダイシングテープの上記のごとき性質は、ダイボンド層の厚さが比較的厚い(例えば、50μm以上135μm以下)ときに、特に有利である。詳しくは、エキスパンド工程において、ダイボンド層の厚さが比較的厚いと、ウエハとともにダイボンド層を割断するまでに、比較的大きな力が必要となる。従って、ウエハ及びダイボンド層が割断されるまでに、延伸されるダイシングテープ自体にも大きな力が加わることとなる。この影響によって、ダイボンド層が割断されるまでに、延伸されたダイシングテープ自体が変形してしまう、即ち、裂けてしまうおそれがある。
ところが、本実施形態のダイシングテープは、上記のごときTanδで規定された物性を有するため、0℃以下の低温においても粘性があまり低下しておらず、上述したように、低温でのエキスパンド工程において裂けることが抑制されると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明のダイシングテープ及びダイシングダイボンドフィルムは、例えば、半導体集積回路を製造するときの補助用具として、好適に使用される。
【符号の説明】
【0112】
1:ダイシングダイボンドフィルム、
10:ダイボンド層、
20:ダイシングテープ、
21:基材層、 22:粘着剤層。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図6