(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-08
(45)【発行日】2023-08-17
(54)【発明の名称】粒子加速器システム
(51)【国際特許分類】
H05H 13/00 20060101AFI20230809BHJP
H05H 7/02 20060101ALI20230809BHJP
【FI】
H05H13/00
H05H7/02
(21)【出願番号】P 2019123141
(22)【出願日】2019-07-01
【審査請求日】2022-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 伸明
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-027001(JP,A)
【文献】特開昭47-010252(JP,A)
【文献】M. Gaspar and T. Garvey,A compact 500 MHz 65 kW solid-state power amplifier for accelerator applications,IEEE TRANSACTIONS ON NUCLEAR SCIENCE,2016年04月,vol. 63, no. 2, pp. 699-706
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 13/00
H05H 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子を加速する粒子加速器と、
前記粒子加速器において荷電粒子を加速するための高周波電力を出力する信号源と、
前記信号源からの高周波電力を増幅し、前記粒子加速器へ供給する増幅部と、
前記増幅部の動作を制御する制御部と、を備え、
前記増幅部は、
前記信号源からの高周波電力を増幅する、半導体を用いた複数の半導体増幅器を備え、
前記制御部は、前記複数の半導体増幅器のうち少なくとも一つの出力を制御し、
前記制御部は、使用可能な前記半導体増幅器の数に基づいて、前記複数の半導体増幅器のうち少なくとも一つの出力を制御する、粒子加速器システム。
【請求項2】
荷電粒子を加速する粒子加速器と、
前記粒子加速器において荷電粒子を加速するための高周波電力を出力する信号源と、
前記信号源からの高周波電力を増幅し、前記粒子加速器へ供給する増幅部と、
前記増幅部の動作を制御する制御部と、を備え、
前記増幅部は、
前記信号源からの高周波電力を増幅する、半導体を用いた複数の半導体増幅器を備え、
前記制御部は、前記複数の半導体増幅器のうち少なくとも一つの出力を制御し、
前記増幅部は、
前記信号源からの高周波電力を増幅する第1増幅部と、
前記複数の半導体増幅器を備える第2増幅部と、
前記第1増幅部の出力を前記第2増幅部のそれぞれの前記半導体増幅器へ分配する分配部と、を備え、
前記制御部は、使用可能な前記半導体増幅器の数に応じて、前記第1増幅部での増幅率を制御する、粒子加速器システム。
【請求項3】
荷電粒子を加速する粒子加速器と、
前記粒子加速器において荷電粒子を加速するための高周波電力を出力する信号源と、
前記信号源からの高周波電力を増幅し、前記粒子加速器へ供給する増幅部と、
前記増幅部の動作を制御する制御部と、を備え、
前記増幅部は、
前記信号源からの高周波電力を増幅する、半導体を用いた複数の半導体増幅器を備え、
前記制御部は、前記複数の半導体増幅器のうち少なくとも一つの出力を制御し、
前記増幅部は、
前記信号源からの高周波電力を増幅する第1増幅部と、
前記複数の半導体増幅器を備える第2増幅部と、
前記第1増幅部の出力を前記第2増幅部のそれぞれの前記半導体増幅器へ分配する分配部と、を備え、
前記制御部は、使用可能な前記半導体増幅器の数に応じて、前記第2増幅部のそれぞれの前記半導体増幅器での増幅率を制御する、粒子加速器システム。
【請求項4】
荷電粒子を加速する粒子加速器と、
前記粒子加速器において荷電粒子を加速するための高周波電力を出力する信号源と、
前記信号源からの高周波電力を増幅し、前記粒子加速器へ供給する増幅部と、
前記増幅部の動作を制御する制御部と、を備え、
前記増幅部は、
前記信号源からの高周波電力を増幅する、半導体を用いた複数の半導体増幅器を備え、
前記制御部は、前記複数の半導体増幅器のうち少なくとも一つの出力を制御し、
複数の前記半導体増幅器の故障を検知する故障検知部を更に備え、
前記制御部は、前記故障検知部による検知結果に基づいて、それぞれの前記半導体増幅器の出力を制御する、粒子加速器システム。
【請求項5】
前記増幅部は、それぞれの前記半導体増幅器からの出力を合成する合成器を備える、
請求項1~4の何れか一項に記載の粒子加速器システム。
【請求項6】
前記粒子加速器はサイクロトロンであり、
前記サイクロトロンは、前記増幅部で増幅された高周波電力を供給されるキャビティを有し、
前記キャビティには、前記キャビティ内の電圧を検出する電圧検出部が設けられ、
前記制御部は、使用不可能な半導体増幅器が存在することにより前記電圧検出部で検出される電圧が低下する場合、当該電圧が所定の設定値となるように、それぞれの前記半導体増幅器の出力を制御する、
請求項1~5の何れか一項に記載の粒子加速器システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子加速器システムに関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子を加速して荷電粒子ビームを出力する粒子加速器システムが知られている。粒子加速器は、高周波電力を用いて加速空間を通過する荷電粒子を加速する。ここで、高周波電力を供給するための増幅器として、特許文献1に記載されたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】“352.2MHz - 150KW SOLID STATEAMPLIFIERS ATTHE ESRF”J.Jacob, J.-M.Mercier, M.Langlois,G.Gautier, Proceedings of IPAC2011, Spain
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、粒子加速器では大電力が必要であるため、増幅器を電力粒子加速器の電力供給に用いる場合、多量の増幅器が必要となる。しかしながら、用いる増幅器の数が多くなると、システム内における何れかの増幅器が故障する頻度が個数の分だけ増加する。システム内の増幅器が一つでも故障してしまうと、当該故障に対する対応が必要になるため、故障頻度が増加すると、故障対応の頻度も増加する。例えば、増幅器が故障したときに粒子加速器の運転を停止する場合、増幅器の数が多いほど運転停止の頻度が増加し、粒子加速器の稼働効率が低下してしまう。
【0005】
そこで、本発明は、粒子加速器の稼働効率を向上することができる粒子加速器システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る粒子加速器システムは、荷電粒子を加速する粒子加速器と、高周波電力を出力する信号源と、信号源からの高周波電力を増幅する増幅部と、増幅部の動作を制御する制御部と、を備え、増幅部は、半導体を用いた複数の増幅器と、それぞれの増幅器からの出力を合成する合成器と、を備え、制御部は、使用可能な増幅器の数に基づいて、それぞれの増幅器の出力を調整する。
【0007】
本発明に係る粒子加速器システムは、信号源からの高周波電力を増幅する増幅部を備える。また、増幅部は、半導体を用いた複数の増幅器と、それぞれの増幅器からの出力を合成する合成器と、を備える。増幅器として半導体を用いたものを採用することで、増幅部は、信号源からの高周波電力を複数の増幅器を並列で増幅させることができる。そして、増幅部は、それぞれの増幅器からの出力を合成器で合成することで、大電力を粒子加速器に供給することができる。ここで、例えば、複数の増幅器のうち、一部の増幅器が故障して使用不可能となった場合、粒子加速器に供給される高周波電力が低下する。これに対し、制御部は、使用可能な増幅器の数に基づいて、それぞれの増幅器の出力を調整する。制御部は、故障していない残りの増幅器、すなわち使用可能な増幅器が、故障した増幅器の出力を補うことができる。これにより、増幅部は、粒子加速器を停止させることなく、粒子加速器の稼働に必要な高周波電力を供給し続けることができる。以上により、粒子加速器の稼働効率を向上することができる。
【0008】
増幅部は、信号源からの高周波電力を増幅する第1増幅部と、複数の増幅器を備える第2増幅部と、第1増幅部の出力を第2増幅部のそれぞれの増幅器へ分配する分配部と、を備え、制御部は、使用可能な増幅器の数に応じて、第1増幅部での増幅率を調整してよい。これにより、制御部は、第1増幅部の出力調整を行うだけで、複数の増幅器の調整を一括で行うことができる。この場合、個々の増幅器の調整を行う場合にして、出力の調整が容易になる。
【0009】
増幅部は、信号源からの高周波電力を増幅する第1増幅部と、複数の増幅器を備える第2増幅部と、第1増幅部の出力を第2増幅部のそれぞれの増幅器へ分配する分配部と、を備え、制御部は、使用可能な増幅器の数に応じて、第2増幅部のそれぞれの増幅器での増幅率を調整してよい。
【0010】
粒子加速器システムは、複数の増幅器の故障を検知する故障検知部を更に備え、制御部は、故障検知部による検知結果に基づいて、それぞれの増幅器の出力を調整してよい。この場合、制御部は、複数の増幅器の故障状況を直接把握した上で、増幅器の出力の調整を行うことができる。
【0011】
粒子加速器はサイクロトロンであり、サイクロトロンは、増幅部で増幅された高周波電力を供給されるキャビティを有し、キャビティには、キャビティ内の電圧を検出する電圧検出部が設けられ、制御部は、使用不可能な増幅器が存在することにより電圧検出部で検出される電圧が低下する場合、当該電圧が所定の設定値となるように、それぞれの増幅器の出力を調整してよい。このように、制御部が、キャビティ内の電圧に基づいて、増幅器の出力の調整を行うことで、キャビティ内において必要とされる電圧を正確に確保することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、粒子加速器の稼働効率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る粒子加速器システムを示すブロック図である。
【
図3】
図2のサイクロトロンが備える一対のポールの模式図である。
【
図4】
図2に示すIV-IV線に沿った断面図である。
【
図5】キャビティを径方向から見た概略構成図である。
【
図6】増幅部の詳細な構成を示すブロック図である。
【
図8】比較例に係る増幅部を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る粒子加速器システムの実施形態について詳細に説明する。
【0015】
図1は、本実施形態に係る粒子加速器システムの構成を示すシステム構成図である。
図1に示すように、粒子加速器システム100は、制御部101と、信号源102と、増幅部105と、サイクロトロン1(粒子加速器)と、備える。
【0016】
まず、
図2~
図5を参照して、サイクロトロン1の構成について説明する。
図2は、サイクロトロン1の内部の平面図である。
図3は、
図1のサイクロトロン1が備える一対のポール4A,4Bの模式図である。
図4は、
図1に示すIII-III線に沿った断面図である。なお、
図4は、バレーの周方向における中央位置を示す線(
図2において破線で示している)に沿った断面図である。
図5は、キャビティ6を径方向から見た概略構成図である。
【0017】
サイクロトロン1は、イオン源(不図示)から荷電粒子を加速空間G内に供給し、加速空間G内の荷電粒子を加速して荷電粒子ビームを出力する円形加速器である。本実施形態のサイクロトロン1では、荷電粒子ビームの螺旋状の周回軌道Bが水平面上にあるものとする。なお、本発明のサイクロトロンは、周回軌道Bが鉛直面上にあるように配置してもよい。荷電粒子としては、例えば陽子、重粒子(重イオン)などが挙げられる。サイクロトロン1は、例えば荷電粒子線治療用の加速器として用いられる。本実施形態では、周方向に強弱のある磁束密度を形成するサイクロトロンであるAVF[Azimuthally Varying Field]サイクロトロンを例にして説明する。
【0018】
図2~
図5に示すように、サイクロトロン1は、ヨーク3と、一対のポール4A,4Bと、キャビティ5,6と、コイル7と、を備える。
【0019】
ヨーク3は、真空容器やコイル7を支持するものである。なお、真空容器は、荷電粒子の加速空間を高真空状態に保持するための容器である。ヨーク3内には、粒子加速に必要な磁場を形成するための磁極として機能する一対のポール4A,4Bが設けられている。ポール4A,4Bは、平面視で円形をなし、メディアンプレーンMP(荷電粒子ビームが加速して進行する周回軌道Bが位置する平面であり、
図4において一点鎖線で示す)に対して上下面対称の形状を成している。ポール4A,4Bのそれぞれの周囲にコイル7が配置され、ポール4Aとポール4Bとの間に磁場が発生している。
【0020】
図3は、ポール4A,4Bのみを模式的に示す斜視図である。図に示されるように、ポール4A,4Bは円柱状をなしている。以下で用いる「径方向」及び「周方向」との文言は、
図2の方向から見たポール4A,4Bの輪郭形状である円の径方向及び周方向を意味するものとする。ポール4Aの上面には、螺旋状に湾曲した複数(本実施形態では4つ)の凸部であるヒル11Aと、複数(本実施形態では4つ)の凹部であるバレー12Aとが、周方向に交互に配列され形成されている。そして、ポール4Bの下面にも、螺旋状に湾曲した複数(本実施形態では4つ)の凸部であるヒル11Bと、複数(本実施形態では4つ)の凹部であるバレー12Bとが、周方向に交互に配列され形成されている。ヒル11Aとヒル11B、及びバレー12Aとバレー12Bは、互いにメディアンプレーンMPに対して面対称をなすようにギャップをあけて配置されている。なお、ここでポール4A,4Bのヒル11A,11Bとは、メディアンプレーンMPに向けて突出している部分であり、バレー12A、12Bとは、メディアンプレーンMPから離れるように凹んでいる部分である。なお、ヒル11A,11B及びバレー12A,12Bの形状は、上記のような螺旋状に湾曲した形状に限られず、扇形であってもよい。
【0021】
ポール4Aとポール4Bとの間には、ヒル11Aとヒル11Bとで挟まれた狭いギャップのヒル領域15hと、バレー12Aとバレー12Bとで挟まれた広いギャップのバレー領域15vとが形成されている。ポール4Aとポール4Bとの対称面(メディアンプレーンMP)上に、荷電粒子ビームの螺旋状の周回軌道Bが形成される。なお、周方向に順番に、バレー領域15v1,15v2,15v3,15v4が形成されるものとし、ヒル領域15h1,15h2,15h3,15h4が形成されるものとする。
【0022】
キャビティ5,6は、荷電粒子を加速するための高周波の電場を発生させる。キャビティ5,6は、一対のポール4A,4Bのバレー12A,12B間(バレー領域15v
1,15v
3)に配置され、図示されない高周波電源から高周波電力が供給される。キャビティ5,6は、所定の周波数(共振周波数)の電場を発生させるように設定されている。一方のキャビティ5は複数(本実施形態では4つ)のバレー領域15vのうち、一のバレー領域15v
1に配置される、他方のキャビティ6は、一方のキャビティ5が配置されるバレー領域15v
1に対して中心線を挟んで反対側のバレー領域15v
3に配置される(
図2参照)。また、
図4に示すように、キャビティ5は下側キャビティ5A及び上側キャビティ5Bを有し、キャビティ6は下側キャビティ6A及び上側キャビティ6Bを有している。下側キャビティ5A,6Aは、下側のポール4Aのバレー12Aに配置される。上側キャビティ5B,6Bは、上側のポール4Bのバレー12Bに配置される。
【0023】
下側キャビティ5A,6Aは、ディ電極(加速電極)21Aと、内導体(ステム)22A,23Aと、外導体24Aと、を備えている。上側キャビティ5B,6Bは、ディ電極(加速電極)21Bと、内導体(ステム)22B,23Bと、外導体24Bと、を備えている。
【0024】
ディ電極21A,21Bは、真空容器の内部で荷電粒子を加速するための電場を発生させる電極である。ディ電極21A,21Bは、両方ともバレー領域15v1,15v3に配置され、互いに上下方向に対向するように配置されている。ディ電極21A,21Bは、平面視でバレー領域15v1,15v3の形状に沿った形状に形成されている。ディ電極21A,21Bは、バレー12A,12Bの底面12Aa,12Baから離間しており、メディアンプレーンMP付近に形成される加速空間Gを形成するように、ヒル11A,11Bの突出面11Aa,11Baと略同位置に配置される。ポール4Aの中心部には、サイクロトロン1の外部又は内部に設けられたイオン源(図示せず)から送られてきた荷電粒子を偏向して、メディアンプレーンMP上に送るインフレクタ(不図示)が配置される。なお、内部イオン源を用いる場合はインフレクタは不要である。外導体24A,24Bは、ディ電極21A,21Bを囲むように設けられている。外導体24A,24Bは、少なくともバレー12A,12Bの底面12Aa,12Baに沿って広がり、ディ電極21A,21Bと上下方向において対向する壁部24Aa,24Baを有する。内導体22A,22Bは、上下方向に延びてディ電極21A,21Bと外導体24A,24Bの壁部24Aa,24Baとを連結する。内導体23A,23Bは、上下方向に延びてディ電極21A,21Bと外導体24A,24Bの壁部24Aa,24Baとを連結する。内導体22A,22Bはバレー領域15v1,15v3の内周側の領域に設けられ、内導体23A,23Bはバレー領域15v1,15v3の外周側の領域に設けられる。
【0025】
サイクロトロン1では、ポール4Aとポール4Bとの間に磁場を発生させると共に、キャビティ5,6に高周波電力が供給されることで、荷電粒子ビームが、加速されつつ、メディアンプレーンMP上の螺旋状の周回軌道Bを進行する。径方向の外周側に達した荷電粒子ビームは、図示されないマグネティックチャネルやデフレクタを通過し、ビーム引出ダクトを通じて外部に引き出される。
【0026】
図5に示すように、キャビティ6には、電圧検出部109が設けられる。電圧検出部109は、キャビティ6内の電圧を検出する。電圧検出部109としてループアンテナが採用されてよい。このようなループアンテナで構成される電圧検出部109は、上側キャビティ6Bの外導体24Bに取り付けされ、キャビティ6内の磁束が大きい内導体22B,23B付近に設置される。ただし、電圧検出部109としてループアンテナ以外のセンサが採用されてもよい。なお、電圧検出部109は、下側キャビティ6Aに設けられてもよい。また、電圧検出部109がキャビティ6に複数設けられることにより、キャビティ6内の複数箇所で電圧が監視されてもよい。また、電圧検出部109は、キャビティ5にも設けられる。電圧検出部109は、第1増幅部103及び制御部101に電気的に接続されており、検出結果を第1増幅部103及び制御部101に送信する。
【0027】
図1に戻り、上述のようなサイクロトロン1のキャビティ5,6に対して高周波電力を供給するための構成について説明する。粒子加速器システム100は、信号源102及び増幅部105によってキャビティ5,6へ高周波電力を供給する。なお、キャビティ5,6に対して信号源102及び増幅部105が一セット設けられている。一セットの信号源102及び増幅部105からの高周波電力は、キャビティ5,6の一方へ供給される。一方のキャビティへ高周波電力が供給されることで、他方のキャビティへも自動的に高周波電力が供給される。
【0028】
信号源102は、特定の周波数の高周波電力を出力する。信号源102は、小さい電力しか出力することができないが、周波数が所望の値に正確に合わせられた高周波電力を出力することができる。信号源102は、100MHz程度の周波数の高周波電力を出力する。信号源102は、制御部101に電気的に接続されており、制御部101からの制御信号に基づいて、所望の周波数の高周波電力を出力する。信号源102は、増幅部105の第1増幅部103に高周波電力を出力する。
【0029】
増幅部105は、信号源102からの高周波電力を増幅する機器である。増幅部105の構成について
図6及び
図7を参照して説明する。
図6は、増幅部105の詳細な構成を示すブロック図である。
図7は、増幅器110の内部構成を示すブロック図である。
図6に示すように、増幅部105は、第1増幅部103と、第2増幅部104と、分配部115と、を備える。
【0030】
第1増幅部103は、プリアンプと称される増幅部であり、信号源102からの高周波電力を増幅すると共に、電力の調整を行う。第1増幅部103として、半導体を用いたプリアンプが採用されてよい。第1増幅部103は、増幅した高周波電力を分配部115は、へ出力する。また、第1増幅部103はキャビティ5,6内の電圧検出部109(
図5参照)と電気的に接続されている。これにより、第1増幅部103にキャビティ5,6内の電圧がフィードバックされる。
【0031】
分配部115は、第1増幅部103の出力(増幅された高周波電力)を第2増幅部104のそれぞれの増幅器110へ分配する。分配部115は、複数の増幅器110と並列に接続されており、高周波電力を複数の増幅器110に対して並列に分配する。
【0032】
第2増幅部104は、メインアンプと称される増幅部である。第2増幅部104は、第1増幅部103で調整された高周波電力をサイクロトロン1のキャビティ5,6での荷電粒子の加速に必要とされる大きさまで増幅する。第2増幅部104は、半導体を用いた複数の増幅器110と、それぞれの増幅器110からの出力を合成する合成器111と、を備える。第2増幅部104が有する増幅器110の数は特に限定されず、キャビティ5,6で必要とされる高周波数電力の大きさによって適宜変更されるが、例えば10~50台程度の増幅器110を有する。
【0033】
それぞれの増幅器110は、分配部115で分配された第1増幅部103からの出力を増幅する。合成器111は、複数の増幅器110からの出力を合成する。合成器111は、増幅器110からの出力を複数段階で合成してもよい。例えば、
図6に示す例では、一段目の合成器111は、二台の増幅器110と並列接続されており、二台分の増幅器110からの出力を合成する。二段目の合成器111は、一段目の複数の合成器111と並列接続されており、複数台分の合成器111からの出力を合成することで、全部の増幅器110からの出力を合成した高周波電力をキャビティ5,6に出力する。
【0034】
図7に示すように、一台あたりの増幅器110は、複数の半導体アンプ122を備えている。それぞれの半導体アンプ122には、直流電源121が接続されており、当該直流電源121から直流電力が供給される。複数の半導体アンプ122には、分配部115から分配された高周波電力が入力される。これにより、それぞれの半導体アンプ122は、入力された高周波電力を増幅し、合成器123へ出力する。合成器123は、複数の半導体アンプ122と並列接続されているため、それぞれの半導体アンプ122からの出力を合成する。これにより、合成器123は、複数の半導体アンプ122からの出力を合成した高周波電力を、増幅器110一台あたりが増幅した高周波電力として出力する。なお、増幅器110内には、半導体アンプ122及び直流電源121の他、ファンなどの電子部品も含まれている。
【0035】
また、粒子加速器システム100は、複数の増幅器110の故障を検知する故障検知部113を備える。
図7に示すように、故障検知部113は、一台当たりの増幅器110に設けられている。故障検知部113は、増幅器110内の半導体アンプ122、直流電源、その他、ファンなどの電子部品の動作状況を監視し、何れかの電子部品で動作異常が生じた場合は、増幅器110の故障を検知する。故障検知部113は、制御部101に接続されており、故障を検知した場合は検知結果を制御部101に送信する。その他、故障検知部113として、各増幅器110の出力を監視するセンサを採用してもよい。このようなセンサを用いた場合、制御部101は、特定の増幅器110の出力が他の増幅器110の出力に比して大幅に低下した場合、特定の増幅器110の故障を検知できる。その他、故障検知部113として、温度センサ、流量計、漏水センサ、又は、ファン若しくはDC電源に含まれる異常検知モニタのようなものを採用してもよい。
【0036】
制御部101は、粒子加速器システム100全体の動作を制御する。制御部101は、信号源102、増幅部105の第1増幅部103、増幅部105の第2増幅部104の動作を制御する。制御部101は、粒子加速器システム100全体を統括的に管理するECU[Electronic Control Unit]を備えている。ECUは、CPU[Central Processing Unit]、ROM[Read Only Memory]、RAM[Random Access Memory]、CAN[Controller Area Network]通信回路等を有する電子制御ユニットである。ECUでは、例えば、ROMに記憶されているプログラムをRAMにロードし、RAMにロードされたプログラムをCPUで実行することにより各種の機能を実現する。ECUは、複数の電子ユニットから構成されていてもよい。
【0037】
また、制御部101は、ユーザが粒子加速器システム100を操作するための端末108と電気的に接続されている。端末108は、一般的なパーソナルコンピュータなどから構成されており、ユーザに情報を表示するディスプレイ、及びユーザが情報を入力するインターフェース(マウス、キーボード、タッチパネル)を備えている。制御部101は、各種情報を端末108を介してユーザに提示し、ユーザの端末108を介した入力に基づいて各種動作を行う。
【0038】
制御部101は、故障検知部113による検知結果に基づいて、故障した増幅器110を停止する。例えば、制御部101は、故障した増幅器110に対応した故障検知部113から検知結果を受信した場合、該当する増幅器110へ動作を停止する旨の制御信号を送信する。また、制御部101は、使用可能な増幅器110の数、及び使用不可能な増幅器110の数を把握することができる。制御部101は、故障した増幅器110を端末108を介してユーザに通知する。なお、増幅器110は、故障検知部113で故障を検知した場合は、制御部101からの制御信号を待たずに、直ちに増幅のための動作を停止してもよい。
【0039】
制御部101は、使用可能な増幅器110の数に基づいて、それぞれの増幅器110の出力を調整する。第2増幅部104の全ての増幅器110が使用可能である場合は、制御部101は、全ての増幅器110からの出力の合計が、キャビティ5,6で要求されている高周波電力となるように、各増幅器110の出力を調整する。このときの出力を「通常状態での出力」と称する場合がある。故障により使用不可能となった増幅器110が発生した場合、使用可能な増幅器110の数が減る。この場合、制御部101は、使用不可能となった増幅器110の出力を補うように、残りの増幅器110の出力を増加させる。すなわち、制御部101は、使用可能な増幅器110の出力が通常状態の出力より高くなるように調整を行う。例えば、増幅器110の全体の台数をN台とし、使用不可能となった増幅器110の台数をn台とした場合、制御部101は、(N-n)台の増幅器110からの出力の合計が、キャビティ5,6で要求されている高周波電力となるように、各増幅器110の出力を調整する。なお、故障した増幅器110が復帰した場合、再び全ての増幅器110が使用可能な状態となる。この場合、制御部101は、それぞれの増幅器110の出力が通常状態の出力となるように調整する。
【0040】
制御部101は、使用不可能となった増幅器110が所定台数となった場合に、第2増幅部104の動作を停止させてよい。例えば、制御部101は、「使用不可能となった増幅器110の台数n=2」となったタイミングで、第2増幅部104の動作を停止してよい。このとき、制御部101は、増幅器110の交換作業を促す通知を行ってよい。
【0041】
制御部101がそれぞれの増幅器110の出力を調整する方法は特に限定されない。例えば、制御部101は、使用可能な増幅器110の数に応じて、第1増幅部103での増幅率を調整してよい。すなわち、制御部101は、使用可能な増幅器110の数が減った場合、第1増幅部103での増幅率を高くすることで、第1増幅部103の出力を増加させる。これにより、一台あたり増幅器110に入力される信号(第1増幅部103で増幅された高周波電力)が大きくなる。それに伴い、一台あたりの増幅器110の出力が増加する。なお、通常状態よりも大きくなった第1増幅部103の信号は、故障した増幅器110にも入力されるが、当該増幅器110は増幅動作を停止しているため、出力を行わない。
【0042】
また、制御部101は、使用可能な増幅器110の数に応じて、第2増幅部104のそれぞれの増幅器110での増幅率を調整してよい。すなわち、制御部101は、使用可能な増幅器110の数が減った場合、一台あたり増幅器110での増幅率自体を高くすることで、一台あたりの増幅器110の出力を増加させる。なお、制御部101は、全ての増幅器110の増幅率を調整してよい。この場合、故障した増幅器110の増幅率も通常状態より高くなるが、当該増幅器110は増幅動作を停止しているため、出力を行わない。制御部101は、故障した増幅器110の増幅率は調整せず、使用可能な増幅率のみを調整してもよい。
【0043】
制御部101が、どのようなタイミングで、上述の出力調整制御を行うかは特に限定されない。例えば、制御部101は、故障検知部113による検知結果に基づいて、それぞれの増幅器110の出力を調整してよい。具体的には、制御部101は、故障検知部113から特定の増幅器110の故障の検知結果を受信した場合、故障した増幅器110の台数分だけ第2増幅部104の出力が低下することを把握できる。従って、制御部101は、残りの使用可能な増幅器110で必要な出力を得られるように、各増幅器110の出力が通常状態の出力より高くなるように調整を行う。
【0044】
また、制御部101は、使用不可能な増幅器110が存在することにより電圧検出部109で検出される電圧が低下する場合、当該電圧が所定の設定値となるように、それぞれの増幅器110の出力を調整してもよい。全ての増幅器110が使用可能な状態では、電圧検出部109で検出される電圧は定格値となる。これに対し、故障によって使用不可能となる増幅器110が発生した場合、電圧検出部109で検出される電圧は、通常状態における値、すなわち定格値よりも低下する。制御部101は、このような電圧検出部109で検出される電圧の低下を把握したタイミングで、各増幅器110の出力が通常状態の出力より高くなり、電圧検出部109で検出される電圧が定格値となるように、調整する。なお、電圧検出部109の電圧を用いた出力調整制御が行われる場合、制御部101は、故障検知部113からの故障検知結果を考慮して制御を行ってもよいが、考慮せずに制御を行ってもよい。
【0045】
一例として、制御部101が、電圧検出部109で検出される電圧が低下したときに、第1増幅部103の出力を調整する場合の制御内容について説明する。制御部101は、使用不可能な増幅器110が存在することにより電圧検出部109で検出される電圧が低下する場合、当該電圧が所定の設定値となるように、それぞれの増幅器110の出力を調整してもよい。制御部101は、電圧検出部109の検出結果をラインL2を介して取得する。制御部101は、このような電圧検出部109で検出される電圧の低下を把握したタイミングで、電圧検出部109で検出される電圧が定格値となるように、第1増幅部103の増幅率を調整する。なお、第1増幅部103の増幅率を調整する場合、電圧検出部109の値が定格値となるまで繰り返し増幅率が調整されてよい。または、電圧検出部109の値が定格値からどの程度乖離したかが把握され、当該乖離からどの程度増幅率を増加させればよいかの演算がなされ、増加率が演算結果に基づいて変更されてよい。また、増加率の調整処理は、第1増幅部103自身の内部に含まれる制御部によってなされてもよい。この場合、第1増幅部103は、電圧検出部109の検出結果をラインL1を介して取得する。そして、第1増幅部103は、内部の制御部によって、上述したような増幅率の調整と同様の処理を行う。このときの第1増幅部103の内部に含まれる制御部は、請求項における「制御部」の一部を構成するものとして機能する。上述のような制御は、端末108でのユーザの入力に基づいて行われてよい。例えば、動作不能となった増幅器110を端末108で表示し、ユーザが指示入力を行う事に基づき、制御部101(又は第1増幅部103の内部の制御部)が上記制御を行ってよい。
【0046】
次に、本実施形態に係る粒子加速器システム100の作用・効果について説明する。
【0047】
まず、
図8を参照して、比較例に係る増幅部200について説明する。増幅部200は、プリアンプ201と、メインアンプ202を備えている。また、メインアンプ202は、真空管を用いた増幅器203を備えている。このような真空管を用いた増幅器203を複数用いる場合、各増幅器203は直列で接続される。したがって、複数の増幅器203の中の一つでも故障した場合、増幅部200全体を停止しなくてはならず、サイクロトロン自体の稼働を停止する必要があった。
【0048】
これに対し、本実施形態に係る粒子加速器システム100は、信号源102からの高周波電力を増幅する増幅部105を備える。また、増幅部105は、半導体を用いた複数の増幅器110と、それぞれの増幅器110からの出力を合成する合成器111と、を備える。増幅器110として半導体を用いたものを採用することで、増幅部105は、信号源102からの高周波電力を複数の増幅器110を並列で増幅させることができる。そして、増幅部105は、それぞれの増幅器110からの出力を合成器111で合成することで、大電力をサイクロトロンに供給することができる。ここで、例えば、複数の増幅器110のうち、一部の増幅器110が故障して使用不可能となった場合、サイクロトロンに供給される高周波電力が低下する。これに対し、制御部101は、使用可能な増幅器110の数に基づいて、それぞれの増幅器110の出力を調整する。制御部101は、故障していない残りの増幅器110、すなわち使用可能な増幅器110が、故障した増幅器110の出力を補うことができる。これにより、増幅部105は、サイクロトロンを停止させることなく、サイクロトロン1の稼働に必要な高周波電力を供給し続けることができる。以上により、サイクロトロン1の稼働効率を向上することができる。
【0049】
また、増幅部105は、信号源102からの高周波電力を増幅する第1増幅部103と、複数の増幅器110を備える第2増幅部104と、第1増幅部103の出力を第2増幅部104のそれぞれの増幅器110へ分配する分配部140と、を備え、制御部101は、使用可能な増幅器110の数に応じて、第1増幅部103での増幅率を調整してよい。これにより、制御部101は、第1増幅部103の出力調整を行うだけで、複数の増幅器110の調整を一括で行うことができる。この場合、個々の増幅器110の調整を行う場合にして、出力の調整が容易になる。
【0050】
増幅部105は、信号源102からの高周波電力を増幅する第1増幅部103と、複数の増幅器110を備える第2増幅部104と、第1増幅部103の出力を第2増幅部104のそれぞれの増幅器110へ分配する分配部140と、を備え、制御部101は、使用可能な増幅器110の数に応じて、第2増幅部104のそれぞれの増幅器110での増幅率を調整してよい。
【0051】
粒子加速器システム100は、複数の増幅器110の故障を検知する故障検知部113を更に備え、制御部101は、故障検知部113による検知結果に基づいて、それぞれの増幅器110の出力を調整してよい。この場合、制御部101は、複数の増幅器110の故障状況を直接把握した上で、増幅器110の出力の調整を行うことができる。
【0052】
粒子加速器はサイクロトロン1であり、サイクロトロン1は、増幅部105で増幅された高周波電力を供給されるキャビティ5,6を有し、キャビティ5,6には、キャビティ5,6内の電圧を検出する電圧検出部109が設けられ、制御部101は、使用不可能な増幅器110が存在することにより電圧検出部109で検出される電圧が低下する場合、当該電圧が所定の設定値となるように、それぞれの増幅器110の出力を調整してよい。このように、制御部101が、キャビティ5,6内の電圧に基づいて、増幅器110の出力の調整を行うことで、キャビティ5,6内において必要とされる電圧を正確に確保することができる。
【0053】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、粒子加速器はサイクロトロンに限定されず、線形加速器やシンクロトロンなどを採用してもよい。
【符号の説明】
【0054】
1…サイクロトロン(粒子加速器)5,6…キャビティ、100…粒子加速器システム、101…制御部、102…信号源、103…第1増幅部、104…第2増幅部、105…増幅部、109…電圧検出部、110…増幅器、111…合成器、113…故障検知部、140…分配部。