(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-08
(45)【発行日】2023-08-17
(54)【発明の名称】蓄電デバイスの検査装置及び検査方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/3835 20190101AFI20230809BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20230809BHJP
H01M 10/44 20060101ALI20230809BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20230809BHJP
【FI】
G01R31/3835
H02J7/00 Q
H01M10/44 Q
H01M10/48 P
(21)【出願番号】P 2019139656
(22)【出願日】2019-07-30
【審査請求日】2022-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000227180
【氏名又は名称】日置電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 哲哉
【審査官】永井 皓喜
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/013898(WO,A1)
【文献】特開2012-141166(JP,A)
【文献】特開2019-113450(JP,A)
【文献】特開2008-288192(JP,A)
【文献】特開2016-122531(JP,A)
【文献】特開2005-45950(JP,A)
【文献】特開2019-113469(JP,A)
【文献】特開2008-123961(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36
H02J 7/00
H01M 10/44
H01M 10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電デバイスにおける自己放電の検査を行うための蓄電デバイスの検査装置であって、
前記蓄電デバイスの自己放電電流の基準値に基づき定められた大きさの定電流を
順次前記蓄電デバイスに供給する定電流供給手段と、
前記蓄電デバイスの電圧を、前記定電流供給手段から定電流が供給された状態を含み二回以上測定する電圧測定手段と、
測定した前記蓄電デバイスの電圧に基づき前記蓄電デバイスの電圧変化を検出し、当該電圧変化が正常範囲内である場合に前記蓄電デバイスが正常であると判定する制御手段と、を備え
、
前記定電流の第一の電流値は、前記自己放電電流の基準値に対して一倍又は数倍に定められ、前記定電流の第二の電流値は、前記自己放電電流の基準値に対して数十倍以上に定められる、
蓄電デバイスの検査装置。
【請求項2】
蓄電デバイスにおける自己放電の検査を行うための蓄電デバイスの検査装置であって、
前記蓄電デバイスの自己放電電流の基準値に基づき定められた大きさの定電流を前記蓄電デバイスに供給する定電流供給手段と、
前記蓄電デバイスの電圧を、前記定電流供給手段から定電流が供給された状態を含み二回以上測定する電圧測定手段と、
測定した前記蓄電デバイスの電圧に基づき前記蓄電デバイスの電圧変化を検出し、当該電圧変化が正常範囲内である場合に前記蓄電デバイスが正常であると判定する制御手段と、
前記蓄電デバイスに供給される前記定電流
の極性を切り替える切替手段
と、を備え、
前記制御手段は、前記蓄電デバイスに供給される前記定電流ごとに前記電圧測定手段が測定した前記蓄電デバイスの電圧変化に基づいて、前記蓄電デバイスが正常であるか、異常な状態であるかを判定する、
蓄電デバイスの検査装置。
【請求項3】
請求項
1に記載の蓄電デバイスの検査装置であって、
前記電圧測定手段は、定電流の供給開始時の初期電圧と、前記定電流供給手段から定電流が供給された状態における充電電圧と、を測定し、
前記制御手段は、前記初期電圧と前記充電電圧とに基づき前記蓄電デバイスの電圧変化を検出する、
蓄電デバイスの検査装置。
【請求項4】
蓄電デバイスにおける自己放電の検査を行うための蓄電デバイスの検査方法であって、
前記蓄電デバイスの自己放電電流の基準値に基づき定められた大きさの定電流を
順次前記蓄電デバイスに供給し、
前記蓄電デバイスの電圧を、定電流が供給された状態を含み二回以上測定し、
測定した前記蓄電デバイスの電圧に基づき前記蓄電デバイスの電圧変化を検出し、当該電圧変化が正常範囲内である場合に前記蓄電デバイスが正常であると判定
し、
前記定電流の第一の電流値は、前記自己放電電流の基準値に対して一倍又は数倍に定められ、前記定電流の第二の電流値は、前記自己放電電流の基準値に対して数十倍以上に定められる、
蓄電デバイスの検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイスの検査装置及び検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、エージング時間における二次電池の電圧降下量に基づいて二次電池の良否判定を行う検査方法が開示されている。この検査方法では、正極及び負極を開放した状態で二次電池を数日から数週間保存し、自己放電により電圧が低下した後に電圧を測定することで、二次電池の良否判定を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の検査方法では、二次電池の良否判定を行うために、自己放電により電圧が低下するまでエージング時間として数日から数週間の間、二次電池を保存する必要がある。
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、短い時間で蓄電デバイスの良否判定を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によれば、蓄電デバイスにおける自己放電の検査を行うための蓄電デバイスの検査装置は、前記蓄電デバイスに定電流を供給する定電流供給手段と、前記蓄電デバイスの電圧を、前記定電流供給手段から定電流が供給された状態を含み二回以上測定する電圧測定手段と、測定した前記蓄電デバイスの電圧に基づき前記蓄電デバイスの電圧変化を検出し、当該電圧変化が正常範囲内である場合に前記蓄電デバイスが正常であると判定する制御手段と、を備える。
【0007】
本発明の他の態様によれば、蓄電デバイスにおける自己放電の検査を行うための蓄電デバイスの検査方法は、前記蓄電デバイスに定電流を供給し、前記蓄電デバイスの電圧を、前記定電流源から定電流が供給された状態を含み二回以上測定し、測定した前記蓄電デバイスの電圧に基づき前記蓄電デバイスの電圧変化を検出し、当該電圧変化が正常範囲内である場合に前記蓄電デバイスが正常であると判定する。
【発明の効果】
【0008】
この態様によれば、蓄電デバイスに定電流を供給し、定電流が供給された状態を含み二回以上電圧を測定して検出した蓄電デバイスの電圧変化が正常範囲内である場合に、蓄電デバイスが正常であると判定する。そのため、自己放電により蓄電デバイスの電圧が低下するまで待つ必要がないので、蓄電デバイスの良否判定にかかる時間が短い。したがって、短い時間で蓄電デバイスの良否判定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係る蓄電デバイスの検査装置の構成を示す図である。
【
図2】
図2は、蓄電デバイスの検査装置を用いた検査方法のフローチャートである。
【
図3】
図3は、蓄電デバイスの充電時間に対する電圧変化の例を示す図である。
【
図4】
図4は、第2実施形態に係るコントローラの機能構成を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、第2実施形態に係る検査方法のフローチャートである。
【
図6】
図6は、蓄電デバイスに充電される定電流の大きさを切り替えた場合における充電時間に対する電圧変化の例を示す図である。
【
図7】
図7は、第3実施形態に係る検査方法のフローチャートである。
【
図8】
図8は、蓄電デバイスに供給される定電流の向きを切り替えた場合における供給時間に対する電圧変化の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1実施形態)
以下、
図1から
図3を参照して、本発明の第1実施形態に係る蓄電デバイス10の検査装置(以下、単に「検査装置」と称する。)1について説明する。
【0011】
まず、
図1を参照して、蓄電デバイス10の構成及び検査装置1の構成について説明する。
図1は、検査装置1の構成を示す図である。
【0012】
蓄電デバイス10は、例えば、リチウムイオン二次電池の単一の蓄電セルである。蓄電デバイス10は、二次電池(化学電池)に限らず、例えば、電気二重層キャパシタであってもよい。また、蓄電デバイス10は、複数の蓄電セルが直列に接続されてなる蓄電モジュールであってもよい。
【0013】
蓄電デバイス10は、
図1のように、等価回路モデルによって示される。蓄電デバイス10は、等価回路モデルによれば、正極電極11と、負極電極12と、蓄電部13と、内部抵抗14と、並列抵抗15と、を有する。
【0014】
蓄電部13は、蓄電デバイス10のセル電圧よりも高い電圧が印加されると、電荷が蓄積されて充電される。蓄電部13では、充電時に流れる電流が比較的小さく、印加電圧が過電圧よりも低い場合には電気二重層反応が起こり、充電時に流れる電流が比較的大きく、印加電圧が過電圧を超える場合には化学反応が起こる。ここにいう蓄電デバイス10の過電圧とは、電気化学反応において、熱力学的に求められる反応の理論電位(平衡電極電位)と、実際に反応が進行するときの正極電極11の電位との差である。ここでは、蓄電部13の静電容量をCst[F]とし、蓄電部13に流れる電流をIst[A]とする。
【0015】
内部抵抗14は、正極電極11と負極電極12との間で、蓄電部13に直列に接続される直列抵抗である。ここでは、内部抵抗14の抵抗値をRir[mΩ]とし、内部抵抗14に流れる電流をIir[A]とする。
【0016】
並列抵抗15は、蓄電部13に並列に接続される放電抵抗である。並列抵抗15には、自己放電電流、いわゆる漏れ電流が流れる。ここでは、並列抵抗15の抵抗値をRpr[kΩ]とし、並列抵抗15に流れる電流をIpr[A]とする。
【0017】
検査装置1は、蓄電デバイス10における自己放電の検査を行い、蓄電デバイス10が正常であるか否かを検査するための装置である。検査装置1は、定電流供給手段としての定電流源2と、電圧測定手段としての電圧センサ3と、制御手段としてのコントローラ4と、表示部5と、を備える。
【0018】
定電流源2は、蓄電デバイス10に自己放電電流を検出するための定電流を供給して蓄電デバイス10を充電する直流電源である。定電流源2は、蓄電デバイス10に流れる電源の電流を所定の大きさに維持する。定電流源2は、蓄電デバイス10にて過電圧よりも小さく、主に電気二重層反応が発生する大きさの定電流を供給して蓄電デバイス10を充電する。このとき、定電流源2から供給される定電流は、例えば10[μA]である。
【0019】
ここで、蓄電デバイス10に定電圧を印加して蓄電デバイス10を充電する場合には、蓄電デバイス10にて過電圧よりも小さく、主に電気二重層反応が発生する大きさの定電圧を安定して印加することは困難である。これに対して、定電流源2を用いて比較的小さい電流を供給することは容易である。よって、検査装置1では、定電流源2を用いることで、蓄電デバイス10にて過電圧よりも小さく、主に電気二重層反応が発生する大きさの定電流を安定して供給できる。
【0020】
電圧センサ3は、蓄電デバイス10の電圧を測定するものである。電圧センサ3は、蓄電デバイス10の電圧を、定電流源2から定電流が供給された状態を含み二回以上測定する。電圧センサ3は、検出した蓄電デバイス10の電圧値に対応する電気信号をコントローラ4に出力する。
【0021】
コントローラ4は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。コントローラ4は、ROMに記憶されたプログラムをCPUによって読み出すことで、検査装置1の各種動作を制御する。コントローラ4は、複数のマイクロコンピュータで構成することも可能である。
【0022】
コントローラ4は、定電流源2からの電源の供給を制御する。コントローラ4には、電圧センサ3からの電気信号が入力される。コントローラ4は、測定した蓄電デバイス10の電圧に基づき蓄電デバイス10の電圧変化を検出する。コントローラ4は、蓄電デバイス10の電圧変化が正常範囲内である場合に、蓄電デバイス10が正常であると判定し、蓄電デバイス10の電圧変化が正常範囲内でない場合に、蓄電デバイス10が異常であると判定する。このように、コントローラ4は、蓄電デバイス10の良否を判定する。
【0023】
表示部5は、コントローラ4による検査結果などの情報を表示して使用者に通知する。表示部5は、例えばタッチスクリーンであり、使用者が情報を視認可能、かつ使用者が操作可能なように構成される。
【0024】
次に、
図2及び
図3を参照して、検査装置1を用いた蓄電デバイス10における自己放電の検査を行うための蓄電デバイス10の検査方法について説明する。
図2は、検査装置1を用いた検査方法のフローチャートである。
図3は、蓄電デバイス10の充電時間に対する電圧変化の例を示す図である。
【0025】
検査装置1は、例えば雰囲気温度を一定に維持可能な恒温槽の中に蓄電デバイス10を収容するなどして、蓄電デバイス10の温度変化を抑制した環境にて検査を実行する。
【0026】
ステップS1では、検査装置1を蓄電デバイス10に接続して、定電流源2から定電流を供給して充電を開始し、蓄電デバイス10の検査を開始する。
【0027】
ステップS2では、コントローラ4は、電圧センサ3に蓄電デバイス10の電圧(初期電圧)を測定させる。コントローラ4には、電圧センサ3が検出した蓄電デバイス10の電圧値に対応する電気信号が入力される。
【0028】
ステップS3では、コントローラ4は、充電を開始してからの経過時間である充電時間が所定の時間を超えたか否かを判定する。所定の時間は、蓄電デバイス10が正常な場合と異常な場合とで電圧の変化に差が現れる程度の長さに予め設定される。ステップS3にて、充電時間が所定の時間を超えたと判定された場合には、ステップS4へ移行する。一方、ステップS3にて、充電時間が所定の時間を超えていないと判定された場合には、ステップS2へ戻って再び蓄電デバイス10の電圧を測定する。
【0029】
このように、ステップS2及びステップS3を実行することにより、電圧センサ3は、定電流の供給開始時(充電開始時)の初期電圧と、定電流源2から定電流が供給された状態における充電電圧と、を測定する。即ち、電圧センサ3は、蓄電デバイス10の電圧を、定電流源2から定電流が供給された状態を含み二回以上測定する。
【0030】
ステップS4では、コントローラ4は、電圧センサ3によって測定した蓄電デバイス10の電圧に基づき、蓄電デバイス10の電圧変化を検出する。具体的には、コントローラ4は、充電開始時の初期電圧と、定電流源2から定電流が供給された状態における充電電圧と、に基づき、蓄電デバイス10の電圧変化の近似直線を求める。より詳細には、コントローラ4は、制御周期ごとに測定した蓄電デバイス10の電圧値に基づき、例えば最小二乗法によって電圧変化の近似直線を求める。
【0031】
これに代えて、コントローラ4は、充電開始時の初期電圧と、定電流源2から定電流が供給された状態における充電電圧との差から電圧変化を検出するようにしてもよい。この場合、電圧センサ3によって蓄電デバイス10の電圧を二回測定すればよいので、例えばマルチプレクサで切り換えて電圧測定を行うことも可能である。よって、検査装置1を簡素化することができる。
【0032】
ステップS5では、近似直線の傾きが所定範囲内であるか否かを判定する。ステップS5にて、近似直線の傾きが上限値と下限値との間の所定範囲内であると判定された場合には、蓄電デバイス10は正常な状態であるので、ステップS6へ移行する。一方、ステップS5にて、近似直線の傾きが所定範囲内ではない、即ち所定範囲の上限値よりも大きいか、又は所定範囲の下限値よりも小さいと判定された場合には、蓄電デバイス10は異常な状態であるので、ステップS7へ移行する。
【0033】
ここで、
図3の具体例を参照して、ステップS4及びステップS5の処理について説明する。
図3の横軸は、蓄電デバイス10の充電を開始してからの経過時間である充電時間[s]であり、縦軸は、電圧センサ3が検出した電圧の初期電圧との差[μV]である。
【0034】
図3に示す実線のデータは、蓄電デバイス10が正常な状態であるときの電圧変化であり、実線の直線は、ステップS4の処理によって求めた電圧変化の近似直線Lnである。一方、
図3に示す点線のデータは、蓄電デバイス10が異常な状態であるときの電圧変化であり、破線の直線は、ステップS4の処理によって求めた電圧変化の近似直線Laである。また、近似直線Lnの傾きをRnとし、近似直線Laの傾きをRaとする。
【0035】
また、
図3に示す二本の二点鎖線の直線は、近似直線の傾きの上限値Rmaxと下限値Rminとを各々示すものであり、二本の二点鎖線の直線の間が、蓄電デバイス10が正常な状態における傾きである。なお、近似直線の傾きの上限値Rmax及び下限値Rminは、正常な状態の蓄電デバイス10を用いて予め実測して求めた近似直線の例えば±10%に設定される。
【0036】
図3を参照すると、実線で示す蓄電デバイス10の電圧変化の近似直線Ln(傾きRn)は、近似直線の傾きの上限値Rmaxと下限値Rminとの間に入っている。よって、コントローラ4は、蓄電デバイス10が正常な状態であると判定する。一方、点線で示す蓄電デバイス10の電圧変化の近似直線La(傾きRa)は、近似直線の傾きの上限値Rmaxと下限値Rminとの間に入っていない。よって、コントローラ4は、蓄電デバイス10が異常な状態であると判定する。
【0037】
このように、コントローラ4は、近似直線の傾きが上限値Rmaxと下限値Rminとの間に入っているか否かに基づいて、蓄電デバイス10が正常な状態であるか、あるいは異常な状態であるかを判定する。即ち、コントローラ4は、測定した蓄電デバイス10の電圧に基づき蓄電デバイス10の電圧変化を検出し、当該電圧変化が正常範囲内である場合に蓄電デバイス10が正常であると判定する。
【0038】
なお、
図3に示す例では、蓄電デバイス10の良否判定に600[s]の時間をかけているが、実線で示す蓄電デバイス10の電圧変化の近似直線Lnと破線で示す蓄電デバイス10の電圧変化の近似直線Laとの傾きの差は、200[s]程度が経過すれば明確に確認できる。このように、検査装置1では、蓄電デバイス10の良否判定を数分程度の短い時間で実行することができる。
【0039】
以上のように、定電流源2から供給される定電流によって蓄電デバイス10を充電し、定電流が供給された状態を含み二回以上電圧を測定して検出した蓄電デバイス10の電圧変化が正常範囲内である場合に、蓄電デバイス10が正常であると判定する。そのため、自己放電により蓄電デバイス10の電圧が低下するまで待つ必要がないので、蓄電デバイス10の良否判定にかかる時間が短い。したがって、短い時間で蓄電デバイス10の良否判定を行うことができる。
【0040】
このとき、定電流源2は、蓄電デバイス10にて過電圧よりも小さく、主に電気二重層反応が発生する大きさの定電流を供給して蓄電デバイス10を充電する。
【0041】
よって、定電流の大きさが小さいので、内部抵抗14に流れる電流Iir[A]に対して蓄電部13に流れる電流Ist[A]の割合が大きい。そのため、並列抵抗15の有無による充電曲線の傾きの差が大きくなるので、蓄電デバイス10が正常であるか否かの検出が容易である。
【0042】
ステップS6では、コントローラ4は、蓄電デバイス10が正常な状態であるとして、表示部5にその旨を表示して使用者に通知する。一方、ステップS7では、コントローラ4は、蓄電デバイス10が異常な状態であるとして、表示部5にその旨を表示して使用者に通知する。
【0043】
以上の処理を実行することで、蓄電デバイス10の良否判定が完了する。
【0044】
次に、第1実施形態による作用効果について説明する。
【0045】
蓄電デバイス10における自己放電の検査を行うための蓄電デバイス10の検査装置1は、蓄電デバイス10に定電流を供給する定電流源2と、蓄電デバイス10の電圧を、定電流源2から定電流が供給された状態を含み二回以上測定する電圧センサ3と、測定した蓄電デバイス10の電圧に基づき蓄電デバイス10の電圧変化を検出し、当該電圧変化が正常範囲内である場合に蓄電デバイス10が正常であると判定するコントローラ4と、を備える。
【0046】
また、蓄電デバイス10における自己放電の検査を行うための蓄電デバイス10の検査方法は、蓄電デバイス10に定電流を供給し、蓄電デバイス10の電圧を、定電流源2から定電流が供給された状態を含み二回以上測定し、測定した蓄電デバイス10の電圧に基づき蓄電デバイス10の電圧変化を検出し、当該電圧変化が正常範囲内である場合に蓄電デバイス10が正常であると判定する。
【0047】
これらの構成によれば、定電流源2から蓄電デバイス10に定電流を供給し、定電流が供給された状態を含み二回以上電圧を測定して検出した蓄電デバイス10の電圧変化が正常範囲内である場合に、蓄電デバイス10が正常であると判定する。そのため、自己放電により蓄電デバイス10の電圧が低下するまで待つ必要がないので、蓄電デバイス10の良否判定にかかる時間が短い。したがって、短い時間で蓄電デバイス10の良否判定を行うことができる。
【0048】
また、蓄電デバイス10に比較的低い定電圧を供給する場合と比較して、定電流源2を用いて比較的小さい電流を供給することは容易である。よって、検査装置1では、定電流源2を用いることで、蓄電デバイス10にて過電圧よりも小さく、主に電気二重層反応が発生する大きさの定電流を安定して供給できる。
【0049】
また、定電流源2は、蓄電デバイス10にて過電圧よりも小さく、主に電気二重層反応が発生する大きさの定電流を供給して蓄電デバイス10を充電する。
【0050】
この構成によれば、定電流の大きさが小さいので、内部抵抗14に流れる電流Iir[A]に対して蓄電部13に流れる電流Ist[A]の割合が大きくなる。そのため、並列抵抗15の有無による充電曲線の傾きの差が大きくなるので、蓄電デバイス10が正常であるか否かの検出が容易である。
【0051】
また、電圧センサ3は、定電流の供給開始時の初期電圧と、定電流源2から定電流が供給された状態における充電電圧と、を測定し、コントローラ4は、初期電圧と充電電圧とに基づき蓄電デバイス10の電圧変化を検出する。
【0052】
この構成によれば、コントローラ4は、定電流の供給開始時の初期電圧と、定電流源2から定電流が供給された状態における充電電圧との差から電圧変化を検出する。この場合、電圧センサ3によって蓄電デバイス10の電圧を二回測定すればよいので、例えばマルチプレクサで切り換えて電圧測定を行うことも可能である。よって、検査装置1を簡素化することができる。
【0053】
上記実施形態では、電圧センサ3は、蓄電デバイス10の充電を開始してから初期電圧として蓄電デバイス10の電圧を測定したが、これに代えて蓄電デバイス10の充電を開始する前に、電圧センサ3が初期電圧として蓄電デバイス10の電圧を測定してもよい。この場合であっても、蓄電デバイス10の電圧を、定電流が供給された状態を含み二回以上測定することができるので、電圧変化の近似直線を求めることができる。
【0054】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る検査装置1について説明する。
図4は、第2実施形態に係るコントローラ4の機能構成を示すブロック図である。
【0055】
本実施形態のコントローラ4は、蓄電デバイス10に電流値が異なる定電流を順次供給する定電流源2と、蓄電デバイス10に供給される定電流ごとに蓄電デバイス10の電圧を測定する電圧センサ3と、を用いて蓄電デバイス10を検査する処理を実行する。
【0056】
具体的には、コントローラ4は、定電流ごとに電圧センサ3が測定した蓄電デバイス10の電圧変化に基づいて、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprが流れる放電抵抗Rpr又は自己放電電流Iprを演算する。
【0057】
このように、本実施形態のコントローラ4を含む検査装置1は、蓄電デバイス10の自己放電電流Ipr又は放電抵抗Rprを測定する測定装置を構成する。以下では、自己放電電流Ipr及び放電抵抗Rprの少なくとも一方のことを「自己放電に関するパラメータ」とも称する。
【0058】
コントローラ4は、操作受付部41と、電流切替部42と、電流指令部43と、電圧取得部44と、記憶部45と、演算部46と、デバイス判定部47と、を備える。記憶部45は、少なくとも二つの電流値を記憶する定電流値記憶部451と、電圧センサ3にて測定される蓄電デバイス10の電圧の変化を記憶する電圧変化記憶部452と、を備える。
【0059】
操作受付部41は、キーボード及びマウスなどの入力装置に対するユーザの入力操作によって生成される操作情報を受け付ける。操作受付部41は、蓄電デバイス10の検査処理の実行を指示する操作情報を受け付けると、蓄電デバイス10に定電流を供給するための制御信号を電流切替部42に出力する。
【0060】
電流切替部42は、蓄電デバイス10に供給される定電流を切り替える切替手段を構成する。本実施形態の電流切替部42は、操作受付部41から上記制御信号を受信すると、定電流値記憶部451から、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを検出するための第一の電流値を取得し、取得した第一の電流値を電流指令部43に出力する。
【0061】
上記第一の電流値は、第1実施形態のように、蓄電デバイス10に定電流を供給して蓄電デバイス10を充電する際に、蓄電デバイス10にて過電圧よりも小さく、主に電気二重層反応が発生する大きさに設定される。具体的には、第一の電流値は、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprの基準値に対して一倍又は数倍に設定される。例えば、第一の電流値は、自己放電電流Iprの基準値を一倍した10[μA]に設定される。
【0062】
自己放電電流Iprの基準値は、既知の情報であり、例えば、多数の蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを集計した統計データ、又は、電気特性が正常である特定の蓄電デバイス10の自己放電電流Iprの試験結果などを用いて予め定められる。
【0063】
電流切替部42は、電流指令部43に第一の電流値を出力した後、定電流源2から蓄電デバイス10に供給される定電流を切り替えるために所定の切替え条件を満たすか否かを判定する。
【0064】
例えば、電流切替部42は、第1実施形態のように、定電流源2から第一の電流値を示す定電流を蓄電デバイス10に供給してからの経過時間である充電時間が所定の時間を超えた場合に、切替え条件を満たすと判定する。あるいは、電流切替部42は、ユーザの入力操作によって定電流を切り替えるための制御信号を操作受付部41から受信した場合に、切替え条件を満たすと判定してもよい。
【0065】
電流切替部42は、所定の切替え条件を満たすと判定した場合には、第一の電流値よりも大きな第二の電流値を定電流値記憶部451から取得し、取得した第二の電流値を電流指令部43に出力する。このように、電流切替部42は、蓄電デバイス10に供給される定電流を、第一の電流値を示す定電流と、第二の電流値を示す定電流と、の間で切り替える。以下では、第一の電流値を示す定電流を、単に「第一の定電流」とも称し、第二の電流値を示す定電流を、単に「第二の定電流」とも称する。
【0066】
上記第二の電流値は、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprの基準値に対して数十倍以上に設定される。例えば、第二の電流値は、自己放電電流Iprの基準値の五十倍に設定される。この第二の電流値は、電流切替部42によって取得されて電流指令部43に出力される。
【0067】
電流指令部43は、電流切替部42から第一又は第二の電流値を取得すると、取得した電流値を示す定電流の供給を指示するための指令信号を定電流源2に送信する。これにより、定電流源2は、指令信号によって指示された電流値を示す定電流を蓄電デバイス10に供給する。
【0068】
本実施形態において定電流源2は、蓄電デバイス10に供給される定電流を所定の時間だけ第一の電流値に維持した後に、第二の電流値に切り替える。即ち、定電流源2は、蓄電デバイス10に対して所定の時間だけ第一の定電流を供給し、その後、特定の時間だけ第二の定電流を蓄電デバイス10に供給する。特定の時間は、所定の時間と同じ期間でもよく、所定の時間よりも短くてもよい。
【0069】
電圧取得部44は、電流切替部42によって切り替えられる定電流ごとに蓄電デバイス10の電圧を測定する電圧センサ3の検出信号を取得する。電圧取得部44は、例えば、第一の定電流の供給を開始してから第二の定電流の供給を終了するまでの間、電圧センサ3から蓄電デバイス10の電圧値に対応する電気信号を受信する。電圧取得部44は、受信した電気信号を電圧変化記憶部452に時系列に記録する。
【0070】
定電流値記憶部451には、すくなくとも上述の第一及び第二の電流値が記憶されている。例えば、第一及び第二の電流値は、予め定電流値記憶部451に記憶されていてもよく、あるいは、ユーザの入力操作に応じて操作受付部41によって定電流値記憶部451に記録されてもよい。
【0071】
電圧変化記憶部452には、蓄電デバイス10に供給される定電流ごとに測定された電圧変化が電圧取得部44によって記録される。電圧変化記憶部452に記録された蓄電デバイス10の電圧変化を示すデータは演算部46によって処理される。
【0072】
演算部46は、電流値が異なる定電流ごとに電圧センサ3が測定した蓄電デバイス10の電圧変化に基づいて蓄電デバイス10の自己放電電流Ipr及び放電抵抗Rprを演算する制御手段を構成する。本実施形態の演算部46は、漏れ電流演算部461及び放電抵抗演算部462を備える。
【0073】
漏れ電流演算部461は、蓄電デバイス10に供給される定電流ごとに蓄電デバイス10の電圧変化の傾きを求める。そして漏れ電流演算部461は、求めた蓄電デバイス10の電圧変化の各傾き及び第一及び第二の定電流の各電流値を用いて、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを演算する電流演算手段を構成する。
【0074】
漏れ電流演算部461は、電圧変化記憶部452を参照し、蓄電デバイス10に供給された定電流ごとに、蓄電デバイス10の電圧変化を検出する。具体的には、漏れ電流演算部461は、
図3に示したように、定電流の供給開始時の初期電圧と、定電流源2から定電流が供給された状態における充電電圧と、に基づき蓄電デバイス10の電圧変化の傾きを求める。
【0075】
これに代えて、漏れ電流演算部461は、電圧変化記憶部452を参照し、蓄電デバイス10に供給された定電流ごとに、蓄電デバイス10の電圧変化の近似直線Lnを求め、その近似直線Lnの傾きを電圧変化の傾きとして用いてもよい。
【0076】
漏れ電流演算部461は、蓄電デバイス10の容量成分である蓄電部13の静電容量Cstを求める数式を用いて、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを演算する。以下に、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprの演算手法について説明する。
【0077】
蓄電部13の静電容量Cstを求める数式は、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprと、第一の電流値I1を示す定電流を蓄電デバイス10に充電したときの電圧変化の傾きA1と、を用いて次式(1)のように表わすことができる。
【0078】
【0079】
さらに、蓄電部13の静電容量Cstを求める数式は、第二の電流値I2と、第二の電流値I2を示す定電流を蓄電デバイス10に充電したときの電圧変化の傾きA2と、を用いて次式(2)のように表わすことができる。
【0080】
【0081】
式(2)については、蓄電部13の静電容量Cstに蓄積される単位時間あたりの電荷量、即ち静電容量Cstに充電される電流Ist[A]は、蓄電デバイス10に供給された第二の定電流の電流値I2から自己放電電流Iprを減じた値(I2-Ipr)に相当する。しかしながら、
図1に示した内部抵抗14に流れる電流である第二の定電流の電流値I2は、上述のとおり、並列抵抗15に流れる自己放電電流Iprよりも十分に大きいため、次式(3)のように近似することができる。
【0082】
【0083】
したがって、上式(2)においては、第二の定電流の電流値I2から自己放電電流Iprを減じた電流値(I2-Ipr)に代えて、第二の定電流の電流値I2が用いられている。
【0084】
続いて、式(1)及び式(2)を自己放電電流Iprについて解くと、次式(4)が導出される。
【0085】
【0086】
このように、定電流ごとに検出した電圧変化の傾きA1,A2及び定電流の電流値I1,I2を、蓄電部13の静電容量Cstを求める数式に代入することにより、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを算出することができる。
【0087】
このため、漏れ電流演算部461は、第一の定電流に対応する電圧変化の傾きA1と、第二の定電流に対応する電圧変化の傾きA2とを求めるとともに、定電流値記憶部451から、第一の定電流の電流値I1と第二の定電流の電流値I2とを取得する。
【0088】
そして、漏れ電流演算部461は、これらのパラメータを式(4)に代入して自己放電電流Iprを算出する。漏れ電流演算部461は、算出した蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを放電抵抗演算部462に出力する。
【0089】
放電抵抗演算部462は、漏れ電流演算部461から出力される自己放電電流Iprに基づいて蓄電デバイス10の放電抵抗Rprを演算する抵抗演算手段を構成する。本実施形態において放電抵抗演算部462は、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprで蓄電デバイス10の開放電圧(VOC)を除して蓄電デバイス10の放電抵抗Rprを算出する。
【0090】
蓄電デバイス10の開放電圧(VOC)は、定電流の供給を開始する前に電圧センサ3によって測定された蓄電デバイス10の電圧値を用いてもよく、あるいは、蓄電デバイス10の試験結果などを用いて予め定められた電圧値を用いてもよい。
【0091】
なお、上記算出手法に代えて、放電抵抗演算部462は、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprと放電抵抗Rprとの関係を表わす対応テーブル又は関数を記憶部45に予め記憶しておき、この対応テーブル又は関数を用いて放電抵抗Rprを算出してもよい。
【0092】
放電抵抗演算部462は、算出した蓄電デバイス10の放電抵抗Rprをデバイス判定部47に出力する。
【0093】
デバイス判定部47は、演算部46が演算した自己放電電流Ipr又は放電抵抗Rprに基づいて蓄電デバイス10が正常であると判定する判定手段を構成する。
【0094】
本実施形態では、デバイス判定部47は、放電抵抗演算部462から出力される蓄電デバイス10の放電抵抗Rprに基づいて蓄電デバイス10が正常であるか否かを判定する。例えば、デバイス判定部47は、蓄電デバイス10の放電抵抗Rprの算出値が所定の抵抗範囲内にあるか否かを判定する。所定の抵抗範囲の上限値及び下限値は、多数の蓄電デバイス10の放電抵抗Rprを集計した統計データ、又は、電気特性が正常である特定の蓄電デバイス10の試験結果などを用いて予め定められる。この抵抗範囲は、例えば記憶部45に記憶されている。
【0095】
デバイス判定部47は、放電抵抗Rprの算出値が所定の抵抗範囲内にあると判定した場合には蓄電デバイス10が正常な状態であると判定し、放電抵抗Rprの算出値が所定の範囲内にないと判定した場合には蓄電デバイス10が異常であると判定する。
【0096】
また、デバイス判定部47は、蓄電デバイス10の放電抵抗Rprに代えて蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを取得し、その自己放電電流Iprに基づき蓄電デバイス10が正常な状態であるか否かを判定するようにしてもよい。
【0097】
この場合、デバイス判定部47は、自己放電電流Iprの算出値が所定の電流範囲内にあるか否かを判定し、自己放電電流Iprの算出値が所定の電流範囲内にあると判定したときに蓄電デバイス10が正常な状態であると判定する。所定の電流範囲は、上記抵抗範囲と同様に、自己放電電流Iprの統計データ又は試験結果などを用いて予め定められ、例えば記憶部45に記憶される。
【0098】
デバイス判定部47は、蓄電デバイス10の正常な状態又は異常な状態を示す判定結果を表示部5に出力する。これにより、表示部5の画面には、デバイス判定部47による蓄電デバイス10の判定結果が表示される。
【0099】
上記実施形態では電流切替部42は、蓄電デバイス10に供給される定電流を、第一の電流値I1から第二の電流値I2に切り替えたが、これに限られるものではない。例えば、電流切替部42は、まず、第二の電流値I2を示す定電流を蓄電デバイス10に供給させ、その後に蓄電デバイス10に供給させる定電流を第二の電流値I2から第一の電流値I1に切り替えてもよい。この場合であっても、コントローラ4は、蓄電デバイス10の自己放電電流Ipr及び放電抵抗Rprを算出することができる。
【0100】
また、上記実施形態では電流切替部42は、蓄電デバイス10に電流値が異なる定電流を順次供給するように定電流源2の動作を制御したが、蓄電部13の静電容量Cstが既知であれば、第一の電流値I1を示す定電流のみ供給するようにしてもよい。
【0101】
この場合、蓄電部13の静電容量Cstが記憶部45に予め記憶され、漏れ電流演算部461は、記憶部45から蓄電部13の静電容量Cstを取得するとともに、第一の電流値I1と、第一の電流値I1に対応する電圧変化の傾きA1と、を取得する。そして電流演算部461は、これらのパラメータを式(1)に代入して蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを算出する。
【0102】
記憶部45に記憶される蓄電部13の静電容量Cstは、多数の蓄電デバイス10における蓄電部13の静電容量Cstを集計した統計データ、又は、電気特性が正常である特定の蓄電デバイス10の試験結果などを用いて予め定められる。なお、蓄電部13の静電容量Cstについては、第二の電流値I2を示す定電流を蓄電デバイス10に充電し、そのときの電圧変化の傾きA2と第二の電流値I2とを式(2)に代入して蓄電部13の静電容量Cstを求めてもよい。
【0103】
次に、
図5及び
図6を参照して、本実施形態に係る検査装置1を用いた蓄電デバイス10の自己放電に関するパラメータの測定方法を含む蓄電デバイス10の検査方法について説明する。
図5は、検査装置1を用いた検査方法のフローチャートである。
図6は、蓄電デバイス10の充電時間に対する電圧変化の例を示す図である。
【0104】
本実施形態に係る検査方法は、
図2に示した検査方法の処理手順のうちステップS5乃至S7の処理に代えて、ステップS41乃至S43の処理とステップS50の処理とを備えている。ここでは、ステップS41乃至S43の処理及びステップS50の処理について詳細に説明する。
【0105】
ステップS1では、検査装置1を蓄電デバイス10に接続して、定電流源2から第一の電流値I1を示す定電流を供給して充電を開始し、蓄電デバイス10の検査を開始する。
【0106】
ステップS2では、コントローラ4は、電圧センサ3に蓄電デバイス10の電圧(初期電圧)を測定させる。コントローラ4には、電圧センサ3が検出した蓄電デバイス10の電圧値に対応する電気信号が入力される。
【0107】
ステップS3では、コントローラ4は、充電を開始してからの経過時間である充電時間が所定の時間を超えたか否かを判定する。所定の時間は、蓄電デバイス10が正常な場合と異常な場合とで電圧の変化に差が現れる程度の長さに予め設定される。ステップS3にて、充電時間が所定の時間を超えたと判定された場合には、ステップS4へ移行する。一方、ステップS3にて、充電時間が所定の時間を超えていないと判定された場合には、ステップS2へ戻って再び蓄電デバイス10の電圧を測定する。
【0108】
ステップS4では、コントローラ4は、電圧センサ3によって測定した蓄電デバイス10の電圧に基づき、蓄電デバイス10の電圧変化を検出する。具体的には、コントローラ4は、充電開始時の初期電圧と、定電流源2から定電流が供給された状態における充電電圧と、に基づき、蓄電デバイス10の電圧変化の近似直線を求める。より詳細には、コントローラ4は、制御周期ごとに測定した蓄電デバイス10の電圧値に基づき、例えば最小二乗法によって電圧変化の近似直線を求める。
【0109】
ステップS41では、コントローラ4は、測定した電圧変化の近似直線を求めた回数である測定回数が2回よりも少ないか否かを判定する。ステップS41にて、測定回数が2回よりも少ないと判定された場合には、蓄電デバイス10に供給される定電流を切り替える必要があるので、ステップS42へ移行する。
【0110】
ステップS42では、コントローラ4は、蓄電デバイス10に供給される定電流の大きさを切り替える。本実施形態では、コントローラ4は、蓄電デバイス10に供給される定電流を、第一の定電流から、第一の電流値I1よりも大きい第二の電流値I2を示す定電流へ切り替える。
【0111】
その後、コントローラ4は、ステップS1へ戻って定電流源2から第二の定電流を供給して充電を開始し、ステップS2及びS3にて所定の時間だけ蓄電デバイス10の電圧を測定する。そしてコントローラ4は、ステップS4にて第二の定電流に対応する電圧変化の近似直線を求める。
【0112】
ステップS41にて、測定回数が2回に達したと判定された場合には、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprの演算に必要となるパラメータが得られるので、ステップS43へ移行する。
【0113】
ステップS43では、コントローラ4は、定電流ごとに求めた蓄電デバイス10の電圧変化の傾きに基づいて蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを演算する。本実施形態では、コントローラ4は、上記パラメータとして、第一の電流値I1と、第一の定電流に対応する近似直線の傾きA1と、第二の電流値I2と、第二の定電流に対応する近似直線の傾きA2と、を用いて蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを算出する。具体的には、コントローラ4は、上記パラメータを上式(4)に代入することにより、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを算出する。
【0114】
ステップS50では、コントローラ4は、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprに基づいて蓄電デバイス10が正常であるか否かを判定する。
【0115】
例えば、コントローラ4は、蓄電デバイス10の開放電圧を蓄電デバイス10の自己放電電流Iprで除して蓄電デバイス10の放電抵抗Rprを求め、その放電抵抗Rprが所定の抵抗範囲内にあるか否かを判定する。放電抵抗Rprが上限値と下限値との間の所定の抵抗範囲内にあると判定された場合には、コントローラ4は、蓄電デバイス10は正常な状態であると判定する。一方、放電抵抗Rprが所定の抵抗範囲内にはない、即ち、抵抗範囲の上限値よりも大きいか、又は抵抗範囲の下限値よりも小さいと判定された場合には、コントローラ4は、蓄電デバイス10は異常な状態であると判定する。
【0116】
あるいは、コントローラ4は、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprが所定の電流範囲内にあるか否かを判定することにより、蓄電デバイス10が正常な状態であるか否かを判定してもよい。あるいは、自己放電電流Iprの電流値ごとに蓄電デバイス10の正常又は異常を示す診断テーブルをコントローラ4に予め記憶しておいてもよい。この場合は、コントローラ4は、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを算出すると、診断テーブルを参照し、算出した自己放電電流Iprに対応付けられた蓄電デバイス10の状態を特定する。
【0117】
以上の処理を実行することで、蓄電デバイス10の良否判定が完了する。
【0118】
なお、
図5の例では、コントローラ4は、蓄電デバイス10に供給される定電流の大きさを1回だけ切り替えて蓄電デバイス10の電圧変化の傾きを2回求めることで蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを算出した。これに代えて、複数回、定電流の大きさを切り替えて電圧変化の近似直線の傾きを順次求めることにより複数の自己放電電流Iprを算出し、これらの平均値又は中央値などの統計値を最終結果として用いてもよい。
【0119】
次に、
図6の具体例を参照して、ステップS43の処理について説明する。
図6の横軸は、蓄電デバイス10の充電を開始してからの経過時間である充電時間[s]であり、縦軸は、電圧センサ3が検出した電圧の初期電圧との差[μV]である。
【0120】
所定の時間T1は、第一の電流値I1を示す定電流を蓄電デバイス10に充電した期間であり、所定の時間T2は、切替後において第二の電流値I2を示す定電流を蓄電デバイス10に充電した期間である。第一の電流値I1は10[μA]であり、第二の電流値I2は100[μA]である。
【0121】
図6に示す実線のデータは、蓄電デバイス10が正常な状態であるときの電圧変化であり、実線の直線は、第一の定電流に対応する電圧変化の近似直線Ln1、及び、第二の定電流に対応する電圧変化の近似直線Ln2である。近似直線Ln1及び近似直線Ln2は、共にステップS4の処理によって求められた直線である。
【0122】
一方、
図6に示す点線のデータは、蓄電デバイス10が異常な状態であるときの電圧変化であり、破線の直線は、第一の定電流に対応する電圧変化の近似直線La1、及び、第二の定電流に対応する電圧変化の近似直線La2である。近似直線La1及び近似直線La2も、共にステップS4の処理によって求められた直線である。
【0123】
図6を参照すると、正常な状態である蓄電デバイス10の近似直線Ln1及びLn2の傾きは、異常な状態である蓄電デバイス10の近似直線La1及びLa2の傾きと比較して大きくなっていることがわかる。
【0124】
この理由は、正常な状態である蓄電デバイス10においては、異常な状態である蓄電デバイス10と比較して、放電抵抗Rprが大きく、自己放電電流Iprが小さいため、
図1に示した蓄電部13の静電容量Cstに電荷が蓄積されやすくなるからである。このように、蓄電デバイス10に定電流が供給されると、蓄電デバイス10の放電抵抗Rprが大きいものほど、蓄電デバイス10の電圧変化が大きくなる。
【0125】
本実施形態のコントローラ4は、例えば、正常な状態である蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを算出するときには、第一の電流値I1と、近似直線Ln1の傾きと、第二の電流値I2と、近似直線Ln2の傾きと、を取得して上式(4)に代入する。このように、電流値が異なる定電流を蓄電デバイス10に供給して定電流ごとに電圧変化の傾きを求めることにより、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを求めることができる。
【0126】
コントローラ4は、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを求めると、その自己放電電流Iprに基づいて蓄電デバイス10の良否を判定する。なお、コントローラ4は、
図3に示したように、定電流ごとに近似直線の傾きが上限値と下限値との間に入っているか否かを判定し、その判定結果に基づいて蓄電デバイス10が正常な状態であるか、あるいは異常な状態であるかを判定してもよい。
【0127】
なお、本実施形態ではコントローラ4が定電流源2から蓄電デバイス10の正極電極11に供給される定電流の大きさを切り替えて蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを算出したが、これに限られるものではない。例えば、定電流源2と蓄電デバイス10との接続関係を逆にし、定電流源2から蓄電デバイス10の負極電極12に定電流を供給して蓄電デバイス10を放電し、この状態において蓄電デバイス10に供給される定電流の大きさを切り替えてもよい。この場合であっても、上記実施形態のように、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを算出することが可能である。
【0128】
次に、第2実施形態による作用効果について説明する。
【0129】
蓄電デバイス10の測定装置を構成する検査装置1は、蓄電デバイス10に定電流を供給する定電流源2と、蓄電デバイス10の電圧を測定する電圧センサ3と、を備える。さらに検査装置1は、測定した蓄電デバイス10の電圧変化に基づいて蓄電デバイス10の自己放電電流Ipr又は当該自己放電電流Iprが流れる蓄電デバイス10の放電抵抗Rprを演算するコントローラ4と、を備える。
【0130】
また、蓄電デバイス10の検査方法に含まれる測定方法は、蓄電デバイス10に定電流を供給し、蓄電デバイス10に供給される定電流を切り替え、定電流ごとに前記蓄電デバイスの電圧を測定し、測定した蓄電デバイスの電圧変化に基づいて蓄電デバイス10の自己放電電流又は当該自己放電電流が流れる蓄電デバイス10の放電抵抗を演算する。
【0131】
これらの構成によれば、定電流源2から蓄電デバイス10に定電流を供給することによって蓄電デバイス10の電圧変化が大きくなるので、短い時間で精度よく蓄電デバイス10の電圧変化を検出することができる。それゆえ、短い時間で蓄電デバイス10の自己放電電流Ipr又は放電抵抗Rprなどの自己放電に関するパラメータを求めることができる。
【0132】
例えば、自己放電電流Iprの算出手法としては、上式(1)において蓄電部13の静電容量Cstが既知であれば、蓄電デバイス10の電圧変化の近似直線の傾きA1を検出することにより、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを算出することができる。あるいは、上式(1)中の蓄電部13の静電容量Cst及び第一の電流値I1に、予め実測した測定値又は予測値をそれぞれ代入して、近似直線の傾きA1と自己放電電流Iprとの関係を示す演算テーブルを生成してコントローラ4に記録しておいてもよい。この場合、コントローラ4は、蓄電デバイス10の電圧変化の近似直線の傾きA1を求めると、演算テーブルを参照し、求めた近似直線の傾きA1に関係付けられた自己放電電流Iprを算出する。
【0133】
さらに、放電抵抗Rprは、蓄電デバイス10の開放電圧を自己放電電流Iprで除して算出されるので、蓄電デバイス10の開放電圧が既知であれば、近似直線の傾きA1と放電抵抗Rprとの関係を示す演算テーブルを生成してコントローラ4に記憶しておいてもよい。この場合、コントローラ4は、蓄電デバイス10の電圧変化の近似直線の傾きA1を求めると、演算テーブルを参照し、求めた近似直線の傾きA1に関係付けられた放電抵抗Rprを算出する。
【0134】
このように、コントローラ4は、短時間で検出した蓄電デバイス10の電圧変化を用いて蓄電デバイス10の自己放電電流Ipr又は放電抵抗Rprが得られるので、短い時間で蓄電デバイス10の自己放電に関するパラメータを求めることができる。
【0135】
また、本実施形態の検査装置1におけるコントローラ4は、蓄電デバイス10に供給される定電流を切り替える電流切替部42を備え、コントローラ4の演算部46は、蓄電デバイス10に供給される定電流ごとに電圧センサ3が測定した蓄電デバイス10の電圧変化に基づいて蓄電デバイス10の自己放電電流Ipr又は放電抵抗Rprを演算する。
【0136】
この構成によれば、蓄電デバイス10に供給される定電流の大きさを切り替えることにより、定電流ごとに蓄電デバイス10の電圧変化が検出されるので、上式(4)により蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを算出することができる。このように、測定対象である蓄電デバイス10の実測値を用いて自己放電に関するパラメータが得られるので、上述のような演算テーブルを用いる場合と比較して、自己放電に関するパラメータの誤差を抑制することができる。
【0137】
また、本実施形態の検査装置1における電流切替部42は、蓄電デバイス10に供給される定電流を、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを検出するための第一の定電流と、第一の定電流よりも大きい第二の定電流と、の間で切り替える。
【0138】
この構成によれば、電流切替部42が定電流源2に対して第一の定電流よりも大きい第二の定電流を蓄電デバイス10に供給させることにより、蓄電デバイス10の電圧変化が大きくなるので、電圧変化の傾きを短時間で精度よく求めることができる。さらに、電圧センサ3によって検出される電圧信号の信号対雑音比(S/N比)が高くなるので、電圧変化の傾きを算出する精度を高めることができる。
【0139】
特に、蓄電デバイス10に供給される第二の定電流は、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprの基準値に対して数十倍以上に設定されるのが好ましい。このように設定することにより、上式(2)において自己放電電流Iprを省略したことに伴う算出結果の誤差を小さくすることができる。
【0140】
また、本実施形態では、蓄電デバイス10に供給される第一の定電流は、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprの基準値に対して一倍又は数倍に設定されるのが好ましい。このように設定することにより、上式(4)を用いて算出される蓄電デバイス10の自己放電電流Iprの推定精度を確保することができる。また、第一の定電流の許容範囲が比較的広いため、第一の定電流の設定誤差に伴う自己放電電流Iprの推定精度の低下を抑制することができる。
【0141】
また、本実施形態における演算部46は、上式(1)のように、蓄電デバイス10に供給される定電流の電流値I1と、蓄電デバイス10の電圧変化の傾きA1と、蓄電部13の静電容量Cstと、に基づき蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを演算してもよい。
【0142】
これにより、定電流を切り替えなくとも、自己放電電流Iprが求められるので、より短い時間で、蓄電デバイス10の自己放電に関するパラメータを求めることができる。なお、蓄電部13の静電容量Cstは、上式(2)を用いて予め算出されたものでもよく、蓄電デバイス10の統計データから求められたものでもよい。
【0143】
このとき、定電流源2から蓄電デバイス10に供給される定電流は、蓄電デバイス10にて過電圧よりも小さく、主に電気二重層反応が発生する大きさに設定される。これにより、自己放電電流Iprを精度よく求めることができるとともに、定電流源2の消費電力を低減することができる。
【0144】
また、本実施形態における演算部46は、定電流ごとに蓄電デバイス10の電圧変化の傾きを求め、その電圧変化の各傾きA1,A2及び定電流の各電流値I1,I2を用いて蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを演算する漏れ電流演算部461を備える。さらに演算部46は、漏れ電流演算部461が演算した自己放電電流Iprに基づいて蓄電デバイス10の放電抵抗Rprを演算する放電抵抗演算部462を備える。
【0145】
この構成によれば、定電流ごとに得られる電圧変化の各傾きA1,A2及び定電流の各電流値I1,I2を用いることにより、蓄電デバイス10の放電抵抗Rprを算出することができる。
【0146】
また、本実施形態のコントローラ4は、演算部46が演算した自己放電電流Ipr又は放電抵抗Rprに基づいて蓄電デバイス10が正常であると判定するデバイス判定部47をさらに備える。この構成によれば、演算部46が演算した自己放電に関するパラメータを用いることにより、蓄電デバイス10が正常な状態であるか、異常な状態であるかを判定することができる。
【0147】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態に係る検査装置1について説明する。本実施形態に係る検査装置1の構成は、
図1に示した構成と同じであり、検査装置1を構成するコントローラ4の機能構成も、
図4に示した機能構成と基本的に同じである。
【0148】
本実施形態の検査装置1は、定電流源2から蓄電デバイス10に供給される定電流の向きを切り替える点において定電流の大きさを切り替えた第2実施形態とは異なる。
【0149】
コントローラ4の定電流値記憶部451には、第2実施形態と同じように、第一の電流値I1及び第二の電流値I2が記憶されており、本実施形態では、第二の定電流が第一の定電流に対して逆向きに流れるように第二の電流値I2が設定されている。
【0150】
例えば、第一の電流値I1は、蓄電デバイス10に定電流が充電されるよう正の値に設定され、第二の電流値I2は、蓄電デバイス10から定電流が放電されるよう負の値に設定される。第一の電流値I1及び第二の電流値I2については、少なくとも一方の絶対値が、自己放電電流Iprの基準値に対して一倍又は数倍に設定されていればよく、双方の絶対値が互いに同じ値でも、異なる値であってもよい。
【0151】
本実施形態では、第一の電流値I1は、自己放電電流Iprの基準値に対して一倍又は数倍に設定されている。即ち、第一の電流値I1は、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを検出するための電流値に設定されている。例えば、第一の電流値I1は、自己放電電流Iprの基準値を一倍した10[μA]に設定され、第二の電流値I2は、第一の電流値I1に「-1」を乗算した値、即ち-10[μA]に設定される。
【0152】
電流切替部42は、定電流値記憶部451から第一の電流値I1を取得した後、第二の電流値I2を取得すると、電流指令部43を介して第一の定電流と同じ大きさでありかつ逆向きに流れる第二の定電流を蓄電デバイス10に供給するよう定電流源2に指示する。これにより、定電流源2は、蓄電デバイス10の正極電極11に第一の定電流を供給して蓄電デバイス10を充電し、その後、第二の定電流として蓄電デバイス10の負極電極12に第一の定電流を供給して蓄電デバイス10を放電する。
【0153】
このように、電流切替部42は、蓄電デバイス10に供給される定電流を、自己放電電流Iprを検出するための第一の定電流と、第一の定電流に対して逆向きに流れる第二の定電流と、の間で切り替える切替手段を構成する。
【0154】
なお、本実施形態では、コントローラ4は、電流の向きを切り替えるように定電流源2の動作を制御したが、これに限られるものではない。例えば、切替手段として定電流源2と蓄電デバイス10との間に切替器を接続し、この接続器に対してコントローラ4が切替え指令を出すことにより、定電流源2と蓄電デバイス10の接続関係を反対にするようにしてもよい。
【0155】
続いて、本実施形態に係る蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを演算する手法について説明する。
【0156】
蓄電部13の静電容量Cstを求める数式は、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprと、第一の電流値I1を示す定電流を蓄電デバイス10に充電したときの電圧変化の傾きAcと、を用いて次式(5)のように表わすことができる。
【0157】
【0158】
さらに、蓄電部13の静電容量Cstを求める数式は、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprと、第二の電流値I2を示す定電流によって蓄電デバイス10が放電したときの電圧変化の傾きAdと、を用いて次式(6)のように表わすことができる。
【0159】
【0160】
上述の式(5)及び式(6)を自己放電電流Iprについて解くと、次式(7)が導出される。
【0161】
【0162】
したがって、上記パラメータを式(7)に代入することにより、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを算出することができる。
【0163】
このため、本実施形態の漏れ電流演算部461は、第一の定電流に対応する充電時の電圧変化の傾きAcと、第二の定電流に対応する放電時の電圧変化の傾きAdとを求めるとともに、定電流値記憶部451から第一の電流値I1と第二の電流値I2とを取得する。漏れ電流演算部461は、これらのパラメータを上式(7)に代入して自己放電電流Iprを算出する。漏れ電流演算部461は、算出した蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを放電抵抗演算部462に出力する。
【0164】
次に、
図7及び
図8を参照して、第3実施形態に係る蓄電デバイス10の測定方法を含む検査方法について説明する。
図7は、検査装置1を用いた検査方法のフローチャートである。
図8は、蓄電デバイス10に定電流を供給してからの経過時間に対する電圧変化の例を示す図である。
【0165】
本実施形態の検査方法は、
図5に示した処理手順のうちステップS42及びS43の処理に代えてステップS42a及びS43aの処理を備えている。
【0166】
ステップS1では、検査装置1を蓄電デバイス10に接続して、定電流源2から第一の電流値I1を示す定電流を供給して充電を開始し、蓄電デバイス10の検査を開始する。
【0167】
ステップS2では、コントローラ4は、電圧センサ3に蓄電デバイス10の電圧(初期電圧)を測定させる。コントローラ4には、電圧センサ3が検出した蓄電デバイス10の電圧値に対応する電気信号が入力される。
【0168】
ステップS3aでは、コントローラ4は、定電流の供給を開始してからの経過時間が所定の時間を超えたか否かを判定する。所定の時間は、蓄電デバイス10が正常な場合と異常な場合とで電圧の変化に差が現れる程度の長さに予め設定される。ステップS3にて、経過時間が所定の時間を超えたと判定された場合には、ステップS4へ移行する。一方、ステップS3にて、経過時間が所定の時間を超えていないと判定された場合には、ステップS2へ戻って再び蓄電デバイス10の電圧を測定する。
【0169】
ステップS4では、コントローラ4は、電圧センサ3によって測定した蓄電デバイス10の電圧に基づき、蓄電デバイス10の電圧変化を検出する。具体的には、コントローラ4は、充電開始時の初期電圧と、定電流源2から定電流が供給された状態における充電電圧と、に基づき、蓄電デバイス10の充電時における電圧変化の近似直線を求める。より詳細には、コントローラ4は、制御周期ごとに測定した蓄電デバイス10の電圧値に基づき、例えば最小二乗法によって電圧変化の近似直線を求める。
【0170】
ステップS41では、コントローラ4は、測定した電圧変化の近似直線を求めた回数である測定回数が2回よりも少ないか否かを判定する。ステップS41にて、測定回数が2回よりも少ないと判定された場合には、蓄電デバイス10に供給される定電流を切り替える必要があるので、ステップS42へ移行する。
【0171】
ステップS42aでは、コントローラ4は、蓄電デバイス10に供給される定電流の向きを切り替える。本実施形態では、コントローラ4は、蓄電デバイス10に供給される定電流を、第一の定電流に対して大きさが同じでかつ逆向きに流れる第二の定電流へ切り替える。
【0172】
ステップS42bでは、コントローラ4は、定電流源2から第二の電流値I2を示す定電流を供給して放電を開始する。その後、コントローラ4は、ステップS2へ戻って所定の時間だけ蓄電デバイス10の電圧である放電電圧を測定し、ステップS4にて第二の定電流に対応する放電電圧変化の近似直線を求める。
【0173】
ステップS41にて、測定回数が2回に達したと判定された場合には、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprの演算に必要となるパラメータが得られたので、ステップS43へ移行する。
【0174】
ステップS43aでは、コントローラ4は、蓄電デバイス10に供給される定電流ごとに求めた蓄電デバイス10の電圧変化の傾きに基づいて蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを演算する。本実施形態では、コントローラ4は、上記パラメータとして、第一の電流値I1と、充電電圧変化の近似直線の傾きAcと、第二の電流値I2と、放電電圧変化の近似直線の傾きAdと、用いて蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを算出する。
【0175】
ステップS50では、コントローラ4は、第2実施形態で述べたように、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprに基づいて蓄電デバイス10が正常な状態であるか否かを判定する。
【0176】
以上の処理を実行することで、蓄電デバイス10の良否判定が完了する。
【0177】
なお、
図7の例では、コントローラ4は、蓄電デバイス10に供給される定電流の向きを1回だけ切り替えて蓄電デバイス10の電圧変化の傾きを2回求めることで蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを算出した。これに代えて、複数回、定電流の向きを切り替えて電圧変化の近似直線の傾きを順次求めることで複数の自己放電電流Iprを算出し、これらの平均値又は中央値などの統計値を最終結果として用いてもよい。
【0178】
次に、
図8の具体例を参照して、ステップS43の処理について説明する。
図8の横軸は、蓄電デバイス10の充電を開始してからの経過時間[s]であり、縦軸は、電圧センサ3が検出した電圧の初期電圧との差[μV]である。
【0179】
所定の充電時間T1aは、第一の電流値I1を示す定電流を蓄電デバイス10に充電した期間であり、所定の放電時間T2aは、切替後において第二の電流値I2を示す定電流を蓄電デバイス10に充電した期間である。第一の電流値I1は10[μA]であり、第二の電流値I2は-10[μA]である。
【0180】
図8に示す実線のデータは、蓄電デバイス10が正常な状態であるときの電圧変化であり、実線の直線は、第一の定電流に対応する電圧変化の近似直線Ln1、及び、第二の定電流に対応する電圧変化の近似直線Ln2である。近似直線Ln1及び近似直線Ln2は、共にステップS4の処理によって求められた直線である。
【0181】
一方、
図8に示す点線のデータは、蓄電デバイス10が異常な状態であるときの電圧変化であり、破線の直線は、第一の定電流に対応する電圧変化の近似直線La1、及び、第二の定電流に対応する電圧変化の近似直線La2である。近似直線La1及び近似直線La2は、共にステップS4の処理によって求められた直線である。
【0182】
図8を参照すると、
図6と同様、正常な状態である蓄電デバイス10の近似直線Ln1及びLn2の傾きの絶対値は、異常な状態である蓄電デバイス10の近似直線La1及びLa2の傾きの絶対値と比較して大きくなっていることがわかる。
【0183】
本実施形態のコントローラ4は、例えば正常な状態である蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを算出するときには、第一の電流値I1と、近似直線Ln1の傾きと、第二の電流値I2と、近似直線Ln2の傾きの絶対値と、を取得して上式(7)に代入する。このように、蓄電デバイス10に対して異なる向きに定電流を供給して定電流ごとに電圧変化の傾きを求めることにより、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを求めることができる。
【0184】
コントローラ4は、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを求めると、求めた自己放電電流Iprに基づいて蓄電デバイス10の良否を判定する。なお、コントローラ4は、
図3に示したように、定電流ごとに近似直線の傾きが上限値と下限値との間に入っているか否かを判定し、その判定結果に基づいて蓄電デバイス10が正常な状態であるか、あるいは異常な状態であるかを判定してもよい。
【0185】
次に、第3実施形態による作用効果について説明する。
【0186】
本実施形態に係る電流切替部42は、蓄電デバイス10に供給される定電流を、自己放電電流Iprを検出するための第一の定電流と、第一の定電流に対して逆向きに流れる第二の定電流と、の間で切り替える。
【0187】
この構成によれば、蓄電デバイス10に供給される定電流の向きを切り替えることにより、定電流ごとに蓄電デバイス10の電圧変化が検出されるので、上式(7)のような数式などを利用して蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを算出することができる。
【0188】
このように、測定対象である蓄電デバイス10の実測値を用いて自己放電に関するパラメータが得られるので、蓄電デバイス10における蓄電部13の静電容量Cstの想定値を用いなくても済む。それゆえ、コントローラ4は、蓄電デバイス10の自己放電に関するパラメータの推定誤差を抑制することができる。
【0189】
また、本実施形態の定電流源2は、蓄電デバイス10の正極電極11に第一の定電流を供給し、第二の定電流として蓄電デバイス10の負極電極12に第一の定電流を供給する。この構成によれば、定電流の大きさを変更することなく蓄電デバイス10と定電流源2との接続を逆にするだけで済むので、蓄電デバイス10の検査を容易に行うことができる。
【0190】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0191】
例えば、コントローラ4は、蓄電デバイス10に供給される定電流の大きさを切り替えた後に定電流の向きを切り替えてもよく、蓄電デバイス10に供給される定電流の向きを
切り替えた後に定電流の大きさを切り替えてもよい。この場合には、複数の自己放電電流Iprが得られるので、これらの平均値などを最終結果として用いてもよい。
【符号の説明】
【0192】
1 検査装置
2 定電流源(定電流供給手段)
3 電圧センサ(電圧測定手段)
4 コントローラ(制御手段)
10 蓄電デバイス
13 蓄電部
14 内部抵抗
15 並列抵抗
42 電流切替部(切替手段)
46 演算部(制御手段)
47 デバイス判定部(判定手段)