(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-08
(45)【発行日】2023-08-17
(54)【発明の名称】電力需要予測方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
H02J 3/00 20060101AFI20230809BHJP
G06Q 50/06 20120101ALI20230809BHJP
【FI】
H02J3/00 130
G06Q50/06
(21)【出願番号】P 2020122238
(22)【出願日】2020-07-16
【審査請求日】2022-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092772
【氏名又は名称】阪本 清孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119688
【氏名又は名称】田邉 壽二
(72)【発明者】
【氏名】アボー ギヨーム
(72)【発明者】
【氏名】吉原 貴仁
(72)【発明者】
【氏名】小野 智弘
(72)【発明者】
【氏名】西村 康孝
【審査官】杉田 恵一
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-188772(JP,A)
【文献】特開2003-180032(JP,A)
【文献】特開2012-175825(JP,A)
【文献】特開2016-019358(JP,A)
【文献】特開2017-208952(JP,A)
【文献】特開2018-124727(JP,A)
【文献】特開2020-166529(JP,A)
【文献】国際公開第2016/136323(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 50/06
H02J 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力供給エリアを複数のサブエリアに分割し、サブエリアごとに電力需要を予測する電力需要予測システムにおいて、
人移動属性に基づいて分割したサブエリアごとに電力需要を監視する手段と、
電力需要変動が所定の閾値範囲から外れた過大変動サブエリアを検知する手段と、
過大変動サブエリアの電力需要変動が閾値範囲から外れるに至る予兆期間と電力需要が類似する類似期間を電力需要履歴に基づいて探索する手段と、
前記過大変動サブエリアおよび少なくとも当該過大変動サブエリアと人移動属性が同一のサブエリア毎に、前記類似期間
およびその後の予測対応期間の各電力需要履歴の対応関係に
各サブエリアの予兆期間の電力需要履歴を適用して当該予兆期間後の予測期間の電力需要を予測する手段とを具備したことを特徴とする電力需要予測システム。
【請求項2】
前記探索する手段は、類似期間を過大変動サブエリアの電力需要履歴に基づいて探索することを特徴とする請求項1に記載の電力需要予測システム。
【請求項3】
前記探索する手段は、予兆期間とカレンダ情報が類似する複数の類似期間から電力需要の類似度が高い上位N
Pベストの類似期間を探索し、
前記予測する手段は、類似期間およびその後の予測対応期間の各電力需要履歴のN
P個の対応関係に前記予兆期間の電力需要履歴を適用して当該予兆期間後の予測期間の電力需要を予測することを特徴とする請求項1
または2に記載の電力需要予測システム。
【請求項4】
前記予測する手段は、サブエリアごとに類似期間および予測対応期間の各電力需要履歴の対応関係に基づいて、電力需要履歴を入力として所定時間後の電力需要を予測する予測モデルを構築し、
各サブエリアの予兆期間の電力需要履歴を当該サブエリアの予測モデルに適用して予測期間の電力需要を予測することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の電力需要予測システム。
【請求項5】
電力需要が外部情報と対応付けられ、
前記予測する手段は、サブエリアごとに類似期間および予測対応期間の各電力需要履歴の対応関係および各外部情報履歴の対応関係に基づいて、電力需要履歴および外部情報履歴を入力として予測期間の電力需要を予測する予測モデルを構築し、
各サブエリアの予兆期間の電力需要履歴および外部情報履歴並びに予測期間の外部情報の予測値を当該サブエリアの予測モデルに適用して予測期間の電力需要を予測することを特徴とする請求項1ないし
4のいずれかに記載の電力需要予測システム。
【請求項6】
電力供給エリアを複数のサブエリアに分割し、サブエリアごとに電力需要を予測する電力需要予測方法において、
人移動属性に基づいて分割したサブエリアごとに電力需要を監視し、
電力需要変動が所定の閾値範囲から外れた過大変動サブエリアを検知し、
過大変動サブエリアの電力需要変動が閾値範囲から外れるに至る予兆期間と電力需要が類似する類似期間を電力需要履歴に基づいて探索し、
前記過大変動サブエリアおよび少なくとも当該過大変動サブエリアと人移動属性が同一のサブエリア毎に、前記類似期間およびその後の予測対応期間の各電力需要履歴の対応関係に
各サブエリアの予兆期間の電力需要履歴を適用して当該予兆期間後の予測期間の電力需要を予測することを特徴とする電力需要予測方法。
【請求項7】
前記類似期間を探索する際は、予兆期間とカレンダ情報が類似する複数の類似期間から電力需要の類似度が高い上位N
Pベストの類似期間を探索し、
前記類似期間およびその後の予測対応期間の各電力需要履歴のN
P個の対応関係に前記予兆期間の電力需要履歴を適用して当該予兆期間後の予測期間の電力需要を予測することを特徴とする請求項
6に記載の電力需要予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力需要予測方法およびシステムに係り、特に、電力供給エリアを複数のサブエリアに分割し、サブエリアごとに電力需要が非日常的に変動した後の近い将来の電力需要を各サブエリアに固有の人移動パターンと電力需要との関係に基づいて精度よく予測する電力需要予測方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
これまで各地域の一般電気事業者(いわゆる、電力会社)が独占的に行っていた家庭・小規模事業所向け電力の販売が、2016年4月から自由化され、「電力小売りの全面自由化」が実現された。電力の小売事業者(小売電気事業者)は、事前に必要な電力を調達して契約顧客に電力を供給する。
【0003】
電力の同時同量達成のため、全ての小売電気事業者には、分散管区毎(東京電力管区など)、一定時間範囲(30分単位など)における調達電力と実績値との差を低減することが課せられている。電力は需要予測に基づいて調達されるため、確度の高い需要予測が求められる。
【0004】
電力需要が過小予測または過大予測されると、不足電力や余剰電力の売買(インバランス精算)が事後的に必要となるため運用コストが増加する可能性があり、予測精度が上がるほど小売事業者は運用コストを削減できる。非特許文献1に開示されるように、短期的な電力需要予測は、適切な電力量を正確に生成または調達し、それに応じて運用を計画するために役立つ。
【0005】
電力の需要予測には統計処理や機械学習モデルを使用できる。特許文献1には、電力需要の履歴データに加えて、気象情報(温度、湿度など)、カレンダ情報および経済情報等を取得し、これらの相関を機械学習して構築した機械学習モデルに、予測対象エリアの外部情報を適用することで将来の電力需要を予測する技術が開示されている。
【0006】
非特許文献2には、電力消費量と人の移動との間の相関関係に着目し、人は移動前の居場所で電力を消費し、移動中は電力を消費せず、移動先の居場所で電力を消費するという仮定に基づいて、人の移動を外部情報として取得し、これを機械学習に用いることで電力予測モデルの精度を高める提案が開示されている。
【0007】
人の位置情報を監視するデバイスの数は、特にスマートフォンや最近の歩数計やアクティビティトラッカーの使用により、ここ数年で大幅に増加している。特許文献1に開示されるように、このようなデバイスによって生成されたデータは、人々の動きのパターンと量を分析し、将来の動きを予測するために使用できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【文献】IEEE, Vol.100, No.7, P50-P60:E. Almeshaiei and H. Soltan, "A methodology for electric power load forecasting," Alexandria Engineering Journal, vol. 50, 2011, pp. 137-144.
【文献】G. Habault, Y. Nishimura, K. Yoshihara and C. Ono, "Detecting errors in short-term electricity demand forecast using people dynamics," IEEE Big Data IoT Data Analytics Workshop, 2019.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
人の移動を計測する技術は進歩しているが、プライバシー保護の観点から、その利用は制限される可能性が高く、また利用が許可される場合でも匿名化のための処理等が必要となることからリアルタイムでの利用は難しい。したがって、人の移動データをリアルタイムで利用することを前提とする電力需要予測は好ましくない。
【0011】
一方、人の移動は各種のイベントに強く影響されるため、これらのイベント情報を事前に獲得できれば人の移動を予測できる。しかしながら、人の移動に影響する全てのイベント情報を事前に獲得する困難であり、またイベントの内容や規模に応じて人の移動への影響が大きく異なる。したがって、イベント情報で人の移動を代表し、電力需要予測と関連付けることは困難である。
【0012】
本発明の目的は、上記の技術課題を解決し、電力供給エリアを人の移動に関連する属性情報(人移動属性)に基づいて複数のサブエリアに分割し、あるサブエリアで電力需要の非日常的な変動が検知されると、このサブエリアのみならず、その影響を受ける他のサブエリアも含めて、サブエリアごとに変動後の近い将来の電力需要を精度よく予測する電力需要予測方法およびシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、本発明は、電力供給エリアを複数のサブエリアに分割し、サブエリアごとに電力需要を予測する電力需要予測システムにおいて、以下の構成を具備した点に特徴がある。
【0014】
(1) サブエリアごとに電力需要を監視する手段と、電力需要変動が所定の閾値範囲から外れた過大変動サブエリアを検知する手段と、過大変動サブエリアの電力需要変動が閾値範囲から外れるに至る予兆期間と電力需要が類似する類似期間を電力需要データに基づいて探索する手段と、類似期間およびその後の予測対応期間の各電力需要履歴の対応関係に予兆期間の電力需要履歴を適用して当該予兆期間後の予測期間の電力需要を予測する手段とを具備した。
【0015】
(2) 前記予測する手段は、サブエリアごとに類似期間および予測対応期間の各電力需要履歴の対応関係に各サブエリアの予兆期間の電力需要履歴を適用することで予測期間の電力需要をそれぞれ予測するようにした。
【0016】
(3) 前記探索する手段は、予兆期間とカレンダ情報が類似する複数の類似期間から電力需要の類似度が高い上位NPベストの類似期間を探索し、前記予測する手段は、類似期間およびその後の予測対応期間の各電力需要履歴のNP個の対応関係に前記予兆期間の電力需要履歴を適用して当該予兆期間後の予測期間の電力需要を予測するようにした。
【0017】
(4) 電力需要が外部情報と対応付けられ、前記予測する手段は、サブエリアごとに類似期間および予測対応期間の各電力需要履歴の対応関係および各外部情報履歴の対応関係に基づいて、電力需要履歴および外部情報履歴を入力として予測期間の電力需要を予測する予測モデルを構築し、各サブエリアの予兆期間の電力需要履歴および外部情報履歴並びに予測期間の外部情報の予測値を当該サブエリアの予測モデルに適用して予測期間の電力需要を予測するようにした。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、電力供給エリアを電力需要変動との相関が高い人移動属性に基づいて複数のサブエリアに分割し、サブエリアごとに電力需要の履歴データに基づいて将来の電力需要を予測するので、人の移動の結果として変動する電力需要変動を高い精度で予測できるようになる。
【0019】
過大変動が検知されたサブエリアのみならず、過大変動が検知されていないサブエリアについても、過大変動が検知されたサブエリアの予兆期間と同一期間の履歴データを用いて電力需要が予測されるので、潜在的な変動を反映した電力需要予測が可能になる。
上位NPベストの類似期間を探索し、その電力需要履歴に基づいて予測モデルを構築するので、外乱の影響を受けにくく、精度の高い電力需要予測が可能になる。
電力需要履歴のみならず外部情報履歴も予測パラメータとして用いるので、電力需要が外部情報の影響を受けやすい場合も精度の高い電力需要予測が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電力需要予測システムの主要部の構成を示した図である。
【
図2】過大変動検知部(30)の構成を示した図である。
【
図3】変動指標値と閾値とを比較して過大変動を検知する例を示した図である。
【
図4】類似期間探索部(50)の構成を示した図である。
【
図5】予兆期間に基づいて比較期間を探索する方法を示した図である。
【
図6】過大変動後予測部(60)の構成を示したブロック図である。
【
図7】予測モデルを電力需要の履歴データに基づいて構築する方法を模式的に示した図である。
【
図8】予測モデルの構築方法を模式的に示した図である。
【
図9】予測モデルによる電力需要の予測方法を模式的に示した図である。
【
図10】予測モデルを電力需要および外部情報の履歴データに基づいて構築する方法を模式的に示した図である。
【
図11】予測モデルの構築方法を模式的に示した図である。
【
図12】予測モデルによる電力需要の予測方法を模式的に示した図である。
【
図13】本発明の一実施形態の動作を示したフローチャートである。
【
図14】人の活動に注目して現在の都市を様々なサブエリアへ分割する例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。ここでは初めに本発明の基本的な考え方について説明し、次いで電力需要予測の実施の形態について具体的に説明する。
【0022】
人の日常的な移動に基づく電力需要変動はカレンダ情報や気象情報などの外部情報をパラメータに含む予測モデルを用いれば実用的な精度で推定できる。しかしながら、イベントを契機とした非日常的な人移動に基づく電力需要変動は日常的な人移動と比較してカレンダ情報や外部情報との相関が低いために予測精度が低下する傾向にある。
【0023】
一方、多くの都市、特に大都市やその隣接地域はビジネスエリア、商業エリア、産業エリア、住宅エリア、文教エリアなど多数の様々なサブエリアから編成される。各サブエリアは仕事、買い物、娯楽など人々が行う特定の一般的な活動で分類される。都市はこれらのサブエリアの1つまたは複数で構成され、複数の商業エリア、産業エリア、住宅エリアなどが存在する場合もある。
【0024】
このように、大都市を人の活動に注目(AoI : Activity of Interest)して複数のサブエリアに分割した場合、各エリア間での人移動は、それが日常的であるかイベントを契機とした非日常的であるかを問わず各エリアの属性に固有のパターンを示すことが確認されている。
【0025】
例えば、住宅エリアでは出勤や通勤の時間帯に人が減少する一方、文教地区やビジネス地区では上昇する。また、文教地区とビジネス地区とを比較すると、文教エリアでは下校時間から人の移動が始まる一方、ビジネスエリアでは下校時間から数時間遅れて人の移動が始まる。さらに、商業エリアで何らかのイベントが開催されると、住宅エリアやビジネスエリアからの人移動が認められ、人移動パターンはイベントの内容や規模に応じて異なるものの各エリアの属性に依存する。
【0026】
図14は、人の活動に注目して現在の都市を様々なサブエリアへ分割した例を示している。同図(a)は、ビジネスエリアを中心とした新しい都市のサブエリアへの分割例であり、同図(b)は、重要な歴史的地区を維持したい古い都市の分割例であり、同図(c)は、これらとは別の分割例である。なお、サブエリアへの分割方法は上位の3つの例に限定されるものではなく、人の特徴的な移動が認められるならば建物(家、店、オフィスなど)単位でサブエリアに分割しても良い。
【0027】
なお、サブエリアへの分割において注目する属性は人の活動に限定されるものではなく、各エリアの配置に注目(LoI : Location of Interest)しても良い。同図(d)は配置に注目した場合のサブエリアへの分割例であり、人の活動に注目すると各サブエリアが元のエリアの周りに均一に広がっているため特定することが難しい場合に有効である。
【0028】
たとえば、駅、スタジアム、美術館などの位置に応じて各サブエリアに分割することができる。これにより特定の場所の周りのサブエリアに出入りする人々の動きの影響に焦点を合わせることができる。
【0029】
なお、電力供給エリアを複数のサブエリアへ分割する方法は上記に限定されるものではなく、同図(e)に示したように電力供給エリアをメッシュ状に分割して多数のサブエリアを定義し、サブエリアごとに活動または配置に注目するようにしても良い。
【0030】
このように、人の活動や配置に注目して分割されたサブエリアは人移動パターンが日常的であるか非日常的であるかを問わず特異的な傾向を示す。そこで、本発明では電力供給エリアを人移動に特徴的な属性(人移動属性)に基づいて複数のサブエリアに分割し、サブエリアごとに電力需要を予測し、予測結果を統合することで電力供給エリアの電力需要を予測する。
【0031】
図1は、本発明の一実施形態に係る電力需要予測システムの主要部の構成を示した図である。このようなシステムは、CPU、メモリ、入出力インタフェースおよびバス等を備えた汎用のコンピュータやサーバに、後述する各機能を実現するアプリケーション(プログラム)を実装することで構成できる。あるいは、アプリケーションの一部がハードウェア化またはROM化された専用機や単能機として構成することもできる。
【0032】
本実施形態では、小売電力事業者の電力供給エリアAが人移動属性に基づいて予め複数のサブエリアA_j(jは、サブエリア識別子)に仮想的に分割される。そして、サブエリアA_jごとに固有の履歴情報に基づいて将来の電力需要を予測し、各サブエリアA_jの予測結果を統合することで電力供給エリアAの電力需要が予測される。
【0033】
電力需要監視部10は、各サブエリアA_jの電力需要を所定の監視期間tごとに監視する。履歴DB20には、電力需要の履歴データがサブエリアA_jごとに蓄積される。履歴DB20に蓄積する履歴データには、カレンダ情報に加えて気象情報や経済情報(株価や為替レート)等の外部情報を対応付けることもできる。
【0034】
過大変動検知部30は、サブエリアA_jごとに電力需要変動が所定の閾値条件から外れる過大変動を検知する。閾値条件は全てのサブエリアA_jに共通であっても良いし、サブエリアA_jごとに異なっていても良い。更に、閾値条件はカレンダ情報や気象情報などの外部情報に応じて変化しても良い。本実施形態では、電力需要の過大変動が検知されたサブエリアを「過大変動サブエリア」と表現する場合もある。
【0035】
図2は、過大変動検知部30の構成を示したブロック図であり、変動指標値取得部31、閾値決定部32および比較部33を主要な構成としている。
【0036】
変動指標値取得部31は、現在の監視期間tにおける電力需要変動が過大であるか否かを判断するために用いる変動指標値を取得する。本実施形態では、サブエリアA_jごとに監視期間tで観測された電力需要yt、過去の電力需要の中央値mおよび標準偏差SDを次式(1)に適用して得られる標準スコアzj, tを変動指標値として用いることができる。
【0037】
Zj, t = (yt - m)/ SD (1)
【0038】
上式(1)で求まるサブエリアA_jの監視期間tにおける変動指標値zj, tを参照すれば、監視期間tの電力需要が過去の電力需要履歴から逸脱しているか否かを検知し、過大変動サブエリアを識別することができる。
【0039】
あるいは、次式(2)で計算される電力需要の変化率(微分値)dj, tを変動指標値として採用しても良い。
【0040】
dj, t = (yt - yt-1) / (xt - xt-1) (2)
【0041】
上式(2)で求まる変化率dj, tは監視期間tごとの電力需要の勾配を推定するのに役立ち、電力需要傾向の重要な変化を判別できる。
【0042】
さらに、次式(3)で示したように、最新の電力需要ytと予測値ptとの差分uj, tを変動指標値Uj, tとして採用しても良い。
【0043】
Uj, t = yt - pt (3)
なお、変動指標値は上記に限定されるものではない。
【0044】
閾値決定部32は変動指標ごとに上限閾値および/または下限閾値を決定する。各閾値は予め固定値に設定しておくことができる。この場合、各閾値はサブエリアA_jごとに異ならせても良い。
【0045】
各閾値は過去の値、時間、曜日、気象などの外部情報に応じて動的に変化する可変値としても良い。さらに、サブエリアA_jごとに設定した固定的な標準値を外部情報に応じて動的に調整する半固定値としても良い。
【0046】
比較部33は監視期間tの変動指標値を上限閾値および下限閾値と比較し、変動指標値が上限閾値および下限閾値で定まる閾値範囲から外れると過大変動アラートを発する。
【0047】
図3は、変動指標値と閾値とを比較して過大変動を検知する例を示した図であり、変動指標値が実線、閾値が点線、比較結果が破線で表現されている。同図(a)は閾値が固定的である場合を示し、同図(b)は閾値が可変的である場合を示している。
【0048】
いずれの場合も、変動指標値が上限閾値(固定上限値または可変上限値)を上回った場合、変動指標値が下限閾値(固定下限値または可変下限値)を下回った場合および変動指標値が上限閾値および下限閾値の範囲内である場合、のいずれであるかに応じて異なる比較結果が出力される。なお、閾値の設定方法や閾値との比較方法は上記に限定されない。
【0049】
図1へ戻り、平時予測部40は、全てのサブエリアA
_jにおいて電力需要の過大変動が検知されていなければ、予め用意されている平時予測モデルM
refに現在の電力需要を適用することで将来の電力需要を予測する。平時予測モデルM
refは全てのサブエリアA
_jに共通であっても良いし、サブエリアA
_jごとに異なる固有モデルであっても良い。
【0050】
類似期間探索部50は、あるサブエリアで電力需要の過大変動が検知されると、過大変動が発生するまでの所定時間を当該過大変動に結びつく特徴的な電力需要変動が発生している予兆期間とみなす。本実施形態では、予兆期間の長さNCが監視周期tの倍数としてユーザにより予め指定されている。そして、前記予兆期間における過大変動サブエリアの電力需要と当該サブエリアの過去の電力需要とを比較することで、電力需要が予兆期間と類似する上位NP個の類似期間(上位NPベスト)を探索する。
【0051】
図4は、前記類似期間探索部50の構成を示した図であり、予兆期間決定部51、比較期間選択部52、類似度スコア計算部53および類似期間(上位N
Pベスト)決定部54を主要な構成としている。
【0052】
前記予兆期間決定部51は、現在の監視期間tで過大変動が検知されると、過大変動が検知されるまでの所定期間を、電力需要に過大変動の兆しが表れる予兆期間に決定する。本実施形態では、監視期間tのNC倍に相当する時間長が予兆期間に決定される。比較期間選択部52は、前記予兆期間とカレンダ情報が一致または類似する過去の複数の期間を比較期間として選択する。
【0053】
本実施形態では、
図5に示したように、火曜日の7時に過大変動が検知されると、前記予兆期間決定部51は、例えば過大変動が検知されてから監視期間tのN
C倍(本実施形態ではN
C=12なので12時間)だけ前の前日月曜日20時から火曜日7時までを、その後の予測期間(●印:監視期間tのN
H倍の時間長)に影響する予兆期間(〇印)に決定する。
【0054】
前記比較期間選択部52は、当該予兆期間NCとカレンダ情報が類似する過去の期間として、毎週月曜日の午後8時から翌火曜日の午前7時までの各12時間(□印)、あるいは曜日は問わず全ての午後8時から翌日の午前7時までの12時間(□印および△印)を比較期間として選択する。
【0055】
前記類似度計算部53は、前記予兆期間の電力需要と各比較期間の電力需要との類似度スコアSをそれぞれ計算する。本実施形態では次式(4)に基づいて類似度スコアSが計算される。
【0056】
S = Scomparison + β*Sseason + δ*Sexternaldata (4)
【0057】
Scomparisonは変動スコアであり、例えば予兆期間および比較期間の監視期間tごとの電力需要の絶対差の総和として求めることができる。このとき、特定の監視期間tについては重み付けして加重和を求めるようにしても良い。なお、類似度スコアSの計算方法は上式(4)に限定されない。
【0058】
Sseasonはシーズン加算用の基準値であり、比較期間が予兆期間と同じシーズンであればスコアが高く算出されるように加重係数βが乗じられる。Sexternaldataは外部情報加算用の基準値であり、温度や湿度などの外部情報が類似するほどスコアが高く算出されるように加重係数δが乗じられる。前記Sexternaldataは例えば次式(5)で求められる。
【0059】
Sexternaldata = Σλk* Sk (5)
【0060】
ここで、kは外部情報識別子であり、例えばS1は温度の類似度スコア、S2は湿度の類似度スコアを表す。λkは各類似度スコアSkの重みである。各Skも前記Scomparisonの場合と同様に、予兆期間および比較期間の監視期間tごとの電力需要の絶対差の総和として求めることができる。このとき、特定の監視期間については重み付けをして加重和を求めるようにしても良い。
【0061】
類似期間決定部54は、上式(4)に基づいて計算された電力需要の類似度スコアSが大きい上位NP個の比較期間を類似期間に決定する。したがって、各類似期間の時間長も監視期間tのNC倍となる。
【0062】
図1へ戻り、過大変動後予測部60はサブエリアA
_jごとに類似期間の履歴データとその所定時間後の前記予測期間に対応する予測対応期間の履歴データとの対応関係を前記予兆期間の履歴データに適用することで予測期間N
Hの電力需要を予測する。前記予測期間および予測対応期間の各時間長は監視期間tの倍数で定義され、本実施形態ではいずれの時間長も監視期間tのN
H倍に設定されている。
【0063】
図6は、前記過大変動後予測部60の構成を示したブロック図であり、電力需要履歴取得部61、予測モデル構築部62、予測部63および外部情報履歴取得部64を主要な構成としている。
【0064】
電力需要履歴取得部61は履歴DB20から前記上位N
Pベストの類似期間に関連する履歴データを取得する。本実施形態では、
図5に示したように予測期間(●印)が予兆期間に続く期間であって、その長さは監視期間tのN
H倍(本実施形態ではN
H=4なので4時間)に設定されている。したがって、サブエリアA
_jごとに類似期間の履歴データおよび当該類似期間に続く4時間の予測対応期間(■印または▲印)の履歴データがN
Pセット取得される。
【0065】
予測モデル構築部62は、サブエリアA_jごとに、または人移動属性が同一のサブエリアA_jごとに、前記NPセット分の類似期間の履歴データと予測対応期間の履歴データとの対応関係を学習することで、サブエリアA_jごとに予兆期間の電力需要の履歴データに基づいて予測期間の電力需要を予測する予測モデルMjを構築する。
【0066】
前記予測モデル構築部62は、予測モデルを構築する際に類似期間および予測対応期間における気象情報や経済情報等の外部情報を外部情報履歴取得部64で取得し、これらの外部情報を予測パラメータとして追加しても良い。
【0067】
図7,8,9は、予測モデルM
jを電力需要履歴に基づいて構築する方法を模式的に示した図、
図10,11,12は、予測モデルM
jを電力需要履歴および外部情報履歴に基づいて構築する方法を模式的に示した図であり、いずれも4つのサブエリアA
_1a,A
_1b,A
_2,A
_3に注目する。
【0068】
サブエリアA_1a,A_1bは人移動属性が同一であり、それ以外の各サブエリアA_jは人移動属性が相互に異なっている。ここではサブエリアA_1aにおいて電力需要の過大変動が検知され、直前の12時間(NC=12)が予兆期間に設定され、予兆期間後の4時間(NH=4)が予測期間に設定されている。
【0069】
前記類似度スコア計算部53により上位NPべストの類似期間が決定されると、電力需要履歴取得部61は全てのサブエリアA_1a,A_1b,A_2,A_3を対象に、類似期間と同一期間の履歴データDCiおよび当該類似期間に続く予測対応期間の履歴データDHiを履歴DB20から取得する。
【0070】
本実施形態では、サブエリアA_1aの類似期間および予測対応期間の各履歴データDCi_1a,DHi_1a、サブエリアA_1bの類似期間および予測対応期間の各履歴データDCi_1b,DHi_1b、サブエリアA_2の類似期間および予測対応期間の各履歴データDCi_2,DHi_2並びにサブエリアA_3の類似期間および予測対応期間の各履歴データDCi_3,DHi_3が取得される。
【0071】
前記予測モデル構築部62は、
図8に示したように、サブエリアA
_2の各履歴データD
Ci_2,D
Hi_2の対応関係に基づいて当該サブエリアA
_2に固有の予測モデルM
2を構築する。同様に、サブエリアA
_3の各履歴データD
Ci_3,D
Hi_3の対応関係に基づいて当該サブエリアA
_3に固有の予測モデルM
3を構築する。
【0072】
サブエリアA
_1a,A
_1bについては、サブエリアごとに予測モデルM
1a,M
1bをそれぞれ構築しても良いが、サブエリアA
_1a,A
_1bは人移動属性が共通する。したがって、
図9に示したように、サブエリアA
_1a,A
_1bの類似期間の各履歴データD
Ci_1a,D
Ci_1bと予測対応期間の履歴データD
Hi_1a,D
Hi_1bとの対応関係に基づいて当該サブエリアA
_1a,A
_1bに共通する固有の予測モデルM
1を構築しても良い。
【0073】
予測部63は、サブクラスA_jごとに予兆期間の履歴データDC_jを、対応する予測モデルMjに適用することで予測期間の電力需要DH_jを予測する。
【0074】
本実施形態では、サブエリアA_1aの予兆期間の履歴データDC_1aを予測モデルM1aまたはM1に適用することで予測期間の電力需要DH_1aを予測する。同様に、サブエリアA_1bの予兆期間の履歴データDC_1bを予測モデルM1bまたはM1に適用することで予測期間の電力需要DH_1bを予測する。
【0075】
同様に、サブエリアA_2の予兆期間の履歴データDC_2を予測モデルM2に適用することで予測期間の電力需要DH_2を予測し、サブエリアA_3の予兆期間の履歴データDC_3を予測モデルM3に適用することで予測期間の電力需要DH_3を予測する。
【0076】
なお、
図10に示したように、サブエリアA
_jの予測モデルM
jを電力需要の履歴データD
Ci_jおよび外部情報の履歴データE
Ci_j(例えば、経済情報),X
Ci_j(例えば、気象情報)に基づいて構築するのであれば、
図11に示したように、類似期間および予測対応期間の電力需要の履歴データD
Ci_j,D
Hi_jの対応関係および外部情報の各履歴データE
Ci_j,X
Ci_jとE
Hi_j,X
Hi_jとの対応関係に基づいて当該サブエリアA
_jに固有の予測モデルM
jを構築する。
予測部63は、予兆期間の履歴データD
C_jおよび外部情報E
C_j,X
C_jならびに予測期間の外部情報の予測値E
H_j,X
H_jを予測モデルM
jに適用することで予測期間の電力需要D
H_jを予測する。
サブエリアA
_1a,A
_1bについては、サブエリアごとに予測モデルM
1a,M
1bをそれぞれ構築しても良いが、
図12に示したように、サブエリアA
_1a,A
_1bの類似期間の電力需要および外部情報の各履歴データと予測対応期間の電力需要および外部情報の各履歴データとの対応関係に基づいて当該サブエリアA
_1a,A
_1bに共通する固有の予測モデルM
1を構築しても良い。
予測部63は、予兆期間の電力需要および外部情報の各履歴データならびに予測期間の外部情報の予測値E
H_j,X
H_jを対応する予測モデルM
jに適用することで予測期間の電力需要を予測する。
【0077】
図13は、本発明の一実施形態の動作を示したフローチャートであり、所定の監視期間tで繰り返し実行される。ここでは、電力需要の過大変動に結びつく特徴的な電力需要変動が発生している予兆期間が監視期間tの12倍に設定され、電力需要の予測期間が監視期間tの4倍に設定されているものとして説明する。
【0078】
ステップS1では現在の電力需要が電力需要監視部10により取得される。ステップS2では、過大変動検知部30において電力需要が所定の閾値範囲から外れているか否かに基づいて過大変動の検知が行われる。過大変動を検知できなければステップS3へ進む。ステップS3では、平時予測部40が予め構築されている平時予測モデルMrefに現在の電力需要を適用して、前記予測期間よりも長い比較的長期間の電力需要を予測する。したがって、平時予測部40による平時予測は監視期間tごとに行う必要はなく、計算コストを削減する観点から監視期間tよりも十分に長い周期で行うことが望ましい。ステップS4では、予測結果が出力される。
【0079】
これに対して、電力需要の過大変動が検知されると、ステップS5へ進んで予兆期間が決定される。ステップS6では、前記決定された予兆期間とカレンダ情報が一致または類似する比較期間が選択される。
【0080】
ステップS7では、各比較期間の電力需要と予兆期間の電力需要との類似度スコアSが上式(4)に基づいて計算される。ステップS8では、類似度スコアSが高い上位NPの比較期間が類似期間に決定される。
【0081】
ステップS9では、履歴DB20からサブエリアA_jごとに類似期間の履歴データおよび当該類似期間に続く予測対応期間の履歴データが取得される。ステップS10では、サブエリアA_jごとに、類似期間の履歴データと予測対応期間の履歴データとの対応関係を学習し、予兆期間の履歴データに基づいて予測期間の電力需要を予測する固有の予測モデルMjが構築される。
【0082】
ステップS11では、サブエリアA_jごとに予兆期間の履歴データを当該サブエリアA_jに固有の予測モデルMjに適用して予測期間の電力需要が予測される。ステップS12では予測結果が出力される。
【符号の説明】
【0083】
10…電力需要監視部,20…履歴DB,30…過大変動検知部,31…指標値取得部,32…閾値決定部,33…比較部,40…平時予測部,50…類似期間探索部,51…予兆期間決定部,52…比較期間選択部,53…類似度スコア計算部,54…類似期間決定部,60…過大変動後予測部,61…電力需要履歴取得部,62…予測モデル構築部,63…予測部,64…外部情報履歴取得部