(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-08
(45)【発行日】2023-08-17
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池用電極の製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
B05D 3/00 20060101AFI20230809BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20230809BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20230809BHJP
B05D 7/14 20060101ALI20230809BHJP
B05D 3/12 20060101ALI20230809BHJP
B05D 3/02 20060101ALI20230809BHJP
【FI】
B05D3/00 D
H01M4/139
B05D7/24 301E
B05D7/24 303A
B05D7/14 P
B05D3/12 C
B05D3/02 Z
(21)【出願番号】P 2020218813
(22)【出願日】2020-12-28
【審査請求日】2022-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】蛭川 智史
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-130751(JP,A)
【文献】特開2014-203572(JP,A)
【文献】特開2018-195587(JP,A)
【文献】特開2000-323131(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0335766(US,A1)
【文献】特開2015-230852(JP,A)
【文献】特開2015-076248(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00-7/26
H01M 4/139
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水電解液二次電池用の電極を製造する方法であって、以下の工程:
少なくとも活物質と溶媒とを含む電極合材ペーストを用意する工程;
前記電極合材ペーストを集電体上に塗布する工程;
前記集電体上に塗布された前記電極合材ペーストからなる塗膜を乾燥させる工程;および、
前記乾燥工程後の塗膜をプレスする工程;
を包含し、
前記塗布工程は、前記電極合材ペーストが塗布された時点の前記塗膜の平均膜厚が200μm~600μmとなるように塗布し、
前記乾燥工程は、余熱領域、定率乾燥領域および減率乾燥領域を含み、
ここで、前記余熱領域とは、前記塗膜の温度を上昇させる領域であり、
前記定率乾燥領域とは、前記塗膜の温度を一定とする領域であり、
前記減率乾燥領域とは、前記定率乾燥領域の後に前記塗膜の温度を再度上昇させる領域であり、
前記減率乾燥領域の少なくとも一時において、前記塗膜がプレスされており、
該プレスは、該プレス前の前記塗膜の膜厚を100%としたときに該膜厚が、80%を下回らない程度の条件で実行され、
前記
乾燥工程後の塗膜をプレス
する工程では、
該工程前の電極合材層の厚みを100%としたときに、70%以下の厚みとなる条件で実行されることを特徴とする、電極の製造方法。
【請求項2】
前記減率乾燥領域における前記
塗膜のプレスは、該プレス前の前記塗膜の膜厚を100%としたときに該膜厚が、0.1%~10%薄くなる条件で実行される、請求項1に記載の電極の製造方法。
【請求項3】
前記減率乾燥領域において、前記
塗膜のプレスが複数回実行されることを特徴とする、請求項1または2に記載の電極の製造方法。
【請求項4】
長尺な正極集電体上に正極合材層が形成されたシート状の正極および、長尺な負極集電体上に負極合材層が形成されたシート状の負極を有する電極体と、非水電解液と、を備える非水電解液二次電池に用いられる電極を製造する電極製造装置であって、
前記長尺な集電体を搬送する搬送部と、
前記搬送部によって搬送された前記長尺な集電体上に、少なくとも活物質と溶媒とを含む電極合材ペーストを塗布する塗布部と、
前記集電体上に塗布された前記電極合材ペーストからなる塗膜を乾燥させる乾燥部と、
前記乾燥部で乾燥された塗膜をプレスするプレス部と、
を備えており、
前記乾燥部は、搬送方向上流側から、前記塗膜の温度を上昇させる余熱領域、前記塗膜の温度を一定に保つ定率乾燥領域および、前記定率乾燥領域の後に再度塗膜の温度を上昇させる減率乾燥領域を有しており、
前記減率乾燥領域において、前記搬送部によって搬送されてくる塗膜をプレスするプレス装置が備えられており、
該プレス装置は、該
プレス装置においてプレス
する前の前記塗膜の膜厚を100%としたときに該膜厚が、80%を下回らない程度の条件でプレスを実行するように構成され、
前記
乾燥部で乾燥された塗膜をプレスするプレス部は、該プレス
部においてプレスする前の電極合材層の厚みを100%としたときに、70%以下の厚みとなる条件で実行するように構成されている、電極製造装置。
【請求項5】
前記プレス装置は、該プレス前の前記塗膜の膜厚を100%としたときに該膜厚が、0.1%~10%薄くなる条件でプレスを実行する、請求項4に記載の電極製造装置。
【請求項6】
前記減率乾燥領域における平均搬送速度が、0.5m/分~100m/分である、請求項4または5に記載の電極製造装置。
【請求項7】
前記減率乾燥領域において、前記プレス装置が搬送方向に複数備えられている、請求項4~6のいずれか一項に記載の電極製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池用電極の製造方法および該電極を製造する電極製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の非水電解液二次電池は、既存の電池に比べて軽量かつエネルギー密度が高いことから、車両搭載用の高出力電源、あるいは、パソコンおよび携帯端末の電源として好ましく利用されている。特に、リチウムイオン二次電池は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両の駆動用高出力電源として、好ましく用いられている。
【0003】
非水電解液二次電池の電極は、一般に、長尺な集電体と該集電体上に形成された電極合材層とを備えている。かかる電極は、典型的には、電極活物質と溶媒とを含有する電極合材を集電体上に塗布し、乾燥することにより製造される。
非水電解液二次電池は、さらなる高性能化を求められており、かかる高性能化の一つの方針として、高容量化が図られている。非水電解液二次電池の高容量化としては、例えば、電極を従来よりも厚くすることが挙げられる。
【0004】
電極を厚くするために電極合材(塗膜)を集電体に厚く塗布して乾燥させた場合には、塗膜の乾燥収縮も大きくなり、これにより乾燥後の塗膜にシワやクラックが生じやすくなる傾向にある。乾燥期間は、一般的に、集電体上の電極合材(塗膜)の温度が溶媒の蒸発(揮発)温度まで上昇する余熱領域、電極合材(塗膜)の温度が溶媒の蒸発(揮発)温度で一定に保たれる定率乾燥領域および、電極合材(塗膜)の温度が乾燥炉の温度まで上昇する減率乾燥領域の3つの領域に分けることができる。特に、定率乾燥領域においては、溶媒が急速に蒸発(揮発)するため、塗膜の収縮が大きく塗膜内部に引張り応力が残留しやすい。このため、特許文献1においては、定率乾燥領域に樽状搬送ローラを配置して、引張り応力を残留しにくくすることで乾燥後の電極合材(塗膜)の合材割れを生じにくくする手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の手法では、電極合材(塗膜)を樽状搬送ローラによって湾曲した状態で乾燥させるため、電極合材が両側端部に流れてしまい、結果的に中央部が薄く両端部が厚い(すなわち、膜厚が不均一)な電極になり得る。膜厚が不均一な電極は、電池容量のばらつきや反応ムラが生じるおそれがある。このため、膜厚が従来よりも厚い塗膜を均一に乾燥させ、かつ、乾燥後にクラックが発生していない高品質な電極を製造する方法が求められている。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、膜厚が均一に保たれ、クラックの発生が抑制された高品質な電極を製造する方法を提供することにある。また、他の目的は、かかる電極の製造方法に用いられる電極製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を実現するべく、非水電解液二次電池用の電極の製造方法が提供される。ここに開示される非水電解液二次電池用の電極を製造する方法は、少なくとも活物質と溶媒とを含む電極合材ペーストを用意する工程;前記電極合材ペーストを集電体上に塗布する工程;および、前記集電体上に塗布された前記電極合材ペーストからなる塗膜を乾燥させる工程;を包含する。前記乾燥工程は、余熱領域、定率乾燥領域および減率乾燥領域を含む。ここで、前記余熱領域とは、前記塗膜の温度を上昇させる領域であり、前記定率乾燥領域とは、前記塗膜の温度を一定とする領域であり、前記減率乾燥領域とは、前記定率乾燥領域の後に前記塗膜の温度を再度上昇させる領域である。前記減率乾燥領域の少なくとも一時において、前記塗膜がプレスされており、前記プレスは、該プレス前の前記塗膜の膜厚を100%としたときに該膜厚が、80%を下回らない程度の条件で実行されることを特徴とする。
かかる構成によれば、電極合材ペーストからなる塗膜は、減率乾燥領域においてプレスされるため厚み方向に収縮する力が働き、幅方向および奥行方向に収縮する力が抑制される。これにより、塗膜が集電体を引っ張る力も抑制され、集電体の湾曲を防止し、塗膜を均一に乾燥させることができる。また、収縮する力が緩和されることでクラックの発生が抑制される。すなわち、塗膜の膜厚が均一に保たれ、クラックの発生が抑制された高品質な電極の製造を実現することができる。
【0009】
ここに開示される製造方法の好適な一態様では、前記減率乾燥領域における前記プレスは、該プレス前の前記塗膜の膜厚を100%としたときに該膜厚が、0.1%~10%薄くなる条件で実行される。
かかる構成によれば、乾燥工程中においてプレスを実行しても塗膜を好適にプレスすることができ、膜厚が均一に保たれ、クラックの発生が抑制された電極を製造することができる。
【0010】
ここに開示される製造方法の好適な一態様では、前記電極合材ペーストが塗布された時点の前記塗膜の平均膜厚が200μm~600μmである。
かかる構成によれば、平均膜厚が比較的厚い塗膜であっても、膜厚が均一に保たれ、クラックの発生が抑制された電極を製造することができるため、高容量化と高品質化がともに達成された電極を製造することができる。
【0011】
ここに開示される製造方法の好適な一態様では、前記減率乾燥領域において、前記プレスが複数回実行されることを特徴とする。
かかる構成によれば、塗膜の乾燥状態に応じてプレスを実行することができるため、クラックの発生をより好適に抑制し、塗膜を均一な状態で乾燥させることができる。
【0012】
上記他の目的を達成するべく、電極の製造装置が提供される。ここに開示される電極製造装置は、長尺な正極集電体上に正極合材層が形成されたシート状の正極および、長尺な負極集電体上に負極合材層が形成されたシート状の負極を有する電極体と、非水電解液と、を備える非水電解液二次電池に用いられる電極を製造する電極製造装置であって、前記長尺な集電体を搬送する搬送部と、前記搬送部によって搬送された前記長尺な集電体上に、少なくとも活物質と溶媒とを含む電極合材ペーストを塗布する塗布部と、前記集電体上に塗布された前記電極合材ペーストからなる塗膜を乾燥させる乾燥部と、を備えている。前記乾燥部は、搬送方向上流側から、前記塗膜の温度を上昇させる余熱領域、前記塗膜の温度を一定に保つ定率乾燥領域および、前記定率乾燥領域の後に再度塗膜の温度を上昇させる減率乾燥領域を有しており、前記減率乾燥領域の少なくとも一時において、前記塗膜をプレスするプレス装置が備えられており、前記プレス装置は、該プレス前の前記塗膜の膜厚を100%としたときに該膜厚が、80%を下回らない程度の条件でプレスを実行するように構成されている。
かかる電極製造装置によれば、ここに開示される製造方法を好適に実施することができる。すなわち、減率乾燥領域において塗膜がプレス装置によってプレスされるため、塗膜の乾燥収縮の抑制をすることができる。これにより、乾燥後の塗膜(電極)は、膜厚が均一に保たれ、クラックの発生が抑制された高品質な電極の製造を実現することができる。
【0013】
ここに開示される製造装置の好適な一態様では、前記プレス装置は、該プレス前の前記塗膜の膜厚を100%としたときに該膜厚が、0.1%~10%薄くなる条件でプレスを実行する。
かかる構成によれば、減率乾燥領域においてプレス装置によって塗膜をプレスしても、塗膜がプレス装置に付着することなく好適にプレスされる。
【0014】
ここに開示される製造装置の好適な一態様では、前記減率乾燥領域における平均搬送速度が、0.5m/分~100m/分である。
かかる構成によれば、塗膜が塗布された集電体(典型的には、長尺なシート状の集電体)の搬送速度を、適切にコントロールすることができる。このため、各領域において塗膜の乾燥時間を容易に最適化することができる。これにより、クラックの発生をさらに抑制することができる。
【0015】
ここに開示される製造装置の好適な一態様では、前記減率乾燥領域において、前記プレス装置が搬送方向に複数備えられている。
かかる構成によれば、より好適なタイミングで塗膜をプレスすることが可能であり、クラックの発生をさらに抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】塗膜中の固形分率および塗膜温度の経時変化を模式的に示すグラフである。
【
図2】従来方法における塗膜の乾燥工程を模式的に示す図であり、(a)は乾燥前の状態を示し、(b)は定率乾燥領域の状態を示し、(c)は減率乾燥領域の状態を示し、(d)は乾燥後の状態を示す。
【
図3】一実施形態に係る塗膜の乾燥工程を模式的に示す図であり、(a)は乾燥前の状態を示し、(b)は定率乾燥領域の状態を示し、(c)は減率乾燥領域の状態を示し、(d)は乾燥後の状態を示す。
【
図4】一実施形態に係る電極製造装置を模式的に示す図である。
【
図5】一実施形態に係る電極製造装置に備えられた乾燥部を模式的に示す図である。
【
図6】他の一実施形態に係る電極製造装置に備えられた乾燥部を模式的に示す図である。
【
図7】一実施形態に係る非水電解液二次電池を模式的に示す縦断面図である。
【
図8】一実施形態に係る非水電解液二次電池の捲回電極体の構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について説明する。ここで説明される実施形態は、当然ながら特に本発明を限定することを意図したものではない。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、本発明を特徴付けない電極製造方法の一般的な製造プロセスおよび非水電解質二次電池の一般的な構成)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、各図における符号Xは「幅方向」を示し、符号Zは「厚さ方向」を示す。なお、寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
また、本明細書において範囲を示す「A~B(ただし、A,Bは任意の値。)」の表記は、A以上B以下を意味するものとする。
【0018】
本明細書において、「二次電池」とは、繰り返し充電可能な蓄電デバイス一般をいい、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池等のいわゆる蓄電池(すなわち化学電池)の他、電気二重層キャパシタ(すなわち物理電池)を包含する。また、本明細書において「非水電解液二次電池」とは、非水系の電解液を用いた繰り返し充電可能な蓄電デバイス一般をいい、いわゆる蓄電池ならびに電気二重層キャパシタ等の蓄電素子を包含する用語である。また、本明細書において「リチウムイオン二次電池」とは、電荷担体としてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電荷の移動により充放電が実現される非水電解液二次電池をいう。
【0019】
<電極の製造方法>
ここに開示される非水電解質二次電池用電極の製造方法は、大まかに言って、以下の3つの工程:(1)電極合材ペーストを用意する工程;(2)電極合材ペーストを塗布する工程;および、(3)電極合材ペーストからなる塗膜を乾燥させる工程;を包含している。そして、(3)電極合材ペーストからなる塗膜を乾燥させる工程は、以下の3つの領域(i)余熱領域、(ii)定率乾燥領域、(iii)減率乾燥領域を含み、(iii)減率乾燥領域において塗膜をプレスすることで特徴づけられている。したがって、そのほかの工程については特に限定されず、従来この種の製造方法と同様の構成でよい。なお、本明細書において「領域」とは、「段階」と読み替えてもよい。また、これらの工程に加えて、任意の段階で他の工程を含むことは妨げられない。以下、各工程について説明する。
【0020】
<電極合材ペーストの用意工程>
電極合材ペーストの用意工程では、少なくとも電極活物質と溶媒とを混合してペーストを調整する。なお、本明細書において、「ペースト」とは、「スラリー」、「インク」と呼ばれる形態のものを包含する用語として用いられる。
【0021】
電極合材ペーストの材料としては、従来から非水電解液二次電池、特に、リチウムイオン二次電池のペーストの材料として一般的に使用されているものを用いることができる。正極合材ペーストを用意する場合、正極活物質としては、リチウム複合酸化物、リチウム遷移金属リン酸化合物(例えば、LiFePO4)等を好ましく用いることができる。リチウム複合酸化物の例としては、リチウムニッケル系複合酸化物、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルマンガン系複合酸化物(例えば、LiNi0.5Mn1.5O4)、リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物(例えば、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)等が挙げられる。
正極活物質の平均粒径は、特に限定されないが、概ね30μm以下(典型的には1μm以上20μm以下、例えば、5μm以上15μm以下)である。なお、本明細書において、「平均粒径」とは、一般的なレーザ回析・光散乱法に基づく体積基準の粒度分布において、粒径が小さい微粒子側からの累積頻度50体積%に相当する粒径(D50、メジアン径ともいう。)をいう。
正極合材ペーストに含まれる溶媒の例としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等を好ましく用いることができる。
【0022】
正極合材ペーストは、固形分として正極活物質以外の物質、例えば、導電材やバインダ等を含有していてもよい。導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやその他(グラファイト等)の炭素材料好ましく用いることができる。バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系のバインダや、スチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴム系バインダを好ましく用いることができる。また、本発明の効果を損なわない限りにおいて、正極合材ペーストは、上述した以外の材料(例えば各種添加剤等)を含有してもよい。
なお、本明細書において、「固形分」とは、上述した各材料のうち溶媒を除く材料(固形材料)のことをいい、「固形分率」とは、各材料すべてを混合した電極合材ペーストのうち、固形分が占める割合のことをいう。
【0023】
負極合材ペーストを用意する場合、負極活物質としては、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料を好ましく用いることができる。黒鉛は、天然黒鉛であってもよく、人造黒鉛であってもよい。また、黒鉛の表面が非晶質炭素膜で被覆された、非晶質炭素被覆黒鉛を用いてもよい。
負極活物質の平均粒径は、特に限定されないが、概ね30μm以下(典型的には1μm以上20μm以下、例えば、5μm以上15μm以下)である。
負極合材ペーストに含まれる溶媒の例としては、水系溶媒等を好ましく用いることができる。水系溶媒とは水または水を主体とする混合溶媒のことである。
【0024】
負極合材ペーストは、固形分として負極活物質以外の物質、例えば、増粘剤やバインダ等を含有していてもよい。バインダとしては、例えばスチレンブタジエンラバー(SBR)等を好ましく用いることができる。増粘剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)等を好ましく用いることができる。また、本発明の効果を損なわない限りにおいて、負極合材ペーストは、上述した以外の材料(例えば各種添加剤等)を含有してもよい。
【0025】
電極合材ペーストの固形分率は、ペーストの塗布を安定的に行うことができる限りにおいて、特に限定されないが、例えば、30質量%~80質量%であることが好ましく、35質量%~75質量%であることがより好ましく、40質量%~70質量%であることがさらに好ましい。
【0026】
電極合材ペーストの固形分全体に占める電極活物質の割合は、エネルギー密度の観点から、概ね50質量%以上であることが好ましく、例えば、80質量%~99質量%であることがより好ましく、85質量%~95質量%であることがさらに好ましい。また、電極合材ペーストの固形分全体に占めるバインダの割合は、例えば、0.1質量%~15質量%であることが好ましく、1質量%~10質量%であることがより好ましい。また、増粘剤等の各種添加剤を含ませる場合、ペーストの固形分全体に占める添加物の割合は、例えば、7質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0027】
電極合材ペーストは、上述した電極活物質、溶媒、その他添加物等の材料を従来公知の混合装置を用いて、混合することによって用意することができる。かかる混合装置としては、例えば、ボールミル、ロールミル、ニーダ、ホモジナイザー等が挙げられる。また、上述した材料を混合する順序は特に限定されず、例えば、一度にすべての材料を溶媒中に投入してもよく、複数回に分けて投入してもよい。
【0028】
<電極合材ペーストの塗布工程>
電極合材ペーストの塗布は、従来公知の塗布装置を用いて、集電体上に電極合材ペーストを塗布することにより行うことができる。かかる塗布装置としては、例えば、グラビアコーター、コンマコーター、スリットコーター、ダイコーター等が挙げられる。
【0029】
集電体は、この種の電池の集電体として用いられる金属製の集電体を特に制限なく使用することができる。正極合材ペーストを塗布する正極集電体としては、例えば、良好な導電性を有するアルミニウム、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等の金属材から構成される。特にアルミニウム(例えばアルミニウム箔)が好ましい。正極集電体の厚みは特に限定されるものではないが、概ね5μm~30μmであり、好ましくは10μm~20μmである。
負極合材ペーストを塗布する負極集電体としては、例えば、良好な導電性を有する銅や銅を主体とする合金、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等の金属材から構成される。特に銅(例えば銅箔)が好ましい。負極集電体の厚みは特に限定されるものではないが、概ね5μm~20μmであり、好ましくは8μm~15μmである。
【0030】
集電体に塗布される時点の塗膜の平均膜厚は、電池の高容量化の観点から、従来よりも厚く設定されており、200μm以上であることが求められる。例えば、250μm以上が好ましく、300μm以上がより好ましい。塗膜の平均膜厚が厚すぎる場合には、乾燥時間が長くなりすぎるため、塗膜の平均膜厚の上限は、例えば、600μm以下が好ましく、550μm以下がより好ましい。従来よりも塗膜の平均膜厚が厚い場合、減率乾燥領域において、クラックの発生が生じやすい。このため、本発明の効果がより発揮され得る。
【0031】
<塗膜の乾燥工程>
乾燥工程は、塗膜を乾燥させることにより溶媒を除去させ、電極合材層を形成する工程である。
図1は、一般的な乾燥工程における、塗膜温度および塗膜固形分率の経時変化を模式的に示す図である。
図2および
図3は、集電体10に塗布された直後の塗膜20を乾燥させて溶媒24を蒸発(揮発)させる過程を模式的に示す図である。
図2および
図3の(a)は乾燥前の状態を示し、(b)は定率乾燥領域の状態を示し、(c)は減率乾燥領域の状態を示し、(d)は乾燥後の状態を示す。以下、
図1~3を参照しながら一実施形態に係るペーストの乾燥工程について説明する。
【0032】
溶媒を含む電極合材ペーストからなる塗膜20を、定常状態にある乾燥炉内に配置して乾燥させる場合、
図1に示すように、乾燥工程は塗膜温度の変化によって、大きく3つの領域(段階)に分けられる。領域(i)は、塗膜温度を溶媒の蒸発温度(揮発温度)まで略直線的に上昇させる「余熱領域」である。領域(ii)は、塗膜温度を溶媒の蒸発温度(揮発温度)で一定に保つ「定率乾燥領域」である。領域(iii)は、定率乾燥領域の後に塗膜温度を再び上昇させる「減率乾燥領域」である。
【0033】
(i)余熱領域
余熱領域は、典型的には室温環境下にある塗膜20の塗膜温度を、溶媒24の蒸発(揮発)温度まで上昇させる領域である。このとき、主に電極活物質やバインダからなる固形材料22は、溶媒中に分散している状態である。(i)余熱領域において、塗膜温度は、溶媒24の蒸発温度に達していないため、溶媒はほとんど蒸発することがない。このため、塗膜20の固形分率も概ね一定に保たれている。このときの固形分率は、塗膜20に含有される固形材料22や溶媒24によって異なるため、特に限定されるものではないが、典型的には、30質量%~60質量%(例えば、45質量%~55質量%)である。
【0034】
(ii)定率乾燥領域
定率乾燥領域は、塗膜温度を溶媒24の蒸発温度(揮発温度)で一定に保つ領域である。(ii)定率乾燥領域において、塗膜温度は、溶媒24の蒸発温度に達しているため、
図2(b)に示すように塗膜表面から溶媒24が蒸発する。塗膜20から溶媒24が蒸発することで、塗膜20は、
図2(b)に矢印で示す向きに収縮する力が働いている。また、塗膜20から溶媒24が蒸発するため、塗膜20の固形分率が増加する。固形分率は、
図1に示すように時間に比例して略直線的に増加する。このときの固形分率は、急激に変化しており、一概に言えるものではないが、典型的には、40質量%~70質量%(例えば、55質量%~65質量%)である。
【0035】
(iii)減率乾燥領域
減率乾燥領域は、(ii)定率乾燥領域において一定に保たれていた塗膜温度を再び乾燥炉の温度まで上昇させる領域である。(iii)減率乾燥領域において、典型的には、塗膜20の表面付近に存在する溶媒24はほとんど蒸発しており、塗膜20を構成する固形材料22間に存在する溶媒24が蒸発する。このとき、塗膜20には
図2(c)の矢印に示す向きに固形材料22が互いに収縮する力が働いている。これにより、塗膜20が収縮する力に集電体10も引っ張られて、
図2(d)に示すように集電体10の中央部が凹状に湾曲する。また、塗膜20の内部に収縮する力が残留しているため、塗膜20の空隙等から塗膜20にクラックが発生する。なお、
図2(c)では、固形材料22の収縮方向が二次元方向的に示されているが、これは、
図2(c)を模式的な平面図として描画しているためであり、実際には固形材料22は、三次元方向的に収縮する力が働いている。
塗膜20の固形分率は、
図1に示すように(ii)定率乾燥領域と比較して緩やかに増加している。このときの固形分率は、塗膜20に含有される固形材料22や溶媒24によって異なるため、特に限定されるものではないが、典型的には、60質量%~95質量%(例えば、75質量%~90質量%)である。かかる範囲内の固形分率を有する塗膜20であれば、プレス装置に塗膜20が接着することなく好適にプレスを実施することができる。
【0036】
ここに開示される製造方法においては、(iii)減率乾燥領域において、
図3(c)に示すようにプレスを実行する。(iii)減率乾燥領域においてプレスした場合には、収縮する力が矢印で示すように下方向にのみ働くようになり、X方向に固形材料22が収縮する力が緩和される。これにより、
図3(d)に示すように、集電体10の中央部が凹状に湾曲することなく塗膜20を均一な状態で乾燥させることができる。このため、膜厚が均一な電極を得ることができる。また、塗膜20の内部における収縮する力が緩和され、クラックの発生を抑制することができる。すなわち、減率乾燥領域においてプレスを実行することにより、クラックの発生が抑制され、膜厚が均一に保たれた高品質な電極の製造を実現することができる。
【0037】
乾燥工程における乾燥の方法は、上述した3つの領域を有する方法である限り、特に限定されるものではない。例えば、熱風乾燥、赤外線乾燥等の従来公知の手法が挙げられる。
【0038】
乾燥工程における乾燥温度(乾燥炉内の温度)は、使用する溶媒24の種類等によって変動するため、特に限定されるものではないが、例えば、50℃以上、典型的には70℃以上、さらには100℃以上に設定することが好ましい。特に沸点の比較的高い溶媒(例えば水系溶媒)を使用する場合には、120℃以上、例えば140℃以上に設定されていてもよい。乾燥温度の上限は、特に限定されるものではないが、生産コストを低減する観点から、例えば、200℃以下、典型的には190℃以下、さらには180℃以下に設定することが好ましい。
【0039】
減率乾燥領域におけるプレスの条件は、プレス前の塗膜20の膜厚を100%としたときに、プレス後の塗膜20の膜厚が80%を下回らない程度の条件でプレスされることが求められる。典型的には、0.1%~15%薄くなる条件で実行されることが好ましく、例えば、0.1%~10%であることがより好ましく、0.5%~8%であることがさらに好ましい。プレスの条件がかかる範囲内であれば、塗膜20に過剰なプレス圧をかけることなく、膜厚が均一な電極が製造され、また、クラックの発生が抑制された電極を得ることができる。
【0040】
減率乾燥領域における搬送速度は、特に限定されるものではないが、生産性向上の観点から、典型的には、0.1m/分以上に設定されることが好ましい。例えば、0.3m/分以上に設定されることが好ましく、0.5m/分以上に設定されることがより好ましい。乾燥速度は、速すぎる場合には塗膜20にクラックを生じさせやすくなるため、典型的には、100m/分以下に設定されることが好ましい。例えば、90m/分以下に設定されることが好ましく、80m/分以下に設定されることがより好ましい。
【0041】
乾燥工程の後、電極合材層の目付量や密度を調整することを目的として、プレス工程を実施してもよい。かかるプレス工程は、ロールプレス等を用いて、従来公知の方法に従って行うことができる。なお、ここでいうプレス工程とは、プレス工程前の電極合材層の厚みを100%としたときに、概ね70%以下の厚みになる条件(例えばロールプレス時の線圧が、10kN/cm以上)で実施されるプレス工程のことをいう。
【0042】
<電極製造装置>
ここに開示される技術によれば、電極を製造する電極製造装置が提供される。
図4は、一実施形態に係る電極製造装置100を模式的に示す図である。電極製造装置100は、非水電解液二次電池(典型的には、リチウムイオン二次電池)の正極用の電極(正極)および負極用の電極(負極)を製造するために好適に用いることができる。電極製造装置100は、
図4に示すように、搬送部110、塗布部120、乾燥部130および制御部140を備えている。これらは、予め定められた搬送経路に沿って順に配置されている。制御部140は、搬送部110、塗布部120および乾燥部130とそれぞれ電気的に接続され、制御している。
図1に示された電極製造装置100は、典型的には、長尺な集電体10を長手方向に沿って搬送しながら、該集電体10上に、電極合材ペーストを塗布して、乾燥によって溶媒を除去することによって電極合材層を形成する。なお、
図4~6中の矢印は、搬送方向を示している。以下、各構成について説明する。
【0043】
制御部140は、例えばマイクロコンピュータにより構成される。マイクロコンピュータのハードウェアの構成は特に限定されない。マイクロコンピュータのハードウェア構成は、これに限定されるものではないが、例えば、外部機器とのデータの送受信を可能とするインターフェイスと、制御プログラムの命令を実行する中央演算処理装置(central processing unit:CPU)と、CPUが実行するプログラムを格納したROM(read only memory)と、プログラムを展開するワーキングエリアとして使用されるRAM(random access memory)と、上記プログラムや各種データを格納するメモリ等の記憶部と、を備えている。
【0044】
搬送部110は、搬送経路に沿って集電体10を搬送する。搬送部110は、例えば、集電体10を供給するための集電体供給装置112と、複数の搬送ガイド114と、が備えられている。集電体供給装置112は、長尺な集電体10が予め巻き芯に巻き取られて配置されており、制御部140の制御によって、所定量の集電体10が集電体供給装置112から供給される。集電体10としては、導電性が良好で、電池内部において安定に存在する材料が用いられる、また、軽量化や所要の機械的強度、加工のしやすさ等が求められる。かかる材料としては、上述した導電性の良好な金属(例えば銅やアルミニウム)からなる金属箔が好ましく用いられる。
【0045】
搬送部110は、集電体10に所定の張力が作用するように調整する張力制御機構が備えていてもよい。かかる張力制御機構としては、例えば、ダンサロール式の自動張力制御装置が挙げられる。また、搬送部110は、集電体10の幅方向の位置を調整する位置調整機構が備えられていてもよい。かかる位置調整機構としては、例えば、エッヂ検査装置(エッヂセンサー)と位置補正装置(ポジションコントローラー)とを組み合わせた、いわゆるEPC(edge position control)等が挙げられる。上述した張力制御機構や位置調整機構は、例えば、制御部140と電気的に接続され、制御されている。
なお、搬送部110の装置や制御等の構成は、従来この種のものと同様の構成でよく、本発明を特徴づけるものではないため、詳細な説明は省略する。
【0046】
塗布部120は、集電体10上に電極合材ペーストを塗布する。塗布部120は、例えば、貯留タンク122、ポンプ124、塗布装置126およびバックアップロール128が備えられている。貯留タンク122は、上述したように作製された電極合材ペーストを貯留するタンクである。貯留タンク122の内壁は、貯留する電極合材ペーストに対して、耐腐食性に優れた材質であることが好ましい。かかる材質としては、例えば、ステンレスが挙げられる。ポンプ124は、貯留タンク122から電極合材ペーストを塗布装置126に移送するための装置である。ポンプ124は、貯留タンク122と配管によって接続されている。貯留タンク122に貯留された電極合材ペーストは、ポンプ124によって、貯留タンク122の排出口から一定の流速で吸い上げられて、塗布装置126に移送される。塗布装置126は、電極合材ペーストを集電体10上に塗布する装置である。塗布装置126としては、例えば、スリットコーター、グラビアコーター、ダイコーター、コンマコーター等の従来公知の装置を用いることができる。バックアップロール128は、搬送経路に沿って配置されており、集電体10を支持するローラである。
【0047】
図4に示す一例では、塗布装置126としてダイコーターが採用されている。集電体10は、搬送経路に沿って搬送され、バックアップロール128によって支持されている。塗布装置126は、例えば、制御部140によって制御されることで、集電体10に対して電極合材ペーストを所定の目付量や厚みで連続的に塗布することができる。
なお、塗布部120は、上述した装置以外にもこの種の塗工装置において用いられる装置を適宜備えていてもよい。例えば、ポンプ124と塗布装置126との間に、電極合材ペースト中の異物(例えば金属異物)を除去するための濾過装置を備えていてもよい。
【0048】
乾燥部130は、電極合材ペーストからなる塗膜20を乾燥させることにより、集電体10上に電極合材層を形成する。乾燥部130は、例えば、
図5に示すように、乾燥炉132、加熱ヒータ134、プレス装置136および温度計測装置138を備えている。乾燥炉132は、搬送方向上流側から、塗膜温度を溶媒の蒸発温度(揮発温度)まで上昇させる余熱領域132a、塗膜温度を一定に保つ定率乾燥領域132bおよび、定率乾燥領域の後に再び塗膜温度を上昇させる減率乾燥領域132cを有している。
【0049】
乾燥炉132は、上述した3つの領域(段階)を有している限り加熱の方法等は特に限定されているものではなく、例えば、熱風乾燥炉、赤外線乾燥炉等の従来公知の装置を使用することができる。加熱ヒータ134は、熱源であり、例えば、乾燥炉132が熱風乾燥炉であった場合には、加熱されたガスを吹き付ける装置である。このとき、加熱ヒータ134から吹き付けられるガスは、特に制限されるものではなく、窒素ガス、ヘリウムガス等の不活性ガスであり得る。プレス装置136は、減率乾燥領域132cにおいて、塗膜20をプレスする装置である。温度計測装置138は、乾燥炉132の内部において、塗膜温度を計測する装置である。
図5に破線で示すように、加熱ヒータ134、プレス装置136および温度計測装置138は、制御部140と電気的に接続されている。
【0050】
乾燥炉132の乾燥温度(乾燥炉内の温度)は、余熱領域132a、定率乾燥領域132bおよび減率乾燥領域132cの間で同じであってもよく、異なっていてもよい。例えば、温度計測装置138によって連続的に塗膜温度が計測され、かかる値に基づいて制御部140が加熱ヒータ134を制御することができる。生産性を高める観点からは、乾燥温度(乾燥炉内の温度)を50℃以上に設定することが好ましく、例えば、80℃以上がより好ましく、100℃以上がさらに好ましい。特に沸点の比較的高い溶媒(例えば水系溶媒)を使用する場合には、120℃以上、例えば140℃以上に設定されていてもよい。乾燥温度(乾燥炉内の温度)の上限は、塗膜割れや集電体10(金属箔)の酸化を防止する観点から、200℃以下に設定することが好ましく、190℃以下がより好ましく、180℃以下に設定することがさらに好ましい。
【0051】
塗膜20に含有される固形材料22や溶媒24の種類や乾燥炉132の条件によっては、塗膜20の塗膜温度が各領域の位置において所望する温度よりも低すぎる、もしくは、高すぎることがあり得る。このため、上述したように温度計測装置138によって連続的に塗膜温度を計測し、かかる値に基づいて、加熱ヒータ134が制御部140によって制御されている。すなわち、所定の位置(例えば、上流側の温度計測装置138)において、塗膜温度が低すぎる場合には定率乾燥領域132bに配置されている加熱ヒータ134の温度を上げ、塗膜温度が高すぎる場合には定率乾燥領域132bに配置されている加熱ヒータ134の温度を下げることで、減率乾燥領域132cにおける塗膜の状態を安定させることができる。
【0052】
乾燥炉132における搬送部110の搬送速度は、余熱領域132a、定率乾燥領域132bおよび減率乾燥領域132cの間で同じであってもよく、異なっていてもよい。好適な一態様においては、3つの区間において乾燥温度を略一定(例えば、設定搬送速度±0.1m/分)に保つことが好ましい。搬送速度は、塗膜割れの防止の観点からは、例えば、100m/分以下に設定されていることが好ましく、90m/分以下であることがより好ましく、80m/分以下に設定されていることがさらに好ましい。生産コストの観点からは、例えば、0.1m/分以上であることが好ましく、0.5m/分以上に設定されていることがさらに好ましい。
【0053】
プレス装置136の形態は、塗膜20を上述した範囲の条件でプレスがすることできる装置であれば、特に限定されない。例えば、ロール圧延機によってプレスしてもよいし、平板圧延機によってプレスしてもよい。
図5に示す一例では、上下に配置されるロールの間に集電体10および塗膜20を通過させることによって塗膜20がプレスされている。プレス装置136がロール圧延機である場合、かかるロールの直径は、20mm以上60mm以下であることが好ましく、30mm以上50mm以下であることがより好ましい。
【0054】
プレス装置136によるプレスは、プレス前の塗膜20の膜厚を100%としたときに、プレス後の塗膜20の膜厚が、80%を下回らない程度の条件でプレスされるように調整されている。具体的なロール圧延機の線圧としては、塗膜20に含まれる正極活物質等の材料や塗膜20の乾燥状態によって異なるため、特に限定されるものではないが、例えば、0.1kN/cm(約10kg/cm)以下である。なお、かかるプレスは、乾燥炉132の内部において行われるものであり、乾燥工程後に実施される一般的なプレス工程のプレスとは区別される。プレス工程で使用されるロール圧延機の線圧は、典型的には、10kN/cm(約1000kg/cm)以上である。
【0055】
プレス装置136は、
図6に示すように、減率乾燥領域132cにおいて、搬送方向に複数(プレス装置136a、136b)備えられていてもよい。プレス装置136が複数備えられている場合は、プレス装置136a、136bのプレス圧が同じ大きさであってもよく、異なる大きさであってもよい。典型的には、搬送方向上流側に配置されるプレス装置136aのプレス圧のほうが、搬送方向下流側に配置されるプレス装置136bよりも、大きくなるように設定されているとよい。かかる構成によれば、塗膜の収縮をより好適に防止することができる。
なお、
図5に示す一例では、プレス装置136は2つ備えられている構成になっているが、プレス装置136は2つ以上備えられていてもよい。
【0056】
プレス装置136が複数配置されている場合には、より最適なプレス装置136のみがプレスを実行することも可能である。例えば、
図6に示すプレス装置136aのみがプレスを実行してもよく、プレス装置136bのみがプレスを実行してもよい。かかるプレスの実行は、温度計測装置138によって計測された塗膜温度に応じて、制御部140が制御することで実行され得る。
【0057】
かかる乾燥部130によって、電極合材ペーストが塗布された集電体10を乾燥させることにより、集電体10上のペースト(塗膜)から溶媒が蒸発(揮発)して取り除かれる。これにより、集電体10上に電極合材層を備えた電極を製造することができる。
ここに開示される電極の製造方法および電極製造装置は高品質な電極合材を効率的に生産することができる。また、製造された電極は、従来よりも厚い塗膜からなる電極であるため、高容量であるという利点を有する。したがって、該電極を用いて、二次電池を構築した場合には、高容量の二次電池を得ることができる。
【0058】
上記のように作製した電極は、非水電解液二次電池の製造に用いることができる。
図7および
図8を参照しながら、ここに開示される製造方法により得られる電極を用いて作製される非水電解質二次電池の構成例について説明する。
【0059】
以下の実施形態においては、捲回電極体を備えるリチウムイオン二次電池を例にして詳細に説明するが、本発明をかかる実施形態に限定することを意図したものではない。例えば、正極シートと負極シートとがセパレータを介在させつつ相互に複数重なり合った積層構造を有する積層構造電極体も好ましく適用される。
【0060】
図7に示す非水電解液二次電池1は、密閉可能な箱型電池ケース30に、扁平形状の捲回電極体80と、非水電解液(図示せず)とが、収容されて構築される。電池ケース30には、外部接続用の正極端子42および負極端子44と、電池ケース30の内圧が所定レベル以上に上昇した場合に該内圧を開放するように設定された薄肉の安全弁32とが設けられている。また、電池ケース30には、非水電解液を注液するための注液口(図示せず)が設けられている。正極端子42と正極集電板42aは、電気的に接続されている。負極端子44と負極集電板44aは、電気的に接続されている。電池ケース30の材質は、高強度であり軽量で熱伝導性が良い金属製材料が好ましく、このような金属材料として、例えば、アルミニウムやスチール等が挙げられる。
【0061】
捲回電極体80は、
図7および
図8に示すように、長尺シート状の正極50と、長尺シート状の負極60とが、長尺シート状のセパレータ70を介して重ね合わせられ長手方向に捲回された形態を有する。正極50は、長尺シート状の正極集電体52の片面もしくは両面に長手方向に沿って正極合材層54が形成された構成を有する。負極60は、長尺シート状の負極集電体62の片面もしくは両面に長手方向に沿って負極合材層64が形成された構成を有する。正極集電体52の幅方向の一方の縁部には、該縁部に沿って正極合材層54が形成されずに正極集電体52が露出した部分(即ち、正極集電体露出部56)が設けられている。負極集電体62の幅方向の他方の縁部には、該縁部に沿って負極合材層64が形成されずに負極集電体62が露出した部分(即ち、負極集電体露出部66)が設けられている。正極集電体露出部56と負極集電体露出部66には、それぞれ正極集電板42aおよび負極集電板44aが接合されている。
【0062】
正極50および負極60は、上述した製造方法により得られる正極50および負極60が用いられる。なお、本構成例においては、正極50および負極60は、集電体10(正極集電体52および負極集電体62)の両面に電極合材層(正極合材層54および負極合材層64)が形成されている。
【0063】
セパレータ70としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂からなる多孔性シート(フィルム)が挙げられる。かかる多孔質シートは、単層構造であってもよく、二層以上の積層構造(例えば、PE層の両面にPP層が積層された三層構造)であってもよい。セパレータ70は、耐熱層(HRL)を設けられていてもよい。
【0064】
非水電解液は従来のリチウムイオン二次電池と同様のものを使用可能であり、典型的には有機溶媒(非水溶媒)中に、支持塩を含有させたものを用いることができる。非水溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の有機溶媒を、特に制限することなく用いることができる。具体的には、例えば、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、モノフルオロエチレンカーボネート(MFEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、モノフルオロメチルジフルオロメチルカーボネート(F-DMC)、トリフルオロジメチルカーボネート(TFDMC)等の非水溶媒を好ましく用いることができる。このような非水溶媒は、1種を単独で、あるいは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。支持塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiClO4等のリチウム塩を好適に用いることができる。支持塩の濃度は、特に限定するものではないが、0.7mol/L以上1.3mol/L以下程度が好ましい。
なお、上記非水電解液は、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、上述した非水溶媒、支持塩以外の成分、例えば、ガス発生剤、被膜形成剤、分散剤、増粘剤等の各種添加剤を含み得る。
【0065】
以上のようにして構成される非水電解液二次電池1は、各種用途に利用可能である。好適な用途としては、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両に搭載される駆動用電源が挙げられる。非水電解液二次電池1は、複数個を直列および/または並列に接続してなる組電池の形態でも使用され得る。
【0066】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0067】
まず、分散機を用いて、溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)と、導電材としてアセチレンブラック(AB)と、バインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF)と、が混合されたペーストを得た。かかるペーストに、正極活物質としてLiFePO4(LFP)を混合し、正極合材ペーストを調整した。なお、正極合材ペーストは、LFP:AB:PVdF=91.4:4.6:4(質量比)となるように調整した。
かかる正極合材ペーストを正極集電体としてのアルミニウム箔上に、500μmの厚さで塗布した。
次に、上記ペーストが塗布された正極集電体を120℃の熱風乾燥炉(搬送速度1m/分)に入れて、溶媒を乾燥除去した。これにより、正極集電体の片面の表面に正極合材層を備える正極(比較例1)を作成した。
【0068】
上記ペーストが塗布された正極集電体を同様にして用意した。上記ペーストが塗布された正極集電体を120℃の熱風乾燥炉(搬送速度1m/分)に入れて、該熱風乾燥炉内の減率乾燥領域に備えられている乾燥装置によってプレスした。このとき、プレス装置は、上下にロール(φ40)が配置されているロール圧延機を使用し、線圧が0.002kN/cm(約0.2kg/cm)、プレスの回数は1回で実施した。また、かかる条件でプレスを実施した時の正極合材ペースト(塗膜)の固形分率は、80質量%であった。これにより、正極集電体の片面の表面に正極合材層を備える正極(実施例1)を作成した。
【0069】
<電極の品質評価>
実施例1および比較例1について、塗膜の状態(集電体の湾曲の有無)を目視によって評価した。また、乾燥後塗膜におけるクラックの面積率、乾燥後塗膜の膜厚、乾燥後電極の充填率を求め、結果を表1に示した。
なお、乾燥後塗膜における乾燥クラックの面積率は、レーザー顕微鏡を用いて乾燥後の塗膜表面を観察し、クラックの面積を算出した。かかるクラックの面積を塗膜全体の面積で除して、乾燥後塗膜におけるクラックの面積率を求めた。結果を表1に示す。
また、乾燥後電極の充填率は、真の電極密度を見かけの電極密度で除して、100を掛けた値をいう。真の電極密度とは、構成成分の密度と含有割合に基づいて算出される値である。見かけの電極密度とは、電極(乾燥後塗膜)の質量(g)を電極(乾燥後塗膜)の見かけの体積(cm3)で除した値をいう。実施例1および比較例1の平面視における面積(cm2)と厚み(cm)とを計測し、これらの値を乗ずることによって、見かけの体積を算出した。
【0070】
【0071】
塗膜は、集電体が湾曲することなく乾燥されており、膜厚が均一な状態であった。また、表1に示すように、プレス装置によるプレスは、比較例1の膜厚を100%としたときに、実施例1の膜厚が80%を下回らない条件でプレスが実施されていることがわかる。そして、減率乾燥領域においてプレスを実施した実施例1では、乾燥後の塗膜(電極)にクラックが生じなかったことがわかる。すなわち、ここに開示される電極の製造方法および電極製造装置によれば、塗膜(電極)にクラックを生じることを抑制し、膜厚が均一に保たれた高品質な電極の製造を実現することができる。
【0072】
表1に示すように、実施例1の電極充填率は比較例1の電極充填率よりも高くなっている。すなわち、実施例1のほうが比較例1よりも電極のエネルギー密度が高密度化しているといえる。
【0073】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0074】
1 非水電解液二次電池
10 集電体
20 塗膜
22 固形材料
24 溶媒
30 電池ケース
32 安全弁
42 正極端子
42a 正極集電板
44 負極端子
44a 負極集電板
50 正極
52 正極集電体
54 正極合材層
56 正極集電体露出部
60 負極
62 負極集電体
64 負極合材層
66 負極集電体露出部
70 セパレータ
80 捲回電極体
100 電極製造装置
110 搬送部
112 集電体供給装置
114 搬送ガイド
120 塗布部
122 貯留タンク
124 ポンプ
126 塗布装置
128 バックアップロール
130 乾燥部
132 乾燥炉
132a 余熱領域
132b 定率乾燥領域
132c 減率乾燥領域
134 加熱ヒータ
136 プレス装置
136a プレス装置
136b プレス装置
138 温度計測装置
140 制御部