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特許7328973ハードコート組成物、ハードコート付きポリイミドフィルムおよびその製造方法、ならびに画像表示装置
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  • 特許-ハードコート組成物、ハードコート付きポリイミドフィルムおよびその製造方法、ならびに画像表示装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-08
(45)【発行日】2023-08-17
(54)【発明の名称】ハードコート組成物、ハードコート付きポリイミドフィルムおよびその製造方法、ならびに画像表示装置
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/04 20060101AFI20230809BHJP
   C09D 7/62 20180101ALI20230809BHJP
   C08J 7/046 20200101ALI20230809BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20230809BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20230809BHJP
【FI】
C09D183/04
C09D7/62
C08J7/046 CFG
C08G73/10
C09D7/65
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020538442
(86)(22)【出願日】2019-08-21
(86)【国際出願番号】 JP2019032669
(87)【国際公開番号】W WO2020040209
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2022-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2018157848
(32)【優先日】2018-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 里香
(72)【発明者】
【氏名】小松 聡子
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/096729(WO,A1)
【文献】特表2018-506617(JP,A)
【文献】特開2007-211249(JP,A)
【文献】特開2010-070696(JP,A)
【文献】特開2016-027400(JP,A)
【文献】国際公開第2017/175869(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/046180(WO,A1)
【文献】特開2015-112599(JP,A)
【文献】国際公開第2017/222816(WO,A1)
【文献】特表2018-504622(JP,A)
【文献】特表2018-531999(JP,A)
【文献】特開2016-94527(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-10/00,
101/00-201/10
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明ポリイミドフィルムの主面上へのハードコート層の形成に用いられるハードコート組成物であって、
脂環式エポキシ基を有するシロキサン化合物、および平均粒子径が5~1000nmの金属酸化物粒子を含有し、
前記金属酸化物粒子が、表面にエポキシ基を有し、
前記シロキサン化合物100重量部に対して前記金属酸化物粒子を3~11.1重量部含有する、
ポリイミドフィルム用ハードコート組成物。
【請求項2】
前記金属酸化物粒子が、シリカである請求項に記載のポリイミドフィルム用ハードコート組成物。
【請求項3】
前記エポキシ基が脂環式エポキシ基である、請求項1または2に記載のポリイミドフィルム用ハードコート組成物。
【請求項4】
透明ポリイミドフィルムの主面上へのハードコート層の形成に用いられるハードコート組成物であって、
脂環式エポキシ基を有するシロキサン化合物、およびゴムポリマーのコア層と前記コア層の表面に設けられたシェル層とを含む平均粒子径が5~1000nmであるコアシェルポリマー粒子を含有し、
前記コアシェルポリマー粒子のシェル層は、前記シロキサン化合物の脂環式エポキシ基と反応可能な重合性官能基を有し、
前記シロキサン化合物100重量部に対して前記コアシェルポリマー粒子を3~30重量部含有する、
ポリイミドフィルム用ハードコート組成物。
【請求項5】
前記重合性官能基がエポキシ基である、請求項に記載のポリイミドフィルム用ハードコート組成物。
【請求項6】
前記シロキサン化合物が、下記一般式(I)で表される化合物を含むシラン化合物の縮合物である、請求項1~5のいずれか1項に記載のポリイミドフィルム用ハードコート組成物:
Y-R-(Si(OR 3-x) …(I)
式(I)において、Yは脂環式エポキシ基であり;Rは炭素数1~10のアルキレン基であり;Rは水素原子または炭素数1~10のアルキル基であり;Rは、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~25のアリール基および炭素数7~12のアラルキル基から選択される1価の炭化水素基であり;xは1~3の整数である。
【請求項7】
前記シロキサン化合物の重量平均分子量が500~20000である、請求項1~6のいずれか1項に記載のポリイミドフィルム用ハードコート組成物。
【請求項8】
さらに、光カチオン重合開始剤を含有する、請求項1~のいずれか1項に記載のポリイミドフィルム用ハードコート組成物。
【請求項9】
透明ポリイミドフィルムの主面上に、請求項1~のいずれか1項に記載のハードコート組成物の硬化物からなるハードコート層を備え、全光線透過率が80%以上である、ハードコート付きポリイミドフィルム。
【請求項10】
前記ポリイミドフィルムは、酸二無水物由来構造とジアミン由来構造とを有するポリイミド樹脂を含み、
前記酸二無水物として、脂環式酸二無水物およびフッ素含有芳香族酸二無水物からなる群から選択される1種以上を含み、前記ジアミンとして、フッ素含有ジアミンを含む、請求項に記載のハードコート付きポリイミドフィルム。
【請求項11】
前記ポリイミド樹脂は、
前記酸二無水物として、脂環式酸二無水物およびフッ素含有芳香族酸二無水物を、酸二無水物全量100モル%に対して合計70モル%以上含み、
前記ジアミンとして、フルオロアルキル置換ベンジジンおよび3,3’-ジアミノジフェニルスルホンを、ジアミン全量100モル%に対して合計70モル%以上含む、請求項10に記載のハードコート付きポリイミドフィルム。
【請求項12】
前記ポリイミド樹脂は、
前記酸二無水物として、酸二無水物全量100モル%に対して、一般式(1)で表される酸二無水物を10~65モル%、およびフッ素含有芳香族酸二無水物を30~80モル%含み、
前記ジアミンとして、フルオロアルキル置換ベンジジンを、ジアミン全量100モル%に対して40モル%以上含む、請求項11に記載のハードコート付きポリイミドフィルム。
【化1】
一般式(1)において、nは1以上の整数であり、R~Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~20のアルキル基、または炭素原子数1~20のパーフルオロアルキル基である。
【請求項13】
前記ハードコート層の厚みが1~50μmである、請求項9~12のいずれか1項に記載のハードコート付きポリイミドフィルム。
【請求項14】
前記ポリイミドフィルムと前記ハードコート層とが接している、請求項9~13のいずれか1項に記載のハードコート付きポリイミドフィルム。
【請求項15】
画像表示パネルの表面に、請求項9~14のいずれか1項に記載のハードコート付きポリイミドフィルムを備える、表示装置。
【請求項16】
全光線透過率が80%以上の透明ポリイミドフィルムの主面上に、請求項1~のいずれか1項に記載のハードコート組成物を塗布し、
活性エネルギー線を照射して、前記ハードコート組成物を硬化する、ハードコート付きポリイミドフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明ポリイミドフィルムの主面上へのハードコート層の形成に用いられるハードコート組成物に関する。さらに、本発明はハードコート付きポリイミドフィルムおよびその製造方法、ならびに画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイ、タッチパネル、および太陽電池等のエレクトロニクスデバイスの急速な進歩に伴い、デバイスの薄型化や軽量化、更にはフレキシブル化が要求されている。これらの要求に対して、基板やカバーウインドウ等に用いられているガラス材料のプラスチックフィルム材料への置き換えが検討されている。これらの用途では、プラスチックフィルムに、高い耐熱性や、高温での寸法安定性、高機械強度が求められる。また、近年、曲面ディスプレイや折り畳み可能なディスプレイ(フレキシブルディスプレイ、フォルダブルディスプレイ)が開発されており、プラスチックフィルムには、上記特性に加えて、耐屈曲性が要求されるようになっている。
【0003】
特許文献1には、フレキシブルディスプレイ用の透明基板材料として、ポリエチレンテレフタレートフィルムの表面にハードコート層を設けたハードコートフィルムが開示されている。基材フィルムの表面にハードコート層を設けることにより、表面硬度や耐擦傷性等の機械強度を向上できる。
【0004】
プラスチック材料により耐熱性や、高温での寸法安定性が要求される場合は、ポリイミドフィルムが用いられる。一般的な全芳香族ポリイミドは、黄色または褐色に着色しているが、脂環式構造の導入、屈曲構造の導入、フッ素置換基の導入等により、可視光透過率が高い透明ポリイミドが得られる。特許文献2には、透明ポリイミドフィルムの表面に、ラジカル重合性またはカチオン重合性のハードコート層を形成することにより、耐屈曲性を向上しながら、表面硬度の低下を抑制したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-69197号公報
【文献】特開2018-28073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
表示パネル等を適切に保護するために、フレキシブルディスプレイに用いられる透明フィルム材料にはガラスと同等の表面硬度が要求されるようになっている。しかし、樹脂フィルムの耐屈曲性と表面硬度との間には、一般にトレードオフの関係があり、表面硬度を高めると耐屈曲性が低下する傾向がある。
【0007】
偏光板等の表面に設けられるディスプレイ用ハードコート材料として、より高硬度の材料も開発されている。しかし、ハードコート材料は、基材フィルムの種類によって密着性が異なるため、ポリイミドフィルムに対する高い密着性と表面硬度を両立可能であり、かつ耐屈曲性に優れるハードコート材料が要求されている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記に鑑み鋭意検討の結果、所定のシロキサン化合物を含む光カチオン重合性のハードコート組成物を用いてポリイミドフィルム上にハードコート層を形成することにより、上記特性を満足するハードコート付きポリイミドフィルムが得られることを見出し、本発明に至った。
【0009】
本発明は、透明ポリイミドフィルムの主面上にハードコート層を備えるハードコート付きポリイミドフィルムに関する。さらに、本発明は、ハードコート付きポリイミドフィルムの作製に用いられるポリイミドフィルム用ハードコート組成物に関する。
【0010】
ポリイミドフィルム用ハードコート組成物は、脂環式エポキシ基を有するシロキサン化合物を含む。シロキサン化合物の重量平均分子量は、好ましくは500~20000である。ハードコート組成物は、光カチオン重合開始剤を含有する光カチオン重合性組成物でもよい。シロキサン化合物は、好ましくは、下記一般式(I)で表される化合物を含むシラン化合物の縮合物である。
Y-R-(Si(OR 3-x) …(I)
【0011】
式(I)において、Yは脂環式エポキシ基であり;Rは炭素数1~10のアルキレン基であり;Rは水素原子または炭素数1~10のアルキル基であり;Rは、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~25のアリール基および炭素数7~12のアラルキル基から選択される1価の炭化水素基であり;xは1~3の整数である。
【0012】
ハードコート組成物は、さらに微粒子を含んでいてもよい。微粒子の平均粒子径は、好ましくは5~1000nmである。
【0013】
微粒子としては、金属酸化物微粒子またはポリマー微粒子が好ましい。金属酸化物微粒子としてはシリカ粒子が好ましい。ポリマー微粒子としては、ゴムポリマーのコア層と、コア層の表面に設けられたシェル層とを含むコアシェルポリマー粒子が好ましい。
【0014】
ハードコート組成物に含まれる微粒子は、表面にシロキサン化合物の脂環式エポキシ基と反応可能な重合性官能基を有していてもよい。脂環式エポキシ基と反応可能な重合性官能基の中でも、エポキシ基が好ましい。
【0015】
ハードコート付きポリイミドフィルムは、透明ポリイミドフィルムの主面上に、上記のハードコート組成物の硬化物からなるハードコート層を備える。透明ポリイミドフィルムの主面上に、上記のハードコート組成物を塗布し、活性エネルギー線を照射してハードコート組成物を硬化することにより、ハードコート付きポリイミドフィルムが得られる。
【0016】
ハードコート付きポリイミドフィルムの全光線透過率は、80%以上が好ましい。ハードコート層の厚みは、好ましくは1~50μmである。ハードコート層はポリイミドフィルムに接して設けられることが好ましい。
【0017】
透明ポリイミドフィルムを構成するポリイミド樹脂は、酸二無水物由来構造とジアミン由来構造とを有する。一実施形態において、ポリイミド樹脂は、酸二無水物として、脂環式酸二無水物およびフッ素含有芳香族酸二無水物からなる群から選択される1種以上を含み、ジアミンとしてフッ素含有ジアミンを含む。このようなポリイミド樹脂としては、酸二無水物全量100モル%に対して、ビス無水トリメリット酸エステルを10~65モル%、およびフッ素含有芳香族酸二無水物を30~80モル%含み、ジアミン全量100モル%に対してフルオロアルキル置換ベンジジンを40モル%以上含むポリイミド;および、酸二無水物として、脂環式酸二無水物およびフッ素含有芳香族酸二無水物を、酸二無水物全量100モル%に対して合計70モル%以上含み、ジアミンとして、フルオロアルキル置換ベンジジンおよび3,3’-ジアミノジフェニルスルホンを、ジアミン全量100モル%に対して合計70モル%以上含むポリイミド、が挙げられる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のハードコート組成物は、透明ポリイミドフィルムに対して特異的に高い密着性を示し、かつ、硬度と耐屈曲性を両立可能である。そのため、本発明のハードコートフィルムは、フレキシブルディスプレイのカバーウインドウ材料等にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】ハードコート付きポリイミドフィルムの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、ポリイミドフィルム1の一方の主面にハードコート層2が設けられたハードコート付きポリイミドフィルム10(以下、単に「ハードコートフィルム」と記載する場合がある)の断面図である。フィルム基材としてのポリイミドフィルム1の主面に、ハードコート組成物を塗布し、硬化することにより、ハードコート層2が形成される。
【0021】
ハードコート層は、ポリイミドフィルムの一方の主面にのみ設けられていてもよく、ポリイミドフィルムの両面に設けられていてもよい。ハードコート層2は、ポリイミドフィルム1の主面の全面に形成されていてもよく、一部のみに形成されていてもよい。
【0022】
以下、ポリイミドフィルム、およびハードコート層を形成するためのハードコート組成物の好ましい形態について順に説明する。なお、本明細書に例示の成分や官能基等は、特記しない限り、単独で用いてもよく、2種以上を併用(併存)してもよい。
【0023】
[ポリイミドフィルム]
ポリイミドフィルム1は、全光線透過率が80%以上の透明フィルムである。ポリイミドフィルムの全光線透過率は85%以上が好ましく、88%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。ポリイミドフィルムのヘイズは2%以下が好ましく、1%以下がより好ましい。ポリイミドフィルムのヘイズは0.1%以上または0.2%以上であってもよい。
【0024】
表示装置等に用いられるポリイミドフィルムは、黄色度(YI)の絶対値が小さいことが好ましい。ポリイミドフィルムの黄色度の絶対値は、3.5以下が好ましく、3.0以下がより好ましい。ポリイミドフィルムの波長400mにおける光透過率は、55%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、65%以上がさらに好ましく、70%以上が特に好ましい。
【0025】
耐熱性の観点から、ポリイミドフィルムのガラス転移温度は、200℃以上が好ましく、250℃以上がより好ましく、300℃以上がさらに好ましい。ガラス転移温度は、動的粘弾性分析(DMA)にて、損失正接が極大を示す温度である。ガラス転移温度が過度に高いと成形加工が困難になる場合があるため、ポリイミドフィルムのガラス転移温度は500℃以下が好ましい。
【0026】
<ポリイミド樹脂の組成>
ポリイミドフィルムはポリイミド樹脂を含む。ポリイミド樹脂は、一般に、テトラカルボン酸二無水物(以下、単に「酸二無水物」と記載する場合がある)とジアミンとの縮合により得られるポリアミド酸を脱水環化することにより得られる。すなわち、ポリイミドは、酸二無水物由来構造とジアミン由来構造とを有する。透明ポリイミド樹脂は、好ましくは、酸二無水物およびジアミンの少なくとも一方に、脂環式構造またはフッ素原子を含み、より好ましくは、酸二無水物およびジアミンの両方に、脂環式構造またはフッ素原子を含む。
【0027】
ポリイミドの重量平均分子量は、5,000~500,000が好ましく、10,000~300,000がより好ましく、30,000~200,000がさらに好ましい。重量平均分子量がこの範囲内である場合に、十分な機械特性および成形性が得られやすい。本明細書における分子量は、ゲルパーミレーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリエチレンオキシド(PEO)換算の値である。分子量は、ジアミンと酸二無水物のモル比や反応条件等により調整可能である。
【0028】
(酸二無水物)
透明性が高く着色の少ないポリイミドフィルムを得るためには、ポリイミドが、酸二無水物成分として、脂環式酸二無水物および/またはフッ素含有芳香族酸二無水物を含むことが好ましい。
【0029】
脂環式酸二無水物としては、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,1’‐ビシクロヘキサン‐3,3’,4,4’‐テトラカルボン酸‐3,4,3’,4’‐二無水物挙げられる。中でも、透明性および機械強度に優れるポリイミドが得られることから、酸二無水物として、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物および/または1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物を用いることが好ましく、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物が特に好ましい。
【0030】
フッ素含有芳香族酸二無水物としては、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2-ビス{4-[4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物等が挙げられる。中でも2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン酸二無水物が好ましい。酸二無水物成分として、フッ素含有芳香族酸二無水物を用いることにより、ポリイミド樹脂の溶媒への溶解性が高くなる傾向がある。ポリイミド樹脂が溶媒への溶解性を有する場合、ハードコート組成物を塗布した際に、組成物中の溶媒やモノマーによりポリイミドフィルムの表面がわずかに膨潤して、ポリイミドフィルムとハードコート層との密着性が向上する場合がある。
【0031】
ポリイミド樹脂は、酸二無水物成分として、脂環式酸二無水物およびフッ素含有芳香族酸二無水物以外の成分を含んでいてもよい。脂環式酸二無水物およびフッ素含有芳香族酸二無水物以外の酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物等の1つの芳香環に4つのカルボニルが結合している芳香族テトラカルボン酸二無水物;2,2-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、2,2-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンジベンゾエート-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,4’-オキシジフタル酸無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、ビス無水トリメリット酸エステル等の異なる芳香環に2つずつのカルボニル基が結合している芳香族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
【0032】
上記のビス無水トリメリット酸エステルは、無水トリメリット酸とジオールとのエステルである。ジオールとしては芳香族ジオールが好ましい。芳香族ジオールとしては、ヒドロキノン類、ビフェノール類、ビスフェノール類等が挙げられる。ビス無水トリメリット酸芳香族エステルとしては、例えば、下記一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0033】
【化1】
【0034】
一般式(1)において、nは1以上の整数であり、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子フッ素原子、炭素数1~20のアルキル基、または炭素原子数1~20のパーフルオロアルキル基である。nは1以上の整数である。nが2以上の場合、それぞれのベンゼン環に結合している置換基R~Rは、同一でもよく、異なっていてもよい。
【0035】
アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。パーフルオロアルキル基の具体例としては、トリフルオロメチル基等が挙げられる。
【0036】
一般式(1)において、nは1または2が好ましく、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、メチル基またはトリフルオロメチル基であることが好ましい。一般式(1)においてn=2である酸二無水物、すなわちビフェニル骨格を有するビス無水トリメリット酸エステルの具体例としては、p-ビフェニレンビス(トリメリット酸二無水物)(略称:BP-TME)、3,3’-ジメチル-ビフェニレンビス(トリメリット酸二無水物)(略称:OCBP-TME)、および下記の式(2)で表されるビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボン酸)-2,2’,3,3’,5,5’-ヘキサメチルビフェニル-4,4’ジイル(別名2,2’,3,3’,5,5’-ヘキサメチル-ビフェニレンビス(トリメリット酸二無水物)(略称:TAHMBP))が挙げられる。一般式(1)においてn=1である酸二無水物の具体例としては、好ましい例としては、下記の式(3)で表されるp-フェニレンビス(トリメリット酸無水物)(TMHQ)が挙げられる。
【0037】
【化2】
【化3】
【0038】
酸二無水物として、およびフッ素含有芳香族酸二無水物に加えてビス無水トリメリット酸エステルを含むポリイミドは、ジクロロメタン等の低沸点ハロゲン化アルキルに対して高い溶解性を示し、かつ、ポリイミドフィルムが高い透明性および機械強度を示す傾向がある。
【0039】
(ジアミン)
透明ポリイミドは、ジアミン成分として、フッ素含有芳香族ジアミンを含むことが好ましい。
【0040】
フッ素含有芳香族ジアミンの例として、4,4’ジアミノビフェニル(ベンジジン)のビフェニルの水素原子の一部または全部をフルオロアルキル基で置換したフルオロアルキル置換ベンジジン、およびベンジジンのビフェニルの水素原子の一部または全部をフッ素原子で置換したフッ素置換ベンジジンが挙げられる。のフッ素含有芳香族ジアミンの具体例としては、1,4-ジアミノ-2-フルオロヘンゼン、1,4-ジアミノ-2,3-ジフルオロベンゼン、1,4-ジアミノ-2,5-ジフルオロベンゼン、1,4-ジアミノ-2,6-ジフルオロベンゼン、1,4-ジアミノ-2,3,5-トリフルオロベンゼン、1,4-ジアミノ、2,3,5,6-テトラフルオロベンゼン、1,4-ジアミノ-2-(トリフルオロメチル)ヘンゼン、1,4-ジアミノ-2,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,4-ジアミノ-2,5-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,4-ジアミノ-2,6-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,4-ジアミノ-2,3,5-トリス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,4-ジアミノ-2,3,5,6-テトラキス(トリフルオロメチル)ベンゼン、2-フルオロベンジジン、3-フルオロベンジジン、2,3-ジフルオロベンジジン、2,5-ジフルオロベンジジン、2,6-ジフルオロベンジジン、2,3,5-トリフルオロベンジジン、2,3,6-トリフルオロベンジジン、2,3,5,6-テトラフルオロベンジジン、2,2’-ジフルオロベンジジン、3,3’-ジフルオロベンジジン、2,3’-ジフルオロベンジジン、2,2’,3-トリフルオロベンジジン、2,3,3’-トリフルオロベンジジン、2,2’,5-トリフルオロベンジジン、2,2’,6-トリフルオロベンジジン、2,3’,5-トリフルオロベンジジン、2,3’,6,-トリフルオロベンジジン、2,2’,3,3’-テトラフルオロベンジジン、2,2’,5,5’-テトラフルオロベンジジン、2,2’,6,6’-テトラフルオロベンジジン、2,2’,3,3’,6,6’-ヘキサフルオロベンジジン、2,2’,3,3’,5,5’、6,6’-オクタフルオロベンジジン、2-(トリフルオロメチル)ベンジジン、3-(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,5-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,6-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3,5-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3,6-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3,5,6-テトラキス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3,3’ -トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’,5-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’,6-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3’,5-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3’,6,-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’,3,3’-テトラキス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’,5,5’-テトラキス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’,6,6’-テトラキス(トリフルオロメチル)ベンジジン等が挙げられる。透明性および機械強度に優れるポリイミドを得る観点から、フッ素含有芳香族ジアミンとしては、フルオロアルキル置換ベンジジンが好ましい。中でも、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン等のビス(トリフルオロメチル)ベンジジンが好ましく、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンが特に好ましい。
【0041】
ジアミン成分として、フッ素含有芳香族ジアミンに加えてスルホニル基含有ジアミンを用いることにより、ポリイミド樹脂の機械強度が向上する傾向がある。スルホニル基含有ジアミンとしては、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、4,4’-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、4,4’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]ジフェニルスルホン等のジフェニルスルホン誘導体が挙げられる。中でも、ポリイミド樹脂の透明性を損なうことなく機械強度を向上できることから、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン(3,3’-DDS)または4,4’-ジアミノジフェニルスルホン(4,4’-DDS)が好ましく、3,3’-DDSが特に好ましい。
【0042】
ポリイミド樹脂は、ジアミン成分として、フッ素含有芳香族ジアミンおよびスルホニル基含有ジアミン以外の成分を含んでいてもよい。フッ素含有芳香族ジアミンおよびスルホニル基含有ジアミン以外のジアミンとしては、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、o-フェニレンジアミン等の1つの芳香環に2つのアミノ基が結合しているジアミン;ジアミノジフェニルエーテル、ジアミノジフェニルスルフィド、ジアミノベンゾフェノン、ジアミノジフェニルアルカン、ビス(アミノベンゾイル)ベンゼン等の異なる芳香環のそれぞれアミノ基が結合している芳香族ジアミン;ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン等の脂環式ジアミンが挙げられる。
【0043】
(ポリイミドの組成の具体例1)
一実施形態において、ポリイミド樹脂は、酸二無水物として、脂環式酸二無水物およびフッ素含有芳香族酸二無水物を含み、ジアミンとして、フッ素含有ジアミンおよびスルホニル基含有ジアミンを含む。
【0044】
ポリイミド樹脂の透明性の観点から、酸二無水物成分の全量100モル%のうち、脂環式酸二無水物とフッ素含有芳香族酸二無水物の合計は、70モル%以上が好ましい。酸二無水物成分の全量100モル%のうちの脂環式酸二無水物とフッ素含有芳香族酸二無水物の合計は、75モル%以上、80モル%以上、85モル%以上、90モル%以上、または95モル%以上であり得る。酸二無水物成分として、脂環式酸二無水物および/またはフッ素含有芳香族酸二無水物に加えて、異なる芳香環に2つずつのカルボニル基が結合している芳香族テトラカルボン酸二無水物を用いることにより、ポリイミド樹脂の透明性を損なうことなく、耐熱性や機械強度を向上できる場合がある。
【0045】
ポリイミド樹脂の透明性と機械強度および耐屈曲性とを両立する観点から、酸二無水物成分の全量100モル%のうち、脂環式酸二無水物の含有量は、20~95モル%が好ましい。酸二無水物成分の全量100モル%のうちの脂環式酸二無水物の含有量は、25モル%以上、30モル%以上、35モル%以上、40モル%以上、45モル%以上または50モル%以上であり得る。酸二無水物成分の全量100モル%のうちの脂環式酸二無水物の含有量は、90モル%以下、85モル%以下、80モル%以下、75モル%以下、70モル%以下、または65モル%以下であり得る。透明性および機械強度に優れ、かつ耐屈曲性およびハードコート層との密着性に優れるポリイミド樹脂が得られることから、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物の含有量が上記範囲であることが好ましい。
【0046】
ポリイミド樹脂の透明性および屈曲性の観点から、酸二無水物成分の全量100モル%のうち、フッ素含有芳香族酸二無水物の含有量は、5モル%以上、10モル%以上、15モル%以上、20モル%以上、または25モル%以上であり得る。透明性に優れるポリイミド樹脂が得られることから、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物の含有量が上記範囲であることが好ましい。
【0047】
ポリイミド樹脂の透明性の観点から、ジアミン成分の全量100モル%のうち、フッ素含有芳香族ジアミンの含有量は、25モル%以上、30モル%以上、35モル%以上、40モル%以上、45モル%以上、50モル%以上、55モル%以上、または60モル%以上であり得る。透明性に優れるポリイミド樹脂が得られることから、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンの含有量が上記範囲であることが好ましい。
【0048】
ポリイミド樹脂の透明性と機械強度を向上する観点から、ポリイミドのジアミン成分の全量100モル%のうち、スルホニル基含有ジアミンの含有量は、10~75モル%が好ましい。ポリイミドのジアミン成分の全量100モル%のうちのスルホニル基含有ジアミンの含有量は、15モル%以上、20モル%以上、または25モル%以上であり得る。ポリイミドのジアミン成分の全量100モル%のうちのスルホニル基含有ジアミンの含有量は、70モル%以下、65モル%以下、60モル%以下、55モル%以下、50モル%以下、45モル%以下、40モル%以下または35モル%以下であり得る。特に、3,3’-DDSの含有量が上記範囲であることが好ましい。
【0049】
ポリイミド樹脂の透明性の観点から、ジアミン成分の全量100モル%のうち、フッ素含有芳香族ジアミンとスルホニル基含有ジアミンの合計は、70モル%以上が好ましい。ジアミン成分の全量100モル%のうちのフッ素含有芳香族ジアミンとスルホニル基含有ジアミンの合計は、75モル%以上、80モル%以上、85モル%以上、90モル%以上、または95モル%以上であり得る。特に、ジアミン成分の全量100モルのうち、フルオロアルキル置換ベンジジンおよび3,3’-DDSの合計が上記範囲であることが好ましい。
【0050】
(ポリイミドの組成の具体例2)
一実施形態において、ポリイミド樹脂は、酸二無水物として上記の一般式(1)で表される酸二無水物(ビス無水トリメリット酸エステル)およびフッ素含有芳香族酸二無水物を含み、ジアミンとしてフッ素含有ジアミンを含む。このポリイミドは、塩化メチレン等の低沸点ハロゲン化アルキルに対して高い溶解性を示し、かつ、ポリイミドフィルムが高い透明性および機械強度を示す傾向がある。
【0051】
ポリイミド樹脂の透明性および溶解性の観点から、酸二無水物成分の全量100モル%のうち、一般式(1)で表される酸二無水物の量は、10~65モル%が好ましく、15~60モル%が好ましく、20~50モル%がより好ましい。一般式(1)で表される酸二無水物の中でも、TAHMBPおよびTMHQが好ましく、TAHMBPとTMHQの合計が上記範囲であることが好ましい。
【0052】
一般式(1)で表される酸二無水物の含有量が10モル%以上であれば、ポリイミドフィルムの鉛筆硬度や弾性率が高くなる傾向があり、一般式(1)で表される酸二無水物の含有量が65モル%以下であれば、ポリイミドフィルムの透明性が高くなる傾向がある。
【0053】
酸二無水物成分の全量100モル%のうち、フッ素含有芳香族酸二無水物の含有量は、30~80モル%が好ましく、35~75モル%がより好ましく、45~75モル%がさらに好ましい。フッ素含有芳香族酸二無水物の含有量が30モル%以上であれば、ポリイミドフィルムの透明性が高くなる傾向があり、80モル%以下であれば、ポリイミドフィルムの鉛筆硬度や弾性率が高くなる傾向がある。
【0054】
ジアミン成分の全量100モル%のうち、フッ素含有ジアミンの量は、40~100モル%が好ましく、60~80モル%がより好ましい。透明性に優れるポリイミド樹脂が得られることから、フルオロアルキル置換ベンジジンの含有量が上記範囲であることが好ましく、中でも2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンの含有量が上記範囲であることが好ましい。
【0055】
ジアミン成分として、フッ素含有ジアミンに加えて、60モル%以下のスルホニル基含有ジアミンを含んでいてもよい。スルホニル基含有ジアミンとしては、3,3’DDSが好ましく、3,3’-DDSの含有量は20~40モル%が好ましい。
【0056】
上記の酸二無水物およびジアミンの組合せを用い、それぞれの酸二無水物成分およびジアミン成分の量を上記範囲とすることにより、塩化メチレン等の低沸点溶媒への溶解性が高く、残存溶媒量の低減が容易であり、かつ、透明性および機械強度に優れるポリイミドが得られる。
【0057】
(ポリアミド酸の合成)
ポリアミド酸は、例えば、有機溶媒中で酸二無水物とジアミンとを反応させることにより得られる。酸二無水物とジアミンは略等モル量(95:100~105:100のモル比)を用いることが好ましい。酸二無水物の開環を抑制するため、溶媒中にジアミンを溶解させた後、酸二無水物を添加する方法が好ましい。複数種のジアミンや複数種の酸二無水物を添加する場合は、一度に添加してもよく、複数回に分けて添加してもよい。ポリアミド酸溶液は、通常5~35重量%、好ましくは10~30重量%の濃度で得られる。
【0058】
ポリアミド酸の重合には、原料としてのジアミンおよび酸二無水物、ならびに重合生成物であるポリアミド酸を溶解可能な有機溶媒を特に限定なく使用できる。有機溶媒の具体例としては、メチル尿素、N,N-ジメチルエチルウレア等のウレア系溶媒;ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン、テトラメチルスルフォン等のスルホン系溶媒;N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N’-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ヘキサメチルリン酸トリアミド等のアミド系溶媒;クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン化アルキル系溶媒;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素系溶媒、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキサン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、p-クレゾールメチルエーテル等のエーテル系溶媒、γ-ブチロラクトン等のエステル系溶媒が挙げられる。これらの中でも、重合反応性およびポリアミド酸の溶解性に優れることから、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、またはN-メチルピロリドンが好ましく用いられる。
【0059】
<ポリイミドフィルムの作製>
ポリアミド酸の脱水環化によりポリイミドが得られる。ポリイミドフィルムの作製方法としては、支持体上にポリアミド酸溶液を膜状に塗布し、溶媒を乾燥除去するとともにポリアミド酸をイミド化する方法と、ポリイミド酸溶液のイミド化を行い、得られたポリイミド樹脂を溶媒に溶解した溶液を支持体上に膜状に塗布して溶媒を乾燥除去する方法が挙げられる。ポリイミド樹脂の溶媒に対する可溶性が低い場合は、前者の方法が用いられる。可溶性ポリイミドのフィルム化にはいずれの方法も利用できる。残存不純物が少なく透明性の高いポリイミドフィルムを得る観点から、後者の方法が好ましい。
【0060】
溶液でのイミド化には、ポリアミド酸溶液に脱水剤およびイミド化触媒等を添加する化学イミド化法が適している。イミド化の進行を促進するため、ポリアミド酸溶液を加熱してもよい。イミド化触媒としては、第三級アミンが用いられる。中でも、ピリジン、ピコリン、キノリン、イソキノリン等の複素環式の第三級アミンが好ましい。脱水剤としては、無水酢酸、プロピオン酸無水物、酪酸無水物、安息香酸無水物、トリフルオロ酢酸無水物等の酸無水物が用いられる。
【0061】
ポリアミド酸のイミド化により得られたポリイミド溶液は、そのまま製膜用溶液として用いることもできるが、一旦、ポリイミド樹脂を固形物として析出させることが好ましい。ポリイミド樹脂を固形物として析出させることにより、ポリアミド酸の重合時に発生した不純物や残存モノマー成分、ならびに脱水剤およびイミド化触媒等を、洗浄・除去できる。そのため、透明性や機械特性に優れたポリイミドフィルムが得られる。
【0062】
ポリイミド溶液と貧溶媒とを混合することにより、ポリイミド樹脂が析出する。貧溶媒は、ポリイミド樹脂の貧溶媒であって、ポリイミド樹脂を溶解している溶媒と混和するものが好ましく、水、アルコール類等が挙げられる。ポリイミドの開環等の副反応が生じ難いことから、イソプロピルアルコール、2-ブチルアルコール、2-ペンチルアルコール、フェノール、シクロペンチルアルコール、シクロヘキシルアルコール、t-ブチルアルコール等のアルコールが好ましく、イソプロピルアルコールが特に好ましい。析出したポリイミド樹脂には、少量のイミド化触媒や脱水剤等が残存している場合があるため、貧溶媒により洗浄することが好ましい。析出および洗浄後のポリイミド樹脂は、真空乾燥、熱風乾燥等により貧溶媒を除去することが好ましい。
【0063】
ポリイミド樹脂および添加剤を適切な溶媒に溶解することにより、ポリイミド樹脂溶液を調製する。溶媒は、上記のポリイミド樹脂を溶解可溶なものであれば特に限定されず、例えば、ポリアミド酸の重合に用いる有機溶媒として先に例示したウレア系溶媒、スルホン系溶媒、アミド系溶媒、ハロゲン化アルキル系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒等が挙げられる。これらの他に、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンおよびメチルシクロヘキサノン等のケトン系溶媒も、溶媒として好適に用いられる。
【0064】
ポリイミド樹脂溶液は、ポリイミド以外の樹脂成分、および添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、架橋剤、染料、界面活性剤、レベリング剤、可塑剤、微粒子等が挙げられる。ポリイミド溶液中の固形分100重量部に対するポリイミド樹脂の含有量は60重量部以上が好ましく、70重量部以上がより好ましく、80重量部以上がさらに好ましい。すなわち、ポリイミドフィルムにおけるポリイミド樹脂の含有量は60重量%以上が好ましく、70重量%以上がより好ましく、80重量%以上がさらに好ましい。
【0065】
支持体上にポリイミド樹脂溶液を塗布し、溶媒を乾燥除去することにより、ポリイミドフィルムが得られる。溶媒の乾燥時には加熱を行うことが好ましい。加熱温度は特に限定されず、室温~250℃程度で適宜に設定される。段階的に加熱温度を上昇させてもよい。支持体としては、ガラス基板、SUS等の金属基板、金属ドラム、金属ベルト、プラスチックフィルム等を使用できる。生産性向上の観点から、支持体として、金属ドラム、金属ベルト等の無端支持体、または長尺プラスチックフィルム等を用い、ロールトゥーロールによりフィルムを製造することが好ましい。プラスチックフィルムを支持体として使用する場合、製膜ドープの溶媒に溶解しない材料を適宜選択すればよく、プラスチック材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリエチレンナフタレート等が用いられる。
【0066】
ポリイミドフィルムの厚みは特に限定されず、用途に応じて適宜設定すればよい。ポリイミドフィルムの厚みは、例えば5μm以上である。支持体から剥離後のポリイミドフィルムに自己支持性を持たせる観点から、ポリイミドフィルムの厚みは20μm以上が好ましく、25μm以上がより好ましく、30μm以上がさらに好ましい。ディスプレイのカバーウインドウ材料等の強度が求められる用途においては、ポリイミドフィルムの厚みは、40μm以上または50μm以上であってもよい。ポリイミドフィルムの厚みの上限は特に限定されないが、可撓性および透明性の観点からは200μm以下が好ましく、150μm以下がより好ましい。
【0067】
ポリイミドフィルムの作製方法として、可溶性ポリイミド樹脂の溶液を用いる方法を中心に説明したが、前述のように、支持体上にポリアミド酸溶液を膜状に塗布し、支持体上での加熱によりイミド化を行ってもよい。また、溶媒を除去後のゲルフィルムを支持体から剥離後にさらに加熱してイミド化を行ってもよい。
【0068】
[ハードコート組成物]
ポリイミドフィルムにハードコート層を形成するためのハードコート組成物は、シロキサン化合物を含有する光硬化性樹脂組成物である。
【0069】
<シロキサン化合物>
ハードコート層形成用樹脂組成物に含まれるシロキサン化合物は、光カチオン重合性官能基として脂環式エポキシ基を有する。脂環式エポキシ基としては、3,4-エポキシシクロヘキシル基が好ましい。シロキサン化合物としては、例えばWO2014/204010に記載の光硬化性シロキサン化合物を用いることができる。
【0070】
脂環式エポキシ基を有するシロキサン化合物は、例えば、(1)脂環式エポキシ基を有するシラン化合物の縮合;(2)1分子中にSiH基との反応性を有する炭素-炭素二重結合および脂環式エポキシ基を有する化合物(例えばビニルシクロヘキセンオキシド)と、1分子中に少なくとも2個のSiH基を有するポリシロキサン化合物とのヒドロシリル化反応等により得られる。網目状にシロキサン結合を有し、1分子中に多数の脂環式エポキシ基を有するシロキサン化合物が得られることから、上記(1)により得られるシロキサン化合物が好ましい。
【0071】
脂環式エポキシ基を有するシラン化合物としては、下記一般式(I)で表される化合物が挙げられる。
Y-R-(Si(OR 3-x) …(I)
【0072】
一般式(I)において、Yは脂環式エポキシ基であり、Rは炭素数1~10のアルキレン基である。Rは水素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~25のアリール基および炭素数7~12のアラルキル基から選択される1価の炭化水素基である。Rは水素原子または炭素数1~10のアルキル基である。xは1~3の整数である。xが2以上である場合、複数のRは同一でも異なっていてもよい。(3-x)が2以上である場合、複数のRは同一でも異なっていてもよい。
【0073】
脂環式エポキシ基Yとしては、3,4-エポキシシクロヘキシル基が挙げられる。アルキレン基Rは、直鎖状でも分枝を有していてもよいが、直鎖アルキレン基が好ましく、炭素数1~5の直鎖アルキレンが好ましく、エチレンが特に好ましい。すなわち、Siに結合している置換基Y-R-は、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルであることが好ましい。
【0074】
の具体例としては、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ベンジル基、及び、フェネチル基が挙げられる。シロキサン化合物の光カチオン重合の際の脂環式エポキシ基の反応性を高める観点から、Rは炭素数1~4のアルキル基が好ましく、エチル基またはプロピル基が特に好ましい。
【0075】
の具体例としては、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。シラン化合物の縮合を促進する観点から、Rは炭素数1~3のアルキル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0076】
網目状のシロキサン化合物の形成、およびシロキサン化合物に含まれる脂環式エポキシ基の数を大きくして硬化膜の硬度を高める観点から、一般式(I)におけるxは2または3が好ましい。縮合により得られるシロキサン化合物の分子量の調整等を目的として、xが2または3であるシラン化合物と、xが1であるシラン化合物とを併用してもよい。
【0077】
一般式(I)で表されるシラン化合物の具体例としては、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルジメチルメトキシシラン、γ-(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロピルトリメトキシシラン、γ-(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロピルメチルジメトキシシラン、γ-(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロピルジメチルメトキシシラン等が挙げられる。
【0078】
上記のシラン化合物のSi-OR部分の反応により、Si-O-Si結合が形成されてシロキサン化合物が生成する。エポキシシクロヘキシル基等の脂環式エポキシドは、求電子反応性が高く、求核反応が低い。そのため、エポキシ基の開環を抑制する観点から、中性または塩基性条件下で反応を実施することが好ましい。
【0079】
反応系を塩基性とするために用いる塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物や、アミン類が挙げられる。ハードコート層の形成(光硬化反応)の際に塩基性化合物が存在すると、光カチオン開始剤(光酸発生剤)から発生する酸が塩基性化合物によりクエンチされて、脂環式エポキシ基の光カチオン重合反応を阻害する場合がある。そのため、シロキサン化合物の形成に用いられる塩基性化合物は、揮発により除去可能であるものが好ましい。また、シロキサン化合物のエポキシ基の開環を抑制する観点から、塩基性化合物は求核性が低いことが好ましい。そのため、塩基性化合物としては第三級アミンが好ましく、中でも、トリエチルアミン、ジエチルメチルアミン、トリプロピルアミン、メチルジイソプロピルアミン、ジイソプロピルエチルアミン等の沸点が30~160℃の第三級アミンが好ましい。WO2016/052413に記載されているように中性塩を用いて反応を実施してもよい。
【0080】
硬化膜の硬度を高める観点から、シラン化合物の縮合により得られるシロキサン化合物の重量平均分子量は500以上が好ましい。また、シロキサン化合物の揮発を抑制する観点からも、シロキサン化合物の重量平均分子量は500以上が好ましい。一方、分子量が過度に大きいと、他の組成物との相溶性の低下等に起因して白濁が生じる場合がある。そのため、シロキサン化合物の重量平均分子量は20000以下が好ましい。シロキサン化合物の重量平均分子量は1000~18000が好ましく、1500~16000がより好ましく、2000~14000がさらに好ましく、2800~12000が特に好ましい。
【0081】
シロキサン化合物は、1分子中に複数の脂環式エポキシ基を有することが好ましい。シロキサン化合物の1分子中に含まれる脂環式エポキシ基の数が大きいほど、光硬化時の架橋密度が高くなり、硬化膜の機械強度が高められる傾向がある。シロキサン化合物の1分子中の脂環式エポキシ基の数は、3個以上が好ましく、4個以上がより好ましく、5個以上がさらに好ましい。一方、1分子中に含まれる脂環式エポキシ基の数が過度に大きくなると、硬化時に分子間の架橋に寄与しない官能基の割合が増加する場合がある。そのため、シロキサン化合物の1分子中の脂環式エポキシ基の数は、100個以下が好ましく、80個以下がより好ましく、70個以下がさらに好ましく、60個以下が特に好ましい。
【0082】
架橋点密度を高めて、硬化物の硬度や耐擦傷性を向上させるとの観点から、一般式(I)で表されるシラン化合物の反応により得られるシロキサン化合物における脂環式エポキシ基の残存率は高い方が好ましい。シラン化合物が有する脂環式エポキシ基のモル数に対する、縮合物の脂環式エポキシ基のモル数の割合は、20%以上が好ましく、40%以上がより好ましく、60%以上がさらに好ましい。上記のように、反応のpHや、中性塩または塩基性化合物を適切に選択することにより、脂環式エポキシ基の残存率が高められる。
【0083】
光硬化時の副反応を抑制する観点や硬化物の硬度の観点から、シロキサン化合物におけるシラン化合物単位あたりに残存するOR基の数が小さいことが好ましい。シロキサン化合物におけるSi原子1個あたりのOR基の数は、2個以下である。Si原子1個あたりのOR基の数は、平均1.5個以下が好ましく、1.0個以下がより好ましい。硬化物の耐屈曲性の観点からシロキサン化合物におけるSi原子1個あたりのOR基の数は平均0.01個以上、0.05個以上、または0.3個以上であってもよい。
【0084】
シラン化合物の縮合によりシロキサン化合物を得る場合、脂環式エポキシ基を有するシラン化合物に加えて、脂環式エポキシ基を有していないシラン化合物を用いてもよい。脂環式エポキシ基を有さないシラン化合物は、例えば、下記一般式(II)で表される。
-(Si(OR …(II)
【0085】
一般式(II)のRは、炭素数1~10の置換もしくは非置換のアルキル基、アルケニル基、および置換アリール基からなる群から選択され、脂環式エポキシ基を有さない1価の基である。Rが置換を有するアルキル基である場合、置換基としては、グリシジル基、チオール基、アミノ基、(メタ)アクリロイル基、フェニル基、シクロヘキシル基、ハロゲン等が挙げられる。一般式(II)のRは、一般式(I)におけるRと同様である。
【0086】
前述のように、硬化膜の機械強度が高める観点から、シロキサン化合物の1分子中に含まれる脂環式エポキシ基の数は大きいほど好ましい。そのため、シラン化合物の反応により得られるシロキサン化合物は、脂環式エポキシ基を有するシラン化合物(一般式(I)で表される化合物)に対する脂環式エポキシ基を有さないシラン化合物(一般式(II)で表される化合物)のモル比が2以下の条件で縮合したものであることが好ましい。一般式(I)で表される化合物に対する一般式(II)で表される化合物のモル比は、1以下が好ましく、0.6以下がより好ましく、0.4以下がさらに好ましく、0.2以下であることが特に好ましい。一般式(I)で表される化合物に対する一般式(II)で表される化合物のモル比は0でもよい。
【0087】
機械強度に優れるハードコート層を形成する観点から、ハードコート組成物中の上記シロキサン化合物の含有量は、固形分の合計100重量部に対して40重量部以上が好ましく、50重量部以上がより好ましく、60重量部以上がさらに好ましい。
【0088】
<光カチオン重合開始剤>
ハードコート組成物は、光カチオン重合開始剤を含むことが好ましい。光カチオン重合開始剤は、活性エネルギー線の照射により酸を発生する化合物(光酸発生剤)である。光酸発生剤から生成した酸により、上記のシロキサン化合物の脂環式エポキシ基が反応して、分子間架橋が形成されハードコート材料が硬化する。
【0089】
光酸発生剤としては、トルエンスルホン酸または四フッ化ホウ素等の強酸;スルホニウム塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、ヨードニウム塩、セレニウム塩等のオニウム塩類;鉄-アレン錯体類;シラノール-金属キレート錯体類;ジスルホン類、ジスルホニルジアゾメタン類、ジスルホニルメタン類、スルホニルベンゾイルメタン類、イミドスルホネート類、ベンゾインスルホネート類等のスルホン酸誘導体;有機ハロゲン化合物類等が挙げられる。
【0090】
上記の光酸発生剤の中で、脂環式エポキシ基を有するシロキサン化合物を含有するハードコート組成物における安定性が高いことから、芳香族スルホニウム塩または芳香族ヨードニウム塩が好ましい。中でも、光硬化が速く、ポリイミドフィルムとの密着性に優れるハードコート層が得られやすいことから、芳香族スルホニウム塩または芳香族ヨードニウム塩は、カウンターアニオンがフルオロフォスフェート系アニオン、フルオロアンチモネート系アニオン、またはフルオロボレート系アニオンであるものが好ましい。特に、カウンターアニオンは、フルオロフォスフェート系アニオンまたはフルオロアンチモネート系アニオンが好ましい。このような光酸発生剤の具体例としては、ジフェニル(4-フェニルチオフェニル)スルホニウム・ヘキサフルオロフォスフェート、ヘキサフルオロフォスフェートのフッ素原子の一部または全部をパーフルオロアルキル基で置換したヘキサフルオロフォスフェート誘導体、ジフェニル(4-フェニルチオフェニル)スルホニウム・ヘキサフルオロアンチモネート等が挙げられる。
【0091】
ハードコート組成物中の光カチオン重合開始剤の含有量は、上記のシロキサン化合物100重量部に対して、0.05~10重量部が好ましく、0.1~5重量部がより好ましく、0.2~2重量部がさらに好ましい。
【0092】
<粒子>
ハードコート組成物は、膜特性の調整や、硬化収縮の抑制等を目的として粒子を含んでいてもよい。粒子としては、有機粒子、無機粒子、有機無機複合粒子等を適宜選択して用いればよい。有機粒子の材料としては、ポリ(メタ)アクリル酸アルキルエステル、架橋ポリ(メタ)アクリル酸アルキルエステル、架橋スチレン、ナイロン、シリコーン、架橋シリコーン、架橋ウレタン、架橋ブタジエン等が挙げられる。無機粒子の材料としては、シリカ、チタニア、アルミナ、酸化スズ、ジルコニア、酸化亜鉛、酸化アンチモン等の金属酸化物;窒化珪素、窒化ホウ素等の金属窒素化物;炭酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸アルミニウム等の金属塩等が挙げられる。有機無機複合フィラーとしては、有機粒子の表面に無機物層を形成したものや、無機粒子の表面に有機物層または有機微粒子を形成したものが挙げられる。
【0093】
粒子の形状としては、球状、粉状、繊維状、針状、鱗片状等が挙げられる。球状粒子は異方性がなく応力が偏在し難いことから、歪みの発生が抑えられ、硬化収縮等に起因するフィルムの反りの抑制に寄与し得る。
【0094】
粒子の平均粒子径は、例えば5nm~10μm程度である。ハードコート層の透明性を高める観点から、平均粒子径は1000nm以下が好ましく、500nm以下がより好ましく、300nm以下がさらに好ましく、100nm以下が特に好ましい。粒子径は、レーザー回折/散乱式の粒子径分布測定装置により測定でき、体積基準のメジアン径を平均粒子径とする。
【0095】
ハードコート組成物は、表面修飾された粒子を含んでいてもよい。粒子が表面修飾されることにより、シロキサン化合物中での粒子の分散性が向上する傾向がある。また、粒子表面が脂環式エポキシ基と反応可能な重合性官能基により修飾されている場合は、粒子表面の官能基と上記のシロキサン化合物の脂環式エポキシ基とが反応して化学架橋が形成されるため、膜強度や耐屈曲性の向上が期待できる。
【0096】
脂環式エポキシ基と反応可能な重合性官能基としては、ビニル基、(メタ)アクリル基、水酸基、フェノール性水酸基、カルボキシ基、酸無水物基、アミノ基、エポキシ基、オキセタン基等が挙げられる。中でも、エポキシ基が好ましい。特に、光カチオン重合によるハードコート組成物の硬化の際に、粒子とシロキサン化合物との間に化学架橋を形成できることから、脂環式エポキシ基で表面修飾された粒子が好ましい。
【0097】
表面に反応性官能基を有する粒子としては、例えば、表面修飾された無機粒子や、コアシェルポリマー粒子が挙げられる。
【0098】
(無機粒子)
無機粒子をハードコート組成物に配合することにより、硬化膜の表面硬度が向上する傾向がある。特に、金属酸化物粒子を用いた場合に、硬化膜の密着性、耐擦傷性、耐屈曲性等を抑制しつつ、表面硬度が向上する傾向がある。金属酸化物としては、シリカ、チタニア、アルミナ、酸化スズ、ジルコニア、酸化亜鉛、酸化アンチモン等が挙げられる。中でも、有機物による表面修飾が容易であり、分散性に優れることから、シリカ粒子が好ましい。
【0099】
金属酸化物粒子は、コロイド(溶剤分散ゾル)としてハードコート組成物に配合してもよい。ハードコート組成物の他の成分との相溶性や粒子の分散性の観点から、コロイドの分散媒は有機溶剤が好ましい。有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、オクタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、δ-ブチロラクトン等のエステル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類が挙げられる。
【0100】
ハードコート組成物における無機粒子の含有量は、上記のシロキサン樹脂100重量部に対して、3重量部以上が好ましく、5重量部以上がより好ましく、7重量部以上がさらに好ましい。特に、ハードコートフィルムの表面硬度を向上する観点からは、表面修飾された無機粒子の含有量が上記範囲であることが好ましい。表面修飾された無機粒子の配合量の増加に伴って、表面硬度が向上する傾向がある。一方、粒子含有量が過度に大きいと、耐屈曲性が低下する場合がある。そのため、無機粒子の配合量は、上記のシロキサン樹脂100重量部に対して150重量部以下が好ましく、100重量部以下がより好ましく、80重量部以下がさらに好ましい。
【0101】
(コアシェルポリマー粒子)
コアシェルポリマー粒子をハードコート組成物に配合することにより、硬化膜の耐屈曲性が向上する傾向があり、特に、ハードコート層を外側としてハードコートフィルムを屈曲した際のハードコート層の割れや剥がれが抑制される傾向がある。
【0102】
コアシェルポリマー粒子としては、第一の重合体からなるコア層と、コア層の表面にグラフト重合された第二の重合体からなるシェル層により構成された共重合体が挙げられる。コアシェルポリマー粒子は、3層以上の多層構造でもよい。
【0103】
コア成分の存在下で、ビニルモノマーをグラフト重合することにより、コア層の表面全部または一部がシェル層で覆われたコアシェルポリマーが得られる。コアシェルポリマーは、例えば、乳化重合、懸濁重合、マイクロサスペンジョン重合等により製造できる。粒子径のコントロールの観点から、乳化重合で製造することが好ましい。
【0104】
ハードコート層の耐屈曲性を向上する観点から、コアシェルポリマー粒子は、エラストマーまたはゴム状の共重合体を主成分とするコア層を有するコアシェル型ゴム粒子であることが好ましい。コア層を構成するゴム系ポリマーは、常温でゴム特性を有することが好ましく、ガラス転移温度は0℃以下が好ましく、-20℃以下がより好ましい。コア層を形成するゴム系ポリマーの具体例としては、ブタジエンゴム、ブタジエン-スチレンゴム、ブタジエンアルキルアクリレートゴム、アルキルアクリレートゴム、オルガノシロキサンゴム等が挙げられる。コアシェル構造を保つために、コア層は少なくとも部分的に架橋構造を有する架橋ゴムであることが好ましい。
【0105】
コアシェルポリマーにおけるコア層の平均粒子径は、10nm以上、20nmm以上、30nm以上、40nm以上、50nm以上、60nm以上、70nm以上、80nm以上、90nm以上または100nm以上であり得る。コアシェルポリマーにおけるコア層の平均粒子径は、500nm以下、400nm以下、350m以下、300nm以下、250nm以下、200nm以下または150nm以下であり得る。
【0106】
シェル層を構成するビニルモノマーとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル単量体;アクリロニトリル、又はメタクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等のアルキル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸グリシジルやグリシジルビニルエーテル等のグリシジルビニル単量体;(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;4-ビニルシクロヘキセン1,2-エポキシド、エポキシシクロヘキセニル(メタ)アクリレート等の脂環式エポキシ基含有ビニル誘導体;2-オキセタニルプロピル(メタ)アクリレート等のオキセタン基含有ビニル誘導体;ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸1,3ブチレングリコール等のジビニル単量体等が挙げられる。
【0107】
コアシェルポリマー粒子は、ハードコート組成物中において、上記のシロキサン化合物を主成分とするマトリクス相に対して一次粒子が独立して分散していることが好ましい。シロキサン化合物中でのコアシェル粒子の分散性の観点から、シェル層はエポキシ基、オキセタニル基、カルボキシル基、水酸基およびアミノ基からなる群から選択される一種以上の反応性官能基を含有するものが好ましい。中でも脂環式エポキシ基と高い反応性を有することから、エポキシ基、オキセタニルが好ましく、エポキシ基が特に好ましい。
【0108】
コアシェルポリマー粒子は、好ましくは50~97重量%、より好ましくは70~90重量%のゴムポリマーのコア層と、好ましくは3~50重量%、より好ましくは10~30重量%の前記ビニル単量体の重合物であるシェル層とからなる。シェル層の含有率が3重量%未満の場合には、コアシェルポリマー粒子の取扱い時に凝集し易く、操作性に問題が生じる場合がある。また、シェル層の含有率が50重量%を超えると、コアシェル重合体におけるコア層の含有率が低下して、硬化膜の屈曲性が低下する場合がある。
【0109】
ハードコートフィルムの耐屈曲性を向上する観点から、ハードコート組成物におけるコアシェルポリマー粒子の含有量は、上記のシロキサン樹脂100重量部に対して、3重量部以上が好ましく、5重量部以上がより好ましく、7重量部以上がさらに好ましく、10重量部以上が特に好ましい。シェル層に反応性官能基を有するコアシェルポリマー粒子の配合量の増加に伴って、耐屈曲性が向上する傾向がある。コアシェルポリマー粒子の配合量は、上記のシロキサン樹脂100重量部に対して120重量部以下が好ましく、100重量部以下がより好ましい。コアシェルポリマー粒子の含有量が過度に大きいと、ハードコートフィルムの表面硬度や耐擦傷性が低下する場合がある。表面硬度および耐擦傷性の観点から、コアシェルポリマー粒子の配合量は、上記のシロキサン樹脂100重量部に対して80重量部以下が好ましく、60重量部以下がより好ましく、40重量部以下がさらに好ましく、30重量部以下または20重量部以下であってもよい。
【0110】
ハードコート組成物は、表面修飾された無機粒子とコアシェルポリマー粒子の両方を含んでいてもよい。この場合、無機粒子とコアシェルポリマー粒子のそれぞれの含有量が上記範囲であることが好ましい。また、粒子の含有量の合計は、上記のシロキサン樹脂100重量部に対して200重量部以下が好ましく、150重量部以下がより好ましく、100重量部以下がさらに好ましく、80重量部以下が特に好ましい。
【0111】
<反応性希釈剤>
ハードコート組成物は、反応性希釈剤を含んでいてもよい。組成物に反応性希釈剤を配合することにより、光カチオン重合の反応点(架橋点)の密度が増加するため、硬化速度が高められる場合がある。
【0112】
光カチオン重合の反応性希釈剤としては、カチオン重合性官能基を有する化合物が用いられる。反応性希釈剤のカチオン重合性官能基としては、エポキシ基、ビニルエーテル基、オキセタン基、およびアルコキシシリル基が挙げられる。中でも、シロキサン化合物の脂環式エポキシ基との反応性が高いことから、反応性希釈剤としては、脂環式エポキシ基を有するものが好ましい。
【0113】
硬化収縮の低減や、硬化膜の機械的強度を向上する観点から、反応性希釈剤は、1分子中に2個以上のカチオン重合性官能基を有するものが好ましく、中でも1分子中に2個以上の脂環式エポキシ基を有するものが好ましい。1分子中に2個以上の脂環式エポキシ基を有する化合物としては、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(ダイセル製「セロキサイド2021P」)、ε-カプロラクトン変性3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(ダイセル製「セロキサイド2081」)、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、エポキシ変性鎖状シロキサン化合物(信越化学製「X-40-2669」)、およびエポキシ変性環状シロキサン化合物(信越化学製「KR-470」)等が挙げられる。
【0114】
ハードコート組成物における反応性希釈剤の含有量は、上記のシロキサン化合物100重量部に対して、100重量部以下が好ましく、50重量部以下がより好ましい。
【0115】
<光増感剤>
ハードコート組成物は、感光性の向上等を目的として光増感剤を含んでいてもよい。光増感剤としては、アントラセン誘導体、ベンゾフェノン誘導体、チオキサントン誘導体、アントラキノン誘導体、ベンゾイン誘導体等が挙げられる。中でも、光誘起電子供与性の観点から、アントラセン誘導体、チオキサントン誘導体、およびベンゾフェノン誘導体が好ましい。
【0116】
ハードコート組成物における反応性希釈剤の含有量は、上記の光酸発生剤100重量部に対して50重量部以下が好ましく、30重量部以下がより好ましく、10重量部以下がさらに好ましい。
【0117】
<溶媒>
ハードコート組成物は、無溶媒型でもよく、溶媒を含んでいてもよい。溶媒は、ポリイミドフィルムを溶解させないものが好ましい。一方、ポリイミドフィルムを膨潤させる程度の溶解性を有する溶媒を用いることにより、ポリイミドフィルムとハードコート層との密着性が向上する場合がある。溶媒としては、メチルイソブチルケトンやジイソブチルケトン等のケトン類;ブタノールやイソプロピルアルコール等のアルコール類;酢酸ブチルや酢酸イソプロピル等のエステル類;ジエチレングリコールメチルエーテルやプロピレングリコールメチルエーテル等のエーテル類;N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン等のアミド類;クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン化アルキル類が挙げられる。溶媒の配合量は、上記のシロキサン化合物100重量部に対して500重量部以下が好ましく、300重量部以下がより好ましい。
【0118】
<添加剤>
ハードコート組成物は、無機顔料や有機顔料、可塑剤、分散剤、湿潤剤、増粘剤、消泡剤等の添加剤を含んでいてもよい。また、ハードコート組成物は、上記のシロキサン化合物以外の熱可塑性または熱硬化性の樹脂材料を含んでいてもよい。シロキサン化合物および/またはシロキサン化合物以外の樹脂材料がラジカル重合性を有する場合、ハードコート組成物は、光カチオン重合開始剤に加えて光ラジカル重合開始剤を含んでいてもよい。
【0119】
<ハードコート組成物の調製>
ハードコート組成物の調製方法は特に限定されない。例えば、上記の各成分を配合し、ハンドミキサーやスタティックミキサー等による混合、プラネタリーミキサーやディスパー、ロール、ニーダー等による混練等を行ってもよい。これらの操作は、必要に応じて遮光した状態で実施してもよい。
【0120】
[ポリイミドフィルム上へのハードコート層の形成]
透明ポリイミドフィルム上にハードコート組成物を塗布し、必要に応じて溶媒を乾燥除去した後、活性エネルギー線を照射してハードコート組成物を硬化することにより、ポリイミドフィルム1上にハードコート層2が設けられたハードコート付きポリイミドフィルムが得られる。
【0121】
ハードコート層を塗布する前に、ポリイミドフィルムの主面に、コロナ処理やプラズマ処理等の表面処理を行ってもよい。また、ポリイミドフィルムの表面に易接着層(プライマー層)等を設けてもよい。なお、本発明のハードコート組成物の硬化により形成されるハードコート層は、ポリイミドフィルムに対する高い密着性を示すため、易接着層等を設けなくてもよい。すなわち、ハードコート付きポリイミドフィルムは、ポリイミドフィルム1とハードコート層2とが接していてもよい。
【0122】
ハードコート組成物に活性エネルギー線を照射することにより、光カチオン重合開始剤から酸が生成し、シロキサン化合物の脂環式エポキシ基がカチオン重合することにより、硬化が進行する。ハードコート組成物が反応性希釈剤を含んでいる場合は、シロキサン化合物同士の重合反応に加えて、シロキサン化合物の脂環式エポキシ基と反応性希釈剤との重合反応も生じる。また、ハードコート組成物が表面に反応性官能基を有する粒子を含有する場合は、粒子表面の官能基とシロキサン化合物の脂環式エポキシ基が反応して化学架橋が形成される。
【0123】
光硬化の際に照射する活性エネルギー線としては、可視光、紫外線、赤外線、X線、α線、β線、γ線、電子線等が挙げられる。硬化反応速度が高くエネルギー効率に優れることから、活性光線としては、紫外線が好ましい。活性エネルギー線の積算照射量は、例えば50~10000mJ/cm程度であり、光カチオン重合開始剤の種類および配合量、ハードコート層の厚み等に応じて設定すればよい。硬化温度は特に限定されないが、通常100℃以下である。
【0124】
ハードコート層の厚みは、1μm以上が好ましく、2μm以上がより好ましく、3μm以上がさらに好ましく、5μm以上が最も好ましい。ハードコート層の厚みは、100μm以下が好ましく、80μm以下がより好ましく、50μm以下がさらに好ましく、40μm以下が最も好ましい。ハードコート層の厚みが過度に小さいと、表面硬度等の機械特性を十分に向上できない場合がある。一方ハードコート層の厚みが過度に大きいと、透明性や耐屈曲性が低下する場合がある。
【0125】
[ハードコート付きポリイミドフィルムの特性]
上述のように、本発明のハードコート組成物の硬化により形成されるハードコート層は、ポリイミドフィルムとの密着性に優れる。また、ハードコート組成物は、シロキサン化合物が脂環式エポキシ基の重合反応により架橋されたポリマーマトリクスを有するため、ガラスに匹敵する表面硬度を実現し得る。ハードコート付きポリイミドフィルムのハードコート層形成面の鉛筆硬度は3H以上が好ましく、4H以上がより好ましい。さらに、ハードコート層は耐擦傷性にも優れている。
【0126】
本発明のハードコート付きポリイミドフィルムは、上記のように高い表面硬度を有し、かつ耐屈曲性にも優れる。ハードコート付きポリイミドフィルムは、ハードコート層形成面を内側にして円筒マンドレル試験を行った際に、ハードコート層にクラックが生じるマンドレル径が、10mm以下であることが好ましく、5mm以下であることがより好ましく、3mm以下であることがさらに好ましい。
【0127】
ハードコート付きポリイミドフィルムの全光線透過率は80%以上が好ましく、85%以上がより好ましく、88%以上がさらに好ましい。ハードコート付きポリイミドフィルムのヘイズは2%以下が好ましく、1.5%以下がより好ましく、1%以下がさらに好ましく、0.5%以下が特に好ましい。
【0128】
前述のように、光硬化の際に、光カチオン重合開始剤(光酸発生剤)から酸が生成して光硬化が進行する。そのため、硬化後のハードコート層には、光酸発生剤のカウンターアニオンが残存している。ハードコート層は、前述の光酸発生剤のカウンターアニオンとして、フルオロフォスフェート系アニオン、フルオロアンチモネート系アニオン、またはそれらの塩を含んでいてもよい。
【0129】
ハードコート組成物が微粒子を含む場合、光硬化後のハードコート層にも微粒子が含まれる。ハードコート組成物が、脂環式エポキシ基と反応可能な重合性官能基を有する微粒子を含む場合、光硬化後のハードコート層は、シロキサン樹脂と微粒子との間に化学架橋が形成されていることが好ましい。
【0130】
[ハードコート付きポリイミドフィルムの応用]
ハードコート付きポリイミドフィルムは、ハードコート層上、またはポリイミドフィルムのハードコート層非形成面には、各種の機能層を設けてもよい。機能層としては、反射防止層、防眩層、帯電防止層、透明電極等が挙げられる。また、ハードコートフィルムには、透明粘着剤層が付設されてもよい。
【0131】
本発明のハードコート付きポリイミドフィルムは、透明性が高く、機械強度に優れるため、画像表示パネルの表面に設けられるカバーウインドウや、ディスプレイ用透明基板、タッチパネル用透明基板、太陽電池用基板等に好適に用いることができる。本発明のハードコート付きポリイミドフィルムは、透明性および機械強度に加えて、耐屈曲性にも優れることから、特に、曲面ディスプレイやフレキシブルディスプレイ等のカバーウインドウや基板フィルムとして好適に使用できる。
【実施例
【0132】
以下、実施例および比較例に基づき、本発明についてさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0133】
[ポリイミドフィルム]
<ポリイミドフィルム1>
(ポリアミド酸溶液1の調製)
反応容器に、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を383重量部投入し、窒素雰囲気下で攪拌した。そこに、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン:36.3重量部、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン:12.0重量部、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物:15.8重量部、および2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物:35.9重量部を順次添加し、窒素雰囲気下で攪拌してポリアミド酸溶液1を得た。
【0134】
(イミド化およびポリイミド樹脂の抽出)
ポリイミド酸溶液(ポリアミド酸の固形分100重量部)に、イミド化触媒としてピリジン38.4重量部を添加し、攪拌した後、無水酢酸49.5重量部を添加し、120℃で2時間攪拌後、室温まで冷却してポリイミド溶液を得た。溶液を攪拌しながら、1Lのイソプロピルアルコールを滴下して、ポリイミド樹脂を析出させた。その後、濾別したポリイミド樹脂をイソプロピルアルコールで3回洗浄した後、120℃で12時間乾燥させて白色のポリイミド樹脂1(PI-1)の粉体を得た。
【0135】
(ポリイミドフィルム1の作製)
ポリイミド樹脂1をメチルエチルケトンに溶解し、固形分濃度17%のポリイミド溶液を得た。コンマコーターを用いて、ポリイミド溶液を無アルカリガラス板上に塗布し、40℃で10分、80℃で30分、150℃で30分、170℃で1時間、大気雰囲気下で乾燥した後、無アルカリガラス板から剥離して、厚み80μmまたは50μmの透明ポリイミドフィルム1を得た。厚み80μmのポリイミドフィルム1の全光線透過率は89.8%であり、厚み50μmのポリイミドフィルム1の全光線透過率は90.0%であった。
【0136】
<ポリイミドフィルム2>
(ポリアミド酸溶液2の調製、イミド化およびポリイミド樹脂の析出)
反応容器に、DMFを383重量部投入し、窒素雰囲気下で攪拌した。そこに、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン:31.8重量部、および3,3’-ジアミノジフェニルスルホン:10.5重量部を投入し、窒素雰囲気下で撹拌してジアミン溶液を得た。そこに、p-フェニレンビス(トリメリット酸無水物):15.9重量部、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン酸二無水物:37.4重量部、および3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物:10.4重量部を加え、窒素雰囲気下で攪拌してポリアミド酸溶液2を得た。得られたポリアミド酸溶液2を用い、上記のポリイミド樹脂1の調製と同様にして、イミド化、ポリイミド樹脂の析出、洗浄および乾燥を行い、白色のポリイミド樹脂2(PI-2)の粉体を得た。
【0137】
(ポリイミドフィルム1の作製)
ポリイミド樹脂2を塩化メチレンに溶解し、固形分濃度10%のポリイミド溶液を得た。コンマコーターを用いて、ポリイミド溶液を無アルカリガラス板上に塗布し、40℃で60分、80℃で30分、150℃で30分、170℃で30分、大気雰囲気下で乾燥した後、無アルカリガラス板から剥離して、厚み50μmの透明ポリイミドフィルム2を得た。ポリイミドフィルム2の全光線透過率は89.0%であった。
【0138】
[ハードコート樹脂組成物の調製]
反応容器に、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ製「SILQUEST A-186」)100重量部、塩化マグネシウム0.12重量部、水11重量部およびプロピレングリコールモノメチルエーテル11重量部を仕込み、130℃で3時間撹拌後、60℃で減圧脱揮して縮合物(シロキサン樹脂)を得た。
【0139】
上記のシロキサン樹脂100重量部、プロピレングリコールモノメチルエーテル161.6重量部、光酸発生剤としてトリアリールスルホニウム・SbF塩のプロピレンカーボネート溶液(サンアプロ製「CPI-101A」)2重量部、およびレベリング剤としてポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンのキシレン/イソブタノール溶液(BYK製「BYK-300」)を固形分として0.2重量部配合して、ハードコート組成物を得た。
【0140】
[実施例1:ハードコートフィルム1の作製]
厚み80μmの透明ポリイミドフィルム1の表面に、上記のハードコート組成物を乾燥膜厚が10μmとなるようにバーコーターを用いて塗布し、120℃で2分間加熱した。その後、高圧水銀ランプを用いて、波長250~390nmの積算光量が1000mJ/cmとなるように紫外線を照射してハードコート組成物を硬化させて、ハードコート付きポリイミドフィルム(ハードコートフィルム1)を得た。
【0141】
[実施例2:ハードコートフィルム2の作製]
ハードコート層の厚みが40μmとなるように塗布厚みを変更したこと以外は実施例1と同様にして、ハードコート付きポリイミドフィルム(ハードコートフィルム2)を得た。
【0142】
[実施例3:ハードコートフィルム3の作製]
厚み50μmの透明ポリイミドフィルム1を用いたこと以外は実施例2と同様にして、ハードコート付きポリイミドフィルム(ハードコートフィルム3)を得た。
【0143】
[実施例4:ハードコートフィルム4の作製]
厚み50μmの透明ポリイミドフィルム2を用い、ハードコート樹脂組成物における光酸発生剤の配合量を、シロキサン樹脂100重量部に対して0.2重量部に変更したこと以外は実施例1と同様にして、ハードコート付きポリイミドフィルム(ハードコートフィルム4)を得た。
【0144】
[実施例5:ハードコートフィルム5の作製]
ハードコート層の厚みが40μmとなるように塗布厚みを変更したこと以外は実施例4と同様にして、ハードコート付きポリイミドフィルム(ハードコートフィルム5)を得た。
【0145】
[比較例1~4]
基材フィルムとして、ポリイミドフィルムに代えて、厚み50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ製、L-50T60)、厚み40μmのアクリル系フィルム、厚み50μmのポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム(帝人製、Teonex Q51)、および厚み80μmのトリアセチルセルロース(TAC)フィルムを用い、実施例1と同様にして、フィルム表面に厚み10μmのハードコート層を形成した。アクリルフィルムおよびTACフィルムは、それぞれ、アクリル樹脂(クラレ製パラペットHR-G)およびトリアセチルセルロース樹脂(和光純薬製)の塩化メチレン溶液を用いて溶液製膜により作製した。
【0146】
[評価]
下記に従って、実施例および比較例で得られたハードコートフィルムを評価した。
【0147】
<ハードコート層の密着性>
ハードコート層に、1mm間隔で100マスの碁盤目状の切り込みを入れ、JIS K5600-5-6:1999に準拠してクロスカット試験を行い、フィルムの表面からハードコート層が剥離したマス目の割合(%)を記録した。数字が小さいほど、ハードコート層の密着性が良好であることを示す。
【0148】
<耐屈曲性>
JIS K5600-5-1:1999に従って、ハードコート層形成面を内側として、タイプ1の試験機を用いて円筒型マンドレル試験を行った。マンドレルの径が小さいほど、耐屈曲性に優れることを示す。
【0149】
<表面硬度>
JIS K5600-5-4:1999により、ハードコート層形成面の鉛筆硬度を測定した。
【0150】
<耐擦傷性>
往復磨耗試験機(新東科学製)を用いて、ハードコート層の表面に162g/cmの荷重をかけてスチールウール#0000を10往復または100往復させた後、傷の有無を目視にて観察した。傷がない場合をOK、傷がある場合をNGとした。
【0151】
<全光線透過率およびヘイズ>
スガ試験機製ヘイズメーターHZ-V3により、JIS K7361-1:1999およびJIS K7136:2000に記載の方法により測定した。
【0152】
実施例1~5で作製したハードコートフィルム1~5、および比較例1~4のハードコートフィルムの構成および評価結果を表1に示す。
【0153】
【表1】
【0154】
厚み80μmの透明ポリイミドフィルム1上に10μmのハードコート層を形成したハードコートフィルム1では、鉛筆硬度が4Hと高く、耐屈曲性および耐擦傷性が良好であり、かつクロスカット試験でハードコート層の剥がれがなく、良好な特性を示した。ハードコート層の厚みを40μmに増加したハードコートフィルム2では、鉛筆硬度が9Hまで上昇していた。厚み50μmの透明ポリイミドフィルム1上に40μmのハードコート層を形成したハードコートフィルム3も、クロスカット試験でハードコート層の剥がれがなく、かつ高い硬度を有していた。厚み50μmのポリイミドフィルム2上にハードコート層を形成したハードコートフィルム4,5も、ハードコートフィルム1~3と同様、クロスカット試験でハードコート層の剥がれがなく、かつ高い硬度を示した。
【0155】
ポリイミドフィルム以外の基材を用いた比較例1~4では、ハードコートフィルム1に比べて鉛筆硬度が低く、クロスカット試験でハードコート層の剥離がみられ、密着性に劣っていた。また、比較例4では、耐擦傷性の低下がみられた。
【0156】
以上の結果から、脂環式エポキシ基を含むシロキサン化合物を含むハードコート組成物は、ポリイミドフィルムに対して特異的に高い密着性を示し、機械強度に優れるハードコートフィルムを形成可能であることが分かる。
【0157】
[ハードコートフィルム6~9の作製]
ハードコート樹脂組成物の調製において、シロキサン樹脂100重量部に代えて、シロキサン樹脂と下記の手順で作製したコアシェルポリマー(コアシェルゴム)粒子の分散液を配合した。配合比は表2に示す通りであった(表2におけるコアシェルゴム粒子の量は固形分である)。それ以外はハードコートフィルム1の作製と同様にして、透明ポリイミドフィルムの表面にハードコート組成物を塗布し、加熱乾燥後に紫外線を照射して光硬化を行い、ポリイミドフィルム上に厚み10μmのハードコート層を備えるハードコート付きポリイミドフィルム(ハードコートフィルム6~9)を得た。
【0158】
(コアシェルゴム粒子の作製)
耐圧重合機中に、水200重量部、リン酸三カリウム0.03重量部、リン酸二水素カリウム0.25重量部、エチレンジアミン4酢酸0.002重量部、硫酸第一鉄0.001重量部およびドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.5重量部を投入した。攪拌しながら十分に窒素置換を行って酸素を除いた後、ブタジエン75重量部およびスチレン25重量部を系中に投入し、45℃に昇温した。パラメンタンハイドロパーオキサイド0.015重量部、およびナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(SFS)0.04重量部を順に投入して、重合を開始した。重合開始から4時間後に、パラメンタンハイドロパーオキサイド0.01重量部、エチレンジアミン4酢酸(EDTA)0.0015重量部および硫酸第一鉄0.001重量部を投入した。重合開始から10時間後に減圧下で残存モノマーを脱揮除去し、重合を終了した。得られたスチレン-ブタジエンゴムラテックスの体積平均粒径は100nmであった。
【0159】
ガラス反応器に、上記のスチレン-ブタジエンゴムラテックス241重量部(スチレン-ブタジエンゴム粒子80重量部を含む)、および水65重量部を投入し、窒素置換を行いながら60℃で撹拌した。EDTA0.004重量部、硫酸第一鉄・7水和物0.001重量部、およびSFS0.2重量部を加えた後、イソシアヌル酸トリアリル(TAIC)2重量部、およびクメンハイドロパーオキシド(CHP)0.07重量部を添加して60分間攪拌した。スチレン11.7重量部、アクリロニトリル4.3重量部、グリシジルメタクリレート4重量部およびt-ブチルハイドロパーオキサイド(TBP)0.08重量部の混合物を110分間かけて連続的に添加した。その後、TBP0.04重量部を添加し、さらに1時間撹拌を続けて重合を完結させ、コアシェルポリマーを含む水性ラテックス)を得た。得られた水性ラテックスに含まれるコアシェルポリマーの体積平均粒子径は110nmであった。
【0160】
30℃の混合槽にメチルエチルケトン(MEK)126重量部を仕込み、撹拌しながら、上記の水性ラテックスを126重量部投入した。均一に混合後、水200重量部を80重量部/分の供給速度で投入した。供給終了後、速やかに撹拌を停止し、浮上性の凝集体を含むスラリー液を得た。次に、凝集体を残し、液相350重量部を槽下部の払い出し口より排出させた。得られた凝集体にMEK150重量部を追加して混合し、コアシェルポリマー粒子のMEK分散液を得た。
【0161】
この分散液を、アンカー翼を設置した攪拌槽に移し、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PM)を、コアシェルポリマー粒子/PMの重量比が30/70になるように加えて均一混合後、ジャケット温度を70℃に設定し、減圧下で、コアシェルポリマー粒子濃度が28重量%に達するまでMEKと水を留去した。このとき共沸により少量のPMも留去された。MEKを添加してコアシェルポリマー粒子濃度を11重量%とした後、70℃減圧下で、コアシェルポリマー粒子濃度が38重量%に達するまでMEKおよび水と少量のPMを留去した。槽内に窒素ガスを導入して内圧を大気圧に戻して、コアシェルポリマー粒子の分散液を得た。分散液の溶剤の組成はMEK/PM=30/70、分散液の室温における粘度は3700mPa・s、コアシェルポリマー粒子の体積平均粒子径は110nmであった。
【0162】
[ハードコートフィルム10~12の作製]
ハードコート樹脂組成物の調製において、シロキサン樹脂100重量部に代えて、シロキサン樹脂90重量部と以下に示す液状アクリル樹脂10重量部を配合した。それ以外はハードコートフィルム1の作製と同様にして、透明ポリイミドフィルムの表面に厚み10μmのハードコート層を備えるハードコート付きポリイミドフィルム(ハードコートフィルム10~12)を得た。
【0163】
UP-1010:東亞合成製「ARUFON UP-1010」 液状アクリル樹脂(重量平均分子量1700)
UG-4010:東亞合成製「ARUFON UG-4010」 側鎖にエポキシ基を有する液状アクリル樹脂(重量平均分子量2900)
UH-2041:東亞合成製「ARUFON UH-2041」 側鎖にOH基を有する液状アクリル樹脂(重量平均分子量2500)
【0164】
[評価]
ハードコートフィルム6~12について、上記と同様の評価を行った。円筒型マンドレル試験による耐屈曲性評価では、ハードコート層形成面を内側として屈曲させる試験(内曲げ)に加えて、ハードコート層形成面を外側として屈曲させる試験(外曲げ)による評価を実施した。ハードコートフィルム3~9の作製に用いたハードコート組成物の樹脂成分の組成、および評価結果を、ハードコートフィルム1の評価結果とともに表2に示す。
【0165】
【表2】
【0166】
ハードコート組成物に液状アクリル樹脂を添加したハードコートフィルム10では、ハードコート層の密着性が大幅に低下していた。ハードコートフィルム10では、アクリル樹脂が反応性の官能基を有しておらず、光硬化によりシロキサン樹脂の脂環式エポキシ基とアクリル樹脂とが反応しないため、ハードコート層の密着性が低下したと考えられる。ハードコート組成物に反応性官能基を有する液状アクリル樹脂を添加したハードコートフィルム11,12では、ハードコートフィルム1と同等の密着性、耐屈曲性および鉛筆硬度を有していたが、ハードコートフィルム11では耐擦傷性の低下がみられた。
【0167】
ハードコート組成物にエポキシ基を有するシェル層を有するコアシェルゴム粒子を添加したハードコートフィルム6,7では、ハードコートフィルム1と同等の密着性、硬度および耐擦傷性を維持しつつ、外曲げマンドレル試験での耐屈曲性が改善されていた。コアシェルゴム粒子の添加量を増大させたハードコートフィルム9では、外曲げマンドレル試験での耐屈曲性がさらに改善されていたが、ハードコートフィルム1に比べて機械強度が低下していた。
【0168】
以上の結果から、シロキサン樹脂にコアシェルポリマー粒子を配合した組成物を用いることにより、ハードコートフィルムの耐屈曲性を向上可能であることが分かる。また、コアシェルポリマー粒子の添加量を調整することにより、ハードコート層の硬度を低下させることなく耐屈曲性を向上できることが分かる。
【0169】
[ハードコートフィルム13~18の作製]
ハードコート樹脂組成物の調製において、シロキサン樹脂100重量部に代えて、シロキサン樹脂と以下に示すシリカ微粒子の分散液とを配合した。配合比は表3に示す通りであった(表3におけるシリカ粒子の量は固形分である)。それ以外はハードコートフィルム1の作製と同様にして、透明ポリイミドフィルムの表面に厚み10μmのハードコート層を備えるハードコート付きポリイミドフィルム(ハードコートフィルム13~18)を得た。
【0170】
MEK-EC-2430Z:日産化学製の表面が脂環式エポキシ処理されたコロイダルシリカのコロイド溶液、粒子径:10~15nm、分散媒:メチルエチルケトン、固形分:30%
MEK-EC-2130Y:日産化学製の表面が疎水処理されたコロイダルシリカのコロイド溶液、粒子径:10~15nm、分散媒:メチルエチルケトン、固形分:30%
MEK-AC-2140Z:日産化学製の表面がメタアクリロイル処理されたコロイダルシリカのコロイド溶液、粒子径:10~15nm、分散媒:メチルエチルケトン、固形分:40%
PGM-AC-4130Y:日産化学製の表面がメタアクリロイル処理されたコロイダルシリカのコロイド溶液、粒子径:40~50nm,分散媒:プロピレングリコールモノメチルエーテル、固形分:30%
【0171】
[評価]
ハードコートフィルム13~18について、上記と同様の評価を行った。ハードコートフィルム13~18の作製に用いたハードコート組成物の樹脂成分の組成、および評価結果を、ハードコートフィルム1の評価結果とともに表3に示す。
【0172】
【表3】
【0173】
ハードコート組成物に表面処理されたシリカ粒子を添加したハードコートフィルム13~18は、いずれもハードコート層の密着性に優れ、かつ、粒子を含まないハードコート組成物を用いたハードコートフィルム1に比べて、鉛筆硬度が向上していた。中でも、脂環式エポキシ基で修飾されたシリカ粒子を10%添加したハードコートフィルム13は、ハードコートフィルム1と同等の密着性、耐屈曲性、耐擦傷性および透明性を維持しており、優れた特性を示した。
【符号の説明】
【0174】
1 透明ポリイミドフィルム
2 ハードコート層
10 ハードコートフィルム

図1