(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-08
(45)【発行日】2023-08-17
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/131 20100101AFI20230809BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20230809BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20230809BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230809BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20230809BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230809BHJP
【FI】
H01M4/131
H01M10/0566
H01M4/505
H01M4/62 Z
H01M10/0585
H01M4/36 A
(21)【出願番号】P 2021041391
(22)【出願日】2021-03-15
【審査請求日】2022-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】冨田 正考
(72)【発明者】
【氏名】山口 裕之
(72)【発明者】
【氏名】牧村 嘉也
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-060751(JP,A)
【文献】特開2014-130774(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/131
H01M 10/0566
H01M 4/505
H01M 4/62
H01M 10/0585
H01M 4/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、非水電解液と、を備える非水電解液二次電池であって、
前記正極は、正極活物質層を備え、
前記正極活物質層は、正極活物質としてスピネル型結晶構造を有するマンガン酸リチウム粒子を含み、
前記マンガン酸リチウム粒子は、Li
1+x
Mn
2-x
O
4
(式中、xは、0≦x≦0.15を満たす)で表される組成を有し、
前記マンガン酸リチウム粒子の少なくとも一部は、割れ部を有しており、
前記マンガン酸リチウム粒子は、前記割れ部の表面を含め粒子表面に被膜を有し、
前記被膜は、LiMnPO
4成分を含むP成分と、F成分と、を含有する、非水電解液二次電池。
【請求項2】
前記被膜中の原子%で表されるF濃度に対する、原子%で表されるP濃度の比P/Fが、0.030以上である、請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項3】
前記正極活物質層の密度が、2.6g/cm
3以上である、請求項1または2に記載の非水電解液二次電池。
【請求項4】
前記正極活物質層が、リン酸リチウムを含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池。
【請求項5】
前記非水電解液が、電解質塩としてLiPF
6を含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池。
【請求項6】
正極活物質としてのマンガン酸リチウム粒子と、リン酸リチウム粒子と、を含有する正極活物質層を備える正極シートを作製する工程と、
前記作製した正極シートをプレス処理する工程と、
前記プレス処理した正極シートを用いて、正極シートと負極シートと非水電解液とを備える電池組立体を作製する工程と、
前記電池組立体に初期充電処理を行って、被膜を形成する工程と、
を包含し、
前記マンガン酸リチウム粒子は、Li
1+x
Mn
2-x
O
4
(式中、xは、0≦x≦0.15を満たす)で表される組成を有し、
前記プレス処理する工程で、前記マンガン酸リチウム粒子に割れが生じており、
前記被膜を形成する工程で、
前記初期充電処理を、4.7V以上の電圧になるまで行い、前記マンガン酸リチウム粒子の割れ部の表面を含め粒子表面に、LiMnPO
4成分を含むP成分と、F成分と、を含有する被膜を形成する、
非水電解
液二次電池の製造方法。
【請求項7】
前記プレス処理を、前記正極活物質層の密度が、2.6g/cm
3以上になるように行う、請求項
6に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池に関する。本発明はまた、当該非水電解液二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池等の非水電解液二次電池は、パソコン、携帯端末等のポータブル電源や、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両駆動用電源などに好適に用いられている。
【0003】
非水電解液二次電池においては、一般的に、電荷担体となるイオンを吸蔵および放出可能な活物質が用いられている。正極に用いられる活物質として、スピネル型結晶構造を有するマンガン酸リチウム(LiMn2O4)が知られている。この結晶構造のマンガン酸リチウムは、非水電解質二次電池に充放電を繰り返した際に、マンガン(Mn)が電解液中に溶出することによって容量が劣化しやすいという欠点を有している。このMnの溶出に起因する容量劣化を抑制するために、マンガン酸リチウム粒子にリンを含む被膜を設ける技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非水電解液二次電池は、その普及に伴い、さらなる高性能化が求められている。非水電解液二次電池の高性能化の方策の一つとして、正極活物質を含有する正極活物質層にプレス処理を行うことによって正極活物質層を高密度化し、これによりエネルギー密度を高める方法が知られている。しかしながら、本発明者らが鋭意検討した結果、エネルギー密度をより高めるべく、プレス処理によって正極活物質層の高密度化をさらに進めた場合には、マンガン酸リチウム粒子に割れが生じ、この割れ部からMnの溶出が起こって容量が劣化するという問題があることを見出した。
【0006】
そこで本発明の目的は、スピネル型結晶構造を有するマンガン酸リチウム粒子に割れが生じているのにも関わらず、充放電を繰り返した際の容量劣化が抑制された非水電解液二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意検討した結果、非水電解液二次電池の製造において、正極活物質層にリン酸リチウムを含有させ、これを非水電解液二次電池の作動電圧よりもはるかに高い電圧で被膜形成を行った場合に、スピネル型結晶構造を有するマンガン酸リチウム粒子の割れ部を含めた粒子全体にMnの溶出を抑制可能な被膜が形成されることを見出した。さらに、この被膜に対して分析を行い、この被膜が特定の成分(すなわち、LiMnPO4成分)を含有することを見出し、本発明の完成に至った。
【0008】
すなわち、ここに開示される非水電解液二次電池は、正極と、負極と、非水電解液と、を備える。前記正極は、正極活物質層を備える。前記正極活物質層は、正極活物質としてスピネル型結晶構造を有するマンガン酸リチウム粒子を含む。前記マンガン酸リチウム粒子の少なくとも一部は、割れ部を有している。前記マンガン酸リチウム粒子は、前記割れ部の表面を含め粒子表面に被膜を有する。前記被膜は、LiMnPO4成分を含むP成分と、F成分と、を含有する。このような構成によれば、スピネル型結晶構造を有するマンガン酸リチウム粒子に割れが生じているのにも関わらず、充放電を繰り返した際の容量劣化が抑制された非水電解液二次電池を提供することができる。
【0009】
ここに開示される非水電解液二次電池の好ましい一態様においては、前記被膜中の原子%で表されるF濃度に対する、原子%で表されるP濃度の比P/Fが、0.030以上である。このとき、容量劣化抑制効果がより高くなる。
【0010】
ここに開示される非水電解液二次電池の好ましい一態様においては、前記正極活物質層の密度が、2.6g/cm3以上である。このとき、容量劣化抑制効果が特に高くなる。
【0011】
ここに開示される非水電解液二次電池の好ましい一態様においては、前記正極活物質層が、リン酸リチウムを含有する。このとき、LiMnPO4成分を含むP成分と、F成分と、を含有する被膜の形成に有利である。
【0012】
ここに開示される非水電解液二次電池の好ましい一態様においては、前記非水電解液が、電解質塩としてLiPF6を含有する。このとき、LiMnPO4成分を含むP成分と、F成分と、を含有する被膜の形成に有利である。
【0013】
別の側面から、ここに開示される非水電解液二次電池の製造方法は、正極活物質としてのマンガン酸リチウム粒子と、リン酸リチウム粒子と、を含有する正極活物質層を備える正極シートを作製する工程と、前記作製した正極シートをプレス処理する工程と、前記プレス処理した正極シートを用いて、正極シートと負極シートと非水電解液とを備える電池組立体を作製する工程と、前記電池組立体に初期充電処理を行って、被膜を形成する工程と、を包含する。前記プレス処理する工程で、前記マンガン酸リチウム粒子に割れが生じている。前記被膜を形成する工程で、前記マンガン酸リチウム粒子の割れ部の表面を含め粒子表面に、LiMnPO4成分を含むP成分と、F成分と、を含有する被膜を形成する。このような構成によれば、スピネル型結晶構造を有するマンガン酸リチウム粒子に割れが生じているのにも関わらず、充放電を繰り返した際の容量劣化が抑制された非水電解液二次電池を製造することができる。
【0014】
ここに開示される非水電解液二次電池の製造方法の好ましい一態様においては、前記初期充電処理を、4.7V以上の電圧になるまで行う。このとき、LiMnPO4成分とF成分とを含有する被膜の形成に有利である。
【0015】
ここに開示される非水電解液二次電池の製造方法の好ましい一態様においては、前記プレス処理を、前記正極活物質層の密度が、2.6g/cm3以上になるように行う。このとき、特に高い容量劣化抑制効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の内部構造を模式的に示す断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の捲回電極体の構成を示す模式分解図である。
【
図3】実施例B1~B6、比較例B1~B6、比較例B7~12、および比較例B13~18について、正極活物質層の密度と容量維持率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明に係る実施の形態を説明する。なお、本明細書において言及していない事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の図面においては、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明している。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
【0018】
なお、本明細書において「二次電池」とは、繰り返し充放電可能な蓄電デバイスをいい、いわゆる蓄電池、および電気二重層キャパシタ等の蓄電素子を包含する用語である。また、本明細書において「リチウムイオン二次電池」とは、電荷担体としてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電荷の移動により充放電が実現される二次電池をいう。
【0019】
以下、扁平形状の捲回電極体と扁平形状の電池ケースとを有する扁平角型のリチウムイオン二次電池を例にして、本発明について詳細に説明するが、本発明をかかる実施形態に記載されたものに限定することを意図したものではない。
【0020】
図1に示すリチウムイオン二次電池100は、扁平形状の捲回電極体20と非水電解液80とが扁平な角形の電池ケース(即ち外装容器)30に収容されることにより構築される密閉型電池である。電池ケース30には外部接続用の正極端子42および負極端子44と、電池ケース30の内圧が所定レベル以上に上昇した場合に該内圧を開放するように設定された薄肉の安全弁36とが設けられている。また、電池ケース30には、非水電解液80を注入するための注入口(図示せず)が設けられている。正極端子42は、正極集電板42aと電気的に接続されている。負極端子44は、負極集電板44aと電気的に接続されている。電池ケース30の材質としては、例えば、アルミニウム等の軽量で熱伝導性の良い金属材料が用いられる。なお、
図1は、非水電解液80の量を正確に表すものではない。
【0021】
捲回電極体20は、
図1および
図2に示すように、正極シート50と、負極シート60とが、2枚の長尺状のセパレータシート70を介して重ね合わされて長手方向に捲回された形態を有する。正極シート50は、長尺状の正極集電体52の片面または両面(ここでは両面)に長手方向に沿って正極活物質層54が形成された構成を有する。負極シート60は、長尺状の負極集電体62の片面または両面(ここでは両面)に長手方向に沿って負極活物質層64が形成されている構成を有する。正極活物質層非形成部分52a(すなわち、正極活物質層54が形成されずに正極集電体52が露出した部分)および負極活物質層非形成部分62a(すなわち、負極活物質層64が形成されずに負極集電体62が露出した部分)は、捲回電極体20の捲回軸方向(すなわち、上記長手方向に直交するシート幅方向)の両端から外方にはみ出すように形成されている。正極活物質層非形成部分52aおよび負極活物質層非形成部分62aには、それぞれ正極集電板42aおよび負極集電板44aが接合されている。
【0022】
正極集電体52としては、リチウムイオン二次電池に用いられる公知の正極集電体を用いてよく、その例としては、導電性の良好な金属(例えば、アルミニウム、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等)製のシートまたは箔が挙げられる。正極集電体52としては、アルミニウム箔が好ましい。
【0023】
正極集電体52の寸法は特に限定されず、電池設計に応じて適宜決定すればよい。正極集電体52としてアルミニウム箔を用いる場合には、その厚みは、特に限定されないが、例えば5μm以上35μm以下であり、好ましくは7μm以上20μm以下である。
【0024】
正極活物質層54は、正極活物質を含有する。本実施形態においては、正極活物質には、スピネル型結晶構造のマンガン酸リチウムの粒子が用いられる。この結晶構造のマンガン酸リチウムの使用によれば、リチウムイオン二次電池100に高い熱安定性を付与でき、またリチウムイオン二次電池100を低コスト化することができる。本実施形態において用いられるマンガン酸リチウムは、リチウム過剰の組成であってよい。また、マンガン酸リチウムには、本発明の効果を顕著に阻害しない範囲内で、その他の金属元素が添加されていてもよい。
【0025】
本実施形態において用いられるマンガン酸リチウムは、具体的に例えば、一般式(I):Li1+xMn2-x-yMeyO4-δで表される組成を有する。一般式(I)において、Meは、Ni、Co、Mg、Fe、Al、Cr、Ga、およびTiからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素であり、好ましくは、Mg、およびAlからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素である。xは、0≦x≦0.20を満たし、好ましくは0≦x≦0.15を満たし、より好ましくは、0≦x≦0.10を満たす。yは、0≦y≦0.20を満たし、好ましくは0≦y≦0.10を満たし、より好ましくは0≦y≦0.05を満たし、最も好ましくはy=0である。δは、電気的中性を得るための酸素欠損値であり、δは、例えば、0≦δ≦0.20を満たし、好ましくは0≦δ≦0.05を満たし、より好ましくは0である。
【0026】
マンガン酸リチウムとして、上記式(I)の範囲内の一種類のものを単独で用いてよいし、上記式(I)の範囲内の2種以上のものを組み合わせて用いてもよい。マンガン酸リチウムは、特に好ましくは、一般式(II):Li1+xMn2-xO4で表される組成を有する(式中、xは、0≦x≦0.15を満たす)。
【0027】
本実施形態において、マンガン酸リチウム粒子は、割れ部を有する。この割れは、典型的には、正極活物質層54を高密度化する際のプレス処理に起因するが、割れの原因は特に限定されない。
【0028】
本実施形態において、マンガン酸リチウム粒子は、割れ部の表面を含め、粒子表面に被膜を有する。言い換えると、マンガン酸リチウム粒子は、外表面(あるいは外周面)および割れ部の表面に、被膜を有する。当該被膜は、P成分(P含有成分)およびF成分(F含有成分)を含有する。当該P成分は、LiMnPO4成分を含む。
【0029】
従来技術においては、マンガン酸リチウム粒子からのMnの溶出を抑制するために、あらかじめリンを含む被膜を設けている。しかしながら、リンを含む被膜を有するマンガン酸リチウム粒子を含む正極活物質層に対してプレス処理を施した場合には、マンガン酸リチウム粒子に割れが生じ得る。割れ部によって生成した面には被膜がないため、この割れ部の表面からMnの溶出が起こり、その結果、リチウムイオン二次電池の容量が劣化するという問題が生じる。
【0030】
これに対し本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、典型的には、後述の製造方法により得られるものである。すなわち、リン酸リチウムを被膜形成成分として正極活物質層54に含有させ、特定の電圧(すなわち、4.7V以上)で初期充電する。この特定の電圧は、リチウムイオン二次電池100の作動電圧(すなわち、4.2V程度)よりもはるかに高い電圧である。このような極端に高い電圧によって初期充電を行う結果、LiMnPO4成分を含むP成分と、F成分とを含有する被膜が、割れ部を含めたマンガン酸リチウム粒子の表面に形成される。この被膜の生成メカニズムは、次のように推測される。この電圧では、電解質塩の酸化分解が促進されてHF量が多くなる。この生成したHFによってリン酸リチウムが非水電解液80中に溶解する。また、溶解したリン酸リチウムの一部は、高い電圧によって電気化学的に分解されマンガン酸リチウム粒子の表面が、リン酸リチウムの溶解物または分解物の一部と反応して、LiMnPO4成分を含む被膜が生成し、また、非水電解液の分解物(主にF成分)等も被膜中に取り込まれる。
【0031】
したがって、本実施形態においては、マンガン酸リチウム粒子は、割れ部の表面を含め、粒子表面に被膜を有し、当該被膜は、LiMnPO4成分を含むP成分と、F成分と、を含有する。この被膜によって、マンガン酸リチウム粒子の割れ部からのMnの溶出を抑制することができ、その結果、リチウムイオン二次電池100に充放電を繰り返した際の容量劣化を抑制することができる。
【0032】
F成分は、典型的には、非水電解液80(特に電解質塩)の分解物に由来する成分である。また、被膜には、リン酸リチウムおよびその分解物が取り込まれ得る。よって、P成分は、LiMnPO4成分以外のP成分(特にリン酸リチウムおよびその分解物に由来する成分)をさらに含有し得る。
【0033】
リン酸リチウムによる被膜形成が進むほど、被膜中の原子%で表されるF濃度に対する、原子%で表されるP濃度の比P/Fが大きくなる。そこで、当該比P/Fが、0.030以上であることが好ましい。このとき、リン酸リチウムによる被膜形成が効果的に進んでおり、容量劣化抑制効果が特に高くなる。
【0034】
被膜がP成分およびF成分を含有することは、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いたエネルギー分散型X線分光法(TEM-EDX)による分析により確認することができる。
【0035】
被膜がLiMnPO4成分を含有することは、例えば、次のようにして確認することができる。LiMnPO4は、オリビン型結晶構造を有する。そこで、TEMを用いて高角環状暗視野像(HAAD像)の格子像を取得し、結晶構造を分析することにより、オリビン型結晶構造であることを確認する。さらに、被膜に対してTEMを用いた電子エネルギー損失分光法(TEM-EELS)による分析を行い、Liの存在、2価のMnの存在、およびPの存在を確認する。
【0036】
なお、F濃度(原子%)に対するP濃度(原子%)の比P/Fは、例えば、次のようにして求めることができる。被膜に対して、TEM-EDXによる分析を行う。このとき、マンガン酸リチウム粒子の外表面上の10箇所以上およびマンガン酸リチウム粒子の割れ部の表面の10箇所以上について比P/Fを求め、その平均値をマンガン酸リチウム粒子の被膜の比P/Fとする。
【0037】
マンガン酸リチウム粒子の平均粒子径(メジアン径D50)は、特に制限はないが、例えば0.05μm以上25μm以下であり、好ましくは0.5μm以上23μm以下であり、より好ましくは3μm以上22μm以下である。なお、本明細書において、平均粒子径(メジアン径D50)とは、特に断りのない限り、レーザ回折散乱法により測定される粒度分布おいて、小粒径側からの累積度数が体積百分率で50%となる粒子径のことをいう。
【0038】
正極活物質層54は、本発明の効果を顕著に阻害しない範囲内で、マンガン酸リチウム粒子以外の正極活物質を含有していてもよい。正極活物質の含有量は、特に限定されないが、正極活物質層54中(すなわち、正極活物質の全質量に対し)、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは85質量%以上である。
【0039】
正極活物質層54は、正極活物質以外の成分を含み得る。その例としては、リン酸リチウム、導電材、バインダ等が挙げられる。
【0040】
リン酸リチウム(Li3PO4)は、後述のように上記の被膜の形成に使用される成分であって、初期充電によって消費される。このとき完全に消費される場合があり(よって、リン酸リチウムの含有量が0質量%)、その一方でリン酸リチウムが残存する場合がある。正極活物質層54がリン酸リチウムを含有する場合、リン酸リチウムの含有量は、正極活物質に対して、好ましくは10質量%未満であり、より好ましくは5質量%未満であり、さらに好ましくは3質量%未満である。
【0041】
導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやその他(例、グラファイト等)の炭素材料を好適に使用し得る。正極活物質層54中の導電材の含有量は、特に限定されないが、例えば0.1質量%以上20質量%以下であり、好ましくは1質量%以上15質量%以下であり、より好ましくは2質量%以上10質量%以下である。
【0042】
バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVdF)等を使用し得る。正極活物質層54中のバインダの含有量は、特に限定されないが、例えば0.5質量%以上15質量%以下であり、好ましくは1質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは1.5質量%以上8質量%以下である。
【0043】
正極活物質層54の密度は特に限定されない。正極活物質層54の密度は、2.0g/cm3以上であってよく、2.3g/cm3以上であってよい。正極活物質層54の密度を2.6g/cm3以上とする際には、プレス処理によって、マンガン酸リチウム粒子に割れが多く発生し易い。そのため、容量劣化が大きくなりやすい。したがって、上記の被膜による容量劣化抑制効果が特に大きくなることから、正極活物質層54の密度は、好ましくは2.6g/cm3以上である。一方、正極活物質層54の密度は、3.3g/cm3以下であってよく、3.0g/cm3以下であってよい。なお、本明細書において、正極活物質層54の密度とは、正極活物質層54の見かけ密度を指す。
【0044】
正極活物質層54の厚みは、特に限定されないが、例えば、10μm以上300μm以下であり、好ましくは20μm以上200μm以下である。
【0045】
負極集電体62としては、リチウムイオン二次電池に用いられる公知の負極集電体を用いてよく、その例としては、導電性の良好な金属(例えば、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等)製のシートまたは箔が挙げられる。負極集電体62としては、銅箔が好ましい。
【0046】
負極集電体62の寸法は特に限定されず、電池設計に応じて適宜決定すればよい。負極集電体62として銅箔を用いる場合には、その厚みは、特に限定されないが、例えば5μm以上35μm以下であり、好ましくは7μm以上20μm以下である。
【0047】
負極活物質層64は、負極活物質を含有する。負極活物質としては、例えば、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料を使用し得る。黒鉛は、天然黒鉛であっても人造黒鉛であってもよく、黒鉛が非晶質な炭素材料で被覆された形態の非晶質炭素被覆黒鉛であってもよい。
【0048】
負極活物質の平均粒子径(メジアン径D50)は、特に限定されないが、例えば、0.1μm以上50μm以下であり、好ましくは1μm以上25μm以下であり、より好ましくは5μm以上20μm以下である。
【0049】
負極活物質層中の負極活物質の含有量は、特に限定されないが、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。
【0050】
負極活物質層64は、負極活物質以外の成分、例えばバインダや増粘剤等を含み得る。
【0051】
バインダとしては、例えば、スチレンブタジエンラバー(SBR)およびその変性体、アクリロニトリルブタジエンゴムおよびその変性体、アクリルゴムおよびその変性体、フッ素ゴム等を使用し得る。なかでも、SBRが好ましい。負極活物質層64中のバインダの含有量は、特に限定されないが、好ましくは0.1質量%以上8質量%以下であり、より好ましくは0.2質量%以上3質量%以下である。
【0052】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)等のセルロース系ポリマー;ポリビニルアルコール(PVA)等を使用し得る。なかでも、CMCが好ましい。負極活物質層64中の増粘剤の含有量は、特に限定されないが、好ましくは0.3質量%以上3質量%以下であり、より好ましくは0.4質量%以上2質量%以下である。
【0053】
負極活物質層64の厚みは、特に限定されないが、例えば、10μm以上300μm以下であり、好ましくは20μm以上200μm以下である。
【0054】
セパレータ70としては、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂から構成される多孔性シート(フィルム)が挙げられる。かかる多孔性シートは、単層構造であってもよく、二層以上の積層構造(例えば、PE層の両面にPP層が積層された三層構造)であってもよい。セパレータ70の表面には、耐熱層(HRL)が設けられていてもよい。
【0055】
セパレータ70の厚みは特に限定されないが、例えば5μm以上50μm以下であり、好ましくは10μm以上30μm以下である。
【0056】
非水電解液80は、典型的には、非水溶媒と電解質塩(言い換えると、支持塩)とを含有する。非水溶媒としては、一般的なリチウムイオン二次電池の電解液に用いられる各種のカーボネート類、エーテル類、エステル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の有機溶媒を、特に限定なく用いることができる。なかでも、カーボネート類が好ましく、その具体例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、モノフルオロエチレンカーボネート(MFEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、モノフルオロメチルジフルオロメチルカーボネート(F-DMC)、トリフルオロジメチルカーボネート(TFDMC)等が挙げられる。このような非水溶媒は、1種を単独で、あるいは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0057】
電解質塩としては、通常のリチウムイオン二次電池と同様に、LiPF6、LiBF4、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)等の含フッ素リチウム塩を用いることができる。含フッ素リチウム塩が、被膜形成に必要なフッ酸HFを発生し、また被膜のF源となる。F成分を適量含んだ被膜の形成が容易であることから、電解質塩としては、LiPF6が好ましい。電解質塩の濃度は、特に限定されないが、被膜形成に必要なHFを十分な量発生させやすいことから、好ましくは0.8mol/L以上であり、より好ましくは1.0mol/L以上である。一方、非水電解液80の粘度が高くなることによる電池抵抗の増加を抑制する観点から、電解質塩の濃度は、好ましくは1.8mol/L以下であり、より好ましくは1.5mol/L以下である。
【0058】
なお、上記非水電解液80は、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、上述した成分以外の成分、例えば、オキサラト錯体等の被膜形成剤;ビフェニル(BP)、シクロヘキシルベンゼン(CHB)等のガス発生剤;増粘剤;等の各種添加剤を含んでいてもよい。
【0059】
次に、本実施形態に係る非水電解質二次電池の製造方法について説明する。本実施形態に係る非水電解質二次電池の製造方法は、正極活物質としてのマンガン酸リチウム粒子と、リン酸リチウム粒子と、を含有する正極活物質層を備える正極シートを作製する工程(以下、「正極作製工程」と呼ぶ)と、当該正極シートをプレス処理する工程(以下、「プレス処理工程」と呼ぶ)と、当該プレス処理した正極シートを用いて、正極シートと負極シートと非水電解液とを備える電池組立体を作製する工程(以下、「電池組立体作製工程」と呼ぶ)と、当該電池組立体に、初期充電処理を行って、被膜を形成する工程(以下、「被膜形成工程」と呼ぶ)と、を包含する。当該プレス処理工程では、当該マンガン酸リチウム粒子に割れが生じている。当該被膜形成工程では、当該マンガン酸リチウム粒子の割れ部の表面を含め粒子表面に、LiMnPO4成分を含むP成分と、F成分と、を含有する被膜を形成する。
【0060】
本実施形態に係る非水電解質二次電池の製造方法を、上述のリチウムイオン二次電池100を製造する場合を例に挙げて以下詳細に説明する。
【0061】
正極作製工程では、正極活物質としてのマンガン酸リチウム粒子と、リン酸リチウム粒子と、を含有する正極活物質層54を備える正極シート50を作製する。具体的に例えば、まず、正極活物質としてのマンガン酸リチウム粒子と、リン酸リチウム粒子と、溶媒(分散媒)と、任意成分(例、導電材、バインダ等)とを含有する正極活物質層形成用ペーストを作製する。なお、本明細書において、「ペースト」とは、固形分の一部またはすべてが溶媒に分散した混合物のことをいい、いわゆる「スラリー」、「インク」等を包含する。
【0062】
リン酸リチウム粒子の混合量は特に限定されない。十分な量の被膜を形成する観点から、リン酸リチウム粒子の混合量は、マンガン酸リチウム粒子に対し、好ましくは0.2質量%以上であり、より好ましくは0.3質量%以上である。一方、リン酸リチウム粒子の量が多過ぎると、正極活物質層54の抵抗増加およびエネルギー密度の低下を招き得る。そのため、リン酸リチウム粒子の混合量は、マンガン酸リチウム粒子に対し、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下であり、さらに好ましくは3質量%以下である。
【0063】
リン酸リチウムの粒子径は、特に限定されない。リン酸リチウムの粒子径が小さい方が、リン酸リチウムの比表面積が大きくなって被膜形成に消費されやすくなる。すなわち、リン酸リチウム粒子の粒子径が小さい方が、被膜形成には有利である。よって、リン酸リチウムの平均粒子径(メジアン径D50)は、好ましくは10μm以下であり、より好ましくは5μm以下であり、さらに好ましくは3μm以下である。一方、リン酸リチウムの平均粒子径は、0.05μm以上であってよく、0.1μm以上であってよい。
【0064】
マンガン酸リチウム粒子、および任意成分の混合量は、正極活物質層54中の上述の含有量と同じであってよい。
【0065】
溶媒としては、例えば、N-メチルピロリドン(NMP)等を用いることができる。正極活物質層形成用ペーストの固形分濃度は、乾燥効率の観点から、例えば45質量%以上であり、好ましくは50質量%以上80質量%以下である。したがって、溶媒は、正極活物質層形成用ペーストがこのような固形分濃度となるような量で使用する。
【0066】
マンガン酸リチウム粒子、リン酸リチウム粒子、溶媒、および任意成分を、プラネタリーミキサー、ホモジナイザー、クレアミックス、フィルミックス、ビーズミル、ボールミル、押出混練機等の公知の混合装置を用いて混合することにより、正極活物質層形成用ペーストを調製することができる。
【0067】
次に、当該正極活物質層形成用ペーストを正極集電体52上に塗工する。当該塗工は、公知方法に従い行うことができる。例えば、スリットコーター、ダイコーター、コンマコーター、グラビアコーター、ディップコーター等の塗工装置を用いて、正極集電体上に上記正極活物質層形成用ペーストを塗布することにより行うことができる。
【0068】
この塗工された正極活物質層形成用ペーストを乾燥することにより、正極活物質層54を形成することができる。すなわち、当該乾燥によって正極活物質層54を備える正極シート50を得ることができる。
【0069】
当該乾燥は、公知方法に従い行うことができる。例えば、正極活物質層形成用ペーストが塗工された正極集電体から、公知の乾燥装置(例、熱風乾燥炉、赤外線乾燥炉等)を用いて上記溶媒を除去することにより行うことができる。乾燥温度および乾燥時間は、正極活物質層形成用ペースト中に含まれる溶媒の量に応じて適宜決定すればよく、特に限定されない。乾燥温度は、例えば70℃以上200℃以下(好ましくは110℃以上180℃以下)である。乾燥時間は、例えば5分以上120分以下である。
【0070】
次にプレス処理工程について説明する。当該プレス処理工程では、正極シート50をプレス処理する。当該プレス処理工程では、正極シート50の正極活物質層54が圧縮され、高密度化される。プレス処理には、公知のプレス装置を用いることができ、連続的にプレス処理を行えることから、ロールプレス装置を好適に用いることができる。
【0071】
本実施形態では、このプレス処理によって、マンガン酸リチウム粒子に割れを生じさせる。プレス処理の条件は、マンガン酸リチウム粒子に割れが生じる限り特に限定されない。プレス条件は、正極活物質層54の密度が、好ましくは2.0g/cm3以上、より好ましくは2.3g/cm3以上、さらに好ましくは2.6g/cm3以上となるように行う。正極活物質層54の密度が2.6g/cm3以上となるような条件では、マンガン酸リチウム粒子に割れが多く生じ、被膜形成による容量劣化抑制効果が特に高くなる。プレス処理後の正極活物質層54の密度は、3.3g/cm3以下、あるいは3.0g/cm3以下であってよい。
【0072】
次に、電池組立体作製工程について説明する。当該電池組立体作製工程では、当該プレス処理した正極シート50を用いて、正極シート50と負極シート60と非水電解液80とを備える電池組立体を作製する。当該電池組立体作製工程は、公知方法に従って実施することができる。
【0073】
具体的に例えば、負極シート60は、公知方法に従い作製することができる。例えば、負極活物質と、溶媒と、任意成分(例、増粘剤、バインダ等)とを含有する負極活物質層形成用ペーストを調製し、当該ペーストを、負極集電体62上に塗工し、乾燥し、必要に応じプレス処理することにより、作製することができる。
【0074】
負極活物質、および任意成分の混合量は、負極活物質層64中の上述の含有量と同じであってよい。
【0075】
負極活物質層形成用ペーストの溶媒には、水;水と水溶性溶媒(例、炭素数1~4のアルコール等)との混合溶媒などを用いることができ、好ましくは水である。負極活物質層形成用ペーストの固形分濃度は、乾燥効率の観点から、例えば45質量%以上であり、好ましくは50質量%以上80質量%以下である。したがって、溶媒は、負極活物質層形成用ペーストがこのような固形分濃度となるような量で使用する。
【0076】
負極活物質層形成用ペーストの調製操作、塗工操作、乾燥操作、プレス処理等の具体的な内容は、公知方法と同様であり、具体的には、上述の正極シート50を作製する場合と同様である。
【0077】
電池組立体は、例えば、正極シート60と負極シート60とセパレータ70とを用いて電極体20を作製し、当該電極体20を、非水電解液80と共に電池ケース30に収容し、封止することにより作製することができる。
【0078】
具体的に例えば、電極体20が図示例のように捲回電極体である場合には、
図2に示すように、正極シート50および負極シート60を、2枚のセパレータ70と共に重ね合わせて積層体を作製し、当該積層体を長尺方向に捲回した捲回体を作製した後、当該捲回体をプレス処理等によって扁平化することによって電極体20を作製する。電極体20が積層型電極体である場合には、複数の正極シート50と複数の負極シート60とを交互に、これらの間にセパレータ70を介在させながら積層することにより、電極体20を作製する。
【0079】
電池ケース30として、例えば、開口部を有するケース本体と、当該開口部を塞ぐ蓋体とを備える電池ケースを用意する。当該蓋体には、非水電解液80を注入するための注入口(図示せず)を設けておく。
【0080】
電池ケース30の蓋体に正極端子42および正極集電板42aと、負極端子44および負極集電板44aとを取り付ける。正極集電板42aおよび負極集電板44aを、電極体20の端部に露出した、正極集電体52および負極集電体62(すなわち、正極活物質層非形成部分52aおよび負極活物質層非形成部分62a)にそれぞれ溶接する。そして、電極体20を、電池ケース30本体の開口部からその内部に収容し、電池ケース30の本体と蓋体とを溶接する。
【0081】
続いて、注入口から非水電解液80を注入し、その後注入口を封止する。これにより、電池組立体を得ることができる。
【0082】
続いて、被膜形成工程について説明する。被膜形成工程では、当該電池組立体に初期充電処理を行って、当該マンガン酸リチウム粒子の割れ部の表面を含め粒子表面(すなわち、外表面(あるいは外周面)および割れ部の表面)に、LiMnPO4成分を含むP成分と、F成分と、を含有する被膜を形成する。
【0083】
初期充電処理は、公知の充電器等を用いて行うことができる。充電条件は、該マンガン酸リチウム粒子の割れ部の表面を含め粒子表面に、上記の被膜が形成される限り特に限定されない。
【0084】
LiMnPO4成分を含むP成分と、F成分と、を含有する被膜を形成するのに最も有効な初期充電方法として、初期充電処理を、4.7V以上の電圧になるまで行うことが挙げられる。このような高い電圧であれば、マンガン酸リチウム粒子の表面にLiMnPO4成分を容易に生成させることができ、よってLiMnPO4成分を含むP成分と、F成分と、を含有する被膜を容易に形成することができる。容量劣化抑制効果がより大きくなることから、初期充電処理は、4.8V以上の電圧になるまで行うことが好ましい。
【0085】
初期充電処理の一例として、まず定電流充電によって、例えば0.05C以上2C以下(好ましくは0.05C以上1C以下)の電流値で、4.7V以上の電圧になるまで充電行う。このときの電圧の上限は特に限定されない。上限は、例えば5.1Vであり、好ましくは5.0Vである。
【0086】
4.7V以上の電圧になるまで充電を行えば、被膜を形成することができるが、被膜量を増加させるために、定電流充電の後に定電圧充電を行ってもよい。定電圧充電の時間は、特に限定されないが、例えば1時間以上10時間以下であり、好ましくは3時間以上7時間以下である。
【0087】
以上の工程の実施により、リチウムイオン二次電池100を得ることができる。
【0088】
以上説明したリチウムイオン二次電池100は、スピネル型結晶構造のマンガン酸リチウム粒子に割れが生じているのにも関わらず、充放電を繰り返した際の容量劣化が抑制されている。よって、リチウムイオン二次電池100は、サイクル特性に優れる。また、マンガン酸リチウム粒子に割れが生じるようなプレス処理による正極活物質層の高密度化が可能であるため、リチウムイオン二次電池100の非常に高いエネルギー密度化が可能である。したがって、リチウムイオン二次電池100によれば、長寿命化と高エネルギー密度化の両立が可能である。
【0089】
リチウムイオン二次電池100は、各種用途に利用可能である。好適な用途としては、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両に搭載される駆動用電源が挙げられる。また、リチウムイオン二次電池100は、小型電力貯蔵装置等の蓄電池として使用することができる。リチウムイオン二次電池100は、典型的には複数個を直列および/または並列に接続してなる組電池の形態でも使用され得る。
【0090】
なお、一例として扁平形状の捲回電極体20を備える角形のリチウムイオン二次電池100について説明した。しかしながら、ここに開示される非水電解液二次電池は、積層型電極体(すなわち、複数の正極と、複数の負極とが交互に積層された電極体)を備えるリチウムイオン二次電池として構成することもできる。また、ここに開示される非水電解液二次電池は、円筒形リチウムイオン二次電池、ラミネートケース型リチウムイオン二次電池、コイン型リチウムイオン二次電池等として構成することもできる。また、ここに開示される非水電解液二次電池は、公知方法に準じて、リチウムイオン二次電池以外の非水電解液二次電池として構成することもできる。
【0091】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0092】
<正極活物質の作製>
Li源としてのLi2CO3と、Mn源としてのMn3O4とを、1時間乾式混合した。このとき、LiとMnのモル比がLi:Mn=1.1:1.9となるように混合した。混合物をアルミナるつぼに入れ、電気炉中で1000℃で12時間焼成した後、さらに600℃で18時間焼成した。このようにして、スピネル型結晶構造を有するマンガン酸リチウム粒子Aを得た。なお、マンガン酸リチウム粒子Aの平均粒子径(D50)は、13.4μmであった。
【0093】
<被覆正極活物質の作製>
スパッタリングターゲットとしてLi3PO4を用い、バレルスパッタ法により、上記で得たマンガン酸リチウム粒子Aの表面にLi3PO4をスパッタした。このとき、マンガン酸リチウム粒子Aに対するLi3PO4の質量割合を0.5質量%とした。このようにして、Li3PO4の被膜を有する被覆マンガン酸リチウム粒子Bを得た。
【0094】
<各実施例および各比較例の評価用リチウムイオン二次電池の作製>
実施例A1~A3
マンガン酸リチウム粒子A(LMO-A)と、導電材としてのカーボンブラック(CB)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とをLMO-A:CB:PVdF=94:4:2の質量比で、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)中で混合した。このとき、マンガン酸リチウム粒子に対して0.5質量%のLi3PO4をさらに混合して、正極活物質層形成用ペーストを調製した。なお、使用したLi3PO4の平均粒子径(メジアン径D50)は、2.1μmであった。
【0095】
この正極活物質層形成用ペーストをアルミニウム箔上に塗布し、乾燥した後、ロールプレス処理(すなわち、高密度化処理)を行うことにより、正極シートを作製した。ロールプレス処理は、正極活物質層の密度が、2.6g/cm3となるように行った。このプレス処理によって、マンガン酸リチウム粒子Aに割れが生じていた。この正極シートを120mm×100mmの寸法に裁断した。
【0096】
また、負極活物質としての球状化黒鉛(C)と、バインダとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、C:SBR:CMC=98:1:1の質量比で、イオン交換水中で混合して、負極活物質層形成用ペーストを調製した。この負極活物質層形成用ペーストを、銅箔上に塗布し、乾燥した後、ロールプレスによる高密度化処理を行うことにより、負極シートを作製した。この負極シートを122mm×102mmの寸法に裁断した。
【0097】
セパレータシートとして多孔性ポリオレフィンシートを用意した。上記の正極シートおよび負極シートでセパレータを挟み込んで積層型電極体を作製し、当該積層型電極体に電極端子を取り付けた。これを、非水電解液と共にラミネートケースに収容した。非水電解液には、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを、3:3:4の体積比で含む混合溶媒に、LiPF6を1.1mol/Lの濃度で溶解させたものを用いた。次いで、ラミネートケースを封止して、電池組立体を作製した。
【0098】
この電池組立体に対し、初期充電処理として0.1Cの電流値でそれぞれ、4.7V(A1)、4.8V(A2)、または4.9V(A3)まで定電流充電を行った後、3時間の定電圧充電を行うことにより、初期充電を施した。その後、0.1Cの電流値で3.0Vまで定電流放電して、実施例A1~A3の評価用リチウムイオン二次電池を得た。
【0099】
比較例A1~A8
マンガン酸リチウム粒子A(LMO-A)と、導電材としてのカーボンブラック(CB)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とをLMO-A:CB:PVdF=94:4:2の質量比で、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)中で混合して、正極活物質層形成用ペーストを調製した。この正極活物質層形成用ペーストを用いた以外は実施例A1と同じ方法で、正極シートを作製し、さらに電池組立体を作製した。
【0100】
この電池組立体に対し、0.1Cの電流値で、それぞれ4.2V(A1)、4.3V(A2)、4.4V(A3)、4.5V(A4)、4.6V(A5)、4.7V(A6)、4.8V(A7)、または4.9V(A8)まで定電流充電を行った後、3時間の定電圧充電を行うことにより、初期充電を施した。0.1Cの電流値で3.0Vまで定電流放電して、比較例A1~A8の評価用リチウムイオン二次電池を得た。
【0101】
比較例A9~A16
被覆マンガン酸リチウム粒子B(LMO-B)と、導電材としてのカーボンブラック(CB)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とをLMO-B:CB:PVdF=94:4:2の質量比で、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)中で混合して、正極活物質層形成用ペーストを調製した。この正極活物質層形成用ペーストを用いた以外は実施例A1と同じ方法で、正極シートを作製し、さらに電池組立体を作製した。
【0102】
この電池組立体に対し、0.1Cの電流値で、それぞれ4.2V(A9)、4.3V(A10)、4.4V(A11)、4.5V(A12)、4.6V(A13)、4.7V(A14)、4.8V(A15)、または4.9V(A16)まで定電流充電を行った後、3時間の定電圧充電を行うことにより、初期充電を施した。0.1Cの電流値で3.0Vまで定電流放電して、比較例A9~A16の評価用リチウムイオン二次電池を得た。
【0103】
比較例A17~A21
実施例A1と同じ方法で電池組立体を作製した。この電池組立体に対し、0.1Cの電流値で、それぞれ4.2V(A17)、4.3V(A18)、4.4V(A19)、4.5V(A20)、または4.6V(A21)まで定電流充電を行った後、3時間の定電圧充電を行うことにより、初期充電を施した。0.1Cの電流値で3.0Vまで定電流放電して、比較例A17~A21の評価用リチウムイオン二次電池を得た。
【0104】
<サイクル特性評価>
上記作製した各評価リチウムイオン二次電池を25℃の環境下に置いた。各評価用リチウムイオン二次電池を0.1Cの電流値で4.2Vまで定電流充電を行った後、電流値が1/50Cになるまで定電圧充電を行い、満充電状態にした。その後、各評価用リチウムイオン二次電池を0.1Cの電流値で3.0Vまで定電流放電した。そして、このときの放電容量を測定して初期容量を求めた。
【0105】
次いで、各評価用リチウムイオン二次電池を60℃の環境下に置き、0.5Cで4.2Vまで定電流充電および0.5Cで3.0Vまで定電流放電を1サイクルとする充放電を100サイクル繰り返した。100サイクル後の放電容量を、初期容量と同じ方法により求めた。サイクル特性(容量劣化耐性)の指標として、(充放電100サイクル後の放電容量/初期容量)×100より、容量維持率(%)を求めた。結果を表1に示す。
【0106】
<被膜の分析>
実施例および一部の比較例の各評価リチウムイオン二次電池を解体し、正極活物質層を取り出した。日立ハイテクノロジーズ社製の集束イオンビーム加工観察装置「FB2100」を用いて、集束イオンビームにより正極活物質層を切断した。その断面を、日本電子社製の透過型電子顕微鏡「JFM-ARM300F」を用いて、加速電圧200kVで観察した。断面内に存在するマンガン酸リチウム粒子の外表面および粒子の割れ部をそれぞれ10箇所選択し、日本電子社製のエネルギー分散形X線分析装置「JED-2300T」を用いて、TEM-EDX法により分析した。この分析は倍率200~1000kで行い、これにより、P成分およびF成分の存在を確認した。そこで、Pの濃度(原子%)/Fの濃度(原子%)の比の平均値を算出した。結果を表2に示す。
【0107】
さらに、倍率2M~10Mで、粒子表面の格子像を確認し、LiMn2O4以外の格子像が存在するかを確認した。実施例においては、LiMn2O4以外の格子像が確認され、HAADTEM像に基づく分析と、電子エネルギー損失分光法EELSによる分析とをさらに行った。その結果、オリビン型結晶構造のLiMnPO4成分の存在を確認した。結果を表2に示す。
【0108】
【0109】
【0110】
比較例A1~A8では、被膜を有していないマンガン酸リチウム粒子A1を用い、正極活物質層にLi3PO4を添加しなかった。比較例A1~A8では、初期充電の電圧が高いほど、容量維持率が低下する傾向が見られた。
【0111】
比較例A9~A16では、あらかじめLi3PO4の被膜を形成したマンガン酸リチウム粒子B1を用い、正極活物質層にLi3PO4を添加しなかった。比較例A1~A8との比較より、Li3PO4の被膜によって、容量劣化が改善されていることがわかる。しかしながら、初期充電の電圧が4.7V以上になると、容量劣化が急激に大きくなる傾向が見られた。
【0112】
比較例A17~A21では、被膜を有していないマンガン酸リチウム粒子A1を用い、正極活物質層にLi3PO4を添加した。初期充電の電圧が4.2V~4.6Vの範囲では、あらかじめLi3PO4の被膜を形成したマンガン酸リチウム粒子B1を用いた場合と、同程度の容量劣化耐性が発揮されていた。
【0113】
実施例A1~A3では、被膜を有していないマンガン酸リチウム粒子A1を用い、正極活物質層にLi3PO4を添加した。初期充電の電圧が4.7V~4.9Vの範囲であるのにも関わらず、容量維持率が非常に高くなった。
【0114】
比較例A1~A8および比較例A9~A16の結果が示すように、通常は、初回充電の電圧が高い場合には、容量劣化が大きいという現象がみられる。しかしながら、比較例A17~A21および実施例A1~A3の結果より、被膜を有していないマンガン酸リチウム粒子A1を用い、正極活物質層にLi3PO4を添加した場合には、通常とは異なる現象が起こっていることがわかる。
【0115】
これに関し、表2に示された被膜の分析結果より、初期充電の電圧を4.7V以上とした場合には、被膜中にLiMnPO4成分が新規に生成していることがわかる。よって、LiMnPO4成分を含むP成分と、F成分と、を含有する新規な被膜によって、顕著に高い容量劣化耐性が発揮されたことがわかる。
【0116】
以上の結果より、ここに開示される非水電解液二次電池によれば、スピネル型結晶構造を有するマンガン酸リチウム粒子に割れが生じているのにも関わらず、充放電を繰り返した際の容量劣化が抑制されていることがわかる。
【0117】
実施例B1~B6
実施例A1と同じ方法で正極シートを作製した。この正極シートに対し、ロールプレス処理を、正極活物質層の密度がそれぞれ、2.0g/cm3(B1)、2.2g/cm3(B2)、2.4g/cm3(B3)、2.6g/cm3(B4)、2.8g/cm3(B5)、または3.0g/cm3(B6)となるように行った。この正極シートを120mm×100mmの寸法に裁断した。
【0118】
この裁断した正極シートを用いて実施例A1と同じ方法で、電池組立体を作製した。この電池組立体に対し、初期充電処理として0.1Cの電流値で4.7Vまで定電流充電を行った後、3時間の定電圧充電を行うことにより、初期充電を施した。その後、0.1Cの電流値で3.0Vまで定電流放電して、実施例B1~B6の評価用リチウムイオン二次電池を得た。
【0119】
比較例B1~B6
比較例A1と同じ方法で正極シートを作製した。この正極シートに対し、ロールプレス処理を、正極活物質層の密度がそれぞれ、2.0g/cm3(B1)、2.2g/cm3(B2)、2.4g/cm3(B3)、2.6g/cm3(B4)、2.8g/cm3(B5)、または3.0g/cm3(B6)となるように行った。この正極シートを120mm×100mmの寸法に裁断した。
【0120】
この裁断した正極シートを用いて実施例A1と同じ方法で、電池組立体を作製した。この電池組立体に対し、初期充電処理として0.1Cの電流値で4.7Vまで定電流充電を行った後、3時間の定電圧充電を行うことにより、初期充電を施した。その後、0.1Cの電流値で3.0Vまで定電流放電して、比較例B1~B6の評価用リチウムイオン二次電池を得た。
【0121】
比較例B7~B12
比較例A9と同じ方法で正極シートを作製した。この正極シートに対し、ロールプレス処理を、正極活物質層の密度がそれぞれ、2.0g/cm3(B7)、2.2g/cm3(B8)、2.4g/cm3(B9)、2.6g/cm3(B10)、2.8g/cm3(B11)、または3.0g/cm3(B12)となるように行った。この正極シートを120mm×100mmの寸法に裁断した。
【0122】
この裁断した正極シートを用いて実施例A1と同じ方法で、電池組立体を作製した。この電池組立体に対し、初期充電処理として0.1Cの電流値で4.7Vまで定電流充電を行った後、3時間の定電圧充電を行うことにより、初期充電を施した。その後、0.1Cの電流値で3.0Vまで定電流放電して、比較例B7~B12の評価用リチウムイオン二次電池を得た。
【0123】
比較例B13~B18
実施例A1と同じ方法で正極シートを作製した。この正極シートに対し、ロールプレス処理を、正極活物質層の密度がそれぞれ、2.0g/cm3(B13)、2.2g/cm3(B14)、2.4g/cm3(B15)、2.6g/cm3(B16)、2.8g/cm3(B17)、または3.0g/cm3(B18)となるように行った。この正極シートを120mm×100mmの寸法に裁断した。
【0124】
この裁断した正極シートを用いて実施例A1と同じ方法で、電池組立体を作製した。この電池組立体に対し、初期充電処理として0.1Cの電流値で4.2Vまで定電流充電を行った後、3時間の定電圧充電を行うことにより、初期充電を施した。その後、0.1Cの電流値で3.0Vまで定電流放電して、比較例B13~B18の評価用リチウムイオン二次電池を得た。
【0125】
<サイクル特性評価>
上記作製した各評価リチウムイオン二次電池について、上記と同じ方法で容量維持率(%)を求めた。結果を表3および
図3に示す。
【0126】
【0127】
表3および
図3の結果が示すように、比較例においては、正極活物質層の密度が2.6g/cm
3以上になると、容量劣化の程度が大きくなった。しかしながら、実施例においては、正極活物質層の密度が2.6g/cm
3以上になっても、容量劣化の程度が小さかった。このことから、ここに開示される非水電解液二次電池においては、正極活物質層の密度が2.6g/cm
3以上の場合に、容量劣化の抑制効果が特に高いことがわかる。
【0128】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0129】
20 捲回電極体
30 電池ケース
36 安全弁
42 正極端子
42a 正極集電板
44 負極端子
44a 負極集電板
50 正極シート(正極)
52 正極集電体
52a 正極活物質層非形成部分
54 正極活物質層
60 負極シート(負極)
62 負極集電体
62a 負極活物質層非形成部分
64 負極活物質層
70 セパレータシート(セパレータ)
80 非水電解液
100 リチウムイオン二次電池