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特許7329056ペプチド並びにそれを含む細胞融合剤及びがん治療用医薬組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-08
(45)【発行日】2023-08-17
(54)【発明の名称】ペプチド並びにそれを含む細胞融合剤及びがん治療用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/06 20060101AFI20230809BHJP
   C12N 15/06 20060101ALI20230809BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20230809BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230809BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230809BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230809BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230809BHJP
   A61K 38/08 20190101ALI20230809BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230809BHJP
【FI】
C07K7/06 ZNA
C12N15/06
C07K16/00
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K38/08
A61P35/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021546983
(86)(22)【出願日】2020-09-18
(86)【国際出願番号】 JP2020035491
(87)【国際公開番号】W WO2021054448
(87)【国際公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-11-10
(31)【優先権主張番号】P 2019171919
(32)【優先日】2019-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519342574
【氏名又は名称】甲賀 美智子
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】甲賀 美智子
【審査官】鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-068790(JP,A)
【文献】特表2008-523829(JP,A)
【文献】MAJOREK, K.A. et al.,Structural and immunologic characterization of bovine, horse, and rabbit serum albumins,Mol. Immunol.,2012年,Vol.52,pp.174-182
【文献】UENO, H. et al.,Epitope Mapping of Bovine Serum Albumin Using Monoclonal Antibodies Coupled with a Photoreactive Cro,J. Biochem.,1994年,Vol.115,pp.1119-1127
【文献】HOOGENBOEZEM, E.N. and DUVALL, C.L.,Harnessing albumin as a carrier for cancer therapies,Adv. Drug Deliv. Rev.,2018年,Vol.130,pp.73-89
【文献】ZHAO, D. et al.,Preparation, characterization, and in vitro targeted delivery of folate-decorated paclitaxel-loaded,Int. J. Nanomedicine,2010年,Vol.5,pp.669-677
【文献】ALI, S.S. et al.,Phytophthora megakarya and Phytophthora palmivora, Closely Related Causal Agents of Cacao Black Pod,Genome Biol. Evol.,2017年,Vol.9, No.3,pp.536-557(pp.1-22)
【文献】Phytophthora palmivora var. palmivora strain sbr112.9 scaffold_20380, whole genome shotgun sequence,GenBank accession no. NCKW01020374,2018年02月02日,[retrieved on 2020-10-12], Retrieved from the Internet, URL, https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/NCKW01020374.1?report=girevhist
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 7/00-7/66
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)配列番号1で表されるアミノ酸配列、配列番号2で表されるアミノ酸配列、配列番号3で表されるアミノ酸配列、配列番号4で表されるアミノ酸配列、配列番号5で表されるアミノ酸配列、配列番号6で表されるアミノ酸配列、配列番号7で表されるアミノ酸配列、及び配列番号8で表されるアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列をからなるポリペプチド、又は
(2)配列番号1で表されるアミノ酸配列、配列番号2で表されるアミノ酸配列、配列番号3で表されるアミノ酸配列、配列番号4で表されるアミノ酸配列、配列番号5で表されるアミノ酸配列、配列番号6で表されるアミノ酸配列、配列番号7で表されるアミノ酸配列、又は配列番号8で表されるアミノ酸配列において、1番、3番、4番、7番、8番、及び10番のアミノ酸が維持され、1のアミノ酸が置され前記1つのアミノ酸の置換は、2番又は9番のアミノ酸のアラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、トリプトファン、フェニルアラニン、又はメチオニンへの置換、又は5番又は6番のアミノ酸のグリシン、セリン、トレオニン、チロシン、グルタミン、アスパラギン、又はシステインへの置換であるアミノ酸配列、又は配列番号1で表されるアミノ酸配列、配列番号2で表されるアミノ酸配列、配列番号3で表されるアミノ酸配列、配列番号4で表されるアミノ酸配列、配列番号5で表されるアミノ酸配列、配列番号6で表されるアミノ酸配列、配列番号7で表されるアミノ酸配列、又は配列番号8で表されるアミノ酸配列のC末端にトレオニン及びアラニンが付加されたアミノ酸配列からなり、且つ細胞融合活性を有するポリペプチド。
【請求項2】
末端にメチル基を有する、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項4】
請求項3に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項5】
請求項4に記載の発現ベクターを含む形質転換体。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のポリペプチドに結合する抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項7】
有効成分として、請求項1又は2に記載のポリペプチドを含む細胞融合剤。
【請求項8】
有効成分として、請求項1又は2に記載のポリペプチドを含む、医薬組成物。
【請求項9】
がん治療用である、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
がんの治療用である、請求項1又は2に記載のポリペプチド。
【請求項11】
請求項1又は2に記載のポリペプチドの、がん治療用医薬組成物の製造への使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチド並びにそれを含む細胞融合剤及びがん治療用医薬組成物に関する。本発明によれば、細胞を効率的に融合させることができる。
【背景技術】
【0002】
細胞融合は、センダイウイルスに細胞を融合させる作用があることから見出された現象である(非特許文献1及び2)。現在では、品種改良又はモノクローナル抗体の生産などに、細胞融合が利用されている。また、ウイルスを利用する以外に、プロトプラスト-PEG法又は電気刺激によっても細胞融合が起こることが知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Cell fusion, 1970, Harvard University Press, Mass.
【文献】Cell Fusion and some subcellular Properties of heterokaryons and hybrids, Journal of Cell Biology, VOLUME 67, 1975, pages 257-280
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、効率的に細胞融合できる方法がないかと考えた。また、細胞融合により、がん細胞を死滅させることがきるのではないかと考えた。
従って、本発明の目的は、効率的な細胞融合の方法を提供することである。また、細胞融合によって、がん細胞を死滅させる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、効率的な細胞融合方法について、鋭意研究した結果、驚くべきことに、特定のアミノ酸配列を有する新規のペプチドにより、細胞を効率的に融合できることを見出した。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
従って、本発明は、
[1](1)配列番号1~8で表されるアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むポリペプチド、又は(2)配列番号1~8で表されるアミノ酸配列において、1~4のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、且つ細胞融合活性を有するポリペプチド、
[2]前記配列番号1~8で表されるアミノ酸配列が、N末端にメチル基を有する、[1]に記載のポリペプチド、
[3][1]又は[2]に記載のペプチドをコードするポリヌクレオチド、
[4][3]に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター、
[5][4]に記載のポリヌクレオチドを含む形質転換体、
[6][1]又は[2]に記載のポリペプチドに結合する抗体又はその抗原結合性断片、
[7]有効成分として、[1]又は[2]に記載のポリペプチドを含む細胞融合剤、
[8]有効成分として、[1]又は[2]に記載のポリペプチドを含む、医薬組成物、
[9]がん治療用である、[8]に記載の医薬組成物、
[10][1]又は[2]に記載のポリペプチドの有効量を、治療が必要な対象に投与する工程を含む、がんの治療方法、
[11]がんの治療用である、[1]又は[2]に記載のポリペプチド、及び
[12][1]又は[2]に記載のポリペプチドの、がん治療用医薬組成物の製造への使用、
に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明のポリペプチドによれば、細胞を効率的に融合させることができる。また、本発明のポリペプチドは、がん治療用医薬組成物の、有効成分として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1-1】RFL細胞及びLCC細胞にペプチド1を作用させた場合の、RFL細胞の弱拡大(A及びB)の顕微鏡写真である。
図1-2】RFL細胞及びLCC細胞にペプチド1を作用させた場合の、RFL細胞の強拡大(C)の顕微鏡写真、及びLCC細胞(D)の顕微鏡写真である。
図2】RFL細胞にペプチド2を作用させた場合の、RFL細胞の弱拡大(A)及び強拡大(B)の顕微鏡写真である。
図3】RFL細胞にペプチド3を作用させた場合の、RFL細胞の弱拡大の顕微鏡写真である。
図4】RFL細胞にペプチド4を作用させた場合の、RFL細胞の弱拡大の顕微鏡写真である。
図5】RFL細胞にペプチド5を作用させた場合の、RFL細胞の弱拡大の顕微鏡写真である。
図6-1】RFL細胞及びRM-4細胞にペプチド6を作用させた場合の、RFL細胞の弱拡大(A)及び強拡大(B)の顕微鏡写真である。
図6-2】RFL細胞及びRM-4細胞にペプチド6を作用させた場合の、RM-4細胞の弱拡大(C及びD)の顕微鏡写真である。
図7】RFL細胞にペプチド7を作用させた場合の、RFL細胞の弱拡大(A)及び強拡大(B)の顕微鏡写真である。
図8-1】RFL細胞及びLCC細胞にペプチド8を作用させた場合の、RFL細胞の弱拡大(A及びB)の顕微鏡写真である。
図8-2】RFL細胞及びLCC細胞にペプチド8を作用させた場合の、RFL細胞の強拡大(C)の顕微鏡写真、及びLCC細胞(D)の顕微鏡写真である。
図9】RFL細胞にペプチド9を作用させた場合の、RFL細胞の弱拡大の顕微鏡写真である。
図10】RFL細胞にペプチド10を作用させた場合の、RFL細胞の弱拡大の顕微鏡写真である。
図11】RM-4細胞にペプチド1を作用させ、アポトーシスの誘導を、Caspase-3/7の活性化(A)及びAnnexinVの活性化(B)により測定したグラフである。
図12】RM-4細胞にペプチド1を作用させ、18時間後のCaspase-3/7の活性化(緑の蛍光)及びAnnexinVの活性化(赤の蛍光)を確認した蛍光顕微鏡写真である。
図13】RM-4細胞にペプチド1を作用させ、78時間後のCaspase-3/7の活性化(緑の蛍光)及びAnnexinVの活性化(赤の蛍光)を確認した蛍光顕微鏡写真である。
図14】マウスにがん細胞を移植し、ペプチド6を投与して28日間の腫瘍体積の変化を示したグラフである。
図15】マウスにがん細胞を移植し、ペプチド6を投与して28日間の体重の変化を示したグラフである。
図16】マウスにがん細胞を移植し、ペプチド6を投与した群とコントロール群の28日後の腫瘍重量を示したグラフである。
図17】ペプチド6を投与されたマウスの摘出された腫瘍塊の40倍の写真(A)及び400倍の写真(B)、並びにコントロールのマウスの摘出された腫瘍塊の40倍の写真(C)及び400倍の写真(D)である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[1]ポリペプチド
本発明のポリペプチドは(1)配列番号1~8で表されるアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。配列番号1~8で表されるアミノ酸配列は、以下のとおりである。
Pro-Leu-Val-Ser-Thr-Gln-Thr-Ala-Ile-Ala(配列番号1)
Pro-Leu-Val-Ser-Thr-Gln-Thr-Ala-Leu-Ala(配列番号2)
Pro-Leu-Val-Ser-Gln-Thr-Thr-Ala-Ile-Ala(配列番号3)
Pro-Leu-Val-Ser-Gln-Thr-Thr-Ala-Leu-Ala(配列番号4)
Pro-Ile-Val-Ser-Thr-Gln-Thr-Ala-Ile-Ala(配列番号5)
Pro-Ile-Val-Ser-Thr-Gln-Thr-Ala-Leu-Ala(配列番号6)
Pro-Ile-Val-Ser-Gln-Thr-Thr-Ala-Ile-Ala(配列番号7)
Pro-Ile-Val-Ser-Gln-Thr-Thr-Ala-Leu-Ala(配列番号8)
【0009】
また、本発明のポリペプチドは(2)配列番号1~8で表されるアミノ酸配列において、1~4のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、且つ細胞融合活性を有する。
【0010】
前記(1)配列番号1~8で表されるアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むポリペプチドは、(1)配列番号1~8で表されるアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む。また、(2)配列番号1~8で表されるアミノ酸配列において、1~4のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、且つ細胞融合活性を有するポリペプチド(以下、「機能的等価改変体」と称することがある)は、(2)配列番号1~8で表されるアミノ酸配列において、1~4のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、且つ細胞融合活性を有するポリペプチドを含む。
本発明のポリペプチドは、配列番号1~8で表されるアミノ酸配列などの前記10個のアミノ酸配列からなるポリペプチドによって、細胞融合活性を示すことができ、10個のアミノ酸配列中に、細胞融合活性を示す特定の構造を有している。従って、10個のアミノ酸配列中の細胞融合活性を示す特定の構造が壊されない限りにおいて、他のアミノ酸、ポリペプチド、又はタンパク質が、本発明のポリペプチドに結合しても、本発明のポリペプチドは細胞融合化活性を示すことができる。
【0011】
《機能的等価改変体》
機能的等価改変体は、配列番号1~8で表されるアミノ酸配列における1又は複数の箇所において、1~4個、好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個、最も好ましくは1個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、且つ細胞融合活性を有するポリペプチドである限りにおいて、特に限定されるものではない。
例えば、配列番号1のアミノ酸配列を含むポリペプチドに対して、配列番号2又は配列番号5のアミノ酸配列を含むポリペプチドは、1個のアミノ酸が置換された機能的等価改変体であり、配列番号3又は配列番号6のアミノ酸配列を含むポリペプチドは、2個のアミノ酸が置換された機能的等価改変体であり、配列番号4又は配列番号7のアミノ酸配列を含むポリペプチドは、3個のアミノ酸が置換された機能的等価改変体であり、配列番号8のアミノ酸配列を含むポリペプチドは、4個のアミノ酸が置換された機能的等価改変体である。
【0012】
機能的等価改変体における、「1~4のアミノ酸の欠失、置換、挿入、及び/又は付加」は、本発明のポリペプチドの機能を維持する保存的置換である。「保存的置換」とは、限定されるものではないが、例えばアミノ酸残基を、別の化学的に類似したアミノ酸残基で置き換えることによって実施できる。例えば、ある疎水性残基を別の疎水性残基によって置換する場合、ある極性残基を同じ電荷を有する別の極性残基によって置換する場合などが挙げられる。このような置換を行うことでできる機能的に類似のアミノ酸は、アミノ酸毎に当該技術分野において公知である。非極性(疎水性)アミノ酸としては、例えば、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニンなどが挙げられる。極性(中性)アミノ酸としては、例えば、グリシン、セリン、トレオニン、チロシン、グルタミン、アスパラギン、システインなどが挙げられる。正電荷をもつ(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン、ヒスチジン、リジンなどが挙げられる。また、負電荷をもつ(酸性)アミノ酸としては、アスパラギン酸、グルタミン酸などが挙げられる。限定されるものではないが、このような保存的置換により、細胞融合活性を有する機能的等価改変体を得ることができる。
【0013】
本発明のポリペプチドは、限定されるものではないが、好ましくはN末端のプロリンがメチル化されている。すなわち、N末端のプロリンは、好ましくはメチル化プロリンである。限定されるものではないが、N末端のプロリンがメチル化されていることによって、更に優れた細胞融合活性を示すことができる。
【0014】
本発明のポリペプチドは、本技術分野で公知の方法によって製造することができる。例えば、後述の発現ベクターを含む形質転換体を培養することによって得ることもできるが、化学合成法によって製造することが好ましい。
【0015】
《細胞融合活性》
本発明のポリペプチドは、細胞融合活性を有する。本発明のポリペプチドによる細胞融合は、いくつかの細胞が融合し、複数の核を有する融合細胞を形成する。
また、融合した細胞は、細胞融合の後にアポトーシスが誘導され、細胞が死滅する。
【0016】
《ポリヌクレオチド》
本発明のポリヌクレオチドは、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドである限り、特に限定されるものではない。なお、本明細書における用語「ポリヌクレオチド」には、DNA及びRNAの両方が含まれる。本発明のポリヌクレオチドは、例えば化学合成法などによって製造することができる。
【0017】
《発現ベクター》
本発明の発現ベクターは、本発明のポリヌクレオチドを含むベクターである。すなわち、本発明のベクターは、本発明による前記ポリヌクレオチドを含む限り、特に限定されるものではなく、例えば、用いる宿主細胞に応じて適宜選択した公知の発現ベクターに、本発明による前記ポリヌクレオチドを挿入することにより得られるベクターを挙げることができる。本発現ベクターは、自己複製ベクター、すなわち、染色体外の独立体として存在し、その複製が染色体の複製に依存しない、例えば、プラスミドを基本に構築することができる。また、本発現ベクターは、宿主細胞に導入されたとき、その宿主細胞のゲノム中に組み込まれ、それが組み込まれた染色体と一緒に複製されるものであってもよい。本発明によるベクター構築の手順及び方法は、遺伝子工学の分野で慣用されているものを用いることができる。
【0018】
《形質転換体》
本発明によれば、前記発現ベクターによって形質転換された細胞が提供される。この宿主-ベクター系は特に限定されず、例えば、大腸菌、放線菌、酵母、糸状菌、真核生物の細胞などを用いた系、及びそれらを用いた他のタンパク質との融合タンパク質発現系などを用いることができる。
また、前記発現ベクターによる細胞の形質転換も、この分野で慣用されている方法に従い実施することができる。
更に、この形質転換体を適当な培地で培養し、その培養物から上記の本発明によるポリペプチドを単離して得ることができる。従って、本発明の別の態様によれば、前記の本発明による新規ポリペプチドの製造方法が提供される。形質転換体の培養及びその条件は、使用する細胞についてのそれと本質的に同等であってよい。また、形質転換体を培養した後、目的のタンパク質を回収する方法は、この分野で慣用されているものを用いることができる。
【0019】
《抗体》
本発明のタンパク質に反応する抗体(例えば、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体)は、各種動物に本発明のタンパク質、又はその断片を直接投与することで得ることができる。また、本発明のタンパク質をコードするポリヌクレオチドを導入したプラスミドを用いて、DNAワクチン法(Raz, E.ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91, 9519-9523, 1994;又はDonnelly, J. J.ら, J. Infect. Dis., 173, 314-320, 1996)によっても得ることができる。
【0020】
ポリクローナル抗体は、例えば、本発明のタンパク質又はその断片を適当なアジュバント(例えば、フロイント完全アジュバントなど)に乳濁した乳濁液を、腹腔、皮下、又は静脈等に免疫して感作した動物(例えば、ウサギ、ラット、ヤギ、又はニワトリ等)の血清又は卵から製造することができる。このように製造された血清又は卵から、常法のタンパク質単離精製法によりポリクローナル抗体を分離精製することができる。そのような分離精製方法としては、例えば、遠心分離、透析、硫酸アンモニウムによる塩析、又はDEAE-セルロース、ハイドロキシアパタイト、若しくはプロテインAアガロース等によるクロマトグラフィー法を挙げることができる。
【0021】
モノクローナル抗体は、例えば、ケーラーとミルスタインの細胞融合法(Kohler, G.及びMilstein, C., Nature, 256, 495-497, 1975)により、当業者が容易に製造することが可能である。
すなわち、本発明のタンパク質又はその断片を適当なアジュバント(例えば、フロイント完全アジュバントなど)に乳濁した乳濁液を、数週間おきにマウスの腹腔、皮下、又は静脈に数回繰り返し接種することにより免疫する。最終免疫後、脾臓細胞を取り出し、ミエローマ細胞と融合してハイブリドーマを作製する。
【0022】
ハイブリドーマを得るためのミエローマ細胞としては、例えば、ヒポキサンチン-グアニン-ホスホリボシルトランスフェラーゼ欠損又はチミジンキナーゼ欠損のようなマーカーを有するミエローマ細胞(例えば、マウスミエローマ細胞株P3X63Ag8.U1)を利用することができる。また、融合剤としては、例えば、ポリエチレングリコールを利用することができる。更には、ハイブリドーマ作製における培地として、例えば、イーグル氏最小必須培地、ダルベッコ氏変法最小必須培地、又はRPMI-1640などの通常よく用いられている培地に、10~30%のウシ胎仔血清を適宜加えて用いることができる。融合株は、HAT選択法により選択することができる。ハイブリドーマのスクリーニングは培養上清を用い、ELISA法又は免疫組織染色法などの周知の方法により行い、目的の抗体を分泌しているハイブリドーマのクローンを選択することができる。また、限界希釈法によってサブクローニングを繰り返すことにより、ハイブリドーマの単クローン性を保証することができる。このようにして得られるハイブリドーマは、培地中で2~4日間、あるいは、プリスタンで前処理したBALB/c系マウスの腹腔内で10~20日間培養することで、精製可能な量の抗体を産生することができる。
【0023】
このように製造されたモノクローナル抗体は、培養上清又は腹水から常法のポリペプチド単離精製法により分離精製することができる。そのような分離精製方法としては、例えば、遠心分離、透析、硫酸アンモニウムによる塩析、又はDEAE-セルロース、ハイドロキシアパタイト、若しくはプロテインAアガロース等によるクロマトグラフィー法を挙げることができる。
また、モノクローナル抗体又はその一部分を含む抗体断片は、前記モノクローナル抗体をコードする遺伝子の全部又は一部を発現ベクターに組み込み、適当な宿主細胞(例えば、大腸菌、酵母、又は動物細胞)に導入して生産させることもできる。
【0024】
以上のように分離精製された抗体(ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体を含む)について、常法により、ポリペプチド分解酵素(例えば、ペプシン又はパパイン等)によって消化を行い、引き続き、常法のポリペプチド単離精製法により分離精製することで、活性のある抗体の一部分を含む抗原結合性断片、例えば、F(ab)、Fab、Fab、又はFvを得ることができる。
【0025】
更には、本発明のタンパク質に反応する抗体を、クラクソンらの方法又はゼベデらの方法(Clackson, T.ら, Nature, 352, 624-628, 1991;又はZebedee, S.ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89, 3175-3179, 1992)により、一本鎖(single chain)Fv又はabとして得ることも可能である。また、マウスの抗体遺伝子をヒト抗体遺伝子に置き換えたトランスジェニックマウス(Lonberg, N.ら, Nature, 368, 856-859, 1994)に免疫することで、ヒト抗体を得ることも可能である。
【0026】
[2]細胞融合剤
本発明の細胞融合剤は、有効成分として、本発明の前記ポリペプチドを含む。本発明の細胞融合剤は、1種のポリペプチドを単独で含んでもよいが、2種以上のポリペプチドを組み合わせて含んでもよい。
細胞融合剤における前記ポリペプチドの含有量は、特に限定されるものではないが、例えば0.1~100重量%であり、好ましくは10~100重量%であり、より好ましくは30~90重量%である。本発明の細胞融合剤は、ポリペプチド以外の成分として、担体(例えば、水又は緩衝液)、賦形剤、希釈剤、保存剤、安定化剤、防腐剤、又は酸化防止剤等を含んでもよい。
【0027】
本発明の細胞融合剤は、植物の品種改良又はモノクローナル抗体の生産などに用いることができる。本発明の細胞融合剤によれば、効率的に細胞を融合させることができる。
本発明の細胞融合剤によって、融合される細胞としては、特に限定されるものではなく、微生物の細胞、植物細胞、又は動物細胞が挙げられる。動物細胞としては、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ウシなどの脊椎動物(例えば哺乳動物)の有核細胞(例えば血液細胞、リンパ系細胞、内臓を構成する細胞)、哺乳動物由来の癌細胞などが挙げられる。
【0028】
細胞融合の温度は、細胞融合が起こる限りにおいて、特に限定されるものではないが、例えば0~40℃であり、好ましくは10~38℃である。処理時間は特に限定されるものではないが、好ましくは1分から2時間である。
【0029】
[3]医薬組成物
本発明の医薬組成物は、有効成分として、本発明のポリペプチドを含む。本発明の医薬組成物が予防又は治療できる疾患は、特に限定されるものではないが、例えばがん細胞を融合させ、がん細胞を死滅させ、そしてがんを治療することができる。具体的には、本発明のペプチドは、細胞融合によって、細胞にアポトーシスを誘導することができる。融合した細胞は、Caspase-3/7又はAnnexinVが活性し、アポトーシスが誘導される。融合細胞にアポトーシスが誘導されることによって、がん細胞を死滅させることができる。
本発明の医薬組成物が治療できる癌としては、舌癌、歯肉癌、悪性リンパ腫、悪性黒色腫、上顎癌、鼻癌、鼻腔癌、喉頭癌、咽頭癌、神経膠腫、髄膜腫神経芽細胞腫、甲状乳頭腺癌、甲状腺濾胞癌、甲状腺髄様癌、原発性肺癌、扁平上皮癌、腺癌、肺胞上皮癌、大細胞性未分化癌、小細胞性未分化癌、カルチノイド、睾丸腫瘍、前立腺癌、乳癌、乳房ページェット病、乳房肉腫、骨腫瘍、甲状腺癌、胃癌、肝癌、急性骨髄性白血病、急性前髄性白血病、急性骨髄性単球白血病、急性単球性白血病、急性リンパ性白血病、急性未分化性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、成人型T細胞白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、原発性マクログロブリン血症、小児性白血病、食道癌、胃癌、胃・大腸平滑筋肉腫、胃・腸悪性リンパ腫、膵・胆嚢癌、十二指腸癌、大腸癌、原発性肝癌、肝芽腫、子宮上皮内癌、子宮頸部扁平上皮癌、子宮腺癌、子宮腺扁平上皮癌、子宮体部腺類癌、子宮肉腫、子宮癌肉腫、子宮破壊性奇胎、子宮悪性絨毛上皮腫、子宮悪性黒色腫、卵巣癌、中胚葉性混合腫瘍、腎癌、腎盂移行上皮癌、尿管移行上皮癌、膀胱乳頭癌、膀胱移行上皮癌、尿道扁平上皮癌、尿道腺癌、ウィルムス腫瘍、横紋筋肉腫、線維肉腫、骨肉腫、軟骨肉腫、滑液膜肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、ユーイング肉腫、皮膚扁平上皮癌、皮膚基底細胞癌、皮膚ボーエン病、皮膚ページェット病、皮膚悪性黒色腫、悪性中皮癌、転移性腺癌、転移性扁平上皮癌、転移性肉腫および中皮腫が挙げられる。
【0030】
本発明の医薬組成物の投与剤型としては、特に限定がなく、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁剤、エマルジョン剤、シロップ剤、エキス剤、若しくは丸剤等の経口剤、又は注射剤、外用液剤、軟膏剤、坐剤、局所投与のクリーム、若しくは点眼剤などの非経口剤を挙げることができる。
経口剤は、例えば、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、澱粉、コーンスターチ、白糖、乳糖、ブドウ糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、ポリビニルピロリデン、結晶セルロース、大豆レシチン、ショ糖、脂肪酸エステル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、ケイ酸マグネシウム、無水ケイ酸、又は合成ケイ酸アルミニウムなどの賦形剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、希釈剤、保存剤、着色剤、香料、矯味剤、安定化剤、保湿剤、防腐剤、又は酸化防止剤等を用いて、常法に従って製造することができる。
非経口剤としては、例えば注射剤を挙げることができる。注射剤の調製においては、有効成分の他に、例えば生理食塩水若しくはリンゲル液等の水溶性溶剤、植物油若しくは脂肪酸エステル等の非水溶性溶剤、ブドウ糖若しくは塩化ナトリウム等の等張化剤、溶解補助剤、安定化剤、防腐剤、懸濁化剤、又は乳化剤などを任意に用いることができる。
【0031】
医薬組成物を用いる場合の投与量は、例えば、使用する有効成分の種類、病気の種類、患者の年齢、性別、体重、症状の程度、又は投与方法に応じて適宜決定することができ、経口的に又は非経口的に投与することが可能である。例えば、本発明の医薬組成物を経口摂取する場合の摂取量は、例えば成人の場合、ポリペプチドとして1日当たり0.01~100mg/kgが好ましい。なお、上記の投与法は一例であり、他の投与法であってもよい。ヒトへの医薬組成物の投与方法、投与量、投与期間、及び投与間隔等は、管理された臨床治験によって決定されることが望ましい。
【0032】
更に、投与形態も医薬品に限定されるものではなく、種々の形態、例えば、機能性食品や健康食品(飲料も含む)、又は飼料として飲食物の形態で与えることも可能である。
ポリペプチドを含有する医薬組成物の製造方法は、ポリペプチドを有効成分として含むこと以外は、公知の医薬品の製造方法を用いて製造することができる。
【0033】
本発明の医薬組成物は、その他の成分を含有することができる。前記その他の成分としては、例えば、食用油脂、水、グリセリン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等の乳化剤、ローカストビーンガム、カラギーナン、アルギン酸類、ペクチン、キサンタンガム、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、寒天、グルコマンナン、ゼラチン、澱粉、又は化工澱粉等の増粘安定剤、食塩、又は塩化カリウム等の塩味剤、酢酸、乳酸、又はグルコン酸等の酸味料、糖類又は糖アルコール類、ステビア、又はアスパルテーム等の甘味料、ベータカロチン、カラメル、又は紅麹色素等の着色料、トコフェロール、又は茶抽出物等の酸化防止剤、着香料、pH調整剤、食品保存料、又は日持ち向上剤等の食品素材や食品添加物を挙げることができる。また、各種ビタミンやコエンザイムQ、植物ステロール、又は乳脂坊球皮膜等の機能素材を含有させることも可能である。これらのその他の成分の含有量は、本発明の医薬組成物中、合計で好ましくは8質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは20質量%以下とする。
【0034】
本発明の医薬組成物は、ヒトに対して投与することができるが、投与対象はヒト以外の動物であってもよく、イヌ、ネコ、ウサギ、ハムスター、モルモット、及びリス等のペット;牛及び豚等の家畜;マウス、ラット等の実験動物;並びに、動物園等で飼育されている動物等が挙げられる。
【0035】
《がんの治療方法》
本発明のがんの治療方法は、前記ポリペプチドの有効量を、治療が必要な対象に投与する工程を含む。すなわち、本発明のポリペプチドは、がんの治療方法に用いることができる。前記医薬組成物の有効量を、ヒト又は動物に投与することにより、がんを治療することができる。
【0036】
《がんの治療用であるポリペプチド》
本発明のポリペプチドは、がんの治療用である。
前記ポリペプチドは、がんの治療方法に使用することができる。すなわち、本明細書はがんの治療用であるポリペプチドを開示する。
【0037】
《ポリペプチドの医薬組成物の製造への使用》
前記ポリペプチドは、医薬組成物の製造に使用することができる。すなわち、本明細書は、ポリペプチドの医薬組成物の製造への使用を開示する。前記医薬組成物は限定されるものではないが、がん治療用医薬組成物である。
【0038】
《作用》
本発明のポリペプチドが、細胞融合活性を有するメカニズムは完全に解明されているわけではないが、以下のように推定される。しかしながら、本発明は以下の推定によって限定されるものではない。
本発明のポリペプチドは、配列番号1~8のアミノ酸配列に共通して存在している構造により細胞融合活性を示すものと考えられる。限定されるものではないが、第1番目のプロリンは比較的重要であると考えられる。一方、2番目及び9番目のロイシン又はイソロイシンは、相互に置換されても細胞融合活性を示すため、2番目及び9番目のアミノ酸は置換可能であり、他のアミノ酸(例えばバリン)への置換によっても細胞融合活性を示す可能性が高いと考えられる。また、5番目及び6番目のトレオニンとグルタミンも相互に置換されても細胞融合活性を示すため、5番目及び6番目のアミノ酸は置換可能であり、4番目のセリン及び7番目のトレオニンを含めて、性質の似た他のアミノ酸への置換によっても細胞融合活性を示す可能性が高いと考えられる。更に、8番目及び10番目のアラニンも性質の似たアミノ酸、例えばグリシンに置換されても細胞融合活性を示す可能性があると考えられる。また、N末端のプロリンのメチル化は、各ペプチドの細胞融合能、及びがん細胞のアポトーシスの誘導に必須ではない。従って、N末端のプロリンに1つ以上のアミノ酸が付加されたペプチドも、細胞融合及びアポトーシス誘導能を示すことができる。
また、本発明のポリペプチドが、抗がん作用を有するメカニズムは完全に解明されているわけではないが、以下のように推定される。しかしながら、本発明は以下の推定によって限定されるものではない。
本発明のポリペプチドは、がん細胞を融合させることができ、細胞にアポトーシスを誘導し、それによってがん細胞を死滅させることができると推定される。また、前記細胞融合は、がんの種類によらず誘導される。従って、本発明のポリペプチドは、多くの種類のがんに対して有効だと考えられる。
【実施例
【0039】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0040】
《実施例1》
本合成例では、下記の配列番号1~8で表されるアミノ酸配列のN末端のプロリンがメチル化されたペプチド、配列番号1で表されるアミノ酸配列のペプチド(プロリンがメチル化されていない)、及び配列番号9で表されるアミノ酸配列のN末端のプロリンがメチル化されたペプチドを合成した。ペプチド合成は、グライナー/ファスマックス社に委託した。なお、配列番号9で表されるアミノ酸配列は、配列番号1で表されるアミノ酸配列のC末側にスレオニン及びアラニンが付加されたアミノ酸配列である。
CH3-Pro-Leu-Val-Ser-Thr-Gln-Thr-Ala-Ile-Ala(以下、ペプチド1と称する;配列番号1)
CH3-Pro-Leu-Val-Ser-Thr-Gln-Thr-Ala-Leu-Ala(以下、ペプチド2と称する;配列番号2)
CH3-Pro-Leu-Val-Ser-Gln-Thr-Thr-Ala-Ile-Ala(以下、ペプチド3と称する;配列番号3)
CH3-Pro-Leu-Val-Ser-Gln-Thr-Thr-Ala-Leu-Ala(以下、ペプチド4と称する;配列番号4)
CH3-Pro-Ile-Val-Ser-Thr-Gln-Thr-Ala-Ile-Ala(以下、ペプチド5と称する;配列番号5)
CH3-Pro-Ile-Val-Ser-Thr-Gln-Thr-Ala-Leu-Ala(以下、ペプチド6と称する;配列番号6)
CH3-Pro-Ile-Val-Ser-Gln-Thr-Thr-Ala-Ile-Ala(以下、ペプチド7と称する;配列番号7)
CH3-Pro-Ile-Val-Ser-Gln-Thr-Thr-Ala-Leu-Ala(以下、ペプチド8と称する;配列番号8)
CH3-Pro-Leu-Val-Ser-Thr-Gln-Thr-Ala-Ile-Ala-Thr-Ala(以下、ペプチド9と称する;配列番号9)
Pro-Leu-Val-Ser-Thr-Gln-Thr-Ala-Ile-Ala(以下、ペプチド10と称する;配列番号1)
アミノ酸の合成は、standard 9-fluorenylmethoxycarbonyl(Fmoc) methodに従って行った。具体的には、Fmocアミノ酸をHBTU/HOBT溶液(HBTU:2-(1H-Benzotriazole-1-yl)-1,1,3,3-tetramethyluroniu Hexafluorophosphate;HOBT:1-Hydroxybenzotriazole)で活性化し、DIEA(N,N'-Diisopropylethylamine)を添加してアミノ酸を縮合させた。
合成されたアミノ酸のレジンからの切り出しは、以下のように実施した。TFA(trifluoroacetic acid)溶液(4.125 mL TFA, 0.25 mL H2O, 0.375 g phenol, 0.125 mL ethanedithiol and 0.25 mL thioanisoleを作成し、レジンに加え、常温で2時間反応させて冷エーテルで沈殿させてCrudeペプチドを得た。
得られた粗精製ペプチドをRP-HPLCを用いて精製し、凍結乾燥させた。精製の純度は、下記の条件のHPLC及びMSで検討した。
・HPLC条件
A Buffer:0.1%TFA/H2O、B Buffer:0.1%TFA/Acetonitrile
Column:SunFire C18 Column, 5 μm, 4.6 x 150 mm
Flow rate:1 mL/min
Wavelength:220 nm
・MALDI-TOF-MS
【0041】
《実施例2》
本実施例では、RFL細胞(ラット肺胎児由来細胞)又はLLC細胞(ルイス肺癌由来細胞)に、実施例1で得られたペプチド1を作用させ、ペプチドの細胞融合活性を検討した。
RFL細胞又はLLC細胞(2×10個)を5%FBS(Biosera, Cat No. 015BS493)を添加したRPMI-1640(Wako, 189-02025)培地6mLに懸濁し、24well plate(Iwaki, 2820-024)の各wellに8×10個/0.25mL分注し、培養した。培地を除去し、新たに培地(20μL)及びペプチド1(1μg/mL)を分注し、さらに24~36時間培養した。培養終了後、メタノール(Wako)にて固定し、ギムザ染色液(武藤化学 15003)にて核染色を行って検鏡した。
図1にRFL細胞の弱拡大(A及びB)及び強拡大(C)の顕微鏡写真、及びLCC細胞(D)の顕微鏡写真を示す。RFL細胞及びLCC細胞のいずれでも、細胞が融合し、複数の核を有する融合細胞が見られた。
【0042】
《実施例3》
本実施例では、ペプチド2の細胞融合活性を検討した。ペプチド1に代えてペプチド2を用いたこと、及びRFL細胞のみを使用したことを除いては、実施例2の操作を繰り返した。
図2にRFL細胞の弱拡大(A)及び強拡大(B)の顕微鏡写真を示す。RFL細胞において、細胞が融合し、複数の核を有する融合細胞が見られた。
【0043】
《実施例4》
本実施例では、ペプチド3の細胞融合活性を検討した。ペプチド2に代えてペプチド3を用いたことを除いては、実施例3の操作を繰り返した。
図3にRFL細胞の弱拡大の顕微鏡写真を示す。RFL細胞において、細胞が融合し、複数の核を有する融合細胞が見られた。
【0044】
《実施例5》
本実施例では、ペプチド4の細胞融合活性を検討した。ペプチド2に代えてペプチド4を用いたことを除いては、実施例3の操作を繰り返した。
図4にRFL細胞の弱拡大の顕微鏡写真を示す。RFL細胞において、細胞が融合し、複数の核を有する融合細胞が見られた。
【0045】
《実施例6》
本実施例では、ペプチド5の細胞融合活性を検討した。ペプチド2に代えてペプチド5を用いたことを除いては、実施例3の操作を繰り返した。
図5にRFL細胞の弱拡大の顕微鏡写真を示す。RFL細胞において、細胞が融合し、複数の核を有する融合細胞が見られた。
【0046】
《実施例7》
本実施例では、ペプチド6の細胞融合活性を検討した。ペプチド1に代えてペプチド6を用いたこと、及びLLC細胞に代えてRM-4細胞を用いたことを除いては、実施例2の操作を繰り返した。なお、RM-4細胞は、RFL細胞にモロニーマウス白血病ウイルスを感染させて、選択されたがん細胞である。
図6にRFL細胞の弱拡大(A)及び強拡大(B)の顕微鏡写真、並びにRM-4細胞の弱拡大(C及びD)を示す。RFL細胞及びRM-4細胞において、細胞が融合し、複数の核を有する融合細胞が見られた。
【0047】
《実施例8》
本実施例では、ペプチド7の細胞融合活性を検討した。ペプチド2に代えてペプチド7を用いたことを除いては、実施例3の操作を繰り返した。
図7にRFL細胞の弱拡大(A)及び強拡大(B)の顕微鏡写真を示す。RFL細胞において、細胞が融合し、複数の核を有する融合細胞が見られた。
【0048】
《実施例9》
本実施例では、ペプチド8の細胞融合活性を検討した。ペプチド2に代えてペプチド8を用いたことを除いては、実施例2の操作を繰り返した。
図8にRFL細胞の弱拡大(A及びB)及び強拡大(C)の顕微鏡写真、並びにLCC細胞(D)の顕微鏡写真を示す。RFL細胞及びLCC細胞において、細胞が融合し、複数の核を有する融合細胞が見られた。
【0049】
《実施例10》
本実施例では、ペプチド9の細胞融合活性を検討した。ペプチド2に代えてペプチド9を用いたことを除いては、実施例3の操作を繰り返した。図9にRFL細胞の弱拡大の顕微鏡写真を示す。RFL細胞において、細胞が融合し、複数の核を有する融合細胞が見られた。
ペプチド9は、ペプチド1のC末側にスレオニン及びアラニンが付加されたペプチドであるが、細胞融合活性を有しており、その細胞融合活性はペプチド1よりも優れていた。
【0050】
《実施例11》
本実施例では、ペプチド10の細胞融合活性を検討した。ペプチド2に代えてペプチド10を用いたことを除いては、実施例3の操作を繰り返した。図10にRFL細胞の弱拡大の顕微鏡写真を示す。RFL細胞において、細胞が融合し、複数の核を有する融合細胞が見られた。
すなわち、ペプチド1のN末のプロリンが、Nメチル化プロリンでなく、通常のプロリンのペプチドも、細胞融合活性を有していたが、ペプチド1の細胞融合活性の方が強いようであった。
【0051】
《実施例12》
本実施例では、RM-4細胞を用いて、ペプチド1のアポトーシス能を検討した。アポトーシスの指標であるCaspase-3/7及びAnnexinVの活性を、IncuCyte S3生細胞化解析システム(エッセンバイオサイエンス社)を用いて測定した。
Caspase-3/7の活性は、細胞膜を通過できる不活性非蛍光(DEVD)基質を用いて測定される。活性化Caspase-3/7が基質を切断することによって、DNA結合緑色蛍光ラベルが放出され、緑色蛍光の強度により、Caspase-3/7の活性が測定される。
AnnexinVの活性は、光安定性のCF色素を用いて測定される。CF色素は、ホスファチジルセリン(PS)に結合すると、赤色の蛍光シグナルを発し、赤色の蛍光シグナルにより、AnnexinVの活性が測定される。
【0052】
RM-4細胞を96ウェルプレートに播種し、ペプチド1を0.06μg/mL添加した。Caspase-3/7 Green Reagent(Unit size:20ul,5mM/vial)をHam’s F-12Kで500倍希釈し添加し、そしてAnnexin V Red Reagent(Unit size:100tests/vial)をHam’s F-12Kで100倍希釈し添加した。IncuCyte S3生細胞化解析システムを用い、対物レンズ倍率10倍、視野数4で、1時間おきに3日間連続スキャンし測定した。コントロールとして、ペプチド1を処理していないRM-4細胞を用いた。
図11(A)にCaspase-3/7の活性を、図11(B)にAnnexinVの活性を示す。Caspase-3/7及びAnnexinVのいずれも、10時間から20時間の間に急激に上昇し、その後も徐々に活性が上昇した。一方、ペプチド1を処理しないRM-4細胞では、Caspase-3/7及びAnnexinVの活性は上昇しなかった。
図12及び図13に、それぞれ18時間後及び78時間後の蛍光顕微鏡写真を示す。ペプチド1の処理によって、RM-4細胞にアポトーシスが誘導されることがわかる。
【0053】
《実施例13》
本実施例では、A549細胞(ヒト肺胞上皮腺癌細胞)に対するペプチド6の抗癌作用をin vivoで検討した。
6匹ずつ群分けしたCAnN.Cg-Foxn1nu/CrlCrljヌードマウスに、PBSに4×10cells/mLの濃度で懸濁したA549細胞を、0.1mL右腹側部皮下に移植した。腫瘍移植後14日、17日、21日、24日、28日、31日、35日、及び38日後に、ペプチド6を25mg/kgの投与量で、尾静脈から静脈内投与した(ペプチド6群)。コントロール群は、PBSのみを投与した。
3日又は4日おきに、腫瘍体積及び体重を測定し、腫瘍移植38日後(ペプチド投与開始から28日)に剖検し、腫瘍を摘出した。腫瘍体積は、短径及び長径をノギスで測定し、「推定腫瘍体積=(短径)×(長径)÷2」の式から計算した。なお、コントロール群の1匹のマウスは腫瘍が過度に大きくなったため、腫瘍移植後35日で、実験を中止し、5匹のマウスで評価した。
図14及び図15に示すように、ペプチド6の投与により、腫瘍体積が減少し、抗癌作用があることが確認された。また、ペプチド6の投与は、マウスの体重に影響がなく、副作用等は見られなかった。
【0054】
摘出した腫瘍のHE染色写真を図17に示す。図17A(×40)及びB(×400)が、ペプチド6が投与されたA549細胞の腫瘍塊の写真であり、図17C(×40)及びD(×400)がコントロールである。コントロールは腫瘍組織塊に細胞が充満しているが、ペプチド6を投与したマウスでは腫瘍内部が壊死を起こしており、ペプチド6が抗腫瘍効果を示したと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のポリペプチドは、植物細胞及び動物細胞の細胞融合に用いることができる。また、本発明の医薬組成物は、がんの治療に用いることができる。
図1-1】
図1-2】
図2
図3
図4
図5
図6-1】
図6-2】
図7
図8-1】
図8-2】
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
【配列表】
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