IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三井金属鉱業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-固体電解質、電極合剤及び電池 図1
  • 特許-固体電解質、電極合剤及び電池 図2
  • 特許-固体電解質、電極合剤及び電池 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-08
(45)【発行日】2023-08-17
(54)【発明の名称】固体電解質、電極合剤及び電池
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/10 20060101AFI20230809BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20230809BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20230809BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20230809BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230809BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230809BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20230809BHJP
【FI】
H01B1/10
H01B1/06 A
H01B1/08
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M10/052
H01M10/0562
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021553165
(86)(22)【出願日】2021-06-07
(86)【国際出願番号】 JP2021021619
(87)【国際公開番号】W WO2021251347
(87)【国際公開日】2021-12-16
【審査請求日】2021-09-14
【審判番号】
【審判請求日】2022-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2020100733
(32)【優先日】2020-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 崇広
【合議体】
【審判長】河本 充雄
【審判官】恩田 春香
【審判官】柴垣 俊男
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/176895(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともリチウム(Li)元素、リン(P)元素、硫黄(S)元素、ハロゲン(X)元素及び酸素(O)元素を含有し、
ハロゲン(X)元素は、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)及びヨウ素(I)のうちの1種または2種以上の組合せであり、
アルジロダイト型結晶構造を有する結晶相を含み、
リン(P)元素に対するハロゲン(X)元素のモル比(X/P)が1.0より大きく2.4より小さく、
リン(P)元素に対する酸素(O)元素のモル比(O/P)が0より大きく0.5より小さく、
CuKα1線を用いたX線回折装置により測定されるX線回折パターンにおいて、2θ=21.6°以上22.6°以下の範囲にピークAを有し、2θ=22.7°以上23.7°以下の範囲にピークBを有し、2θ=35.8°以上36.8°以下の範囲にピークCを有する、固体電解質。
【請求項2】
CuKα1線を用いたX線回折装置により測定されるX線回折パターンにおいて、2θ=24.2°以上26.2°以下の範囲にピークMを有し、
前記ピークAの強度をIとし、前記ピークMの強度をIとしたとき、前記Iに対する前記Iの比(I/I)が0.005以上であり0.03未満である、請求項1に記載の固体電解質。
【請求項3】
CuKα1線を用いたX線回折装置により測定されるX線回折パターンにおいて、2θ=24.2°以上26.2°以下の範囲にピークMを有し、
前記ピークBの強度をIとし、前記ピークMの強度をIとしたとき、前記Iに対する前記Iの比(I/I)が0.002以上であり0.025以下である、請求項1又は2に記載の固体電解質。
【請求項4】
CuKα1線を用いたX線回折装置により測定されるX線回折パターンにおいて、2θ=24.2°以上26.2°以下の範囲にピークMを有し、
前記ピークCの強度をIとし、前記ピークMの強度をIとしたとき、前記Iに対する前記Iの比(I/I)が0.001以上であり0.012以下である、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の固体電解質。
【請求項5】
CuKα1線を用いたX線回折装置により測定されるX線回折パターンにおいて、2θ=32.0°以上35.3°以下の範囲にピークDを有し、2θ=24.2°以上26.2°以下の範囲にピークMを有し、
前記ピークDの強度をIとし、前記ピークMの強度をIとしたとき、前記Iに対する前記Iの比(I/I)が0.21未満である、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の固体電解質。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか一項に記載の固体電解質と、活物質とを含む電極合剤。
【請求項7】
正極層と、負極層と、前記正極層及び前記負極層の間の固体電解質層とを有する電池であって、請求項1ないし5のいずれか一項に記載の固体電解質を含む電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固体電解質に関する。また本発明は、該固体電解質を含む電極合剤及び電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン伝導性を有する固体電解質として種々の硫化物材料が知られている。例えば非特許文献1には、酸素をドープしたLiPSBr、すなわちLiPS5-XBr(0≦x≦1)を固体電解質として用いることが記載されている。同文献の記載によれば、LiPSBrに酸素をドープすることで、デンドライトの発生が抑制され、電気化学的安定性及び化学的安定性が向上するとされている。また、同文献の記載によれば、LiPS5-XBrは、主たる結晶相がアルジロダイト相であり、ドープされた酸素は一定量であればアルジロダイト相中の硫黄サイトに置換され、前記のような効果が得られるとされている。更に置換できる酸素の量を超えてドープすると不純物であるリン酸リチウムや臭化リチウムが生成するとともに、イオン伝導率が低下することが記載されており、不純物であるリン酸リチウムや臭化リチウムの生成は忌避されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Journal of Power Sources 410-411 (2019) 162-170
【発明の概要】
【0004】
例えば、上述した非特許文献1のように、リチウムイオン伝導性の高い固体電解質について種々の検討がなされている。一方、近年では、リチウムイオン伝導性を維持しつつ、固体電池に用いた場合に優れた電池特性を得ることが可能な固体電解質が求められている。したがって本発明の課題は、リチウムイオン伝導性を維持しつつ、固体電池に用いた場合に優れた電池特性を得ることが可能な固体電解質を提供することにある。
【0005】
本発明は、少なくともリチウム(Li)元素、リン(P)元素、硫黄(S)元素、ハロゲン(X)元素及び酸素(O)元素を含有し、
アルジロダイト型結晶構造を有する結晶相を含み、
リン(P)元素に対するハロゲン(X)元素のモル比(X/P)が1.0より大きく2.4より小さく、
リン(P)元素に対する酸素(O)元素のモル比(O/P)が0より大きく0.5より小さく、
CuKα1線を用いたX線回折装置により測定されるX線回折パターンにおいて、2θ=21.6°以上22.6°以下の範囲にピークAを有し、2θ=22.7°以上23.7°以下の範囲にピークBを有し、2θ=35.8°以上36.8°以下の範囲にピークCを有する、固体電解質を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、実施例2で得られた固体電解質のX線回折パターンを示すグラフである。
図2図2は、実施例4で得られた固体電解質のX線回折パターンを示すグラフである。
図3図3は、比較例1で得られた固体電解質のX線回折パターンを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の固体電解質は、少なくともリチウム(Li)元素、リン(P)元素、硫黄(S)元素、ハロゲン(X)元素及び酸素(O)元素を含有するものである。本発明の固体電解質は、典型的には硫化物固体電解質である。これらの元素を含有する本発明の固体電解質は結晶性化合物であることが好ましい。結晶性化合物とは、X線回折法(以下「XRD」ともいう。)による測定を行った場合に、結晶相に起因する回折ピークが観察される物質のことである。固体電解質は特にアルジロダイト型結晶構造を有する結晶相を含むことが、固体電解質のリチウムイオン伝導性を高め得る点から好ましい。
【0008】
アルジロダイト型結晶構造とは化学式:AgGeSで表される鉱物に由来する化合物群が有する結晶構造である。本発明の固体電解質がアルジロダイト型結晶構造の結晶相を有しているか否かは、XRDによる測定などによって確認できる。例えばCuKα1線を用いたXRDによって測定される回折パターンにおいて、アルジロダイト型結晶構造の結晶相は、2θ=15.3°±1.0°、17.7°±1.0°、25.2°±1.0°、30.0°±1.0°、30.9°±1.0°及び44.3°±1.0°に特徴的な回折ピークを示す。また、固体電解質を構成する元素種によっては、前記回折ピークに加えて、2θ=47.2°±1.0°、51.7°±1.0°、58.3°±1.0°、60.7°±1.0°、61.5°±1.0°、70.4°±1.0°及び72.6°±1.0°に特徴的な回折ピークを示す場合もある。アルジロダイト型結晶構造に由来する回折ピークの同定には、例えばPDF番号00-034-0688のデータを用いることができる。
【0009】
本発明の固体電解質においては、リン(P)元素に対するハロゲン(X)元素のモル比(X/P)が比較的高い値に設定されている。具体的にはモル比(X/P)が好ましくは1.0より大きく2.4より小さい値に設定されている。モル比(X/P)がこの範囲に設定されており、且つ後述するXRDピークを有する固体電解質は、満足すべきリチウムイオン伝導性を維持しつつ、固体電池に用いた場合に優れた電池特性を示すものとなる。この利点を一層顕著なものとする観点から、モル比(X/P)は例えば1.2以上であることが好ましく、1.4以上であることが一層好ましい。一方、前記モル比(X/P)は、例えば2.2以下であることが好ましく、2.0以下であることが一層好ましく、1.6以下であることがより一層好ましい。モル比(X/P)は、例えばICP発光分光測定によって測定することができる。なお、ICP発光分光測定の詳細な説明は、後述する実施例に記載の内容と同様とすることができるため、ここでの記載は省略する。
【0010】
固体電解質を構成する元素の一つであるハロゲン(X)元素としては、例えば、フッ素(F)元素、塩素(Cl)元素、臭素(Br)元素、及びヨウ素(I)元素を挙げることができる。ハロゲン(X)元素は、これらの元素のうちの1種であってもよく、あるいは2種以上の組み合わせであってもよい。後述するアルジロダイト型結晶構造が固相反応によって生成しやすくなり、リチウムイオン伝導性が高まる観点から、固体電解質は、ハロゲン(X)元素として少なくとも塩素(Cl)元素を含有していてもよく、臭素(Br)元素及び塩素(Cl)元素を含有していてもよい。また、リチウムイオン伝導性をより高める観点から、固体電解質は、ハロゲン(X)元素として少なくともヨウ素(I)元素を含んでいてもよく、ハロゲン(X)元素がヨウ素(I)元素であってもよい。
【0011】
固体電解質がハロゲン(X)元素として臭素(Br)元素及び塩素(Cl)元素を含有する場合、臭素(Br)元素のモル数と塩素(Cl)元素のモル数の合計に対する臭素(Br)元素の割合、すなわちBr/(Br+Cl)の値は、例えば0.2以上であることが好ましく、0.3以上であることが更に好ましく、0.4以上であることが一層好ましい。一方、前記Br/(Br+Cl)の値は、例えば0.8以下であることが好ましく、0.7以下であることが更に好ましく、0.6以下であることが一層好ましい。
臭素(Br)の導入はアルジロダイト型結晶構造を容易に形成できる一方で、臭素(Br)は塩素(Cl)や硫黄(S)に比べてイオン半径が大きいため、アルジロダイト型結晶構造へのハロゲン固溶量が少なくなると考えられる。したがって、上述のとおりBr/(Br+Cl)を適切に調整することで、アルジロダイト型結晶構造を容易に生成しつつ、アルジロダイト型結晶構造により多くのハロゲン元素を固溶させることができる。その結果、固体電解質のリチウムイオン伝導性を一層高めることができる。アルジロダイト型結晶構造においてハロゲン固溶量が増加することは、結晶構造内のリチウムサイトの占有率が低下することに対応する。このことによってリチウムイオン伝導性が向上すると考えられる。
【0012】
本発明の固体電解質は、XRDによる測定を行った場合、これまでに知られている固体電解質とは異なるX線回折パターンを示す。具体的には、本発明の固体電解質は、CuKα1線を用いたXRDにより測定されるX線回折パターンにおいて、2θ=21.6°以上22.6°以下の範囲にピークAを有し、2θ=22.7°以上23.7°以下の範囲にピークBを有し、2θ=35.8°以上36.8°以下の範囲にピークCを有する。
ここで、「ピークを有する」とは、所定の2θの範囲内においてピークトップを有することを意味する。また、「ピークトップ」とは、強度が極大値を示すピークの頂点を意味する。
【0013】
ピークAに関しては、2θ=21.6°以上22.6°以下の範囲にピークトップを有するピークが1個又は2個以上観察される。ピークBに関しては、2θ=22.7°以上23.7°以下の範囲にピークトップを有するピークが1個又は2個以上観察される。ピークCに関しては、2θ=35.8°以上36.8°以下の範囲にピークトップを有するピークが1個又は2個以上観察される。
XRDにより測定されるX線回折パターンにおいてピークA、ピークB及びピークCが観察され、且つ上述したモル比(X/P)を有する固体電解質は、満足すべきリチウムイオン伝導性を維持しつつ、固体電池に用いた場合に該固体電池が優れた電池特性を示すものとなる。
【0014】
前記のピークA、ピークB及びピークCは、アルジロダイト型結晶構造に由来する回折ピークではなく、他の結晶構造を有する物質に由来する回折ピークである。この物質が、固体電解質と活物質との間の界面抵抗を低下させて、本発明の固体電解質を固体電池に用いた場合に該固体電池が優れた電池特性を示すものとなるのではないかと本発明者は考えている。
【0015】
XRDにより測定されるX線回折パターンにおいて前記のピークA、ピークB及びピークCが観察される固体電解質は、後述する方法によって好適に製造される。この方法によれば、原料に酸素(O)元素を含む化合物を用いていることに起因して、製造される固体電解質にも酸素(O)元素が含まれる。つまり、本発明の固体電解質は、リチウム(Li)元素、リン(P)元素、硫黄(S)元素、ハロゲン(X)元素を含有することに加えて、酸素(O)元素を含有する。固体電解質における酸素(O)元素の存在状態は現時点では明確でない。理論に拘束されるものではないが、本発明者は、(i)酸素(O)元素は、前記のピークA、ピークB及びピークCに由来する物質中に含まれているか、(ii)アルジロダイト型結晶構造中の硫黄(S)元素と置換されているか、又は(i)及び(ii)の両者であるか、のいずれかであると推測している。
【0016】
(i)の場合には、前記のピークA、ピークB及びピークCに由来する物質に起因して、本発明の固体電解質を固体電池に用いた場合に該固体電池が優れた電池特性を示すと考えられる。この物質が如何なるものであるかについては推測の域を出ないが、後述する固体電解質の好適な製造方法を考慮すると、この物質はリン酸リチウム(LiPO)ではないかと本発明者は考えている。固体電池の課題の一つとして、非硫化物である活物質と硫化物固体電解質とが接触して反応した際に界面に高抵抗物が生成することで、電池の界面抵抗が増大することが知られている。固体電解質中にリン酸リチウムが存在すると、これが助剤的に作用して、活物質と硫化物固体電解質の接触性を確保しつつ高抵抗物の生成を抑制し、固体電解質と活物質との間の界面抵抗を低下させ、固体電池が優れた電池特性を示すようになると考えられる。またリン酸リチウムは、それ自体がリチウムイオン伝導性を有しているので、リン酸リチウムが硫化物固体電解質粒子間に存在する場合には、固体電解質自体のリチウムイオン伝導性の向上に資すると考えられる。
【0017】
前記のようなメカニズムを実現させるための好適な手法としては、固体電解質粒子に微粒のリン酸リチウム粒子を一定量の割合で均一に分散させることが一例として挙げられる。好ましい手法は、後述する固体電解質の製造方法のように、固相反応における副生成物としてリン酸リチウムを析出させ固体電化質-リン酸リチウム複合体とすることである。この手法によれば、微粒のリン酸リチウムを固体電解質粒子の間に均一に分散させることが可能である。
【0018】
(ii)の場合には、硫黄(S)元素が酸素(O)元素と置換されることに起因する混合アニオン効果によって、固体電解質が満足すべきリチウムイオン伝導性を維持しつつ、該固体電解質を固体電池に用いた場合に該固体電池が優れた電池特性を示すと考えられる。
【0019】
上述した本発明の利点は、特に、リン(P)元素に対するハロゲン(X)元素のモル比(X/P)が高い場合に顕著となる。上述のとおり、リチウムイオン伝導性を向上させるためにはアルジロダイト型結晶構造へのハロゲン固溶量を多くする必要がある。この目的のために、例えば所定の原料を混合して焼成する固相反応によって固体電解質を製造するときに、原料のリチウム化合物中のハロゲン化リチウムの比率を高くして、アルジロダイト型結晶構造へのハロゲン固溶量を高めようとすることが行われる。しかしながらハロゲン化リチウムは他の原料と比較して結晶性が高く硬いことに起因して、機械的混合による均一な分散が難しい。その結果、固相反応によってアルジロダイト型結晶構造中に十分な量のハロゲンを固溶させることは容易でなく、未反応のハロゲン化リチウムが異相として残存してしまう場合が散見される。
【0020】
これに対して本発明においては、原料中及び固体電解質中に一定量の酸素(O)元素を含有させることで、固相反応によるアルジロダイト型結晶構造中へのハロゲンの固溶を促進させ、未反応のハロゲン化リチウムの量、すなわち異相量を低減させ得る効果が奏される。このメカニズムは明確ではないが、発明者は以下のように考えている。
焼成過程における固相反応のメカニズムとして、まずアルジロダイト型結晶構造の基本骨格であるLiPS構造が形成され、更に硫黄やハロゲンが取り込まれアルジロダイト型結晶構造が形成されることが知られている。しかしながら原料中のハロゲン化リチウムの割合を多くすると、相対的に硫化リチウムの量が少なくなり、全体の硫黄(S)元素の割合が低下する。このことに起因してハロゲンが取り込まれるよりも先にLiPS構造が崩れて、安定な構造であるLi構造やLi構造に変化してしまい、固溶できないハロゲンがハロゲン化リチウムという異相として残存する。この場合、原料中に一定量の酸素(O)元素が存在すると、酸素(O)元素の一部がリン(P)元素と結合してLiPO構造などが形成されるので、硫黄(S)元素が不足した状態であってもLiPS構造がLi構造やLi構造へ変化することが抑制されると考えられる。更に、副生成物であるリン酸リチウム等の酸化物が焼結助剤的な働きをして、ハロゲン元素や硫黄(S)元素の物質拡散を促し且つ固相反応が促進される効果も期待される。
【0021】
本発明の固体電解質においては、リン(P)元素に対する酸素(O)元素のモル比(O/P)が、例えば0より大きくてもよく、0.11より大きくてもよく、0.17より大きくてもよく、0.19より大きくてもよい。一方、前記モル比(O/P)は、例えば0.5より小さくてもよく、0.47以下であってもよく、0.45以下であってもよい。本発明の固体電解質が前記モル比(O/P)を有することにより、該固体電解質を固体電池に用いた場合に優れた電池特性を示すことができる。
なお、モル比(O/P)における酸素(O)元素のモル量は、例えば不活性ガス融解-赤外線吸収法やガスクロマトグラフィーなどにより測定することができる。中でも簡便且つ精度が高い点から不活性ガス融解-赤外線吸収法が広く用いられる。また、P元素のモル量はICP発光分光測定によって測定される。
【0022】
上述のとおり、前記のピークA、ピークB及びピークCを示す物質の存在が一因となり、固体電池が優れた電池特性を示すようになると考えられる。尤も、当該物質は、アルジロダイト型結晶構造を有する結晶相とは異相のものなので、多量に存在することは、アルジロダイト型結晶構造を有する結晶相に起因するリチウムイオン伝導性を減殺する可能性がある。そこで本発明においては、CuKα1線を用いたXRDにより測定されるX線回折パターンにおいて、2θ=24.2°以上26.2°以下の範囲に観察されるピークM(このピークは、上述のとおりアルジロダイト型結晶構造に由来するものである。)の強度をIMとし、前記ピークの強度をIAとしたとき、前記IMに対する前記IAの比(IA/IM)が、例えば0.03未満であることが好ましく、0.025以下であることが更に好ましく、0.02以下であることが一層好ましい。XRDの回折ピーク強度は、その物質の存在量に概ね比例するから、IA/IMが前記の範囲内であるということは、アルジロダイト型結晶構造を有する結晶相以外の異相の存在量が、アルジロダイト型結晶構造を有する結晶相の存在量よりも相対的に低いことを意味する。一方、IA/IMは、本発明の所期の効果が奏される範囲で適宜決定することができ、0より大きいことが好ましく、0.005以上であることが更に好ましい。なお、アルジロダイト型結晶構造に由来する種々のピークのうち、2θ=24.2°以上26.2°以下の範囲に観察されるピークMに着目した理由は、ピークMの強度が最も強い部類に入ることによるものである。
【0023】
上述の説明はピークAに関してのものであるが、ピークB及びピークCについては以下に述べるとおりであることが、ピークAについて述べた理由と同様の理由によって好ましい。
前記ピークBの強度をIとし、前記ピークMの強度をIとしたとき、前記Iに対する前記Iの比(I/I)が0.025以下であることが好ましく、0.02以下であることが更に好ましく、0.015以下であることが一層好ましい。
前記ピークCの強度をIとし、前記ピークMの強度をIとしたとき、前記Iに対する前記Iの比(I/I)は0.012以下であることが好ましく、0.011以下であることが更に好ましく、0.01以下であることが一層好ましい。
/I及びI/Iはそれぞれ、本発明の所期の効果が奏される範囲で適宜決定することができ、I/Iに関しては0より大きいことが好ましく、中でも0.002以上であることが好ましく、I/Iに関しては0より大きいことが好ましく、中でも0.001以上であることが好ましい。
【0024】
上述したI、I、I及びIは、XRDにより測定されるX線回折パターンにおけるピークA、B、C及びMの面積(つまり積分強度)のうちバックグラウンドに相当する部分を除いたものである。また、本発明において、XRDの測定では線源としてすべてCuKα1線を用いる。
【0025】
なお、ピークAが2個以上存在する場合には、当該2個以上存在するピークのうちの少なくとも1個のIが上述した所定の比を満たしていればよく、中でも当該2個以上存在するピークのうちの最大強度を示すIが上述した所定の比を満たすことが好ましく、特に当該2個以上のピークのすべてのIが上述した所定の比を満たすことが好ましい。I、I及びIについても同様である。
【0026】
本発明の固体電解質が、アルジロダイト型結晶構造の結晶相を有することが好ましいこと、並びに、ピークA、ピークB及びピークCが観察される物質を含むことが好ましいことは上述のとおりであるところ、固体電解質は他の結晶構造の結晶相を有していないことも好ましい。あるいは他の結晶構造の結晶相を有しているとしても、その存在割合が低いことが好ましい。例えば、XRDにより測定されるX線回折パターンにおいて、2θ=32.0°以上35.3°以下の範囲にピークDが観察される場合があるところ、このピークDはアルジロダイト型結晶構造に由来するものではない。ピークDが観察される固体電解質は、当該ピークが観察されない固体電解質に比べてリチウムイオン伝導性が低くなる傾向にある。したがって、固体電解質のリチウムイオン伝導性を高める観点から、ピークDの強度をIとしたとき、Iに対するIの比(I/I)が好ましくは0.21未満であるように固体電解質の結晶相の存在状態を制御することが好ましい。I/Iは更に好ましくは0.18以下、一層好ましくは0.16以下である。I/Iは小さければ小さいほどリチウムイオン伝導性を向上させる観点から有利であり、0より大きくてもよいが理想的にはゼロである。
【0027】
本発明の固体電解質においては、前記ピークDに加えて、2θ=28.6°以上29.6°以下の範囲にピークEが観察される場合がある。このピークEもアルジロダイト型結晶構造に由来するものではない。ピークEが観察される固体電解質は、当該ピークが観察されない固体電解質に比べてリチウムイオン伝導性が低くなる傾向にある。したがって、固体電解質のリチウムイオン伝導性を高める観点から、ピークEの強度をIとしたとき、Iに対するIの比(I/I)が好ましくは0.30以下であるように固体電解質の結晶相の存在状態を制御することが好ましい。I/Iは更に好ましくは0.28以下、一層好ましくは0.25以下、より一層好ましくは0.16以下、更には0.13以下である。I/Iは小さければ小さいほどリチウムイオン伝導性を向上させる観点から有利であり、理想的にはゼロである。
【0028】
前記のピークD及びピークEが如何なる物質に由来するものであるかは明確でないが、これらのピークは、本発明の固体電解質を製造するときの原料でありアルジロダイト型結晶構造中に固溶しきらなかったハロゲン化リチウムに由来するものではないかと本発明者は考えている。
【0029】
本発明の固体電解質は、上述のとおり、リチウム(Li)元素、リン(P)元素、硫黄(S)元素、及びハロゲン(X)元素を含み、場合によっては酸素(O)元素を含むものであるところ、これらの元素以外の元素を含んでいてもよい。例えば、リチウム(Li)元素の一部を他のアルカリ金属元素に置き換えたり、リン(P)元素の一部を他のプニクトゲン元素に置き換えたり、あるいは硫黄(S)元素の一部を他のカルコゲン元素に置き換えたりすることができる。
【0030】
本発明の固体電解質は、リチウム(Li)元素、リン(P)元素、硫黄(S)元素、ハロゲン(X)元素、及び酸素(O)元素以外に、本発明の効果を損なわない限りにおいて不可避不純物を含むことが許容される。不可避不純物の含有量は、固体電解質の性能への影響が低いという観点から、例えば高くても5mol%未満、好ましくは3mol%未満、特に好ましくは1mol%未満とすることができる。
【0031】
本発明の固体電解質は、固体の状態においてリチウムイオン伝導性を有するものである。固体電解質は好ましくは室温、すなわち25℃で0.5mS/cm以上のリチウムイオン伝導性を有することが好ましく、1.5mS/cm以上のリチウムイオン伝導性を有することが好ましく、中でも2.5mS/cm以上のリチウムイオン伝導性を有することが好ましい。リチウムイオン伝導性は、後述する実施例に記載の方法を用いて測定できる。
【0032】
次に、本発明の固体電解質の好適な製造方法について説明する。本発明における固体電解質の製造方法は、少なくともリチウム(Li)元素、リン(P)元素、硫黄(S)元素、ハロゲン(X)元素及び酸素(O)元素を含有する原料組成物を準備する工程と、前記原料組成物を焼成する工程とを有する。
【0033】
固体電解質は、所定の元素を含有する原料組成物を焼成に付すことによる固相反応によって製造することが好ましい。前記原料組成物は、所定の原料を混合することにより得ることができる。前記の原料は、固体電解質を構成する元素を含む物質のことであり、詳細には、リチウム(Li)元素を含有する化合物、硫黄(S)元素を含有する化合物、及びリン(P)元素を含有する化合物、ハロゲン(X)元素を含有する化合物、及び酸素(O)元素を含有する化合物のことである。
【0034】
リチウム(Li)元素を含有する化合物としては、例えば硫化リチウム(LiS)、酸化リチウム(LiO)、炭酸リチウム(LiCO)等のリチウム化合物、及びリチウム金属単体等を挙げることができる。
硫黄(S)元素を含有する化合物としては、例えば三硫化ニリン(P)、五硫化二リン(P)等の硫化リン等を挙げることができる。また、硫黄(S)元素を含有する化合物として、硫黄(S)単体を用いることもできる。
リン(P)元素を含有する化合物としては、例えば三硫化ニリン(P)、五硫化二リン(P)等の硫化リン、リン酸ナトリウム(NaPO)等のリン化合物、及びリン単体等を挙げることができる。
【0035】
X(ハロゲン)元素を含有する化合物としては、フッ素(F)元素、塩素(Cl)元素、臭素(Br)元素及びヨウ素(I)元素からなる群から選択される1種又は2種以上の元素と、ナトリウム(Na)元素、リチウム(Li)元素、ホウ素(B)元素、アルミニウム(Al)元素、ケイ素(Si)元素、リン(P)元素、硫黄(S)元素、ゲルマニウム(Ge)元素、ヒ素(As)元素、セレン(Se)元素、スズ(Sn)元素、アンチモン(Sb)元素、テルル(Te)元素、鉛(Pb)元素及びビスマス(Bi)元素からなる群から選択される1種又は2種以上の元素との化合物、又は、当該化合物に更に酸素又は硫黄が結合した化合物を挙げることができる。より具体的には、LiF、LiCl、LiBr、LiI等のハロゲン化リチウム、PF、PF、PCl、PCl、POCl、PBr、POBr、PI、PCl、P等のハロゲン化リン、SF、SF、SF、S10、SCl、SCl、SBr等のハロゲン化硫黄、NaI、NaF、NaCl、NaBr等のハロゲン化ナトリウム、BCl、BBr、BI等のハロゲン化ホウ素などを挙げることができる。これらの化合物は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、ハロゲン化リチウム(LiX(Xはハロゲンを表す。))を用いることが好ましい。
【0036】
酸素(O)元素を含有する化合物としては、上述した酸化リチウム(LiO)、炭酸リチウム(LiCO)、リン酸ナトリウム(NaPO)、及びPOClなどが挙げられる。
【0037】
上述した各原料を混合する装置としては、例えばアトライター、ペイントシェーカー、遊星ボールミル、ボールミル、ビーズミル、ホモジナイザー等を用いることができる。各原料の混合に際しての添加量は、目的とする固体電解質の組成を満たすように適宜調整される。
【0038】
得られた原料組成物を焼成に付して固相反応を生じさせ、アルジロダイト型結晶構造を有する結晶相を含む固体電解質が得られる。焼成雰囲気は、例えばアルゴン雰囲気や窒素雰囲気などの不活性ガス雰囲気、及び硫化水素雰囲気を用いることができる。これらの雰囲気のうち、前記のピークA、ピークB及びピークCを有する固体電解質を得る観点から、固体電解質中に酸素が取り込まれやすい雰囲気である不活性ガス雰囲気を採用することが好ましい。
【0039】
焼成温度は、原料組成物の固相反応を確実に生じさせる観点から、例えば300℃以上であることが好ましく、350℃以上であることが更に好ましく、400℃以上であることが一層好ましい。一方、焼成温度は、工業的な生産可能性、及び経済性を考慮すると、例えば700℃以下であることが好ましく、600℃以下であることが更に好ましく、550℃以下であることが一層好ましい。
【0040】
焼成時間は臨界的でなく、目的とする組成の固体電解質が得られる時間であればよい。具体的には、原料組成物の固相反応が十分に生じる程度の焼成時間であることが好ましい。焼成時間は、例えば30分以上であってもよく、2時間以上であってもよく、3時間以上であってもよい。一方、焼成時間は、例えば10時間以下であってもよく、5時間以下であってもよい。
【0041】
焼成後には、焼成物を必要に応じて解砕粉砕し、更に必要に応じて分級してもよい。例えば、遊星ボールミル、振動ミル、転動ミル等の粉砕機、混練機等を使用して、粉砕ないし解砕することが好ましい。
【0042】
このようにして得られた固体電解質は、それ単独で又は他の固体電解質と混合して用いることができる。固体電解質は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積粒度分布によるD50が0.1μm以上250μm以下であることが好ましい。固体電解質のD50が0.1μm以上であることによって、固体電解質の表面積が過度に増えることが抑制され、抵抗増大を抑制でき、また活物質との混合を容易にすることができる。他方、固体電解質のD50が250μm以下であることによって、例えば固体電解質と他の固体電解質とを組み合わせて用いる場合に、両者を最密充填させやすくなる。それによって、固体電解質どうしの接触点及び接触面積が大きくなり、イオン伝導性の向上を図ることができる。かかる観点から、固体電解質のD50は、例えば0.3μm以上であることが好ましく、特に0.5μm以上であることが好ましい。一方、固体電解質のD50は、例えば150μm以下であることが好ましく、中でも70μm以下であることが好ましく、特に50μm以下であることが好ましい。
【0043】
本発明の固体電解質は、固体電解質層、正極層又は負極層を構成する材料として用いることができる。具体的には、正極層と、負極層と、正極層及び負極層の間の固体電解質層とを有する電池に、本発明の固体電解質を用いることができる。つまり固体電解質は、いわゆる固体電池に用いることができる。より具体的には、リチウム固体電池に用いることができる。リチウム固体電池は、一次電池であってもよく、あるいは二次電池であってもよい。電池の形状に特に制限はなく、例えばラミネート型、円筒型及び角型等の形状を採用することができる。「固体電池」とは、液状物質又はゲル状物質を電解質として一切含まない固体電池のほか、例えば50質量%以下、30質量%以下、10質量%以下の液状物質又はゲル状物質を電解質として含む態様も包含する。
【0044】
固体電解質層に本発明の固体電解質が含まれる場合、該固体電解質層は、例えば固体電解質とバインダー及び溶剤からなるスラリーを基体上に滴下し、ドクターブレードなどで擦り切る方法、基体とスラリーとを接触させた後にエアーナイフで切る方法、スクリーン印刷法等で塗膜を形成し、その後加熱乾燥を経て溶剤を除去する方法等で製造できる。あるいは、粉末状の固体電解質をプレス等によって圧粉体とした後、適宜加工して製造することもできる。
固体電解質層の厚さは、短絡防止と体積容量密度とのバランスから、典型的には5μm以上300μm以下であることが好ましく、中でも10μm以上100μm以下であることが更に好ましい。
【0045】
本発明の固体電解質は、活物質ともに用いられて電極合剤を構成することもできる。電極合剤における固体電解質の割合は、典型的には10質量%以上50質量%以下である。電極合剤は、必要に応じて導電剤やバインダー等のほかの材料を含んでもよい。電極合剤と溶剤とを混合してペーストを作製し、アルミニウム箔等の集電体上に塗布、乾燥させることによって正極層及び負極層を作製できる。
【0046】
正極層を構成する正極材としては、リチウムイオン電池の正極活物質として使用されている正極材を適宜使用可能である。例えばリチウムを含む正極活物質、具体的にはスピネル型リチウム遷移金属酸化物及び層状構造を備えたリチウム金属酸化物等を挙げることができる。正極材として高電圧系正極材を使用することで、エネルギー密度の向上を図ることができる。正極材には、正極活物質のほかに、導電化材を含ませてもよく、あるいは他の材料を含ませてもよい。
【0047】
負極層を構成する負極材としては、リチウムイオン電池の負極活物質として使用されている負極材を適宜使用可能である。本発明の固体電解質は電気化学的に安定であることから、リチウム金属又はリチウム金属に匹敵する卑な電位(約0.1V対Li/Li)で充放電する材料であるグラファイト、人造黒鉛、天然黒鉛、難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)などの炭素系材料を負極材として使用できる。それによって固体電池のエネルギー密度を大きく向上させ得る。また、高容量材料として有望なケイ素又はスズを活物質として使用することもできる。一般的な電解液を用いた電池では、充放電に伴い電解液と活物質が反応し、活物質表面に腐食が生じることに起因して電池特性の劣化が著しい。このこととは対照的に、電解液の代わりに本発明の固体電解質を用い、負極活物質にケイ素又はスズを用いると、上述した腐食反応が生じないので電池の耐久性の向上を図ることができる。負極材についても、負極活物質のほかに導電化材を含ませてもよく、あるいは他の材料を含ませてもよい。
【実施例
【0048】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0049】
〔実施例1〕
以下の表1に示す仕込み組成となるように、硫化リチウム(LiS)粉末と、酸化リチウム(LiO)粉末と、五硫化二リン(P)粉末と、塩化リチウム(LiCl)粉末と、臭化リチウム(LiBr)粉末とを、全量で5gとなるようにそれぞれ秤量した。これらの粉末に10mLのヘプタンを加えてスラリーを調製した。このスラリーを遊星ボールミル装置に入れた。メディアとして直径10mmのZrO製ボールを用いた。ボールミル装置の運転条件は100rpmとし、10時間にわたって混合を行った。得られた混合物をアルゴン雰囲気下に500℃で4時間にわたり焼成した。このようにして固体電解質を得た。なお、得られた固体電解質を、後述する評価4に基づきリチウムイオン伝導率を測定したところ、3.6mS/cmであった。
【0050】
〔実施例2ないし4〕
以下の表1に示す仕込み組成となるように、硫化リチウム(LiS)粉末と、酸化リチウム(LiO)粉末と、五硫化二リン(P)粉末と、塩化リチウム(LiCl)粉末と、臭化リチウム(LiBr)粉末とを混合した。それ以外は実施例1と同様にして固体電解質を得た。なお、得られた固体電解質を、後述する評価4に基づきリチウムイオン伝導率を測定したところ、実施例2から実施例4の順に、3.8mS/cm、3.4mS/cm及び2.9mS/cmであった。
【0051】
〔比較例1〕
本比較例では酸化リチウム(LiO)粉末を用いなかった。以下の表1に示す仕込み組成となるように、硫化リチウム(LiS)粉末と、五硫化二リン(P)粉末と、塩化リチウム(LiCl)粉末と、臭化リチウム(LiBr)粉末とを混合した。それ以外は実施例1と同様にして固体電解質を得た。なお、得られた固体電解質を、後述する評価4に基づきリチウムイオン伝導率を測定したところ、3.1mS/cmであった。
【0052】
〔比較例2〕
本比較例は非特許文献1の固体電解質に対応する固体電解質を製造した例である。以下の表1に示す仕込み組成となるように、硫化リチウム(LiS)粉末と、酸化リチウム(LiO)粉末と、五硫化二リン(P)粉末と、臭化リチウム(LiBr)粉末とを混合した。それ以外は実施例1と同様にして固体電解質を得た。なお、得られた固体電解質を、後述する評価4に基づきリチウムイオン伝導率を測定したところ、1.1mS/cmであった。
【0053】
〔比較例3〕
本比較例は、モル比(X/P)が高い固体電解質を製造した例である。以下の表1に示す仕込み組成となるように、硫化リチウム(LiS)粉末と、酸化リチウム(LiO)粉末と、五硫化二リン(P)粉末と、塩化リチウム(LiCl)粉末と、臭化リチウム(LiBr)粉末とを混合した。それ以外は実施例1と同様にして固体電解質を得た。なお、得られた固体電解質を、後述する評価4に基づきリチウムイオン伝導率を測定したところ、1.8mS/cmであった。
【0054】
〔比較例4〕
本比較例は、モル比(X/P)が低い固体電解質を製造した例である。以下の表1に示す仕込み組成となるように、硫化リチウム(LiS)粉末と、酸化リチウム(LiO)粉末と、五硫化二リン(P)粉末と、塩化リチウム(LiCl)粉末と、臭化リチウム(LiBr)粉末とを混合した。それ以外は実施例1と同様にして固体電解質を得た。なお、得られた固体電解質を、後述する評価4に基づきリチウムイオン伝導率を測定したところ、1.0mS/cmであった。
【0055】
〔評価1〕
実施例及び比較例で得られた固体電解質について、ICP発光分光測定及び不活性ガス融解-赤外線吸収法を行いX/P及びO/Pのモル比を算出した。その結果を表1に示す。
P及びXのモル量についてはICP発光分光測定により算出した。ICP発光分光測定の詳細は次のとおりである。
固体電解質の粉末を、アルゴン雰囲気中で秤量して採取した。採取した粉末にアルカリ溶剤(過酸化ナトリウム)を添加してアルカリ溶融させて試料を得た。溶融した試料を水に溶解させた後、適宜酸(硝酸)を添加して希釈し測定溶液とした。この測定溶液中のP及びXのモル量を、シーケンシャル型ICP-OES装置(日立ハイテクサイエンス社製SPS3500DD)によって測定した。
検量線溶液は、リンについてはICP測定用1000mg/L標準溶液を用いて調製し、塩素及び臭素についてはイオンクロマトグラフ用1000mg/L標準溶液を用いて調製した。各試料で2回測定を行い、その2つの測定値の平均で各元素の割合を決定した。
Oのモル量については、不活性ガス融解-赤外線吸収法によって算出した。不活性ガス融解-赤外線吸収法の詳細は次のとおりである。
固体電解質の粉末を、アルゴン雰囲気中で秤量してガス分析用ニッケルカプセル中に採取した。粉末が外気に触れないようニッケルカプセルに封をし、そのカプセルを脱硫機構が装備された酸素窒素水素分析装置(堀場製作所製EMGA930)に装着してOのモル量を測定した。測定時には脱硫を行うために金属製助剤(ニッケル)を添加した。
各試料で2回測定を行い、その2つの測定値の平均で酸素の割合を決定した。
【0056】
〔評価2〕
実施例及び比較例で得られた固体電解質について、XRD測定を行い、I/I、I/I、I/I、I/I、及びI/Iの値を算出した。その結果を表1に示す。また、実施例2及び4並びに比較例1のX線回折パターンをそれぞれ、図1図2及び図3に示す。
XRD測定は、株式会社リガク製のX線回折装置「Smart Lab」を用いて行った。測定条件は、大気非曝露、走査軸:2θ/θ、走査範囲:10°以上140°以下、ステップ幅0.01°、走査速度2°/minとした。X線源はヨハンソン型結晶を用いたCuKα1線とした。検出には一次元検出器を用いた。測定は21.3±1.0°の強度が100以上700以下のカウント数となるように実施した。また、10°以上140°以下の最大ピーク強度が1000以上のカウント数となるように実施した。
ピーク強度の算出にはリガク製プログラム「PDXL」を用いた。自動データ処理を行い、得られたピークリストからそれぞれの角度範囲に対応するピークの積分強度を読み取ることで算出を行った。設定条件としては「ピークサーチのσカット値」を3.0とし、その他は初期設定条件にて処理を実施した。
【0057】
〔評価3〕
実施例及び比較例で得られた固体電解質を用いて固体リチウム二次電池を作製した。作製した電池について、以下の方法で電池の直流抵抗を測定した。電池の作製手順及び直流抵抗の測定の詳細は以下に述べるとおりである。なお固体電解質は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積粒度分布によるD50が1μm以下となるよう適宜粉砕処理を行った後、電池作製に用いた。
【0058】
(1)負極合剤粉末の調製
負極合剤粉末は、グラファイトからなる負極活物質粉末、固体電解質粉末を、質量比で64:36の割合で乳鉢混合することで調製した。グラファイトの体積粒度分布によるD50は20μmであった。
【0059】
(2)負極の作製
前記で作製した負極合剤粉末を10MPaで一軸プレス成型して、負極ペレットを得た。
【0060】
(3)正極合剤粉末の調製
正極合剤粉末は、正極活物質粉末、固体電解質粉末及び導電剤(VGCF(登録商標))粉末を、質量比で60:37:3の割合で乳鉢混合することで調製した。また、ここで述べる正極活物質粉末には、NCM523を用いた。NCM523は、組成式:LiNi0.5Co0.2Mn0.3で示される粉末である。NCM523の体積粒度分布によるD50は2μmであった。
【0061】
(4)固体電池の作製
上下端が開口したセラミック製の円筒(開口径10mm)の下側開口部をSUS製の電極で閉塞した状態下に円筒内に0.05gの固体電解質を注いだ。上側開口部を電極で挟み、10MPaで一軸プレス成型し、電解質層を作製した。上側の電極を一度取り外し、電解質層上に正極合剤を注ぎ、平滑にならした後、上側の電極を再度装着し、42MPaで一軸プレス成型し、正極層と電解質層を圧着した。下側の電極を一度取り外し、負極ペレットを挿入し、下側の電極を再度装着し、上側電極と下側電極間を6N・mのトルク圧で4か所ねじ止めし、1mAh相当の固体電池を作製した。この際、固体電池の作製は、平均露点-70℃の乾燥空気で置換されたグローブボックス内で行った。
【0062】
(5)直流抵抗の測定
環境温度を25℃になるように設定した充放電装置に前記の固体電池をセットし電池温度が環境温度となるまで静置した。
1mAを1Cとして電池の充放電を行った。まず、0.1Cにて4.5Vまで定電流定電圧充電を行い、初回充電容量を得た。次に、0.1Cで2.5Vまで定電流放電し、初回放電容量を得た。初回充電容量及び初回放電容量の値から固体電池として動作していることを確認した。
次に、0.1Cで4.5Vまでの定電流定電圧充電及び0.1Cで2.5Vまでの定電流放電を1サイクルとし、2サイクル分の充放電を行った。
最後に、0.2Cで3.7Vまで定電流定電圧充電を行った後、直流抵抗(DC-IR)測定を行った。直流抵抗(DC-IR)測定の条件は、測定電流を5mA、測定時間を10秒とした。得られた直流抵抗の値を表1に示す。
【0063】
〔評価4〕
実施例及び比較例で得られた固体電解質について、以下の方法でリチウムイオン伝導率を測定した。
各固体電解質を、十分に乾燥されたアルゴンガス(露点-60℃以下)で置換されたグローブボックス内で、約6t/cmの荷重を加え一軸加圧成形し、直径10mm、厚み約1mm~8mmのペレットからなるリチウムイオン伝導率の測定用サンプルを作製した。リチウムイオン伝導率の測定は、株式会社東陽テクニカのソーラトロン1255Bを用いて行った。測定条件は、温度25℃、周波数100Hz~1MHz、振幅100mVの交流インピーダンス法とした。
【0064】
【表1】
【0065】
なお、表1に示す仕込み組成は、酸素(O)元素がアルジロダイト型結晶構造中の硫黄(S)元素と置換されていると仮定したときの組成である。
【0066】
表1に示す結果から明らかなとおり、各実施例で得られた固体電解質は、比較例の固体電解質よりも電池の直流抵抗を低下させ得るものであることが判る。
また、図1及び図2に示すとおり、実施例2及び4で得られた固体電解質はアルジロダイト型結晶構造の結晶相を有することが確認された。また、図示していないが、実施例1及び3で得られた固体電解質についても、実施例2及び4で得られた固体電解質と同様に、アルジロダイト型結晶構造の結晶相、並びにピークA、B及びCに由来する結晶相を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によれば、リチウムイオン伝導性を維持しつつ、固体電池に用いた場合に優れた電池特性を得ることが可能な固体電解質が提供される。
図1
図2
図3