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特許7329067アルミニウム製品の冷間圧延方法及び関連する冷間圧延設備
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-08
(45)【発行日】2023-08-17
(54)【発明の名称】アルミニウム製品の冷間圧延方法及び関連する冷間圧延設備
(51)【国際特許分類】
   B21B 45/02 20060101AFI20230809BHJP
   B21B 3/00 20060101ALI20230809BHJP
   B21B 1/22 20060101ALI20230809BHJP
【FI】
B21B45/02 310
B21B3/00 J
B21B1/22 L
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021557550
(86)(22)【出願日】2020-04-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-01
(86)【国際出願番号】 IB2020053337
(87)【国際公開番号】W WO2020208535
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2021-11-22
(31)【優先権主張番号】102019000005442
(32)【優先日】2019-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】510152666
【氏名又は名称】ダニエリ アンド シー.オフィス メカニケ エスピーエー
【氏名又は名称原語表記】DANIELI&C.OFFICINE MECCANICHE SPA
【住所又は居所原語表記】Via Nazionale,41-33042 Buttrio(UD),Italy
(74)【代理人】
【識別番号】100166338
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 正夫
(72)【発明者】
【氏名】バッツァロ ジャンルカ
(72)【発明者】
【氏名】セプルヴェレス クラウディオ
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-224141(JP,A)
【文献】特開平07-132314(JP,A)
【文献】特開2007-144514(JP,A)
【文献】特開平11-156405(JP,A)
【文献】特開2006-142348(JP,A)
【文献】特開2014-046356(JP,A)
【文献】特開2006-263739(JP,A)
【文献】特開2012-166260(JP,A)
【文献】特開2006-263741(JP,A)
【文献】特開2006-263740(JP,A)
【文献】特開2014-184441(JP,A)
【文献】米国特許第03783664(US,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0084627(KR,A)
【文献】山本普康ら,冷間タンデム圧延における先進率制御技術の開発,鉄と鋼,日本,日本鉄鋼協会,1987年08月01日,Vol.73, No.10,p.1358-1365
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金から作製される製品を、少なくとも1つの圧延スタンド(1)を介して冷間圧延する方法であって、前記少なくとも1つの圧延スタンド(1)に近接して、複数の第1の塗布手段(2)によって潤滑剤が前記製品に塗布され、前記潤滑剤は、油と水とのエマルションを含み、
前記少なくとも1つの圧延スタンド(1)の出力で測定された圧延される前記製品の送り速度vと、圧延作業中に測定された前記少なくとも1つの圧延スタンド(1)の作業ロール(3)の周速度vとの差をΔv=v-vとし、
前記差の設計値をΔv=vs0-vr0としたときに、
関係式[(Δv×vr0)/(v×Δv)]-1<L(式中、Lは0.0005~0.002の間の値に等しい)が満たされないたびに、前記関係式が再び満たされるまで、前記製品の送り方向を考慮して前記少なくとも1つの圧延スタンドの上流側で、前記少なくとも1つの圧延スタンドの近くに配置される複数の第2の塗布手段(6)であって前記製品の幅方向に沿って延びる複数の注入装置ノズルを含む複数の第2の塗布手段(6)によって、前記アルミニウム製品への油のみの塗布が提供され、
前記複数の第2の塗布手段(6)および前記複数の第1の塗布手段(2)が製品送り面に対向するように配置され、かつ、前記複数の第2の塗布手段(6)が、前記作業ロール(3)に近接しているが前記製品送り面から遠位側の位置に配置され、一方、前記複数の第1の塗布手段(2)が、前記作業ロール(3)から遠位側であるが前記製品送り面に近接する位置に配置されている、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
Lが0.001である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
圧延される前記製品の前記送り速度vが、断続的または連続的に、第1のセンサ(4)によって測定され、これにより第1のデータが生成され、前記作業ロール(3)の前記周速度vが、断続的または連続的に、第2のセンサ(5)によって測定され、これにより第2のデータが生成され、制御システムが、断続的または連続的に、前記第1のデータ及び前記第2のデータを受信し、前記関係式が満たされているかどうかを検証し、前記関係式が満たされていない場合に、前記複数の第2の塗布手段(6)を作動させる請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記油と水とのエマルションが、前記複数の第1の塗布手段(2)に供給する第1のタンク(7)に収容され、前記エマルションが混合される請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
アルミニウム又はアルミニウム合金の製品の圧延設備であって、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の圧延する方法を実行するように適合されており、
少なくとも1つの圧延スタンド(1)と、
前記少なくとも1つの圧延スタンド(1)の近くに配置され、油と水とのエマルションを前記製品に注入するように適合されている複数の第1の塗布手段(2)と
を含み、
第1のデータを検出するための第1センサ(4)であって、前記第1のデータは、前記少なくとも1つの圧延スタンド(1)を出る圧延される前記製品の送り速度vの値である第1センサ(4)と、
第2のデータを検出するための第2のセンサ(5)であって、前記第2のデータは、前記少なくとも1つの圧延スタンド(1)の作業ロール(3)の周速度vの値である第2のセンサ(5)と、
前記少なくとも1つの圧延スタンドの近くに配置され、前記製品の幅方向に沿って延びる複数の注入装置ノズルを含む、前記製品に油のみを注入するように適合されている複数の第2の塗布手段(6)と、
制御システム(20)であって、
前記第1のデータ及び前記第2のデータを受信し、
差Δv=v-vを計算し、
関係式[(Δv×vr0)/(v×Δv)]-1<L(式中、Δv=vs0-vr0は前記差の設計値であり、Lは0.0005~0.002の間の値に等しい)が満たされているかどうかを検証し、
前記関係式が満たされていない場合に、前記複数の第2の塗布手段(6)を作動させる
ように適合されている制御システム(20)と
を備え、
前記複数の第2の塗布手段(6)および前記複数の第1の塗布手段(2)が製品送り面に対向するように配置され、かつ、前記複数の第2の塗布手段(6)が、前記作業ロール(3)に近接しているが前記製品送り面から遠位側の位置に配置され、一方、前記複数の第1の塗布手段(2)が、前記作業ロール(3)から遠位側であるが前記製品送り面に近接する位置に配置されている、ことを特徴とする設備。
【請求項6】
前記エマルションを収容し、第1の投入装置(10)によって前記複数の第1の塗布手段(2)に供給するように適合されている第1のタンク(7)と、
油のみを収容し、任意に第2の投入装置(9)によって前記複数の第2の塗布手段(6)に供給するように適合されている第2のタンク(8)と
を備える請求項5に記載の設備。
【請求項7】
前記製品の送り方向を考慮して、前記少なくとも1つの圧延スタンド(1)の下流側で、かつ巻取りリール(12)の上流側に配置され、圧延された前記製品から水分を除去するように適合されている乾燥手段(11)が設けられている請求項5又は請求項6に記載の設備。
【請求項8】
1つ以上のリバーシブル圧延スタンド(1)の場合、前記第1の塗布手段(2)及び前記第2の塗布手段(6)の両方が、製品送り方向に沿って前記圧延スタンド(1)の両側に、かつ製品送り面の上下両方に配置されている請求項5から請求項7のいずれか1項に記載の設備。
【請求項9】
前後に配置された少なくとも2つの圧延スタンド(1)の場合、前記第1の塗布手段(2)及び前記第2の塗布手段(6)の両方が、各圧延スタンドの製品入力側のみに、かつ製品送り面の上下両方に配置されている請求項5から請求項7のいずれか1項に記載の設備。
【請求項10】
前記第2の塗布手段(6)と、前記圧延スタンド(1)の前記作業ロール(3)の回転軸を含む垂直面との間の距離は、D/4~3Dの間であり、Dは前記作業ロール(3)の直径であり、一方、前記第2の塗布手段(6)と前記製品送り面との間の距離は、D/10~D/2の間である、請求項5から請求項9のいずれか1項に記載の設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム、又はアルミニウム合金から作製される製品、特に帯板を圧延するために特別に設計された冷間圧延プロセス、及び関連する冷間圧延設備に関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦は、金属製品の塑性変形プロセスにおける重要なパラメータの1つである。潤滑は、とりわけ冷間加工において、特にアルミニウム又はその合金から作製される冷間圧延製品、例えば帯板等の場合に、金属表面の最終的な態様において重要な役割を果たす。
【0003】
現在、工業用アルミニウム冷間圧延機で広く使用されている潤滑剤は灯油(ケロシン)であり、この灯油は、圧延された帯板の表面にマークが残らず、その表面品質に影響を与えることがない。他方で、灯油の管理は難しく、第一に火災の危険性や作業者の健康面を考慮すると危険である。灯油は、圧延プロセスで発生するアルミニウム粉及びゴミを分離するために濾過もしなければならず、濾過は困難でコストがかかる。
【0004】
それゆえ、灯油の欠点は主に以下の通りである。
・火災の危険性が高く、関連して社会的コスト、保険料、生産停止のコストが発生すること。
・塑性変形によって発生する熱を除去する能力が低いこと。
・(石油の副産物であることから)本質的な毒性。
・圧延スタンドの外でも同様の複雑な管理(灯油を輸送、濾過、蒸留する必要がある)。
【0005】
より具体的には、灯油の使用は以下のことを意味する。
・作業者の安全のために、作業場からCOを除去することを意味する、高価なCO火災防止システムを使用すること。
・火災時にCOシステムが機械周辺の大気を飽和させてしまうため、機械の近くにいる作業者に酸素ボンベの常時携行を義務付けること。
・人の健康や環境に悪影響を及ぼす蒸気及びエアロゾルの存在。
・現在の灯油の価格は1リットルあたり1ユーロを超えており、圧延機では平均して年間数十万リットルの灯油を消費することを考えると、潤滑剤自体のコストが高いこと。
【0006】
このような状況では、環境に配慮しコストを抑制した安全な技術を得るために、アルミニウム製の冷間圧延製品のための技術を見直し、再設計することが非常に重要になる。
【0007】
さらに、アルミニウム帯板の冷間圧延プロセスでは、作業(圧延)ロールと材料とが直接接触して表面欠陥が発生するのを防ぐためのものである、潤滑剤の薄膜(数百ミリメートル)の完全性を圧延区画内で確保できない場合がある。これらのプロセスの1つ及び関連する設備は、特開平07-132314A号公報に記載されており、それぞれ請求項1及び請求項5のプリアンブルに対応している。
【0008】
それゆえ、上述の欠点を克服することができる革新的なプロセス及び関連設備を作る必要性が感じられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平07-132314A号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の第1の目的は、アルミニウム、又はその合金から作製される製品、特に帯板の圧延プロセスであって、より効率的な潤滑を可能にし、塑性変形によって発生する熱を除去する能力が高められており、作業環境の安全性が高められており、圧延作業後にも潤滑剤の管理が簡略化されているプロセスを提供することである。
【0011】
本発明の別の目的は、アルミニウム又はその合金から作製される製品を圧延するためのプロセスであって、圧延区画内の潤滑剤の薄膜の完全性を常に確保し、その結果、作業ロールとアルミニウム製品との間の直接的な接触を回避するプロセスを提供することである。
【0012】
本発明のさらなる目的は、アルミニウム、又はその合金から作製される製品のより効率的な圧延を可能にする関連圧延設備を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
それゆえ、本発明は、少なくとも1つの圧延スタンドを通過する(横切る)アルミニウム又はその合金から作製される製品を冷間圧延するプロセスであって、上記少なくとも1つの圧延スタンドの近くで複数の第1の塗布手段によって潤滑剤が上記製品に塗布され、この潤滑剤は、油と水とのエマルションを含み、かつ
上記少なくとも1つの圧延スタンドの出力で測定された圧延される製品の送り速度vと、圧延作業中に測定された上記少なくとも1つの圧延スタンドの作業ロールの周速度vとの差をΔv=v-vとし、
上記差の設計値をΔv=vs0-vr0としたときに、
関係式[(Δv×vr0)/(v×Δv)]-1<L(式中、Lは0.0005~0.002の間の値に等しい)が満たされないたびに、上記関係式が再び満たされるまで、上記製品の送り方向を考慮して上記少なくとも1つの圧延スタンドの上流側で、複数の第2の塗布手段によって、上記アルミニウム製品への油のみの塗布が提供されるプロセスを提供することにより、上述の目的の少なくとも1つを達成することを目的とする。
【0014】
本発明の第2の態様は、アルミニウム又はその合金から作製される製品を圧延するための設備であって、この設備は、上述の圧延プロセスを実行するように適合されており、
少なくとも1つの圧延スタンドと、
上記少なくとも1つの圧延スタンドに近接して配置され、油と水とのエマルションを上記製品に塗布するように適合されている複数の第1の塗布手段と
を含み、
第1のデータを検出するための第1のセンサであって、この第1のデータは、上記少なくとも1つの圧延スタンドを出る圧延される製品の送り速度vの値である第1のセンサと、
第2のデータを検出するための第2のセンサであって、この第2のデータは、上記少なくとも1つの圧延スタンドの作業ロールの周速度vの値である第2のセンサと、
上記少なくとも1つの圧延スタンドに近接して配置され、上記製品に油のみを注入するように適合されている複数の第2の塗布手段と、
制御システムであって、
・上記第1のデータ及び上記第2のデータを受信し、
・差(差分)Δv=v-vを計算し、
・関係式[(Δv×vr0)/(v×Δv)]-1<L(式中、Δv=vs0-vr0は上記差の設計値であり、Lは0.0005~0.002の間の値に等しい)が満たされているかどうかを検証し、
・上記関係式が満たされていない場合に、上記複数の第2の塗布手段を作動させる
ように適合されている制御システムと
を備える設備を含む。
【0015】
本発明の解決策は、有利なことに、火災の危険性を完全に回避し、潤滑剤の管理における複雑さを大幅に軽減しつつ、大きな利点を有する。水性エマルションの熱除去能力は、灯油に対して2倍を超えており、それゆえ、生産性が同じであれば、必要な流量は少なくて済む。
【0016】
本発明の解決策の他の利点は、下記の項目を含む。
・より手頃な価格の潤滑剤を使用すること。
・従来の技術に比べて潤滑力の高い水性エマルションを使用することで、結果として、圧延プロセスが向上し、圧延されたアルミニウム製品の品質が向上する。
・帯板等のアルミニウム製品の製造で周知の、圧延工程後に発生する品質問題であるアルミニウムの表面マークをなくすこと。
・冷却能力の向上により、より高速での圧延作業が可能となり、圧延機の生産性が向上する。
・圧延機の生産性を向上させると同時に、火災のリスク(平均して年間2件の火災)がなくなる。
・高価なCO火災防止システムは不要である。
・圧延機の運転に必要な煙霧(蒸発気)の蒸留装置は不要である。
・設備レイアウトのコンパクト化が増す。
【0017】
また、火災のリスクがないことによる保険料やメンテナンス費用の削減、使用率の向上等も考慮すると、灯油を使用した場合と比較して10%の運転費用の削減が期待できる。
【0018】
さらに、水性エマルションをベースにしたこの技術は、煙霧排気システムのフィルターユニットを変更し、蒸留器をバイパスし、必要に応じて製品乾燥システムを改良することだけに関連する最小限の変更を加えれば、既存の稼働中の設備に導入することができる。設備の残りの部分は変更しないでよい。
【0019】
本発明は、有利には、閉ループ制御システムを含み、この閉ループ制御システムは、先進率、すなわち、少なくとも1つの圧延スタンドの出力で測定された圧延された帯板の速度と、圧延中に測定された作業ロールの周速度との差を測定することによって、圧延されている製品に油を添加すべきかどうかを決定し、肯定された場合には、製品自体の送り方向を考慮して、圧延区画の上流側で、製品に油のみの塗布を作動させる。各圧延スタンドのすぐ上流側で、帯板の表面に塗布される潤滑剤の量をこのように動的に補正することで、圧延区画内の潤滑剤の薄膜の完全性が常に確保され、その結果、作業ロールとアルミニウム製品との間の直接的な接触が回避される。
【0020】
従属請求項には、本発明の好ましい実施形態が記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0021】
本発明のさらなる特徴及び利点は、非限定的な例として開示される、圧延プロセス及び関連設備の好ましいが排他的ではない実施形態の詳細な説明に照らして、以下の添付図面の助けを借りて、より明らかになるであろう。
【0022】
図1図1は、圧延される製品上の潤滑剤の層の動的制御システムに関連するフローチャートを示す。
図2図2は、本発明に係る設備の図を示す。
図3図3は、本発明に係る設備の一部の第1の実施形態を示す。
図4図4は、本発明に係る設備の一部の第2の実施形態を示す。
【0023】
図中の同じ参照数字は、同じ要素又は構成要素を識別する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
アルミニウム又はアルミニウム合金から作製される製品を圧延するための本発明の圧延プロセスは、アルミニウム製品、例えば帯板が少なくとも1つの圧延スタンド1を通過し、これにより圧延された製品を製造することと、製品自体の送り方向を考慮して圧延区画の上流側で、上記少なくとも1つの圧延スタンド1の近くで、複数の第1の塗布手段2によって潤滑剤が製品に塗布されることとを提供する。
【0025】
この潤滑剤は、有利には、油と水とのエマルションを含むか、又は油と水とのエマルションからなる。エマルションには、任意にいくつかの添加剤を加えることができる。
【0026】
さらに、必要に応じて、製品自体の送り方向を常に考慮して、少なくとも1つの圧延スタンドのすぐ上流側で塗布される潤滑剤の量の動的な補正が提供される。
【0027】
特に、Δv=v-vが、少なくとも1つの圧延スタンド1の出力で、好ましくは圧延スタンドの出力直後に測定された圧延される製品の送り速度(供給速度)vと、圧延作業中に測定された上記少なくとも1つの圧延スタンド1の作業ロール3の周速度vとの差であり、
Δv=vs0-vr0が上記差の設計値、すなわち、少なくとも1つの圧延スタンド1から出る、好ましくは圧延スタンドの出力直後の圧延される製品の理論的な送り速度vs0と、上記少なくとも1つの圧延スタンド1の作業ロール3の理論的な周速度vr0との差とすると、
関係式[(Δv×vr0)/(v×Δv)]-1<L(式中、Lは0.0005~0.002の間の値に等しい)が満たされないたびに、有利には、上記関係式が再び満たされるまで、製品の送り方向を考慮して上記少なくとも1つの圧延スタンドの上流側で、複数の第2の塗布手段6によって、アルミニウム製品への油のみの塗布(塗工)が提供される。
【0028】
好ましくは、潤滑剤の薄膜、すなわち帯板の表面と作業ロールの表面との間に含まれる潤滑剤によって占められる薄い隙間を一定に保つように、潤滑剤の量を動的に補正するために塗布(付与)される油は、上記水性エマルションに使用される油と同じものである。
【0029】
必須ではないが好ましくは、Lの値は0.001に等しくすることができる。
【0030】
圧延される製品の送り速度vは、例えば第1のセンサ4によって測定され、これにより、第1のデータが生成される。単なる例として、そのような第1のセンサ4は、レーザ速度計、フォトセル又はタコメータホイール(回転速度測定装置)とすることができる。
【0031】
作業ロール3の周速度vは、例えば第2のセンサ5によって測定され、これにより、第2のデータが生成される。単なる例として、このような第2のセンサ5は、作業ロール自体を動かす電気モータのエンコーダとすることができる。周速度vの測定は、好ましくは、変速機と作業ロールとの間の可能な減速比を考慮しつつ、作業ロールを動かすモータの回転速度によって得ることができる。
【0032】
送り速度v及び周速度vは、実質的に連続的に、例えば5~15msごとに、好ましくは10msごとに検出することができる。
【0033】
理論的な送り速度vs0及び理論的な周速度vr0は、当業者であれば公知の方法で容易に計算すされ、このため、その計算については本明細書中では説明しない。一般には、例えば圧延スタンドに入り圧延スタンドから出る帯板の厚さ、材料の機械的特徴、帯板にかかる張力等のいくつかの初期設計データから、理論的な送り速度vs0及び理論的な周速度vr0、それゆえ予想される先進率と摩擦係数が容易に計算される。この初期データは、すべての製造業者が設備を管理するために必要とする圧延カードで簡単に見つけることができ、利用可能であることは単純に注目に値する。
【0034】
制御システム20、好ましくは閉ループ制御システムは、第1のデータ、すなわちvの値と、第2のデータ、すなわちvの値とを受信し(受け取り)、上記関係式が満たされているかどうかを検証し、上記関係式が満たされていない場合には、上記関係式が再び満たされるまで、複数の第2の塗布手段6を一時的に作動させる。
【0035】
第1のデータ及び第2のデータの受信と、満たされるべき関係式の検証とは、実質的に連続して行うことができ、例えば、5~15msごと、好ましくは10msごとに行うことができる。
【0036】
上述の潤滑剤の量の動的な補正の方法をよりよく説明するために、先進率とは、圧延区画の出力において、製品、好ましくは帯板が、作業ロールの周速度vよりも大きい送り速度vを有する現象であることに注目すべきである。
【0037】
先進率「fs」は以下のように定義される。
【数1】
【0038】
計算上の速度(又は理論上の速度)に添字「0」を導入し、同様に以下のように定義する。
【数2】
【0039】
それゆえ、制御システムは下記の比率を評価する。
【数3】
【0040】
図1のフローチャートに示すように、この比率が0.05%~0.2%の間で固定された、例えば0.1%に固定された所定の閾値よりも大きい場合、制御システムは第2の塗布手段6に追加の油の量を塗布するように命令を与える。本質的には、測定量(添え字なし)と計算量(添え字「0」)の間の偏差は、非常に低い値に保たれるべきである。例えば、検出された帯板の送り速度が計算された速度よりもはるかに大きい場合、潤滑剤の薄膜が圧延区画の特定の領域で破壊されており、それに伴い、問題となる作業ロールとアルミニウム製品との接触が発生している可能性が高い。この望ましくない状況を改善するために、上記システムは純油を導入して潤滑剤の薄層を再形成する。このような純油の塗布は、臨時的なものであり(一時的なステップで実行される可能性がある)、圧延プロセス全体から見れば短い期間であると考えられる。潜在的に危険な状況を回避するために、有利なことに、上記塗布はわずかな時間で実行される。純油の塗布は、
[(Δv×vr0)/(v×Δv)]-1<L
の関係式が再び満たされるまで続く。
【0041】
上記油と水とのエマルションは、好ましくは、複数の第1の塗布手段2に供給する第1のタンク7に収容され、この第1のタンクにおいて、上記エマルションは、任意に、少なくとも1つの混合装置21によって混合される。
【0042】
以下、上述のプロセスを実行するように適合されている圧延設備の一実施形態について説明する。
【0043】
図2を参照すると、アルミニウム又はアルミニウム合金から作製される製品の圧延設備は、
少なくとも1つの圧延スタンド1と、
上記少なくとも1つの圧延スタンド1に近接して配置され、油と水とのエマルションを上記製品、例えば帯板13、に塗布するように適合されている複数の第1の塗布手段2と
を含む。
【0044】
有利には、以下の
第1のデータ、すなわち、上記少なくとも1つの圧延スタンド1から出る圧延された帯板の送り速度vの値を検出するための第1のセンサ4、
第2のデータ、すなわち上記少なくとも1つの圧延スタンド1の作業ロール3の周速度vの値を検出するための第2のセンサ5、
上記少なくとも1つの圧延スタンドに近接して配置され、上記帯板に油のみを塗布するように適合されている複数の第2の塗布手段6、並びに
制御システム20であって、
・上記第1のデータ及び上記第2のデータを受信し、
・差Δv=v-vを計算し、
・関係式[(Δv×vr0)/(v×Δv)]-1<L(式中、Lは0.0005~0.002の間の値に等しい)が満たされているかどうかを検証し、
・上記関係式が満たされていない場合に、上記複数の第2の塗布手段6を作動させる
ように適合されている制御システム20
も備えられている。
【0045】
任意に、第1のタンク7が上記エマルションを収容し、好ましくはタンク7と塗布手段2の間に配置された第1の投入装置10によって、複数の第1の塗布手段2に供給する。
【0046】
第2のタンク8も設けることができ、このタンクは油のみを収容し、制御システムから要求があった場合には、任意にタンク8と塗布手段6との間に配置された第2の投入装置9によって、複数の第2の塗布手段6に供給する。
【0047】
タンク7の内部及び/又はタンク8の内部には、少なくとも1つの混合装置21を設けることができる。
【0048】
好ましくは、少なくとも1つの電磁弁14が、エマルションタンク7と塗布手段2との間、又は投入装置10と塗布手段2との間に設けられる。
【0049】
同様に、少なくとも1つの電磁弁15を、油タンク8と塗布手段6との間、又は、投入装置9と塗布手段6との間に設けることができる。
【0050】
電磁弁15及び/又は電磁弁14は、上述の制御システム20によって制御される。
【0051】
任意に、油塗布手段6は、制御システム20によって電磁弁15を介して作動されたときに、所定の量の油を塗布するように、常に油を搭載することができる。
【0052】
有利な変形例では、製品の送り方向を考慮して、少なくとも1つの圧延スタンド1の下流側で、かつ巻取りリール12の上流側に配置された乾燥手段11が設けられている。このような乾燥手段11は、圧延された製品から水分を除去するように適合されている。例えば、アルミニウム製品の送り方向とは反対の方向に少なくとも1つの圧縮空気ジェットを放出するように構成されているCJD(Confined Jet Dryer、制限噴流乾燥機)タイプの少なくとも1つの乾燥装置を使用することができる。
【0053】
単一の圧延スタンド1の場合、これは、有利には、圧延される製品の送り方向に応じて製品をそれぞれ巻き戻したり巻き取ったりする作業を行う2つのリール16、12の間に配置されたリバーシブルスタンドとすることができる。この場合、塗布手段2及び塗布手段6は、製品の送り方向に沿って圧延スタンド1の両側に、好ましくは製品送り面の上下両方に配置される(図3)。乾燥手段11は、各リール16、12と圧延スタンド1との間に配置することができる。
【0054】
仮に、圧延スタンド1が一方向にのみ動作するとすると、塗布手段2及び塗布手段6は、圧延スタンド1へのアルミニウム製品の入力側にのみ、好ましくは製品送り面の上下両方に配置されることになる。この場合、乾燥手段11は圧延スタンド1と巻取リール12の間にのみ配置され、圧延スタンドは巻戻しリール16と巻取リール12の間に配置されることになる。
【0055】
同様に、前後に配置されて「タンデム圧延機」として知られる構成である少なくとも2つの圧延スタンド1が設けられているとすると、塗布手段2と塗布手段6の両方が、各圧延スタンドの製品入力側にのみ、好ましくは製品送り面の上下両方に配置されることになる。代わりに、図4の変形例では、複数のリバーシブル圧延スタンド1が設けられており、この場合には、塗布手段2及び塗布手段6は、製品の送り方向に沿って各圧延スタンド1の両側に、好ましくは製品送り面の上下両方に配置されている(図4)。
【0056】
より一般的には、制御システム20は、12ロール又は20ロール構成(それぞれ12-Hi及び20-Hi)の「4」スタンド(「4-Hi」としても知られる)、「6」スタンド(「6-Hi」)及びクラスタスタンド(「センヂミア圧延機(Sendzimir)」)にそのまま適用することができる。最初の2つのタイプの圧延スタンドはグループ化されてタンデム圧延機を生じることができるが、クラスタスタンドは常に個別のスタンドである。
【0057】
本発明のいくつかの実施形態では、塗布手段6が、圧延スタンド1の作業ロール3に近接しているが、塗布手段2に対して製品送り面から遠位側の(遠ざかる)位置に配置されることが好ましい。同様に、塗布手段2は、作業ロール3から遠位側であるが、注入手段6に対しては製品送り面に近接している(近位側の)位置に配置される。
【0058】
例えば、塗布手段6と、対応する圧延スタンドの(2つの)作業ロールの回転軸を含む垂直面との間の距離は、D/4~3Dの間、好ましくはD/3~2Dの間であり、Dは作業ロール3の直径である。一方、上記塗布手段6と製品送り面との間の距離は、D/10~D/2の間、好ましくはD/5~D/3の間である。
【0059】
代わりに、上記塗布手段2と、対応する圧延スタンドの(2つの)作業ロールの回転軸を含む垂直面との間の距離は、D/3~4Dの間、好ましくはD/2~3Dの間である。一方、上記塗布手段2と製品送り面との間の距離は、D/10~D/2の間、好ましくはD/8~D/4の間である。
【0060】
しかしながら、他の実施形態では、塗布手段6は、圧延スタンド1の作業ロール3から遠位側であるが製品送り面に近接している位置に配置され、一方、塗布手段2は、作業ロール3に近接しているが製品送り面から遠位側である位置に配置される。ここで、前の段落で述べた上記の距離の範囲は、反転して考えることができる。
【0061】
例として、複数の塗布手段2と複数の塗布手段6の両方は、注入装置を含むか、又は注入装置から構成されており、例えば、好ましくはアルミニウム製品の幅に沿って、すなわち製品送り面に対して横方向に延びるノズルの列を含む。
図1
図2
図3
図4