(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-08
(45)【発行日】2023-08-17
(54)【発明の名称】ポリプロピレン多層シート
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20230809BHJP
B65D 1/00 20060101ALI20230809BHJP
【FI】
B32B27/32 E
B65D1/00 111
(21)【出願番号】P 2022561987
(86)(22)【出願日】2021-11-11
(86)【国際出願番号】 JP2021041523
(87)【国際公開番号】W WO2022102705
(87)【国際公開日】2022-05-19
【審査請求日】2023-04-14
(31)【優先権主張番号】P 2020189249
(32)【優先日】2020-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000239138
【氏名又は名称】株式会社エフピコ
(73)【特許権者】
【識別番号】597021842
【氏名又は名称】サンアロマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】上野 晋吾
(72)【発明者】
【氏名】中島 武
(72)【発明者】
【氏名】池田 正幸
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/075755(WO,A1)
【文献】特開2019-155703(JP,A)
【文献】特開2017-186561(JP,A)
【文献】特開2021-091116(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00- 43/00
B65D 1/00- 1/48
B29C 55/00- 55/30、 61/00- 61/10
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点Tmhを有する第1の二軸延伸ポリプロピレン層と、
融点Tmlを有する第2の二軸延伸ポリプロピレン層とが、交互に積層されている厚さ0.20~3.0mmのポリプロピレン多層シートであって、
前記第1の二軸延伸ポリプロピレン層を形成する第1の二軸延伸ポリプロピレンシート状部材と、前記第2の二軸延伸ポリプロピレン層を形成する第2の二軸延伸ポリプロピレンシート状部材と、が積層された前駆体の層間を融着することを含む方法で形成され、多層構造を有し、
Tmh>Tmlであり、
合計層数が3~11であ
り、
前記前駆体が、前記第1の二軸延伸ポリプロピレン層と前記第2の二軸延伸ポリプロピレン層とが交互に積層されて共押出された共押出層を含み、
当該共押出層の厚さが0.10~0.50mm、当該共押出層の合計枚数が2~6である、
ポリプロピレン多層シート。
【請求項2】
前記第1の層の総厚さDhと前記第2の層の総厚さDlの比Dh/Dlが1~30である、請求項
1に記載のポリプロピレン多層シート。
【請求項3】
前記第1の層が、プロピレン単独重合体;1重量%以下のC2~C10-αオレフィン(ただしC3-αオレフィンを除く)から選択される少なくとも1種のコモノマーを含むプロピレンランダム共重合体;あるいは前記単独重合体または共重合体を含む樹脂組成物から形成される、請求項1
または2に記載のポリプロピレン多層シート。
【請求項4】
前記第1の層を構成する重合体または樹脂組成物のMFR(230℃、荷重2.16kg)が1~15g/10分である、請求項1~
3のいずれかに記載のポリプロピレン多層シート。
【請求項5】
前記第2の層が、プロピレン単独重合体;5重量%以下のC2~C10-αオレフィン(ただしC3-αオレフィンを除く)から選択される少なくとも1種のコモノマーを含むプロピレンランダム共重合体;あるいは前記単独重合体または共重合体を含む樹脂組成物から形成される、請求項1~
4のいずれかに記載のポリプロピレン多層シート。
【請求項6】
前記第1の層が核剤を含む樹脂組成物で構成される、請求項1~
5のいずれかに記載のポリプロピレン多層シート。
【請求項7】
前記ポリプロピレン多層シートの、X方向にX線(波長:0.154nm)を入射して得られる小角X線散乱の2次元プロファイルから求められる方位角での積分強度I
X
Vにおいて、2θ=0.2°~1.0°の範囲に散乱ピークが観察される、請求項1~
6のいずれかに記載のポリプロピレン多層シート。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれかに記載のポリプロピレン多層シートの製造方法であって、
融点Tmhを有する第1の二軸延伸ポリプロピレン層と、
融点Tmlを有する第2の二軸延伸ポリプロピレン層とが、第1の二軸延伸ポリプロピレン層同士が隣接しないように積層された前駆体
であって、前記第1の二軸延伸ポリプロピレン層と前記第2の二軸延伸ポリプロピレン層とが交互に積層されて共押出された共押出層を含み、
当該共押出層の厚さが0.10~0.50mm、当該共押出層の合計枚数が2~6である前駆体を調製する工程1と、
前記前駆体の最外層に加熱体を接触させて前記シートの層間を加熱融着する工程2を含み、
Tmh>Tmlである、
製造方法。
【請求項9】
前記最外層の融点Tm
outと前記加熱体の温度Tが以下の条件を満たす、
Tm
out-T≧4(℃)
(ただし、融点はDSCを用いて、30℃から230℃まで昇温速度10℃/分の条件で測定して得られる)
請求項
8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記工程1が、前記第1の二軸延伸ポリプロピレン層の原料と前記第2の二軸延伸ポリプロピレン層の原料とを共押出して複数の層を有する共押出原反シートを調製し、これを二軸延伸したものを用いて前記前駆体を調製する工程を含む、請求項
8または
9に記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1~
7のいずれかに記載のポリプロピレン多層シートを成形してなる成形体。
【請求項12】
容器である、請求項
11に記載の成形体。
【請求項13】
融点Tmhを有する第1の二軸延伸ポリプロピレン層と、
融点Tmlを有する第2の二軸延伸ポリプロピレン層とが、
第1の二軸延伸ポリプロピレン層同士が隣接しないように積層され、
かつ融着されていない1以上の層間を有
し、
前記第1の二軸延伸ポリプロピレン層と前記第2の二軸延伸ポリプロピレン層とが交互に積層されて共押出された共押出層を含み、
当該共押出層の厚さが0.10~0.50mm、当該共押出層の合計枚数が2~6である、
請求項1~
7のいずれかに記載のポリプロピレン多層シートの前駆体。
【請求項14】
請求項
8~
10のいずれかに記載の方法で製造されたポリプロピレン多層シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリプロピレン多層シートに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンの延伸フィルムは、高い耐熱性に加え、優れた透明性および機械的特性が要求される分野に使用されており、この特性をさらに高める技術が種々検討されている。例えば特許文献1は、分子量分布等を特定の範囲としかつコモノマーおよび結晶核剤の含有量を特定の範囲とするポリプロピレン組成物から剛性、透明性、耐熱性、均一延伸性、低温衝撃性、易熱成形性のバランスに極めて優れたシートを得たことを開示する。また特許文献2は、高分子配向融液の状態で冷却して結晶化させることによって、結晶サイズがナノメートルオーダーであり、高分子鎖が高度の配向した高分子ナノ配向結晶体を主成分として含む高分子ナノ配向結晶体材料からなるシートを開示する。
【0003】
これらのシートは薄いため用途が限定されており、その厚さを増大できれば別の用途へ拡大が期待される。この点に関し、特許文献3は、融点の異なるポリプロピレンの二軸延伸フィルムを交互に積層して、高い耐熱性に加え、優れた透明性および機械的特性を有する厚さが0.5~5mmである多層シートを製造することを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-095698号公報
【文献】特開2012-096526号公報
【文献】国際公開第2020/075755号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献3には、多層シートを成形体とすることに関する詳細は開示されていない。発明者らは、比較的厚いポリプロピレン多層シートを容器等の製品に成形するには、特許文献3の技術においてより改良が必要であることを見出した。かかる事情を鑑み、本発明は優れた透明性および機械的特性を有し、かつ優れた成形性を有するポリプロピレン多層シートを提供することを目的する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、特定枚数の、融点の異なる2種の二軸延伸ポリプロピレン層が交互に積層されたポリプロピレン多層シートが前記課題を解決することを見出し、本発明を完成した。すなわち前記課題は以下の本発明によって解決される。
(1)融点Tmhを有する第1の二軸延伸ポリプロピレン層と、
融点Tmlを有する第2の二軸延伸ポリプロピレン層とが、交互に積層されている厚さ0.20~3.0mmのポリプロピレン多層シートであって、
Tmh>Tmlであり、
合計層数が3~11である、
ポリプロピレン多層シート。
(2)前記第1の二軸延伸ポリプロピレン層と前記第2の二軸延伸ポリプロピレン層とが交互に積層されて共押出された共押出層を含み、
当該共押出層の厚さが0.10~0.50mm、当該共押出層の合計枚数が2~6である、(1)に記載のポリプロピレン多層シート。
(3)前記第1の層の総厚さDhと前記第2の層の総厚さDlの比Dh/Dlが1~30である、(1)または(2)に記載のポリプロピレン多層シート。
(4)前記第1の層が、
プロピレン単独重合体;
1重量%以下のC2~C10-αオレフィン(ただしC3-αオレフィンを除く)から選択される少なくとも1種のコモノマーを含むプロピレンランダム共重合体;あるいは
前記単独重合体または共重合体を含む樹脂組成物から形成される、(1)~(3)のいずれかに記載のポリプロピレン多層シート。
(5)前記第1の層を構成する重合体または樹脂組成物のMFR(230℃、荷重2.16kg)が1~15g/10分である、(1)~(4)のいずれかに記載のポリプロピレン多層シート。
(6)前記第2の層が、
プロピレン単独重合体;
5重量%以下のC2~C10-αオレフィン(ただしC3-αオレフィンを除く)から選択される少なくとも1種のコモノマーを含むプロピレンランダム共重合体;あるいは
前記単独重合体または共重合体を含む樹脂組成物から形成される、(1)~(5)のいずれかに記載のポリプロピレン多層シート。
(7)前記第1の層が核剤を含む樹脂組成物で構成される、(1)~(6)のいずれかに記載のポリプロピレン多層シート。
(8)前記ポリプロピレン多層シートの、X方向にX線(波長:0.154nm)を入射して得られる小角X線散乱の2次元プロファイルから求められる方位角での積分強度IX
Vにおいて、2θ=0.2°~1.0°の範囲に散乱ピークが観察される、(1)~(7)のいずれかに記載のポリプロピレン多層シート。
(9)前記(1)~(8)のいずれかに記載のポリプロピレン多層シートの製造方法であって、
融点Tmhを有する第1の二軸延伸ポリプロピレン層と、
融点Tmlを有する第2の二軸延伸ポリプロピレン層とが、第1の二軸延伸ポリプロピレン層同士が隣接しないように積層された前駆体を調製する工程1と、
前記前駆体の最外層に加熱体を接触させて前記シートの層間を加熱融着する工程2を含み、
Tmh>Tmlである、
製造方法。
(10)前記最外層の融点Tmoutと前記加熱体の温度Tが以下の条件を満たす、
Tmout-T≧4(℃)
(ただし、融点はDSCを用いて、30℃から230℃まで昇温速度10℃/分の条件で測定して得られる)
(9)に記載の製造方法。
(11)前記工程1が、前記第1の二軸延伸ポリプロピレン層の原料と前記第2の二軸延伸ポリプロピレン層の原料とを共押出して複数の層を有する共押出原反シートを調製し、これを二軸延伸したものを用いて前記前駆体を調製する工程を含む、(9)または(10)に記載の製造方法。
(12)前記(1)~(8)のいずれかに記載のポリプロピレン多層シートを成形してなる成形体。
(13)容器である、(12)に記載の成形体。
(14)融点Tmhを有する第1の二軸延伸ポリプロピレン層と、
融点Tmlを有する第2の二軸延伸ポリプロピレン層とが、
第1の二軸延伸ポリプロピレン層同士が隣接しないように積層され、
かつ融着されていない1以上の層間を有する、
(1)~(8)のいずれかに記載のポリプロピレン多層シートの前駆体。
(15)前記(9)~(11)のいずれかに記載の方法で製造されたポリプロピレン多層シート。
【発明の効果】
【0007】
本発明によって、優れた透明性および機械的特性を有し、かつ優れた成形性を有するポリプロピレン多層シートを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明のポリプロピレン多層シートの概要を説明する図である。
【
図2】方位角での積分強度I
X
VとI
X
Lの測定方法を説明する図である。
【
図3】方位角での積分強度I
X
VとI
X
Lの解析方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明において「X~Y」はその端値、すなわちXおよびYを含む。本発明においてシートとフィルムは同義で使用されるが、特に、厚さが150μm以上の膜状部材をシートと、厚さが150μm未満の膜状部材をフィルムという場合がある。また、シートとフィルムを総称して「シート状部材」という場合がある。
【0010】
1.ポリプロピレン多層シート
(1)厚さ
本発明のポリプロピレン多層シート(以下単に「多層シート」ともいう)の厚さは0.20~3.0mmであり、好ましくは0.20~1.5mm、より好ましくは0.20~1.0mmである。多層シートの厚さは用途によって適宜調整される。
【0011】
(2)多層構造
本発明の多層シートは高い融点Tmhを有する第1の層と低い融点Tmlを有する第2の層が交互に積層された多層構造を有する。各層間は融着されているので、本発明の多層シートは一体化シートである。当該シートの各層間が融着され一体化されているのかについては、特許文献3に記載のとおり、偏光顕微鏡による断面観察によって確認することができる。
【0012】
後述するとおり、本発明の多層シートにおける各層はポリプロピレン二軸延伸シート状部材に由来する。各層が独立して当該シート状部材から構成されてもよい。この態様を
図1(A)に示す。図中、Hは前記第1の層、Lは前記第2の層、1’は後述する前駆体、S1およびS2は前駆体1’を構成するポリプロピレン二軸延伸シート状部材である。前駆体1’の層間が融着されて本発明の多層シート1となる。
【0013】
また、全層のうち少なくとも一部が、共押出成形によって得られた前記第1の二軸延伸ポリプロピレン層と前記第2の二軸延伸ポリプロピレン層とが交互に積層された共押出層で構成されていてもよい。この態様を
図1(B)に示す。図中、Cは共押出層であり、例えばC[S1/S2]は、2層の共押出層であることを示す。その他の番号は
図1(A)で説明したとおりである。
図1(B)の態様では、2層の共押出層C[S1/S2]とC[S2/S1]の間に3枚の3層共押出層C[S2/S1/S2]が存在する前駆体1’から本発明の多層シート1が形成される。
【0014】
本発明の多層シートにおける合計層数は3~11である。合計層数がこの範囲であることによって、本発明の多層シートを成形体へ成形する際に優れた成形性を発現する、すなわち優れた成形性を有する。また、共押出層を含む態様において、共押出層の厚さは好ましくは0.10~0.50mmである。また共押出層の合計枚数は、好ましくは2~6、より好ましくは2~5、さらに好ましくは2~4、特に好ましくは2~3である。共押出層の厚さとはC全体の厚さ(
図1(B)においてtで表される)をいう。
図1(B)のケースにおいて、共押出層の合計枚数は5である。
【0015】
第1の層の総厚さ(合計の厚さ)Dhと第2の層の総厚さ(合計の厚さ)Dlの比Dh/Dlについて、値が過度に小さいと多層シートの剛性が不十分となり、値が過度に大きいと多層シートの層間の融着性が不十分となる。融着性と剛性のバランスからDh/Dlは1~30が好ましく、1~25がより好ましく、4~15がさらに好ましい。各層の厚さは同じであっても異なっていてもよい。そして、各層の厚さはDh/Dlを前記範囲とするように適宜調整される。第1の層の厚さは、好ましくは50μm~200μmである。第2の層厚さは、好ましくは5μm~200μmである。
【0016】
第1の層の融点Tmhと第2の層の融点Tmlは、Tmh>Tmlの関係を満たす。Tmh-Tmlは限定されないが、好ましくは1℃以上、より好ましくは10℃以上、さらに好ましくは25℃以上である。また、Tmh-Tmlは好ましくは60℃以下である。これらの融点が過度に低いと多層シートの剛性や耐熱性が不十分となる。この観点から、Tmhは好ましくは160℃以上、より好ましくは165℃以上であり、Tmlは好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは130℃以上である。これらの融点はDSCを用いて、30℃から230℃まで昇温速度10℃/分の条件で測定して得られる。
【0017】
本発明の多層シートにおいては、X方向からX線(波長:0.154nm)を入射して測定した小角X線の2次元プロファイルにおける子午線(Z)方向の散乱の方位角での積分強度I
X
Vにおいて、2θ=0.2°~1.0°の範囲に散乱ピークが観察されることが好ましい。具体的には、
図2に示すように本発明の多層シートから積分強度測定用サンプルを切出しX方向からX線を入射する。その結果、
図3(A)に示すような小角X線散乱の2次元プロファイルが得られる。次いで
図3(B)に示すように、子午線に対して±30°の領域の強度を積分してI
X
Vを、赤道に対して±30°の領域の強度を積分してI
X
Lを求める。
【0018】
赤道方向の散乱ピークは、シートの面内方向に規則的に並んだ結晶ラメラに由来する。規則的に配列した結晶ラメラが存在すると、赤道方向の散乱強度が増大する。これに対し、子午線方向のストリークは、主にZ方向の層間に残存する隙間表面の反射に由来する。従って、二軸延伸シート状部材の配向結晶が多層シートにおいても維持されるか増大するとIX
Lが大きくなる。一方、層間の融着が十分であると、層間に残存する隙間表面が減少する結果、IX
Vのストリークが減少する。従って、IX
Lが大きくIX
Vが小さいと多層シートおよび当該シートから得られる容器等の成形体の透明性および機械的特性が向上する。また、ポリプロピレンのα晶においては、結晶ラメラ(親ラメラ)が存在した状態で結晶化が進行すると、親ラメラに対してほぼ垂直方向にサイズの小さいラメラ(娘ラメラ)が成長する。娘ラメラに由来する長周期の散乱ピークはIX
Vとして観察される。
【0019】
(3)機械的特性、耐熱性
本発明の多層シートおよび多層シートから得られる容器等の成形体は優れた機械的特性を有する。例えば、当該シートおよび成形体は剛性として好ましくは1,500MPa以上、より好ましくは2,000MPa以上の引張弾性率(JIS K7161-2)を有する。また、本発明の多層シートは耐寒衝撃性にも優れる。例えば本発明の多層シートおよび成形体は、好ましくは3.0J以上、より好ましくは4.0J以上、さらに好ましくは5.0J以上の面衝撃強度(-30℃、JIS K7211-2)を有する。
【0020】
本発明の多層シートから得られる容器は、耐熱性に優れるので、幅広い温度での使用が可能である。特に、当該容器の座屈試験における耐熱温度は好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは130℃以上である。この範囲の座屈試験における耐熱温度を有する容器は、優れた電子レンジ適用性を備える。座屈試験は、以下の工程で実施される。
1)金属等の耐熱性の高い板に容器を開口部が下となるように載置し、オーブン中、無荷重状態で1時間、加熱保持する。
2)オーブンの扉を開けた後、速やかに容器の上に荷重(640g)を乗せ、10秒後に荷重を取り除く。
3)オーブンから前記板と容器を取り出し、容器の座屈の有無を目視にて確認する。
4)容器が座屈し始める温度を耐熱温度とする。
【0021】
(4)透明性
本発明の多層シートおよび多層シートから得られる容器等の成形体は、優れた透明性を有する。例えば、当該シートは好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは8.0%以下の全ヘーズ(ISO 14782)を有する。全ヘーズは値が小さいほど透明性に優れる。
【0022】
(5)表面
本発明の多層シートの表面には官能基を付与することができる。官能基としては酸素含有官能基が好ましい。酸素含有官能基としては、カルボキシル基、カルボキシレート基、酸無水物基、水酸基、アルデヒド基、またはエポキシ基等が挙げられる。これらの官能基によって、本発明の多層シートと他材料との密着性が向上する。
【0023】
(6)各層
1)第1の層
本発明においてポリプロピレンとは、ポリプロピレンを主成分とする重合体または樹脂組成物をいう。第1の層は、プロピレン単独重合体(HOMO);1重量%以下のC2~C10-αオレフィン(ただしC3-αオレフィンを除く)から選択される少なくとも1種のコモノマーを含むプロピレンランダム共重合体(RACO);あるいはHOMOまたはRACOを含む樹脂組成物から形成される。本発明においてC2~C10-αオレフィンから選択されるコモノマーは、C3-αオレフィンを当然に含まない。剛性および透明性に優れることから、第1の層は、HOMOまたはコモノマー含有量の少ないRACOで形成されることが特に好ましい。コモノマー含有量は、好ましくは0重量%を超え0.5重量%以下である。コモノマーとしてはエチレン(C2-αオレフィン)が好ましい。
【0024】
前記HOMOおよびRACOは公知の重合方法で製造される。その際、重合触媒として公知のものを使用できる。しかしながら剛性と透明性のバランスを考慮すると、HOMOおよびRACOはスクシネート系化合物を内部電子供与体化合物として含む重合触媒(以下「Suc」と略記することがある)を用いて重合されたものであることが好ましい。
【0025】
第1の層を構成する重合体または樹脂組成物のMFR(230℃、荷重2.16kg)は好ましくは1~15g/10分、より好ましくは2~10g/10分、さらに好ましくは3~8g/10分である。MFRが過度に小さいまたは過度に大きいと、原反シートの二軸延伸が困難となるので、多層シートの機械的特性が低下することがある。
【0026】
第1の層は核剤を含む樹脂組成物で構成されていてもよい。核剤とは樹脂中の結晶成分のサイズを小さく制御して透明性を高めるために用いられる添加剤(透明核剤)である。よって核剤を含むことで第1の層の透明度が向上する。経済的な観点から、核剤の量は、第1の層を形成する重合体100重量部に対して、好ましくは0.5重量部以下、より好ましくは0.2重量部以下、さらに好ましくは0.1重量部以下である。核剤は特に限定されず、当該分野で通常使用されるものを使用してよいが、ノニトール系核剤、ソルビトール系核剤、リン酸エステル系核剤、トリアミノベンゼン誘導体核剤、カルボン酸金属塩核剤、およびキシリトール系核剤からなる群から選択されることが好ましく、ノニトール系核剤がより好ましい。ノニトール系核剤として、例えば、1,2,3―トリデオキシ-4,6,5,7-ビス-[(4-プロピルフェニル)メチレン]-ノニトールが挙げられる。ソルビトール系核剤として、例えば、1,3,2,4-ビス-o-(3,4-ジメチルベンジリデン)-D-ソルビトールが挙げられる。リン酸エステル系核剤として、例えば、リン酸-2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)リチウム塩系造核剤が挙げられる。したがって、第1の層は、HOMOと核剤を含む樹脂組成物またはRACOと核剤を含む樹脂組成物で構成されることが可能である。
【0027】
2)第2の層
第2の層は、プロピレン単独重合体(HOMO);5重量%以下のC2~C10-αオレフィン(ただしC3-αオレフィンを除く)から選択される少なくとも1種のコモノマーを含むプロピレンランダム共重合体(RACO);あるいはHOMOまたはRACOを含む樹脂組成物から形成されることが好ましい。コモノマー含有量が過度に少ないと第1の層との融着性が十分でない場合があり、過度に多いと多層シートの剛性が低下する場合がある。この観点から、コモノマー含有量は、好ましくは0重量%を超え4.5重量%以下である。コモノマーとしてはエチレン(C2-αオレフィン)が好ましい。第2の層を構成する重合体または樹脂組成物のMFR(230℃、荷重2.16kg)は限定されないが、好ましくは1~15g/10分、より好ましくは2~10g/10分、さらに好ましくは3~8g/10分である。
【0028】
第2の層は核剤を含む樹脂組成物で構成されていてもよいし、核剤を含まない樹脂組成物または重合体で構成されていてもよい。核剤を含む場合は、経済的な観点から、核剤の量は、第2の層を形成する重合体100重量部に対して、好ましくは1重量部以下である。したがって、第2の層は、HOMOと核剤を含む樹脂組成物またはRACOと核剤を含む樹脂組成物で構成されることが可能である。
【0029】
(7)添加剤
第1の層および第2の層を構成する樹脂組成物は、酸化防止剤、塩素吸収剤、耐熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、内部滑剤、外部滑剤、アンチブロッキング剤、帯電防止剤、防曇剤、難燃剤、分散剤、銅害防止剤、中和剤、可塑剤、架橋剤、過酸化物、油展、有機顔料、または無機顔料などのポリオレフィンに通常用いられる慣用の添加剤を含んでいてもよい。各添加剤の添加量は公知の量としてよい。また、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリプロピレン以外の合成樹脂または合成ゴムを含有してもよい。当該合成樹脂または合成ゴムは1種でもよいし2種以上でもよい。
【0030】
(8)前駆体
後述するとおり、本発明の多層シートは、融点Tmhを有する第1の二軸延伸ポリプロピレン層と、融点Tmlを有する第2の二軸延伸ポリプロピレン層とが、第1の二軸延伸ポリプロピレン層同士が隣接しないように積層された前駆体を経て製造されることが好ましい。当該前駆体は、層間が融着されて本発明の多層シートとされる。また、当該前駆体は、所望の形状に賦形されるとともに層間が融着されることによって、直接、成形体とされる。前駆体を構成する層の一部は、前述の共押出層で構成されていてもよい。したがって、前駆体は一態様において全層間が剥離しており、別態様において1以上の層間が融着されかつ1以上の層間が剥離している。別態様における層間の融着は共押出に起因し、後述する加熱圧着には起因しない。
【0031】
2.用途
本発明の多層シートは、面内方向において高い配向度と特定の高次構造を有し、かつ配向度の厚さ方向の依存性が小さいので、軽量でありながら優れた機械的特性を有する。また、本発明の多層シートは優れた透明性も有する。よって、本発明の多層シートは、従来よりも薄肉化かつ減量化させた食品包装材や容器または蓋等として有用である。また本発明の多層シートは高剛性であるため、雑貨、日用品、家電部品、玩具部材、家具部材、建材部材、包装部材、工業資材、物流資材、または農業資材等として有用である。さらに本発明の多層シートは、鋼板代替として自動車部品、電機電子部品、または筐体部材等にも用いることができる。
【0032】
特に本発明の多層シートは、優れた成形性を有するので、食品包装材や容器等として有用である。当該容器等は、薄肉、軽量であり、広い使用温度範囲を有する。
【0033】
3.製造方法
本発明の多層シートは、融点Tmhを有する第1の二軸延伸ポリプロピレン層と、融点Tmlを有する第2の二軸延伸ポリプロピレン層が、第1の二軸延伸ポリプロピレン層同士が隣接しないように積層された前駆体を調製する工程1と、前記前駆体の最外層に加熱体を接触させて前記シートの層間を加熱融着する工程2を備える方法で製造されることが好ましい。TmhとTmlはTmh>Tmlの関係を満たす。その好ましい融点差は前述のとおりである。当該融点差によって層間の密着性が良好となる。以下、各工程について説明する。
【0034】
(1)工程1
本工程では、第1の二軸延伸ポリプロピレン層と第2の二軸延伸ポリプロピレン層が、第1の二軸延伸ポリプロピレン層同士が隣接しないように積層された前駆体を準備する。前駆体を構成する層の一部は、前述の共押出層で構成されていてもよい。前駆体の全層は融着されていないか、一部は融着されている。
【0035】
本工程は、例えば、第1の二軸延伸ポリプロピレンシート状部材(便宜上、以下「S1」ともいう)と第2の二軸延伸ポリプロピレンシート状部材(便宜上、以下「S2」ともいう)を別個に準備してこれらを交互に積層することで実施できる。例えば、S1/S2/S1/S2/S1のように積層して前駆体を調製できる。この場合、全層間は融着していないことが好ましい。得られる多層シートの耐熱性を高める観点から、両最外層はS1であることが好ましい。
【0036】
二軸延伸ポリプロピレンシート状部材は、ポリプロピレンまたは当該ポリプロピレンと添加剤を含む組成物を公知の方法で二軸延伸して得ることができる。例えば、前記ポリプロピレン等を押出成形またはプレス成形して無延伸シート(原反シート)を得て、当該無延伸シートを二軸延伸して二軸延伸シート状部材を得ることができる。原反シートの厚さは好ましくは0.15mm超であり、その上限は限定されないが、取扱容易性等の観点から好ましくは6mm以下である。二軸延伸時の温度は限定されないが(Tmh-10℃)~Tmhの範囲であることが好ましい。また延伸倍率は、剛性の観点から好ましくは一つの軸に対して4~6倍である。一方の軸における倍率と他方の軸における倍率は同じであってもよいし、異なっていてもよい。両軸は好ましくは直交する。
【0037】
本工程は、S1とS2の共押出シート状部材を用いて実施することが好ましい。このようにすることで、工程2を簡素化できる。具体的には、S1の原料とS2の原料とを共押出して複数の層を有する共押出原反シートを調製し、これを二軸延伸することでS1とS2が交互に積層された共押出二軸延伸シート状部材を調製する。次いで、共押出二軸延伸シート状部材同士、または共押出二軸延伸シート状部材と前述の二軸延伸シート状部材とを積層して前駆体を調製する。この場合、前駆体における共押出層の合計枚数は限定されないが、2~6が好ましい。例えばS1/S2の共押出2層二軸延伸シート状部材、またはS2/S1/S2の共押出3層二軸延伸シート状部材を得て、所望の枚数の当該シート状部材を重ね合せることができる。共押出二軸延伸シート状部材の厚さは、好ましくは0.10~0.50mm、さらに好ましくは0.15~0.50mmである。
【0038】
一例として、S1/S2の共押出2層二軸延伸シート状部材を[S1/S2]と表記すると、以下のような前駆体を調製でき、次いで5層の多層シートを製造できる。
前駆体 :[S1/S2]/[S1/S2]/S1
多層シート:S1/S2/S1/S2/S1
当該前駆体において、共押出二軸延伸シート状部材と他の共押出二軸延伸シート状部材の層間、および共押出二軸延伸シート状部材と他の単層二軸延伸シート状部材の層間は融着されていない。S1の原料とは、S1を形成できる材料であり、フィルム、シート、ペレット、パウダーのいずれの形状であってもよい。S2の原料についても同様である。
【0039】
また、以下のような前駆体を調製した場合は、中央のS2層の間が融着されてS1/S2/S1の3層の多層シートとなる。
前駆体 :[S1/S2]/[S2/S1]
多層シート:S1/S2/S1
【0040】
あるいは、共押出3層二軸延伸シート状部材を用いると以下のような前駆体を調製でき、次いでS1/S2/S1/S2/S1の5層の多層シートを製造できる。
前駆体 :[S1/S2]/[S2/S1/S2]/[S2/S1]
多層シート:S1/S2/S1/S2/S1
【0041】
単層二軸延伸シート状部材および共押出二軸延伸シート状部材のそれぞれを、任意の方向に置くことができる。この置き方によって、多層シート面内の配向方向を調整できる。
【0042】
(2)工程2
本工程では、前記前駆体の最外層に加熱体を接触させて各層間を加熱融着する。最外層の融点Tmoutと前記加熱体の温度TはTmout-T≧4(℃)の関係を満たすことが好ましい。当該関係が満たされることで、層間を良好に融着させることができる。この観点から、当該温度差は6℃以上であることがより好ましい。当該温度差の上限は限定されないが、製造上の観点から好ましくは40℃以下であり、より好ましくは30℃以下である。Tは任意の方法で測定できるが、放射温度計等の非接触型温度計を使用して測定することが好ましい。Tmoutは最外層に配置されたシート状部材の融点に相当する。当該融点はDSCにより30℃から230℃まで昇温速度10℃/分の条件で測定して得た融解曲線のピーク温度として定義される。
【0043】
加熱体の温度は限定されないが、温度が過度に低いと層間に融着不良が生じうる。また温度が過度に高いと、前駆体が溶融するため多層シートの機械的特性が低下しうる。この観点から、加熱体の温度は、Tml~Tmhの範囲であることが好ましく、(Tml+10℃)~Tmhの範囲であることがより好ましい。具体的な加熱体の温度としては、120~190℃程度が好ましく、140~170℃がより好ましく、150~165℃がさらに好ましい。
【0044】
本工程は、加熱体として加熱ロールを用いて連続的に実施されることが好ましい。具体的には、前記前駆体を加熱された2本のロール間に通過させて層間を融着させる。2本のロールを1組とし、2組以上のロールを組合せた加熱ロールを加熱体として用いて融着させてもよい。この際に印加する圧力は適宜調整される。当該ロール成形における引取速度は限定されないが、好ましくは0.05~10m/分程度である。
【0045】
ロール成形以外の方法としては、圧接成形や融着成形等が挙げられる。また、前駆体を加熱融着する際、熱収縮を抑えると共にさらに配向を促進するために加圧することが好ましい。その際の圧力は融着温度に応じて調整される。
【0046】
(3)他の工程
本発明の製造方法は、前工程で得られた多層シートを冷却する等の公知の工程をさらに備えていてもよい。冷却方法は限定されないが、室温で放冷する方法や、室温あるいは10~20℃で冷プレスする方法等が挙げられる。
【0047】
本発明の多層シートは、層間の密着性が良好であるので層間における不連続性がほとんど存在しない。このため一体化シートとして取扱うことができる。従来の方法では厚さが0.20mm以上の二軸延伸多層シートを得ることはコスト等の観点から工業的に現実的でなかったが、本発明により、厚さが0.20mm以上で二方向以上の配向を有する多層シートを工業的に製造できる。
【0048】
本発明の多層シートを目的に応じた方法で成形(所望の形状への賦形も含む)することにより、種々の成形体を得ることができる。成形方法としては、既知のプレス成形、熱板成形、延伸成形、圧延成形、絞り加工成形、圧接成形、融着成形、真空成形、圧空成形、または真空圧空成形等が挙げられる。また、加飾性や表面改質などの目的で、特殊フィルムを本発明の多層シートの最表面に貼りつけてもよい。貼り付けるフィルムとしては、例えば、防曇フィルム、低温シールフィルム、接着性フィルム、印刷フィルム、エンボス加工フィルム、またはレトルトフィルム等が挙げられる。最表面のフィルムの厚さは特に制限されないが、厚くなりすぎると多層シートの特性を損なう可能性があり、また、特殊フィルムは一般的にコストが高く経済的にも好ましくないことから、薄いことが好ましい。工程2において、最外層に配置されたシート状部材の表面に特殊フィルムを積層することもできる。
【0049】
この他、本発明の多層シートに塗装を施して、当該シートの上に塗膜を有する塗装シートとすることもできる。塗膜の種類は限定されず、通常、塗装分野で使用されるものであれば限定されない。しかしながら、本発明においては車体塗装で使用される塗膜が好ましい。好ましい塗膜としては、エポキシ系塗膜、ウレタン系塗膜、またはポリエステル系塗膜等が挙げられる。必要に応じて、下層塗膜(プライマー塗膜)、中層塗膜、または上層塗膜(クリアー塗膜)を設けてもよい。本発明の多層シートを、塗工を施すためのシート(塗工シート)として用いる場合、塗装を施す面が官能基を有することが好ましい。
【0050】
(4)官能基の付与
本発明の多層シートの表面に官能基を付与する方法は限定されない。例えば、当該シートをプラズマ処理やコロナ処理に供することで表面に酸素含有官能基を付与できる。あるいは、官能基を有するポリプロピレンフィルムを準備して、前記工程1において当該官能基含有フィルムが最外層となるように前駆体を調製することによっても、多層シートの表面に酸素含有官能基を付与できる。
【0051】
酸素含有官能基を有するポリプロピレンフィルムは、無水マレイン酸変性ポリプロピレンあるいはエポキシ変性ポリプロピレン等の公知のポリプロピレンをフィルムに成形することで得られる。当該官能基含有フィルムの厚さは限定されないが150μm未満であることが好ましい。また、当該官能基含有フィルムは二軸延伸されていてもされていなくてもよい。積層工程においては、官能基を有するポリプロピレンフィルムと、官能基を有さないポリプロピレンシートを同時に積層してもよいし、予め官能基を有さないポリプロピレンシートを積層して積層シートを製造し、当該シートの表面に官能基を有するポリプロピレンフィルムを積層してもよい。しかしながら、作業性を考慮すると同時に積層する方法が好ましい。
【実施例】
【0052】
1.二軸延伸シート状部材の調製
表1に示す各々の二軸延伸シート状部材は以下の通りに調製した。
[二軸延伸シートA]
特開2011-500907号の実施例に記載の調製法に従い、固体触媒成分(1)を調製した。具体的には以下の通りである。
窒素でパージした500mLの4つ口丸底フラスコ中に、250mLのTiCl4を0℃において導入した。撹拌しながら、10.0gの微細球状MgCl2・1.8C2H5OH、および9.1mmolのジエチル-2,3-(ジイソプロピル)スクシネートを加えた。MgCl2・1.8C2H5OHは、米国特許4,399,054の実施例2に記載の方法にしたがって、しかしながら10000rpmに代えて3000rpmで運転して製造した。温度を100℃に上昇し、120分間保持した。次に、撹拌を停止し、固体生成物を沈降させ、上澄み液を吸い出した。次に、以下の操作を2回繰り返した:250mLの新しいTiCl4を加え、混合物を120℃において60分間反応させ、上澄み液を吸い出した。固体を、60℃において無水ヘキサン(6×100mL)で6回洗浄した。このようにして固体触媒(1)を得た。
【0053】
上記で得られた固体触媒(1)と、トリエチルアルミニウム(TEAL)と、ジイソプロピルジメトキシシラン(DIPMS)とを、固体触媒(1)に対するTEALの重量比が11であり、TEAL/DIPMSの重量比が3となるような量で、12℃において24分間接触させた。得られた触媒系を、液体プロピレン中において懸濁状態で20℃において5分間保持することによって予重合を行ったものを予重合触媒(S)とした。予重合触媒(S)を重合反応器に導入し、モノマーとしてプロピレンを供給するとともに、重合反応器内のエチレン濃度が0.095mol%、水素濃度が0.088mol%となるように少量のエチレンおよび分子量調整剤としての水素を供給した。重合温度を70℃、重合圧力を3.0MPaに調整することによってプロピレン-エチレン共重合体(重合体a)を得た。得られた重合体100重量部に対して、酸化防止剤(BASF社製B225)を0.2重量部、中和剤(淡南化学工業株式会社製カルシウムステアレート)を0.05重量部、ノニトール系核剤(ミリケン社製 Millad NX8000J)を配合し、ヘンシェルミキサーで1分間撹拌して混合した。ナカタニ機械株式会社製NVCφ50mm単軸押出機を用いてシリンダ温度230℃で当該混合物を溶融混練し、押出したストランドを水中で冷却した後、ペレタイザーでカットし、ペレット状の樹脂組成物(a)を得た。重合体aのエチレン由来単位含有量は0.4重量%、重合体aおよび樹脂組成物(a)のMFR(温度230℃、荷重2.16kg)は4.5g/10分であった。
【0054】
25mmφ3種3層フィルム・シート成形機(サーモ・プラステイックス工業株式会社製)を用いて、成形温度230℃で樹脂組成物(a)から、厚さ5.5mmの原反シート(大きさ10cm×10cm以上)を得た。次いでフィルム延伸装置(ブルックナー社製KARO-IV)用いて当該原反シートを160℃で同時二軸延伸(5倍×5倍)し、厚さ0.22mmの二軸延伸シートAを得た。
【0055】
[二軸延伸シートB]
欧州特許第674991号公報の実施例1に記載された方法により固体触媒成分(2)を調製した。当該固体触媒(以下「Pht」と略記することがある。)は、MgCl2上にTiと内部ドナーとしてのジイソブチルフタレートを上記の特許公報に記載された方法で担持させたものである。固体触媒(2)と、TEALおよびDCPMSを、固体触媒に対するTEALの重量比が11であり、TEAL/DCPMSの重量比が3となるような量で、-5℃において5分間接触させた。得られた触媒系を、液体プロピレン中において懸濁状態で20℃にて5分間保持することによって予重合を行った。得られた予重合物を重合反応器に導入した後、水素とプロピレン、エチレンをフィードした。そして、重合温度75℃、エチレン濃度1.07mol%、水素濃度0.44mol%で、重合圧力を調整することよって、プロピレン-エチレン共重合体(重合体b)を得た。得られた重合体bの100重量部に対して、酸化防止剤(BASF社製B225)を0.2重量部および中和剤(淡南化学工業株式会社製カルシウムステアレート)を0.05重量部配合し、ヘンシェルミキサーで1分間撹拌して混合した。ナカタニ機械株式会社製NVCφ50mm単軸押出機を用いてシリンダ温度230℃で当該混合物を溶融混練し、押出したストランドを水中で冷却した後、ペレタイザーでカットし、ペレット状の樹脂組成物(b)を得た。重合体bのエチレン由来単位含有量は4.0重量%、重合体bおよび樹脂組成物(b)のMFR(温度230℃、荷重2.16kg)は7.5g/10分であった。
【0056】
25mmφ3種3層フィルム・シート成形機(サーモ・プラステイックス工業株式会社製)を用いて、成形温度230℃で樹脂組成物(b)から厚さ5.5mmの原反シート(大きさ10cm×10cm以上)を得た。フィルム延伸装置(ブルックナー社製KARO-IV)用いて当該原反シートを140℃で同時二軸延伸(5倍×5倍)し、厚さ0.22mmの二軸延伸シートBを得た。
【0057】
[無延伸シートC]
前記固体触媒(2)と、TEALおよびシクロヘキシルメチルジメトキシシラン(CHMMS)を、固体触媒に対するTEALの重量比が8であり、TEAL/CHMMSの重量比が8となるような量で、-5℃において5分間接触させた。得られた触媒系を、液体プロピレン中において懸濁状態で20℃において5分間保持することによって予重合を行ったものを予重合触媒とした。
得られた予重合触媒を重合反応器に導入し、モノマーとしてプロピレンを供給するとともに、重合反応器内の水素濃度が0.041mol%となるように分子量調整剤としての水素を供給した。重合温度を75℃とし、重合圧力を調整することによってプロピレン単独重合体(重合体c)を得た。得られた重合体cの100重量部に対して、酸化防止剤として、BASF社製B225を0.2重量部、中和剤として淡南化学工業株式会社製カルシウムステアレートを0.05重量部、ノニトール系核剤(ミリケン社製Millad NX8000J)を0.05重量部配合し、ヘンシェルミキサーで1分間撹拌混合した。ナカタニ機械株式会社製NVC押出機を用いてシリンダ温度230℃で溶融混練し、押出したストランドを水中で冷却した後、ペレタイザーでカットし、ペレット状の樹脂組成物(c)を得た。重合体cのエチレン由来単位含有量は0重量%、重合体cおよび樹脂組成物(c)のMFR(温度230℃、荷重2.16kg)は3.0g/10分であった。
25mmφ3種3層フィルム・シート成形機(サーモ・プラステイックス工業株式会社製)を用いて、成形温度230℃で樹脂組成物(c)から厚さ0.20mmの無延伸シートC(大きさ10cm×10cm以上)を得た。
【0058】
[二軸延伸シートAB、二軸延伸フィルムAB]
25mmφ3種3層フィルム・シート成形機(サーモ・プラステイックス工業株式会社製)を用いて、成形温度230℃でタッチロール側に樹脂組成物(a)、キャストロール側に樹脂組成物(b)となるように共押出し、厚さ5.0mmおよび2.8mmの原反シート(大きさ10cm×10cm以上)を得た。フィルム延伸装置(ブルックナー社製KARO-IV)用いて当該原反シートを165℃で同時二軸延伸(5倍×5倍)し、厚さ0.20mmの二軸延伸シートAB、および厚さ0.11mmの共押出された二軸延伸フィルムABを得た。樹脂組成物(a)/樹脂組成物(b)の厚さ比は、91/9であった。
【0059】
[二軸延伸シートBA、二軸延伸フィルムBA]
25mmφ3種3層フィルム・シート成形機(サーモ・プラステイックス工業株式会社製)を用いて、成形温度230℃でタッチロール側に樹脂組成物(b)、キャストロール側に樹脂組成物(a)となるように共押出し、厚さ5.0mmおよび2.8mmの原反シート(大きさ10cm×10cm以上)を得た。フィルム延伸装置(ブルックナー社製KARO-IV)用いて当該原反シートを165℃で同時二軸延伸(5倍×5倍)し、厚さ0.20mmの二軸延伸シートBA、および厚さ0.11mmの共押出された二軸延伸フィルムBAを得た。樹脂組成物(b)/樹脂組成物(a)の厚さ比は、9/91であった。
【0060】
[二軸延伸シートBAB]
25mmφ3種3層フィルム・シート成形機(サーモ・プラステイックス工業株式会社製)を用いて、成形温度230℃で、樹脂組成物(b)/樹脂組成物(a)/樹脂組成物(b)となるように共押出し、厚さ5.0mmの原反シート(大きさ10cm×10cm以上)を得た。フィルム延伸装置(ブルックナー社製KARO-IV)用いて当該原反シートを165℃で同時二軸延伸(5倍×5倍)し、厚さ0.20mmの共押出された二軸延伸シートBABを得た。厚さ比は、8/84/8であった。
樹脂組成物の物性および二軸延伸シート状部材の物性を表1および表2に示す。
【0061】
2.多層シートおよび容器の製造
[実施例1]
二軸延伸シートABと二軸延伸シートBAをこの順に積層して、両方の最外層が二軸延伸シートAである前駆体を調製した。加熱体としてロール成形機(トクデン株式会社製誘導発熱ジャケットローラー、型式JR-D0-W、ロール径200mmφ×2本、ロール面長410mm)を用いて、当該前駆体の各層間を加熱融着して積層体としての多層シートを製造した。成形条件は表3に示すとおりとした。
【0062】
多層シートを250mm角に切り取り、株式会社脇坂エンジニアリング製小型真空圧空成形機(形式FVS-500型)を用いて、上下ヒーター設定温度360℃、加熱時間36秒、圧空圧力0.6MPaの条件下で、トレイ状の容器に成形した。成形体としての容器の形状は長さ130mm、幅100mm、深さ25.4mmであり、平坦部(底部)の長さは90mm、幅は60mm、厚さは多層シートの厚さに対して0.95倍であった。この際、容器の長さ方向がシートのMDとなるように成形した。多層シートおよび容器について後述のとおり評価した。容器の剛性、耐寒衝撃性、透明性の測定には、平坦部(底部)から採取した試験片を用いた。
【0063】
[実施例2]
二軸延伸シートAB、BAB、BAをこの順に積層して、両方の最外層が二軸延伸シートAである前駆体を調製した。実施例1と同じ方法で多層シートおよび容器を製造し、評価した。
【0064】
[実施例3]
二軸延伸シートAB、BAB、BAB、BAをこの順に積層して、両方の最外層が二軸延伸シートAである前駆体を調製した。実施例1と同じ方法で多層シートおよび容器を製造し、評価した。
【0065】
[実施例4]
二軸延伸シートAB、BAB、BAB、BAをこの順に積層して、両方の最外層が二軸延伸シートAである前駆体を調製した。この前駆体を250mm角に切り取り、株式会社脇坂エンジニアリング製小型真空圧空成形機(形式FVS-500型)を用いて、上下ヒーター設定温度360℃、加熱時間36秒、圧空圧力0.6MPaの条件下で、トレイ状の容器に成形した。容器の形状は、実施例1で製造した容器の形状と同一であった。
【0066】
[実施例5]
二軸延伸シートABの代わりに二軸延伸フィルムAB、二軸延伸シートBAの代わりに二軸延伸フィルムBAを用いた以外、実施例1と同じ方法で多層シートおよび容器を製造し、評価した。
【0067】
[比較例1]
二軸延伸シートAのみを用い、実施例1と同様にして比較用シートおよび容器を製造し、評価した。
【0068】
[比較例2、3]
加熱ロール温度を変更した以外は実施例2と同じ方法で比較用シートおよび容器を製造し、評価した。比較例2で得た多層シートは層間が十分に融着していなかった。比較例3では延伸ロールを用いたことによって各層が融解したため、得られたシートでは多層構造を確認できなかった。
【0069】
[比較例4]
二軸延伸シートBABの枚数を変更した以外は、実施例2と同じ方法で比較用シートおよび容器を製造し、評価した。
【0070】
[参考例1]
無延伸シートCを用いて実施例1と同様にして比較用シートおよび容器を製造し、評価した。
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
3.評価
(1)MFR
重合体に関しては、試料5gに対して本州化学工業株式会社製H-BHTを0.05g添加し、ドライブレンドにより均一化した後、JIS K7210-1に従い、温度230℃および荷重2.16kgの条件下で測定した。樹脂組成物に関しては、JIS K7210-1に準じ、温度230℃および荷重2.16kgの条件下で測定した。
(2)重合体に含まれるエチレン由来単位含有量(重量%)
1,2,4-トリクロロベンゼン/重水素化ベンゼンの混合溶媒に溶解した試料について、Bruker社製AVANCE III HD400(13C共鳴周波数100MHz)を用い、測定温度120℃、フリップ角45度、パルス間隔7秒、試料回転数20Hz、積算回数5000回の条件で13C-NMRのスペクトルを得た。上記で得られたスペクトルを用いて、M. Kakugo, Y. Naito, K. Mizunuma and T. Miytake, Macromolecules, 15, 1150-1152 (1982) の文献に記載された方法により、重合体に含まれるエチレン由来単位含有量(重量%)を求めた。
【0076】
(3)I
X
VとI
X
L
X線散乱装置(リガク社製MicroMaxとNanoViewer)を用い、
図2に示すようにシートに対してX方向にX線(波長:0.154nm)を入射して小角X線散乱測定を行った。得られた2次元プロファイルについて、バックグラウンドを除去した後、赤道(Y軸)方向の方位角での積分強度I
X
Lと子午線(Z軸)方向の方位角での積分強度I
X
Vを求めた。積分の領域は、赤道(Y軸)および子午線(Z軸)から方位角±30°までの範囲とした。
この解析では、シート表面の反射の影響を少なくするため、サンプル照射位置でのX線入射ビームのサイズをシートの厚さに比してあまり大きくならないようにする必要がある。今回は0.40~1.60mm厚のシートに対してサンプル照射位置でのビームサイズを500μmとして測定した。
【0077】
(4)DSCによる融点(Tmh、Tml)
二軸延伸シートまたは二軸延伸フィルムから約5mgをサンプリングし、電子天秤で秤量した後、示差熱分析計(DSC)(TA Instruments社製 Q-200)で、30℃で5分間保持した後、10℃/分の昇温速度で230℃まで加熱して融解曲線を得た。融解曲線のピーク温度について、第1の二軸延伸ポリプロピレン層の融点をTmh、第2の二軸延伸ポリプロピレン層の融点をTmlとした。各層において複数の融点ピークが観察される場合は最大ピークの温度を融点とした。最外層の融点をTmoutとしており、Tmout=TmhまたはTmout=Tmlとなるが、高融点成分が加熱体に接触する態様としてTmout=Tmhであることが好ましい。
【0078】
(4)剛性(引張弾性率、曲げ弾性率)
得られたシートからJIS K7139に規定するタイプA2の多目的試験片を機械加工し、JIS K7161-2に従い、株式会社島津製作所製精密万能試験機(オートグラフAG-X 10kN)を用い、温度23℃、相対湿度50%、試験速度1mm/分の条件で引張弾性率を測定した。また、容器の平坦部(底部)を切削して、JIS K7139に規定するタイプB3の試験片(幅10mm、長さ80mm)を得た。株式会社島津製作所製精密万能試験機(オートグラフAG-X 10kN)を用い、温度23℃、相対湿度50%、支点間距離64mm、試験速度2mm/分の条件で曲げ弾性率を測定した。
【0079】
(5)耐寒衝撃性(面衝撃強度)
得られたシートについて、JIS K7211-2に従い、株式会社島津製作所製ハイドロショットHITS-P10を用い、-30℃に調整した槽内で、内径40mmφの穴の開いた支持台に測定用試験片を置き、内径76mmφの試料押さえを用いて固定した後、半球状の打撃面を持つ直径12.7mmφのストライカーで、1m/秒の衝撃速度で試験片を打撃しパンクチャーエネルギー(J)を求めた。4個の測定用試験片各々のパンクチャーエネルギーの平均値を面衝撃強度とした。また、容器の底部から同形状の試験片を作製し、同じ条件で容器の面衝撃強度を評価した。
【0080】
(6)透明性(ヘーズ)
得られたシートについて、ISO 14782に従い株式会社村上色彩技術研究所製HM-150を使用してヘーズ測定を行い、全ヘーズとして透明性を評価した。また、容器の底部から同形状の試験片を作製し、同じ条件で容器の透明性を評価した。
【0081】
(7)容器の剥離状態
容器を目視で観察し、剥離の有無を評価した。
(8)容器の耐熱性
アルミ板上にトレイ状の容器を、開口部がアルミ板と接するように載置し、各温度に設定されたオーブン中に無荷重状態で1時間保持した。オーブンの扉を開けた後、速やかに容器の上に荷重(640g)を乗せた。10秒後に荷重を取り除き、オーブンからアルミ板と容器を取り出し、容器の座屈の有無を目視にて確認した。容器が座屈し始める温度(座屈試験の耐熱温度)を測定し、耐熱性を評価した。
【0082】
本発明の多層シートは、優れた透明性および機械的特性を有し、かつ優れた透明性および機械的特性有する成形体とできることが明らかである。
【符号の説明】
【0083】
1 ポリプロピレン多層シート
H 第1の層
L 第2の層
S1 第1の層となるポリプロピレン二軸延伸シート状部材
S2 第2の層となるポリプロピレン二軸延伸シート状部材
C 共押出層
2 入射X線
20 サンプルへの照射位置でのビームサイズ