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  • 特許-ポリプロピレン多層シート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-08
(45)【発行日】2023-08-17
(54)【発明の名称】ポリプロピレン多層シート
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20230809BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20230809BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20230809BHJP
   C08L 23/10 20060101ALI20230809BHJP
   C08L 23/14 20060101ALI20230809BHJP
   B65D 1/00 20060101ALI20230809BHJP
【FI】
B32B27/32 E
C08K3/013
C08K3/34
C08L23/10
C08L23/14
B65D1/00 110
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022561988
(86)(22)【出願日】2021-11-11
(86)【国際出願番号】 JP2021041525
(87)【国際公開番号】W WO2022102706
(87)【国際公開日】2022-05-19
【審査請求日】2023-04-14
(31)【優先権主張番号】P 2020189251
(32)【優先日】2020-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000239138
【氏名又は名称】株式会社エフピコ
(73)【特許権者】
【識別番号】597021842
【氏名又は名称】サンアロマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】上野 晋吾
(72)【発明者】
【氏名】中島 武
(72)【発明者】
【氏名】池田 正幸
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/075755(WO,A1)
【文献】特開2013-103369(JP,A)
【文献】特開2012-158107(JP,A)
【文献】特開2019-155703(JP,A)
【文献】特開2017-186561(JP,A)
【文献】特開2021-091116(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00- 43/00
B65D 1/00- 1/48
B29C 55/00- 55/30、 61/00- 61/10
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点TmFを有する二軸延伸ポリプロピレン層Fと、
融点TmNを有する二軸延伸ポリプロピレン層Nとが、交互に積層されている厚さ0.15~3.0mmのポリプロピレン多層シートであって、
前記二軸延伸ポリプロピレン層Fを形成する二軸延伸ポリプロピレンシート状部材と、前記二軸延伸ポリプロピレン層Nを形成する二軸延伸ポリプロピレンシート状部材と、が積層された前駆体の層間を融着することを含む方法で形成され、多層構造を有し、
TmF>TmNであり、
合計層数が3~11であり、
前記層Fは成分(A)であるポリプロピレン系樹脂と、成分(B)である無機充填材とを含む樹脂組成物から形成され、成分(B)/[成分(A)+成分(B)]の重量比が0.5~60重量%であり、
前記層Nは成分(a)であるポリプロピレン系樹脂と任意に前記成分(B)とを含む樹脂組成物から形成され、
成分(B)/[成分(a)+成分(B)]の重量比が0~10重量%であ
前記前駆体が、前記層Fと層Nとが交互に積層されて共押出された共押出層を含み、
当該共押出層の厚さが0.08~0.50mm、当該共押出層の合計枚数が2~6である、
ポリプロピレン多層シート。
【請求項2】
前記成分(A)は、成分(A1)および任意成分(A2)からなるポリプロピレン系樹脂であり、
前記成分(A1)はC2~C10-αオレフィン(ただしC3-αオレフィンを除く)から選択されるコモノマー由来単位を0~1重量%含むプロピレン(共)重合体100~60重量%、
成分(A2)はエチレン由来単位を10~90重量%含むエチレン-α-オレフィン共重合体0~40重量%であり、
成分(A)のMFR(230℃、荷重2.16kg)が0.1~15g/10分である、請求項1に記載のポリプロピレン多層シート。
【請求項3】
前記成分(a)が、プロピレン単独重合体;5重量%以下のC2~C10-αオレフィン(ただしC3-αオレフィンを除く)から選択される少なくとも1種のコモノマーを含むプロピレンランダム共重合体;あるいはこれらの組合せから選択される、請求項1または2に記載のポリプロピレン多層シート。
【請求項4】
前記層Fの総厚さDFと前記層Nの総厚さDNの比DF/DNが1~30である、請求項1~のいずれかに記載のポリプロピレン多層シート。
【請求項5】
前記無機充填材が板状無機充填材である、請求項1~のいずれかに記載のポリプロピレン多層シート。
【請求項6】
前記板状無機充填材がタルクである、請求項に記載のポリプロピレン多層シート。
【請求項7】
前記層Fにおける成分(B)/[成分(A)+成分(B)]の重量比が20~55重量%である、請求項1~のいずれかに記載のポリプロピレン多層シート。
【請求項8】
請求項1~のいずれかに記載のポリプロピレン多層シートの製造方法であって、
融点TmFを有する層Fと、
融点TmNを有する層Nとが、層F同士が隣接しないように積層された前駆体であって、前記層Fと層Nとが交互に積層されて共押出された共押出層を含み、当該共押出層の厚さが0.08~0.50mm、当該共押出層の合計枚数が2~6である前駆体を調製する工程1と、
前記前駆体の最外層に加熱体を接触させて前記シートの層間を加熱融着する工程2を含み、
TmF>TmNである、
製造方法。
【請求項9】
前記最外層の融点Tmoutと前記加熱体の温度Tが以下の条件を満たす、
Tmout-T≧4(℃)
(ただし、融点はDSCを用いて、30℃から230℃まで昇温速度10℃/分の条件で測定して得られる)
請求項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記工程1が、前記層Fの原料と前記層Nの原料とを共押出して複数の層を有する共押出原反シートを調製し、これを二軸延伸したものを用いて前記前駆体を調製する工程を含む、請求項またはに記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1~のいずれかに記載のポリプロピレン多層シートを成形してなる成形体。
【請求項12】
容器である、請求項11に記載の成形体。
【請求項13】
融点TmFを有する二軸延伸ポリプロピレン層Fと、
融点TmNを有する二軸延伸ポリプロピレン層Nとが、
層F同士が隣接しないように積層され、かつ融着されていない1以上の層間を有
前記層Fと層Nとが交互に積層されて共押出された共押出層を含み、
当該共押出層の厚さが0.08~0.50mm、当該共押出層の合計枚数が2~6である、
請求項1~のいずれかに記載のポリプロピレン多層シートの前駆体。
【請求項14】
請求項8~10のいずれかに記載の方法で製造されたポリプロピレン多層シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリプロピレン多層シートに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンの延伸フィルムは、高い耐熱性に加え、優れた透明性および機械的特性が要求される分野に使用されており、この特性をさらに高める技術が種々検討されている。例えば特許文献1は、分子量分布等を特定の範囲としかつコモノマーおよび結晶核剤の含有量を特定の範囲とするポリプロピレン組成物から剛性、透明性、耐熱性、均一延伸性、低温衝撃性、および易熱成形性のバランスに極めて優れたシートを得たことを開示する。また特許文献2は、高分子配向融液の状態で冷却して結晶化させることによって、結晶サイズがナノメートルオーダーであり、高分子鎖が高度の配向した高分子ナノ配向結晶体を主成分として含む高分子ナノ配向結晶体材料からなるシートを開示する。
【0003】
これらのシートは薄いため用途が限定されており、その厚さを増大できれば別の用途へ拡大が期待される。この点に関し、特許文献3は、融点の異なるポリプロピレンの二軸延伸フィルムを交互に積層して、高い耐熱性に加え、優れた透明性および機械的特性を有する厚さが0.5~5mmである多層シートを製造することを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-095698号公報
【文献】特開2012-096526号公報
【文献】国際公開第2020/075755号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献3に記載の多層シートは優れた剛性を有するが、発明者らは、当該多層シートの剛性をより高めることができればポリプロピレンの用途をさらに拡大できるとの着想を得た。かかる事情を鑑み、本発明は、高い剛性を有する、ポリプロピレン多層シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、無機充填材の含有量が異なる2種の二軸延伸ポリマー層が交互に積層されたポリプロピレン多層シートが前記課題を解決することを見出し、本発明を完成した。すなわち前記課題は以下の本発明によって解決される。
(1)融点TmFを有する二軸延伸ポリプロピレン層Fと、
融点TmNを有する二軸延伸ポリプロピレン層Nとが、交互に積層されている厚さ0.15~3.0mmのポリプロピレン多層シートであって、
TmF>TmNであり、
合計層数が3~11であり、
前記層Fは成分(A)であるポリプロピレン系樹脂と、成分(B)である無機充填材とを含む樹脂組成物から形成され、成分(B)/[成分(A)+成分(B)]の重量比が0.5~60重量%であり、
前記層Nは成分(a)であるポリプロピレン系樹脂と任意に前記成分(B)とを含む樹脂組成物から形成され、
成分(B)/[成分(a)+成分(B)]の重量比が0~10重量%である、
ポリプロピレン多層シート。
(2)前記成分(A)は、成分(A1)および任意成分(A2)からなるポリプロピレン系樹脂であり、
前記成分(A1)はC2~C10-αオレフィン(ただしC3-αオレフィンを除く)から選択されるコモノマー由来単位を0~1重量%含むプロピレン(共)重合体100~60重量%、
成分(A2)はエチレン由来単位を10~90重量%含むエチレン-α-オレフィン共重合体0~40重量%であり、
成分(A)のMFR(230℃、荷重2.16kg)が0.1~15g/10分である、(1)に記載のポリプロピレン多層シート。
(3)前記成分(a)が、プロピレン単独重合体;5重量%以下のC2~C10-αオレフィン(ただしC3-αオレフィンを除く)から選択される少なくとも1種のコモノマーを含むプロピレンランダム共重合体;あるいはこれらの組合せから選択される、(1)または(2)に記載のポリプロピレン多層シート。
(4)前記層Fと層Nとが交互に積層されて共押出された共押出層を含み、
当該共押出層の厚さが0.08~0.50mm、当該共押出層の合計枚数が2~6である、(1)~(3)のいずれかに記載のポリプロピレン多層シート。
(5)前記層Fの総厚さDFと前記層Nの総厚さDNの比DF/DNが1~30である、(1)~(4)のいずれかに記載のポリプロピレン多層シート。
(6)前記無機充填材が板状無機充填材である、(1)~(5)のいずれかに記載のポリプロピレン多層シート。
(7)前記板状無機充填材がタルクである、(6)に記載のポリプロピレン多層シート。
(8)前記層Fにおける成分(B)/[成分(A)+成分(B)]の重量比が20~55重量%である、(1)~(7)のいずれかに記載のポリプロピレン多層シート。
(9)前記(1)~(8)のいずれかに記載のポリプロピレン多層シートの製造方法であって、
融点TmFを有する層Fと、
融点TmNを有する層Nとが、層F同士が隣接しないように積層された前駆体を調製する工程1と、
前記前駆体の最外層に加熱体を接触させて前記シートの層間を加熱融着する工程2を含み、
TmF>TmNである、
製造方法。
(10)前記最外層の融点Tmoutと前記加熱体の温度Tが以下の条件を満たす、
Tmout-T≧4(℃)
(ただし、融点はDSCを用いて、30℃から230℃まで昇温速度10℃/分の条件で測定して得られる)
(9)に記載の製造方法。
(11)前記工程1が、前記層Fの原料と前記層Nの原料とを共押出して複数の層を有する共押出原反シートを調製し、これを二軸延伸したものを用いて前記前駆体を調製する工程を含む、(9)または(10)に記載の製造方法。
(12)前記(1)~(8)のいずれかに記載のポリプロピレン多層シートを成形してなる成形体。
(13)容器である、(12)に記載の成形体。
(14)融点TmFを有する二軸延伸ポリプロピレン層Fと、
融点TmNを有する二軸延伸ポリプロピレン層Nとが、
層F同士が隣接しないように積層され、かつ融着されていない1以上の層間を有する、
(1)~(8)のいずれかに記載のポリプロピレン多層シートの前駆体。
(15)前記(9)~(11)のいずれかに記載の方法で製造されたポリプロピレン多層シート。
【発明の効果】
【0007】
本発明によって、高い剛性を有するポリプロピレン多層シートを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明のポリプロピレン多層シートの概要を説明する図である。
図2】本発明のポリプロピレン多層シートの製造方法の一態様を説明する図である。
図3】本発明のポリプロピレン多層シートの製造方法の別態様を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明において「X~Y」はその端値、すなわちXおよびYを含む。本発明においてシートとフィルムは同義で使用されるが、特に、厚さが150μm以上の膜状部材をシートと、厚さが150μm未満の膜状部材をフィルムという場合がある。また、シートとフィルムを総称して「シート状部材」という場合がある。
【0010】
1.ポリプロピレン多層シート
(1)厚さ
本発明のポリプロピレン多層シート(以下単に「多層シート」ともいう)の厚さは0.15~3.0mmである。下限値は、好ましくは0.18mm以上、より好ましくは0.20mm以上である。上限値は、好ましくは1.5mm以下、より好ましくは1.0mm以下、さらに好ましくは0.80mm以下である。多層シートの厚さは用途によって適宜調整される。
【0011】
(2)多層構造
本発明の多層シートは二軸延伸ポリプロピレン層Fと二軸延伸ポリプロピレン層Nが交互に積層された多層構造を有する。以下、二軸延伸ポリプロピレン層Fを「フィラー層F」ともいい、二軸延伸ポリプロピレン層Nを「ニート層N」ともいう。各層間は融着されているので、本発明の多層シートは一体化シートである。当該シートの各層間が融着され一体化されているのかについては、特許文献3に記載のとおり、偏光顕微鏡による断面観察によって確認することができる。
【0012】
後述するとおり、本発明の多層シートにおけるフィラー層Fは当該層用のポリプロピレン二軸延伸シート状部材に由来し、ニート層Nは当該層用の二軸延伸ポリプロピレンシート状部材に由来する。各層が独立して当該シート状部材から構成されてもよい。この態様を図1(A)に示す。図中、1’は後述する前駆体、FおよびNは、フィラー層Fおよびニート層N、1は多層シートである。前駆体1’の層間が融着されて本発明の多層シート1となる。
【0013】
全層のうち少なくとも一部が、共押出成形によって得られたフィラー層Fとニート層Nとが交互に積層された共押出層で構成されていてもよい。この態様を図1(B)に示す。図中、Cは共押出層を示し、例えばC[F/N]はフィラー層Fとニート層Nの2層を有する共押出層である。C[F/N]とC[N/F]との間に3枚のC[N/F/N]が存在する前駆体1’から本発明の多層シート1が形成される。
【0014】
本発明の多層シートにおける合計層数は3~11である。合計層数がこの範囲であることによって、本発明の多層シートを成形体へ成形する際に優れた成形性を発現する、すなわち優れた成形性を有する。図1(B)の態様では、多層シートにおける合計層数は9である。また、共押出層を含む態様において、共押出層の厚さは好ましくは0.08~0.50mmである。また共押出層の合計枚数は、好ましくは2~6、より好ましくは2~5、さらに好ましくは2~4、特に好ましくは2~3である。共押出層の厚さとはC全体の厚さ(図1(B)においてtで表される)をいう。図1(B)のケースにおいて、共押出層の合計枚数は5である。
【0015】
フィラー層Fの総厚さ(合計の厚さ)DFとニート層Nの総厚さ(合計の厚さ)DNの比DF/DNについて、値が過度に小さいと多層シートの剛性が不十分となり、値が過度に大きいと多層シートの層間の融着性が不十分となる。融着性と剛性のバランスから前記比は1~30が好ましく、1~25がより好ましく、4~15がさらに好ましい。各層の厚さは同じであっても異なっていてもよい。そして、各層の厚さは前記比を前記範囲とするように適宜調整される。フィラー層Fの一層の厚さは、好ましくは50μm~200μmである。ニート層Nの一層の厚さは、好ましくは5μm~200μmである。
【0016】
フィラー層Fの融点TmFとニート層Nの融点TmNは、TmF>TmNの関係を満たす。TmF-TmNは限定されないが、好ましくは1℃以上、より好ましくは10℃以上、さらに好ましくは25℃以上である。また、TmF-TmNは好ましくは60℃以下である。これらの融点が過度に低いと多層シートの剛性や耐熱性が不十分となる。この観点から、TmFは好ましくは160℃以上、より好ましくは165℃以上であり、TmNは好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは130℃以上である。これらの融点はDSCを用いて、30℃から230℃まで昇温速度10℃/分の条件で測定して得られる。
【0017】
(3)機械的特性、耐熱性
本発明の多層シートおよび多層シートから得られる容器等の成形体は優れた機械的特性を有する。例えば、当該シートおよび成形体は剛性として好ましくは3,000MPa以上、より好ましくは3,500MPa以上、さらに好ましくは4,000MPa以上の引張弾性率(JIS K7161-2)を有する。また、本発明の多層シートは耐寒衝撃性にも優れる。例えば本発明の多層シートおよび成形体は、好ましくは4.0J以上、より好ましくは5.0J以上、さらに好ましくは7.0J以上の面衝撃強度(-30℃、JIS K7211-2)を有する。
【0018】
本発明の多層シートから得られる容器は、耐熱性に優れるので、幅広い温度での使用が可能である。特に、当該容器の座屈試験における耐熱温度は好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上、さらに好ましくは140℃以上、特に好ましくは150℃以上である。この範囲の座屈試験における耐熱温度を有する容器は、優れた電子レンジ適用性を備える。座屈試験は、以下の工程で実施される。
1)金属等の耐熱性の高い板に容器を開口部が下となるように載置し、オーブン中、無荷重状態で1時間、加熱保持する。
2)オーブンの扉を開けた後、速やかに容器の上に荷重(640g)を乗せ、10秒後に荷重を取り除く。
3)オーブンから前記板と容器を取り出し、容器の座屈の有無を目視にて確認する。
4)容器が座屈し始める温度を耐熱温度とする。
【0019】
(4)表面
本発明の多層シートの表面には官能基を付与することができる。官能基としては酸素含有官能基が好ましい。酸素含有官能基としては、カルボキシル基、カルボキシレート基、酸無水物基、水酸基、アルデヒド基、またはエポキシ基等が挙げられる。これらの官能基によって、本発明の多層シートと他材料との密着性が向上する。
【0020】
(5)各層
1)フィラー層F
フィラー層Fはポリプロピレン系樹脂(A)と無機充填材(B)とを含む樹脂組成物から形成される。
[ポリプロピレン系樹脂(成分(A))
ポリプロピレン系樹脂とはポリプロピレンを主成分とする樹脂である。前記フィラー層Fを構成するポリプロピレン系樹脂は100~60重量%の成分(A1)および0~40重量%の任意成分(A2)からなる。成分(A2)が0重量%超である場合、成分(A)は、成分(A1)を重合し、当該成分の存在下で成分(A2)を重合して得られる、いわゆるヘテロ相共重合体(HECO)であってもよいし、別個に重合して調製した成分(A1)と成分(A2)をブレンドしたものであってもよいが、より少ない製造工程で成分(A)が得られる点においてHECOであることが好ましい。
【0021】
成分(A1)はC2~C10α-オレフィン(ただしC3α-オレフィンを除く)より選択されるコモノマー由来単位を0~1重量%含むプロピレン(共)重合体である。本発明においてC2~C10-αオレフィンから選択されるコモノマーは、C3-αオレフィンを当然に含まない。コモノマーを含む場合は経済性の観点からエチレンが好ましい。当該コモノマー由来単位の量が上限を超えると多層シートの剛性が低下することがある。この観点から、成分(A1)はコモノマー由来単位を含まないことすなわち、プロピレン単独重合体であることが好ましい。あるいは成分(A1)がコモノマー由来単位を含む場合、その量は0重量%を超え0.5重量%以下であることが好ましい。
【0022】
ポリプロピレン系樹脂中、成分(A1)の含有量は60~100重量%である。成分(A1)の含有量が少ないとポリプロピレン系樹脂の製造が困難になりうる。よって、成分(A1)の前記含有量は好ましくは70~100重量%であり、さらに好ましくは75~100重量%である。
【0023】
成分(A)のMFR(230℃、荷重2.16kg)は0.1~15g/10分である。MFRが上限値を超えると多層シートの原料となる二軸延伸ポリプロピレンシート状部材の調製が困難となり、また下限値未満であると成分(A)の製造が困難となる。この観点から、前記MFRの下限値は、好ましくは1g/10分以上であり、より好ましくは2g/10分以上であり、その上限値は、好ましくは10g/10分以下であり、より好ましくは8g/10分以下である。
【0024】
任意成分(A2)は、10~90重量%のエチレン由来単位を含むエチレン-α-オレフィン共重合体である。エチレン由来単位が下限値未満または上限値を超える場合は、耐寒衝撃性が低下する。この観点から、エチレン由来単位の含有量は好ましくは15~85重量%であり、より好ましくは20~80重量%である。α-オレフィンは、エチレン以外であれば限定されないが、好ましくはプロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、または1-オクテンであり、より好ましくはプロピレン、1-ブテンであり、さらに好ましくはプロピレンである。
【0025】
ポリプロピレン系樹脂中、成分(A2)の含有量は0~40重量%である。成分(A2)の含有量が過度に多いとポリプロピレン系樹脂の製造が困難になりうる。よって、成分(A2)の前記含有量は好ましくは0~35重量%であり、さらに好ましくは0~30重量%である。
【0026】
[無機充填材(成分(B))
無機充填材は主に材料の剛性を向上する目的で添加される。無機充填材としては物質の観点から、例えば、以下のものが挙げられる。
タルク、カオリナイト、クレー、イロフィライト、セナイト、ウォラストナイト、またはマイカ等の天然珪酸または珪酸塩;含水珪酸カルシウム、含水珪酸アルミニウム、含水珪酸、または無水珪酸等の合成珪酸または珪酸塩;沈降性炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、または炭酸マグネシウム等の炭酸塩;水酸化アルミニウム、または水酸化マグネシウム等の水酸化物;酸化亜鉛、または酸化マグネシウム等の酸化物。
【0027】
また、無機充填材としては形状の観点から、例えば、以下のものが挙げられる。
含水珪酸カルシウム、含水珪酸アルミニウム、含水珪酸、または無水珪酸等の合成珪酸または珪酸塩等の粉末状充填材;タルク、カオリナイト、クレー、またはマイカ等の板状充填材;塩基性硫酸マグネシウムウィスカー、チタン酸カルシウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、セピオライト、PMF(Processed Mineral Filler)、ゾノトライト、チタン酸カリウム、またはエレスタダイト等のウィスカー状充填材;ガラスバルン、またはフライアッシュバルン等のバルン状充填材;ガラスファイバー等の繊維状充填材。
【0028】
当該無機充填材として1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの充填材の分散性を向上させるため、必要に応じて無機充填材の表面処理を行ってもよい。本発明に用いる無機充填材は限定されないが、フィラー層Fにおけるポリプロピレン結晶のシート面に沿った方向の配向を促進することにより剛性および耐衝撃性を高める観点から、板状無機充填材が好ましい。板状無機充填材としてはタルク、カオリナイト、クレー、またはマイカ等の公知のものを使用できるが、ポリプロピレン系樹脂との親和性や原料としての調達容易性や経済性等を考慮すると、好ましくはタルク、またはマイカであり、さらに好ましくはタルクである。板状無機充填材の体積平均粒子径は、好ましくは1~10μm、より好ましくは2~7μmである。体積平均粒子径が前記下限値未満の場合、フィラー層Fの剛性が低くなることがある。体積平均粒子径が前記上限値を超える場合は延伸時に破断が生じやすくなるので多層シートの原料となる二軸延伸シート状部材の調製が困難となる。前記体積平均粒子径は、レーザ回折法(JIS R1629に基づく)によって体積基準の積算分率における50%径として測定できる。
【0029】
[成分(A)と(B)の重量比]
フィラー層Fにおける成分(A)と(B)の重量比は、以下のとおりである。
成分(B)/[成分(A)+成分(B)]=0.5~60重量%
成分(B)の量が少ないと多層シートの剛性が十分でなく、成分(B)の量が多いと多層シートの製造が困難となりうる。この観点から、前記重量比は、好ましくは5~55重量%であり、より好ましくは10~55重量%であり、さらに好ましくは20~55重量%である。
【0030】
2)ニート層N
ニート層Nは成分(a)であるポリプロピレン系樹脂と任意に前記成分(B)とを含む樹脂組成物から形成される。成分(a)は、前記TmFとTmNの関係を満たすように選択され、好ましくはプロピレン単独重合体(HOMO);5重量%以下のC2~C10-αオレフィン(ただしC3-αオレフィンを除く)から選択される少なくとも1種のコモノマーを含むプロピレンランダム共重合体(RACO);あるいはこれらHOMOおよびRACOの組合せから選択される。コモノマー由来単位の量が過度に少ないと層Fとの融着性が十分でない場合があり、過度に多いと多層シートの剛性が低下する場合がある。この観点から、コモノマー由来単位の量は、好ましくは0重量%を超え4.5重量%以下である。コモノマーとしてはエチレン(C2-αオレフィン)が好ましい。
【0031】
ニート層Nを構成する重合体または樹脂組成物のMFR(230℃、荷重2.16kg)は好ましくは1~15g/10分、より好ましくは2~10g/10分、さらに好ましくは3~8g/10分である。MFRが過度に小さいと原料となるポリプロピレン系樹脂の製造が困難となり、または過度に大きいと二軸延伸時に破断を生じ、多層シートを安定生産できないことがある。
【0032】
[成分(a)と(B)の重量比]
ニート層Nにおける成分(a)と(B)の重量比は、以下のとおりである。
成分(B)/[成分(a)+成分(B)]=0~10重量%
特に多層シートの製造において、共押出して原反シートを調製する工程を含む場合、原反シートN”(多層シートのニート層Nに相当する)における成分(B)の量が多いと原反シートの延伸が困難となるので、前記重量比は5重量%以下が好ましい。前記重量比はより好ましくは5重量%未満、さらに好ましく1重量%以下、特に好ましくは0.5重量%以下、最も好ましくは0重量%である。ニート層Nにおける前記重量比は、フィラー層Fにおける前記重量比よりも小さい。
【0033】
(6)核剤
層Fまたは層Nは、核剤を含む樹脂組成物で構成されてもよいし、核剤を含まない樹脂組成物または重合体で構成されていてもよい。核剤とは、樹脂中の結晶成分を増加させて剛性を高めるために用いられる添加剤である。このような添加剤としては公知のものを使用できる。核剤の量は、経済的な観点から、重合体100重量部に対して、好ましくは1重量部以下である。
【0034】
(7)その他の添加剤
フィラー層Fおよびニート層Nを構成する樹脂組成物は、酸化防止剤、塩素吸収剤、耐熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、内部滑剤、外部滑剤、アンチブロッキング剤、帯電防止剤、防曇剤、難燃剤、分散剤、銅害防止剤、中和剤、可塑剤、架橋剤、過酸化物、油展、有機顔料、または無機顔料などのポリオレフィンに通常用いられる慣用の添加剤を含んでいてもよい。各添加剤の添加量は公知の量としてよい。また、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリプロピレン以外の合成樹脂または合成ゴムを含有してもよい。当該合成樹脂または合成ゴムは1種でもよいし2種以上でもよい。
【0035】
(8)前駆体
後述するとおり、本発明の多層シートは、前記フィラー層Fとニート層Nとが、層F同士が隣接しないように積層され、かつ融着されていない1以上の層間を有する前駆体を経て製造されることが好ましい。当該前駆体は、層間が融着されて本発明の多層シートとされる。また、当該前駆体は、所望の形状に賦形されるとともに層間が融着されることによって、直接、成形体とされる。前駆体を構成する層の一部は、前述の共押出層で構成されていてもよい。したがって、前駆体は一態様において全層間が剥離しており、別態様において1以上の層間が融着されかつ1以上の層間が剥離している。別態様における層間の融着は共押出に起因し、後述する加熱圧着には起因しない。
【0036】
2.用途
本発明の多層シートは、面内方向において高い配向度と特定の高次構造を有し、かつ配向度の厚さ方向の依存性が小さいので、軽量でありながら優れた機械的特性を有する。また、よって、本発明の多層シートは、従来よりも薄肉化かつ減量化させた食品包装材や容器または蓋等として有用である。また本発明の多層シートは高剛性であるため、雑貨、日用品、家電部品、玩具部材、家具部材、建材部材、包装部材、工業資材、物流資材、または農業資材等として有用である。さらに本発明の多層シートは、鋼板代替として自動車部品、電機電子部品、または筐体部材等にも用いることができる。
【0037】
特に本発明の多層シートは、優れた成形性を有するので、食品包装材や容器等として有用である。当該容器等は、薄肉、軽量であり、広い使用温度範囲を有する。
【0038】
3.製造方法
本発明の多層シートは、フィラー層Fとニート層Nとが、フィラー層F同士が隣接しないように積層されてなる前駆体を調製する工程1と、前記前駆体の最外層に加熱体を接触させて前記シートの層間を加熱融着する工程2を備える方法で製造されることが好ましい。フィラー層Fの融点TmFとニート層Nの融点TmNは、TmF>TmNの関係を満たし、好ましくはTmF-TmN≧1(℃)の関係を満たす。当該融点差によって層間の密着性が良好となる。以下、各工程について図2および3を参照して説明する。図中、fおよびnは、最終的に層Fおよび層Nを構成する樹脂組成物である。F”およびN”は、最終的に層Fおよび層Nを構成する未延伸シート(原反シート)である。F’およびN’は、最終的に層Fおよび層Nを構成する二軸延伸シート状部材である。1’は前駆体、1は多層シート、Fはフィラー層、Nはニート層である。また、2は未延伸シート調製工程、3は延伸工程、4は積層工程、5は層間融着工程である。樹脂組成物の融点TmfおよびTmn、未延伸シートの融点TmF”およびTmN”、二軸延伸シート状部材の融点TmF’およびTmN’、層の融点TmFおよびTmNには以下の関係がある。
Tmf=TmF”
TmF’=TmF=Tmf+x(℃)
Tmn=TmN”
TmN’=TmN=Tmn+y(℃)
xおよびyは、延伸状態等によって変動するが、それぞれ独立に、好ましくは1~10℃であり、より好ましくは2~7℃程度である。
【0039】
(1)工程1
本工程では、前記前駆体を準備する。前駆体を構成する層の一部は、前述の共押出層で構成されていてもよい。前駆体の全層は融着されていないか、一部は融着されている。
【0040】
本工程は、例えば、フィラー層F用の二軸延伸ポリプロピレンシート状部材F’とニート層N用の二軸延伸ポリプロピレンシート状部材N’とを別個に準備してこれらを交互に積層することで実施できる。例えば、F’/N’/・・・/F’のように積層して前駆体1’を調製できる。この場合、全層間は融着していないことが好ましい。得られる多層シートの耐熱性を高める観点から、両最外層はF’であることが好ましい。
【0041】
本工程の一態様を図2に示す。本態様においては、二軸延伸ポリプロピレンシート状部材F’およびN’を別個に準備して、これを交互に積層して前駆体1’を調製する。この際、この場合、全層間は融着していないことが好ましいが、1またはいくつかの層間は融着していてもよい。得られるシートの耐熱性を高める観点から、両最外層は二軸延伸ポリプロピレンシート状部材F’であることが好ましい。
【0042】
二軸延伸ポリプロピレンシート状部材N’は、公知の方法で調製できる。例えば、原料樹脂組成物nから原反シート(未延伸ポリプロピレンシート状部材N”)を調製して、これを公知の方法で二軸延伸して二軸延伸ポリプロピレンシート状部材N’を得ることができる。原反シートの厚さは好ましくは0.15mm超であり、その上限は限定されないが、取扱容易性等の観点から好ましくは6mm以下である。二軸延伸時の温度は限定されないが(TmN”-10℃)~TmN”の範囲であることが好ましい。
【0043】
二軸延伸ポリプロピレンシート状部材F’も、二軸延伸ポリプロピレンシート状部材N’と同様に製造できるが、比較的多くの無機充填材を含むため、二軸延伸時の温度Vを以下の関係を満たすように設定することが好ましい。
-3≦V-TmF”≦3
TmF”は原反シートの融点(℃)である。30℃から230℃まで昇温速度10℃/分の条件でDSC測定を行って樹脂組成物の融点Tmfを求め、前述のTmf=TmF”の関係からTmF”を求めることができる。
【0044】
原反シートの厚さは好ましくは0.15mm超であり、その上限は限定されないが、取扱容易性等の観点から好ましくは6mm以下である。また延伸倍率は、剛性の観点から好ましくは一つの軸に対して4~6倍である。一方の軸における倍率と他方の軸における倍率は同じであってもよいし、異なっていてもよい。両軸は好ましくは直交する。
【0045】
本工程は、層Fと層Nを有する共押出シート状部材を用いて実施することが好ましい。このようにすることで、工程2を簡素化できる。この態様を図3に示す。具体的には、層Fの原料と層Nの原料とを共押出して複数の層を有する共押出原反シートC”を調製し、これを二軸延伸することで共押出二軸延伸シート状部材C’を調製する。共押出原反シートC”を二軸延伸するときの温度Vは、前記の関係を満たすように選択されることが好ましい。次いで、共押出二軸延伸シート状部材C’同士、あるいは共押出二軸延伸シート状部材C’と前述の二軸延伸シート状部材F’またはN’とを積層して前駆体1’を調製する。この場合、前駆体1’における共押出層の合計枚数は限定されないが、2~6が好ましい。共押出二軸延伸シート状部材C’の厚さは、好ましくは0.08~0.50mm、さらに好ましくは0.10~0.50mmである。
【0046】
図3のように、共押出二軸延伸シート状部材C’と二軸延伸シート状部材F’と二軸延伸シート状部材N’から前駆体を得て、多層シートを製造できる。
前駆体 :F’/C’[N/F/N]/F’
多層シート:F/N/F/N/F
当該前駆体において、F’とC’の層間は融着されていない。
【0047】
また、以下のような前駆体からは、中央のN層の間が融着されて3層の多層シートが得られる。
前駆体 :C’[F/N]/C’[N/F]
多層シート:F/N/F
【0048】
あるいは、共押出3層二軸延伸シート状部材を用いた前駆体からは、中央の2つのN層の間が融着されて5層の多層シートとなる。
前駆体 :C’[F/N]/C’[N/F/N]/C’[N/F]
多層シート:F/N/F/N/F
【0049】
単層二軸延伸シート状部材および共押出二軸延伸シート状部材のそれぞれを、任意の方向に置くことができる。この置き方によって、多層シート面内の配向方向を調整できる。
【0050】
(2)工程2
本工程(図2および図3中5)では、前記多層シートの前駆体1’の最外層に加熱体を接触させて各層間を加熱融着する。最外層の融点Tmoutと前記加熱体の温度TはTmout-T≧4(℃)の関係を満たすことが好ましい。当該関係が満たされることで、層間を良好に融着させることができる。この観点から、当該温度差は6℃以上であることがより好ましい。当該温度差の上限は限定されないが、ポリプロピレンの製造上の観点から好ましくは40℃以下であり、より好ましくは30℃以下である。Tは任意の方法で測定できるが、放射温度計等の非接触型温度計を使用して測定することが好ましい。Tmoutは最外層に配置された層の融点に相当する。当該融点はDSCにより30℃から230℃まで昇温速度10℃/分の条件で測定して得た融解曲線のピーク温度として定義される。
【0051】
温度Tは、TmF≧T≧TmNの関係を満たすことが好ましく、TmF≧T≧TmN+10(℃)の関係を満たすことがより好ましい。Tが上限を超えると積層体が溶融し機械的特性が低下しうる。またTが下限値未満であると十分に層間が融着せずに機械的特性が低下しうる。具体的な加熱体の温度としては、120~190℃程度が好ましく、140~170℃がより好ましく、150~165℃がさらに好ましい。
【0052】
本工程は、加熱体として加熱ロールを用いて連続的に実施されることが好ましい。具体的には、前記多層シートの前駆体を加熱された2本のロール間に通過させて層間を融着させる。2本のロールを1組とし、2組以上のロールを組合せた加熱ロールを加熱体として用いて融着させてもよい。この際に印加する圧力は適宜調整される。当該ロール成形における引取速度は、限定されないが好ましくは0.05~10m/分程度である。
【0053】
ロール成形以外の方法としては、圧接成形や融着成形等が挙げられる。また、シート状部材を加熱融着する際、熱収縮を抑えると共にさらに配向を促進するために加圧することが好ましい。その際の圧力は融着温度に応じて調整される。工程2において、積層体にかかる負荷を2.0MPa以下とすることが好ましい。これを超える負荷がかかると、剛性が低下するおそれがある。
【0054】
(3)他の工程
本発明の製造方法は、前工程で得られた多層シートを冷却する等の公知の工程をさらに備えていてもよい。冷却方法は限定されないが、室温で放冷する方法や、室温あるいは10~20℃で冷プレスする方法等が挙げられる。
【0055】
本発明の多層シートは、層間の密着性が良好であるので層間における不連続性がほとんど存在しない。このため一体化シートとして取扱うことができる。従来の方法では厚さが0.20mm以上の二軸延伸多層シートを得ることはコスト等の観点から工業的に現実的でなかったが、本発明により、厚さが0.15mm以上で二方向以上の配向を有する多層シートを工業的に製造できる。
【0056】
本発明の多層シートを目的に応じた方法で成形(所望の形状への賦形も含む)することにより、種々の成形体を得ることができる。成形方法としては、既知のプレス成形、熱板成形、延伸成形、圧延成形、絞り加工成形、圧接成形、融着成形、真空成形、圧空成形、または真空圧空成形等が挙げられる。また、加飾性や表面改質などの目的で、特殊フィルムを本発明の多層シートの最表面に貼りつけてもよい。貼り付けるフィルムとしては、例えば、防曇フィルム、低温シールフィルム、接着性フィルム、印刷フィルム、エンボス加工フィルム、またはレトルトフィルム等が挙げられる。最表面のフィルムの厚さは特に制限されないが、厚くなりすぎると多層シートの特性を損なう可能性があり、また、特殊フィルムは一般的にコストが高く経済的にも好ましくないことから、薄いことが好ましい。工程2において、最外層に配置されたシート状部材の表面に特殊フィルムを積層することもできる。
【0057】
この他、本発明の多層シートに塗装を施して、当該シートの上に塗膜を有する塗装シートとすることもできる。塗膜の種類は限定されず、通常、塗装分野で使用されるものであれば限定されない。しかしながら、本発明においては車体塗装で使用される塗膜が好ましい。好ましい塗膜としては、エポキシ系塗膜、ウレタン系塗膜、またはポリエステル系塗膜等が挙げられる。必要に応じて、下層塗膜(プライマー塗膜)、中層塗膜、または上層塗膜(クリアー塗膜)を設けてもよい。本発明の多層シートを、塗工を施すためのシート(塗工シート)として用いる場合、塗装を施す面が官能基を有することが好ましい。
【0058】
(4)官能基の付与
本発明の多層シートの表面に官能基を付与する方法は限定されない。例えば、当該シートをプラズマ処理やコロナ処理に供することで表面に酸素含有官能基を付与できる。あるいは、官能基を有するポリプロピレンフィルムを準備して、前記工程1において当該官能基含有フィルムが最外層となるように前駆体を調製することによっても、多層シートの表面に酸素含有官能基を付与できる。
【0059】
酸素含有官能基を有するポリプロピレンフィルムは、無水マレイン酸変性ポリプロピレンあるいはエポキシ変性ポリプロピレン等の公知のポリプロピレンをフィルムに成形することで得られる。当該官能基含有フィルムの厚さは限定されないが150μm未満であることが好ましい。また、当該官能基含有フィルムは二軸延伸されていてもされていなくてもよい。積層工程においては、官能基を有するポリプロピレンフィルムと、官能基を有さないポリプロピレンシートを同時に積層してもよいし、予め官能基を有さないポリプロピレンシートを積層して積層シートを製造し、当該シートの表面に官能基を有するポリプロピレンフィルムを積層してもよい。しかしながら、作業性を考慮すると同時に積層する方法が好ましい。
【実施例
【0060】
1.二軸延伸シート状部材の調製
表1に示す各々の樹脂組成物で形成された二軸延伸シート状部材は以下の通りに調製した。
[重合体1]
重合に用いる固体触媒を、欧州特許第674991号公報の実施例1に記載された方法により調製した。当該固体触媒は、MgCl上にTiと内部ドナーとしてのジイソブチルフタレートを上記の特許公報に記載された方法で担持させたものである。当該固体触媒(1)と、トリエチルアルミニウム(TEAL)およびジシクロペンチルジメトキシシラン(DCPMS)を、固体触媒に対するTEALの重量比が11、TEAL/DCPMSの重量比が10となるような量で、-5℃で5分間接触させた。得られた触媒系を、液体プロピレン中において懸濁状態で20℃において5分間保持することによって予重合を行った。得られた予重合物を重合反応器に導入した後、水素とプロピレンをフィードし、重合温度、水素濃度を、それぞれ75℃、0.23mol%とし、圧力を調整することよってプロピレン単独重合体として重合体1を得た。
【0061】
[樹脂組成物(a)]
重合体1を60重量部に対して、タルク(ネオライト興産株式会社製ネオタルクUNI05(レーザ回折法によって測定した体積平均粒子径:5μm)を40重量部、酸化防止剤(BASF社製B225)を0.2重量部、および中和剤(淡南化学工業株式会社製カルシウムステアレート)を0.05重量部配合し、ヘンシェルミキサーで1分間撹拌して混合した。ナカタニ機械株式会社製NVCφ50mm単軸押出機を用いてシリンダ温度230℃で当該混合物を溶融混練し、押出したストランドを水中で冷却した後、ペレタイザーでカットし、ペレット状の樹脂組成物(a)を得た。樹脂組成物(a)のMFR(温度230℃、荷重2.16kg)は7.0g/10分であった。
【0062】
[重合体2]
上記固体触媒(1)と、TEALおよびジシクロペンチルジメトキシシラン(DCPMS)を、固体触媒に対するTEALの重量比が11であり、TEAL/DCPMSの重量比が3となるような量で、-5℃において5分間接触させた。得られた触媒系を、液体プロピレン中において懸濁状態で20℃にて5分間保持することによって予重合を行った。得られた予重合物を重合反応器に導入した後、水素とプロピレン、エチレンをフィードした。そして、重合温度75℃、水素濃度0.44mol%、エチレン濃度1.07mol%で、重合圧力を調整することよって、プロピレン-エチレン共重合体として重合体2を得た。
【0063】
[樹脂組成物(b)]
重合体2を100重量部に対して、酸化防止剤(BASF社製B225)を0.2重量部および中和剤(淡南化学工業株式会社製カルシウムステアレート)を0.05重量部配合し、ヘンシェルミキサーで1分間撹拌して混合した。ナカタニ機械株式会社製NVCφ50mm単軸押出機を用いてシリンダ温度230℃で当該混合物を溶融混練し、押出したストランドを水中で冷却した後、ペレタイザーでカットし、ペレット状の樹脂組成物(b)を得た。樹脂組成物(b)は、4.0重量%のエチレン由来単位を含み、MFR(温度230℃、荷重2.16kg)が7.5g/10分であった。
【0064】
[樹脂組成物(c)]
重合体2を99.7重量部に対して、前記タルクを0.3重量部、酸化防止剤(BASF社製B225)を0.2重量部および中和剤(淡南化学工業株式会社製カルシウムステアレート)を0.05重量部配合し、ヘンシェルミキサーで1分間撹拌して混合した。ナカタニ機械株式会社製NVCφ50mm単軸押出機を用いてシリンダ温度230℃で当該混合物を溶融混練し、押出したストランドを水中で冷却した後、ペレタイザーでカットし、ペレット状の樹脂組成物(c)を得た。樹脂組成物(c)は4.0重量%のエチレン由来単位を含み、MFR(温度230℃、荷重2.16kg)は7.5g/10分であった。
【0065】
[重合体3]
上記固体触媒(1)と、TEALおよびシクロヘキシルメチルジメトキシシラン(CHMMS)を、固体触媒に対するTEALの重量比が8であり、TEAL/CHMMSの重量比が8となるような量で、-5℃において5分間接触させた。得られた触媒系を、液体プロピレン中において懸濁状態で20℃において5分間保持することによって予重合を行ったものを予重合触媒とした。
得られた予重合触媒を重合反応器に導入し、モノマーとしてプロピレンを供給するとともに、重合反応器内の水素濃度が0.041mol%となるように分子量調整剤としての水素を供給した。重合温度を75℃とし、重合圧力を調整することによってプロピレン単独重合体(重合体3)を得た。
【0066】
[樹脂組成物(d)]
重合体1を100重量部に対して、酸化防止剤(BASF社製B225)を0.2重量部および中和剤(淡南化学工業株式会社製カルシウムステアレート)を0.05重量部配合し、ヘンシェルミキサーで1分間撹拌して混合した。ナカタニ機械株式会社製NVCφ50mm単押出機を用いてシリンダ温度230℃で当該混合物を溶融混練し、押出したストランドを水中で冷却した後、ペレタイザーでカットし、ペレット状の樹脂組成物(d)を得た。樹脂組成物(d)のMFR(温度230℃、荷重2.16kg)は7.0g/10分であった。
【0067】
[樹脂組成物(e)]
100重量部の重合体3に対して、酸化防止剤として、BASF社製B225を0.2重量部、中和剤として淡南化学工業株式会社製カルシウムステアレートを0.05重量部、ノニトール系核剤(ミリケン社製Millad NX8000J)を0.05重量部配合し、ヘンシェルミキサーで1分間撹拌混合した。ナカタニ機械株式会社製NVC押出機を用いてシリンダ温度230℃で溶融混練し、押出したストランドを水中で冷却した後、ペレタイザーでカットし、ペレット状の樹脂組成物(e)を得た。樹脂組成物(e)のMFR(温度230℃、荷重2.16kg)は3.0g/10分であった。
【0068】
[二軸延伸シートA]
25mmφ3種3層フィルム・シート成形機(サーモ・プラステイックス工業株式会社製)を用いて、成形温度230℃で樹脂組成物(a)から、厚さ3.8mmの原反シート(大きさ10cm×10cm以上)を得た。次いでフィルム延伸装置(ブルックナー社製KARO-IV)用いて当該原反シートを160℃で同時二軸延伸(5倍×5倍)し、厚さ0.15mmの二軸延伸シートAを得た。
【0069】
[二軸延伸シートB]
25mmφ3種3層フィルム・シート成形機(サーモ・プラステイックス工業株式会社製)を用いて、成形温度230℃で樹脂組成物(b)から厚さ3.8mmの原反シート(大きさ10cm×10cm以上)を得た。フィルム延伸装置(ブルックナー社製KARO-IV)用いて当該原反シートを140℃で同時二軸延伸(5倍×5倍)し、厚さ0.15mmの二軸延伸シートBを得た。
【0070】
[二軸延伸シートC]
25mmφ3種3層フィルム・シート成形機(サーモ・プラステイックス工業株式会社製)を用いて、成形温度230℃で樹脂組成物(c)から厚さ3.8mmの原反シート(大きさ10cm×10cm以上)を得た。フィルム延伸装置(ブルックナー社製KARO-IV)用いて当該原反シートを140℃で同時二軸延伸(5倍×5倍)し、厚さ0.15mmの二軸延伸シートCを得た。
【0071】
[二軸延伸シートAB、二軸延伸フィルムAB]
25mmφ3種3層フィルム・シート成形機(サーモ・プラステイックス工業株式会社製)を用いて、成形温度230℃でタッチロール側に樹脂組成物(a)、キャストロール側に樹脂組成物(b)となるように共押出し、厚さ3.8mmおよび2.5mmの原反シート(大きさ10cm×10cm以上)を得た。フィルム延伸装置(ブルックナー社製KARO-IV)用いて当該原反シートを165℃で同時二軸延伸(5倍×5倍)し、厚さ0.15mmの共押出された二軸延伸シートAB、および厚さ0.10mmの共押出された二軸延伸フィルムABを得た。樹脂組成物(a)/樹脂組成物(b)の厚さ比は、91/9であった。
【0072】
[二軸延伸シートBA、二軸延伸フィルムBA]
25mmφ3種3層フィルム・シート成形機(サーモ・プラステイックス工業株式会社製)を用いて、成形温度230℃でタッチロール側に樹脂組成物(b)、キャストロール側に樹脂組成物(a)となるように共押出し、厚さ3.8mmおよび2.5mmの原反シート(大きさ10cm×10cm以上)を得た。フィルム延伸装置(ブルックナー社製KARO-IV)用いて当該原反シートを165℃で同時二軸延伸(5倍×5倍)し、厚さ0.15mmの共押出された二軸延伸シートBA、および厚さ0.10mmの共押出された二軸延伸フィルムBAを得た。樹脂組成物(b)/樹脂組成物(a)の厚さ比は、9/91であった。
【0073】
[二軸延伸シートAC]
樹脂組成物(b)の代わりに樹脂組成物(c)を用いた以外は、二軸延伸シートABと同じ方法で、二軸延伸シートACを製造した。
【0074】
[二軸延伸シートCA]
樹脂組成物(b)の代わりに樹脂組成物(c)を用いた以外は、二軸延伸シートBAと同じ方法で、二軸延伸シートCAを製造した。
【0075】
[二軸延伸シートBAB]
25mmφ3種3層フィルム・シート成形機(サーモ・プラステイックス工業株式会社製)を用いて、成形温度230℃で、樹脂組成物(b)/樹脂組成物(a)/樹脂組成物(b)となるように共押出し、厚さ3.8mmの原反シート(大きさ10cm×10cm以上)を得た。フィルム延伸装置(ブルックナー社製KARO-IV)用いて当該原反シートを165℃で同時二軸延伸(5倍×5倍)し、厚さ0.15mmの共押出された二軸延伸シートBABを得た。厚さ比は、8/84/8であった。
【0076】
[二軸延伸シートD]
25mmφ3種3層フィルム・シート成形機(サーモ・プラステイックス工業株式会社製)を用いて、成形温度230℃で樹脂組成物(d)から、厚さ5.0mmの原反シート(大きさ10cm×10cm以上)を得た。次いでフィルム延伸装置(ブルックナー社製KARO-IV)用いて当該原反シートを160℃で同時二軸延伸(5倍×5倍)し、厚さ0.20mmの二軸延伸シートDを得た。
【0077】
[無延伸シートE]
25mmφ3種3層フィルム・シート成形機(サーモ・プラステイックス工業株式会社製)を用いて、成形温度230℃で樹脂組成物(e)から厚さ0.20mmの無延伸シートE(大きさ10cm×10cm以上)を得た。
樹脂組成物の物性および二軸延伸シート状部材の物性を表1および表2に示す。
【0078】
2.多層シートおよび容器の製造
[実施例1]
二軸延伸シートABと二軸延伸シートBAをこの順に積層して、両方の最外層が二軸延伸シートAである前駆体を調製した。加熱体としてロール成形機(トクデン株式会社製誘導発熱ジャケットローラー、型式JR-D0-W、ロール径200mmφ×2本、ロール面長410mm)を用いて、当該前駆体の各層間を加熱融着して積層体としての多層シートを製造した。成形条件は表3に示すとおりとした。
【0079】
多層シートを250mm角に切り取り、株式会社脇坂エンジニアリング製小型真空圧空成形機(形式FVS-500型)を用いて、上下ヒーター設定温度360℃、加熱時間36秒、圧空圧力0.6MPaの条件下で、トレイ状の容器に成形した。成形体としての容器の形状は長さ130mm、幅100mm、深さ25.4mmであり、平坦部(底部)の長さは90mm、幅は60mm、厚さは多層シートの厚さに対して0.95倍であった。この際、容器の長さ方向がシートのMDとなるように成形した。多層シートおよび容器について後述のとおり評価した。容器の剛性、耐寒衝撃性、透明性の測定には、平坦部(底部)から採取した試験片を用いた。
【0080】
[実施例2]
二軸延伸シートAB、BAB、BAをこの順に積層して、両方の最外層が二軸延伸シートAである前駆体を調製した。実施例1と同じ方法で多層シートおよび容器を製造し、評価した。
【0081】
[実施例3]
二軸延伸シートAB、BAB、BAB、BAをこの順に積層して、両方の最外層が二軸延伸シートAである前駆体を調製した。実施例1と同じ方法で多層シートおよび容器を製造し、評価した。
【0082】
[実施例4]
二軸延伸シートAB、BAB、BAB、BAをこの順に積層して、両方の最外層が二軸延伸シートAである前駆体を調製した。この前駆体を250mm角に切り取り、株式会社脇坂エンジニアリング製小型真空圧空成形機(形式FVS-500型)を用いて、上下ヒーター設定温度360℃、加熱時間36秒、圧空圧力0.6MPaの条件下で、トレイ状の容器に成形した。容器の形状は、実施例1で製造した容器の形状と同一であった。
【0083】
[実施例5]
二軸延伸シートABの代わりに二軸延伸シートAC、二軸延伸シートBAの代わりに二軸延伸シートCAを用いた以外は、実施例1と同じ方法で多層シートおよび容器を製造し、評価した。
【0084】
[実施例6]
二軸延伸シートABの代わりに二軸延伸フィルムAB、二軸延伸シートBAの代わりに二軸延伸フィルムBAを用いた以外は、実施例1と同じ方法で多層シートおよび容器を製造し、評価した。
【0085】
[比較例1]
二軸延伸シートAのみを用い、実施例1と同様にして比較用シートおよび容器を製造し、評価した。
【0086】
[比較例2、3]
加熱ロール温度を変更した以外は実施例2と同じ方法で比較用シートおよび容器を製造し、評価した。比較例2で得た多層シートは層間が十分に融着していなかった。比較例3では延伸ロールを用いたことによって各層が融解したため、得られたシートでは多層構造を確認できなかった
【0087】
[比較例4]
二軸延伸シートBABの枚数を変更した以外は、実施例2と同じ方法で比較用シートおよび容器を製造し、評価した。
【0088】
[比較例5]
二軸延伸シートDのみを用い、実施例1と同様にして比較用シートおよび容器を製造し、評価した。
【0089】
[参考例1]
無延伸シートEを用いて実施例1と同様にして参考用シートおよび容器を製造し、評価した。
【0090】
【表1】
【0091】
【表2】
【0092】
【表3-1】
【0093】
【表3-2】
【0094】
3.評価
(1)MFR
重合体に関しては、試料5gに対して本州化学工業株式会社製H-BHTを0.05g添加し、ドライブレンドにより均一化した後、JIS K7210-1に従い、温度230℃および荷重2.16kgの条件下で測定した。樹脂組成物に関しては、JIS K7210-1に準じ、温度230℃および荷重2.16kgの条件下で測定した。
(2)重合体に含まれるエチレン由来単位含有量(重量%)
1,2,4-トリクロロベンゼン/重水素化ベンゼンの混合溶媒に溶解した試料について、Bruker社製AVANCE III HD400(13C共鳴周波数100MHz)を用い、測定温度120℃、フリップ角45度、パルス間隔7秒、試料回転数20Hz、積算回数5000回の条件で13C-NMRのスペクトルを得た。上記で得られたスペクトルを用いて、M. Kakugo, Y. Naito, K. Mizunuma and T. Miytake, Macromolecules, 15, 1150-1152 (1982) の文献に記載された方法により、重合体に含まれるエチレン由来単位含有量(重量%)を求めた。
【0095】
(3)DSCによる融点
樹脂組成物ペレット、または二軸延伸シート状部材から約5mgをサンプリングし、電子天秤で秤量した後、示差熱分析計(DSC)(TA Instruments社製 Q-200)で、30℃で5分間保持した後、10℃/分の昇温速度で230℃まで加熱して融解曲線を得た。融解曲線のピーク温度を融点とした。各層において複数の融点ピークが観察される場合は最大ピークの温度を融点とした。
【0096】
(4)剛性(引張弾性率、曲げ弾性率)
得られたシートからJIS K7139に規定するタイプA2の多目的試験片を機械加工し、JIS K7161-2に従い、株式会社島津製作所製精密万能試験機(オートグラフAG-X 10kN)を用い、温度23℃、相対湿度50%、試験速度1mm/分の条件で引張弾性率を測定した。また、容器の平坦部(底部)を切削して、JIS K7139に規定するタイプB3の試験片(幅10mm、長さ80mm)を得た。株式会社島津製作所製精密万能試験機(オートグラフAG-X 10kN)を用い、温度23℃、相対湿度50%、支点間距離64mm、試験速度2mm/分の条件で曲げ弾性率を測定した。
【0097】
(5)耐寒衝撃性(面衝撃強度)
得られたシートについて、JIS K7211-2に従い、株式会社島津製作所製ハイドロショットHITS-P10を用い、-30℃に調整した槽内で、内径40mmφの穴の開いた支持台に測定用試験片を置き、内径76mmφの試料押さえを用いて固定した後、半球状の打撃面を持つ直径12.7mmφのストライカーで、1m/秒の衝撃速度で試験片を打撃しパンクチャーエネルギー(J)を求めた。4個の測定用試験片各々のパンクチャーエネルギーの平均値を面衝撃強度とした。また、容器の底部から同形状の試験片を作製し、同じ条件で容器の面衝撃強度を評価した。
【0098】
(6)容器の剥離状態
容器を目視で観察し、剥離の有無を評価した。
(7)容器の耐熱性
アルミ板上にトレイ状の容器を、開口部がアルミ板と接するように載置し、各温度に設定されたオーブン中に無荷重状態で1時間保持した。オーブンの扉を開けた後、速やかに容器の上に荷重(640g)を乗せた。10秒後に荷重を取り除き、オーブンからアルミ板と容器を取り出し、容器の座屈の有無を目視にて確認した。容器が座屈し始める温度(座屈試験の耐熱温度)を測定し、耐熱性を評価した。
【0099】
本発明の多層シートは、優れた機械的特性を有し、かつ優れた機械的特性有する成形体とできることが明らかである。
【符号の説明】
【0100】
1 多層シート
F フィラー層F
N ニート層N

1’ 前駆体
F’ 二軸延伸ポリプロピレンシート状部材
N’ 二軸延伸ポリプロピレンシート状部材

f 層Fを構成する樹脂組成物
n 層Nを構成する樹脂組成物

F” 未延伸ポリプロピレンシート(原反シート)
N” 未延伸ポリプロピレンシート(原反シート)

C’ 二軸延伸共押出シート状部材

2 未延伸シート調製工程
3 延伸工程
4 積層工程
5 層間融着工程
図1
図2
図3