(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-09
(45)【発行日】2023-08-18
(54)【発明の名称】エンジンのポペットバルブの製造方法
(51)【国際特許分類】
F01L 3/24 20060101AFI20230810BHJP
F01L 3/14 20060101ALI20230810BHJP
F01L 3/20 20060101ALI20230810BHJP
B21K 1/22 20060101ALI20230810BHJP
B21J 5/08 20060101ALI20230810BHJP
【FI】
F01L3/24 D
F01L3/14 A
F01L3/20 C
B21K1/22
B21J5/08 Z
(21)【出願番号】P 2021542377
(86)(22)【出願日】2020-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2020014635
(87)【国際公開番号】W WO2021199190
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000227157
【氏名又は名称】株式会社NITTAN
(74)【代理人】
【識別番号】100139745
【氏名又は名称】丹波 真也
(74)【代理人】
【識別番号】100168088
【氏名又は名称】太田 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100187182
【氏名又は名称】川野 由希
(74)【代理人】
【識別番号】100207642
【氏名又は名称】簾内 里子
(72)【発明者】
【氏名】吉野 良一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大樹
(72)【発明者】
【氏名】笹川 裕樹
【審査官】西山 智宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/180806(WO,A1)
【文献】特許第4390291(JP,B1)
【文献】特公平6-96177(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 3/24
F01L 3/14
F01L 3/20
B21K 1/22
B21J 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に向かって増径する首部を介して一体化される軸部と傘部を有するエンジンのポペットバルブの製造方法において、
中間軸部と、首部を介して前記中間軸部に一体化される傘部と、を備えた軸傘中間品を熱間鍛造によって形成する傘部製造工程と、
前記軸傘中間品の中間軸部の基端部から、中間軸部、首部及び傘部の内側に孔を空けて中間中空部を形成する中空部製造工程と、
中心軸線に向けて徐々に先細りとなる形状を有する軸材導入面と、前記軸材導入面の基端部に連続し、前記基端部と同一で前記中間軸部の外径よりも小さな一定の内径を備えた軸材圧縮面を少なくとも一部に備えた絞り孔を有する中空円孔金型に対し、線材導入面及び軸材圧縮面に前記中間軸部の一部を基端部から1回圧入する冷間絞り加工により、縮径された第1軸部と、軸材導入面によって形成される段差部と、段差部を介して前記第1軸部に滑らかに接続される未縮径部分の第2軸部と、を備えた段付軸部を前記中間軸部から形成し、前記第1軸部の縮径に伴って段付軸部の内側に前記中間中空部から段付中空部を形成する段付軸部製造工程と、
前記段付中空部に冷媒を装填した後で、前記第1軸部と同じ外径の軸端部を第1軸部の基端部に接合する接合工程と
を備えることを特徴とする、エンジンのポペットバルブの製造方法。
【請求項3】
前記段付軸部製造工程で縮径される第1軸部の第2軸部に対する外径の縮径率が3%以上12%以下であることを特徴とする、請求項1に記載のエンジンのポペットバルブの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
先端に向かって増径する首部を介して一体化される軸部と傘部を有するエンジンのポペットバルブの製造方法に関する技術。
【背景技術】
【0002】
一般にエンジンのポペットバルブの製造方法には、特許文献1の
図2(a)から
図2(d)に示すように中実丸棒から太めの軸部と、首部及び傘部を形成し、太めの軸部に孔を空けた上で、孔の基端部側を縮径して傘部の外径に倣う傘形形状の傘中空部を先端側に形成する方法がある。傘底面に向かって内径が末広がりとなる傘中空部は、軸中空部よりも多くの冷媒を収納出来るため、傘部の冷却効率を向上させる点で意義がある。一方で、
図2(d)に示されるような傘中空部は、特許文献1の[0027]に記載されているように
図2(c)の半完成品弁軸部に傘中空部の最大内径と同じ内径の半完成品中空孔を形成し、半完成品中空孔の先端に傘中空部を残しつつ半完成品弁軸部の基端部側を複数回(例えば8回~15回)絞り加工し、
図2(d)に示す弁軸部の太さになるまで縮径させることによって形成される。
【0003】
一方、特許文献2には、
図1(d)に示すように、中間軸部の先端に傘部を有する軸傘中間品の中央に中空孔を空けて、中間軸部の一部を基端部から複数の転造ローラ(またはロータリースウェージング工法)で徐々に縮径することによって形成される第1軸部と、外径のより大きな第2軸部からなる段付軸部を軸傘中間品に形成し、併せて高温にさらされる第2軸部、首部及び傘部の内側には、高温にさらされにくく、第1軸部の内側の第1中空部よりも内径の大きな第2中空部を形成して冷媒の収納容積を大きく形成し、前記段付軸部の内側に第1及び第2中空部を含む段付中空部を形成することにより、傘中空部を有するエンジンバルブと同等以上の冷却効果を発揮させるエンジンのポペットバルブの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-47537号公報
【文献】PCT/JP2018/041807
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の
図2(c)に示す半完成品弁軸部は、傘部の内側に傘中空部を残すように形成するために
図2(d)の弁軸部よりもかなり太くする必要があるため、特許文献1の中空ポペットバルブの製造方法においては、半完成品弁軸部を軸部の太さに縮径させるために繰り返し絞り加工(例えば8回~15回)しなければならない。半完成品弁軸部に繰り返し施される絞り加工は、冷媒を封入する中空孔の内壁の粗度を低下(つまり粗く)させ、中空孔の内壁にひび割れを生じることがある。中空孔の内壁に生じるひび割れは、目視によって発見出来ないために不良品として取り除くことが難しく、封入した冷媒の移動効率も低下させるために問題があった。
【0006】
また、特許文献2の中空ポペットバルブの製造方法は、複数のローラを利用した転造方法及びロータリースウェージング工法のいずれを利用した場合においても、中間軸部の縮径に時間がかかるため、より簡易な設備で縮径時間を短縮できれば更に望ましいと本願の出願人は考えた。
【0007】
上記課題に鑑み、本願発明は、段付中空孔を形成したとしてもその内壁の粗度を低下(粗く)させず、内壁にひび割れを生じさせることのない段付軸部をより簡易な設備によって短時間で製造可能なエンジンのポペットバルブの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
先端に向かって増径する首部を介して一体化される軸部と傘部を有するエンジンのポペットバルブの製造方法において、中間軸部と、首部を介して前記中間軸部に一体化される傘部と、を備えた軸傘中間品を熱間鍛造によって形成する傘部製造工程と、中心軸線に向けて徐々に先細りとなる形状を有する軸材導入面と、前記軸材導入面の基端部に連続し、前記基端部と同一で前記中間軸部の外径よりも小さな一定の内径を備えた軸材圧縮面を少なくとも一部に備えた絞り孔を有する中空円孔金型に対し、線材導入面及び軸材圧縮面に前記中間軸部の一部を基端部から圧入する冷間絞り加工により、縮径された第1軸部と、軸材導入面によって形成される段差部と、段差部を介して前記第1軸部に滑らかに接続される未縮径部分の第2軸部と、を備えた段付軸部を前記中間軸部から形成する段付軸部製造工程と、前記第1軸部と同じ外径の軸端部を第1軸部の基端部に接合する接合工程と、を備えるようにした。
【0009】
(作用)軸傘中間品の中間軸部を段付軸部にするための第1軸部の縮径が、簡易な形状を有する中空円孔金型を利用した冷間絞り加工によって行われる。
【0010】
また、エンジンのポペットバルブの製造方法において、軸傘中間品の中間軸部の基端部から、中間軸部、首部及び傘部の内側に孔を空けて中間中空部を形成する中空部製造工程を前記傘部製造工程後かつ前記段付軸部製造工程前に行い、前記段付軸部製造工程の第1軸部の縮径に伴って段付軸部の内側に中間中空部から形成される段付中空部に冷媒を装填した後で軸端部を第1軸部の基端部に接合することが望ましい。
【0011】
(作用)熱間鍛造によって形成された軸傘中間品は、第1軸部の外径に近い太さになるように中間軸部を形成され、更に中央に中間円孔を形成された中間軸部は、中空円孔金型による冷間絞り加工を施されることで、中間円孔とともに基端部側の一部を瞬時に縮径されつつ基端部方向に引き延ばされて、第1軸部及び第1中空部を形成される。その際、第1軸部の外周面近傍には、軸方向に作用する引張り応力が発生し、第1中空部の内周面近傍には、径方向に作用する圧縮応力が発生する。
【0012】
また、エンジンのポペットバルブの製造方法の段付軸部製造工程の冷間絞り加工において、線材導入面及び軸材圧縮面に前記中間軸部の一部を基端部から圧入する回数を1回とすることが望ましい。
【0013】
(作用)中央に中間円孔を形成された中間軸部は、中空円孔金型による冷間絞り加工を1回だけ施されることで、第1軸部及び第1中空部を形成される。その際、第1軸部の外周面近傍において軸方向に作用する引張り応力と、第1中空部の内周面近傍において径方向に作用する圧縮応力が、1度だけ発生する。
【0014】
また、エンジンのポペットバルブの製造方法において、前記段付軸部製造工程で縮径される第1軸部の第2軸部に対する外径の縮径率が25%以下であることが望ましい。
【0015】
(作用)中間軸部の未縮径部分である第2軸部に対して第1軸部の外径を縮径率25%以下となるように縮径させることにより、中空円孔金型を利用して行う縮径により第1軸部を形成する際において、第1軸部の外周面近傍には、軸方向に作用する引張り応力が発生し、第1中空部の内周面近傍には、径方向に作用する圧縮応力が発生する。
【発明の効果】
【0016】
エンジンのポペットバルブの製造方法によれば、簡易な形状を有する中空円孔金型を利用した冷間絞り加工を中間軸部の一部に施すことにより、軸傘中間品に短時間で段付軸部を形成することが出来る。
【0017】
また、エンジンのポペットバルブの製造方法によれば、中空円孔金型を利用した冷間絞り加工によって第1軸部の外周面近傍には、軸方向に作用する引張り応力が発生すると共に、第1中空部の内周面近傍には、径方向に作用する圧縮応力が発生することにより、第1軸部には、中心方向への過剰な圧縮力が作用しにくくなる。従って、段付軸部の内側に形成される段付中空部の内壁に発生する粗度の低下が大幅に低減されて、ひび割れが生じにくくなる。
【0018】
また、エンジンのポペットバルブの製造方法によれば、中空円孔金型を利用した1回の冷間絞り加工を施される第1軸部には、中心方向への圧縮力が繰り返し作用しなくなるため、段付軸部の内側に形成される段付中空部の内壁に発生する粗度の低下が大幅に低減されて、ひび割れが生じにくくなる。
また、エンジンのポペットバルブの製造方法によれば、中空円孔金型を利用した冷間絞り加工により、中間軸部の一部を第1軸部に圧縮する際に更に軸方向に力が逃げやすくなると共に中心方向への圧縮力が更に作用しにくくなるため、形成される段付中空部の内壁に発生する粗度の低下(粗くなること)が更に低減されて、ひび割れが生じにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】エンジンのポペットバルブの製造方法の実施例に関する製造工程の説明図で、(a)は、バルブの素材となる中実丸棒を示し、(b)は、中間軸部と、首部を介して中間軸部に一体化される傘部を備えた軸傘中間品を熱間鍛造によって形成する傘部製造工程を示し、(c)は、軸傘中間品に孔をあけて中間中空部を形成する中空部製造工程を示し、(d)は、段付軸部製造工程に使用される中空円孔金型と中間軸部を縮径する前の軸傘中間品を示す断面図であり、(e)は、中間軸部の一部を冷間絞り加工によって縮径する段付軸部製造工程を示し、(f)は、中間中空部から形成された段付中空部に冷媒を装填して軸端部を接合する接合工程を示す。
【
図2】実施例の製造方法で製造したエンジンのポペットバルブの軸方向断面図。
【
図3】実施例のエンジンの中空ポペットバルブの測温結果を示すグラフであり、バルブ首部に関するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1により縮径工程に冷間絞り加工を採用したエンジンの冷媒入り中空ポペットバルブの製造方法の実施例を説明する。
図1においては、エンジンの中空ポペットバルブの傘部24側を先端側とし、第1軸部25側を基端側として説明する。
【0021】
図1(a)の金属丸棒1は、高い耐熱性を有するSUH35(オーステナイト系の高耐熱鋼)のような耐熱合金等からなる棒材から形成される。金属丸棒1は、熱間鍛造工程によって
図1(b)に示す中間軸部3、首部23及び傘部24を一体化した形状の軸傘中間品2に形成される。軸傘中間品2は、加熱した状態で形状が徐々に変化する複数の金型(図示せず)から900℃~1300℃程度に加熱した金属丸棒1を順に押し出す熱間押出鍛造または熱間据込鍛造によって形成される。軸傘中間品2は、熱間鍛造の繰り返しにより、第1軸部を形成する際の中間軸部の加工性が向上することで、余分な工程を削減出来るという利点を有するようになる。
【0022】
図1(b)の軸傘中間品2は、外径D4の円柱形状の中間軸部3と、中間軸部3の先端3aに滑らかに連続すると共に外径が先端に向かって徐々に増径する凹型の湾曲形状を有する首部23と、首部23の先端部23aに連続すると共に基端側から先端側に末広がりとなるテーパー状のフェース部28を外周に有する傘部24を有するように形成される。また、中間軸部3は、必要に応じて寸切加工によって短くされ、中間軸部3と首部23の各外周面には、粗研削処理が施される。
【0023】
軸傘中間品2は、基端部3bから中間軸部3の中心に孔をあける中空部製造工程によって
図1(c)に示す内径d4の中間中空部6を形成される。中間中空部6は、ガンドリル7のような切削工具によって中間軸部3の基端部3bを切削加工することで形成され、中間軸部3は、肉厚t4の円筒部位として形成される。中間中空部6は、軸傘中間品2と同軸になるよう形成され、かつ中間軸部3、首部23及び傘部24の内側にかけて有底円孔形状を有するように形成される。尚、
図1(c)に示す中空部製造工程は、省略することで中実バルブを製造することも出来る。
【0024】
図1(d)及び
図1(e)に示すように段付軸部製造工程において、軸傘中間品2は、中間軸部3の一部を冷間絞り加工されることによって、後述する段付軸部22及びその内側の段付中空部29を形成される。具体的には、中間中空部6を有する軸傘中間品2は、非加熱状態で中空円孔金型9の先端側に形成された後述する軸材導入面9bに中間軸部3の一部を基端部3bから圧入される。中空円孔金型9は、中心軸線Oに対する垂直断面がそれぞれ円形となる軸材圧縮面9a、軸材導入面9b及び逃げ部9cを備えた絞り孔9dを有する。軸材導入面9bは、基端部9eから先端部9f方向に末広がりとなる凸型湾曲面形状をそれぞれ有し、基端部9eは、一定内径を有する軸材圧縮面9aの先端に連続する。軸材圧縮面9aの基端部には、拡径部9gを介して軸材圧縮面よりも大きな一定内径を有する逃げ部9cが設けられる。尚、軸材導入面9bは、凸型湾曲面形状の替わりに凹型湾曲面形状や末広がりのテーパー形状を有するように形成されても良い。
【0025】
図1(d)に示すように、中空円孔金型9の軸材圧縮面9aの内径D3は、軸傘中間品2の中間軸部3の外径D4よりも小さく形成され、逃げ部9cの内径D5は、軸材圧縮面9aの内径D3よりも大きく形成される。
図1(e)に示すように軸傘中間品2は、段付軸部製造工程において、中空円孔金型9と同軸(中心軸線O)となるように配置された状態で、基端部3bから中間軸部の3の一部を中空円孔金型9の軸材導入面9b及び軸材圧縮面9aの順に圧入される。中間軸部3のうち軸材圧縮面9aに圧入された部分は、外径D4からD3まで縮径された第1軸部25を形成し、第1軸部25は、中間軸部3の肉厚t4よりも薄い肉厚t3に形成されつつ中心軸線Oに沿って逃げ部9cに向けて引き延ばされるとともに軸材導入面9bに押圧されることで先端側から基端方向に先細りとなる凹型湾曲面形状を有するように形成された段差部26を介して未縮径部位からなる第2軸部27に滑らかに連続するように形成される。軸材圧縮面9aの基端部側に連続する逃げ部9cを設け、冷間絞り加工時における中間軸部3と軸材圧縮面9aとの接触面積を小さくして絞り加工に必要な力を少なくすることにより第1軸部25は、座屈を生じること無く基端部方向に引き延ばされる。軸傘中間品2の中間軸部3は、段付軸部製造工程において、第1軸部25、段差部26及び第2軸部27からなる段付軸部22として形成される。
【0026】
また、
図1(e)に示すように段付軸部製造工程において、第1軸部25の内側には、中間軸部3の内径d4よりも縮径された内径d3を有する第1中空部30が形成され、段差部26の内側には、先端側から基端方向に先細りとなる凸型湾曲面形状を有するように形成された縮径部31が形成される。第1中空部30は、縮径部31を介して未縮径部分である第2軸部27の内側に画成された第2中空部32に滑らかに連続し、第2軸部27の先端部27aは、首部23に滑らかに接続する。第1中空部30,縮径部31及び第2中空部32は、段付軸部22の内側に形成された段付中空部29を構成する。
【0027】
尚、
図1(d)及び
図1(e)に示されるように、中間軸部3の基端部側に施される冷間絞り加工の回数は、複数回よりも一回のみとすることが望ましい。言い換えると、第1軸部25は、中間軸部3の基端部側を1回のみ冷間絞り加工することによって形成されることが望ましい。1回の冷間絞り加工のみで中間軸部3から形成された第1軸部25は、中心方向への圧縮力を複数回繰り返して受けなくなる。その結果、段付軸部22においては、内側の段付中空部29の第1中空部30に作用する径方向の圧縮力に伴って発生する粗度の低下が大幅に低減されるため、第1中空部30の内壁にひび割れが生じにくくなる。
【0028】
尚、第2軸部27を縮径されることで形成される第1軸部25の外径の縮径率は、冷間絞り加工を複数回または1回行う場合のいずれにおいても第1軸部25に座屈やひび割れ等のような加工不具合を生じないように第2軸部27の外径に対して25%以下とすることが望ましく、より望ましくは3%以上12%以下とすることが望ましい。そのために、
図1(d)に示す中空円孔金型9における軸材圧縮面9aの内径D3は、軸傘中間品2の中間軸部3の外径、つまり第2軸部27の外径D4に対し、D3≦(1-0.25)×D4=0.75×D4となるように形成されることが望ましく、より望ましくは、(1-0.12)×D4=0.88×D4≦D3≦(1-0.03)×D4=0.97×D4となるように形成されることが望ましい。
【0029】
図1(d)及び
図1(e)に示す段付軸部製造工程によれば、中空円孔金型9を利用した冷間絞り加工によって軸傘中間品2の中間軸部3を段付軸部22に形成出来ることにより、鍛造中の段付軸部22の第1軸部25は、基端部25a方向に変形し、特許文献1の
図2(c)に示す半完成品弁軸部に施されるような繰り返しの絞り加工によって生じるおそれがあるものと従来懸念されていた加工硬化が、段付中空部29の内壁に生じにくくなるため、段付中空部の内壁に発生する粗度の低下(粗くなること)が大幅に低減されて、内部にひび割れが生じにくくなる。また、第1軸部25の外周においても粗度が粗くならずに小さく抑えられて、仕上げ加工の手間が少なくなる。また、
図1(e)の軸傘中間品2は、特に1回の冷間絞り加工で段付軸部22を形成されることにより、硬度が上がり強度が増加する利点を有するようになる。
【0030】
尚、段付軸部製造工程においては、中間軸部3よりも硬度が高く、外径D3を有する中実丸棒からなる超硬金属棒(図示せず)を
図1(d)に示す軸傘中間品2の中間中空部6に予め差し込んだ状態で
図1(e)に示す第1軸部の縮径を行ってもよい。
【0031】
また、
図1(f)に示すように、接合工程においては、第1軸部25の基端部25aには、段付中空部29の一部領域に金属ナトリウム等の冷媒34が装填された状態で金属製の軸材で形成した軸端部33が接合される。軸端部33の素材は、SUH11(クロムとシリコン、炭素をベースにしたマルテンサイト系の耐熱鋼であって、SUH35より耐熱性の低いもの)等の耐熱合金等からなる外径D3の中実棒材によって形成され、摩擦圧接等によって先端部33aを第1軸部25の基端部25aに軸接合される。段付軸部22は、軸端部33と共に軸部21を形成し、
図2に示すエンジンの中空ポペットバルブ20は、接合工程において、首部23及び傘部24に一体に形成された段付軸部22に軸端部33を接合することで形成される。接合工程後の中空ポペットバルブ20は、軸端部33にコッタ溝33bを設けられた上で必要な焼鈍処理、研削処理、窒化処理などを施される。ものと言える。
【0032】
実施例のエンジンのポペットバルブの製造方法によれば、
図1(c)の中空部製造工程において、冷媒34を装填する段付中空部29の形成に必要な孔あけ作業を傘部24の底面24a側から行わないことで孔あけ回数が複数回から1回に減少する。また、実施例の製造方法によれば、傘部24の底面24aへの孔あけ作業とキャップ(図示せず)の接合による封止作業が不要になるため、高コストで精度の高いキャップの接合作業やバルブ底面のキャップ接合部の仕上がり精度を高める切削作業によって底面24aの強度を維持する作業が不要になることでエンジンのポペットバルブを低コストで製造出来る。
【0033】
更に実施例のエンジンのポペットバルブの製造方法によれば、製造された冷媒入りポペットバルブをエンジンの排気用バルブに使用する場合において、エンジンの燃焼室及び排気通路の高温の排気ガスにさらされる第2軸部27、首部23及び傘部24の内側に設けた第2中空部32の内径d4を第1中空部30の内径d3よりも大きくし、高温にさらされる第2軸部27の内側に画成される第2中空部32の容積を拡大して冷媒34の装填量を増加させたことで図示しない燃焼室及び排気通路の排気ガスから冷媒34への熱伝達が円滑に行われるエンジンの中空ポペットバルブ20を製造できる。また、第2中空部32の内側で熱伝達を受けた冷媒34は、バルブの中心軸線Oに沿って先後に振られる際に第1及び第2中空部(30,32)を滑らかに接続する凸型湾曲面形状(または凹型湾曲面形状またはテーパー形状)に形成された縮径部31によって第1中空部30との間の円滑な移動を促進されるため、冷媒34から軸部21への熱伝達性が向上した中空ポペットバルブ20を製造出来る。中空ポペットバルブ20によれば、傘部24と軸部21との間の冷媒34の移動効率が向上することにより、エンジンの低中速回転時においても従来の傘中空バルブと同等以上の冷却効果を発揮する。
【0034】
図3により、熱電対法によって測定した第1実施例の製造方法で製造した冷媒入り中空ポペットバルブ20(
図2を参照)を使用したエンジンの回転数に対するバルブの首部23の温度を説明する。
図3は、バルブの首部23に関するグラフである。各図の横軸はバルブの回転数(rpm)、縦軸は温度(℃)を示し、三角のラインが従来の冷媒入り傘中空バルブの温度を示し、四角のラインが本実施例による冷媒入り中空バルブの温度を示すものである。
【0035】
図3によるとエンジンの回転数が1500rpmにおいて、本実施例による冷媒入り中空ポペットバルブの首部温度は、従来の冷媒入り傘中空バルブとほぼ同等かやや下回る程度の温度である。一方で、エンジンの回転数が1500rpmを超えかつ2000rpm以下の場合、従来の傘中空バルブは、首部温度がほぼ横ばいか、またはやや上昇するのに対し、本実施例による中空ポペットバルブの首部温度は、下降することで2000rpmにおいて従来の傘中空バルブよりも大幅に低くかつ最も低くなる点で特に優れた効果を発揮する。
【0036】
また、エンジンの回転数が2000rpmを越えかつ3000rpm以下の場合、本実施例による冷媒入り中空ポペットバルブの首部温度は、緩やかに上昇するものの従来の冷媒入り傘中空バルブよりも大幅に低く、エンジンの回転数が3000rpmを越えかつ4000rpm以下の場合、本実施例による中空ポペットバルブの首部温度は、従来の傘中空バルブよりも大幅に低い状態を維持しつつほぼ横ばいに推移する。
【0037】
そして、エンジンの回転数が4000rpmを越え5500rpm以下の場合、本実施例による冷媒入り中空ポペットバルブの首部温度は、徐々に上昇し、従来の冷媒入り傘中空バルブの首部温度に近づいて、5500rpmにおいて従来の傘中空部バルブと同一の温度となる。
【0038】
このように、
図3の測定結果から本実施例の冷媒入り中空ポペットバルブは、エンジンの低速回転時である1500rpmを超えかつ2000rpm以下の場合において、首部温度が横ばいとなる従来の冷媒入り傘中空バルブと比べて首部温度が下降する最も優れた効果を発揮する。また、本実施例の冷媒入り中空ポペットバルブは、エンジンの低中速回転時である2000rpmを超えかつ4000rpm以下の場合において、本実施例の中空ポペットバルブの首部温度が、上昇しても緩やかか(2000rpm~3000rpm)または横ばい(3000rpm~4000rpm)に推移しつつ、従来の傘中空バルブよりも大幅に低く維持される点で優れた効果を発揮する。
【0039】
また、エンジンの中高速回転時である4000rpmを超えかつ5500rpm未満の場合において、本実施例の冷媒入り中空ポペットバルブの首部温度が、上昇したとしても、従来の冷媒入り傘中空バルブの首部温度よりも低く維持される点で優れた効果を発揮する。
【0040】
本実施例の製造方法によって製造されたエンジンの冷媒入り中空ポペットバルブは、エンジンの回転数が低中速回転時である1500rpm以上3000rpm以下の場合に限らず、中高速回転時である3000rpmを越えかつ5500rpm未満の場合においても従来の冷媒入り傘中空バルブ以上の優れた冷却効果を発揮することで耐ノック性が向上し、燃費改善に繋がるものと言える。
【0041】
中空バルブの冷媒として一般的に使用される金属ナトリウムは、融点が98℃である。エンジンが低中速回転する際の燃焼室から熱を受ける冷媒入り中空バルブは、高速回転時ほど高温にならないため、従来の中空バルブの中空部内に冷媒として装填された金属ナトリウムは、燃焼室にさらされる高温の傘部や首部の内側領域から燃焼室にさらされないために温度の低い軸端部の近傍領域に移動した際に融点以下に冷却されて軸端部の近傍領域に固着することで移動を阻害され、傘部及び首部から軸部へのバルブの熱引性を悪化させるおそれがある。しかし、本実施例で製造された冷媒入り中空バルブによれば、軸端部33に近い第1中空部30の内径が第2中空部32の内径よりも小さく、仮に第1中空部30内の軸端部33の近傍領域に固着しても固着する冷媒34の量が少なくなって熱引性の悪化が低減されるため、エンジンが低中速回転領域で動作していてもバルブの温度が低減されるものと考えられる。更に、本実施例の冷媒入り中空ポペットバルブによれば、エンジンが中高速回転領域で動作していても、従来の傘中空バルブよりも低減されるものと考えられる。
【0042】
そのため、実施例の製造方法で製造されたエンジンの冷媒入り中空ポペットバルブは、電気自動車の駆動用モーターに使用される発電専用エンジンのような低中速回転領域でのみ動作するエンジンに使用されることで最も優れた冷却効果を発揮することのみならず、自動車などの駆動用エンジンそのものに使用しても優れた冷却効果を発揮する点で優れたものと言える。
【符号の説明】
【0043】
2 軸傘中間品
3 中間軸部
3b 基端部
6 中間中空部
9 中空円孔金型
9a 軸材圧縮面)
9b 軸材導入面
9d 絞り孔
9e 基端部
20 中空ポペットバルブ
22 段付軸部
23 首部
24 傘部
25 第1軸部
25a 基端部
26 段差部
27 第2軸部
33 軸端部
34 冷媒
D3 軸材圧縮面の内径及び第1軸部の外径
D4 第2軸部の外径
O 軸傘中間品及びポペットバルブの中心軸線