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特許7329205多孔性吸着媒体、多孔性吸着媒体を備えた固相抽出用カートリッジ及び多孔性吸着媒体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-09
(45)【発行日】2023-08-18
(54)【発明の名称】多孔性吸着媒体、多孔性吸着媒体を備えた固相抽出用カートリッジ及び多孔性吸着媒体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/26 20060101AFI20230810BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20230810BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20230810BHJP
   B01D 15/00 20060101ALI20230810BHJP
   C08F 212/08 20060101ALI20230810BHJP
   C08F 212/36 20060101ALI20230810BHJP
   B01J 20/285 20060101ALI20230810BHJP
   B01J 20/281 20060101ALI20230810BHJP
   C08J 9/28 20060101ALI20230810BHJP
【FI】
B01J20/26 G
B01J20/28 Z
B01J20/30
B01D15/00 101B
C08F212/08
C08F212/36
B01J20/285 M
B01J20/281 G
C08J9/28 CER
C08J9/28 CEY
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019153938
(22)【出願日】2019-08-26
(65)【公開番号】P2021030164
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】304000836
【氏名又は名称】学校法人 名古屋電気学園
(74)【代理人】
【識別番号】100143410
【弁理士】
【氏名又は名称】牧野 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】手嶋 紀雄
(72)【発明者】
【氏名】村上 博哉
(72)【発明者】
【氏名】井上 嘉則
(72)【発明者】
【氏名】三木 雄太
【審査官】瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-183747(JP,A)
【文献】特開2010-254841(JP,A)
【文献】特開2001-343378(JP,A)
【文献】特開2002-139482(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0089608(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28;20/30-20/34
B01D 15/00-15/42
B01J 20/281-20/292
G01N 30/00-30/96
C08J 9/00-9/42
C08C 19/00-19/44
C08F 6/00-246/00;301/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学分析の抽出・分離に用いる多孔性吸着媒体において、下記化学式(1)に示される単官能芳香族ビニルモノマーと下記化学式(2)に示される架橋性であるジビニルベンゼンを主成分とする懸濁共重合体からなる、吸着性を示す疎水性多孔質粒子が、疎水性多孔質粒子に対して親和性を持つ高分子により接着・硬化されてなり、粒子間に通液可能な連通孔を有する多孔性吸着媒体であって、
前記疎水性多孔質粒子の粒子径が、10μm以上200μm以下であり、
前記疎水性多孔質粒子に対して親和性を持つ高分子が、変性シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、スチレン-ブタジエン共重合体及び塩化ビニル系高分子のいずれか1つである
ことを特徴とする多孔性吸着媒体。
【化1】
【化2】
【請求項2】
前記疎水性多孔質粒子における単官能芳香族ビニルモノマーとジビニルベンゼンとの合計含有量が、60mol%以上であることを特徴とする請求項1に記載の多孔性吸着媒体。
【請求項3】
前記疎水性多孔質粒子は、極性モノマーが配合された懸濁共重合体からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の多孔性吸着媒体。
【請求項4】
前記疎水性多孔質粒子に対して親和性を持つ高分子の含有量が、疎水性多孔質粒子100重量部に対して25重量部以上300重量部以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項のいずれか1つに記載の多孔性吸着媒体。
【請求項5】
請求項1ないし請求項のいずれか1つに記載の多孔性吸着媒体を備えたことを特徴とする固相抽出用カートリッジ。
【請求項6】
吸着性を有する疎水性多孔質粒子と、前記疎水性多孔質粒子に対して親和性を持つ高分子と、を混練し、接着・硬化させて、粒子間に通液可能な連通孔を有する吸着媒体とする多孔性吸着媒体の製造方法であって、
前記疎水性多孔質粒子の粒子径が、10μm以上200μm以下であり、
前記疎水性多孔質粒子に対して親和性を持つ高分子が、変性シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、スチレン-ブタジエン共重合体及び塩化ビニル系高分子のいずれか1つであることを特徴とする多孔性吸着媒体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学物質の定性及び定量を行う化学分析において、抽出・分離に使用される固相抽出用の多孔性吸着媒体、多孔性吸着媒体を備えた固相抽出用カートリッジ及び多孔性吸着媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学分析において、液体試料中からの測定対象成分の抽出には溶媒抽出法が古くから用いられてきたが、操作の煩雑さや環境負荷の問題から、近年は固相抽出法(solid phase extraction :SPE)に移行しつつある。固相抽出法は、吸着剤 (固相抽出剤) への測定対象成分の親和性を利用して、測定対象物質を固相抽出剤表面に抽出・濃縮するものである。溶媒抽出法に比べ、高回収率、高精度、迅速性、簡便性、安全性、低コスト、溶媒低減、自動化が容易、フィールドサンプリングが可能などの多くの特長を有しているため、化学分析においては化学物質の抽出・濃縮に広く利用されている。
【0003】
固相抽出剤としては、シリカゲル表面にオクタデシル基やオクチル基などの疎水基を導入したシリカ系固相抽出剤やポリマー系固相抽出剤が使用されるが、近年では、負荷量が大きい、耐薬品性が高い、多彩な種類があるなどの理由によりポリマー系固相抽出剤が主流となっている。一般に、固相抽出に用いる疎水性固相抽出剤は比表面積 (500m/g以上) が高く、高い吸着容量を有しており、芳香族化合物をはじめとして、広範囲な疎水性化合物を安定して捕捉・抽出することが可能である。ポリマー系固相抽出剤としては、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体をはじめとして、メタクリレートとジビニルベンゼンとの共重合体(特許文献1)やビニルピロリドンとジビニルベンゼンとの共重合体(特許文献2)など、極性モノマーとの共重合型固相抽出剤に関する開示がある。また、ジビニルベンゼンを主成分とする疎水性の固相抽出剤にイオン交換基を導入したもの(特許文献3)やキレート性官能基を導入したもの(特許文献4)など多機能な固相抽出剤に関しても開示されている。
【0004】
これらの固相抽出剤は破砕形あるいは球形の数十μm(一般に20~100μm)の粒子状であり、樹脂製(主に、ポリプロピレン製)の小容量のリザーバやカラムに充填して使用する。代表的なシリンジ型の固相抽出カートリッジの構成を図1に示す。固相抽出用リザーバの作製は、シリンジ型の固相抽出用エンプティカートリッジ11を用意し、下部にポリエチレン製などの焼結フィルタ(フリットと呼ぶ)12を挿入したリザーバ11に乾式で固相抽出剤14を充填し、その後、充填ベッドの上にもフリット13を挿入し、固相抽出カートリッジとする。乾式充填によって充填された固相抽出剤の充填状態は、高速液体クロマトグラフィー用充填カラムのように高密度に充填されているわけではない。従って、振動や衝撃を受けると固相抽出剤が動き、上部フリット13と充填ベッド上部との間に隙間が生じてしまうことがある。隙間が生じたまま使用すると、均一な抽出ができない、速やかな溶出ができないなどの問題が生じて抽出回収率が変動するほか、カートリッジ中に試料溶液や溶離溶液が残存するといった問題も生じてしまう。
【0005】
固相抽出剤がポリマー系の場合には膨潤・収縮による問題もある。固相抽出カートリッジを用いて水試料からの抽出を行う場合、まず有機溶媒で固相抽出剤を洗浄するとともに、充填状態の調整を行う。その後、純水などを流して試料溶液の液性に合わせるという作業(コンディショニングと呼ぶ)を行う。ポリマー系固相抽出剤は有機溶媒中で膨潤し、膨潤したポリマー系固相抽出剤を水中に入れると一気に収縮する。つまり、コンディショニング中での固相抽出剤の膨潤・収縮によって上記のような隙間が発生してしまい、抽出回収率の低下やバラツキが生じてしまう恐れがある。
【0006】
これらの問題の根本的な原因は、固相抽出剤が粒子状であるという点にある。粒子状吸着剤であるがために何らかの管体(カートリッジやカラム)に充填しなければならず、振動や衝撃、膨潤・収縮などにより隙間が発生してしまう。従って、管体への充填が不要で、形状が安定しており、かつ膨潤・収縮のないポリマー系固相抽出剤が必要となる。この問題を解決することが可能と思われる技術がいくつかの特許文献に開示されている。
【0007】
特許文献5及び特許文献6では、粒子状吸着剤をポリテトラフルオロエチレン、ポリオレフィン、ポリアラミド、ポリアミド、ポリウレタン、セルロースなどの繊維と混合し、加熱融着法により網目状のシート状とした吸着媒体の製造方法が開示されている。この方法により製造された吸着媒体は、汎用のろ紙と同様の方法で使用することができ、繊維により固定された粒子状吸着剤の特性を明確に発揮することができる。粒子状吸着剤を固定させるための繊維は、一般に使用される溶媒には不溶であり、繊維自体はほとんど膨潤・収縮することはない。このような方法によって製造される固相抽出体は厚さ1mm以下の薄膜状であるため、繊維により保持された粒子状吸着剤が若干膨潤しても吸着媒体への影響はほとんどない。
【0008】
特許文献7及び特許文献8には、粒子状吸着剤を低融点のポリエチレン粉体と混合後、金型に充填して加熱融着させた吸着媒体の製造方法が開示されている。この方法により製造された吸着媒体は多孔性のシート状あるいは棒状であるため、管体への充填は不要である。また、融着に使用された樹脂粉体により粒子状吸着剤の膨潤収縮を抑えることも可能である。この方法により得られた吸着媒体においても混合された粒子状吸着剤の特性を明確に発現することが可能であり、合成高分子系吸着剤のほかキレート樹脂などの混合も可能である。この製造方法により得られる吸着媒体は金型中で成形されるため、多彩な形態の吸着媒体を製造する手法としても有用である。
【0009】
しかしながら、特許文献5~8において、粒子状吸着剤を固定する融着材料には吸着機能がないため、製造された吸着媒体の吸着容量は粒子状吸着剤の含有量に依存してしまう。つまり、管体への充填が不要で、形状安定性の高い吸着媒体を得るかわりに、単位容積当たりの吸着容量の低下に対しては妥協せざるを得ないこととなる。
【0010】
特許文献9には、シリコーンスポンジ中に粒子状吸着剤を固定した吸着媒体の製造方法が開示されている。この吸着媒体に用いられるシリコーンは主にポリメチルシリコーンである。メチルシリコーンは固相抽出剤に用いられるポリスチレンゲルに比べ疎水性は低いものの疎水性を示すため、粒子状吸着剤を固定するシリコーン自体も吸着能を発現する。しかしながら、特許文献7及び特許文献8では粒子状吸着剤の混合可能上限量が70重量%であるのに対して、この方法ではシリコーン100質量部に対して粒子状吸着剤40質量部以下(粒子状吸着剤混合可能量:28.6%以下)であり、粒子状吸着剤の混合量が低いという問題がある。さらに、粒子状吸着剤を固定するシリコーン自体には貫通孔はあるものの、吸着に有効な微細孔が少ない(比表面積が低い)ため、粒子状吸着剤混合可能量の低さも考慮すると、吸着媒体の単位容積当りの吸着容量が低く有効な固相抽出能を発現することができないものと判断される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開平6-258203号公報
【文献】特表2000-514704号公報
【文献】特表2002-517574号公報
【文献】特開2005-213477号公報
【文献】特表平09-507786号公報
【文献】特表平10-500058号公報
【文献】特開2010-256225号公報
【文献】特開2010-254841号公報
【文献】特開2018-183747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたもので、化学物質の抽出・分離において使用される固相抽出用の疎水性多孔質粒子の優れた機能を損なうことなく、形態の自由度が高く、取り扱いが容易な多孔性吸着媒体及び多孔性吸着媒体の製造方法を提供することを目的とする。更に、多孔性吸着媒体を備えた固相抽出用カートリッジを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の発明では、化学分析の抽出・分離に用いる多孔性吸着媒体において、下記化学式(1)に示される単官能芳香族ビニルモノマーと下記化学式(2)に示される架橋性であるジビニルベンゼンを主成分とする懸濁共重合体からなる、吸着性を示す疎水性多孔質粒子が、疎水性多孔質粒子に対して親和性を持つ高分子により接着・硬化されてなり、粒子間に通液可能な連通孔を有する多孔性吸着媒体であって、前記疎水性多孔質粒子の粒子径が、10μm以上200μm以下であり、前記疎水性多孔質粒子に対して親和性を持つ高分子が、変性シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、スチレン-ブタジエン共重合体及び塩化ビニル系高分子のいずれか1つである、という技術的手段を用いる。
【0014】
【化1】
【0015】
【化2】
【0016】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の多孔性吸着媒体において、前記疎水性多孔質粒子における単官能芳香族ビニルモノマーとジビニルベンゼンとの合計含有量が、60mol%以上である、という技術的手段を用いる。
【0017】
請求項3に記載の発明では、請求項1または請求項2に記載の多孔性吸着媒体において、前記疎水性多孔質粒子は、極性モノマーが配合された懸濁共重合体からなる、という技術的手段を用いる。
【0020】
請求項に記載の発明では、請求項1ないし請求項のいずれか1つに記載の多孔性吸着媒体において、前記疎水性多孔質粒子に対して親和性を持つ高分子の含有量が、疎水性多孔質粒子100重量部に対して25重量部以上300重量部以下である、という技術的手段を用いる。
【0021】
請求項に記載の発明では、固相抽出用カートリッジが、請求項1ないし請求項のいずれか1つに記載の多孔性吸着媒体を備えた、という技術的手段を用いる。
【0022】
請求項6に記載の発明では、吸着性を有する疎水性多孔質粒子と、前記疎水性多孔質粒子に対して親和性を持つ高分子と、を混練し、接着・硬化させて、粒子間に通液可能な連通孔を有する吸着媒体とする多孔性吸着媒体の製造方法であって、前記疎水性多孔質粒子の粒子径が、10μm以上200μm以下であり、前記疎水性多孔質粒子に対して親和性を持つ高分子が、変性シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、スチレン-ブタジエン共重合体及び塩化ビニル系高分子のいずれか1つである、という技術的手段を用いる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の発明者は吸着剤含量の高い吸着媒体を作製すべく鋭意研究を行った結果、単官能芳香族ビニルモノマーと架橋性であるジビニルベンゼンを主成分とする懸濁共重合体からなる、吸着性を示す疎水性多孔質粒子が、疎水性多孔質粒子に対して親和性を持つ高分子により接着されてなり、吸着剤(疎水性多孔質粒子)の含有量が極めて高い、通液可能な連通孔を有する多孔性吸着媒体を得ることができた。また、疎水性多孔質粒子を接着して固定・結合させている接着剤の主成分は吸着能を有する高分子であるため、吸着容量の低下を極力抑えることができる。これにより、化学物質の抽出・分離において使用される固相抽出用の疎水性多孔質粒子の優れた機能を損なうことなく、形態の自由度が高く、取り扱いが容易な多孔性吸着媒体を得ることができた。
【0024】
この多孔性吸着媒体は、被処理溶液中に直接投入することで化学物質の抽出や回収に使用することが可能である。また、多孔性吸着媒体は多彩な形態とすることが可能であるため、円盤状や円錐状に成形された多孔性吸着媒体をろ過器あるいはロートなどに装着して抽出・分離を行うという方法も可能である。
【0025】
また、管体に充填することなく、被処理溶液中の化学物質の抽出・分離などに利用可能な形態の多孔性吸着媒体を得ることができる。適切なカートリッジやホルダーに装着することにより、化学分析において化学物質の抽出・濃縮に用いられる固相抽出カートリッジとすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】シリンジ型固相抽出カートリッジの構成図である。
図2】吸着媒体成形用金型の断面図構成図である。
図3】実施例1の吸着媒体Aの外観写真である。
図4】比較例2の吸着媒体Cの外観写真である。
図5】実施例2の吸着媒体Dの外観写真及び断面写真である。
図6】比較例3の吸着媒体Eの外観写真である。
図7】実施例1及び比較例3で作製した吸着媒体の断面の電子顕微鏡写真である。図7(a)は実施例1の吸着媒体A、及び図7(b)は比較例3の吸着媒体Eである。
図8】実施例1及び比較例3で作製した吸着媒体の断面の顕微鏡写真である。図8(a)は実施例1の吸着媒体A、及び図8(b)は比較例3の吸着媒体Eである。
図9】実施例3の吸着媒体Fの外観写真である。
図10】実施例4の接着性高分子2種混合型の吸着媒体の外観写真である。図10(a)は吸着媒体G、図10(b)は吸着媒体H、図10(c)は吸着媒体I、及び図10(d)は吸着媒体Jである。
図11】実施例6の吸着媒体Kの外観写真である。
図12】実施例6の吸着媒体Kを使用する一例のファンネル型ろ過器の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の多孔性吸着媒体は、化学分析の抽出・分離に用いる多孔性吸着媒体であり、単官能芳香族ビニルモノマーと架橋性であるジビニルベンゼンを主成分とする懸濁共重合体からなる吸着性を示す疎水性多孔質粒子が、疎水性多孔質粒子に対して親和性を持つ高分子(以下、接着性高分子、という)により接着されてなる、通液可能な連通孔を有する多孔性吸着媒体である。
【0028】
疎水性多孔質粒子としては、固相抽出剤として使用される疎水性多孔質粒子が選ばれ、疎水性多孔質粒子としては、中性合成高分子系吸着剤を用いることができる。中性合成高分子系吸着剤とは、非イオン性の単官能モノマーと架橋性モノマーとの懸濁重合によって合成される懸濁共重合体からなる多孔性粒子で、本発明においては、下記化学式(1)に示される単官能芳香族ビニルモノマーと下記化学式(2)に示される架橋性であるジビニルベンゼンを主成分として懸濁共重合により合成された懸濁共重合体を用いる。
【0029】
【化1】
【0030】
【化2】
【0031】
化学式(1)に示される単官能芳香族ビニルモノマーとしては、スチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼンがあげられ、これらと化学式(2)に示されるジビニルベンゼンとを懸濁共重合して疎水性多孔質粒子を調製する。なお、工業的に入手可能なジビニルベンゼンはエチルビニルベンゼンとの混合物で、ジビニルベンゼン自体もm-体とp-体との混合物である。
【0032】
疎水性多孔質粒子として、疎水性多孔質粒子の吸着特性向上のため、懸濁共重合時に極性モノマーを配合した疎水性多孔質粒子を用いることができる。単官能の極性モノマーとしては、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、モルホリノアクリルアミドなどのアミド系モノマー、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、グリセリンメタクリレート、ネオペンチルグリコールメタクリレート、トリメチロールプロパンメタクリレートなどのメタクリレートモノマー、さらにはN-ビニルピロリドンなどがあげられる。また、多官能の極性モノマーとしては、エチレンジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、グリセリンジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ネオペンチルグリコールトリメタクリレートなどの多官能メタクリレート系モノマー、この他、トリアリルイソシアヌレート、トリメタアリルイソシアヌレートなどのシアヌル酸骨格を持つ架橋性モノマーなどがあげられる。
【0033】
単官能芳香族ビニルモノマーとジビニルベンゼンとの合計含有量(芳香族モノマー含有量)は60mol%以上であることが好ましい。芳香族モノマー含有量が60mol%以下である場合でも疎水性の高い化合物は抽出可能であるが、極性化合物に対する捕捉力は低くなるとともに、単位重量当たりの吸着容量も低くなってしまう。多種多彩な化合物への対応を可能とするためには、芳香族モノマー含有量は60mol%以上である必要がある。
【0034】
また、単官能モノマーと架橋性モノマーとの比率は架橋度と呼ばれ、重量%あるいはmol%で表される。架橋度はポリマー粒子の硬さや膨潤性の目安ではあるが、硬さや膨潤性はモノマーの種類・特性により大きく異なるため絶対的な数値を限定することはできない。本発明においては、モノマー組成中のジビニルベンゼンと多官能極性モノマーとの合計値としての架橋度は、30mol%以上であることが好ましい。
【0035】
疎水性多孔質粒子は十分な吸着量が必要なため、十分な細孔径、比表面積を有する吸着剤であることが必要である。細孔の生成は、公知の細孔調節剤をモノマー溶液に混合して懸濁重合を行うことにより行う。疎水性多孔質粒子の細孔径や比表面積は吸着対象成分や共存成分の特性にも依存するが、一般に、平均細孔径4~50nm、比表面積100~1000m/gのものを用いるのが良い。
【0036】
疎水性多孔質粒子の粒子径は通液可能な連通孔を確保するために重要な要素である。従来、粒子状吸着剤を充填して使用する場合、粒子同士の間隙が流路となって被処理溶液が通過するが、本発明の吸着性媒体においても同様である。疎水性多孔質粒子と接着性高分子とを混練することにより、疎水性多孔質粒子表面に接着性高分子が塗布された状態になる。その後、混錬物が成形用金型中に充填され、金型中で接着性高分子が硬化し、疎水性多孔質粒子同士を接着するとともに自身は収縮する。疎水性多孔質粒子間の間隙は金型充填時には概ね閉塞された状態であるが、接着性高分子の硬化・収縮により疎水性多孔質粒子間の間隙は確保されることになる。従って、疎水性多孔質粒子の粒子径が小さすぎる場合には、粒子間の間隙が閉塞あるいは狭くなる確率が高くなり、処理速度(通液速度)が低く、圧力損失の大きい吸着媒体となってしまう。また、疎水性多孔質粒子の粒子径が大きすぎる場合には、相対接着面積が小さくなって接着強度が確保できなくなり、成形後の吸着媒体が脆いものとなってしまう恐れがある。そのため、適正な粒子径のものを用いなければならず、10μm以上、200μm以下である必要がある。なお、疎水性多孔質粒子の形状に関しては特に規定するものではなく、不定形粒子でも、球状粒子であってもよい。
【0037】
本発明において使用する接着性高分子は、使用する疎水性多孔質粒子に対して親和性を有しているものでなくてはならない。本発明において多孔性吸着媒体に包含される吸着剤は疎水性であるため、接着性高分子は分子内に多数の疎水基を有していて明確な疎水性を示すものでなければならない。また、使用する疎水性多孔質粒子中には芳香環、あるいは極性モノマーとの共重合体にあっては極性基が存在しているため、π-π相互作用あるいは極性相互作用を示すものが好ましい。さらに、硬化後の接着性高分子は、固相抽出において汎用的に使用される水や、メタノール、アセトニトリルなどの極性溶媒に溶解するものであってはならない。疎水性多孔質粒子を多孔性吸着媒体中に安定して包含させるためには、疎水性多孔質粒子に対して上記のような親和性を持つとともに、接着剤成分のような接着性を示す高分子が有効である。本発明では、変性シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、スチレン-ブタジエン共重合体、あるいは塩化ビニル系高分子を用いる。これらは、明確な疎水性を持っており疎水性多孔質粒子に対して親和性を示すとともに、かつ汎用の接着剤に使用されている高分子であるため接着性も示す。変性シリコーン樹脂には、ポリエステル変性シリコーン樹脂、ウレタン変性シリコーン樹脂、エポキシ変性シリコーン樹脂、アクリル変性シリコーン樹脂などがあり、シリコーン中のヒドロキシリル基やアルコキシシリル基の反応性を利用して硬化させる。エポキシ樹脂にはビスフェノールA型及びノボラック型のエポキシ樹脂があり、アミン、ポリアミン、ポリアミドアミンなどとエポキシ基との反応で硬化させる。一方、スチレン-ブタジエン共重合体及び塩化ビニル系高分子を用いる場合には、適切な溶媒に溶解後に疎水性多孔質粒子と混錬し、希釈溶剤の留去により硬化させる。本発明においては、これらの条件を満たせば接着剤用として調製されている高分子素材を使用することができる。なお、本発明においては、これらの接着性高分子を単独で用いても良いが、複数を混合して用いても良い。
【0038】
本発明の多孔性吸着媒体の吸着特性は、疎水性多孔質粒子が持つ吸着特性に接着性高分子が持つ吸着特性が加味されたものとなる。本発明において使用する接着性高分子は疎水性を明確に示す高分子であるが、エポキシ樹脂をアミン硬化する場合には、アミンとエポキシ基との反応部位は陽イオン性を示すため陰イオン交換能を付与することができる。疎水性多孔質粒子と接着性高分子の組み合わせを適宜選択することにより吸着特性を変更することができる。また、吸着特性改善のために、カーボンブラックやイオン交換ラテックスなどの添加物を添加しても良い。しかし、添加物量が多すぎる、あるいは添加物の粒子径が大きすぎると、多孔性吸着媒体を成形することができない、あるいは脆い多孔性吸着媒体となってしまう恐れがある。そのため、添加物の粒子径は1μm以下、添加量は5%以下であることが好ましい。
【0039】
本発明において、多孔性吸着媒体中に含まれる疎水性多孔質粒子の量は、混練時の接着性高分子との配合比で調節する。疎水性多孔質粒子に対する接着性高分子の配合比が、疎水性多孔質粒子100重量部に対して接着性高分子が25重量部以上、300重量部以下である。接着性高分子が25重量部未満では、接着性高分子の比率が低く、機械的強度の低い吸着媒体となる。また、混練の均一性を得ることが難しくなり成形性が低下してしまう。一方、300重量部以上では、疎水性多孔質粒子の量が少なく十分な吸着機能を発揮することができない。また、多量の接着性高分子により疎水性多孔質粒子間の間隙を閉塞させて通液可能な連通孔の多孔性吸着媒体とならない、あるいは通液時の圧力損失が非常に高い吸着媒体となってしまう。
【0040】
本発明の通液可能な連通孔を有する多孔性吸着媒体は、化学物質に対して吸着性を有する疎水性多孔質粒子と接着性高分子とを適切な割合で混練後、接着性高分子を硬化させ、接着性高分子の硬化及び接着力で疎水性多孔質粒子を固定させることにより製造される。
【0041】
例えば、以下の工程により多孔性吸着媒体を製造することができる。まず、化学物質に対して吸着性を有する疎水性多孔質粒子及び接着性高分子を所定量準備し、疎水性多孔質粒子と接着性高分子とを、混練する。次に、この混練物を目的の形態の成形体が得られる金型に充填し、所定の温度にて硬化させて通液可能な連通孔を有する多孔性吸着媒体を得る。
【0042】
疎水性多孔質粒子と接着性高分子との混練は、攪拌ミキサーを用いて攪拌混練することにより行われる。ミキサーの種類としてはホモミキサー、パドルミキサー、ホモデイスパー、コロイドミキサー、真空混合攪拌ミキサーなどがあげられるが、安定な混練物が得られるものであれば特に限定されない。
【0043】
本発明において、接着性高分子の硬化時間は操作性の点から重要である。硬化時間が短すぎる場合には混練中に硬化が進んでしまい、成形用金型中で成形することができなくなってしまう。例えば、シアノアクリレート系などのいわゆる瞬間接着剤は接着強度が高いものの硬化速度が速いため、疎水性多孔質粒子との混練中に硬化してしまうため不適である。本発明に用いられる接着性高分子の硬化時間に関しては特に限定されるものではないが、作業性を考慮すると少なくとも30分以上であることが好ましい。本発明に使用する、反応硬化型の変性シリコーン樹脂及びエポキシ樹脂の硬化時間は30分~数時間である。一方、溶媒留去型のスチレン-ブタジエン共重合体及び塩化ビニル系高分子の場合には、溶解する溶媒の種類により調節する。溶媒としては、トルエン、酢酸エチル、シクロヘキサン、ヘプタンなどを用いる。
【0044】
本発明に使用する接着性高分子の粘度も重要である。粘度が低い場合には、接着性高分子成分が疎水性多孔質粒子の細孔内に容易に拡散浸透してしまうため、接着性高分子成分の硬化により疎水性多孔質粒子の細孔が閉塞して、吸着に必要な比表面積が低下してしまう。また、接着性高分子成分が細孔内に拡散浸透することにより疎水性多孔質粒子表面の接着性高分子成分が少なくなり、十分な強度を持つ吸着媒体を得ることができなくなる恐れもある。一方、接着性高分子の粘度が高すぎる場合には、疎水性多孔質粒子を均一に混練することができず、疎水性多孔質粒子が偏在する吸着媒体となってしまう。疎水性多孔質粒子が偏在している場合、接着性高分子比率が高い部分は十分な強度を示すが、この部分の多孔度は低いため通液性が悪く圧力損失が高い吸着媒体となってしまう。逆に、疎水性多孔質粒子比率が高い部分は十分な強度を持たず、脆く崩れやすい吸着媒体となり、疎水性多孔質粒子の脱離も問題となる。当然、個体毎の吸着容量も不均一となってしまう。これらのことから、本発明においては、0.5Pa・s~100Pa・sの粘度を持つ接着性高分子あるいは接着性高分子溶液を用いるのが好ましい。
【0045】
変性シリコーン樹脂を接着性高分子として用いる場合には反応副生成物が発生し、スチレン-ブタジエン系や塩化ビニル系接着性高分子を用いる場合には希釈溶媒が揮発するため、金型には反応副生成物あるいは希釈溶媒を抜くための構造を設けておく必要がある。例えば、円柱状の吸着媒体を製造する場合には、円筒状の金型の上下、あるいは片方に網や焼結多孔体などを嵌めておけば良い。
【0046】
疎水性多孔質粒子と接着性高分子との混練物の硬化は室温でも可能であるが、硬化時間の短縮及び硬化状態の再現性を確保するために一定温度の恒温槽内で加温硬化するのが好ましい。硬化温度は、疎水性多孔質粒子及び接着性高分子の耐熱性にも依存するが、作業性を考慮すると80℃以下であることがよい。
【0047】
本発明により得られた多孔性吸着媒体は、被処理溶液中に直接投入することで化学物質の抽出や回収に使用することが可能である。また、円盤状や円錐状に成形された多孔性吸着媒体をろ過器あるいはロートなどに装着して抽出・分離を行うという方法も可能である。例えば、円盤状に成形された吸着媒体をフッ素樹脂やポリエチレン製のリングに嵌めこめば、ファンネル型ろ過器を用いて被処理溶液中の化学物質の抽出・濃縮に用いることができる。さらに、適切な形態を有する小容量のカートリッジやホルダー、あるいはカラム管に装備して、化学物質の化学分析に用いられる固相抽出カートリッジとして使用することができる。例えば、円柱状に成形された吸着媒体をシリンジ型の固相抽出用エンプティカートリッジに挿入すれば汎用の固相抽出カートリッジと同様に使用することが可能である。このように調製された固相抽出用吸着媒体や固相抽出カートリッジは適切な溶液で洗浄・コンディショニングした後、被処理溶液を通液し、被処理溶液中の測定対象成分を吸着媒体上に抽出・濃縮する。吸着媒体上に抽出・濃縮された測定対象成分は、適切な溶液で溶出させ、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、高速液体クロマトグラフィー-質量分析法(HPLC-MS)、ガスクロマトグラフィー-質量分析法(GC-MS)、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)などにより測定される。
【0048】
(実施形態の効果)
本発明の多孔性吸着媒体によれば、吸着剤(疎水性多孔質粒子)の含有量が極めて高い、通液可能な連通孔を有する多孔性吸着媒体を得ることができる。また、疎水性多孔質粒子を接着して固定・結合させている接着剤の主成分は吸着能を有する高分子であるため、吸着容量の低下を極力抑えることができる。これにより、化学物質の抽出・分離において使用される固相抽出用の疎水性多孔質粒子の優れた機能を損なうことなく、形態の自由度が高く、取り扱いが容易な多孔性吸着媒体を提供することができる。また、適切な形態を有する小容量のカートリッジやホルダー、あるいはカラム管に装備して、化学物質の化学分析に用いられる固相抽出カートリッジとして使用することができる。
【0049】
本発明の多孔性吸着媒体の製造方法によれば、疎水性多孔質粒子を接着性高分子と混練後、硬化するという簡単な方法で、容易に高機能な多孔性吸着媒体を得ることができる。
【実施例
【0050】
次に実施例によって本発明を説明するが、この実施例によって本発明をなんら限定するものではない。
【0051】
(実施例1) 吸着媒体Aの作製
(1) 疎水性多孔質粒子の合成
疎水性多孔質粒子の合成は、懸濁重合法により行った。ジビニルベンゼン(純度:80%)60g、トリメチロールプロパントリメタクリレート40g、トルエン200g及び2,2’-アゾビスイソブチロニトリル1gの混合物を、0.1%ポリビニルアルコール水溶液1,000mL中に加え、油滴径の中心が90μmになるように攪拌した。その後、70℃で6時間重合反応を行った。生成した共重合体粒子を濾取し、水、メタノールの順で洗浄した。一日風乾後、分級を行い、90~150μmの疎水性多孔質粒子(芳香族モノマー含有量:79.6mol%、架橋度:84.1mol%)42gを得た。得られた疎水性多孔質粒子を風乾後、100Pa、50℃で真空乾燥してデシケータ中に保存した。
【0052】
(2) 吸着媒体Aの作製
前記(1)で得られた疎水性多孔質粒子1gと45%スチレン-ブタジエン共重合体のシクロヘキサン溶液(粘度:約1.4Pa・s)1gとを混練した。図2に示す直径8.8mm、高さ11mmの円柱状キャビティ22を持つポリプロピレン製の成形用金型21のキャビティ22の下部に孔径20μm、厚さ3mmのポリエチレン製の焼結多孔体23を挿入し、その上に疎水性多孔質粒子と接着性高分子との混練物25を空気が入らないように金型上部まで充填し、充填層の上部に同一のポリエチレン製焼結多孔体24を置き、圧力をかけてポリエチレン製焼結体を金型に固定した。その後、金型ごと50℃に保った恒温槽中に入れ、14時間硬化させた。硬化後、硬化物を型から取り出し、上下についているポリエチレン製焼結多孔体を外し、円柱状の吸着媒体Aを得た。吸着媒体Aの直径は8.7mm、高さ4.9mmであり、直径方向で約1.2%収縮していた。吸着媒体Aの外観写真を図3に示すが、吸着媒体表面には若干の凹部が見られた。凹部の原因としては、金型のキャビティに充填する際の空気の混入が考えられる。また、混練中に希釈溶媒が揮発して粘性が増加したため、混練物中に巻き込まれた空気を除去しきれなかったことも原因と考えられる。得られた吸着媒体Aを公称3mLの固相抽出用エンプティカートリッジに挿入して固相抽出カートリッジ(図1と同様の構造)を作製し、カートリッジ上部にメタノール及び純水を満たして透過性を調べた。メタノール、純水ともに加圧することなく吸着媒体Aを通過して流出し、吸着媒体Aには通液可能な連通孔が存在していることが確認できた。
【0053】
(比較例1) 吸着媒体Bの作製
吸着媒体Aと同様の疎水性多孔質粒子と金型を用いて、同様の条件で市販の瞬間接着型のシアノアクリレート系接着剤(粘度:1Pa・s以下)を用いて吸着媒体の作製を試みた。シアノアクリレート系接着性高分子は粘度が低く、混練中に疎水性多孔質粒子に吸い込まれてしまい均一なペースト状の混練物を作製することができなかった。不均一であったが混練物を金型に入れて同一条件で硬化を行ったが、一体成形することはできず、粉体状態で金型から取り出された。取り出された粉体を顕微鏡で見たところ、一部の粒子は接着されてはいるものの、まったく接着されていない粒子も多数観察された。
【0054】
(比較例2) 吸着媒体Cの作製
実施例1と同一の条件で、市販シリル化ウレタン系接着剤(粘度:約50Pa・s)に変更して吸着媒体Cの作製を試みた。比較例1とは異なり、円筒状の成形体を得ることができた。吸着媒体Cの外観写真を図4に示す。実施例1と同様に公称3mLの固相抽出用エンプティカートリッジに挿入して固相抽出カートリッジ(図1と同様の構造)を作製し、カートリッジ上部にメタノール及び純水を満たして透過性を調べたが、メタノール、純水ともに吸着媒体Cから流出してこなかった。上部に注射筒を装着して加圧したが、メタノール、純水ともに吸着媒体Cを通過することなく、吸着媒体Cには通液可能な連通孔が存在していなかった。
【0055】
(実施例2) 吸着媒体Dの作製
実施例1と同一の条件で、接着性高分子を接着剤用として調製された変性シリコーン樹脂(変性シリコーン樹脂含量:65%、粘度:約40Pa・s)に変更して吸着媒体Dの作製を試みた。但し、疎水性多孔質粒子と接着性高分子との混練前に、接着性高分子に対して0.5重量%となるようにカーボンブラック(平均粒子径:66nm)を接着性高分子に混合して均一に混練し、その後疎水性多孔質粒子との混練を行い、実施例1と同一の金型で成形を行った。得られた吸着媒体の成形状態は良好であった。また、高さ方向に切断して内部の状態を見たが、一部に大きめの空隙が見られた。この空隙は充填時に巻き込まれた空気によるものと思われる。しかし、疎水性多孔質粒子は脱離することなく、均一に接着されていることが判った。吸着媒体Dの外観写真を図5に示す。直径方向の収縮率は約1.5%であった。実施例1と同様に固相抽出カートリッジ(図1と同様の構造)を作製し、メタノール及び純水を用いて透過性を調べたが、メタノールと純水ともに加圧することなく液が通過し通液可能な連通孔が存在していることが確認できた。このように、一般に水を吸って固化する変性シリコーン樹脂を用いても同様の連通孔を持つ吸着媒体を作製することができるとともに、吸着機能を持つカーボンブラックの混合も可能であることが確認された。
【0056】
(比較例3) 吸着媒体Eの作製
実施例2において、変性シリコーン樹脂で多孔性吸着媒体の成形が可能であったため、変性シリコーン系シーリング剤(高粘度、ペースト状)を用いて吸着媒体Eの作製を試みた。作製条件は実施例1と同一である。吸着媒体Eの外観写真を図6に示すが、実施例2と同様に良好な成形状態であった。ここで使用した変性シリコーン系シーリング剤は弾性が高く、型から抜き出した時に高さ方向に膨張して、実施例1及び実施例2の吸着媒体よりも高さが高い成形体となった。直径方向に関しては、8.8mmで膨張も収縮もなかった。実施例1と同様に固相抽出カートリッジ(図1と同様の構造)を作製し、メタノール及び純水を用いて透過性を調べたが、上部から加圧してもメタノール、純水ともに吸着媒体Eを通過することなく、吸着媒体Eには通液可能な連通孔が存在していないことが確認できた。
【0057】
(評価試験1) 吸着媒体の表面状態-1
実施例1及び比較例3で作製した吸着媒体A及び吸着媒体Eを切断して電子顕微鏡で観察した。吸着媒体Aは切断面から疎水性多孔質粒子の脱離はなかったが、比較例3の吸着媒体Eは切断すると小さい塊状で崩れてしまった。切断面の電子顕微鏡写真を図7に示す。溶液の通液が可能であった実施例1の吸着媒体Aでは、球状の疎水性多孔質粒子の粒子間に間隙が存在していることが観察された(図7a)。一方、比較例3の吸着媒体Eの切断時に脱離した塊の電子顕微鏡写真(図7b)では、疎水性多孔質粒子の存在は判るものの粒子間の間隙を明確に確認することができず、粒子間の間隙が閉塞していることが判った。
【0058】
(評価試験2) 吸着媒体の表面状態-2
実施例1及び比較例3で作製した吸着媒体A及び吸着媒体Eの表面状態を実体顕微鏡で観察した。顕微鏡写真を図8に示す。溶液の通液が可能であった実施例1の吸着媒体Aは球状の疎水性多孔質粒子が明確に観察され、粒子間の間隙が観察された。一方、成形はできたが通液できなかった比較例3の吸着媒体Eでは、疎水性多孔質粒子の存在は判るものの粒子間の間隙を明確に観察することができなかった。また、写真中央部に疎水性多孔質粒子が存在していない変性シリコーン樹脂の大きな塊が観察された。このことから、比較例3の吸着媒体Eでは粒子間の間隙が閉塞しており、使用した変性シリコーン系シーリング剤の粘性が高いために疎水性多孔質粒子が均一に混練されていなかったことが判明した。
【0059】
(評価試験3)吸着媒体の比表面積測定
実施例1及び実施例2で得られた吸着媒体A及びDを約2mm角に切断し、比表面積測定を行った。吸着媒体の比表面積は、マイクロメリティックス社製トライスターII 3020を用いて、BET法にて測定を行った。測定結果を表1に示す。実施例1及び実施例2の吸着媒体A及びDの比表面積は、混練した疎水性多孔質粒子の比表面積に対して、それぞれ38.5%及び22.8%であった。しかし、多孔性吸着媒体中の疎水性多孔質粒子の含量(混練量)は50%であるため、疎水性多孔質粒子含量換算で見ると、それぞれ77.1%及び45.6%が残存していることとなる。
【0060】
【表1】
【0061】
(実施例3) 吸着媒体Fの作製
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(平均分子量:約370、粘度:約14Pa・s、エポキシ当量:約190g/eq.)0.5gとジエチレントリアミン0.5gとを事前に混錬後、実施例1で得られた疎水性多孔質粒子1gとを混錬して実施例1と同一の条件で硬化させた。得られた吸着媒体の成形状態は良好であった。吸着媒体Fの外観写真を図9に示す。直径方向の収縮率は約1.5%であった。また、メタノールと純水の通液性も確認され、通液可能な連通孔が存在していることが確認できた。
【0062】
(評価試験4) 吸着媒体Fの吸着特性評価
実施例3で得られた吸着媒体Fを公称3mLの固相抽出用エンプティカートリッジに挿入して固相抽出カートリッジ(図1と同様の構造)を作製した。使用した吸着媒体F中の疎水性多孔質粒子量は、疎水性多孔質粒子と接着性高分子の配合比を1:1として吸着媒体Fの重量から求めると98mgであった。作製した固相抽出カートリッジを用いて、固相抽出法により有機化合物の吸着率を評価した。まず、カートリッジ上部からメタノール2mL、次いで純水10mLを送液して吸着媒体をコンディショニングした。その後、カフェイン、メチルパラベン、フタル酸ジメチルの各100mg/Lの水溶液1.5mLを負荷して、通過液を捕集した。さらに、純水1mLを通液して通過液も捕集した。2つの通過液を合わせた混合液中の各成分濃度をHPLCで測定して吸着媒体Fに捕捉されなかった成分量を求め、吸着媒体Fに負荷した量からこれらを差し引くことにより吸着媒体Fに吸着した量を求め吸着率を計算した。吸着率評価試験の結果を表2に示す。表2において、疎水性多孔質粒子の吸着率は、混練する前の疎水性多孔質粒子(粒子径:53~90μm)100mgを公称3mLの固相抽出用エンプティカートリッジに充填して求めたものである。吸着媒体Fは、混練前の疎水性多孔質粒子を充填した固相抽出カートリッジと同等の吸着率を示した。
【0063】
(HPLC条件)
分離カラム:InertSustain(登録商標)AQ-C18(充填剤粒子系:3μm,カラムサイズ:150×2.0mm I.D.)、
移動相:メタノール/水=40/60、
移動相流量:0.2mL/min、
カラム温度:40℃、
試料注入量:10μL
【0064】
【表2】
【0065】
(実施例4) 接着性高分子2種混合型吸着媒体の作製
上記結果を受け、2種の接着性高分子を混合して疎水性多孔質粒子を混練した多孔性吸着媒体の作製を試みた。接着性高分子には、実施例1で用いたスチレン-ブタジエン共重合体、実施例2で用いた変性シリコーン樹脂、及び実施例3で用いたビスフェノールA型エポキシ樹脂を用い、それぞれを等重量で混合して使用した。スチレン-ブタジエン共重合体と変性シリコーン樹脂との混合接着性高分子で調製したものを吸着媒体G、スチレン-ブタジエン共重合体とビスフェノールA型エポキシ樹脂との混合接着性高分子で調製したものを吸着媒体H、及び変性シリコーン樹脂とビスフェノールA型エポキシ樹脂との混合接着性高分子で調製したものを吸着媒体Iとした。さらに、塩化ビニル系高分子を酢酸エチルで溶解し、ビスフェノールA型エポキシ樹脂との混合接着性高分子で調製したものを吸着媒体Jとした。疎水性多孔質粒子と接着性高分子との混合比は1:1として、調製条件は実施例1と同一とした。得られた吸着媒体G~Jの外観写真を図10に示す。得られた吸着媒体G~Jの通過特性は良好であり、これらには通液可能な連通孔が存在していることが確認できた。表3に、評価試験4と同様の方法で評価した、2種の接着性高分子を混合して成形した吸着媒体の吸着率を示す。表3に示す通り、吸着媒体Gの吸着率が若干低かったものの、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を混合した吸着媒体H、吸着媒体I及び吸着媒体Jにおいて高い回収率が得られ、吸着率は混練した疎水性多孔質粒子と同等であった。
【0066】
【表3】
【0067】
(実施例5) 混練する疎水性多孔質粒子の粒子径の影響
実施例2及び実施例3では、粒子径90~150μmの疎水性多孔質粒子を用いて多孔性吸着媒体を調製したが、疎水性多孔質粒子の粒子径のみを53~90μmに変更して、実施例2及び実施例3と同一の条件で多孔性吸着媒体を調製した。得られた多孔性吸着媒体を、それぞれ多孔性吸着媒体D-2及び多孔性吸着媒体F-2とする。これらの多孔性吸着媒体を用いて、評価試験4と同一の方法で吸着率評価を行った。結果を表4に示す。粒子径を小さくすることにより吸着媒体の吸着率は上昇し、混練した疎水性多孔質粒子と同等の吸着率となった。このように、最終的に得られる吸着媒体の吸着機能は疎水性多孔質粒子の特性に依存するため、疎水性多孔質粒子の粒子径を適切に設定することにより、吸着能を向上させることができることが確認された。
【0068】
【表4】
【0069】
(実施例6) 円盤状多孔性吸着媒体Kの調製
(1) 疎水性多孔質粒子の合成
疎水性多孔質粒子の合成は、懸濁重合法により行った。ジビニルベンゼン(純度:80%)85g、N-ビニルピロリドン15g、酢酸ブチル100g及び2,2’-アゾビスイソブチロニトリル1gの混合物を、0.1%ポリビニルアルコール水溶液1,000mL中に加え、油滴径の中心が90μmになるように攪拌した。その後、70℃で6時間重合反応を行った。生成した共重合体粒子を濾取し、水、メタノール、水の順で洗浄した。一日風乾後、分級を行い、90~150μmの疎水性多孔質粒子(芳香族モノマー含有量:82.9mol%、架橋度:66.3mol%)45gを得た。得られた疎水性多孔質粒子を風乾後、100Pa、50℃で真空乾燥後、デシケータ中に保存した。
【0070】
(2) 吸着媒体Kの作製
前記(1)で得られた疎水性多孔質粒子5gを実施例1で用いた接着性高分子と同じスチレン-ブタジエン共重合体のシクロヘキサン溶液5gと混練した。直径18.5mm、高さ6.0mmの大型のキャビティを持つステンレス製金型のキャビティに疎水性多孔質粒子と接着性高分子との混練物の一部を空気が入らないように金型上部まで充填した。ここでは、実施例1で使用したポリエチレン製焼結多孔体は使用せず、下部にステンレス板を引き、上部は開放系とした。その後、金型ごと50℃に保った恒温槽中に入れ、14時間硬化させた。硬化後、硬化物を型から取り出し、大型の円盤状の吸着媒体Kを得た。吸着媒体Kの外観写真を図11に示す。得られた吸着媒体Kを、図12に示すように、吸着媒体K(33)をポリテトラフルオロエチレン製のホルダーリング34にクリップ35を用いてはめ込み、ファンネル型ろ過器(31、32)を用いてメタノール及び純水を吸引して透過性を調べた。メタノール、純水ともに吸着媒体Kを通過して流出し、通液可能な連通孔が存在していることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明によれば、疎水性多孔質粒子を接着性高分子と混練後、硬化するという簡単な方法で、容易に高機能な多孔性吸着媒体を得ることができる。本発明の多孔性吸着媒体は、平板状や円盤状、円柱状や角柱状、中空の円筒状や角筒状、さらには、筒状の一端を閉塞させたカップ状などの多彩な成形体を得ることが可能である。この多孔性吸着媒体の使用に当たっては、多孔性吸着媒体は、被処理溶液中に直接投入することで化学物質の抽出や回収に使用することが可能である。また、円盤状や円錐状に成形された多孔性吸着媒体をろ過器あるいはロートなどに装着して抽出・分離を行うという方法も可能である。例えば、円盤状に成形された吸着媒体をフッ素樹脂やポリエチレン製のリングに嵌めこめば、ファンネル型ろ過器を用いて被処理溶液中の化学物質の抽出・濃縮に用いることができる。さらに、適切な形態を有する小容量のカートリッジやホルダー、あるいはカラム管に装備して、化学物質の化学分析に用いられる固相抽出カートリッジとして使用することができる。例えば、円柱状に成形された吸着媒体をシリンジ型の固相抽出用エンプティカートリッジに挿入すれば汎用の固相抽出カートリッジと同様に使用することが可能である。また、本発明の多孔性吸着媒体は、吸着特性の異なる複数の疎水性多孔質粒子を混合して製造することが可能であるとともに、吸着特性の異なる疎水性多孔質粒子を個別に混練した後に成形用金型内に層状に入れて硬化させることも可能である。さらに、製造された多孔性吸着媒体は容易に接着可能であるため容易に複合化することができる。このように調製された固相抽出用吸着媒体や固相抽出カートリッジは適切な溶液で洗浄・コンディショニングした後、被処理溶液を通液し、被処理溶液中の測定対象成分を吸着媒体上に抽出・濃縮する。吸着媒体上に抽出・濃縮された測定対象成分は、適切な溶液で溶出させ、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、高速液体クロマトグラフィー-質量分析法(HPLC-MS)、ガスクロマトグラフィー-質量分析法(GC-MS)、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)などにより測定される。
【符号の説明】
【0072】
11…固相抽出用エンプティカートリッジ
12、13…フリット
14…固相抽出剤
21…成形用金型
22…キャビティ
23、24…焼結多孔体
25…疎水性多孔質粒子と接着性高分子との混練物
31、32…ファンネル型ろ過器
33…多孔性吸着媒体
34…ホルダーリング
35…クリップ
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