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特許7329206タンパク質成形体及びその製造方法、タンパク質溶液、並びにタンパク質成形体用可塑剤
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  • 特許-タンパク質成形体及びその製造方法、タンパク質溶液、並びにタンパク質成形体用可塑剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-09
(45)【発行日】2023-08-18
(54)【発明の名称】タンパク質成形体及びその製造方法、タンパク質溶液、並びにタンパク質成形体用可塑剤
(51)【国際特許分類】
   C08L 89/00 20060101AFI20230810BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20230810BHJP
   C08K 5/3445 20060101ALI20230810BHJP
   C08J 3/18 20060101ALI20230810BHJP
   D01F 4/02 20060101ALI20230810BHJP
【FI】
C08L89/00
C08J5/00 CEZ
C08K5/3445
C08J3/18 CEZ
D01F4/02
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019521312
(86)(22)【出願日】2018-05-31
(86)【国際出願番号】 JP2018021051
(87)【国際公開番号】W WO2018221680
(87)【国際公開日】2018-12-06
【審査請求日】2021-05-28
(31)【優先権主張番号】P 2017109974
(32)【優先日】2017-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、内閣府、革新的研究開発推進プログラム、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(73)【特許権者】
【識別番号】508113022
【氏名又は名称】Spiber株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貴哉
(72)【発明者】
【氏名】森永 隆志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 涼
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健大
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0051068(US,A1)
【文献】国際公開第2016/067189(WO,A1)
【文献】特開2010-111707(JP,A)
【文献】特開2009-074073(JP,A)
【文献】特表2005-532440(JP,A)
【文献】特表2009-520846(JP,A)
【文献】国際公開第2005/103158(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
D01F 1/00-6/96、9/00-9/04
C08J 3/18、5/00
C12N 15/00-15/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質を含有するタンパク質成形体であって、
該タンパク質成形体の内部にイオン液体が含まれ、
前記イオン液体が疎水性イオン液体である、タンパク質成形体。
【請求項2】
前記イオン液体が、前記タンパク質成形体の内部に分散して含まれている、請求項1に記載のタンパク質成形体。
【請求項3】
前記タンパク質が、構造タンパク質である、請求項1又は2に記載のタンパク質成形体。
【請求項4】
前記構造タンパク質が、フィブロインである、請求項3に記載のタンパク質成形体。
【請求項5】
前記フィブロインが、クモ糸フィブロインである、請求項4に記載のタンパク質成形体。
【請求項6】
繊維又はフィルムである、請求項1~5のいずれか一項に記載のタンパク質成形体。
【請求項7】
前記イオン液体は、加熱重量減少率が10質量%である温度が200℃以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載のタンパク質成形体。
【請求項8】
タンパク質成形体の成形用材料にイオン液体を含有させる工程、及び前記イオン液体を含有させたタンパク質成形体の成形用材料を使用し、タンパク質成形体を得る工程を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のタンパク質成形体の製造方法。
【請求項9】
前記イオン液体を含有させる工程が、タンパク質成形体の成形用材料の内部にイオン液体を浸入させる工程である、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記イオン液体を含有させる工程が、タンパク質成形体の成形用材料とイオン液体とを混合する工程である、請求項8記載の製造方法。
【請求項11】
前記成形用材料が、前記タンパク質を溶媒(但し、イオン液体を除く。)に溶解させてなる成形用溶液である、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記イオン液体が混合された成形用溶液を凝固液に接触させて凝固させることによりタンパク質成形体を得る工程を更に含み、
前記凝固液が、該凝固液中にイオンを供給するイオン供給物質を有し、
前記イオン供給物質が、無機塩及び/又は有機酸である請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記イオン供給物質が、前記タンパク質を凝集可能な物質である、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
タンパク質成形体の成形用材料を成形して成形体を得た後、当該成形体をイオン液体に含浸させる工程を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のタンパク質成形体の製造方法。
【請求項15】
イオン液体からなるタンパク質成形体用可塑剤。
【請求項16】
前記タンパク質が、構造タンパク質である、請求項15に記載のタンパク質成形体用可塑剤。
【請求項17】
前記構造タンパク質が、フィブロインである、請求項16に記載のタンパク質成形体用可塑剤。
【請求項18】
前記フィブロインが、クモ糸フィブロインである、請求項17に記載のタンパク質成形体用可塑剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質成形体及びその製造方法、タンパク質溶液、並びにタンパク質成形体用可塑剤に関する。
【背景技術】
【0002】
環境保全意識の高まりから、石油由来の材料の代替物質の検討が進められており、強度などの点で優れる構造タンパク質がその候補として挙げられる。例えば、構造タンパク質からなるキャストフィルム、ファイバー等の成形体が提案されている。
【0003】
構造タンパク質の一種である絹フィブロインからなるフィルム及び繊維に対し、柔軟性と強度を向上させる方法として、成形体にグリセロール等の可塑剤を添加することが開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2005/103158号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1で可塑剤として使用しているグリセロール等の有機溶媒は揮発性であるため、これらの可塑剤を含有する成形体は、時間の経過と共に可塑剤が揮発及び離脱して、柔軟性及び伸度が徐々に低下することが避けられなかった。したがって、タンパク質成形体の柔軟性及び伸度を向上させるための代替法が求められている。
【0006】
本発明は、柔軟性及び伸度が向上したタンパク質成形体、及びその製造方法を提供することを目的とする。本発明はまた、当該タンパク質成形体の製造に用いられるタンパク質溶液を提供することを目的とする。本発明はさらに、タンパク質成形体に優れた柔軟性及び伸度を付与できるタンパク質成形体用可塑剤を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、例えば、以下の各発明に関する。
[1]
タンパク質を含有するタンパク質成形体であって、
該タンパク質成形体の内部にイオン液体が含まれている、タンパク質成形体。
[2]
上記イオン液体が、上記タンパク質成形体の内部に分散して含まれている、[1]に記載のタンパク質成形体。
[3]
上記タンパク質が、構造タンパク質である、[1]又は[2]に記載のタンパク質成形体。
[4]
上記構造タンパク質が、フィブロインである、[3]に記載のタンパク質成形体。
[5]
上記フィブロインが、クモ糸フィブロインである、[4]に記載のタンパク質成形体。
[6]
上記イオン液体が、疎水性イオン液体である、[1]~[5]のいずれかに記載のタンパク質成形体。
[7]
繊維又はフィルムである、[1]~[6]のいずれかに記載のタンパク質成形体。
[8]
上記イオン液体は、加熱重量減少率が10質量%である温度が200℃以上である、[1]~[7]のいずれかに記載のタンパク質成形体。
[9]
タンパク質成形体の成形用材料にイオン液体を含有させる工程を含む、[1]~[8]のいずれかに記載のタンパク質成形体の製造方法。
[10]
上記イオン液体を含有させる工程が、タンパク質成形体の成形用材料の内部にイオン液体を浸入させる工程である、[9]に記載の製造方法。
[11]
上記イオン液体を含有させる工程が、タンパク質成形体の成形用材料とイオン液体とを混合する工程である、[9]に記載の製造方法。
[12]
上記成形用材料が、上記タンパク質を溶媒に溶解させてなる成形用溶液である、[11]に記載の製造方法。
[13]
上記イオン液体が混合された成形用溶液を凝固液に接触させて凝固させることによりタンパク質成形体を得る工程を更に含み、
上記凝固液が、該凝固液中にイオンを供給するイオン供給物質を有する、[12]に記載の製造方法。
[14]
上記イオン供給物質が、上記タンパク質を凝集可能な物質である、[13]に記載の製造方法。
[15]
タンパク質成形体の成形用材料を成形して成形体を得た後、当該成形体をイオン液体に含浸させる工程を含む、[1]~[8]のいずれかに記載のタンパク質成形体の製造方法。
[16]
タンパク質と、イオン液体と、溶媒とを含む、タンパク質溶液。
[17]
上記イオン液体の含有量が、全量を基準として10~20質量%である、[16]に記載のタンパク質溶液。
[18]
上記タンパク質が、構造タンパク質である、[16]又は[17]に記載のタンパク質溶液。
[19]
上記構造タンパク質が、フィブロインである、[18]に記載のタンパク質溶液。
[20]
上記フィブロインが、クモ糸フィブロインである、[19]に記載のタンパク質溶液。
[21]
イオン液体からなるタンパク質成形体用可塑剤。
[22]
上記タンパク質が、構造タンパク質である、[21]に記載のタンパク質成形体用可塑剤。
[23]
上記構造タンパク質が、フィブロインである、[22]に記載のタンパク質成形体用可塑剤。
[24]
上記フィブロインが、クモ糸フィブロインである、[23]に記載のタンパク質成形体用可塑剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、柔軟性及び伸度が向上したタンパク質成形体、及びその製造方法が提供される。本発明によればまた、当該タンパク質成形体の製造に用いられるタンパク質溶液が提供される。本発明によればさらに、タンパク質成形体に優れた柔軟性及び伸度を付与できるタンパク質成形体用可塑剤が提供される。また、本発明に係るタンパク質成形体は、応力の減少を一定程度抑制することができるため、柔軟性及び伸度の向上に加え、タフネスも向上している。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】タンパク質原料繊維を製造するための紡糸装置の一例を概略的に示す説明図である。
図2】(A)実施例1のタンパク質繊維断面のエネルギー分散型X線分析(EDX)スペクトルである。(B)実施例2のタンパク質繊維断面のEDXスペクトルである。
図3】実施例1及び実施例2のタンパク質繊維断面における炭素に対するリンの割合を示すグラフである。
図4】実施例1及び実施例2のタンパク質繊維の引張試験結果を示すグラフである。
図5】(A)試験例2のタンパク質フィルム断面のEDXスペクトルである。(B)試験例2のタンパク質フィルム断面のEDXによる面分析の結果を示す図である。
図6】試験例3でクモ糸フィブロインの溶解性を観察した結果を示す写真である。
図7】試験例3でクモ糸フィブロインの溶解性を観察した結果を示す写真である。
図8】試験例4のタンパク質フィルムA断面の走査型電子顕微鏡画像を示す写真である。(A)タンパク質フィルムAの表面を撮影した画像である。(B)タンパク質フィルムAの端部(エッジ)を撮影した画像である。
図9】(A)試験例4のタンパク質フィルムA断面のEDXスペクトルである。(B)試験例4のタンパク質フィルムA断面のEDXによる面分析の結果を示す図である。
図10】試験例4のタンパク質フィルムの引張試験結果を示すグラフである。(A)タンパク質フィルムA(イオン液体あり)の引張試験結果を示すグラフである。(B)タンパク質フィルムB(イオン液体なし)の引張試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
[タンパク質成形体]
本実施形態に係るタンパク質成形体は、タンパク質を含有するタンパク質成形体であって、該タンパク質成形体の内部にイオン液体が含まれているものである。本実施形態に係るタンパク質成形体は、イオン液体を内部に含むことにより、柔軟性及び伸度が向上する。また、本実施形態に係るタンパク質成形体は、応力の減少を一定程度抑制することができるため、柔軟性及び伸度の向上に加え、タフネスも向上している。本実施形態に係るタンパク質成形体は、本発明による効果をより一層顕著に発揮できることから、タンパク質成形体の内部にイオン液体が分散して含まれていることが好ましい。
【0012】
(タンパク質)
本実施形態に係るタンパク質成形体は、タンパク質を主成分として含む。当該タンパク質は、特に限定されるものではなく、遺伝子組換え技術により微生物等で製造したものであってもよく、合成により製造されたものであってもよく、また天然由来のタンパク質を精製したものであってもよい。
【0013】
上記タンパク質は、例えば、構造タンパク質及び当該構造タンパク質に由来する人造構造タンパク質であってもよい。構造タンパク質とは、生体内で構造及び形態等を形成又は保持するタンパク質を意味する。構造タンパク質としては、例えば、フィブロイン、ケラチン、コラーゲン、エラスチン及びレシリン等を挙げることができる。
【0014】
構造タンパク質は、フィブロインであってもよい。フィブロインは、例えば、絹フィブロイン、クモ糸フィブロイン、及びホーネットシルクフィブロインからなる群より選択される1種以上であってよい。特に、構造タンパク質は、絹フィブロイン、クモ糸フィブロイン又はこれらの組み合わせであってもよい。絹フィブロインとクモ糸フィブロインとを併用する場合、絹フィブロインの割合は、例えば、クモ糸フィブロイン100質量部に対して、40質量部以下、30質量部以下、又は10質量部以下であってよい。
【0015】
絹フィブロインとしては、セリシン除去絹フィブロイン、セリシン未除去絹フィブロイン、又はこれらの組み合わせであってもよい。セリシン除去絹フィブロインは、絹フィブロインを覆うセリシン、及びその他の脂肪分などを除去して精製したものである。このようにして精製した絹フィブロインは、好ましくは、凍結乾燥粉末として用いられる。セリシン未除去絹フィブロインは、セリシンなどが除去されていない未精製の絹フィブロインである。
【0016】
クモ糸フィブロインは、天然クモ糸タンパク質、及び天然クモ糸タンパク質に由来するポリペプチド(人造クモ糸タンパク質)からなる群より選ばれるクモ糸ポリペプチドを含有していてもよい。
【0017】
天然クモ糸タンパク質としては、例えば、大吐糸管しおり糸タンパク質、横糸タンパク質、及び小瓶状腺タンパク質が挙げられる。大吐糸管しおり糸は、結晶領域と非晶領域(無定形領域とも言う。)からなる繰り返し領域を持つため、高い応力と伸縮性を併せ持つ。クモ糸の横糸は、結晶領域を持たず、非晶領域からなる繰り返し領域を持つという特徴を有する。横糸は、大吐糸管しおり糸に比べると応力は劣るが、高い伸縮性を持つ。
【0018】
大吐糸管しおり糸タンパク質は、クモの大瓶状線で産生され、強靭性に優れるという特徴を有する。大吐糸管しおり糸タンパク質としては、例えば、アメリカジョロウグモ(Nephila clavipes)に由来する大瓶状腺スピドロインMaSp1及びMaSp2、並びに二ワオニグモ(Araneus diadematus)に由来するADF3及びADF4が挙げられる。ADF3は、ニワオニグモの2つの主要なしおり糸タンパク質の一つである。天然クモ糸タンパク質に由来するポリペプチドは、これらのしおり糸タンパク質に由来するポリペプチドであってもよい。ADF3に由来するポリペプチドは、比較的合成し易く、また、強伸度及びタフネスの点で優れた特性を有する。
【0019】
横糸タンパク質は、クモの鞭毛状腺(flagelliform gland)で産生される。横糸タンパク質としては、例えばアメリカジョロウグモ(Nephila clavipes)に由来する鞭毛状絹タンパク質(flagelliform silk protein)が挙げられる。
【0020】
天然クモ糸タンパク質に由来するポリペプチドは、組換えクモ糸タンパク質であってよい。組換えクモ糸タンパク質としては、天然型クモ糸タンパク質の変異体、類似体又は誘導体等が挙げられる。このようなポリペプチドの好適な一例は、大吐糸管しおり糸タンパク質の組換えクモ糸タンパク質(「大吐糸管しおり糸タンパク質に由来するポリペプチド」ともいう。)である。
【0021】
フィブロイン様タンパク質である大吐糸管しおり糸由来のタンパク質及びカイコシルク由来のタンパク質としては、例えば、式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質が挙げられる。ここで、(A)モチーフは、アラニン残基を主とするアミノ酸配列を示し、アミノ酸残基数は2~27である。(A)モチーフのアミノ酸残基数は、2~20、4~27、4~20、8~20、10~20、4~16、8~16、又は10~16の整数であってよい。また、(A)モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数の割合は40%以上であればよく、60%以上、70%以上、80%以上、83%以上、85%以上、86%以上、90%以上、95%以上、又は100%(アラニン残基のみで構成されることを意味する。)であってもよい。ドメイン配列中に複数存在する(A)モチーフは、少なくとも7つがアラニン残基のみで構成されてもよい。REPは2~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。REPは、10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列であってもよい。mは2~300の整数を示し、10~300の整数であってもよい。複数存在する(A)モチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。大吐糸管しおり糸由来のタンパク質の具体例としては、配列番号1及び配列番号8で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質を挙げることができる。
【0022】
横糸タンパク質に由来するタンパク質としては、例えば、式3:[REP2]で表されるドメイン配列を含むタンパク質(ここで、式3中、REP2はGly-Pro-Gly-Gly-Xから構成されるアミノ酸配列を示し、Xはアラニン(Ala)、セリン(Ser)、チロシン(Tyr)及びバリン(Val)からなる群から選ばれる一つのアミノ酸を示す。oは8~300の整数を示す。)を挙げることができる。具体的には、配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質を挙げることができる。配列番号2で示されるアミノ酸配列は、NCBIデータベースから入手したアメリカジョロウグモの鞭毛状絹タンパク質の部分的な配列(NCBIアクセッション番号:AAF36090、GI:7106224)のリピート部分及びモチーフに該当するN末端から1220残基目から1659残基目までのアミノ酸配列(PR1配列と記す。)と、NCBIデータベースから入手したアメリカジョロウグモの鞭毛状絹タンパク質の部分配列(NCBIアクセッション番号:AAC38847、GI:2833649)のC末端から816残基目から907残基目までのC末端アミノ酸配列を結合し、結合した配列のN末端に配列番号7で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)が付加されたものである。
【0023】
コラーゲン由来のタンパク質としては、例えば、式4:[REP3]で表されるドメイン配列を含むタンパク質(ここで、式4中、pは5~300の整数を示す。REP3は、Gly一X一Yから構成されるアミノ酸配列を示し、X及びYはGly以外の任意のアミノ酸残基を示す。複数存在するREP3は、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。)を挙げることができる。具体的には、配列番号3で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質を挙げることができる。配列番号3で示されるアミノ酸配列は、NCBIデータベースから入手したヒトのコラーゲンタイプ4の部分的な配列(NCBIのGenBankのアクセッション番号:CAA56335.1、GI:3702452)のリピート部分及びモチーフに該当する301残基目から540残基目までのアミノ酸配列のN末端に配列番号7で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)が付加されたものである。
【0024】
レシリン由来のタンパク質としては、例えば、式5:[REP4]で表されるドメイン配列を含むタンパク質(ここで、式5中、qは4~300の整数を示す。REP4はSer一J一J一Tyr一Gly一U-Proから構成されるアミノ酸配列を示す。Jは任意のアミノ酸残基を示し、特にAsp、Ser及びThrからなる群から選ばれるアミノ酸残基であることが好ましい。Uは任意のアミノ酸残基を示し、特にPro、Ala、Thr及びSerからなる群から選ばれるアミノ酸残基であることが好ましい。複数存在するREP4は、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。)を挙げることができる。具体的には、配列番号4で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質を挙げることができる。配列番号4で示されるアミノ酸配列は、レシリン(NCBIのGenBankのアクセッション番号NP 611157、Gl:24654243)のアミノ酸配列において、87残基目のThrをSerに置換し、かつ95残基目のAsnをAspに置換した配列の19残基目から321残基目までのアミノ酸配列のN末端に配列番号7で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)が付加されたものである。
【0025】
エラスチン由来のタンパク質としては、例えば、NCBIのGenBankのアクセッション番号AAC98395(ヒト)、I47076(ヒツジ)、NP786966(ウシ)等のアミノ酸配列を有するタンパク質を挙げることができる。具体的には、配列番号5で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質を挙げることができる。配列番号5で示されるアミノ酸配列は、NCBIのGenBankのアクセッション番号AAC98395のアミノ酸配列の121残基目から390残基目までのアミノ酸配列のN末端に配列番号7で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)が付加されたものである。
【0026】
ケラチン由来のタンパク質として、例えば、カプラ・ヒルクス(Capra hircus)のタイプIケラチン等を挙げることができる。具体的には、配列番号6で示されるアミノ酸配列(NCBIのGenBankのアクセッション番号ACY30466のアミノ酸配列)を含むタンパク質を挙げることができる。
【0027】
上述した構造タンパク質及び当該構造タンパク質に由来するタンパク質は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
(タンパク質の製造方法)
上記のタンパク質は、例えば、当該タンパク質をコードする核酸配列と、当該核酸配列に作動可能に連結された1又は複数の調節配列とを有する発現ベクターで形質転換された宿主により、当該核酸を発現させることにより生産することができる。
【0029】
タンパク質をコードする核酸の製造方法は、特に制限されない。例えば、天然の構造タンパク質をコードする遺伝子を利用して、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などで増幅しクローニングする方法、又は、化学的に合成する方法によって、当該核酸を製造することができる。核酸の化学的な合成方法も特に制限されず、例えば、NCBIのウェブデータベースなどより入手した構造タンパク質のアミノ酸配列情報をもとに、AKTA oligopilot plus 10/100(GEヘルスケア・ジャパン株式会社製)などで自動合成したオリゴヌクレオチドをPCRなどで連結する方法によって遺伝子を化学的に合成することができる。この際に、タンパク質の精製及び/又は確認を容易にするため、上記のアミノ酸配列のN末端に開始コドン及びHis10タグからなるアミノ酸配列を付加したアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする核酸を合成してもよい。
【0030】
調節配列は、宿主における組換えタンパク質の発現を制御する配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、リボソーム結合配列、転写終結配列等)であり、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。プロモーターとして、宿主細胞中で機能し、目的とするタンパク質を発現誘導可能な誘導性プロモーターを用いてもよい。誘導性プロモーターは、誘導物質(発現誘導剤)の存在、リプレッサー分子の非存在、又は温度、浸透圧若しくはpH値の上昇若しくは低下等の物理的要因により、転写を制御できるプロモーターである。
【0031】
発現ベクターの種類は、プラスミドベクター、ウイルスベクター、コスミドベクター、フォスミドベクター、人工染色体ベクター等、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。発現ベクターとしては、宿主細胞において自立複製が可能、又は宿主の染色体中への組込みが可能で、目的とするタンパク質をコードする核酸を転写できる位置にプロモーターを含有しているものが好適に用いられる。
【0032】
宿主としては、原核生物、並びに酵母、糸状真菌、昆虫細胞、動物細胞及び植物細胞等の真核生物のいずれも好適に用いることができる。
【0033】
原核生物の宿主の好ましい例としては、エシェリヒア属、ブレビバチルス属、セラチア属、バチルス属、ミクロバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、コリネバクテリウム属及びシュードモナス属等に属する細菌を挙げることができる。エシェリヒア属に属する微生物としては、例えば、エシェリヒア・コリ等を挙げることができる。ブレビバチルス属に属する微生物としては、例えば、ブレビバチルス・アグリ等を挙げることができる。セラチア属に属する微生物としては、例えば、セラチア・リクエファシエンス等を挙げることができる。バチルス属に属する微生物としては、例えば、バチルス・サチラス等を挙げることができる。ミクロバクテリウム属に属する微生物としては、例えば、ミクロバクテリウム・アンモニアフィラム等を挙げることができる。ブレビバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ブレビバクテリウム・ディバリカタム等を挙げることができる。コリネバクテリウム属に属する微生物としては、例えば、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス等を挙げることができる。シュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物としては、例えば、シュードモナス・プチダ等を挙げることができる。
【0034】
原核生物を宿主とする場合、目的タンパク質をコードする核酸を導入するベクターとしては、例えば、pBTrp2(ベーリンガーマンハイム株式会社製)、pGEX(ファルマシア株式会社製)、pUC18、pBluescriptII、pSupex、pET22b、pCold、pUB110、pNCO2(特開2002-238569号公報)等を挙げることができる。
【0035】
真核生物の宿主としては、例えば、酵母及び糸状真菌(カビ等)を挙げることができる。酵母としては、例えば、サッカロマイセス属、ピキア属、シゾサッカロマイセス属等に属する酵母を挙げることができる。糸状真菌としては、例えば、アスペルギルス属、ペニシリウム属、トリコデルマ(Trichoderma)属等に属する糸状真菌を挙げることができる。
【0036】
真核生物を宿主とする場合、目的タンパク質をコードする核酸を導入するベクターとしては、例えば、YEP13(ATCC37115)、YEp24(ATCC37051)等を挙げることができる。上記宿主細胞への発現ベクターの導入方法としては、上記宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができる。例えば、カルシウムイオンを用いる方法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA,69,2110(1972)〕、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、プロトプラスト法、酢酸リチウム法、コンピテント法等を挙げることができる。
【0037】
発現ベクターで形質転換された宿主による核酸の発現方法としては、直接発現のほか、モレキュラー・クローニング第2版(コールド・スプリング・ハーバー研究所、1989年)に記載されている方法等に準じて、分泌生産、融合タンパク質発現等を行うことができる。
【0038】
タンパク質は、例えば、発現ベクターで形質転換された宿主を培養培地中で培養し、培養培地中に当該タンパク質を生成蓄積させ、当該培養培地から採取することにより製造することができる。宿主を培養培地中で培養する方法は、宿主の培養に通常用いられる方法に従って行うことができる。
【0039】
宿主が、大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物である場合、培養培地として、当該宿主が資化し得る炭素源、窒素源及び無機塩類等を含有し、その培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
【0040】
炭素源としては、上記形質転換された宿主が資化し得るものであればよく、例えば、グルコース、フラクトース、スクロース、及びこれらを含有する糖蜜、デンプン及びデンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸及びプロピオン酸等の有機酸、並びにエタノール及びプロパノール等のアルコール類を用いることができる。窒素源としては、例えば、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム及びリン酸アンモニウム等の無機酸又は有機酸のアンモニウム塩、その他の含窒素化合物、並びにペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕及び大豆粕加水分解物、各種発酵菌体及びその消化物を用いることができる。無機塩類としては、例えば、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅及び炭酸カルシウムを用いることができる。
【0041】
大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物の培養は、例えば、振盪培養又は深部通気攪拌培養等の好気的条件下で行うことができる。培養温度は、例えば、15~40℃である。培養時間は、通常16時間~7日間である。培養中の培養培地のpHは3.0~9.0に保持することが好ましい。培養培地のpHの調整は、無機酸、有機酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム及びアンモニア等を用いて行うことができる。
【0042】
また、培養中、必要に応じて、アンピシリン及びテトラサイクリン等の抗生物質を培養培地に添加してもよい。プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換された宿主を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換された宿主を培養するときにはイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換された宿主を培養するときにはインドールアクリル酸等を培地に添加してもよい。
【0043】
(タンパク質の単離及び精製)
発現させたタンパク質の単離及び精製は、通常用いられている方法で行うことができる。例えば、当該タンパク質が、細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、宿主細胞を遠心分離により回収し、水系緩衝液に懸濁した後、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモゲナイザー及びダイノミル等により宿主細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られる上清から、タンパク質の単離精製に通常用いられている方法、すなわち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)-セファロース、DIAION HPA-75(三菱化学株式会社製)等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S-Sepharose FF(ファルマシア株式会社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の方法を単独又は組み合わせて使用し、精製標品を得ることができる。
【0044】
また、タンパク質が細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に宿主細胞を回収後、破砕し、遠心分離を行うことにより、沈殿画分としてタンパク質の不溶体を回収する。回収したタンパク質の不溶体はタンパク質変性剤で可溶化することができる。該操作の後、上記と同様の単離精製法によりタンパク質の精製標品を得ることができる。当該タンパク質が細胞外に分泌された場合には、培養上清から当該タンパク質を回収することができる。すなわち、培養物を遠心分離等の手法により処理することにより培養上清を取得し、その培養上清から、上記と同様の単離精製法を用いることにより、精製標品を得ることができる。
【0045】
(タンパク質成形体)
本実施形態に係るタンパク質成形体は、例えば、上述したタンパク質を任意の形状に成形したものであってよい。本実施形態に係るタンパク質成形体は、不可避的な成分、例えば、タンパク質に含まれていた夾雑物を含み得る。タンパク質成形体の形状としては、特に限定されるものではないが、例えば、繊維、フィルム、ゲル、及び多孔質体等を挙げることができる。本実施形態に係るタンパク質成形体は、その内部にイオン液体が含まれているものである。
【0046】
(イオン液体)
本実施形態に係るタンパク質成形体の内部に含まれるイオン液体としては、特に限定されるものではないが、例えば、100℃以下で液状となる有機塩であってよい。イオン液体としては、例えば、イミダゾリウム、ピロリジニウム、ピペリジニウム、ピリジニウム、第4級アンモニウム、第4級ホスホニウム、スルホニウム、及びこれらの誘導体等の陽イオンと、ハロゲン、トリフラート、テトラフルオロボラート、ヘキサフルオロホスフェイト、カルボン酸等の陰イオンとの塩を挙げることができる。タンパク質の溶解性の観点から、イミダゾリウム又はその誘導体を陽イオンとするイミダゾリウム塩を用いるのが好ましい。
【0047】
イミダゾリウム塩としては、例えば、1,3-ジメチルイミダゾリウム塩、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム塩、1-メチル-3-プロピルイミダゾリウム塩、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム塩、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウム塩、1-メチル-3-n-オクチルイミダゾリウム塩、1-(2-ヒドロキシエチル)-3-メチルイミダゾリウム塩、1-デシル-3-メチルイミダゾリウム塩、1-エチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム塩、1,2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウム塩、2,3-ジメチル-1-プロピルイミダゾリウム塩、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム塩、1-ヘキシル-2,3-ジメチルイミダゾリウム塩が挙げられ、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム塩、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム塩、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウム塩が好ましい。
【0048】
イオン液体は、疎水性イオン液体であってもよく、親水性イオン液体であってもよい。疎水性イオン液体としては、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([Emim][TFSI])、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([Bmim][TFSI])、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([Hmim][TFSI])、1-デシル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([Dmim][TFSI])、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルフォナート([Hmim][ОTf])、1-メチル-3-n-オクチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルフォナート([Omim][ОTf])、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムクロリド([Hmim][Cl])、等が挙げられる。疎水性イオン液体を使用することにより、タンパク質成形体からのイオン液体の離脱をより抑制することができる。親水性イオン液体としては、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド([Emim][Cl])、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド([Bmim][Cl])、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムジメチルホスフェイト([Emim][DMP])、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムジエチルホスフェイト([Emim][DEP])、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート([Emim][Acet])、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート([Bmim][Acet])、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェイト([Bmim][PF6])等が挙げられる。親水性イオン液体を使用することにより、タンパク質成形体の成形用溶液、タンパク質溶液をより容易に調製することができる。
【0049】
イオン液体は、一般的に、蒸気圧が極めて低く、不揮発性である。したがって、本実施形態に係るタンパク質成形体は、イオン液体をその内部に安定に保持することができ、柔軟性及び伸度が向上するという効果を安定に維持することができる。
【0050】
イオン液体としては、加熱重量減少率が10質量%である温度が200℃以上であるものを使用してもよい。これにより、本実施形態に係るタンパク質成形体は、高温環境下でも柔軟性及び伸度が向上するという効果を安定に維持することができる。加熱重量減少率は、イオン液体を50~500℃まで準静的な速さ(5℃/min)で昇温したときの、加熱開始からの重量変化から算出される値である。
【0051】
(タンパク質成形体中のイオン液体の含有量)
本発明に係るタンパク質成形体中のイオン液体の含有量は、特に限定されるものではなく、タンパク質成形体の種類、イオン液体の種類、タンパク質の種類等に応じて適宜設定してよい。タンパク質成形体中のイオン液体の含有量は、例えば、0質量%を超えて、かつタンパク質成形体を成形できる範囲(例えば、65質量%)である。
【0052】
[タンパク質成形体の製造方法]
本実施形態に係るタンパク質成形体は、例えば、タンパク質成形体の成形用材料にイオン液体を混合してから成形する方法、タンパク質成形体の成形用材料の内部にイオン液体を浸入させてから成形する方法、及び常法に従い成形を行った成形体をイオン液体に浸漬させる方法等により製造することができる。タンパク質成形体の成形用材料にイオン液体を混合してから成形する方法は、例えば、タンパク質を溶解させた溶液(成形用溶液)にイオン液体を添加することにより得た溶液、又はタンパク質の粉末とイオン液体を混合した混合物にタンパク質溶解用の溶媒を更に混合することにより得た溶液を成形用材料(成形用溶液)として使用し、常法に従い成形を行いタンパク質成形体を得る方法が挙げられる。また、タンパク質成形体の成形用材料の内部にイオン液体を浸入させてから成形する方法は、例えば、タンパク質粉末(成形用材料)にイオン液体を添加、混合し、タンパク質粉末の吸液性に基づいて粉末内部にイオン液体を浸入させて得た材料を成形用材料として使用し、所定の方法で成形を行ってタンパク質成形体を得る方法が挙げられる。
【0053】
(タンパク質成形体の成形用材料)
タンパク質成形体の成形用材料は、タンパク質の粉末を含む成形用固体材料であってもよく、タンパク質を溶媒に溶解させた成形用溶液であってもよい。成形用溶液は、タンパク質と溶媒を含むものである。
【0054】
(溶媒)
成形用溶液に用いられる溶媒としては、タンパク質を溶解できるものであれば特に制限されず、例えば、ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)及びギ酸等のプロトン性極性溶媒、並びにジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)及びN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)等の非プロトン性極性溶媒が挙げられる。
【0055】
成形用溶液には、溶解促進剤としての無機塩が更に含まれていてもよい。無機塩としては、例えば、ルイス酸とルイス塩基とからなる無機塩が挙げられる。ルイス塩基としては、例えば、オキソ酸イオン(硝酸イオン、過塩素酸イオン等)、金属オキソ酸イオン(過マンガン酸イオン等)、ハロゲン化物イオン、チオシアン酸イオン、シアン酸イオン等が挙げられる。ルイス酸としては、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン等の金属イオン、アンモニウムイオン等の多原子イオン、錯イオン等が挙げられる。ルイス酸とルイス塩基とからなる無機塩の具体例としては、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、硝酸リチウム、過塩素酸リチウム、及びチオシアン酸リチウム等のリチウム塩、塩化カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、硝酸カルシウム、過塩素酸カルシウム、及びチオシアン酸カルシウム等のカルシウム塩、塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄、硝酸鉄、過塩素酸鉄、及びチオシアン酸鉄等の鉄塩、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム、硝酸アルミニウム、過塩素酸アルミニウム、及びチオシアン酸アルミニウム等のアルミニウム塩、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、硝酸カリウム、過塩素酸カリウム、及びチオシアン酸カリウム等のカリウム塩、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、硝酸ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、及びチオシアン酸ナトリウム等のナトリウム塩、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、硝酸亜鉛、過塩素酸亜鉛、及びチオシアン酸亜鉛等の亜鉛塩、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、硝酸マグネシウム、過塩素酸マグネシウム、及びチオシアン酸マグネシウム等のマグネシウム塩、塩化バリウム、臭化バリウム、ヨウ化バリウム、硝酸バリウム、過塩素酸バリウム、及びチオシアン酸バリウム等のバリウム塩、並びに塩化ストロンチウム、臭化ストロンチウム、ヨウ化ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、過塩素酸ストロンチウム、及びチオシアン酸ストロンチウム等のストロンチウム塩が挙げられる。
【0056】
成形用溶液の粘度は、適宜設定すればよい。成形用溶液をドープ液として用いる場合、成形用溶液の粘度は、例えば、35℃において100~15,000cP(センチポイズ)とすることができる。成形用溶液の粘度は、例えば京都電子工業社製の商品名“EMS粘度計”を使用して測定することができる。
【0057】
成形用溶液にイオン液体を予め混合する場合、タンパク質の溶解量をより向上させる観点から、イオン液体の含有量は、成形用溶液全量を基準として、10~20質量%であることが好ましい。
【0058】
成形用溶液中のタンパク質の含有量は、成形用溶液全量を基準として、15質量%以上、30質量%以上、40質量%以上又は50質量%以上であることができる。成形用溶液の製造効率の観点から、タンパク質の含有量は、成形用溶液全量を基準として、70質量%以下、65質量%以下、又は60質量%以下であることができる。
【0059】
本実施形態に係るタンパク質成形体の製造方法の具体例を、タンパク質成形体が、タンパク質繊維、タンパク質フィルム、タンパク質ゲル、タンパク質多孔質体又はタンパク質モールド成形体の場合を例として、以下説明する。
【0060】
(タンパク質繊維の製造方法)
本実施形態に係るタンパク質繊維は、上述したタンパク質を紡糸したものであり、上述したタンパク質を主成分として含む。タンパク質繊維は、上述した成形用溶液をドープ液とし、公知の紡糸方法によって製造することができる。すなわち、例えば、クモ糸フィブロインを主成分として含むタンパク質繊維を製造する際には、まず、上述したタンパク質の製造方法に準じて製造したクモ糸フィブロインを、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ギ酸又はヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)等の溶媒に、溶解促進剤としての無機塩と共に添加し溶解して、ドープ液を作製する。イオン液体は、ドープ液に予め添加しておいてもよい。次いで、このドープ液を用いて、湿式紡糸、乾式紡糸又は乾湿式紡糸等の公知の紡糸方法により紡糸して、目的とするタンパク質繊維を得ることができる。ドープ液がイオン液体を含む場合も、同様にして目的とするタンパク質繊維を得ることができる。
【0061】
図1は、タンパク質繊維を製造するための紡糸装置の一例を示す概略図である。図1に示す紡糸装置10は、乾湿式紡糸用の紡糸装置の一例であり、押出し装置1と、凝固浴槽20と、洗浄浴槽21と、乾燥装置4とを、上流側から順に有している。
【0062】
押出し装置1は貯槽7を有しており、ここにドープ液(紡糸原液)6が貯留される。凝固浴槽20に凝固液11(例えば、メタノール、飽和クエン酸(水/エタノール=1:1、質量/質量))が貯留される。ドープ液6は、貯槽7の下端部に取り付けられたギヤポンプ8により、凝固液11との間にエアギャップ19を開けて設けられたノズル9から押し出される。押し出されたドープ液6は、エアギャップ19を経て凝固液11内に供給される。凝固液11内でドープ液6から溶媒が除去されてタンパク質が凝固する。凝固したタンパク質は、洗浄浴槽21に導かれ、洗浄浴槽21内の洗浄液12により洗浄された後、洗浄浴槽21内に設置された第一ニップローラ13と第二ニップローラ14により、乾燥装置4へと送られる。このとき、例えば、第二ニップローラ14の回転速度を第一ニップローラ13の回転速度よりも速く設定すると、回転速度比に応じた倍率で延伸されたタンパク質繊維36が得られる。洗浄液12中で延伸されたタンパク質繊維は、洗浄浴槽21内を離脱してから、乾燥装置4内を通過する際に乾燥され、その後、ワインダーにて巻き取られる。このようにして、タンパク質繊維が、紡糸装置10により、最終的にワインダーに巻き取られた巻回物5として得られる。なお、18a~18gは糸ガイドである。また、ドープ液がイオン液体を含むものである場合、得られるタンパク質繊維は、その内部にイオン液体が分散して含まれるものとなる。
【0063】
凝固液11としては、脱溶媒できる溶液であればよく、例えば、メタノール、エタノール及び2-プロパノール等の炭素数1~5の低級アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール及びグリセロール等のグリコール系溶媒、並びにアセトン等を挙げることができる。凝固液11は、適宜水を含んでいてもよい。
【0064】
凝固液11は、凝固液中にイオンを供給するイオン供給物質を更に含むものであってよい。イオン供給物質としては、例えば、塩化カルシウム、硫酸アンモニウム及び塩化マグネシウム等の無機塩、並びにクエン酸及びシュウ酸等の有機酸を挙げることができる。凝固液が無機塩、有機酸を含む場合、その浸透圧により、凝固浴中でのタンパク質繊維からのイオン液体の離脱を抑制することができる。凝固液が有機酸を含む場合、イオン液体の離脱抑制に加えて、タンパク質の凝集を促進することができる。このような観点から、無機塩及び有機酸等のイオン供給物質は、凝固液中に飽和量含まれていることが好ましい。
【0065】
凝固液11としては、飽和量の無機塩又は有機酸を含むエタノール系溶液(エタノールを50質量%以上含む溶液)、飽和量の有機酸を含むイソプロパノールであることが好ましく、飽和量のクエン酸を含む水-エタノール溶液(飽和クエン酸溶液(水/エタノール=1:1、質量/質量))、飽和量のクエン酸を含むイソプロパノールであることがより好ましい。
【0066】
凝固液11の温度は、0~30℃であることが好ましい。凝固したタンパク質が凝固液11中を通過する距離(実質的には、糸ガイド18aから糸ガイド18bまでの距離)は、脱溶媒が効率的に行える長さがあればよく、例えば、200~500mmである。凝固液11中での滞留時間は、例えば、0.01~3分であってよく、0.05~0.15分であることが好ましい。また、凝固液11中で延伸(前延伸)をしてもよい。
【0067】
タンパク質繊維は、延伸工程を経て延伸糸とすることができる。延伸方法としては、湿熱延伸、乾熱延伸等を挙げることができる。
【0068】
湿熱延伸は、タンパク質繊維を得る際に洗浄浴槽21内で実施されてもよい。湿熱延伸は、温水中、温水に有機溶剤等を加えた溶液中等で行う。湿熱延伸の温度としては、例えば、50~90℃であってよく、75~85℃が好ましい。湿熱延伸では、未延伸糸を、例えば、1倍~10倍延伸することができ、2~8倍延伸することが好ましい。
【0069】
乾熱延伸は、電気管状炉、乾熱板等を使用して行うことができる。温度としては、例えば、140℃~270℃であってよく、160℃~230℃が好ましい。乾熱延伸では、未延伸糸を、例えば、0.5~8倍延伸することができ、1~4倍延伸することが好ましい。
【0070】
湿熱延伸及び乾熱延伸はそれぞれ単独で行ってもよく、これらを多段で、又は組み合わせて行ってもよい。すなわち、一段目延伸を湿熱延伸で行い、二段目延伸を乾熱延伸で行う、又は一段目延伸を湿熱延伸で行い、二段目延伸を湿熱延伸で行い、更に三段目延伸を乾熱延伸で行う等、湿熱延伸及び乾熱延伸を適宜組み合わせて行うことができる。
【0071】
最終的な延伸倍率は、その下限値が、未延伸糸に対して、好ましくは、1倍超、2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上、7倍以上、8倍以上、9倍以上のうちのいずれかであり、上限値が、好ましくは40倍以下、30倍以下、20倍以下、15倍以下、14倍以下、13倍以下、12倍以下、11倍以下、10倍以下である。
【0072】
ドープ液がイオン液体を含まないものである場合、例えば、上述の方法に従って成形した成形体をイオン液体に浸漬することにより、内部にイオン液体が分散して含まれるタンパク質繊維を得ることができる。
【0073】
(タンパク質フィルムの製造方法)
本実施形態に係るタンパク質フィルムは、上述した成形用溶液をドープ液とし、当該ドープ液を基材表面にキャスト成形し、乾燥及び/又は脱溶媒を行うことで製造することができる。イオン液体は、ドープ液に予め添加しておいてもよい。ドープ液がイオン液体を含む場合も、同様にして目的とするタンパク質フィルムを得ることができる。
【0074】
具体的には、まず、ドープ液を基材表面に所定の厚さで(例えば、乾燥及び/又は脱溶媒後の厚さで1~1000μmとなるように)塗布する。
【0075】
基材は、樹脂基板、ガラス基板、金属基板等であってよい。基材は、キャスト成形後のフィルムを容易に剥離できる観点から、好ましくは樹脂基板である。樹脂基板としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂フィルム、ポリプロピレン(PP)フィルム、又はこれらのフィルム表面にシリコーン化合物を固定化させた剥離フィルムであってよい。基材は、DMSO溶媒に対して安定であり、ドープ溶液を安定してキャスト成形でき、成形後のフィルムを容易に剥離できる観点から、より好ましくは、PETフィルム又はPETフィルム表面にシリコーン化合物を固定化させた剥離フィルムである。
【0076】
乾燥及び/又は脱溶媒は、例えば、真空乾燥、熱風乾燥、風乾、及び液中浸漬から選ばれる少なくとも一種の手段で行われる。液中浸漬は、例えば、タンパク質繊維の製造方法で説明した凝固液(脱溶媒液)にキャストフィルムを浸漬して脱溶媒させるものであってもよい。凝固液(脱溶媒液)の温度は、0℃~200℃であってよく、好ましくは0~90℃である。溶媒はできるだけ脱離したほうが好ましい。なお、フィルムを液中で延伸する場合、脱溶媒は延伸と同時に行うこともできる。また、脱溶媒は、フィルムを延伸させた後に行ってもよい。
【0077】
乾燥及び/又は脱溶媒後の未延伸フィルムは、水中で1軸延伸又は2軸延伸することができる。2軸延伸は、逐次延伸でも同時2軸延伸でもよい。2段以上の多段延伸をしてもよい。延伸倍率は、縦、横ともに、好ましくは1.01~6倍、より好ましくは1.05~4倍である。この範囲であると応力-歪のバランスがとりやすい。水中延伸は、20~90℃の水温で行われることが好ましい。延伸後のフィルムは、50~200℃の乾熱で5~600秒間熱固定することが好ましい。この熱固定により、常温における寸法安定性が得られる。なお、1軸延伸したフィルムは1軸配向フィルムとなり、2軸延伸したフィルムは2軸配向フィルムとなる。
【0078】
フィルムは、カラーフィルムであってもよい。この場合、染料などの着色剤を例えばDMSO溶媒に溶解又は分散させてDMSO着色液を作製し、この着色液とドープ液とを混合して得られた溶液を、上述したのと同様にキャスト成形によりフィルムを作製する。その後、乾燥及び/又は脱溶媒して未延伸着色フィルムにするか、又は延伸して延伸フィルムとする。カラーフィルムは、反射板、マーカー、紫外線防止膜、スリット糸などに応用できる。
【0079】
ドープ液がイオン液体を含むものである場合、得られるタンパク質フィルムは、その内部にイオン液体が分散して含まれるものとなる。ドープ液がイオン液体を含まないものである場合、例えば、上述の方法に従って成形した成形体をイオン液体に浸漬することにより、内部にイオン液体が分散して含まれるタンパク質フィルムを得ることができる。
【0080】
(タンパク質ゲルの製造方法)
本実施形態に係るタンパク質ゲルは、上述した成形用溶液を使用し、当該成形用溶液の溶媒を水溶性溶媒に置換する工程(置換工程)、及び必要に応じてゲルを所定の形状に成形する工程(成形工程)を含む製造方法により製造することができる。イオン液体は、成形用溶液に予め添加しておいてもよい。成形用溶液がイオン液体を含む場合も、同様にして目的とするタンパク質ゲルを得ることができる。
【0081】
置換工程では、成形用溶液中の溶媒を水溶性溶媒に置換する。水溶性溶媒は、水を含む溶媒をいい、例えば、水、水溶性緩衝液、生理食塩水等が挙げられる。水溶性溶媒は、人体への適応性が高い観点から、好ましくは水である。水としては、特に限定されないが、純水、蒸留水、超純水等を用いることができる。
【0082】
置換工程は、成形用溶液を透析膜内に入れ、水溶性溶媒中に浸漬し、水溶性溶媒を1回以上入れ替える方法により行われることが好ましい。具体的には、成形用溶液を透析膜に入れ、成形用溶液の100倍以上の量の水溶性溶媒(1回分)の中に3時間静置し、この水溶性溶媒入れ替えを計3回以上繰り返すことがより好ましい。透析膜は、タンパク質を透過させないものであればよく、例えばセルロース透析膜等であってよい。水溶性溶媒の置換を繰り返すことにより、成形用溶液中に存在していた溶媒の量をゼロに近づけることができる。水溶性溶媒に置換する工程の後半では、透析膜は使用しなくてもよい。
【0083】
成形工程は、成形用溶液を調製する工程と置換工程との間に実施され、成形用溶液を型枠に流し込み所定の形状に成形する工程であってもよく、置換工程の後に実施され、置換工程で得られたゲルを切断して所定の形状に成形する工程であってもよい。
【0084】
以上のようにして、例えば水分率が85.0~99.9質量%のタンパク質ゲルを得ることができる。また、成形用溶液がイオン液体を含むものである場合、得られるタンパク質ゲルは、その内部にイオン液体が分散して含まれるものとなる。一方、成形用溶液がイオン液体を含まないものである場合、例えば、上述の方法に従って成形した成形体をイオン液体に浸漬することにより、内部にイオン液体が分散して含まれるタンパク質ゲルを得ることができる。
【0085】
(タンパク質多孔質体の製造方法)
本実施形態に係るタンパク質多孔質体は、上述した成形用溶液を使用し、当該成形用溶液の溶媒を水溶性溶媒に置換する工程(置換工程)、置換工程で得られたゲルを乾燥する工程(乾燥工程)、及び必要に応じてゲルを所定の形状に成形する工程(成形工程)を含む製造方法により製造することができる。イオン液体は、成形用溶液に予め添加しておいてもよい。成形用溶液がイオン液体を含む場合も、同様にして目的とするタンパク質多孔質体を得ることができる。
【0086】
置換工程及び成形工程は、タンパク質ゲルの製造方法で説明したものと同じ態様を例示できる。
【0087】
乾燥工程では真空凍結乾燥を用いることが好ましい。真空凍結乾燥時の真空度は200パスカル(Pa)以下が好ましく、150パスカル以下がより好ましく、100パスカル以下が更に好ましい。真空乾燥によりゲルから水分が蒸発し、この蒸発潜熱により温度が下がり凍結状態となる。真空凍結乾燥時のゲルの温度は70℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましく、50℃以下が更に好ましい。なお、真空凍結乾燥に先立って、-10~-45℃の温度で10~36時間程度予備凍結をしてもよい。凍結乾燥後の水分率は5.0%以下が好ましく、3.0%以下がより好ましい。
【0088】
以上のようにして、タンパク質多孔質体を得ることができる。また、成形用溶液がイオン液体を含むものである場合、得られるタンパク質多孔質体は、その内部にイオン液体が分散して含まれるものとなる。一方、成形用溶液がイオン液体を含まないものである場合、例えば、上述の方法に従って成形した成形体をイオン液体に浸漬することにより、内部にイオン液体が分散して含まれるタンパク質多孔質体を得ることができる。
【0089】
(タンパク質モールド成形体の製造方法)
本実施形態に係るタンパク質モールド成形体は、上述した成形用材料(成形用固体材料)を使用して常法に従って製造することができる。具体的には、まず、成形用材料を加圧成形機の金型に導入した後、金型を加熱すると共に成形用材料に対して加圧する。所定の加圧下で混合物が所定の温度に達するまで加熱及び加圧を継続して、成形用材料が加熱加圧された混合物を得る。次いで、冷却器(例えば、スポットクーラー)を用いて金型の温度を下降させ、混合物が所定の温度になったところで内容物を取り出してモールド成形体を得ることができる。成形用材料(成形用固体材料)は、予め内部にイオン液体を侵入させた材料を使用してもよい。すなわち、タンパク質の粉末にイオン液体を添加し、混合して、粉末内部に浸入させた材料を使用してもよい。
【0090】
金型を加熱する際の温度は、80~300℃であることが好ましく、100~180℃であることがより好ましく、100~130℃であることが更に好ましい。金型を加圧する際の圧力は、5kN以上であることが好ましく、10kN以上であることがより好ましく、20kN以上であることが更に好ましい。また、所定の加熱加圧条件に達した後、その条件での処理を続ける時間(保温時間)は、0~100分であることが好ましく、10~50分であることがより好ましく、5~30分であることが更に好ましい。
【0091】
以上のようにして、タンパク質モールド成形体を得ることができる。また、成形用材料がイオン液体を含むものである場合、得られるタンパク質モールド成形体は、その内部にイオン液体が分散して含まれるものとなる。一方、成形用材料がイオン液体を含まないものである場合、例えば、上述の方法に従って成形したモールド成形体をイオン液体に浸漬することにより、内部にイオン液体が分散して含まれるタンパク質モールド成形体を得ることができる。
【0092】
[タンパク質溶液]
本発明に係るタンパク質溶液は、タンパク質と、イオン液体と、溶媒とを含む。タンパク質溶液は、イオン液体を含む成形用溶液で説明したものと同じ態様を例示できる。本実施形態に係るタンパク質溶液は、タンパク質を溶媒に溶解した溶液(例えば、成形用溶液)にイオン液体を添加して混合することによって調製することもできるし、タンパク質粉末にイオン液体を添加して溶解させた後、更に溶媒を添加して混合することによって調製することもできる。本実施形態に係るタンパク質溶液は、本発明に係るタンパク質成形体の製造に好適に用いることができる。
【0093】
[タンパク質成形体用可塑剤]
本発明に係るタンパク質成形体は、イオン液体を内部に含むことにより、柔軟性及び伸度が向上する。すなわち、イオン液体は、タンパク質成形体の可塑剤として機能している。したがって、本発明の一実施形態において、イオン液体からなるタンパク質成形体用可塑剤が提供される。本実施形態に係るタンパク質成形体用可塑剤は、タンパク質成形体に優れた柔軟性及び伸度を付与できる。イオン液体の好適な態様、可塑剤(イオン液体)の好適な使用方法等は、既述のとおりである。
【実施例
【0094】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0095】
[試験例1:タンパク質繊維の製造及び評価]
<(1-1)クモ糸タンパク質(クモ糸フィブロイン:PRT799)の製造>
(クモ糸タンパク質をコードする遺伝子の合成、及び発現ベクターの構築)
ネフィラ・クラビペス(Nephila clavipes)由来のフィブロイン(GenBankアクセッション番号:P46804.1、GI:1174415)の塩基配列及びアミノ酸配列に基づき、配列番号8で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロイン(以下、「PRT799」ともいう。)を設計した。
【0096】
配列番号8で示されるアミノ酸配列は、ネフィラ・クラビペス由来のフィブロインのアミノ酸配列に対して、生産性の向上を目的としてアミノ酸残基の置換、挿入及び欠失を施したアミノ酸配列を有し、さらにN末端に配列番号7で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)が付加されている。
次に、PRT799をコードする核酸を合成した。当該核酸には、5’末端にNdeIサイト及び終止コドン下流にEcoRIサイトを付加した。当該核酸をクローニングベクター(pUC118)にクローニングした。その後、同核酸をNdeI及びEcoRIで制限酵素処理して切り出した後、タンパク質発現ベクターpET-22b(+)に組換えて発現ベクターを得た。
【0097】
PRT799をコードする核酸を含むpET22b(+)発現ベクターで、大腸菌BLR(DE3)を形質転換した。当該形質転換大腸菌を、アンピシリンを含む2mLのLB培地で15時間培養した。当該培養液を、アンピシリンを含む100mLのシード培養用培地(表1)にOD600が0.005となるように添加した。培養液温度を30℃に保ち、OD600が5になるまでフラスコ培養を行い(約15時間)、シード培養液を得た。
【0098】
【表1】
【0099】
当該シード培養液を500mlの生産培地(下記表2)を添加したジャーファーメンターにOD600が0.05となるように添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持するようにした。
【0100】
【表2】
【0101】
生産培地中のグルコースが完全に消費された直後に、フィード液(グルコース455g/1L、Yeast Extract 120g/1L)を1mL/分の速度で添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持するようにし、20時間培養を行った。その後、1Mのイソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)を培養液に対して終濃度1mMになるよう添加し、PRT799を発現誘導させた。IPTG添加後20時間経過した時点で、培養液を遠心分離し、菌体を回収した。IPTG添加前とIPTG添加後の培養液から調製した菌体を用いてSDS-PAGEを行い、IPTG添加に依存したPRT799に相当するサイズのバンドの出現により、PRT799の発現を確認した。
【0102】
(PRT799の精製)
IPTGを添加してから2時間後に回収した菌体を20mM Tris-HCl buffer(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の菌体を約1mMのPMSFを含む20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4)に懸濁させ、高圧ホモジナイザー(GEA Niro Soavi社製)で細胞を破砕した。破砕した細胞を遠心分離し、沈殿物を得た。得られた沈殿物を、高純度になるまで20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の沈殿物を100mg/mLの濃度になるように8M グアニジン緩衝液(8M グアニジン塩酸塩、10mM リン酸二水素ナトリウム、20mM NaCl、1mM Tris-HCl、pH7.0)で懸濁し、60℃で30分間、スターラーで撹拌し、溶解させた。溶解後、透析チューブ(三光純薬株式会社製のセルロースチューブ36/32)を用いて水で透析を行った。透析後に得られた白色の凝集タンパク質(PRT799)を遠心分離により回収し、凍結乾燥機で水分を除き、凍結乾燥粉末を回収した。
【0103】
得られた凍結乾燥粉末におけるPRT799の精製度は、粉末のポリアクリルアミドゲル電気泳動の結果をTotallab(nonlinear dynamics ltd.)を用いて画像解析することにより確認した。その結果、PRT799の精製度は約85%であった。
【0104】
<(1-2)タンパク質繊維の製造>
(ドープ液の調製)
(1-1)で得られたクモ糸フィブロイン(PRT799)に対して、イオン液体である1-エチル-3-メチルイミダゾリウムジメチルホスフェイト([Emim][DMP])を添加した後、更にN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)を加えて原料混液を作製した。この原料混液中のクモ糸フィブロイン濃度は22質量%であり、イオン液体濃度は15質量%であった。その後、この原料混液を95℃にて1.5時間攪拌しながら加熱してクモ糸フィブロインを溶解させ、ドープ液とした(ドープ液の組成:PRT799/[Emim][DMP]/DMAc=22/15/63(質量比))。
【0105】
(紡糸)
上記のようにして得られたドープ液を図1に示される紡糸装置10に準じた紡糸装置を使用して、乾湿式紡糸によりタンパク質繊維を得た。乾湿式紡糸は、下記の条件で行った。
吐出部のノズル(ディスポーザブルニードル)内径:0.3mm
凝固液(飽和クエン酸溶液(水/エタノール=1:1、質量/質量))
乾燥温度:60℃
延伸倍率:2.4倍
上記条件下、洗浄浴槽を1回のみ通したタンパク質繊維(実施例1)及び洗浄浴槽を2回通したタンパク質繊維(実施例2)を製造した。
【0106】
<(1-3)タンパク質繊維中のイオン液体含有量の評価>
エネルギー分散型X線分析装置を備えた走査型電子顕微鏡(JSM-7100F、日本電子株式会社製)を用いて、実施例1及び2のタンパク質繊維断面の撮像及び元素分析を実施した。
【0107】
結果を図2及び図3に示す。図2(A)は、実施例1のタンパク質繊維断面のエネルギー分散型X線分析(EDX)スペクトルであり、図2(B)は、実施例2のタンパク質繊維断面のEDXスペクトルである。また、図3は、実施例1及び実施例2のタンパク質繊維断面における炭素に対するリン([Emim][DMP]由来である)の割合を示すグラフである。
【0108】
図2(A)及び(B)に示すとおり、実施例1及び2のタンパク質繊維断面のEDXスペクトル(点分析)において、イオン液体として用いた[Emim][DMP]のリン由来である2.0keVにピークが認められた。また、図3に示すとおり、凝固後の洗浄回数(洗浄浴槽を通した回数)が少ない実施例1のタンパク質繊維は、実施例2のタンパク質繊維と比べて、炭素に対するリン([Emim][DMP]由来である)の割合が有意に高かった。これらの結果から、実施例1及び2のタンパク質繊維の内部にイオン液体が残存している(含有されている)こと、凝固後の洗浄回数が少ない実施例1のタンパク質繊維の方がイオン液体の含有量が高いことが理解できる。
【0109】
<(1-4)タンパク質繊維の引張試験>
実施例1及び2のタンパク質繊維をつかみ治具間距離20mmの試験紙片に接着剤で固定し、温度20℃、相対湿度65%の条件で、インストロン社製引張試験機3342を用いて引張速度10cm/分で応力及び伸度測定を行った。ロードセル容量10N、つかみ冶具はクリップ式とした。
【0110】
タフネスは、次の算出式に従って求めた。
タフネス=[E/(r×π×L)×1000](単位:MJ/m
ここで、
E:破壊エネルギー(単位:J)
r:繊維の半径(単位:mm)
π:円周率
L:引張り試験測定時のつかみ治具間距離:20mm
【0111】
結果を図4及び表3に示す。図4は、実施例1及び実施例2のタンパク質繊維の引張試験結果を示すグラフである。図4のグラフは、縦軸が引張応力(MPa)、横軸が引張ひずみ(%)を示す。表3は、引張試験結果から求めた引張応力、引張ひずみ、ヤング率及びタフネスの値を示す(サンプル数n=11の平均値)。
【0112】
【表3】
【0113】
イオン液体の含有量が高い実施例1のタンパク質繊維は、実施例2のタンパク質繊維と比べて、引張ひずみの値が顕著に増加していた。すなわち、イオン液体がタンパク質繊維を可塑化することが理解できる。
【0114】
[試験例2:タンパク質フィルムの製造及び評価]
<(2-1)タンパク質フィルムの製造>
試験例1の(1-1)で得られたクモ糸フィブロイン(PRT799)に対して、イオン液体である1-エチル-3-メチルイミダゾリウムジメチルホスフェイト([Emim][DMP])を添加した後、更にN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)を加えて原料混液を作製した。この原料混液中のクモ糸フィブロイン濃度は22質量%であり、イオン液体濃度は15質量%であった。その後、この原料混液を95℃にて1.5時間攪拌しながら加熱してクモ糸フィブロインを溶解させ、タンパク質溶液を得た(組成:PRT799/[Emim][DMP]/DMAc=22/15/63(質量比))。
【0115】
上記タンパク質溶液0.5mLをガラス製基板に厚さ200μmとなるようにキャストし、これを160℃で10分間加熱して乾燥及び脱溶媒させてタンパク質フィルムを得た。得られたタンパク質フィルムの膜厚は、100~200μmであった。
【0116】
<(2-2)タンパク質フィルム中のイオン液体含有量の評価>
試験例1の(1-3)と同様に、タンパク質フィルム断面の撮像及び元素分析を実施した。
【0117】
結果を図5に示す。図5(A)は、タンパク質フィルム断面のEDXスペクトルである。図5(B)は、タンパク質フィルム断面のEDXによる面分析(リン存在量)の結果を示す図である。
【0118】
図5(A)に示すとおり、タンパク質フィルム断面のEDXスペクトル(点分析)において、イオン液体として用いた[Emim][DMP]のリン由来である2.0keVにピークが認められた。また、図5(B)に示すとおり、タンパク質フィルム内部にリンが散在してした。リンは、イオン液体に由来するものであるから、当該タンパク質フィルムの内部にイオン液体が分散して含まれていることが理解できる。
【0119】
[試験例3:タンパク質溶液の製造及び評価]
試験例1の(1-1)で得られたクモ糸フィブロイン(PRT799)のタンパク質溶液の調製にあたり、イオン液体及び溶媒の組成が溶解性に与える影響を評価した。
【0120】
具体的には、表4及び表5に示す組成及び組成比(重量比)にて、実施例3及び4、並びに比較例1~4の溶液の調製を試みた。イオン液体として、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート([Bmim][Acet])及び1-エチル-3-メチルイミダゾリウムジメチルホスフェイト([Emim][DMP])を使用した。溶媒として、ジメチルホルムアミド(DMF)及びジメチルアセトアミド(DMAc)を使用した。まず、表4及び表5に示す組成比に従って、各成分をガラス製容器に計り、次いで、100℃で1時間攪拌しながら加熱し、クモ糸フィブロインの溶解性を目視で確認した。
【0121】
【表4】
【0122】
【表5】
【0123】
結果を図6及び図7に示す。図6及び図7は、実施例3及び4、並びに比較例1~4のクモ糸フィブロインの溶解性を観察した結果を示す写真である。図6及び図7に示すとおり、イオン液体及び溶媒の双方を含む実施例3及び4では、イオン液体及び溶媒の種類に依らず、クモ糸フィブロインが完全に溶解したタンパク質溶液が得られた。一方、イオン液体のみを含む比較例1及び3、並びに溶媒のみを含む比較例2及び4では、クモ糸フィブロインを溶解させることはできなかった。
【0124】
[試験例4:タンパク質フィルムの製造及び評価]
<(4-1)タンパク質フィルムの製造>
試験例1の(1-1)で得られたクモ糸フィブロイン(PRT799)に対して、ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)を添加し、50℃で3時間撹拌しながら加熱してクモ糸フィブロインを溶解させた。次いで、得られた溶液にイオン液体である1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムクロリド[Hmim][Cl]を添加し、50℃で1時間転倒混和してタンパク質溶液を得た(組成:PRT799/[Hmim][Cl]/HFIP=10/2.5/87.5(質量比))。
【0125】
上記タンパク質溶液0.5mLをポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルムに厚さ200μmとなるようにキャストし、これを常温常圧で1時間の後60℃真空で48時間加熱して乾燥及び脱溶媒させてタンパク質フィルムAを得た。得られたタンパク質フィルムAの膜厚は、30~60μmであった。
【0126】
比較のため、イオン液体を添加しなかったこと以外は同様にして、タンパク質フィルムBを得た。
【0127】
<(4-2)タンパク質フィルムAの形態観察>
走査型電子顕微鏡(JSM-7100F、日本電子株式会社製)を使用して、タンパク質フィルムAの形態を観察した。結果を図8に示す。図8(A)は、タンパク質フィルムAの表面を撮影した画像である。図8(B)は、タンパク質フィルムAの端部(エッジ)を撮影した画像である。図8に示すとおり、タンパク質フィルムAは、フィルム全体が均質であった。
【0128】
<(4-3)タンパク質フィルムA中のイオン液体含有量の評価>
試験例1の(1-3)と同様に、タンパク質フィルムA断面の撮像及び元素分析を実施した。
【0129】
結果を図9に示す。図9(A)は、タンパク質フィルムA断面のEDXスペクトルである。図9(B)は、タンパク質フィルムA断面のEDXによる面分析(塩素存在量)の結果を示す図である。図9(A)のEDXスペクトルは、図9(B)中、四角で囲った領域で測定したものである。
【0130】
図9(A)に示すとおり、タンパク質フィルムA断面のEDXスペクトル(点分析)において、イオン液体として用いた[Hmim][Cl]の塩素由来である2.6keVにピークが認められた。また、図9(B)に示すとおり、タンパク質フィルムA内部に塩素が散在してした。塩素は、イオン液体に由来するものであるから、当該タンパク質フィルムAの内部にイオン液体が分散して含まれていることが理解できる。
【0131】
<(4-4)タンパク質フィルムの物性評価>
タンパク質フィルムA及びタンパク質フィルムBを10mmの長さに切断して試験片とした。インストロン社製引張試験機3342を用いて、試験片を長さ方向に引っ張り、引張応力(縦軸)-ひずみ応力(横軸)曲線を測定した。試験条件は、以下のとおりである。
引張速度:10mm/分
つかみ治具間距離:50mm
温度/湿度:非制御
ロードセル容量:10N
また、タフネスは、試験例1の(1-4)と同様にして求めた。
【0132】
結果を図10及び表6に示す。図10(A)は、タンパク質フィルムAの引張試験結果を示すグラフである。図10(B)は、タンパク質フィルムBの引張試験結果を示すグラフである。図10のグラフは、縦軸が引張応力(MPa)、横軸が引張ひずみ(%)を示す。表6は、引張試験結果から求めた引張応力、引張ひずみ及びタフネスの値を示す。
【0133】
【表6】
【0134】
イオン液体を添加していないタンパク質フィルムBと比べて、イオン液体を添加したタンパク質フィルムAは、引張ひずみの値が顕著に増加しており、イオン液体がタンパク質フィルムを可塑化することが理解できる。また、イオン液体を添加していないタンパク質フィルムBと比べて、イオン液体を添加したタンパク質フィルムAは、タフネスも向上しており、イオン液体を含有することによりタンパク質フィルムの伸度及びタフネスを高め得ることが理解できる。
【符号の説明】
【0135】
1…押出し装置、4…乾燥装置、6…ドープ液、10…紡糸装置、20…凝固浴槽、21…洗浄浴槽。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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