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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-09
(45)【発行日】2023-08-18
(54)【発明の名称】被着フィルムの成形方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 51/14 20060101AFI20230810BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20230810BHJP
   B29C 53/04 20060101ALI20230810BHJP
   B29C 51/00 20060101ALI20230810BHJP
【FI】
B29C51/14
B32B27/00 B
B29C53/04
B29C51/00
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019177518
(22)【出願日】2019-09-27
(65)【公開番号】P2021053854
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】595067877
【氏名又は名称】株式会社丸三金属
(74)【代理人】
【識別番号】100135460
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 康利
(74)【代理人】
【識別番号】100084043
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 喜多男
(74)【代理人】
【識別番号】100142240
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 優
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 一晴
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-85678(JP,A)
【文献】特開2007-62254(JP,A)
【文献】特開2002-307543(JP,A)
【文献】特開平1-271219(JP,A)
【文献】特開昭57-95405(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 51/14
B29C 53/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
延性を有する樹脂製の基体シートと、該基体シートの上面に設けられ、該基体シートに比して高硬度のハードコート層とを備え、少なくとも一部に曲面を有する所望形状に成形されてなる被着フィルムの成形方法において、
前記基体シートの上面全域にハードコート層が積層された基材フィルムを準備する基材フィルム準備工程と、
前記基体シート上のハードコート層のみを、所定の押圧加工部を囲むように切削して除去することにより、該基体シートのみからなる分断部を周成し、該分断部を介して前記押圧加工部と該分断部を囲繞する外周部とが連成された加工用フィルムを成形する加工用フィルム成形工程と、
前記加工用フィルムの外周部を把持して、前記所望形状に成形するための押型に、該加工用フィルムの押圧加工部を加熱して押しつける押圧成形工程と、
前記加工用フィルムの外周部と分断部とを切除することにより、被着フィルムを得る切除加工工程と
を備えていることを特徴とする被着フィルムの成形方法。




【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製の基体シート上に高硬度のハードコート層が設けられた被着フィルムの成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車には、ナビゲーションシステムやドライブレコーダーが装着される場合が多く、近年は、これらを装着するバイクも増えている。そして、ナビゲーションシステムやドライレコーダーには、ディスプレイを保護するためのフィルム(以下、被着フィルムという)が被着される。こうした被着フィルムとして、樹脂製の基体シートの上面に、高硬度のハードコート層を積層してなるものが提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許6462941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記ディスプレイには、デザイン性を高めることを目的として、ディスプレイの側縁に曲面が設けられた構成や、運転手の視認性を高めるためにディスプレイが全体的に湾曲する構成などが存在する。こうしたディスプレイでは、前記被着フィルムを曲面に沿って被着すると、該被着フィルムの表面にクラックが生じてしまう場合がある。これは、フィルム表面の傷付きを防止するために、表面全域に高硬度のハードコート層が設けられていることに因る。この対策として、予めディスプレイに倣う形態で被着フィルムを成形して、ディスプレイに被着することがあり得る。
ディスプレイに倣う形態に成形する方法としては、金型などに押し付けて成形する方法が一般的に用いられる。しかし、金型に押し付けてハードコート層を曲げ変形させる際に、該ハードコート層にクラックが生ずる虞がある。これは、ハードコート層の曲げ変形時に、該ハードコート層に張力が作用して延伸することによって、該ハードコート層にクラックが生じてしまうことに因る。特に、ディスプレイが全体的に湾曲した構成や上下左右の各側縁に夫々曲面を有する構成では、ハードコート層に張力が一層作用し易く、延伸されてクラックが発生し易い。
【0005】
本発明は、ディスプレイの曲面に倣う形態に被着フィルムを成形する方法であって、ハードコート層におけるクラックの発生を抑制し得る被着フィルムの成形方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、延性を有する樹脂製の基体シートと、該基体シートの上面に設けられ、該基体シートに比して高硬度のハードコート層とを備え、少なくとも一部に曲面を有する所望形状に成形されてなる被着フィルムの成形方法において、前記基体シートの上面全域にハードコート層が積層された基材フィルムを準備する基材フィルム準備工程と、前記基体シート上のハードコート層のみを、所定の押圧加工部を囲むように切削して除去することにより、該基体シートのみからなる分断部を周成し、該分断部を介して前記押圧加工部と該分断部を囲繞する外周部とが連成された加工用フィルムを成形する加工用フィルム成形工程と、前記加工用フィルムの外周部を把持して、前記所望形状に成形するための押型に、該加工用フィルムの押圧加工部を加熱して押しつける押圧成形工程と、前記加工用フィルムの外周部と分断部とを切除することにより、被着フィルムを得る切除加工工程とを備えていることを特徴とする被着フィルムの成形方法である。
【0007】
ここで、押圧成形工程は、加工用フィルムの押圧加工部を直接的に加熱し、押型に押し付けるようにしても良いし、又は、押型を加熱して、該押型を介して押圧加工部を加熱するようにしても良い。また、基体シートの上面は、被着対象物に被着される面と反対側の面を示す。
【0008】
かかる成形方法にあって、押圧成形工程で用いられる加工用フィルムは、基材フィルムとハードコート層とからなる押圧加工部および外周部が、該基材フィルムのみからなる分断部を介して連成されたものであり、押圧加工部のハードコート層が、外周部のハードコート層から分離した独立状に形成されている。これにより、押圧成形工程で外周部を把持して押型に押し付けた際に、押圧加工部に作用する張力を、基体シートの伸縮変形により軽減できることから、該押圧加工部のハードコート層の延伸を抑制できる。こうしたことから、押圧成形工程で、ハードコート層の延伸を抑えつつ、押圧加工部を曲げ変形させることができるため、該ハードコート層にクラックが生ずることを可及的に抑制できる。
さらに、押圧加工工程では、基体シートとハードコート層とから構成された外周部を把持することから、加工用フィルムを押型に押し付ける際に、該加工用フィルムを確実かつ安定して把持でき、所望位置に正確かつ容易に位置決めできる。こうしたことから、押圧加工工程では、加工用フィルムの押圧加工部を所望形状に正確かつ安定して成形でき、成形不良などの不具合の発生を抑制できるという作用効果も奏する。
したがって、本発明の成形方法によれば、ディスプレイ等に倣う曲面を有する被着フィルムを、ハードコート層にクラックを生ずること無く、安定して成形することができる。そして、本発明の成形方法により成形された被着フィルムは、曲面を有するディスプレイに安定して被着させることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の被着フィルムの成形方法によれば、押圧加工部のハードコート層の延伸を抑えつつ曲げ変形させることができるため、該ハードコート層にクラックを生ずること無く、所望形状の被着フィルムを安定して成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】被着フィルム1と、該被着フィルム1を被着する被着対象物101とを示す分解斜視図である。
図2】(A)被着フィルム1の正面図と、(B)側面図である。
図3】(A)図2中のL-L線断面の拡大端面図と、(B)被着対象物101に被着した状態を示す拡大端面図である。
図4】被着フィルム1の成形工程を示すフローチャートである。
図5】(A)基材フィルム21の斜視図と、(B)基材フィルム21の拡大断面図である。
図6】加工用フィルム成形工程を示す説明図である。
図7】(A)加工用フィルム25の斜視図と、(B)加工用フィルム25の拡大断面図である。
図8】押圧成形工程を示す説明図である。
図9図8から続く押圧成形工程を示す説明図である。
図10】切除加工工程を示す説明図である。
図11】別例の被着フィルム81を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明にかかる実施形態を添付図面に従って以下に説明する。
図1に示すように、自動車に装着されるナビゲーションシステムのディスプレイからなる被着対象物101は、略矩形板状からなり、その表面が、表裏方向に湾曲する主面部102と、該主面部102の上下左右の各側縁から裏側へ向かって湾曲する湾曲周縁部103とから構成される。ここで、主面部102は、中央部が裏側へ僅かに凹む湾曲面により構成される一方、湾曲周縁部103は、前記上下左右の各側縁部103aと、隣合う各側縁部103aが連続する四つ角の角縁部103bとから構成されている。本実施例の被着フィルム1は、図1,2に示すように、前記被着対象物101の表面(主面部102と湾曲周縁部103)を覆うように被着されるものであり、該被着対象物101の主面部102を覆う主面被着部2と湾曲周縁部103を覆う周縁被着部3とを備える。主面被着部2は、主面部102と同様に、表裏方向に僅かに凹む湾曲面状を成し、該主面部102に倣うように被着される。そして、周縁被着部3は、裏側へ湾曲する湾曲形状を成し、湾曲周縁部103に倣うように被着される(図3(B)参照)。尚、周縁被着部3は、湾曲周縁部103の各側縁部103aに被着される側縁被着部3aと、各角縁部103bに被着される角縁被着部3bとから構成されている。
【0012】
被着フィルム1は、図3(A)に示すように、樹脂製の基体シート11と、該基体シート11の上面全域に略均一に積層されたハードコート層12とを備えてなり、基体シート11の全面がハードコート層12により覆われている。尚、基体シート11の上面は、前記被着対象物101の表面に被着される面と表裏方向で反対側の面を示している。
ここで、基体シート11は、ポリカーボネート樹脂(以下、PC樹脂という)を薄厚シート状に成形したものが適用でき、延性を有する。尚、PC樹脂以外にも、ポリメタクリル酸メチル樹脂(以下、PMMA樹脂)や、PC樹脂とPMMA樹脂とを混合した樹脂などのように、延性を有する樹脂を適用することもできる。本実施例の被着フィルム1は、0.3mm~0.8mm厚のものを用いている。
一方、ハードコート層12は、前記基体シート11に比して高硬度のものであり、表面の傷付き等を防止できる。本実施例にあって、ハードコート層12は、硬度(ガラスの硬度を10とした場合)が5~8、かつ厚みが3μm~25μmのものを用いている。尚、こうしたハードコート層12は、当然ながら、硬度が高いことから、延性が低い。
【0013】
次に、前記被着フィルム1の成形工程について説明する。
被着フィルム1の成形工程は、図4のフローチャートに示すように、基材フィルム準備工程、加工用フィルム成形工程、押圧成形工程、切除加工工程を順次実行することにより、被着対象物101に被着される被着フィルム1を成形する。
【0014】
基材フィルム準備工程は、図5に示す矩形状の基材フィルム21を準備する工程である。基材フィルム21は、薄厚フィルム状の基体シート11の上面全体に、ハードコート層12が設けられたものである。本実施例の基材フィルム準備工程としては、基体シート11の上面に、ハードコート層12を構成する前記樹脂を略均一に塗布することにより、該基体シート11の上面全域に所定厚のハードコート層12が設けられた基体シート11を成形する工程である。尚、基材フィルム準備工程は、基材フィルム21を準備するものであることから、他の様々な方法が適用できる。例えば、基体シート11の上面に、ハードコート層12を構成する薄厚フィルムを貼り合わせる工程であっても良い。
【0015】
加工用フィルム成形工程は、前記基材フィルム準備工程で準備した基材フィルム21を成形加工することによって、図7に示す加工用フィルム25を成形する工程である。加工用フィルム25は、略中央部の押圧加工部26と、該押圧加工部26を囲繞する所定幅の分断部27と、該分断部27を囲繞する外周部28とからなるものである。押圧加工部26と外周部28とは、基体シート11上にハードコート層12a,12bが夫々積層された構成である一方、分断部27は、基体シート11のみからなる構成であり、押圧加工部26のハードコート層12aと外周部28のハードコート層12bとが、分断部27により隔離されている。すなわち、加工用フィルム25は、押圧加工部26のハードコート層12aと外周部28のハードコート層12bとが基体シート11上で互いに独立して配された構成となっている。ここで、本実施例にあって、押圧加工部26は、被着対象物101の表面(主面部102および湾曲周縁部103)を全体的に被覆できるように、該表面と同一又は略同一の面積に形成される。
本実施例の加工用フィルム成形工程では、図6に示すように、前記押圧加工部26の外周縁に沿ってエンドミル40を走査することによって、前記分断部27を構成する部位のハードコート層12を切削して除去し、基体シート11のみからなる該分断部27を成形する。こうした切削加工により、押圧加工部26と外周部28とが分断部27を介して連成された図7の前記加工用フィルム25を得る。
【0016】
押圧成形工程は、図8,9に示すように、前記加工用フィルム25を上型41と下型42とで挟み込んで押圧することにより、該加工用フィルム25の押圧加工部26を、前記被着対象物101の表面に倣う形態に成形する。
ここで、下型42は、上方に膨隆する押圧凸部45と、該押圧凸部45を囲繞する外周平面部46とを備えてなる。押圧凸部45は、その上面部45aが、被着対象物101の主面部102と同一形状に形成され、該上面部45aを囲繞する周縁上部45bが該被着対象物101の湾曲周縁部103と同一形状に形成されており、上面部45aと周縁上部45bとが連成されてなる。一方、上型41は、上方に窪む押圧凹部48と、該押圧凹部48を囲繞する外周平面部49とを備えてなる。押圧凹部48は、前記下型42の押圧凹部48に、前記押圧加工部26の厚みを介して嵌め合わされる形状寸法に形成されたものである。
【0017】
押圧成形工程では、図8(A)に示すように、加工用フィルム25の外周部28を所定の把持手段51により把持する。ここで、把持手段51は、矩形状の加工用フィルム25の四つの側縁を把持する。次に、図8(B)に示すように、把持手段51によって加工用フィルム25にテンションを掛けて、前記上型41と下型42とに対して位置決めをする。そして、テンションを掛けた状態で保持しつつ、図8(B)から図9(A)に示すように、所定温度に加熱された上型41と下型42とによって、把持手段51に把持された加工用フィルム25を挟み込んで押圧する。ここで、加工用フィルム25は、基体シート11とハードコート層12bとからなる外周部28を把持手段51により把持されることから、前記テンションや加熱温度による該外周部28の変形を抑制できると共に、該テンションを掛けた状態で保持しつつ押圧することから、押圧加工部26を所望位置に正確かつ容易に位置決めすることができる。こうした上型41と下型42とによる押圧加工の際には、加工用フィルム25の押圧加工部26の下面が、下型42の押圧凸部45の上面部45aと周縁上部45bとに圧接されるように、該押圧加工部26を、上型41の押圧凹部48と下型42の押圧凸部45とにより挟み込んで押圧する。
尚、本実施例の押圧成形工程では、加工用フィルム25の表面温度が160℃~240℃となるように上型41と下型42とを加熱すると共に、該上型41と下型42とにより押圧する加工時間が約3秒間~20秒間に設定されている。こうした加熱温度や加工時間等の加工条件は、基体シート11やハードコード層12の厚みや材料などに応じて適宜設定変更され得る。
【0018】
この押圧成形工程について詳述すると、該押圧成形工程により押圧加工される加工用フィルム25は、押圧加工部26と外周部28とを分断部27を介して連成されたものであることから、前記上型41と下型42とにより押圧された際に、基体シート11のみからなる分断部27が伸縮変形し易く、該分断部27の変形によって、押圧加工部26に作用する張力が軽減される。これにより、押圧加工部26のハードコート層12aをほとんど延伸させること無く、該押圧加工部26を押圧凸部45と押圧凹部48とにより曲げ加工できる。すなわち、押圧加工部26を構成する高硬度のハードコート層12aを延伸させずに曲げ変形できる。そのため、上型41と下型42との押圧加工の際に、押圧加工部26のハードコート層12aにクラック等が発生してしまうことを抑制できる。
【0019】
こうした押圧成形工程により、図9(B)に示すように、押圧加工部26を、ハードコート層12aにクラック等を生ずること無く、前記被着対象物101の表面に倣う形態の被覆成形部30に成形する。被覆成形部30は、被着対象物101の主面部102に倣う主面被着部2と湾曲周縁部103に倣う周縁被着部3とを備えてなり、前記被着フィルム1と同一形状を成す。
【0020】
切除加工工程では、図10に示すように、前記押圧成形工程後の加工用フィルム25の、被覆成形部30を除く部位(分断部27および外周部28)を切除することにより、該被覆成形部30を被着フィルム1とする。尚、切除加工工程における切除手段としては、刃物やレーザーなど公知の技術を適用できることから、詳細を省略する。
【0021】
このように基材フィルム準備工程から切除加工工程まで順次行うことにより、本実施例の被着フィルム1を成形できる。被着フィルム1は、前述したように、被着対象物101の主面部102に倣う主面被着部2と湾曲周縁部103に倣う周縁被着部3とを備えたものであることから、図3(B)に示すように、該被着対象物101の表面(主面部102と湾曲周縁部103)に一様に被着できる。
【0022】
本実施例の特徴を以下に説明する。
本実施例の被着フィルム1の成形工程にあっては、加工用フィルム成形工程により、押圧加工部26の外周縁に沿ってハードコート層12を切削して、基体シート11のみからなる分断部27を介して該押圧加工部26と外周部28とが連成された加工用フィルム25を成形し、押圧加工工程により、外周部28を把持した加工用フィルム25を上型41と下型42とで押圧して、押圧加工部26を被着対象物101の表面に倣う形態に成形するようにした。かかる成形工程によれば、上型41と下型42とで押圧する際に(押圧成形工程)、押圧加工部26のハードコート層12aに作用する張力を著しく低減でき、該ハードコート層12aをほとんど延伸させずに曲げ加工できるため、該ハードコート層12aにクラックが発生することを抑制できる。すなわち、押圧成形工程では、上型41と下型42とによる押圧加工の際に、押圧加工部26に作用する張力が、分断部27の伸縮変形によって抑制され、該ハードコート層12aをほとんど延伸すること無く曲げ加工できる。そのため、押圧加工の際に、高硬度のハードコート層12aにクラックが発生することを可及的に抑制できる。したがって、本実施例の成形工程によれば、高硬度のハードコート層12aにクラックが発生すること無く、被着対象物101の表面(主面部102と湾曲周縁部103)に被着される被着フィルム1を、安定して成形することができる。
【0023】
さらに、本実施例では、押圧加工工程で、加工用フィルム25の外周部28を把持して上型41と下型42とにより押圧することから、該加工用フィルム25の押圧加工部26を所望位置に正確かつ容易に位置決めすることができる。
詳述すると、例えば、基材フィルム21を、その外周縁を把持せずに、前記上型41と下型42とで挟み込んで押圧すれば、ハードコード層12へ作用する張力を軽減できることから、該ハードコート層12でのクラック発生を抑制する作用効果が期待できる。しかし、この方法では、上型41と下型42とに対する正確な位置決めが難しいと共に、押圧加工の際に基材フィルム21が位置ズレを生ずる虞もある。このように前記押圧加工する際に正確な位置決めができなければ、所望の形状に安定して押圧成形することができない。一方、基材フィルム21の外周縁を把持して押圧加工すると、ハードコート層12にクラックが生じてしまう。このように基材フィルム21を押圧加工した場合には、ハードコート層にクラックが発生する問題と、位置決めの問題とを同時に解決できない。
これに対して、本実施例の成形工程では、前述したように、外周部28を把持して正確に位置決めできると共に、ハードコート層12aへ作用する張力を軽減でき、該ハードコート層12aでのクラックの発生を抑制できる。したがって、本実施例の成形工程によれば、位置ズレ等を要因とする不具合品の発生を抑制でき、高い生産効率で所望の被着フィルム1を生産できる。
【0024】
尚、前述した本実施例にあって、被着フィルム1の成形工程が、本発明にかかる被着フィルムの成形方法に相当する。また、本実施例にあって、押圧成形工程における上型41と下型42とが、本発明にかかる押型に相当する。
【0025】
本発明は、前述した実施例に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で適宜変更することが可能である。
【0026】
前述の実施例では、自動車に装着されるナビゲーションシステムのディスプレイ(被着対象物)に被着する被着フィルム1を成形する方法であるが、これに限らず、自動車やバイク等に装着されるドライブレコーダーや、スピードメーターを表示するディスプレイに被着される被着フィルムを成形する方法にも適用可能である。
例えば、スピードメーターを表示するディスプレイに被着される被着フィルム81は、実施例と同様の基材フィルム82とハードコート層83とから構成されており、例えば、図11に示すように、略中央部が裏側へ僅かに凹む形状を成すと共に、上辺縁が上方へ湾曲状に突出する形状を成す。さらに、前記ディスプレイに被着される被着フィルム81は、その外周縁に所定色(例えば、黒色)で塗装された着色周部85を有する。こうした被着フィルム81の成形工程は、前述した実施例と同様の基準フィルム準備工程後に、該基準フィルム準備工程で準備した基準フィルムに塗装する塗装工程を行い、その後、実施例と同様の加工用フィルム成形工程、押圧加工工程、および切除加工工程を行う。このように、少なくとも押圧加工工程の前に塗装工程を行うことにより、塗装工程の作業性が良く、該作業に要するコストと時間を抑制できる。そして、本実施例の押圧加工工程では、前述したように正確かつ容易に位置決めできることから、着色周部85を有する被着フィルム81にあっても安定して成形できる。したがって、こうした被着フィルム81にあっても、前述した実施例と同様に、ハードコート層にクラックを生ずること無く、前記ディスプレイに被着される所望形状に安定して成形することができる。
【0027】
さらにまた、前述した実施例の被着対象物(ナビゲーションシステムのディスプレイ)や別例の被着対象物(スピードメーターを表示するディスプレイ)に限らず、様々な形態の被着対象物に被着する被着フィルムを成形することが可能である。例えば、主面部の互いに対向する二側縁から裏側へ湾曲する湾曲周縁部と該主面部とを保護面部として、該保護面部に被着する被着フィルムを成形することも可能である。この被着フィルムにあっても、実施例と同様の成形工程で成形することができる。また、主面部の上下左右の各側縁から表側へ向かって湾曲する湾曲周縁部と該主面部とを保護面部として、該保護面部に被着する被着フィルムを成形することも可能である。いずれの被着フィルムを成形する構成にあっても、実施例と同様の成形工程により、ハードコート層にクラック生ずること無く、保護面部に倣った形態の被着フィルムを安定して成形することができる。
【符号の説明】
【0028】
1 被着フィルム
11 基体シート
12,12a,12b ハードコート層
21 基材フィルム
25 加工用フィルム
26 押圧加工部
27 分断部(余剰部)
28 外周部(余剰部)
41 上型(押型)
42 下型(押型)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11